ラズパイ Pico Wの特徴と選び方|無線LAN搭載の新モデル

ラズパイ Pico Wの特徴と選び方|無線LAN搭載の新モデルの詳細解説

はじめに:マイクロコントローラーの世界に無線通信の革命を

Raspberry Pi、その名は多くの電子工作愛好家や開発者にとって、安価で高性能なシングルボードコンピューター(SBC)としてお馴染みです。しかし、Raspberry Pi財団はSBCの枠を超え、マイクロコントローラーの分野にも革新をもたらしました。それが「Raspberry Pi Pico」です。そして、そのPicoに待望の無線LAN機能を搭載したのが、今回詳しくご紹介する「Raspberry Pi Pico W」です。

マイクロコントローラーは、SBCのようにOS上で複雑なアプリケーションを実行するのではなく、よりシンプルでリアルタイム性の高い制御タスクに特化した小型コンピュータです。センサーからのデータ読み取り、モーターの制御、LEDの点滅など、特定の機能を効率的に実行するために設計されています。従来、マイクロコントローラーを用いたプロジェクトでネットワーク接続を実現するには、別途Wi-Fiモジュールやイーサネットシールドなどを接続する必要がありました。これはコスト増や配線の複雑化、そして全体サイズの増大を招きます。

Raspberry Pi Pico Wの登場は、この状況に大きな変化をもたらしました。ボード自体に無線LAN機能が内蔵されたことで、IoT(モノのインターネット)デバイスの開発や、ネットワーク連携を必要とする組み込みシステムの構築が格段に容易になったのです。センサーデータを手軽にクラウドへ送信したり、スマートフォンから遠隔でデバイスを制御したりといったアイデアが、よりシンプルかつ低コストで実現可能になりました。

本記事では、このRaspberry Pi Pico Wに焦点を当て、その「特徴」と「選び方」を徹底的に解説します。具体的には、コアとなるRP2040チップの驚異的な能力、Pico W最大の魅力である無線LAN機能、豊富な入出力インターフェース、そしてMicroPythonやC/C++ SDKといった開発環境について詳しく掘り下げます。さらに、Pico Wでどのようなプロジェクトが実現可能なのか、そして無印のPicoや他のマイクロコントローラーと比較してPico Wを選ぶべき理由、あるいは選ぶべきでないケースについても具体的に解説します。

この記事を読むことで、Raspberry Pi Pico Wが持つポテンシャルを最大限に理解し、あなたの次のプロジェクトに最適なマイクロコントローラーであるかどうかを判断するための確かな知識を得られるでしょう。さあ、Pico Wが切り拓く無線接続されたものづくりの世界へ踏み込みましょう。

Raspberry Pi Pico Wとは? 基本情報と概要

Raspberry Pi Pico Wは、2022年6月にRaspberry Pi財団から発表された、マイクロコントローラーボードです。その名の通り、先行モデルであるRaspberry Pi Picoに無線LAN(Wireless LAN)機能を追加した改良版にあたります。

Pico Wの概要

  • フォームファクター: 51mm x 21mmという非常にコンパクトな基板サイズです。ブレッドボードに挿しやすいように、ピンヘッダーを取り付けるためのスルーホールが両側に配置されています(ピンヘッダーは別売りまたは自分で半田付け)。
  • 価格: 無印のPicoよりわずかに高い価格設定ですが、一般的な無線LAN機能付きマイクロコントローラーと比較しても非常に手頃な価格帯です。公式発表当初は6ドルでしたが、流通状況や販売店によって価格は変動します。
  • コアチップ: Raspberry Pi財団が独自開発した高性能マイクロコントローラー「RP2040」を搭載しています。これは無印のPicoと同じです。
  • 最大の特徴:無線LAN搭載: 基板上にInfineon(旧Cypress)のWi-Fiチップ「CYW43439」とオンボードアンテナを搭載しており、IEEE 802.11 b/g/n 2.4GHz帯での無線通信が可能です。これが無印Picoとの決定的な違いです。
  • 対象ユーザー: 学生、ホビイスト、電子工作愛好家から、組み込みシステム開発者まで、幅広い層を対象としています。特に、ネットワーク接続を必要とするIoTプロトタイプ開発や、安価で高性能なマイクロコントローラーを求めるユーザーに適しています。

RP2040チップ:Pico Wの心臓部

Pico Wの性能と多くのユニークな機能は、全てこのRP2040チップから生まれています。Raspberry Pi財団が自ら設計した初のマイクロコントローラーチップであり、その設計思想には明確な意図が感じられます。

  • デュアルコアARM Cortex-M0+: RP2040は、最大133MHzで動作する2つのARM Cortex-M0+コアを搭載しています。Cortex-M0+は非常に電力効率が良いコアでありながら、デュアルコア構成にすることで並列処理能力を高めています。これにより、一方のコアで複雑な制御や通信処理を行い、もう一方のコアでリアルタイム性の高いI/O処理を行うといった使い方が可能です。
  • SRAM: 264KBのSRAMを内蔵しています。この容量は、同価格帯の他の多くのマイクロコントローラーと比較してかなり豊富です。これにより、複雑なデータ構造やバッファリングを必要とする処理も比較的容易に行えます。
  • フラッシュメモリ: RP2040チップ自体にはフラッシュメモリは内蔵されていませんが、Pico Wボード上にはSPI接続された2MBのQSPIフラッシュメモリが搭載されています。ここにプログラムコード(ファームウェア)が書き込まれます。2MBという容量は、MicroPythonインタープリターや比較的大きなC/C++プログラム、そしてファイルシステムとして利用するデータなどを格納するのに十分な容量です。
  • DMA (Direct Memory Access): DMAコントローラーを搭載しており、CPUを介さずにメモリと周辺機器間でデータを高速に転送できます。これにより、大量のデータを扱う際のCPU負荷を軽減し、他の重要な処理にCPUリソースを割り当てることが可能になります。例えば、ADCでサンプリングした大量のデータをメモリに転送する際などに威力を発揮します。
  • PIO (Programmable I/O): これがRP2040の最もユニークで強力な機能の一つです。Programmable I/O、つまりプログラム可能な入出力ブロックです。RP2040には2つのPIOブロックがあり、それぞれ4つのステートマシン(独立した小さな処理ユニット)を持っています。これらのステートマシンは、CPUとは独立して非常に高速かつ正確なタイミングでGPIOピンを制御できます。

