はい、承知いたしました。Qtオープンソース版のダウンロードとインストールに関する詳細なガイド記事を作成します。約5000語の要件を満たすよう、各ステップを丁寧に解説します。
もう迷わない!Qtオープンソース版のダウンロード・インストールガイド【2024年最新版】
はじめに
「一度書けば、どこでも動く(Write once, compile anywhere)」という思想は、多くの開発者にとっての理想郷です。それを高いレベルで実現するフレームワークの一つが、Qt (キュート) です。C++をベースにしたクロスプラットフォーム開発フレームワークであり、デスクトップ(Windows, macOS, Linux)、モバイル(Android, iOS)、さらには組み込み機器まで、驚くほど多様なプラットフォームで動作する洗練されたアプリケーションを開発できます。
しかし、その高機能さゆえに、最初の環境構築でつまずいてしまう方も少なくありません。「どのバージョンをダウンロードすればいいの?」「商用版とオープンソース版の違いは?」「インストーラーの選択肢が多すぎて意味がわからない…」といった声は、Qtを始めようとする多くの初心者が直面する壁です。
この記事は、そんな悩みを抱えるすべてのQt入門者のための、決定版インストールガイドです。Windows, macOS, Linuxの各OSに対応し、インストール前の準備から、アカウント作成、コンポーネントの選択、そして最初の「Hello, World!」プロジェクトを動かすまでの一連の流れを、スクリーンショットを想像できるレベルで詳細に、かつ分かりやすく解説します。
なぜQtオープンソース版を選ぶのか?
Qtには商用ライセンス版とオープンソースライセンス版の2種類が存在します。
* 商用版: プロフェッショナルなサポート、追加の専用ツール、ライセンス上の柔軟性が提供されます。企業での大規模な商用製品開発に適しています。もちろん有料です。
* オープンソース版: 基本的に無料で利用できます。個人開発者、学生、オープンソースプロジェクト、そして特定の条件下での商用利用も可能です。ライセンスは主に LGPLv3 (GNU Lesser General Public License v3) が適用されます。
このライセンスは非常に重要です。かいつまんで言うと、「Qtライブラリ自体を改変したらその改変部分のソースコードは公開してね。でも、Qtライブラリを動的リンクで使う限り、あなたの作ったアプリケーションのソースコードを公開する必要はないよ」というものです。ほとんどの場合、Qtは動的リンクで利用するため、自作アプリのソースコードを秘匿したまま、無料で配布・販売することが可能です。(※静的リンクなど、より複雑な利用形態を検討する場合は、必ずライセンスの専門家にご相談ください)
この記事では、このパワフルで懐の深いQtオープンソース版の導入に焦点を当てます。
この記事の対象読者
- Qtをこれから学び始めたいと考えているプログラミング初心者・学生の方
- C++の経験はあるが、GUIアプリケーション開発は初めての方
- 過去にQtの環境構築で挫折した経験のある方
- Windows, macOS, Linuxのいずれかの環境で、確実なインストール手順を知りたい方
この記事を最後まで読み終える頃には、あなたは自信を持ってQt開発のスタートラインに立ち、創造的なアプリケーション開発の世界へと踏み出せるようになっているはずです。さあ、一緒に始めましょう!
