HG 1/144 ジェノアスOカスタム 徹底制作レビューと詳細ポイント解説
はじめに:連邦の量産機、その特注仕様を見つめて
『機動戦士ガンダムAGE』に登場するMSは、その機能性や運用思想が色濃く反映されたデザインが多く、特に地球連邦軍の量産型MS「ジェノアス」は、その後のMS開発の礎となった機体として印象深い存在です。そして、そのジェノアスには、パイロットの個性や戦術に合わせてカスタマイズされたバリエーションがいくつか存在します。
今回、スポットライトを当てるのは、アセム編、ディーヴァ隊の敏腕オペレーター、オルガ・ブライトが搭乗した特注仕様、「HG 1/144 ジェノアスOカスタム」です。このキットは、プレミアムバンダイ限定で発売され、通常店頭では手に入らない希少性も相まって、一部のAGEファンや量産機好きにとっては注目のアイテムと言えるでしょう。
本記事では、このHG ジェノアスOカスタムというキットに焦点を当て、その素性の紹介から、キットの開封、各部パーツのレビュー、そして実際に組立てる際の詳細な工程と、より完成度を高めるための様々な「ポイント」を徹底的に解説していきます。単なる組立て説明ではなく、モデラー視点でのキットの評価や、表面処理、塗装、スミ入れ、デカールといった基本的な工作テクニックの具体的な適用例を交えながら、このジェノアスOカスタムという機体の魅力を最大限に引き出すためのノウハウを余すところなくお伝えすることを目指します。
約5000語というボリュームを活かし、各工程での注意点、利用できるツール、仕上がりのイメージなど、細部にわたる情報を提供することで、このキットを手に取った方が、より深く、より楽しく、そしてより高いクオリティで完成させられるようなガイドとなれば幸いです。初心者の方から、もう一歩踏み込んだ表現に挑戦したい中級者の方まで、幅広い層のモデラーの皆様に役立つ内容となるよう構成しました。
それでは、連邦の英知とオルガの戦術が詰まったこの特別なジェノアス、HG ジェノアスOカスタムの世界へ、一緒に深く潜っていきましょう。
1. キット概要:ジェノアスOカスタムとは、そしてHGキットとしての立ち位置
1.1. 機体「ジェノアスOカスタム」について
ジェノアスOカスタム(GENOACE O Custom)は、地球連邦軍の主力量産型MSであるRGE-G1100 ジェノアスをベースに、ディーヴァ隊所属のオルガ・ブライト少尉のために改修されたワンオフカスタム機です。外見上の最大の特徴は、頭部バイザーの形状変更、胸部に追加された円形のセンサー(?)、そしてジェノアスIIに似た大型のバックパックです。カラーリングも、標準的なライトグレーやブルーグレーから一新され、ダークグレーとホワイトを基調とした、精悍かつ落ち着いた印象になっています。
劇中では、オルガの優秀なパイロット能力とオペレーターとしての戦術眼を活かし、情報収集、索敵、指揮支援といった役割を中心に運用されました。純粋な戦闘能力ではガンダムには劣りますが、その優れた状況判断能力とカスタムされた機体性能により、ディーヴァ隊の戦力として重要な貢献をしました。
1.2. HGキットとしてのジェノアスOカスタム
このHG ジェノアスOカスタムは、2013年4月にプレミアムバンダイ限定で発売されました。スケールは標準的な1/144、グレードはHG(ハイグレード)です。
キットの構成としては、既存のHGジェノアス(RGE-G1100)の金型を流用しつつ、ジェノアスOカスタムの特徴的なパーツ(頭部、胸部一部、バックパック、脚部一部、シールド、ビームライフル)を新規金型で追加・変更したバリエーションキットです。これはP-Bandai限定キットでよく見られる手法です。
ベースとなっているHGジェノアス自体は、ガンダムAGEシリーズの初期にリリースされたキットであり、当時のHG標準的なクオリティを持っています。シンプルな構造ながら良好なプロポーションを持ち、ある程度の可動域も確保されています。Oカスタム化にあたり新規パーツが追加されたことで、標準機とは全く異なるシルエットと情報量を持つキットに仕上がっています。
P-Bandai限定キットであるため、入手には機会が限られます。再販される機会を逃すと、入手が困難になる可能性がある点は注意が必要です。パッケージは単色箱となり、通常店頭販売品のようなカラー印刷ではありません。説明書は通常品と同様のものが付属しますが、新規パーツや設定に関する補足が追加されています。
2. 開封とランナーレビュー:キットの素性を確認する
