FreeCADでアセンブリを組む方法:Assemblyワークベンチの使い方


FreeCADでアセンブリを組む方法:Assembly4ワークベンチの徹底解説

はじめに

現代の製品設計において、単一の部品だけでなく、複数の部品を組み合わせて機能する「アセンブリ」(Assembly、組立品)のモデリングは不可欠です。ネジやボルトで固定される部品、回転する軸受け、スライドする機構など、現実世界で製品がどのように構成されているかをCAD上で表現することで、設計の検証、干渉のチェック、分解図の作成などが可能になります。

オープンソースの強力な3D CADソフトウェアであるFreeCADは、単体の部品モデリング機能(Part Designワークベンチなど)に加えて、アセンブリを作成するための機能も提供しています。ただし、FreeCADのアセンブリ機能は歴史的に複数のワークベンチが存在し、ユーザーにとってどれを選べば良いか、どのように使えば良いかが分かりにくい側面がありました。

この記事では、FreeCADのアセンブリワークベンチの中でも、現在推奨されており、比較的シンプルで安定した機能を提供する「Assembly4」ワークベンチに焦点を当て、その使い方を詳細に解説します。パーツの準備から、アセンブリの作成、コンポーネントの配置、そしてAssembly4の中心的な機能である「拘束(Constraint)」を使った部品間の位置関係の定義まで、具体的な手順を追って説明します。

この解説を読むことで、あなたはFreeCADを使って複雑な製品アセンブリを構築するための基礎知識と実践的なスキルを習得できるでしょう。さあ、Assembly4の世界に足を踏み入れましょう。

1. Assembly4ワークベンチの準備

FreeCADでAssembly4を使うためには、まずそのワークベンチをインストールする必要があります。Assembly4はFreeCAD本体には標準で含まれていない外部ワークベンチ(Addon)です。

1.1 Assembly4のインストール

Assembly4はFreeCADの「Addon Manager」(アドオンマネージャー)を使って簡単にインストールできます。

  1. FreeCADを起動します。
  2. メニューバーから「ツール(Tools)」を選択し、ドロップダウンメニューから「Addon manager」を選択します。
  3. Addon managerのウィンドウが表示されます。このウィンドウには、インストール可能な様々な外部ワークベンチやマクロが表示されます。
  4. リストの中から「Assembly4」を探します。通常は「Workbenches」タブに表示されます。
  5. 「Assembly4」を選択し、画面右下にある「Install/update selected」ボタンをクリックします。
  6. Assembly4とその依存関係にあるライブラリなどがダウンロード、インストールされます。
  7. インストールが完了したら、FreeCADを再起動するよう求められます。画面の指示に従い、FreeCADを再起動してください。

FreeCADの再起動後、ワークベンチセレクタ(通常はツールバーの一番左にあるドロップダウンリスト)に「Assembly4」が追加されていることを確認してください。

1.2 Assembly4ワークベンチへの切り替え

Assembly4を使った作業を開始するには、ワークベンチを「Assembly4」に切り替える必要があります。

  1. ワークベンチセレクタのドロップダウンリストをクリックします。
  2. リストの中から「Assembly4」を選択します。

ワークベンチがAssembly4に切り替わると、FreeCADのGUIがAssembly4用のツールバーやタスクパネルなどに変化します。Assembly4の主要な機能は、新しく表示されるツールバーアイコンとして利用できます。

1.3 Assembly4の基本的なUI

Assembly4ワークベンチに切り替えると、主に以下の要素が重要になります。

  • Assembly4ツールバー: 新しいアセンブリの作成、パーツの挿入、様々な種類の拘束の適用、ソルバーの実行など、Assembly4の主要なコマンドにアクセスできます。アイコンはAssembly4に関連するものが並びます。
  • ツリービュー: 作成中のアセンブリ構造が表示されます。アセンブリコンテナ、挿入されたコンポーネント、適用された拘束などが階層構造で表示されます。
  • プロパティエディタ: ツリービューで選択した要素(アセンブリコンテナ、コンポーネント、拘束など)の詳細なプロパティを表示・編集できます。「View」タブでは表示に関する設定、「Data」タブでは機能に関する設定が行えます。
  • タスクパネル: 一部のコマンド(特に拘束の適用など)を実行する際に、詳細なオプションや手順が表示されることがあります。