第1章: インストール前の準備
急がば回れ。Qtのインストールをスムーズに進めるためには、いくつかの事前準備が不可欠です。特に、C++のコードをコンピュータが理解できる機械語に翻訳する「コンパイラ」の準備は、最も重要なステップです。
1. システム要件の確認
まず、お使いのコンピュータがQt開発に適しているか確認しましょう。
- 対応OS:
- Windows: Windows 11, Windows 10 (64-bit版を強く推奨)
- macOS: Appleシリコン (ARM64) または Intel (x86-64) を搭載した macOS Ventura (13), Sonoma (14) 以降。
- Linux: Ubuntu 22.04 LTS, Debian 11, CentOS 9 Stream など、主要な最新ディストリビューション (64-bit)。
- ディスク空き容量:
- 最低でも30GB、できれば50GB以上の空き容量を確保してください。「そんなに!?」と思われるかもしれませんが、Qtフレームワーク本体、開発ツール(Qt Creator)、複数のバージョンのQtライブラリ、デバッグ情報ファイルなどをインストールすると、あっという間に容量を消費します。特に、モバイル開発やWebAssembly開発も視野に入れると、容量はさらに必要になります。
- メモリ (RAM):
- 最低8GB、快適な開発のためには16GB以上を推奨します。Qt Creatorという高機能なIDE(統合開発環境)と、ビルドプロセスは相応のメモリを消費します。
- CPU:
- 近年のマルチコアCPUであれば問題ありませんが、コア数が多いほどビルド時間が短縮され、開発体験が向上します。
2. 必要なツール(特にコンパイラ)のインストール
QtはC++フレームワークなので、C++コンパイラがなければ何も始まりません。OSごとに準備する方法が異なります。
【Windowsの場合】
Windowsユーザーには主に2つの選択肢があります:MSVC と MinGW です。
-
MSVC (Microsoft Visual C++)
- Microsoftの公式C++コンパイラで、Visual StudioというIDEに含まれています。Windowsプラットフォームとの親和性が最も高く、デバッグ機能も強力です。特に理由がなければ、初心者にはMSVCを強く推奨します。
- インストール手順:
- Visual Studioの公式サイトにアクセスし、「Community」版をダウンロードします。(Community版は個人開発者や学生、小規模チームなら無料で利用できます)
- ダウンロードしたインストーラーを実行します。
- 「ワークロード」の選択画面が表示されたら、「C++によるデスクトップ開発」にチェックを入れます。これに必要なコンパイラ、Windows SDK、デバッグツールなどが一括でインストールされます。
- 右側の「インストールの詳細」で、最新の「MSVC v143…」や「Windows 11 (or 10) SDK」が含まれていることを確認し、「インストール」ボタンを押します。
- インストールには時間がかかりますが、完了すれば準備OKです。Visual Studio本体を頻繁に使うわけではありませんが、裏方としてコンパイラがQtに利用されます。
-
MinGW (Minimalist GNU for Windows)
- GCC (GNU Compiler Collection) という、Linuxで標準的に使われるコンパイラをWindowsに移植したものです。オープンソースのツールチェーンで完結させたい場合や、Linuxとのコード互換性を重視する場合に選択します。
- インストール方法: Qtのオンラインインストーラーには、MinGWコンパイラを同時にインストールするオプションが含まれています。そのため、事前に単体でMinGWをインストールする必要は基本的にありません。 第4章のコンポーネント選択で、MinGWを選択するだけで大丈夫です。
どちらを選ぶべき?
迷ったら、MSVCを選んでください。WindowsネイティブのAPIとの連携がスムーズで、多くのサードパーティライブラリもMSVC向けにビルドされているため、後々のトラブルが少ない傾向にあります。
【macOSの場合】
macOSでは、Appleが提供するXcode Command Line Toolsをインストールします。これにはClangという高性能なC++コンパイラが含まれています。
- インストール手順:
- 「ターミナル.app」を開きます。(Launchpadの「その他」フォルダ内などにあります)
- 以下のコマンドをコピー&ペーストして、Enterキーを押します。
bash
xcode-select --install - ポップアップウィンドウが表示されるので、「インストール」をクリックし、ライセンスに同意します。
- ダウンロードとインストールが完了すれば、準備は完了です。すでにインストール済みの場合は、その旨のメッセージが表示されます。
【Linuxの場合 (Ubuntu/Debian系を例に)】
Linuxでは、GCC/G++コンパイラを含む開発ツールパッケージをインストールするのが一般的です。
- インストール手順:
- ターミナル(端末)を開きます。
- 以下のコマンドを実行して、パッケージリストを更新し、
build-essential
パッケージをインストールします。これにはC++コンパイラ(g++)、makeなどのビルドに必要な基本ツール一式が含まれています。
bash
sudo apt update
sudo apt install build-essential - パスワードを求められたら入力し、インストールを許可します。
- OpenGLライブラリも必要になることが多いので、合わせてインストールしておくと安心です。
bash
sudo apt install libgl1-mesa-dev
これで、どのOSでもコンパイラの準備が整いました。次のステップに進みましょう。
第2章: Qtアカウントの作成
現在のQtオープンソース版をダウンロードするには、Qtアカウントの作成が必須となっています。少し手間に感じるかもしれませんが、このアカウントはQtのフォーラムに参加したり、バグ報告をしたりする際にも利用できるので、作成しておいて損はありません。
1. なぜアカウントが必要か?
