Tmuxとは?導入・基本コマンドを分かりやすく紹介
はじめに:なぜ、あなたのターミナル作業にTmuxが必要なのか?
あなたは普段、LinuxやmacOSといったUNIX系OSのターミナルで作業をしていますか?サーバーにSSHで接続して作業したり、ローカルで開発環境を構築したり、ログを監視したり、複数のコマンドを同時に実行したり。ターミナルは、私たちのデジタルライフにおいて非常に強力で欠かせないツールです。
しかし、ターミナルでの作業には、いくつかの課題が伴うことがあります。
- リモート接続の中断: サーバーへのSSH接続中にネットワークが不安定になったり、ローカルマシンのスリープやシャットダウンで接続が切断されたりすると、実行中のコマンドが中断され、それまでの作業が失われてしまうことがあります。特に、時間がかかる処理を実行している最中にこれが起こると、大きな時間のロスとなり、非常にストレスを感じるでしょう。
- 複数の作業ウィンドウの管理: 複数のサーバーに接続したり、一つのサーバー上で複数のタスク(例えば、プログラムの編集、コンパイル、実行、ログ監視、バージョン管理など)を同時に行ったりする場合、たくさんのターミナルウィンドウやタブを開くことになります。これらのウィンドウを切り替えながら作業するのは煩雑で、すぐに混乱してしまいがちです。
- 情報の同時表示: 複数の異なる情報を同時に参照しながら作業したい場合があります。例えば、コードを編集しながら、別の画面でコンパイルエラーを確認したり、ログの出力を見たりしたい。しかし、一つのターミナルウィンドウでは通常、一つのコマンドしか実行できません。
これらの課題を解決し、ターミナル作業の効率を劇的に向上させてくれるツール、それが Tmux(ティーマックス) です。
この記事では、Tmuxとは何か、どのように役立つのか、そしてその基本的な使い方から応用、設定方法までを、初心者の方にも分かりやすく、詳細に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたのターミナル作業は以前よりもずっと快適でパワラフルなものになっているはずです。さあ、Tmuxの世界へ踏み出しましょう。
1. Tmuxとは? – 端末マルチプレクサの正体
Tmuxは Terminal Multiplexer(ターミナル マルチプレクサ) の略称です。マルチプレクサとは、複数の信号を一つの伝送路で送受信するための装置や技術を指しますが、Tmuxの場合は「複数の仮想的な端末セッションを、一つの物理的な端末ウィンドウで管理できるツール」という意味になります。
簡単に言うと、Tmuxを使えば、一つのターミナルウィンドウの中に、複数の「仮想的な作業空間」を作り出し、それらを自由に行き来したり、分割して同時に表示したりすることができるようになります。 さらに、この作業空間は、あなたがターミナルウィンドウを閉じたり、SSH接続を切断したりしても、バックグラウンドで生き残り続けます。これが、Tmuxの最大の特徴であり、最大のメリットです。
Tmuxは、古くからある同様のツールである GNU Screen の後継として開発されました。Screenも非常に優れたツールですが、Tmuxはよりモダンな設計で、設定のしやすさや機能面で多くの改善が加えられています。
Tmuxが提供する主な機能は以下の通りです。
- セッション管理: 複数の独立した「セッション」を作成・管理できます。それぞれのセッションは、あなたがコンピュータからログアウトしたり、ネットワーク接続が切れたりしても、バックグラウンドで生き残り続けます。後でいつでもそのセッションに「再接続(アタッチ)」して、中断した作業をそのまま続けることができます。
- ウィンドウ管理: 一つのセッションの中に、複数の「ウィンドウ」を作成できます。これは、ウェブブラウザのタブのようなイメージです。それぞれのウィンドウで、全く異なる作業を行うことができます。ウィンドウ間は簡単に切り替えられます。
- ペイン管理: 一つのウィンドウをさらに複数の領域(「ペイン」と呼びます)に分割することができます。分割されたそれぞれのペインで、異なるコマンドを実行したり、異なるファイルを開いたりできます。一つの画面で複数の情報を同時に表示したい場合に非常に便利です。
- カスタマイズ性: Tmuxは非常に高いカスタマイズ性を持っています。キーバインドの変更、ステータスバーの外観調整、様々な自動化設定など、あなたの好みに合わせて細かく設定できます。設定ファイル(
.tmux.conf
)を記述することで、自分だけの快適な環境を構築できます。
これらの機能により、Tmuxは特に以下のような用途でその真価を発揮します。
- リモートサーバーでの開発・運用作業
- 複数のタスクを並行して行うローカル開発
- 長時間かかるコマンドの実行(ダウンロード、コンパイル、テストなど)
- ログ監視やシステム状態のモニタリング
Tmuxを使いこなせば、ターミナル作業の効率は劇的に向上し、特にリモート作業でのストレスは大幅に軽減されるでしょう。
2. Tmuxを使うことの具体的なメリット
Tmuxの機能の概要を理解したところで、それが私たちのターミナル作業にどのような具体的なメリットをもたらすのか、さらに詳しく見ていきましょう。
2.1 リモート接続の中断による作業ロストを防ぐ(永続性)
これはTmuxの最も強力で分かりやすいメリットです。サーバーにSSHで接続して作業している最中に、ネットワークの問題で接続が切れたり、ローカルのPCを閉じたり、電車内で移動中にWi-Fiが途切れたり…。このような経験は、多くの開発者やシステム管理者が一度は経験したことがあるでしょう。
Tmuxを使って作業していれば、あなたの作業はSSHセッションに直接紐づいているのではなく、Tmuxセッションに紐づいています。あなたがSSH接続を「切断(デタッチ)」したり、意図せず接続が切れたりしても、Tmuxセッションはサーバー上で生き残り続け、その中で実行されていたコマンドはそのまま実行され続けます。
後で再びSSHでサーバーに接続し、そのTmuxセッションに「再接続(アタッチ)」すれば、接続が切れる直前の状態が完全に復元されます。実行中だったコマンドは中断されずに完了しており、画面にはその出力が表示されているでしょう。これは、特に時間のかかるコンパイルやデータ処理、ソフトウェアのインストールなどをリモートサーバーで行う際に、計り知れない安心感と効率化をもたらします。
2.2 複数の作業を効率的に切り替え・並行作業する(ウィンドウとペイン)
