はい、承知いたしました。
「これだけでOK!FreeCADアセンブリの始め方から拘束まで5ステップで解説」というテーマで、約5000語の詳細な記事を作成します。以下、記事本文です。
これだけでOK!FreeCADアセンブリの始め方から拘束まで5ステップで解説
はじめに:なぜアセンブリが重要なのか?
3D CADソフトウェアを使ってものづくりをする際、「部品(パーツ)の設計」と「アセンブリ(組み立て)」は、車の両輪のような関係にあります。個々の部品を精密に設計できたとしても、それらが正しく組み合わさり、意図した通りに機能するかどうかを確認しなければ、製品として完成させることはできません。この「複数の部品を仮想空間で組み立て、全体の構造や部品同士の干渉、動作を確認する」工程こそがアセンブリです。
アセンブリは、以下のような多くのメリットをもたらします。
- 設計ミスの早期発見: 部品同士がぶつかってしまう(干渉する)、ネジ穴の位置がずれているといった問題を、実際に部品を製造する前に発見できます。これにより、手戻りやコストの浪費を防ぎます。
- 全体の構造把握: 複雑な製品でも、全体の構造やバランスを直感的に把握できます。
- 動作シミュレーション: ギアの噛み合いやリンク機構の動きなど、製品が実際にどのように動くかをシミュレーションし、設計の妥当性を検証できます。
- 組み立て手順の検討: どのように部品を組み立てていくのが効率的か、作業スペースは十分かといった、製造現場での課題を事前に検討できます。
無料で使える高機能な3D CADソフトとして人気のFreeCADにも、もちろんこのアセンブリ機能が備わっています。しかし、FreeCADを初めて使う方が少し戸惑うのは、「デフォルトの状態ではアセンブリ専用の機能(ワークベンチ)が搭載されていない」という点です。FreeCADのアセンブリ機能は、ユーザーがアドオンマネージャーから必要なワークベンチを追加して利用する仕組みになっています。
現在、FreeCADには「A2plus」「Assembly3」「Assembly4」といった、いくつかの代表的なアセンブリワークベンチが存在します。それぞれに特徴がありますが、この記事では、その中でも特に初心者におすすめで、直感的かつ安定して使える「A2plus」ワークベンチに焦点を当てます。
この記事を読み終える頃には、あなたは以下の5つのステップを通じて、FreeCADでのアセンブリの基本操作を完全にマスターしていることでしょう。
- 準備編: A2plusワークベンチをインストールする
- 部品作成編: アセンブリで使う部品を正しく準備する
- アセンブリ開始編: 部品をアセンブリファイルに読み込む
- 拘束編: アセンブリの核となる「拘束」を使いこなす
- 応用編: 設計変更の反映と干渉チェックを行う
さあ、恐れることはありません。一つ一つのステップを丁寧に踏んでいけば、誰でもアセンブリの強力な世界への扉を開くことができます。FreeCADを使ったものづくりの可能性を、一緒に広げていきましょう。
ステップ1:準備編 – A2plusワークベンチのインストール
FreeCADでアセンブリを始めるための最初の、そして最も重要なステップは、アセンブリ用ワークベンチをインストールすることです。前述の通り、この記事では数あるワークベンチの中から「A2plus」を選んで解説します。
なぜ「A2plus」なのか?
