『Ready or Not』PS5版レビュー:極限のリアルを求めるSWATシムは、コンソールで輝くか?買いか?
はじめに
ゲームの世界には、手に汗握るアクションや壮大な物語、あるいは脳を刺激するパズルなど、さまざまなジャンルが存在します。その中でも近年、特定の層から熱狂的な支持を集めているのが「タクティカルシミュレーション」というジャンルです。そして、その最たる例としてPCゲーマーの間で知られる存在が、『Ready or Not』です。SWAT隊員として、危険極まりない現場に突入し、人質を救出し、容疑者を無力化する――その過程を、かつてないほどリアルに再現しようと試みた作品です。
アーリーアクセス期間中から、その容赦ない難易度と徹底的なリアリズムで話題を呼んできた本作が、ついにコンソール、特にPlayStation 5に登場しました。PC版で培われたSWATシムとしての完成度はそのままに、コンソールならではの操作性、パフォーマンス、そしてDualSenseコントローラーの機能をどのように落とし込んでいるのか? そして何よりも、この極限のリアルを求めるゲーム体験は、コンソールゲーマーにとって「買い」なのでしょうか?
この記事では、『Ready or Not』のPS5版を徹底的に掘り下げ、その魅力、難しさ、PS5ならではの要素、そして購入を検討しているあなたが知っておくべきすべてを詳細に解説します。総計約5000語にも及ぶこのレビューを読み終える頃には、あなたがSWAT隊員として現場に立つ覚悟があるのか、あるいは別のゲームを手に取るべきなのか、明確な答えが見つかっているはずです。
『Ready or Not』とは何か? その核心に迫る
まず、『Ready or Not』がどのようなゲームなのか、その核心的な部分を理解する必要があります。これは、「敵を倒してステージを進む」というような一般的なFPS(一人称視点シューター)とは根本的に異なります。これは、「現場を制圧し、人命を尊重し、法と手順を守る」ことに焦点を当てた、文字通りのSWATシミュレーションです。
プレイヤーはSWATチームのリーダーとなり、最大4人のチームメンバー(AIまたは他プレイヤー)を率いて、凶悪犯が立てこもるアパート、カルト集団のアジト、テロリストに占拠された銀行など、様々な危険な現場に突入します。目的は単純な殲滅ではなく、「現場の安全確保」「民間人の救出」「容疑者の無力化(逮捕または必要に応じた排除)」「証拠の確保」です。
このゲームにおいて、不用意な発砲は致命的な結果を招きます。民間人を誤って撃てば任務失敗、降伏しようとしている容疑者を殺害すれば評価の低下に繋がり、最悪の場合は自分のチームや自身も法的な責任を問われるという設定に基づいています(ゲーム内での評価システムに反映されます)。常に状況を判断し、適切な「交戦規定(Rules of Engagement, RoE)」に従うことが求められます。
例えば、武器を構えていない相手には、まず「武器を捨てろ!」と警告し、従わない場合に初めて武力行使を検討するというのが基本です。たとえ相手が凶悪犯であっても、降伏の意思を示した場合は、安全を確保した上で拘束しなければなりません。この「撃つ前に考える」というプロセスが、『Ready or Not』の最大の、そして最も難しくも魅力的な要素です。
徹底された「SWATシム」の要素
『Ready or Not』を単なるタクティカルシューターではなく、「SWATシム」と呼ぶ所以は、そのディテールへの徹底的なこだわりです。
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豊富な装備とカスタマイズ:
- 武器: リアルなモデルの銃器が多数登場します。アサルトライフル、サブマシンガン、ショットガン、ハンドガンなど、用途に応じて選択可能です。重要なのは、それぞれの銃器の性能だけでなく、弾の種類(徹甲弾、ホローポイントなど)、サイト、ライト、レーザーサイトなどのアタッチメントを細かくカスタマイズできる点です。
