VirtualBoxとは?メリット・デメリットと基本的な使い方を徹底解説


VirtualBoxとは?メリット・デメリットと基本的な使い方を徹底解説

はじめに

「パソコンの中に、もう一台の仮想的なパソコンを作りたい」と考えたことはありませんか?例えば、「Windowsパソコンを使いながらLinuxを動かしてプログラミングの学習をしたい」「古いバージョンのOSでしか動かないソフトウェアを安全に使いたい」「新しいOSを試してみたいけれど、今の環境を壊したくない」といったニーズは、IT技術者から一般ユーザーまで幅広く存在します。

こうした願いを叶えてくれるのが、今回徹底解説する「VirtualBox」です。

VirtualBoxは、一言で言うと「手元のコンピュータ上に、仮想的なコンピュータ(仮想マシン)を作成し、実行するためのソフトウェア」です。この「仮想化」という技術を使うことで、まるで独立したコンピュータがもう一台あるかのように、異なるオペレーティングシステム(OS)をインストールし、実行することが可能になります。

この記事は、以下のような方々を対象としています。

  • プログラミングやサーバー構築を学習したい学生やIT初心者の方
  • 複数のOS環境でアプリケーションの動作をテストする必要がある開発者の方
  • 普段使っているOSとは別のOS(例:WindowsユーザーがLinuxやmacOS)を試してみたい方
  • 昔のソフトウェアやゲームを動かすため、古いOS環境を構築したい方
  • コンピュータの仕組みやネットワークについて、実際に手を動かしながら深く学びたい方

この記事を最後までお読みいただくことで、VirtualBoxがどのようなソフトウェアなのかという基本的な概念から、その具体的なメリット・デメリット、そして実際に仮想マシンを作成してOSをインストールし、快適に使うための設定方法まで、一連の流れを体系的に理解することができます。さあ、VirtualBoxの世界へ一歩踏み出し、あなたのコンピュータの可能性を最大限に引き出しましょう。

第1章: VirtualBoxとは?仮想化技術の基本

まずは、VirtualBoxの概要と、その根幹をなす「仮想化技術」について深く掘り下げていきましょう。これらの基本を理解することが、VirtualBoxを効果的に活用するための第一歩となります。

1. VirtualBoxの概要

  • 正式名称: Oracle VM VirtualBox
  • 開発元: Oracle Corporation
  • ライセンス: VirtualBox本体は、GNU General Public License, version 2 (GPLv2) の下で公開されているオープンソースソフトウェアです。これにより、個人利用、教育目的、評価目的においては完全に無料で利用できます。ただし、後述する高機能な「Extension Pack」の一部機能には、商用利用の場合にライセンス購入が必要となるため注意が必要です。
  • 対応OS(ホストOS): VirtualBoxをインストールする側のOSを「ホストOS」と呼びます。VirtualBoxは非常に幅広いホストOSに対応しており、Windows, macOS, Linux, Solarisなど、現在主流となっているほとんどのOS上で動作します。
  • 対応OS(ゲストOS): 仮想マシン上にインストールするOSを「ゲストOS」と呼びます。こちらも非常に多岐にわたるOSをサポートしており、Windows(最新のWindows 11から、Windows XP、さらにはWindows 98のようなレガシーOSまで)、各種Linuxディストリビューション(Ubuntu, CentOS, Debianなど)、Solaris, BSD系OSなどをゲストとして実行できます。macOSも技術的には可能ですが、ライセンス上の制約があります(後述)。

VirtualBoxは、世界中の開発者やIT愛好家に広く利用されており、その歴史も古く、安定性と機能性には定評があります。

2. 仮想化技術とは?

VirtualBoxを理解する上で欠かせないのが「仮想化」の概念です。

仮想化(Virtualization)とは、CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークインターフェースといった物理的なコンピュータのハードウェアリソースを、ソフトウェアによって抽象化し、論理的な(仮想的な)リソースとして見せかける技術です。この仮想的なリソースを組み合わせて作られたコンピュータが「仮想マシン(Virtual Machine, VM)」と呼ばれます。

ユーザーは、この仮想マシンに対して、あたかも物理的なコンピュータと同じようにOSをインストールし、アプリケーションを実行することができます。

仮想化ソフトウェアには、大きく分けて2つのタイプが存在します。

① ホスト型仮想化(VirtualBoxはこちら)

これは、WindowsやmacOSといった既存のOS(ホストOS)の上に、一つのアプリケーションとして仮想化ソフトウェアをインストールする方式です。

【図解イメージ】
+------------------------------------+
| アプリケーション |
+------------------------------------+
| ゲストOS (例: Linux) |
+------------------------------------+
| 仮想マシン (VirtualBox) |
+------------------------------------+
| ホストOS (例: Windows) |
+------------------------------------+
| 物理ハードウェア |
+------------------------------------+

