無料高機能!Avidemuxで始める動画編集入門
インターネットで動画を共有したり、自分で撮影した映像をまとめたりと、動画編集の機会は増えています。しかし、「動画編集ソフトは高そう」「操作が難しそう」といったイメージから、なかなか一歩を踏み出せない方もいらっしゃるかもしれません。
そんなあなたにぜひ知っていただきたいのが、「Avidemux(アビデマックス)」という動画編集ソフトです。Avidemuxは、完全無料でありながら、動画編集の基本である「カット」「結合」「形式変換」といった機能を高い精度で実行できるパワフルなツールです。特に、手軽に動画を編集したい初心者の方や、パソコンのスペックにあまり自信がない方にとって、Avidemuxはまさにうってつけの存在と言えるでしょう。
この記事では、Avidemuxを使って動画編集を始めるための全てを、約5000語の詳細な解説でご紹介します。ダウンロードからインストール、基本的な操作、応用的な機能、そしてよくあるトラブルとその対処法まで、この記事を読めばあなたもきっとAvidemuxを使った動画編集の世界にスムーズに入っていくことができるはずです。
さあ、高機能ながらも無料のAvidemuxを使って、あなたの動画編集ライフを始めてみましょう!
1. Avidemuxとは? なぜAvidemuxを選ぶのか?
1.1 Avidemuxの概要
Avidemuxは、オープンソースで開発されている無料の動画編集・処理ソフトウェアです。Windows、macOS、Linuxといった主要なオペレーティングシステムに対応しており、誰でも自由に入手し、利用することができます。
その最大の特徴は、特定の作業に特化しているため、シンプルかつ効率的に操作できる点です。特に以下の3つの作業を得意としています。
- カット編集: 動画の不要な部分を切り取る、あるいは必要な部分だけを抜き出す。
- 結合: 複数の動画ファイルを一つにまとめる。
- 形式変換 (エンコード): 動画ファイルの種類(形式)や圧縮方法を変更する。
これらの作業は、動画を扱う上で非常に頻繁に必要となるものです。Avidemuxは、これらの作業を直感的かつ高速に実行できるように設計されています。
1.2 なぜ動画編集初心者にAvidemuxがおすすめなのか?
世の中には高機能な有料・無料の動画編集ソフトがたくさんあります。その中でなぜAvidemuxが初心者の方におすすめなのでしょうか?
- 完全無料でありながら高性能: 費用を一切かけずに、基本的な動画編集作業を高品質に行うことができます。無料だからといって機能が制限されている、といったことはありません。
- 動作が比較的軽い: 最新の高機能ソフトに比べ、比較的古いPCや低スペックなPCでも動作しやすい傾向があります。これは、複雑なタイムライン編集や多数のエフェクト処理を行わない、シンプルな設計になっているためです。
- シンプルなユーザーインターフェース: 余計な機能や複雑な設定項目が少なく、何がどこにあるかが分かりやすい画面構成になっています。動画編集が初めての方でも、基本的な操作で迷いにくいでしょう。
- 特定の作業に特化している: 「とりあえず動画のここからここまでを切り取りたい」「スマホで撮った動画をPCで見られる形式にしたい」「複数の動画をまとめて一本にしたい」といった明確な目的がある場合に、最も手軽かつ効率的に目的を達成できます。高度なエフェクトやトランジション、複数トラックを使った複雑な編集を必要としないのであれば、Avidemuxは最適な選択肢となります。
- Copyモードによる高速処理: 動画の再エンコード(再圧縮)を行わずに編集できる「Copy」モードを使えば、画質を劣化させることなく、非常に高速にカットや結合が可能です。これは、動画の形式や内部構造を理解しているAvidemuxだからこそできる強力な機能です。
もちろん、Avidemuxには不得意なこともあります。例えば、複数の動画や音声を重ね合わせる多重トラック編集、凝ったテロップアニメーションの作成、多彩な画面切り替え効果(トランジション)の適用などはできません。しかし、まずは「動画を少しだけ編集して手軽に共有したい」といったニーズには十分すぎるほど応えてくれます。
まずはAvidemuxで動画編集の基本に触れ、必要に応じてより高機能なソフトへステップアップしていくという使い方も非常に有効です。
1.3 この記事で学べること
この記事では、Avidemuxを使って動画編集を始める上で必要な知識と操作方法を網羅的に解説します。具体的には以下の内容について詳しく説明していきます。
- Avidemuxのダウンロードとパソコンへのインストール方法
- Avidemuxの画面構成(ユーザーインターフェース)と基本的な使い方
- 動画ファイルを開き、再生・停止・シークする方法
- 動画の必要な部分だけを切り取る「カット編集」の詳細な手順
- 複数の動画ファイルを一つにまとめる「結合編集」の方法
- 動画のファイル形式や圧縮方法を変更する「エンコード」の設定と実行方法
- 動画に様々な効果を加える「フィルター」の使い方(リサイズ、クロップ、色調補正など)
- 音声の処理方法(音量調整、音声トラックの入れ替えなど)
- 複数の作業を効率化する「バッチ処理(Queue)」と「プロジェクトファイル」
- Avidemuxを使う上での応用的な知識(キーフレーム、Copyモードなど)
- 使用中によく遭遇するトラブルとその解決策
これらの知識を習得することで、あなたはAvidemuxを自由に使いこなし、基本的な動画編集作業を自信を持って行えるようになるでしょう。
2. Avidemuxの概要と特徴 – さらに深く知る
Avidemuxがどのようなソフトか、もう少し掘り下げて見ていきましょう。
2.1 Avidemuxの位置づけ
動画編集ソフトは、大きく分けて以下の2種類に分類されることが多いです。
- ノンリニア編集ソフト: タイムライン上に複数の動画、音声、テロップなどを自由に配置し、重ね合わせたり、複雑なエフェクトやトランジションを適用したりできるタイプのソフト。DaVinci Resolve Free, Shotcut, Kdenlive, Oliveなどがこれに該当します。非常に自由度が高い反面、操作が複雑で、高いPCスペックを要求される傾向があります。
- リニア編集ソフト / トランスコーダー: 既存の動画ファイルに対し、カットや結合、形式変換といった比較的シンプルな処理を行うことに特化したソフト。Avidemuxはこちらのカテゴリーに近い位置づけと言えます。ノンリニア編集のような自由度はありませんが、特定の作業を効率的に、そして高速に行えます。
Avidemuxは厳密にはリニア編集ソフトとは少し異なりますが、その得意とする機能はまさに「既存の動画ファイルに直接手を入れる」という点にあります。特に、映像と音声を再エンコードせずに処理できる「Copy」モードの存在が、Avidemuxを他の多くのソフトと差別化する重要な特徴です。
2.2 対応OSとシステム要件
Avidemuxはクロスプラットフォームに対応しており、以下の主要なOSで利用可能です。
- Windows: 非常に幅広いバージョンに対応しています。最新のWindows 10/11はもちろん、比較的古いバージョンでも動作することが多いです。
- macOS: OS X 10.6以降のバージョンに対応しています(最新版ではより新しいmacOSが推奨される場合があります)。
- Linux: 主要なディストリビューション(Ubuntu, Fedoraなど)で利用可能です。
システム要件は、実行する処理内容によって大きく変わります。
- 基本的なカット・結合 (Copyモード): CPU負荷が低く、比較的古いPCでも快適に動作します。メモリも少量で十分です。
- 形式変換 (エンコード): 使用するエンコーダー(H.264, H.265など)の種類や設定、動画の解像度やフレームレートによってCPU負荷が大きく変動します。高解像度(4Kなど)や高フレームレート(60fpsなど)の動画をH.265のような圧縮率の高い形式にエンコードする場合、高性能なCPUと十分なメモリが必要になります。ハードウェアエンコード(CPU内蔵GPUや専用GPUを利用した高速エンコード)を利用できる場合は、エンコード時間を大幅に短縮できますが、これには対応したハードウェアとAvidemuxの設定が必要です。
- フィルターの適用: フィルターの種類によって負荷が変わります。リサイズやクロップは比較的軽いですが、ノイズ除去や色調補正といった処理はCPU負荷が高くなる傾向があります。
総じて言えるのは、複雑なノンリニア編集ソフトに比べれば、Avidemuxはシステムリソースの要求が控えめであるということです。まずは試してみて、必要に応じてPCのアップグレードなどを検討すると良いでしょう。
2.3 Avidemuxの主な機能一覧
Avidemuxが提供する主な機能を改めてリストアップします。
- ファイルの読み込み: MP4, MKV, AVI, WMV, FLV, TS, MPGなど、幅広い動画・音声フォーマットに対応しています。
- カット編集: 始点(A)と終点(B)を設定して、不要な部分を削除したり、必要な部分を抽出したりできます。キーフレーム単位、またはスマートカッターを使った正確なフレーム単位でのカットが可能です。
- 結合: 同じ形式・設定の複数の動画ファイルを結合できます。
- 形式変換(エンコード):
- 動画エンコーダー: H.264 (x264), H.265 (x265), MPEG-4 ASP (Xvid, DivX), VP9, MJPEGなど、主要なコーデックを搭載。
- 音声エンコーダー: AAC, MP3, AC3, Opus, Vorbisなどに対応。
- コンテナフォーマット: MP4 (.mp4), MKV (.mkv), AVI (.avi), FLV (.flv), TS (.ts) などで出力可能。
- 詳細なエンコード設定(ビットレート、品質、プロファイルなど)が可能。
- ハードウェアエンコード(Intel Quick Sync Video, NVIDIA CUDA, AMD VCE/VCN)の利用をサポート(利用できる環境とビルドによる)。
- フィルター:
- 映像フィルター: リサイズ、クロップ、回転、反転、色調補正(明るさ、コントラスト、ガンマなど)、シャープネス、ぼかし、ノイズ除去、デインターレース、フレームレート変換、字幕焼き付け、ロゴ焼き付けなど、多種多様なフィルターを搭載。
- 音声フィルター: 音量調整(Gain)、チャンネルミキシング、リサンプリング、ノイズリダクション、タイムシフトなど。
- 音声トラックの操作: 複数の音声トラックを持つ動画の場合、どのトラックを使用するか選択したり、外部の音声ファイルを読み込んで追加・置き換えたりできます。
- 字幕の扱い: 外部の字幕ファイル(SRT, ASS/SSAなど)を読み込み、動画に焼き付けることができます。
- プロジェクトファイル: 作業状態(読み込んだファイル、カット範囲、フィルター設定など)をプロジェクトファイルとして保存し、後で再開できます。
- バッチ処理 (Queue): 複数の動画ファイルに対して、同じ設定でエンコードなどの処理をまとめて実行できます。
これらの機能を見れば、Avidemuxが単なるカットツールや形式変換ツールではなく、基本的な動画編集に必要な多くの機能を網羅していることがわかるでしょう。
2.4 他の無料ソフトとの簡単な比較
いくつかの代表的な無料動画編集ソフトと比較して、Avidemuxの特徴を整理します。
- DaVinci Resolve Free: プロレベルのノンリニア編集が可能。非常に高機能だが、操作が複雑で、高性能なPCが必須。Avidemuxとは用途が全く異なる。
- Shotcut: ノンリニア編集が可能で、フィルターやトランジションも豊富。無料ながら高機能で人気。Avidemuxよりできることは多いが、基本的なカットや形式変換だけならAvidemuxの方がシンプルで高速な場合がある。
- Kdenlive: Linuxを中心に開発されているノンリニア編集ソフト。Shotcutと同様に多機能。Windows/macOS版もある。Avidemuxより多機能だが、安定性や動作の軽さではAvidemuxに分があることも。
- Olive: 比較的新しいオープンソースのノンリニア編集ソフト。開発途中だが将来性がある。Avidemuxのような枯れた安定性やCopyモードはない。
Avidemuxは、ノンリニア編集ソフトのような派手さはありませんが、「特定のタスクを確実かつ効率的にこなす」という点で、他の無料ソフトにはない強みを持っています。特に、Copyモードによる高速・無劣化編集は、大容量の動画ファイルを頻繁に扱う場合に非常に有効です。
3. Avidemuxのダウンロードとインストール
