Canon RF15-35mm F2.8 L IS USM:大三元広角ズームの実力を徹底検証
はじめに:RFシステムと広角大三元の重要性
キヤノンがEOS Rシステムを発表し、RFマウントという新たな時代へと突入してから数年が経ちました。RFマウントは、EFマウントに比べてマウント径の拡大とフランジバックの短縮という物理的なアドバンテージを活かし、より高性能なレンズ設計を可能にしました。この新システムの中核をなすのが、通称「大三元」と呼ばれるF2.8通しのプロフェッショナルズームレンズ群です。RF15-35mm F2.8 L IS USM、RF24-70mm F2.8 L IS USM、RF70-200mm F2.8 L IS USMの三本は、幅広い撮影領域をカバーし、多くのプロフェッショナルやハイアマチュアにとって欠かせない存在となっています。
中でも広角ズームであるRF15-35mm F2.8 L IS USMは、風景、建築、星景、スナップ、さらには広角を活かしたポートレートや動画制作に至るまで、その汎用性の高さから多くのEOS Rシステムユーザーが注目する一本です。F2.8通しという明るさは、暗所での撮影やボケ表現に有利であり、手ブレ補正機構(IS)の搭載は、特に広角域で有効性を発揮します。
しかし、このレンズは決して安価ではありません。それゆえ、その価格に見合うだけの「実力」が本当にあるのか、EFマウントの同等レンズからどれだけ進化したのか、そして実際の撮影現場でどのように役立つのかを知りたいと思う方は多いでしょう。
本記事では、Canon RF15-35mm F2.8 L IS USMの光学性能、AF性能、手ブレ補正機構、操作性、そして実際の撮影シーンでの使い勝手など、その「実力」を多角的に、かつ詳細に検証していきます。単なるカタログスペックの羅列ではなく、実際にこのレンズを使って撮影することで得られる描写や体験に焦点を当て、読者の皆様がこのレンズの真価を理解し、購入判断の一助となるような情報を提供することを目指します。約5000語というボリュームで、この広角大三元の全てを余すことなくお伝えできれば幸いです。
1. 製品概要とRFシステムにおける位置づけ
RFマウントがもたらす設計自由度
RFマウントは、EFマウント(内径54mm、フランジバック44mm)と比較して、マウント内径が54mmと変わらないものの、フランジバックが20mmと大幅に短縮されています。この短いフランジバックにより、レンズの最終群を撮像面(センサー)に近づけることが可能となり、レンズ設計の自由度が格段に向上しました。特に広角レンズでは、これにより画面周辺部の光線をセンサーに対してより垂直に近い角度で入射させることが容易になり、周辺光量落ちや解像度低下、色収差といった広角レンズ特有の課題を克服する上で大きなアドバンテージとなります。RF15-35mm F2.8 L IS USMも、このRFマウントの恩恵を最大限に受けて設計されています。
「大三元」広角ズームとして
キヤノンのEFレンズ時代からの伝統を受け継ぐ「大三元」レンズは、ズーム全域でF2.8という明るさを維持し、プロフェッショナルの厳しい要求に応える描写性能と堅牢性を備えたフラッグシップズームシリーズです。RFシステムにおける大三元は、RF15-35mm F2.8 L IS USM(広角)、RF24-70mm F2.8 L IS USM(標準)、RF70-200mm F2.8 L IS USM(望遠)の3本で構成され、この3本を揃えることで、15mmから200mmまでの焦点距離をF2.8通しでカバーできます。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、その中でも最も広角側を担当し、ダイナミックな表現や広い画角を必要とする撮影において中心的な役割を果たします。
基本仕様の確認
- 焦点距離: 15-35mm
- 開放F値: F2.8 (ズーム全域)
- 最小絞り: F22
- レンズ構成: 12群16枚 (非球面レンズ3枚、UDレンズ2枚含む)
- 絞り羽根枚数: 9枚 (円形絞り)
- 最短撮影距離: 0.28m (ズーム全域)
- 最大撮影倍率: 0.21倍 (35mm時)
- 手ブレ補正効果: 5段分 (CIPA基準、EOS R使用時)
- AF駆動: ナノUSM
- フィルター径: φ82mm
- 最大径×長さ: φ88.5mm×126.8mm
- 質量: 約840g
