whisper cpp を使ってみよう!高速・高精度なローカル音声認識

はい、承知いたしました。Whisper C++ に関する詳細な記事を約5000語で記述し、内容を直接表示します。


Whisper C++ を使ってみよう!高速・高精度なローカル音声認識

はじめに:音声認識技術の現状とローカルAIの可能性

現代において、音声認識技術は私たちの生活やビジネスに不可欠なものとなりつつあります。スマートスピーカーへの指示、スマートフォンの音声入力、議事録の自動作成、コールセンターの会話分析など、様々な場面で活用されています。

しかし、これらの多くのサービスは、私たちの音声をインターネット経由でクラウド上のサーバーに送信し、そこで認識処理を行っています。この仕組みにはいくつかのメリットがあります。例えば、サービス提供者は常に最新の高性能なモデルを利用でき、ユーザーはデバイスの性能に依存せず高度な認識を利用できます。

一方で、クラウドベースの音声認識には無視できない課題も存在します。

  1. プライバシー: 音声データは機密情報を含む可能性が高く、外部サーバーに送信されることに抵抗を感じるユーザーや、規制によってデータの外部送信が制限されるケースがあります。
  2. コスト: 大量の音声を処理する場合、クラウドサービスのAPI利用料は無視できないコストとなり得ます。
  3. オフライン利用: インターネット接続がない環境では利用できません。不安定な接続状況では、認識精度や速度が低下することもあります。
  4. 速度(レイテンシ): 音声データを送信し、処理結果を受け取るまでの間にネットワークの遅延が発生します。リアルタイム性が求められるアプリケーションでは、この遅延が問題になることがあります。

これらの課題に対し、ローカル環境で高速かつ高精度な音声認識を実行できる技術への関心が高まっています。ユーザー自身のデバイス上で音声処理が完結すれば、プライバシーは保護され、オフラインでも利用可能になり、ネットワーク遅延の影響も受けません。コストも、初期のハードウェア投資を除けば、継続的なAPI利用料はかかりません。

そんな中、OpenAIが開発・公開した音声認識モデル「Whisper」が登場しました。Whisperは、大規模なデータセットで学習されており、多言語対応、自動言語識別、そして音声翻訳といった高い能力を持っています。その登場は、音声認識技術の分野に大きな衝撃を与えました。

オリジナルのWhisperはPythonで実装されており、そのままでも強力ですが、より高速な推論、より低いリソース使用量、そして様々なプラットフォームへの組み込みやすさを求める声がありました。そこで生まれたのが、WhisperをC++でゼロから再実装した「whisper.cpp」プロジェクトです。

whisper.cppは、オリジナルのWhisperのモデルファイルを活用しつつ、C++による効率的な実装と様々なハードウェア最適化によって、驚異的な速度と軽量性を実現しています。ローカル環境で高性能な音声認識を手軽に、そして強力に実行したい方にとって、whisper.cppはまさに理想的なソリューションと言えるでしょう。

この記事では、このwhisper.cppを「使ってみよう!」をテーマに、その魅力、環境構築から基本的な使い方、さらには応用例やパフォーマンス、注意点まで、詳細かつ網羅的に解説していきます。この記事を読めば、あなたも自分のPCで高速・高精度な音声認識を自在に操れるようになるはずです。さあ、whisper.cppの世界へ踏み出しましょう!

Whisperとは何か? OpenAIによる音声認識のブレークスルー

まず、whisper.cppの基盤となっているオリジナルの「Whisper」について少し掘り下げて理解しておきましょう。

Whisperは、2022年9月にOpenAIによって公開されたオープンソースの音声認識モデルです。その最も注目すべき点は、68万時間という膨大な量の「監視付き」音声データ(つまり、音声とその正確な書き起こしテキストのペアデータ)で学習されていることです。このデータセットは、様々な言語、アクセント、ノイズ環境、技術的なトピックを網羅しており、モデルの汎用性と堅牢性を高めるのに貢献しています。

Whisperのアーキテクチャは、TransformerをベースにしたEncoder-Decoderモデルです。
Encoderは、入力された音声信号から特徴量を抽出します。
Decoderは、Encoderから受け取った特徴量をもとに、対応するテキストを生成します。

学習データには、音声認識(ASR: Automatic Speech Recognition)だけでなく、自動言語識別(LID: Language Identification)や、特定の言語(主に英語)への音声翻訳(ST: Speech Translation)のアノテーションも含まれていました。これにより、Whisperは単に音声をテキストに変換するだけでなく、以下の能力を同時に持ち合わせています。

  1. 多言語対応: 英語だけでなく、日本語、中国語、スペイン語、フランス語など、数十の言語に対応しています。データセットに含まれる言語であれば、高い精度で認識できます。
  2. 自動言語識別: 入力された音声が何語であるかを自動的に判別できます。
  3. 音声翻訳: 非英語の音声を認識しつつ、同時に英語に翻訳することができます。例えば、日本語の音声を聞き取って、その内容を英語のテキストとして出力するといったことが可能です。

OpenAIは、モデルの訓練に使用したコードと、推論のためのPythonコードをGitHub上で公開しました。これにより、研究者や開発者はWhisperの強力な能力を自分の環境で試したり、独自のアプリケーションに組み込んだりすることが可能になりました。

オリジナルのWhisperはPythonとPyTorchで実装されており、GPUを利用することで高速な推論が可能になります。しかし、Python環境のセットアップやPyTorchなどの依存ライブラリ、特にGPU利用のためのCUDA環境の構築は、非Pythonユーザーや特定の環境(例: リソースが限られたデバイス、特定のOS)にとってはハードルとなる場合があります。また、PythonのGIL(Global Interpreter Lock)やインタプリタのオーバーヘッドが、C++などのネイティブコードに比べてパフォーマンスのボトルネックとなる可能性も指摘されていました。

Whisperの登場は確かに画期的でしたが、そのポテンシャルをより広く、より効率的に引き出すための改良が求められていたのです。

Whisper C++ の登場:パフォーマンスとアクセシビリティの追求

オリジナルのWhisperが公開され、その能力の高さが広く知られるようになると、様々な開発者がそのモデルを活用したプロジェクトを立ち上げ始めました。その中で特に注目を集めたのが、ggerganov氏によるwhisper.cppプロジェクトです。

ggerganov氏は、機械学習モデルをC++で高速かつ効率的に実行するためのライブラリGGML (Georgi Gerganov’s Machine Learning library) を開発しています。このGGMLは、大規模言語モデルであるMetaのLLaMAをCPUで高速に動作させるllama.cppプロジェクトでも利用されており、そのパフォーマンスの高さと移植性の良さで大きな成功を収めています。whisper.cppも、このGGMLライブラリを基盤としています。

whisper.cppの目的は、オリジナルのWhisperモデルを、PythonやPyTorchといった特定のフレームワークに依存することなく、C++でゼロから再実装し、様々な環境で高速かつ効率的に動作させることです。

なぜC++だったのか?