- 非殺傷装備: これがこのゲームの肝の一つです。テーザー銃、ビーンバッグ弾(散弾銃用)、ペッパーボール弾、催涙ガス、フラッシュバン、スタングレネードなど、容疑者を無力化するための非殺傷装備が非常に豊富です。これらの装備をいかに効果的に使うかが、犠牲者を出さずに任務を遂行する鍵となります。
- 戦術装備: ドアの下を覗く「ミラーガン」、ドアを破壊する「ブリーチングチャージ」や「ブリーチングショットガン」、ドアを開かなくする「ドアウェッジ」、暗闇を照らす「タクティカルライト」など、現場での状況を有利に進めるための特殊装備も多数登場します。アーマーの種類や重量も、機動力や防御力に影響します。
- 任務ごとに現場の状況を予測し、最適な装備を選択するブリーフィング段階から、既に戦いは始まっています。
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精緻なレベルデザイン:
- 各マップは、実際のSWATの突入作戦を想定して、非常に複雑かつリアルに設計されています。狭い廊下、複数の部屋、隠れる場所、予測不能な視線など、危険が随所に潜んでいます。
- 照明も重要な要素です。暗闇は敵を隠すだけでなく、プレイヤーの視界も奪います。タクティカルライトの使用や、環境光の利用、あるいは意図的に照明を破壊するなどの戦術が求められます。
- 破壊可能なオブジェクトも存在し、状況によっては壁を破ったり、特定の場所を破壊したりすることも可能です。
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リアルな弾道とダメージモデル:
- 銃弾は壁やオブジェクトを貫通します。潜んでいると思ったら、その裏から撃ち込んでくる容疑者もいますし、逆に容疑者が潜む壁の材質によっては、プレイヤー側から壁越しに制圧することも理論上は可能です(RoE的に推奨されませんが)。
- 人体へのダメージは非常に現実的です。腕や足に当たっても戦闘力を奪えますが、頭や胴体への被弾は即死に繋がりやすいです。それはプレイヤーも容疑者も同じです。ちょっとした油断や判断ミスが、即座に死という形で返ってきます。数発の銃弾で倒れるのが当たり前の世界です。
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AIの行動パターン:
- 容疑者のAIは多様な行動をとります。積極的に攻撃してくる者、隠れてやり過ごそうとする者、人質を盾にする者、そして降伏しようとする者。彼らが常に同じ行動をとるわけではないため、同じマップでもプレイするたびに異なる展開になります。
- 民間人も同様に多様な反応をします。恐怖で怯え、指示に従えない者、パニックになって走り出す者、隠れようとする者。そして、ごく稀にですが、容疑者に協力したり、自身が武装していたりする場合もあります。彼らを見分け、安全を確保するのもSWATの重要な任務です。
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チームコマンド:
- プレイヤーはリーダーとして、チームメンバーに細かく指示を出すことができます。「ドアを開けろ」「フラッシュバンを投げろ」「部屋をクリアしろ」「容疑者を拘束しろ」「民間人を安全な場所に誘導しろ」など、様々なコマンドを使い分けます。AIチームは、これらの指示に従って行動しますが、その賢さや対応力は、プレイヤーの指示の的確さや、ゲーム自体のAIの完成度に依存します。
これらの要素が複合的に絡み合い、『Ready or Not』は他のシューターにはない、張り詰めた緊張感と、成功した時の大きな達成感を生み出しています。しかし同時に、その容赦ないリアリズムは、多くのプレイヤーにとって高い壁となります。
PS5版でのプレイフィール:操作性、グラフィック、パフォーマンス
さて、ここからが本題です。PCでマウスとキーボードでのプレイを前提に設計されたこのような複雑なゲームが、PS5のコントローラーでどこまで快適にプレイできるのか? PS5のハードウェアパワーをどのように活用しているのか? 詳細に見ていきましょう。
操作性:DualSenseへの最適化は?