キットを手に入れたら、まずは箱を開けて中身を確認しましょう。P-Bandaiの単色箱を開ける瞬間は、特別感があります。
2.1. パッケージと説明書
パッケージはP-Bandai特有のダンボール地を生かした単色印刷。アートワークは控えめですが、機体イメージは掴めます。説明書はカラー印刷で、新規パーツの組立て箇所は分かりやすく示されています。機体解説や武装解説も記載されており、設定を知る上で役立ちます。
2.2. ランナー構成
箱の中には、複数のランナーが収められています。キットによって多少異なりますが、大まかには以下のような構成になっていることが多いです(キット個体差や再生産で変更の可能性あり)。ランナーにはアルファベット記号と番号が振られています。
- Aランナー: 主に多色成形ランナー。頭部クリアパーツ、各部センサー部など、複数の色が必要な細かいパーツが集まっています。HG AGEシリーズ初期のキットに多い、クリアパーツが組み込まれたランナーです。ジェノアスOカスタムでは、頭部バイザーのクリアグリーン部分が含まれます。
- Bランナー: 主にメインカラーのランナー。ジェノアスOカスタムの場合は、機体のダークグレー部分がこのランナーに集まっていることが多いです。胸部、腰部、太もも、前腕部などの基本的なフレームやアーマーパーツが含まれます。
- Cランナー: 関節部や武器の一部、バックパックなど、別の色のランナー。ジェノアスOカスタムでは、関節部のグレーや、一部武装、そして新規の大型バックパックのパーツなどが含まれる可能性があります。バックパックは大型なので、新規金型分として独立したランナー(例:CランナーやDランナーの一部)になっている可能性が高いです。
- Dランナー: 機体のサブカラーや新規パーツのランナー。ジェノアスOカスタムの場合は、特徴的なホワイトのアーマー部分(肩、脚部、シールドなど)や、新規の頭部パーツ、胸部新規パーツなどがこのランナーに含まれているでしょう。特に脚部の大型装甲、新規シールドは新規金型であり、このランナーに集中している可能性が高いです。
- Eランナー: 武装や手首パーツ、細かい共通フレームパーツなど。ビームライフルの銃身やグリップ、ビームサーベルの柄などが含まれます。
- Fランナー (または別の新規ランナー): ジェノアスOカスタムの特徴的な新規パーツ群がさらに集まっているランナー。特に大型バックパックの複雑なパーツ構成や、専用武装(劇中で使用したか怪しいものも含め)がある場合はここに収録されている可能性が高いです。
- PCランナー (ポリキャップ): 関節部に使用される軟質プラスチック製のランナー。HG標準的なポリキャップセットが含まれます。AGEシリーズのHGは比較的シンプルなポリキャップ構成です。
- サーベルエフェクト: クリア成形されたビームサーベルの刀身パーツ。クリアピンクやクリアイエローなど、キットによって色が異なります。
- ホイルシール/マーキングシール: カメラアイやセンサーの色分け、部隊章や機体番号などのマーキングを補うためのシール。
2.3. パーツの印象と金型精度
ランナーをじっくり見てみましょう。パーツの成形色は、ジェノアスOカスタムのダークグレーとホワイト、そして関節部のグレーがメインです。成形色は設定画の色分けをある程度再現していますが、細かいセンサーの色分けや、一部のダクト内部などは塗装が必要です。特に、元のHGジェノアスのランナーと新規のOカスタム用ランナーが混在しているため、新規金型のパーツはシャープでエッジが立っている一方、流用パーツは若干エッジが丸まっている、といった差が見られる可能性があります。
全体的な金型精度としては、当時のHGとしては標準的ですが、パーツによっては合わせ目(貼り合わせることでできる線)が目立つ箇所や、ヒケ(成形時にプラスチックが収縮してできる凹み)が見られる箇所があるかもしれません。特に流用元のジェノアスはシンプルな構造ゆえに、胴体や前腕、太ももなどに合わせ目が直線的に走ることがあります。新規パーツである頭部やバックパック、脚部装甲、シールドなども、パーツ分割によっては合わせ目が生じやすい箇所がありそうです。これらの合わせ目処理は、後述する「ポイント」で詳しく解説します。
また、パーツをよく観察すると、ゲート跡(ランナーからパーツを切り離した跡)の位置や太さが確認できます。できるだけ目立たない位置にゲートが配置されていることが多いですが、アーマーの外装など、目立つ位置にゲートがある場合は、後処理が重要になります。
