Windowsメモリ診断ツールとは?使い方から結果まで徹底解説
あなたのPCが突然フリーズしたり、ブルースクリーンエラー(BSOD)が頻繁に発生したり、特定のアプリケーションがクラッシュしたりする時、原因は様々考えられますが、その中でも比較的頻繁に疑われるのが「メモリ(RAM)」の問題です。メモリは、コンピューターが現在使用しているデータやプログラムを一時的に保存しておく高速な記憶領域であり、ここが不安定になると、PC全体の動作に深刻な影響を及ぼします。
しかし、メモリが原因かどうかをどのように判断すれば良いのでしょうか?ハードウェアの故障は目視では判断しにくく、専門的な知識が必要に思えるかもしれません。そこで役立つのが、Windowsに標準搭載されている「Windowsメモリ診断ツール」です。
このツールは、システムのメモリに問題がないかをチェックするための非常に有用なツールであり、無料で手軽に利用できます。本記事では、このWindowsメモリ診断ツールについて、その機能、使い方、そして最も重要な「結果の確認方法と解釈」、さらにエラーが見つかった場合や見つからなかった場合の対処法まで、徹底的に解説します。PCの安定性に不安を感じている方はもちろん、メモリに関する知識を深めたい方も、ぜひ最後までお読みください。
第1章:Windowsメモリ診断ツールとは?その役割と重要性
1.1 ツール概要:Windowsに標準搭載された診断機能
Windowsメモリ診断ツール(Windows Memory Diagnostic Tool, mdsched.exe
)は、Microsoft WindowsのVista以降のバージョンに標準で搭載されているメモリ(RAM)のテストプログラムです。このツールは、Windowsが起動する前に実行される特別な環境(Pre-boot environment)で動作し、オペレーティングシステムや他のアプリケーションの影響を受けずに、より低いレベルでメモリの整合性をチェックします。
1.2 なぜメモリ診断が必要なのか?メモリの役割と不具合の影響
メモリ(RAM: Random Access Memory)は、CPUがデータを処理する際に一時的に情報を置いておく場所です。ハードディスクやSSDに比べて非常に高速にデータの読み書きができるため、PCの処理速度に直結します。現在実行中のプログラムコード、開いているファイル、ウィンドウの情報など、PCがアクティブに利用しているほとんどの情報はメモリに格納されます。
メモリに物理的、あるいは電気的な不具合(エラー)が発生すると、CPUがメモリから読み出すべきデータが破損していたり、書き込むべき場所に正しく書き込めなかったりといった問題が生じます。これにより、以下のような様々な不安定な症状が引き起こされます。
- ブルースクリーンエラー(BSOD): システムが回復不可能なエラーを検知し、強制的に再起動する際に表示される画面です。メモリ関連のBSODは非常に一般的です。
MEMORY_MANAGEMENT
、PAGE_FAULT_IN_NONPAGED_AREA
、KMODE_EXCEPTION_NOT_HANDLED
などのエラーコードが表示されることがあります。 - アプリケーションのクラッシュまたはフリーズ: 特定のプログラムを使用中に突然終了したり、応答しなくなったりします。
- システムのフリーズ: PC全体が応答しなくなり、強制的な再起動が必要になります。
- パフォーマンスの低下: 通常よりもPCの動作が遅くなったり、特定の操作に時間がかかったりします。
- データの破損: 保存したファイルが開けなくなったり、データの内容が意図せず変更されたりします。
- 起動時の問題: Windowsが正常に起動しなかったり、起動プロセス中にエラーが発生したりします。
- 奇妙な挙動: 画面表示がおかしくなったり、予期しないエラーメッセージが表示されたりします。
これらの症状はメモリ以外の原因(CPU、GPU、ストレージ、ドライバ、ソフトウェアなど)でも発生する可能性があるため、原因特定の第一歩として、メモリの健全性をチェックすることは非常に重要です。Windowsメモリ診断ツールは、この初期診断を無料かつ手軽に行えるため、非常に有用なツールと言えます。
1.3 診断ツールの目的と機能:何をしてくれるのか?
Windowsメモリ診断ツールの主な目的は、PCに搭載されているRAMモジュールが正常に機能しているかを確認することです。具体的には、メモリの各アドレスに特定のデータパターンを書き込み、その後、書き込んだデータが正しく読み出せるかを検証するというテストを繰り返し行います。
ツールにはいくつかの異なるテストパターンが含まれており、それぞれがメモリの異なる側面(特定のビットパターンに対する応答、アドレス線の問題、タイミングの問題など)をチェックするように設計されています。これらのテストを通じて、メモリチップ自体や、メモリとマザーボード間のデータ伝送路にエラーがないかを検出します。
ただし、Windowsメモリ診断ツールは、エラーを「検出」することはできますが、検出されたエラーを「修正」することはできません。エラーが検出された場合は、それはハードウェア(メモリモジュール自体)に問題がある可能性が高いことを意味します。
1.4 サードパーティ製ツールとの比較(MemTest86+など):それぞれの特徴
メモリ診断ツールとしては、Windows標準のものの他に、MemTest86+やMemTest86(無印)といったサードパーティ製のツールが広く利用されています。これらのツールは、通常USBメモリなどから起動して実行されるため、Windowsが完全に停止した状態でより長時間の、あるいはより多様なテストパターンを実行できるという特徴があります。
ツール名 | 提供元 | 実行環境 | 用途 | 検出能力 | 診断内容の詳細度 | 手軽さ | 特徴 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Windowsメモリ診断ツール | Microsoft | プリブート環境 | 初期診断、手軽な確認 | 標準的 | 限定的 | 高い | Windowsに標準搭載、OSから直接起動可能 |
MemTest86+ | オープンソース | プリブート環境 | 詳細診断、追い込み | より広範、詳細 | 高い | 中程度 | USB起動が必要、様々なテストパターン、長時間 |