これらのUI要素を理解することで、Assembly4を使ったアセンブリ作業を効率的に進めることができます。

2. アセンブリの基本概念

Assembly4を使った具体的な手順に入る前に、アセンブリを扱う上で理解しておくべき基本的な概念について説明します。

2.1 パーツファイルとアセンブリファイル

  • パーツファイル: FreeCADで一般的に作成する単一の部品モデリングデータです。例えば、Part Designワークベンチで押し出しやポケットなどのフィーチャーを使って作成した.FCStdファイルなどがこれに該当します。アセンブリを作成する際には、これらの既存のパーツファイルを参照して利用します。
  • アセンブリファイル: 複数のパーツを配置し、それらの部品間の位置関係(拘束)を定義するためのファイルです。Assembly4で作成するアセンブリも.FCStdファイルとして保存されますが、その内容は部品そのものではなく、どのパーツファイルをどこに配置し、どのような拘束で結びつけるか、といった構造情報を含んでいます。アセンブリファイル自体は部品の形状データを持たず、パーツファイルへのリンクを持っています。

2.2 コンポーネントとは

アセンブリファイルにおいて、配置される個々のパーツを「コンポーネント(Component)」と呼びます。厳密には、コンポーネントはパーツファイルそのものではなく、「そのパーツファイルの特定の時点での形状を参照し、アセンブリ内に配置されたインスタンス(実体)」です。

同じパーツをアセンブリ内で複数箇所に配置する場合、それぞれが独立したコンポーネントとして扱われます。例えば、M6ボルトを4箇所で使用する場合、M6ボルトのパーツファイルは一つだけですが、アセンブリ内にはそのM6ボルトを参照する4つのコンポーネントが作成されます。これにより、元のパーツファイルを修正すれば、それを参照する全てのアセンブリやコンポーネントにその変更が反映されるというメリットがあります。

コンポーネントは、アセンブリ内の座標系に対して任意の位置と向きを持つことができます。初期配置は手動で行うか、原点に配置されますが、最終的な正確な位置は拘束によって決定されます。

2.3 原点と座標系

3D空間におけるオブジェクトの位置や向きを定義するためには、基準となる座標系が必要です。Assembly4ではいくつかの座標系が関係してきます。

  • グローバル座標系 (Global Coordinate System): FreeCAD全体、または現在開いているドキュメントの絶対的な座標系です。通常はビューのグリッドの原点に対応します。X軸(赤)、Y軸(緑)、Z軸(青)で表されます。
  • アセンブリ座標系 (Assembly Coordinate System): Assembly4のアセンブリコンテナが持つ座標系です。アセンブリ内の全てのコンポーネントや拘束は、このアセンブリ座標系を基準に配置されます。通常はグローバル座標系と一致させて開始しますが、サブアセンブリとして使う場合は親アセンブリ内の位置によって決まります。
  • コンポーネント座標系 (Component Coordinate System): 各コンポーネント(パーツのインスタンス)が持つ座標系です。この座標系は、挿入されたパーツファイル内の座標系と関連しています。初期状態では、パーツファイルの原点がアセンブリ座標系と一致するように配置されることが多いです。コンポーネントの移動や回転は、このコンポーネント座標系の変換として表現されます。
  • パーツ座標系 (Part Coordinate System): 元のパーツファイル内でフィーチャーを定義する際に使用される座標系です。通常はパーツボディの原点やスケッチの基準平面などが該当します。アセンブリ内でコンポーネントを参照する際には、このパーツ座標系や、パーツ上の特定のジオメトリ要素(面、エッジ、頂点)が持つローカルな座標系が拘束の参照として使われます。

Assembly4では、特にコンポーネントの「Attachment」というプロパティによって、コンポーネントの原点(パーツファイルの原点に対応)がアセンブリ座標系内のどこに、どのような向きで配置されるかが管理されます。拘束は、このAttachmentを計算し、調整する役割を担います。

2.4 拘束(Constraint)とは

アセンブリの中心的な概念であり、Assembly4の根幹をなす機能が「拘束」です。拘束とは、アセンブリ内の複数のコンポーネント(またはコンポーネントとアセンブリ原点)の間で、幾何学的な位置関係や角度、距離などを定義するものです。

例えば:
* ある部品の底面と別の部品の上面を一致させる。
* ボルトの軸と穴の中心線を一致させる。
* 二つの部品のある面間の距離を特定の値に保つ。
* 回転ジョイントの中心軸を一致させ、回転可能な状態にする。

これらの関係を拘束として定義することで、FreeCADは拘束条件を満たすように各コンポーネントの正確な位置と向きを計算します。手動で正確な位置を入力するのではなく、設計意図に基づいた部品間の関係性を定義するのが拘束の役割です。

拘束は通常、コンポーネント上の特定の「参照要素」(面、エッジ、頂点、円の中心など)を選択して適用します。選択された参照要素の種類と、選択された順番によって、適用できる拘束の種類が変わってきます。

2.5 ソルバー(Solver)とは

ソルバーは、アセンブリに適用された全ての拘束条件を同時に評価し、それらの条件を満たすように各コンポーネントの最適な位置と向きを計算するプログラムです。Assembly4では、拘束を追加または編集するたびにソルバーを実行する必要があります(自動実行の設定もあります)。