ホイルシールは、カメラアイや胸部センサーなど、面積が小さく色分けが難しい箇所を補うために使用されます。マーキングシールは、機体番号や部隊章などで、これは貼るか貼らないか、または水転写デカールに置き換えるかなど、モデラーの好みで選択できます。
3. プロポーションとデザインの再現度:オルガ機のシルエットを掴む
ランナーの段階でもパーツの形状は確認できますが、実際に組立てていくことで、キットのプロポーションやデザインの再現度をより深く理解できます。
3.1. 全体的なプロポーション
HGジェノアスOカスタムは、ベースとなったHGジェノアスの良好なプロポーションを踏襲しつつ、各部の新規パーツによって印象が大きく変化しています。特に、新規頭部と大型バックパックが、標準的なジェノアスとは一線を画すシルエットを生み出しています。
頭部は、よりシャープになったバイザーと、側面に張り出した通信アンテナが特徴的で、情報収集機としての能力の高さを感じさせます。大型バックパックは、複数のスラスターやフィンを備え、高機動戦闘や索敵能力の向上を示唆するデザインです。これらの要素が加わることで、標準機の「量産機」然としたイメージから、「カスタムされた高性能機」へと昇華されています。
脚部の大型装甲も、防御力向上やセンサー搭載など、何らかの改修意図を感じさせるデザインであり、全体のシルエットに力強さを加えています。新規のシールドは、ジェノアスIIの物に似ており、防御面積が増加しています。
全体として、設定画や劇中のイメージをよく捉えたプロポーションと言えるでしょう。ベースキットの良さを活かしつつ、Oカスタムならではの個性がしっかりと表現されています。
3.2. 色分けとモールド
キットの成形色は、前述の通りダークグレー、ホワイト、グレーがメインです。主要な色分けは成形色で再現されていますが、HGキットの常として、細かい部分の色分けは不足しています。
- センサー類: 頭部バイザーはクリアパーツですが、その周囲の黒い縁取りや、胸部の円形センサー内部の色などは塗装が必要です。
- バーニア/ダクト: バックパックや脚部のバーニア内部、各部のダクト内部などは、設定色(赤やグレーなど)で塗装することで情報量が増します。
- 武装: ビームライフルの細かいセンサーやエネルギーパックの色分け、シールド裏面の色分けなども成形色では再現されていません。
これらの色分け不足箇所は、後述する「スミ入れ」や「部分塗装」といった工作で補うことで、キットの完成度を格段に向上させることができます。
モールド(彫刻されたディテール)については、ベースキットのジェノアスは比較的シンプルなモールドですが、新規パーツにはシャープなモールドが追加されています。特にバックパックの各部や、脚部装甲、シールドなどに、パネルラインやメカニカルなディテールが細かく彫刻されています。これらのモールドは、スミ入れを施すことで立体感が強調され、情報量が増加します。
4. 可動域とポージング:ジェノアスOカスタムを躍動させる
HGキットの魅力の一つは、組立ての手軽さに対して、比較的広い可動域を持ち、様々なポーズを取らせて楽しめる点です。HGジェノアスOカスタムの可動域を確認し、ポージングの可能性を探ります。
4.1. 各部の可動
HGジェノアスOカスタムの可動構造は、基本的にベースキットであるHGジェノアスに準じますが、新規パーツによる干渉や可動範囲の変化がないか確認が必要です。
- 頭部: ボールジョイント接続。ある程度の上下左右への可動は可能ですが、新規頭部デザインやアンテナが肩部などに干渉しないか注意が必要です。
- 胴体: 腰部で回転が可能。また、胸部と腰部の間にボールジョイント接続があり、前屈や反り、左右への傾きもわずかですが可能です。AGE系のHGは胴体の可動が比較的優秀なキットが多い印象です。
- 肩部: ボールジョイント接続に加え、HG AGE初期キットに多い、肩アーマーと腕の接続部が胴体側で前後にスイングする機構を持っている可能性があります。これにより、腕を前に突き出すようなポーズが取りやすくなります。新規の肩アーマーが大きい場合、腕を真横に上げる際に干渉する可能性があります。
- 腕部: 上腕部でのロール回転が可能。肘は単軸関節で、約90度程度の曲げが可能と思われます。手首はボールジョイント接続で、表情付けが容易です。
- 腰部: 前述の通り、胴体との接続で回転・傾きが可能。サイドアーマーはボールジョイント接続で可動し、脚部の動きを妨げにくい構造になっています。
- 股関節: ボールジョイント接続。前後左右への開脚が可能ですが、最近のHGに多い股関節軸のスイング機構は持っていない可能性が高いです(ベースキットが古い設計のため)。
