ElasticsearchとOpenSearchとは?機能・違いを徹底解説

ElasticsearchとOpenSearchとは?機能・違いを徹底解説

はじめに:なぜ「2つ」のプロジェクトが存在するのか

データ駆動型社会において、大量のデータをリアルタイムで収集、分析、検索する能力は、企業や組織にとって不可欠な要素となっています。その中心的な役割を担ってきたのが、分散型検索・分析エンジンである「Elasticsearch」です。しかし、近年、そのElasticsearchから派生した「OpenSearch」という新しいプロジェクトが登場し、多くの開発者や企業の間で混乱や選択の疑問が生じています。

この二つのプロジェクトは、かつては密接な関係にありましたが、現在は異なる道を歩んでいます。本記事では、ElasticsearchとOpenSearchのそれぞれの機能、アーキテクチャ、エコシステム、そして最も重要な「違い」について、徹底的に解説します。なぜ分裂が生じたのかという歴史的背景から、それぞれの技術的な詳細、メリット・デメリット、そしてどちらを選択すべきかという判断基準まで、約5000語にわたって深く掘り下げていきます。

第1章:Elasticsearchとは?その歴史、機能、エコシステム

1.1 Elasticsearchの誕生と進化

Elasticsearchの物語は、Shay Banon氏が開発した分散検索エンジン「Compass」に遡ります。彼は、自身の妻の料理レシピを検索するために、よりスケーラブルで柔軟な検索ソリューションを求めていました。この個人的なニーズが、後のElasticsearchの基礎となるオープンソースプロジェクトのアイデアへと発展します。

2010年、Shay Banon氏はApache Luceneの上に構築された分散型RESTful検索エンジンとしてElasticsearchをリリースしました。その直感的なRESTful API、JSONベースのドキュメント指向、そして水平スケーラビリティは、瞬く間に開発者の間で人気を博しました。特に、ログ管理、全文検索、分析などの分野でその真価を発揮し、様々な業界で採用されていきました。

2012年には、Shay Banon氏によってElastic社(旧Elasticsearch Inc.)が設立され、Elasticsearchを中核とした商用サポートとサービスの提供が始まりました。そして、Elasticsearchの利用をさらに容易にするための周辺ツール、特にデータ収集ツールの「Logstash」と可視化ツールの「Kibana」が加わり、「ELK Stack」として知られる強力なデータ分析プラットフォームが形成されました。後に「Beats」が加わり、「Elastic Stack」へと名称が変更され、監視、セキュリティ、ビジネスインテリジェンスなど、多岐にわたるユースケースをカバーする総合的なソリューションへと進化を遂げました。

1.2 Elasticsearchの主要機能とアーキテクチャ

Elasticsearchは、高性能な全文検索、データ集計、分析能力を特徴とする分散型検索・分析エンジンです。その基盤には、高性能な検索ライブラリであるApache Luceneが採用されています。

1.2.1 コア機能
  • 全文検索 (Full-text Search): 高度なテキスト分析、関連性スコアリング、ファセット検索、オートコンプリートなど、企業レベルの検索アプリケーションに必要な機能を網羅しています。
  • 構造化データ検索 (Structured Data Search): 日付、数値、ブール値など、構造化されたデータに対して高速なクエリ実行とフィルタリングが可能です。
  • 集計 (Aggregations): 大量のデータから統計的な洞察(平均、合計、最大、最小、カーディナリティなど)やパターン(トップN、ヒストグラムなど)をリアルタイムで抽出できます。ビジネスインテリジェンスやデータ分析に不可欠な機能です。
  • 地理空間検索 (Geospatial Search): 地理座標に基づいて場所を検索したり、特定の範囲内のデータを抽出したりする機能を提供します。
  • 時系列データ分析 (Time-series Data Analysis): ログ、メトリクス、イベントなどの時系列データを効率的に保存、検索、分析するために最適化されています。
1.2.2 アーキテクチャの主要概念

Elasticsearchは分散システムとして設計されており、高い可用性とスケーラビリティを実現しています。

  • ノード (Node): Elasticsearchクラスタを構成する単一のサーバーインスタンス。ノードは異なる役割(マスターノード、データノード、インジェストノード、コーディネイティングノードなど)を持つことができます。
  • クラスタ (Cluster): 1つ以上のノードの集まりで、すべてのデータと分散型インデックス機能を保持します。
  • インデックス (Index): 関連するドキュメントのコレクション。リレーショナルデータベースのテーブルに似ていますが、より柔軟なスキーマレス設計が可能です。
  • ドキュメント (Document): Elasticsearchに保存される最小のデータ単位。JSON形式で表現され、複数のフィールド(キーと値のペア)を含みます。
  • シャード (Shard): インデックスは物理的に複数のシャードに分割されます。各シャードは独立したLuceneインデックスであり、クラスタ内の異なるノードに分散して保存されます。これにより、データの並列処理とスケーラビリティが実現されます。
  • レプリカ (Replica): シャードのコピー。プライマリシャードのデータ損失を防ぎ、リードクエリの負荷分散を可能にします。レプリカシャードは異なるノードに配置されるため、高い耐障害性を提供します。