簡単に他のワークベンチと比較してみましょう。
- Assembly3: 非常に高機能で、複雑な動作シミュレーションが可能な「ソルバー」を内蔵しています。しかし、その分、学習コストがやや高く、設定も複雑になりがちです。
- Assembly4: 「Assembly Datum」という独自の座標系を使って部品を配置する、ユニークなアプローチを取ります。一度慣れると強力ですが、他のCADソフトのアセンブリとは考え方が少し異なるため、初心者には少し戸惑うかもしれません。
- A2plus: 他の多くの商用CADソフトと同様の「部品間の関係性(拘束)を定義していく」という古典的で直感的なアプローチを採用しています。UIも分かりやすく、基本的なアセンブリ作業には十分な機能を備えており、動作も比較的安定しています。
これらの理由から、初めてFreeCADでアセンブリに挑戦する方には、まずA2plusから始めることを強く推奨します。 基本的な考え方をA2plusでマスターすれば、将来的に他の高機能なワークベンチへステップアップする際もスムーズに移行できるでしょう。
それでは、実際にA2plusをインストールしていきましょう。手順は非常に簡単です。
A2plusのインストール手順
-
FreeCADを起動する
まずはFreeCADを起動してください。 -
アドオンマネージャーを開く
画面上部のメニューバーから「ツール」→「アドオンマネージャー」を選択します。
(画像はFreeCAD Wikiより引用。UIはバージョンによって若干異なります)
-
A2plusを検索してインストールする
アドオンマネージャーのウィンドウが開いたら、上部にある「Workbenches」タブが選択されていることを確認してください。利用可能なワークベンチのリストが表示されます。リストの中から「A2plus」を探します。数が多くて見つけにくい場合は、上部にある検索バーに「a2p」や「a2plus」と入力すると、すぐに絞り込めます。
リストで「A2plus」を見つけたら、それをクリックして選択します。右側にワークベンチの詳細な説明が表示されます。内容を確認したら、右下にある「Install」(または「インストール」)ボタンをクリックしてください。
(画像はFreeCAD Wikiより引用)
インストールが始まります。通常は数秒から数十秒で完了します。完了すると、ボタンが「Uninstall」(アンインストール)に変わります。
-
FreeCADを再起動する
【重要】 アドオンマネージャーで新しいワークベンチをインストールした後は、その変更をFreeCADに認識させるために、必ずFreeCADを再起動する必要があります。 右下の「Close」ボタンでアドオンマネージャーを閉じ、FreeCADのウィンドウも一旦閉じてから、もう一度FreeCADを起動してください。 -
インストールの確認
FreeCADが再起動したら、ワークベンチを切り替えるためのドロップダウンメニュー(通常はツールバーの下あたりにあります)をクリックしてみてください。リストの中に「A2plus」という項目が新しく追加されていれば、インストールは成功です!
おめでとうございます!これで、あなたはFreeCADでアセンブリ作業を行うための準備が整いました。次のステップでは、アセンブリに使うための部品を作成していきます。
ステップ2:部品作成編 – アセンブリ用のパーツを準備しよう
アセンブリ作業をスムーズに進めるためには、その前段階である「部品の準備」が非常に重要になります。ここでは、アセンブリにおける最も基本的なルールと、実際に簡単な部品を2つ作成する手順を解説します。
アセンブリの大原則:「1ファイル1パーツ」
これは絶対に覚えておいてほしい、アセンブリにおける黄金律です。つまり、アセンブリを構成する各部品は、それぞれ独立した別のFreeCADファイル(.FCStd
)として作成し、保存しなければなりません。
なぜこの原則が重要なのでしょうか?