メリット:
* 導入が手軽で、普段使っているPCにアプリケーションをインストールする感覚で始められる。
* ホストOSの機能(ファイル管理、周辺機器の利用など)と並行して利用できる。

デメリット:
* ホストOSを介してハードウェアにアクセスするため、後述のハイパーバイザー型に比べて若干のパフォーマンスオーバーヘッドがある。

VirtualBoxの他に、VMware Workstation Player/Proなどがこのタイプに分類されます。

② ハイパーバイザー型(ベアメタル型)仮想化

これは、物理的なハードウェア上に直接「ハイパーバイザー」と呼ばれる仮想化専用のソフトウェアをインストールする方式です。ホストOSは存在せず、ハイパーバイザーが直接ハードウェアを管理し、その上で複数の仮想マシンを動作させます。

【図解イメージ】
+------------------+ +------------------+
| ゲストOS 1 | | ゲストOS 2 | ...
+------------------+ +------------------+
| ハイパーバイザー |
+------------------------------------+
| 物理ハードウェア |
+------------------------------------+

メリット:
* ホストOSを介さないため、オーバーヘッドが少なく、パフォーマンスが高い。
* サーバー環境で多数の仮想マシンを効率的に運用するのに適している。

デメリット:
* 導入・管理には専門的な知識が必要。
* 専用の管理用PCが別途必要になることが多い。

VMware vSphere/ESXi, Microsoft Hyper-V, KVM (Kernel-based Virtual Machine) などがこのタイプに分類されます。

個人ユーザーが手元のPCで手軽に仮想環境を試すには、ホスト型であるVirtualBoxが最適と言えるでしょう。

3. なぜ仮想化が必要なのか?

仮想化技術は、現代のITインフラにおいて不可欠なものとなっています。その理由は多岐にわたります。

  • ハードウェアリソースの有効活用: 1台の高性能な物理サーバー上で複数の仮想マシンを動かすことで、CPUやメモリを無駄なく使い切ることができます。これは主にサーバー環境でのメリットです。
  • 開発・テスト環境の構築: 開発者は、クリーンな環境でアプリケーションのテストを行ったり、異なるOSでの動作確認をしたりする必要があります。仮想マシンを使えば、必要な環境を瞬時に作成・破棄でき、ホストOSを汚すこともありません。
  • レガシーシステムの延命: 古いOSでしか動作しない業務システムなどを、最新のハードウェア上の仮想マシンで動かし続けることができます。
  • セキュリティと分離(サンドボックス): 仮想マシンはホストOSから隔離された空間(サンドボックス)で動作します。そのため、万が一ゲストOSがウイルスに感染しても、ホストOSに影響が及ぶリスクを最小限に抑えられます。怪しいファイルを安全な場所で開いてみたい、といった用途にも使えます。
  • 教育・学習目的: OSの仕組みやネットワークの構築、サーバーソフトウェアの設定などを、失敗を恐れずに試行錯誤できます。問題が発生しても、仮想マシンを削除して作り直すか、後述する「スナップショット」機能で元の状態に簡単に戻せます。

このように、VirtualBoxと仮想化技術は、単に「別のOSを動かす」だけでなく、ITに関わる様々な活動をより安全、効率的、かつ柔軟にしてくれる強力なツールなのです。

第2章: VirtualBoxのメリットとデメリット

どんなに優れたソフトウェアにも、長所と短所があります。VirtualBoxを導入する前に、そのメリットとデメリットを正確に把握し、自分の目的や用途に適しているかを判断することが重要です。

1. VirtualBoxのメリット

VirtualBoxが世界中で広く使われている理由は、数多くの強力なメリットがあるからです。

① 完全無料(個人・評価利用において)
これがVirtualBox最大の魅力と言っても過言ではありません。コアとなる機能はすべてGPLv2ライセンスで提供されており、個人が学習目的で使ったり、企業が導入を検討するために評価したりする際には、一切費用がかかりません。高価な仮想化ソフトウェアが多い中で、無料でこれだけの機能を試せるのは非常に大きなアドバンテージです。

② マルチプラットフォーム対応
前述の通り、VirtualBoxはWindows, macOS, Linuxといった主要なデスクトップOSをホストOSとしてサポートしています。これにより、あなたがどのOSを使っていようとも、同じ操作感で仮想環境を構築できます。例えば、職場のWindows PCで作成した仮想マシンを、自宅のMacに持ってきて動かすといったことも(設定を合わせれば)可能です。

③ 豊富なゲストOSサポート
VirtualBoxは、非常に幅広いゲストOSに対応しています。最新のWindows 11やUbuntu 22.04はもちろんのこと、サポートが終了したWindows 7やWindows XP、さらにはMS-DOSのようなレガシーOSまで動かすことができます。これにより、古いソフトウェア資産を動かしたり、OSの歴史を学んだりといった多様なニーズに応えることができます。