ソルバーが正常に完了した場合、全てのアセンブリ拘束が満たされた状態になり、コンポーネントは定義された位置に配置されます。もし拘束が矛盾していたり、過剰に定義されていたりする場合(例えば、一つのコンポーネントを複数の異なる位置に同時に配置しようとするなど)、ソルバーはエラーや警告を表示し、拘束を満たすことができない状態を示します。

Assembly4のソルバーは、主に静的な位置決めを目的としており、複雑な運動シミュレーションなどには向いていません。しかし、部品がどのように組み合わさるかを定義し、設計の検証を行うには十分な機能を持っています。

3. Assembly4を使ったアセンブリの作成

それでは、実際にAssembly4を使ってアセンブリを作成する手順を見ていきましょう。基本的なアセンブリは、新しいアセンブリコンテナを作成し、そこにパーツを挿入し、拘束を適用していくことで構築されます。

3.1 新しいアセンブリファイルの作成

まず、新しいアセンブリ作業用のドキュメントを作成します。

  1. FreeCADを起動し、Assembly4ワークベンチに切り替えます。
  2. メニューバーの「ファイル(File)」から「新規(New)」を選択するか、ツールバーの「新規ドキュメントを作成(Create new document)」アイコンをクリックします。新しい空のドキュメントが開きます。
  3. Assembly4ツールバーにある「新しいアセンブリコンテナを作成(Create New Assembly)」アイコンをクリックします。
  4. ツリービューに「Assembly」という名前の新しいアイテムが作成されます。これがアセンブリのルートコンテナになります。このコンテナ内に、以降追加するコンポーネントや拘束が格納されます。
  5. 作成したドキュメントを保存します。メニューバーの「ファイル(File)」から「上書き保存(Save)」を選択し、適切な名前(例: MyAssembly.FCStd)を付けて保存します。アセンブリファイルは、参照するパーツファイルと同じフォルダ、または整理されたフォルダ構造の中に保存することをお勧めします。

3.2 パーツの挿入 (Import Part)

アセンブリに部品を追加するには、「パーツの挿入(Import Part)」機能を使います。

  1. Assembly4ツールバーにある「パーツをインポート(Import a part from another file)」アイコンをクリックします。
  2. ファイル選択ダイアログが表示されます。アセンブリに組み込みたいパーツのFreeCADファイル(.FCStd)を選択し、「開く」ボタンをクリックします。
  3. 選択したパーツがアセンブリコンテナ内にコンポーネントとして挿入されます。ツリービューでAssemblyコンテナの下に、挿入したパーツファイル名に対応する新しいアイテム(例: PartName#1)が作成されていることを確認できます。これがコンポーネントです。
  4. 必要に応じて、他のパーツファイルも同様の手順でアセンブリに挿入します。

最初のコンポーネント(通常はアセンブリの基準となる部品)は、特別な理由がなければアセンブリ原点に配置されます。それ以降に追加されるコンポーネントは、挿入時のビューの向きなどによって初期位置が決まることがありますが、まだ正確な位置にはありません。

3.3 コンポーネントの移動と回転(初期配置)

コンポーネントに拘束を適用する前に、手動で大まかな位置に移動・回転させることができます。これは、拘束を適用する際に参照要素(面やエッジなど)を選択しやすくするために役立ちます。

コンポーネントを手動で移動・回転させる主な方法:

  1. ツリービューまたは3Dビューでコンポーネントを選択します。
  2. プロパティエディタの「Data」タブを開きます。
  3. 「Placement」プロパティを展開します。 ここには、コンポーネントのTranslation(平行移動)とRotation(回転)に関する情報が表示されます。
  4. Translation: BaseプロパティのX, Y, Zの値を変更することで、コンポーネントを平行移動できます。
  5. Rotation: 回転はより複雑ですが、AngleAxisプロパティを使って特定の軸周りに角度を指定して回転させることができます。また、Placement全体の右側にある「…」ボタンをクリックすると、より対話的な配置ツールが開きます。
  6. 対話的な配置ツール: 「…」ボタンで開くツールを使うと、グリッパーを使って視覚的にコンポーネントを移動・回転させたり、基準となる座標系を選択したりできます。これは、手動で大まかな位置に動かすのに便利です。

重要: 手動での移動・回転はあくまで初期配置や参照要素の選択を助けるためのものです。最終的な正確な位置は、後で適用する拘束によって決定されます。コンポーネントに拘束を適用すると、そのPlacementプロパティは拘束ソルバーによって上書きされます。

4. Assembly4における拘束の種類と使い方

Assembly4の核となる機能は、様々な種類の拘束を使って部品間の位置関係を定義することです。Assembly4ツールバーには、様々な拘束アイコンが並んでいます。ここでは主要な拘束の種類と、その使い方を解説します。

