サーバーOSに最適!無料のRocky Linuxとは?

サーバーOSに最適!無料のRocky Linuxとは? 詳細解説

はじめに:サーバーOSの重要性と無料OSへの注目

現代のデジタルインフラストラクチャにおいて、サーバーOSは心臓部とも言える存在です。ウェブサイトの公開、アプリケーションの実行、データベースの管理、ファイル共有、メール送受信など、私たちがインターネットを通じて享受するあらゆるサービスは、サーバーOS上で稼働しています。サーバーOSの選択は、システムの安定性、セキュリティ、パフォーマンス、そして運用コストに直接影響するため、非常に重要です。

サーバーOSには、商用OSと無料(オープンソース)OSの二つの大きな流れがあります。Windows Serverのような商用OSは、ベンダーによる手厚いサポートや特定のアプリケーションとの親和性といったメリットがありますが、ライセンスコストが発生します。一方、Linuxに代表される無料のオープンソースOSは、ライセンスコストがかからず、高いカスタマイズ性、安定性、セキュリティの高さから、多くの企業や組織に採用されています。特に、コスト削減が求められる場面や、特定の用途に合わせてOSを最適化したい場合には、無料OSが有力な選択肢となります。

長らく、エンタープライズ分野で広く利用されてきた無料Linuxディストリビューションの一つに「CentOS」がありました。Red Hat Enterprise Linux (RHEL) という商用Linuxディストリビューションのソースコードをもとに開発されたCentOSは、RHELの高い安定性や互換性を持ちながら、無償で利用できるという大きな利点がありました。そのため、多くの企業や個人開発者がサーバーOSとしてCentOSを採用し、そのコミュニティは非常に活発でした。

しかし、2020年末、CentOSプロジェクトの方向転換が発表され、従来の安定版としてのCentOS Linuxは開発が終了し、代わりにCentOS Streamという「ローリングリリース」モデルのディストリビューションに注力することが明らかにされました。これは「CentOSショック」としてIT業界に大きな衝撃を与えました。多くのCentOSユーザーは、将来のサーバーOSとして何を選択すべきかという課題に直面しました。

この「CentOSショック」を受けて、CentOSの理念を引き継ぎ、安定したエンタープライズ向け無償Linuxを提供する新しいプロジェクトが複数立ち上がりました。その中でも特に注目を集め、CentOSの代替OSとして広く認識されるようになったのが、「Rocky Linux」と「AlmaLinux」です。

本記事では、CentOSの後継として登場したRocky Linuxに焦点を当て、それがどのようなOSであり、なぜサーバーOSとして最適なのか、その詳細な特徴やメリット、デメリット、導入方法、そして将来性について、約5000語というボリュームで徹底的に解説していきます。

Rocky Linuxとは何か?:CentOSの後継、RHELクローンとしての位置づけ

Rocky Linuxは、エンタープライズ向けの安定したオペレーティングシステムを求めるコミュニティによって開発・維持されている無料のLinuxディストリビューションです。その最大のアイデンティティは、Red Hat Enterprise Linux (RHEL) とバイナリレベルでの互換性を持つ「RHELクローン」であるという点です。

CentOSの後継としての誕生

前述の通り、Rocky LinuxはCentOSプロジェクトの方向転換を受けて誕生しました。CentOSがRHELのダウンストリーム(RHELの安定版リリース後にソースコードを元に開発される)として、エンタープライズグレードの安定性を提供していたのに対し、CentOS StreamはRHELのアップストリーム(RHELの将来のバージョン開発に先駆けてテストされる)に位置づけられることになりました。これは、従来のCentOSユーザーが求めていた「安定した、長期サポートのある無償RHELクローン」という性質とは異なっていたため、CentOSの代替となる新しいOSが必要とされたのです。

Rocky Linuxプロジェクトを立ち上げたのは、CentOSプロジェクトの共同創設者の一人であるGreg Kurtzer氏です。彼はCentOS Linuxの終焉を受け、「CentOSが提供していた無料のエンタープライズ向けOSという役割を、コミュニティ主導で引き継ぐ」ことを目的に、Rocky Linuxを立ち上げました。プロジェクト名は、同じくCentOSの共同創設者であり、故人となったRocky McGaugh氏に敬意を表して名付けられました。

CentOS Streamとの違い

CentOS Streamは、Red Hat Enterprise Linuxの次のマイナーリリースやメジャーリリースに含まれる可能性のあるパッケージが先行して提供されるディストリビューションです。これは、開発者がRHELの将来のバージョンで何が起こるかを確認したり、自身のソフトウェアがRHELでどのように動作するかをテストしたりするのに適しています。しかし、あくまで開発プロセスの一部であり、安定性を最優先する本番サーバー環境には必ずしも向いているとは言えません。パッケージの更新頻度もCentOS Linuxより高く、安定版とは異なる性質を持ちます。

一方、Rocky Linuxは、従来のCentOS Linuxと同じように、RHELの安定版リリースのソースコードを基に開発されます。RHELが公式にリリースされてから、そのソースコードが公開されるのを待ち、それをリビルドすることで、RHELとほぼ同じバイナリ互換性を持つディストリビューションを提供します。このため、Rocky LinuxはRHELの安定性や信頼性をそのまま受け継いでおり、本番サーバー環境での利用に非常に適しています。

開発背景とコミュニティ主導の理念

Rocky Linuxは、Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) という非営利団体によって管理・運営されています。これは、特定の企業に依存せず、コミュニティの総意に基づいて開発を進めるという強い意志の表れです。開発プロセスは透明性が高く、誰でも貢献できるよう開かれています。このコミュニティ主導のアプローチは、かつてのCentOSが持っていた強みであり、特定のベンダーの意向に左右されることなく、ユーザーのニーズに応じた安定したディストリビューションを提供することを可能にしています。

