C#におけるアセンブリの参照方法とバージョニングをマスターする


C#におけるアセンブリの参照方法とバージョニングをマスターする:詳細ガイド

序文

C#と.NETの世界に足を踏み入れた開発者なら誰でも、いずれ「アセンブリ」という言葉に突き当たります。アセンブリは、.NETアプリケーションを構成する基本的なブロックであり、コードのコンパイル、配置、バージョニング、セキュリティの単位です。しかし、その概念は単純なようでいて、深く掘り下げると多くの複雑な側面を持っています。特に、アセンブリの「参照」と「バージョニング」は、小規模なプロジェクトから大規模なエンタープライズシステムまで、あらゆる開発者が直面する重要な課題です。

不適切な参照管理やバージョニング戦略は、「依存関係地獄(Dependency Hell)」として知られる悪夢のような状況を引き起こす可能性があります。これは、あるコンポーネントが必要とするライブラリのバージョンが、別のコンポーネントが必要とするバージョンと競合し、アプリケーションがビルドできない、あるいは実行時に予期せぬエラーでクラッシュする、といった問題です。

この記事では、C#開発者がアセンブリの参照とバージョニングを完全に理解し、自信を持って管理できるようになることを目的とします。基礎的な概念から、現代的な.NET開発におけるベストプラクティス、そして厄介な問題に直面した際のトラブルシューティング方法まで、包括的かつ詳細に解説します。このガイドを読み終える頃には、あなたはアセンブリの達人となり、堅牢で保守性の高いアプリケーションを構築するための確固たる知識を身につけていることでしょう。


第1章: アセンブリの基礎 (Fundamentals of Assemblies)

アセンブリの参照とバージョニングを語る前に、まずアセンブリそのものが何であるかを正確に理解する必要があります。

1.1. アセンブリとは何か?

.NETにおいて、アセンブリはコンパイルされたコードの論理的な単位です。物理的には、1つまたは複数のファイル(通常は .dll または .exe)から構成されます。アセンブリは以下の4つの主要な役割を担います。

  1. コードのコンパイル単位: C#コンパイラは、ソースコードを中間言語(IL: Intermediate Language)にコンパイルし、アセンブリ内に格納します。
  2. 配置の単位: アプリケーションを配布する際、関連するアセンブリ群をまとめて配置します。
  3. バージョニングの単位: アセンブリ全体としてバージョン番号が割り当てられ、更新や互換性の管理が行われます。
  4. セキュリティの単位: コードアクセスセキュリティ(CAS)など、アクセス許可はアセンブリ単位で要求・付与されます。

すべてのアセンブリにはマニフェスト(Manifest)が含まれています。これはアセンブリに関するメタデータであり、いわばアセンブリの「身分証明書」です。マニフェストには以下の情報が含まれます。

  • アセンブリのアイデンティティ: 名前、バージョン、カルチャ、公開キー。
  • ファイルリスト: このアセンブリを構成するすべてのファイルのリスト。
  • 型参照情報: アセンブリ内で公開されている型(クラス、インターフェースなど)の情報。
  • 依存関係: このアセンブリが参照している他のアセンブリのリスト。

アセンブリは実行可能ファイル(.exe)とライブラリ(.dll)の2種類に大別されます。.exeはプログラムのエントリーポイント(Mainメソッド)を持ち、単独で実行できます。.dllはエントリーポイントを持たず、他のアセンブリから参照されて機能を提供します。

1.2. アセンブリ名 (Assembly Name)

アセンブリのアイデンティティは、その名前によって一意に識別されます。アセンブリ名には2つの種類があります。

  • シンプル名 (Simple Name): これは単なるファイル名(拡張子を除く)です。例えば、MyLibrary.dllのアセンブリのシンプル名は MyLibrary です。
  • 厳密名 (Strong Name): これはアセンブリにグローバルな一意性を与えるためのもので、以下の4つの要素から構成されます。
    1. シンプル名: MyLibrary
    2. バージョン番号: 1.0.0.0
    3. カルチャ情報: neutral (特定の言語に依存しない場合)
    4. 公開キートークン: 公開キー/秘密キーペアから生成される一意のハッシュ値。

