PostgreSQL vs MySQL: 違い、性能、将来性をエンジニアが解説


PostgreSQL vs MySQL: 違い、性能、将来性をエンジニアが徹底解説

はじめに

現代のアプリケーション開発において、リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)は、その心臓部とも言える重要なコンポーネントです。データの整合性を保ち、効率的に情報を格納・検索する能力は、サービスの品質を直接左右します。数あるRDBMSの中でも、オープンソースの世界で長年にわたり二大巨頭として君臨し続けているのが「PostgreSQL」と「MySQL」です。

かつては「Web開発ならシンプルで高速なMySQL」「エンタープライズやデータ分析なら高機能で堅牢なPostgreSQL」という単純な棲み分けが語られることもありました。しかし、今日の両者は互いの長所を取り込み、機能的に大きく進化を遂げています。MySQLはバージョン8.0でウィンドウ関数や共通テーブル式(CTE)といった高度なSQL機能をサポートし、PostgreSQLは性能改善を重ねて高速なワークロードにも対応できるようになりました。

この進化により、技術選定の場面では「どちらを選ぶべきか」という嬉しい悩みが増えています。単純な優劣比較ではなく、それぞれのデータベースが持つ根本的な設計思想、アーキテクチャの違い、得意な領域、そして将来の方向性を深く理解することが、プロジェクト成功の鍵となります。

この記事では、現役のエンジニアの視点から、PostgreSQLとMySQLを以下の観点で徹底的に比較・解説します。

  • 歴史と哲学: なぜこれほど異なる特徴を持つに至ったのか。
  • アーキテクチャ: 根本的な構造の違いが性能や挙動にどう影響するのか。
  • 機能: データ型、SQL準拠、インデックス、拡張性など、具体的な機能差。
  • 性能: どのようなワークロードでどちらが有利になるのか。
  • 将来性: クラウド時代における両者の進化とエコシステム。

対象読者として、Web開発者、データベース管理者(DBA)、インフラエンジニア、あるいはこれからデータベース技術を深く学びたい学生やエンジニアを想定しています。本記事が、皆さんの技術選定における羅針盤となり、より良いシステム設計の一助となれば幸いです。

1. 歴史と哲学:二つの巨人の成り立ち

機能や性能の違いを理解する上で、それぞれのデータベースがどのような背景と思想のもとに生まれてきたかを知ることは非常に重要です。

MySQL:速さとシンプルさを追求したWebの立役者

MySQLは、1995年にスウェーデンの企業MySQL ABによって開発が開始されました。その設計思想の根底にあるのは「Fast, Reliable, Easy to Use(高速、高信頼性、使いやすさ)」です。特に初期のMySQLは、Webアプリケーションのバックエンドとして爆発的に普及した「LAMPスタック」(Linux, Apache, MySQL, PHP/Perl/Python)の中核を担い、その名を世界に轟かせました。

当時のWebサイトは、複雑なデータ分析よりも、大量の読み取りリクエストをいかに速く処理するかが重要でした。MySQLは、この要求に応えるため、トランザクションをサポートしない代わりに非常に高速なストレージエンジン「MyISAM」をデフォルトとして採用し、多くの開発者から支持を得ました。この「速度とシンプルさ」を優先する哲学は、今日のMySQLにも色濃く残っています。

MySQLの歴史は、買収の歴史でもあります。2008年にSun Microsystemsに買収され、さらに2010年にはOracleがSunを買収したことで、MySQLはOracleの製品ラインナップに加わりました。この買収はコミュニティに大きな動揺を与え、オリジナルの開発者であるMichael “Monty” Widenius氏が中心となってフォーク(分岐)プロジェクト「MariaDB」を立ち上げるきっかけにもなりました。現在、MySQLはOracleが開発を主導する「MySQL Community Server」(無償)と、高度な機能やサポートを提供する「MySQL Enterprise Edition」(有償)の二本立てで提供されています。

