【完全ガイド】VirtualBoxで「NtCreateFile failed」エラーが出た時の原因と対処法
VirtualBoxは、開発者、ITプロフェッショナル、そしてテクノロジー愛好家にとって、非常に強力で便利な仮想化ツールです。一つの物理マシン上で複数のオペレーティングシステム(OS)を同時に実行できるため、ソフトウェアのテスト、古いアプリケーションの実行、異なる環境の構築など、その用途は多岐にわたります。しかし、その便利さの裏側で、時として不可解なエラーに遭遇することがあります。その中でも特にユーザーを悩ませるのが、「NtCreateFile failed」というエラーメッセージでしょう。
ある日突然、今まで問題なく起動していた仮想マシン(VM)が起動しなくなり、この cryptic(謎めいた)なメッセージが表示されると、多くのユーザーはどう対処してよいか分からず途方に暮れてしまいます。大切なデータや設定が仮想マシン内に保存されている場合、その焦りは計り知れません。
この記事は、そんな「NtCreateFile failed」エラーに直面したすべてのVirtualBoxユーザーのための完全ガイドです。エラーメッセージが何を意味しているのかという根本的な解説から、考えられる主な原因の深掘り、そして具体的な解決手順をステップ・バイ・ステップで、初心者の方でも理解しやすいように徹底的に解説します。さらに、将来的に同様の問題を未然に防ぐための予防策やベストプラクティスまで網羅しています。
この記事を最後まで読めば、あなたは「NtCreateFile failed」エラーの正体を理解し、冷静に原因を特定し、自らの手で問題を解決できるようになるはずです。さあ、あなたの貴重な仮想マシンを救出するための旅を始めましょう。
第1章: 「NtCreateFile failed」エラーとは何か?
トラブルシューティングの第一歩は、敵を知ることです。この章では、「NtCreateFile failed」というエラーメッセージが一体何を意味しているのかを解読し、このエラーが発生する典型的なシナリオについて理解を深めます。
エラーメッセージの解読
多くの場合、このエラーは以下のような形式で表示されます。
“`
Failed to open a session for the virtual machine [仮想マシン名].
The virtual machine ‘[仮想マシン名]’ has terminated unexpectedly during startup with exit code 1 (0x1).
Result Code: E_FAIL (0x80004005)
Component: MachineWrap
Interface: IMachine {…}
— 詳細 —
Kernel driver not installed (rc=-1908)
…(中略)…
NtCreateFile failed with rc=c0000034
“`
この中で最も重要な情報が、最後の一文 NtCreateFile failed with rc=c0000034
です。これを分解して見ていきましょう。
-
NtCreateFile
: これは、Windowsの心臓部であるNTカーネルが提供するAPI(Application Programming Interface)関数の一つです。その名の通り、ファイルやI/Oデバイスを作成(Create)したり、開いたり(Open)するために使用されます。VirtualBoxが仮想マシンを起動する際には、仮想ハードディスクファイル(.vdi, .vmdkなど)やスナップショットファイル、設定ファイルなど、数多くのファイルにアクセスする必要があります。NtCreateFile
は、まさにそのファイルアクセスの根幹を担う関数なのです。 -
failed
: 文字通り「失敗した」という意味です。つまり、VirtualBoxがNtCreateFile
関数を使って何らかのファイルを開こうとしたところ、失敗に終わったことを示しています。 -
rc=c0000034
:rc
は “Return Code” の略で、処理結果を示すエラーコードです。この16進数のコードc0000034
は、Windowsの世界ではSTATUS_OBJECT_NAME_NOT_FOUND
というステータスコードに対応します。これを日本語に訳すと「指定されたオブジェクト名が見つかりません」となります。
これらを総合すると、エラーメッセージの核心的な意味は、「VirtualBoxが、仮想マシンの起動に必要な特定のファイルを開こうとしたが、指定されたパスにそのファイルが見つからなかったため、処理に失敗した」ということになります。
つまり、このエラーはVirtualBox本体のバグやOSの深刻な不具合というよりは、多くの場合「ファイルパスの不整合」という、比較的シンプルな原因に起因しているのです。
エラーが発生する典型的なシナリオ