厳密名を持つアセンブリを「厳密名付きアセンブリ(Strong-named Assembly)」と呼びます。厳密名を付ける(署名する)には、sn.exe (Strong Name Tool) を使ってキーペア(.snkファイル)を生成し、プロジェクトのプロパティでそのキーファイルを指定します。

厳密名の主な利点は以下の通りです。

  • 一意性の保証: 世界中のどのアセンブリとも名前が衝突しません。
  • 改ざん防止: アセンブリの内容がコンパイル後に変更されると、CLR(Common Language Runtime)が読み込み時にそれを検出し、エラーを発生させます。
  • GACへのインストール: グローバルアセンブリキャッシュ(後述)にアセンブリを配置するには、厳密名が必須です。

1.3. グローバルアセンブリキャッシュ (GAC – Global Assembly Cache)

GACは、マシン上のすべてのアプリケーションで共有されるアセンブリを格納するための特別なフォルダです。ここにアセンブリをインストールすると、複数のアプリケーションが同じバージョンの共有ライブラリをディスクスペースを節約しながら利用できます。

GACにアセンブリをインストールするには、gacutil.exe (Global Assembly Cache Tool) を使用します。
gacutil /i MyLibrary.dll

ただし、現代の.NET開発(特に.NET Core / .NET 5以降)では、GACの利用は推奨されなくなってきています。その理由は以下の通りです。

  • 配置の複雑化: アプリケーションをデプロイする際に、インストーラーでGACへの登録処理が必要になります。
  • “DLL Hell” の再来: あるアプリケーションがGACの共有アセンブリを新しいバージョンに更新すると、古いバージョンに依存していた別のアプリケーションが動作しなくなる可能性があります。
  • Side-by-Side実行の妨げ: アプリケーションごとに必要なバージョンのライブラリをプライベートに持つ(アプリケーションのフォルダにコピーする)方が、依存関係が明確になり、他のアプリケーションに影響を与えずに済みます。

現在では、NuGetパッケージマネージャを使い、各プロジェクトが必要な依存関係をプライベートに持つアプローチが主流です。


第2章: アセンブリの参照方法 (How to Reference Assemblies)

アプリケーションを構築するには、さまざまなアセンブリ(自作のライブラリ、.NETの標準ライブラリ、サードパーティ製ライブラリ)を組み合わせる必要があります。これを「参照」と呼びます。

2.1. Visual Studioでの参照追加

Visual Studioは、アセンブリ参照を追加するための直感的なUIを提供しています。ソリューションエクスプローラーでプロジェクトの「依存関係」または「参照」ノードを右クリックし、「参照の追加」を選択します。

  • プロジェクト参照 (Project Reference): 同じソリューション内にある別のプロジェクトを参照します。ビルドシステムが依存関係を自動的に解決し、参照先のプロジェクトが変更されれば、参照元のプロジェクトも再ビルドされます。これが最も一般的で推奨される方法です。
  • アセンブリ参照 (Assembly Reference / Browse): 特定の .dll ファイルを直接参照します。ローカルディスク上のファイルや、GACに登録されたアセンブリ(.NET Frameworkの場合)を選択できます。サードパーティ製のライブラリでNuGetパッケージが提供されていない場合などに使用します。
  • COM参照 (COM Reference): 従来のCOM(Component Object Model)コンポーネントを参照するためのものです。Visual Studioが自動的に相互運用アセンブリを生成します。

2.2. NuGetパッケージマネージャによる参照

現代の.NET開発において、外部ライブラリを参照する際のデファクトスタンダードは NuGet です。NuGetは、.NET向けのパッケージマネージャであり、ライブラリの発見、インストール、更新、依存関係の管理を劇的に簡素化します。

  • NuGetパッケージ: ライブラリの .dll ファイル、メタデータ、その他のコンテンツ(ドキュメント、シンボルファイルなど)をまとめた .nupkg ファイルです。
  • 依存関係の推移的解決: NuGetの最大の利点の一つです。もしPackageAPackageBに依存し、PackageBPackageCに依存している場合、PackageAをインストールするだけで、PackageBPackageCも自動的にインストールされます。これにより、手動で依存関係を追跡する手間が省けます。

Visual Studioでは、プロジェクトを右クリックして「NuGetパッケージの管理」を選択するか、パッケージマネージャーコンソール (Install-Package Newtonsoft.Json) を使用してパッケージを管理できます。