現代のターミナル作業は、往々にして複数のタスクを同時にこなす必要があります。コードを編集しながら、別のターミナルでテストを実行し、さらに別のターミナルでログを確認したり、Gitコマンドを打ったり…。
Tmuxを使わない場合、これらのタスクごとに新しいターミナルウィンドウやタブを開くことになります。しかし、たくさんのウィンドウやタブは管理が煩雑になりがちです。
Tmuxでは、一つの物理的なターミナルウィンドウの中に、複数の「ウィンドウ」や「ペイン」を作成できます。
- ウィンドウ: 例えば、一つのウィンドウを「開発用」、別のウィンドウを「サーバー監視用」、さらに別のウィンドウを「データベース操作用」というように使い分けることができます。これらのウィンドウ間は、ショートカットキー一つで瞬時に切り替えられます。まるでブラウザのタブを切り替えるように、異なる作業環境を素早く行き来できます。
- ペイン: 一つのウィンドウ内で、画面を上下左右に分割して複数の「ペイン」を作成できます。これにより、例えば左側のペインでコードエディタを開き、右上のペインでコンパイルコマンドを実行、右下のペインでそのログ出力をリアルタイムに表示するといったことが可能になります。それぞれのペインは独立したターミナルとして機能するので、互いに干渉することなく、同時に異なるコマンドを実行したり、情報を表示したりできます。
これにより、複数のタスクを並行して行う際のウィンドウ管理の煩雑さが大幅に軽減され、作業効率が飛躍的に向上します。一つの画面に必要な情報を集約できるため、情報の参照やタスク間の切り替えがスムーズになります。
2.3 一つの画面で複数の情報を同時に表示する(ペイン)
前述の通り、ペイン機能を使えば、一つの物理的な画面を論理的に分割し、それぞれ異なる情報を表示できます。これは、特定のシナリオで非常に有効です。
- 開発: コードエディタ、コンパイル/実行結果、デバッグ出力、バージョン管理ステータスなどを同時に表示。
- システム監視: CPU使用率、メモリ使用量、ディスクI/O、ネットワークトラフィック、システムログなどを異なるペインで表示し、リアルタイムでシステム全体の状態を把握。
- ログ分析: アプリケーションログとシステムログを並べて表示したり、ログファイルを開きながら、別のペインでログ集計コマンドを実行したり。
- チュートリアルや資料参照: Webブラウザで資料を開きながら、ターミナルを複数ペインに分割し、左で解説を読みながら右でコマンドを試す。これはTmuxとは直接関係ありませんが、ターミナル側の画面分割能力が向上することで、このようなマルチタスクがより効率的に行えます。
このように、ペイン機能を活用することで、複数の情報ソースを同時に視界に入れることができ、作業の効率や理解度が向上します。
2.4 ターミナル操作の効率化(キーバインドとカスタマイズ)
Tmuxは豊富なショートカットキー(キーバインド)を提供しており、セッション、ウィンドウ、ペインの操作をキーボードだけで素早く行うことができます。これらのキーバインドを覚えることで、マウスに持ち替える手間が省け、ターミナルでの作業効率が向上します。
さらに、Tmuxは非常に高いカスタマイズ性を持っています。デフォルトのキーバインドが気に入らなければ、自分好みのキーに変更できます。ステータスバーに表示する情報をカスタマイズしたり、色を変えたりすることも可能です。.tmux.conf
という設定ファイルを編集することで、これらのカスタマイズを恒久的に適用できます。自分にとって最も使いやすい環境を構築することで、さらに快適に作業できるようになります。
2.5 セッションの共有(複数ユーザーでの共同作業)
少し応用的な使い方ですが、Tmuxセッションは複数のユーザーで共有することも可能です。同じサーバーに接続している複数のユーザーが、同じTmuxセッションにアタッチすることで、同じ画面を同時に見たり、操作したりできます。これは、ペアプログラミングや、他の人にコマンド操作を教えたり、デモンストレーションを見せたりする際に非常に便利です。
3. Tmuxの導入 – あなたの環境にインストールしよう
Tmuxの魅力が伝わったでしょうか?それでは、実際にあなたの環境にTmuxをインストールしてみましょう。Tmuxは多くのOSでパッケージマネージャーを使って簡単にインストールできます。
3.1 Linuxへのインストール
ほとんどのLinuxディストリビューションでは、標準のリポジトリからTmuxをインストールできます。
- Debian / Ubuntu:
bash
sudo apt update
sudo apt install tmux - Fedora / CentOS / RHEL:
bash
sudo dnf install tmux
# または古いバージョンでは yum
# sudo yum install tmux - Arch Linux:
bash
sudo pacman -S tmux - openSUSE:
bash
sudo zypper install tmux
3.2 macOSへのインストール
macOSでは、Homebrewというパッケージマネージャーを使うのが最も一般的で簡単です。Homebrewがインストールされていない場合は、まず公式ドキュメントを参照してインストールしてください。
bash
brew install tmux
3.3 Windowsへのインストール
WindowsネイティブではTmuxは動作しません。しかし、Windows Subsystem for Linux (WSL) または WSL2 を使うことで、Windows上でLinux環境を構築し、その中でTmuxを利用できます。
- WSLのインストール: Microsoftの公式ドキュメントを参照して、WSLおよび好みのLinuxディストリビューション(Ubuntuなどが一般的です)をインストールしてください。
- WSL内でTmuxをインストール: WSL上で起動したLinuxターミナル内で、上記Linuxの手順(例: Ubuntuなら
sudo apt install tmux
)に従ってTmuxをインストールします。
WSL2を使えば、Linuxのターミナル環境をほぼそのままWindows上で利用できます。
3.4 インストールの確認
インストールが完了したら、以下のコマンドを実行してTmuxが正しくインストールされたか確認できます。バージョン情報が表示されれば成功です。
bash
tmux -V
これで、あなたの環境でTmuxを使い始める準備が整いました!