では、どのような状況でこの「ファイルが見つからない」という事態が発生するのでしょうか。以下に典型的なシナリオを挙げます。
-
仮想マシンファイルの移動・リネーム:
最も一般的な原因です。ユーザーがエクスプローラーなどを使って、仮想マシンが保存されているフォルダ(例:C:\Users\YourUser\VirtualBox VMs\Windows10
)を、別のドライブ(例:D:\VMs\Windows10
)に移動したり、フォルダ名を変更したりした場合に発生します。VirtualBoxは仮想マシンの設定ファイル(.vbox
)に、仮想ディスクファイルの絶対パスを記録しているため、この記録と実際のファイルの場所が食い違うと、ファイルを見つけられなくなります。 -
外付けドライブやネットワークドライブの問題:
仮想マシンファイルを外付けHDDやUSBメモリ、NAS(Network Attached Storage)などのネットワークドライブに保存しているケースです。ドライブレター(D:やE:など)が変わってしまったり、ネットワーク接続が切れていたり、ドライブ自体の接続が不安定だったりすると、VirtualBoxは指定されたパスにアクセスできず、このエラーを引き起こします。 -
スナップショット関連の問題:
VirtualBoxのスナップショット機能は非常に便利ですが、同時にエラーの原因にもなり得ます。スナップショットを取得すると、元の仮想ディスクは読み取り専用となり、変更点は新しい差分ディスクファイルに書き込まれます。このスナップショットの「チェーン(連鎖)」のいずれかのファイルが移動、リネーム、あるいは破損・削除されてしまうと、チェーンが途切れ、仮想マシンは起動できなくなります。 -
ホストOSのアップデートや再インストール:
Windowsのメジャーアップデートやクリーンインストールを行った後、ユーザープロファイルのパスが変わったり、ファイルの所有権やアクセス権が変更されたりすることがあります。これにより、VirtualBoxが以前と同じパスでファイルにアクセスできなくなることがあります。 -
セキュリティソフトによる干渉:
アンチウイルスソフトやファイアウォールが、VirtualBoxのファイルアクセスを「不審な挙動」と誤検知し、ブロックしてしまうことがあります。特に、巨大な仮想ディスクファイルの読み書きは、スキャン対象になりやすく、これが原因でファイルオープンに失敗することがあります。 -
ファイルシステムの破損:
稀なケースですが、ホストOSのファイルシステム自体が破損し、ファイルが正常に読み出せなくなっている可能性もあります。
このように、「NtCreateFile failed」エラーは様々な要因で発生しますが、その根底には「ファイルへのパスが通っていない」という共通のテーマがあります。次の章では、これらの原因をさらに深く掘り下げていきましょう。
第2章: エラーの主な原因5選
前章で挙げたシナリオを基に、エラーを引き起こす具体的な原因を5つに絞って、そのメカニズムを詳しく解説します。原因を正しく理解することが、的確な対処への近道です。
原因1: 仮想ディスクファイル(.vdi, .vmdkなど)のパス不整合
これは断トツで最も多い原因です。この問題を理解するためには、VirtualBoxがどのように仮想マシンを管理しているかを知る必要があります。
- 管理ファイル (
.vbox
): 各仮想マシンには、その設定を記述したXML形式のファイル(例:Windows10.vbox
)が存在します。このファイルには、VMに割り当てられたメモリ量、CPUコア数、ネットワーク設定など、あらゆる構成情報が含まれています。 - 仮想ディスクファイル (
.vdi
など): これが仮想マシンのハードディスクに相当する実体ファイルです。OSやアプリケーション、ユーザーデータはすべてこの中に保存されています。
重要なのは、.vbox
ファイルの中に、使用する.vdi
ファイルの場所が絶対パスで記録されている点です。例えば、以下のような記述になっています。
xml
<HardDisks>
<HardDisk uuid="{xxxxxxxx-xxxx-xxxx-xxxx-xxxxxxxxxxxx}" location="C:\Users\Taro\VirtualBox VMs\Windows10\Windows10.vdi" format="VDI" type="Normal"/>
</HardDisks>
この状態で、ユーザーが C:\Users\Taro\VirtualBox VMs\Windows10
フォルダを丸ごと D:\MyVMs\Windows10
に移動したとします。ユーザーの意図としては、設定ファイルもディスクファイルも一緒に移動したので問題ないように思えます。しかし、VirtualBoxが起動時に読み込む D:\MyVMs\Windows10\Windows10.vbox
ファイルの中身は、依然として location="C:\Users\Taro\...