④ 直感的で使いやすいインターフェース
VirtualBoxの管理画面(VirtualBoxマネージャー)は、GUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)が非常によく練られており、初心者でも直感的に操作できます。仮想マシンの作成はウィザード形式で進められ、メモリやディスクサイズの割り当てもスライダーで簡単に行えます。複雑なコマンドを打つ必要なく、基本的な操作が完結するのは大きな利点です。

⑤ 無料で利用できる豊富な機能
VirtualBoxは無料でありながら、商用ソフトウェアに匹敵するような高度な機能を数多く搭載しています。
* スナップショット: 仮想マシンの一時点の状態を「写真」のように保存する機能。設定変更やソフトウェアインストールの前にスナップショットを撮っておけば、何か問題が起きても瞬時にその時点まで戻すことができます。
* クローン: 既存の仮想マシンを完全にコピーして、新しい仮想マシンを作成する機能。テスト環境を複数用意したい場合に便利です。
* 共有フォルダ: ホストOSとゲストOSの間で、特定のフォルダを共有する機能。ファイルのやり取りが非常にスムーズになります。
* シームレスモード: ゲストOSのウィンドウを、あたかもホストOSのネイティブアプリケーションのようにデスクトップ上に表示させる機能。OSの境界を感じさせないシームレスな操作感を実現します。
* テレポーテーション: 稼働中の仮想マシンを、ネットワークを介して別のホストマシンに移動させる高度な機能。

これらの機能については、後の章で詳しく解説します。

⑥ 活発なコミュニティと豊富な情報
長年の歴史と多くのユーザーに支えられているため、VirtualBoxに関する情報はインターネット上に豊富に存在します。公式ドキュメントはもちろんのこと、個人ブログやQ&Aサイト、動画チュートリアルなど、あらゆるレベルの情報が見つかります。インストールでつまずいた時や、特定の設定で困った時に、解決策を見つけやすいのは大きな安心材料です。

2. VirtualBoxのデメリット

一方で、VirtualBoxにはいくつかのデメリットや注意点も存在します。これらを理解しておくことで、後々のトラブルを避けることができます。

① パフォーマンスのオーバーヘッド
VirtualBoxはホストOS上で動作するホスト型仮想化であるため、ホストOSとゲストOSの両方がリソースを消費し、さらに仮想化処理そのものにもCPUパワーを使います。そのため、物理マシンで直接OSを動かす(ネイティブ)場合に比べて、パフォーマンスは必ず低下します。特に、CPUに高負荷をかける動画エンコードやコンパイル、大量のメモリを消費する作業などでは、その差が顕著に感じられることがあります。

② グラフィック性能の限界
VirtualBoxにはゲストOSのグラフィック表示を高速化する「3Dアクセラレーション」機能がありますが、その性能は限定的です。ホストOSのGPU(グラフィックボード)の性能を直接フルに引き出すことはできません。したがって、最新の3Dゲームをプレイしたり、CADや動画編集といった高度なグラフィック性能を要求されるクリエイティブな作業を行ったりするには全く向いていません。これらの用途には、Boot Camp(Mac)やデュアルブートといった、ネイティブ環境でOSを動かす方法を検討する必要があります。

③ macOSゲストのサポートが限定的
技術的にはVirtualBox上でmacOSをゲストOSとして動かすことも可能ですが、これには大きな制約があります。Appleのソフトウェアライセンス使用許諾契約では、macOSの仮想化はApple製ハードウェア上でのみ許可されています。つまり、Windows PCやLinux PC上のVirtualBoxにmacOSをインストールすることはライセンス違反となります。また、ライセンス的に許可されているMac上のVirtualBoxでmacOSを動かす場合でも、その設定は非常に複雑で、動作が不安定になることが多く、公式なサポートも手厚いとは言えません。

④ 商用利用時のライセンスに関する注意
VirtualBox本体は無料ですが、USB 2.0/3.0デバイスのサポート、VirtualBox RDP(リモートデスクトッププロトコル)、ディスクイメージの暗号化といった高度な機能を提供する「VirtualBox Extension Pack」は、個人利用・教育・評価目的に限り無料です。企業環境などで商用利用する場合は、ライセンス(Oracle VM VirtualBox Enterprise)を購入する必要があります。この点を誤解して商用環境で無償利用してしまうとライセンス違反になるため、特にビジネスで利用する際には注意が必要です。

⑤ 高度な設定の複雑さ
基本的な使い方は簡単ですが、パフォーマンスを最大限に引き出すためのチューニングや、複雑なネットワーク設定(ブリッジ接続、ホストオンリーアダプターなど)を構成しようとすると、仮想化やネットワークに関する専門的な知識が必要になります。初心者にとっては、この部分が壁となる可能性があります。