- 脚部: 太もも部でのロール回転が可能。膝は単軸関節で、約90度程度の曲げが可能と思われます。新規の大型膝/脛アーマーが、膝の可動や太もものロールに干渉しないか確認が必要です。
- 足首: ボールジョイント接続。足裏の接地性に関わる重要な部分です。左右へのロールに加え、前後へのスイングもある程度可能でしょう。新規の足首形状が、接地性に影響を与える可能性もあります。
4.2. ポージングの可能性
全体として、HGキットとして標準的な可動域は確保されていると言えます。激しい格闘ポーズなどは難しいかもしれませんが、ビームライフルを構える射撃ポーズや、シールドを構える防御ポーズ、指揮官機らしい仁王立ちや敬礼のようなポーズなどは十分に可能です。
特に、新規の大型バックパックは重量バランスに影響を与える可能性があります。バックパックが重すぎると、自立が不安定になる場合や、股関節や足首の保持力が負けてしまう可能性があります。ポーズを取らせる際は、バランスに注意が必要です。アクションベースなどのディスプレイスタンドを使用することで、より躍動的なポーズで飾ることができます。HG AGEシリーズのキットは、股関節裏に標準的な3mm軸の穴が用意されていることが多いので、様々なアクションベースに対応できるでしょう。
5. 付属品と武装:ジェノアスOカスタムの戦術を再現する
HGジェノアスOカスタムに付属する武器やオプションパーツを確認します。これらはキットのプレイバリューを高める重要な要素です。
5.1. ビームライフル
新規デザインのビームライフルが付属します。標準的なジェノアスのライフルとは異なり、より洗練された形状をしています。左右貼り合わせのパーツ構成が多いですが、銃身の合わせ目処理は腕の見せ所です。センサー部やエネルギーパックの色分けは成形色では不足しているため、部分塗装の対象となります。グリップは左右どちらの手にも持たせられるようになっています。保持力は、当時のHG標準的なものとなるでしょう。
5.2. シールド
新規デザインのシールドが付属します。ジェノアスIIのシールドに似た形状で、標準ジェノアスよりも大型化されています。腕部への接続は、前腕部のハードポイントにピンで接続する方式が一般的です。シールド裏面には、モールドやビームサーベルの柄をマウントする機構があるかもしれません。裏面の色分けは成形色では再現されていないため、部分塗装やフレーム色での塗装を行うとリアリティが増します。
5.3. ビームサーベル
クリア成形されたビームサーベルエフェクトが2本付属します。柄は腰部などにマウントされていることが多いですが、HG AGEシリーズは設定によってビームサーベルを内蔵している場合もあります。このキットでは、シールド裏や腰部などに柄をマウントする機構があるかもしれません。ビームサーベルエフェクトは、手に持たせたビームサーベルの柄の先端に取り付けて使用します。クリアパーツの質感は、光を透過して美しく発色します。
5.4. 握り手以外のハンドパーツ (可能性)
HGキットでは、基本的な「握り手」の他に、表情のついたハンドパーツ(平手、角度のついた持ち手など)が付属する場合があります。ジェノアスOカスタムは、劇中で情報収集や指揮支援を行う場面も多いため、通信機を操作するような平手や、敬礼のようなポーズを取れる手首が付属すると嬉しいですが、P-Bandaiキットの場合、コストの関係で握り手と武器持ち手のみとなることもあります。付属するハンドパーツの種類は、事前に説明書などで確認しておくと良いでしょう。
6. 制作レビューと詳細ポイント解説:ジェノアスOカスタムを組み上げる
ここからが本記事の核心部分です。HGジェノアスOカスタムを実際に組立てる際の工程に沿って、それぞれの段階で活用できる「ポイント」を詳細に解説していきます。素組みから、より完成度を高めるための基本的な工作までを想定した内容です。
6.1. 組立て前の準備と基本的なツール
キットを組立てる前に、まずは準備をしっかり行いましょう。
- 作業スペースの確保: 明るく、換気ができる広いスペースを確保します。細かいパーツが多いので、落としても見つけやすいように下にマットなどを敷くのがおすすめです。
- 必要なツールの準備:
- ニッパー: ランナーからパーツを切り離すための必須ツール。初心者の方はプラモデル用ニッパー(安価なものでOK)、慣れてきたら切れ味の良い薄刃ニッパー(タミヤ、ゴッドハンドなど)があると、ゲート処理が楽になります。