のままです。
VirtualBoxはこの古いパス情報に基づいて C:
ドライブを探しに行きますが、そこにはもうファイルは存在しません。この結果、Windows APIである NtCreateFile
が「ファイルが見つからない (rc=c0000034
)」というエラーを返し、仮想マシンの起動が失敗するのです。
原因2: スナップショットファイルのパス不整合または破損
スナップショット機能を使っている場合、問題はさらに複雑になります。スナップショットの仕組みを簡単に説明します。
- 最初の状態(ベースディスク):
Base.vdi
- スナップショット1を取得:
Base.vdi
は読み取り専用になり、変更点は新しい差分ディスクSnap1.vdi
に書き込まれる。 - スナップショット2を取得:
Snap1.vdi
が読み取り専用になり、変更点はさらに新しい差分ディスクSnap2.vdi
に書き込まれる。
このとき、仮想マシンの現在の状態は Base.vdi
+ Snap1.vdi
+ Snap2.vdi
という全てのファイルの連鎖(チェーン)によって構成されています。.vbox
ファイルには、この親子関係がUUID(Universally Unique Identifier)という一意なIDで記録されています。
“`xml
“`
ここでフォルダごとファイルを移動すると、ベースディスクだけでなく、Snapshots
フォルダ内にある全てのスナップショットファイルのパスも不整合を起こします。あるいは、ユーザーが誤ってチェーンの途中にある Snap1.vdi
を削除してしまった場合、Snap2.vdi
は親を失い、チェーンが壊れてしまいます。これもまた、「ファイルが見つからない」エラーの典型的な原因となります。
原因3: アクセス権限の問題
VirtualBoxのプロセス(VirtualBox.exe
や VBoxSVC.exe
など)は、ホストOS上で特定のユーザー権限で動作しています。もし、仮想ディスクファイルが保存されているフォルダやファイル自体に、そのユーザーがアクセスする権限(特に読み取り・書き込み権限)がない場合、NtCreateFile
は失敗します。
このエラーコードは c0000034
(Not Found) ではなく、c0000022
(Access Denied) になることもありますが、状況によっては Not Found
と報告されることもあります。
アクセス権限が問題になるシナリオは以下の通りです。
- 管理者権限が必要な場所への移動:
C:\Program Files
やC:\Windows
といったシステムフォルダ内に仮想マシンファイルを保存してしまった場合。 - ユーザーの変更: ホストOSを再インストールし、以前と異なるユーザー名でアカウントを作成した場合。ファイルの所有者が古いユーザーのままになっていると、新しいユーザーからのアクセスが拒否されることがあります。
- 外付けドライブのフォーマット: 別のPCでNTFSフォーマットされた外付けドライブを接続した場合、元のPCのユーザー情報に基づいてアクセス権が設定されているため、現在のPCのユーザーではアクセスできないことがあります。
原因4: セキュリティソフト(アンチウイルス・ファイアウォール)による干渉
現代のセキュリティソフトは、ランサムウェアなどからPCを守るため、ファイルの書き込みを監視する機能(ランサムウェア保護、フォルダーアクセス制御など)を備えています。VirtualBoxが巨大な仮想ディスクファイルに対して頻繁に読み書きを行う挙動は、これらの機能によって「不審な活動」と誤検知される可能性があります。
セキュリティソフトがファイルへのアクセスをリアルタイムでブロックした場合、VirtualBoxから見ればファイルが存在しないか、アクセスできないのと同じ状況になります。結果として NtCreateFile