Avidemuxを使い始めるには、まずソフトウェアをダウンロードしてパソコンにインストールする必要があります。公式ウェブサイトから安全に入手する方法を解説します。
3.1 公式ウェブサイトへのアクセス
Avidemuxの公式サイトは以下のURLです。
http://avidemux.sourceforge.net/
このURLにアクセスすると、Avidemuxのトップページが表示されます。サイトのデザインはシンプルで、少し古さを感じるかもしれませんが、これが公式の安全なダウンロード元です。類似の名前のサイトや、ダウンロードサイトを経由したインストールは避けましょう。
3.2 ダウンロードページの探し方
トップページには、Avidemuxに関する情報やニュースが掲載されています。ダウンロードページへのリンクは、通常、ページ上部やサイドバーに配置されています。「Download」といったリンクを探してください。
見当たらない場合は、トップページの案内やメニューをよく確認してください。多くの場合、Download
という直接的なリンクか、SourceForge
などのダウンロードプラットフォームへのリンクがあります。AvidemuxはSourceForgeというオープンソースプロジェクトのホスティングサイトでも配布されています。
3.3 OSとバージョンの選択
ダウンロードページに移動すると、対応OS(Windows, macOS, Linux)ごとにダウンロードリンクが表示されます。ご自身のパソコンのOSに合ったものを選んでください。
Windowsの場合、通常は32bit版と64bit版があります。お使いのWindowsが64bit版であれば、必ず64bit版を選択してください。現代のPCはほとんどが64bitであり、64bit版の方がメモリを効率的に利用でき、高解像度の動画なども安定して処理できる可能性が高まります。確認方法は、Windowsのシステム情報(「設定」->「システム」->「バージョン情報」で「システムの種類」を見るなど)を参照してください。
macOSの場合は、通常、お使いのmacOSのバージョンに対応したdmgファイルを選択します。
Linuxの場合は、お使いのディストリビューションやパッケージ形式(deb, rpmなど)に合ったもの、またはAppImage形式などが提供されている場合があります。
また、Avidemuxには開発版(Nightly Builds)と安定版(Release)があります。特別な理由がない限り、安定版(Release)をダウンロードすることを強く推奨します。開発版は最新の機能が試せる反面、動作が不安定だったり、予期しないバグが含まれていたりする可能性があります。
3.4 ダウンロード手順の詳細
目的のOS、バージョン、安定版/開発版を選択したら、対応するダウンロードリンクをクリックします。通常はSourceForgeなどのダウンロードプラットフォームのページに遷移し、自動的にダウンロードが開始されます。
SourceForgeの場合、「Your download will start shortly…」といったメッセージが表示され、数秒後にダウンロードが始まることが一般的です。自動的に始まらない場合は、「direct link」などの手動ダウンロードリンクをクリックしてください。
ダウンロードされるファイル名は、OSやバージョンによって異なりますが、Windowsなら.exe
ファイル、macOSなら.dmg
ファイル、Linuxなら.tar.gz
や.deb
, .rpm
, .AppImage
といった拡張子が付いています。
ダウンロードが完了するまでしばらく待ちましょう。ファイルサイズは数百MB程度です。
3.5 インストール手順の詳細(Windows版を例に)
ダウンロードしたファイル(Windowsならavidemux_xxxx_win64.exe
のようなファイル名)をダブルクリックして実行します。
- ユーザーアカウント制御 (UAC): インストーラーを実行すると、ユーザーアカウント制御のダイアログが表示される場合があります。「このアプリがデバイスに変更を加えることを許可しますか?」といった内容です。Avidemuxは信頼できるソフトウェアなので、「はい」をクリックして続行します。
- 言語選択: インストーラーの表示言語を選択する画面が表示される場合があります。通常はデフォルトでOSの言語が選択されていますが、必要に応じて変更できます。(Avidemux本体は後から日本語化可能です)
- ようこそ画面: Avidemuxセットアップウィザードのようこそ画面が表示されます。「次へ」をクリックします。
- 使用許諾契約: ライセンス契約書が表示されます。内容を確認し、同意できる場合は「同意する」または「I accept the agreement」を選択して「次へ」をクリックします。
- インストール先の選択: Avidemuxをインストールするフォルダを選択します。通常はデフォルトの「Program Files」フォルダ内のAvidemuxフォルダで問題ありません。特別な理由がなければ変更せず、「次へ」をクリックします。
- コンポーネントの選択: インストールするコンポーネントを選択します。通常はデフォルトで全て選択されています。
Avidemux
: プログラム本体Desktop shortcut
: デスクトップにショートカットを作成Start Menu folder
: スタートメニューにフォルダを作成File associations
: Avidemuxが対応する動画ファイルをAvidemuxで開くように関連付けを行う(任意)- すべてインストールすることを推奨しますが、不要であればデスクトップショートカットなどは外しても構いません。選択後、「次へ」をクリックします。
- インストールの準備完了: これまでの設定内容が表示されます。問題がなければ「インストール」をクリックします。
- インストール: インストールが開始されます。進行状況バーが表示されるので、完了まで待ちます。通常は数分で完了します。
- インストール完了: インストールが完了した画面が表示されます。「Avidemuxを実行」のようなチェックボックスがある場合があります。すぐに起動したい場合はチェックを入れたまま「完了」をクリックします。
これでAvidemuxのインストールは完了です。デスクトップやスタートメニューにAvidemuxのアイコンが表示されているはずです。
macOSの場合は、ダウンロードしたdmgファイルをダブルクリックして開き、中に含まれているAvidemuxアプリケーションファイルをApplicationsフォルダにドラッグ&ドロップするのが一般的なインストール方法です。
3.6 初回起動時の注意点
Avidemuxを初めて起動すると、環境設定に関するダイアログが表示される場合があります。特に重要なのは以下の点です。
- 動画出力の設定: 最初にどの動画エンコーダー、音声エンコーダー、コンテナ形式を使用するか、簡単な設定を促されることがあります。最初はデフォルト設定のままで問題ありません。後からいつでも変更できます。
- キャッシュフォルダの設定: Avidemuxが一時ファイル(キャッシュ)を保存するフォルダを指定する場合があります。十分な空き容量があるドライブ上の場所を指定しましょう。デフォルトで問題なければそのままでOKです。
これらの設定は後から「編集」メニューの「環境設定」から変更可能です。
また、Avidemuxは起動時にシステムのメディアファイル情報をスキャンしたり、プラグインを読み込んだりするため、初回起動時は少し時間がかかる場合があります。しばらく待って、メインウィンドウが表示されるのを確認してください。
4. ユーザーインターフェース(UI)の理解
Avidemuxのインストールが完了し、無事に起動できたら、次にその画面構成(ユーザーインターフェース)を理解しましょう。シンプルながらも、基本的な操作に必要な要素はすべて揃っています。
Avidemuxのメインウィンドウは、主に以下の領域で構成されています。
- メニューバー: ウィンドウの一番上にあります。「ファイル」「編集」「ビデオ」「オーディオ」「ツール」「ヘルプ」などのメニューが含まれています。ここからファイルの開閉、保存、設定変更、フィルター適用など、ほとんど全ての操作を実行できます。
- ツールバー: メニューバーのすぐ下にあります。よく使う機能(ファイルを開く、保存、カットマーカー設定、再生制御など)のアイコンボタンが並んでいます。アイコンは直感的に理解しやすいデザインになっています。
- メイン設定エリア: ツールバーの左下に位置し、非常に重要な設定項目が表示されます。
- Video Output (映像出力): 映像のエンコーダー(Copy, H.264など)を選択します。
- Audio Output (音声出力): 音声のエンコーダー(Copy, AACなど)を選択します。
- Output Format (出力形式): 最終的な動画ファイルのコンテナ形式(MP4 Muxer, MKV Muxerなど)を選択します。
これらの設定が、後述するエンコード(形式変換)の品質や速度に大きく影響します。
- プレビューウィンドウ: メインウィンドウの中央、最も大きな領域を占めます。読み込んだ動画の映像が表示されます。カット位置の確認や、フィルター適用結果のプレビューなどに使用します。
- タイムライン / スライダー: プレビューウィンドウの下にあります。動画全体の長さを表すバーと、現在の再生位置を示すスライダーが表示されます。
- スライダーをドラッグすることで、動画の任意の位置に素早く移動できます(シーク)。
- バーの特定の場所に印(マーカー)を付けて、カット範囲を指定します。
- 現在の再生位置、総フレーム数、現在のフレーム番号、タイムスタンプなどが表示されます。
- ステータスバー: ウィンドウの一番下にあります。現在のAvidemuxの状態や、実行中の処理に関する情報などが表示されます。
4.1 各要素の役割と機能
- メニューバー:
- ファイル: 新規作成、ファイルを開く、保存、プロジェクトの保存/読み込み、Queueへの追加、終了など。
- 編集: カット、コピー、ペースト(カット範囲の操作)、設定(環境設定)、元に戻す/やり直しなど。
- ビデオ: 映像エンコーダー設定、フィルター設定、フレームレート変更など。
- オーディオ: 音声エンコーダー設定、フィルター設定、音声トラックの選択/追加など。
- ツール: 電卓(ビットレート計算など)、VBR設定、スクリプトなど、補助的なツール。
- ヘルプ: Avidemuxに関する情報、マニュアルへのリンク(英語)、バージョン情報など。
- ツールバー:
- ファイル関連: 開く (フォルダアイコン), 保存 (フロッピーアイコン)
- 編集マーカー: 始点A設定 (Aアイコン), 終点B設定 (Bアイコン)
- 再生制御: 再生 (右向き三角), 一時停止 (二本線), 停止 (四角), 前のフレームへ (左向き山), 次のフレームへ (右向き山), 前のキーフレームへ, 次のキーフレームへ
- シーク: スライダーの操作だけでなく、特定の時間やフレーム数にジャンプする機能(虫眼鏡アイコンなど)
- フィルター: 映像フィルター設定 (ビデオカメラアイコン), 音声フィルター設定 (スピーカーアイコン)
- Queue: 現在の設定をQueueに追加 (プラス記号のアイコン)
- メイン設定エリア:
- ドロップダウンリスト形式で、使用するエンコーダーや出力形式を選択します。例えば、「Video Output」で「Mpeg4 AVC (x264)」を選択し、「Audio Output」で「AAC (Faac)」を選択、「Output Format」で「MP4 Muxer」を選択すると、H.264映像+AAC音声のMP4ファイルとして出力するための設定になります。
- エンコーダー名の横にある「Configure」ボタンをクリックすると、ビットレートや品質、プロファイルなどの詳細設定ダイアログが表示されます。
- プレビューウィンドウ:
- 読み込んだ動画の映像が表示されます。
- タイムラインと連動しており、スライダーを動かすと対応するフレームが表示されます。
- フィルターを適用した場合、多くの場合、プレビューにその効果が反映されます(リアルタイムではない場合もあります)。
- タイムライン/スライダー:
- スライダーをドラッグすることで、動画の前後を自由に移動できます。
- 矢印キーで前後のフレームに移動することも可能です。
- 動画の長さに応じてバーの長さが変わります。
- キーフレームの位置がバー上に点線などで示される場合があります。カット編集においてキーフレームは非常に重要です。
4.2 基本的な操作
- 動画ファイルを開く:
- ツールバーのフォルダアイコンをクリックする、または「ファイル」メニューから「開く」を選択します。
- エクスプローラー(またはFinder)が開くので、編集したい動画ファイルを選択し「開く」をクリックします。