1.3 Elastic Stack (旧ELK Stack) の主要コンポーネント

Elasticsearchは単体でも強力ですが、その真価は周辺ツールとの統合によって発揮されます。これらを総称して「Elastic Stack」と呼びます。

  • Kibana: Elasticsearchのデータを可視化し、分析するための強力なWebインターフェース。ダッシュボード、グラフ、マップ、Discover(データ探索)機能などを提供し、非技術者でもデータの洞察を得ることを可能にします。また、Dev ToolsでREST APIを直接操作したり、Canvasでプレゼンテーションを作成したりすることも可能です。
  • Logstash: さまざまなソース(ログファイル、メッセージキュー、データベースなど)からデータを収集、変換、強化し、Elasticsearchに送信するためのサーバーサイドのデータ処理パイプライン。データのフィルタリング、解析、構造化などを実行できます。
  • Beats: 軽量でシングルパーパスのデータシッパーのファミリー。サーバー、コンテナ、ネットワークなどから特定の種類のデータを収集し、Logstashまたは直接Elasticsearchに送信します。
    • Filebeat: ログファイルを収集。
    • Metricbeat: システムやサービス(CPU、メモリ、ディスク、ネットワークなど)のメトリクスを収集。
    • Winlogbeat: Windowsイベントログを収集。
    • Packetbeat: ネットワークパケットデータを収集。
    • Auditbeat: Linux監査フレームワークやファイルシステムの変化を監視。
    • Heartbeat: サービスが利用可能かどうかを監視(稼働時間監視)。
  • Elastic Cloud: ElasticsearchやElastic Stackの各種コンポーネントをマネージドサービスとして提供するクラウドプラットフォーム。AWS、GCP、Azure上で利用可能で、スケーリング、アップグレード、セキュリティパッチ適用などの運用をElastic社が代行します。
  • 商用機能とソリューション: Elastic社は、Elastic Stackのオープンソースコンポーネントの上に、以下のような商用機能やソリューションを提供しています。
    • Elastic Observability: ログ管理、メトリクス監視、APM (Application Performance Monitoring)、Uptime監視を統合し、システムの健全性とパフォーマンスをエンドツーエンドで可視化します。
    • Elastic Security: SIEM (Security Information and Event Management) およびエンドポイントセキュリティ機能を統合し、脅威の検出、調査、対応を支援します。機械学習を活用した異常検知も含まれます。
    • Elastic Enterprise Search: 企業内のあらゆるデータソース(ウェブサイト、CRM、ファイル共有など)を横断して検索できるエンタープライズ検索ソリューションを提供します。
    • Machine Learning (ML): クラスタリング、異常検知、レグレッションなどの機械学習機能をElasticsearchのデータに直接適用できます。これは特にログやメトリクスの異常を自動で検知するのに役立ちます。

1.4 Elasticsearchのライセンス変更とOSSコミュニティへの影響

Elasticsearchの歴史において、最も大きな転換点となったのがライセンスモデルの変更です。元々、ElasticsearchとKibanaはApache License 2.0(ASL2.0)という非常に寛容なオープンソースライセンスの下で提供されていました。これにより、誰でも自由に利用、修正、配布が可能でした。

しかし、Elastic社は、Amazon Web Services(AWS)などのクラウドプロバイダーがElasticsearchをマネージドサービスとして提供し、そこから収益を得ている一方で、Elastic社が開発した機能改善やバグ修正への貢献が不足していると感じていました。Elastic社は、これらのプロバイダーが「オープンソースの原則を遵守していない」と批判し、公平な競争環境を求めてライセンスモデルの見直しを決定しました。

2021年1月、Elastic社はElasticsearchとKibanaのライセンスを、ASL2.0から以下の二つのライセンスに変更すると発表しました。

  • Server Side Public License (SSPL): MongoDBが採用したことで知られるライセンス。特定の条件(SSPLでライセンスされたソフトウェアをサービスとして提供する場合、そのサービスに関連するすべてのソフトウェアをSSPLで公開する必要がある)を満たさない限り、商用利用やサービスの提供を制限します。これは実質的に、クラウドプロバイダーがマネージドサービスとして提供する際の制約を課すものです。
  • Elastic License (ELv2): Elastic社が独自に作成した商用ライセンス。ソースコードは利用可能ですが、変更、再配布、ホスティングサービスとしての提供に制限があります。Elastic Stackの多くの商用機能がこのライセンスで提供されます。