- デザインナイフ: ゲート跡やパーティングライン(金型の分割線)の処理、シールのカットなどに使用します。刃は常に切れ味の良いものに交換しながら使いましょう。
- ピンセット: 小さなシールやパーツを扱う際に非常に便利です。
- ヤスリ/紙やすり: ゲート跡や合わせ目処理、表面のならしに使用します。番手違いをいくつか用意しておくと良いでしょう(400番、600番、800番、1000番など)。スポンジヤスリも曲面になじみやすく便利です。
- 接着剤 (必要な場合): 合わせ目処理を行う場合に必要です。プラモデル用接着剤(流し込みタイプ、セメントタイプ)を用意します。
- スミ入れツール: スミ入れペン(ガンダムマーカー、タミヤ スミ入れ塗料)、極細の面相筆、エナメル溶剤、綿棒、消しゴムなど。
- トップコート: 完成後の保護やつや消し/光沢の質感を与えるために使用します。つや消し、半光沢、光沢などがあります。水性、ラッカー、エナメルなど種類があるので、使用する塗料との相性を確認しましょう。
- カッターマット: 作業台を保護し、ナイフを使う際の安定性を高めます。
- パーツトレイ/皿: 小さなパーツを一時的に置いたり、分類したりするのに便利です。
6.2. 各部組立てとポイント
組立ては説明書の順に進めるのが基本ですが、後で部分塗装やスミ入れ、合わせ目処理を考慮する場合は、パーツを完全に接着せずに「仮組み」の状態にしておくと便利です。ここでは、各部の組立てにおけるポイントを解説します。
ポイント1:ニッパーの使い方とゲート処理
パーツをランナーから切り離す際は、いきなりパーツの根本を切らず、まずはランナー側の太い部分から少し離してニッパーで切り離します(「二度切り」)。次に、パーツの根本に残ったゲートを、パーツに沿って丁寧に切り取ります。最後に、デザインナイフで残ったゲート跡を平らにならしたり、ヤスリで削って整形します。特にゲートが目立つ箇所は、ヤスリの番手を粗いものから細かいものへと上げていくと、きれいに処理できます(例: 400番→600番→800番)。
ポイント2:パーティングラインの処理
パーツには、金型の分割線である「パーティングライン」がモールドのように残っていることがあります。これもデザインナイフやヤスリで丁寧に削り取ることで、よりリアルな仕上がりになります。特に曲面のパーティングラインは処理が難しいですが、スポンジヤスリなどを活用すると良いでしょう。
ポイント3:合わせ目処理(必要に応じて)
HGジェノアスOカスタムは、ベースキットの構造上、胴体、前腕、太もも、武器などに合わせ目が目立つ箇所があると考えられます。これらの合わせ目を消したい場合は、以下の手順で処理します。
- 接着剤を塗布: 合わせ目になる両方のパーツの接着面に、プラモデル用接着剤(流し込みタイプが手軽)を少し多めに塗ります。
- 貼り合わせ: パーツをしっかりと貼り合わせ、ムニュっと接着剤がはみ出すくらい圧着します。
- 乾燥: 完全に乾燥するまで一日程度放置します。乾燥が不十分だと後で合わせ目が割れることがあります。
- ヤスリがけ: はみ出した接着剤をデザインナイフで大まかに削り取り、その後ヤスリ(400番→600番→800番…)で表面を滑らかに整形します。
合わせ目処理を行う場合は、その後のスミ入れや塗装工程を考慮して、パーツ構成を理解しておくことが重要です。例えば、腕の合わせ目を消す場合は、組立てて接着する前に手首などのパーツを挟み込む必要があるかなどを確認しておきましょう。
ポイント4:スミ入れでモールドを強調する
キットには多くのモールドが彫刻されていますが、このままでは単調に見えがちです。スミ入れを行うことで、モールドが引き締まり、立体感が格段に向上します。
- スミ入れペンの場合: ガンダムマーカーのスミ入れ用やタミヤのポスカなど、様々なタイプがあります。細いモールドには極細タイプが便利です。モールドに沿ってペン先を走らせ、はみ出した部分は消しゴムや専用の消しペンで拭き取ります。
- 流し込みスミ入れ塗料の場合: タミヤから出ているエナメル塗料系のスミ入れ塗料が非常に使いやすいです。事前にパーツの表面を保護するためにトップコート(つや消し以外)を吹いておくと、失敗しても拭き取りやすくなります。モールドの端に面相筆などで塗料を少量流し込むと、毛細管現象でスーっとモールド内に流れ込んでいきます。はみ出した部分は、エナメル溶剤を含ませた綿棒や筆で優しく拭き取ります。