- 動画が読み込まれると、プレビューウィンドウに映像が表示され、タイムラインに動画の長さが反映されます。
- 動画を保存する:
- 編集が終わったら、ツールバーのフロッピーディスクアイコンをクリックする、または「ファイル」メニューから「保存」を選択します。
- 保存場所とファイル名を指定し、「保存」をクリックします。
- ここで重要なのは、保存する前に必ず「Video Output」「Audio Output」「Output Format」の設定を確認することです。これらの設定に基づいて、最終的な動画ファイルが作成されます(エンコード処理が行われます)。
- プレビュー再生:
- ツールバーの再生ボタン(右向き三角)をクリックすると、動画が再生されます。
- 一時停止ボタン(二本線)で一時停止、停止ボタン(四角)で再生を停止し、先頭に戻ります。
- 再生速度は通常等速ですが、Avidemuxはリアルタイム編集ソフトではないため、複雑なフィルターを適用した場合や、PCスペックが低い場合は、再生がカクついたり、コマ落ちしたりすることがあります。これは最終的な出力結果の品質とは直接関係ありません。正確なフレームを確認したい場合は、一時停止しながらスライダーを動かすか、前後のフレーム移動ボタンを使用します。
- シーク(位置移動):
- タイムライン上のスライダーをドラッグして、見たい位置に移動します。
- ツールバーの「前のフレームへ」「次のフレームへ」ボタンで、1フレームずつ正確に移動できます。
- ツールバーの「前のキーフレームへ」「次のキーフレームへ」ボタンで、キーフレームの位置にジャンプできます。キーフレームは後述するカット編集で非常に重要になります。
- 「ビデオ」メニューや右クリックメニューにある「時間へ移動」や「フレームへ移動」を選択し、特定の時間やフレーム番号を入力してジャンプすることもできます。
UIの各要素の役割と基本的な操作を理解すれば、Avidemuxを使った動画編集の第一歩を踏み出す準備が整いました。
5. 基本編集:カットと結合
Avidemuxの最も得意とする機能の一つが、動画のカットと結合です。シンプルながらも正確な操作が可能で、日常的な動画編集で最も頻繁に使用する機能と言えるでしょう。
5.1 動画ファイルの読み込み方法
これは前述の「基本的な操作」で解説した通りです。
1. Avidemuxを起動します。
2. ツールバーのフォルダアイコンをクリックするか、「ファイル」メニューから「開く」を選択します。
3. 編集したい動画ファイルを選択し、「開く」をクリックします。
対応している形式であれば、プレビューウィンドウに映像が表示され、タイムラインが読み込まれます。
5.2 カット編集の原理(始点A、終点B)
Avidemuxにおけるカット編集は、非常にシンプルです。動画のタイムライン上の「ここから(始点A)」と「ここまで(終点B)」という2つの点を指定し、その間の部分をどうするか(切り取るか、あるいはその部分だけを抜き出すか)を指示します。
この「始点A」と「終点B」を設定する操作は、Avidemuxの操作の核となる部分です。
5.3 始点A、終点Bの設定方法
カット範囲の指定は、タイムラインのスライダーを使って行います。
- カットを開始したい位置に移動: スライダーをドラッグするか、再生して一時停止するなどして、カットを開始したいフレームまで正確に移動します。正確な位置合わせには、「前のフレームへ」「次のフレームへ」ボタンや、矢印キー(←/→)を使うのが便利です。
- 始点Aを設定: ツールバーの「A」アイコンをクリックします。または、「編集」メニューから「始点を設定 [」を選択します。タイムライン上の現在の位置に緑色の縦線が表示され、これが始点Aを示します。
- カットを終了したい位置に移動: 同様に、スライダーをドラッグしたり、再生して一時停止するなどして、カットを終了したいフレームの直前まで移動します。(終点Bは、そのフレームを含む終点となります)
- 終点Bを設定: ツールバーの「B」アイコンをクリックします。または、「編集」メニューから「終点を設定 ]」を選択します。タイムライン上の現在の位置から始点Aまでの間に赤色の縦線が表示され、これが終点Bを示します。始点Aと終点Bの間が選択範囲(カット範囲)として強調表示されます。
重要: Avidemuxは、既定ではキーフレームを基準にしてカットを行います。キーフレームとは、動画の圧縮において、そのフレーム単体で画像全体を表現しているフレームのことです。キーフレーム間のフレームは、直前のキーフレームからの差分情報で構成されています。
- Copyモードでのカット: 「Video Output」が「Copy」になっている場合、Avidemuxは原則としてキーフレームの位置でのみ正確なカットが可能です。キーフレーム以外の位置でAまたはBを設定した場合、Avidemuxは最も近いキーフレームの位置に自動的に調整することがあります。これにより、指定した位置と実際のカット位置がわずかにずれることがあります。
- 再エンコードモードでのカット: 「Video Output」で「Copy」以外のエンコーダーを選択している場合(再エンコードが発生する場合)は、フレーム単位での正確なカットが可能です。Avidemuxは指定されたフレームで動画をデコードし、そこから再エンコードを開始します。
- スマートカッター: Copyモードでもキーフレーム以外の位置でより正確にカットしたい場合は、「編集」メニューの「設定」→「一般」タブにある「スマートカッターを使用」を有効にします。これにより、指定したカット点の前後数フレームだけを再エンコードすることで、Copyモードの高速性を保ちつつ、よりフレーム精度の高いカットが可能になります。ただし、全ての動画形式でうまく機能するわけではありません。
初心者の方は、まずはキーフレームを意識せずAとBを設定してみて、もしカット位置がずれる場合は、Video OutputをCopy以外(例: Mpeg4 AVC (x264))に変更して再度試すか、スマートカッターを有効にする、あるいは「前のキーフレームへ」「次のキーフレームへ」ボタンを使ってAとBをキーフレーム上に正確に設定する、といった方法を試してみましょう。タイムライン上の点線がキーフレームの位置を示すことが多いです。
5.4 カット範囲の削除
始点Aと終点Bで範囲を指定したら、その範囲を削除できます。
- 範囲選択: 始点Aと終点Bを設定し、削除したい部分が強調表示されている状態にします。
- 削除の実行: キーボードの
Delete
キーを押します。または、「編集」メニューから「カット」を選択します(「カット」ですが、Avidemuxでは選択範囲を削除する操作を指します)。
選択範囲の部分がタイムラインから消え、前後の動画クリップが結合されます。
この操作は、動画の途中の不要な部分(CM、NGシーンなど)を切り取る場合に便利です。
5.5 複数のセグメントのカットと保存
Avidemuxでは、動画全体から必要な部分を複数箇所抜き出して、それらを結合して一つのファイルとして保存することも可能です。
- 動画ファイルを開く: 編集したい動画を開きます。
- 最初の必要なセグメントを選択: 抜き出したい最初のセグメントの開始位置にAを、終了位置にBを設定します。
- 選択範囲を保存: 「ファイル」メニューから「選択範囲を保存」を選択します。保存ダイアログが表示されるので、ファイル名を付けて保存します。この際、「Video Output」「Audio Output」「Output Format」の設定が適用されます。
- 次の必要なセグメントを選択: タイムライン上の次の抜き出したいセグメントに移動し、同様にAとBを設定します。
- 選択範囲を保存: 再度「ファイル」メニューから「選択範囲を保存」を選択し、別のファイル名を付けて保存します。
- 必要なセグメント全てに対してこの操作を繰り返します。
この方法で、一本の長い動画から必要なシーンだけをいくつも抜き出すことができます。抜き出した複数のファイルを後述の「結合」機能で一つにまとめれば、ダイジェスト動画のようなものを作成することも可能です。
5.6 結合編集の原理(同じ形式の動画を複数読み込む)
Avidemuxの結合機能は非常にシンプルですが、重要な制約があります。それは、結合したい動画ファイルは、原則として全て「同じ形式・設定」である必要があるという点です。
- 同じコンテナ形式(例: 全てMP4)
- 同じ映像コーデック(例: 全てH.264)
- 同じ音声コーデック(例: 全てAAC)
- 同じ解像度(例: 全て1920×1080)
- 同じフレームレート(例: 全て30fps)
- エンコード設定(プロファイル、レベルなど)も可能な限り一致している方が安定します。
これらの条件が一致していない動画を無理に結合しようとすると、エラーが発生したり、結合された動画が正常に再生できなかったり、映像や音声が乱れたりする可能性が高いです。
異なる形式や設定の動画を結合したい場合は、事前に全ての動画を同じ形式・設定にエンコードし直しておく必要があります。この「形式変換(エンコード)」もAvidemuxの得意な機能なので、Avidemux内で前処理を行ってから結合するという流れになります。
5.7 動画ファイルの追加方法(Append機能)
結合したい動画(全て同じ形式・設定のもの)を準備したら、以下の手順で結合します。
- 最初の動画ファイルを開く: 結合したい動画ファイルのうち、最初に来るファイルをAvidemuxで開きます。
- 他の動画ファイルを追加: 「ファイル」メニューから「追記」を選択します。英語メニューの場合は「Append」と表示されます。
- 追加する動画ファイルを選択: ファイル選択ダイアログが表示されるので、Avidemuxで開いている動画ファイルの次に結合したいファイルを選択し、「開く」をクリックします。
- 追加の確認: Avidemuxがファイルを読み込み、既存の動画ファイルの後に追加します。タイムラインの長さが増えていることを確認してください。プレビューで再生して、動画がスムーズにつながっているか確認できます。
- 複数ファイルの追加: さらに別の動画ファイルを結合したい場合は、手順2〜4を繰り返します。
追加された動画ファイルは、Avidemux内部で一時的に一つの長い動画として扱われます。
5.8 結合時の注意点
前述の通り、結合するファイルの形式・設定の一致が非常に重要です。一致していない場合の典型的な問題として以下が挙げられます。
- エラーが発生して追記できない
- 追記はできたが、プレビューで再生するとおかしくなる(映像が乱れる、音声が消える、音ズレなど)
- 保存したファイルがおかしくなる
ファイル形式や設定が一致しているか確認するには、Avidemuxで各動画ファイルを開き、「ファイル」メニューの「情報」などを見て、コーデック、解像度、フレームレートなどを比較すると良いでしょう。
もし異なる場合は、先に「形式変換(エンコード)」の章で解説する方法で、全て同じ形式・設定に揃えてから追記(Append)を行ってください。
5.9 結合した動画の保存
追記(Append)によって複数の動画ファイルを結合したら、それを新しい一つの動画ファイルとして保存します。
- 結合された動画を開いた状態にする: 最初のファイルを開き、必要な他のファイルを全て追記(Append)した状態にします。
- 出力設定の確認: 「Video Output」「Audio Output」「Output Format」の設定が意図した形式になっているか確認します。一般的には、結合した元ファイルと同じ設定(例: Video Copy, Audio Copy, Output Format MP4 Muxer)で保存するのが最も高速で劣化もありません。ただし、元ファイルがCopyに対応していない形式であったり、結合を機に形式を変更したい場合は、ここで適切なエンコーダーを選択します。
- 保存を実行: ツールバーのフロッピーディスクアイコンをクリックするか、「ファイル」メニューから「保存」を選択します。
- ファイル名を指定: 保存場所とファイル名を指定し、「保存」をクリックします。
Avidemuxが結合された動画全体を処理し、指定した設定で新しいファイルとして出力します。Video OutputがCopyであれば、非常に高速に保存が完了します。Copy以外であれば、エンコード処理が行われるため時間がかかります。
カットと結合は、Avidemuxの最も基本的で強力な機能です。これらの操作をマスターすることで、手持ちの動画ファイルを自由に編集・整理できるようになります。
6. 動画形式変換(エンコーディング)
動画編集において非常に重要かつ頻繁に行われる作業の一つが、「形式変換」、または「エンコーディング」です。Avidemuxは、このエンコーディング機能も非常に強力かつ柔軟に提供しています。
6.1 なぜ形式変換が必要か?
