√iを完全に理解する!虚数の平方根の計算方法の詳細な説明
はじめに:虚数との再会
数学の世界は、しばしば私たちの直感を裏切るような、しかし驚くほど美しい概念で満ち溢れています。その中でも、「虚数」は、多くの人々にとって最初はとっつきにくい、しかし一度その本質を理解すれば、物理学、工学、さらには芸術の世界にまで広がる応用を持つ、非常に強力なツールとなるでしょう。
私たちは小学校で自然数を学び、中学校で負の数や分数(有理数)を、そして高校で無理数(√2など)を含む実数全体へと数の概念を拡張してきました。しかし、ある種の二次方程式、例えば $x^2 + 1 = 0$ を解こうとすると、実数の範囲では解が存在しないことに気づきます。なぜなら、$x^2 = -1$ となるような実数は存在しないからです。この壁を乗り越えるために導入されたのが、「虚数」の概念でした。
虚数単位 $i$ は、$i^2 = -1$ となる数として定義されます。この定義は、私たちのそれまでの数の概念を根底から揺るがすものでした。一体、「二乗してマイナスになる数」とは何なのでしょうか?当初は「想像上の数 (imaginary number)」と呼ばれ、その実在性について多くの議論が交わされました。しかし、虚数と実数を組み合わせた「複素数」($z = x + yi$ の形式で表される数、ここで $x, y$ は実数)は、単なる数学的な抽象概念にとどまらず、電気工学における交流回路の解析、量子力学における波動関数の記述、信号処理におけるフーリエ変換など、現代科学技術のあらゆる分野で不可欠な存在となっています。
さて、虚数の基本的な概念を理解したとして、次に我々の好奇心を刺激するのは、「√i」という表現です。これは一体どのような数なのでしょうか?二乗して $i$ になる数、という定義から想像できるでしょうか?実数の平方根である √2 や √3 は、それぞれ1.414… や 1.732… といった具体的な数値で近似できますが、√i はどのような姿をしているのでしょうか?
この記事では、この「√i」という数について、その計算方法から、それが持つ数学的な意味、そしてより一般の複素数の平方根やn乗根へと話を広げ、最終的には複素数が現代科学においていかに重要な役割を果たすかについて、約5000語の詳細な解説を通じて「完全に理解する」ことを目指します。複数のアプローチを用いて計算を行い、それぞれの方法が持つ利点と、複素平面上での幾何学的な解釈を深く掘り下げていきます。
さあ、虚数の深淵へ、そして√iという神秘的な数の正体を探る旅に出かけましょう。
虚数の基礎を固める:複素数と複素平面
√i の計算に入る前に、まずは虚数単位 $i$ を含む「複素数」の基礎をしっかりと固めておきましょう。これは、√i の本質を理解するための不可欠なステップです。
2.1 複素数とは何か?
複素数 $z$ は、実部と虚部という二つの実数を用いて、$z = x + yi$ の形で表されます。ここで、$x$ は実部(Real part, Re(z))、$y$ は虚部(Imaginary part, Im(z))と呼ばれ、$i$ は虚数単位($i^2 = -1$)です。
例:
* $3 + 4i$ は複素数です。実部は3、虚部は4です。
* $-2i$ は複素数です($0 – 2i$ と考えられます)。実部は0、虚部は-2です。このような複素数を「純虚数」と呼びます。
* $5$ は複素数です($5 + 0i$ と考えられます)。実部は5、虚部は0です。実数は、虚部が0の複素数と考えることができます。
このように、複素数は実数の概念を拡張したものであり、実数全体を内包しています。
2.1.1 複素数の演算
複素数の加減乗除は、基本的な代数法則に従って行われますが、$i^2 = -1$ という性質を常に念頭に置く必要があります。
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加法・減法: 実部同士、虚部同士をそれぞれ計算します。
$(a + bi) \pm (c + di) = (a \pm c) + (b \pm d)i$ -
乗法: 実数と同様に分配法則を用い、$i^2 = -1$ を適用します。
$(a + bi)(c + di) = ac + adi + bci + bdi^2$
$= ac + (ad + bc)i – bd$
$= (ac – bd) + (ad + bc)i$例: $(2 + 3i)(1 – i) = 2(1) + 2(-i) + 3i(1) + 3i(-i)$
$= 2 – 2i + 3i – 3i^2$
$= 2 + i – 3(-1)$
$= 2 + i + 3 = 5 + i$ -
除法: 分母が実数になるように、分母の共役複素数を分子と分母に掛けます。共役複素数については後述します。
2.2 複素平面(ガウス平面)
複素数の概念を視覚的に理解するために導入されたのが「複素平面」(またはガウス平面)です。これは、実軸を横軸($x$軸)に、虚軸を縦軸($y$軸)にとった二次元の座標平面です。複素数 $z = x + yi$ は、この平面上の点 $(x, y)$ に対応します。
複素平面の利点:
* 複素数を点やベクトルとして捉えることで、幾何学的な解釈が可能になります。
* 複素数の加法はベクトルの合成として、乗法は回転と拡大・縮小として視覚化できます。
2.2.1 共役複素数と絶対値
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共役複素数: 複素数 $z = x + yi$ に対し、その共役複素数 $\bar{z}$ は、虚部の符号を変えたものとして定義されます。
$\bar{z} = x – yi$
複素平面上では、共役複素数は実軸に関して対称な位置にあります。
重要な性質: $z \bar{z} = (x + yi)(x – yi) = x^2 – (yi)^2 = x^2 – y^2 i^2 = x^2 + y^2$ となり、常に非負の実数になります。この性質は、除法や絶対値の計算で非常に役立ちます。例:除法