PostgreSQL:学術的背景を持つ、拡張性と標準準拠の旗手

一方、PostgreSQLのルーツはさらに古く、1986年にカリフォルニア大学バークレー校で開始された「POSTGRES」プロジェクトに遡ります。このプロジェクトを率いたのは、データベース界のノーベル賞と称されるチューリング賞を受賞したMichael Stonebraker教授です。その出自からわかるように、PostgreSQLは商用目的ではなく、学術研究の成果として誕生しました。

その設計思想は「拡張性と標準準拠」です。開発当初からオブジェクトリレーショナルデータベースという先進的な概念を掲げ、複雑なデータ構造を扱えるように設計されました。また、SQL標準への準拠を非常に重視しており、その厳格さは他の多くのRDBMSの追随を許しません。PostgreSQLが自らを「The World’s Most Advanced Open Source Relational Database(世界で最も先進的なオープンソースリレーショナルデータベース)」と称するのは、この歴史と哲学に裏打ちされた自信の表れです。

MySQLと異なり、PostgreSQLは特定の企業に所有されたことがなく、今日までグローバルな開発者コミュニティによって開発が続けられています。このオープンで独立した開発体制が、特定の企業の意向に左右されない、安定した進化を支えています。

このように、MySQLはWebの現場で実践的に鍛え上げられてきた「実用主義者」、PostgreSQLは大学の研究室で理論的に練り上げられてきた「理論家」という対照的な出自を持ちます。この違いが、次章で解説するアーキテクチャや機能セットの根本的な差異を生み出しているのです。

2. アーキテクチャの比較:エンジンの鼓動を聴く

データベースの性能や信頼性を決定づける最も重要な要素がアーキテクチャです。PostgreSQLとMySQLは、プロセスの管理方法からデータの格納方法まで、根本的な設計が異なります。

2.1 プロセスモデル vs スレッドモデル

クライアントからの接続をどのように処理するかは、データベースの根幹をなすアーキテクチャです。

  • PostgreSQL:プロセス/セッションモデル
    PostgreSQLは、クライアントからの接続要求があるたびに、OSの新しいプロセス(postgresバックエンドプロセス)をフォーク(生成)します。各接続は独立したプロセスによって処理され、専用のメモリ空間を持ちます。

    • 長所: 一つの接続で問題が発生しても、他のプロセスには影響が及ばないため、非常に安定性が高い。メモリ空間が独立しているため、堅牢なシステムを構築できます。
    • 短所: 接続数が増えるにつれてプロセス数も増加し、メモリ消費量が大きくなる傾向があります。また、プロセスの生成・破棄はスレッドに比べてオーバーヘッドが大きいです。このため、非常に多数の短命な接続を捌くのは苦手とされてきました。ただし、PgBouncerpgpool-IIといった外部の接続プーリングツールを併用することで、この弱点は効果的に克服できます。
  • MySQL:スレッド/セッションモデル
    MySQLは、単一の親プロセス(mysqld)が起動し、クライアントからの接続要求ごとに新しいスレッドを生成して処理します。すべてのスレッドは、親プロセスのメモリ空間を共有します。

    • 長所: スレッドはプロセスに比べて軽量で、生成・破棄のオーバーヘッドが小さいです。メモリも共有するため、少ないリソースで多数の同時接続を効率的に処理できます。これは、Webアプリケーションのように多数のクライアントが同時にアクセスする環境で大きな利点となります。
    • 短所: 全てのスレッドがメモリを共有しているため、一つのスレッドで深刻なメモリエラーなどが発生した場合、サーバープロセス全体がダウンするリスクが(理論的には)存在します。

2.2 ストレージエンジンアーキテクチャ

データの格納、更新、検索を実際に行うコンポーネントがストレージエンジンです。ここにも両者の哲学の違いが明確に表れています。

  • MySQL:プラガブルストレージエンジン
    MySQLの最大の特徴の一つが、このプラガブルストレージエンジンアーキテクチャです。これにより、テーブル単位で異なる特性を持つストレージエンジンを選択できます。