- 管理のしやすさ: 1つのファイルにすべての部品の設計情報が混在していると、特定の部品だけを修正したり、ツリー構造が複雑化して管理が困難になったりします。
- 再利用性の向上: ネジやベアリングのように、様々な製品で共通して使われる部品を個別のファイルとして作成しておけば、他のアセンブリプロジェクトでも簡単に呼び出して再利用できます。
- 変更への対応力: ある部品の設計を変更した場合、その部品ファイルだけを更新すれば、その部品を使用しているすべてのアセンブリに自動的に変更を反映させることができます(この方法はステップ5で解説します)。
- 共同作業: 複数の設計者で作業を分担する際、各担当者がそれぞれの部品ファイルを個別に作成・編集できるため、効率的に作業を進められます。
この「1ファイル1パーツ」の原則を無視して、1つのファイル内で複数のボディを作成してアセンブリのように見せかけることもできなくはありません。しかし、それは本当の意味でのアセンブリではなく、後々の修正や管理で必ず破綻します。急がば回れ、必ずこのルールを守るようにしてください。
演習:アセンブリ用の部品を2つ作成する
それでは、この原則に従って、後ほどアセンブリで使用する簡単な部品を2つ作成してみましょう。ここでは、穴の開いた「ベース」と、その穴にはまる「シャフト」を作成します。作業は、皆さんお馴染みの「Part Design」ワークベンチで行います。
1. ベース部品の作成
まずは土台となるベース部品から作成します。
- 新規ファイルの作成: FreeCADを起動し、メニューバーの「ファイル」→「新規」をクリックして、新しい空のファイルを作成します。
- Part Designワークベンチへ移動: ワークベンチセレクターで「Part Design」を選択します。
- ボディの作成: タスクパネルの「ボディを作成」をクリックします。モデルツリーに「Body」が作成されます。
- スケッチの作成: 続いて「スケッチを作成」をクリックします。スケッチ平面を選択するダイアログが表示されたら、「XY平面」を選択し、「OK」をクリックします。
- 長方形の描画と拘束: スケッチャーツールバーの「長方形を作成」を使い、原点を中心とする長方形を描きます。その後、「水平距離拘束」と「垂直距離拘束」を使って、寸法を幅100mm、高さ60mmに設定します。さらに、長方形の中心が原点と一致するように「点と点を一致させる拘束」などで拘束し、スケッチが完全に拘束された状態(緑色)にします。
- スケッチを閉じる: タスクパネルの「閉じる」ボタンをクリックしてスケッチャーを終了します。
- パッド(押し出し): 作成したスケッチが選択された状態で、タスクパネルの「パッド」をクリックします。厚みを10mmに設定し、「OK」をクリックします。これで直方体のベースができました。
- 上面に穴用のスケッチを作成: 作成した直方体の上面をクリックして選択し、再度「スケッチを作成」をクリックします。
- 円の描画と拘束: スケッチャーツールバーの「円を作成」を使い、原点を中心とする円を描きます。その後、「円の直径を拘束」を使い、直径を20mmに設定します。
- ポケット(切り欠き): スケッチを閉じ、作成した円のスケッチが選択された状態で、タスクパネルの「ポケット」をクリックします。「タイプ」を「スルーオール(すべて貫通)」に設定し、「OK」をクリックします。これでベースの中央に貫通穴ができました。
- 【最重要】ファイルの保存: メニューバーの「ファイル」→「保存」をクリックします。ファイル名を「base.FCStd」として、分かりやすい場所(例えばデスクトップに「FreeCAD_Assembly_Tutorial」のようなフォルダを作成してその中に)に保存します。
これで1つ目の部品が完成です。
2. シャフト部品の作成
次に、ベースの穴にはめ込むシャフト部品を作成します。
- 新規ファイルの作成: 再び、メニューバーの「ファイル」→「新規」をクリックして、新しい空のファイルを作成します。(
base.FCStd
は開いたままでも、閉じてしまっても構いません) - ボディとスケッチの作成: ベース部品の時と同様に、「Part Design」ワークベンチで「ボディを作成」→「スケッチを作成」と進み、「XY平面」を選択します。