2.3. .csprojファイルにおける参照の記述

Visual Studioで行った参照の追加は、最終的にプロジェクトファイル(.csproj)にXMLとして記述されます。このファイルを直接編集することも可能です。

  • <Reference>要素 (レガシースタイル):
    xml
    <Reference Include="System.Data.DataSetExtensions" />
    <Reference Include="MyLibrary">
    <HintPath>..\libs\MyLibrary.dll</HintPath>
    </Reference>

    これは主に古い.NET Frameworkプロジェクトで使われます。HintPathでファイルパスを明示的に指定します。

  • <ProjectReference>要素:
    xml
    <ProjectReference Include="..\MyLibraryProject\MyLibraryProject.csproj" />

    プロジェクト参照を記述します。

  • <PackageReference>要素 (SDK-style):
    xml
    <PackageReference Include="Newtonsoft.Json" Version="13.0.1" />

    これは新しいSDK-styleプロジェクト(.NET Core / .NET 5+で標準)で使われるNuGet参照の形式です。従来の packages.config ファイル方式に比べて、推移的な依存関係の管理に優れ、バージョン競合の解決能力も高いです。

2.4. 動的なアセンブリの読み込み

コンパイル時に参照を決定する静的な方法だけでなく、実行時にアセンブリを動的に読み込むこともできます。これは、プラグインシステムや、特定の条件下でのみ必要な機能をロードする場合に非常に強力です。

  • Assembly.Load(string assemblyString):
    アセンブリの厳密名(例: "MyLibrary, Version=1.0.0.0, Culture=neutral, PublicKeyToken=b77a5c561934e089")を使ってアセンブリを読み込みます。CLRはGACやアプリケーションベースディレクトリなど、標準の検索パスでアセンブリを探します。
    csharp
    Assembly myAssembly = Assembly.Load("MyLibrary, Version=1.0.0.0, ..."));

  • Assembly.LoadFrom(string assemblyFile):
    指定されたファイルパスからアセンブリを読み込みます。同じアセンブリが既に読み込まれている場合でも、異なるパスからLoadFromを呼び出すと、新しいインスタンスが読み込まれる可能性があり、意図しない動作の原因となることがあります。依存関係は自動的に解決されます。

  • Assembly.LoadFile(string path):
    こちらもファイルパスからアセンブリを読み込みますが、LoadFromとは異なり、依存関係を自動的に解決しようとしません。依存アセンブリは別途、AppDomain.AssemblyResolve イベントなどで手動で解決する必要があります。

  • AssemblyLoadContext (.NET Core / .NET 5+):
    より高度な読み込み制御を提供する仕組みです。各AssemblyLoadContextは独立したスコープを持ち、アセンブリとその依存関係を分離して読み込むことができます。最大の利点は、コンテキストごとアセンブリをアンロードできることです。これにより、メモリリークを起こさずにプラグインを動的にリロードするような高度なアーキテクチャが可能になります。


第3章: アセンブリのバージョニング (Assembly Versioning)

アセンブリのバージョニングは、ソフトウェアの進化と互換性を管理するための核心的なメカニズムです。

3.1. バージョン番号の構造

.NETのアセンブリバージョンは、通常4つの部分から構成されます: <major>.<minor>.<build>.<revision>

  • Major: 大規模な変更、後方互換性のない変更があった場合にインクリメントします。
  • Minor: 後方互換性のある新機能が追加された場合にインクリメントします。
  • Build: 主に日々のビルドやリビジョンを示すために使われます。CI/CDパイプラインで自動的にインクリメントされることが多いです。
  • Revision: バグ修正やサービスパックなど、マイナーな変更を示すために使われます。

プロジェクトの AssemblyInfo.cs ファイル(または .csproj ファイル内)で、いくつかのアセンブリバージョン関連の属性を設定できます。

  • [assembly: AssemblyVersion("1.0.0.0")]:
    これが最も重要なバージョンです。CLRは、アセンブリを読み込む際の参照解決(バインディング)にこのバージョンを使用します。厳密名付きアセンブリの場合、デフォルトでは完全に一致するバージョン(例: 1.0.0.0)しか読み込みません。バージョン 1.0.0.1 は別のものとして扱われます。