以前はアカウントなしでインストーラーをダウンロードできましたが、Qt Companyがユーザーとの関係をより密接にし、オープンソースユーザーの利用状況を把握するために、アカウント登録を必須とする方針に変更しました。ライセンスの同意事項などをユーザーに明確に提示する目的もあります。
2. アカウント作成手順
-
Qt公式サイトへアクセス:
- Qtの公式サイト を開きます。
-
ダウンロードページへ移動:
- 通常、画面右上に “Download. Try. Buy.” や “Download for free” といったボタンがあります。これをクリックします。
- 遷移先のページで、オープンソース版のダウンロードに関するセクションを探します。”Downloads for open source users” や “Get your open source license” といったリンクをクリックしてください。
-
登録フォームの入力:
- アカウント作成フォームが表示されます。以下の情報を正確に入力していきましょう。
- Qt Account (Email): あなたのメールアドレスを入力します。これがログインIDになります。確認メールが届くので、普段使っている有効なアドレスを入力してください。
- Password: パスワードを設定します。
- First Name / Last Name: あなたの名前を入力します。
- Country/Region: お住まいの国(Japan)を選択します。
- I’m using Qt for…: 利用目的を選択します。個人学習なら “Personal, non-commercial use” や “Hobbyist” などが適切です。
- Company/University: (任意)所属する会社名や学校名を入力します。
- Phone Number: (任意)電話番号です。
- アカウント作成フォームが表示されます。以下の情報を正確に入力していきましょう。
-
ライセンス同意のチェック(最重要):
- フォームの下部に、ライセンスに関するチェックボックスがあります。
- “I am an individual not using Qt for commercial purposes.” (私は商用目的でQtを利用しない個人です)
- “I have read and agree to the terms and conditions of the Qt…” (Qtの利用規約を読み、同意します)
- これらのチェックボックスに必ずチェックを入れてください。特に前者のチェックは、オープンソース版を利用するための宣誓となります。
-
アカウント作成とメール認証:
- 「Submit」や「Create Account」といったボタンをクリックします。
- 入力したメールアドレスに、Qtから認証メールが届きます。
- メール本文に記載されている認証リンクをクリックして、アカウント作成を完了させてください。
これでQtアカウントの準備ができました。いよいよインストーラーのダウンロードです。
第3章: Qtオンラインインストーラのダウンロード
アカウント作成が完了すると、多くの場合、自動的にインストーラーのダウンロードページにリダイレクトされます。もしされなかった場合は、再度Qt公式サイトのダウンロードページにアクセスし、作成したアカウントでログインすればダウンロードが可能です。
このインストーラーは「オンラインインストーラー」と呼ばれ、比較的小さな実行ファイルです。インストーラー自体がインターネットに接続し、必要なコンポーネントを選択してダウンロードしながらインストールを進める仕組みになっています。
ダウンロードするファイル
お使いのOSに合わせて、適切なインストーラーをダウンロードします。
- Windows:
qt-unified-windows-x64-online.exe
のような名前の.exe
ファイル。 - macOS:
qt-unified-mac-x64-online.dmg
のような名前の.dmg
ファイル。ダウンロード後、dmgファイルを開き、中のインストーラーアプリをダブルクリックして実行します。 - Linux:
qt-unified-linux-x64-online.run
のような名前の.run
ファイル。このファイルは実行権限がない場合があるので、ダウンロード後にターミナルで以下のコマンドを実行して権限を付与する必要があります。
bash
# ダウンロードしたディレクトリに移動して
cd ~/Downloads