⑥ ハードウェアへの依存と競合問題
VirtualBoxを快適に利用するためには、CPUが仮想化支援機能(Intel VT-xまたはAMD-V)に対応し、BIOS/UEFIで有効になっている必要があります。近年のPCであればほとんど対応していますが、古いPCでは利用できない場合があります。
また、Windows環境では、Microsoftの仮想化技術であるHyper-Vや、それを利用するWSL2 (Windows Subsystem for Linux 2)Windowsサンドボックスなどが有効になっていると、VirtualBoxが正常に動作しない、あるいはパフォーマンスが著しく低下する「競合問題」が発生することがあります。これらを無効化する手順が必要になる場合があります。

これらのメリット・デメリットを踏まえた上で、VirtualBoxは「コストをかけずに、手元のPCで様々なOS環境を試し、学習や開発、テストに活用したい」というニーズに対して、最もバランスの取れた選択肢の一つであると言えるでしょう。

第3章: VirtualBoxのインストールと初期設定

理論を学んだところで、いよいよ実践です。ここでは、VirtualBoxをあなたのコンピュータにインストールし、基本的な設定を行うまでの手順を解説します。今回は、多くのユーザーが利用しているWindowsを例に進めますが、macOSでも基本的な流れは同じです。

1. システム要件の確認

インストールを始める前に、お使いのPCがVirtualBoxを動かすための最低限の条件を満たしているか確認しましょう。

  • CPU: 仮想化支援機能(Intel VT-x または AMD-V)をサポートしている64-bit CPU。最近のPCであればほぼ間違いなく対応していますが、念のため確認しましょう。この機能はBIOS/UEFI設定で無効になっていることがあるため、もしVirtualBoxがエラーを出す場合は設定を見直す必要があります。
  • メモリ: 最も重要な要素です。ホストOSとゲストOSの両方が快適に動作するだけの十分な容量が必要です。最低でも8GBは欲しいところです。16GB以上あれば、複数の仮想マシンを同時に動かすなど、より快適な運用が可能になります。
  • ストレージ(HDD/SSD): ホストOS、VirtualBox本体、そして作成する仮想マシンのイメージファイル(仮想ハードディスク)を保存するための十分な空き容量が必要です。仮想ハードディスクは数十GB単位のサイズになるため、最低でも50GB以上の空き容量を確保しておくことをお勧めします。また、パフォーマンス向上のため、高速なSSD(ソリッドステートドライブ)にインストールすることを強く推奨します。

2. インストーラーのダウンロード

  1. WebブラウザでVirtualBoxの公式サイトにアクセスします。
    https://www.virtualbox.org/

  2. トップページにある大きな「Download VirtualBox x.x」というボタンをクリックします。(x.xはバージョン番号)

  3. ダウンロードページに移動します。お使いのホストOSに合ったパッケージを選択してください。

    • Windowsをお使いの場合: 「Windows hosts
    • macOSをお使いの場合: 「macOS / Intel hosts」または「Developer preview for macOS / Arm64 hosts」(Apple Silicon Macの場合)
    • Linuxをお使いの場合: お使いのディストリビューションに合ったパッケージを選択
  4. 次に、同じページにある「VirtualBox x.x.x Oracle VM VirtualBox Extension Pack」というリンクをクリックし、「All supported platforms」と書かれたリンクからExtension Packもダウンロードしておきましょう。これは後ほど、USB機器の利用やリモートデスクトップなどの便利な機能を追加するために必要になります。

これで、インストールに必要なファイルが2つ(VirtualBox本体のインストーラーと、Extension Packのファイル)揃いました。

3. Windowsへのインストール手順

  1. ダウンロードしたVirtualBoxのインストーラー(.exeファイル)をダブルクリックして実行します。

  2. 「Welcome」画面が表示されたら、「Next」をクリックします。

  3. 「Custom Setup」画面では、インストールするコンポーネントを選択できます。基本的にはデフォルトのままで問題ありません。「Next」をクリックします。

  4. 次の画面では、スタートメニューへの登録やショートカットの作成に関するオプションが表示されます。必要に応じてチェックを調整し、「Next」をクリックします。

  5. 「Warning: Network Interfaces」という警告が表示されます。これは、インストール中に一時的にネットワークが切断されることを知らせるものです。問題なければ「Yes」をクリックして続行します。

  6. 「Ready to Install」画面で「Install」ボタンをクリックすると、インストールが開始されます。ユーザーアカウント制御(UAC)のプロンプトが表示されたら「はい」をクリックしてください。

  7. インストール中に、「このデバイスソフトウェアをインストールしますか?」というOracle Corporationのソフトウェアに関する確認画面が数回表示されることがあります。これらはVirtualBoxが正常に動作するために必要なドライバですので、すべて「インストール」を選択してください。