スミ入れの色は、機体の色に合わせて選びましょう。白や明るい色のパーツにはグレー、暗い色のパーツにはブラックやジャーマングレーなどが一般的です。ジェノアスOカスタムのダークグレーの装甲にはブラック、ホワイトの装甲にはグレーがおすすめです。
各部組立て時の具体的ポイント:
- 頭部: 新規パーツです。バイザーのクリアパーツの組込みに注意。合わせ目ができやすい構造であれば、接着・整形を検討します。バイザー周囲の黒い縁取りや内部センサーの色は部分塗装が必要です。スミ入れは、ヘルメット部分のパネルラインに。
- 胴体: ベースキットの構造と思われます。胸部中央の新規パーツ(円形センサー部)の組込みに注意。胴体の前後貼り合わせに合わせ目ができる可能性が高いので、消したい場合は接着・整形が必要です。胸部センサー部の色分け(クリアやメタリックグリーンなど設定による)は部分塗装で再現します。ダクト内部なども設定色で塗ると良いでしょう。
- 腕部: 前腕部などに合わせ目ができる可能性が高いです。新規の肩アーマーはサイズが大きいので、組立て時の向きや破損に注意。肩アーマーの合わせ目も確認し、必要なら処理します。腕部のロール軸や肘関節はポリキャップを使用。スミ入れは、前腕や肩アーマーのパネルラインに。
- 脚部: 太ももの合わせ目、そして新規の大型膝/脛アーマーの合わせ目に注意が必要です。特に大型アーマーは目立つ部分なので、合わせ目が気になる場合は処理を検討します。足首は新規パーツの場合、独特の形状をしている可能性があります。足裏のバーニア(ある場合)は赤などで部分塗装すると効果的です。スミ入れは、装甲のパネルラインや、足首のメカニカルな部分に。
- バックパック: HGジェノアスOカスタムの最大の新規パーツであり、組立ての山場の一つです。複数のパーツで構成され、スラスターやフィンなど、細かいディテールが多い部分です。パーツ分割による合わせ目ができやすい箇所なので、どこに合わせ目ができるか確認しながら組立てます。スラスター内部の色分け(赤など)は部分塗装必須と言えるでしょう。細かいモールドへのスミ入れは、情報量を劇的に増加させます。破損しやすい箇所がないか注意しながら、丁寧に組み上げましょう。
- 武装:
- ビームライフル: 左右貼り合わせで銃身に合わせ目ができる可能性が高いです。ここは合わせ目を消すと見栄えが良くなります。スコープやセンサー部の色分けは部分塗装が必要です。
- シールド: 新規パーツ。表面のモールドへのスミ入れが効果的です。裏面にもディテールがある場合は、フレーム色やダークグレーなどで部分塗装すると見栄えが向上します。腕部への接続方法を確認し、ポロリしやすい場合は対策を検討(軸を太らせるなど)。
- ビームサーベル: 柄はシンプルです。腰部やシールド裏などにマウントできる場合は、取り付け位置を確認。クリアパーツのエフェクトは、ゲート跡をきれいに処理するだけで十分に綺麗ですが、根元を白などでグラデーション塗装すると、より光っているような表現ができます。
6.3. デカール/シールワークのポイント
キットにはホイルシールやマーキングシールが付属します。
- ホイルシール: 主にカメラアイやセンサーなど、細かい色分けを補うためのシールです。曲面に貼る際は、シールの周囲にデザインナイフで切れ込みを入れると、シワになりにくいことがあります。また、マークセッター/ソフター(GSIクレオス)を使うと、シールの密着性を高め、モールドに馴染ませることができます。ただし、これらは強力なので、使用する際は少量ずつ試しながら行いましょう。
- マーキングシール: 部隊章や機体番号など。説明書を参考に指定の位置に貼るのが基本ですが、好みに合わせて自由に貼る位置を変えたり、貼らないという選択肢もあります。より本格的に仕上げたい場合は、水転写デカール(別売り)を使用するのも良いでしょう。水転写デカールは、水に浸して台紙から剥がし、ピンセットで位置を決めて貼ります。乾いたらマークセッター/ソフターで密着させ、綿棒で水分と空気を押し出します。シールよりも薄く、段差が目立ちにくいのが利点です。
シール/デカールを貼るタイミングは、スミ入れの後、トップコートを吹く前が一般的です。
6.4. トップコートで仕上げる
組立て、スミ入れ、デカール貼りまで終わったら、最後にトップコートを吹くことで、キットの完成度をさらに高めることができます。
- 目的: 表面のツヤを整え、スミ入れやデカールを保護する効果があります。つや消し、半光沢、光沢など、仕上がりの質感を調整できます。
- 種類の選択:
- つや消し: プラスチック感を抑え、落ち着いたミリタリーライクな質感になります。量産機であるジェノアスOカスタムには特におすすめです。