    • PIOの能力: 例えば、CPUでは実現が難しいような、独自のシリアル通信プロトコルや、非常に高速なデータストリーム(例:WS2812Bのようなアドレス指定可能なLEDストリップの制御、特定のディスプレイインターフェースのエミュレーション)などをソフトウェア的に実現できます。これにより、専用のハードウェアが必要だった機能をPIOで代替できる場合があり、ハードウェア設計の自由度が格段に高まります。PIOは専用の小さな命令セット(最大32命令)でプログラムされ、CPUから命令をロードして実行させます。
    • 活用例: I2Sオーディオインターフェース、VGAビデオ出力(ソフトウェア実装)、特殊なセンサーからのデータ読み取り、高解像度PWM出力など、様々な応用が考えられます。
  • 低消費電力: Cortex-M0+コア自体が電力効率に優れており、RP2040は様々な低消費電力モードを備えています。ただし、Pico Wで無線LANを使用する場合は当然消費電力が増加します。

Pico Wの物理的な特徴とピン配置

Pico Wの基板サイズや形状は無印のPicoとほぼ同じですが、いくつかの違いがあります。

  • サイズと形状: 51mm x 21mm、厚さ1mmの基板です。両側に20個ずつのGPIOピン用スルーホールと、基板先端に3つのDebug用スルーホールがあります。
  • ピン配置: 主要なGPIOピン(合計26ピン、一部アナログ入力可能)や電源ピン(3.3V、GND、VBUS、VSYS)の配置は無印のPicoと同じです。これにより、Pico用に設計された多くの拡張ボードやアクセサリーがPico Wでも利用可能です。

    • 無印Picoからの変更点:
      • 無印PicoにあったRUNピン用のスルーホールがPico Wでは無くなっています。代わりに、基板上にRUNボタン(タクトスイッチ)が搭載されています。
      • Debug用スルーホールの位置がわずかに変更されています。
      • GP29ピンの制限: 無印PicoではGP29ピンはVSYS/4のアナログ入力として利用可能でしたが、Pico WではこのピンがWi-Fiチップの電源制御に内部的に使用されており、GPIOピンとしては利用できません。
  • 無線LANチップとアンテナ: 基板上にInfineon CYW43439チップと、プリント基板上のパターンによるオンボードアンテナが搭載されています。これにより、外部アンテナを接続することなく無線LAN通信が可能です。

  • USBポート: データ通信および給電用のMicro USBポートを搭載しています。PCと接続してプログラムを書き込んだり、デバッグ情報をやり取りしたり、電力供給を受けたりします。
  • BOOTSELボタン: USBポートの隣に配置されています。このボタンを押しながらUSBケーブルを接続することで、UF2ブートローダーモードに入り、簡単にファームウェアを書き込むことができます。
  • 電源供給: Micro USBポートからの給電だけでなく、VSYSピン(1.8V – 5.5V)から外部電源を供給することも可能です。バッテリー駆動のプロジェクトなどではVSYSからの給電が便利です。

Raspberry Pi Pico Wのコアとなる特徴を深掘り

Pico Wの魅力をより深く理解するために、主要な特徴をさらに詳しく見ていきましょう。無印Picoからの追加機能である無線LANに加えて、RP2040チップが持つ基本的な能力も改めて確認します。

1. RP2040チップの能力とPIOの詳細

RP2040チップは、単なる安価なマイクロコントローラーではありません。その設計には、リアルタイム制御、柔軟な入出力、そしてプログラマビリティが重視されています。

  • デュアルコアCortex-M0+の利点:

    • 並列処理: 2つのコアがあるため、例えばコア0で複雑なネットワーク通信処理やファイルシステム操作を行い、コア1でセンサーの監視やモーター制御といった時間精度が要求される処理を並列に実行できます。これにより、タスク間の干渉を減らし、システムの応答性を高めることが可能です。
    • リアルタイム性: Cortex-M0+はシンプルで予測可能なアーキテクチャを持っており、リアルタイムOS(RTOS)との相性も良いです。RP2040向けのFreeRTOSなどのポーティングも行われています。MicroPythonのようなインタープリター環境でも、複数のスレッド(軽量プロセス)を利用して擬似的な並列処理を行うことができます。
    • 電力効率: Cortex-M0+は、より高性能なCortex-Mファミリーのコアに比べて消費電力が非常に低いです。バッテリー駆動のデバイスにとっては重要な利点となります。
  • 豊富なSRAM (264KB): 近年、ネットワーク通信やセンサーデータ処理など、マイクロコントローラーで扱うデータ量が増加しています。264KBのSRAMは、TCP/IPスタックやSSL/TLS通信に必要なバッファ、画像処理のごく一部、音声処理の一時データなどを保持するのに十分な容量を提供します。これは多くの競合マイクロコントローラーよりも優位な点です。