  8. インストールが完了すると、「Oracle VM VirtualBox installation is complete.」という画面が表示されます。「Start Oracle VM VirtualBox … after installation」にチェックが入った状態で「Finish」をクリックすると、VirtualBoxが自動的に起動します。

4. macOSへのインストール手順

  1. ダウンロードした.dmgファイルをダブルクリックして開きます。
  2. 表示されたウィンドウの中にある「VirtualBox.pkg」というアイコンをダブルクリックします。
  3. インストーラーが起動するので、画面の指示に従って「続ける」や「インストール」をクリックしていきます。パスワードの入力を求められたら、Macのログインパスワードを入力します。
  4. 【重要】 macOSのセキュリティ機能により、インストール中にOracleのソフトウェアがブロックされることがあります。その場合、「システム環境設定」(macOS Ventura以降は「システム設定」)を開き、「セキュリティとプライバシー」→「一般」タブに移動します。下部に「”Oracle America, Inc.”からのソフトウェアの読み込みがブロックされました」といったメッセージが表示されているので、鍵アイコンをクリックしてロックを解除し、「許可」ボタンをクリックしてください。この操作を行わないと、VirtualBoxが正常に動作しません。
  5. インストールが完了したら、インストーラーを閉じます。

5. Extension Packのインストール

VirtualBoxをより便利に使うために、先ほどダウンロードしたExtension Packをインストールします。この手順はWindowsでもmacOSでも共通です。

  1. VirtualBoxを起動します。
  2. メニューバーから「ファイル」→「環境設定」(macOSの場合は「VirtualBox」→「設定」)を選択します。
  3. 左側のメニューから「機能拡張」を選択します。
  4. 右側にある小さな「+」のアイコン(追加)をクリックします。
  5. ファイル選択ダイアログが開くので、先ほどダウンロードしたExtension Packのファイル(.vbox-extpackという拡張子)を選択し、「開く」をクリックします。
  6. インストール確認のダイアログが表示されるので、「インストール」をクリックします。
  7. ライセンスの同意書が表示されます。内容をよく読み、下までスクロールして「同意します」をクリックします。
  8. インストールが完了すると、「機能拡張パッケージ … が正常にインストールされました。」というメッセージが表示されます。「OK」をクリックして設定画面を閉じます。

これで、VirtualBoxのインストールと初期設定は完了です。次はいよいよ、このキャンバスに仮想マシンという絵を描いていきましょう。

第4章: 基本的な使い方 – 仮想マシンの作成とOSのインストール

この章では、VirtualBoxの最も基本的な操作である「仮想マシンの作成」と「ゲストOSのインストール」を、一歩ずつ丁寧に行います。ここでは、無料で入手でき、初心者にも扱いやすい人気のLinuxディストリビューション「Ubuntu Desktop 日本語 Remix」をインストールする手順を例に解説します。

1. 準備:ゲストOSのISOイメージを入手する

物理的なPCにOSをインストールする際には、インストールDVDやUSBメモリが必要ですよね。仮想マシンの場合、それに相当するのが「ISOイメージファイル」です。ISOイメージとは、CDやDVDの内容を一つのファイルにまとめたもので、仮想的な光学ドライブとして仮想マシンに接続(マウント)して使います。

  1. Webブラウザで「Ubuntu Desktop 日本語 Remix」の公式サイトにアクセスします。
    https://www.ubuntulinux.jp/download/ja-remix

  2. 最新のLTS(長期サポート)版のダウンロードリンクをクリックし、ISOイメージファイル(ファイルサイズは数GBあります)をPCにダウンロードします。ダウンロードには時間がかかる場合があります。

このISOファイルが、これから作成する仮想マシンのための「インストールディスク」となります。

2. 仮想マシンの新規作成ウィザード

  1. VirtualBoxマネージャーを起動し、ツールバーにある青い「新規」アイコンをクリックします。

  2. 「仮想マシンの作成」ウィザードが起動します。各項目を設定していきましょう。

    • 名前とオペレーティングシステム
      • 名前: 仮想マシンを識別するための分かりやすい名前を入力します。例えば「Ubuntu 22.04 Desktop」のように入力しましょう。
      • ISO Image: ここで「」の右にある▼をクリックし、「Other…」から先ほどダウンロードしたUbuntuのISOイメージファイルを選択します。
      • ISOイメージを選択すると、VirtualBoxがファイル名を解析し、下の「タイプ」と「バージョン」を自動的に「Linux」と「Ubuntu (64-bit)」に設定してくれます。これは非常に便利な機能です。もし自動で設定されない場合は、手動で正しく選択してください。
      • Skip Unattended Installation」にチェックを入れます。今回は手動インストールの手順を学ぶためです。(無人インストールは、ユーザー名やパスワードを予め設定してインストールを自動化する上級者向けの機能です)
  3. 設定したら「次へ」をクリックします。