# 実行権限を付与
chmod +x qt-unified-linux-x64-online.run
# インストーラーを実行
./qt-unified-linux-x64-online.run
ダウンロードが完了したら、いよいよインストール本番です。ここからが最も重要なパートになります。
第4章: Qtのインストール手順 (詳細解説)
ここからは、インストーラーの各画面で何を選択すべきかを、一つずつ丁寧に解説していきます。選択肢の意味を理解することが、後々のトラブルを避ける鍵となります。
1. インストーラの起動とログイン
ダウンロードしたインストーラーを実行すると、まずQtのロゴが表示され、次にログイン画面が表示されます。第2章で作成したQtアカウントのメールアドレスとパスワードを入力してログインしてください。
2. ライセンス同意
次に、オープンソース利用に関する義務について説明された画面が表示されます。LGPLv3ライセンス下での利用条件などが記載されています。内容を確認し、同意のチェックボックスにチェックを入れて「Next」進みます。
3. はじめに (Welcome)
ウェルカムメッセージや、Qtへのフィードバック協力に関する画面が表示されます。こちらも内容を確認して「Next」をクリックします。
4. インストールフォルダの選択
Qtをインストールするディレクトリを指定します。
- デフォルトの場所:
- Windows:
C:\Qt
- macOS/Linux:
~/Qt
(ホームディレクトリ直下)
- Windows:
- 【超重要】パスに関する注意点:
- インストール先のパス(フォルダ名)には、絶対に空白文字や日本語などのマルチバイト文字を含めないでください。例えば
C:\Program Files\Qt
やC:\ユーザー\太郎\Qt
のようなパスは、ビルド時に予期せぬエラーを引き起こす原因となります。 - デフォルトのパスが最も安全です。変更する場合も、
D:\Dev\Qt
のように、シンプルでASCII文字のみのパスを指定してください。 - また、第1章で確認したように、十分なディスク空き容量のあるドライブを選択しましょう。
- インストール先のパス(フォルダ名)には、絶対に空白文字や日本語などのマルチバイト文字を含めないでください。例えば
5. インストールタイプの選択
Custom installation
(カスタムインストール) と Default installation
(デフォルトインストール) のような選択肢が表示される場合があります。必ず Custom installation
を選択してください。これにより、インストールするコンポーネントを自分で細かく選べるようになります。
6. コンポーネントの選択 (最重要ポイント!)
いよいよインストール作業の心臓部です。ここで何を選ぶかによって、開発環境が大きく変わります。落ち着いて、一つずつ確認していきましょう。
コンポーネントはツリー形式で表示されます。
バージョン選択
ツリーの最上位には Qt 6.7.0
や Qt 6.5.3 (LTS)
のようなバージョンが表示されます。
- 通常版 (例: 6.7.0): 最新の機能が含まれていますが、サポート期間は短めです。
- LTS版 (Long-Term Support, 例: 6.5.3): 長期サポートが保証されたバージョンです。安定性が高く、バグ修正も長期間にわたって提供されます。製品開発や長期的な学習を目的とする場合、LTS版を選択することを強く推奨します。
この記事では、最新のLTS版をインストールすることを前提に進めます。バージョンの左にあるチェックボックスをオンにしましょう。
コンポーネントツリーの詳細
バージョンにチェックを入れると、その下に詳細なコンポーネントツリーが展開されます。
-
Qt [バージョン番号]
[ターゲットプラットフォーム/コンパイラ]
: ここで、どの環境向けのQtライブラリをインストールするか選びます。- Windowsの場合:
MSVC 2019 64-bit
: Visual Studio 2019, 2022 (Community版でOK) をインストールした場合の選択肢。これを選ぶのが最も一般的で推奨されます。MinGW [バージョン] 64-bit
: Visual Studioをインストールしていない、またはMinGWを使いたい場合の選択肢。
- macOSの場合:
macOS
: これを選択します。内部的にはClangコンパイラが使われます。
- Linuxの場合:
Desktop gcc 64-bit
: これを選択します。
- Windowsの場合:
Additional Libraries
(追加ライブラリ)Qt 5 Compatibility Module
: Qt 5からQt 6への移行を助ける互換モジュール。古いコードを参考にすることがあるなら入れておくと便利です。Qt WebEngine
: ChromiumベースのWebブラウザをアプリに組み込むためのモジュール。非常にサイズが大きい(数GB)ので、必要なければチェックを外しても構いません。後から追加もできます。Qt Multimedia
: 音声や動画を扱うためのモジュール。必要であればチェックします。
Qt Debug Information Files
- Qtライブラリのデバッグ情報ファイルです。これがあると、デバッグ中にQtの内部コードまで追跡できます。しかし、インストールサイズが倍以上に膨れ上がるため、初心者のうちはチェックを外すことを強く推奨します。
Sources
- Qtのソースコードです。ライブラリの仕組みを深く理解したい上級者向けです。こちらもサイズが大きいので、初心者はチェックを外してOKです。
-
Developer and Designer Tools
(開発・デザインツール)Qt Creator [バージョン]
: Qt公式の統合開発環境(IDE)です。コード編集、UIデザイン、ビルド、デバッグのすべてを行える必須ツールです。必ずチェックを入れてください。CMake
: モダンなビルドシステムジェネレータ。システムに別途CMakeをインストールしていない場合は、チェックを入れておくと便利です。Ninja
: 高速なビルドシステム。CMakeと組み合わせて使われます。ビルド時間を短縮できるので、チェックを推奨します。OpenSSL Toolkit
: SSL/TLSによる暗号化通信(HTTPSなど)を行うアプリを作る場合に必要です。Qt Network
モジュールを使うならほぼ必須なので、チェックを入れておくのが無難です。MinGW [バージョン]
(Windowsのみ): MinGWコンパイラ本体です。前述のQtライブラリでMinGW
版を選択した場合は、必ずこちらもチェックしてください。 MSVC版を選ぶ場合は不要です。
初心者のための推奨選択例
-
【Windows (Visual Studio/MSVC を利用)】
- [チェック] Qt [最新LTS版]
- [チェック]
MSVC 2019 64-bit
- [チェック]
- [チェック] Developer and Designer Tools
- [チェック]
Qt Creator
- [チェック]
CMake
- [チェック]
Ninja
- [チェック]
OpenSSL Toolkit
- [チェック]
- [チェック] Qt [最新LTS版]
-
【macOS】
- [チェック] Qt [最新LTS版]
- [チェック]
macOS
- [チェック]
- [チェック] Developer and Designer Tools
- [チェック]
Qt Creator
- [チェック]
CMake
- [チェック]
Ninja
- [チェック]
- [チェック] Qt [最新LTS版]
-
【Linux】
- [チェック] Qt [最新LTS版]
- [チェック]
Desktop gcc 64-bit
- [チェック]
- [チェック] Developer and Designer Tools
- [チェック]
Qt Creator
- [チェック]
CMake
- [チェック]
Ninja
- [チェック]
- [チェック] Qt [最新LTS版]
選択が終わったら、「Next」をクリックします。
7. ライセンス契約の同意 (再度)
選択した各コンポーネントのライセンスが表示されます。内容を確認し、同意のチェックボックスをオンにして「Next」進みます。
8. インストール開始
最後に、インストールされるコンポーネントのサマリーが表示されます。ダウンロードサイズとインストール後のサイズも表示されるので確認しましょう。問題がなければ「Install」ボタンをクリックして、インストールを開始します。
ここからは、ひたすら待つ時間です。選択したコンポーネントの量とネットワーク速度によっては、30分~1時間以上かかることもあります。コーヒーでも淹れて、リラックスして待ちましょう。
インストールが完了したら、「Finish」ボタンを押してインストーラーを閉じます。お疲れ様でした!