動画ファイルには様々な「形式」があります。ここで言う形式とは、大きく分けて以下の2つを指します。
- コンテナフォーマット: 動画データ(映像、音声、字幕など)を格納するための「入れ物」です。拡張子(.mp4, .mkv, .aviなど)で識別されることが多いです。
- コーデック: 映像や音声を圧縮・伸張(エンコード・デコード)するための方式です。映像コーデック(H.264, H.265, MPEG-4など)と音声コーデック(AAC, MP3, AC3など)があります。
形式変換が必要となる主な理由は以下の通りです。
- 再生環境の互換性: 特定のデバイス(スマートフォン、ゲーム機、古いPCなど)やソフトウェアで再生できる形式に変換したい。
- ファイルサイズの削減: 動画をより圧縮率の高いコーデックに変換することで、ファイルサイズを小さくして保存容量を節約したり、アップロード時間を短縮したりしたい。
- 編集・加工: 一部の編集ソフトや作業で特定の形式が推奨・必須となる場合がある。
- 画質・音質の調整: ビットレートなどを調整して、ファイルサイズと画質・音質のバランスを変更したい。
Avidemuxを使えば、これらの目的に応じて動画ファイルを様々な形式に変換することができます。
6.2 対応している主要な入力・出力形式
Avidemuxは非常に多くの動画・音声フォーマットの読み込みに対応しています。代表的なものとしては、MP4, MKV, AVI, WMV, FLV, TS, MPG, VOB, MOVなどがあります。
出力形式(エンコードして保存できる形式)は、主に以下の要素の組み合わせで決まります。
- Video Output (映像エンコーダー): どの映像コーデックで圧縮するか。
- Audio Output (音声エンコーダー): どの音声コーデックで圧縮するか。
- Output Format (コンテナフォーマット): どの入れ物に入れるか。
メイン設定エリアのドロップダウンリストで、これらの設定を選択します。
6.3 映像エンコーダーの選択
「Video Output」のドロップダウンリストには、様々な映像エンコーダーが表示されます。代表的なものをいくつか紹介します。
- Copy: 再エンコードせずに元の映像トラックをそのまま利用します。画質劣化がなく、最も高速ですが、カット点に制約があったり(キーフレームのみ)、フィルターが適用できなかったりします。形式変換は行われません。
- Mpeg4 AVC (x264): 現在最も広く普及している映像コーデックであるH.264/AVCの高性能なエンコーダー「x264」を使用します。互換性が高く、画質とファイルサイズのバランスが良いです。多くのデバイスやサービスで利用できます。
- Mpeg4 HEVC (x265): 次世代の映像コーデックであるH.265/HEVCの高性能なエンコーダー「x265」を使用します。H.264より高い圧縮率(同じ画質ならファイルサイズを小さくできる)が特徴ですが、エンコードに時間がかかり、再生にはより高性能なハードウェアや新しいソフトウェアが必要です。
- Mpeg4 ASP (Xvid): かつて広く使われたDivX/Xvid互換のコーデックです。古いデバイスとの互換性はありますが、H.264などに比べると圧縮率や画質で劣ります。
- VP9: Googleが開発したオープンソースのコーデックです。WebM形式などで利用され、YouTubeなどでも採用されています。H.264と同等かそれ以上の圧縮率を持ちます。
- MJPEG: 各フレームをJPEG画像として圧縮する形式です。ファイルサイズは大きくなりますが、編集には向いています。
どのエンコーダーを選ぶかは、目的(互換性、ファイルサイズ、画質)によって異なります。一般的には、互換性重視なら「Mpeg4 AVC (x264)」、高圧縮・省容量重視なら「Mpeg4 HEVC (x265)」を選ぶことが多いでしょう。
6.4 音声エンコーダーの選択
「Audio Output」のドロップダウンリストには、様々な音声エンコーダーが表示されます。
- Copy: 再エンコードせずに元の音声トラックをそのまま利用します。画質劣化がなく高速です。
- AAC (Faac / Lav): 現在最も広く使われている音声コーデックの一つです。MP4形式などで利用され、互換性が高いです。「Faac」や「Lav」はAvidemuxが利用するエンコーダーライブラリの名前です。
- MP3 (Lame): 以前から広く使われている音声コーデックです。互換性は非常に高いですが、AACなどに比べると圧縮効率で劣ります。「Lame」はMP3エンコーダーライブラリの名前です。
- AC3 (Aften): DVDやBlu-rayなどで使われるサラウンド音声に適したコーデックです。
- Opus: 比較的新しいオープンソースのコーデックで、高い圧縮率と柔軟性が特徴です。WebMなどで利用されます。
- Vorbis: Oggコンテナでよく使われるオープンソースのコーデックです。
音声エンコーダーも、互換性や音質、ファイルサイズに応じて選択します。一般的には、互換性重視なら「AAC」か「MP3」を選ぶことが多いでしょう。元の動画がマルチチャンネル音声でそれを維持したい場合は、AC3やCopyを選択する必要があるかもしれません。
複数の音声トラックを持つ動画の場合、「オーディオ」メニューの「音声トラックを選択」から、どのトラックを処理対象にするか、あるいは新しい音声トラックを追加するかなどを設定できます。
6.5 出力形式(コンテナフォーマット)の選択
「Output Format」のドロップダウンリストでは、最終的な動画ファイルの「入れ物」を選択します。
- MP4 Muxer: 映像(H.264, H.265, MPEG-4など)と音声(AAC, MP3など)をMP4コンテナに格納します。最も一般的な形式の一つで、幅広いデバイス・ソフトウェアで再生できます。
- MKV Muxer: 映像、音声、字幕、チャプターなどを一つのファイルに格納できる柔軟性の高いコンテナです。多くのコーデックに対応しており、高機能ですが、MP4に比べると互換性はやや劣る場合があります。
- AVI Muxer: 以前から広く使われているコンテナですが、現代の高性能コーデック(H.264, H.265など)との相性があまり良くなく、機能面でもMKVやMP4に劣ります。特別な理由がない限り避けるのが無難です。
- FLV Muxer: Flash Video形式です。ウェブ上の動画配信で以前はよく使われましたが、最近はMP4などが主流です。
- TS Muxer: デジタル放送などで使われる形式です。
通常は、「MP4 Muxer」または「MKV Muxer」を選択すれば問題ありません。MP4は互換性、MKVは高機能性(複数の音声や字幕トラックを入れやすいなど)に優れます。
6.6 エンコード設定の詳細
映像エンコーダーや音声エンコーダーを選択した後、その横にある「Configure」ボタンをクリックすると、さらに詳細な設定を行うことができます。この設定が、出力される動画の品質、ファイルサイズ、エンコード速度に直接影響します。
詳細設定の項目は、選択したエンコーダーによって全く異なりますが、いくつかの共通する重要な設定項目があります。
映像エンコーダー設定(例: Mpeg4 AVC (x264)):
- Encoding Mode (エンコードモード):
Constant Quantizer (CQ)
/Constant Rate Factor (CRF)
: 目標の「品質」を指定してエンコードします。品質が一定になるようにビットレートが調整されます。CRFの方が一般的に推奨されます。CRF値は低いほど高画質(ファイルサイズ大)、高いほど低画質(ファイルサイズ小)になります。通常18〜24程度が使われます。Average Bitrate (ABR)
: 目標の「平均ビットレート」を指定してエンコードします。ファイルサイズをある程度予測できますが、品質はシーンによってばらつきが出ることがあります。Two Pass - Average Bitrate
: 2回エンコード処理を行います。1回目で動画の内容を解析し、2回目でその解析結果を元に効率的にエンコードします。ABRよりも品質とファイルサイズのバランスが良くなりますが、時間が2倍かかります。Constant Bitrate (CBR)
: 一定のビットレートでエンコードします。主にストリーミングなどで使われますが、画質効率は悪いです。
- Quantizer / CRF / Bitrate: 選択したエンコードモードに応じて、品質値、CRF値、またはビットレート(kbps単位)を設定します。この値が画質とファイルサイズを決める最も重要な要素です。
- Profile / Level: H.264/H.265には、機能セットや性能レベルを示すプロファイルとレベルがあります。互換性を重視する場合や、特定の再生デバイスの仕様に合わせる場合に設定します。通常はデフォルトのままで問題ありませんが、互換性を最大限に高めたい場合は「Baseline Profile」や「Level 3.0」などの低い設定を選択することがあります(ただし画質効率は落ちます)。
- Encoding Profile (エンコードプロファイル / Speed vs Quality): エンコードの速度と品質のバランスを選択します。「Ultrafast」は最も高速ですが画質は劣ります。「Slow」や「Very Slow」は時間がかかりますが、圧縮効率が高まり画質が向上します。多くの場合はデフォルトの「Medium」や「Fast」で十分ですが、時間をかけてでも最高画質にしたい場合は遅い設定を選ぶこともあります。
音声エンコーダー設定(例: AAC (Faac)):
- Bitrate (ビットレート): 音質の目標ビットレート(kbps単位)を指定します。高いほど高音質になります。一般的なステレオ音声なら128kbps〜256kbps程度がよく使われます。
- Quality (品質): ビットレートではなく、品質を目標に設定できるエンコーダーもあります。
これらの詳細設定は非常に多岐にわたるため、最初はデフォルト設定のままエンコードしてみて、結果を確認するのが良いでしょう。必要に応じて、インターネットで目的の形式(例:「H.264 MP4 高画質 設定 Avidemux」)で検索するなどして、推奨設定を探してみてください。
6.7 エンコードの実行方法
必要なカット、フィルター、エンコード設定が完了したら、いよいよエンコードを実行して動画ファイルを保存します。
- 設定の確認: メイン設定エリアで「Video Output」「Audio Output」「Output Format」が意図した設定になっていることを最終確認します。フィルターを適用している場合は、「ビデオ」メニューの「フィルター」や「オーディオ」メニューの「フィルター」から確認します。
- 保存の開始: ツールバーのフロッピーディスクアイコンをクリックするか、「ファイル」メニューから「保存」を選択します。
- 保存場所とファイル名の指定: ファイル保存ダイアログが表示されるので、保存したいフォルダを選択し、新しい動画ファイルのファイル名を入力します。拡張子(.mp4, .mkvなど)は、「Output Format」の設定に合わせて自動的に付加されることが多いですが、念のため確認してください。
- 保存を実行: 「保存」ボタンをクリックします。
Avidemuxがエンコード処理を開始します。画面に進捗バーと残り時間(予測値)が表示されます。エンコードはPCの性能や設定、動画の長さや複雑さによって非常に時間がかかる場合があります。特に、高解像度・高フレームレートの動画を圧縮率の高いコーデック(H.265など)で高品質にエンコードしようとすると、数時間かかることも珍しくありません。
エンコード中は、PCの動作が遅くなることがあります。必要であれば、他の重い作業は避けるようにしましょう。
エンコードが完了すると、指定した場所に新しい動画ファイルが作成されます。
6.8 ハードウェアエンコードの利用
一部のCPU(Intel Coreプロセッサなど)やGPU(NVIDIA GeForce/Quadro, AMD Radeonなど)には、動画のエンコード・デコードを専用のハードウェアで行う機能が搭載されています。これを「ハードウェアエンコード」と呼びます。
ハードウェアエンコードは、ソフトウェアエンコードに比べて圧倒的に高速であるというメリットがあります。ただし、ソフトウェアエンコード(特に高品質なプリセット)に比べると、画質がやや劣る場合がある、設定の柔軟性が低い、利用できるコーデックが限られる、といったデメリットもあります。
Avidemuxは、以下のハードウェアエンコード機能をサポートしています(Avidemuxのバージョンやビルド、およびPCのハードウェア・ドライバー環境による)。
- Intel Quick Sync Video (QSV): Intel Coreプロセッサ内蔵のグラフィックス機能を利用します。
- NVIDIA NVENC / CUDA: NVIDIA GeForce/QuadroシリーズなどのGPUを利用します。
- AMD VCE / VCN: AMD RadeonシリーズなどのGPUを利用します。
対応している環境であれば、「Video Output」のドロップダウンリストに「H.264 (QSV)」「H.265 (NVENC)」のような形でハードウェアエンコーダーが表示されます。
ハードウェアエンコーダーを選択し、「Configure」ボタンをクリックすると、品質設定や利用可能なプロファイルなどのオプションが表示されます。設定項目はソフトウェアエンコーダーに比べて少ないのが一般的です。
ハードウェアエンコードを利用するための注意点:
- 対応ハードウェア: ハードウェアエンコード機能を持つCPUまたはGPUが搭載されている必要があります。
- ドライバー: 最新のグラフィックスドライバーがインストールされている必要があります。
- Avidemuxのビルド: ハードウェアエンコード機能を有効にしてコンパイルされたAvidemuxのビルドである必要があります。公式ウェブサイトで配布されているバイナリは、これらの機能が有効になっていることが多いですが、念のため確認すると良いでしょう。
- OSの設定: 一部のOSでは、ハードウェアアクセラレーションを有効にするための追加設定が必要な場合があります。
もしお使いのPCがハードウェアエンコードに対応しており、「Video Output」にハードウェアエンコーダーが表示される場合は、ぜひ試してみてください。エンコード時間が劇的に短縮される可能性があります。ただし、画質を最優先する場合は、ソフトウェアエンコーダー(特にx264やx265の高品質プリセット)の方が優れている場合があります。
7. フィルターの適用
Avidemuxは、読み込んだ動画や音声に対して様々な効果を加えることができる「フィルター」機能も備えています。カットや形式変換だけでなく、ちょっとした映像や音声の調整も可能です。
7.1 フィルターとは何か?