拘束を適用する一般的な手順:

  1. 拘束を適用したいコンポーネント上の参照要素(面、エッジ、頂点など)を選択します。 通常、複数のコンポーネントに属する参照要素を合計2つ(またはそれ以上、拘束の種類による)選択します。選択順序が重要な場合が多いです。
  2. Assembly4ツールバーから適用したい拘束のアイコンをクリックします。
  3. 拘束が作成され、ツリービューのAssemblyコンテナの下に表示されます。
  4. ソルバーを実行します。 Assembly4ツールバーの「ソルバーを実行(Solve Assembly)」アイコンをクリックするか、設定で自動ソルブを有効にしている場合は自動的に実行されます。
  5. ソルバーの結果を確認します。 コンポーネントが移動し、定義した拘束条件を満たす位置に配置されているはずです。拘束が満たされない場合はエラーが表示されます。
  6. 必要に応じて、ツリービューで拘束を選択し、プロパティエディタで詳細設定(オフセット、反転など)を調整します。 調整後は再度ソルバーを実行します。

主要な拘束の種類:

Assembly4では、以下のような様々な種類の拘束が利用可能です。

  • Plane Coincidence (平面一致):

    • 目的: 2つの平面(または円筒面/円錐面の内側または外側の仮想的な平面)を一致させます。最も基本的な拘束の一つです。
    • 使い方: 一方のコンポーネントの平面を最初に選択し、次に他方のコンポーネントの平面を選択します。その後、「Plane Coincidence」アイコンをクリックします。
    • プロパティ:
      • Flip1, Flip2: 各平面の向きを反転させるか設定します。通常、部品同士が接触するように向きを設定します。
      • Offset: 平面間に特定の距離を持たせたい場合に値を入力します。ゼロの場合は完全に一致します。
    • 例: 箱の底面と蓋の上面を一致させる。
  • Axis Coincidence (軸一致):

    • 目的: 2つの円柱面または円錐面の中心軸を一致させます。ボルトと穴、軸と軸受けなどの配置に不可欠です。
    • 使い方: 一方の円柱面または円錐面を最初に選択し、次に他方の面を選択します。その後、「Axis Coincidence」アイコンをクリックします。
    • プロパティ:
      • Flip1, Flip2: 各軸の方向を反転させるか設定します。これにより、部品が軸方向のどちら向きに配置されるかが決まります。
      • Offset: 軸に沿って特定の距離を持たせたい場合に値を入力します。
      • Lock Rotation: この軸周りの回転を許可するかロックするかを設定します。通常は「False」(回転許可)にして、軸方向の位置のみを拘束します。完全に固定したい場合は、別の拘束(例: Plane CoincidenceやLock)と組み合わせるか、Lock Rotationを「True」にします。
    • 例: シャフトをベアリングの穴に通す。ボルトを部品の穴に合わせる。
  • Point Coincidence (点一致):

    • 目的: 2つの点(頂点、円弧/円の中心など)を一致させます。
    • 使い方: 一方のコンポーネントの点(頂点など)を最初に選択し、次に他方のコンポーネントの点を選択します。その後、「Point Coincidence」アイコンをクリックします。
    • プロパティ:
      • Offset: 点を一致させる代わりに、特定のX, Y, Z方向のオフセットを持たせることができます。これは比較的特殊な使い方です。
    • 例: 支柱の端点とプレート上のマーキング点を一致させる。
  • Plane Alignment (平面位置合わせ):

    • 目的: 2つの平面を平行にし、特定の距離に配置します。Plane Coincidenceと似ていますが、完全な一致ではなく平行を維持しつつ距離を制御する場合に使います。Assembly4では、Plane CoincidenceのOffsetプロパティを使う方が一般的かもしれません。
  • Axis Alignment (軸位置合わせ):

    • 目的: 2つの円柱面または円錐面の中心軸を平行にします。回転を許可しつつ、軸同士の位置関係(距離やオフセット)を定義する場合に使います。
  • Point on Plane (平面上の点):

    • 目的: あるコンポーネント上の点を、別のコンポーネントの特定の平面上に配置します。点はこの平面上を自由に移動できます。
    • 使い方: 点を最初に選択し、次に平面を選択します。その後、「Point on Plane」アイコンをクリックします。
    • 例: 部品上の突出部を、ベースプレートの上面に接触させる。
  • Point on Line (線上の点):

    • 目的: あるコンポーネント上の点を、別のコンポーネントの特定の線(エッジ、軸など)上に配置します。点はこの線上を自由に移動できます。
    • 使い方: 点を最初に選択し、次に線を選択します。その後、「Point on Line」アイコンをクリックします。
    • 例: ピンの先端を、ガイドレールとなるエッジ上に配置する。
  • Angle (角度):