  • [assembly: AssemblyFileVersion("1.0.5.2314")]:
    これはWindowsエクスプローラーでファイルのプロパティを見たときに表示されるバージョンです。CLRの参照解決には使用されません。通常、ビルド番号やリビジョン番号を含め、より詳細な情報を持たせます。デプロイやトラブルシューティング時に、どのビルドのファイルかを特定するのに役立ちます。

  • [assembly: AssemblyInformationalVersion("1.0.5-beta+2314.ab12cd")]:
    これもCLRの参照解決には使用されません。製品のマーケティングバージョンや、セマンティックバージョニング(後述)のプレリリース情報 (-beta) やビルドメタデータ (+ab12cd) を含む自由な形式の文字列を格納できます。NuGetは、この属性をパッケージのバージョンとして使用します。

3.2. セマンティックバージョニング (Semantic Versioning – SemVer)

NuGetエコシステムと現代のソフトウェア開発では、セマンティックバージョニング (SemVer) という規約が広く採用されています。これは、バージョン番号に意味を持たせるためのシンプルなルールセットです。

フォーマットは MAJOR.MINOR.PATCH です。

  • MAJORバージョンは、互換性のないAPI変更を行ったときにインクリメントします。
  • MINORバージョンは、後方互換性を保ったまま機能を追加したときにインクリメントします。
  • PATCHバージョンは、後方互換性を保ったままバグ修正を行ったときにインクリメントします。

例えば、あるライブラリのバージョン 2.1.5 を使用しているアプリケーションは、2.1.6 (パッチ) や 2.2.0 (マイナー) には安全にアップグレードできるはずですが、3.0.0 (メジャー) へのアップグレードは、破壊的変更が含まれる可能性があるため注意が必要であることを示唆します。

SemVerは、依存関係の更新を自動化し、バージョン競合のリスクを予測する上で非常に重要です。

3.3. CLRのバージョン解決ポリシー (Binding Policy)

前述の通り、厳密名付きアセンブリを参照する場合、CLRはデフォルトで AssemblyVersion が完全に一致するものを探します。しかし、これではライブラリのバグ修正版(例: 1.0.0.0 から 1.0.0.1)をリリースしただけで、そのライブラリを参照するすべてのアプリケーションを再コンパイルする必要があり、非常に不便です。

この問題を解決するのがアセンブリバインディングリダイレクト (Assembly Binding Redirect) です。これは、アプリケーションの構成ファイル(.exeの場合はApp.config、Webアプリケーションの場合はWeb.config)で設定します。

“`xml













“`

この設定により、SomeLibrary のバージョン 1.0.0.0 を要求するコードがあっても、CLRは代わりにバージョン 2.0.0.0 を読み込みます。Visual Studioは、ビルド時にNuGetパッケージのバージョン不一致などを検出し、このバインディングリダイレクトを自動的に生成・更新してくれることが多いです。

SDK-styleプロジェクトでは、このプロセスはさらに自動化されており、最終的な出力フォルダに [AppName].deps.json というファイルが生成され、その中に依存関係とバージョン情報が記述されます。


第4章: 現代的な.NET開発におけるベストプラクティス (Modern .NET Best Practices)

テクノロジーは進化し続けており、アセンブリの管理方法も例外ではありません。

4.1. SDK-styleプロジェクトの活用

新しい.NETプロジェクト(.NET Core / .NET 5以降)では、SDK-styleの.csprojファイルが標準です。これは従来の形式に比べて、以下のような多くの利点があります。

  • 簡潔さ: ファイルが非常にスリムになり、手動で編集しやすくなりました。
  • 暗黙的な参照: Microsoft.NET.Sdk などのSDKを指定するだけで、多くの共通アセンブリやNuGetパッケージが暗黙的に参照されます。
  • PackageReferenceが標準: 推移的な依存関係の管理に優れた<PackageReference>がデフォルトです。
  • ワイルドカード: <Compile Include="**\*.cs" /> のように、フォルダ内のすべてのC#ファイルを自動的にコンパイル対象に含めることができます。