フィルターとは、動画の映像や音声に対して適用する「加工」「補正」「変換」といった処理のことです。Avidemuxには、解像度やアスペクト比を変更したり、色調を調整したり、ノイズを除去したり、字幕を焼き付けたりするための様々なフィルターが用意されています。
適用されたフィルターは、エンコードを行う際に動画のデータに反映されます。Copyモードではフィルターは使用できません。フィルターを使用する場合は、必ずVideo OutputでCopy以外のエンコーダーを選択し、再エンコードを行う必要があります。
7.2 フィルターの適用方法
フィルターは、「ビデオ」メニューの「フィルター」またはツールバーのビデオカメラアイコン(映像フィルター)、および「オーディオ」メニューの「フィルター」またはツールバーのスピーカーアイコン(音声フィルター)から設定します。
ここでは主に映像フィルターを例に説明しますが、音声フィルターも基本的な操作は同様です。
- 「ビデオ」メニュー -> 「フィルター」を選択: 映像フィルターの設定画面が表示されます。
- フィルターの選択と追加: 画面左側に利用可能な映像フィルターのリストが表示されます。使いたいフィルターをリストから選択し、中央にある「+」ボタンをクリックするか、ダブルクリックすると、右側の「アクティブなフィルター」リストに追加されます。
- フィルターの設定: 「アクティブなフィルター」リストに追加されたフィルターを選択し、「Configure」ボタンをクリックすると、そのフィルターの詳細設定ダイアログが表示されます。ここで各種パラメータを調整します。
- フィルターの順序変更: 「アクティブなフィルター」リストで複数のフィルターを追加した場合、フィルターが適用される順番が重要になることがあります。リストの下にある矢印ボタン(上/下)を使って、フィルターの適用順を変更できます。
- フィルターの削除: 「アクティブなフィルター」リストから削除したいフィルターを選択し、「−」ボタンをクリックします。
- 設定の確定: 設定が完了したら、「閉じる」ボタンをクリックしてフィルター設定画面を閉じます。
音声フィルターも同様に、「オーディオ」メニューの「フィルター」から設定できます。
7.3 主な映像フィルターの紹介と使い方
Avidemuxに搭載されている映像フィルターは非常に豊富です。ここでは、よく使われる代表的なフィルターとその使い方をいくつか紹介します。
- Resize (リサイズ): 動画の解像度(幅と高さのピクセル数)を変更します。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。新しい幅と高さを入力します。アスペクト比を維持したい場合は、ロックアイコンをクリックして縦横比を固定します。リサイズ方法(Lanczos, SwScalerなど)も選択できますが、通常はデフォルトで問題ありません。
- 用途: 動画のファイルサイズを小さくしたい場合(解像度を下げる)、特定のデバイスの解像度に合わせたい場合、高画質化フィルター(シャープネスなど)と組み合わせて使う場合など。
- Crop (クロップ / 切り抜き): 映像の上下左右を指定したピクセル数だけ切り取ります。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。上下左右それぞれ何ピクセル切り取るかを入力します。プレビューを見ながら調整できます。
- 用途: 動画の黒縁(レターボックスやピラーボックス)を削除したい場合、不要な端の部分(ウォーターマークなど)を隠したい場合、特定の部分だけを拡大表示したい場合など。
- Rotate (回転): 映像を90度単位で回転させます。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。回転角度(90° Left, 90° Right, 180°)を選択します。
- 用途: スマートフォンで縦向きに撮ってしまった動画を横向きにしたい場合など。
- Flip (反転): 映像を水平方向または垂直方向に反転させます。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。水平反転 (Horizontal) か垂直反転 (Vertical) を選択します。
- 用途: 鏡像になってしまった映像を元に戻したい場合など。
- Color Correction (色調補正): 映像の明るさ、コントラスト、ガンマ、色相、彩度などを調整します。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。スライダーや数値入力で各パラメータを調整します。プレビューを見ながら行うのが重要です。
- 用途: 暗く映ってしまった映像を明るくする、色合いを鮮やかにする、モノクロにするなど。
- Sharpen / Blur (シャープ / ぼかし): 映像の輪郭をはっきりさせたり、ぼかしたりします。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。強さなどを調整します。
- 用途: シャープでぼやけを軽減する、顔などを見えにくくするために部分的にぼかす(ただし、Avidemuxで部分的に適用するのは難しい場合が多い)、ノイズを目立たなくするために全体を少しぼかすなど。
- Denoise (ノイズ除去): 映像に含まれるノイズ(特に暗いシーンなどで目立つザラつき)を軽減します。いくつかの種類のノイズ除去フィルターがあります。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。ノイズの種類や強さを調整します。ノイズ除去は映像が不自然になることもあるため、調整が難しいフィルターの一つです。
- 用途: 低照度で撮影した映像のノイズを目立たなくしたい場合など。
- Subtitles (字幕焼き付け): 外部の字幕ファイル(SRT, ASS/SSAなど)を読み込み、映像に直接焼き付けます。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。「Subtitle File」で読み込む字幕ファイルを指定します。フォント、文字サイズ、位置、色なども設定できます。
- 用途: 字幕を消せない形で動画に含めたい場合。
- Logo (ロゴ焼き付け): 指定した画像ファイルを動画の任意の位置にロゴや透かしとして焼き付けます。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。「Logo File」で読み込む画像ファイル(PNG形式推奨、透過処理可能)を指定します。表示位置(X/Y座標)、透過度なども設定できます。
- 用途: 自分の動画にロゴを入れたい場合、著作権表示を入れたい場合など。
この他にも、デインターレース(インターレース解除)、フレームレート変換など、様々なフィルターが用意されています。フィルターリストを眺めて、どのような機能があるか見てみるのも面白いでしょう。
7.4 フィルターの順番と効果
複数のフィルターを適用する場合、その順番が非常に重要になることがあります。例えば、「リサイズ」フィルターと「シャープ」フィルターを適用する場合を考えます。
- リサイズ -> シャープ: 動画を小さくしてからシャープネスをかける。
- シャープ -> リサイズ: シャープネスをかけてから動画を小さくする。
この2つでは、最終的な結果が異なる可能性があります。通常、解像度を変更するフィルター(Resize, Cropなど)は、他のフィルター(色調補正、ノイズ除去、シャープなど)の前に適用することが多いですが、これは処理内容によって最適な順番が異なります。
「アクティブなフィルター」リストでフィルターの順番を入れ替えてみて、プレビューで結果を確認しながら最適な順番を見つけてください。
7.5 プレビュー機能を使った効果確認
フィルター設定画面には通常「Preview」ボタンがあります。これをクリックすると、フィルターが適用された状態の映像をプレビューウィンドウで確認できます。
プレビューは通常、動画の一部分(現在のフレームやその周辺)に対して行われます。フィルター設定ダイアログを開いたまま、Avidemuxのメインウィンドウでスライダーを動かすと、その位置のフィルター適用結果を確認できます。
ただし、フィルターの種類やPCの性能によっては、リアルタイムでのスムーズなプレビューが難しい場合があります。カクついたり、プレビューが表示されるまでに時間がかかったりしても、最終的な出力には影響しないことが多いです。正確な結果を確認したい場合は、一度短い範囲だけをエンコードしてみるのも有効です。
7.6 フィルターの追加、削除、編集
「アクティブなフィルター」リストで、追加、削除、順序変更、設定変更(Configure)を行うことで、適用するフィルターとその設定を自由に編集できます。設定を間違えたり、効果を確認して気に入らなかったりした場合は、簡単に削除したり、パラメータを調整し直したりできます。
フィルターはエンコード実行時に初めて動画データに適用されます。フィルター設定画面を閉じただけでは、元の動画ファイルは変更されません。
8. 音声処理
Avidemuxでは、映像だけでなく音声に対しても様々な処理を行うことができます。
8.1 音声トラックの選択
多くの動画ファイルには、映像トラックと音声トラックが格納されています。さらに、複数の音声トラック(例えば、日本語音声と英語音声、ステレオ音声と5.1chサラウンド音声など)が含まれている場合もあります。
Avidemuxで動画ファイルを開くと、デフォルトでは最初の音声トラックが選択されます。「オーディオ」メニューの「音声トラックを選択」を選ぶと、その動画ファイルに含まれる音声トラックの一覧が表示されます。
- Enabled (有効): チェックが入っているトラックが、エンコードやプレビューの対象となります。
- Source (ソース): 音声トラックのソースファイルを示します。通常は開いている動画ファイル自身です。
- Codec (コーデック): その音声トラックのコーデック(AAC, MP3, AC3など)が表示されます。
- Language (言語): 設定されている場合は言語名が表示されます。
- Delay (遅延): 音声に遅延(または前倒し)が設定されている場合、その秒数が表示されます。
複数のトラックがある場合、ここで有効にするトラックを選択できます。通常は一つだけ有効にしますが、必要に応じて複数のトラックをエンコードに含めることも可能です(ただしコンテナフォーマットが対応している必要があります)。
8.2 音声エンコーダーの選択
メイン設定エリアの「Audio Output」で、音声のエンコーダーを選択します。これは前述の「形式変換」の章で解説した通りです。
- Copy: 元の音声トラックを再エンコードせずそのまま利用します。音質劣化がなく高速です。元の音声形式のまま出力したい場合に選択します。
- AAC, MP3, AC3, Opus, Vorbisなど: これらのエンコーダーを選択すると、元の音声を指定したコーデックで再エンコードします。ビットレートなどの詳細設定は、選択したエンコーダーの横にある「Configure」ボタンから行います。
8.3 音声フィルターの適用
「オーディオ」メニューの「フィルター」を選択すると、音声フィルターの設定画面が表示されます。基本的な操作方法は映像フィルターと同様です。
代表的な音声フィルターを紹介します。
- Gain (音量調整): 音量を大きくしたり小さくしたりします。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。ゲイン(増幅度)をデシベル(dB)単位またはパーセンテージで指定します。プラスの値で音量を大きく、マイナスの値で音量を小さくします。
- 用途: 元の動画の音量が小さすぎる/大きすぎる場合に調整する。
- Mixer (ミキサー): ステレオチャンネルをモノラルに変換したり、チャンネルの並び替えなどを行ったりします。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。出力チャンネル数などを設定します。
