Arch Linuxのダウンロード先はどこ?公式とミラーサイトを完全解説
はじめに:Arch Linuxとダウンロードの重要性
Arch Linuxは、そのシンプルさ、ミニマリズム、そして無限のカスタマイズ性で、多くのLinux愛好家や開発者から絶大な支持を得ているディストリビューションです。他の多くのディストリビューションがグラフィカルなインストーラーや初期設定ツールを提供するのとは対照的に、Arch Linuxはユーザー自身がコマンドラインを通じてシステムをゼロから構築していくプロセスを基本とします。この哲学は「The Arch Way」として知られ、ユーザーにLinuxシステムの仕組みを深く理解する機会を与えてくれます。
そんなArch Linuxを始めるための最初の、そして最も重要な一歩が、インストールメディアとなるISOイメージのダウンロードです。一見すると単純なファイルダウンロードですが、Arch Linuxの世界ではこの最初のステップにも選択肢と、知っておくべき重要な知識が詰まっています。
「公式サイトからダウンロードすればいいのでは?」と考えるのは自然なことです。もちろんそれは正解の一つですが、最善の選択とは限りません。世界中に点在する「ミラーサイト」を利用することで、より高速かつ安定したダウンロードが期待できます。また、P2P技術であるTorrentを利用する方法もあります。
しかし、どの方法を選ぶにせよ、ダウンロードしたファイルが「本物」であり、改ざんや破損がないことを確認する「署名検証」というプロセスは絶対に欠かせません。この検証を怠ることは、自宅のドアに鍵をかけずに外出するようなもので、セキュリティ上の大きなリスクを伴います。
この記事では、Arch Linuxの旅を始めるすべての方に向けて、以下の内容を網羅的かつ詳細に解説します。
- 公式ウェブサイトからのダウンロード方法とその内訳
- 世界中のミラーサイトの役割と、最適なミラーの選び方
- ダウンロードを高速化するTorrentの活用法
- ダウンロードしたファイルの安全性を確認する署名検証の具体的な手順
- ダウンロード後のブータブルUSBメディアの作成方法
初心者の方が安心して最初の一歩を踏み出せるように、また、経験者の方が自身の知識を再確認し、より効率的な方法を見つけられるように、スクリーンショットやコマンド例を交えながら丁寧に説明していきます。約5000語にわたるこの徹底ガイドを読めば、あなたは自信を持って、安全かつ快適にArch LinuxのISOイメージを手に入れることができるようになるでしょう。
Arch Linuxのダウンロード:2つの主要なルート
Arch LinuxのインストールISOイメージを入手するには、大きく分けて2つのルートが存在します。
-
公式ウェブサイト (
archlinux.org
) からの直接ダウンロード- 概要: Arch Linuxプロジェクトが直接管理する中央サーバーからダウンロードする方法です。
- 対象ユーザー: 最も信頼性が高く、手順がシンプルであるため、特に初心者の方や、どの方法を選ぶべきか迷っている方におすすめです。
-
ミラーサイトからのダウンロード
- 概要: 公式サーバーのコンテンツを複製(ミラーリング)している世界中のボランティアサーバーからダウンロードする方法です。
- 対象ユーザー: ダウンロード速度を重視する方、または公式サーバーにアクセスしづらい状況にある方におすすめです。地理的に近いサーバーを選ぶことで、劇的にダウンロード時間を短縮できる可能性があります。
これらに加え、TorrentというP2P(ピアツーピア)方式でのダウンロードも可能です。これは、特に新しいバージョンがリリースされた直後など、アクセスが集中する際に公式サーバーやミラーサイトの負荷を軽減しつつ、高速なダウンロードを実現できる強力な選択肢です。
次のセクションから、それぞれの方法について、具体的な手順と技術的な背景を深く掘り下げていきましょう。
【ルート1】公式ウェブサイトからの直接ダウンロード
最も正統で信頼性の高い方法が、公式ウェブサイトからの直接ダウンロードです。ここでは、その手順とダウンロードページに並ぶ各ファイルの意味について詳しく解説します。
ステップ・バイ・ステップ・ガイド
-
公式サイトへアクセス: まず、お使いのウェブブラウザでArch Linuxの公式サイトにアクセスします。
> https://archlinux.org/ -
Downloadページへ移動: ページ右側のメニューにある「Download」リンクをクリックします。
すると、Arch Linuxのダウンロードページが表示されます。このページには、いくつかのファイルや情報がリストアップされており、それぞれに重要な役割があります。
ダウンロードページの構成要素と各ファイルの詳細解説
