MATLAB超入門:これだけ読めばOK!使い方をマスター


MATLAB超入門:これだけ読めばOK!使い方をマスター

はじめに

科学技術計算、シミュレーション、データ解析、アルゴリズム開発など、様々な分野で強力なツールとして利用されているMATLAB。大学の研究室や企業の開発現場でその名前を聞いたことがある、あるいはこれから使う機会があるという方も多いのではないでしょうか。しかし、「プログラミングは初めて」「MATLABって難しそう」と感じている方もいるかもしれません。

安心してください。MATLABは、直感的で分かりやすい構文を持ち、初心者でも比較的容易に使い始めることができる設計になっています。特に、行列計算に強く、複雑な計算も短いコードで記述できるのが大きな特徴です。

この記事は、「MATLABに初めて触れる」という方のために、MATLABの基本的な使い方から、データ処理、可視化、簡単なプログラミングまで、これだけ押さえておけばMATLABを使い始めることができる、超入門ガイドとして構成されています。約5000語の詳細な解説を通じて、MATLABのデスクトップ環境に慣れ、変数や配列の操作、基本的な計算、グラフ作成、簡単なスクリプト作成といった、MATLABを使う上での土台となるスキルを習得することを目指します。

この記事を読み終える頃には、MATLABの基本的な操作に自信を持ち、さらに高度な機能や専門的なツールボックスへと学習を進めるための確固たる基礎が築かれているはずです。さあ、MATLABの世界へ一歩踏み出しましょう!

対象読者

  • MATLABを初めて使う方
  • プログラミング初心者だが、MATLABを使う必要のある方
  • MATLABの基本的な操作を体系的に学びたい方
  • MATLABの導入を検討している方

MATLABの導入

MATLABを使い始めるには、まずMATLABソフトウェアを入手し、インストールする必要があります。

1. MATLABの入手方法

MATLABは商用ソフトウェアであり、利用にはライセンスが必要です。主なライセンスの種類は以下の通りです。

  • 個人ライセンス: 研究者や開発者向けの標準的なライセンス。
  • 学生ライセンス: 学生向けの割引されたライセンス。非常に安価に利用できます。
  • 教育機関向けライセンス: 大学や研究機関が包括的に購入し、教員や学生に提供するライセンス。所属する教育機関が契約している場合は、無償または安価に利用できる場合があります。
  • 企業向けライセンス: 企業での開発や研究に使用するライセンス。

初めてMATLABに触れる方で、ライセンスを持っていない場合は、MathWorks(MATLABの開発元)のウェブサイトから無料体験版をダウンロードすることができます。通常、30日間すべての機能を利用できます。学習目的であれば、まずは体験版から試してみるのが良いでしょう。

また、大学などに所属している場合は、大学のITサポートなどに問い合わせて、利用可能なライセンスがあるか確認してみてください。多くの大学では、学生や教員向けにMATLABのライセンスを提供しています。

2. インストール方法

MATLABのインストールは、基本的にはインストーラーの指示に従うだけで完了します。

  1. MathWorksのウェブサイトから、使用しているOS(Windows, macOS, Linux)に対応したインストーラーをダウンロードします。体験版の場合は、体験版申し込みページからダウンロードします。
  2. ダウンロードしたインストーラーを実行します。
  3. 画面の指示に従って、ライセンス契約に同意し、MathWorksアカウント(必要に応じて新規作成)でログインします。
  4. ライセンスを選択します(体験版の場合は体験版ライセンスが自動的に選択されます)。
  5. インストールするコンポーネントを選択します。MATLAB本体は必須ですが、特定の用途に必要なツールボックスは後から追加インストールすることも可能です。最初はMATLAB本体と、必要に応じて汎用性の高いツールボックス(例: Simulink, Control System Toolbox, Signal Processing Toolboxなど、ただし最初はMATLAB本体だけで十分です)を選択すると良いでしょう。
  6. インストール先フォルダーを指定します。
  7. インストールの設定を確認し、インストールを開始します。
  8. インストールが完了したら、MATLABを起動できます。

3. MATLAB Onlineについて

MathWorksでは、MATLABをウェブブラウザー上で実行できる「MATLAB Online」も提供しています。インストールの手間なく、インターネット環境があればどこからでもMATLABを利用できます。特に、一時的にMATLABを使いたい場合や、複数のデバイスで作業したい場合に便利です。学生ライセンスや一部の教育機関向けライセンスにはMATLAB Onlineの利用権が含まれていることがあります。まずはMATLAB Onlineで試してみるのも良いでしょう。

MATLAB環境に慣れる

MATLABを起動すると、MATLABデスクトップと呼ばれるウィンドウが表示されます。このデスクトップ環境は、MATLABを使った作業の中心となります。まずは、主要な構成要素とその役割を理解しましょう。デフォルトのレイアウトは以下のウィンドウで構成されていることが多いです(レイアウトはカスタマイズ可能です)。

1. コマンドウィンドウ (Command Window)

MATLABデスクトップの中で最も目立つ、大きなウィンドウです。

  • 役割: MATLABに対する命令(コマンド)を直接入力し、実行する場所です。入力したコマンドの結果もここに表示されます。電卓のように簡単な計算をしたり、関数を実行したりするのに使います。
  • 使い方:
    • プロンプト (>>) の横にコマンドを入力し、Enterキーを押すと実行されます。
      matlab
      >> 2 + 3
      ans =
      5
      >> a = 10
      a =
      10
      >> sin(pi/2)
      ans =
      1
    • 直前のコマンドは上矢印キー () で呼び出すことができます。
    • 実行結果が変数に代入されない場合、結果は自動的に ans という変数に格納されます。
    • 計算結果を表示したくない場合は、コマンドの最後にセミコロン (;) をつけます。これは非常に重要で、特に大きな行列の計算結果などを表示しようとすると、画面が結果で埋め尽くされてしまうのを防ぎます。
      matlab
      >> b = 20; % セミコロンをつけると、結果が表示されない
      >> c = a + b % セミコロンがないので、結果が表示される
      c =
      30
  • 注意点: コマンドウィンドウでの入力は一行ずつ実行されます。長い処理や、複数の処理をまとめて実行したい場合は、後述するスクリプトを使用します。

2. ワークスペース (Workspace)

コマンドウィンドウの隣や下に表示されることが多いウィンドウです。

  • 役割: 現在MATLABのメモリ上に存在する変数とその値を一覧表示します。変数名、値(あるいはサイズとクラス)、最小値、最大値などが確認できます。
  • 使い方:
    • コマンドウィンドウで変数を作成したり、関数から変数が出力されたりすると、自動的にワークスペースに表示されます。
    • ワークスペース内の変数をダブルクリックすると、その変数の中身(特に配列や構造体、セル配列など)を新しいウィンドウ(変数エディター)で詳細に確認・編集できます。
    • ワークスペース内の変数を削除したい場合は、clear コマンドを使用します。
      matlab
      >> clear a % 変数aを削除
      >> clear % すべての変数を削除
    • 特定の変数が存在するか確認したい場合は、exist コマンドなどが使えます。
    • whos コマンドは、ワークスペースの変数についてより詳細な情報(バイト数、クラスなど)を表示します。
      “`matlab
      >> d = rand(3, 4);
      >> whos d
      Name Size Bytes Class Attributes

      d 3×4 96 double
      “`

3. カレントフォルダー (Current Folder/Browser)