$\frac{2 + 3i}{1 + i} = \frac{(2 + 3i)(1 – i)}{(1 + i)(1 – i)} = \frac{2 – 2i + 3i – 3i^2}{1^2 – i^2} = \frac{2 + i + 3}{1 – (-1)} = \frac{5 + i}{2} = \frac{5}{2} + \frac{1}{2}i$ -
絶対値: 複素数 $z = x + yi$ の絶対値 $|z|$ は、複素平面上の原点から点 $z$ までの距離として定義されます。
$|z| = \sqrt{x^2 + y^2}$
これはピタゴラスの定理から導かれ、先述の $z \bar{z} = x^2 + y^2$ を用いると $|z| = \sqrt{z \bar{z}}$ とも書けます。
例: $|3 + 4i| = \sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5$
2.3 複素数の極形式(オイラー形式)
複素数 $z = x + yi$ をデカルト座標 $(x, y)$ で表す「直交形式」(またはデカルト形式)は、加減法には便利ですが、乗法、特に冪乗や根の計算においては非常に複雑になります。ここで、「極形式」という別の表現方法が真価を発揮します。
複素平面上の点 $(x, y)$ は、原点からの距離 $r$ と、実軸の正の方向から点 $z$ へ向かうベクトルがなす角 $\theta$(偏角、argument)によっても一意に表すことができます。
- 距離 $r$ (絶対値): $r = |z| = \sqrt{x^2 + y^2}$
- 偏角 $\theta$ (argument): $\cos\theta = \frac{x}{r}$, $\sin\theta = \frac{y}{r}$
この関係から、$x = r\cos\theta$、$y = r\sin\theta$ となります。
これらを $z = x + yi$ に代入すると、
$z = r\cos\theta + i(r\sin\theta) = r(\cos\theta + i\sin\theta)$
これが複素数の「極形式」です。
2.3.1 オイラーの公式と指数形式
さらに強力な表現として、「オイラーの公式」があります。これは数学において最も美しい公式の一つと称されることもあります。
$e^{i\theta} = \cos\theta + i\sin\theta$
この公式を用いると、極形式は非常に簡潔な「指数形式」で表せます。
$z = re^{i\theta}$
ここで $e$ は自然対数の底(約2.71828)です。この指数形式は、複素数の乗除、冪乗、そして根の計算を驚くほど簡単にしてくれます。
2.3.2 極形式での乗除、冪乗(ド・モアブルの定理)
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乗法: $z_1 = r_1 e^{i\theta_1}$, $z_2 = r_2 e^{i\theta_2}$ とすると、
$z_1 z_2 = (r_1 e^{i\theta_1})(r_2 e^{i\theta_2}) = r_1 r_2 e^{i(\theta_1 + \theta_2)}$
これは、「絶対値は掛け算され、偏角は足し算される」ことを意味します。複素平面上では、回転と拡大に対応します。 -
除法:
$\frac{z_1}{z_2} = \frac{r_1 e^{i\theta_1}}{r_2 e^{i\theta_2}} = \frac{r_1}{r_2} e^{i(\theta_1 – \theta_2)}$
これは、「絶対値は割り算され、偏角は引き算される」ことを意味します。 -
冪乗 (ド・モアブルの定理): $z = r e^{i\theta}$ の $n$ 乗は、
$z^n = (r e^{i\theta})^n = r^n e^{in\theta} = r^n (\cos(n\theta) + i\sin(n\theta))$
これは、「絶対値は $n$ 乗され、偏角は $n$ 倍される」ことを意味します。
特に $r=1$ の場合、$e^{i\theta}$ の $n$ 乗は $e^{in\theta}$ となり、単位円上の点を $n$ 倍の角度に回転させることを意味します。
このド・モアブルの定理は、√i のような複素数の根を求める際に非常に強力なツールとなります。なぜなら、√i は $z^2 = i$ を満たす $z$ を求めることであり、これはド・モアブルの定理の逆演算に相当するからです。
いよいよ√iの計算へ:複数のアプローチ
それでは、いよいよ本題の√iの計算に入ります。ここでは、いくつかの異なるアプローチを用いて、その解を導き出します。それぞれの方法が持つ特徴と利点を比較しながら理解を深めましょう。
3.1 アプローチ1:代数的な方法(最も一般的)
この方法は、√i を未知の複素数 $x + yi$ と置いて、方程式を解くという、最も直感的なアプローチです。
√i を $x + yi$(ここで $x, y$ は実数)と仮定します。
つまり、$x + yi = \sqrt{i}$
この両辺を二乗すると、
$(x + yi)^2 = i$
左辺を展開します。
$x^2 + 2xyi + (yi)^2 = i$
$x^2 + 2xyi + y^2i^2 = i$
$x^2 + 2xyi – y^2 = i$
実部と虚部を整理すると、
$(x^2 – y^2) + (2xy)i = 0 + 1i$
ここで、複素数の相等条件(二つの複素数が等しいのは、実部同士、虚部同士がそれぞれ等しい場合のみ)を適用します。
- 実部の比較: $x^2 – y^2 = 0$
- 虚部の比較: $2xy = 1$
これで、$x$ と $y$ に関する連立方程式が得られました。
方程式 (1) から、$x^2 = y^2$ となります。これは $y = x$ または $y = -x$ を意味します。
ケース1: $y = x$ の場合
方程式 (2) に $y = x$ を代入します。
$2x(x) = 1$
$2x^2 = 1$
$x^2 = \frac{1}{2}$
$x = \pm \sqrt{\frac{1}{2}} = \pm \frac{1}{\sqrt{2}} = \pm \frac{\sqrt{2}}{2}$