が失敗し、エラーが発生します。
特に、VirtualBoxやWindows Defender、その他のサードパーティ製セキュリティソフトをアップデートした直後に問題が発生した場合は、この原因を疑うべきです。
原因5: VirtualBoxやホストOSの不具合・バージョン非互換
ソフトウェアは完璧ではありません。VirtualBox自体の特定のバージョンにバグが含まれている可能性もゼロではありません。また、ホストOS(特にWindows)のメジャーアップデートは、OSの内部構造に大きな変更を加えることがあります。
特に注意すべきは、Windowsの仮想化関連機能との競合です。
- Hyper-V: Microsoft純正のハイパーバイザーです。これが有効になっていると、VirtualBoxのようなサードパーティ製の仮想化ソフトウェア(タイプ2ハイパーバイザー)は正常に動作できません。パフォーマンスが著しく低下したり、起動に失敗したりします。
- その他の機能: 「仮想マシンプラットフォーム」「Windows Sandbox」「Windows Subsystem for Linux 2 (WSL2)」なども、内部でHyper-Vの技術を利用しているため、有効になっているとVirtualBoxと競合する可能性があります。
これらの機能がWindows Updateによって意図せず有効化され、VirtualBoxの動作を阻害し、「NtCreateFile failed」という形でエラーが現れることがあります。
以上、5つの主要な原因を解説しました。次の章では、これらの原因を踏まえ、具体的な解決策をステップ・バイ・ステップで見ていきましょう。
第3章: 【実践】対処法ステップ・バイ・ステップ
いよいよ、問題解決の実践編です。ここでは、原因を特定しながら問題を修正していくための具体的な手順を、簡単なものから順に紹介します。焦らず、一つずつ試してみてください。
!!最重要!! 作業前のバックアップ
これから行う操作は、仮想マシンの設定ファイルやディスクファイルを変更・修正するものです。操作を誤ると、かえって状況を悪化させ、データを完全に失うリスクがあります。
作業を始める前に、必ず仮想マシンが保存されているフォルダ全体(.vbox
ファイル、.vdi
ファイル、Snapshots
フォルダ、Logs
フォルダなど全て)を、別の安全な場所(外付けHDDなど)にコピーして、バックアップを作成してください。 これさえあれば、万が一失敗しても元の状態に戻すことができます。
ステップ1: ログファイルの確認(原因特定の近道)
エラーメッセージだけでは情報が不十分な場合、VirtualBoxが生成するログファイルを確認するのが最も確実な原因特定の手段です。
- エクスプローラーを開き、問題の仮想マシンが保存されているフォルダに移動します。(例:
C:\Users\YourUser\VirtualBox VMs\VM_Name
) - その中に
Logs
というフォルダがありますので、開いてください。 VBox.log
というファイル(最新のログ)をテキストエディタ(メモ帳など)で開きます。- ファイル内を「
failed
」やエラーコード「c0000034
」で検索します。すると、エラーが発生した直前のコンテキストが見つかるはずです。
多くの場合、以下のようなログが見つかります。
00:00:02.123456 ERROR [COM]: aRC=E_FAIL (0x80004005) aIID={...} aComponent={MachineWrap} aText={Could not open the medium 'D:\Moved_VMs\Windows10\Windows10.vdi'.