MATLABがファイルを探したり、新しいファイルを保存したりする際に基準となるフォルダー(ディレクトリ)を示すウィンドウです。

  • 役割: 現在MATLABが作業しているフォルダー内のファイルやサブフォルダーを表示します。スクリプトファイル(.m ファイル)やデータファイルなどを読み込む際に、MATLABはこのカレントフォルダーとその下のパスにあるフォルダーを検索します。
  • 使い方:
    • ウィンドウの上部にあるアドレスバーで、カレントフォルダーを変更できます。
    • カレントフォルダー内のファイル(例: .m ファイル)をダブルクリックすると、エディターで開くことができます。
    • 新しいフォルダーを作成したり、ファイルをコピー・移動・削除したりといったファイル操作もここで行えます。
    • cd コマンドでもカレントフォルダーを変更できます。
      matlab
      >> cd 'C:\Users\YourName\Documents\MATLAB' % 指定したフォルダーに移動
      >> cd .. % 一つ上のフォルダーに移動
    • pwd コマンドは現在のカレントフォルダーのパスを表示します。

4. エディター (Editor)

スクリプトファイルや関数ファイルを作成・編集するためのウィンドウです。

  • 役割: 複数のコマンドをまとめて記述し、ファイルとして保存しておくことができます。これにより、同じ処理を繰り返し実行したり、より複雑なプログラムを作成したりすることが可能になります。
  • 使い方:
    • MATLABデスクトップの「新規作成 (New)」ボタンや、edit コマンドで新しいスクリプトファイルを作成できます。
    • ファイルは .m という拡張子で保存します(例: my_script.m)。
    • 記述したスクリプトは、エディター上部の「実行 (Run)」ボタンをクリックするか、コマンドウィンドウでファイル名を入力してEnterキーを押すことで実行できます。
      “`matlab
      % my_script.m の内容
      x = 0:0.1:2*pi;
      y = sin(x);
      plot(x, y);
      title(‘Sine wave’);

      % コマンドウィンドウで実行

      my_script
      ``
      * 構文のハイライト表示、自動インデント、コード補完、デバッグ機能など、プログラム開発を支援する多くの機能が備わっています。
      * コメントアウトしたい行の先頭には
      %をつけます。複数行をまとめてコメントアウトしたい場合は、行を選択して右クリックメニューから「コメントアウト」を選ぶか、%を複数行にわたって手動で記述します。
      * セクション分け(
      %%`)を使うと、コードを論理的なブロックに分割し、セクションごとに実行することができます。

5. ヘルプブラウザー (Help Browser)

MATLABの機能や使い方に関する公式ドキュメンテーションを参照するためのウィンドウです。

  • 役割: MATLABの関数や機能の詳細な説明、例題、関連情報などを検索・閲覧できます。
  • 使い方:
    • MATLABデスクトップの「ヘルプ (Help)」メニューから開くか、F1キーを押す、またはコマンドウィンドウで doc コマンドや help コマンドを使用します。
    • 特定の関数について調べたい場合は、コマンドウィンドウで doc functionName (例: doc plot)と入力するのが手軽です。これにより、その関数の詳細なリファレンスページがヘルプブラウザーで開きます。
    • help functionName と入力すると、コマンドウィンドウに関数の簡単な説明(H1ライン)が表示されます。
    • キーワード検索や、目次からの参照も可能です。

レイアウトのカスタマイズ

MATLABデスクトップの各ウィンドウは、ドラッグ&ドロップで位置を変更したり、タブでグループ化したり、フローティングウィンドウとして切り離したりと、自由にレイアウトをカスタマイズできます。「ホーム (Home)」タブの「レイアウト (Layout)」から、プリセットのレイアウトを選択したり、現在のレイアウトを保存したりすることも可能です。自分にとって使いやすいレイアウトに調整しましょう。

基本的な操作:変数とデータ型

プログラミングにおいて、データを一時的に保存しておくために「変数」を使います。MATLABでは、変数に名前を付けて値を代入することで利用します。

1. 変数の定義と代入

変数に値を格納するには、代入演算子 = を使います。
“`matlab

x = 10 % xという変数に数値10を代入
x =
10
greeting = ‘Hello, MATLAB!’; % greetingという変数に文字列を代入
greeting =
‘Hello, MATLAB!’
“`
MATLABは、代入される値を見て自動的に変数のデータ型を判断します(動的型付け)。

2. 変数名のルール

変数名には以下のルールがあります。
* 英字で始まる必要があります。
* 英字、数字、アンダースコア (_) を使用できます。
* 大文字と小文字は区別されます(myvarMyVar は別の変数です)。
* MATLABの予約語(if, for, while, end など)は使用できません。
* 関数名や組み込みコマンドと同じ名前を使うと、MATLABは変数として優先して認識する場合がありますが、混乱を避けるため避けるのが推奨されます。

3. 基本的なデータ型

MATLABでよく使われる基本的なデータ型です。

  • 数値型 (Numeric Types):
    • double (倍精度浮動小数点数): MATLABのデフォルトの数値型です。ほとんどの計算で使われます。非常に広い範囲の数値を高い精度で扱えます。
      matlab
      >> a = 3.14159; % double型
      >> b = 1e6; % double型 (1 x 10^6)
    • single (単精度浮動小数点数): double よりメモリ使用量が少ないですが、精度は低くなります。
      matlab
      >> c = single(1/3); % single型に変換
    • 整数型 (int8, uint8, int16, uint16, int32, uint32, int64, uint64): 整数を扱う型です。符号付き(int)と符号なし(uint)があり、数値の範囲が異なります(例: int8 は -128 から 127)。画像処理などでよく使われます。
      matlab
      >> d = int16(100); % int16型に変換
  • 文字・文字列型 (Character Array and String):
    • char (文字配列): 一重引用符 (') で囲んで定義します。MATLABでは、複数の文字は「文字配列」として扱われます。これが伝統的な文字列の表現方法です。
      matlab
      >> char_str = 'This is a character array.'; % char型
    • string (文字列スカラー): 二重引用符 (") で囲んで定義します。R2016b以降で導入された新しい型で、より直感的な文字列操作が可能です。
      matlab
      >> string_str = "This is a string scalar."; % string型
    • どちらの型を使うかは状況によりますが、新しいコードでは string 型を使うのが推奨されることが多いです。
  • 論理型 (Logical):
    • 真 (true, 1) または偽 (false, 0) の値を格納する型です。条件判定の結果などで生成されます。
      matlab
      >> flag = (5 > 3); % true (1) が代入される
      flag =
      logical
      1