もし $x = \frac{\sqrt{2}}{2}$ ならば、$y = \frac{\sqrt{2}}{2}$ です。
この場合、解の一つは $z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ となります。
もし $x = -\frac{\sqrt{2}}{2}$ ならば、$y = -\frac{\sqrt{2}}{2}$ です。
この場合、解の一つは $z_2 = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$ となります。
ケース2: $y = -x$ の場合
方程式 (2) に $y = -x$ を代入します。
$2x(-x) = 1$
$-2x^2 = 1$
$x^2 = -\frac{1}{2}$
ここで、$x$ は実数であると仮定していますので、$x^2$ が負になることはありません。したがって、このケースからは実数解 $x$ は得られません。つまり、$y = -x$ の場合は解が存在しないことを示します。
結論:
代数的な方法により、√i の値は2つ存在することが分かりました。
$z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$z_2 = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$
これらは互いに符号が反対の関係にあります ($z_2 = -z_1$)。実数の平方根と同様に、複素数の平方根も2つの解を持ちます。
検証:
$z_1^2 = \left(\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i\right)^2$
$= \left(\frac{\sqrt{2}}{2}\right)^2 + 2\left(\frac{\sqrt{2}}{2}\right)\left(\frac{\sqrt{2}}{2}i\right) + \left(\frac{\sqrt{2}}{2}i\right)^2$
$= \frac{2}{4} + 2\left(\frac{2}{4}\right)i + \frac{2}{4}i^2$
$= \frac{1}{2} + i + \frac{1}{2}(-1)$
$= \frac{1}{2} + i – \frac{1}{2} = i$
正しく $i$ になりました。同様に $z_2^2 = (-z_1)^2 = z_1^2 = i$ となることも確認できます。
3.2 アプローチ2:極形式(オイラー形式)による方法(最も強力)
この方法は、複素数の極形式が持つ強力な性質(特にド・モアブルの定理)を最大限に活用します。このアプローチは、より一般の複素数の平方根やn乗根を求める際に非常に有効です。
まず、$i$ を極形式で表します。
複素平面上で $i$ は、実軸の0、虚軸の1の位置(点 $(0, 1)$)にあります。
* 絶対値 $r = |i| = \sqrt{0^2 + 1^2} = 1$
* 偏角 $\theta$: 実軸の正の方向から $i$ までの角度は $\frac{\pi}{2}$ ラジアン(90度)です。
したがって、$i = 1 \cdot (\cos(\frac{\pi}{2}) + i\sin(\frac{\pi}{2})) = e^{i\frac{\pi}{2}}$ となります。
ここで重要なのは、偏角には $2\pi$ の周期性があることです。つまり、$\frac{\pi}{2}$ の角度と $\frac{\pi}{2} + 2\pi$ の角度、$\frac{\pi}{2} + 4\pi$ の角度などは、複素平面上では同じ点を指します。
したがって、$i = e^{i(\frac{\pi}{2} + 2k\pi)}$ と一般化できます($k$ は任意の整数)。
次に、√i を求めるということは、$z^2 = i$ となるような複素数 $z$ を求めることです。
$z$ を極形式で $z = \rho e^{i\phi}$ と置きます(ここで $\rho$ は絶対値、$\phi$ は偏角)。
ド・モアブルの定理を適用すると、
$z^2 = (\rho e^{i\phi})^2 = \rho^2 e^{i2\phi}$
したがって、
$\rho^2 e^{i2\phi} = e^{i(\frac{\pi}{2} + 2k\pi)}$
両辺の絶対値と偏角を比較します。
1. 絶対値の比較: $\rho^2 = 1$
$\rho$ は距離なので正の実数です。したがって $\rho = 1$。
- 偏角の比較: $2\phi = \frac{\pi}{2} + 2k\pi$
$\phi = \frac{1}{2}\left(\frac{\pi}{2} + 2k\pi\right) = \frac{\pi}{4} + k\pi$
ここで、$k$ に異なる整数値を代入してみます。
-
$k = 0$ の場合:
$\phi_0 = \frac{\pi}{4}$
$z_1 = 1 \cdot e^{i\frac{\pi}{4}} = \cos(\frac{\pi}{4}) + i\sin(\frac{\pi}{4})$
$= \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ -
$k = 1$ の場合:
$\phi_1 = \frac{\pi}{4} + \pi = \frac{5\pi}{4}$
$z_2 = 1 \cdot e^{i\frac{5\pi}{4}} = \cos(\frac{5\pi}{4}) + i\sin(\frac{5\pi}{4})$
$= -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$ -
$k = 2$ の場合:
$\phi_2 = \frac{\pi}{4} + 2\pi = \frac{9\pi}{4}$
この偏角は $\frac{\pi}{4}$ と同じ位置($2\pi$ だけ異なる)を指します。