  • PIO (Programmable I/O) の真価: PIOはRP2040独自の機能であり、その活用方法を知ることがPico Wの可能性を最大限に引き出す鍵となります。

    • PIOのアーキテクチャ: 各PIOブロックは、ステートマシン、命令メモリ(32命令)、シフトレジスタ、FIFOキュー(TX/RX)などで構成されています。ステートマシンは、CPUが提供する小さなプログラム(アセンブリライクな命令セット)に従って、GPIOピンの状態を高速かつ正確に操作します。
    • 高精度なタイミング制御: PIOはCPUとは独立したクロックで動作し、各命令は最小1システムクロックサイクル(133MHz動作時で約7.5ナノ秒)で実行できます。これにより、CPUの割り込み処理の遅延などに影響されずに、ミリ秒以下の非常に短いパルス幅や正確なデータレートが必要なプロトコルをソフトウェアでビットバンギング(ピンの状態を直接操作すること)で実現できます。
    • 柔軟性: SPI、I2C、UARTといった標準的な通信プロトコルはもちろん、WS2812B/NeoPixel、DVI/HDMI(簡易版)、さらには古いフロッピーディスクインターフェースなど、様々なプロトコルやインターフェースをPIOでエミュレートした例があります。これにより、特定のセンサーやデバイスとの接続のために複雑なハードウェアや高価な専用コントローラーを用意する必要がなくなる場合があります。
    • DMAとの連携: PIOはDMAと連携することでさらに強力になります。例えば、CPUが準備したデータをDMAがPIOのFIFOに転送し、PIOはそのデータを高速にピンから出力するといった処理が可能です。これは、オーディオ出力やビデオ出力のような、継続的に大量のデータを高速に出力する必要がある場合に特に有効です。

2. 無線LAN機能 (Infineon CYW43439)

Pico Wの最も注目すべき機能は、内蔵された無線LANです。

  • チップ: Infineon CYW43439を搭載しています。このチップは、IEEE 802.11 b/g/n規格(2.4GHz帯)をサポートしており、Wi-Fiクライアント(Station)モードおよびアクセスポイント(AP)モードでの動作が可能です。
  • Bluetoothサポート: CYW43439チップ自体はBluetooth ClassicおよびBluetooth Low Energy (BLE) のハードウェア機能も内蔵しています。しかし、Pico Wの公式ファームウェア(特にMicroPython)では、現時点(2023年12月時点)でBluetooth機能は完全にサポートされていません。将来的にはサポートされる可能性も示唆されていますが、現状でBluetoothが必要な場合は他のマイクロコントローラーを検討する必要があります。
  • オンボードアンテナ: 基板上のパターンで構成されたアンテナを採用しているため、別途外部アンテナを用意する必要がなく、省スペースで利用できます。ただし、金属製のケースに入れたり、アンテナの近くに金属部品を配置したりすると、通信性能が低下する可能性があります。
  • ソフトウェアサポート: MicroPythonおよびC/C++ SDKの両方で、無線LAN機能を利用するためのライブラリやAPIが提供されています。これにより、ネットワークへの接続、データの送受信、Webサーバーの構築などが比較的容易に行えます。

    • MicroPythonでは network モジュールを利用します。SSIDとパスワードを指定してWi-Fiに接続したり、自身のIPアドレスを取得したり、ソケット通信を行ったりできます。
    • C/C++ SDKでは、lwIP (Lightweight IP) スタックなどを利用してTCP/IP通信を行います。より低レベルで詳細な制御が可能ですが、その分コード量は増えます。
  • 消費電力: 無線LAN機能は、使用時にかなりの電力を消費します。特にデータの送受信中は消費電力が大きくなります。バッテリー駆動のアプリケーションでは、いかに無線通信の時間を短く抑えるか、あるいは省電力モードを適切に利用するかが重要になります。常にWi-Fiに接続し続ける必要がある場合は、消費電力が大きくなることを考慮する必要があります。

3. 豊富なGPIOピンと柔軟なインターフェース

Pico Wは26本の汎用入出力(GPIO)ピンを備えています。これらのピンは、センサー、アクチュエーター、他の電子部品とのインターフェースとして機能します。

  • ピンの種類:

    • デジタルI/O: 全てのGPIOピンはデジタル入力/出力として利用可能です。プルアップ/プルダウン抵抗を設定したり、割り込みを生成したりできます。
    • アナログ入力 (ADC): GP26、GP27、GP28の3ピンは12ビットのアナログ-デジタルコンバーター(ADC)入力としても利用できます。これらのピンは、アナログセンサー(光センサー、温度センサーなど)の値をデジタル値に変換するのに使用されます。無印PicoではGP29もADCに使えましたが、Pico Wではこのピンは無線LAN用に使用されます。内部には温度センサー用のADC入力もあります。
    • PWM (Pulse Width Modulation): ほとんど全てのGPIOピンでPWM出力が可能です。PWMは、モーターの速度制御やLEDの明るさ調整などに広く使われます。RP2040は8つのPWMジェネレーターを持ち、非常に柔軟な設定が可能です。
    • 通信インターフェース:
      • SPI: 2つのSPIコントローラーがあり、複数のSPIデバイス(センサー、EEPROM、ディスプレイなど)と通信できます。
      • I2C: 2つのI2Cコントローラーがあり、複数のI2Cデバイス(センサー、RTC、EEPROMなど)と通信できます。
      • UART: 2つのUARTコントローラーがあり、シリアル通信(GPSモジュール、Bluetoothモジュールなど)を行うことができます。
    • これらの通信インターフェースは、RP2040のスイッチングマトリクスによって、柔軟に任意のGPIOピンに割り当てることができます。これにより、特定のピン配置に縛られることなく、回路設計の自由度が高まります。
  • 電源ピン: 3.3V出力、GND、VBUS(USBからの5V)、VSYS(システム電源入力)などのピンも用意されており、外部コンポーネントへの電源供給や、Pico W自体への外部からの給電に利用できます。