RESFは、Rocky Linuxが将来にわたってコミュニティの手に留まり、無料であり続けることを保証するための様々な取り組みを行っています。これには、開発インフラの整備、資金調達、そして世界中のコントリビューターとの連携が含まれます。

RHELクローンであることの意味(互換性)

Rocky LinuxがRHELクローンであることの最も重要な意味は、「高い互換性」です。具体的には、以下の点が挙げられます。

  • バイナリレベル互換: RHEL向けにコンパイルされたソフトウェアやドライバは、通常、Rocky Linux上でも修正なしにそのまま動作します。これにより、RHELや従来のCentOS環境で培われた資産(アプリケーション、設定ファイル、運用ツールなど)を容易にRocky Linuxに移行させることができます。
  • 運用ノウハウの継承: RHELやCentOSの運用経験があるエンジニアは、Rocky Linuxでもその知識やスキルをそのまま活かすことができます。コマンド体系、設定ファイルの場所、パッケージ管理(dnf/yum)、サービス管理(systemd)、セキュリティ機能(SELinux, firewalld)など、基本的な使い方はRHELとほぼ同じです。新しいOSを学ぶためのコストを最小限に抑えられます。
  • ドキュメントや情報の豊富さ: RHELに関する公式ドキュメント、サードパーティの技術記事、コミュニティフォーラムの情報は非常に豊富です。Rocky LinuxはRHELと互換性が高いため、これらの情報源がそのままRocky Linuxの運用にも役立ちます。問題解決や新しい技術の習得が容易になります。

これらの互換性により、Rocky Linuxは、CentOSからの移行先として、あるいは新しいエンタープライズ向け無償OSの選択肢として、非常に魅力的な存在となっています。

Rocky Linuxの歴史とCentOSの終焉

Rocky Linuxの歴史は、CentOSという偉大な先行OSの歴史と、その突然の方向転換なしには語れません。

CentOSの成功

CentOSは、2004年に最初のバージョンが登場して以来、RHELの安定性と無償性を兼ね備えたOSとして、特にWebサーバー、アプリケーションサーバー、データベースサーバーといった用途で人気を博しました。中小企業から大企業、研究機関、個人開発者まで、幅広いユーザーに利用されました。その成功の要因は、エンタープライズグレードの安定性、長期サポート、そして活発なコミュニティによるサポートと情報提供でした。多くのホスティング事業者もCentOSを標準OSとして採用し、デファクトスタンダードの一つとなっていきました。

Red HatによるCentOS Streamへの移行発表(CentOSショック)

CentOSプロジェクトは、当初は独立したコミュニティプロジェクトとして運営されていましたが、その重要性の高まりを受けて、2014年にRed Hatの支援を受けることになりました。Red Hat社内にCentOSエンジニアが加わり、開発体制が強化されました。

しかし、2020年12月、Red HatはCentOSプロジェクトの戦略を変更することを発表しました。具体的には、CentOS Linux 8のサポート期間を予定より大幅に短縮し(2021年末で終了)、今後の開発リソースをCentOS Streamに集中させるというものでした。これは、従来のCentOS LinuxをサーバーOSとして利用していた多くのユーザーにとって、その前提を覆される出来事でした。安定版であるCentOS Linuxの後継がない、という状況に直面したのです。これがIT業界で「CentOSショック」と呼ばれる騒動となりました。

Red Hatの狙いとしては、CentOS StreamをRHELの将来バージョン開発におけるフィードバックループとして活用し、RHELの品質向上と開発サイクルの効率化を図ることにありました。しかし、これはCentOSユーザーが期待していた「無料のRHEL安定版クローン」という役割とは異なるものでした。

コミュニティの反応と後継プロジェクトの立ち上がり

CentOS Streamへの移行発表は、CentOSコミュニティ内で大きな動揺と失望を引き起こしました。「Red Hatに裏切られた」「コミュニティの意見が軽視された」といった声が多く上がりました。同時に、CentOS Linuxが担っていた役割を引き継ぐ新しいプロジェクトを立ち上げる動きが活発化しました。

この動きの中で、特に存在感を放ったのが、CloudLinux社が主導するAlmaLinuxと、Greg Kurtzer氏が立ち上げたRocky Linuxです。どちらも、RHELのソースコードを元に、CentOS Linuxのような安定した無料のエンタープライズ向けOSを提供することを目指しています。他にもいくつかのプロジェクトが立ち上がりましたが、AlmaLinuxとRocky Linuxが二大勢力としてコミュニティの支持を集めていきました。

Rocky Linuxプロジェクトの発足とその理念

Greg Kurtzer氏は、CentOSの共同創設者としての経験と、コミュニティのニーズを深く理解している立場から、迅速にRocky Linuxプロジェクトを立ち上げました。彼の理念は明確でした。それは、「かつてのCentOSがそうであったように、完全にコミュニティ主導で、企業に依存しない、安定した無償のRHELクローンを提供する」ことです。

プロジェクト発足のアナウンスが行われると、世界中の元CentOSユーザーや開発者から多くの賛同と協力の申し出がありました。短期間のうちに、開発体制やインフラが整備され、RHEL 8互換の最初のバージョンであるRocky Linux 8.4が2021年6月にリリースされました。これは、CentOS Linux 8のサポート終了が迫る中で、多くのユーザーにとって待望のリリースでした。

その後も、RHELのリリースに合わせて、Rocky Linuxは迅速に新しいバージョンをリリースし続けています。RHEL 9互換のRocky Linux 9がリリースされ、主要なCentOS代替OSとしての地位を確立しました。

Rocky Linuxは、Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) という非営利団体によって管理されています。RESFは、Rocky Linuxプロジェクトが特定の企業の支配下に置かれることなく、永続的にコミュニティの資産として維持されることを保証します。このガバナンスモデルは、多くのユーザーに安心感を与え、Rocky Linuxへの信頼を高めています。

なぜRocky LinuxがサーバーOSとして最適なのか?