$z_3 = 1 \cdot e^{i\frac{9\pi}{4}} = \cos(\frac{9\pi}{4}) + i\sin(\frac{9\pi}{4}) = \cos(\frac{\pi}{4}) + i\sin(\frac{\pi}{4}) = z_1$
これ以降の $k$ の値では、解が繰り返し現れることがわかります($k=3$ では $z_2$ と同じ)。
結論:
極形式による方法でも、同じ2つの解が得られました。
$z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$z_2 = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$
この方法は、なぜ2つの解が存在するのかを、偏角の周期性から明確に説明できる点が優れています。また、後のセクションで見るように、一般の複素数のn乗根を求める際にも非常に強力です。
3.3 アプローチ3:幾何学的な解釈(視覚的理解)
複素平面を用いると、√i の計算結果を直感的に理解することができます。
-
$i$ の位置: 複素平面上で $i$ は、実軸から時計回りに90度($\frac{\pi}{2}$ ラジアン)の位置、原点からの距離が1の点にあります。
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平方根の幾何学的意味:
複素数の乗算 $z_1 z_2$ は、「絶対値の積」と「偏角の和」として解釈されました。
$|z_1 z_2| = |z_1| |z_2|$
$\arg(z_1 z_2) = \arg(z_1) + \arg(z_2)$平方根 $z = \sqrt{w}$ は、$z^2 = w$ を満たす $z$ です。
したがって、 $|z^2| = |w|$ と $\arg(z^2) = \arg(w)$ が成り立ちます。
先の乗算のルールを逆に適用すると、
$|z|^2 = |w| \implies |z| = \sqrt{|w|}$
$2\arg(z) = \arg(w) \implies \arg(z) = \frac{1}{2}\arg(w)$つまり、複素数の平方根は、
* 絶対値は元の数の絶対値の平方根を取る。
* 偏角は元の数の偏角を半分にする。 -
√i の解釈:
- $i$ の絶対値は1です。したがって、√i の絶対値は $\sqrt{1} = 1$ です。
- $i$ の偏角は $\frac{\pi}{2}$ です。したがって、√i の偏角の一つは $\frac{1}{2} \cdot \frac{\pi}{2} = \frac{\pi}{4}$ です。
この解は、絶対値1、偏角 $\frac{\pi}{4}$ の点、すなわち $\cos(\frac{\pi}{4}) + i\sin(\frac{\pi}{4}) = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ となります。
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もう一つの解の出現:
ここで、偏角の周期性 $2\pi$ を思い出します。$i$ の偏角は $\frac{\pi}{2}$ とも言えますし、$\frac{\pi}{2} + 2\pi = \frac{5\pi}{2}$ とも言えますし、$\frac{\pi}{2} + 4\pi = \frac{9\pi}{2}$ とも言えます。
もし $i$ の偏角を $\frac{5\pi}{2}$ と考えると、その半分は $\frac{1}{2} \cdot \frac{5\pi}{2} = \frac{5\pi}{4}$ となります。
この解は、絶対値1、偏角 $\frac{5\pi}{4}$ の点、すなわち $\cos(\frac{5\pi}{4}) + i\sin(\frac{5\pi}{4}) = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$ となります。$i$ の偏角を $\frac{9\pi}{2}$ と考えると、その半分は $\frac{1}{2} \cdot \frac{9\pi}{2} = \frac{9\pi}{4}$ となります。
これは $\frac{9\pi}{4} = \frac{\pi}{4} + 2\pi$ なので、最初の解と同じ位置を指します。
このように、複素数の平方根は、元の数を中心とする円上に、互いに180度(πラジアン)離れた2つの点として存在します。これは、実数の平方根が正と負の2つの値を持つことと幾何学的に対応しています。
3.4 アプローチ4:オイラーの公式を直接利用
これはアプローチ2の簡略版とも言えますが、オイラーの公式の強力さを強調するものです。
我々は $i = e^{i\frac{\pi}{2}}$ と表せることを知っています。
したがって、√i は $(e^{i\frac{\pi}{2}})^{1/2}$ と書けます。
指数法則 $ (a^b)^c = a^{bc} $ を用いると、
$(e^{i\frac{\pi}{2}})^{1/2} = e^{i(\frac{\pi}{2} \cdot \frac{1}{2})} = e^{i\frac{\pi}{4}}$
しかし、ここでも偏角の周期性を考慮する必要があります。
$i = e^{i(\frac{\pi}{2} + 2k\pi)}$ であるため、
$\sqrt{i} = \left(e^{i(\frac{\pi}{2} + 2k\pi)}\right)^{1/2} = e^{i(\frac{1}{2}(\frac{\pi}{2} + 2k\pi))} = e^{i(\frac{\pi}{4} + k\pi)}$
- $k=0$ のとき: $e^{i\frac{\pi}{4}} = \cos(\frac{\pi}{4}) + i\sin(\frac{\pi}{4}) = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