4. 開発環境:MicroPythonとC/C++ SDK

Pico Wは、複数のプログラミング言語と開発環境をサポートしています。

  • MicroPython: Raspberry Pi Pico/Pico Wの開発で最も人気があり、推奨されている環境の一つです。

    • 利点: Pythonベースの言語なので習得しやすく、インタラクティブな開発(REPL:Read-Eval-Print Loop)が可能です。コードを書いてすぐに実行結果を確認できるため、試行錯誤しながらの開発に適しています。無線LAN機能を利用するためのシンプルなライブラリが用意されています。
    • 開発ツール: Thonny IDEなどの統合開発環境を使用すると、コードの記述、ファームウェアの書き込み、REPLの利用などが簡単に行えます。
    • ファームウェア: Pico W向けに無線LAN機能が有効化されたMicroPythonファームウェアが公式に提供されています。これをPico Wに書き込むことで、MicroPythonでの開発が可能になります。
  • C/C++ SDK: 低レベルでのハードウェア制御や高いパフォーマンスが必要な場合に適しています。

    • 利点: マイクロコントローラーの全ての機能を最大限に引き出すことができます。処理速度が速く、メモリ使用量をより厳密に制御できます。リアルタイムOS(FreeRTOSなど)を利用することも可能です。無線LAN機能を利用するためのライブラリ(lwIPなどを含む)も提供されています。
    • 開発環境: クロスコンパイル環境の構築が必要です。Linux、macOS、Windows (WSLなど) 上でCMakeやGCCツールチェーンを使ってビルドします。VS Codeなどのエディタと連携させることも可能です。
    • 学習コスト: MicroPythonに比べて学習コストは高くなりますが、組み込みシステム開発の基礎を学ぶ上で非常に有用です。
  • CircuitPython: Adafruitが開発しているMicroPythonのフォークです。

    • 利点: 初心者向けに設計されており、USBドライブのように扱えるファイルシステムへのコード書き込み、USB HID(キーボード、マウスなど)機能のサポートなどが特徴です。多くのセンサーや周辺機器用のライブラリが充実しています。
    • Pico Wでの利用: CircuitPythonもPico Wをサポートしており、無線LAN機能も利用可能です。

どの開発環境を選ぶかは、プロジェクトの性質、要求されるパフォーマンス、そして開発者のスキルセットによって異なります。手軽にIoTプロトタイプを作りたい、電子工作でネットワークを使いたいといった場合はMicroPythonが最適でしょう。より高度な制御やパフォーマンスを追求する場合、あるいは組み込み開発の専門知識を深めたい場合はC/C++ SDKに挑戦する価値があります。

Raspberry Pi Pico Wで何ができる? 活用例

無線LAN機能が加わったことで、Pico Wの活用範囲は大きく広がりました。具体的なプロジェクトのアイデアをいくつか見ていきましょう。

1. IoT(モノのインターネット)デバイスの構築

Pico Wは、センサーやアクチュエーターをネットワークに接続するIoTデバイスの構築に最適です。

  • 環境モニタリング: 温度、湿度、気圧、光量などのセンサーを接続し、測定データを自宅のWi-Fiネットワーク経由でクラウドサービス(Google Cloud IoT, AWS IoT, Adafruit IOなど)に送信します。スマートフォンやPCからいつでも環境データを確認したり、異常値を検知したら通知を送ったりするシステムが構築できます。
  • スマートホーム連携: Pico Wを使い、既存の家電や照明をネットワーク対応させることができます。例えば、リレーを制御して物理的なスイッチをON/OFFしたり、赤外線LEDを制御してリモコン信号を送信したりすることで、スマートフォンアプリや音声アシスタント(Amazon Alexa, Google Assistantなど)から操作可能なスマートデバイスを作成できます。MQTTプロトコルなどを利用して、他のスマートホームハブと連携することも可能です。
  • リモート制御: 遠隔地にあるデバイスの状態を確認したり、操作したりできます。例えば、温室内の温度や湿度を監視し、必要に応じて換気ファンやポンプを遠隔操作するといったことが可能です。
  • アセットトラッキング: 位置情報センサー(GPSモジュール)と組み合わせ、定期的に現在地データをクラウドに送信することで、動くものの位置を追跡するシステムを構築できます(ただし、GPSモジュールは別途必要で、消費電力も考慮が必要です)。

2. ネットワーク機能を利用したプロジェクト

単にデータを送受信するだけでなく、ネットワークそのものを活用した様々な応用が考えられます。

  • Webサーバー: Pico W上で軽量なWebサーバーを動作させ、センサーデータの可視化やデバイスの操作をブラウザ経由で行うことができます。MicroPythonにはMicrodotやFlaskのような軽量フレームワークもあり、簡単なWebアプリケーションをPico W上で動かすことが可能です。
  • API連携: Web上の公開APIにアクセスし、天気予報を取得してディスプレイに表示したり、株価情報を受け取ってLEDで変動を表現したりといったプロジェクトが可能です。
  • NTPクライアント: ネットワークタイムプロトコル(NTP)を利用して正確な現在時刻を取得し、時計やタイマーの精度を向上させることができます。
  • メール/SNS通知: 特定のイベントが発生した際に、メールを送信したり、SNSに通知を投稿したりする機能を追加できます。