ダウンロードページには、主に以下のファイルが提供されています。
- ISOイメージファイル (
archlinux-<version>-x86_64.iso
) - GPG署名ファイル (
archlinux-<version>-x86_64.iso.sig
) - Torrentファイル (
.torrent
) - Netbootイメージ
- ミラーサイトへのリンク
ここでは、特に重要なISOイメージと署名ファイル、そしてTorrentファイルについて深掘りします。
1. ISOイメージファイル (archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
)
これがArch Linuxをインストールするための本体です。
- ファイル内容: この
.iso
ファイルは、CDやDVDのディスクイメージ形式です。中には、Arch Linuxのライブ環境(実際にインストールする前にシステムを試せるOS)と、インストール作業を行うためのスクリプト(archinstall
など)が含まれています。このファイルをUSBメモリに書き込むことで、コンピュータを起動するためのブータブルメディアを作成します。 - ファイル名の意味:
YYYY.MM.DD
: これはISOイメージが生成された日付(バージョン)を示します。Arch Linuxはローリングリリースモデルを採用しているため、毎月1日に新しいISOイメージがリリースされます。x86_64
: これはCPUのアーキテクチャを示しており、現在主流の64bit版であることを意味します。現在、Arch Linuxが公式にサポートしているのはこのx86_64
アーキテクチャのみです。(かつて存在した32bit版についてはFAQで後述します)
- 用途: このファイルをダウンロードし、後述する方法でUSBメモリに書き込むか、仮想マシンの仮想ドライブにマウントして使用します。
2. GPG署名ファイル (.iso.sig
) とその検証【最重要】
ISOファイルの隣にある.sig
ファイルは、一見地味ですが、セキュリティ上、極めて重要な役割を担っています。
- 目的: このファイルは、ダウンロードしたISOイメージが、Arch Linuxの開発者によって作成された本物であり、ダウンロード中に破損したり、悪意のある第三者によって改ざんされたりしていないことを証明するためのデジタル署名です。
- なぜ重要か?: もし改ざんされたISOイメージを使ってインストールしてしまうと、システムにバックドアが仕掛けられたり、個人情報が盗まれたりする危険性があります。また、ファイルが破損していると、インストールが途中で失敗する原因になります。この検証作業は、安全なArch Linuxライフを送るための「お守り」のようなものです。
GnuPGを使った署名検証の具体的な手順
署名の検証には、GnuPG (GNU Privacy Guard、略してGPG) というツールを使用します。多くのLinuxディストリビューションやmacOSには標準でインストールされていますが、Windowsの場合は別途インストールが必要です。
Step 1: GnuPGの準備
* Linux: ほとんどの場合、すでにインストールされています。ターミナルで gpg --version
と入力して確認してください。
* macOS: Homebrewを使っているなら brew install gnupg
でインストールできます。
* Windows: Gpg4win をダウンロードしてインストールするのが最も簡単です。インストール後、コマンドプロンプトやPowerShellで gpg
コマンドが使えるようになります。
Step 2: Arch Linux開発者の公開鍵を取得
署名を検証するには、その署名を行った「鍵」が必要です。Arch Linuxでは特定の開発者がISOイメージに署名します。その開発者の鍵が信頼できるものであることを証明するために、さらに上位の「マスターキー」をインポートします。
現在、ISOイメージへの署名はPierre Schmitz氏 ([email protected]
) によって行われることがほとんどです。彼の公開鍵を鍵サーバーから取得します。ターミナル(またはコマンドプロンプト)で以下のコマンドを実行してください。
bash
gpg --keyserver hkps://keyserver.ubuntu.com --recv-keys 4AA4767BBC9C4B1D18AE28B77F2D434B9741E8AC
* --keyserver
: 公開鍵を検索するためのサーバーを指定します。
* --recv-keys
: 指定したキーIDの公開鍵を取得します。4AA4...