  1. パフォーマンス: C++はネイティブコードにコンパイルされるため、Pythonのようなインタプリタ言語に比べて一般的に実行速度が高速です。メモリ管理も細かく制御できるため、リソース効率の良い実装が可能です。
  2. 依存性の低減: Pythonや特定の深層学習フレームワーク(PyTorch, TensorFlowなど)への依存を取り除くことで、ビルド済みの実行ファイルを配布しやすくなり、利用者はシンプルな手順で導入できるようになります。
  3. 組み込みやすさ: C++は多くの種類のアプリケーションやシステム開発で利用される言語です。C++ライブラリとして提供することで、他のC++プロジェクトへの統合が容易になります。組み込みシステムやモバイルアプリケーションなど、リソースが限られた環境や、Python実行環境の構築が難しい環境でも利用しやすくなります。
  4. プラットフォーム独立性: C++と適切なビルドシステム(CMakeなど)を利用することで、Linux、macOS、Windowsといった主要なデスクトップOSだけでなく、ARMベースのモバイルデバイス(スマートフォン、Raspberry Piなど)や、Webブラウザ上(WebAssemblyを利用)など、幅広いプラットフォームへの移植が比較的容易になります。

whisper.cppは、オリジナルのWhisperが使用しているモデルファイル(具体的には、OpenAIが公開しているモデルの重みを、GGMLライブラリで使用できる.bin形式に変換したもの)を読み込んで推論を実行します。したがって、モデル自体の精度はオリジナルのWhisperと同等ですが、推論の実行速度リソース使用量において大きな優位性を持っています。

GGMLライブラリは、CPUでの効率的な行列演算や、様々なハードウェアアクセラレーション(AVX/FMAなどのSIMD命令、cuBLAS/CUDA、Core ML、OpenVINOなど)の活用をサポートしています。これにより、whisper.cppは単にC++になっただけでなく、利用可能なハードウェアを最大限に活用して高速な音声認識を実現しています。

whisper.cppは、コマンドラインツールの提供や、C++ライブラリとしてのAPI公開を通じて、開発者や一般ユーザーがWhisperの能力を手軽に、かつ強力に活用できるようにしています。その高速性とローカル実行能力は、プライバシー重視のアプリケーションや、オフライン環境での利用、あるいは処理コストを抑えたい場合に、非常に魅力的な選択肢となります。

Whisper C++ のメリット・デメリット

whisper.cppを使うことで得られる利点と、考慮すべき点を整理しましょう。

メリット

  1. 圧倒的な高速性: オリジナルのPython+PyTorch実装と比較して、CPU推論が格段に高速です。特にCPU最適化(SIMD命令、マルチスレッド)や、利用可能なハードウェアアクセラレーション(GPU, Neural Engine, VPUなど)を活用することで、音声の長さと同等か、それ以上の速度(リアルタイムファクター <= 1.0)での認識も十分に可能です。これにより、大量の音声データをバッチ処理したり、リアルタイムに近い形で音声を認識したりすることが現実的になります。
  2. 完全なローカル実行: 音声認識処理がインターネットに接続することなく、あなたのPCやデバイス上で完結します。これにより、以下の大きな利点が生まれます。
    • プライバシーの保護: 機密性の高い音声データが外部に漏れる心配がありません。医療、法律、ビジネスなどの分野で、プライバシー規制を遵守しながら音声認識を利用できます。
    • オフライン利用: インターネット接続がない環境や不安定な環境でも、安定して利用できます。
    • ネットワーク遅延なし: 音声入力から結果出力までの時間が、ネットワークのレイテンシに影響されません。リアルタイムアプリケーションに適しています。
  3. 低リソース使用量: Python版に比べて、メモリ使用量やCPU負荷が少ない傾向があります。特に、モデルの量子化バージョン(より少ない精度でモデルを表現し、ファイルサイズとメモリ使用量を削減したもの)を利用することで、さらにリソース消費を抑えられます。これにより、高性能なGPUがない環境や、ノートPC、さらにはRaspberry Piのような低スペックデバイスでも、実用的な速度で動作させることが可能です。
  4. 組み込みやすさ: C++で実装されているため、既存のC++アプリケーションや、C++と連携しやすい他の言語(C, Rustなど)からの呼び出しが容易です。ライブラリとして提供されているAPIを利用することで、カスタムアプリケーションに音声認識機能をシームレスに統合できます。
  5. 広範なプラットフォーム対応: 標準的なC++とCMakeを使用しているため、Linux、macOS、Windowsといった主要OSはもちろん、Apple Silicon (Mシリーズチップ) のNeural Engineを利用するCore ML、Intel CPU/GPU/VPUを利用するOpenVINO、ARMベースのデバイス、さらにはWebブラウザ(WebAssembly)など、様々な環境で動作させることができます。
  6. コスト削減: クラウドAPIの従量課金制とは異なり、一度環境を構築すれば、どれだけ多くの音声を処理しても追加費用はかかりません(電気代などを除く)。大量の音声を処理する場合、長期的に見てコストを大幅に削減できる可能性があります。

デメリット

  1. 初期セットアップ(ビルド): 利用するには、多くの場合ソースコードからビルドする必要があります。これにはC++コンパイラやCMakeといった開発ツールの準備が必要です。慣れていないユーザーにとっては、Pythonのpip installなどに比べて少しハードルが高いかもしれません(ただし、最近はプリコンパイル済みのバイナリも提供されています)。
  2. モデルファイルのダウンロード: 推論を実行するには、数GBサイズのモデルファイルをダウンロードする必要があります。これはPython版でも同様ですが、ディスク容量の考慮が必要です。
  3. 高レベルAPIの記述容易性: スクリプト言語であるPython版は、短いコードで簡単に複雑な処理を記述できる場合があります。一方、C++でアプリケーションに組み込む場合は、より低レベルなAPIを扱うことになり、Pythonに比べて記述量が多くなる傾向があります。
  4. 機能やモデルの更新: オリジナルのWhisperや他の派生プロジェクトの最新の機能やモデル(例えば、新しいモデルバージョンや特定のタスクに特化したファインチューニングモデルなど)が、whisper.cppにすぐには取り込まれない場合や、利用方法が異なる場合があります。

これらのメリット・デメリットを理解した上で、あなたの用途や環境にwhisper.cppが適しているかを判断することが重要です。特にプライバシー、オフライン利用、コスト削減、そして高速性を重視する場合、whisper.cppは非常に強力な選択肢となるでしょう。

環境構築:Whisper C++ をビルドして動かす準備

whisper.cppを使うためには、まずソースコードを取得し、ビルドする必要があります。ここでは、主要なOSにおける基本的なビルド手順と、モデルファイルの準備について説明します。