3. 組み込みシステム開発

無線通信が必要な様々な組み込みシステムにおいて、Pico Wは強力な選択肢となります。

  • 無線データロガー: 複数のセンサーからのデータを定期的に記録し、無線LAN経由でPCやサーバーに転送するデータロガー。農業分野での環境データ収集や、産業機器の稼働状況監視などに利用できます。
  • 無線リモートコントロール: ラジコン、ロボット、ドローンなどの制御コマンドを無線で送受信するシステム。遅延の少ないリアルタイム制御が求められる場合、C/C++ SDKとRTOSの組み合わせも検討できます。
  • フィールドデバイスのプロトタイプ: 屋外や工場内など、有線ネットワークの敷設が難しい場所で使用するセンサーノードや制御端末のプロトタイピング。

4. 教育・学習ツール

Pico Wは、マイクロコントローラーやプログラミング、ネットワーク技術を学ぶための優れたプラットフォームです。

  • MicroPython入門: MicroPythonはPythonの知識があれば比較的容易に始められるため、プログラミング学習の最初のステップとしても適しています。LEDを点滅させたり、センサーを読んだりといった基本的な電子工作から、ネットワーク接続を伴う応用まで、段階的に学習できます。
  • C/C++ SDK入門: 組み込みC/C++プログラミングの基礎や、ハードウェアレジスタの操作、割り込み処理といったより低レベルな技術を学ぶのに適しています。
  • ネットワークプログラミング入門: マイクロコントローラー上でソケット通信やHTTP通信を実装することで、ネットワークの仕組みを実践的に学ぶことができます。
  • IoTプログラミング実践: 実際にセンサーと無線通信を組み合わせて、簡単なIoTデバイスを作成する演習を通して、IoTシステム開発の全体像を理解できます。

5. ゲームやインタラクティブアート

  • 無線通信を利用したゲームコントローラー: 加速度センサーなどと組み合わせ、無線でPCや他のデバイスを操作するゲームコントローラーを作成できます。
  • ネットワーク連携アート: 複数のPico Wデバイスがネットワーク経由で通信し、協調して光や音を変化させるインタラクティブなアート作品。

これらの活用例はほんの一例に過ぎません。Pico Wの強力なRP2040チップと無線LAN機能を組み合わせることで、あなたのアイデア次第で無限の可能性が広がります。特に、PIO機能は既存のマイクロコントローラーでは難しかったユニークなインターフェースの実装を可能にし、これまでにないデバイスやシステムの開発を後押しします。

Raspberry Pi Pico Wの選び方:無印Picoや他のデバイスとの比較

さて、Pico Wの魅力は十分に理解できたかと思いますが、実際にあなたのプロジェクトにPico Wが最適なのかどうか、他の選択肢と比較して検討してみましょう。

1. Raspberry Pi Pico vs Raspberry Pi Pico W

これは最も単純な比較です。

  • 最大の差:無線LAN機能の有無: これが全てです。プロジェクトに無線LAN(Wi-Fi)が必要かどうかで判断はほぼ決まります。
    • Pico Wを選ぶべき場合: Wi-Fiを使ってインターネットに接続したい、ローカルネットワーク内で通信したい、スマートフォンから操作したい、センサーデータをクラウドに送りたい、といった無線通信が必須のプロジェクト。
    • 無印Picoで十分な場合: 無線通信が全く不要なプロジェクト。例えば、単にモーターを制御する、LEDを点滅させる、特定のタイミングで信号を出力する、といったスタンドアロンな組み込みシステム。
  • 価格: Pico Wは無印Picoよりもわずかに高価です。無線LANが不要なのにPico Wを選ぶのはコスト面で無駄になります。
  • ピン配置の微細な違い: 前述の通り、RUNピンの位置やGP29ピンの利用可能性に違いがあります。既存のPico用拡張ボードの中には、これらのピン配置の違いによってPico Wでは完全に互換性がないものもごく一部ですが存在するかもしれません(基本的には互換性が高いように設計されています)。
  • 消費電力: 無線LAN機能は特に送受信時に電力を消費します。バッテリー駆動でとにかく低消費電力を追求したい場合は、無線LANを搭載しない無印Picoの方が有利な場合があります(ただし、Pico Wでも無線機能をオフにすれば無印Picoに近い消費電力になります)。

結論: 無線LANが必要なら迷わずPico W。不要なら安価な無印Picoで十分です。

2. Raspberry Pi Pico W vs 他のマイクロコントローラー

マイクロコントローラーの世界には、Pico W以外にも様々な選択肢があります。代表的なものと比較してみましょう。

  • ESP32 / ESP8266シリーズ (Espressif Systems)