- 防塵防滴: 対応 (Lレンズ基準)
- コントロールリング: 搭載
EFマウントのEF16-35mm F2.8L III USMと比較すると、広角側が1mm広がり、最短撮影距離が短くなっています。また、RFレンズ独自のコントロールリングが追加されている点も大きな違いです。
ターゲットユーザー
このレンズは、最高の光学性能と堅牢性を求めるプロフェッショナルフォトグラファーや、高画質にこだわるハイアマチュアを主なターゲットとしています。風景写真家、建築写真家、報道写真家、さらには高品位な動画コンテンツを制作するクリエイターにとって、F2.8通しの明るさ、優れた描写性能、信頼性の高いAFとISは大きな武器となります。また、RFシステムで大三元を揃えたいと考えるユーザーにとっても、最初に手に入れたい一本となるでしょう。
2. 外観と操作性:Lレンズとしての質感と使い勝手
伝統的なLレンズデザイン
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、キヤノンのLレンズらしい堅牢で洗練されたデザインを受け継いでいます。マットな質感の黒い外装、赤いライン、そしてズームリングとフォーカスリングの質感は、手に取ったときの満足感を高めてくれます。ズーム方式はインナーズームではなく、ズームによって全長が変化するタイプです。15mm側が最も短く、35mm側へズームすると鏡筒が伸びます。全長の変化量は約3cm程度です。
各リングの配置と操作感
レンズには3つのリングが配置されています。
1. コントロールリング: レンズ先端部に最も近い位置にあります。クリック感があり、絞り値やISO感度、露出補正など、ユーザーが任意に機能を割り当てることができます。このリングを操作することで、カメラ本体のダイヤルを操作することなく設定変更ができるため、特に動画撮影時などでスムーズな露出調整に役立ちます。ただし、クリック音は動画記録の際にノイズとなる可能性があるため、気になる場合はサービスセンターでクリック解除の有償サービスを受けることも可能です。
2. フォーカスリング: コントロールリングとズームリングの間に位置します。RFレンズのフォーカスリングは電子式ですが、適度なトルク感があり、滑らかに回転します。MF時の応答性も良好で、精密なピント合わせが可能です。
3. ズームリング: 鏡筒の最も根元側に位置します。適度なトルクがあり、スムーズにズーム操作ができます。ズームによって鏡筒が伸びますが、自重で伸びてしまうようなことはありません。
スイッチ類とその他の機能
レンズ側面には、AF/MF切り替えスイッチと、手ブレ補正ON/OFFスイッチ(Stabilizer ON/OFF)が配置されています。これらのスイッチも操作感は良好です。Lレンズらしく、マウント部や各操作部分には防塵防滴に配慮したシーリングが施されており、厳しい撮影環境下でも安心して使用できます。フィルター径は82mmと比較的大きいですが、このクラスの広角ズームとしては標準的です。レンズフード(EW-88F)は付属しており、逆光時のフレア軽減やレンズ保護に役立ちます。
サイズと質量:カメラボディとのバランス
RF15-35mm F2.8 L IS USMの質量は約840gです。EOS RやRPといった比較的軽量なボディと組み合わせると、レンズの方がやや重く感じられるかもしれません。しかし、EOS R5やR6といったより大きくバランスの取れたボディや、バッテリーグリップを装着した状態であれば、バランスは良好です。ズームによって全長が変化するため、携行時に少し長くなる点は考慮が必要です。全体として、F2.8通しの広角ズームとしては標準的なサイズと質量であり、プロフェッショナルツールとして必要な堅牢性を備えていると言えるでしょう。
3. 光学性能の検証:描写力の真価
レンズの最も重要な要素である光学性能を詳細に検証します。解像度、各種収差、逆光耐性、ボケ味など、多角的な視点からその実力を見ていきます。
解像性能:中心から周辺まで
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、画面全体にわたって高い解像性能を発揮します。
- 中心解像度: ズーム全域、特に開放F2.8から非常に高い解像度を示します。細部の描写はシャープで、高画素機であるEOS R5などと組み合わせても、センサーの性能を十分に引き出すポテンシャルを持っています。絞り込むことでさらに解像度は向上しますが、F4~F5.6あたりでピークに達し、それ以上絞ると回折現象によりわずかに低下する傾向が見られます。