- 用途: ステレオ音声しか対応していない環境でマルチチャンネル音声を再生可能にする(モノラルに変換するなど)。
- Resample (リサンプリング): 音声のサンプリングレート(1秒あたりの音声データの数)を変更します。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。目標とするサンプリングレート(例: 44100 Hz, 48000 Hz)を指定します。
- 用途: 特定のデバイスや編集ソフトが特定のサンプリングレートしか受け付けない場合に変換する。
- Noise Reduction (ノイズリダクション): 音声に含まれるノイズを軽減します。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。ノイズの種類や強さを調整します。映像ノイズ除去と同様に、設定によっては音声が不自然になることもあります。
- 用途: マイクのホワイトノイズや環境ノイズなどを軽減したい場合。
- Time Shift (タイムシフト): 音声トラック全体を映像に対して遅延させたり、前倒ししたりします。
- 使い方: 「アクティブなフィルター」に追加し、「Configure」をクリック。遅延させる時間(ミリ秒単位)を指定します。プラスの値で遅延、マイナスの値で前倒しです。
- 用途: 元の動画で映像と音声がずれている場合に、音声を調整して修正する。
音声フィルターも複数適用可能で、適用順序が結果に影響することがあります。
8.4 外部音声ファイルの読み込み
Avidemuxでは、元の動画ファイルに含まれる音声トラックを使用するだけでなく、外部の音声ファイル(MP3, WAV, AACファイルなど)を読み込んで、それを動画の音声トラックとして利用することもできます。
- 「オーディオ」メニュー -> 「音声トラックを選択」を選択: 音声トラック設定画面が表示されます。
- 音声トラックの追加: 画面下部にある「追加」ボタンをクリックします。
- 外部音声ファイルの選択: ファイル選択ダイアログが表示されるので、読み込みたい音声ファイルを選択し、「開く」をクリックします。
- トラックの有効化: 追加された外部音声トラックがリストに表示されます。このトラックにチェックを入れ、「Enabled」を有効にします。元の音声トラックを使用しない場合は、元のトラックの「Enabled」のチェックを外します。
- 設定の確定: 「OK」をクリックして設定画面を閉じます。
この状態で動画を保存(エンコード)すると、追加した外部音声ファイルが動画の音声トラックとして利用されます。元の音声を消してBGMを追加したり、ナレーションを入れたりする場合などに便利な機能です。ただし、音声ファイルの長さが動画の長さに合っているか確認が必要です。
9. バッチ処理とプロジェクトファイル
Avidemuxで複数の動画を同じ設定で処理したい場合や、一度中断した作業を後で再開したい場合に便利な機能があります。それが「バッチ処理 (Queue)」と「プロジェクトファイル」です。
9.1 複数の動画に同じ処理を適用したい場合(Queue機能)
例えば、複数の動画ファイル(スマホで撮った動画など)をまとめてPCで再生しやすい形式(MP4/H.264など)に変換したい、といった場合を考えます。一つずつファイルを開いて設定し、保存する、という作業を繰り返すのは手間がかかります。
AvidemuxのQueue(キュー)機能を使えば、これらの作業をまとめて自動で実行させることができます。
Queueに登録できるのは、Avidemuxで現在開いている動画ファイルに対して設定した「出力設定」(Video Output, Audio Output, Output Format, フィルター設定など)と「カット範囲」です。
9.2 Queueへの追加方法
- 最初の動画ファイルを開く: 処理したい動画ファイルの最初のファイルを開きます。
- 出力設定とフィルター設定を行う: そのファイルに対して適用したい「Video Output」「Audio Output」「Output Format」を設定し、必要であれば「ビデオフィルター」「音声フィルター」も設定します。もしカットしたい範囲がある場合は、AとBマーカーで指定します。
- Queueに追加: 「ファイル」メニューから「Queue」を選択し、「現在のものをQueueに追加」をクリックします。または、ツールバーの「+」アイコンをクリックします。
- この際、「Video Output」「Audio Output」「Output Format」、そして設定したフィルターやカット範囲(指定した場合)が、このファイルに対する処理設定としてQueueに登録されます。
- ファイルを保存する際のファイル名を指定するダイアログが表示されるので、保存場所とファイル名(例:
video1_processed.mp4
)を入力して「保存」をクリックします。Queueリストにこのエントリが追加されます。
- 次の動画ファイルを開く: Queueに登録したい次の動画ファイルを開きます。(最初のファイルを閉じるかどうかは任意ですが、新しいファイルを開くことで現在のAvidemuxウィンドウの内容が切り替わります)。
- 出力設定とフィルター設定を行う: 開いた新しいファイルに対して、同じ処理(形式変換、フィルターなど)を行いたい場合は、先ほどと同じ設定を行います。ただし、カット範囲はファイルごとに異なるでしょうから、必要に応じてAとBを設定します。
- Queueに追加: 再度「ファイル」メニュー -> 「Queue」->「現在のものをQueueに追加」を選択し、保存ファイル名を指定してQueueに登録します。(例:
video2_processed.mp4
) - 処理したい全てのファイルについて、手順4〜6を繰り返します。
「ファイル」メニュー -> 「Queue」->「Queueを見る」を選択すると、現在Queueに登録されている処理リストを確認できます。リストでは、元のファイル名、保存ファイル名、実行される処理内容などが表示されます。リストの項目を編集したり、並び替えたり、削除したりすることも可能です。
9.3 Queueの実行
Queueに処理を登録したら、まとめて実行します。
- Queueリストを開く: 「ファイル」メニュー -> 「Queue」->「Queueを見る」を選択します。
- Queueを開始: Queueリスト画面で「実行」ボタンをクリックします。
AvidemuxがQueueリストに登録されている順番に、一つずつ自動で処理(エンコードなど)を実行していきます。処理中は進捗が表示されます。全ての処理が完了すると、Queueリスト画面が更新されるか、完了メッセージが表示されます。
Queue機能を使えば、複数の動画を寝ている間や外出中にまとめて処理させるといったことが可能になり、作業効率が大幅に向上します。
9.4 プロジェクトファイル(.adm)の保存と読み込み
Avidemuxで動画を編集している途中で、作業を中断して後で再開したい、あるいは同じ設定で別の動画を処理したい、といった場合があります。このような場合に便利なのが「プロジェクトファイル」です。
Avidemuxのプロジェクトファイルは、拡張子が.adm
となります。
9.5 なぜプロジェクトファイルが必要か?
Avidemuxのプロジェクトファイルには、以下の情報が保存されます。
- 読み込んでいる動画ファイルのパス
- 始点Aと終点Bのマーカー位置
- 適用されている映像フィルターとその設定、適用順
- 適用されている音声フィルターとその設定、適用順
- 「Video Output」「Audio Output」「Output Format」の設定
つまり、動画データそのものではなく、その動画に対して行っている編集作業の「レシピ」や「状態」が保存されるのです。
これにより、以下のようなメリットが得られます。
- 作業の中断と再開: 長時間かかるエンコードの前に設定だけ保存しておき、後でエンコードを開始する。
- 設定の再利用: 一度作成した複雑なフィルター設定やエンコード設定を、別の動画ファイルにも適用する。
- 設定の共有: 他のユーザーと編集設定を共有する。
9.6 プロジェクトファイルの保存と読み込み
- プロジェクトの保存: 作業中の状態をプロジェクトファイルとして保存するには、「ファイル」メニューから「プロジェクトを保存」を選択します。ファイル名と保存場所を指定し、「保存」をクリックします。拡張子は自動的に
.adm
が付きます。 - プロジェクトの読み込み: 保存しておいたプロジェクトファイルを読み込むには、「ファイル」メニューから「プロジェクトを開く」を選択します。読み込みたい
.adm
ファイルを選択し、「開く」をクリックします。
プロジェクトファイルを読み込むと、Avidemuxは保存時の動画ファイルを再度読み込み、保存されていたカットマーカー、フィルター設定、出力設定などを全て復元します。ただし、プロジェクトファイルに保存されている動画ファイルのパスが、読み込み時のPCで有効である必要があります(ファイルが移動されていたり、ファイル名が変わっていたりすると、ファイルが見つからず読み込めない場合があります)。
プロジェクトファイルは、Avidemuxを使った作業を効率化し、設定を管理するために非常に役立ちます。特に、複雑なフィルター設定を頻繁に使う場合などは、プロジェクトファイルとして保存しておくと後々便利です。
10. 応用的な機能
Avidemuxはシンプルなソフトですが、知っておくと便利な応用的な機能や、動作の原理に関わる重要な概念があります。
10.1 キーフレームとは? Avidemuxにおけるキーフレームの重要性
「キーフレーム」は、動画圧縮の基本的な概念です。ほとんどの動画形式(H.264, H.265など)は、動画のデータ量を減らすために、一つ前のフレームからの差分情報のみを記録しています(差分フレーム)。しかし、これだけでは動画の好きな位置から再生を開始することができません。そこで、ある一定間隔で、そのフレーム単体で完全に画像データを保持しているフレームが挿入されます。これがキーフレームです。
- Iフレーム (Intra-coded Frame): キーフレームのことです。単体で画像全体を復元できます。
- Pフレーム (Predictive Frame): 直前のIフレームまたはPフレームとの差分情報を持つフレームです。
- Bフレーム (Bi-directional Predictive Frame): 前後のIフレームまたはPフレームとの差分情報を持つフレームです。
Avidemuxでは、タイムライン上の点線などでキーフレームの位置が示されることがあります。ツールバーの「前のキーフレームへ」「次のキーフレームへ」ボタンを使うと、キーフレームの位置に正確にジャンプできます。
Avidemuxにおいてキーフレームが重要なのは、Copyモードでのカット編集に制約を与えるためです。Copyモードでは、基本的にキーフレームの位置でしか動画を分割・結合できません。これは、キーフレーム以外の位置で分割すると、その次のフレームが直前のキーフレームの情報(そのキーフレームの位置がカット点より前になってしまう)を必要とするため、正確にデコードできなくなってしまうからです。
したがって、Copyモードでカットを行う場合は、始点Aはキーフレーム上に設定する必要があります。終点Bはキーフレーム間で設定可能ですが、実際には終点Bの次のキーフレームまでがカット範囲に含まれる可能性があります。この制約を回避するために、前述のスマートカッター機能があります。
再エンコードを行う場合(Video OutputがCopy以外の場合)は、このキーフレームの制約はありません。指定したフレームで動画をデコードし、そこから再エンコードするため、フレーム単位で正確なカットが可能です。
キーフレームの概念を理解しておくと、Avidemuxでのカット編集時の挙動や、なぜカット位置がずれる場合があるのかを理解するのに役立ちます。
10.2 Copyモード(再エンコードしない高速処理)の使いどころ
Avidemuxの最も特徴的な機能の一つが、Video OutputやAudio Outputで選択できる「Copy」モードです。このモードを選択すると、Avidemuxは動画や音声のデータを再エンコードせずに、元のデータをそのまま利用します。