VD: error VERR_FILE_NOT_FOUND opening image file 'D:\Moved_VMs\Windows10\Windows10.vdi' (VERR_FILE_NOT_FOUND)}, preserve=false aResultDetail=0
このログから、D:\Moved_VMs\Windows10\Windows10.vdi
というファイルを開こうとして、VERR_FILE_NOT_FOUND
(ファイルが見つからない) エラーになっていることが明確に分かります。これで、どのファイルのパスに問題があるのかが特定できました。
ステップ2: 仮想メディアマネージャによるパスの修正(最も簡単な方法)
パスの不整合が原因である場合、VirtualBoxのGUIツール「仮想メディアマネージャ」を使って修正するのが最も安全で簡単な方法です。
- VirtualBoxのメインウィンドウを開きます。
- メニューバーから [ファイル] -> [仮想メディアマネージャ] を選択します。
- 「ハードディスク」タブを開きます。
- リストの中に、黄色い警告アイコン(感嘆符!)が付いていて、場所が「アクセスできません」と表示されている項目がないか探します。これが、VirtualBoxが見つけられなくなっている仮想ディスクです。
-
スナップショットがない場合:
a. 警告アイコンの付いたディスクを選択し、上部の「解放」ボタンをクリックします。「このメディアは仮想マシン…にアタッチされています。本当に解放しますか?」と聞かれたら、「解放」を選択します。
b. 次に「除去」ボタンをクリックします。「ハードディスク…を除去しますか?」と聞かれたら、「除去」を選択します。(「ファイルも一緒に削除」は絶対に選ばないでください!)
c. 仮想メディアマネージャを閉じます。
d. VirtualBoxのメインウィンドウで、問題の仮想マシンを選択し、[設定] -> [ストレージ] を開きます。
e. ストレージツリーで「SATAコントローラ」などを選択し、「ハードディスクを追加」アイコン(緑の+が付いたディスクの絵)をクリックします。
f. 「既存のディスクを選択」を選び、ファイルダイアログで、現在正しい場所にある仮想ディスクファイル(.vdiなど)を選択します。
g. [OK] をクリックして設定を保存し、仮想マシンの起動を試します。 -
スナップショットがある場合:
スナップショットが絡むと「解放」や「除去」ができないことがあります。その場合は、無理にこの方法で解決しようとせず、次のステップ3に進んでください。
ステップ3: .vboxファイルの直接編集によるパス修正(中級者向け)
仮想メディアマネージャで解決しない、特にスナップショットが複雑に絡んでいる場合は、設定ファイル .vbox
を直接編集してパスを修正します。必ずバックアップを取ってから実行してください。
- VirtualBoxを完全に終了させます。
- 問題の仮想マシンが保存されているフォルダを開き、
.vbox
で終わるファイル(例:Windows10.vbox
)を探します。 - この
.vbox
ファイルを、高機能なテキストエディタ(Visual Studio Code, Notepad++, サクラエディタなど。Windows標準のメモ帳は避けた方が無難)で開きます。 - ファイルはXML形式で記述されています。
<HardDisk
というタグを探してください。 -
location
という属性に、仮想ディスクファイルのパスが記述されています。xml
<!-- 修正前 -->
<HardDisk uuid="{...}" location="C:\Old_Path\VMs\Windows10.vdi" ... /> -
この
location
のパスを、現在の正しいパスに書き換えます。xml
<!-- 修正後 -->
<HardDisk uuid="{...}" location="D:\New_Path\VMs\Windows10.vdi" ... /> -
スナップショットがある場合:
ファイル内には、ベースディスクだけでなく、Snapshots
フォルダ内にある各スナップショットディスク(ファイル名がUUIDになっています)へのパスも複数存在します。全ての<HardDisk ...>
タグのlocation
属性を確認し、必要であれば全て正しいパスに修正してください。 -
ファイルを上書き保存し、テキストエディタを閉じます。
- VirtualBoxを起動し、仮想マシンが正常に認識されているか確認し、起動を試します。