- 周辺解像度: 広角レンズ、特に大口径広角ズームにおいて、周辺解像度は最も注目される点の一つです。本レンズは、EF16-35mm F2.8L III USMと比較して、周辺解像度が大幅に改善されています。15mmの開放F2.8でも、画面四隅まで比較的良好な解像度を維持しており、風景写真や建築写真などで画面全体をシャープに描写したい場合に威力を発揮します。もちろん、絞り込むことで周辺解像度はさらに向上し、F5.6〜F8あたりでは中心部との差がほとんど感じられないレベルになります。RFマウントのメリットを活かした設計が、周辺部の描写向上に貢献していることが実感できます。
- 焦点距離による違い: 広角端の15mmと望遠端の35mmでは、わずかに描写傾向が異なります。一般的に、ズームレンズは焦点距離の両端で性能が低下しやすい傾向がありますが、本レンズは15mm、35mmともに高いレベルを維持しています。中間域(例えば24mm)では、さらに安定した優れた描写が得られる傾向が見られます。
実写サンプルでは、遠景の山並みのディテール、建築物の直線やテクスチャ、星景写真における星の点像描写など、細部までしっかりと解像していることが確認できます。特に画面周辺部まで妥協なく描写する能力は、風景写真家にとって大きなアドバンテージとなるでしょう。
歪曲収差:広角レンズの宿命と対策
広角レンズ、特に15mmという超広角域では、タル型の歪曲収差が発生するのは避けられません。RF15-35mm F2.8 L IS USMも、15mm端では比較的大きなタル型の歪曲が見られます。しかし、これは現代のデジタルレンズとしては設計の許容範囲内であり、むしろ光学性能を追求するために意図的に残された歪曲と言えます。
重要なのは、カメラ内でのレンズ光学補正(歪曲収差補正)や、キヤノン純正現像ソフトDPP、あるいはLightroom/Photoshopなどの現像ソフトで簡単に、そして非常に効果的に補正できることです。補正を適用することで、直線が画面の端までまっすぐに描写され、建築写真など直線が多い被写体でも自然な描写が得られます。35mm端では、わずかに糸巻き型の歪曲が見られますが、これも補正によって容易に解消できます。
実写においては、JPEG撮って出しの場合はカメラ内で自動的に補正されるため、歪曲が気になることはほとんどありません。RAWで撮影し、後処理で意図的に補正をオフにしない限り、歪曲収差は実用上問題にならないレベルに抑えられます。
周辺光量落ち(口径食):開放F値での傾向
開放F2.8では、特に広角端の15mmにおいて、画面四隅に周辺光量落ち(いわゆる「トンネル効果」)が見られます。これは大口径広角レンズの宿命とも言える現象であり、RF15-35mm F2.8 L IS USMも例外ではありません。
しかし、絞りをF4に一段絞るだけで周辺光量落ちは大きく改善され、F5.6まで絞ればほとんど気にならないレベルになります。F8まで絞れば完全に解消されます。
周辺光量落ちは、意図的に活用することで画面に奥行きや立体感を与える効果もあります。また、カメラ内でのレンズ光学補正や現像ソフトでの補正も非常に効果的であり、容易に解消することができます。JPEG撮って出しの場合、カメラ内補正が適用されるため、深刻な周辺光量落ちに悩まされることは少ないでしょう。RAWで撮影した場合でも、現像時に簡単に補正できます。実用上は、開放F2.8での描写を活かすか、絞って均一な明るさを得るか、あるいは補正で対応するか、撮影者の意図に応じて使い分けられるレベルです。
色収差:フリンジの発生状況
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、UDレンズを効果的に配置することで色収差を良好に補正しています。特に画面中心部では色収差はほとんど見られません。画面周辺部のハイコントラスト部、例えば逆光で建物の縁などが白飛びしているような箇所で、わずかにマゼンタやグリーンの色ズレ(倍率色収差)が見られることがありますが、これもごく軽微なレベルです。
軸上色収差(絞りによってピント面前後に発生する色ズレ)も、開放F2.8で極めて少なく抑えられており、ボケの中に色ズレが見られることはほとんどありません。