- $k=1$ のとき: $e^{i(\frac{\pi}{4} + \pi)} = e^{i\frac{5\pi}{4}} = \cos(\frac{5\pi}{4}) + i\sin(\frac{5\pi}{4}) = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$
このアプローチは、オイラーの公式を熟知していれば最も迅速に解を導き出せる方法です。
√iの性質と意味合い
我々は様々な方法で√iを計算し、2つの解を得ました。
$z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$
$z_2 = -\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$
これらは互いに符号が反対、つまり $z_2 = -z_1$ の関係にあります。これは実数の平方根(例: $\sqrt{4} = \pm 2$)と同様の性質です。
4.1 2つの解が存在することの重要性
なぜ2つの解が存在するのかは、数学的に非常に重要です。
まず、方程式 $x^n = a$ の解は、複素数の範囲では常に $n$ 個存在するという代数学の基本定理(ガウスの定理)の系として理解できます。平方根は $n=2$ の場合ですから、2つの解が存在するのです。
幾何学的には、これは複素平面上の回転と拡大・縮小という操作に深く関連しています。√i の2つの解は、原点を中心とする単位円上に、互いに180度(πラジアン)離れて対称に位置しています。これは、ある複素数を2回掛け合わせると元の偏角の2倍になるため、偏角を半分にする際に、$2\pi$ の周期性を考慮すると必ず2つの異なる偏角($0 \le \theta < 2\pi$ の範囲で)が得られるためです。
4.2 「主値」の概念と数学における慣習
実数の平方根では、$\sqrt{x}$ と書いた場合、$x \ge 0$ であれば通常、非負の値を指すという慣習があります(例: $\sqrt{4}=2$, $\sqrt{4} \ne -2$)。これを「主値」と呼びます。
しかし、複素数の平方根の場合、どちらを「主値」とするかには、いくつかの流儀があります。最も一般的な慣習は、偏角が $(-\pi, \pi]$ の範囲に収まる方を主値とすることです。
この慣習に従うと、$i$ の偏角は $\frac{\pi}{2}$ であり、その半分は $\frac{\pi}{4}$ です。これは $(-\pi, \pi]$ の範囲に収まるため、$z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ が √i の主値とされることが多いです。
ただし、この「主値」の概念は、関数としての平方根を定義する際に必要となるものであり、方程式 $z^2 = i$ の解としては、両方の値が同等に正しいことを理解しておくことが重要です。文脈によって使い分けが必要になることがあります。特に、多価関数としての複素関数の概念は、複素解析の重要なテーマの一つです。
4.3 √iは実数か?虚数か?
√i の解は $z_1 = \frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ です。
この数には、実部 $\frac{\sqrt{2}}{2}$ と虚部 $\frac{\sqrt{2}}{2}i$ の両方が存在します。
したがって、√i は「純粋な実数」ではありませんし、「純粋な虚数(純虚数)」でもありません。
√i は複素数です。実部も虚部も0でない複素数です。
この点は、初心者がよく混同するポイントです。虚数単位 $i$ を含むからといって、その平方根が純虚数になるわけではないのです。
4.4 $\sqrt{AB} = \sqrt{A}\sqrt{B}$ のルールと複素数
実数の世界では、$A \ge 0, B \ge 0$ の場合、$ \sqrt{AB} = \sqrt{A}\sqrt{B} $ という非常に便利な法則が成り立ちます。
しかし、複素数の世界では、この法則を安易に適用すると間違いを犯す可能性があります。
例: $ \sqrt{(-1)(-1)} $ を考えてみましょう。
左辺は $ \sqrt{1} = 1 $ です。
もし安易に $ \sqrt{-1}\sqrt{-1} $ とすると、 $i \cdot i = i^2 = -1 $ となり、 $1 \ne -1$ なので法則が破綻します。
この例は、複素数の平方根を扱う上で、根号の記号 $\sqrt{}$ の使い方に注意が必要であることを示唆しています。特に、負の数や一般の複素数に対してこの法則を適用する際には、各々の根号がどちらの解(主値かそうでないか)を指しているのかを明確にするか、あるいは極形式を用いて計算することで、このような混乱を避けることができます。
極形式を用いれば、このような曖昧さは生じません。
$ -1 = e^{i\pi} $
$ \sqrt{-1} = (e^{i(\pi+2k\pi)})^{1/2} = e^{i(\frac{\pi}{2}+k\pi)} $
$ k=0 \implies e^{i\frac{\pi}{2}} = i $
$ k=1 \implies e^{i\frac{3\pi}{2}} = -i $
このように、$ \sqrt{-1} $ には $i$ と $-i$ の2つの解があることを明確に示します。
より一般の虚数の平方根とn乗根
√i の計算で得た知識は、より一般の複素数の平方根やn乗根を求める際にも応用できます。
5.1 一般の複素数 $ \sqrt{a + bi} $ の計算方法
任意の複素数 $w = a + bi$ の平方根を求める場合も、代数的な方法と極形式による方法の2つが有力です。
5.1.1 代数的な方法で $ \sqrt{a + bi} $ を求める
$ \sqrt{a + bi} = x + yi $ と置きます。
$(x + yi)^2 = a + bi$
$x^2 – y^2 + 2xyi = a + bi$
実部と虚部を比較すると、連立方程式が得られます。
1. $x^2 – y^2 = a$
2. $2xy = b$
さらに、絶対値の関係も利用できます。
$|(x + yi)^2| = |a + bi|$
$|x + yi|^2 = \sqrt{a^2 + b^2}$