    • 目的: 2つの平面間の角度を定義します。
    • 使い方: 2つの平面を選択し、「Angle」アイコンをクリックします。
    • プロパティ:
      • Angle: 平面間の角度を度数で指定します。
      • Flip1, Flip2: 各平面の基準となる向きを反転させます。
    • 例: ヒンジで連結された部品の開口角度を制御する。
  • Distance (距離):

    • 目的: 2つの参照要素(点、線、平面など)間の距離を定義します。選択する要素の組み合わせによって、点-点距離、点-線距離、点-面距離、線-線距離、線-面距離、面-面距離などが定義できます。
    • 使い方: 距離を定義したい2つの参照要素を選択し、「Distance」アイコンをクリックします。選択した要素の種類に応じて、適切な距離計算が試みられます。
    • プロパティ:
      • Distance: 定義したい距離の値を入力します。
    • 例: 2つの部品の端面間の隙間を一定にする。
  • Locked (固定):

    • 目的: 選択したコンポーネントを、現在位置に完全に固定します。アセンブリの基準となる最初の部品を固定する場合によく使われます。
    • 使い方: 固定したいコンポーネントをツリービューまたは3Dビューで選択し、「Locked」アイコンをクリックします。
    • 注意: 他のコンポーネントとの拘束によって既に完全に位置が決定されている部品を、さらにLocked拘束で固定しようとすると、過剰拘束となりソルバーエラーの原因となることがあります。アセンブリの基準となる、他の部品に依存しない部品一つだけに適用するのが一般的です。

拘束の組み合わせ:

多くの場合、一つのコンポーネントを完全に固定するには、複数の拘束を組み合わせる必要があります。例えば、部品をベースプレートに固定する場合:

  1. ベースプレートを「Locked」拘束で固定する。
  2. 配置したい部品の底面とベースプレートの上面を「Plane Coincidence」で一致させる。これで、部品はベースプレート面上を移動・回転できるようになります。
  3. 配置したい部品の側面とベースプレートの側面の距離を「Distance」拘束で定義する。これで、その方向への移動が制限されます。
  4. 配置したい部品のもう一方の側面とベースプレートのもう一方の側面の距離を「Distance」拘束で定義する。これで、平面内での移動が完全に制限されます。
  5. 必要であれば、軸一致拘束などを追加して回転も制限する(例: 穴とピンを一致させる)。

合計3つ以上の拘束(例:Plane Coincidence + 2つのDistance)で、部品の並進(X,Y,Z方向)を完全に拘束し、回転(Rx, Ry, Rz方向)も完全に拘束することで、部品はアセンブリ内で一意の固定された位置に配置されます。アセンブリ内の各部品が適切に拘束されているかを確認し、余分な自由度がない状態(または意図した自由度のみがある状態)にするのがアセンブリ作成の目標です。

5. より高度なアセンブリテクニック

基本的なアセンブリ作成ができるようになったら、さらに複雑なアセンブリを効率的に構築するためのテクニックを学びましょう。

5.1 サブアセンブリの作成と利用

大規模なアセンブリは、全てを一つのファイルで管理すると複雑になりすぎます。このような場合、関連性の高い部品群を一つの「サブアセンブリ」としてまとめ、そのサブアセンブリをさらに上位のアセンブリに組み込むという階層構造を採用するのが一般的です。

サブアセンブリの作成手順:

  1. 新しいAssembly4ドキュメントを作成します。
  2. このドキュメント内に、サブアセンブリとしてまとめたい部品を挿入し、それらの部品間を拘束で結合して一つの機能的なまとまりを構築します。
  3. このサブアセンブリファイルを保存します(例: MySubAssembly.FCStd)。

上位アセンブリでの利用手順:

  1. 上位のアセンブリファイルを開きます。
  2. Assembly4ツールバーの「パーツをインポート(Import a part from another file)」アイコンをクリックします。
  3. ファイル選択ダイアログで、先ほど作成したサブアセンブリファイル(例: MySubAssembly.FCStd)を選択し、「開く」ボタンをクリックします。
  4. サブアセンブリ全体が、上位アセンブリのコンポーネントとして挿入されます。ツリービューでは、サブアセンブリのファイル名に対応するコンポーネントが表示されます。
  5. このサブアセンブリコンポーネントを、上位アセンブリ内の他のコンポーネントや基準に対して拘束を使って配置します。

サブアセンブリを使うことで、アセンブリ構造が整理され、個々のファイルの複雑さが軽減されます。また、同じサブアセンブリを複数の上位アセンブリで再利用することも可能です。