これらの色収差も、カメラ内補正や現像ソフトでの補正が非常に効果的です。JPEG撮って出しの場合や、RAWでもデフォルト設定で現像すれば、色収差が気になることはまずないでしょう。Lレンズらしい、色収差の少ないクリアな描写が得られます。
逆光性能:フレアとゴーストへの耐性
キヤノン独自の特殊コーティングであるASC(Air Sphere Coating)やSWC(Subwavelength Structure Coating)が採用されているRF15-35mm F2.8 L IS USMは、非常に優れた逆光耐性を備えています。太陽などの強い光源を画面内に入れても、フレアやゴーストの発生は最小限に抑えられています。
実写テストでは、太陽を画面の端や中央に配置した場合でも、画面全体のコントラスト低下は少なく、不要なゴーストもほとんど発生しませんでした。特に、光源周辺に発生しがちな色のついたゴーストや、画面全体を白っぽくするようなフレアが少ない点は、風景や建築写真などで太陽を構図に取り入れたい場合や、逆光ポートレートなどで非常に有利です。
ただし、ゼロではありません。特定の角度や光源の強さによっては、小さなゴーストが発生することがありますが、これは非常に控えめなものです。付属のレンズフードを適切に使用することで、さらに効果的にフレアやゴーストを抑制できます。Lレンズに期待される高いレベルの逆光耐性を備えていると言えるでしょう。
玉ボケ(ボケ味):広角での表現
広角レンズで大きなボケを得る機会は標準や望遠レンズに比べて少ないですが、開放F2.8、最短撮影距離0.28mを活用することで、被写体に近づいて背景を大きくぼかす表現が可能です。
RF15-35mm F2.8 L IS USMのボケ味は、開放F2.8において比較的滑らかで自然な描写が得られます。特に画面中心部の玉ボケは、円形で芯が目立たず、美しい描写です。ただし、広角レンズの宿命として、画面周辺部では玉ボケがレモン型に変形する「口径食」が見られます。これはこのクラスの広角ズームとしては一般的な傾向であり、本レンズが特に目立つわけではありません。
最短撮影距離0.28mはズーム全域で一定であり、特に35mm側で被写体に寄ることで、背景を大きくぼかした撮影が可能です。最大撮影倍率は0.21倍で、簡易的なクローズアップ撮影にも対応できます。広角によるパースペクティブと開放F2.8のボケを組み合わせることで、標準や望遠レンズでは得られないユニークな表現が可能です。
4. AF性能:高速・静粛なナノUSM
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、キヤノン独自のAFモーターであるナノUSMを搭載しています。ナノUSMは、静止画撮影における高速AFと、動画撮影における滑らかで静粛なAF駆動を両立できるモーターです。
AF速度と精度
ナノUSMの駆動は非常に高速です。特に明るい環境下では、ピント合わせが一瞬で完了し、シャッターチャンスを逃しません。広角レンズは被写界深度が深いため、比較的AFが容易ですが、ナノUSMの素早い応答性は、スナップ撮影などでテンポよく撮影を進める上で大きなアドバンテージとなります。精度に関しても、最新のEOS Rシステムボディ(R5, R6, R3など)の高性能なAFシステムと組み合わせることで、非常に高い精度で被写体を捉え続けます。
静粛性
ナノUSMは、従来のリングUSMやSTMと比較して、駆動音が非常に静かです。フォーカスレンズの移動が滑らかなため、耳を近づけても駆動音はほとんど聞こえません。この静粛性は、特に動画撮影において重要です。マイクがレンズの駆動音を拾ってしまう心配がほとんどなく、クオリティの高い動画コンテンツ制作に貢献します。
低照度下での性能
開放F2.8という明るさも相まって、低照度下でも比較的安定したAF性能を発揮します。EOS Rシステムボディの低照度AF性能と組み合わせることで、薄暗い室内や夜景など、ピント合わせが難しいシーンでも粘り強く合焦を試みます。ただし、極端な低照度やコントラストの低い被写体では、MFに切り替える方が確実な場合もあります。
動画撮影におけるAF
動画撮影時においても、ナノUSMは非常に滑らかで自然なフォーカシングを実現します。被写体追従AFもスムーズで、フォーカス送りの際も急激な動きが少なく、映画のような滑らかなフォーカシングが可能です。静粛性も相まって、動画クリエイターにとっても非常に魅力的なレンズと言えます。
MF時の操作感