    • InnoDB: 現在のデフォルトであり、最も広く使われているエンジンです。ACID特性(原子性、一貫性、独立性、永続性)を完全にサポートするトランザクショナルなエンジンです。行レベルロック、外部キー制約、クラッシュリカバリ機能などを備え、汎用的な用途において最高の選択肢です。
    • MyISAM: かつてのデフォルトエンジン。トランザクションや外部キーをサポートしませんが、その分構造がシンプルで、読み取り性能、特にテーブル全体のフルスキャンが非常に高速でした。ロックはテーブル全体にかかる(テーブルレベルロック)ため、書き込みが頻繁に発生する環境には不向きです。現在では、その役割の多くをInnoDBが担っています。
    • その他: 高速なインメモリデータベースを実現するMEMORYエンジンや、分散データベースを構築するためのNDB Clusterエンジンなど、特定の用途に特化したエンジンも存在します。
  • PostgreSQL:単一の統合ストレージエンジン
    PostgreSQLは、MySQLのようなプラガブルアーキテクチャを採用していません。代わりに、単一で非常に高機能な統合ストレージエンジンを搭載しています。このエンジンは、開発当初からACID準拠のトランザクションを前提に設計されており、信頼性とデータ整合性を最優先事項としています。テーブルごとにエンジンを選択するという概念はなく、すべてのテーブルが同じ堅牢な基盤の上で動作します。

2.3 MVCC(Multi-Version Concurrency Control)の実装

読み取りと書き込みが同時に発生した際に、互いをブロックせず並行処理を可能にする仕組みがMVCC(多版型同時実行制御)です。PostgreSQLとMySQL (InnoDB) は両方ともMVCCを実装していますが、その実現方法は異なります。

  • PostgreSQL:
    行を更新または削除すると、古いバージョンの行(タプル)を物理的にそのまま残し、新しいバージョンの行を追加します。各トランザクションは、自身の開始時点で見えるべきバージョンの行だけを参照するため、読み取り処理が書き込み処理によってブロックされることはありません。不要になった古いバージョンの行は、VACUUMと呼ばれるバックグラウンドプロセスによって定期的に回収されます。このVACUUMの管理が、PostgreSQL運用の特徴的な点です。

  • MySQL (InnoDB):
    行を更新すると、元のデータはUndoログと呼ばれる特別な領域にコピーされ、テーブル上のデータは新しいものに書き換えられます。他のトランザクションが古いデータを参照する必要がある場合、このUndoログからデータを再構築して提供します。PostgreSQLのような明示的なVACUUMプロセスは不要ですが、Undoログ領域の管理が内部的に行われます。

これらのアーキテクチャの違いは、一長一短です。MySQLのプラガブルストレージエンジンは柔軟性をもたらしますが、PostgreSQLの統合エンジンは一貫性と堅牢性を提供します。この根本的な違いを念頭に置きながら、次の機能比較を見ていきましょう。

3. 機能面の詳細な比較:ツールボックスの中身

データベースの真価は、その機能の豊富さと深さによっても測られます。ここでは、データ型、SQL準拠、インデックス、拡張性といった観点から両者を比較します。

3.1 データ型

  • PostgreSQL:圧倒的な多様性
    PostgreSQLは、サポートするデータ型の豊富さで他を圧倒します。標準的な数値型、文字列型、日付型に加え、以下のようなユニークで強力なデータ型をネイティブでサポートしています。

    • JSON/JSONB: テキストベースのJSONと、インデックスを作成可能で高速に処理できるバイナリ形式のJSONB。JSONBは今日のWeb API開発において絶大な威力を発揮します。
    • 配列 (Array): 任意のデータ型の配列を一つのカラムに格納できます。integer[]text[]のように定義し、配列操作用の関数や演算子も豊富です。
    • 範囲型 (Range Types): int4range(整数の範囲)、tsrange(タイムスタンプの範囲)など、連続した値の範囲を表現できます。予約システムなどで非常に便利です。
    • ネットワークアドレス型: CIDR, INET, MACADDRなど、IPアドレスやMACアドレスを効率的に格納・検索できます。
    • 幾何データ型: point, line, polygon, circleなど、2次元の幾何学オブジェクトを扱うための型。
    • UUID型: 汎用一意識別子をネイティブでサポート。
    • ユーザー定義型: CREATE TYPE構文で、複数の属性をまとめた複合型などを自作できます。
  • MySQL:実用的かつ十分なラインナップ
    MySQLも、バージョンアップを重ねる中でデータ型を拡充してきました。特にバージョン5.7で導入されたJSONデータ型は大きな進歩です。PostgreSQLのJSONBほどの高機能ではありませんが、JSONドキュメントのバリデーションや特定要素への効率的なアクセスが可能です。一般的なWebアプリケーションで必要とされるデータ型(INT, VARCHAR, TEXT, DATETIMEなど)は網羅しており、ほとんどのユースケースで困ることはありません。しかし、PostgreSQLのような配列型や範囲型といった先進的なデータ型はネイティブではサポートしていません。