$(x^2 + y^2) = \sqrt{a^2 + b^2}$
これで3つの方程式が得られました。特に (1) と (3) は $x^2$ と $y^2$ に関する連立方程式として解くことができます。
$(x^2 – y^2) + (x^2 + y^2) = a + \sqrt{a^2 + b^2}$
$2x^2 = a + \sqrt{a^2 + b^2}$
$x^2 = \frac{a + \sqrt{a^2 + b^2}}{2} \implies x = \pm \sqrt{\frac{a + \sqrt{a^2 + b^2}}{2}}$
$(x^2 + y^2) – (x^2 – y^2) = \sqrt{a^2 + b^2} – a$
$2y^2 = \sqrt{a^2 + b^2} – a$
$y^2 = \frac{\sqrt{a^2 + b^2} – a}{2} \implies y = \pm \sqrt{\frac{\sqrt{a^2 + b^2} – a}{2}}$
最後に、(2) 式 $2xy = b$ を用いて、$x$ と $y$ の符号の組み合わせを決定します。
* もし $b > 0$ ならば、$x$ と $y$ は同符号($x, y$ が共に正、または共に負)です。
* もし $b < 0$ ならば、$x$ と $y$ は異符号($x$ が正で $y$ が負、または $x$ が負で $y$ が正)です。
* もし $b = 0$ ならば、元の数が実数なので、通常の平方根です。
例: $ \sqrt{3 + 4i} $ を求める。
$a = 3, b = 4$
$\sqrt{a^2 + b^2} = \sqrt{3^2 + 4^2} = \sqrt{9 + 16} = \sqrt{25} = 5$
$x = \pm \sqrt{\frac{3 + 5}{2}} = \pm \sqrt{\frac{8}{2}} = \pm \sqrt{4} = \pm 2$
$y = \pm \sqrt{\frac{5 – 3}{2}} = \pm \sqrt{\frac{2}{2}} = \pm \sqrt{1} = \pm 1$
$b=4$ (正) なので、$x$ と $y$ は同符号です。
したがって、解は $2 + i$ と $-2 – i$ の2つです。
検証: $(2+i)^2 = 4 + 4i + i^2 = 4 + 4i – 1 = 3 + 4i$
この代数的な方法は、√i の計算でも非常に有効でしたが、一般の複素数に対しては、やや計算が煩雑になる傾向があります。
5.1.2 極形式による方法で $ \sqrt{a + bi} $ を求める
この方法は、特に一般の複素数に対して強力な威力を発揮します。
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$w = a + bi$ を極形式 $w = r e^{i\theta}$ に変換します。
$r = \sqrt{a^2 + b^2}$
$\theta = \operatorname{atan2}(b, a)$ (ここで $\operatorname{atan2}$ は、偏角を適切に決定する関数) -
$w = r e^{i(\theta + 2k\pi)}$ と表します。
-
平方根 $z = \sqrt{w}$ を求めます。
$z = (r e^{i(\theta + 2k\pi)})^{1/2} = \sqrt{r} e^{i(\frac{\theta}{2} + k\pi)}$ -
$k=0, 1$ を代入して2つの解を求め、必要であれば直交形式に変換します。
例: $ \sqrt{3 + 4i} $ を求める。
1. $r = \sqrt{3^2 + 4^2} = 5$
$\theta = \operatorname{atan2}(4, 3) \approx 0.927$ ラジアン(約 53.13度)
-
解の絶対値は $\sqrt{r} = \sqrt{5}$ です。
-
解の偏角は $\frac{\theta}{2} + k\pi$ です。
- $k=0$: $\phi_0 = \frac{\theta}{2} \approx 0.4635$ ラジアン
- $k=1$: $\phi_1 = \frac{\theta}{2} + \pi \approx 0.4635 + 3.14159 = 3.60509$ ラジアン
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直交形式に変換します。
$z_1 = \sqrt{5}(\cos(\frac{\theta}{2}) + i\sin(\frac{\theta}{2}))$
$z_2 = \sqrt{5}(\cos(\frac{\theta}{2} + \pi) + i\sin(\frac{\theta}{2} + \pi)) = \sqrt{5}(-\cos(\frac{\theta}{2}) – i\sin(\frac{\theta}{2})) = -z_1$
ここで、半角の公式 $\cos(\frac{\theta}{2}) = \pm\sqrt{\frac{1+\cos\theta}{2}}$, $\sin(\frac{\theta}{2}) = \pm\sqrt{\frac{1-\cos\theta}{2}}$ を用います。
$\cos\theta = \frac{x}{r} = \frac{3}{5}$
$\sin\theta = \frac{y}{r} = \frac{4}{5}$
$\cos(\frac{\theta}{2}) = \sqrt{\frac{1 + 3/5}{2}} = \sqrt{\frac{8/5}{2}} = \sqrt{\frac{4}{5}} = \frac{2}{\sqrt{5}}$ ($0 < \theta < \pi/2$ なので、$\theta/2$ も $0 < \theta/2 < \pi/4$ であり、$\cos$ は正)
$\sin(\frac{\theta}{2}) = \sqrt{\frac{1 – 3/5}{2}} = \sqrt{\frac{2/5}{2}} = \sqrt{\frac{1}{5}} = \frac{1}{\sqrt{5}}$ ($\sin$ も正)