はPierre Schmitz氏の鍵のフィンガープリント(指紋)です。
Step 3: ダウンロードした署名ファイルを検証
ISOファイル (.iso
) と署名ファイル (.sig
) の両方を同じディレクトリにダウンロードしたら、そのディレクトリに移動して以下のコマンドを実行します。
bash
gpg --verify archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso.sig archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
(ファイル名はダウンロードしたものに置き換えてください)
Step 4: 検証結果の確認
コマンドを実行すると、以下のような結果が表示されます。
【成功例】
gpg: Signature made Tue 01 Aug 2023 11:30:15 AM JST
gpg: using RSA key 4AA4767BBC9C4B1D18AE28B77F2D434B9741E8AC
gpg: Good signature from "Pierre Schmitz <[email protected]>" [unknown]
gpg: WARNING: This key is not certified with a trusted signature!
gpg: There is no indication that the signature belongs to the owner.
Primary key fingerprint: 4AA4 767B BC9C 4B1D 18AE 28B7 7F2D 434B 9741 E8AC
ここで最も重要なのは Good signature from ...
という行です。これが表示されていれば、ファイルは破損も改ざんもされていません。
WARNING: This key is not certified...
という警告が表示されることがありますが、これは「あなた自身がこの鍵の持ち主(Pierre Schmitz氏)を個人的に信頼しているとGPGに設定していない」という意味です。Good signature
が出ている限り、ファイル自体の完全性は保証されているので、ひとまずは問題ありません。(より厳密に運用したい場合は、Web of Trustの概念に基づき、鍵に信頼レベルを設定します。)
【失敗例】
もしファイルが破損していたり、改ざんされていたりすると、以下のように BAD signature
と表示されます。
gpg: Signature made ...
gpg: using RSA key ...
gpg: BAD signature from "Pierre Schmitz <[email protected]>" [unknown]
このメッセージが表示された場合は、そのISOファイルは絶対に使用してはいけません。 ファイルを削除し、再度ダウンロードからやり直してください。
3. Torrentファイル (.torrent
)
- Torrentとは?: Torrentは、BitTorrentというP2P(ピアツーピア)ファイル共有プロトコルで使用されるファイルです。中央サーバーからファイルをダウンロードするのではなく、同じファイルをダウンロードしている他のユーザー(ピア)からファイルの断片を少しずつ受け取り、同時に自分も他のユーザーに断片を送信することで、ファイルを完成させます。
- Torrentでダウンロードするメリット:
- 高速化: 人気のファイル(特にリリース直後のISOイメージ)は、ダウンロードしている人が多いため、多くのピアから同時にデータを受け取ることができ、HTTP/FTPダウンロードよりも高速になる場合があります。
- 負荷分散: ダウンロードする人が増えれば増えるほど、全体の通信速度が向上する可能性があるため、公式サーバーへの負荷を劇的に軽減できます。Arch Linuxコミュニティへの貢献にもなります。
- 耐障害性: ダウンロードをいつでも中断・再開できます。
- Torrentの使い方:
- qBittorrentやTransmissionなどのTorrentクライアントソフトをインストールします。
- Arch Linuxのダウンロードページから
.torrent
ファイルをダウンロードします。 - ダウンロードした
.torrent
ファイルをTorrentクライアントで開くと、ISOイメージのダウンロードが開始されます。
ダウンロード完了後も、署名検証 (.sig
ファイルを使った検証) は必ず行ってください。
公式ダウンロードのメリット・デメリットまとめ
- メリット:
- 最高の信頼性: 公式が提供しているため、最も信頼できます。
- 常に最新: リリースと同時に最新版が利用可能になります。
- シンプル: ウェブサイトにアクセスしてクリックするだけなので手順が簡単です。
- デメリット:
- 速度の問題: 日本からアクセスする場合、サーバーが地理的に遠い(ヨーロッパにあることが多い)ため、ダウンロード速度が遅くなることがあります。
- アクセス集中: 新しいバージョンがリリースされた直後は世界中からアクセスが集中し、さらに速度が低下したり、サーバーに繋がりにくくなったりすることがあります。
これらのデメリットを解消するのが、次に紹介する「ミラーサイト」です。
【ルート2】ミラーサイトからのダウンロード
公式サーバーの速度に不満がある場合や、より安定したダウンロードを求めるなら、ミラーサイトの利用が最適解となります。
ミラーサイトとは何か?