4. 配列(ベクトル、行列)の基本操作

MATLABは “Matrix Laboratory” の名の通り、配列(特に行列)の扱いに非常に長けています。配列とは、複数の同じ型のデータをまとめて格納する構造です。

  • ベクトル (Vector): 1次元の配列です。行ベクトルと列ベクトルがあります。
    • 行ベクトル: 角括弧 [] で囲み、要素をスペースまたはカンマで区切ります。
      matlab
      >> row_vec = [1 2 3 4 5];
      row_vec =
      1 2 3 4 5
      >> row_vec_comma = [1, 2, 3, 4, 5]; % カンマでもOK
      row_vec_comma =
      1 2 3 4 5
    • 列ベクトル: 角括弧 [] で囲み、要素をセミコロン (;) で区切ります。
      matlab
      >> col_vec = [10; 20; 30];
      col_vec =
      10
      20
      30
    • 行ベクトルを列ベクトルに、またはその逆にするには、転置演算子 ' を使います。
      matlab
      >> row_to_col = row_vec';
      row_to_col =
      1
      2
      3
      4
      5
  • 行列 (Matrix): 2次元以上の配列です。各行はセミコロンで区切ります。
    matlab
    >> my_matrix = [1 2 3; 4 5 6; 7 8 9];
    my_matrix =
    1 2 3
    4 5 6
    7 8 9

    3次元以上の配列も作成可能ですが、ここでは2次元までを基本とします。

  • 配列の作成方法:

    • 直接入力: 上記のように手入力します。
    • コロン演算子 (:): 等差数列を作成するのに便利です。 start:step:end または start:end (stepは1の場合)。
      matlab
      >> range_vec = 1:5 % 1から5まで1刻み
      range_vec =
      1 2 3 4 5
      >> stepped_vec = 0:0.5:2 % 0から2まで0.5刻み
      stepped_vec =
      0 0.5 1.0 1.5 2.0
    • linspace(start, end, n): 指定した範囲を等間隔に n 個の要素で分割したベクトルを作成します。
      matlab
      >> linspace_vec = linspace(0, 2*pi, 10); % 0から2piまでを10個の要素で分割
      linspace_vec =
      Columns 1 through 7
      0 0.6981 1.3963 2.0944 2.7925 3.4907 4.1888
      Columns 8 through 10
      4.8869 5.5851 6.2832
    • zeros(rows, cols): すべての要素が0の行列を作成します。
      matlab
      >> zero_mat = zeros(2, 3) % 2行3列のゼロ行列
      zero_mat =
      0 0 0
      0 0 0
    • ones(rows, cols): すべての要素が1の行列を作成します。
      matlab
      >> one_mat = ones(3, 2) % 3行2列のイチ行列
      one_mat =
      1 1
      1 1
      1 1
    • rand(rows, cols): 0から1までの一様乱数で満たされた行列を作成します。
    • randn(rows, cols): 標準正規分布に従う乱数で満たされた行列を作成します。
    • eye(n): n x n の単位行列を作成します。
    • diag(v): ベクトル v を対角要素とする対角行列を作成します。
  • 要素へのアクセス: 配列の要素には、丸括弧 () を使ってインデックス(添え字)を指定してアクセスします。MATLABのインデックスは1から始まります(多くのプログラミング言語が0から始まるのと異なる点なので注意が必要です)。
    matlab
    >> row_vec = [10 20 30 40 50];
    >> row_vec(3) % 3番目の要素にアクセス
    ans =
    30
    >> my_matrix = [1 2 3; 4 5 6; 7 8 9];
    >> my_matrix(2, 3) % 2行3列目の要素にアクセス
    ans =
    6

    コロン演算子を使うと、行または列全体、あるいは部分的な範囲を指定できます。
    matlab
    >> my_matrix(1, :) % 1行目全体
    ans =
    1 2 3
    >> my_matrix(:, 2) % 2列目全体
    ans =
    2
    5
    8
    >> my_matrix(1:2, 2:3) % 1行目から2行目、2列目から3列目の部分行列
    ans =
    2 3
    5 6

    また、論理インデックス(Logical Indexing)を使うこともできます。これは、条件を満たす要素だけを選択したい場合に非常に便利です。
    matlab
    >> data = [10, -5, 20, 0, -15, 30];
    >> positive_data = data(data > 0) % data > 0 は論理配列 [true false true false false true] を生成
    positive_data =
    10 20 30

  • 配列のサイズ: 配列のサイズ(次元ごとの要素数)や長さを取得するには、sizelength 関数を使います。
    matlab
    >> size(my_matrix) % 行数と列数
    ans =
    3 3
    >> size(row_vec)
    ans =
    1 5
    >> length(row_vec) % ベクトルで最も長い次元の長さ
    ans =
    5
    >> length(my_matrix) % 行列で最も長い次元の長さ
    ans =
    3

5. 構造体 (Struct)

異なる型のデータをフィールド(要素)として持つことができるデータ構造です。データベースのレコードのようなものを表現するのに便利です。
“`matlab

person.name = ‘Taro’;
person.age = 30;
person.isStudent = false;
person
person =
struct with fields:
name: ‘Taro’
age: 30
isStudent: 0
person.name
ans =
‘Taro’
“`

6. セル配列 (Cell Array)

異なる型やサイズのデータをまとめて格納できる配列です。各要素をセルと呼び、波括弧 {} を使ってアクセスします。
“`matlab

mixed_data = {‘Apple’, 10, [1 2; 3 4], true}; % 異なる型のデータを格納
mixed_data{1} % セルの中身にアクセスする場合は波括弧
ans =
‘Apple’
mixed_data{3}(1, 2) % セルの中身(行列)の特定の要素にアクセス
ans =
2
mixed_data(1) % セル配列の部分を取り出す場合は丸括弧
ans =
1×1 cell array
{‘Apple’}
“`
セル配列は、異なる長さの文字列のリストや、異なる構造を持つデータの集合を扱う際などに便利です。

基本的な演算

MATLABでは、変数や配列に対する様々な演算を行うことができます。

1. 算術演算子

基本的な四則演算やべき乗です。配列に対してこれらの演算子を使うと、行列演算になります。
* + : 加算
* - : 減算
* * : 乗算 (行列の積)
* / : 右除算 (A/B は A * inv(B) に相当)
* \ : 左除算 (A\B は inv(A) * B に相当、連立一次方程式 Ax=B の解 x を求める際などに使う)
* ^ : べき乗 (行列のべき乗)