- 円の描画と拘束: 原点を中心とする円を描き、直径を拘束します。ここでポイントです。ベースの穴は直径20mmでした。現実世界では、同じ直径の穴と軸はスムーズにはまりません。そこで、わずかな隙間(クリアランス)を設けます。ここではシャフトの直径を19.9mmに設定しましょう。
- パッド(押し出し): スケッチを閉じ、「パッド」をクリックします。長さを50mmに設定し、「OK」をクリックします。これで円柱状のシャフトができました。
- 面取り(任意): よりリアルな部品にするために、シャフトの端に面取りを追加してみましょう。シャフトの上面(円形のエッジ)を選択し、ツールバーの「面取り」をクリックします。サイズを1mmなどに設定して「OK」をクリックします。これではめ込みやすくなります。
- 【最重要】ファイルの保存: メニューバーの「ファイル」→「保存」をクリックします。ファイル名を「shaft.FCStd」として、先ほどの
base.FCStd
と同じフォルダに保存します。
これでアセンブリに必要な2つの部品が、それぞれ別のファイルとして準備できました。この「1ファイル1パーツ」の考え方と、個別のファイルを作成して保存するという手順は、どんなに複雑なアセンブリでも基本となります。しっかりと身につけておきましょう。
ステップ3:アセンブリ開始編 – 新規アセンブリファイルと部品の読み込み
部品の準備が整ったら、いよいよそれらを組み立てるための舞台を用意します。ここでは、部品をまとめるための新しい「アセンブリファイル」を作成し、そこに先ほど作成した部品を読み込む手順を解説します。
アセンブリ専用ファイルの作成
ステップ2で作成したbase.FCStd
やshaft.FCStd
は、あくまで個々の部品ファイルです。これらの部品を組み立てるためには、それらを統括する親となる、新しいファイルが必要です。
- 新規ファイルの作成: メニューバーから「ファイル」→「新規」を選択し、まっさらなファイルを作成します。
- アセンブリファイルの保存: このファイルは、これから行うアセンブリ作業そのものを保存するファイルになります。混乱を避けるため、作業を始める前に名前を付けて保存しておきましょう。メニューバーから「ファイル」→「保存」を選択し、ファイル名を「my_first_assembly.FCStd」などの分かりやすい名前で、部品ファイルと同じフォルダに保存します。
これで、base.FCStd
、shaft.FCStd
、そしてmy_first_assembly.FCStd
の3つのファイルが同じフォルダに存在する状態になりました。
A2plusワークベンチへの切り替え
アセンブリ作業を行うために、ワークベンチを切り替えます。
- ワークベンチセレクターのドロップダウンメニューをクリックし、リストから「A2plus」を選択します。
- ツールバーのアイコンがA2plus専用のものに切り替わったことを確認してください。フォルダにプラスマークが付いたアイコンや、鎖のようなアイコン、磁石のようなアイコンなどが並んでいるはずです。これらがアセンブリ作業で使う主要なツールになります。
部品のインポート(読み込み)
それでは、作成した部品をアセンブリファイルに読み込んでいきましょう。
1. 最初の部品(ベース部品)の追加
アセンブリ作業では、通常、基準となる一番大きな部品や動かない部品から配置していきます。今回はbase.FCStd
を最初に読み込みます。
- A2plusのツールバーにある、「Add a part from an external file(外部ファイルから部品を追加)」アイコンをクリックします。これは、フォルダの絵に青いプラスマークが付いたようなアイコンです。
- ファイル選択ダイアログが表示されます。ここで、先ほど作成した「base.FCStd」を選択し、「開く」をクリックします。
- 3Dビューに、先ほど作成したベース部品が表示されます。
- 画面左側のモデルツリーを確認してください。
my_first_assembly
プロジェクトの下に、base
という名前で部品が追加されているのが分かります。
2. 基準部品の固定(Fixed Part)
アセンブリでは、少なくとも1つの部品を空間に「固定(Fix)」する必要があります。この固定された部品が、他のすべての部品を配置するための基準となります。もしどの部品も固定されていないと、すべての部品が宙に浮いた状態で、拘束をかけても意図しない動きをしてしまう可能性があります。