ステップ4: アクセス権限の確認と修正
ファイルパスが正しいはずなのにエラーが出る場合は、アクセス権限を疑います。
- エクスプローラーで、仮想マシンが保存されている一番上のフォルダを右クリックし、[プロパティ] を選択します。
- [セキュリティ] タブを開きます。
- 「グループ名またはユーザー名」のリストで、現在Windowsにログインしている自分のユーザー名を選択します。
- 下の「アクセス許可」欄で、「フルコントロール」の「許可」にチェックが付いているか確認します。もし付いていなければ、[編集] ボタンをクリックして、自分のユーザーに「フルコントロール」の許可を与えて [適用] -> [OK] をクリックします。
- さらに確実にするために、[詳細設定] ボタンをクリックします。
- 開いたウィンドウの上部にある「所有者」の横の [変更] をクリックし、自分のユーザー名を指定して所有者を自分自身に変更します。
- 「サブコンテナーとオブジェクトの所有者を置き換える」にチェックを入れます。
- 「このオブジェクトからの継承可能なアクセス許可エントリすべてを子オブジェクトに置き換える」にもチェックを入れます。
- [適用] -> [OK] をクリックして、全てのプロパティウィンドウを閉じます。これにより、フォルダ内の全てのファイルとサブフォルダに正しいアクセス権が強制的に適用されます。
- PCを再起動してから、仮想マシンの起動を試します。
ステップ5: セキュリティソフトの設定見直し
セキュリティソフトの干渉が疑われる場合は、VirtualBox関連のフォルダやプロセスを監視対象から除外します。ここではWindows標準の「Windows Defender」を例に説明します。
- [スタート] -> [設定] -> [更新とセキュリティ] (または [プライバシーとセキュリティ]) -> [Windows セキュリティ] を開きます。
- [ウイルスと脅威の防止] をクリックします。
- 「ウイルスと脅威の防止の設定」セクションにある [設定の管理] をクリックします。
- 下にスクロールし、「除外」セクションの [除外の追加または削除] をクリックします。
- [除外の追加] ボタンをクリックし、[フォルダー] を選択します。
- ファイルダイアログで、仮想マシンが保存されているフォルダ(例:
D:\MyVMs
)を選択します。 - 同様に、[除外の追加] から [プロセス] を選択し、以下のプロセス名を追加します。
VirtualBox.exe
VBoxManage.exe
VBoxHeadless.exe
VBoxSVC.exe
(通常はC:\Program Files\Oracle\VirtualBox
にあります)
- 設定後、PCを再起動し、仮想マシンの起動を試します。
サードパーティ製のセキュリティソフト(Norton, McAfee, Kasperskyなど)を使用している場合も、同様の「除外設定」「例外設定」といった項目があるはずですので、マニュアル等を参照して設定してください。
ステップ6: Hyper-Vなどの競合機能の無効化
Windowsの仮想化機能との競合を解消します。
- [スタート] ボタンを右クリックし、[ファイル名を指定して実行] を選択します。
optionalfeatures
と入力して Enter キーを押します。「Windowsの機能」ダイアログが開きます。- リストの中から、以下の項目のチェックが外れていることを確認します。チェックが入っている場合は、外してください。
- Hyper-V
- Windows Sandbox
- 仮想マシンプラットフォーム
- Windows ハイパーバイザー プラットフォーム
- [OK] をクリックすると、機能の変更が適用されます。システムの再起動を求められますので、必ず再起動してください。
注意: これらの機能を無効にすると、WSL2 や Docker Desktop など、これらに依存するアプリケーションが動作しなくなる可能性があります。もしそれらのツールも利用している場合は、どちらを優先するかを判断する必要があります。
ステップ7: VirtualBoxの再インストールとExtension Packの更新
上記すべての方法を試しても解決しない場合、VirtualBoxのインストール自体に問題がある可能性があります。
- [コントロールパネル] -> [プログラムと機能] から、Oracle VM VirtualBoxをアンインストールします。アンインストール中に仮想マシンファイルを削除するかどうか聞かれることは通常ありませんが、念のため注意してください。