- 半光沢: ほどよいツヤで、メカニカルな質感を出すことができます。
- 光沢: ツヤツヤした質感になります。キャンディ塗装やメタリック塗装などの上に吹くと効果的ですが、HGの素組みにはあまり用いられません。
- 吹き方: スプレー缶タイプと、エアブラシで吹くタイプがあります。どちらの場合も、使用する前に塗料をよく混ぜます。パーツから20~30cmほど離し、シュッシュッと細かく吹き付けます。一度に厚塗りせず、薄く重ね塗りするのがコツです。湿度の高い日や気温が低い日は、白化(表面が白っぽくなる現象)しやすいので避けた方が良いでしょう。
- 注意点: スミ入れに使用した塗料(特にエナメル系)や、使用したデカールによっては、トップコートの溶剤成分で侵される可能性があります。水性トップコートは比較的安全ですが、念のためテストピースなどで試すのが確実です。スミ入れやデカールが完全に乾燥していることを確認してから吹き付けましょう。
トップコートを吹くことで、全体に統一感が生まれ、オモチャっぽさが消えてぐっと「兵器」らしい質感になります。
6.5. 部分塗装で情報量を追加する
さらに完成度を高めたい場合は、成形色では再現されていない細かい部分の色を塗装で補います。
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塗料の選択: ガンダムマーカー、エナメル塗料、アクリル塗料、ラッカー塗料など様々な種類があります。
- ガンダムマーカー: 手軽に筆塗りや塗りつぶしができます。細かい部分の色分けに便利です。
- エナメル塗料: 筆塗りのノリが良く、乾燥後も溶剤で拭き取りが可能なため、はみ出した部分の修正が容易です。細かいモールドの塗り分け(ダクト内部など)によく使われます。
- アクリル塗料/ラッカー塗料: エアブラシや本格的な筆塗りに使用します。色数も豊富で、隠ぺい力も高いです。
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塗装箇所例:
- バックパックや脚部のバーニア内部(赤など)
- 各部のダクト内部(グレーなど)
- 胸部センサー内部(クリアやメタリック色)
- 武装のセンサー部(クリアやメタリック色)
- シールド裏面(フレーム色やグレー)
- ライフルのエネルギーパック(グレーなど)
部分塗装を行う際は、はみ出しに注意しながら丁寧に塗りましょう。乾燥時間は塗料の種類によって異なります。
7. 完成品レビュー:組み上がったジェノアスOカスタムを見つめる
全ての工程を終え、HGジェノアスOカスタムが完成しました。組立てる前とは全く異なる、情報量豊かで引き締まった姿になっているはずです。
7.1. 見栄えの向上
素組みの状態でもプロポーションは良いですが、スミ入れや部分塗装、トップコートといった一手間を加えることで、見違えるほどリアルな仕上がりになります。特に、ジェノアスOカスタムの特徴である新規の大型バックパックや脚部装甲、新規シールドなどは、モールドが多いためスミ入れの効果が絶大です。ダークグレーとホワイトの落ち着いたカラーリングに、つや消しトップコートが非常に良く似合います。
7.2. 関節保持力
組立てたキットの関節保持力を確認します。ポリキャップは消耗品ですが、新品の状態であればある程度の保持力は期待できます。大型のバックパックの重さに股関節や足首が負けていないか、武器をしっかりと構えられるかなどをチェックします。もし保持力が弱い部分があれば、関節軸に瞬間接着剤を薄く塗って乾燥させるなどして、一時的に保持力を強化する方法があります(ただし、塗りすぎると固着するので注意が必要です)。
7.3. ポージングとディスプレイ
完成したキットに様々なポーズを取らせてみましょう。ビームライフルを両手持ちするポーズ、シールドを構えて索敵するポーズ、バックパックのスラスターを強調した飛行ポーズなど、オルガの活躍をイメージしながら楽しめます。アクションベースを活用すると、よりダイナミックなディスプレイが可能です。量産機らしい複数機並べての編成ディスプレイなども映えるかもしれません。
8. 他のジェノアス系HGキットとの比較(簡単版)
HG AGEシリーズでは、ジェノアス系キットが複数リリースされています。簡単に比較してみましょう。
- HG ジェノアス: 本キットのベース。シンプルなシルエットで量産機の基本形。カラーリングも標準的です。Oカスタムはここから頭部、胸部、脚部、バックパック、武装、シールドなどが変更されています。