3.2 SQL標準準拠と高度な機能

  • PostgreSQL:標準準拠の優等生
    PostgreSQLは、SQL標準(例: SQL:2016)への準拠度が非常に高いことで知られています。これにより、SQLの強力な機能を最大限に活用できます。

    • ウィンドウ関数: OVER句を使い、行の集計結果を元の行と一緒に取得できます。ランキング付けや移動平均の計算に不可欠です。
    • 共通テーブル式 (CTE): WITH句を使い、複雑なクエリを分割して可読性を高めます。再帰的なクエリもサポートしており、階層構造データの扱いに威力を発揮します。
    • トランザクション内のDDL: CREATE TABLEALTER TABLEといったデータ定義言語(DDL)をトランザクションブロック(BEGINCOMMIT/ROLLBACK)内で実行できます。これにより、複数のスキーマ変更をアトミックに行い、失敗した場合は全てを元に戻すことが可能です。これは非常に強力な機能で、安全なデータベースマイグレーションを実現します。
    • CHECK制約: カラムの値が特定の条件を満たすことを保証するCHECK制約を厳密にサポートします。
    • マテリアライズドビュー: クエリの結果を物理的にテーブルとして保持するビュー。頻繁にアクセスされるが計算コストの高い集計結果などをキャッシュするのに役立ちます。
  • MySQL:急速なキャッチアップ
    かつてのMySQLは、独自の拡張構文が多く、標準準拠の面ではPostgreSQLに後れを取っていました。しかし、MySQL 8.0の登場により、その差は劇的に縮まりました。

    • ウィンドウ関数とCTE: MySQL 8.0で待望のサポートが追加されました。これにより、PostgreSQLと同様の高度な分析クエリが記述可能になりました。
    • ロール (Roles): 権限管理を効率化するロール機能が追加されました。
    • トランザクション内のDDLは不可: MySQLでは、DDL文は実行されると暗黙的にコミットされます。そのため、PostgreSQLのようにトランザクションで囲んでロールバックすることはできません。
    • CHECK制約: バージョン8.0.16からCHECK制約をサポートしましたが、それ以前のバージョンでは構文は受け入れられるものの機能しませんでした。

3.3 インデックス

インデックスは、クエリ性能を向上させるための最も重要な機能です。

  • PostgreSQL:多彩なインデックスタイプ
    PostgreSQLは、標準的なB-treeインデックスに加え、様々なデータ型や検索パターンに対応する豊富なインデックスタイプを提供します。

    • B-tree: デフォルト。等価比較、範囲比較(<, >, <=, >=)に有効。
    • Hash: 等価比較(=)にのみ有効。B-treeより高速な場合があるが、トランザクションセーフになったのはバージョン10以降。
    • GIN (Generalized Inverted Index): 転置インデックス。配列、JSONB、全文検索など、一つのカラムに複数の値が含まれるデータ構造の検索に絶大な効果を発揮します。
    • GiST (Generalized Search Tree): 汎用検索ツリー。様々な検索スキームを実装できるテンプレート的なインデックス。地理情報(PostGIS拡張)や全文検索で利用されます。
    • BRIN (Block Range Indexes): 巨大なテーブルで、物理的な格納場所と値が相関している(例:時刻順にデータが追加されるテーブル)場合に、非常に小さなサイズで高速な範囲検索を実現します。
    • 部分インデックス (Partial Indexes): CREATE INDEX ... WHERE ...のように、テーブルの一部の行だけを対象にインデックスを作成できます。特定の条件を持つ行へのアクセスを高速化し、インデックスサイズを小さく保てます。
    • 式インデックス (Expression Indexes): lower(email)のように、カラムに関数を適用した結果に対してインデックスを作成できます。
  • MySQL:実用的で強力なインデックス
    MySQL (InnoDB) のインデックスは主にB-treeをベースにしていますが、こちらも強力です。