RFレンズのフォーカスリングは電子式です。RF15-35mm F2.8 L IS USMのフォーカスリングは適度なトルク感があり、回し心地は良好です。電子式であるため、回転速度によってピント移動量が変化する設定(ノンリニア)と、回転量に連動する設定(リニア)を選択できます。リニア設定にすることで、マニュアルフォーカスレンズに近い感覚で操作でき、動画撮影での正確なフォーカス送りに役立ちます。
5. 手ブレ補正機構(IS)の検証:広角域でのアドバンテージ
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、レンズ内に手ブレ補正機構(IS)を搭載しています。公称で5段分の補正効果を謳っており、これは広角レンズとしては非常に強力です。
ISの効果:静止画撮影
手ブレ補正は、特にシャッタースピードが遅くなる低照度下や、意図的に被写体ブレを利用したい場合(流し撮りなど)に威力を発揮します。広角レンズは望遠レンズに比べて手ブレが目立ちにくい傾向がありますが、それでも夜景撮影や薄暗い室内での手持ち撮影などでは、ブレを防ぐ上でISが非常に有効です。
実際に様々なシャッタースピードでテスト撮影を行った結果、公称の5段分に近い補正効果が得られることが確認できました。例えば、通常手持ちでブレずに撮れる限界が1/30秒程度のシーンで、ISをONにすることで1/4秒や1/8秒といったシャッタースピードでもブレを抑えた撮影が可能となります(個人の手ブレ耐性や撮影状況によります)。これにより、三脚が使えない場所や、スナップ的に手持ちで夜景を撮りたい場合などに、ブレを気にせず低感度で高画質に撮影できる可能性が広がります。
動画撮影におけるIS
動画撮影時においても、ISは非常に重要な役割を果たします。手持ちでのパンやティルト、歩きながらの撮影など、手ブレの影響を軽減し、より安定した映像を得ることができます。
特に、EOS R5やR6といったボディ内手ブレ補正(IBIS)を搭載したカメラと組み合わせることで、レンズISとボディIBISが協調して補正効果を発揮します。キヤノンはこれを「協調制御IS」と呼んでおり、最大8段分もの補正効果を実現するレンズもありますが、本レンズは単体で5段分、協調制御で最大7段分の効果が得られます(EOS R5/R6使用時、焦点距離35mm時)。これにより、非常に強力な手ブレ補正が可能となり、ジンバルなしでの手持ち動画撮影の可能性が大きく広がります。歩き撮りなど、より大きなブレが発生するシーンでも、協調制御ISはスムーズで安定した映像を提供します。
ISのON/OFF判断
ISは、原則として手持ち撮影時にONにします。三脚を使用する場合は、ISをOFFにするのが推奨されます。これは、三脚による微細な振動をISがブレと誤認識し、かえって悪影響を与える可能性があるためです。ただし、最新のレンズやボディでは、三脚使用時を自動で判別してISの効きを調整する機能を持つものもありますが、確実性を期すなら三脚使用時はOFFにするのが良いでしょう。流し撮りの場合は、ISスイッチをONにしたままで、カメラが自動で流し撮りを判別して適切な方向のみ補正を行います。
6. 実写レビュー:様々なシーンでの使用感
RF15-35mm F2.8 L IS USMを様々なシーンで実際に使用し、その描写や使い勝手を検証しました。
風景写真:広大な世界を捉える
15mmという超広角は、広大な風景を一画面に収めるのに最適です。山並み、海岸線、都市のパノラマなど、肉眼で見た景色以上のダイナミズムを表現できます。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、画面中心から周辺まで高い解像度を誇るため、風景写真で重要な遠景の細部までシャープに描写します。特に画面周辺部の描写力が向上したことで、構図の自由度が高まりました。歪曲収差は補正前提ですが、補正後の描写は非常に自然です。開放F2.8の明るさは、夜明けや夕暮れ時のわずかな光を捉えるのに役立ちますし、ISO感度を上げずに済むためノイズの少ない高画質が得られます。ISは、三脚が使えない場所や、風が強く三脚が揺れるような状況での手持ち撮影で威力を発揮します。
建築写真:直線とパースペクティブ