『Ready or Not』は、移動、エイム、射撃、リロード、装備変更、チームコマンド、ドア操作(開ける、蹴破る、調べる)、証拠や容疑者・民間人へのインタラクションなど、非常に多くの操作を要求されるゲームです。これらの操作をDualSenseコントローラーの限られたボタンにどう割り当てるか、開発者にとって大きな課題だったはずです。
結論から言うと、PS5版の操作性は「慣れが必要だが、十分にプレイ可能」というレベルに到達しています。基本的な移動や射撃、エイムは他のFPSと同様の配置ですが、特徴的なのはチームコマンドや特殊操作へのボタン割り当てです。
- チームコマンド: L1ボタンを押しながら、十字キーやフェイスボタンの組み合わせで指示を出す方式が採用されています。例えば、「L1 + 上」で青チームへの指示、「L1 + 右」で赤チームへの指示、「L1 + ○」で降伏した相手への拘束指示、といった形です。最初はどの組み合わせがどの指示に対応しているのか戸惑いますが、チュートリアルでしっかり練習し、実戦で経験を積めば、徐々に身体に馴染んできます。しかし、PC版でのキーボードショートカットやマウスでの直感的な指示出しに比べると、やはり一瞬の遅れが生じやすいのは否めません。特に複数のチームメンバーに複雑な指示を連続して出すような場面では、操作がもたつくことがあります。
- 装備変更と使用: 武器の切り替えは△ボタン、グレネードや特殊装備の切り替えは十字キー、使用はR1ボタンなど、比較的スタンダードな配置です。しかし、豊富な装備の中から状況に応じて瞬時に最適なものを選び出すのは、PC版のホットキーに比べてやや手間がかかります。
- ドア操作: ドアに近づくと表示されるメニューから、「開ける」「蹴破る」「ロックピック」「ミラーガンを使用」「ドアウェッジを設置」などを選択します。これは直感的で分かりやすいですが、慌てている時や複数のドアが近い場所にある場合などに、意図しない操作をしてしまう可能性もあります。
DualSenseの機能活用:
PS5版として期待されるDualSenseコントローラーの機能(ハプティックフィードバック、アダプティブトリガー)は、しっかりと実装されています。
- ハプティックフィードバック: 銃器の発砲時の反動や、ドアを蹴破ったときの衝撃、あるいは敵の銃弾がプレイヤーのアーマーに当たった際の振動など、様々な状況で繊細な振動がコントローラーから伝わってきます。これにより、現場の緊迫感や物理的な衝撃がダイレクトに伝わり、没入感が大きく向上しています。特に、異なる銃器を撃ったときの振動の違いが丁寧に再現されている点は評価できます。
- アダプティブトリガー: R2ボタン(射撃)にはアダプティブトリガーが適用されています。トリガーを浅く引くとエイム、深く引くと発砲という操作感に加えて、銃器の種類によってトリガーの抵抗感が変化します。例えば、ピストルは軽く、ショットガンやアサルトライフルはより重い抵抗感があります。これにより、武器を手にしている感覚が強化され、一発一発の重みを感じながら射撃することができます。
全体として、操作はPC版に比べてどうしてもワンテンポ遅れる部分や、咄嗟の判断・行動が難しい場面は出てきますが、DualSenseの機能がそれを補う没入感をもたらしています。コンソール版としては、可能な限りの最適化が図られていると言えるでしょう。ただし、このゲームの性質上、精密なエイムと素早い操作が要求されるため、パッド操作に慣れていない方や、PC版の操作感に慣れている方は、ある程度の練習期間が必要になります。
グラフィックとパフォーマンス:
グラフィック面では、PS5のパワーを活かして、非常にリアルで雰囲気のあるビジュアルが実現されています。
- 環境: マップ内のオブジェクトのディテール、汚れた壁や散乱したゴミ、照明による陰影表現など、危険な現場の生々しさが丁寧に描写されています。特にライティングは重要で、暗闇と光のコントラストが現場の緊張感を高めています。フラッシュバンを使用した際の強烈な閃光表現なども効果的です。