    • B-tree: InnoDBの主キーはクラスタ化インデックスとして実装されており、主キーによる検索が非常に高速です。
    • Full-text: InnoDBは自然言語検索のための全文検索インデックスをサポートしています。
    • Spatial: R-treeをベースにした空間インデックスをサポートし、地理空間データの検索に対応します。
    • 式インデックス: MySQL 8.0から、PostgreSQLと同様の式インデックス(Functional Key Parts)がサポートされました。
    • 部分インデックスは非サポート: MySQLには、PostgreSQLのような部分インデックスの直接的な機能はありません。

3.4 拡張性

  • PostgreSQL:拡張機能エコシステム
    PostgreSQLの拡張性は、その設計思想の中核をなすものです。CREATE EXTENSIONという簡単なコマンドで、データベースの機能を劇的に拡張できます。

    • PostGIS: 地理情報システム(GIS)のデファクトスタンダード。PostgreSQLを本格的な地理空間データベースに変えます。
    • TimescaleDB: 時系列データに特化した拡張機能。IoTデータや金融データの扱いに最適化されています。
    • Citus: PostgreSQLを水平分散(スケールアウト)可能なクラスターデータベースに変えます。
    • Foreign Data Wrappers (FDW): 他のデータベース(MySQL, Oracle, MongoDBなど)やCSVファイル、Web APIなどを、あたかもPostgreSQL内のテーブルであるかのように透過的に参照・操作できる強力な仕組みです。
  • MySQL:コンポーネントとプラグイン
    MySQLも拡張性を備えています。前述のプラガブルストレージエンジンに加え、UDF(User-Defined Functions)やプラグインAPIを通じて機能を追加できます。MySQL 8.0からはコンポーネントアーキテクチャが導入され、よりモジュール化された拡張が可能になっています。しかし、PostgreSQLの拡張機能エコシステムのような多様性と手軽さには、まだ及ばないのが現状です。

4. 性能(パフォーマンス)の比較:神話と現実

「MySQLは読み取りが速く、PostgreSQLは書き込みが速い」という話は、もはや神話に過ぎません。両者の性能は、ワークロード、設定、ハードウェアに大きく依存します。

4.1 読み取り集中型 (Read-Heavy) ワークロード

ブログやニュースサイト、Eコマースサイトの商品一覧ページなど、書き込みよりも読み取りが圧倒的に多いケースです。

  • MySQL: 歴史的にこの分野を得意としてきました。スレッドベースのアーキテクチャは多数の読み取り接続を効率的に処理します。また、InnoDBのクラスタ化インデックスは、主キーに基づいた検索で非常に優れた性能を発揮します。シンプルなSELECTクエリでは、MySQLがわずかにPostgreSQLを上回るベンチマーク結果が見られることもあります。
  • PostgreSQL: 近年のバージョンでは、インデックスオンリースキャン(テーブル本体にアクセスせずインデックスだけでクエリを完結させる)の改善などにより、読み取り性能も大幅に向上しています。接続プーラーを使えば接続オーバーヘッドも問題にならず、MySQLと遜色ない、あるいは上回る性能を発揮する場面も増えています。

4.2 書き込み集中型 (Write-Heavy) ワークロード

ログ収集システムや金融取引システム、SNSの投稿など、頻繁にデータの挿入・更新が行われるケースです。

  • PostgreSQL: 読み取りが書き込みをブロックしないMVCCの実装により、読み書きが混在する高負荷な環境で強みを発揮すると言われています。データの整合性を厳密に保ちながら高いスループットを維持する能力に定評があります。
  • MySQL (InnoDB): 行レベルロックにより高い並行性を実現しており、書き込み性能も非常に高いです。ただし、セカンダリインデックスが多いテーブルへの書き込みは、インデックスの更新コストがPostgreSQLより高くなる傾向があるという指摘もあります。