MemTest86 | PassMark | プリブート環境 | 詳細診断、追い込み | より広範、詳細 | 高い | 中程度 | USB起動が必要、UEFI対応、商用版あり |
Windowsメモリ診断ツールは、「手軽に素早く」メモリの問題の有無を初期診断するのに非常に適しています。まずこのツールでテストしてみて、エラーが見つかった場合はほぼ確実にメモリの問題と判断できます。エラーが見つからなかったけれどもまだ症状が改善しない場合や、より徹底的にメモリの問題を追い込みたい場合は、MemTest86+などのサードパーティ製ツールを検討するのが一般的なアプローチです。
第2章:メモリの不具合が疑われる具体的な症状
前述のように、メモリの不具合はPCの様々な不安定な症状を引き起こします。ここでは、特にメモリの問題を強く示唆する可能性のある具体的な症状や状況を詳しく見ていきましょう。
2.1 ブルースクリーンエラー(BSOD)
BSODはWindowsの停止エラーであり、ハードウェアやドライバの深刻な問題によって発生します。メモリの問題はBSODの非常に一般的な原因の一つです。特に以下のエラーコードを含むBSODは、メモリの不具合を疑うべきサインです。
MEMORY_MANAGEMENT
(0x0000001A): Windowsのメモリマネージャーが致命的なエラーを検出したことを示します。これはメモリハードウェアの不具合、メモリ設定の問題(特にオーバークロック)、またはメモリに関連するドライバの問題などが原因で発生します。メモリハードウェアの不具合が最も可能性の高い原因の一つです。PAGE_FAULT_IN_NONPAGED_AREA
(0x00000050): 要求されたデータがページファイル(仮想メモリ)にも存在しない非ページ領域から見つからなかった場合に発生します。通常、無効なシステムメモリを参照しようとした場合に発生し、これもメモリの問題、互換性のないドライバ、またはハードディスクのエラーなどが原因として考えられます。メモリの整合性問題が直接的にこのエラーを引き起こすことがあります。SYSTEM_SERVICE_EXCEPTION
(0x0000003B): 特権命令を実行中に例外が発生した場合に発生します。ドライバのバグ、ハードウェアの問題(特にメモリ、CPU、またはGPU)、またはシステムファイルの破損などが原因です。メモリの問題が原因で、システムプロセスが予期しないデータにアクセスしようとした場合に発生することがあります。KMODE_EXCEPTION_NOT_HANDLED
(0x0000001E): カーネルモードプログラムが処理できない例外を生成した場合に発生します。ドライバのバグ、ハードウェアの互換性問題、またはハードウェアの不具合(メモリを含む)が原因です。メモリが不安定なデータを提供することで、カーネルモードのコードが誤動作し、例外が発生することがあります。IRQL_NOT_LESS_OR_EQUAL
(0x0000000A): カーネルモードプロセスが、高すぎる割り込み要求レベル(IRQL)でページング可能なメモリにアクセスしようとした場合に発生します。これは通常、ドライバのバグが原因ですが、メモリの不具合がデータ破損を引き起こし、ドライバが誤ったアドレスにアクセスしようとすることで発生することもあります。UNEXPECTED_KERNEL_MODE_TRAP
(0x0000007F): CPUが処理できない予期しないトラップ(エラー)が発生した場合に発生します。ハードウェアの不具合(CPU、メモリ、マザーボードなど)、ドライバの問題、またはオーバークロックの失敗などが原因です。メモリの問題がCPUに不正な命令やデータを供給することで発生する可能性があります。
これらのBSODエラーが頻繁に発生する場合、Windowsメモリ診断ツールを実行してメモリの健全性を確認することは、トラブルシューティングの最初のステップとして非常に有効です。
2.2 アプリケーションのクラッシュやフリーズ
特定のアプリケーションを使用している時だけクラッシュしたり、応答しなくなったりする場合も、メモリの問題が原因である可能性があります。特に、大量のメモリを使用するアプリケーション(例:動画編集ソフト、画像編集ソフト、3Dモデリングソフト、最新のゲームなど)で問題が発生しやすい場合、そのアプリケーションがアクセスするメモリ領域に不具合があるのかもしれません。
症状が特定のアプリケーションだけでなく、様々なアプリケーションでランダムに発生する場合、これはシステム全体で使用される共通のメモリ領域に問題があることを示唆しており、よりメモリの問題である可能性が高いです。
2.3 システム全体のパフォーマンス低下
PCの起動が遅くなったり、アプリケーションの起動や切り替えに時間がかかったり、全体的な動作がもっさりしていると感じる場合も、メモリの問題が原因である可能性があります。メモリにエラーが発生すると、CPUが正しくデータを読み出せず、リトライしたり、エラーハンドリングを行ったりする必要が生じ、その結果として処理速度が低下します。
ただし、パフォーマンス低下はCPUの処理能力不足、ストレージ(HDD/SSD)の遅さ、GPUの性能不足、バックグラウンドで多数のプロセスが実行されている、マルウェア感染、断片化など、他の多くの原因でも発生します。メモリ診断はあくまで原因を絞り込むための一つのステップです。
2.4 ファイルやデータの破損
保存したはずのファイルが壊れて開けなくなったり、画像ファイルにノイズが入ったり、動画ファイルが正常に再生できなくなったりといったデータの破損も、メモリが原因で発生することがあります。データをメモリ上で処理している最中にエラーが発生し、その不正なデータがストレージに書き込まれてしまうことで、ファイルが破損します。
特に、ファイルをコピーしたり移動したりした後にそのファイルが壊れる、といった症状は、データがメモリを通過する際に破損した可能性を示唆します。
2.5 起動時のエラー
PCの電源を入れてもWindowsが正常に起動せず、エラーメッセージが表示されたり、ループしたりする場合も、メモリの問題が原因であることがあります。システム起動時に読み込まれる重要なファイルやドライバがメモリ上で展開される際にエラーが発生すると、起動プロセスが中断されてしまいます。