- キャラクターモデル: 容疑者や民間人、チームメンバーのモデルも、一定のクオリティで描かれています。表情の変化などは限定的ですが、服装や装備などのディテールは十分です。
- エフェクト: 発砲時のマズルフラッシュや煙、血痕などのエフェクトもリアルに表現されており、銃撃戦の激しさを伝えてきます。
パフォーマンスに関しては、PS5版は基本的に60fpsでの動作を目指しています。多くの場面で安定したフレームレートを維持しており、ヌルヌルとした動きで快適にプレイできます。しかし、爆発や多数のキャラクターが入り乱れるような処理負荷の高い場面では、ごく稀にフレームレートが低下することもあります。全体としては、PC版のハイエンド環境には及ばないかもしれませんが、コンソール機としては非常に高いレベルで安定しており、ゲームプレイを妨げるような致命的なパフォーマンスの問題は確認されませんでした。
ロード時間: PS5の高速SSDの恩恵は大きく、ミッション開始前のロード時間は比較的短いです。すぐに現場へ突入できるため、テンポの良さに貢献しています。
バグと安定性: PC版のアーリーアクセス期間が長かったこともあり、ある程度のバグは避けられないゲームでしたが、PS5版のローンチバージョンも完全にクリーンとは言えません。キャラクターの挙動がおかしくなったり、オブジェクトとのインタラクションに問題が発生したりといった、軽微なバグに遭遇することはあります。しかし、ゲームの進行が不可能になるような致命的なバグは少なく、アップデートによる改善も期待できるでしょう。
ゲームモード:シングル vs マルチプレイヤー
『Ready or Not』は、主に「シングルプレイヤー(AIチーム)」と「マルチプレイヤー(協力プレイ)」の二つの主要なプレイモードを提供しています。
シングルプレイヤー(コマンダーモード):
プレイヤーがリーダーとなり、最大4人のAIチームメンバーを率いて任務に挑むモードです。これはPS5版から追加された「コマンダーモード」の基盤となります。コマンダーモードでは、単にミッションをクリアするだけでなく、キャリアモードのように連続した任務をこなし、チームメンバーの育成や装備のアンロック、さらにはストーリー(断片的なものですが)を進めていく要素があります。
AIチームメンバーは、プレイヤーの指示に忠実に従おうとします。基本的な移動、部屋のクリア、ドア操作、対象の拘束・報告など、多くの指示に対応可能です。しかし、AIの賢さには限界があります。予測不能な状況への対応、咄嗟の判断、あるいは複雑な連携などは、やはり人間プレイヤーには及びません。時として、壁に引っかかったり、敵の攻撃に不用意に晒されたり、指示通りに動かなかったりといった問題が発生することもあります。
コマンダーモードは、自分のペースでじっくりと戦術を練り、AIの限界を知りつつも彼らを最大限に活用するという、独特のプレイ体験を提供します。オフラインで練習したい、あるいは一人で集中してプレイしたいという場合には最適です。ただし、このゲームの最大の面白さである「人間同士の連携」を体験できないため、ゲームのポテンシャルをフルに引き出しているとは言えないかもしれません。AIの質はアップデートで徐々に改善される傾向にあるため、今後の進化にも期待したいところです。
マルチプレイヤー(協力プレイ):
これが『Ready or Not』の真骨頂であり、最も推奨されるプレイ方法です。最大5人のプレイヤーがチームを組み、協力して任務に挑みます。
人間プレイヤーは、AIとは比較にならないほど賢く、柔軟に対応できます。声によるリアルタイムのコミュニケーションを取りながら、「私が右をカバーするから君は左を見てくれ」「フラッシュバンを入れるぞ、耳を塞げ」「怪我人はいないか?」といった、実際のSWAT隊員のような連携プレイが可能です。
- チームワークの重要性: 各プレイヤーが自分の役割(ポイントマン、エントリマン、カバリングマン、リアガードなど)を理解し、互いをカバーし合うことが生存と成功の鍵となります。誰か一人が先行しすぎたり、無警戒に進んだりすれば、チーム全体が危険に晒されます。