4.3 複雑なクエリの実行性能

データウェアハウス(DWH)やBIツールでの集計・分析など、複数のテーブルをJOINしたり、サブクエリやウィンドウ関数を多用したりするケースです。

  • PostgreSQL: この分野では、一般的にPostgreSQLに軍配が上がります。その理由は、非常に高度で洗練されたクエリオプティマイザにあります。PostgreSQLのオプティマイザは、多様なJOIN戦略(Nested Loop, Hash Join, Merge Join)やインデックススキャン方法を駆使して、複雑なクエリに対して最適な実行計画を生成する能力に長けています。
  • MySQL: MySQL 8.0でオプティマイザも大きく改善されましたが、歴史的に複雑なクエリの最適化はPostgreSQLほど得意ではありませんでした。ハッシュJOINがサポートされたのも比較的最近であり、分析系のクエリではPostgreSQLほどの性能が出ない場合があります。

4.4 同時接続数

  • MySQL: 軽量なスレッドモデルは、数千、数万といった大量の同時接続を捌くのに適していると長年言われてきました。
  • PostgreSQL: プロセスモデルはメモリ消費の観点から同時接続数に限界があるとされてきましたが、これは接続プーラーの利用が一般的でなかった時代の話です。現代的なクラウド環境やコンテナ環境では、アプリケーションとデータベースの間にPgBouncerのような接続プーラーを配置するのが常識となっており、この構成によりPostgreSQLもMySQLと同等、あるいはそれ以上の接続を効率的に処理できます。

性能に関する結論:
「どちらが速いか」という問いに単純な答えはありません。あなたのアプリケーションのワークロードで実際にテストすることが唯一の正解です。シンプルなCRUD操作が中心なら両者に大差はなく、複雑な分析処理が多ければPostgreSQLが有利になる傾向がある、と理解しておくのが良いでしょう。

5. ユースケースと選び方の指針

これまでの比較を踏まえ、どのような場合にどちらを選ぶべきかの指針をまとめます。

MySQLが適しているケース

  • シンプルな読み取り中心のWebアプリケーション: ブログ、CMS、小規模なEコマースなど、LAMP/LEMPスタックでの豊富な実績を活かせる分野。
  • 迅速な開発と市場投入: セットアップが容易で、Web開発者の間で広く使われているため、学習コストが低く、開発者を確保しやすい。
  • リードレプリカによるスケールアウト: MySQLのレプリケーションは設定が比較的容易で、読み取り負荷を分散させる構成を組みやすい。
  • 既存のスキルセットとエコシステム: チームがMySQLに精通している場合や、WordPressのようにMySQLを前提としたエコシステムに乗る場合。

PostgreSQLが適しているケース

  • データ分析・BI・DWH: 複雑なクエリ、ウィンドウ関数、CTEを多用し、高度なオプティマイザの恩恵を受けたいシステム。
  • 高いデータ整合性が求められるシステム: 金融システム、勘定系システム、在庫管理システムなど、トランザクションの原子性(特にDDLを含む)が最重要視される分野。
  • 高度なデータ型が必要な場合: 地理情報(PostGIS)、時系列データ(TimescaleDB)、JSONBによるドキュメント指向的な使い方、配列や範囲型を活用したい場合。
  • 拡張性を重視するアプリケーション: Foreign Data Wrappersで外部データソースと連携したり、豊富な拡張機能でデータベース自体をプラットフォームとして活用したい場合。

どちらでも良いケース

  • 一般的なCRUDアプリケーション: 多くのWebサービスや業務アプリケーションでは、両者の基本的な機能で十分要件を満たせます。この場合、性能差はほとんど問題になりません。
  • 選択の決め手: チームの好みやスキル、利用するクラウドサービスやフレームワークとの相性、ドキュメントの探しやすさといった、技術的な優劣以外の要素で決定しても良いでしょう。