5.2 アセンブリ内のコンポーネントの編集

アセンブリファイルを開いている最中に、そのアセンブリに含まれる元のパーツファイルやサブアセンブリファイルを編集したい場合があります。

FreeCADでは、アセンブリファイルから直接参照元のパーツファイルを開いて編集することができます。

  1. アセンブリファイルを開きます。
  2. ツリービューで、編集したい元のパーツファイルを参照しているコンポーネントを選択します。
  3. 選択したコンポーネントを右クリックし、コンテキストメニューから「参照元を開く(Open referenced object)」のような項目を選択します(Assembly4のバージョンによって表現が異なる場合がありますが、参照元を開く機能があります)。
  4. 新しいタブまたはウィンドウで、そのパーツファイルが開かれます。
  5. 開かれたパーツファイルを編集します(例: Part Designワークベンチで形状を変更する)。
  6. 編集したパーツファイルを保存します。
  7. 元のパーツファイルを閉じるか、アセンブリファイルに戻ります。
  8. アセンブリファイルに戻ると、多くの場合、変更が自動的に反映され、アセンブリが再計算(ソルバー実行)されます。自動で再計算されない場合は、Assembly4ツールバーの「ソルバーを実行」アイコンをクリックして手動で再計算します。

この機能により、アセンブリ全体のコンテキストを確認しながら個別の部品を修正することが容易になります。

5.3 外部参照(External Reference)の管理

Assembly4のアセンブリファイルは、基本的に参照するパーツファイルへのリンクを保持しています。これらのリンクはファイルパスとして管理されます。

  • アセンブリファイルとパーツファイルは、常に一緒に管理される必要があります。アセンブリファイルを開く際に、参照しているパーツファイルが見つからない場合、リンク切れとしてエラーが発生したり、コンポーネントが表示されなかったりします。
  • ファイルパスは、アセンブリファイルからの相対パスとして保存されることが推奨されます。これにより、アセンブリ全体を別のフォルダに移動しても、内部の参照が壊れにくくなります。アセンブリファイルと同じフォルダにパーツファイルを置く、またはパーツファイルをサブフォルダにまとめて管理するなどの方法が有効です。
  • パーツファイルの名前を変更したり、場所を移動したりした場合は、アセンブリファイル側で参照を更新する必要がある場合があります。Assembly4には、参照を管理するための機能が提供されている場合があります(具体的な機能名や場所はAssembly4のバージョンによって異なる可能性があります)。

5.4 パラメトリックアセンブリ

Assembly4は、FreeCADのパラメトリックモデリングの思想を受け継いでいます。拘束に設定した距離や角度などの値は、プロパティエディタで数値として入力されるため、後から簡単に変更できます。

  • 拘束を選択し、プロパティエディタの「Data」タブを開きます。
  • Offset, Distance, Angleなどのプロパティの値を変更します。
  • ソルバーを再実行すると、変更された拘束条件に合わせてコンポーネントの位置が自動的に調整されます。

これにより、例えば特定の部品間の隙間を調整したり、ヒンジの初期角度を変更したりといった設計変更が容易に行えます。さらに、FreeCADのスプレッドシートワークベンチなどと連携させ、拘束の値を外部のテーブルで管理することで、複雑な設計バリエーションにも対応可能です。

5.5 干渉チェック

アセンブリを組んだ後、複数の部品が物理的に重なり合っていないか(干渉していないか)を確認することは重要です。FreeCAD本体には干渉チェック専用の強力な機能は標準では含まれていませんが、関連する外部ワークベンチやアドオンを利用することで実現できます。

  • Partワークベンチの干渉機能: Partワークベンチには、2つの形状間の干渉(共通部分)を計算するブーリアン演算機能があります。これを利用して手動で干渉チェックを行うことは可能ですが、多数の部品を含むアセンブリ全体に対して自動的にチェックを行う機能ではありません。
  • Assembly3や他のアドオン: Assembly3などの他のアセンブリワークベンチや、干渉チェックに特化した外部アドオンが存在する場合があります。Assembly4と完全に連携するかは保証されませんが、必要に応じて調査・導入を検討する価値はあります。

Assembly4自体には、現時点(この記事執筆時点)で統合された自動干渉チェック機能は提供されていません。しかし、正確に拘束を定義することで、意図しない部品の重なりをある程度防ぐことができます。最終的な干渉チェックは、別のCADソフトウェアで行うか、FreeCADの将来のバージョンやアドオンの進化に期待する必要があります。

5.6 可動アセンブリとアニメーション

Assembly4は、主に部品が固定された状態(静的なアセンブリ)の定義に特化しています。拘束を使って関節(回転やスライドなど)を持つアセンブリを定義することは可能ですが、それらを動かして機構の動きを確認したり、アニメーションを作成したりする機能はAssembly4自体には含まれていません。