Rocky LinuxがCentOSの後継として、そして無料のサーバーOSとして広く推奨されるのには、多くの理由があります。その核となるのは、無料であること、RHELとの高い互換性、そしてエンタープライズレベルの品質です。

無料であることの経済的メリット

サーバーOSのライセンスコストは、特に多数のサーバーを運用する場合、無視できない費用となります。商用OSを利用する場合、サーバーの台数やCPUコア数に応じてライセンス費用が発生し、これに加えてサポート契約の費用が必要になることもあります。

Rocky Linuxは、GPLv2ライセンスに基づいて提供される完全無料のオープンソースソフトウェアです。インストール、利用、再配布、改変の全てが自由であり、一切のライセンスコストが発生しません。これは、特に以下のようなユーザーにとって大きな経済的メリットとなります。

  • 中小企業: IT予算が限られている中小企業にとって、OSライセンス費用は大きな負担になり得ます。Rocky Linuxを利用することで、高性能なサーバー環境を低コストで構築・運用できます。
  • 個人開発者やスタートアップ: プロジェクトの立ち上げ段階や個人での開発において、初期投資を抑えることは重要です。Rocky Linuxは開発環境、テスト環境、本番環境の全てで無料で利用できます。
  • 教育機関: 学校や大学でのIT教育や研究用途において、多数のサーバーを用意する場合でもコストを気にせず利用できます。
  • 大企業: 大企業であっても、開発環境、テスト環境、ステージング環境など、本番以外の用途ではライセンスコストを抑えたい場合があります。また、特定用途のサーバーにRocky Linuxを採用することで、全体のITコスト最適化を図ることができます。

もちろん、無料であることは、商用サポートが付属しないことを意味します。しかし、Rocky Linuxはその点を補うために、様々なコミュニティサポートや有償のサポートオプションを提供しています(これについては後述)。

RHELとの高い互換性

前述の通り、Rocky LinuxはRHELとバイナリレベルでの高い互換性を持っています。これがサーバーOSとして最適であることの強力な理由となります。

  • 既存環境からの移行容易性: 多くの企業や組織は、過去にCentOSやRHELを利用してきました。Rocky LinuxはこれらのOSと互換性が高いため、アプリケーションの移行、設定ファイルの適用、運用スクリプトの流用などが非常に容易です。特に、CentOS 7やCentOS 8からの移行ツールも提供されており、比較的スムーズに移行作業を進めることができます。
  • 豊富な対応ソフトウェア: RHEL向けに開発・テストされた商用ソフトウェアやミドルウェアの多くは、Rocky Linux上でもそのまま動作します。これは、特定のアプリケーションやハードウェアを利用する必要がある場合に非常に重要です。データベース(Oracleの一部製品など)、ERPシステム、セキュリティ製品、バックアップソフトウェアなどが含まれます。これらのソフトウェアベンダーがRHELをサポートしていれば、通常はRocky Linuxでも問題なく動作すると期待できます。
  • ドライバ互換性: 特定のハードウェア(RAIDコントローラー、ネットワークアダプター、GPUなど)には、ベンダーが提供する専用ドライバが必要です。RHEL向けに提供されているドライバは、Rocky Linuxでもそのまま利用できることが多いため、幅広いハードウェア構成に対応できます。
  • 運用・保守ノウハウの活用: RHELやCentOSの運用経験を持つIT担当者であれば、Rocky Linuxの基本的な運用・保守に特別な研修は不要です。既存の知識やツール(Ansible, Puppet, Chefなどの構成管理ツール、監視ツール)をそのまま活用できます。これは、新しいOS導入に伴う学習コストや人的リソースの負担を大幅に軽減します。

高い互換性は、技術的なリスクや移行コストを低減し、安定した運用を可能にする上で極めて重要な要素です。

安定性と信頼性

サーバーOSには何よりも「安定性」と「信頼性」が求められます。システムが頻繁にクラッシュしたり、予測不能な挙動をしたりするようでは、サービス提供に支障をきたします。

Rocky LinuxはRHELのソースコードを基盤としているため、RHELが持つエンタープライズグレードの安定性と信頼性をそのまま引き継いでいます。Red HatはRHELを開発する際に、厳格なテストと品質管理プロセスを経ており、非常に安定したOSとして知られています。Rocky Linuxプロジェクトも、RHELとの互換性を維持しつつ、安定したリリースを提供するために独自のテストプロセスを実行しています。

さらに、Rocky Linuxは以下の点でも安定性・信頼性を追求しています。

  • 長期的なサポート (LTS – Long Term Support): Rocky Linuxの各メジャーバージョン(例: Rocky Linux 8, Rocky Linux 9)は、RHELのサポートポリシーに合わせて、通常10年間の長期サポートが提供されます。この期間中、セキュリティアップデートやバグフィックスが継続的に提供されるため、長期にわたって安心してシステムを運用できます。OSの頻繁なバージョンアップに伴う手間やリスクを回避できます。
  • 厳格なビルドプロセス: RHELのソースコードを正確にリビルドし、互換性を損なわないように細心の注意が払われています。これにより、意図しない動作や互換性の問題が発生するリスクを低減しています。