“`matlab

A = [1 2; 3 4];
B = [5 6; 7 8];
C = A + B % 要素ごとの加算 (行列の和)
C =
6 8
10 12
D = A * B % 行列の積
D =
19 22
43 50
E = A^2 % 行列AとAの積 (A*A)
E =
7 10
15 22
“`

2. 要素ごとの演算 (Element-wise Operations)

配列の対応する要素同士で演算を行いたい場合は、演算子の前にドット (.) を付けます。これは行列演算と混同しやすい重要な点です。
* .* : 要素ごとの乗算
* ./ : 要素ごとの右除算
* .\ : 要素ごとの左除算
* .^ : 要素ごとのべき乗

“`matlab

A = [1 2; 3 4];
B = [5 6; 7 8];
F = A .* B % 要素ごとの乗算
F =
5 12
21 32
G = A ./ B % 要素ごとの除算
G =
0.2000 0.3333
0.4286 0.5000
H = A.^2 % 各要素を2乗
H =
1 4
9 16
“`
特に、ベクトルや行列の各要素に同じ操作を適用したい場合(例: ベクトルの各要素を2乗してグラフを描くなど)に頻繁に使用します。

3. 比較演算子

値や配列の要素を比較する演算子です。結果は論理型の true (1) または false (0) の配列になります。
* == : 等しい
* ~= : 等しくない
* < : より小さい
* > : より大きい
* <= : 以下
* >= : 以上

“`matlab

vec1 = [1 2 3];
vec2 = [1 0 3];
result_eq = (vec1 == vec2) % 対応する要素が等しいか
result_eq =
logical
1 0 1
result_gt = (vec1 > vec2) % 対応する要素がより大きいか
result_gt =
logical
0 1 0
“`

4. 論理演算子

論理値 (true/false) に対して演算を行います。
* && : 論理AND (スカラーの場合)
* || : 論理OR (スカラーの場合)
* ~ : 論理NOT
* & : 論理AND (配列の場合、要素ごと)
* | : 論理OR (配列の場合、要素ごと)
* xor : 排他的論理和 (XOR)

“`matlab

p = true; q = false;
p && q
ans =
logical
0
p || q
ans =
logical
1
~p
ans =
logical
0
logical_array1 = [true true false];
logical_array2 = [true false false];
logical_array1 & logical_array2 % 配列の要素ごとのAND
ans =
logical
1 0 0
``
通常、条件分岐 (
if) などではスカラーの論理値を使うため&&||を、配列の要素に対して論理演算を行う場合は&|` を使います。

5. 組み込み関数

MATLABには、数学関数、統計関数、行列操作関数など、非常に多くの便利な組み込み関数が用意されています。
例:
* sin(x), cos(x), tan(x): 三角関数
* asin(x), acos(x), atan(x): 逆三角関数
* sqrt(x): 平方根
* exp(x): 指数関数 (e^x)
* log(x): 自然対数 (ln(x))
* log10(x): 常用対数 (log10(x))
* abs(x): 絶対値
* round(x), floor(x), ceil(x): 丸め関数
* sum(A): 配列の要素の合計 (ベクトルなら要素合計、行列なら列ごとの合計)
* mean(A): 配列の要素の平均 (ベクトルなら要素平均、行列なら列ごとの平均)
* max(A), min(A): 配列の要素の最大値/最小値
* size(A), length(A): 配列のサイズ/長さ
* find(A): 非ゼロ要素(論理値の場合はtrue)のインデックスを見つける

これらの関数は、多くの場合、配列を入力として受け取り、要素ごとに計算を行います。
“`matlab

angles_rad = [0, pi/4, pi/2, 3*pi/4, pi];
sin_values = sin(angles_rad) % ベクトルの各要素に対してsin関数を適用
sin_values =
0 0.7071 1.0000 0.7071 0.0000
data = [1 2 3; 4 5 6];
column_sums = sum(data) % 各列の合計
column_sums =
5 7 9
total_sum = sum(data, ‘all’) % 配列全体の合計 (R2018b以降)
total_sum =
21
``
関数の使い方に迷ったら、
doc functionNamehelp functionName` を利用しましょう。

6. 行列演算

MATLABの大きな強みは、行列計算を効率的に行える点です。線形代数の多くの操作が組み込み関数や演算子で提供されています。
* inv(A): 行列Aの逆行列
* det(A): 行列Aの行列式
* eig(A): 行列Aの固有値と固有ベクトル
* transpose(A) または A.': 転置 (複素数の場合は共役転置 A')
* cross(u, v): ベクトル u と v のクロス積
* dot(u, v): ベクトル u と v のドット積

“`matlab

M = [1 2; 3 4];
inv_M = inv(M)
inv_M =
-2.0000 1.0000
1.5000 -0.5000
det_M = det(M)
det_M =
-2.0000
“`

スクリプトと関数の作成

コマンドウィンドウで一行ずつコマンドを実行するのは手軽ですが、複雑な処理や繰り返し実行する処理には向きません。そこで登場するのがスクリプトと関数です。これらを記述するファイルは、通常 .m という拡張子を持つため、「Mファイル」とも呼ばれます。

1. スクリプトファイル (.mファイル)

複数のコマンドをまとめて記述し、一括で実行するためのファイルです。

  • 作成: MATLABデスクトップの「ホーム」タブにある「新規作成」ボタンから「スクリプト」を選択するか、コマンドウィンドウで edit filename.m と入力します。
  • 記述: エディターが開くので、コマンドウィンドウで入力していたのと同じようにコマンドを記述します。
    “`matlab
    % my_plot_script.m

    % 0から2piまでの範囲を100分割したベクトルxを作成
    x = linspace(0, 2
    pi, 100);

    % sin(x)の値を計算
    y = sin(x);

    % xを横軸、yを縦軸にしてプロット
    figure; % 新しい図ウィンドウを開く (オプション)
    plot(x, y);

    % グラフにタイトルとラベルを追加
    title(‘Sine Wave from Script’);
    xlabel(‘x’);
    ylabel(‘sin(x)’);

    % グリッドを表示
    grid on;
    ``
    * **コメント**:
    %記号以降はコメントとして扱われ、MATLABは無視します。コードの説明やメモを書くのに使います。
    * **セミコロン (;)**: 行末にセミコロンを付けると、そのコマンドの実行結果がコマンドウィンドウに表示されなくなります。特にループ処理の中や、中間計算の結果など、表示が不要な場合はセミコロンを付けるのが一般的です。付けていないと、大量の出力でコマンドウィンドウが埋まってしまうことがあります。
    * **実行**:
    * エディター上部の「実行」ボタンをクリックします。
    * コマンドウィンドウで、スクリプトファイルの名前(拡張子なし)を入力してEnterキーを押します。上記例なら
    my_plot_script` と入力します。

スクリプトで作成された変数は、実行後にワークスペースに残ります。

2. 関数の定義と使い方

関数は、特定の処理をひとまとめにして、入力引数を受け取り、処理結果を出力引数として返す仕組みです。同じ処理を何度も行いたい場合や、プログラムを部品化して整理したい場合に便利です。