- 達成感: 困難な状況をチーム一丸となって乗り越え、無事に任務を完了できた時の達成感は、他のゲームではなかなか味わえないものです。特に、犠牲者を一人も出さずに、非殺傷で容疑者を全員確保できたような完璧なクリアは、言葉にならない喜びがあります。
- オンライン環境: PS5版でのマルチプレイヤーは、フレンドと一緒にパーティーを組んでプレイするのが最もスムーズで楽しいでしょう。野良マッチングもありますが、ボイスチャットでの連携が必須に近いゲーム性のため、コミュニケーションが取れないプレイヤーと組むと難易度が跳ね上がります。安定したインターネット接続が推奨されます。サーバーの安定性に関しては、ローンチ直後は多少の問題が発生する可能性もありますが、今後の運営に期待です。
マルチプレイヤーは、『Ready or Not』の緊張感と戦術的な深さを最大限に引き出せるモードです。もしあなたがこのゲームの購入を検討しているなら、一緒にプレイできるフレンドがいるかどうか、あるいは積極的にボイスチャットを使って連携を取る覚悟があるかどうかを考慮に入れるべきです。
サウンドデザインと没入感
『Ready or Not』のサウンドデザインは、ゲームの没入感と緊張感を高める上で極めて重要な役割を果たしています。このゲームにおいて、音は単なるBGMや効果音ではなく、生存のための情報源です。
- 足音、物音: 容疑者や民間人の足音、ドアの開閉音、物が倒れる音などが、どこに危険が潜んでいるかを教えてくれます。特にヘッドホンを使用してプレイすると、音の方向や距離感が掴みやすく、戦術上有利になります。
- 銃声: 銃声は非常にリアルに再現されています。発砲音の大きさや反響、使用されている銃器の種類などが、周囲の状況を判断する材料となります。
- 声: 容疑者の怒号、民間人の悲鳴、そしてチームメンバー間の無線交信など、声の演技も現場の緊迫感を増幅させます。「武器を捨てろ!」「SWATだ!」「動くな!」「クリア!」といった、SWAT隊員が実際に使用するであろう無線交信が飛び交うことで、本物のチームとして活動している感覚が強まります。
- 環境音: 各マップ特有の環境音(遠くのサイレン、換気扇の音、水の滴る音など)が、現場の雰囲気を演出し、プレイヤーの感覚を研ぎ澄ませる役割を担います。
BGMは、ミッション中には基本的に流れません。流れるのは、現場の音、チームの声、そしてプレイヤー自身の心臓の音だけです。この静寂と、突如として響く物音や銃声のコントラストが、ゲームの張り詰めた緊張感をこれ以上ないほど高めています。サウンドデザインは、PS5版でもPC版のクオリティを維持しており、DualSenseのハプティックフィードバックとも相まって、プレイヤーを文字通り「現場」に引き込みます。
コンテンツとリプレイ性
PS5版『Ready or Not』には、ローンチ時点で複数のミッションマップが収録されています。アパート、銀行、ガソリンスタンド、大学、カルト集団のアジトなど、環境は多岐にわたり、それぞれに異なる戦術と注意点が必要です。
- ミッションタイプ: 各マップには、単に全ての脅威を無力化するだけでなく、人質救出、爆弾解除、容疑者の生け捕り、特定の証拠品の確保など、複数のミッションタイプが用意されています。これにより、同じマップでも目的が変わることで、違ったアプローチが求められ、リプレイ性が高まります。
- AIのランダム性: 前述した容疑者や民間人のAIの行動パターンは、プレイするたびに変化します。敵の初期配置、巡回ルート、隠れる場所、そしてプレイヤーへの反応などが変わるため、同じマップ・同じミッションタイプでも、毎回新鮮な気持ちで、あるいは新たな緊張感を持ってプレイできます。
- コマンダーモードの進行: コマンダーモードでは、ミッションのクリア評価によってポイントを獲得し、新たな装備やアタッチメント、そしてチームメンバーのアンロックや育成が可能になります。この成長要素が、繰り返しプレイするモチベーションとなります。