4. Tmuxの基本概念 – セッション、ウィンドウ、ペイン、プレフィックスキー
Tmuxを使い始める前に、その基本的な構成要素である「セッション」「ウィンドウ」「ペイン」と、操作の要となる「プレフィックスキー」について、もう少し詳しく理解しておきましょう。
4.1 セッション (Session)
セッションはTmuxの最も大きな単位です。Tmuxサーバー上で実行される独立した作業環境一式を指します。
- 独立性: 各セッションは完全に独立しており、それぞれ独自のウィンドウやペインの状態、実行中のプロセスを持っています。
- 永続性: これが重要です。セッションはあなたがターミナルウィンドウを閉じたり、SSH接続を切断したりしても、Tmuxサーバー上で生き残り続けます。
- デタッチとアタッチ: 実行中のセッションから「離れること(デタッチ)」と、離れていたセッションに後から「再接続すること(アタッチ)」が可能です。
- 命名: セッションには名前を付けることができます。これにより、複数のセッションを使い分ける場合に、どのセッションが何の作業用なのかを区別しやすくなります。
- Tmuxサーバー: Tmuxはクライアント・サーバーモデルで動作します。最初に
tmux
コマンドを実行すると、Tmuxサーバーが起動し、最初のセッションが作成されます。その後の操作は、クライアント(つまり、あなたのターミナル)からサーバーに対してコマンドを送る形で行われます。
4.2 ウィンドウ (Window)
ウィンドウは、セッションの中にある論理的な画面単位です。ウェブブラウザの「タブ」をイメージすると分かりやすいでしょう。
- タブ形式: 一つのセッションの中に複数のウィンドウを作成できます。通常、画面下部のステータスバーにウィンドウの一覧が表示され、それぞれのウィンドウには番号と名前(実行中のコマンド名など)が表示されます。
- 独立した画面: それぞれのウィンドウは独立した仮想的なターミナル画面を持っています。あるウィンドウで実行しているコマンドは、他のウィンドウには影響しません。
- 切り替え: セッション内で、ショートカットキーを使ってウィンドウ間を簡単に切り替えることができます。
例えば、一つのセッション内で、ウィンドウ0を「開発用」、ウィンドウ1を「サーバーA用」、ウィンドウ2を「サーバーB用」のように使い分けることができます。
4.3 ペイン (Pane)
ペインは、ウィンドウをさらに細かく分割した領域です。一つのウィンドウの中に複数のペインを作成できます。
- 画面分割: ペインを使うと、一つの画面を上下や左右に分割し、それぞれの領域で独立したターミナルを実行できます。
- 同時表示: 複数のペインを使うことで、異なる情報(例えばコードとログ)を一つの画面に同時に表示できます。
- フォーカス: 分割されたペインのうち、現在操作を受け付けているペインを「アクティブなペイン」または「フォーカスされているペイン」と呼びます。
ペインを組み合わせることで、一つの画面上にまるで複数のターミナルを並べているかのような環境を作り出すことができます。
4.4 プレフィックスキー (Prefix Key)
Tmuxのほとんどの操作は、特定のキーの組み合わせ、特に 「プレフィックスキー」 とそれに続く別のキーを押すことによって実行されます。
- デフォルトのプレフィックスキー: Tmuxのデフォルトのプレフィックスキーは
Ctrl + b
です。 - 操作方法: Tmuxコマンドを実行したいときは、まず
Ctrl + b
を押します(押したらすぐに離します)。すると、Tmuxは次に押されるキー入力を「通常のターミナル入力」ではなく「Tmuxへのコマンド」として解釈します。その後、目的の操作に対応するキーを押します。
例えば、「新しいウィンドウを作成する」というTmuxコマンドは c
キーに割り当てられています。新しいウィンドウを作成するには、以下の手順でキーを押します。
Ctrl + b
を押す(押したら離す)c
キーを押す
なぜこのようなプレフィックスキーが必要なのでしょうか?それは、Tmuxが私たちのターミナルへの通常のキー入力を邪魔しないようにするためです。もしTmuxが常にすべてのキー入力を監視していたら、私たちが普通にコマンドを入力したり、ファイルの内容をスクロールしたりする際に困ってしまいます。プレフィックスキーを押すことで、「今から押すキーはTmuxへのコマンドです」という信号を送るわけです。
多くのユーザーは、デフォルトの Ctrl + b
よりも Ctrl + a
を好んで使う傾向があります。これは、Screenのデフォルトプレフィックスキーが Ctrl + a
であったことや、Ctrl + a
がキーボードの左側に近く、押しやすいという理由からです。後述の設定ファイルで簡単に変更できます。
これらの概念を理解しておけば、Tmuxの操作が格段に分かりやすくなります。
5. Tmuxの基本操作 – プレフィックスキーをマスターしよう
それでは、実際にTmuxを起動し、セッション、ウィンドウ、ペインの基本的な操作を体験してみましょう。まずはターミナルを開き、Tmuxを起動します。
bash
tmux
Tmuxが起動すると、通常は画面下部に緑色のステータスバーが表示されます(この色や内容は設定で変更できます)。これがTmuxセッションの中にいることの目印です。初期状態では、一つのセッションに一つのウィンドウ(番号0)、そのウィンドウに一つのペインがあります。
すべてのTmuxコマンドは、先ほど説明した プレフィックスキー (Ctrl + b
) に続いて実行します。以下の説明では、プレフィックスキーを [prefix]
と表記します。つまり、デフォルト設定なら [prefix]
は Ctrl + b
です。
5.1 セッション関連の基本操作
セッションはTmuxの最も基本的な単位であり、永続性の要です。
- 新しいセッションを作成:
tmux new -s [セッション名]
:名前を指定して新しいセッションを作成し、すぐにそのセッションにアタッチします。セッション名は任意です。tmux
:引数なしで実行すると、Tmuxサーバーが起動していない場合は新しいセッションを作成し、アタッチします。すでにサーバーが起動している場合は、既存のセッションにアタッチしようとします(アタッチするセッションがない場合は新規作成)。[prefix] :
new
:コマンドモードでnew
と入力して新しいセッションを作成。
- 既存のセッション一覧を表示:
bash
tmux ls
# または
[prefix] s
tmux ls
はシェルから実行するコマンドです。[prefix] s
はTmuxセッション内から実行するキーバインドで、画面が切り替わり、現在起動しているセッションの一覧が表示されます。矢印キーで選択し、Enter
でアタッチできます。 - 既存のセッションにアタッチ:
bash
tmux attach -t [セッション名またはID]
# セッションが一つしかない場合は -t を省略可能
tmux attach
セッション名やIDはtmux ls
で確認できます。 - 現在のセッションからデタッチ(分離):
bash
[prefix] d
このコマンドを実行すると、Tmuxセッションはバックグラウンドで実行されたまま、現在のターミナル画面はTmuxから抜けてシェルの状態に戻ります。SSH接続が切断されても作業を続けたい場合は、作業中のセッションでこのコマンドを実行してからSSHを切断します。 - 現在のセッションを終了:
bash
[prefix] : kill-session