$z_1 = \sqrt{5}\left(\frac{2}{\sqrt{5}} + i\frac{1}{\sqrt{5}}\right) = 2 + i$
$z_2 = -(2 + i) = -2 – i$
ご覧の通り、極形式を用いると、計算は若干複雑に見えますが、コンセプトは非常に明確であり、計算の正確性も保たれます。特に、$i$ の平方根のように、直交形式への変換がきれいな値になる場合は非常に強力です。
5.2 複素数のn乗根: $z^n = w$ の解法
√i の計算方法で極形式の強力さを実感したと思いますが、これは任意の複素数 $w$ の $n$ 乗根 $z$ を求める際にも同様に適用できます。
$z^n = w$ となる $z$ を求めたいとします。
1. $w$ を極形式で表します: $w = r e^{i\theta}$
(ここで、偏角は $ \theta + 2k\pi $ と一般化しておきます)
-
$z$ を極形式で表します: $z = \rho e^{i\phi}$
-
$z^n = w$ に代入し、ド・モアブルの定理を使います。
$(\rho e^{i\phi})^n = r e^{i(\theta + 2k\pi)}$
$\rho^n e^{in\phi} = r e^{i(\theta + 2k\pi)}$ -
絶対値と偏角を比較します。
- $\rho^n = r \implies \rho = \sqrt[n]{r}$ (実数のn乗根)
- $n\phi = \theta + 2k\pi \implies \phi = \frac{\theta + 2k\pi}{n}$
-
$k$ に $0, 1, 2, \ldots, n-1$ を代入して、異なる $n$ 個の解を求めます。
これらの $n$ 個の解は、複素平面上で原点を中心とする半径 $\sqrt[n]{r}$ の円上に、正 $n$ 角形の頂点として均等に配置されます。
例: $ \sqrt[3]{1} $ (1の立方根)を求める
1. $w = 1$ を極形式で表す。
$r = |1| = 1$
$\theta = 0$
なので、$1 = 1 \cdot e^{i(0 + 2k\pi)}$
-
$\rho = \sqrt[3]{1} = 1$
-
$\phi = \frac{0 + 2k\pi}{3} = \frac{2k\pi}{3}$
-
$k=0, 1, 2$ を代入します。
- $k=0$: $\phi_0 = 0$
$z_0 = 1 \cdot e^{i0} = \cos(0) + i\sin(0) = 1$ - $k=1$: $\phi_1 = \frac{2\pi}{3}$
$z_1 = 1 \cdot e^{i\frac{2\pi}{3}} = \cos(\frac{2\pi}{3}) + i\sin(\frac{2\pi}{3}) = -\frac{1}{2} + i\frac{\sqrt{3}}{2}$ - $k=2$: $\phi_2 = \frac{4\pi}{3}$
$z_2 = 1 \cdot e^{i\frac{4\pi}{3}} = \cos(\frac{4\pi}{3}) + i\sin(\frac{4\pi}{3}) = -\frac{1}{2} – i\frac{\sqrt{3}}{2}$
- $k=0$: $\phi_0 = 0$
これら3つの解は、複素平面上の単位円上に、正三角形の頂点として配置されます。これは、$z^3 – 1 = 0$ の解である $1, \omega, \omega^2$ と呼ばれる数に他なりません。
√iが拓く数学の世界
√i の計算は、単なる数学パズルのようなものではありません。虚数と複素数の概念がどのように数学の地平を広げ、現実世界の問題解決に貢献しているかを理解する第一歩です。
6.1 応用例:虚数の実用性
虚数、ひいては複素数は、現代科学技術の多くの分野で不可欠な言語となっています。
- 電気工学: 交流回路の解析では、電流、電圧、インピーダンス(抵抗、コイル、コンデンサの複合的な抵抗)などを複素数で表すことで、位相のずれを簡潔に扱うことができます。例えば、コイルのインピーダンスは $j\omega L$(物理学では $i$ の代わりに $j$ を使うことが多い)、コンデンサのインピーダンスは $1/(j\omega C)$ と表され、オームの法則がそのまま複素数の演算として適用できます。
- 量子力学: シュレーディンガー方程式のような、素粒子の挙動を記述する基本的な方程式には、虚数単位 $i$ が不可欠に含まれています。粒子の波動関数は複素数値を取り、その絶対値の二乗が粒子の存在確率を表します。
- 信号処理: 音声、画像、無線信号などの解析に用いられるフーリエ変換やラプラス変換は、複素関数を用いて信号の周波数成分を解析します。これにより、ノイズ除去、データ圧縮、フィルタ設計などが可能になります。
- 流体力学: 流れのポテンシャル関数や複素速度を導入することで、複雑な流体の挙動を複素解析の強力なツールで解析できます。
- 制御工学: システムの安定性解析や応答特性の評価に、複素平面上の極と零点の配置が用いられます。
- 地図学・測地学: 地球上の位置を表すガウス・クリューガー座標系など、地図投影法の一部で複素数が用いられることがあります。
- フラクタル図形: マンデルブロ集合やジュリア集合のような美しいフラクタル図形は、複素平面上での複素関数の反復計算によって生成されます。これらの図形は、自然界の複雑なパターンを記述するのに役立ちます。
これらの分野において、虚数や複素数は単なる計算の道具ではなく、現象の本質を記述し、予測し、制御するための概念的な枠組みを提供しています。√i のような一見抽象的な計算が、これほど広範な応用を持つのは、数学が世界の法則を記述する普遍的な言語である証拠と言えるでしょう。
6.2 複素解析の重要性
√i のような複素数の計算をさらに深く理解するためには、「複素解析」という数学の分野が不可欠です。複素解析は、複素数を変数とする関数(複素関数)の微分、積分、級数展開などを扱う分野で、その理論は実解析(実数を扱う微分積分学)とは異なる、しかし非常に強力な性質を持っています。