場合によっては、Windowsが起動する前のPOST(Power-On Self-Test)段階で、メモリに関するエラーメッセージやビープ音が鳴ることもありますが、Windowsメモリ診断ツールが関与するのはPOST後、Windowsが起動する直前の段階です。
2.6 最近のハードウェア変更後
新しいメモリモジュールを追加したり、既存のメモリを交換したり、マザーボードやCPUを変更したりといったハードウェアの変更を行った後にこれらの症状が発生した場合、その変更が原因である可能性が非常に高いです。メモリ診断は、新しく取り付けたメモリがシステムと互換性があるか、あるいは初期不良でないかを確認するための最初のステップとなります。また、複数のメモリを取り付けている場合、相性問題が発生することもあります。
これらの症状に心当たりがある場合は、次章で解説するWindowsメモリ診断ツールを実行して、メモリの健全性をチェックしてみることを強くお勧めします。
第3章:Windowsメモリ診断ツールの使い方
それでは、実際にWindowsメモリ診断ツールを実行する手順を見ていきましょう。このツールは非常に簡単に起動できます。
3.1 ツールを起動する3つの方法
Windowsメモリ診断ツールを起動する方法はいくつかあります。最も一般的な方法を3つご紹介します。
方法1:検索ボックスから起動
- Windowsのタスクバーにある検索ボックスをクリックするか、Windowsキーを押してスタートメニューを開きます。
- 検索ボックスに「メモリ診断」と入力します。
- 検索結果に表示される「Windowsメモリ診断」をクリックします。
方法2:ファイル名を指定して実行から起動
- Windowsキー + Rキーを押して「ファイル名を指定して実行」ダイアログを開きます。
- 名前に
mdsched
と入力します。 - 「OK」をクリックします。
方法3:コントロールパネルから起動
- Windowsのタスクバーにある検索ボックスに「コントロールパネル」と入力し、コントロールパネルを開きます。
- コントロールパネルの表示方法が「カテゴリ」になっている場合は、「システムとセキュリティ」をクリックし、「管理ツール」をクリックします。表示方法が「大きいアイコン」または「小さいアイコン」になっている場合は、「管理ツール」を直接クリックします。
- 「管理ツール」の一覧から「Windowsメモリ診断」をダブルクリックします。
どの方法を使っても、最終的に「Windowsメモリ診断」というウィンドウが表示されます。
3.2 診断オプションの選択
「Windowsメモリ診断」ウィンドウが表示されると、以下の2つのオプションが表示されます。
-
今すぐ再起動して問題の有無を確認する(推奨)
- このオプションを選択すると、PCがすぐに再起動し、Windowsが起動する前にメモリ診断ツールが実行されます。ほとんどの場合、このオプションを選択します。
- 注意: このオプションを選択する前に、開いている全てのアプリケーションを終了し、作業内容を保存してください。再起動後、診断ツールが自動的に実行され、Windowsは通常の方法では起動しません。
-
次回のコンピューター起動時に問題の有無を確認する
- このオプションを選択すると、PCはすぐに再起動せず、次にPCをシャットダウンして起動した際にメモリ診断ツールが自動的に実行されます。
- 現在作業中の場合は、このオプションを選択して、都合の良い時に手動で再起動するのが良いでしょう。
どちらか都合の良い方を選択してください。通常は「今すぐ再起動して問題の有無を確認する」を選択します。
3.3 診断ツールの実行画面と基本操作
オプションを選択してPCを再起動すると、Windowsの起動前、青い画面に「Windowsメモリ診断」と表示された画面が現れます。これがメモリ診断ツールの実行画面です。
画面上部には、現在実行中のテスト、進行状況、検出された問題の有無が表示されます。
- Test mix: 現在実行されているテストの種類(基本、標準、拡張など)が表示されます。
- Overall test status: 全体の進行状況がパーセンテージで表示されます。
- Status: テストの実行中にエラーが検出されたかどうかが表示されます。「No problems have been detected yet.」と表示されていれば、現時点ではエラーは見つかっていません。エラーが見つかった場合は、ここにメッセージが表示されます。
F1キーでテストオプションを変更する
この画面が表示されている間にF1
キーを押すと、テストオプションを変更できます。デフォルトでは「標準」テストが実行されますが、必要に応じてより詳細なテストを選択できます。
テストオプション画面では、以下の設定を変更できます。
- Test Mix (テストの種類):
- Basic (基本): 最も短時間で終わる基本的なテストセットです。シンプルなパターン(例:ゼロ、全てイチ)でメモリをチェックします。クイックチェック用です。
- Standard (標準): デフォルトで選択されているテストセットです。基本テストよりも多様なパターン(例:ランダム、シーケンシャル)でメモリをチェックします。ほとんどの一般的なメモリ問題を発見できるとされています。
- Extended (拡張): 最も徹底的なテストセットです。標準テストに加えて、より複雑で時間のかかるテストパターン(例:歩行パターン、移動インバージョン、ギャロッピングパターン)を実行します。潜在的な問題や、標準テストでは検出できないような稀な問題を検出するのに役立ちますが、完了までに非常に長い時間がかかります(数時間以上かかることもあります)。
- Cache (キャッシュ):
- Default (既定): 通常はBIOS設定に従います。ほとんどの場合、キャッシュは無効になってテストが実行され、CPUキャッシュの影響を受けずにメモリチップ自体をテストします。
- On (有効): CPUキャッシュを有効にした状態でテストを実行します。キャッシュの問題や、キャッシュとの相互作用によるメモリの問題を検出する可能性があります。
- Off (無効): CPUキャッシュを無効にした状態でテストを実行します。メモリチップ自体を直接テストするのに適しています。通常はこちらが推奨されます。