このライセンス変更は、オープンソースコミュニティとクラウドプロバイダーの間で大きな議論を巻き起こしました。特に、ASL2.0の原則を守ることを重視するAmazon Web Services(AWS)は、このライセンス変更がオープンソースの精神に反すると強く反発しました。これが、OpenSearchプロジェクト誕生の直接的な引き金となります。

第2章:OpenSearchとは?その誕生、機能、エコシステム

2.1 OpenSearchの誕生と哲学

Elasticsearchのライセンス変更に対し、最も強く反応したのがAmazon Web Services (AWS) でした。AWSは、長年にわたってElasticsearchをベースとしたマネージドサービス「Amazon Elasticsearch Service」(後にAmazon OpenSearch Serviceに改称)を提供しており、その顧客基盤も巨大でした。Elastic社のライセンス変更は、AWSが提供するサービスに大きな影響を与えるものであり、AWSはオープンソースの原則が脅かされていると判断しました。

2021年4月、AWSはElasticsearch 7.10.2(Elastic社がASL2.0でリリースした最終バージョン)とKibana 7.10.2のフォーク(分岐)として、「OpenSearch」プロジェクトを発表しました。OpenSearchは、Apache License 2.0の下で完全にオープンソースとして維持され、コミュニティ主導で開発を進めることを明確にしました。

OpenSearchの哲学は、「オープンであること」と「コミュニティ主導」に集約されます。

  • Apache License 2.0: 今後も一貫してASL2.0ライセンスを保持し、誰でも自由に利用、変更、配布、そしてマネージドサービスとして提供できることを保証します。
  • コミュニティ主導: AWSが主導しているものの、ベンダー中立的なプロジェクトとして、多くの企業や個人開発者が貢献できるガバナンスモデルを採用しています。技術諮問委員会 (Technical Steering Committee: TSC) が設立され、プロジェクトの方向性を決定します。
  • 透明性: 開発ロードマップ、機能追加、バグ修正のプロセスはすべて公開され、コミュニティからのフィードバックを積極的に取り入れます。

2.2 OpenSearchの主要機能とアーキテクチャ

OpenSearchは、その誕生経緯から、Elasticsearch 7.10.2の機能セットをほぼ完全に継承しています。そのため、コア機能やアーキテクチャの概念はElasticsearchと非常に類似しています。

2.2.1 コア機能(Elasticsearch 7.10.2相当)
  • 全文検索: 高度な関連性ベースの検索機能。
  • 構造化データ検索: 高速なクエリ実行とフィルタリング。
  • 集計: リアルタイムでのデータ分析と洞察の抽出。
  • 地理空間検索: 位置情報に基づく検索。
  • 時系列データ分析: ログ、メトリクス、イベントの効率的な処理。
2.2.2 アーキテクチャ

Elasticsearchと同様に、ノード、クラスタ、インデックス、ドキュメント、シャード、レプリカといった分散システムの概念に基づいています。OpenSearchは、Elasticsearch 7.10.2のコードベースからフォークされたため、基本的な設計思想とコンポーネント構成は同一です。

2.3 OpenSearch Dashboardsと周辺コンポーネント

OpenSearchも、その中核となる検索エンジンだけでなく、周辺ツールとの統合によってその価値を高めます。

  • OpenSearch Dashboards: Kibana 7.10.2のフォークであり、OpenSearchクラスタのデータを可視化・分析するためのWebインターフェース。Discover、Visualize、Dashboard、Dev Toolsなど、Kibanaの主要機能を継承しています。プロジェクトの進化とともに、独自の機能拡張やUX改善が行われています。
  • Data Prepper: OpenSearchエコシステムにおけるデータ収集および処理パイプラインツール。LogstashやBeatsの代替として設計されており、ログ、メトリクス、トレースなどのデータを収集、変換、フィルタリングし、OpenSearchに送信できます。特に、APMやオブザーバビリティのユースケースで注目されています。
  • OpenSearch クライアントライブラリ: Java, Python, Ruby, JavaScriptなど、主要なプログラミング言語向けのクライアントライブラリが提供されており、アプリケーションからのOpenSearchとの連携を容易にします。
  • プラグインエコシステム: OpenSearchは、セキュリティ、アラート、SQL、機械学習などの機能をプラグインとして提供しています。これらのプラグインは、Apache License 2.0の下で開発されており、OpenSearchのコア機能の一部として利用できます。
    • Security Plugin: アクセス制御、認証(OpenID Connect, SAML, LDAP, Active Directoryなど)、ロールベースのアクセス制御 (RBAC)、IPベースのセキュリティ、監査ログなどの機能を提供。Elasticsearchの商用セキュリティ機能に相当する、オープンソースの代替です。
    • Alerting Plugin: 特定の条件に基づいてアラートをトリガーし、通知を送信する機能。
    • SQL Plugin: SQLクエリを使用してOpenSearchのデータにアクセスできる機能。JDBC/ODBCドライバも提供されます。
    • Machine Learning Commons Plugin: 機械学習モデル(k-meansクラスタリング、異常検知など)をOpenSearch内で実行するためのフレームワーク。
    • Trace Analytics Plugin: OpenTelemetryなどのトレースデータを取り込み、可視化・分析するための機能。APMのユースケースで重要です。