# または
exit # 現在のペインで exit コマンドを実行し、全てのペイン/ウィンドウを閉じるとセッションも終了
[prefix] :
はコマンドモードに入るキーバインドです。kill-session
コマンドを入力してEnter
で実行します。exit
コマンドはシェルに組み込まれたコマンドであり、Tmuxのコマンドではありませんが、最後のペインが閉じられるとウィンドウが閉じ、最後のウィンドウが閉じられるとセッションが終了します。 - セッション名の変更:
bash
[prefix] : rename-session [新しいセッション名]
セッション操作のワークフロー例:
- サーバーにSSH接続する。
tmux new -s my_work
で「my_work」という名前のセッションを開始。- セッション内で作業(コマンド実行、ファイル編集など)。
- 作業を一時中断し、SSH接続を閉じたい場合は
[prefix] d
でセッションからデタッチ。 - SSH接続を切断。
- 後で作業を再開したい場合は、再びサーバーにSSH接続し、
tmux attach -t my_work
でセッションにアタッチ。
5.2 ウィンドウ関連の基本操作
ウィンドウはセッション内のタブのようなものです。画面下部のステータスバーに 0:bash* 1:editor
のように表示されます(番号、ウィンドウ名、*
はアクティブなウィンドウ)。
- 新しいウィンドウを作成:
bash
[prefix] c
新しいウィンドウが作成され、そこに移動します。ウィンドウ番号は自動的に割り振られます(通常は現在の最大番号の次)。 - 次のウィンドウへ移動:
bash
[prefix] n - 前のウィンドウへ移動:
bash
[prefix] p - 指定した番号のウィンドウへ移動:
bash
[prefix] [番号] # 例: [prefix] 0 でウィンドウ0へ移動 - 最後に操作していたウィンドウへ移動:
bash
[prefix] l # 'L' の小文字
これは、直前に作業していたウィンドウと現在のウィンドウを素早く切り替えたい場合に便利です。 - ウィンドウ一覧を表示し、選択して移動:
bash
[prefix] w
セッション一覧と同様に、画面が切り替わり、ウィンドウ一覧が表示されます。矢印キーで選択し、Enter
で移動できます。 - 現在のウィンドウ名を変更:
bash
[prefix] ,
画面下部のステータスバーで名前を入力できるようになります。Enter
で確定。 - 現在のウィンドウを終了:
bash
[prefix] &
# または
[prefix] x # 現在のペインを終了するコマンドですが、ウィンドウ内の最後のペインを終了するとウィンドウも終了します。
# または
exit # 現在のウィンドウの全てのペインで exit コマンドを実行
[prefix] &
を押すと、「Kill window [ウィンドウ名]? (y/n)」のように確認が表示されます。y
で終了、n
でキャンセルです。
ウィンドウ操作のワークフロー例:
- Tmuxセッションを起動/アタッチ。ウィンドウ0でシェルが起動。
[prefix] c
で新しいウィンドウ(ウィンドウ1)を作成。そこでエディタを開く(例:vim
)。[prefix] c
でさらに新しいウィンドウ(ウィンドウ2)を作成。そこでログ監視コマンドを実行(例:tail -f /var/log/syslog
)。[prefix] 1
でウィンドウ1(エディタ)に戻り、コードを編集。[prefix] 2
でウィンドウ2(ログ監視)に戻り、ログを確認。[prefix] 0
でウィンドウ0に戻り、別のコマンドを実行。[prefix] n
や[prefix] p
でウィンドウ間を順に移動。- ログ監視を終えたら、ウィンドウ2で
exit
または[prefix] &
でウィンドウを閉じる。
5.3 ペイン関連の基本操作
ペインはウィンドウ内の画面分割領域です。一つのウィンドウを複数のペインに分割し、それぞれで独立した操作を行えます。
- 現在のペインを上下に水平分割:
bash
[prefix] " # ダブルクォーテーション
現在のペインが上下に分割され、新しいペインが下に作成され、そちらにフォーカスが移動します。 - 現在のペインを左右に垂直分割:
bash
[prefix] % # パーセント
現在のペインが左右に分割され、新しいペインが右に作成され、そちらにフォーカスが移動します。 - 次のペインへ移動(順送り):
bash
[prefix] o
ウィンドウ内のペインを順番に切り替えます。 - 指定した方向のペインへ移動:
bash
[prefix] <Arrow Key> # 例: [prefix] Up で上のペインへ移動
これは非常に便利なショートカットです。矢印キーを使って直感的に移動できます。 - 最後に操作していたペインへ移動:
bash
[prefix] ; # セミコロン - ペインのレイアウトを変更:
bash
[prefix] <space> # スペースキー
事前に定義されたいくつかのレイアウトパターン(均等分割、メインペインとサブペインなど)を順に切り替えます。分割方法を変えたい場合に便利です。 - 現在のペインを拡大表示(ズーム)/元のサイズに戻す:
bash
[prefix] z
特定のペインの作業に集中したい場合に、そのペインだけを一時的に画面全体に拡大表示できます。もう一度同じコマンドを実行すると、元の分割レイアウトに戻ります。 - 現在のペインを終了:
bash
[prefix] x
終了確認が表示されます(「kill pane [ペイン番号]? (y/n)」)。y
で終了、n
でキャンセルです。exit
コマンドをペイン内で実行することでも終了できます。 - ペインの移動:
bash
[prefix] { # 左へ移動
[prefix] } # 右へ移動
現在のペインを、隣のペインと位置を入れ替える形で移動できます。 - ペインのリサイズ:
bash
[prefix] Ctrl + <Arrow Key> # 例: [prefix] Ctrl + Left で左に縮小
Ctrl
を押しながら矢印キーで、現在アクティブなペインの境界を移動させてサイズを変更できます。
ペイン操作のワークフロー例:
- ウィンドウを開く。
[prefix] %
で左右に分割。右側のペインに移動。- 右側のペインで
[prefix] "
で上下に分割。右下のペインに移動。 - 画面が3分割(左、右上、右下)の状態になる。
[prefix] Left
で左ペインに移動し、エディタを開く。[prefix] Up
で右上ペインに移動し、コンパイルコマンドを実行。[prefix] Down
で右下ペインに移動し、ログ監視コマンドを実行。[prefix] o
や[prefix] <Arrow Key>
でペイン間を移動しながら作業。- 特定のペインの出力に集中したいときは
[prefix] z
で拡大。 - 作業が終わったペインは
[prefix] x
またはexit
で閉じる。
5.4 その他の便利な基本操作
- コマンドモードに入る:
bash
[prefix] :
画面下部のステータスバーがコマンド入力行に変わります。ここでnew
,rename-session
,kill-session
,split-window
,new-window
など、様々なTmuxコマンドを直接入力・実行できます。キーバインドが分からない場合や、より詳細なオプションを指定したい場合に便利です。 - キーバインド一覧を表示:
bash
[prefix] ?