- Pass Count (パス回数):
- テストセット全体を何回繰り返すかを設定します。デフォルトは1回です。
- メモリの問題が断続的に発生する場合や、より確実な診断を行いたい場合は、パス回数を増やすことができます(例:2回または3回)。パス回数を増やすとその分テスト完了までの時間も長くなります。
設定を変更したら、F10
キーを押して変更を保存し、テスト画面に戻ります。テストは自動的に開始されます。
3.4 診断の進行と完了
テストが開始されると、画面上部の「Overall test status」のパーセンテージが増加していきます。選択したテストの種類やメモリ容量、PCの性能によって、完了までにかかる時間は大きく異なります。
- 基本テスト: 数分から10数分程度
- 標準テスト: 10数分から数十分程度
- 拡張テスト: 数時間から場合によっては10時間以上かかることもあります。特に大容量のメモリ(32GB以上など)を搭載している場合、拡張テストは非常に時間がかかります。
テストの途中でエラーが検出された場合、「Status」欄にその旨が表示されます。テスト中にエラーが表示されたら、テストが完了するのを待たずに、そこでメモリに問題がある可能性が非常に高いと判断できます。
全てのテストが設定したパス回数分完了すると、ツールは自動的に終了し、PCはWindowsの起動プロセスに進みます。
テストを途中で中断したい場合
テスト実行中に何らかの理由で中断したい場合は、Esc
キーを押します。確認メッセージが表示されたら、「はい」を選択して中断し、Windowsの起動プロセスに進むことができます。ただし、可能な限りテストを完了させることをお勧めします。
これで、Windowsメモリ診断ツールの実行は完了です。PCは通常通り起動しますが、診断結果は自動的に表示されるわけではありません。次の章で、その結果の確認方法を詳しく解説します。
第4章:診断結果の確認方法と解釈
Windowsメモリ診断ツールは、テスト完了後に自動で結果を表示しません。診断結果を確認するには、Windows起動後にイベントビューアーというツールを使用する必要があります。これが、多くのユーザーが結果を見つけられずに戸惑うポイントです。
4.1 イベントビューアーでの結果確認手順
イベントビューアーは、Windowsのシステムやアプリケーションで発生した重要なイベント(エラー、警告、情報など)を記録しているツールです。メモリ診断の結果もここに記録されます。
以下の手順で結果を確認します。
-
イベントビューアーを起動する:
- Windowsの検索ボックスに「イベントビューアー」と入力し、表示された「イベントビューアー」アプリをクリックします。
- あるいは、Windowsキー + Rキーを押して「ファイル名を指定して実行」ダイアログを開き、
eventvwr.msc
と入力してOKをクリックします。
-
ログを開く:
- イベントビューアーのウィンドウが表示されたら、左側のペインでツリーを展開します。
- 「Windows ログ」をクリックします。
- 「System」をクリックします。
-
メモリ診断の結果をフィルタリングする:
- 大量のログが表示されますが、目的のメモリ診断結果を見つけるためにフィルタリングを行います。
- 右側のペインにある「現在のログをフィルター」をクリックします。
- 「現在のログをフィルター」ダイアログが表示されます。
- 「イベント ソース(S):」のドロップダウンリストをクリックし、「MemoryDiagnostics-Results」を選択します。
- 「OK」をクリックします。
-
結果を確認する:
- フィルターが適用され、「MemoryDiagnostics-Results」に関連するイベントのみが表示されます。
- 最新の日付と時刻のイベント(通常は一番上にあるもの)が、直前に実行したメモリ診断の結果です。
- イベントをクリックすると、下部のペインにその詳細が表示されます。
4.2 診断結果のメッセージと解釈
イベントビューアーに表示される「MemoryDiagnostics-Results」イベントの詳細を確認します。表示されるメッセージは、主に以下の2つのパターンに分かれます。
パターン1:エラーが検出されなかった場合
- イベントの種類: 情報 (Information)
-
一般的なメッセージ: “The Windows Memory Diagnostic tested the computer’s memory and detected no errors.”
- 日本語環境では「Windows メモリ診断によってコンピューターのメモリがテストされ、エラーは検出されませんでした。」のようなメッセージが表示されます。
-
解釈: このメッセージが表示された場合、Windowsメモリ診断ツールによって行われたテストでは、メモリに顕著な問題は検出されなかったことを意味します。これは、メモリハードウェアは正常である可能性が高いことを示唆しています。
ただし、注意が必要です。
* これは「検出された」エラーがないだけであり、メモリが100%完全に正常であることを保証するものではありません。
* 実行したテストの種類が「基本」や「標準」だった場合、より徹底的な「拡張」テストではエラーが検出される可能性があります。
* テストが短時間だったり、パス回数が少なかったりした場合、断続的に発生するような稀なエラーは見逃される可能性があります。
* メモリの問題ではない、他の原因(ドライバ、ストレージ、CPU、マザーボード、ソフトウェアなど)でPCの不具合が発生している可能性があります。エラーが検出されなかったのにPCの不具合が続く場合は、メモリ以外の原因を疑うか、より詳細なテスト(後述のMemTest86+など)を試す必要があります。
パターン2:エラーが検出された場合
- イベントの種類: エラー (Error) または 警告 (Warning)
-
一般的なメッセージ: “The Windows Memory Diagnostic tested the computer’s memory and detected errors. To identify and repair these problems, contact the computer manufacturer.”