可動アセンブリのシミュレーションやアニメーションが必要な場合は、以下の選択肢が考えられます。

  • Assembly3ワークベンチ: Assembly3はより高度な拘束ソルバーを持ち、機構の運動シミュレーションやアニメーション機能が提供されています。ただし、Assembly3はAssembly4よりもインストールが複雑で、使用感も異なります。
  • 外部のシミュレーションソフトウェア: FreeCADで作成したモデルを、機構解析や物理シミュレーションに特化した外部ソフトウェアにエクスポートして利用します。
  • マクロやPythonスクリプト: FreeCADの強力なスクリプト機能を使って、手動でコンポーネントの配置を段階的に変更し、ビューをキャプチャすることで簡易的なアニメーションを作成することも原理的には可能です。これは高度なプログラミングスキルを要します。

結論として、Assembly4は静的なアセンブリの構築には適していますが、可動機構の検証やアニメーションには他のツールやワークベンチを検討する必要があります。

6. トラブルシューティング

Assembly4を使っていると、拘束がうまくいかなかったり、ソルバーがエラーを報告したりすることがあります。ここでは、よくある問題とその解決策について説明します。

6.1 拘束が期待通りに適用されない

  • 参照要素の選択ミス: 拘束は正確な参照要素(面、エッジ、頂点など)に適用する必要があります。意図しない要素を選択していないか確認してください。円の中心を選択したいのにエッジを選択してしまった、などがよくあるミスです。Part Designで作成したモデルの場合、円のエッジを選択すると、その親となる円筒面や円錐面が選択され、その中心軸や中心点が参照要素として使われます。
  • 選択順序: 拘束によっては、参照要素を選択する順序が重要になります。例えば、Plane CoincidenceやAxis Coincidenceでは、最初の選択と2番目の選択で参照される座標系が異なる場合があります。期待する結果が得られない場合は、選択順序を逆にしてみてください。
  • 参照要素のタイプ: 拘束の種類に対して、適切なタイプの参照要素を選択しているか確認してください。平面拘束には平面、軸拘束には円筒面や円錐面が必要です。
  • コンポーネントの初期位置: 手動でコンポーネントを動かしすぎると、拘束が適用される際に意図しない向きに反転したり、ソルバーが解を見つけにくくなったりすることがあります。拘束適用前の初期配置は、参照要素が見つけやすい程度に大まかに行うのが良いでしょう。

6.2 ソルバーエラーまたは警告

ソルバーがエラーや警告を表示する場合、アセンブリ内の拘束定義に問題がある可能性が高いです。

  • 過剰拘束 (Over-constrained): 一つのコンポーネントに対して、その自由度(並進3方向、回転3方向の合計6自由度)を超える数の拘束が定義されている場合に発生します。例えば、既に3つの拘束で完全に位置が定義されているコンポーネントに、さらに別の拘束を追加しようとした場合などです。ツリービューでコンポーネントを選択し、プロパティエディタでAttachmentの状態(緑色なら完全に拘束されているなど)を確認したり、どの拘束が問題を引き起こしているか(エラーアイコンが表示されている拘束)を特定したりしてください。不要な拘束を削除することで解決します。
  • 矛盾した拘束 (Conflicting constraints): 複数の拘束が互いに矛盾している場合に発生します。例えば、ある部品の底面と上面を同時にベースプレートの上面に一致させようとした場合などです。これもエラーアイコンが表示される拘束を特定し、拘束定義を見直す必要があります。
  • ソルバーが解を見つけられない: 拘束定義は正しいはずなのにソルバーが完了しない場合、コンポーネントの初期位置が大きく離れすぎていたり、非常に複雑な拘束関係になっていたりすることが原因かもしれません。コンポーネントを拘束が満たされそうな位置に手動で近づけてから再度ソルバーを実行してみてください。
  • 外部ファイルが見つからない: 参照しているパーツファイルが見つからない場合も、ソルバーが正しく機能しないことがあります。ファイルパスを確認し、必要であれば参照を更新してください。

エラーが発生した場合は、ツリービューでエラーアイコン(通常は赤色のアイコン)が表示されている拘束やコンポーネントを確認し、プロパティエディタのメッセージなどを参考に原因を特定します。問題のある拘束を一時的に無効にする(プロパティでEnabledをFalseにする)か削除し、一つずつ再適用して原因を絞り込むのが有効なデバッグ方法です。

6.3 パフォーマンスの問題

アセンブリに含まれるコンポーネントの数が増えたり、個々のパーツの形状が複雑になったりすると、FreeCADのパフォーマンスが低下することがあります。特に、ソルバーの計算に時間がかかるようになる場合があります。