2.4 Amazon OpenSearch Service

AWSは、自身のマネージドサービス「Amazon Elasticsearch Service」を「Amazon OpenSearch Service」に改称し、OpenSearchプロジェクトをサポートしています。これは、AWSクラウド上でOpenSearchクラスタを簡単にデプロイ、管理、スケーリングできるフルマネージドサービスです。バックアップ、リカバリ、監視、セキュリティなどの運用がAWSによって自動化されており、ユーザーはアプリケーション開発に集中できます。OpenSearch Serviceは、OpenSearchプロジェクトの最新バージョンと、一部のレガシーなElasticsearchバージョン(6.xおよび7.x)の両方に対応しています。

第3章:Elasticsearch vs OpenSearch:徹底比較

これまで、ElasticsearchとOpenSearchそれぞれの概要を見てきました。ここからは、両者の具体的な違い、特にライセンス変更後の機能の分岐、エコシステムの特性、そして将来の方向性について詳しく比較します。

3.1 ライセンスとガバナンス:最も根本的な違い

  • Elasticsearch:

    • ライセンス: 現在のコア製品(Elasticsearch本体とKibana本体)は、Server Side Public License (SSPL) または Elastic License (ELv2) で提供されています。
    • 影響: これにより、第三者がElasticsearchのコードをベースにしたマネージドサービスを無償で提供することが事実上不可能になりました。ASL2.0で提供されているのは、BeatsやLogstashなどの一部のコンポーネント、そしてElastic Stackの最も基本的な機能のみです。
    • ガバナンス: Elastic社が完全に開発を主導する、単一ベンダーによるプロジェクトです。コミュニティからの貢献は歓迎されますが、最終的な決定権はElastic社にあります。
  • OpenSearch:

    • ライセンス: すべてのコンポーネント(OpenSearch本体、OpenSearch Dashboards、プラグインなど)が、Apache License 2.0 (ASL2.0) の下で提供されています。
    • 影響: 誰でも自由に利用、修正、配布、そしてマネージドサービスとして提供できます。ベンダーロックインのリスクが極めて低いです。
    • ガバナンス: AWSが主要な貢献者ですが、複数の企業(Capital One, SAP, Logz.io, etc.)や個人開発者が参加するコミュニティ主導のプロジェクトです。技術諮問委員会 (TSC) によってプロジェクトの方向性が決定されます。

要約: ライセンスとガバナンスは、両者の最も根本的な違いであり、ユーザーがどちらを選択するかを決定する上で最も重要な要素となります。OpenSearchは純粋なオープンソースであり続けたいというニーズに応え、Elasticsearchは自社の知的財産を保護し、独自のビジネスモデルを確立しようとしています。

3.2 機能の差異とロードマップの分岐

ライセンス変更以来、両プロジェクトの機能開発は異なる道を歩んでいます。

  • Elasticsearch:

    • 商用機能の強化: Elastic社は、Elastic Stackの商用サブスクリプションで利用できる「プラチナ」や「エンタープライズ」レベルの機能に注力しています。これには、高度な機械学習機能(異常検知、レグレッションなど)、エンタープライズグレードのセキュリティ機能(SSO、ロールベースアクセス制御、監査、FIPS 140-2準拠)、エンタープライズ検索、APM、Uptime、SIEMなどのソリューションが含まれます。
    • UI/UXの進化: Kibanaは継続的に改善され、より直感的で高機能なダッシュボード、Canvas(データストーリーテリング)、Maps(高度な地理空間分析)、Graph(関係性探索)などのユニークな機能を統合しています。
    • クラウドファースト: Elastic Cloudでの提供と統合が最優先され、新機能はまずクラウドサービスで利用可能になることが多いです。
  • OpenSearch:

    • ASL2.0での機能再構築/新規開発: Elasticsearchの商用機能に相当する多くの機能(セキュリティ、アラート、機械学習など)を、ASL2.0ライセンスで利用できるように、プラグインとして再構築または新規開発しています。例えば、OpenSearchのSecurity Pluginは、ElasticsearchのX-Packセキュリティ機能のオープンソース版と見なせます。
    • コミュニティ主導のニーズ: コミュニティからのフィードバックに基づき、オブザーバビリティ(Trace Analytics, PPL: Pipeline Processing Language)、SQL、データライフサイクル管理などのコア機能とプラグインの改善に注力しています。
    • AWSサービスとの統合: AWSの他のサービス(Lambda, S3, Kinesisなど)との連携がシームレスに進んでいます。

要約: Elasticsearchは、高度で統合された商用ソリューションに強みがあり、特に複雑なセキュリティ、機械学習、エンタープライズ検索のニーズを持つ大企業向けに進化しています。一方、OpenSearchは、純粋なオープンソースのフレームワークとして、コミュニティのニーズに基づいた機能開発と、ベンダー中立的なアプローチを重視しています。これにより、特定のユースケースではOpenSearchの方がより多くのオープンソース機能を提供している場合があります。

3.3 エコシステムとマネージドサービス

  • Elasticsearch:

    • Elastic Cloud: Elastic社自身が提供する公式のマネージドサービスであり、最も早く新機能が導入されます。AWS, GCP, Azureの主要クラウドプラットフォームで利用できます。完全な機能セットとElastic社からの直接サポートが受けられる点が強みです。
    • オンプレミス/セルフマネージド: セルフマネージド環境でのデプロイも可能ですが、最新の商用機能を利用するにはElastic社のサブスクリプションが必要です。
    • サードパーティ製サービス: ライセンス変更により、多くのサードパーティクラウドプロバイダーがElasticsearchの最新バージョンをマネージドサービスとして提供することが難しくなりました。
  • OpenSearch:

    • Amazon OpenSearch Service: AWSが提供する公式マネージドサービス。OpenSearchプロジェクトの主要なサポート元であり、OpenSearchの最新バージョンと一部のレガシーElasticsearchバージョンをサポートします。
    • 他のクラウドプロバイダー: ASL2.0ライセンスのため、多くのクラウドプロバイダー(例: Aiven, Instaclustr)がOpenSearchをベースとしたマネージドサービスを提供しています。これにより、ユーザーはより多くの選択肢と柔軟性を得られます。
    • オンプレミス/セルフマネージド: 完全なASL2.0であるため、オンプレミスや任意のインフラストラクチャ上で自由にセルフマネージドできます。商用サブスクリプションなしで、すべての機能を利用可能です。

要約: マネージドサービスにおいては、Elastic CloudはElastic社が提供する機能の最先端を走り、最適なエクスペリエンスを提供します。対して、OpenSearchはAmazon OpenSearch Serviceが主要な選択肢である一方、ASL2.0のおかげで、より多くのサードパーティ製マネージドサービスプロバイダーやオンプレミスでの自由な運用が可能です。

3.4 セキュリティ機能

  • Elasticsearch:

    • 基本的なセキュリティ機能(パスワード認証、TLS暗号化)は無料で提供されますが、エンタープライズレベルの高度なセキュリティ機能(LDAP/AD統合、SAML/OpenID Connect、RBAC、フィールド/ドキュメントレベルのセキュリティ、監査ログ、FIPS 140-2準拠など)は、Elastic社の商用サブスクリプション(Basic以上の有償ライセンス)に含まれます。
  • OpenSearch:

    • OpenSearch Security Plugin: Elasticsearchの商用セキュリティ機能に相当する、非常に包括的なセキュリティ機能セットをASL2.0で提供しています。これには、認証(Internal, LDAP, Active Directory, SAML, OpenID Connect)、ロールベースのアクセス制御 (RBAC)、テナント機能、フィールド/ドキュメントレベルのセキュリティ、監査ログ、IPフィルタリングなどが含まれます。追加コストなしで利用できます。

要約: エンタープライズレベルのセキュリティ機能を無償で利用したい場合は、OpenSearchが明確な優位性を持っています。Elasticsearchで同等の機能を利用するには、有償のサブスクリプションが必要です。

3.5 機械学習 (Machine Learning) 機能

  • Elasticsearch:

    • Elastic社の機械学習機能は非常に強力で、異常検知、回帰、分類、クラスタリング、時系列予測など、幅広いユースケースに対応しています。特に、ログやメトリクスの異常を自動で検知する機能は、Observabilityソリューションの一部として深く統合されており、非常に評価が高いです。これらの高度なML機能は商用ライセンス(Gold以上)で提供されます。
  • OpenSearch:

    • Machine Learning Commons Plugin: OpenSearchも機械学習機能を提供しますが、Elasticsearchのような高度な統合や、特定のユースケースに特化した豊富なモデルは現時点では不足しています。ML Commonsプラグインを通じて、k-meansクラスタリングや線形回帰などの基本的なアルゴリズムが利用可能であり、OpenSearch DashboardsからMLモデルを管理できます。コミュニティの貢献により、今後さらに機能が拡充される可能性があります。

要約: 高度で統合された機械学習機能を重視する場合、Elasticsearchの商用ML機能が依然として優位性を持っています。OpenSearchのML機能は進化中であり、より基本的なユースケースや、独自のMLモデルを統合する基盤として利用できます。

3.6 監視・オブザーバビリティ機能 (APM, Uptime, SIEM)

  • Elasticsearch (Elastic Observability / Security):

    • ログ、メトリクス、APMトレース、稼働時間データ、セキュリティイベント(SIEM)を一つのプラットフォームで統合管理できる強力なソリューションを提供します。専用のUIと事前構築されたダッシュボードが用意されており、エンドツーエンドの可視化と迅速なトラブルシューティングを可能にします。これらのソリューションは、Elastic Stackの商用機能として提供されます。
  • OpenSearch:

    • OpenSearch Dashboards Plugins: Trace Analytics Plugin(OpenTelemetryとの統合)、PPL (Pipeline Processing Language)、Alerting Pluginなど、オブザーバビリティの各側面に対応するプラグインを提供しています。これらのプラグインはASL2.0で提供され、OpenSearchをオブザーバビリティプラットフォームとして構築することが可能です。ただし、Elasticsearchのような緊密な統合と完成度の高い専用UIは、まだ開発途上にあります。

要約: 完成度が高く、統合されたObservability/Securityソリューションを求めるならElasticsearchが強力な選択肢ですが、有償です。OpenSearchは、オープンソースで同様の機能セットを構築するための基盤を提供しており、個々のコンポーネントを組み合わせて利用する柔軟性があります。

3.7 価格とTCO (Total Cost of Ownership)

  • Elasticsearch:

    • セルフマネージド: コア製品はSSPL/ELv2ライセンスであり、基本的な機能は無償で利用できますが、高度な機能やエンタープライズレベルのセキュリティ、機械学習を利用するには有償サブスクリプションが必要です。
    • Elastic Cloud: 定額制または従量課金制。インフラ費用、ソフトウェアライセンス、運用、サポートがすべて含まれます。高度な機能の利用が容易ですが、総コストは高くなる傾向があります。
  • OpenSearch:

    • セルフマネージド: すべての機能がASL2.0で提供されるため、ソフトウェア費用は基本的にかかりません。運用コスト(インフラ、人件費)のみが発生します。
    • Amazon OpenSearch Service: 従量課金制。インスタンスタイプ、ストレージ、データ転送量などに応じて課金されます。運用が簡素化されるメリットがあります。他のサードパーティ製サービスも類似のモデルです。

要約: TCOを比較する際には、単なるソフトウェアライセンスだけでなく、運用コスト、利用したい機能の範囲、そしてサポートの要否を考慮する必要があります。高度な機能を有償で利用しても運用コストを抑えたい場合はElastic Cloud、ソフトウェア費用を徹底的に抑え、自社で運用リソースがある場合はOpenSearchのセルフマネージド、バランスを取りたい場合はAmazon OpenSearch ServiceやサードパーティのOpenSearchマネージドサービスが選択肢となります。

3.8 コミュニティとサポート

  • Elasticsearch:

    • コミュニティ: 長い歴史を持つ巨大なコミュニティ、豊富なドキュメント、フォーラム、Stack Overflowでのサポートがあります。
    • サポート: Elastic社からの公式サポート(有償)が提供されます。ビジネスレベルのSLAと専門知識を持つエンジニアによるサポートが期待できます。
  • OpenSearch:

    • コミュニティ: 比較的新しいプロジェクトですが、AWSと他の協力企業の強力なサポートにより、急速にコミュニティが成長しています。GitHubリポジトリでの活発な開発、フォーラム、ドキュメントが提供されています。
    • サポート: Amazon OpenSearch Serviceを利用している場合はAWSからのサポート、セルフマネージドの場合はコミュニティサポートが中心となります。一部のサードパーティ企業もOpenSearchの商用サポートを提供しています。

要約: どちらも活発なコミュニティが存在しますが、Elasticsearchはより成熟したコミュニティと公式の商用サポート体制を持っています。OpenSearchは急速に成長しており、AWSのバックアップがあるため、コミュニティサポートも充実しています。