-
日本語環境では「Windows メモリ診断によってコンピューターのメモリがテストされ、エラーが検出されました。これらの問題を特定して修復するには、コンピューターの製造元に問い合わせてください。」のようなメッセージが表示されます。
-
注意: イベントの詳細に、エラーが発生したメモリのアドレスや具体的なエラーの種類(例: parity error, stuck bitなど)が示唆されることが稀にありますが、Windowsメモリ診断ツールのメッセージは多くの場合非常にジェネリック(一般的)であり、エラーの具体的な内容や場所(どのスロットのメモリか、など)までは特定できないことがほとんどです。メッセージ自体は上記のような簡潔なものに留まることが多いです。
-
-
解釈: このメッセージが表示された場合、メモリ診断ツールがテスト中に1つ以上のエラーを検出したことを意味します。これは、PCに搭載されているメモリ、またはメモリとマザーボード間の通信に問題がある可能性が非常に高いことを示唆しています。
エラーが検出された場合、ほぼ確実にメモリが原因でPCの不安定な症状が発生していると考えられます。次のステップとして、具体的にどのメモリが問題なのかを特定し、対処する必要があります。
4.3 検出されたエラー情報の詳細(可能な場合)
Windowsメモリ診断ツールは、エラーが発生した具体的なアドレスやビットの情報などを詳細に報告することは稀です。イベントビューアーに表示されるエラーメッセージは、通常「エラーが見つかった」という事実を伝えるにとどまります。
もし詳細なエラー情報を得たい場合や、エラーが発生したメモリのアドレスを特定したい場合は、Windowsメモリ診断ツールよりも、MemTest86+のようなサードパーティ製のツールを使用する必要があります。これらのツールは、エラーが発生したメモリのアドレスや、エラーの種類(例えば、特定のビットが常に0になる「stuck bit」など)をより詳細に報告する機能を持っています。
したがって、Windowsメモリ診断ツールでエラーが検出された場合は、その事実を以て「メモリに問題がある」と判断し、次の章で解説するハードウェアレベルのトラブルシューティングに進むのが現実的なアプローチです。
第5章:エラーが検出された場合の対処法
Windowsメモリ診断ツールでエラーが検出された場合、それはPCのメモリハードウェアに問題がある可能性が非常に高いことを意味します。この章では、エラーが検出された場合の具体的な対処法を順を追って解説します。
重要:作業を開始する前に
- PCの電源を完全に切り、電源ケーブルをコンセントから抜いてください。
- ノートPCの場合は、バッテリーも可能な限り取り外してください。
- PC内部に触れる際は、静電気による部品の破損を防ぐため、金属部分(PCケースのフレームなど)に触れて体の静電気を逃がしてから作業を行ってください。静電気防止リストストラップを使用するのも効果的です。
- 自信がない場合は、無理せず専門家や修理業者に依頼することを検討してください。
5.1 問題のあるメモリを特定する
複数のメモリモジュールを搭載している場合、エラーが検出されたからといって全てのメモリが壊れているとは限りません。特定の1本、または数本だけが問題を引き起こしている可能性があります。問題のあるメモリを特定できれば、交換が必要なのはそのモジュールだけで済むため、コストを抑えられます。
問題のあるメモリを特定する最も確実な方法は、メモリを1本ずつ搭載して診断ツールを実行することです。
手順:
- PCの電源を切り、電源ケーブルを抜きます。
- PCケースを開けます。
- 全てのメモリモジュールをマザーボードから取り外します。(取り外し方は、メモリの両端にある固定クリップを外側に倒すと、メモリが少し浮き上がるので、そのまま引き抜きます。)
- マザーボード上の全てのスロットのホコリなどをエアダスターで吹き飛ばしておくと良いでしょう。
- 搭載されているメモリのうち、1本だけをマザーボードの最初のスロット(通常はCPUに一番近いスロット、またはマザーボードのマニュアルで推奨されているスロット)に取り付けます。クリップがしっかり閉まるまで押し込んでください。
- PCケースを仮閉じし、電源ケーブルを接続します。
- PCを起動し、Windowsメモリ診断ツールを実行します(「今すぐ再起動して問題の有無を確認する」を選択)。「拡張」テストを1パス実行するのが望ましいですが、時間がかかる場合は「標準」テストでも良いでしょう。
- テストが完了したら、Windowsを起動してイベントビューアーで結果を確認します。
- エラーが検出されなかった場合、そのメモリモジュールは正常である可能性が高いです。一度シャットダウンし、そのメモリモジュールを取り外します。
- 次のメモリモジュールを1本だけ取り付け、手順5〜8を繰り返します。
- 搭載されている全てのメモリモジュールについて、この「1本ずつテスト」を繰り返します。
この手順で、エラーが検出された時に搭載していたメモリモジュールが、問題の原因である可能性が最も高いモジュールです。複数のモジュールでエラーが検出された場合は、それらのモジュール全てに問題があると考えられます。
5.2 メモリの接触不良を解消する(再装着)
メモリに問題が見つかった場合でも、必ずしもメモリ自体が故障しているとは限りません。単にマザーボードのスロットとの接触が悪くなっているだけ、という場合もあります。これはPCの移動や振動、内部の温度変化などによって発生することがあります。
メモリを一旦取り外して再度取り付け直す(再装着、Reseating)ことで、接触不良が解消し、問題が解決する場合があります。これは最も簡単でリスクの少ない対処法の一つです。
手順:
- 上記「5.1 問題のあるメモリを特定する」の手順1〜3に従って、全てのメモリを取り外します。
- 取り外したメモリの金色の端子部分にホコリや汚れが付着していないか確認します。もし付着している場合は、後述のクリーニングを行います。
- マザーボードのメモリスロット内部にホコリや異物がないか確認し、エアダスターで吹き飛ばします。
- メモリモジュールを、マザーボードのマニュアルに従って正しいスロットに取り付けます。(通常は同じ容量・速度のメモリはペアで同じ色のスロットに取り付けます。例えば、2枚のメモリならスロット1と3、または2と4など。)
- メモリモジュールをスロットにまっすぐ差し込み、両端の固定クリップがカチッと音がして完全に閉まるまで上から均等に押し込みます。しっかりと固定されているか確認してください。