ミラーサイト(Mirror Site)とは、オリジナルのサーバー(この場合は archlinux.org
)のコンテンツを、そっくりそのまま複製(ミラーリング)しているサーバーのことです。これらのサーバーは、世界中の大学や企業、有志の個人によって善意で運営されています。
なぜミラーサイトを使うのか?その絶大なメリット
ミラーサイトを利用する主なメリットは3つあります。
-
劇的なダウンロード速度の向上:
これが最大のメリットです。例えば、あなたが日本に住んでいる場合、ヨーロッパにある公式サーバーからダウンロードするよりも、日本の大学やISP(インターネットサービスプロバイダ)が運営しているミラーサイトからダウンロードする方が、物理的な距離が近いためネットワークの経路が短くなり、遅延が減少します。結果として、ダウンロード速度が大幅に向上することが期待できます。 -
公式サーバーの負荷分散:
世界中のユーザーがミラーサイトを利用することで、公式サーバーへのアクセスが分散されます。これにより、公式サーバーが過負荷でダウンするのを防ぎ、プロジェクト全体の安定性に貢献します。ミラーサイトを使うことは、Arch Linuxコミュニティへの間接的な貢献と言えます。 -
冗長性と可用性:
万が一、公式サーバーがメンテナンスや障害で一時的に利用できなくなったとしても、ミラーサイトが生きていれば、そこから必要なファイルをダウンロードできます。これにより、いつでもArch Linuxを入手できる可用性が確保されます。
最適なミラーサイトの見つけ方と選び方
「どのミラーサイトを選べばいいの?」という疑問に答えるため、Arch Linuxは非常に便利なツールを提供しています。それが Mirror Status ページです。
Mirror Status ページの徹底活用法
公式サイトの archlinux.org/mirrors/status/
にアクセスしてください。
このページには、世界中の公式ミラーサイトのリストと、それぞれの現在の状態がリアルタイムで表示されています。この情報を読み解くことが、最適なミラーを選ぶ鍵となります。
ページの上部にあるチェックボックスで、表示するミラーを絞り込めます。
* IPv4
/ IPv6
: 対応するプロトコルで絞り込みます。通常は両方チェックで問題ありません。
* rsync
/ http
/ https
: 同期プロトコルやアクセスプロトコルで絞り込みます。ISOダウンロードでは http
または https
が利用可能です。
* ISOs
: これを必ずチェックしてください。 これをチェックすることで、ISOイメージを提供しているミラーのみが表示されます。
リストの各列の意味を理解しましょう。
- Country: ミラーサーバーが設置されている国。
- Mirror URL: ミラーサイトのURL。ここからダウンロードします。
- Completion Pct: 公式サーバーとの同期の完了率。100.0% になっていることが理想です。低い場合は、一部のファイルが欠けている可能性があります。
- Last Sync: 最後に公式サーバーと同期した時刻(UTC)。この時刻が新しいほど、最新の状態に近いと言えます。
- Delay: 同期の遅延時間。
HH:MM:SS
形式で表示されます。この値が小さいほど、公式とのズレが少ない優良なミラーです。 - Duration: 同期にかかった時間。
- Score: 最も重要な指標の一つ。 Arch Linuxが独自に計算したミラーの評価スコアです。遅延時間や完了率などを基に算出されており、このスコアが低いほど、高速で信頼性の高いミラーと判断できます。
最適なミラーを選ぶためのヒント
- Scoreでソート: まず、リストのヘッダーにある「Score」をクリックして、スコアが低い順に並べ替えます。
- 地理的に近い国を探す: スコアが低いミラーの中から、自分の国(
Japan
)や近隣の国(Korea
,Taiwan
など)を探します。 - 状態を確認:
Completion Pct
が100.0%であり、Last Sync
が最近であることを確認します。 - プロトコルを確認:
Mirror URL
のプロトコルがhttp
またはhttps
(より安全)であることを確認します。
この手順に従えば、あなたにとって最も高速で安定したミラーサイトを簡単に見つけ出すことができます。