- モデルツリーで、先ほど追加した「base」部品をクリックして選択します。
- A2plusのツールバーにある、「Toggle the ‘fixed’ state of a part(部品の’fixed’状態を切り替え)」アイコンをクリックします。これは、錠前(南京錠)のアイコンです。
- この操作を行うと、モデルツリーの
base
部品名の横に、小さな錠前のマークが表示されます。これで、base
部品は3D空間内で完全に固定され、動かなくなりました。
3. 2つ目の部品(シャフト部品)の追加
次に、シャフト部品を追加します。
- 再び、ツールバーの「Add a part from an external file」アイコンをクリックします。
- ファイル選択ダイアログで、今度は「shaft.FCStd」を選択し、「開く」をクリックします。
- シャフト部品が3Dビューに読み込まれます。多くの場合、最初に追加された部品と同じ原点位置に読み込まれるため、ベース部品と重なって表示されるかもしれません。心配はいりません。次のステップで正しく配置します。
- モデルツリーにも
shaft
部品が追加されたことを確認してください。
部品の移動と回転(任意操作)
拘束をかける前に、部品同士が重なっていると作業がしづらい場合があります。A2plusには、拘束をかける前の準備段階として、部品を手動で大まかに移動・回転させる機能があります。
- モデルツリーで移動させたい部品(今回は
shaft
)を選択します。 - A2plusツールバーの「Move the selected part(選択した部品を移動)」アイコン(十字矢印のアイコン)をクリックします。
shaft
部品がワイヤーフレーム表示になり、ドラッグして移動できるようになります。また、タスクパネルに移動や回転の数値を入力するダイアログが表示されるので、それを使って動かすこともできます。- ベース部品の穴の上あたりに、大まかにシャフトを移動させてみましょう。
- 位置が決まったら、タスクパネルの「Accept」をクリックして移動を確定します。
この手動移動は必須ではありませんが、部品が多くなってきた時や、拘束をかける面が見えにくい時に非常に便利です。
これで、アセンブリの舞台に役者(部品)が揃いました。次のステップでは、いよいよアセンブリの心臓部である「拘束」を使って、これらの部品に命を吹き込んでいきます。
ステップ4:拘束編 – 部品同士を結合する
ここからがアセンブリ作業の最も重要で、そして最も面白い部分です。「拘束(Constraint)」という概念を理解し、使いこなすことで、あなたは単なる部品の寄せ集めを、意味のある「製品」へと昇華させることができます。
拘束(Constraint)とは何か?
拘束とは、部品が持つ運動の自由度(Degree of Freedom, DOF)を制限し、部品間の幾何学的な関係を定義するルールのことです。
空間内にある剛体(部品)は、本来、6つの自由度を持っています。
- 並進運動(3軸): X、Y、Z方向への移動
- 回転運動(3軸): X、Y、Z軸周りの回転
アセンブリとは、これらの自由度を1つずつ拘束によって奪っていき、最終的に設計者が意図した状態に部品を固定、または意図した動きのみを許容する状態にする作業です。
例えば、「シャフトを穴に入れる」という操作を考えてみましょう。これを拘束で表現すると、以下のようになります。
- 「シャフトの軸」と「穴の軸」を一致させる(同軸拘束)。
→ これにより、シャフトは穴の中心軸からずれることができなくなります。ただし、まだ軸方向にスライドしたり、軸周りに回転したりすることは可能です。 - 「シャフトの端面」と「ベースの上面」を接触させる(面一致拘束)。
→ これにより、シャフトは軸方向にも動けなくなります。残る自由度は、軸周りの回転だけになります。
このように、複数の拘束を組み合わせることで、部品の位置関係を厳密に定義していくのがアセンブリの基本です。
A2plusの主要な拘束ツール
A2plusのツールバーには、様々な種類の拘束をかけるためのアイコンが並んでいます。まずは、特によく使うものをいくつか見ていきましょう。
(画像はFreeCAD Wikiより引用。主要な拘束アイコンが含まれています)
Plane on Plane
(面の一致): 2つの平面を接触させます。間に一定の距離(オフセット)を持たせることも可能です。最も基本的な拘束の一つです。Axis Coincident