可能であれば、古い.NET FrameworkプロジェクトもSDK-styleに移行することを検討する価値があります。

4.2. 依存関係の管理戦略

  • 最小限の依存関係: プロジェクトに不要なライブラリを追加しないようにしましょう。依存関係が増えるほど、競合のリスクやセキュリティ脆弱性の攻撃対象領域が広がります。
  • バージョンの固定 vs. フローティング: <PackageReference Include="MyLib" Version="6.0.1" /> のようにバージョンを固定するとビルドの再現性が高まります。一方で、<PackageReference Include="MyLib" Version="6.0.*" /> のようにフローティングバージョンを使うと、常に最新のパッチバージョンを取得できますが、予期せぬ変更でビルドが壊れるリスクもあります。一般的には、アプリケーションではバージョンを固定し、ライブラリではより柔軟な範囲指定を使うことが推奨されます。
  • 依存関係の更新: 定期的に依存関係をチェックし、セキュリティ修正やバグ修正を取り込むことが重要です。以下のコマンドが役立ちます。
    • dotnet list package --outdated: 古いパッケージを一覧表示します。
    • dotnet list package --vulnerable: 既知の脆弱性を持つパッケージをスキャンします。

4.3. 依存関係地獄 (Dependency Hell) の回避策

最も典型的な問題が ダイアモンド依存問題 (Diamond Dependency Problem) です。

  • あなたのアプリケーション AppLibraryALibraryB に依存している。
  • LibraryACommonLib のバージョン 1.0 に依存している。
  • LibraryBCommonLib のバージョン 2.0 に依存している。

この場合、AppCommonLib のバージョン 1.02.0 のどちらを使えばよいのでしょうか?

NuGet (<PackageReference>) はこの問題を解決するために、「最も近いものが勝つ (nearest-wins)」ルールと、互換性のある範囲でのバージョン引き上げを試みます。上記の例では、App が直接参照しているバージョンが優先されます。もしAppが直接参照していなければ、通常はより高いバージョン(この場合は2.0)が選ばれますが、これがLibraryAと互換性がない場合、ビルドエラーまたは警告が発生します。

このような複雑な競合を解決するための究極のテクニックが extern alias です。

“`csharp
// .csprojファイルでエイリアスを定義


..\libs\v1\CommonLib.dll
CommonV1


..\libs\v2\CommonLib.dll
CommonV2

// C#コードで使用
extern alias CommonV1;
extern alias CommonV2;

using System;
// using CommonLib; <- これは使えない

namespace MyConsoleApp
{
// v1の型を完全修飾名で使う
using V1_Widget = CommonV1::CommonLib.Widget;
// v2の型を完全修飾名で使う
using V2_Widget = CommonV2::CommonLib.Widget;

class Program
{
    static void Main(string[] args)
    {
        var widget1 = new V1_Widget();
        var widget2 = new V2_Widget();
        Console.WriteLine(widget1.GetVersion()); // "Version 1.0"
        Console.WriteLine(widget2.GetVersion()); // "Version 2.0"
    }
}

}
``extern alias` は、同じ名前空間と型名を持つ異なるバージョンのアセンブリを、1つのプログラム内で共存させるための強力な(しかし最後の手段とすべき)機能です。

4.4. .NET 5+におけるアセンブリの取り扱い

.NET 5以降、配置と実行モデルに関してさらに新しい機能が導入されました。

  • 単一ファイルアプリケーション: アプリケーションとそのすべての依存アセンブリを1つの実行可能ファイルにバンドルできます。これにより、配布が非常に簡単になります。
  • アセンブリのトリミング: アプリケーションで実際に使用されていないコードをアセンブリから削除し、最終的なファイルサイズを削減する機能です。特に、コンテナ化されたアプリケーションやサーバーレス環境で有効です。

第5章: 実践的なシナリオとトラブルシューティング (Practical Scenarios and Troubleshooting)

理論を学んでも、現実の問題に直面することは避けられません。ここでは、よくある問題とその解決策を見ていきましょう。

5.1. FileNotFoundException / CouldNotLoadFileOrAssemblyException

これは、開発者が最も頻繁に遭遇する実行時エラーです。CLRが必要なアセンブリを見つけられないか、読み込めない場合に発生します。原因を切り分けるには、以下の点を確認します。

  1. 参照パスは正しいか?: .csproj ファイルの HintPath が正しい場所を指していますか?
  2. ビルド時にコピーされているか?: 参照のプロパティで「ローカルにコピー (Copy Local)」が True になっていますか?(SDK-styleでは PrivateAssetsExcludeAssets の設定を確認)
  3. GACに依存していないか?: GACにのみ存在するアセンブリを参照していませんか?配布先の環境にもそのアセンブリがインストールされていますか?
  4. バージョン、公開キートークンは正しいか?: エラーメッセージには、CLRが探していたアセンブリの完全な厳密名が表示されます。実際に配置されている .dll のバージョンと一致していますか?
  5. アーキテクチャの不一致: 32ビット (x86) アプリケーションが64ビット (x64) のDLLを読み込もうとしていませんか?(またはその逆)