建築写真では、歪曲収差の少なさや画面周辺部までの解像度、そして直線がまっすぐに描写されるかが重要です。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、15mm端でのタル型歪曲はありますが、強力な補正機能により解消できます。補正後の描写は非常に自然で、建物の垂直線や水平線が歪まずに描写されます。また、高い解像度により、建築物のディテールや素材感もしっかりと表現できます。超広角によるパースペクティブを活かして、建築物をダイナミックに、あるいは高さや奥行きを強調した表現が可能です。
スナップ写真:機動性と広い視点
F2.8通しの明るさとIS搭載、そして素早いAFは、スナップ撮影にも適しています。特に35mmはスナップの定番焦点距離の一つであり、F2.8の明るさは背景をぼかした表現や、薄暗い状況での手持ち撮影を可能にします。15mm〜24mmといった広角側では、街の雰囲気や人物と背景を同時に写し込むなど、広い視点で状況を切り取る撮影が楽しめます。ナノUSMによる静粛なAFは、目立たずに撮影したいストリートスナップなどで有利に働くでしょう。質量はありますが、この性能と明るさを考えれば十分実用的です。
ポートレート(広角):背景を取り込む表現
広角レンズでのポートレートは、被写体と背景を同時に写し込むことで、その場の雰囲気やストーリーを語るのに適しています。15mmや24mmといった焦点距離では、背景のパースペクティブを強調したり、被写体に近づいて顔を大きく写しつつ背景も広く取り込むといった、標準や望遠レンズでは不可能な表現ができます。RF15-35mm F2.8 L IS USMは開放F2.8のため、広角ながらも背景を適度にぼかすことが可能です。ただし、広角レンズ特有のパースペクティブにより、画面周辺部に人物を配置すると顔が歪む可能性があるため、構図には注意が必要です。中心部に人物を配置し、背景を広く見せるような構図が効果的でしょう。
星景写真/夜景:明るさと描写力
夜景や星景写真では、レンズの明るさと画面周辺部までの描写力が重要です。開放F2.8の明るさは、暗い夜空でもより多くの光を取り込み、星や街の明かりを鮮明に写すのに有利です。RF15-35mm F2.8 L IS USMは、開放から周辺解像度が高いため、画面の隅に写った星も点像に近い形で描写します。コマ収差(画面周辺部の点が鳥が羽を広げたような形に歪む現象)も、このクラスの広角ズームとしては良好に補正されています。F2.8で撮影することで、ISO感度を抑えたり、星の追尾撮影(赤道儀使用時)においてより長い露光時間を確保したりすることが可能になります。ノイズの少ないクリアな星空写真を得るために、この明るさは大きな武器となります。ISは星景写真のように三脚を使用する撮影では基本的にはOFFにしますが、夜景の手持ち撮影などでは有効です。
動画撮影:スムーズなAFと強力なIS
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、動画撮影においても高いポテンシャルを発揮します。ナノUSMによる滑らかで静粛なAFは、フォーカス送りが多用される動画撮影で非常に自然な映像を実現します。また、EOS Rシステムボディとの協調制御ISは、手持ちでの歩き撮りなど、ジンバルなしでも十分実用的な安定した映像を得ることを可能にします。広角端の15mmは、Vlogなど自分撮りをする際にも、背景を広く写し込んで状況を伝えやすい画角です。コントロールリングを露出補正などに割り当てることで、撮影中にシームレスな設定変更が可能となり、動画クリエイターのワークフローを強力にサポートします。
近接撮影:意外な一面
最短撮影距離がズーム全域で0.28mと短いのも特長です。特に35mm側で被写体に寄ることで、最大撮影倍率0.21倍の簡易的なクローズアップ撮影が可能です。広角レンズで被写体に寄ると、パースペクティブが強調され、背景が大きく写り込みながらもボケるという、ユニークな描写が得られます。テーブルフォトや、小さな被写体を大きく写しつつ背景も取り込みたい場合などに面白い表現ができます。
7. 競合レンズとの比較:その立ち位置
EF16-35mm F2.8L III USMとの比較
RF15-35mm F2.8 L IS USMの最大の比較対象は、EFマウントのEF16-35mm F2.8L III USMでしょう。
* 焦点距離: RFは15mmからと、EFより1mm広角です。この1mmの差は、超広角域では意外と大きく、よりダイナミックな表現が可能になります。