- 高難易度と完璧主義: このゲームは非常に難易度が高く、一度のプレイで全てを完璧にこなすのは至難の業です。高評価を得るためには、容疑者の全員逮捕、民間人の全員救出、証拠品の完全確保、そしてRoEの厳守が求められます。これを追求しようとすると、何度も同じミッションに挑戦することになります。これは、ゲームの難易度自体がリプレイ性に貢献している稀有な例と言えるでしょう。
マップ数自体は、PC版のアーリーアクセス期間と比較すると、ローンチ時点ではやや少なく感じるかもしれませんが、各マップの作り込みの深さ、ミッションタイプの多様性、そしてAIのランダム性により、十分に長く楽しめるコンテンツ量と言えます。今後のアップデートによるマップや装備の追加にも期待したいところです。
難易度と「人を選ぶ」理由
『Ready or Not』を語る上で避けて通れないのが、その極端なまでの難易度です。これは、このゲームが「人を選ぶ」最大の理由であり、購入を検討する上で最も重要な判断材料となります。
- 容赦ない即死性: プレイヤーはごく少数の銃弾で戦闘不能になります。敵も同様ですが、敵はこちらの存在に気づくと、非常に素早く反応し、正確な射撃をしてくることが多いです。ちょっとした油断や、部屋の角からの飛び出し方、あるいはカバーの甘さなどが、即座に死に繋がります。
- 判断の重み: 誰に警告し、誰に発砲するか。どのドアからエントリーするか。フラッシュバンを使うか、催涙ガスを使うか。チームにどう指示を出すか。全ての判断が結果に直結し、間違った判断はチームの壊滅や任務失敗に繋がります。
- 失敗からの学習: このゲームは、何度も失敗しながら学習していくタイプのゲームです。しかし、失敗は常に「死」や「任務失敗」という重い形で返ってきます。ストレスを感じやすい人にとっては、非常にフラストレーションの溜まるゲームになる可能性があります。
- プレイヤースキルと経験: 単なるエイム力だけでなく、状況判断能力、戦術的思考、そして冷静さが求められます。これは、他の多くのFPSとは異なるスキルセットです。
『Ready or Not』は、カジュアルに「バンバン撃ってストレス解消」といった遊び方を求める人には全く向きません。これは、「極限の緊張感の中で、リスクを最小限に抑えつつ、手順通りに任務を遂行することに喜びを感じる」という、非常にニッチな層に向けられたゲームです。
このゲームを心から楽しめるのは、以下のようなプレイヤーでしょう。
- リアルなタクティカルシミュレーションに強い興味がある人
- 困難な状況を、知恵と連携で乗り越えることに達成感を感じる人
- 失敗から学び、試行錯誤を繰り返すことを厭わない人
- チームメイトと緊密に連携してプレイすることを楽しめる人(特にマルチプレイヤー)
- SWATや特殊部隊の活動にリスペクトがある人
逆に、以下のようなプレイヤーには、購入を強くおすすめできません。
- カジュアルに気軽に遊びたい人
- ゲームで簡単に成功したい人、ストレスを感じたくない人
- 速いペースでのアクションや、大量の敵をなぎ倒す爽快感を求める人
- 一人で黙々と、単純作業的にプレイしたい人(シングルプレイヤーはAIが完璧ではないため)
- 頻繁な失敗や理不尽に感じる死に対して、強いストレスを感じる人
このゲームは、あなたの忍耐力と集中力、そしてチームワークを徹底的に試してきます。その挑戦を受け入れる覚悟があるかどうかが、「買い」かどうかの最大の分かれ道となります。
PS5版のメリットとデメリット:PC版との比較も踏まえて
PC版が先に存在し、長い歴史を持つゲームであるため、PS5版を選ぶメリットとデメリットを整理してみましょう。
PS5版のメリット:
- アクセシビリティ: PCを持っていなくても、PS5があればすぐにこのゲームをプレイできる点が最大のメリットです。特に、PCの要求スペックを満たす環境を用意するのは容易ではないため、コンソールで手軽に遊べるのは大きな魅力です。