第4章:どちらを選ぶべきか?選択の判断基準

ElasticsearchとOpenSearch、どちらを選択するかは、組織のニーズ、技術スタック、予算、ライセンスに対する考え方によって大きく異なります。以下に、選択を判断するための主要な基準をまとめます。

4.1 組織の要件と優先順位

  1. ライセンスとオープンソースの原則へのコミットメント:

    • 純粋なオープンソースを求める(ASL2.0必須): 完全にASL2.0でライセンスされたソリューションを求める場合は、OpenSearchが唯一の選択肢です。ベンダーロックインを避けたい、コードの自由な利用・変更・配布を重視したい企業に適しています。
    • 商用ライセンスも許容範囲(高度な機能が優先): 特定の機能やサポートを優先し、有償ライセンスでも問題ない場合は、Elasticsearchが選択肢に入ります。
  2. 必要な機能セット:

    • 最新かつ高度な商用機能(特にML, SIEM, APMの統合): Elasticsearchが提供する高度な機械学習、エンタープライズセキュリティ、そして統合されたオブザーバビリティ(APM, Uptime, SIEM)ソリューションは、現時点ではOpenSearchよりも成熟しており、専用UIや事前構築されたモデルが充実しています。これらの機能をシームレスに利用したい場合は、Elasticsearch (特にElastic Cloud) が適しています。
    • 基本的な検索・分析機能と特定のオープンソースプラグイン: 全文検索、集計、ログ管理などの基本的なニーズであれば、両者とも同等レベルで満たせます。特定の機能(例:ASL2.0での強力なセキュリティ、SQLクエリ)を求める場合は、OpenSearchのプラグイン群が有効な選択肢となります。
  3. 運用リソースとクラウド戦略:

    • マネージドサービスによる運用負荷軽減を最優先:
      • Elasticsearchの高度な機能をフル活用したい、またはElastic社からの直接サポートを受けたい場合は、Elastic Cloudが最適です。
      • AWSエコシステムに深く依存しており、コスト効率と運用の容易さを求める場合は、Amazon OpenSearch Serviceが強力な選択肢です。
    • セルフマネージド(オンプレミスまたはIaaS上で独自構築): 運用リソースと専門知識があり、インフラを完全にコントロールしたい場合は、どちらも選択肢になり得ます。ただし、Elasticsearchの最新商用機能を使うには有償ライセンスが必要です。OpenSearchは全ての機能がASL2.0で利用可能です。
  4. 既存のElastic Stackバージョン:

    • Elasticsearch 7.10.2以前からの移行: もし既存のElasticsearchが7.10.2以前のバージョンであれば、OpenSearchへの移行は比較的容易です。OpenSearchは7.10.2のフォークであるため、APIの互換性が高くなっています。
    • Elasticsearch 7.11以降の利用中: 新しいバージョンのElasticsearchを利用している場合、OpenSearchとのAPIの互換性が低下している可能性があるため、移行にはより大きな労力が必要になります。新しい機能の多くはElastic社の商用ライセンスで提供されているため、OpenSearchへの移行は機能のダウングレードになる可能性があります。
  5. コストと予算:

    • ソフトウェア費用を最小限に抑えたい: OpenSearchはすべての機能がASL2.0で提供されるため、ソフトウェアライセンス費用をかけずに利用できます。セルフマネージドの場合はインフラコストと人件費が主になります。
    • 高機能とプロフェッショナルサポートへの投資を許容できる: Elastic Cloudのサブスクリプションモデルは、運用コストの削減と高度な機能へのアクセスを提供しますが、全体的なコストは高くなる可能性があります。

4.2 具体的なユースケースと推奨

  • ログ管理・オブザーバビリティ(APM, メトリクス, トレース):

    • Elasticsearch (Elastic Observability): 包括的な統合ソリューションを求める大規模エンタープライズや、高度な異常検知などの機械学習機能が必須の場合。
    • OpenSearch: ASL2.0でオブザーバビリティスタックを構築したい場合。Data PrepperやTrace Analyticsプラグインなどを活用して、独自のパイプラインを構築する柔軟性があります。コストを抑えたい場合にも有効です。
  • 全文検索アプリケーション:

    • Elasticsearch: 企業内検索、eコマース検索など、高度な関連性スコアリング、セマンティック検索、多言語対応、Kibanaの豊富な検索UI機能(Maps, Graphなど)を求める場合。Elastic Cloudを利用すれば、迅速なデプロイとスケーリングが可能です。
    • OpenSearch: 純粋なオープンソースで高性能な全文検索エンジンを構築したい場合。特に、AWSエコシステム内で検索サービスを構築する場合には、Amazon OpenSearch Serviceとの親和性が高いです。
  • セキュリティ情報イベント管理 (SIEM):