- PCケースを閉じ、電源ケーブルを接続します。
- PCを起動し、再度Windowsメモリ診断ツールを実行します。
再装着によって問題が解決した場合、それは接触不良が原因だった可能性が高いです。
5.3 メモリの端子をクリーニングする
メモリの金色の端子部分に酸化や汚れが付着していると、マザーボードとの接触不良の原因となることがあります。この端子をクリーニングすることで、問題が解決することがあります。
手順:
- 上記「5.1 問題のあるメモリを特定する」の手順1〜3に従って、全てのメモリを取り外します。
- 乾いた柔らかい布、または電子部品用(90%以上)のイソプロピルアルコールを少量含ませた綿棒やマイクロファイバークロスを用意します。消毒用アルコール(エタノール)や水は使用しないでください。ゴム消しゴム(プラスチック消しゴム)を使用する方法もありますが、消しカスが残らないように注意が必要です。
- メモリモジュールの金色の端子部分を、用意したもので優しく擦り、汚れや酸化被膜を取り除きます。力を入れすぎないように注意してください。
- クリーニング後は、端子部分が完全に乾いていることを確認します。アルコールを使用した場合、数分で揮発します。
- マザーボードのメモリスロット側も、エアダスターでホコリなどを取り除きます。
- 綺麗になったメモリモジュールを、上記「5.2 メモリの接触不良を解消する」の手順4〜7に従ってマザーボードに取り付け、再度メモリ診断ツールを実行します。
5.4 BIOS設定(XMP/DOCPプロファイル)の確認
高性能なメモリを使用している場合、通常はBIOS(UEFI)設定でXMP(Intel CPU向け)またはDOCP/A-XMP(AMD CPU向け)といったプロファイルを有効にすることで、メモリの定格速度やタイミングで動作させます。これらのプロファイルは一種のオーバークロックであり、CPUのメモリコントローラーやマザーボードの互換性に依存します。
XMP/DOCPプロファイルが原因でメモリが不安定になっている可能性があります。これは、メモリ自体は正常でも、プロファイルで設定された速度やタイミングがシステムに対して高すぎる場合に発生します。
エラーが検出された場合、BIOS設定でXMP/DOCPプロファイルを無効にする(または「Auto」「Default」などの設定に戻す)ことで、メモリがより低い、システムの標準的な速度で動作するようになり、安定性が向上する可能性があります。
手順:
- PCを再起動し、起動時にBIOS/UEFI設定画面に入るキー(通常はDel、F2、F10、F12など。マザーボードによって異なる)を繰り返し押します。
- BIOS/UEFI設定画面で、XMPまたはDOCP/A-XMPに関連する項目を探します。これは「Ai Tweaker」「Extreme Tweaker」「OC Tweaker」「Advanced Memory Settings」などのセクションにあることが多いです。
- XMP/DOCPプロファイルを「Disabled」または「Auto」「Default」に設定します。
- 変更を保存してBIOS/UEFI設定を終了し、PCを再起動します。
- PCが正常に起動したら、再度Windowsメモリ診断ツールを実行します。
XMP/DOCPを無効にしてメモリ診断でエラーが検出されなくなった場合、原因はプロファイルによるオーバークロック設定だったと考えられます。この場合、そのままデフォルト設定で使用するか、またはBIOSをアップデートしたり、メモリの速度やタイミングを手動で調整したりして安定動作する設定を探すといった選択肢があります。
5.5 BIOS/マザーボードドライバーの更新
稀なケースですが、マザーボードのBIOSやチップセットドライバーが古い場合、特定のメモリとの互換性問題や安定性問題が発生することがあります。マザーボードメーカーのウェブサイトを確認し、最新のBIOSバージョンやチップセットドライバーが提供されていれば、これを適用することで問題が解決する可能性があります。
BIOSのアップデートはリスクを伴う作業であるため、手順をよく確認し、慎重に行ってください。
5.6 問題のあるメモリの交換
上記の接触不良解消や設定変更を試してもエラーが検出される場合、搭載しているメモリモジュール自体が物理的に故障している可能性が非常に高いです。この場合、問題のあるメモリモジュールを新しいものと交換する必要があります。
- 上記「5.1 問題のあるメモリを特定する」の手順で、エラーが検出されたメモリモジュールを特定します。
- 特定したメモリモジュールと同じ仕様(種類:DDR4, DDR5など、速度:例 3200MHz、容量:例 8GB, 16GB)の新しいメモリモジュールを用意します。可能であれば、現在使用している他のメモリと同じメーカーやモデルのものを選ぶと、相性問題のリスクを減らせます。
- PCの電源を切り、電源ケーブルを抜きます。
- 故障した可能性のあるメモリモジュールを取り外します。
- 新しいメモリモジュールを空いたスロット、または故障したモジュールが取り付けられていたスロットに取り付けます。複数のメモリを使用する場合は、マザーボードマニュアルの推奨スロット構成に従ってください。
- PCケースを閉じ、電源ケーブルを接続します。
- PCを起動し、再度Windowsメモリ診断ツールを実行して、エラーが検出されないことを確認します。
新しいメモリと交換することで、エラーが解消し、PCの不安定な症状が改善するはずです。
5.7 メーカーまたは専門家への問い合わせ
上記全てのステップを試してもエラーが検出される場合や、どのメモリが問題なのか特定できない場合、あるいはPC内部の作業に自信がない場合は、PCメーカー、マザーボードメーカー、または専門のPC修理業者に問い合わせることを検討してください。特にPCがまだ保証期間内であれば、無償で修理や交換を受けられる可能性があります。
第6章:エラーが検出されなかった場合の対処法
Windowsメモリ診断ツールで「エラーは検出されませんでした」と表示されたにも関わらず、PCの不安定な症状(BSOD、クラッシュ、フリーズなど)が続く場合があります。これは、メモリ以外の原因で問題が発生しているか、Windowsメモリ診断ツールでは検出できないような稀なメモリの問題である可能性を示唆しています。
この章では、メモリ診断でエラーが検出されなかった場合の次のステップについて解説します。
6.1 より詳細なメモリ診断ツール(MemTest86+など)の実行