    • 共通点: 安価で、無線LAN(Wi-Fi)機能を標準搭載している点がPico Wと共通します。多くのモデルがBluetoothもサポートしています。MicroPythonやArduino IDE(C++)での開発が可能です。
    • ESP32/ESP8266の強み:
      • 多くのモデルがPico Wより豊富なGPIOピン、より大きなSRAM/フラッシュメモリを搭載している場合があります。
      • Bluetooth(Classic/BLE)が成熟した形でサポートされています。
      • より高性能なCPUコア(ESP32はデュアルコアTensilica LX6またはLX7)を持つモデルがあり、複雑な処理も得意です。
      • ADCの分解能が高いモデル(12ビット以上)が多いです。
      • RTOS(FreeRTOSなど)との連携が非常に強力です。
      • Arduino IDEでの開発コミュニティが非常に大きく、豊富なライブラリが存在します。
      • 低消費電力モードの種類が多く、バッテリー駆動に特化したモデルもあります。
    • Pico Wの強み:
      • RP2040のPIO機能というユニークなハードウェアを持っており、特定のインターフェース実装においてESPシリーズでは難しいことが可能です。
      • 固定クロックで動作するPIOは、ESPシリーズのCPUよりもリアルタイム性が高いピン制御が可能な場合があります。
      • MicroPythonが公式に強くサポートされており、ファームウェアも財団から提供されています。
      • 価格がESPシリーズの中でも特に安価な部類に入ります。
      • Raspberry Pi財団という強力なバックアップと、公式ドキュメントの充実度。
    • どちらを選ぶか?
      • ESP32/ESP8266: Bluetoothが必要、より複雑なTCP/IP処理やSSL通信を安定して行いたい、豊富なメモリが必要、RTOSを本格的に使いたい、Arduino IDEに慣れている、豊富な既製モジュールやライブラリを利用したい、といった場合に有力な候補になります。特にBluetoothが必要なら現状ではESPシリーズが第一選択肢です。
      • Pico W: Wi-Fiだけで十分、PIO機能を使って独自のハードウェアインターフェースを実装したい、安価に始めたい、MicroPythonでの開発を重視したい、Raspberry Piのエコシステムに慣れている、といった場合に適しています。特にPIOのユニークな能力に魅力を感じるならPico Wです。
  • Arduinoシリーズ (Uno, Nano, Megaなど)

    • 共通点: マイクロコントローラーボードの代表格であり、電子工作やプログラミング教育で広く利用されています。Arduino IDEという使いやすい開発環境が特徴です。
    • Arduinoの強み:
      • 長い歴史と巨大なコミュニティがあり、情報源が非常に豊富です。
      • Arduino IDEは初心者にとって非常に分かりやすいです。
      • 「シールド」と呼ばれる様々な機能拡張ボードが豊富に用意されており、簡単に機能を拡張できます。
      • 安定性と信頼性のあるプラットフォームです。
    • Pico Wの強み:
      • 性能: RP2040は多くのArduinoボード(特にUnoやNanoに搭載されているAVR系マイコン)よりもはるかに高性能(デュアルコア、高クロック、大容量SRAM)。
      • 価格: 性能比でPico Wは非常に安価です。
      • 無線LAN: 多くの標準的なArduinoボードには無線LAN機能は内蔵されていません。無線LAN付きのArduinoボード(MKR WiFi 1010など)もありますが、一般的にPico Wより高価になります。
      • PIO機能: ArduinoにはPIOのような独自の高精度I/O制御機能はありません。
      • MicroPython: MicroPythonがネイティブでサポートされているのはPico Wの大きな利点です。ArduinoでもMicroPythonを動かす試みはありますが、Pico Wほど公式かつスムーズではありません。
    • どちらを選ぶか?
      • Arduino: 既にArduinoに慣れている、Arduino IDEで開発したい、豊富なシールドを簡単に使いたい、複雑なプロトコル制御や高速なI/O制御が不要、といった場合に選択肢になります。
      • Pico W: より高い処理性能やSRAM容量が必要、無線LAN機能が必要、PIO機能を利用したい、安価に高性能なマイクロコントローラーを始めたい、MicroPythonで開発したい、といった場合にPico Wが有力です。
  • Raspberry Piシリーズ (Zero W, 3B+, 4Bなど)

    • 共通点: Raspberry Pi財団の製品ファミリーです。
    • 決定的な違い:SBCかマイクロコントローラーか: これが最も重要な違いです。Raspberry Piシリーズはフル機能のOS(Raspberry Pi OSなど)が動作するシングルボードコンピュータです。Pico WはOSを持たないマイクロコントローラーです。
    • Raspberry Pi SBCの強み:
      • OS上で複雑なソフトウェア(Webブラウザ、データベース、GUIアプリケーションなど)を実行できます。
      • 高性能なプロセッサ(ARM Cortex-Aシリーズ)、大容量RAM(512MB~8GB)、GPUを搭載しています。
      • HDMI出力、USBポート、Ethernetポート(一部モデル)、カメラ/ディスプレイインターフェースなど、PCに近い豊富なインターフェースを持ちます。
      • GUI環境での開発やデバッグが容易です。
    • Pico Wの強み:
      • リアルタイム性: OSのスケジューリングに影響されず、時間精度が要求されるピン制御などが得意です(特にPIO)。
      • 低消費電力: Raspberry Pi SBCと比較して非常に消費電力が少ないです。
      • 小型軽量: より小型で軽量なシステムを構築できます。
      • 安価: 圧倒的に安価です。
      • シンプルさ: ハードウェアの構造やプログラミングモデルがシンプルです。
      • I/O制御: GPIOピンを直接、高速に制御することに特化しています。
    • どちらを選ぶか?
      • Raspberry Pi SBC: Webサーバー、データベース、複雑なデータ処理、画像認識、機械学習、GUIアプリケーション、外部ディスプレイ出力、USBデバイス接続など、OS上で実行するソフトウェアが必要なプロジェクト。
      • Pico W: センサーデータの収集・送信、特定の機器の制御、リアルタイム性の高いI/O操作、バッテリー駆動のデバイス、低コストな組み込みシステムなど、特定のタスクを効率的かつリアルタイムに実行することに特化したプロジェクト。
    • 連携: これらは排他的な選択肢ではなく、連携させて使うことも多いです。例えば、Pico Wで多数のセンサーデータを収集・前処理し、そのデータをWi-Fi経由でRaspberry Pi SBCに送信し、SBCでデータの保存、分析、可視化を行う、といった構成です。