- DualSense機能による没入感: アダプティブトリガーやハプティックフィードバックは、PC版にはない独自の没入感を提供します。銃を撃つ感覚や現場の振動がダイレクトに伝わるのは、このゲームの緊張感をさらに高めます。
- コンソールフレンドとの協力プレイ: PSNのフレンドと簡単にパーティーを組んで協力プレイを楽しめます。ボイスチャット環境も整っているため、スムーズな連携が期待できます。
- 最適化された環境: PS5という固定されたハードウェア向けに最適化されているため、PC版のように個々のハードウェア構成による互換性の問題や、設定の微調整に悩む必要が少ないです。起動してすぐに、ある程度保証されたパフォーマンスでプレイできます。
- コマンダーモードの追加: PS5版でローンチと同時にコマンダーモードが実装されたことは、シングルプレイヤー志向のプレイヤーにとって大きなメリットです。PC版では後から追加された要素であり、最初からキャリアモードとして楽しめるのは良い点です。
PS5版のデメリット:
- 操作の複雑さ(PC版との比較): マウスとキーボードでの精密なエイムや、多数のキーボードショートカットによる素早い操作に比べると、コントローラーでの操作はやはり複雑で、咄嗟の反応が遅れる可能性があります。特にチームコマンドの入力には慣れが必要です。
- AIチームの限界: シングルプレイヤー(コマンダーモード)におけるAIチームの賢さには限界があり、PC版のプレイヤーがAIの挙動に慣れているとしても、理想的な連携は難しいです。このゲームの最大の面白さである人間との協力プレイを手軽に楽しめる環境が、野良マッチング以外に限られる点はデメリットかもしれません(PS5プレイヤー同士でしかマルチはできないため)。
- アップデートやMODの遅延・非対応: PC版は常に最新のアップデートが適用され、有志によるMODなども豊富に存在します。PS5版はPC版から遅れてアップデートが適用される可能性があり、MODに関してはほぼ対応しないと考えられます。ゲームの拡張性という点ではPC版に劣ります。
- バグのリスク: 新しいプラットフォームへの移植であるため、PC版とは異なる、あるいはPC版で既に修正されたはずのバグがPS5版で発生する可能性はあります。
- 視野角(FOV)の調整範囲: PC版に比べて、コンソール版では視野角の調整範囲が限定されていることがあります。これはFPSにおいて重要な要素であり、調整の自由度が低い点は残念な点です。
「買い」かどうかの最終判断
さて、冒頭の問いに戻りましょう。『Ready or Not』のPS5版は「買い」なのでしょうか?
結論から言えば、あなたのゲーマーとしての好みと、このゲームに対する期待値、そして一緒にプレイできる仲間がいるかどうかによります。
以下のような人には、「買い」です。
- リアルなSWATシミュレーションに強い魅力を感じ、コンソールでその体験をしたい人。
- 極限の緊張感、高い難易度、そして成功した時の大きな達成感を求めている人。
- DualSenseコントローラーの機能による、新たな没入感に興味がある人。
- PS5で一緒に『Ready or Not』をプレイできるフレンドがいる人(これが最も推奨される理由)。
- 失敗を恐れず、試行錯誤を繰り返す忍耐力がある人。
- カジュアルなアクションシューターに飽き足らず、全く異なるゲーム体験を求めている人。
以下のような人には、「買い」ではない、あるいは慎重な検討が必要です。
- 簡単に敵を倒して爽快感を得たい、カジュアルなシューターを探している人。
- ゲームで失敗したり、理不尽な死を遂げたりすることに強いストレスを感じる人。
- 一人で黙々と、気軽にプレイしたい人(AIチームは完璧ではないため、フラストレーションを感じる可能性がある)。
- PC版で既にプレイしており、マウス&キーボード操作やMOD環境に慣れている人(操作性やアップデートの点で物足りなさを感じる可能性がある)。
- ボイスチャットを使って積極的に連携を取るのが苦手な人(特にマルチプレイヤー)。