    • ハードウェア
      • メインメモリー: 仮想マシンに割り当てるメモリの量を設定します。スライダーを動かすか、数値を直接入力します。ホストOSとゲストOSでメモリを共有する形になるため、割り当てすぎるとホストOSの動作が不安定になります。PCに搭載されている物理メモリの半分を超えない範囲で設定するのが一般的です。例えば、物理メモリが16GBなら、4096MB (4GB) ~ 8192MB (8GB) 程度が妥当な範囲です。今回は4096MBに設定してみましょう。
      • プロセッサー: 仮想マシンに割り当てるCPUコアの数を設定します。これも、物理CPUのコア数の半分以下に設定するのが目安です。例えば4コアのCPUなら2コア、8コアのCPUなら4コアといった具合です。今回は2CPUsに設定してみましょう。
  4. 設定したら「次へ」をクリックします。

    • 仮想ハードディスク
      • Create a Virtual Hard Disk Now にチェックが入っていることを確認します。
      • ディスクサイズ: 仮想マシン用のハードディスクのサイズを設定します。Ubuntu Desktopの場合、最低でも25GBは推奨されます。後から増やすのは少し手間がかかるので、少し余裕をもって30.00 GBなどに設定しておくと良いでしょう。
      • ここでは、ファイルタイプ可変/固定サイズの選択肢は表示されませんが、デフォルトではVirtualBox標準の「VDI」形式で、容量を効率的に使える「可変サイズ」が選択されています。
  5. 設定したら「次へ」をクリックします。

  6. 最後に「概要」画面が表示され、これまで設定した内容の確認ができます。問題がなければ「完了」ボタンをクリックします。

これで、VirtualBoxマネージャーの左ペインに「Ubuntu 22.04 Desktop」という名前の仮想マシンが作成されました。まだ電源の入っていない、空っぽのコンピュータが一つできた状態です。

3. 仮想マシンの設定(起動前の最終確認)

起動する前に、いくつか設定を確認・調整しておくと、より快適に動作します。

  1. 作成した仮想マシンを選択し、ツールバーの「設定」アイコンをクリックします。
  2. 左側のメニューから「ディスプレイ」を選択します。
    • ビデオメモリー: スライダーを動かして、割り当て可能な最大値(通常は128MB)に設定します。
    • グラフィックコントローラー: 「VBoxSVGA」が選択されていることを確認します。
    • アクセラレーション: 「3Dアクセラレーションを有効化」にチェックを入れます。(これは後述のGuest Additionsをインストールした後に真価を発揮します)
  3. (念のため)「ストレージ」を選択します。
    • 「コントローラー: IDE」の下に、先ほど指定したUbuntuのISOファイルが接続されていることを確認します。もし空になっていたら、右側のディスクアイコンから再度ISOファイルを選択してください。
  4. 設定が終わったら「OK」をクリックして設定ウィンドウを閉じます。

4. 仮想マシンの起動とOSのインストール

いよいよ仮想マシンに命を吹き込みます。

  1. 仮想マシンを選択した状態で、ツールバーの緑色の矢印「起動」アイコンをクリックします。

  2. 新しいウィンドウが開き、仮想マシンが起動します。BIOS画面が一瞬表示された後、ISOイメージからブートが始まり、Ubuntuのインストーラーが起動します。

  3. 黒い画面にメニューが表示されたら、「Try or Install Ubuntu」を選択してEnterキーを押します。

  4. しばらくすると、見慣れたUbuntuのデスクトップとインストールウィザードが表示されます。ここからの手順は、物理的なPCにUbuntuをインストールするのと全く同じです。

    • ようこそ: 左側のリストから「日本語」を選択し、「Ubuntuをインストール」をクリックします。
    • キーボードレイアウト: 「Japanese」「Japanese」が選択されていることを確認し、「続ける」をクリックします。
    • アップデートと他のソフトウェア: 「通常のインストール」と「Ubuntuのインストール中にアップデートをダウンロードする」にチェックが入った状態で「続ける」をクリックします。
    • インストールの種類: ここが最も重要です。ディスクを削除してUbuntuをインストール」を選択します。警告が表示されますが、これは仮想ハードディスクに対して行われる操作なので、あなたのPCの実際のデータ(ホストOSのファイル)が消えることはありません。安心して「インストール」をクリックし、確認ダイアログで「続ける」をクリックします。
    • どこに住んでいますか?: 地図上で「Tokyo」が選択されていることを確認し、「続ける」をクリックします。
    • あなたの情報を入力してください: 名前、コンピュータの名前、ユーザー名、パスワードを設定します。このパスワードは忘れないようにしてください。設定後、「続ける」をクリックします。
  5. ファイルのコピーとインストールが始まります。完了するまで数分~数十分かかります。