3. 購入時のチェックポイント

Pico Wを購入する際に注意すべき点です。

  • 正規販売店からの購入: Raspberry Pi財団の公式サイトや提携している正規販売店から購入しましょう。価格や品質が保証されています。非正規のルートでは、偽物であったり、不当に高価であったりする可能性があります。
  • 必要な付属品: Pico W単体では動作しません。最低限、以下のものが必要です。
    • Micro USBケーブル: プログラム書き込みと給電に使います。データ通信 capable なケーブルを選びましょう。
    • 電源: USBポートから給電する場合、PCのUSBポートや、スマートフォン用のUSB充電器(5V、推奨は1A以上)が利用できます。
    • ブレッドボードとジャンパー線: センサーやLEDなどの部品とPico Wを接続する際に便利です。ピンヘッダーを半田付けして使用します。
    • ピンヘッダー: ブレッドボードに挿したり、ジャンパー線を接続したりするために必要です。Pico Wに対応した2×20ピンのストレートまたはL字型ピンヘッダーを別途購入し、半田付けする必要があります。
  • ケースや拡張ボード: プロジェクトによっては、Pico Wを保護するケースや、特定の機能(モータードライバ、センサー群など)を追加する拡張ボード(Pico W用のもの)があると便利です。

開発を始める前に知っておきたいこと

Pico Wを手に入れたら、早速開発を始めましょう。その前に知っておくとスムーズに進められるポイントです。

1. ファームウェアの書き込み

Pico WにMicroPythonやC/C++のプログラムを書き込むには、まず対応するファームウェア(インタープリターやC/C++ SDKの実行環境)を書き込む必要があります。この作業は非常に簡単です。

  1. Pico WのBOOTSELボタンを押しながら、Micro USBケーブルでPCと接続します。
  2. Pico WはPCからUSBマスストレージデバイス(USBメモリのようなもの)として認識されます。通常「RPI-RP2」という名前のドライブが表示されます。
  3. 書き込みたいファームウェアファイル(.uf2という拡張子のファイル)を、この「RPI-RP2」ドライブにドラッグ&ドロップします。
  4. ファイルがコピーされると、Pico Wは自動的に再起動し、書き込まれたファームウェアが実行されます。ドライブは自動的にアンマウントされます。

MicroPythonで開発する場合、Raspberry Pi財団の公式サイトから提供されているPico W対応のMicroPython UF2ファイルをダウンロードして書き込みます。C/C++ SDKで開発する場合、SDKでビルドしたプログラム自体がUF2ファイルになります。

2. MicroPythonの基本的な使い方

MicroPythonで開発する場合、Thonny IDEを使うのが最も手軽でおすすめです。

  • Thonny IDEのインストール: Pythonのインストールが必要ですが、Thonny自体もインストールが非常に簡単です。
  • インタープリター設定: Thonnyを起動し、インタープリター設定で「MicroPython (Raspberry Pi Pico)」を選択し、Pico Wが接続されているCOMポート(シリアルポート)を指定します。
  • REPL: 接続が成功すると、Thonnyの下部に「>>>」というプロンプトが表示されます。これがREPL (Read-Eval-Print Loop) です。ここにPythonのコードを1行ずつ入力して実行したり、変数の中身を確認したりできます。例えば print("Hello, Pico W!") と入力してEnterキーを押すと、Pico W上で実行されて結果が表示されます。
  • コードの記述と保存: Thonnyのエディタ画面にプログラム全体を記述し、それをPico Wのファイルシステムに保存できます。「Run」ボタンの横にあるドロップダウンメニューから「Save as」を選び、「Raspberry Pi Pico」を選択すると、Pico W上にファイルを保存できます。通常、main.py という名前でファイルを保存すると、Pico Wが起動した際に自動的にそのプログラムが実行されます。
  • Wi-Fi接続の例: MicroPythonでPico WをWi-Fiに接続する基本的なコードは以下のようになります。

“`python
import network
import time

Wi-Fi設定

ssid = “あなたのSSID”
password = “あなたのパスワード”

WLANオブジェクトを作成

wlan = network.WLAN(network.STA_IF)

Wi-Fiを有効にする

wlan.active(True)

Wi-Fiに接続を試みる

print(f”Connecting to {ssid}…”)
wlan.connect(ssid, password)

接続待機

max_wait = 10
while max_wait > 0:
if wlan.status() < 0 or wlan.status() >= 3:
break
max_wait -= 1
print(“waiting for connection…”)
time.sleep(1)

接続状態の確認

if wlan.status() != 3:
raise RuntimeError(“Network connection failed”)
else:
print(“Connected!”)
status = wlan.ifconfig()
print(“IP address:”, status[0])

ここにネットワークを利用した処理を記述

切断(必要なら)

wlan.disconnect()

wlan.active(False)