第5章: インストール後の設定と確認
インストールが完了したら、Qt Creatorを起動する前に、環境が正しくセットアップされているか確認しましょう。
1. Qt Creatorの初回起動
スタートメニュー(Windows)、Launchpad(macOS)、またはアプリケーションメニュー(Linux)から「Qt Creator」を起動します。初回起動時には、簡単なチュートリアルや設定ウィザードが表示されることがありますが、スキップしても構いません。
2. キット(Kit)の確認(最重要)
Qt Creatorが、インストールしたQtのバージョンとコンパイラを正しく認識しているか確認します。この組み合わせをQtでは「キット (Kit)」と呼びます。
- Qt Creatorのメニューバーから、設定画面を開きます。
- Windows/Linux: 「ツール」 -> 「オプション」
- macOS: 「Qt Creator」 -> 「Preferences…」
- 左側のペインから「Kits」を選択します。(日本語UIでは「キット」)
- 中央のペインに、自動検出されたキットのリストが表示されます。
- 例えば、「Desktop (default)」や「Desktop Qt 6.5.3 MSVC2019 64bit」といった名前のキットがあるはずです。
- このキットを選択し、詳細情報を確認します。
- Compiler: CとC++のコンパイラが正しく設定されているか(例: Microsoft Visual C++ Compiler, Clang, GCC)。
- Debugger: デバッガが設定されているか(例: CDB, LLDB, GDB)。
- Qt version: インストールしたQtのバージョンが正しく選択されているか。
- ここに赤い感嘆符(!マーク)が表示されていなければ、設定は成功です!
- もし感嘆符が表示されている場合は、コンパイラが見つかっていないなど、何らかの問題があります。第1章のコンパイラのインストールが正しく完了しているか、再度確認してください。
3. 環境変数の設定 (任意、ただし推奨)
通常、Qt Creatorの中からプロジェクトをビルド・実行する限り、手動で環境変数を設定する必要はありません。しかし、コマンドプロンプトやターミナルから qmake
や mingw32-make
などのQt関連コマンドを直接使いたい場合は、PATH環境変数の設定が必要です。
-
Windowsでの設定例:
- 「システムのプロパティ」を開き、「環境変数」ボタンをクリックします。
- システム環境変数またはユーザー環境変数の「Path」を選択し、「編集」をクリックします。
- 「新規」をクリックし、以下のパスを追加します。バージョンやコンパイラ名は、ご自身の環境に合わせてください。
C:\Qt\6.5.3\msvc2019_64\bin
C:\Qt\Tools\mingw1120_64\bin
(MinGWをインストールした場合)
-
macOS/Linuxでの設定例:
- ホームディレクトリにある設定ファイル(
~/.zshrc
や~/.bash_profile
,~/.bashrc
など、お使いのシェルに合わせて)をテキストエディタで開きます。 - ファイルの末尾に以下の行を追記します。
bash
export PATH=~/Qt/6.5.3/macos/bin:$PATH - ファイルを保存し、ターミナルを再起動するか、
source ~/.zshrc
のようなコマンドで設定を読み込み直します。
- ホームディレクトリにある設定ファイル(
これで、すべての準備が整いました。いよいよ最初のQtアプリケーションを作成します。
第6章: “Hello, World!” – 最初のQtプロジェクト作成
理論はもう十分です。実際に手を動かして、Qt開発の第一歩を踏み出しましょう。空のウィンドウを表示し、そこにラベルを配置する簡単なアプリケーションを作成します。
1. プロジェクトの新規作成
- Qt Creatorを起動します。
- ウェルカム画面の「+ New Project」ボタン、またはメニューバーの「ファイル」 -> 「新規ファイルまたはプロジェクト…」を選択します。
2. プロジェクトテンプレートの選択
- 「New Project」ダイアログが表示されます。
- 左のリストから「Application (Qt)」を選択します。