PS5版は、PC版の核となるゲーム体験を、コンソールというプラットフォームに高いクオリティで移植することに成功しています。操作性の点でPC版に一歩譲る部分はありますが、DualSenseの機能がそれを補い、独自の没入感を生み出しています。パフォーマンスも安定しており、グラフィックも十分美しいです。
しかし、このゲームの持つ「人を選ぶ」性質は変わりません。これは万人に受けるタイプのゲームでは決してありません。その極限のリアリズムと高い難易度は、多くのプレイヤーにとって壁となるでしょう。
もしあなたが、このレビューを読んで、『Ready or Not』の目指す世界観やゲーム性に強く惹かれ、その難しさをも楽しむことができると感じたなら。そして、もし可能であれば、一緒に危険な現場に立ち向かってくれる仲間がいるのなら。
その時、『Ready or Not』のPS5版は、あなたにとって間違いなく「買い」の一本となるでしょう。 SWAT隊員として、張り詰めた現場で、一歩一歩、安全を確保していく体験は、他のゲームでは決して味わえない、唯一無二のものです。
ただし、購入を決める前に、YouTubeなどで実際のPS5版のゲームプレイ映像をいくつか見てみることを強くお勧めします。実際の操作感やゲームの雰囲気を感じ取ることで、より確実な判断ができるはずです。
終わりに
『Ready or Not』は、ゲームというメディアでしか表現できない、極限の緊張感とリアルを追求した作品です。それはエンターテイメントとしてだけでなく、困難な状況におけるチームワーク、判断の重み、そして人命尊重の重要性を考えさせられるような、ある種のシミュレーションでもあります。
PS5版は、そのディープな世界への扉を、より多くのコンソールゲーマーに開いてくれました。確かに高い壁はありますが、その壁を乗り越えた先に待っている体験は、きっとあなたのゲーマー人生において忘れられないものとなるでしょう。
さあ、装備を整え、チームに合流し、危険極まりない現場へ突入する覚悟はできたでしょうか? Your call, entry team. Ready or Not.
総評:
- ゲーム性: 極限のリアルを追求したSWATシミュレーション。緊張感、戦略性、達成感は唯一無二。難易度は非常に高い。
- PS5版の操作性: DualSenseに最適化されており、慣れれば十分にプレイ可能。DualSense機能による没入感は素晴らしい。PC版の操作性には劣る。
- グラフィックとパフォーマンス: PS5のパワーを活かしたリアルなビジュアル。60fpsでの安定動作を目指しており、快適なプレイが可能。
- ゲームモード: シングル(コマンダーモード)とマルチプレイヤー(協力プレイ)。マルチプレイヤーでの連携が最も面白い。
- コンテンツ: 豊富なマップとミッションタイプ、AIのランダム性により高いリプレイ性。コマンダーモードによる進行要素あり。
- サウンドデザイン: 非常に高品質で、ゲームの没入感と緊張感を最大限に高めている。
- 全体評価: リアルなSWATシムというニッチなジャンルを、高いクオリティでPS5に移植。ゲーム自体の人を選ぶ性質は変わらないが、そのユニークな体験に惹かれるなら挑戦する価値は十分にある。特に協力プレイの面白さは格別。
おすすめ度:
- リアル系タクティカルシューター好き / SWAT好き / 協力プレイ好き: ★★★★★ (絶対買い)
- 高い難易度と緊張感を楽しむのが好き: ★★★★☆ (非常におすすめ)
- いつもと違うゲーム体験を求めている: ★★★★☆ (挑戦してみる価値あり)
- 気軽に遊びたい / 簡単に成功したい / ストレスは溜めたくない: ★☆☆☆☆ (避けるべき)
PS5版は、PC版で培われた『Ready or Not』の核となる魅力を損なうことなく、コンソール環境でプレイできるように落とし込まれた、高い完成度を持つ移植版と言えるでしょう。あなたがその独特のゲーム性に魅力を感じ、困難に立ち向かう覚悟があるならば、扉を開ける価値はあります。