(軸の一致): 円筒面、円錐面、円形のエッジなどの中心軸を一致させます。シャフトと穴、ネジとネジ穴などを組み合わせる際に多用します。Point on Point
(点の一致): 2つの頂点(ポイント)を一致させます。Plane Parallel
(面の平行): 2つの平面を平行な関係にします。Axis Parallel
(軸の平行): 2つの軸を平行な関係にします。Axis on Plane Normal
(軸と面の垂直): 軸が平面に対して垂直になるように拘束します。Angle between Planes
(面の角度): 2つの平面がなす角度を指定します。
これらのツールを使いこなせば、ほとんどの基本的なアセンブリは作成可能です。
実践:ベースとシャフトに拘束をかける
それでは、ステップ3で準備したアセンブリファイルを使って、実際にbase
部品とshaft
部品に拘束をかけていきましょう。
拘束をかける基本手順
A2plusで拘束をかける際の操作は、常に以下の流れになります。
- 拘束したい2つの要素(面、エッジ、頂点)を選択する。
- 適切な拘束ツールをクリックする。
これだけです。非常にシンプルです。では、やってみましょう。
拘束1:軸の一致 (Axis Coincident)
まずは、シャフトの軸とベースの穴の軸を一致させます。
-
要素の選択:
Ctrl
キー(Macの場合はCmd
キー)を押しながら、3Dビュー上で以下の2つを順番にクリックします。shaft
部品の円筒側面base
部品の穴の内側の円筒面
選択のコツ: マウスカーソルを合わせると、その面やエッジがハイライト表示されます。目的の要素がハイライトされたのを確認してからクリックするのが確実です。選択された要素は緑色に変わります。
-
拘束ツールの適用: 2つの円筒面が選択された状態で、A2plusツールバーの「Axis Coincident(軸の一致)」アイコンをクリックします。
クリックした瞬間、
shaft
部品が瞬時に移動し、その中心軸がbase
部品の穴の中心軸とぴったり重なります。3Dビューを回転させて、真上から見てみてください。2つの円が同心円になっていることが確認できるはずです。 -
ツリービューの確認: 画面左のモデルツリーを見てください。
my_first_assembly
プロジェクトの下に「Constraints」というフォルダが自動的に作成され、その中にAxisCoincident
という拘束が追加されています。ここを見れば、どのような拘束が適用されているかをいつでも確認・編集できます。
この時点で、シャフトはまだ軸方向にスライドしたり、軸周りに回転したりする自由度が残っています。信じられないなら、ステップ3で使った「Move the selected part」ツールでシャフトを動かしてみてください。上下には動きますが、左右(XY方向)には動かせなくなっているはずです。
拘束2:面の一致 (Plane on Plane)
次に、シャフトが上下に動かないように、位置を固定します。ここでは、「シャフトの底面」と「ベースの上面」を接触させてみましょう。
-
要素の選択: 先ほどと同様に、
Ctrl
キーを押しながら、以下の2つの平面を順番にクリックします。shaft
部品の底面(面取りしていない方の円形の面)base
部品の上面(穴が開いている平らな面)
選択のコツ: 選択しにくい場合は、マウスのホイールボタン(中ボタン)でビューを回転させたり、
Shift
+ホイールボタンドラッグでビューをパン(平行移動)させたりして、見やすい角度に調整してください。 -
拘束ツールの適用: 2つの平面が選択された状態で、A2plusツールバーの「Plane on Plane(面の一致)」アイコンをクリックします。
-
拘束プロパティの設定: この拘束ツールをクリックすると、多くの場合、プロパティを設定するためのダイアログボックスが表示されます。
- Constraint Direction: 面同士の関係をどうするか選びます。「Coincident(一致)」させたいので、このままでOKです。
- Offset: 面と面の間に距離を設けたい場合は、ここに数値を入力します。例えば
5mm