ミラーサイトからダウンロードする手順
- Mirror Status ページで、上記の方法で最適なミラーを選びます。ここでは例として、日本の有名なミラーである JAIST (北陸先端科学技術大学院大学) を選んでみましょう。
- 選んだミラーの「Mirror URL」 (例:
http://ftp.jaist.ac.jp/pub/Linux/ArchLinux/
) をクリックします。 - ミラーサイトのディレクトリ構造が表示されます。ISOイメージは通常、
iso
->latest
というディレクトリの中にあります。.../iso/
.../iso/latest/
latest
ディレクトリを開くと、公式のダウンロードページと同じように、最新のISOファイル (.iso
) と署名ファイル (.sig
) が見つかります。- この2つのファイルを両方ともダウンロードします。
- ダウンロード後、公式からダウンロードした時と全く同じ手順で、必ずGPGによる署名検証を行ってください。 これにより、たとえミラーサイトが何らかの理由で信頼できなくても、ファイルの安全性を100%保証できます。
ミラーサイト利用のメリット・デメリットまとめ
- メリット:
- 高速ダウンロード: 地理的に近いサーバーを選ぶことで、ダウンロード時間を大幅に短縮可能。
- 負荷分散: コミュニティへの貢献。
- 高い可用性: 公式サーバーがダウンしていてもダウンロード可能。
- デメリット:
- 同期の遅延: ミラーによっては、公式の最新版が反映されるまでに数時間程度のタイムラグがある場合があります。(Mirror Statusで確認可能)
- 信頼性の確認が必須: どのミラーからダウンロードしても、GPG署名検証は絶対に行う必要があります。
ダウンロードしたISOイメージのその後
無事にISOイメージをダウンロードし、署名検証も完了したら、いよいよArch Linuxのインストール準備です。
ISOファイルの検証(再確認)
このステップは何度強調しても足りないほど重要です。
- なぜ検証が必要か?:
- ダウンロード中のデータ破損: 大きなファイルのダウンロードでは、ネットワークの不安定さなどからファイルの一部が欠落・破損することがあります。
- 悪意のある改ざん: 中間者攻撃などにより、転送中にファイルが意図的に改ざんされる可能性もゼロではありません。
- 検証を怠った場合のリスク:
- インストールプロセスの失敗。
- インストールはできても、システムが不安定になる。
- 最悪の場合、バックドアやマルウェアが仕込まれたシステムを構築してしまう。
gpg --verify
の一手間が、あなたをこれらのリスクから守ります。
ブータブルUSBの作成
ダウンロードしたISOファイルを使って、コンピュータを起動するためのUSBメモリを作成します。いくつかのツールがありますが、OSごとにおすすめのものを紹介します。
注意:以下の操作はUSBメモリ内のデータを完全に消去します。対象のデバイスを間違えないよう、細心の注意を払ってください。
1. dd
コマンド (Linux / macOS)
CUIベースのパワフルなツールで、シンプルかつ確実です。
Step 1: USBデバイス名の確認
USBメモリをPCに挿入し、デバイス名を調べます。
* Linux: lsblk
または sudo fdisk -l
* macOS: diskutil list
出力結果から、USBメモリに対応するデバイス名(例: /dev/sdX
, /dev/diskN
)を特定します。サイズなどで判断してください。絶対にPCのハードディスク(/dev/sda
など)と間違えないでください。
Step 2: dd
コマンドの実行
デバイス名が /dev/sdX
で、ISOファイルが ~/Downloads
にあると仮定します。
bash
sudo dd bs=4M if=~/Downloads/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso of=/dev/sdX status=progress oflag=sync
* sudo
: 管理者権限で実行します。
* bs=4M
: 一度に書き込むブロックサイズを4MBに指定します。効率が良くなります。
* if=...
: 入力ファイル(input file)としてISOファイルを指定します。
* of=...