6. エコシステムと将来性

データベースの価値は、そのものだけでなく、取り巻くコミュニティやツール、そして将来の発展性によっても決まります。

エコシステム

  • MySQL: Oracleという巨大企業のバックアップと、世界で最も普及しているオープンソースRDBMSとしての圧倒的なユーザーベースが強みです。ドキュメント、フォーラム、ブログ記事などの情報量は膨大です。また、PerconaやMariaDBといった互換性のあるフォークプロジェクトが存在することも、エコシステムに多様性をもたらしています。
  • PostgreSQL: 特定の企業に依存しない、強力で活発なグローバルコミュニティによって開発が推進されています。年に1回のメジャーバージョンアップという安定したリリースサイクルは、予測可能性と信頼性をもたらします。近年、開発者の間で人気が急上昇しており(Stack Overflowの調査で常に上位)、情報量も急速に増加しています。特に拡張機能のエコシステムは比類なき強みです。

将来性

  • MySQLの動向: OracleはMySQLをエンタープライズ市場および自社のクラウド(OCI)で重要な製品と位置づけています。MySQL HeatWaveのようなインメモリ分析エンジンを統合し、トランザクション処理(OLTP)と分析処理(OLAP)を一つのデータベースで実現するHTAP(Hybrid Transactional/Analytical Processing)領域への進出を図っています。MySQL 8.0で見せたように、今後も標準SQL機能の追従やパフォーマンス改善は継続されるでしょう。その巨大なインストールベースにより、MySQLが主要なデータベースであり続けることは間違いありません。
  • PostgreSQLの動向: 「開発者が最も愛するDB」としての評価を背景に、採用はさらに拡大していくと予想されます。コミュニティ主導によるオープンな開発は、論理レプリケーションの強化、パーティショニング機能の改善、クエリ並列化、JITコンパイルによる性能向上など、着実な進化を続けています。CitusやTimescaleDBのような強力な拡張機能がPostgreSQLを単なるRDBMSから「統合データプラットフォーム」へと昇華させており、このトレンドは今後も加速するでしょう。

クラウドでの動向

AWS (RDS, Aurora), Google Cloud (Cloud SQL), Microsoft Azure (Azure Database) といった主要なクラウドプロバイダーは、PostgreSQLとMySQLの両方をマネージドサービスとして強力にサポートしています。特に、クラウドネイティブに再設計されたAWS Auroraは、PostgreSQL互換版とMySQL互換版の両方を提供し、従来よりも高い性能と可用性を実現しています。クラウド上では両者は対等な選択肢であり、ベンダーロックインを避けたい企業にとっても、オープンソースである両者は魅力的な存在であり続けます。

まとめ:最高のデータベースとは?

PostgreSQLとMySQLの比較を締めくくるにあたり、冒頭の問いに立ち返りましょう。「どちらが優れているのか?」

その答えは、「プロジェクトの要件に最も適合する方が、そのプロジェクトにとっての最高のデータベースである」です。

  • MySQLは、Webの成長と共に進化し、シンプルさ、速度、そして圧倒的な普及率を武器に、今もなお多くのシステムを支える信頼性の高いデータベースです。
  • PostgreSQLは、学術的な厳密さと拡張性を土台に、データ整合性と複雑な処理能力を極め、「世界で最も先進的」と称されるにふさわしいデータプラットフォームへと進化を遂げました。

かつて両者の間には明確な壁がありましたが、現在その壁は低くなり、多くの領域で重なり合っています。技術選定のプロセスは、もはや単純なチェックリストで決まるものではありません。

本記事で解説した、両者の歴史的背景、アーキテクチャの根本的な違い、機能の深さ、性能特性、そして将来のビジョンを理解し、トレードオフを慎重に評価してください。あなたのチームのスキル、アプリケーションのワークロード、将来の拡張計画、そしてデータの価値。これら全ての要素を考慮に入れたとき、自ずと最適な選択が見えてくるはずです。

もし迷うのであれば、両方で小さなプロトタイプを構築してみることを強くお勧めします。実際に手を動かしてこそ、そのデータベースの真の姿を体感できるからです。この長く、しかし刺激的な比較の旅が、皆さんの次なるプロジェクトを成功に導く一助となることを願っています。

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