  • 作成: スクリプトと同様に「新規作成」から「関数」を選択するか、edit functionName.m と入力します。関数ファイル名は、関数名と同じである必要があります。
  • 記述: 関数ファイルの先頭行は、以下の形式で記述します。
    “`matlab
    function [output_args] = function_name(input_args)
    % Function documentation (H1 line)
    % Detailed explanation

    % Function body: calculations using input_args
    % …
    % Assign results to output_args
    output_args = …;

    end % 関数定義の終了 (省略可だが推奨)
    ``
    *
    function: 関数定義の始まりを示すキーワード。
    *
    [output_args]: 出力引数を格納する変数名のリストです。複数の出力がある場合は角括弧で囲み、カンマで区切ります。出力がない場合は[]または何も書きません。
    *
    function_name: 関数の名前です。ファイル名と同じにする必要があります。
    *
    (input_args): 入力引数を受け取る変数名のリストです。複数の入力がある場合は丸括弧で囲み、カンマで区切ります。入力がない場合は()または何も書きません。
    *
    % Function documentation: 最初のコメント行(H1ライン)は、help function_nameと入力したときに表示される要約です。その後のコメントは、doc function_name` で表示される詳細なヘルプテキストになります。ここには、関数の目的、使い方、引数、戻り値などを記述します。

  • 具体例: 2つの数値を足し合わせる簡単な関数
    “`matlab
    % add_numbers.m

    function sum_result = add_numbers(a, b)
    %ADD_NUMBERS 2つの数値を足し合わせます
    % sum_result = add_numbers(a, b) は、入力 a と b を加算し、
    % 結果を sum_result として返します。
    %
    % 例:
    % total = add_numbers(5, 3); % total は 8 になります。

    sum_result = a + b;

    end
    * **実行**: 関数は、コマンドウィンドウや他のスクリプト/関数の中から、関数名を呼び出して実行します。matlab

    result = add_numbers(10, 20) % 関数add_numbersを呼び出し、結果を変数resultに格納
    result =
    30
    another_sum = add_numbers(5.5, 2.1)
    another_sum =
    7.6000
    “`
    * ローカル変数とグローバル変数: 関数内で定義された変数は、その関数の中だけで有効な「ローカル変数」です。関数の実行が終わると消滅し、ワークスペースや他の関数からはアクセスできません。これは、関数が独立した処理ブロックであることを保証し、変数名の衝突を防ぐために重要です。
    特定の変数を複数の関数やワークスペースで共有したい場合は、「グローバル変数」として宣言することも可能ですが、プログラムが複雑になり、予期しない副作用を引き起こす可能性があるため、多用は推奨されません。可能な限り入力引数と出力引数を使ってデータの受け渡しを行うべきです。

  • 複数出力: 関数は複数の値を返すことができます。
    “`matlab
    % min_max.m

    function [min_val, max_val] = min_max(data_array)
    %MIN_MAX 配列の最小値と最大値を求めます
    % [min_val, max_val] = min_max(data_array) は、
    % 入力配列 data_array の最小値を min_val に、
    % 最大値を max_val に格納して返します。

    min_val = min(data_array);
    max_val = max(data_array);

    end
    呼び出し側では、複数の出力変数を受け取るための角括弧を指定します。matlab

    numbers = [10, 4, 25, 1, 18];
    [minimum, maximum] = min_max(numbers)
    minimum =
    1
    maximum =
    25
    “`

スクリプトは単純な一連のコマンドを実行するのに適しており、関数は再利用可能な処理ブロックを作成するのに適しています。プログラムが大きくなってきたら、機能を関数に分割して整理することが推奨されます。

制御構文

プログラムの流れを制御するために、条件によって処理を分けたり(条件分岐)、同じ処理を繰り返したり(ループ処理)する構文が必要です。

1. 条件分岐

  • if, elseif, else, end: 指定した条件が真であるかどうかに応じて処理を切り替えます。
    “`matlab
    score = 75;

    if score >= 90
    disp(‘Excellent!’); % disp関数は文字列や変数の値をコマンドウィンドウに表示
    elseif score >= 80
    disp(‘Very Good.’);
    elseif score >= 70
    disp(‘Good.’);
    else
    disp(‘Keep trying.’);
    end
    ``
    * 条件式は論理型のスカラー値である必要があります。配列の場合は、要素ごとの論理値ではなく、
    all()any()などを使ってスカラーの論理値に変換する必要があります。
    *
    endキーワードでif` ブロックを閉じます。

  • switch, case, otherwise, end: 変数の値に応じて複数の処理に分岐させたい場合に便利です。
    “`matlab
    day_number = 3;

    switch day_number
    case 1
    disp(‘Monday’);
    case 2
    disp(‘Tuesday’);
    case 3
    disp(‘Wednesday’);
    case {4, 5} % 複数の値を1つのcaseで指定することも可能
    disp(‘Thursday or Friday’);
    otherwise
    disp(‘Weekend’);
    end
    ``
    *
    switchの後の変数(または式)の値が、caseの後の値と一致する場合に、そのcaseブロック内のコードが実行されます。
    *
    otherwiseブロックは、どのcaseにも一致しなかった場合に実行されます(省略可能)。
    *
    endキーワードでswitch` ブロックを閉じます。

2. ループ処理

  • for, end: 指定した回数だけ処理を繰り返します。通常、カウンター変数を使って繰り返し回数を制御します。
    “`matlab
    % 1から5までの合計を計算
    total_sum = 0;
    for i = 1:5 % iは1から5まで1ずつ増える
    total_sum = total_sum + i;
    disp([‘Current sum: ‘, num2str(total_sum)]); % num2strは数値を文字列に変換
    end
    disp([‘Final sum: ‘, num2str(total_sum)]);

    % 配列の各要素にアクセス
    data_array = [10, 20, 30, 40];
    for val = data_array
    disp([‘Value: ‘, num2str(val)]);
    end

    % 行列の各列にアクセス
    matrix_data = [1 2; 3 4; 5 6];
    for col = matrix_data
    disp(‘Column:’);
    disp(col);
    end

    % インデックスを使って行列の要素にアクセス (より一般的)
    [rows, cols] = size(matrix_data);
    for r = 1:rows
    for c = 1:cols
    disp([‘Element(‘, num2str(r), ‘,’, num2str(c), ‘): ‘, num2str(matrix_data(r, c))]);
    end
    end
    ``
    *
    for variable = expressionの形式で使います。expressionはベクトルや行列であり、variableにはexpressionの各要素(ベクトルは要素、行列は列ベクトル)が順番に代入されます。通常はstart:step:endのような等差数列をexpressionに指定して、カウンター変数として使います。
    *
    endキーワードでfor` ループを閉じます。