Windowsメモリ診断ツールは手軽ですが、テストパターンや実行時間には限界があります。より徹底的にメモリの問題をチェックしたい場合は、サードパーティ製のメモリ診断ツールであるMemTest86+やMemTest86の利用を強く推奨します。
- MemTest86+: 無料のオープンソースツールです。
- MemTest86: PassMark Softwareが提供しており、無料版と有料版があります。UEFI対応など、機能が豊富です。
これらのツールは、通常USBメモリやCD/DVDからPCを起動して実行します。Windowsが完全に停止した状態で行われるため、より低レベルでの正確なテストが可能です。また、Windowsメモリ診断ツールよりも多様で、より厳格なテストパターンが含まれており、何時間、何日も連続で実行することで、断続的に発生するような稀なエラーも検出できる可能性が高まります。エラーが検出された場合、どのテストパターンでエラーが発生したか、エラーのアドレスなどが詳細に報告されることが多いです。
手順の概要:
- MemTest86+またはMemTest86の公式ウェブサイトからイメージファイルをダウンロードします。
- ダウンロードしたイメージファイルを、Rufusなどのツールを使ってUSBメモリに書き込み、起動可能なUSBドライブを作成します。
- 作成したUSBドライブをPCに挿入し、PCを再起動します。
- 起動時にBIOS/UEFI設定画面に入り、起動順序をUSBドライブが一番になるように変更します。
- 設定を保存して終了すると、PCがUSBドライブから起動し、MemTest86+またはMemTest86のテスト画面が表示されます。
- デフォルト設定でテストを開始するか、必要に応じてオプションを変更します。通常、エラーが見つかるまで、または一晩や週末などを利用して長時間(例:8時間以上、または複数パス)実行することが推奨されます。
- テスト中にエラーが検出された場合、画面にエラーの詳細が表示されます。
- テストが完了したら、PCをシャットダウンし、USBドライブを取り外し、BIOS設定で起動順序を元に戻して通常通りWindowsを起動します。
MemTest86+などでエラーが検出された場合、そのメモリに問題がある可能性が非常に高いです。Windowsメモリ診断ツールで見つからなかったエラーがこちらで見つかることも珍しくありません。エラーが見つかった場合は、前章「5. エラーが検出された場合の対処法」に従って、問題のあるメモリの特定と交換を検討してください。
6.2 メモリ以外の原因を疑う
MemTest86+などの詳細なツールでもメモリにエラーが検出されない場合、PCの不安定な症状はメモリ以外の原因で発生している可能性が非常に高くなります。考えられる他の原因は多岐にわたります。
- CPUの問題: CPU自体の故障、またはオーバークロックの不安定さ。CPUの温度が高すぎる(オーバーヒート)。CPUのメモリコントローラーの不具合(メモリとの相性問題など)。
- GPU(グラフィックカード)の問題: GPU自体の故障、GPUドライバーの不具合、VRAM(ビデオメモリ)の問題。ゲーム中など、GPUに負荷がかかる状況で問題が発生しやすい場合は、GPUが原因の可能性が高いです。FurMarkなどのストレステストツールでGPUをテストできます。
- ストレージ(SSD/HDD)の問題: ストレージ自体の故障、不良セクタの発生、ファイルシステムの破損。Windowsのシステムファイルが格納されているストレージに問題があると、様々なエラーやクラッシュが発生します。CrystalDiskInfoなどのツールでストレージの健康状態を確認したり、chkdskコマンドでファイルシステムをチェックしたりできます。
- マザーボードの問題: マザーボード上のコンポーネントの故障、電源回路の不具合、スロット(メモリスロット、PCIeスロットなど)の不具合。マザーボードの問題は診断が難しく、他の部品を交換しても改善しない場合に疑われます。
- 電源ユニット(PSU)の問題: PSUの容量不足、経年劣化による電圧の不安定化、故障。システムが必要とする電力を安定して供給できない場合、高負荷時に不安定になったり、突然シャットダウンしたりします。
- ドライバの競合または不具合: デバイスドライバーのバージョンが古すぎる、または最新のバージョンに問題がある、複数のドライバーが競合している、などが原因でシステムが不安定になることがあります。特に、Windowsアップデート後や新しいハードウェアをインストールした後に問題が発生した場合は、ドライバが原因である可能性が高いです。セーフモードでの起動や、クリーンブートを試したり、最近インストールしたドライバをロールバック/アンインストールしたり、最新のドライバをクリーンインストールしたりといった対処を行います。
- ソフトウェアの問題: 特定のアプリケーションのバグ、Windowsシステムファイルの破損、マルウェア感染。システムファイルチェッカー(
sfc /scannow
)やDISMコマンドを使ってシステムファイルの整合性をチェックできます。ウイルス対策ソフトでシステム全体をスキャンすることも重要です。 - オーバーヒート: CPU、GPU、またはマザーボードなどの温度が許容範囲を超えて上昇している場合、システムの安定性が失われたり、パフォーマンスが低下したり、強制的にシャットダウンしたりします。CPUやGPUの温度を監視するツール(例:HWiNFO、Core Temp、MSI Afterburnerなど)を使用して温度を確認し、冷却システム(ファン、ヒートシンク)に問題がないか、ケース内のエアフローが良いかなどを確認してください。
これらの原因を特定するには、一つずつ可能性を潰していく必要があります。イベントビューアーの「Windows ログ」->「System」や「Application」ログに記録されている他のエラーや警告メッセージも、原因特定の手がかりとなることがあります。また、各ハードウェアのメーカーが提供している診断ツールがあれば、それも試してみる価値があります。
例えば、CPUの安定性はPrime95などのツールでストレステストを行うことで確認できます。ストレージはCrystalDiskInfoなどで健康状態を確認し、S.M.A.R.T.情報に異常がないかチェックします。
6.3 システムファイルの修復