Tmuxの全てのキーバインド一覧が新しいウィンドウに表示されます。終了するにはq
キーを押します。 - ヘルプを表示:
bash
[prefix] H
現在のTmuxバージョン、設定ファイルパスなどの情報が表示されます。
6. Tmuxの応用操作 – もっと便利に使おう
基本的な操作をマスターすれば、Tmuxの便利さを実感できるはずです。さらに効率を上げるための応用操作や、カスタマイズについて見ていきましょう。
6.1 コピー&ペーストとスクロール
Tmuxセッション内で、画面に表示されているテキストをコピーして、別のペインやウィンドウ、あるいはシステムクリップボードに貼り付けたい場合があります。通常のターミナルエミュレータ(iTerm2, GNOME Terminalなど)のコピー&ペースト機能も使えますが、Tmux独自のコピーモードを使うと、より柔軟な操作が可能です。
また、ターミナルエミュレータのスクロール機能ではなく、Tmuxセッション自体のバッファをスクロールして過去の出力を確認したい場合にも、このコピーモードを利用します。
- コピーモードに入る:
bash
[prefix] [
画面がスクロール可能になり、左上隅に[0/0]
のような表示が出ます。これは「コピーモードに入りましたよ」という合図です。カーソルが画面のどこかに表示されます。
デフォルトでは、コピーモードでのカーソル移動やテキスト選択は Emacs風のキーバインドになっています。Viユーザーであれば、設定でVi風に変更するのがおすすめです(後述)。 - 画面内を移動:
コピーモード中は、以下のキーで画面内を自由に移動できます。- Emacs風 (デフォルト):
Ctrl + f
(PageDown),Ctrl + b
(PageUp),Ctrl + n
(Down),Ctrl + p
(Up) など - Vi風 (設定で変更後):
Ctrl + d
(Half PageDown),Ctrl + u
(Half PageUp),j
(Down),k
(Up),G
(Go to bottom),g
(Go to top) など
- Emacs風 (デフォルト):
- テキストの選択(コピー):
カーソルをコピー開始位置に移動させます。- Emacs風:
Ctrl + <space>
を押して選択開始。カーソルを移動させてAlt + w
またはCtrl + w
で選択範囲をバッファにコピー。 - Vi風:
Space
キーを押して選択開始。カーソルを移動させてEnter
キーで選択範囲をバッファにコピー。
選択したテキストはTmuxの内部バッファに保存されます。
- Emacs風:
- コピーモードを終了:
bash
q
コピーモードを終了し、通常のターミナル操作に戻ります。 - ペースト(貼り付け):
bash
[prefix] ]
Tmuxの内部バッファに保存されたテキストが、カーソルの位置に貼り付けられます。
Vi風キーバインドでのコピー&ペースト例:
[prefix] [
でコピーモードに入る。k
やj
、Ctrl + u
、Ctrl + d
などで目的のテキストが表示されている位置まで移動。- コピーを開始したい位置にカーソルを移動し、
Space
を押す。 - カーソルを移動させ、コピーしたい範囲を選択する。選択範囲はハイライトされます。
- コピーを終了したい位置で
Enter
を押す。選択範囲のテキストがTmuxバッファにコピーされ、コピーモードが終了する。 - ペーストしたいペインに移動し、
[prefix] ]
を押す。
システムクリップボードとの連携:
デフォルトでは、TmuxのコピーバッファはTmuxセッション内部にのみ有効です。Tmuxセッション外(例えば別のアプリケーションや、別のSSHセッション)にコピー&ペーストしたい場合は、追加の設定やプラグインが必要です。
- macOS + iTerm2など、一部のターミナルエミュレータはTmuxのコピーモードと連携し、自動的にシステムクリップボードにコピーしてくれる機能を持っています。
- Linuxなどの場合は、
xsel
やxclip
といったコマンドや、tmux-yank
のようなプラグインをTmuxの設定で連携させることで、システムクリップボードとの間でコピー&ペーストが可能になります。設定ファイル (.tmux.conf
) に特定のコマンドを記述する必要があります。
6.2 設定ファイル (~/.tmux.conf
)
Tmuxの最も強力な機能の一つが、高いカスタマイズ性です。.tmux.conf
という設定ファイルをホームディレクトリに作成することで、デフォルトの設定を上書きし、自分にとって最適なTmux環境を構築できます。
設定ファイルの場所:
通常は ~/.tmux.conf
です。
設定の記述方法:
設定ファイルには、Tmuxのコマンドを一行ずつ記述します。行頭の #
はコメントとして扱われます。
“`tmux
プレフィックスキーを Ctrl + a に変更
set -g prefix C-a
プレフィックスキーを変更したら、元の Ctrl + b を解除しておくと誤爆を防げる
unbind C-b
Ctrl + a を押した後に Ctrl + a を押すと、Tmuxコマンドとして認識させる(Screenのデフォルト)
bind C-a send-prefix
新しいウィンドウ番号を1から開始する (デフォルトは0)
set -g base-index 1
新しいペイン番号を1から開始する (デフォルトは0)
setw -g pane-base-index 1
ウィンドウの番号をペインが閉じられたときに再配置する
set -g renumber-windows on
ペイン分割のキーバインドを変更
| で左右分割
bind | split-window -h
– で上下分割
bind – split-window -v
ペイン移動を vi ライクなキーバインドに変更 (Ctrl + <方向キー> の代わり)
bind h select-pane -L
bind j select-pane -D
bind k select-pane -U
bind l select-pane -R
コピーモードのキーバインドを vi ライクに変更
setw -g mode-keys vi
コピーモードでのコピーをシステムクリップボードに連携する (環境による設定例)
macOS + reattach-to-user-namespace と pbcopy を使う場合
bind -T copy-mode-vi v send-keys -X begin-selection
bind -T copy-mode-vi y send-keys -X copy-pipe-and-cancel “reattach-to-user-namespace pbcopy”
Linux + xclip を使う場合
bind -T copy-mode-vi v send-keys -X begin-selection
bind -T copy-mode-vi y send-keys -X copy-pipe-and-cancel “xclip -in -selection clipboard”
マウス操作を有効にする (ペインのリサイズ、選択、ウィンドウ切り替えなどがマウスで可能になる)
set -g mouse on
ステータスバーの設定例
ステータスバーを上部に表示
set -g status-position top
ステータスバーの色設定
set -g status-bg colour238
set -g status-fg colour255
左側のステータスバーにセッション名とウィンドウリストを表示
set -g status-left ‘#[fg=colour245,bg=colour238] #S #[fg=colour238,bg=colour238]’
set -g window-status-format ‘#[fg=colour245,bg=colour238] #I:#W ‘ # 非アクティブウィンドウ