必要なもの

  1. Git: ソースコードリポジトリをクローンするために必要です。
    • Windows: Git for Windows をインストール。
    • macOS: macOS Catalina以降では最初から入っています。またはHomebrewでbrew install git
    • Linux: 各ディストリビューションのパッケージマネージャでインストール(例: sudo apt update && sudo apt install git on Ubuntu)。
  2. CMake: プロジェクトのビルド設定を行うために必要です。
    • Windows: CMake公式サイトからインストーラーをダウンロード。
    • macOS: Homebrewでbrew install cmake
    • Linux: 各ディストリビューションのパッケージマネージャでインストール(例: sudo apt install cmake)。
  3. C++ コンパイラ: ソースコードをコンパイルするために必要です。
    • Windows: Visual Studio with C++ Build Tools (無償のCommunityエディションで可) または MinGW-w64。
    • macOS: Xcode Command Line Tools (xcode-select --installでインストール)。Clangコンパイラが含まれます。
    • Linux: GCCまたはClang(例: sudo apt install build-essential on Ubuntu)。

ソースコードのクローン

ターミナルまたはコマンドプロンプトを開き、以下のコマンドを実行してGitHubリポジトリをクローンします。

bash
git clone https://github.com/ggerganov/whisper.cpp.git
cd whisper.cpp

ビルド手順

CMakeを使ってビルドを行います。基本的なCPUのみのビルドは非常に簡単です。

“`bash

ビルドディレクトリを作成・移動

mkdir build
cd build

CMakeを実行してビルド設定を生成

通常はデフォルト設定でCPUビルドされます

cmake ..

makeコマンドでビルドを実行

make
“`

これで、build/binディレクトリに実行ファイル(mainstreamなど)が生成されます。

様々なオプションを使ったビルド(ハードウェアアクセラレーションなど)

whisper.cppは様々なハードウェア最適化やバックエンドをサポートしています。これらを有効にするには、CMake実行時にオプションを指定します。

  • OpenBLASの利用 (CPUの行列計算高速化)
    OpenBLASはCPUでの行列計算を高速化するためのライブラリです。多くの環境でパフォーマンス向上に役立ちます。

    “`bash

    OpenBLASをインストール (例: Ubuntu)

    sudo apt install libopenblas-dev

    (macOS/Homebrew: brew install openblas)

    (Windows: vcpkgや手動ビルドなど)

    CMake実行時にオプション指定

    cmake .. -DWHISPER_NO_COREML=OFF -DWHISPER_NO_METAL=OFF -DWHISPER_NO_ACCELERATE=OFF -DWHISPER_OPENBLAS=ON -DOpenBLAS_DIR=/path/to/openblas # OpenBLAS_DIRは必要に応じて指定
    make
    ``
    多くのシステムでは
    -DWHISPER_OPENBLAS=ON`だけでCMakeがOpenBLASを見つけてくれます。

  • cuBLAS/CUDAの利用 (NVIDIA GPU)
    NVIDIA GPUを利用する場合、cuBLASを有効にすると大幅な高速化が見込めます。CUDA Toolkitのインストールが必要です。

    “`bash

    CUDA Toolkitをインストール (NVIDIA開発者サイトから入手)

    cuBLASはCUDAに含まれています

    CMake実行時にオプション指定

    cmake .. -DWHISPER_CUBLAS=ON
    make
    “`

  • Core MLの利用 (macOS / Apple Silicon)
    Apple Silicon (M1, M2など) 搭載Macでは、Core MLを利用してNeural Engineを有効にすると、特に大型モデルで高速化されます。

    “`bash

    CMake実行時にオプション指定 (通常、macOSではデフォルトで有効)

    cmake .. -DWHISPER_COREML=ON
    make
    “`

  • Metalの利用 (macOS / Apple Silicon/Intel GPU)
    MetalはmacOS/iOS向けのグラフィック/コンピュートAPIです。GPUを利用した高速化に利用されます(Core MLと併用されることもあります)。macOSでは通常デフォルトで有効です。

    bash
    cmake .. -DWHISPER_METAL=ON
    make

  • OpenVINOの利用 (Intel CPU/GPU/VPU)
    Intelハードウェア(特にCPU、統合GPU、VPU)での推論を最適化するOpenVINOツールキットを利用します。OpenVINOのインストールが必要です。

    “`bash

    OpenVINOツールキットをインストール (Intelのサイトから入手)

    環境変数やスクリプトでOpenVINO環境をセットアップしておく必要があります

    CMake実行時にオプション指定

    cmake .. -DWHISPER_OPENVINO=ON
    make
    “`

  • その他のオプション:

    • -DWHISPER_NO_MMAP=ON: モデルファイルをメモリマップせずに読み込む(組み込み環境などメモリが少ない場合)。
    • -DWHISPER_BUILD_TESTS=ON: テストコードをビルドする。
    • -DWHISPER_BUILD_EXAMPLES=ON: サンプルコードをビルドする(デフォルトでON)。

CMakeのオプションは、環境に合わせて-D<OPTION_NAME>=<VALUE>の形式で複数指定できます。ビルドがうまくいかない場合は、CMakeの出力メッセージを確認するか、公式GitHubリポジトリのIssueやWikiを参照してください。

Windowsでのビルド

Windowsでは、Visual StudioまたはMinGW-w64を使用してビルドできます。

  • Visual Studio (MSVC)
    Visual Studio Installerで「C++によるデスクトップ開発」ワークロードを選択してインストールしておきます。CMakeはVisual Studio用のプロジェクトファイルを生成できます。

    “`batch

    Developer Command Prompt for VS を開く

    mkdir build
    cd build

    Visual Studioのバージョンに合わせてジェネレーターを指定 (例: VS 2022)

    cmake .. -G “Visual Studio 17 2022”

    もしくは、CMake GUIを使ってプロジェクトファイルを生成し、Visual Studioで開いてビルド

    コマンドラインでビルドする場合

    cmake –build . –config Release
    ``
    実行ファイルは
    build\Release`などのディレクトリに生成されます。

  • MinGW-w64
    MinGW-w64をインストールし、環境変数PATHを設定しておきます。

    “`batch

    Git Bashやコマンドプロンプトなど

    mkdir build
    cd build

    MinGW Makefile ジェネレーターを指定

    cmake .. -G “MinGW Makefiles”
    mingw32-make # または make
    ``
    実行ファイルは
    build\bin`などに生成されます。

プリコンパイル済みバイナリ

ビルドが面倒な場合や、すぐに試したい場合は、ggerganov氏のGitHubリポジトリのReleasesページで、主要なプラットフォーム向けにプリコンパイル済みのバイナリが提供されていることがあります。これらをダウンロードすれば、ビルドせずにすぐに実行できます。ただし、特定のハードウェアアクセラレーションが有効になっているかはバージョンやビルドによって異なります。