安定性と信頼性は、特にミッションクリティカルなシステムや、長期間運用されるシステムにとって不可欠な要素です。Rocky Linuxは、無料でありながら、これらの要求に応える高いレベルの品質を提供します。

セキュリティ

サーバーOSにおけるセキュリティは、言うまでもなく最も重要な要素の一つです。不正アクセス、情報漏洩、サービス停止などのリスクからシステムを保護する必要があります。

Rocky LinuxはRHELをベースとしているため、RHELが提供する堅牢なセキュリティ機能と、Red Hatによる迅速なセキュリティアップデートの恩恵を受けられます。

  • 迅速なセキュリティアップデート: upstreamであるRHELで発見されたセキュリティ脆弱性に対する修正は、迅速にRocky Linuxにも取り込まれ、アップデートとして提供されます。これにより、最新の脅威からシステムを保護できます。
  • SELinux (Security-Enhanced Linux): 強制アクセス制御 (MAC) を提供するセキュリティ機能です。システム上のプロセスやファイルに対するアクセス権限を細かく制御することで、たとえ特定のサービスが侵害されたとしても、被害がシステム全体に及ぶことを防ぐことができます。Rocky LinuxでもSELinuxが標準で有効化されており、高度なセキュリティポリシーを適用できます。
  • firewalld: 動的なファイアウォール管理ツールです。ポートの開放や閉じ、ネットワークゾーンの設定などを容易に行うことができます。サービス単位でファイアウォールルールを設定できるため、きめ細やかなネットワークセキュリティ対策が可能です。
  • OpenSCAP: システムのセキュリティポリシーへの準拠をチェックするツールです。組織のセキュリティ基準や規制要件を満たしているかを確認し、設定の不備を検出するのに役立ちます。
  • 暗号化機能: ファイルシステム暗号化、ネットワーク通信の暗号化(TLS/SSL, SSH)、ディスク暗号化など、様々な暗号化機能をサポートしています。

これらの機能に加えて、コミュニティによる活発な情報交換やベストプラクティスの共有も、Rocky Linuxのセキュリティ運用に貢献しています。無料でありながら、エンタープライズレベルのセキュリティ機能を備えている点は、Rocky Linuxの大きな強みです。

コミュニティ主導の開発

Rocky Linuxは、Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) のもと、完全にコミュニティ主導で開発・運営されています。これは、特定の企業の製品戦略に左右されず、ユーザーであるコミュニティのニーズや意見が開発に反映されやすいというメリットがあります。

  • 透明性: 開発プロセス、意思決定、資金の使い道などが公開されており、高い透明性を持っています。誰でもプロジェクトの状況を確認し、貢献することができます。
  • ユーザーの声の反映: バグ報告、機能要望、ドキュメントの改善提案など、コミュニティからのフィードバックが積極的に受け入れられ、開発に反映されます。これにより、実際にサーバーOSを利用するユーザーにとって使いやすい、実用的なディストリビューションが実現されます。
  • 活発なコミュニティサポート: 公式フォーラム、メーリングリスト、IRCチャンネル、Slackワークスペースなどで、世界中のユーザーや開発者が情報交換を行っています。問題が発生した際に、コミュニティに質問することで解決策を得られる可能性が高いです。豊富なドキュメントもコミュニティによって作成・維持されています。

特定の企業ではなく、ユーザーコミュニティ自身が主体となって開発を進めることで、Rocky Linuxは真にユーザーのためのOSとして進化し続けることができます。

スケーラビリティとパフォーマンス

RHELを基盤とするRocky Linuxは、大規模なエンタープライズ環境での運用実績が豊富です。数百台、数千台といった規模のサーバーでも安定して動作することが証明されています。

  • 大規模システムへの対応: 高性能なハードウェア(多数のCPUコア、大容量メモリ、高速ストレージ)を最大限に活用できるよう設計されています。データベースサーバーや仮想化ホストなど、高いパフォーマンスとスケーラビリティが求められる用途にも適しています。
  • 様々なハードウェア対応: 主要なサーバーハードウェアベンダー(Dell EMC, HP, Lenovo, Ciscoなど)はRHELでの動作を保証しており、その互換性からRocky Linuxでも問題なく動作することが多いです。特定のハードウェア向けに最適化されたカーネルモジュールなどがRHEL向けに提供されていれば、Rocky Linuxでも利用できる可能性が高いです。
  • コンテナ技術への対応: DockerやPodmanといったコンテナ技術を標準でサポートしています。コンテナを活用することで、アプリケーションのデプロイや管理を効率化し、リソースの利用率を高めることができます。Kubernetesといったコンテナオーケストレーションツールとの連携も容易です。

無料でありながら、エンタープライズクラスのスケーラビリティとパフォーマンスを提供できる点は、Rocky LinuxがサーバーOSとして選ばれる大きな理由の一つです。

Rocky Linuxの主要な特徴

Rocky Linuxは、RHELを基盤としているため、RHELが持つ多くの強力な特徴を受け継いでいます。サーバーOSとしての利用を想定した、主な特徴をいくつか紹介します。