``
このコードを
main.py` として保存すれば、Pico W起動時に自動的にWi-Fiに接続されます。

3. C/C++ SDKの基本的な使い方

C/C++ SDKでの開発は、MicroPythonよりも環境構築に手間がかかりますが、よりパワフルな開発が可能です。

  • 開発環境構築: Linux(Debian/Ubuntu、Raspberry Pi OS)、macOS、Windows (WSL) 上で、GCCコンパイラ、CMake、Pico SDK、Pico Examplesなどをインストールする必要があります。公式ドキュメントに詳細な手順が記載されています。
  • プロジェクト作成: CMakeを使ってプロジェクトを構成します。Pico Examplesには様々なサンプルコードが含まれており、これを参考にすると良いでしょう。
  • ビルド: cmakemake コマンドを使ってソースコードをコンパイルし、UF2ファイルを生成します。
  • 書き込み: 生成されたUF2ファイルを、前述の方法でPico Wに書き込みます。
  • デバッグ: SWD(Serial Wire Debug)インターフェースを利用して、外部デバッガー(例:Raspberry Pi Debug Probe、Segger J-Linkなど)を接続することで、ステップ実行や変数監視といったデバッグが行えます。C/C++開発においてはデバッグ環境は非常に重要です。

C/C++ SDKを利用することで、PIOのプログラムをアセンブリライクな言語で直接記述したり、DMAコントローラーを細かく設定したり、無線LAN機能を低レベルで制御したりといったことが可能になります。

4. コミュニティと情報源

新しいデバイスでの開発を始める上で、公式ドキュメントと活発なコミュニティは非常に重要です。

  • Raspberry Pi財団の公式ドキュメント: Pico/Pico Wに関する最も正確で網羅的な情報源です。データシート、ハードウェア設計資料、SDK/MicroPythonのドキュメントなどが提供されています。開発に行き詰まったら、まず公式ドキュメントを参照しましょう。
  • Raspberry Pi公式フォーラム: 疑問点を質問したり、他のユーザーの質問を参考にしたりできます。財団のエンジニアも参加しています。
  • GitHubリポジトリ: Pico SDKやMicroPythonファームウェアのソースコードはGitHubで公開されています。サンプルコードも多数あります。
  • 技術ブログやWebサイト: 世界中の開発者が自身の開発経験やチュートリアルを公開しています。「Raspberry Pi Pico W tutorial」「Pico W MicroPython WiFi」などで検索すると多くの情報が見つかります。
  • 書籍やオンラインコース: 入門者向けの書籍や、特定の機能を掘り下げたオンラインコースなども登場しています。

これらのリソースを積極的に活用することで、Pico Wを使った開発をよりスムーズに進めることができます。

まとめ:Pico Wで広がるものづくりの世界

Raspberry Pi Pico Wは、高性能な独自開発チップRP2040に、待望の無線LAN機能を統合した革新的なマイクロコントローラーボードです。その最大の特徴である無線LAN機能は、従来のマイクロコントローラーでは別途モジュールが必要だったネットワーク接続を、より手軽かつ安価に実現します。

RP2040チップは、デュアルコアCortex-M0+プロセッサ、豊富なSRAM、そして特にユニークで強力なPIO(Programmable I/O)機能を備えています。これにより、Pico Wは単なる「Wi-Fi付きマイコン」にとどまらず、高速かつ正確なリアルタイム制御や、独自のハードウェアインターフェースのエミュレーションといった高度なタスクもこなすポテンシャルを秘めています。

MicroPythonという手軽な開発環境が公式にサポートされていることも、Pico Wの大きな魅力です。Pythonの知識があれば比較的容易に開発を始められ、インタラクティブなREPL環境で試行錯誤しながらIoTデバイスやネットワーク連携プロジェクトを迅速にプロトタイピングできます。もちろん、パフォーマンスを極限まで引き出したいプロフェッショナル向けには、C/C++ SDKという選択肢も用意されています。

Pico Wは、IoTデバイス、スマートホーム連携、無線データ収集、リモート制御システム、さらには教育ツールまで、非常に幅広い分野での活用が期待できます。無印のPicoと比較すれば無線LANの有無が最も明確な違いであり、無線機能が必要ならPico Wを選ぶ価値は非常に高いです。他の競合デバイス、特にESP32シリーズと比較した場合、Pico WのPIO機能はユニークな強みであり、価格の優位性やMicroPythonの公式サポート、そしてRaspberry Pi財団というバックアップも無視できません。一方、Bluetoothが必要な場合や、より複雑な無線スタック、豊富なメモリ、Arduinoエコシステムに慣れている場合は、ESP32などの他のデバイスが適しているかもしれません。

Raspberry Pi Pico Wは、そのコストパフォーマンスと優れた機能のバランスにより、マイクロコントローラーを使った新しいものづくりを始める人にとって、そして既存のプロジェクトに無線機能を手軽に追加したい開発者にとって、非常に魅力的な選択肢となるでしょう。

さあ、あなたもRaspberry Pi Pico Wを手に取り、無線接続された広大な世界で、あなたの創造力とアイデアを形にしてみませんか?温度センサーのデータをクラウドに飛ばしたり、スマートフォンから家の照明を操作したり、Pico Wがあなたのものづくりを次のレベルへと引き上げてくれるはずです。

この素晴らしいマイクロコントローラーが、あなたのプロジェクトの成功に貢献することを願っています。


(注:本記事は約5000語を目標として記述しました。実際の文字数はエディタやエンコーディングによって多少変動する場合があります。また、Bluetoothサポートの状況など、最新の情報は公式ドキュメントをご確認ください。)

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