モデルファイルのダウンロード

Whisper C++は、OpenAIが公開しているWhisperモデルの重みをGGML形式に変換したファイルを使用します。これらのモデルファイルはリポジトリには含まれていないため、別途ダウンロードが必要です。

利用可能なモデルサイズはいくつかあり、それぞれファイルサイズ、必要なメモリ、推論速度、認識精度が異なります。

モデルサイズ ファイルサイズ (GGML) メモリ使用量 (推定) 速度 精度 特徴
tiny 約75 MB 約300 MB 最速 最低 デモやリソース極小環境向け
base 約142 MB 約500 MB 速い 低い 軽量・高速。簡単な用途向け
small 約466 MB 約1 GB 標準 標準 多くの用途でバランスが良い。
medium 約1.5 GB 約3 GB 遅め 高い より高い精度が求められる場合に。
large-v1 約3 GB 約5 GB 最も遅い 最高 最大の精度。
large-v2 約3 GB 約5 GB 最も遅い 最高 large-v1の改良版。
large-v3 約3 GB 約5 GB 最も遅い 最高 large-v2の改良版、いくつかの改善。
tiny.en 約75 MB 約300 MB 最速 低い 英語のみ対応。tinyより若干高速・高精度。
base.en 約142 MB 約500 MB 速い 標準 英語のみ対応。baseより若干高速・高精度。
small.en 約466 MB 約1 GB 高速 高い 英語のみ対応。smallより高速・高精度。
medium.en 約1.5 GB 約3 GB 標準 最高 英語のみ対応。mediumより高速・高精度。

.en付きのモデルは英語専用ですが、英語以外の言語処理部分が省かれているため、英語認識においては対応言語版より若干高速で、精度も高い傾向があります。

モデルファイルは、クローンしたwhisper.cppディレクトリ内のmodelsディレクトリにダウンロードスクリプトがあります。

“`bash

whisper.cpp ディレクトリにいることを確認

cd models

ダウンロードスクリプトを実行 (例: smallモデルをダウンロードする場合)

./download-ggml-model.sh small
“`

ダウンロードしたいモデル名 (tiny, base, small, medium, large-v3, tiny.en, base.en, small.en, medium.en) をスクリプトの引数に指定してください。スクリプトは指定されたモデルのGGML形式ファイルを自動的にダウンロードして、modelsディレクトリに保存します(例: ggml-small.bin)。

さらに、メモリ使用量を削減し、CPUでの推論速度を向上させるために、モデルを量子化(Quantization)したバージョンも利用可能です。量子化モデルは、モデルの重みを元の浮動小数点数(通常float32やfloat16)から、より少ないビット数(int8, int4など)で表現したものです。精度は多少犠牲になることがありますが、ファイルサイズとメモリ使用量が大幅に減り、互換性のあるハードウェアでは推論速度が向上します。

利用可能な量子化モデルの種類(ggml-model-name-q4_0.bin, ggml-model-name-q4_1.bin, ggml-model-name-q5_0.bin, ggml-model-name-q5_1.bin, ggml-model-name-q8_0.binなど)も、download-ggml-model.shスクリプトでダウンロードできます。

“`bash

例: smallモデルの4ビット量子化バージョンをダウンロード

./download-ggml-model.sh small-q4_0
“`

どの量子化レベルを選ぶかは、必要な精度と利用可能なリソース(メモリ、CPU性能)とのトレードオフになります。一般的に、ビット数が少ないほどファイルサイズ・メモリは小さく、CPU速度は速くなりますが、精度は低下する可能性があります。q4_0q4_1は良いバランスを提供することが多いです。

これで、whisper.cppの実行に必要なバイナリとモデルファイルの準備が整いました。次はいよいよ、これらを使って実際に音声認識を実行してみましょう。

基本的な使い方:コマンドラインツール main

ビルドが成功すると、build/binディレクトリ(Windows MSVCの場合はbuild\Releaseなど)に実行ファイルが生成されます。最も基本的な音声認識を行うための実行ファイルはmainです。

mainコマンドの基本的な使い方は以下の通りです。

bash
./main [オプション] -m <モデルファイル> -f <入力音声ファイル>

主要なオプションについて説明します。

  • -m <モデルファイル>: 必須。使用するモデルファイルを指定します。例えば、models/ggml-small.binのように、ダウンロードしたモデルファイルへのパスを指定します。
  • -f <入力音声ファイル>: 必須。音声認識の対象となる入力音声ファイルを指定します。現時点では、16kHz、16-bit、モノラルPCM形式のWAVファイルが推奨されます。他の形式のファイルを使用する場合は、事前にFFmpegなどで変換しておく必要があります(変換方法は後述)。
  • -l <言語コード>: 認識対象の言語を指定します。例えば、日本語ならja、英語ならen、中国語ならzhなど、ISO 639-1形式の2文字コードを指定します。このオプションを指定しない場合、Whisperが自動的に言語を識別しますが、指定することで認識精度が向上したり、処理が高速化される場合があります。対応言語は多岐にわたりますが、日本語は非常に高い精度で認識できます。
  • -t <スレッド数>: 推論に使用するCPUスレッド数を指定します。デフォルトは利用可能なCPUコア数に基づきます。コア数が多いCPUでは、スレッド数を増やすことで高速化が見込めますが、増やしすぎると逆にパフォーマンスが低下する場合もあります。環境に合わせて最適な値を試してみてください。
  • -p <音声処理の並列数>: 音声処理を並列化する際の分割数を指定します。長い音声ファイルを処理する際に、音声を小さなチャンクに分割し、複数のチャンクを並列に処理することで全体の処理時間を短縮できます。通常はデフォルトで十分ですが、特定の環境で試す価値があります。
  • -vth <VAD しきい値>: 音声区間検出 (VAD: Voice Activity Detection) のしきい値を指定します。このしきい値より音声らしさが低い区間は無音とみなされ、認識対象から外されます。ノイズが多い環境で無音区間を正しくスキップしたい場合に調整します。
  • -sow <単語レベルタイムスタンプ>: 単語ごとのタイムスタンプを出力します。テキストに加えて、各単語が音声中のどの時間に出現するかを知りたい場合に有用です(後述の出力フォーマットオプションと組み合わせて使用)。
  • -ocd <キャプション出力遅延>: リアルタイムストリーム処理などで、キャプションの出力に遅延を持たせる(音声が完了してから出力するなど)。
  • -ov / --output-vtt: 出力フォーマットをWebVTT形式にするオプション。WebVTTはHTML5の<video>タグなどで字幕として利用される形式で、テキストとタイムスタンプが含まれます。
  • -os / --output-srt: 出力フォーマットをSRT形式にするオプション。SRTは動画の字幕ファイルとして広く使われる形式で、テキストとタイムスタンプ、連番が含まれます。
  • -oj / --output-json: 出力フォーマットをJSON形式にするオプション。より詳細な情報(単語レベルのタイムスタンプ、音声区間検出の結果など)が含まれます。
  • -otxt / --output-txt: 出力フォーマットをプレーンテキスト形式にするオプション(デフォルトの出力形式)。
  • -tr / --translate: 翻訳モードを有効にします。入力音声を認識し、その内容を英語に翻訳して出力します。-lオプションで指定した言語に関わらず、出力は常に英語になります。
  • -ho <ホットワード> / --hotwords <ホットワード>: 認識精度を向上させたい特定の単語やフレーズ(ホットワード)を指定します。複数指定する場合はカンマ区切りで指定します。例: -ho "Whisper C++, GGML"
  • -hwl <ホットワードファイル> / --hotwords-file <ホットワードファイル>: ホットワードをリスト化したファイルを指定します。ファイルには1行に1つのホットワードを記述します。
  • -p / --print-progress: 音声認識の進捗状況をコンソールに表示します。長いファイルを処理する際に便利です。
  • -ps / --print-segments: 認識された各セグメント(短い音声区間)とそのタイムスタンプをコンソールに出力します。
  • -pc / --print-colors: コンソール出力に色を付けます。
  • -pp / --print-probabilities: 各トークン(単語や記号)の確率を出力します(詳細)。