と入力すれば、シャフトの底面がベースの上面から5mm浮いた位置で固定されます。今回はぴったり接触させたいので、0mmのままでOKです。 - Direction: 面の向きを反転させたい場合は「Flip Direction」をクリックします。今回はこのままでOKです。
設定を確認したら、「Accept」ボタンをクリックします。
クリックすると、シャフトが上下にスライドし、その底面がベースの上面にぴったりと接触します。
完全に拘束された状態の確認
これで、シャフトは軸方向にも、軸からずれる方向にも動けなくなりました。残された自由度は「軸周りの回転」だけです。部品に回転を伝えるためのキー溝などがない場合、この回転の自由度は残しておいても問題ないことが多いです。もし回転も完全に固定したい場合は、例えばシャフトに平らな面を作成し、その面とベースの側面を「Plane Parallel(面の平行)」で拘束する、といった追加の操作が必要になります。
お疲れ様でした!これで、あなたはA2plusの最も基本的な拘束をマスターしました。この「軸一致」と「面一致」の2つを組み合わせるだけでも、非常に多くの機械部品を組み立てることが可能です。
拘束の編集と削除
一度設定した拘束は、後から簡単に編集したり削除したりできます。
- 編集: モデルツリーの「Constraints」フォルダを展開し、編集したい拘束(例:
PlaneOnPlane
)をダブルクリックします。すると、先ほど表示されたプロパティ設定のダイアログが再び開くので、オフセット値などを変更して「Accept」をクリックすればOKです。 - 削除: 削除したい拘束をツリー上で選択し、キーボードの
Delete
キーを押すか、右クリックしてメニューから「削除」を選択します。拘束が解除され、部品は再びその分の自由度を取り戻します。
拘束作業は試行錯誤の連続です。間違った拘束をかけてしまっても、焦らずにこの方法で編集・削除してやり直してください。
ステップ5:応用編 – アセンブリの更新と干渉チェック
基本的なアセンブリが完成したら、さらに便利な機能を2つ試してみましょう。これらは、アセンブリ設計の効率と品質を劇的に向上させる、非常に強力なツールです。
部品設計の変更とアセンブリへの反映
アセンブリの最大の利点の一つは、個々の部品設計の変更が、アセンブリ全体に簡単に反映されることです。設計プロセスでは、「組み立ててみたら、この部品はもう少し長い方が良かった」といったことが頻繁に起こります。そんな時、A2plusならスムーズに対応できます。
演習:シャフトの長さを変更してみる
現在50mmのシャフトを、ベースからもっと突き出るように、80mmに長くしてみましょう。
- 部品ファイルを開く: FreeCADのメニューバーから「ファイル」→「開く」を選択し、「shaft.FCStd」ファイルを開きます。(すでに関連ファイルとしてタブが開いている場合は、そのタブをクリックするだけでOKです)
- Part Designで形状を編集:
shaft.FCStd
のウィンドウに切り替わったら、モデルツリーを確認します。シャフトの長さを定義しているのは、円柱を作成したときの「Pad」フィーチャーです。 - ツリーで「Pad」を選択し、画面下部のプロパティビューで「データ」タブをクリックします。
- プロパティの中に「Length(長さ)」という項目があります。現在の値は
50.00 mm
になっているはずです。この値をクリックし、80
と入力してEnter
キーを押します。 - 3Dビューで、シャフトが瞬時に長くなったことを確認してください。
- 【重要】ファイルを上書き保存: 変更を確定するために、必ずファイルを保存します。メニューバーの「ファイル」→「保存」をクリックするか、
Ctrl
+S
キーを押してください。 - アセンブリファイルに戻る:
my_first_assembly.FCStd
のタブをクリックして、アセンブリの画面に戻ります。この時点では、まだシャフトの長さは50mmのままです。 - アセンブリの更新: A2plusツールバーにある、「Update parts of the assembly(アセンブリの部品を更新)」アイコンをクリックします。これは、2つの青い回転矢印が描かれたアイコンです。
- クリックすると、A2plusが関連付けられた部品ファイルの変更を検出し、アセンブリ内の形状を自動的に再計算します。3Dビュー上のシャフトが、新しい長さである80mmに更新されたことを確認してください!