  • while, end: 指定した条件が真である間、処理を繰り返します。繰り返し回数が事前に分からない場合に適しています。
    matlab
    % 10より大きい最小の2のべき乗を求める
    n = 0;
    power_of_2 = 1;
    while power_of_2 <= 10
    n = n + 1;
    power_of_2 = 2^n;
    end
    disp(['Smallest power of 2 greater than 10 is 2^', num2str(n), ' = ', num2str(power_of_2)]);

    • while condition の形式で使います。condition が真の間ループが実行されます。
    • ループ内で必ず condition を変更するような処理(上記の例では n を増やし、power_of_2 を再計算する部分)を含めないと、無限ループになってしまう可能性があるため注意が必要です。
    • end キーワードで while ループを閉じます。
  • break, continue: ループの途中でループの実行を制御するコマンドです。

    • break: 現在のループを直ちに終了し、ループの次のコードに処理を移します。
      matlab
      for i = 1:10
      if i == 6
      break; % iが6になったらループを抜ける
      end
      disp(i);
      end
    • continue: 現在の繰り返し処理の残りをスキップし、次の繰り返し処理に移ります。
      matlab
      for i = 1:10
      if mod(i, 2) == 0 % iが偶数なら
      continue; % この繰り返しをスキップし、次のiへ
      end
      disp(i); % 奇数だけが表示される
      end

これらの制御構文を組み合わせることで、複雑なアルゴリズムをMATLABで実装することができます。

データの可視化(プロット)

計算結果やデータを視覚的に理解するために、グラフを作成することは非常に重要です。MATLABは強力なプロット機能を備えています。

1. 2次元プロット

最も基本的なプロットです。plot 関数を使用します。

  • 基本的な使い方: plot(y) とすると、yの要素を縦軸、そのインデックスを横軸としてプロットします。plot(x, y) とすると、xを横軸、yを縦軸としてプロットします。xとyは同じ長さのベクトルである必要があります。
    “`matlab
    % y = sin(x) のプロット
    x = linspace(0, 2*pi, 100);
    y = sin(x);
    figure; % 新しいウィンドウで表示
    plot(x, y);

    % 単一ベクトルのプロット
    data = [15, 22, 18, 25, 30];
    figure;
    plot(data); % 横軸はインデックス 1, 2, 3, 4, 5
    “`

  • 線のスタイル、色、マーカー: plot 関数の3つ目の引数以降で、線のスタイル、色、マーカーを指定できます。これらを組み合わせた文字列で指定するのが一般的です(例: 'r--o' は赤い破線と丸マーカー)。

    • 色: r (赤), g (緑), b (青), k (黒), m (マゼンタ), c (シアン), y (黄), w (白)
    • 線のスタイル: - (実線), -- (破線), : (点線), -. (一点鎖線), None (線なし)
    • マーカー: . (点), o (円), x (バツ), + (プラス), * (アスタリスク), s (四角), d (ひし形), ^ (上向き三角), v (下向き三角), < (左向き三角), > (右向き三角), p (五角形), h (六角形)
      matlab
      x = 0:0.5:10;
      y = x.^2;
      figure;
      plot(x, y, 'b:x', 'LineWidth', 1.5, 'MarkerSize', 8); % 青い点線、バツマーカー、線の太さ、マーカーサイズを指定
  • 軸ラベル、タイトル、凡例: グラフに情報を追加する関数です。

    • xlabel('文字列'): 横軸ラベル
    • ylabel('文字列'): 縦軸ラベル
    • title('文字列'): グラフタイトル
    • legend('系列1', '系列2', ...): 凡例 (複数のプロットがある場合)
    • grid on/grid off: グリッドの表示/非表示
  • 複数のプロットを重ねる: 同じFigureウィンドウに複数のグラフを重ねて描きたい場合は、hold on コマンドを使用します。重ねる描画が終わったら hold off でモードを解除します。
    “`matlab
    x = linspace(0, 2*pi, 100);
    y1 = sin(x);
    y2 = cos(x);

    figure;
    plot(x, y1, ‘b-‘, ‘DisplayName’, ‘sin(x)’); % DisplayNameで凡例の文字列を指定
    hold on; % この後に追加されるプロットを重ねて表示
    plot(x, y2, ‘r–‘, ‘DisplayName’, ‘cos(x)’);
    hold off; % 重ね書きモード解除

    xlabel(‘x’);
    ylabel(‘Amplitude’);
    title(‘Sine and Cosine Waves’);
    legend; % DisplayNameで指定した文字列を使って凡例を自動生成
    grid on;
    “`

  • 複数のサブプロット: 1つのFigureウィンドウを分割して、複数の小さなグラフを表示したい場合は、subplot 関数を使用します。subplot(m, n, p) は、Figureを mn 列に分割し、p 番目の領域を現在のプロット領域とします。
    “`matlab
    x = linspace(0, 2pi, 100);
    y1 = sin(x);
    y2 = cos(x);
    y3 = sin(2
    x);
    y4 = cos(2*x);

    figure;

    subplot(2, 2, 1); % 2×2の1番目 (左上)
    plot(x, y1);
    title(‘sin(x)’);

    subplot(2, 2, 2); % 2×2の2番目 (右上)
    plot(x, y2);
    title(‘cos(x)’);

    subplot(2, 2, 3); % 2×2の3番目 (左下)
    plot(x, y3);
    title(‘sin(2x)’);

    subplot(2, 2, 4); % 2×2の4番目 (右下)
    plot(x, y4);
    title(‘cos(2x)’);

    % 必要に応じてsgtitle()でFigure全体のタイトルもつけられる (R2018a以降)
    % sgtitle(‘Multiple Trig Functions’);
    “`

2. 3次元プロット (簡単な紹介)

MATLABは3次元データの可視化も得意としています。
* plot3(x, y, z): 3次元空間に線をプロット
* mesh(X, Y, Z): メッシュ状の表面プロット
* surf(X, Y, Z): 塗りつぶされた表面プロット
* contour(X, Y, Z): 等高線プロット
これらの関数を使うには、通常、meshgrid 関数でグリッド点を作成する必要があります。

3. Figureウィンドウの操作

プロットが描画されたFigureウィンドウでは、ツールバーやメニューを使ってグラフの拡大縮小、パン、3次元プロットの回転、データヒントの表示、軸範囲の変更などができます。また、「プロットツール」機能(Figureウィンドウのメニューから選択)を使うと、対話的にグラフの見た目を変更したり、注釈を追加したりできます。

4. 画像の保存

作成したグラフは画像ファイルとして保存できます。
* saveas(figure_handle, 'filename', 'format'): 指定したFigureをファイルに保存します。figure_handle はFigureのハンドル(省略すると現在のFigure)、filename はファイル名、format はファイル形式(例: 'png', 'jpg', 'pdf', 'eps' など)。
matlab
figure_handle = figure; % ハンドルを取得
plot(x, y);
title('My Plot');
saveas(figure_handle, 'my_sine_plot.png'); % PNG形式で保存
saveas(gcf, 'my_sine_plot.pdf', 'pdf'); % 現在のFigure (gcf) をPDF形式で保存