  6. 「インストールが完了しました」というメッセージが表示されたら、「今すぐ再起動する」をクリックします。

  7. 【超重要ポイント】 再起動の途中で、「Please remove the installation medium, then press ENTER」というメッセージが黒い画面に表示されます。これは「インストールディスクを取り出してEnterキーを押してください」という意味です。
    この状態で、VirtualBoxのウィンドウ上部メニューから「デバイス」→「光学ドライブ」→「仮想ドライブからディスクを除去」を選択します。
    ディスクが取り出されたことを確認したら、仮想マシンのウィンドウをクリックしてアクティブにし、Enterキーを押します。
    (この操作をしないと、再びインストールメディアから起動してしまい、インストールがループしてしまいます。)

  8. Ubuntuが再起動し、ログイン画面が表示されます。先ほど設定したパスワードを入力してログインすれば、Ubuntuデスクトップが無事に表示されます。

おめでとうございます!これで、あなたのPCの中に、完全に動作するもう一台のLinux PCが誕生しました。

第5章: もっと便利に!Guest Additionsのインストールと便利な機能

無事にゲストOSをインストールできましたが、このままではまだ少し使いにくい点があります。例えば、マウスカーソルが仮想マシンのウィンドウの中に閉じ込められてしまったり(抜け出すには右Ctrlキーを押す必要がある)、ウィンドウサイズを変更してもゲストOSの画面解像度が追従しなかったりします。

これらの問題を解決し、ホストOSとゲストOSの連携を劇的に向上させてくれるのが「Guest Additions」です。これは、仮想マシンを快適に使うための必須ツールと言えます。

1. Guest Additionsとは?

Guest Additionsは、ゲストOS内にインストールする専用のデバイスドライバとシステムアプリケーションのパッケージです。これをインストールすることで、以下のような素晴らしい機能が有効になります。

  • マウス統合機能: マウスカーソルがホストOSとゲストOSのウィンドウ間をシームレスに行き来できるようになります。右Ctrlキーを押す必要はもうありません。
  • ウィンドウサイズへの自動リサイズ: 仮想マシンのウィンドウサイズを変更すると、ゲストOSのデスクトップ解像度が自動的に追従します。
  • 共有クリップボード: ホストOSでコピーしたテキストをゲストOSに貼り付けたり、その逆を行ったりできます。
  • ドラッグ&ドロップ: ホストOSのデスクトップからゲストOSのデスクトップへ、ファイルをドラッグ&ドロップでコピーできます。
  • 共有フォルダー: ホストOS上の特定のフォルダを、ゲストOSからネットワークドライブのようにアクセスできるようにします。ファイルのやり取りに非常に便利です。
  • グラフィック性能の向上: 先ほど設定した3Dアクセラレーションが有効になり、ゲストOSのUI描画などがスムーズになります。

2. Guest Additionsのインストール手順 (Ubuntuゲストの場合)

  1. 先ほどインストールしたUbuntu仮想マシンを起動し、ログインします。

  2. インストールに必要なパッケージを準備するため、ゲストOS(Ubuntu)のターミナル(端末)を開きます。(Ctrl+Alt+Tのショートカットキーが便利です)

  3. ターミナルで以下のコマンドを順番に実行し、システムを最新の状態にして、必要なビルドツールをインストールします。途中でパスワードを求められたら、ログインパスワードを入力してください。

    bash
    sudo apt update
    sudo apt upgrade -y
    sudo apt install build-essential dkms linux-headers-$(uname -r) -y

    uname -r は現在実行中のカーネルバージョンを自動で取得するコマンドです)

  4. インストールが完了したら、VirtualBoxのウィンドウ上部メニューから「デバイス」→「Guest Additions CDイメージの挿入…」をクリックします。

  5. すると、UbuntuのデスクトップにCDアイコン(VBox_GAs_…)が表示され、多くの場合、「このメディアには自動的に起動するソフトウェアが含まれています。」というダイアログが表示されます。「実行する」ボタンをクリックしてください。

  6. パスワードの入力を求められるので、ログインパスワードを入力して「認証」をクリックします。

  7. 新しいターミナルウィンドウが開き、Guest Additionsのインストールが自動的に開始されます。処理が完了するまでしばらく待ちます。

  8. 最後に「Press Return to close this window…」と表示されたら、Enterキーを押してウィンドウを閉じます。

  9. すべての変更を有効にするため、ゲストOS(Ubuntu)を再起動します。右上のメニューから「電源オフ/ログアウト」→「再起動」を選択します。

再起動後、マウスカーソルがウィンドウの内外を自由に行き来できるようになったり、ウィンドウサイズを変えるとデスクトップが追従するようになったりしていれば、Guest Additionsのインストールは成功です。