拘束は維持されたまま、部品の形状だけが更新されました。このように、部品ファイルとアセンブリファイルが連携することで、設計変更に迅速かつ柔軟に対応できるのです。
干渉チェック(Clash Detection)
設計が複雑になってくると、意図せず部品同士がめり込んでしまう「干渉」が発生することがあります。物理的なプロトタイプを作る前にこの干渉を発見することは、コストと時間を節約する上で極めて重要です。A2plusには、この干渉をチェックする便利な機能が搭載されています。
演習:意図的に干渉を発生させてチェックする
試しに、シャフトを太くして、ベースの穴と干渉させてみましょう。
- 先ほどと同様に、「shaft.FCStd」ファイルを開きます。
- モデルツリーで、シャフトの円柱の元となった「Sketch」をダブルクリックして、スケッチャーを開きます。
- 直径の寸法拘束(19.9mm)をダブルクリックし、値を21mmに変更します。ベースの穴の直径は20mmなので、これで必ず干渉が発生します。
- スケッチを閉じ、ファイルを上書き保存 (
Ctrl
+S
) します。 - 「my_first_assembly.FCStd」に戻り、「Update parts of the assembly」アイコンをクリックしてアセンブリを更新します。見た目上は、シャフトが少し太くなっただけです。
- 干渉チェックの実行: A2plusツールバーの「Check for clashes between parts(部品間の干渉をチェック)」アイコンをクリックします。これは、赤と緑の立方体が重なったようなアイコンです。
- クリックすると、A2plusがアセンブリ内の全部品を総当たりでチェックします。
- 結果の確認: 干渉が見つかると、レポートビュー(通常は画面下部に表示されるパネル)にメッセージが表示されます。
Clash between: base and shaft
というように、どの部品とどの部品が干渉しているかが報告されます。さらに、3Dビュー上では、干渉している部分が赤くハイライト表示されます。
この機能を使えば、複雑なアセンブリでも、目視では見逃しがちな設計上の問題を確実に見つけ出すことができます。設計の最終確認段階で必ず実行する習慣をつけましょう。
(確認が終わったら、shaft.FCStd
の直径を元の19.9mmに戻して保存し、アセンブリを再度更新しておきましょう。)
まとめ:アセンブリの世界へようこそ!
お疲れ様でした!この記事で解説した5つのステップを最後までやり遂げたあなたは、もうFreeCADアセンブリの初心者ではありません。基本的な操作と考え方をしっかりと身につけることができました。
最後に、今日学んだことを振り返ってみましょう。
- 準備編 – A2plusのインストール: アドオンマネージャーを使い、アセンブリ作業の強力な相棒である「A2plus」ワークベンチをインストールしました。
- 部品作成編 – パーツの準備: アセンブリの黄金律「1ファイル1パーツ」を学び、ベースとシャフトという2つの独立した部品ファイルを作成しました。
- アセンブリ開始編 – 読み込みと固定: 部品をまとめるためのアセンブリファイルを作成し、そこに部品をインポート。基準となる部品を「固定」する重要性も理解しました。
- 拘束編 – 部品同士の結合: アセンブリの核となる「拘束」を使い、部品の自由度を制限して、意図した位置関係に配置しました。「軸の一致」と「面の一致」は、これから何度も使うことになるでしょう。
- 応用編 – 更新と干渉チェック: 部品設計の変更をアセンブリに反映させる方法と、設計ミスを防ぐための「干渉チェック」機能の使い方をマスターしました。
これらの知識は、あなたのFreeCADを使ったものづくりの可能性を大きく広げるはずです。シンプルな家具の設計から、ロボットアーム、エンジンモデルまで、あらゆるものの構造を仮想空間で組み立て、検証することができます。
もちろん、A2plusには今回紹介しきれなかった機能もまだたくさんあります。複数の部品をまとめた「サブアセンブリ」の作成、ボルトやナットを自動で配置する機能、分解図の作成機能など、探求すればするほど奥深い世界が待っています。
この記事が、あなたの素晴らしい創造の旅の第一歩となることを心から願っています。さあ、次はあなたが作りたいものを、FreeCADでアセンブルしてみましょう!