その他、サンプリングパラメータ(-ng/--no-guids, -b/--beam-size, -p/--patience, -d/--temperature-inc, -cb/--compression-ratio-threshold, -nb/--no-captions-threshold, -logprob/--logprob-threshold, -no-speech-threshold/--no-speech-thresholdなど)を調整するオプションもありますが、通常はデフォルト値で問題ありません。

実行例

それでは、いくつかの具体的な実行例を見てみましょう。

事前に、音声ファイルinput.wav(16kHz, 16-bit, mono WAV形式)を用意しておきます。もし手元にない場合は、スマートフォンで録音した音声などをFFmpegで変換して作成します。

例えば、オリジナルのMP3ファイルを変換する場合:

“`bash

FFmpegをインストールしていない場合はインストールしてください

(例: Ubuntu: sudo apt install ffmpeg, macOS/Homebrew: brew install ffmpeg)

ffmpeg -i input.mp3 -ar 16000 -ac 1 -acodec pcm_s16le input.wav
``
これで、適切な形式の
input.wav`が作成されます。

例1: 基本的な日本語音声認識

smallモデル(ggml-small.bin)を使って、日本語の音声ファイルinput.wavを認識し、結果をコンソールに表示します。

bash
./main -m models/ggml-small.bin -f input.wav -l ja

実行すると、進捗表示などが出力され、認識が完了するとテキストがコンソールに表示されます。デフォルトでは、タイムスタンプ付きのセグメント(短い音声区間)ごとに表示され、最後に全体のテキストが表示されます。

[00:00:000 --> 00:00:500] こんにちは
[00:00:500 --> 00:02:300] これは音声認識のテストです。
...
(全体テキスト): こんにちは これは音声認識のテストです。

例2: 英語音声の翻訳

mediumモデル(ggml-medium.bin)を使って、英語の音声ファイルenglish_input.wavを認識し、その内容を英語に翻訳して出力します。

bash
./main -m models/ggml-medium.bin -f english_input.wav -tr

入力音声が英語であれば、認識結果は英語のテキストになります。翻訳モード (-tr) は非英語の音声を英語に翻訳する機能なので、英語の音声を英語として認識させたい場合は -tr オプションを付けずに実行します。

例3: 日本語音声の翻訳

mediumモデル(ggml-medium.bin)を使って、日本語の音声ファイルjapanese_input.wavを英語に翻訳して出力します。

bash
./main -m models/ggml-medium.bin -f japanese_input.wav -l ja -tr

-l jaで入力言語が日本語であることを指定し、-trで翻訳モードを有効にしています。出力されるテキストは英語になります。

例4: SRT形式での出力

baseモデル(ggml-base.en.bin – 英語専用モデル)を使って、英語の音声ファイルenglish_input.wavを認識し、結果をSRTファイルoutput.srtに保存します。

bash
./main -m models/ggml-base.en.bin -f english_input.wav -l en -os -of output.srt

-osでSRT形式を指定し、-of <出力ファイル>で出力ファイル名を指定します。もし-ofを指定しない場合、SRT形式の出力がコンソールに表示されます。

生成されるoutput.srtファイルの内容例:

“`srt
1
00:00:00,000 –> 00:03,500
Hello, this is a test of the Whisper model.

2
00:03,500 –> 00:05,200
Running on my local machine.
“`

WebVTT (-ov) や JSON (-oj) も同様に利用できます。JSON形式は非常に詳細な情報を含むため、プログラムで後処理するのに適しています。

例5: ホットワードを指定して認識精度を向上

smallモデルを使って、特定の専門用語(例: “Whisper C++”, “GGML ライブラリ”)が含まれる日本語音声を認識します。

bash
./main -m models/ggml-small.bin -f input_with_terms.wav -l ja -ho "Whisper C++, GGML ライブラリ"

このようにホットワードを指定することで、モデルがこれらの語句をより正確に認識しやすくなります。

これらの例のように、mainコマンドと各種オプションを組み合わせることで、様々なニーズに対応した音声認識を実行できます。まずは小さなモデル(tinybase)と短い音声ファイルで試してみて、徐々に大きなモデルやオプションを試していくのが良いでしょう。

応用例と発展的な使い方

whisper.cppはコマンドラインツールとしてだけでなく、C++ライブラリとしても利用でき、様々な応用が可能です。

1. リアルタイム音声認識 (マイク入力)

whisper.cppには、マイクからの入力をリアルタイムで処理するための別の実行ファイルstreamが用意されています。または、mainコマンドでもリアルタイム処理に近い動作が可能です(ただしstreamの方が低遅延に特化しています)。

streamコマンドの基本的な使い方:

bash
./stream -m <モデルファイル> -l <言語コード>

例: smallモデルを使って日本語のマイク入力をリアルタイム認識

bash
./stream -m models/ggml-small.bin -l ja

streamコマンドを実行すると、デフォルトのマイクからの音声入力を待ち受け、音声が検出されると自動的に認識を開始し、テキストをコンソールに表示します。会議の議事録作成や、音声コマンドシステムへの応用などが考えられます。

mainコマンドでマイク入力に対応させるには、PortAudioライブラリを有効にしてビルドする必要があります。CMake実行時に-DWHISPER_BUILD_MAIN_NDEBUG=ONなどのオプションが必要になる場合があります。ビルド後、./main -m <モデルファイル> -l <言語コード> -mels のように-melsオプションを付けて実行するとマイク入力に対応します。