  • パッケージ管理システム (DNF/YUM): ソフトウェアのインストール、アップデート、削除は、DNF (Dandified YUM) またはYUMコマンドを使用して行います。DNFはYUMの後継として開発され、依存関係の解決能力やパフォーマンスが向上しています。数万種類のパッケージが提供されており、必要なソフトウェアを容易に導入できます。
  • Systemdによるサービス管理: システムの起動プロセスや、バックグラウンドで動作するサービス(デーモン)の管理は、Systemdによって行われます。Systemdは、サービスの起動・停止、自動起動設定、ログ管理、リソース制御などを効率的に行うための統合的なシステム管理デーモンです。サーバーの起動や停止、各種サービスの運用に不可欠な機能を提供します。
  • ファイルシステム対応: XFS、ext4、LVM (Logical Volume Management) などをサポートしています。XFSは大規模なファイルシステムや高パフォーマンスが求められる用途に適しており、近年RHEL系の標準ファイルシステムとなっています。LVMを利用することで、ディスク容量の拡張やスナップショット取得などが柔軟に行えます。
  • ネットワーキング機能: NetworkManagerによるネットワーク設定、Firewalldによるファイアウォール管理、BondingやVLANによる高度なネットワーク構成など、豊富なネットワーキング機能を備えています。
  • 仮想化 (KVM): KVM (Kernel-based Virtual Machine) を利用した仮想化ホストとして機能できます。KVMはLinuxカーネルに統合された仮想化機能であり、高性能で安定した仮想マシン環境を構築できます。libvirtといった管理ツールと組み合わせて利用するのが一般的です。
  • コンテナ技術: Docker(現在はPodmanやBuildahが推奨されることが多い)やKubernetesといったコンテナ技術を標準でサポートし、連携が容易です。コンテナイメージのビルド、実行、管理に必要なツールが提供されています。
  • モジュールストリーム (Module Streams): 同じOSバージョン上で、特定のソフトウェア(例: Python, Node.js, Nginx, MariaDBなど)の複数のバージョンを選択してインストールできる機能です。アプリケーションの要件に合わせて、適切なバージョンのソフトウェアを選択できます。
  • CockpitによるWeb管理インターフェース: サーバーの基本的な管理タスク(リソース監視、ログ表示、ネットワーク設定、ストレージ管理、ユーザー管理、仮想マシン管理など)をWebブラウザからGUIで行えるツール「Cockpit」が提供されています。CUIに慣れていないユーザーでも、サーバーの状況を確認したり、簡単な設定変更を行ったりするのに便利です。
  • Image Builder: カスタマイズされたOSイメージを作成するためのツールです。物理サーバー、仮想マシン、クラウド環境など、様々な環境向けのイメージを作成できます。これにより、多数のサーバーに同じ構成でOSをデプロイする作業を効率化できます。

これらの特徴は、Rocky Linuxが単なるRHELのコピーではなく、サーバーOSとして実用的な機能と管理ツールを兼ね備えていることを示しています。

Rocky Linuxの導入と運用

Rocky Linuxをサーバーとして利用するための具体的なステップについて説明します。

インストール前の準備

  1. システム要件の確認: Rocky Linuxをインストールするサーバーが、最低限のハードウェア要件を満たしているか確認します。CPU、メモリ、ストレージ容量などが公式サイトやドキュメントで公開されています。通常、Webサーバーやアプリケーションサーバーであれば、比較的控えめなスペックでも動作しますが、用途に応じて適切なリソースを確保する必要があります。
  2. インストールメディアの入手: Rocky Linuxの公式サイトから、最新バージョンのISOイメージファイルをダウンロードします。サーバー用途であれば、GUIを含むDVDイメージや、最小インストール向けのMinimalイメージが一般的です。ダウンロードしたISOイメージは、USBメモリやDVDに書き込むか、仮想化環境の場合はそのまま利用します。
  3. バックアップ: 既存のシステムにインストールする場合、重要なデータは必ずバックアップしておきます。新しいサーバーにクリーンインストールする場合でも、設定情報などを控えておくと良いでしょう。
  4. ネットワーク情報の確認: サーバーをネットワークに接続するためのIPアドレス、サブネットマスク、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバーアドレスなどを事前に確認しておきます。インストール中に手動で設定する場合に必要です。

インストール方法

Rocky Linuxのインストールは、RHELやCentOSのインストーラー「Anaconda」を使用するため、これらのOSのインストール経験があればスムーズに進められます。基本的な手順は以下の通りです(GUIインストーラーの場合)。

  1. メディアからの起動: 作成したインストールメディアからサーバーを起動します。
  2. インストーラーの起動: 起動メニューが表示されたら、「Install Rocky Linux」などを選択してインストーラーを起動します。
  3. 言語とキーボードの選択: インストール中に使用する言語と、システムのデフォルトとなる言語を選択します。キーボードレイアウトも設定します。
  4. インストールの概要: インストールに関する様々な設定項目が表示されます。重要な項目は以下の通りです。
    • ローカライゼーション: 言語サポート、時刻と日付
    • ソフトウェア: インストールソース、ソフトウェアの選択(重要)
    • システム: インストール先(ストレージ)、KDUMP(クラッシュダンプ)、ネットワークとホスト名、セキュリティポリシー(SELinuxなど)
    • ユーザー設定: Rootパスワード、ユーザー作成
  5. ソフトウェアの選択: サーバーOSとして利用する場合、「Base Environment」として「Server」や「Minimal Install」を選択することが多いです。「Server with GUI」を選択すると、デスクトップ環境もインストールされますが、サーバー用途ではリソースの節約やセキュリティの観点からGUIなしのMinimal Installを選択することが一般的です。また、後から必要なソフトウェアグループ(例: Web Server, Database Server, Virtualization Hostなど)を追加で選択できます。
  6. インストール先の選択: OSをインストールするストレージデバイス(HDD/SSD)とパーティション構成を指定します。自動パーティショニングを利用するか、手動でパーティションを作成・編集するかを選択できます。サーバー用途では、/ (root), /home, /var, /tmp, swap など、必要に応じてパーティションを分割するのが一般的です。LVMを使用することも推奨されます。
  7. ネットワークとホスト名: ネットワークアダプターを有効化し、IPアドレス設定(DHCPまたはStatic)、デフォルトゲートウェイ、DNSサーバーなどを設定します。サーバーのホスト名も設定します。
  8. Rootパスワードとユーザー作成: rootユーザーのパスワードを設定します。セキュリティのため、複雑で推測されにくいパスワードを設定することが重要です。また、日常的な管理作業に使用するための一般ユーザーアカウントを作成します。このユーザーにsudo権限を与えることもできます。
  9. インストールの開始: 全ての設定が完了したら、「インストールの開始」をクリックします。ファイルのコピーとシステム設定が自動的に行われます。
  10. 再起動: インストールが完了したら、メディアを取り出してサーバーを再起動します。