set -g window-status-current-format ‘#[fg=colour238,bg=colour31,bold] #I:#W #[fg=colour31,bg=colour238]’ # アクティブウィンドウ
右側のステータスバーに時刻やホスト名を表示
set -g status-right ‘#[fg=colour245,bg=colour238] %Y/%m/%d %H:%M #[fg=colour238,bg=colour238] #(hostname) ‘
ターミナルの色設定 (256色対応のため)
set -g default-terminal “screen-256color”
“`
これは設定例の一部です。Tmuxのmanページ (man tmux
) やオンラインリソースには、さらに多くの設定オプションやキーバインドのカスタマイズ例が紹介されています。
設定の反映:
.tmux.conf
を編集しても、起動中のTmuxセッションには自動的に反映されません。設定を反映させるには、以下のいずれかの方法を実行します。
- Tmuxセッションを全て終了し、再起動する。 (最も確実ですが、作業中のセッションは失われます)
- 起動中のセッション内で設定ファイルを再読み込みする:
bash
[prefix] : source-file ~/.tmux.conf
コマンドモードに入り、source-file
コマンドを実行します。設定ファイルにエラーがなければ、すぐに新しい設定が反映されます。
6.3 プラグインの利用とTPM
Tmuxはプラグインシステムを持っており、コミュニティによって開発された様々なプラグインを追加することで、さらに機能を拡張したり、設定を簡単にしたりできます。プラグイン管理には TPM (Tmux Plugin Manager) を利用するのが一般的です。
TPMのインストール:
TPMはGitHubで公開されています。以下のコマンドでクローンしてインストールします。
bash
git clone https://github.com/tmux-plugins/tpm ~/.tmux/plugins/tpm
.tmux.conf
でのプラグイン設定:
TPMをインストールしたら、.tmux.conf
の末尾に以下の内容を追加します。
“`tmux
List of plugins
set -g @plugin ‘tmux-plugins/tpm’
set -g @plugin ‘tmux-plugins/tmux-sensible’ # Tmuxの基本的な設定をよしなにしてくれる
Other examples
set -g @plugin ‘tmux-plugins/tmux-yank’ # システムクリップボード連携
set -g @plugin ‘tmux-plugins/tmux-resurrect’ # 再起動後もセッション状態を復元
set -g @plugin ‘tmux-plugins/tmux-continuum’ # セッション状態の自動保存・復元
Initialize TPM (keep this line at the very bottom of tmux.conf)
run ‘~/.tmux/plugins/tpm/tpm’
“`
set -g @plugin
の行で、利用したいプラグインをリスト形式で指定します。プラグイン名は通常 [GitHubユーザー名]/[リポジトリ名]
の形式で指定します。
プラグインのインストールと管理:
.tmux.conf
を編集してプラグインリストを追加/変更したら、ファイルを保存します。- 起動中のTmuxセッションがある場合は、設定ファイルを再読み込みします (
[prefix] : source-file ~/.tmux.conf
)。 [prefix] + I
(大文字のアイ) を押します。これはTPMに割り当てられたキーバインドで、「インストールと再読み込み」を実行します。.tmux.conf
に記述されたプラグインがダウンロードされ、インストールされ、設定が再読み込みされます。[prefix] + U
(大文字のユー) を押すと、「アップデート」を実行します。インストール済みのプラグインが最新バージョンに更新されます。[prefix] + u
(小文字のユー) を押すと、「インストール済みのプラグインをアンインストール」を実行します。.tmux.conf
からプラグインリストの行を削除した後、このコマンドを実行すると、該当プラグインが削除されます。
よく使われるプラグインの例:
tmux-sensible
: 多くのユーザーにとって「 sensible (賢明な、適切な)」なデフォルト設定を提供してくれます。これを導入するだけで、いくつかの基本的な不便が解消されます。tmux-yank
: Tmuxのコピーバッファとシステムクリップボードとの連携を簡単に行えるようにします。[prefix] + y
でヤンク、[prefix] + p
でペースト(システムクリップボードから)といったキーバインドを追加できます。tmux-resurrect
: Tmuxセッションを閉じたり、コンピュータを再起動したりしても、起動していたセッション、ウィンドウ、ペインの状態、さらには各ペインで実行していたプログラム(例えばvimで開いていたファイルなど)を保存・復元できるようにします。[prefix] + Ctrl + s
で保存、[prefix] + Ctrl + r
で復元、といったキーバインドを追加できます。tmux-continuum
:tmux-resurrect
の機能をさらに発展させ、セッションの状態を定期的に自動保存し、Tmux起動時に自動復元するように設定できます。これにより、Tmuxを「一度起動したら基本的には閉じない」ような、より永続的な環境として利用できるようになります。
これらのプラグインを活用することで、Tmux環境をより快適で強力なものにカスタマイズできます。
7. 実際の利用例シナリオ
Tmuxの機能と操作方法を学んだところで、実際の作業でどのように活用できるか、いくつかのシナリオを見てみましょう。
シナリオ1: リモートサーバーでの開発・運用作業
これがTmuxが最も輝く場面かもしれません。
- SSHでサーバーに接続:
bash
ssh user@your_server.com - Tmuxセッションを開始:
bash
tmux new -s dev_server
「dev_server」という名前でセッションを開始します。これで、このセッションはSSH接続が切れても生き残り続けます。 - ウィンドウを分ける:
- ウィンドウ0 (デフォルト): シェルで一般的なコマンドを実行したり、サーバーの状態を確認したり。
[prefix] c
で新しいウィンドウ(ウィンドウ1)を作成。ここでコードエディタを開き、ファイルを編集 (vim /path/to/your/code.py
)。[prefix] c
でさらに新しいウィンドウ(ウィンドウ2)を作成。ここでプログラムを実行したり、コンパイルしたり (python /path/to/your/code.py
またはmake
)。
- ペインを分割する:
- ウィンドウ2で
[prefix] "
を押してペインを上下に分割。 - 上のペインでプログラムを実行し、下のペインでログファイルを表示 (
tail -f /var/log/your_app.log
)。プログラムの出力とログを同時に監視できます。
- ウィンドウ2で
- ウィンドウ/ペイン間を移動しながら作業:
[prefix] 1
でエディタ画面に戻りコードを修正。[prefix] 2
で実行/ログ監視画面に戻り、結果を確認。- ログペインを選択 (
[prefix] Down
) して、一時的に拡大表示 ([prefix] z
) して詳細を確認。
- 作業中断/終了時:
- 作業を中断して後で再開したい場合、
[prefix] d