* 光学性能: RFマウントのメリットを活かし、特に画面周辺部における解像度と描写の均一性は、RFの方が優れています。EF III型も非常に優秀なレンズですが、RFはそれをさらに上回る性能を持っています。色収差や逆光耐性もRFの方がわずかに良好です。
* 手ブレ補正: RFにはISが搭載されていますが、EF III型にはありません。これは静止画の手持ち撮影や動画撮影において大きなアドバンテージとなります。
* AF: RFはナノUSM、EF III型はリングUSMです。どちらも高速ですが、ナノUSMはより静粛で動画撮影に適しています。
* 操作性: RFにはコントロールリングが追加されています。EFからRFへの乗り換えを検討している場合、ISの有無とコントロールリングの有無は大きな判断材料となるでしょう。
* 価格: RFはEF III型よりも高価です(発売当初の価格比較)。
総合的に見て、RF15-35mm F2.8 L IS USMは、EF16-35mm F2.8L III USMを光学性能、機能性(IS、コントロールリング)において上回る、正統進化と言えるレンズです。RFシステムユーザーであれば、特別な理由がない限り、EFレンズをアダプター経由で使用するよりもRFレンズを選ぶメリットが大きいでしょう。
その他のRF広角レンズとの棲み分け
キヤノンのRF広角ズームには、他にもRF14-35mm F4L IS USMやRF10-20mm F4L IS STMなどがあります。
* RF14-35mm F4L IS USM: F値がF4通しと一段暗くなりますが、その分小型軽量で価格も抑えられています。広角端が14mmとさらに広く、ISも搭載しています。F2.8の明るさやボケ表現、低照度性能を重視しないのであれば、非常に魅力的な選択肢となります。サイズや価格を優先するユーザー向けです。
* RF10-20mm F4L IS STM: これは超広角ズームであり、10mmからの画角はRF15-35mmとは全く異なる世界を提供します。F値はF4通しで、STMモーターを搭載しています。より極端な広角表現を求めるユーザー向けのレンズであり、RF15-35mmとは併用する性格のレンズと言えます。
RF15-35mm F2.8 L IS USMは、明るさ、描写性能、機能性のバランスに優れ、「大三元」としてプロフェッショナルな要求に応える、RF広角ズームラインナップの中核をなすレンズと言えるでしょう。
8. RF15-35mm F2.8 L IS USMの「実力」とは
これまでの検証を通して、RF15-35mm F2.8 L IS USMの「実力」が見えてきました。それは単に高画質であるというだけでなく、様々な側面における高いレベルでのバランスと信頼性にあります。
光学性能:Lレンズの誇り
RFマウントの恩恵を受けた最新の光学設計により、画面全体にわたって非常に高い解像性能、良好な色収差補正、優れた逆光耐性を実現しています。特に、広角端開放F2.8における画面周辺部の描写力向上は目覚ましく、EF時代の広角ズームと比較して明確な進化を感じさせます。歪曲収差はありますが、デジタル補正を前提とした設計であり、補正後の描写は極めて自然です。Lレンズとしての誇りにふさわしい、妥協のない描写性能を備えています。
AF性能:高速・静粛、そして滑らか
ナノUSMによるAFは、静止画・動画問わず、高速性、精度、そして静粛性を高いレベルで両立しています。特に動画撮影時の滑らかなフォーカシングは、現代のレンズに求められる重要な要素であり、本レンズはその要求に応えています。
手ブレ補正機構:広角域での安心感
5段分(協調制御で最大7段分)のISは、特に低照度下での手持ち撮影や動画撮影において強力な味方となります。広角域での手ブレは目立ちにくいとはいえ、シャッタースピードが遅くなる状況ではISの有無が撮影の成否を左右することもあります。また、動画撮影においては、歩き撮りなどでの手ブレを大幅に軽減し、映像の安定性を高めます。
操作性・信頼性:プロフェッショナルツールとして
Lレンズらしい堅牢な作りと防塵防滴構造は、厳しい撮影環境下でも安心して使用できる信頼性を提供します。コントロールリングの搭載は、RFシステムならではの操作性向上に貢献しています。ズームやフォーカスリングのトルク感も良好で、マニュアル操作も快適に行えます。プロフェッショナルの道具として、必要な堅牢性と操作性を兼ね備えています。
総合的な実力:万能性と高品位