初期設定と基本操作

インストール完了後、SSHでリモート接続できるようにする、パッケージを最新の状態にする、ファイアウォールを設定するなどの初期設定を行います。

  1. ログイン: インストール時に設定したユーザーアカウント(またはroot)でログインします。GUIをインストールした場合はデスクトップ環境が表示されますが、Minimal Installの場合はCUIコンソールが表示されます。
  2. SSH接続の有効化: サーバーをリモートから管理するためにSSH接続を有効化します。systemctl enable sshd --now コマンドでsshdサービスを有効化・起動します。セキュリティのため、パスワード認証を無効にして公開鍵認証方式に切り替えるなどの設定を行うことが推奨されます。
  3. パッケージのアップデート: インストール時点からリリースされたセキュリティアップデートやバグフィックスを適用するために、パッケージを最新の状態に更新します。sudo dnf update コマンドを実行します。これにより、システムのセキュリティと安定性が向上します。
  4. ファイアウォールの設定: firewalldを使用して、不要なポートを閉じ、必要なポートだけを開放します。例えば、SSH接続(ポート22)を許可するには sudo firewall-cmd --permanent --add-service=ssh 、Webサーバー(HTTP/HTTPSポート)を許可するには sudo firewall-cmd --permanent --add-service=http --add-service=https といったコマンドを使用します。設定変更後は sudo firewall-cmd --reload で設定を反映させます。
  5. SELinuxの設定: SELinuxがEnforcingモード(強制モード)で有効になっているか確認します。sestatus コマンドで確認できます。特定のアプリケーションやサービスを稼働させる際にSELinuxのポリシー調整が必要になる場合がありますが、基本的にはEnforcingモードのまま運用することがセキュリティ上推奨されます。
  6. タイムゾーンと時刻同期: 正確なログ記録やスケジュールされたタスクのために、システムのタイムゾーンを設定し、NTPサーバーと時刻同期を設定します。timedatectl set-timezone Asia/Tokyo (日本のタイムゾーンの場合)、sudo dnf install chrony (chronyはNTPクライアント) などのコマンドを使用します。

主要なサーバーソフトウェアのインストールと設定例

Rocky Linux上に様々なサーバーソフトウェアをインストールして運用できます。例をいくつか示します。

  • Webサーバー (Apache/Nginx):
    • Apacheの場合: sudo dnf install httpd でインストール。sudo systemctl enable httpd --now で起動・自動起動設定。/var/www/html にファイルを配置。設定ファイルは /etc/httpd/conf/httpd.conf など。
    • Nginxの場合: sudo dnf install nginx でインストール。sudo systemctl enable nginx --now で起動・自動起動設定。設定ファイルは /etc/nginx/nginx.conf など。
    • ファイアウォールでHTTP/HTTPSポート (80/443) を開放することを忘れずに。
  • データベースサーバー (MariaDB/PostgreSQL):
    • MariaDBの場合: sudo dnf install mariadb-server でインストール。sudo systemctl enable mariadb --now で起動・自動起動設定。sudo mysql_secure_installation で初期セキュリティ設定。
    • PostgreSQLの場合: sudo dnf install postgresql-server postgresql-contrib でインストール。sudo postgresql-setup --initdb でデータベース初期化。sudo systemctl enable postgresql --now で起動・自動起動設定。ユーザー認証設定など。
    • 必要に応じてファイアウォールでデータベースポート(例: MariaDB 3306, PostgreSQL 5432)を開放しますが、通常は同一ネットワーク内のアプリケーションサーバーからのみ接続を許可するべきです。
  • アプリケーションサーバー: Java (OpenJDK), Python, Ruby, Node.js, PHPなどの実行環境や、Tomcat, JBoss/Wildfly, Gunicorn, Unicornなどのアプリケーションサーバーをインストールして、独自のアプリケーションをデプロイできます。モジュールストリーム機能を使って、必要なバージョンの言語やランタイムを選択できます。
  • ファイルサーバー: Samba (Windows共有), NFS (Linux/Unix共有) などをインストールしてファイルサーバーとして構成できます。