でセッションからデタッチします。ターミナルはSSHログイン直後の状態に戻ります。その後、SSH接続を切断しても、Tmuxセッションはサーバー上で生存し続けます。 - 作業を再開したいときは、再びSSHで接続し、
tmux attach -t dev_server
でセッションにアタッチします。前回の状態がそのまま復元されます。 - 作業を完全に終了したい場合は、各ペイン/ウィンドウを閉じるか、
[prefix] : kill-session
でセッション自体を終了します。
- 作業を中断して後で再開したい場合、
シナリオ2: ローカルでの複数タスク並行作業
ローカルマシンでの開発やタスク管理にもTmuxは役立ちます。
- ローカルターミナルでTmuxを起動:
bash
tmux new -s my_project
または、単にtmux
でも良いでしょう。 - ウィンドウを分ける:
- ウィンドウ0: プロジェクトのルートディレクトリでGit操作 (
git status
,git commit
など)。 [prefix] c
(ウィンドウ1): コードエディタ (vim
またはnano
) でソースコードを編集。[prefix] c
(ウィンドウ2): プログラムの実行やテスト実行 (npm test
,cargo run
,python script.py
など)。
- ウィンドウ0: プロジェクトのルートディレクトリでGit操作 (
- ペインを分割する:
- ウィンドウ2で
[prefix] %
(左右分割) を押す。 - 左ペインでプログラム実行、右ペインでコンパイルエラーやリンタの出力を表示。
- ウィンドウ2で
- 必要に応じて他のウィンドウやペインを追加:
- 例えば、ウィンドウ3でドキュメントを参照したり、ウィンドウ4で他のプロジェクトの作業をしたり。
- ウィンドウやペインを切り替えながら効率的に作業。
ローカルでのTmux利用のメリットは、多くのターミナルウィンドウを開いてタスクバーが埋まってしまうのを防ぎ、ウィンドウ間の切り替えを素早くキーボードで行えるようになる点です。また、誤ってターミナルウィンドウを閉じてしまっても、Tmuxセッションは残っているので安心です(設定やプラグインによってはPC再起動でも復元)。
シナリオ3: システム監視ダッシュボード
複数のシステムのメトリクスやログを同時に監視したい場合に、Tmuxのペイン分割が非常に役立ちます。
- Tmuxセッションを起動:
bash
tmux new -s monitoring - ペインを分割:
[prefix] %
(左右分割)[prefix] "
(上下分割) を何度か繰り返し、画面を複数のペインに分割します。例えば、2×2 や 3×3 のグリッド状に分割してみます。
- 各ペインで監視コマンドを実行:
- ペイン1:
htop
(CPU/メモリ/プロセス監視) - ペイン2:
iftop
(ネットワーク帯域監視) - ペイン3:
iostat -mxz 5
(ディスクI/O監視) - ペイン4:
tail -f /var/log/syslog
(システムログ監視) - ペイン5:
watch -n 5 df -h
(ディスク容量監視) - ペイン6:
watch -n 5 free -m
(メモリ使用量監視)
など、表示したい情報をそれぞれのペインで実行します。
- ペイン1:
- 画面全体で情報を一望:
分割されたペインに様々なコマンドの出力が同時に表示され、システム全体の状況をリアルタイムで把握できる監視ダッシュボードとして機能します。 - 特定の情報に集中したい場合は拡大:
例えば、特定のログ出力に注目したい場合は、そのペインを選択して[prefix] z
で拡大表示します。 - デタッチしてバックグラウンド実行:
監視を継続したい場合は、[prefix] d
でセッションからデタッチしておけば、ログアウトしたりSSH接続を切ったりしても監視は続行されます。後でアタッチすれば、最新の情報をすぐに確認できます。
このように、Tmuxはアイデア次第で様々な用途に活用できます。
8. よくある問題とトラブルシューティング
Tmuxを使っていると、時々予期しない挙動に遭遇することがあります。ここでは、いくつかのよくある問題とその解決策を紹介します。
8.1 コピー&ペーストがうまくできない
- Tmux内部バッファのコピー&ペースト:
- コピーモード (
[prefix] [
) に正しく入れていますか? - コピー開始 (
Space
またはCtrl + <space>
) と終了 (Enter
またはAlt + w
/Ctrl + w
) の操作は正しく行えていますか? - ペーストは
[prefix] ]
です。 - 設定でキーバインドを変更している場合は、新しいキーバインドを確認してください (
[prefix] ?
)。
- コピーモード (
- システムクリップボードとの連携:
- システムクリップボードとの連携は、OSやターミナルエミュレータ、設定によって挙動が異なります。
- macOSの場合は
pbcopy
/pbpaste
コマンドとreattach-to-user-namespace
の設定が必要です。 - Linuxの場合は
xclip
またはxsel
コマンドの設定が必要です。これらのコマンドがインストールされているかも確認してください。 tmux-yank
プラグインを使っている場合は、TPMで正しくインストールされているか確認し、.tmux.conf
の設定が正しいか見直してください。
8.2 スクロールがうまくできない
- Tmuxセッション内のスクロールは、基本的にコピーモード (
[prefix] [
) に入ってから行います。コピーモード中のカーソル移動キー(Emacs風またはVi風)を使って画面を上下に移動させてください。 - ターミナルエミュレータ自体のスクロールバーやトラックパッドでのスクロールは、Tmuxセッション内では期待通りに動作しないことがあります。特に
set -g mouse on
の設定をしていると、マウスホイールでのスクロールはペイン切り替えなどに割り当てられていることがあります。Tmux内でのスクロールはコピーモードで行うのが標準的な方法です。
8.3 カラー表示がおかしい、256色が表示されない
Tmuxセッションに入ると、アプリケーションのカラー表示がおかしくなったり、256色が表示されなくなったりすることがあります。これは、Tmuxが起動したペインの TERM
環境変数が tmux
や screen
となっているために、アプリケーションが正確な端末機能を認識できない場合に起こります。
解決策:
.tmux.conf
に以下の設定を追加し、設定を再読み込み(またはTmuxを再起動)してください。
“`tmux
set -g default-terminal “screen-256color”
または
set -g default-terminal “tmux-256color”
“`
screen-256color
または tmux-256color
というTERMタイプは、256色表示に対応していることが多いです。お使いのシステムやターミナルエミュレータでどちらのTERMタイプがより適切に機能するかは異なる場合があります。通常は screen-256color
で問題ないことが多いですが、もし問題が解決しない場合は tmux-256color
を試してみてください。また、お使いのターミナルエミュレータ自体が256色以上に対応している必要があります。
8.4 設定ファイル(.tmux.conf
)が反映されない
- 設定ファイルは
~/.tmux.conf
という名前で正しい場所に置いていますか? - 設定ファイルを編集した後、Tmuxセッション内で
[prefix] : source-file ~/.tmux.conf
を実行して再読み込みしましたか?または、Tmuxセッションを全て終了して再起動しましたか?設定は自動では反映されません。 - 設定ファイルの中に文法エラーはありませんか?