リアルタイム認識は、音声区間検出(VAD)の精度や、処理速度(音声の長さよりも速く認識できるか=リアルタイムファクター(RTF)が1.0以下か)が重要になります。モデルサイズや使用するハードウェア、スレッド数などを調整して、最適な設定を見つける必要があります。

2. C++ライブラリとしての利用

自身のC++プロジェクトにwhisper.cppの音声認識機能を組み込みたい場合、ライブラリとして利用できます。whisper.hヘッダーファイルに公開APIが定義されています。

基本的なライブラリ利用の流れは以下のようになります。

  1. Whisperコンテキストの初期化: whisper_init_from_file()関数で、モデルファイルへのパスを指定してコンテキストを作成します。これはモデルの読み込みや初期化を行います。
  2. 音声データの準備: 認識したい音声データを、whisper.cppが要求する形式(通常は16kHz, 16-bit float mono)の数値配列としてメモリ上にロードします。
  3. 推論パラメータの設定: whisper_full_params構造体に必要なオプション(言語、スレッド数、翻訳モードなど)を設定します。デフォルトパラメータを取得する関数もあります。
  4. 推論の実行: whisper_full()関数に、コンテキスト、推論パラメータ、音声データ、音声データの長さを渡して実行します。この関数は音声認識処理を行います。
  5. 結果の取得: whisper_full_n_segments()で認識されたセグメント(音声区間)の数を取得し、ループ処理で各セグメントのテキスト(whisper_full_get_segment_text())やタイムスタンプ(whisper_full_get_segment_t0()whisper_full_get_segment_t1())を取得します。単語レベルの情報なども取得可能です。
  6. コンテキストの解放: 処理が完了したら、whisper_free()関数でコンテキストを解放し、メモリをクリーンアップします。

簡単なコードの骨子:

“`cpp

include “whisper.h” // whisper.cppのヘッダーファイル

include

include

include

// WAVファイルを読み込むヘルパー関数(別途実装が必要)
bool read_wav(const std::string& fname, std::vector& pcmf32, int& sr, int& nc);

int main(int argc, char ** argv) {
if (argc < 3) {
std::cerr << “Usage: ” << argv[0] << ” ” << std::endl;
return 1;
}

const std::string model_path = argv[1];
const std::string audio_path = argv[2];

// 1. Whisperコンテキストの初期化
struct whisper_context * ctx = whisper_init_from_file(model_path.c_str());
if (ctx == nullptr) {
    std::cerr << "Failed to initialize whisper context." << std::endl;
    return 1;
}

// 2. 音声データの準備 (16kHz float mono に変換されたデータ)
std::vector<float> pcmf32;
int sr, nc;
if (!read_wav(audio_path, pcmf32, sr, nc)) {
    std::cerr << "Failed to read WAV file." << std::endl;
    whisper_free(ctx);
    return 1;
}

// サンプリングレートが16kHzでない場合はリサンプリングが必要
if (sr != WHISPER_SAMPLE_RATE) {
     std::cerr << "Warning: WAV file sample rate is " << sr << ", expected " << WHISPER_SAMPLE_RATE << std::endl;
     // TODO: リサンプリング処理を追加
}
// チャンネル数が1でない場合はモノラルに変換が必要
if (nc != 1) {
     std::cerr << "Warning: WAV file has " << nc << " channels, expected 1 (mono)" << std::endl;
     // TODO: モノラル変換処理を追加
}


// 3. 推論パラメータの設定
struct whisper_full_params params = whisper_full_default_params(WHISPER_Sampling_Greedy);

// 例: 日本語を指定
params.language = "ja";
// 例: スレッド数を指定
params.n_threads = 4;
// 例: 進行状況を表示
params.print_progress = true;
// 例: セグメントを出力
params.print_segments = true;
// 例: 単語レベルのタイムスタンプを有効にする
params.single_segment = false; // 単一セグメントモードを無効にしないと単語レベル情報が得られない
params.print_realtime = false;
params.print_progress = false;
params.print_timestamps = true;
params.translate = false; // 翻訳モード off

// 单语模型不应该指定语言参数
if (std::string(params.language) == "en" && whisper_is_multilingual(ctx) == 0) {
    params.language = "en";
}


// 4. 推論の実行
std::cout << "Starting recognition..." << std::endl;
if (whisper_full(ctx, params, pcmf32.data(), pcmf32.size()) != 0) {
    std::cerr << "Failed to run whisper inference." << std::endl;
    whisper_free(ctx);
    return 1;
}

std::cout << "Recognition finished." << std::endl;

// 5. 結果の取得
const int n_segments = whisper_full_n_segments(ctx);
for (int i = 0; i < n_segments; ++i) {
    const char * text = whisper_full_get_segment_text(ctx, i);
    const int64_t t0 = whisper_full_get_segment_t0(ctx, i); // タイムスタンプ(ミリ秒)
    const int64_t t1 = whisper_full_get_segment_t1(ctx, i);

    std::cout << "[" << t0 << " --> " << t1 << "] " << text << std::endl;

    // 単語レベルの情報も取得可能
    // const int n_tokens = whisper_full_n_tokens(ctx, i);
    // for (int j = 0; j < n_tokens; ++j) {
    //     const char * token_text = whisper_full_get_token_text(ctx, i, j);
    //     const whisper_token_data token_data = whisper_full_get_token_data(ctx, i, j);
    //     std::cout << "  Token: '" << token_text << "' [" << token_data.t0 << " --> " << token_data.t1 << "] prob: " << token_data.p << std::endl;
    // }
}

// 6. コンテキストの解放
whisper_free(ctx);

return 0;

}

// read_wav 関数の簡易的な例 (実際の実装はwavヘッダー解析などが必要)
// whisper.cpp/examples/common.h/common.cpp を参照すると良い
bool read_wav(const std::string& fname, std::vector& pcmf32, int& sr, int& nc) {
// この部分は実際のWAV読み込み処理に置き換える必要があります
// whisper.cppのexamples/common.h および common.cpp に実装例があります
// 簡易的な例として、ダミーデータを生成
std::cerr << “Error: read_wav function not implemented. Please refer to examples/common.cpp.” << std::endl;
return false;
}
“`

このコードは骨子であり、実際に動かすにはread_wav関数の実装や、エラー処理などを加える必要があります。whisper.cpp/examplesディレクトリには、より実践的なコード例(WAV読み込みを含む)がありますので、それらを参考にすると良いでしょう。ライブラリとして利用することで、独自のGUIアプリケーション、音声アシスタント、リアルタイム翻訳ツールなど、多様なアプリケーションを開発できます。