- PCを再起動します。
- VirtualBoxの公式サイト (virtualbox.org) にアクセスし、最新の安定版をダウンロードします。
- ダウンロードしたインストーラーを実行し、VirtualBoxを再インストールします。
- 次に、同じく公式サイトのダウンロードページから、インストールしたVirtualBoxと全く同じバージョンの「VirtualBox Extension Pack」をダウンロードします。
- ダウンロードした
.vbox-extpack
ファイルをダブルクリックすると、VirtualBoxが起動し、インストールウィザードが始まります。ライセンスに同意してインストールを完了させてください。 - PCを再起動し、仮想マシンの起動を試します。
第4章: 予防策とベストプラクティス
無事に問題を解決できたとしても、将来同じ過ちを繰り返さないための対策を講じておくことが重要です。ここでは、安定したVirtualBox運用のためのおすすめの習慣を紹介します。
-
仮想マシンの移動はVirtualBoxの機能を使う:
VMを別のドライブやPCに移動したい場合、エクスプローラーでフォルダをコピー&ペーストするのは避けましょう。代わりに、VirtualBoxのアプライアンスのエクスポート/インポート機能を使用してください。- エクスポート: 対象のVMを選択し、[ファイル] -> [アプライアンスのエクスポート] を選択。ウィザードに従って
.ova
という単一のファイルに書き出します。 - インポート: 新しい環境で [ファイル] -> [アプライアンスのインポート] を選択し、作成した
.ova
ファイルを指定します。
この方法を使えば、VirtualBoxがパス情報を自動的に正しく再設定してくれます。
- エクスポート: 対象のVMを選択し、[ファイル] -> [アプライアンスのエクスポート] を選択。ウィザードに従って
-
定期的なバックアップ:
最も重要な習慣です。仮想マシンをシャットダウンした状態で、VMが保存されているフォルダごと、外付けHDDやクラウドストレージに定期的にコピーしておきましょう。何か問題が起きても、バックアップから簡単に復元できます。 -
スナップショットの整理:
スナップショットは一時的なチェックポイントとして非常に便利ですが、恒久的に残しておくべきものではありません。スナップショットのチェーンが長くなればなるほど、依存関係が複雑になり、パフォーマンスが低下し、破損のリスクも高まります。不要になったスナップショットは、VirtualBoxマネージャから定期的に「削除」(実際には親ディスクへのマージ)して、チェーンをシンプルに保ちましょう。 -
仮想マシンファイルの保存場所:
システムドライブ(Cドライブ)は、OSの再インストールなどで内容が消去されるリスクがあります。可能な限り、データ専用の別の物理ドライブやパーティション(Dドライブなど)にVirtualBox VMs
フォルダを作成し、そこに仮想マシンを保存するようにしましょう。 -
バージョンアップは慎重に:
VirtualBoxやホストOSのメジャーアップデートがリリースされた直後は、未知のバグや互換性の問題が含まれている可能性があります。重要な仮想マシンを運用している場合は、すぐにアップデートせず、コミュニティのフォーラムなどで安定性の評判を確認してから適用することをおすすめします。
結論
「NtCreateFile failed」というエラーメッセージは、一見すると技術的で難解に感じられますが、その本質は「VirtualBoxが、起動に必要なファイルを見つけられない」という、比較的シンプルな問題であることがほとんどです。その原因は、ユーザーによるファイルの移動、アクセス権限の問題、あるいは他のソフトウェアとの競合など多岐にわたります。
この記事で紹介したトラブルシューティングの手順——バックアップの確保、ログの確認、仮想メディアマネージャでの修正、設定ファイルの直接編集、アクセス権の見直し、競合機能の無効化——を冷静に、一つずつ試していけば、大半のケースで問題を解決し、大切な仮想マシンを再び起動させることができるはずです。
何よりも重要なのは、パニックに陥らず、エラーの裏側にある論理的な原因を探求する姿勢です。今回の経験は、あなたをより経験豊かなVirtualBoxユーザーへと成長させてくれることでしょう。
この記事が、あなたの問題解決の一助となり、快適な仮想化ライフを取り戻す手助けとなれば幸いです。