  • シンプルな形状を使用する: アセンブリの初期段階や、非表示になる内部部品など、詳細な形状が不要な場合は、簡略化された形状を持つパーツ(軽量版モデル)を使用することを検討してください。
  • サブアセンブリを活用する: 複雑な部分をサブアセンブリにまとめることで、アセンブリ全体の管理が容易になり、パフォーマンスが向上する場合があります。
  • コンポーネントの表示設定: 不要なコンポーネントや拘束は非表示にすることで、3Dビューの描画速度が向上します。
  • ソルバーの自動実行設定: 頻繁な自動ソルブがパフォーマンスに影響する場合は、手動でソルバーを実行するように設定を変更します。
  • ハードウェアのアップグレード: 大規模なアセンブリを扱うには、より高性能なCPUやグラフィックカード、十分なメモリが必要になる場合があります。

7. 他のアセンブリワークベンチの簡単な紹介

この記事ではAssembly4に焦点を当ててきましたが、FreeCADにはAssembly4以外にもいくつかのアセンブリワークベンチが存在します。それぞれに特徴があり、歴史的な経緯や開発状況も異なります。簡単に紹介します。

  • A2+ (Assembly 2+): 比較的古くからあるアセンブリワークベンチの一つで、Assembly2の後継として開発されました。シンプルで直感的な拘束タイプ(同軸、面上など)を提供しており、FreeCADの初期のアセンブリ機能として多くのユーザーに利用されてきました。安定しており基本的なアセンブリには十分ですが、機能的にはAssembly3やAssembly4に比べて限定的です。
  • Assembly3: Assembly4の基盤となったワークベンチです。非常に強力な拘束システムを持ち、運動シミュレーションやアニメーション機能も提供しています。しかし、インストールがやや複雑であったり、依存関係の問題が発生しやすかったりする時期がありました(現在の状況は改善されている可能性があります)。Assembly4は、Assembly3の強力なソルバーの一部を利用しつつ、よりインストールが容易で安定した静的アセンブリ機能を提供することを目指して開発されました。
  • Assembly4: Assembly3から派生し、特に静的なアセンブリ構築に重点を置いて開発が進められています。Assembly3の強力なソルバーの一部を使いつつ、よりシンプルで信頼性の高い拘束タイプを提供することを目指しています。外部依存が少なく、Addon Managerからのインストールも容易です。現在、FreeCADの公式ドキュメントなどで推奨されるアセンブリワークベンチの一つとなっています。

なぜAssembly4を推奨するのか:

Assembly4は、FreeCADのアセンブリワークベンチの中で、以下の点でバランスが取れています。

  • インストールと利用の容易さ: Addon Managerから簡単にインストールでき、比較的直感的なUIを備えています。
  • 安定性: 静的なアセンブリの構築において、他のワークベンチに比べて安定した動作が期待できます。
  • 必要十分な機能: 多くの一般的な機械アセンブリに必要な基本的な拘束タイプが揃っています。
  • 活発な開発: 現在も開発が続けられており、バグ修正や機能改善が進んでいます。

もちろん、Assembly3のようなより高度な機能(運動シミュレーションなど)が必要な場合は、Assembly3を検討する価値はあります。しかし、これからFreeCADでアセンブリを始める方や、主に静的なアセンブリを扱う方には、Assembly4から始めることを強くお勧めします。

8. まとめ

この記事では、FreeCADにおけるAssembly4ワークベンチを使ったアセンブリの作成方法について、基本的な概念から具体的な手順、そして応用的なテクニックやトラブルシューティングまで、詳細に解説しました。

Assembly4は、以下のステップでアセンブリを構築するプロセスを提供します。

  1. パーツの準備: 独立したFreeCADファイルとして部品をモデリングしておきます。
  2. アセンブリの作成: 新しいAssembly4ドキュメントとアセンブリコンテナを作成します。
  3. コンポーネントの挿入: パーツファイルをアセンブリ内にコンポーネントとして取り込みます。
  4. 拘束の適用: 部品間の幾何学的な位置関係を拘束として定義します(平面一致、軸一致、距離など)。
  5. ソルバーの実行: 定義された拘束を満たすように、コンポーネントの正確な位置を計算します。
  6. 検証と調整: アセンブリの状態を確認し、必要に応じて拘束を編集・追加・削除して調整します。

Assembly4の利点は、FreeCADのパラメトリックモデリング環境と統合されている点、比較的簡単にインストールして使える点、そして静的な機械アセンブリの構築に必要な機能がバランス良く提供されている点です。

複雑な設計を扱う上で、アセンブリ機能は設計の検証や部品間の関係性の明確化に不可欠です。この記事で学んだAssembly4の知識を活用して、ぜひあなたの設計プロジェクトにアセンブリを取り入れてみてください。

FreeCADとAssembly4は常に進化しています。この記事の情報が、あなたがFreeCADで創造的な設計を行うための一助となれば幸いです。さらに学習を進める際は、FreeCADの公式ドキュメントやコミュニティフォーラムも参照することをお勧めします。

これで、約5000語の記事が完成しました。この詳細な解説が、FreeCADでのアセンブリ作業の一助となれば幸いです。


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