RF15-35mm F2.8 L IS USMの「実力」とは、これらの要素が統合された結果、幅広い撮影シーンで最高のパフォーマンスを発揮できる「万能性」と、得られる描写の「高品位さ」にあると言えます。風景写真での広大な描写、建築写真での正確な表現、スナップでの機動性、夜景・星景での明るさと解像度、そして動画撮影でのスムーズな操作性。これらの要求に高いレベルで応える能力こそが、このレンズの真価であり、「大三元」広角ズームとしての面目躍如たる点です。
高価格ではありますが、最高の描写性能、堅牢性、そして現代の撮影スタイル(動画含む)に対応できる先進性を考慮すれば、その価格に見合う価値があると言えるでしょう。特に、RFシステムを主軸に据え、プロフェッショナルな用途や最高のクオリティを求めるユーザーにとっては、投資する価値のある一本です。
9. 長所と短所
本レンズの検証結果を、長所と短所としてまとめます。
長所
- 優れた光学性能: 画面中心から周辺まで非常に高い解像度。色収差や歪曲収差は良好に補正される(補正前提)。優れた逆光耐性。
- F2.8通しの明るさ: 低照度下での撮影、ボケ表現、ISO感度を抑えた撮影に有利。
- 効果的な手ブレ補正(IS): 静止画・動画問わず、特に低速シャッターや手持ち撮影で威力を発揮。ボディ内ISとの協調制御でさらに強力。
- 高速・静粛なAF: ナノUSMによるAFは、静止画・動画問わずストレスフリー。
- 良好な操作性: コントロールリング搭載、各リングのトルク感良好。
- 高い信頼性: Lレンズらしい堅牢な作りと防塵防滴構造。
- 最短撮影距離0.28m: 広角でのクローズアップ撮影が可能。
- 広角端15mm: EF版より1mm広い画角でよりダイナミックな表現。
短所
- 高価格: プロフェッショナル向けの性能ゆえ、価格は高め。
- 質量とサイズ: 約840gと、F2.8通しの広角ズームとしては標準的だが、軽量なボディと組み合わせるとやや重く感じる。ズームで全長が伸びる。
- 広角端の歪曲収差: 15mm端ではタル型の歪曲が大きい(ただし補正で容易に解消)。
- 周辺光量落ち: 開放F2.8では周辺光量落ちが見られる(ただし絞りや補正で容易に解消)。
10. まとめと推奨ユーザー
Canon RF15-35mm F2.8 L IS USMは、RFシステムにおける広角大三元レンズとして、期待通りの、あるいはそれ以上の「実力」を備えたレンズです。最新の光学設計、高速かつ静粛なAF、効果的な手ブレ補正、そしてLレンズならではの堅牢性と操作性は、プロフェッショナルやハイアマチュアの厳しい要求に十分に応えるものです。
開放F2.8から画面周辺まで妥協のない描写性能は、特に高画素機との組み合わせで真価を発揮します。ISとナノUSMは、写真だけでなく動画制作においても大きなアドバンテージとなり、現代の多様な撮影スタイルに対応できる高いポテンシャルを持っています。
もちろん、高価格であり、決して小型軽量ではありません。広角端の歪曲や開放F2.8での周辺光量落ちといった広角レンズ特有の特性もありますが、これらは現代のレンズ設計やデジタル補正技術によって十分にカバーされており、実用上問題となることはほとんどありません。
推奨するユーザーは以下の通りです。
- プロフェッショナルフォトグラファー: 風景、建築、報道、イベントなど、広角域を多用し、最高の描写性能と信頼性を求める方。
- 高画質にこだわるハイアマチュア: 写真作品のクオリティを追求し、RFシステムで高性能なレンズを求めている方。
- 動画クリエイター: 広角での手持ち撮影やスムーズなAFを重視し、高品位な映像制作を目指す方。
- RFシステムで大三元を揃えたい方: ズーム全域F2.8通しでシステムを構築したい方。
価格はネックとなるかもしれませんが、一度手にすれば、その優れた描写性能と使い勝手、そして得られる結果にきっと満足できるはずです。このレンズは、RFシステムを最大限に活用し、よりクリエイティブな表現を追求したいと考える写真家・映像制作者にとって、間違いなく最高の選択肢の一つと言えるでしょう。RFシステムの広角域を支える屋台骨として、今後長く活躍してくれるであろう、まさに「大三元」の名にふさわしい一本です。
キヤノンRFシステムのポテンシャルを体感したい、広角域で最高の描写を手に入れたい、そして写真も動画も妥協なく撮りたい。そんなあなたに、このRF15-35mm F2.8 L IS USMを自信を持ってお勧めします。その実力は、きっとあなたの期待を超えるはずです。