- HG ジェノアスカスタム: フリット編のウルフ・エニアクル大尉のカスタム機。白いカラーリングと、肩部のヴェスバーのような武装が特徴。Oカスタムとは全く異なる方向性のカスタム機です。
- HG ジェノアスII: アセム編で登場する次世代量産機。頭部やバックパック、武装などがジェノアスから刷新されています。OカスタムのバックパックやシールドはこのジェノアスIIのものをベースにしている節が見られますが、全体的なシルエットや細部は異なります。
ジェノアスOカスタムは、標準ジェノアスとジェノアスIIの中間のような、ユニークな立ち位置のキットと言えます。ジェノアスやジェノアスIIと並べて飾ることで、AGE世界のMS開発の系譜やバリエーションの豊富さを楽しむことができます。
9. このキットの長所と短所
最後に、HGジェノアスOカスタムというキットの全体的な評価をまとめます。
9.1. 長所
- 希少性と特別感: プレミアムバンダイ限定キットであり、通常店頭では手に入らない特別感があります。
- 独特のシルエット: 新規パーツにより、標準ジェノアスとは全く異なる個性的なシルエットが再現されています。特に大型バックパックの存在感が素晴らしいです。
- 良好なプロポーション: ベースキットの素性の良さを引き継ぎ、安定したプロポーションを持っています。
- 新規パーツのシャープさ: 新規金型で作られたパーツは、比較的モールドがシャープで、ディテールアップのしがいがあります。
- 量産機好き・AGEファンにおすすめ: オルガのファンや、AGEに登場する渋い量産機が好きな方にはたまらないキットです。
9.2. 短所
- P-Bandai限定: 入手性が限られる点が最大のネックです。再販を待つか、プレミア価格での入手が必要になる場合があります。
- ベースキットの古さ: HG AGE初期のキットをベースにしているため、最新のHGキットと比較すると、関節構造やパーツ分割、可動域などで一歩譲る部分があります(例:膝や肘の可動範囲、股関節のスイング機構の有無)。
- 合わせ目の多さ: ベースキット由来の胴体や前腕、太ももなどに合わせ目が目立つ箇所があります。これらの処理には手間がかかります。新規パーツにも合わせ目が生じる可能性があります。
- 細かい色分け不足: HGキットの標準的な範疇ですが、センサー類やダクト、バーニア内部など、部分塗装が必要な箇所が複数あります。
- 価格: P-Bandai限定キットは、新規金型分のコストが上乗せされるため、同クラスの通常販売HGキットより価格が高めに設定されています。
10. まとめ:ジェノアスOカスタム制作の魅力
HG 1/144 ジェノアスOカスタムは、ベースキット由来のシンプルな構造と、新規パーツによる情報量の増加、そして個性的なシルエットが魅力的なキットです。プレミアムバンダイ限定という入手性のハードルはありますが、それを乗り越えて手にする価値は十分にあります。
素組みでもジェノアスOカスタム unique な姿を楽しむことができますが、本記事で解説したような「ポイント」、つまりゲート処理、パーティングライン処理、スミ入れ、部分塗装、デカール、トップコートといった基本的な工作を施すことで、キットのポテンシャルを最大限に引き出し、より満足度の高い完成品を目指すことができます。特に合わせ目処理や、バックパックや脚部などの新規パーツへの丁寧なスミ入れは、仕上がりに大きく貢献するでしょう。
オルガ・ブライトというキャラクターに思い入れのある方、AGEシリーズの量産機が好きでバリエーションを集めている方、あるいは単にこの独特のデザインに惹かれた方にとって、このキットは制作を通じてその魅力を再発見させてくれるはずです。
約5000語にわたり、このキットの詳細なレビューと制作ポイントを解説してきましたが、模型制作において最も大切なのは「楽しむ」ことです。完璧を目指すあまり疲れてしまわないよう、ご自身のペースで、できる範囲で挑戦してみてください。今回ご紹介したテクニックが、皆様のジェノアスOカスタム制作の一助となり、手にしたキットを自分だけの特別な一機として完成させる喜びを味わっていただければ、筆者としてこれ以上の幸せはありません。
ぜひ、あなたの手で、地球連邦軍の誇る特注量産機、ジェノアスOカスタムを組み上げてください。そして、その完成した姿を眺めながら、劇中のオルガの活躍に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたの模型ライフがより豊かになることを願っています。