運用・保守のポイント

Rocky Linuxを長期的に安定して運用するためには、いくつかのポイントがあります。

  • 定期的なアップデート: セキュリティアップデートやバグフィックスを適用するために、定期的に sudo dnf update を実行します。重要なアップデートがある場合は、速やかに適用することが推奨されます。アップデート前にスナップショットを取得するなど、ロールバック可能な体制を整えておくと安心です。
  • ログ監視: /var/log ディレクトリ以下のシステムログやアプリケーションログを定期的に確認し、エラーや異常なアクティビティがないか監視します。Syslogサーバーへのログ転送や、監視ツールとの連携も検討します。
  • バックアップ戦略: サーバー上の重要なデータや設定ファイルは、定期的にバックアップを取得します。バックアップからのリストア手順も確認しておき、災害発生時に備えます。
  • パフォーマンス監視: CPU使用率、メモリ使用率、ディスクI/O、ネットワークトラフィックなどを監視し、パフォーマンスのボトルネックや異常を早期に検出します。sar, vmstat, iostat, tcpdumpといったコマンドや、Zabbix, Nagios, Prometheusといった監視ツールを活用します。
  • セキュリティ対策: ファイアウォールの適切な設定、不要なサービスの停止、SSHポートの変更や公開鍵認証の利用、ユーザー権限の最小化、侵入検知システム(IDS)の導入など、継続的なセキュリティ対策を実施します。SELinuxのポリシーも適切に管理します。

これらの運用・保守作業を適切に行うことで、Rocky Linuxサーバーの安定稼働とセキュリティ維持が実現できます。

Rocky Linuxのメリット・デメリット

Rocky LinuxをサーバーOSとして選択する際のメリットとデメリットを改めて整理します。

メリット

  1. 無料かつエンタープライズレベルの安定性: これが最大のメリットです。高額なライセンス費用なしに、RHEL譲りの堅牢で安定したOSを利用できます。
  2. RHELとの高い互換性: 既存のRHEL/CentOS環境からの移行が容易であり、RHEL向けに提供されている多くのソフトウェア、ドライバ、運用ノウハウをそのまま利用できます。
  3. 長期サポート (LTS): 各メジャーバージョンは10年間の長期サポートが提供されるため、長期的な運用計画が立てやすいです。
  4. 豊富なドキュメントとコミュニティサポート: RHEL関連の既存情報に加え、Rocky Linuxコミュニティによる公式ドキュメント、Wiki、フォーラム、チャットなど、情報源が豊富です。
  5. CentOSからの移行容易性: CentOS Linuxのユーザーにとって、最も自然で移行しやすい選択肢の一つです。移行ツールも提供されています。
  6. コミュニティ主導の透明性と信頼性: 特定の企業に依存しないガバナンスモデルにより、永続的に無料かつコミュニティの資産として維持される安心感があります。

デメリット

  1. RHEL本体よりはリリースが遅れる可能性: RHELのソースコードが公開されてからビルド・テストを行うため、RHELの公式リリースからRocky Linuxのリリースまでにはタイムラグが発生します。ただし、Rocky Linuxプロジェクトはこのタイムラグを最小限に抑えるよう努力しており、通常は数日から数週間程度です。
  2. ベンダーによる公式な商用サポートがない(デフォルトでは): Red Hat Enterprise Linuxのような、Red Hat社自身による公式な有償サポートは付属しません。ただし、Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) と提携しているサードパーティの企業から、Rocky Linuxに対する有償サポートを受けることは可能です。CentOSを利用していたユーザーは、元々ベンダーサポートなしでコミュニティサポートに依存していたケースも多いため、この点は大きなデメリットにならない場合もあります。
  3. 最新技術の取り込みは先行を譲る場合がある: RHELは、その開発プロセスにおいて、CentOS StreamやFedoraといった他のディストリビューションでテストされた最新技術を取り込みます。Rocky LinuxはあくまでRHELの安定版をクローンするため、最新のソフトウェアバージョンや実験的な機能は、RHELが正式に取り込むまで待つ必要があります。

これらのデメリットはありますが、多くのサーバー用途において、無料であること、RHEL互換性、安定性といったメリットが、デメリットを上回ると判断されることが多いです。

他のRHELクローンOS(AlmaLinuxなど)との比較

Rocky Linuxの他にも、CentOSの代替として登場したRHELクローンOSがいくつかあります。その中でも最も代表的なのはAlmaLinuxです。Rocky LinuxとAlmaLinuxは、どちらもRHEL互換の無料OSを目指しており、多くの共通点がありますが、いくつかの違いもあります。

  • 開発組織:
    • Rocky Linux: Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) という完全に独立した非営利団体によって運営されています。特定の企業に依存しない、真のコミュニティ主導を標榜しています。
    • AlmaLinux: CloudLinux Inc. という商用Linuxディストリビューションベンダーの支援を受けてプロジェクトが開始されましたが、現在はAlmaLinux OS Foundationという非営利団体によって運営されています。CloudLinuxからの独立性を強調していますが、プロジェクト開始の経緯からCloudLinuxとの関係性が指摘されることがあります。
  • リリース方針:
    • どちらもRHELの安定版リリースに合わせて、そのソースコードからリビルドしてリリースされます。リリースサイクルやRHEL追従のスピードに大きな違いはありませんが、ごくわずかに先行したり遅れたりすることがあります。
  • コミュニティの規模や特徴:
    • どちらのプロジェクトも活発なコミュニティを持っています。Rocky LinuxはCentOSの共同創設者が立ち上げたという歴史的な背景から、特に従来のCentOSコミュニティからの支持が厚い傾向があります。AlmaLinuxはCloudLinuxの技術的な支援を受けてスタートしたという点に特徴があります。どちらのコミュニティもドキュメント作成やサポートに積極的に取り組んでいます。
  • 移行ツール:
    • CentOSからの移行ツールは、どちらのOSプロジェクトも提供しています。
  • 有償サポート:
    • Rocky LinuxはRESFと提携するパートナー企業から有償サポートを受けることができます。
    • AlmaLinuxは、開発を主導するCloudLinux Inc. が提供する有償サポートサービス「AlmaCare」を利用できます。