これらの原因を特定するための最強のツールが Fusion Log Viewer (fuslogvw.exe) です。これはVisual Studioのコマンドプロンプトから起動できます。ロギングを有効にすると、CLRがアセンブリを検索したすべての場所と、バインディングに失敗した理由を詳細に記録してくれます。エラーログには「The operation failed. Bind result: hr = 0x80070002. The system cannot find the file specified.」のような具体的な情報が出力され、問題解決の大きな手がかりとなります。

5.2. バージョン不一致問題の解決

ビルド時または実行時にバージョンの競合が発生した場合、以下の手順で解決を試みます。

  1. NuGetパッケージの更新: ソリューション全体のNuGetパッケージを最新の互換バージョンに更新してみます。Visual Studioの「ソリューションのNuGetパッケージの管理」で、「統合」タブを使うと、プロジェクト間で異なるバージョンのパッケージを簡単に見つけて統一できます。
  2. バインディングリダイレクトの確認: app.configweb.configbindingRedirect が正しいか確認します。Visual Studioが自動生成したもので問題が解決しない場合、手動で調整が必要なこともあります。
  3. 中央パッケージ管理 (Central Package Management): 大規模なソリューションでは、Directory.Packages.props ファイルを使って、ソリューション全体で使用するパッケージのバージョンを一元管理できます。これにより、プロジェクトごとにバージョンがバラバラになるのを防ぎます。

5.3. .NET Frameworkと.NET Core/.NET 5+間の相互運用

異なる.NETプラットフォーム間でコードを共有したい場合、.NET Standard がその架け橋となります。.NET Standardは、さまざまな.NET実装(.NET Framework, .NET Core, Xamarinなど)で共通して利用できるAPIの「仕様」です。

.NET Standardをターゲットにしたライブラリをビルドすれば、そのライブラリは.NET Standardの特定のバージョンをサポートするすべての.NETプラットフォームから参照できます。例えば、.NET Standard 2.0 は、.NET Framework 4.6.1以降、.NET Core 2.0以降などでサポートされており、非常に幅広い互換性を持っています。

既存の.NET Frameworkライブラリを.NET Core/.NET 5+に移行可能か評価するには、.NET Portability Analyzer というツールが役立ちます。これは、コードをスキャンし、ターゲットプラットフォームで利用できないAPIを報告してくれます。


結論

アセンブリの参照とバージョニングは、一見すると地味で複雑なトピックかもしれません。しかし、その仕組みを深く理解することは、.NET開発者が堅牢で、保守性が高く、スケーラブルなアプリケーションを構築するための不可欠なスキルです。

本記事では、アセンブリの基礎から、厳密名、GAC、さまざまな参照方法、そしてNuGetによる現代的なパッケージ管理までを網羅しました。また、バージョニングの核心であるAssemblyVersionとセマンティックバージョニング、そして「依存関係地獄」を乗り越えるためのバインディングリダイレクトやextern aliasといった高度なテクニックも解説しました。

重要な概念をまとめると以下のようになります。

  • アセンブリは配置とバージョニングの基本単位であり、マニフェストにそのアイデンティティが記録される。
  • NuGetは現代の参照管理の標準であり、推移的な依存関係を自動で解決してくれる。
  • AssemblyVersionはCLRのバインディングに使われAssemblyInformationalVersionはSemVerとNuGetで使われる。
  • バインディングリダイレクトは、バージョン不一致を解決するための重要な構成設定である。
  • Fusion Log Viewerは、アセンブリ読み込みエラーの究極の診断ツールである。

これらの知識を武器にすれば、あなたはもはや依存関係の問題を恐れる必要はありません。むしろ、それを巧みに操り、クリーンで安定したソフトウェアアーキテクチャを設計できるはずです。技術は常に進化しますが、ここで学んだ基本原則は、これからもあなたの.NET開発者としてのキャリアを力強く支え続けてくれることでしょう。

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