- 中央のリストから「Qt Widgets Application」を選択し、「Choose…」ボタンをクリックします。
Qt Widgets
は、伝統的で強力なデスクトップUIを作成するためのモジュールです。
3. プロジェクト名と場所の設定
- Name: プロジェクト名を入力します。例:
HelloWorld
- Create in: プロジェクトを作成するフォルダを指定します。ここでも、パスに空白や日本語を含まないように注意してください。
4. ビルドシステムの設定
ビルドシステムを選択します。
* qmake
: Qt独自の伝統的なビルドシステム。シンプルで分かりやすいです。
* CMake
: よりモダンで汎用性の高いビルドシステム。
* Qbs
: Qtが開発した次世代ビルドシステム。
初心者には qmake
がおすすめです。選択して「次へ」進みます。
5. クラス情報の設定
メインウィンドウのクラスに関する設定です。
* Class name: MainWindow
* Base class: QMainWindow
* Header file: mainwindow.h
* Source file: mainwindow.cpp
* Generate form: チェックを入れると、UIを視覚的にデザインするための .ui
ファイル (mainwindow.ui
) が生成されます。
ここはすべてデフォルトのままで「次へ」進んで問題ありません。
6. 翻訳ファイル
アプリケーションを多言語対応させるための設定です。今回は不要なので、そのまま「次へ」進みます。
7. キットの選択
ここで、どの「キット」を使ってプロジェクトをビルドするか選択します。第5章で確認したキット(例: Desktop Qt 6.5.3 MSVC2019 64bit
)にチェックが入っていることを確認してください。複数のキットをインストールしている場合は、ここでビルド対象を切り替えることができます。
8. バージョン管理
Gitなどのバージョン管理システムを使うかどうかの設定です。今回は「
9. プロジェクトの構成と実行
「完了」を押すと、Qt Creatorのメイン画面にプロジェクトが読み込まれます。
* 左側 (サイドバー): プロジェクトに含まれるファイルがツリー表示されます。
* HelloWorld.pro
: プロジェクト全体の設定ファイル (qmake用)。
* main.cpp
: プログラムの開始点。ここでMainWindowを生成して表示します。
* mainwindow.h
, mainwindow.cpp
: メインウィンドウのクラス定義と実装。
* mainwindow.ui
: UIデザインファイル。
* 画面左下: ビルドと実行をコントロールするボタンがあります。
* 緑色の三角ボタン: 実行 (ビルド & 実行)
* 金槌のアイコン: ビルドのみ
* 虫のアイコン: デバッグ実行
さっそく、緑色の実行ボタンをクリックしてみましょう!
初回ビルドには少し時間がかかります。画面下部の「コンパイル出力」ペインにビルドの進捗が表示され、エラーがなければ「ビルド完了」のメッセージが表示された後、空っぽのウィンドウが画面に表示されます。
これがあなたの最初のQtアプリケーションです!おめでとうございます!
10. 簡単なUIの編集
最後に、このウィンドウに文字を表示してみましょう。
1. 左のプロジェクトツリーから mainwindow.ui
をダブルクリックします。
2. 画面中央が、UIをデザインするための「Qt Designer」モードに切り替わります。
3. 左側の「ウィジェットボックス」から、「Display Widgets」の中にある「Label」を見つけます。
4. この「Label」を、中央のデザイン画面(ウィンドウの絵)の上にドラッグ&ドロップします。
5. 配置したラベル(”TextLabel”と表示されている)を選択した状態で、画面右側の「プロパティエディタ」を見ます。
6. QLabel
セクションにある text
プロパティを探し、その値を「Hello, Qt World!」に変更してEnterキーを押します。
7. 再度、画面左下の緑色の実行ボタンをクリックします。
8. 今度は、「Hello, Qt World!」と表示されたウィンドウが立ち上がるはずです!