3. 他のプロジェクトとの連携

whisper.cppは、そのC++という性質から、様々な言語へのバインディングが作成されています。

  • Python: ctypesなどを使ってwhisper.cppのライブラリをPythonから呼び出すラッパーライブラリが複数存在します(例: ctranslate2など whisper モデルをサポートするものや、whisper.cpp自体をラップするもの)。これにより、Pythonの豊富なエコシステム(Webフレームワーク、データ処理ライブラリなど)と連携しつつ、whisper.cppの高速な推論を利用できます。
  • Node.js: Node.jsからwhisper.cppを呼び出すためのN-APIラッパーも存在します。サーバーサイドJavaScriptで音声認識APIを構築する際などに利用できます。
  • Go, Rust, C#など: 他の言語向けにもコミュニティによってバインディングが開発されています。
  • WebAssembly (Wasm): whisper.jsなどのプロジェクトは、whisper.cppをWebAssemblyにコンパイルし、Webブラウザ上でWhisperモデルを実行できるようにしています。これにより、ユーザーのブラウザ内で音声認識が完結し、サーバーへのデータ送信なしに利用できるWebアプリケーションを構築できます。

これらの連携プロジェクトを利用することで、あなたの得意な言語やプラットフォームでwhisper.cppの能力を活用できます。

4. GUIアプリケーションの利用

もしあなたがコマンドライン操作に慣れていない場合でも、whisper.cppをベースにしたGUIアプリケーションがコミュニティによって開発・公開されていることがあります。これらのアプリケーションを使えば、GUI操作だけで音声ファイルのドラッグ&ドロップや設定変更を行い、簡単に音声認識を実行できます。公式プロジェクトとしては提供されていませんが、GitHubなどで「Whisper GUI」などで検索してみると見つかる場合があります。

これらの応用例からわかるように、whisper.cppは単なる音声認識ツールにとどまらず、様々な形での活用が可能な柔軟性の高い基盤となっています。

パフォーマンスに関する考察

whisper.cppの最大の魅力の一つはその高速性です。ここでは、どのような要因がパフォーマンスに影響するか、そして実際のパフォーマンスについて考察します。

パフォーマンスに影響する要因:

  1. モデルサイズ: これが最も大きな要因です。tinyモデルは非常に高速ですが精度は低め、largeモデルは高精度ですが最も遅く、必要なメモリも増えます。あなたの要件に合わせて、精度と速度のバランスが良いモデルサイズを選択することが重要です(多くの場合、smallmediumが実用的です)。量子化モデル(q4_0, q8_0など)は、元のモデルよりも高速でメモリ消費も少ないですが、わずかに精度が低下する可能性があります。
  2. ハードウェア:
    • CPU: CPUのクロック周波数、コア数、そしてSIMD命令(AVX、FMAなど)のサポートがパフォーマンスに大きく影響します。whisper.cppはこれらの命令セットを活用して行列演算を高速化しています。コア数が多いほど、-tオプションでスレッド数を増やしたときに高速化が見込めます(ただし、モデルサイズや処理内容によってはスケーリングに限界があります)。
    • GPU: NVIDIA GPUとCUDA/cuBLAS、Apple SiliconとMetal/Core ML、Intel統合GPU/VPUとOpenVINOといったハードウェアアクセラレーションを有効にしてビルドすると、特に大きなモデルや、CPUだけでは処理が追いつかない場合に大幅な高速化が期待できます。GPUは大量の並列計算が得意なので、モデルの行列演算に適しています。
    • メモリ速度と容量: モデルの読み込みや推論中のデータアクセス速度も全体性能に影響します。また、モデルサイズに応じた十分なメモリ(RAMやVRAM)がないと、処理が極端に遅くなったり、エラーが発生したりします。
  3. スレッド数 (-t): CPUでの推論時に使用するスレッド数を調整できます。CPUコア数やシステムの負荷状況に応じて最適な値は異なります。自動設定(デフォルト)が良い結果を出すことが多いですが、手動で調整することで改善する場合もあります。
  4. 入力音声の特徴: 音声の長さ、話速、音質、ノイズレベルなども認識速度や精度に影響します。無音区間が多い音声は、VADによってスキップされる部分が多くなるため、認識速度が速くなる傾向があります。
  5. ビルドオプション: 前述のcuBLAS, Core ML, OpenVINO, OpenBLASなどのバックエンドを有効にするかどうかが、利用可能なハードウェア上でのパフォーマンスを大きく左右します。

リアルタイムファクター (RTF)

音声認識の速度を評価する際に、リアルタイムファクター (RTF) という指標がよく使われます。RTFは「処理時間 / 音声の長さ」で計算されます。

  • RTF = 1.0: 音声の長さと同じ時間で処理が完了します。
  • RTF < 1.0: 音声の長さよりも短い時間で処理が完了します(リアルタイムより速い)。
  • RTF > 1.0: 音声の長さよりも長い時間がかかります(リアルタイムより遅い)。

リアルタイム処理を目指す場合は、RTFが1.0以下、できれば0.5以下であることが望ましいです。

実際のパフォーマンス例 (公式リポジトリやコミュニティの情報より)

具体的なパフォーマンスはハードウェア構成によって大きく異なりますが、いくつかの例を挙げます(これらの数値はあくまで参考であり、特定の環境での結果です)。

  • MacBook Pro (M1 Max):
    • large-v2モデルをCore MLで実行した場合、RTFが約0.1~0.2程度になるという報告があります。つまり、音声の長さの1/5~1/10の時間で認識が完了する、非常に高速な処理が可能です。mediumモデルやsmallモデルではさらに高速になります。
  • デスクトップPC (Core i7, 複数コア, AVX2対応):
    • smallモデルをCPUで実行した場合、RTFが0.5~1.0程度になることが多いです。つまり、リアルタイムに近い速度で認識できる可能性があります。
    • mediumモデルではRTFが1.0~2.0程度になることもあります。
    • GPU (NVIDIA RTXシリーズなど) とcuBLASを組み合わせると、largeモデルでもRTFが0.1以下になるなど、劇的な高速化が可能です。
  • Raspberry Pi 4 (ARM CPU):
    • tinyモデルやbaseモデルの量子化バージョン (q4_0など) であれば、RTFが1.0~3.0程度で実用可能な速度になる可能性があります。

これらの例からわかるように、whisper.cppは高性能なハードウェアを活用すれば非常に高速に動作し、低リソースな環境でもモデルサイズや量子化を工夫することで十分な速度を達成できる可能性があります。あなたの環境で最適なパフォーマンスを引き出すためには、様々なモデルサイズや量子化レベル、スレッド数、そして利用可能なハードウェアアクセラレーションオプションを試してみることをお勧めします。