Figureウィンドウの「ファイル」メニューから「名前を付けて保存」を選ぶことでも保存できます。

データの入出力

計算に使用するデータをファイルから読み込んだり、計算結果をファイルに保存したりすることは、実際のデータ解析ワークフローでは必須の操作です。MATLABは様々なファイル形式に対応しています。

1. データの読み込み

  • テキストファイル (.txt, .csv):

    • readmatrix('filename.txt'): 数値データのみのテキストファイルやCSVファイルを読み込んで行列として格納します。R2019a以降推奨。
    • readtable('filename.csv'): ヘッダー行や異なるデータ型が混在するCSVファイルなどを読み込んでテーブルとして格納します。R2019a以降推奨。
    • importdata('filename.txt'): 様々な形式のテキストファイルを読み込めます。数値、テキスト、ヘッダーなどを別々に返すことがあります。
    • 古い関数: csvread (CSVファイルのみ、数値のみ), dlmread (区切り文字指定可能、数値のみ)。これらは新しい関数 (readmatrix, readtable) への移行が推奨されています。

    “`matlab
    % 仮のCSVファイルを作成 (例として)
    % data.csv
    % Header1,Header2,Header3
    % 1,10.5,Apple
    % 2,20.1,Banana
    % 3,30.9,Cherry

    % readmatrix (数値部分のみ)
    numeric_data = readmatrix(‘data.csv’); % ヘッダーや文字列は無視されるかエラーになる可能性あり

    % readtable (推奨)
    data_table = readtable(‘data.csv’);
    % テーブルへのアクセス例:
    % data_table.Header1 (列全体にアクセス)
    % data_table{2, ‘Header2’} (特定要素にアクセス)
    “`

  • Excelファイル (.xls, .xlsx):

    • readtable('filename.xlsx', 'Sheet', 'Sheet1'): Excelファイルを読み込んでテーブルとして格納します。R2019a以降推奨。
    • xlsread('filename.xlsx', 'Sheet1'): Excelファイルを読み込みます。数値、テキスト、未読み込みセルを別々の変数に返すことがあります。

    “`matlab
    % readtable (推奨)
    excel_data_table = readtable(‘my_data.xlsx’, ‘Sheet’, ‘Sheet1’);

    % xlsread (下位互換用など)
    [numeric_data, text_data, raw_data] = xlsread(‘my_data.xlsx’, ‘Sheet1’);
    “`

  • MATファイル (.mat): MATLAB独自のバイナリ形式ファイルです。MATLABの変数(ワークスペースの内容など)を効率的に保存・読み込みできます。

    • load('filename.mat'): ファイルに保存されているすべての変数を現在のワークスペースに読み込みます。
    • load('filename.mat', 'var1', 'var2'): ファイルから指定した変数のみを読み込みます。
    • loaded_data = load('filename.mat'): ファイルに保存されているすべての変数を要素とする構造体として読み込みます。

    matlab
    % 例: 以前に保存したMATファイルを読み込む
    load('my_variables.mat'); % my_variables.matに保存されていた変数がワークスペースに展開される

2. データの書き出し

  • テキストファイル (.txt, .csv):

    • writematrix(matrix_data, 'output.txt'): 行列をテキストファイルに書き出します。デフォルトでカンマ区切り。R2019a以降推奨。
    • writetable(table_data, 'output.csv'): テーブルをCSVファイルなどにヘッダー付きで書き出します。R2019a以降推奨。
    • 古い関数: csvwrite, dlmwrite.

    “`matlab
    results_matrix = [1.1 2.2; 3.3 4.4];
    writematrix(results_matrix, ‘results.txt’); % results.txt に書き出し (カンマ区切り)
    writematrix(results_matrix, ‘results_tab.txt’, ‘Delimiter’, ‘\t’); % タブ区切りで書き出し

    % テーブルをCSVに書き出し
    T = table([1; 2; 3], {‘A’; ‘B’; ‘C’}, [true; false; true], ‘VariableNames’, {‘ID’, ‘Category’, ‘IsValid’});
    writetable(T, ‘output_table.csv’);
    “`

  • Excelファイル (.xls, .xlsx):

    • writetable(table_data, 'output.xlsx', 'Sheet', 'Sheet1'): テーブルをExcelファイルに書き出します。R2019a以降推奨。
    • xlswrite('output.xlsx', matrix_data, 'Sheet1'): 行列をExcelファイルに書き出します。

    “`matlab
    % テーブルをExcelに書き出し (推奨)
    writetable(T, ‘output_table.xlsx’, ‘Sheet’, ‘Sheet1’);

    % 行列をExcelに書き出し (下位互換用など)
    xlswrite(‘output_matrix.xlsx’, results_matrix, ‘Sheet1’);
    “`

  • MATファイル (.mat):

    • save('filename.mat'): 現在のワークスペースのすべての変数をファイルに保存します。
    • save('filename.mat', 'var1', 'var2'): 指定した変数のみをファイルに保存します。
    • save('filename.mat', '-struct', 'struct_var'): 構造体の各フィールドを別々の変数としてMATファイルに保存します。

    matlab
    % ワークスペースの変数a, b, resultを保存
    a = 10; b = 20; result = 30;
    save('my_variables.mat', 'a', 'b', 'result');

データファイルの操作は、実際のプロジェクトで頻繁に行う作業です。利用するファイルの形式に合わせて適切な関数を選び、ヘルプドキュメントで詳細なオプション(区切り文字、エンコーディング、ヘッダーの有無など)を確認しながら使うことが重要です。

デバッグの方法

プログラムを作成していると、エラーが発生したり、期待通りの結果が得られなかったりすることがよくあります。そのような問題を特定し、修正する作業をデバッグと呼びます。MATLABのエディターは強力なデバッグ機能を備えています。

1. エラーメッセージの読み方

MATLABでエラーが発生すると、コマンドウィンドウに赤色のエラーメッセージが表示されます。
“`
Error using my_function (line 5)
Index exceeds the number of array elements (1).