3. 便利な機能の紹介と使い方

Guest Additionsをインストールしたら、いよいよ便利な連携機能を使ってみましょう。これらの設定は、仮想マシンがシャットダウンしている状態で行います。

  1. VirtualBoxマネージャーでUbuntu仮想マシンを選択し、「設定」をクリックします。
  2. 「一般」→「高度」タブを開きます。
    • 共有クリップボード: ドロップダウンメニューから「双方向」を選択します。
    • ドラッグ&ドロップ: 同じく「双方向」を選択します。
    • これで、ホストとゲスト間でテキストやファイルのやり取りが自由に行えるようになります。「OK」をクリックして設定を保存し、仮想マシンを起動して試してみてください。

共有フォルダーの設定

ファイルの受け渡しに最も便利なのが共有フォルダーです。

  1. ホストOS(Windowsなど)の分かりやすい場所(例: デスクトップ)に、共有用のフォルダを新規作成します。(例: VBox_Share

  2. 仮想マシンがシャットダウンしている状態で、「設定」→「共有フォルダー」を開きます。

  3. 右側にある「+」のアイコン(新規共有フォルダーを追加します)をクリックします。

    • フォルダーのパス: 「▼」をクリックし、「その他…」から先ほど作成したホストOSのフォルダ(VBox_Share)を選択します。
    • フォルダー名: 自動でフォルダ名が入りますが、そのままでOKです。
    • 自動マウント: 必ずチェックを入れます。これにより、ゲストOS起動時に自動でフォルダが接続されます。
    • 永続化する: チェックを入れます。
    • 「OK」をクリックして追加し、さらに「OK」で設定ウィンドウを閉じます。
  4. 【重要】 このままではまだ使えません。ゲストOS側で、自分のユーザーを共有フォルダーにアクセスするためのグループ vboxsf に追加する必要があります。

    • Ubuntu仮想マシンを起動し、ターミナルを開きます。
    • 以下のコマンドを実行します。$USER の部分は自動的に現在のユーザー名に置き換えられます。
      bash
      sudo gpasswd -a $USER vboxsf
    • パスワードを入力して実行します。
  5. 設定を反映させるため、ゲストOSを再起動します。

再起動後、Ubuntuのファイルマネージャーを開くと、/media ディレクトリの中に sf_フォルダー名(例: sf_VBox_Share)という名前で共有フォルダーが表示され、自由にファイルを読み書きできるようになっているはずです。

スナップショット機能

最後に、非常に強力な「スナップショット」機能を紹介します。これは、仮想マシンの「セーブポイント」を作成する機能です。

  1. 仮想マシンを起動した状態でも、停止した状態でも構いません。
  2. VirtualBoxマネージャーの右上にある三本線のアイコンをクリックし、「スナップショット」を選択します。
  3. 「作成」ボタンをクリックし、スナップショットの名前(例: クリーンインストール直後)と説明を入力して「OK」をクリックします。
  4. これで、その瞬間の仮想マシンの状態(ディスク、メモリ、設定のすべて)が保存されました。

この後、ゲストOSに色々なソフトウェアをインストールしたり、システムの設定を大胆に変更したりして、もし動作がおかしくなったり、元に戻したくなったりした場合は、スナップショットのリストから保存したスナップショットを選択し、「リストア」ボタンをクリックするだけで、一瞬で保存した時点の状態に戻すことができます。これにより、失敗を恐れずに様々な実験が可能になります。

まとめ

この記事では、仮想化ソフトウェア「VirtualBox」について、その基本的な概念から、メリット・デメリット、そして具体的なインストール手順、仮想マシンの作成、OSのインストール、そしてGuest Additionsを使った便利な活用法まで、網羅的に解説してきました。

VirtualBoxの無料で始められる手軽さ、Windows・macOS・Linuxを問わないマルチプラットフォーム性、そしてスナップショットや共有フォルダーといった豊富な機能は、ITを学ぶ学生、開発者、そして純粋な知的好奇心を持つすべての人にとって、計り知れない価値を提供します。

もちろん、ホスト型仮想化ゆえのパフォーマンスのオーバーヘッドグラフィック性能の限界といったデメリットも存在しますが、その特性を理解した上で利用すれば、これほど強力なツールは他にありません。

本日学んだ基本的な使い方をマスターすれば、あなたはもう仮想化活用の第一歩を踏み出しました。ここから先は、Webサーバーを立ててみたり、複数の仮想マシンで仮想ネットワークを組んでみたり、あるいは様々なLinuxディストリビューションを試してみたりと、無限の可能性が広がっています。

ぜひVirtualBoxをあなたの「デジタルの実験室」として、様々なことに挑戦してみてください。あなたのコンピュータライフが、より豊かで創造的なものになることを願っています。

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