: 出力先デバイス(output file)としてUSBメモリを指定します。ここを絶対に間違えないでください。
* status=progress
: 書き込みの進捗状況を表示します。
* oflag=sync
: 書き込みキャッシュをすべて物理的にデバイスに書き込ませ、安全に完了させます。
完了するまで数分かかります。プロンプトが返ってきたら、ブータブルUSBの完成です。
2. Rufus (Windows)
Windowsユーザーにとって最もポピュラーで高機能なツールです。
- Rufus公式サイトからポータブル版またはインストール版をダウンロードして起動します。
- デバイス: 作成先のUSBメモリが自動で選択されていることを確認します。
- ブートの種類: 「選択」ボタンを押し、ダウンロードしたArch LinuxのISOファイルを選びます。
- パーティション構成: 通常は「GPT」で問題ありません。
- ターゲットシステム: 通常は「UEFI (CSM無効)」で問題ありません。
- 他の設定は基本的にデフォルトのままでOKです。
- 「スタート」ボタンを押すと、確認のダイアログが表示されます。「DDイメージモードで書き込む」を選択して「OK」をクリックし、書き込みを開始します。
3. balenaEtcher (クロスプラットフォーム)
シンプルなUIで直感的に操作できるため、初心者におすすめです。Windows, macOS, Linuxで利用できます。
- balenaEtcher公式サイトからダウンロードしてインストール、起動します。
- Flash from file: ダウンロードしたArch LinuxのISOファイルを選択します。
- Select target: 書き込み先のUSBメモリを選択します。
- Flash!: ボタンをクリックして書き込みを開始します。
4. Ventoy (上級者向け・便利ツール)
Ventoyは少し特殊なツールです。USBメモリにVentoyを一度インストールすると、その後はISOファイルをUSBメモリにただコピー&ペーストするだけで、そのUSBから複数のOSを起動できるようになります。Arch Linuxだけでなく、UbuntuやWindowsのISOも一緒に入れておき、起動時に選ぶ、といった使い方が可能です。
仮想マシンでの利用
物理的なマシンにインストールする前にお試しで使ってみたい場合は、仮想マシンが便利です。
- VirtualBox, VMware Workstation Player, QEMU/KVM などの仮想化ソフトウェアを使用します。
- 新しい仮想マシンを作成する際に、ストレージ設定のCD/DVDドライブに、ダウンロードしたArch LinuxのISOファイルを指定(マウント)します。
- 仮想マシンを起動すると、ISOファイルから直接ブートし、ライブ環境が立ち上がります。
まとめ:あなたに最適なダウンロード方法とは?
この記事では、Arch LinuxのISOイメージをダウンロードするための様々な方法を、その技術的な背景や安全性確保の観点から詳細に解説してきました。最後に、あなたの目的やスキルレベルに応じたおすすめのダウンロード方法をまとめます。
-
Arch Linuxが初めての方、シンプルな方法を求める方へ:
- 公式ウェブサイト (
archlinux.org
) からの直接ダウンロードが最適です。多少時間はかかっても、最も信頼性が高く、手順も簡単です。この機会に、GPGによる署名検証の手順をしっかりとマスターしましょう。このスキルは今後のLinuxライフで必ず役立ちます。
- 公式ウェブサイト (
-
ダウンロード速度を最優先したい方へ:
- ミラーサイトを利用しましょう。Mirror Statusページを使いこなし、
Score
が低く、地理的に近いミラー(日本のユーザーならJapan
のミラー)を選んでください。ダウンロード速度が劇的に向上するはずです。ただし、どのミラーを使っても、署名検証は絶対に省略しないでください。
- ミラーサイトを利用しましょう。Mirror Statusページを使いこなし、
-
最新版をいち早く試したい方、コミュニティに貢献したい方へ:
- Torrentでのダウンロードが強力な選択肢です。特に毎月1日のリリース直後は、アクセス集中を避けつつ、他のユーザーと協力して高速にダウンロードできます。公式サーバーの負荷を軽減する、という点でも意義のある方法です。
Arch Linuxの哲学「The Arch Way」は、ユーザーに選択の自由と自己責任を求めます。それは、このISOイメージのダウンロードという最初のステップから始まっています。どの方法を選ぶにせよ、その意味を理解し、安全性を自らの手で確認すること。このプロセス自体が、Arch Linuxの素晴らしい世界への第一歩です。
正しい知識を身につけ、安全なインストールメディアを手に入れて、あなただけの最高のLinux環境を構築する旅を始めましょう。
FAQ(よくある質問)
Q1: どのミラーサイトが一番良いですか?