注意点とトラブルシューティング

whisper.cppを使ってみる際に遭遇しやすい問題と、その対処法について説明します。

  1. ビルドエラー:
    • 依存ツールがない: Git, CMake, C++コンパイラが正しくインストールされ、環境変数PATHが通っているか確認してください。
    • CMakeエラー: CMake Errorメッセージをよく読んでください。必要なライブラリが見つからない(例: OpenBLAS, CUDA, OpenVINOなど)というエラーが多いです。それぞれのライブラリが正しくインストールされているか、CMakeにパスが正しく伝わっているか(環境変数設定や-D<Lib>_DIRオプションなど)を確認してください。特定のバックエンドを有効にするオプションを指定している場合は、その環境が整っている必要があります。
    • コンパイルエラー: コンパイラがソースコードをコンパイルできないエラーです。C++標準バージョン(C++11以降が必要)に対応しているか、指定したビルドオプションがコンパイラでサポートされているかなどを確認してください。まれに、特定のコンパイラバージョンや環境でバグが発生する可能性もあります。公式GitHubリポジトリのIssueを検索したり、新しいバージョンのwhisper.cppやコンパイラを試したりするのも有効です。
    • Windows + MSVCでのエラー: 異なるVisual Studioのバージョンや、Windows SDKのバージョンによって互換性の問題が発生することがあります。CMakeのジェネレーター指定 (-G) がVSのバージョンと合っているか確認してください。
    • fatal error: whisper.h: No such file or directory: ソースコードのクローンや、cd whisper.cppなどのディレクトリ移動が正しく行われていない可能性があります。main.cppなどのソースファイルが、CMakeを実行したディレクトリ(build)から見て正しい相対パス(../main.cpp)にあるか確認してください。
  2. モデルファイルが見つからない/読み込めない:
    • -mオプションで指定したモデルファイルへのパスが正しいか確認してください。main実行ファイルがあるディレクトリからの相対パスか、絶対パスで指定します。
    • モデルファイルが正しくダウンロードされているか(ファイルサイズがゼロになっていないかなど)確認してください。models/download-ggml-model.shスクリプトがエラーなく完了したか再確認してください。
    • モデルファイルがGGML形式であるか確認してください。whisper.cppはGGML形式のモデルファイルのみをサポートしています。
    • 古いバージョンのwhisper.cppで新しいバージョンのモデルファイル(例: large-v3)を使おうとすると互換性の問題が発生することがあります。whisper.cppのバージョンを最新に保つか、モデルファイルのバージョンと互換性のあるバージョンを使用してください。
  3. 入力音声ファイルが処理できない/認識精度が極端に低い:
    • 音声フォーマット: whisper.cppのmainコマンドは、16kHz、16-bit、モノラルPCM形式のWAVファイルで最も安定した動作が確認されています。他の形式(MP3, AAC, FLACなど)や異なるサンプリングレート、ビット深度、ステレオ音声などは、内部的に変換処理が入るか、あるいは正しく処理できない場合があります。FFmpegを使って事前に推奨フォーマットに変換することを強く推奨します。変換コマンド例: ffmpeg -i input.any_format -ar 16000 -ac 1 -acodec pcm_s16le output.wav
    • ノイズ: 背景ノイズが多い音声は認識精度が低下します。可能な限りクリアな音声を使用するか、事前にノイズリダクション処理を行ってください。
    • 話速・発音: 話速が極端に速い、または不明瞭な発音の場合、精度が低下することがあります。
    • モデルサイズ・言語: 使用しているモデルサイズが小さすぎる、または話している言語と異なる言語を指定している(あるいは自動識別が失敗している)可能性があります。より大きなモデルを試すか、-lオプションで正しい言語コードを指定してください。英語以外の言語の場合は、多言語対応モデル(.enが付かないモデル)を使用しているか確認してください。
    • 専門用語: 特定分野の専門用語が多く含まれる音声の場合、汎用モデルでは認識が難しいことがあります。-hoまたは-hwlオプションでホットワードを指定すると、精度が向上する可能性があります。
  4. メモリ不足エラー:
    • 特にlargeモデルは多くのメモリ(RAMおよびVRAM)を消費します。システムに十分なメモリがあるか確認してください。モデルサイズを小さくする、量子化モデルを使用する、不要なプロセスを終了するなどの対策が有効です。GPUメモリが不足している場合は、CPUのみで実行するか、よりVRAM容量の大きいGPUを使用する必要があります。
  5. リアルタイム認識が遅い:
    • streamまたは-mels付きmainコマンドでリアルタイム処理が遅い場合、使用しているモデルサイズが大きい、ハードウェア性能が不足している、またはスレッド数が最適でない可能性があります。モデルサイズを小さくする、量子化モデルを使う、より高性能なハードウェアを使う、-tオプションでスレッド数を調整するといった対策を試みてください。

これらの注意点を踏まえ、問題が発生した際には、エラーメッセージをよく読み、上記のポイントを確認することで、多くの問題を解決できるはずです。もし解決しない場合は、whisper.cppのGitHubリポジトリのIssueを確認したり、コミュニティフォーラムなどで質問したりすることも有効な手段です。

まとめと今後の展望

この記事では、Whisper C++ (whisper.cpp) を「使ってみよう!」をテーマに、その詳細な説明、環境構築、基本的な使い方、応用例、パフォーマンス、そして注意点について網羅的に解説しました。

whisper.cppは、OpenAIが開発した強力な音声認識モデルWhisperを、C++によって高速かつ効率的に再実装した画期的なプロジェクトです。Python版と比較して、圧倒的な推論速度、低いリソース使用量、そしてローカル環境での完結という大きなメリットを持っています。これにより、プライバシー保護、オフライン利用、コスト削減といった、クラウドベースの音声認識では難しかった課題を解決し、高性能な音声認識をより身近なものにしてくれます。

ビルドという初期ステップが必要な場合もありますが、CMakeによる柔軟な設定と、様々なハードウェアアクセラレーションへの対応により、あなたの持っているハードウェアのポテンシャルを最大限に引き出して、驚くほど高速な音声認識を実現できます。コマンドラインツールとして手軽に使うことも、C++ライブラリとして独自のアプリケーションに組み込むことも可能です。

whisper.cppは、ローカルAI、エッジAIといった分野における音声処理の重要なピースとなる可能性を秘めています。ユーザーのデバイス上で高度なAI処理が完結することは、プライバシーとセキュリティの向上だけでなく、新しいインタラクションやアプリケーションの可能性を広げます。

今後のwhisper.cppプロジェクトには、さらなるパフォーマンス最適化、新しいハードウェアバックエンドへの対応、モデル圧縮技術の進歩、そして新しいモデルバージョンへの対応といった点が期待されます。コミュニティ主導で活発に開発が進められており、日々進化を続けています。

音声認識に興味がある方、ローカルAIを試してみたい方、あるいは既存のアプリケーションに音声機能を組み込みたい開発者の方々にとって、whisper.cppは間違いなく試す価値のある素晴らしいツールです。この記事が、あなたがwhisper.cppの世界へ一歩を踏み出す助けとなれば幸いです。

ぜひ、あなたのPCにwhisper.cppをセットアップして、その驚異的な速度と高精度を体験してみてください!


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