source-file
コマンドを実行したときにエラーメッセージが表示されていないか確認してください。エラーがあると、それ以降の設定が読み込まれません。 - TPMを使っている場合、
run '~/.tmux/plugins/tpm/tpm'
の行が設定ファイルの末尾にあるか確認してください。また、[prefix] + I
でプラグインが正しくインストールされているか確認してください。
8.5 キーバインドが他のアプリケーションと競合する
Tmuxのプレフィックスキー (Ctrl + b
または Ctrl + a
) やそれに続くキーバインドが、シェルや別のアプリケーション(例えばVimやEmacs)で使用しているキーバインドと競合することがあります。
解決策:
* Tmuxのプレフィックスキーを変更する: .tmux.conf
で set -g prefix [新しいキー]
と設定し、競合しにくいキーに変更します。
* Tmuxの特定のキーバインドを変更/解除する: 競合しているTmuxのキーバインドを、.tmux.conf
で unbind [キー]
で解除したり、bind [新しいキー] [コマンド]
で別のキーに割り当て直したりします。
* アプリケーション側のキーバインドを変更する: Tmuxは端末マルチプレクサであり、多くの操作はTmux内で行われますが、一部のキー入力はそのまま下のシェルやアプリケーションに渡されます。Vimなどのアプリケーション側の設定を変更することで、Tmuxのキーバインドと競合しないように調整します。例えば、VimではTmuxのプレフィックスキーを押した後にペイン間を移動するためのプラグイン(vim-tmux-navigator
など)があります。
キーバインドの競合は避けられないことも多いですが、上記の方法を組み合わせて、自分にとって最適な設定を見つけることが重要です。
9. Tmuxをさらに深く学ぶために
この記事では、Tmuxの基本的な概念、操作、そして応用例を紹介しました。Tmuxにはさらに多くの機能やカスタマイズオプションがあります。より深くTmuxを理解し、使いこなすためには、以下のリソースが役立ちます。
-
公式ドキュメント (manページ):
Linux/macOSのターミナルで以下のコマンドを実行すると、Tmuxの公式マニュアルが表示されます。
bash
man tmux
manページは情報量が非常に豊富ですが、最初は分かりにくいかもしれません。特に、設定ファイルのオプション(set-option
やset-window-option
)や、コマンドモードで実行できるコマンド(list-commands
など)について詳しく書かれています。知りたい機能や設定があれば、キーワードで検索(manページ内で/
を押してから検索語を入力)すると良いでしょう。 -
オンラインリソース:
インターネット上には、Tmuxに関する多くのチュートリアル、ブログ記事、Qiita記事、設定例などが公開されています。「tmux 使い方」「tmux 設定」「.tmux.conf 例」などのキーワードで検索すると、役立つ情報が見つかるでしょう。特に、他のユーザーが公開している.tmux.conf
ファイル(GitHubなどで「dotfiles」として公開されていることが多い)は、カスタマイズの参考になります。 -
Tmux Plugin Manager (TPM) のGitHubページ:
TPMのGitHubリポジトリでは、TPM自体の使い方だけでなく、人気のTmuxプラグインのリストや、それぞれのプラグインのインストール方法・設定方法が紹介されています。新しいプラグインを探すのに役立ちます。
https://github.com/tmux-plugins/tpm -
Tmuxコミュニティ:
Stack OverflowのようなQ&Aサイトや、Redditの/r/tmux
のようなコミュニティフォーラムでは、他のTmuxユーザーに質問したり、情報交換をしたりできます。
最初は基本的な操作から使い始め、少しずつ新しい機能や設定を試していくのがおすすめです。自分にとって最もよく使う操作のキーバインドを変更したり、ステータスバーをカスタマイズしたりするだけでも、使い勝手は大きく向上します。
10. まとめ
この記事では、ターミナルマルチプレクサであるTmuxについて、その必要性、機能、導入方法、基本操作、応用、そしてトラブルシューティングまで、幅広く詳細に解説しました。
Tmuxは、
- リモート接続が切断されても作業状態を維持できる 永続性
- 一つのウィンドウで複数の作業を同時に行える ウィンドウ/ペイン管理
- キーボードショートカットによる 素早い操作
- 設定ファイルやプラグインによる 高いカスタマイズ性
といった特徴を持ち、あなたのターミナルでの作業効率を劇的に向上させてくれます。特に、リモートサーバーでの作業や、複数のタスクを並行して行う開発作業においては、もはや欠かせないツールと言えるでしょう。
最初は多くのショートカットキーを覚えるのが大変に感じるかもしれませんが、まずは「セッションを開始 (tmux
)」「デタッチ ([prefix] d
)」「アタッチ (tmux attach
)」「新しいウィンドウ ([prefix] c
)」「ウィンドウ移動 ([prefix] n
/p
または [prefix] 数字
)」「ペイン分割 ([prefix] %
/"
)」「ペイン移動 ([prefix] <Arrow Key>
)」といった基本的な操作から使い始めてみてください。これらの基本操作だけでも、Tmuxのメリットを十分に実感できるはずです。
慣れてきたら、コピー&ペースト、設定ファイルによるカスタマイズ、そしてプラグインの導入と、徐々に応用的な機能にも挑戦してみてください。自分にとって最も使いやすいTmux環境を構築することで、日々のターミナル作業はより快適で生産的なものになるでしょう。
Tmuxは単なるツールの域を超え、あなたのターミナルとの向き合い方、そして作業スタイルそのものを変える可能性を秘めています。ぜひこの機会にTmuxを導入し、その強力な機能を体験してみてください。
この記事が、あなたのTmux学習の一助となれば幸いです。