例えば、複素関数には「正則性」という特別な性質があり、正則な関数は無限回微分可能であるだけでなく、テイラー級数で表現できたり、積分路に依存せずに積分値を計算できたりと、驚くべき性質を示します。これらの性質は、物理学や工学の問題を解く上で、しばしば実解析では不可能な簡潔な解法を提供します。
よくある疑問と注意点
ここまでで√iの計算と応用について深く掘り下げてきましたが、複素数を学ぶ上で誰もが抱きがちな疑問や注意点についても触れておきましょう。
7.1 √iは実数か?虚数か?(再確認)
前述の通り、√i の解は $\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ と $-\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$ です。これらは実部も虚部も0ではないため、純粋な実数でも、純粋な虚数(純虚数)でもありません。これらは正真正銘の「複素数」です。虚数単位 $i$ の平方根が、再び虚数単位 $i$ の項を持つ複素数となるのは、直感に反するように思えるかもしれませんが、これが複素数の世界の面白さであり、奥深さでもあります。
7.2 $ \sqrt{A}\sqrt{B} = \sqrt{AB} $ の注意点(再確認)
この重要な注意点については、先に $ \sqrt{(-1)(-1)} $ の例で触れました。実数においては非常に強力な法則ですが、負の数や一般の複素数に対しては、無条件に適用してはならないということを再度強調します。
例えば、$ \sqrt{-2} \cdot \sqrt{-3} $ を考えてみましょう。
もし安易に $ \sqrt{(-2)(-3)} = \sqrt{6} $ と計算してしまうと、誤りです。
正しい計算は次のようになります。
$ \sqrt{-2} = \sqrt{2}i $
$ \sqrt{-3} = \sqrt{3}i $
したがって、$ \sqrt{-2} \cdot \sqrt{-3} = (\sqrt{2}i)(\sqrt{3}i) = \sqrt{6}i^2 = \sqrt{6}(-1) = -\sqrt{6} $
結果は $ -\sqrt{6} $ であり、$ \sqrt{6} $ とは異なります。
この混乱を避けるための最も確実な方法は、根号の中が負になる場合は、まず虚数単位 $i$ を外に出し、実数の範囲での計算に変換してから進めることです。例えば、$ \sqrt{-a} = i\sqrt{a} $ ($a>0$) のように。
一般の複素数の平方根を扱う場合は、極形式に変換してド・モアブルの定理を用いるのが最も安全で確実な方法です。
7.3 「主値」の概念と文脈依存性
複素数の平方根や対数といった多価関数を扱う際、「主値」の概念は重要ですが、その定義は数学の分野や文脈によって異なることがあります。例えば、偏角の範囲を $[0, 2\pi)$ とするか、$(-\pi, \pi]$ とするかで、主値とされる解が変わる場合があります。
√i の場合、最も一般的な慣習では偏角が $(-\pi, \pi]$ に収まる $\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ を主値としますが、数学的な方程式の解としては、両方の解が同等に有効である点を忘れてはなりません。特定のソフトウェアやライブラリで複素数の平方根関数を使用する際には、その関数の返す主値の定義を確認することが重要です。
まとめと結論
この記事では、「√i」という、一見すると奇妙な数学的表現を完全に理解することを目指し、その計算方法から、それが拓く広大な数学の世界、そしてその応用分野までを詳細に掘り下げてきました。
私たちは、√i を求めるために以下の複数のアプローチを用いました。
1. 代数的な方法: √i を $x+yi$ と置き、両辺を二乗して実部と虚部を比較することで、連立方程式を解きました。この方法は、直感的で基本的な代数スキルでアソリューションに到達できます。
2. 極形式(オイラー形式)による方法: 複素数 $i$ を極形式 $e^{i\frac{\pi}{2}}$ で表し、偏角の周期性 $2k\pi$ を考慮に入れることで、ド・モアブルの定理を用いて解を導きました。この方法は、複素数の根の計算において最も強力で、より一般のn乗根にも適用可能です。
3. 幾何学的な解釈: 複素平面上で $i$ の位置を確認し、平方根が「絶対値の平方根」と「偏角の半分」として幾何学的に解釈できることを示しました。偏角の周期性が2つの解を生み出すことを視覚的に理解できました。
4. オイラーの公式を直接利用: $i = e^{i\frac{\pi}{2}}$ を直接利用し、指数法則を適用することで、効率的に解を求めました。
これらのアプローチを通じて、√i の2つの解が $\frac{\sqrt{2}}{2} + \frac{\sqrt{2}}{2}i$ と $-\frac{\sqrt{2}}{2} – \frac{\sqrt{2}}{2}i$ であることを繰り返し確認しました。これらの解は、実数でも純虚数でもない、真の「複素数」です。
また、√i の理解は、より一般の複素数の平方根やn乗根の計算へと繋がり、複素数の乗法が複素平面上での回転と拡大に対応するという深い幾何学的意味を再確認しました。そして、複素数の $n$ 個の根が、原点を中心とする円上に正 $n$ 角形の頂点として配置されるという美しい性質を学びました。
虚数は、かつては「想像上の数」と蔑まれた時代もありましたが、その導入は数学の体系を完全にし、方程式の解の存在を保証するだけでなく、電気工学、量子力学、信号処理といった現代科学技術の根幹を支える不可欠なツールとなっています。複素数は、単なる抽象的な概念ではなく、私たちの住む物理世界を記述し、理解し、さらには制御するための強力な言語なのです。
この旅を通じて、√i の計算方法を完全に理解しただけでなく、複素数の持つ奥深さと、それが開く広大な数学と科学の世界の一端を垣間見ることができたことでしょう。数学の美しさと実用性は、このように、一見些細な疑問から始まる探求の中にこそ見出すことができるのです。