Error in my_script (line 10)
my_function(data);
``
重要なのは、エラーが発生した**ファイル名**と**行番号**です。上記の例では、
my_function.mの5行目でエラーが発生し、それはmy_script.mの10行目からmy_function` が呼び出された結果として起きています。「Index exceeds the number of array elements」はインデックスが配列のサイズを超えていることを示しており、配列の要素にアクセスする際に範囲外のインデックスを指定している可能性が高いです。

エラーメッセージを注意深く読み、どのファイルのどの行で、どのような種類のエラーが発生したのかを理解することがデバッグの第一歩です。エラーメッセージのキーワード(例: “Undefined function”, “Undefined variable”, “Index exceeds”, “Dimension mismatch” など)でヘルプやウェブ検索をすると、解決策が見つかりやすいです。

2. ブレークポイントの設定

プログラムの実行を指定した行で一時停止させたい場合にブレークポイントを設定します。エディターでコードの行番号の左側をクリックすると、赤い丸が表示され、その行にブレークポイントが設定されます。

3. ステップ実行

ブレークポイントでプログラムが一時停止すると、MATLABは「デバッグモード」に入ります。このモードでは、コードを一行ずつ実行したり、変数の値を調べたりすることができます。エディターの「エディター」タブにある「実行」セクションが「デバッグ」セクションに変わり、以下のボタンが表示されます。

  • 続行 (Continue): 次のブレークポイントまで、またはプログラムの最後まで実行を続行します。
  • ステップ (Step): 現在の行を実行し、次の行に移動します。関数呼び出しの場合は、その関数の中に入っていきます。
  • ステップ オーバー (Step Over): 現在の行を実行し、次の行に移動します。関数呼び出しの場合でも、関数の中には入らず、その関数が終了するまでを一気に実行します。関数の中のバグには興味がなく、その関数呼び出し自体が正しく動くか確認したい場合に便利です。
  • ステップ アウト (Step Out): 現在実行中の関数から抜け出し、その関数を呼び出した行の次の行に処理を移します。
  • 停止 (Quit Debugging): デバッグモードを終了し、プログラムの実行を停止します。

デバッグモード中は、コマンドウィンドウがデバッグプロンプト (K>>) に変わります。ここでワークスペースにある変数の値を調べたり、簡単なコマンドを実行したりできます。

4. ワークスペースの確認

デバッグモードで一時停止している間は、ワークスペースウィンドウにその時点でのすべてのローカル変数やグローバル変数とその値が表示されています。これにより、変数が想定通りの値になっているかを確認できます。変数をダブルクリックして、変数エディターで中身を詳しく見ることも可能です。

5. keyboard 関数

コードの特定の場所で一時的に実行を停止し、コマンドウィンドウで対話的にデバッグしたい場合に keyboard 関数を記述します。
matlab
a = 10;
b = 20;
c = a * b;
keyboard; % ここで一時停止し、コマンドウィンドウがK>>になる
d = c + 5;

keyboard が実行されるとデバッグモードに入り、K>> プロンプトが表示されます。デバッグが終わったら、return とコマンドウィンドウに入力してEnterキーを押すと、keyboard の次の行からプログラムの実行が再開されます。

これらのデバッグツールを活用することで、効率的に問題を特定し、修正することができます。

便利な機能とツールボックス

MATLABには、これまでに紹介した基本的な機能以外にも、様々な便利な機能や拡張機能があります。

1. ヘルプシステムの活用

前述のヘルプブラウザーや doc, help コマンドは、MATLABの使い方を調べる上で最も重要なリソースです。特に、doc functionName で表示されるドキュメンテーションは非常に詳細で、関数の構文、入力引数、出力引数、使用例などが豊富に掲載されています。何か分からないことがあれば、まずヘルプを引く習慣をつけましょう。

2. ドキュメンテーション (Doc)

doc コマンドは、オフラインでも利用可能な公式ドキュメンテーションを開きます。これは、MATLABのすべての関数、クラス、ツールボックスに関する詳細な情報が網羅された、質の高いリファレンスです。検索機能も充実しています。

3. 例題 (Examples)

ドキュメンテーションには、多くの関数や機能について具体的な使用例が記載されています。これらの例題は、そのままコピー&ペーストして実行できるものが多く、動くコードを見ながら学習するのに非常に役立ちます。また、MATLABには「Examples」ギャラリーも用意されており、様々な分野のアプリケーション例を見ることができます。

4. アプリ (Apps)

MATLABデスクトップの「アプリ」タブには、特定のタスクを対話的に実行できる様々なアプリケーションが用意されています。例えば、「曲線フィッティングツール」、「信号アナライザー」、「GUI開発環境 (App Designer)」、「分類学習器」などがあります。これらのアプリを使うことで、コードを書かずにデータ解析やアルゴリズムのテストを簡単に行える場合があります。

5. ツールボックス (Toolboxes)

MATLAB本体は汎用的な機能を提供しますが、特定の専門分野(例: 制御システム、信号処理、画像処理、統計処理、機械学習、最適化など)に特化した高度な機能は、「ツールボックス」として提供されています。ツールボックスはMATLABのオプション製品であり、利用には別途ライセンスが必要です。自分が扱うデータや解析内容に応じて、必要なツールボックスを導入することで、より高度な処理を効率的に行うことができます。

さらに学ぶために

この記事でMATLABの基本的な使い方はマスターできたはずです。しかし、MATLABの機能は膨大であり、特定の分野で深く活用するには継続的な学習が必要です。

  • MathWorks公式ドキュメンテーション: MATLABの機能すべてが網羅されています。辞書のように活用しましょう。
  • MATLAB中央 (MATLAB Central): MathWorksが運営するコミュニティサイトです。他のMATLABユーザーが作成したファイル交換(コード投稿)、質問フォーラム、ブログなどがあり、様々な情報やコード例を入手できます。
  • オンラインコース: Coursera, edX, UdemyなどのMOOCプラットフォームや、MathWorksが提供するMATLAB Onrampなどの入門コースで、体系的に学ぶことができます。多くの場合、実践的な演習課題が含まれています。
  • 実践的なプロジェクト: 何か具体的な課題(例: 自分の持っているデータを読み込んで可視化・解析する、簡単なシミュレーションモデルを作るなど)を設定し、MATLABで実装してみるのが最も効果的な学習方法です。エラーにぶつかりながら、ヘルプや検索を活用して解決していく経験が、スキルを確実に向上させます。

まとめ

この記事では、MATLABを初めて使う方が、これだけ読めば基本的な使い方をマスターできることを目指して、MATLABの環境から変数・配列の操作、基本的な演算、スクリプト・関数の作成、制御構文、データ可視化、入出力、デバッグ方法までを詳細に解説しました。

MATLABは、その直感的な構文と強力な組み込み機能により、科学技術計算やデータ解析を効率的に行うための非常に優れたツールです。行列ベースの考え方に慣れるのに少し時間がかかるかもしれませんが、一度基本を習得すれば、様々な分野でその威力を発揮できます。

学習の過程で壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、MATLABの充実したヘルプシステムやオンラインコミュニティ、そしてこの記事を参考に、一つずつ解決していってください。最も大切なのは、実際に手を動かしてコードを書き、実行し、エラーから学ぶことです。

これで、あなたはMATLABを使い始める準備が整いました。この記事が、あなたのMATLAB学習ジャーニーの確固たる一歩となることを願っています。MATLABの広大な世界を楽しみながら探索してください!


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