Copyモードのメリット:
- 圧倒的に高速: エンコード処理が不要なため、ファイルの保存が非常に短時間で完了します。
- 画質・音質劣化がない: 再圧縮による品質劣化が発生しません。
Copyモードのデメリット:
- カット位置の制約: 基本的にキーフレーム単位でのカットしかできません(スマートカッターを使わない場合)。
- フィルターが使えない: 映像フィルターや音声フィルターは適用できません。これらの処理は再エンコードを伴うためです。
- 形式変換ができない: 元の動画の形式(コーデック、コンテナ)のまま出力されます。
Copyモードの使いどころ:
- 動画の最初や最後の不要部分だけをカットしたい: 途中のカットが必要なく、キーフレーム位置でのカットで問題ない場合。
- 同じ形式の動画ファイルを複数結合したい: 全て同じ形式・設定であれば、Copyモードで高速かつ無劣化で結合できます。
- フィルターや形式変換は不要で、単にカットや結合だけ行いたい。
CopyモードはAvidemuxの真骨頂とも言える機能です。不要な再エンコードを避けることで、時間とPCリソースを節約し、元の品質を保つことができます。Copyモードで対応できない、より複雑な編集(フレーム精度のカット、フィルター、形式変換)が必要な場合に、再エンコードモード(Copy以外のVideo Outputを選択)を利用するという使い分けが重要です。
10.3 スマートカッター(Copyモードでのフレーム精度カット)
前述の通り、Copyモードではキーフレーム単位でのカットが基本です。しかし、それでは目的のフレームで正確にカットできない場合があります。
「スマートカッター」機能は、この問題を解決するためのものです。「編集」メニューの「設定」→「一般」タブにある「スマートカッターを使用」を有効にすると利用できます。
スマートカッターを有効にしてCopyモードでカット編集を行うと、指定した始点Aと終点Bがキーフレーム上にない場合でも、Avidemuxはそのカット点の前後数フレーム分だけを自動的に再エンコードします。これにより、動画のほとんどの部分はCopyモードのまま(高速・無劣化)で処理しつつ、カット点の部分だけをわずかに再エンコードすることで、フレーム単位での正確なカットを実現します。
ただし、スマートカッターは全ての動画形式で完全に機能するわけではありません。また、再エンコードが発生するため、Copyモードのみの場合に比べて処理時間は若干長くなります。しかし、全体を再エンコードする場合に比べればはるかに高速です。
Copyモードの高速性を活かしつつ、より正確なカットを行いたい場合に試してみる価値のある機能です。
10.4 VFR (Variable Frame Rate) 動画の扱い
通常の動画はCFR (Constant Frame Rate)、つまり動画全体を通してフレームレート(1秒あたりのフレーム数)が一定です。しかし、一部のスマートフォンで撮影された動画や、画面録画ソフトで作成された動画の中には、VFR (Variable Frame Rate)、つまりシーンによってフレームレートが変動する形式のものがあります。
AvidemuxはVFR動画の扱いにあまり強くありません。VFR動画をそのままAvidemuxで開いて編集・保存すると、映像と音声がずれたり、再生が不安定になったりといった問題が発生することがあります。
もしAvidemuxでVFR動画を編集する必要がある場合は、以下の対策を検討してください。
- 編集前にCFRに変換する: Avidemux以外のツール(例えばFFmpegなどのコマンドラインツールや、VFRtoCFRのような専用ツール)を使って、事前に動画をCFR形式に変換しておく。
- Avidemuxでフレームレート変換フィルターを使用する: 「ビデオ」メニューの「フィルター」から「Change FPS (Frame rate converter)」フィルターを適用し、一定のフレームレート(例: 30fps, 60fps)を指定して再エンコードする。
VFR動画の扱いは動画編集ソフト全般にとって難しい問題の一つですが、Avidemuxで顕著な問題が発生する場合は、上記の対策を試してみてください。
10.5 コマンドラインからの利用(上級者向け)
Avidemuxには、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)だけでなく、コマンドラインインターフェース(CLI)も用意されています。CLI版Avidemuxを使えば、バッチ処理や自動化スクリプトなどからAvidemuxの機能(特にエンコード処理)を呼び出すことができます。
これは主に大量の動画を繰り返し同じ設定で処理する必要がある場合や、他のツールと連携させてワークフローを構築したい場合など、より高度な使い方をする上級者向けの機能です。
コマンドラインでの利用方法は、Avidemuxの公式ドキュメント(英語)を参照する必要があります。一般的な使い方としては、プロジェクトファイル(.adm)をコマンドライン引数で指定して、その設定でエンコードを実行させるという方法があります。
avidemux3_cli --load project_file.adm --save output.mp4
このように、Avidemuxはシンプルな外見ながら、裏側にはパワフルな処理能力と、上級者向けの機能も備えています。
11. よくあるトラブルと対処法
Avidemuxを使っていると、時折予期しない問題に遭遇することがあります。ここでは、Avidemuxでよくあるトラブルとその原因、対処法について解説します。
11.1 動画ファイルが開けない
- 原因: Avidemuxがそのファイル形式に対応していない、ファイルが破損している、必要なコーデックが見つからない、といった可能性があります。
- 対処法:
- 対応形式か確認: 開こうとしている動画ファイルがAvidemuxの対応形式(MP4, MKV, AVIなど)であるか確認します。非常に特殊な形式や、保護された(DRM付きの)ファイルは開けません。
- ファイル破損の確認: その動画ファイルが他のメディアプレイヤーで正常に再生できるか確認します。他のプレイヤーでも再生できない場合は、ファイル自体が破損している可能性があります。
- 別のプレイヤーで形式確認: VLC Media Playerなどの多機能プレイヤーでファイルを開き、そのファイルのコンテナ形式、映像コーデック、音声コーデックを確認します。Avidemuxが特定のコーデックに対応していないか、システムのコーデック環境に問題がある可能性も考えられます。
- Avidemuxの再インストール/別のビルド: Avidemuxのインストールに問題があったり、使用しているビルドが必要なコーデックをサポートしていなかったりする可能性もゼロではありません。一度アンインストールして、公式ウェブサイトから最新の安定版を再度ダウンロード・インストールしてみてください。
- 他のツールで変換: どうしても開けない場合は、FFmpegなどの別のツールを使って、一度Avidemuxが確実に開ける形式(例: MP4/H.264/AAC)に変換してから編集するという方法もあります。
11.2 プレビューがカクつく、コマ落ちする
- 原因: PCのスペックが動画の再生・デコード処理に追いついていない、動画の形式が複雑(高解像度、高フレームレート、高圧縮率)、複数のフィルターを適用している、といった理由が考えられます。Avidemuxのプレビューはリアルタイム編集ソフトほど最適化されていない場合が多いです。
- 対処法:
- PCスペックの確認: お使いのPCのCPU、メモリ、グラフィックスカードなどのスペックが、編集対象の動画に見合っているか確認します。高解像度や高フレームレートの動画はより高性能なPCが必要です。
- 動画形式の確認: H.265のような新しい高圧縮コーデックや、4K/8Kといった高解像度の動画は、デコードに高い負荷がかかります。
- フィルターを一時的に無効化: 多数のフィルターや重いフィルター(ノイズ除去など)を適用している場合、それらを一時的に無効にするとプレビューがスムーズになるか確認します。
- プレビュー設定の確認: 「編集」メニューの「設定」→「表示」タブなどに、プレビューに関する設定(デコード方法など)がある場合があります。設定を変更すると改善されるか試してみてください。
- キーフレーム単位での確認: 正確なフレームを確認したいだけであれば、再生するのではなく、「前のフレームへ」「次のフレームへ」ボタンや、キーフレーム移動ボタンで静止画として確認するのが確実です。
- 最終出力には影響しないことを理解する: プレビューがカクついても、最終的なエンコード結果は正常なフレームレートで滑らかになる場合がほとんどです。プレビューはあくまで目安として捉えましょう。
11.3 エンコードが異常に時間がかかる
- 原因: 設定したエンコーダーやその設定(高品質設定)、動画の解像度や長さ、PCスペック、ハードウェアエンコードが利用できていない、といった原因が考えられます。
- 対処法:
- エンコーダー設定の確認:
- 「Video Output」がCopyになっていませんか? Copyなら一瞬で終わるはずです。時間がかかるのはCopy以外のエンコーダーを選択している場合です。
- 選択したエンコーダー(例: x264, x265)の詳細設定(Configure)で、エンコードモードが「Constant Quantizer (CQ)」や「Constant Rate Factor (CRF)」の高い品質設定になっていたり、エンコードプロファイルが「Slow」や「Very Slow」になっていませんか? これらは画質は良いですが、非常に時間がかかります。「Fast」や「Medium」に変更してみてください。
- ビットレートが高すぎませんか? 高いビットレートは画質向上に寄与しますが、処理負荷も高くなります。
- 動画の解像度と長さ: 高解像度(4Kなど)や長い動画ほどエンコードに時間がかかります。
- PCスペックの確認: エンコードは非常にCPU負荷の高い処理です。PCのCPU性能が低いと時間がかかります。
- ハードウェアエンコードの利用: お使いのPCがハードウェアエンコード(QSV, NVENC, VCE/VCN)に対応しており、Avidemuxのビルドもそれをサポートしている場合は、「Video Output」で対応するハードウェアエンコーダーを選択してみてください。劇的に高速化する可能性があります(ただし前述の注意点も参照)。
- エンコーダー設定の確認:
11.4 エンコード中にエラーが発生する
- 原因: 元の動画ファイルの問題(破損)、設定ミス、メモリ不足、ディスク容量不足、特定のフィルターとの相性問題などが考えられます。
- 対処法:
- 元の動画ファイルの確認: 元の動画ファイルが破損していないか、他のプレイヤーで最後まで正常に再生できるか確認します。
- 設定の単純化: まずはフィルターを全て外し、Video OutputをCopy以外の簡単なエンコーダー(例: Mpeg4 AVC (x264) デフォルト設定)、Audio OutputをCopyまたはAAC、Output FormatをMP4 Muxerといった最小限の設定でエンコードできるか試します。これで成功する場合は、フィルターや詳細設定の中に問題の原因がある可能性が高いです。一つずつフィルターを追加したり、設定を戻したりして、問題箇所を特定します。
- メモリとディスク容量の確認: エンコード中は一時ファイルが作成されたり、メモリを大量に消費したりします。PCのメモリが十分にあるか、保存先のディスクに十分な空き容量があるか確認してください。
- Avidemuxの再起動/再インストール: 一時的な不具合の可能性もあります。Avidemuxを一度終了して再起動したり、PCを再起動したりしてみてください。問題が継続する場合は、再インストールも検討します。
- 他の形式で出力: 特定のOutput Formatやエンコーダーの組み合わせで問題が発生している可能性もあります。別のOutput Format(例: MKV Muxer)で出力できるか試してみてください。