第7章: トラブルシューティングとFAQ
環境構築にはトラブルがつきものです。よくある問題と解決策をまとめました。
-
Q1: インストール中にダウンロードが失敗します。
- A1: まずはネットワーク接続が安定しているか確認してください。企業のネットワークなどでは、ファイアウォールやプロキシがダウンロードを妨げている可能性があります。また、アンチウイルスソフトがインストーラーの動作をブロックしていないかも確認しましょう。時間を置いて再試行すると成功することもあります。
-
Q2: Qt Creatorでキットが認識されません (赤い感嘆符が出ます)。
- A2: ほぼ間違いなく、コンパイラが正しくインストールされていないか、Qt Creatorがその場所を見つけられていないことが原因です。「Kits」設定画面で「Compilers」タブを開き、コンパイラがリストにあるか確認してください。なければ「Add」ボタンから手動で設定できます(例: Visual Studioの
cl.exe
やMinGWのg++.exe
のパスを指定)。第1章のコンパイラのインストール手順を再確認することが最も確実です。
- A2: ほぼ間違いなく、コンパイラが正しくインストールされていないか、Qt Creatorがその場所を見つけられていないことが原因です。「Kits」設定画面で「Compilers」タブを開き、コンパイラがリストにあるか確認してください。なければ「Add」ボタンから手動で設定できます(例: Visual Studioの
-
Q3: 「C1083: include ファイルを開けません: ‘windows.h’: No such file or directory」のようなビルドエラーが出ます (MSVC)。
- A3: Visual Studioのインストール時に「Windows SDK」が含まれていなかった可能性があります。Visual Studio Installerを再度起動し、「変更」から「C++によるデスクトップ開発」ワークロードを選択し、右側の「インストールの詳細」で「Windows SDK」にチェックが入っているか確認・インストールしてください。
-
Q4: インストールしたQtのバージョンやコンポーネントを追加・削除したいです。
- A4: Qtをインストールしたフォルダ(例:
C:\Qt
や~/Qt
)にMaintenanceTool.exe
(またはMaintenanceTool
) というアプリケーションがあります。これを実行するとインストーラーと似た画面が起動し、「コンポーネントの追加または削除」を選択することで、いつでもコンポーネント構成を変更できます。
- A4: Qtをインストールしたフォルダ(例:
-
Q5: オープンソース版のライセンス (LGPLv3) で本当に商用アプリを作っても大丈夫?
- A5: はい、LGPLv3の条件を守れば可能です。最も重要なのは、Qtライブラリを動的リンクで利用することです(これはデフォルトの設定です)。動的リンクであれば、あなたのアプリケーションのソースコードを公開する義務はありません。ただし、ユーザーが利用しているQtのバージョンを明記し、ユーザー自身がそのバージョンのQtライブラリを(必要であれば改変して)差し替えられるようにしておく必要があります。通常は、アプリケーションと一緒にQtのDLLを配布することでこの要件を満たせます。
- 注意: Qtライブラリを静的リンクでアプリケーションに組み込む場合は、より厳しい条件(アプリケーションのオブジェクトファイルの提供など)が課せられます。法的な判断については、必ず専門家の助言を仰いでください。
おわりに
この長いガイドを最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたは今、Qtオープンソース版のダウンロードとインストールをマスターし、最初のアプリケーションをその手で動かすことに成功しました。これは、Qt開発者としてのキャリアにおける、非常に大きな一歩です。
今日あなたが学んだことは、環境構築という最初の、しかし最も重要なハードルを越えるための知識です。これからQtの世界をさらに探求していくための、確固たる土台ができました。
次のステップ:
- シグナル&スロットを学ぶ: Qtの根幹をなす、オブジェクト間の通信メカニズムです。これがQtを非常に強力なものにしています。
- Qt Creatorのデバッガを使ってみる: プログラムの動きを一行ずつ追い、変数の値を確認する方法を学びましょう。
- 公式ドキュメントとサンプルを探索する: Qtには非常に質の高いドキュメントと、膨大な数のサンプルプロジェクトが用意されています。これらは最高の学習教材です。
- Qt Quick/QMLに触れてみる: スマートフォンのような、滑らかでモダンなUIを作りたいなら、QMLという宣言的UI言語が非常にパワフルです。
開発の旅は始まったばかりです。壁にぶつかることもあるでしょう。しかし、Qtには活発なコミュニティフォーラムがあり、世界中の開発者が助け合っています。恐れずに質問し、学び、そして何よりも創造を楽しんでください。
Happy coding