メモリ診断で問題がなかったとしても、Windowsのシステムファイルが破損していることが原因で不安定な症状が発生している可能性があります。以下のコマンドを使って、システムファイルの整合性をチェックし、必要であれば修復を試みることができます。
- 管理者権限でコマンドプロンプトまたはPowerShellを開きます。
sfc /scannow
と入力してEnterキーを押します。- これはシステムファイルチェッカーを実行し、保護されたシステムファイルが破損または変更されていないかスキャンし、問題があれば修正を試みます。完了まで時間がかかる場合があります。
sfc /scannow
で問題が解決しない場合や、修復に失敗した場合は、DISM (Deployment Image Servicing and Management) ツールを使ってWindowsイメージ自体を修復することを試みます。DISM /Online /Cleanup-Image /RestoreHealth
と入力してEnterキーを押します。- このコマンドはWindows Updateを使って破損したシステムファイルをダウンロードし、修復します。インターネット接続が必要です。完了まで時間がかかる場合があります。
これらのコマンドを実行した後、PCを再起動して症状が改善したか確認してください。
6.4 Windowsのクリーンインストールを検討する
上記全てのハードウェア診断やドライバ、システムファイルのチェックを試しても問題が解決しない場合、オペレーティングシステム自体に深刻な問題が発生している可能性があります。この場合、最終手段としてWindowsをクリーンインストール(OSを最初から入れ直すこと)することで、ソフトウェアやドライバ関連の多くの問題をリセットできます。
注意: Windowsのクリーンインストールを行うと、PC内の全てのデータ(アプリケーション、ファイル、設定など)が消去されます。必ず事前に重要なデータのバックアップを取ってください。
クリーンインストール後も問題が再発する場合、それはハードウェアの根本的な問題である可能性が非常に高くなります。
第7章:メモリに関するベストプラクティス
最後に、メモリを安定して使用するためのいくつかのヒントとベストプラクティスをご紹介します。
- 対応するメモリを使用する: マザーボードのマニュアルを確認し、使用しているCPUやマザーボードがサポートしているメモリの種類(DDR4, DDR5など)、速度、容量、そしてモジュールの構成(シングルランク/デュアルランク、ECC対応/非ECCなど)に対応しているか確認してください。対応していないメモリや推奨されていない組み合わせは、不安定性の原因となります。
- 正しく取り付ける: メモリモジュールは、マザーボードのマニュアルに従って正しいスロットに、カチッと音がして両端のクリップがしっかり閉まるまで奥まで正確に取り付けてください。不完全な取り付けは接触不良の原因となります。
- 適切な構成: 複数のメモリモジュールを使用する場合、マザーボードのマニュアルで推奨されているスロット構成(例:2枚の場合はA2とB2スロットなど)に従ってください。誤った構成はデュアルチャネルなどの機能が無効になったり、不安定になったりする原因となります。
- XMP/DOCPプロファイルの安定性を確認する: XMP/DOCPプロファイルを有効にしてメモリを定格速度で使用する場合、その設定がシステム全体で安定して動作するか、必ずストレステストなどで確認してください。不安定な場合は、プロファイルを無効にするか、手動で少し低い速度や緩いタイミングに調整することを検討してください。
- 適切な冷却: メモリ自体が過度に熱を持つことは稀ですが、PCケース内のエアフローが悪いと、周囲の熱(CPUやGPUの熱)がメモリに影響を与える可能性があります。適切なケースファン構成や、CPUクーラーの向きなどを考慮し、ケース内のエアフローを確保しましょう。
- PCケース内の清掃: 定期的にPCケース内部のホコリを清掃しましょう。特にファンやヒートシンクにホコリが溜まると冷却効率が低下し、各パーツの温度が上昇します。エアダスターなどを使用して優しくホコリを吹き飛ばしてください。
- 信頼できるメーカーの製品を選ぶ: メモリはPCの安定性に直結するパーツです。信頼できる実績のあるメーカー(Corsair, Crucial, G.Skill, Kingstonなど)の製品を選ぶことをお勧めします。
まとめ
Windowsメモリ診断ツールは、PCの不安定な症状が発生した際に、原因がメモリにあるかどうかを手軽に診断できる非常に便利なツールです。ブルースクリーンエラー、アプリケーションのクラッシュ、システムフリーズなどの問題に直面した場合、まずこのツールを実行してみることをお勧めします。
使い方は簡単で、検索から起動し、「今すぐ再起動」を選択するだけです。テストはWindows起動前の環境で行われ、自動で実行されます。テスト完了後、Windowsが起動したらイベントビューアーを開き、「Windows ログ」->「System」で「MemoryDiagnostics-Results」をフィルターして結果を確認します。
「エラーは検出されませんでした」と表示された場合は、Windowsメモリ診断ツールレベルでは問題が見つからなかったことを意味します。しかし、メモリが完全に正常であるとは限らないため、症状が続く場合はMemTest86+などのより詳細なツールでの診断や、メモリ以外の原因(CPU、GPU、ストレージ、ドライバ、ソフトウェア、温度など)のトラブルシューティングに進む必要があります。
「エラーが検出されました」と表示された場合は、ほぼ間違いなくメモリに問題があります。この場合、単なる接触不良かもしれないので、メモリの再装着や端子のクリーニングを試してください。それでもエラーが出る場合は、問題のあるメモリモジュールを特定し、新しいものと交換する必要があります。BIOS設定(XMP/DOCP)の確認や、BIOSのアップデートも安定性向上に役立つことがあります。
PCの安定性は、各パーツが正常に機能し、互いに連携して正しく動作することで保たれます。メモリはその中でも非常に重要な役割を担っており、その健全性を保つことは、快適なPC環境を維持する上で不可欠です。本記事が、Windowsメモリ診断ツールを活用し、PCの安定性問題を解決するための一助となれば幸いです。
PCのトラブルシューティングは時に根気が必要な作業ですが、一つずつ可能性を潰していくことで、必ず原因にたどり着くことができます。この記事が、あなたのPCの問題解決の手順を明確にする手助けとなることを願っています。