11.5 音声がずれる(音ズレ)
- 原因: 元の動画がVFR (可変フレームレート) である、カット点での音声処理の問題、フィルター(特にフレームレート変換など)の影響、元の動画ファイルに音声の遅延情報が含まれている、といった可能性があります。
- 対処法:
- VFR動画の確認: 元の動画がVFRである可能性を疑います。必要であれば他のツールでCFRに変換してからAvidemuxで編集します。
- カット点の確認: Copyモードでカットした場合、キーフレームの制約により、カット点周辺で映像と音声の同期がずれることがあります。スマートカッターを試すか、再エンコードモードでフレーム精度カットを行うか、そもそもキーフレーム位置でカットするように調整します。
- Time Shiftフィルターの利用: 音声全体が一定時間ずれている場合は、「オーディオ」メニューの「フィルター」から「Time Shift」フィルターを適用し、ずれている時間だけ音声を前倒しまたは遅延させて修正します。
- 異なる音声エンコーダー/コンテナを試す: 特定のエンコーダーやコンテナ形式との組み合わせで問題が発生する可能性もあります。別の設定で出力してみます。
- 元の動画情報の確認: VLC Media Playerなどのツールで元の動画ファイルの情報を詳しく見て、すでに音声に遅延情報(Delay)が設定されていないか確認します。Avidemuxの音声トラック設定画面でも遅延情報が表示されることがあります。
11.6 カットした位置がずれる
- 原因: Copyモードを使用しており、カット点をキーフレーム以外の位置に設定していることが主な原因です。前述のキーフレームの制約によるものです。
- 対処法:
- キーフレーム位置でカット: タイムライン上の点線などを目安に、AとBマーカーを最も近いキーフレーム上に正確に設定し直します。「前のキーフレームへ」「次のキーフレームへ」ボタンを活用します。
- スマートカッターの使用: 「編集」メニューの「設定」→「一般」で「スマートカッターを使用」を有効にし、Copyモードのままフレーム精度のカットを試みます。
- 再エンコードモードでカット: Video OutputをCopy以外のエンコーダー(例: Mpeg4 AVC (x264))に変更し、再エンコードを行うことでフレーム単位の正確なカットが可能になります。画質劣化や処理時間増は伴いますが、正確なカットが最優先の場合はこの方法が確実です。
11.7 音声が出ない、おかしい
- 原因: 音声トラックが有効になっていない、選択した音声エンコーダーが適切でない、元の音声形式に問題がある、といった原因が考えられます。
- 対処法:
- 音声トラックの確認: 「オーディオ」メニューの「音声トラックを選択」を開き、目的の音声トラックにチェックが入って「Enabled」になっているか確認します。
- Audio Outputの確認: Audio Outputが「Copy」になっているか確認します。Copyで問題なく再生できる場合は、元の音声形式は正常です。
- 別のAudio Outputを試す: Audio OutputがCopy以外になっている場合、選択したエンコーダー(AAC, MP3など)やその設定に問題があるかもしれません。別のエンコーダーを試したり、設定をデフォルトに戻したりします。
- コンテナ形式との相性: 選択したOutput Format(コンテナ)が、Audio Outputで選択した音声形式に対応していない組み合わせの可能性もゼロではありません。一般的な組み合わせ(例: MP4 + AAC, MKV + AC3など)を選択しているか確認します。
- 元の音声を確認: 元の動画ファイルが他のプレイヤーで音声も含めて正常に再生できるか確認します。
- 音声フィルターの確認: 音量調整フィルターなどで、誤って音量をゼロに設定していないか確認します。
11.8 インストールがうまくいかない
- 原因: ダウンロードしたファイルが壊れている、管理者権限がない、他のプログラムと競合している、PC環境固有の問題、といった原因が考えられます。
- 対処法:
- 公式ウェブサイトから再ダウンロード: ダウンロード途中でファイルが破損した可能性があります。必ず公式ウェブサイトから最新の安定版を再度ダウンロードし直します。
- 管理者権限で実行: インストーラーを右クリックし、「管理者として実行」を選択して実行します。
- セキュリティソフトの一時停止: 一時的にセキュリティソフト(ウイルス対策ソフトなど)を無効にしてインストールを試みます。ただし、セキュリティリスクを理解した上で行い、インストール後はすぐに有効に戻してください。
- PCの再起動: PCを再起動してからインストールを試みます。
- インストールログの確認: インストールが失敗する場合、エラーメッセージが表示されるか、ログファイルが作成されることがあります。その内容を元に原因を調査します。
- 別のビルドを試す: 特定のビルド(例: 32bit版)で問題が発生する場合は、別のビルド(例: 64bit版)を試します(可能であれば)。
11.9 公式サイト以外からのダウンロードの危険性
Avidemuxは無料のオープンソースソフトウェアですが、インターネット上にはAvidemuxを装った不正なソフトウェアや、ウイルス、アドウェアなどが含まれたインストーラーを配布している非公式サイトが存在します。
必ずAvidemuxの公式ウェブサイト (http://avidemux.sourceforge.net/
) からダウンロードしてください。 SourceForgeなどの公式が利用している配布プラットフォームからのダウンロードも安全です。
非公式サイトからのダウンロードは、マルウェア感染のリスクが非常に高いため絶対に避けてください。
これらのトラブルシューティングを参考に、問題を解決し、Avidemuxを快適に利用してください。多くの場合、設定ミスや元のファイルの問題、キーフレームの制約などが原因であることが多いです。
12. Avidemuxの限界と他のソフトへのステップアップ
ここまでAvidemuxの豊富な機能と使い方を見てきましたが、冒頭でも少し触れたように、Avidemuxは万能なソフトではありません。Avidemuxには限界があり、より高度な編集を行うには別のソフトが必要になります。
12.1 Avidemuxでできないこと、苦手なこと
- ノンリニア編集: 複数の映像や音声トラックを重ね合わせたり、タイムライン上で自由に配置したりすることはできません。一つのメイン動画ストリームに対して処理を行うという考え方です。
- 複雑なエフェクトやトランジション: 動画に様々な視覚効果(カラーグレーディング、パーティクルなど)や、動画間の派手な切り替え効果(トランジション)を適用することはできません。Avidemuxのフィルターは主に基本的な補正や変換に特化しています。
- 凝ったテロップやアニメーション: 動的なテロップや複雑なアニメーション効果を作成・適用することはできません。静的な字幕の焼き付けは可能ですが、表現力には限界があります。
- マルチカム編集: 複数のカメラで同時に撮影した映像を編集する機能はありません。
- プロキシ編集: 高解像度動画を軽いプロキシファイル(低解像度や低ビットレートの代替ファイル)で編集し、最後に元の高解像度ファイルに置き換えて出力する、といった高負荷な編集を効率化する機能はありません。
- 高度な音声編集: ノイズ除去や音量調整などの基本的な音声フィルターはありますが、イコライザーやコンプレッサーといったより専門的な音声処理機能や、波形を見ながら細かく編集する機能は限定的です。
Avidemuxは、あくまで「カット」「結合」「形式変換」といった基本的な動画処理・編集に特化したツールであり、ノンリニア編集ソフトのような自由度や表現力はありません。
12.2 どのような用途に適しているか
Avidemuxは、以下のような用途に非常に適しています。
- 長い動画から不要部分をカットして短くしたい。
- 複数の短い動画クリップを一つにまとめたい(同じ形式である場合)。
- 動画ファイルの形式を変換して、特定のデバイスやウェブサイトで再生できるようにしたい。
- 動画の解像度を小さくしてファイルサイズを削減したい。
- スマートフォンで縦向きに撮った動画を回転させたい。
- 動画に字幕やロゴを焼き付けたい。
- 元の動画の音量を調整したい。
- 高価な編集ソフトは不要で、手軽に基本的な編集だけできれば十分。
- PCのスペックがあまり高くない。
これらの用途であれば、Avidemuxはシンプルかつ効率的に目的を達成できる優れたツールです。
12.3 より高度な編集をしたい場合のおすすめソフト
Avidemuxを使ってみて、動画編集の面白さに目覚め、もっと複雑な編集(複数の映像を重ねたい、凝ったエフェクトを使いたい、テロップをアニメーションさせたいなど)に挑戦したくなった場合は、Avidemuxの限界を超える別の動画編集ソフトへのステップアップを検討しましょう。
無料で高機能なノンリニア編集ソフトとしては、以下のようなものがあります。
- Shotcut: Windows, macOS, Linuxに対応した無料オープンソースのノンリニア編集ソフトです。Avidemuxよりはるかに多機能で、複数トラック編集、豊富なフィルター、トランジション、テロップ作成などが可能です。UIはAvidemuxより複雑になりますが、多くのユーザーにとって使いやすいでしょう。Avidemuxの次に学ぶソフトとして非常におすすめです。
- DaVinci Resolve Free: プロの現場でも使われている高機能な動画編集・カラーグレーディング・VFX・音声編集統合ソフトの無料版です。AvidemuxやShotcutとは比較にならないほど多機能ですが、操作は非常に複雑で習得に時間がかかります。また、高性能なPCが必須です。本気で動画編集を学びたい方向けです。
- Kdenlive: Linuxを中心に開発されている無料オープンソースのノンリニア編集ソフトです。WindowsやmacOS版もあります。Shotcutと同様に多機能で、安定性も高いです。
これらのソフトはAvidemuxとは全く異なる操作体系になりますが、Avidemuxで動画編集の基本的な概念(カット、エンコードなど)に触れているため、新しいソフトの学習もスムーズに進められるはずです。
13. まとめ
この記事では、無料高機能な動画編集ソフト「Avidemux」について、その概要からダウンロード、インストール、基本的な使い方、応用的な機能、そしてよくあるトラブル対処法まで、詳細に解説してきました。
Avidemuxは、高機能なノンリニア編集ソフトとは異なり、「カット」「結合」「形式変換」といった特定のタスクに特化しています。この特化ゆえに、シンプルで分かりやすい操作感、比較的軽量な動作、そしてCopyモードによる高速かつ無劣化な処理といった独自の強みを持っています。
動画編集をこれから始めたい初心者の方にとって、Avidemuxはまさに最初のステップとして最適なツールです。難しい設定に戸惑うことなく、まずは動画の一部を切り取ったり、ファイル形式を変えたりといった身近な編集作業を体験できます。また、PCのスペックに不安がある方でも、Avidemuxであれば快適に利用できる可能性が高いです。
もちろん、より凝った映像表現や複雑な編集に挑戦したくなった場合は、Avidemuxの限界を超えることになります。しかし、そこで初めてShotcutやDaVinci Resolveといった多機能なソフトにステップアップすれば良いのです。Avidemuxで培った動画編集の基本的な知識は、必ず次のステップでも役立つでしょう。
この記事で得た知識を元に、ぜひAvidemuxを実際に操作してみてください。お手持ちの動画ファイルを読み込み、タイムラインを動かし、AとBマーカーでカット範囲を指定し、フィルターを適用し、そして保存してみてください。きっと、動画編集が思っていたよりも手軽で楽しいものだと感じられるはずです。
無料でありながら、あなたの動画編集の幅を広げてくれるAvidemux。この記事が、あなたの動画編集入門の一助となれば幸いです。さあ、Avidemuxを使って、あなたの動画編集の世界を始めてみましょう!