    • Elasticsearch (Elastic Security): 脅威ハンティング、インシデント対応、エンドポイントセキュリティまでを統合した完成度の高いSIEMソリューションを求める場合。高度なMLベースの脅威検知も利用できますが、有償機能です。
    • OpenSearch: ASL2.0でエンタープライズレベルのSIEM機能を構築したい場合。OpenSearch Security Pluginが強力なアクセス制御機能を提供し、監査ログやアラート機能と組み合わせて利用できます。
  • ビジネスインテリジェンス・データ分析:

    • Elasticsearch: KibanaのCanvasやGraphなど、データストーリーテリングや複雑なデータ関係の探索に特化した機能を利用したい場合。
    • OpenSearch: OpenSearch Dashboardsの基本的な可視化機能で十分な場合や、SQLプラグインを使ってBIツールからデータにアクセスしたい場合。

第5章:将来の展望と結論

5.1 両プロジェクトの将来展望

  • Elasticsearch:

    • Elastic社は今後も、Elastic Cloudを中核とした商用ソリューションの強化と、特定のユースケースに特化した高度な機能開発に注力するでしょう。特に、機械学習、セキュリティ、オブザーバビリティ、エンタープライズ検索の分野でのリードを維持しようとします。
    • オープンソースと商用ライセンスの明確な線引きは維持され、無料版と有料版の機能差はさらに広がっていく可能性があります。クラウドファースト戦略を継続し、Elastic Cloudの提供地域と機能セットを拡充していくと予想されます。
  • OpenSearch:

    • OpenSearchプロジェクトは、コミュニティ主導のオープンソース開発を堅持し、ASL2.0の原則を守り続けるでしょう。AWSが主要な貢献者であるため、AWSのサービスとの連携は今後も強化されていきます。
    • Elasticsearchの商用機能に相当するオープンソースの代替機能を開発し、コミュニティのニーズに基づいた新機能(例:トレース分析、PPLの強化、AI/ML機能の拡張)を継続的に追加していくと考えられます。
    • より多くの企業や個人が貢献する、真にベンダー中立的なエコシステムの確立を目指すでしょう。

要約: 両プロジェクトは、互いに異なる道を歩み続けることになります。Elasticsearchは商用化と機能の高度化、OpenSearchはオープンソースとしての自由度とコミュニティへの貢献を追求するでしょう。これにより、機能的な差異は時間とともにさらに明確になる可能性があります。

5.2 結論:適切な選択のためのロードマップ

ElasticsearchとOpenSearchは、どちらも強力で成熟した分散検索・分析エンジンであり、それぞれの強みと弱みを持っています。どちらが「優れている」という単純な答えはなく、最終的な選択は、あなたの組織の具体的なニーズ、優先順位、そしてライセンスに対する考え方に依存します。

以下に、最終的な選択のためのロードマップを提案します。

  1. ライセンスポリシーの確認: 組織としてASL2.0のような完全に自由なオープンソースライセンスが必須か、それとも商用ライセンスも許容されるかを確認します。これが最も根本的な分かれ道です。

    • ASL2.0が必須なら:OpenSearch
    • ASL2.0でなくても良いなら:次のステップへ
  2. 必要な機能セットの特定: 現状と将来的に必要となる機能(全文検索、ログ管理、APM、SIEM、高度なMLなど)を具体的にリストアップします。特に、Elasticsearchの商用機能(例:高度な機械学習、エンタープライズセキュリティ)が本当に必要かどうかを評価します。

    • 高度な商用機能が必須なら:Elasticsearch
    • 基本的な機能で十分、またはオープンソースの代替で良いなら:OpenSearchも選択肢
  3. 運用戦略とコスト制約の評価:

    • マネージドサービスを希望し、運用負荷を最小限にしたい場合:
      • Elasticsearchの高度な機能をフル活用したい、または直接サポートを求めるなら Elastic Cloud
      • AWSエコシステム内で運用し、コストと運用のバランスを取りたいなら Amazon OpenSearch Service
    • セルフマネージドを希望し、インフラを完全にコントロールしたい場合:
      • 有償ライセンスで高度な機能を解禁できるなら Elasticsearch
      • 全ての機能を無償で利用し、運用リソースを自社で持つなら OpenSearch
  4. 既存のシステムと移行の考慮: 既存のElasticsearchバージョン、データ量、ダウンタイム許容範囲などを考慮し、移行の容易さとコストを評価します。

ElasticsearchとOpenSearchは、互いに競争し、イノベーションを推進することで、結果的にユーザーに多様な選択肢を提供しています。この徹底解説が、読者の皆様がそれぞれのニーズに最適なソリューションを選択するための一助となれば幸いです。

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