A1: 「一番」はあなたの環境(地理的な場所やネットワーク環境)によって異なります。一般的には、Mirror Statusページ (archlinux.org/mirrors/status/
) でScoreが低く、あなたの国または近隣国のミラーが最適です。日本のユーザーであれば、JAIST (北陸先端科学技術大学院大学) や、理化学研究所 (RIKEN) などが、長年の実績があり、高速で安定していることで知られています。
Q2: ダウンロードしたISOファイルでPCが起動しません。
A2: いくつかの原因が考えられます。
1. ブータブルUSBの作成失敗: 作成プロセス中にエラーが出ていませんでしたか?別のツール(例: RufusがダメならEtcher)を試してみる、別のUSBメモリを使ってみる、などで解決することがあります。
2. BIOS/UEFI設定: PCの起動設定で、USBデバイスからの起動が有効になっていない、または起動優先順位が低くなっている可能性があります。PC起動時にF2, F12, Delキーなどを押してBIOS/UEFI設定画面に入り、「Boot」メニューからUSBデバイスを最優先に設定してください。また、「Secure Boot」が有効になっていると起動できないことがあるため、一時的に無効にする必要があるかもしれません。
3. ISOファイルの破損: ダウンロード中にファイルが破損した可能性があります。GPG署名検証を行いましたか?検証に失敗する場合は、再度ダウンロードからやり直してください。
Q3: 32bit版 (i686) のArch Linuxはどこにありますか?
A3: Arch Linuxプロジェクトは、2017年11月に32bit (i686)アーキテクチャの公式サポートを終了しました。そのため、公式サイト (archlinux.org
) からはダウンロードできません。しかし、コミュニティ有志によるフォークプロジェクトとして Arch Linux 32 が存在し、現在も32bit環境向けのサポートを継続しています。必要な場合は、以下のサイトからダウンロードできます。
Q4: GPG署名検証で「Good signature」と出ましたが、「この鍵は信用できる署名で証明されていません」という警告も表示されます。これは問題ですか?
A4: いいえ、ファイル自体の安全性においては問題ありません。Good signature
は「このファイルは、この鍵(の持ち主)によって署名された時点から、改ざんも破損もされていない」ことを数学的に証明しています。一方、警告は「あなた自身が、その鍵の持ち主が本当に本人であるとGPGに教えていない(=信頼レベルを設定していない)」ことを示しています。個人で利用する範囲であれば、Good signature
が確認できていれば、安心してISOファイルを使用して大丈夫です。
Q5: Arch Linuxをインストールした後で、パッケージダウンロードに使うミラーサイトを変更・最適化するにはどうすればいいですか?
A5: 素晴らしい質問です。インストール後のシステムでは、pacman
(パッケージマネージャ)が使うミラーサイトのリストが /etc/pacman.d/mirrorlist
ファイルに記述されています。このリストを最適化するための非常に便利な公式スクリプトが Reflector です。
- まずReflectorをインストールします:
sudo pacman -S reflector
- 以下のようなコマンドで、日本国内の最新で最速のミラー5つを選び、
mirrorlist
ファイルを自動で上書きできます。
bash
sudo reflector --country Japan --age 12 --protocol https --sort rate --save /etc/pacman.d/mirrorlist--country Japan
: 国を日本に限定。--age 12
: 最終同期から12時間以内のミラーに限定。--protocol https
: HTTPSをサポートするミラーに限定。--sort rate
: ダウンロード速度で並べ替え。--save ...
: 結果を指定のファイルに保存。
- 実行後、
sudo pacman -Syyu
でデータベースを強制的に更新すれば、次からのパッケージダウンロードが高速になります。定期的にReflectorを実行すると、常に快適な環境を維持できます。