どちらのOSもRHELクローンとして優れた品質を提供しており、多くの用途において機能的な違いはほとんどありません。どちらを選択するかは、プロジェクトのガバナンスモデルに対する考え方や、特定のベンダーとの関係性などを考慮して判断することになるでしょう。CentOSからの移行であれば、どちらを選んでも大きな問題はありませんが、過去の経緯からRocky Linuxを選ぶユーザーも多いです。

Rocky Linuxの将来展望

Rocky Linuxプロジェクトは、CentOSの精神を受け継ぎ、長期にわたって安定した無料のエンタープライズOSを提供し続けることを目指しています。その将来展望には、いくつかの重要な要素が含まれます。

  • RHEL追従の継続: RHELの新しいバージョンがリリースされるたびに、迅速かつ正確にRocky Linuxをリリースし続けることが、プロジェクトの最も重要な使命です。RHEL 9リリースに成功したように、今後もRHELの進化に合わせてRocky Linuxも進化していくでしょう。
  • コミュニティの成長と活性化: より多くのユーザーや開発者がプロジェクトに参加し、貢献することで、Rocky Linuxはさらに強固な基盤を持つことができます。ドキュメントの拡充、翻訳作業、バグ報告、コード貢献など、様々な形での貢献がプロジェクトを支えます。
  • 幅広いプラットフォームへの対応: 物理サーバー、仮想マシンはもちろんのこと、クラウド環境(AWS, Azure, Google Cloud Platformなど)、コンテナ(Docker, Podman, Kubernetes)といった、多様なITインフラストラクチャへの対応を強化していくことが期待されます。クラウドプロバイダーがRocky Linuxイメージを提供したり、コンテナレジストリでRocky Linuxベースのコンテナイメージが提供されたりといった動きは既に進んでいます。
  • 特定用途向けの派生プロジェクト: 標準のRocky Linuxだけでなく、HPC (High Performance Computing) 向けや、組み込みシステム向けなど、特定の用途に特化した派生プロジェクトが生まれる可能性もあります。これは、オープンソースコミュニティならではの柔軟性です。
  • 有償サポートエコシステムの拡大: RESFと提携する有償サポートベンダーが増えることで、企業ユーザーが安心してRocky Linuxを本番環境に導入できる選択肢が増えることが期待されます。

Rocky Linuxは、既に多くの企業や組織でCentOSの代替として採用されており、その実績を積み重ねています。コミュニティの強い意志と活動に支えられているRocky Linuxは、今後も無料のエンタープライズLinuxとして重要な役割を担っていくと考えられます。

まとめ:Rocky LinuxがサーバーOSとして優れた選択肢である理由

本記事では、無料のエンタープライズ向けLinuxディストリビューションであるRocky Linuxについて、その誕生の経緯から詳細な特徴、導入・運用方法、そして将来性までを解説しました。

Rocky Linuxは、CentOSプロジェクトの方向転換という「CentOSショック」を受けて、CentOSの共同創設者によって立ち上げられたRHELクローンです。Rocky Enterprise Software Foundation (RESF) という非営利団体によって完全にコミュニティ主導で開発・運営されています。

Rocky LinuxがサーバーOSとして最適である理由は、以下の点が挙げられます。

  • 無料であること: ライセンスコストが一切かからず、コスト効率の高いサーバー環境を構築できます。
  • RHELとの高い互換性: RHELの安定性、信頼性、セキュリティ機能をそのまま受け継ぎ、既存のRHEL/CentOS環境からの移行や運用ノウハウの活用が容易です。RHEL向けソフトウェアやドライバの多くが利用可能です。
  • 安定性と信頼性: エンタープライズレベルの品質を持ち、長期的な運用に耐えうる安定性を提供します。
  • 長期サポート (LTS): 各バージョンが10年間の長期サポートを受けるため、安心して利用し続けられます。
  • セキュリティ: RHEL由来の堅牢なセキュリティ機能と迅速なアップデートにより、システムを保護できます。
  • コミュニティ主導: 透明性が高く、ユーザーの意見が反映されやすい開発体制であり、活発なコミュニティによるサポートも期待できます。

もちろん、RHEL本体と比較すると、リリースに若干の遅延があったり、ベンダーによる公式商用サポートが付属しない(サードパーティからの有償サポートは可能)といったデメリットもあります。しかし、これらの点は、無料であることや高い互換性といったメリット、そしてコミュニティのサポート体制によって十分に補われています。

特に、CentOS LinuxをサーバーOSとして利用していたユーザーにとっては、Rocky Linuxは最も自然でリスクの少ない移行先の一つです。また、これから新たに無料のエンタープライズ向けLinuxサーバーを構築しようとしているユーザーにとっても、Rocky Linuxは非常に優れた選択肢となります。

安定性、信頼性、セキュリティ、そしてコスト効率を重視するサーバー環境において、Rocky Linuxは無料でありながら商用OSに匹敵する、あるいはそれ以上の価値を提供できるディストリビューションです。ぜひ、皆様のサーバーOSの選択肢の一つとして、Rocky Linuxを検討してみてください。公式サイトからISOイメージをダウンロードし、実際にインストールしてその堅牢さと使いやすさを体験してみることをお勧めします。コミュニティも非常に歓迎的ですので、疑問点があればフォーラムなどで質問してみましょう。

Rocky Linuxは、かつてのCentOSが担っていた「無料のエンタープライズLinux」という重要な役割を、コミュニティの力で引き継ぎ、進化させています。これは、オープンソースの理念が生きている証であり、ITインフラの選択肢を広げる上で非常に意義深い存在と言えます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール