【望遠ズーム決定版?】EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM レビュー
デジタル一眼レフカメラにおける望遠ズームレンズは、風景の一部を切り取る、遠くの被写体を引き寄せる、あるいは圧縮効果で独特の空間を表現するなど、写真表現の幅を大きく広げてくれる存在です。中でも、焦点距離100mmから400mmをカバーするレンズは、野鳥、飛行機、鉄道、モータースポーツといった動体撮影から、ポートレート、スナップ、風景まで、非常に幅広いジャンルに対応できるため、多くのアマチュア写真家にとって「いつかは手にしたい」憧れのレンズの一つと言えるでしょう。
そんな万能とも言える焦点域を、キヤノンの最高峰レンズシリーズである「L(Luxury)」として実現したのが、EF100-400mm F4.5-5.6L IS USMでした。そして2014年12月、その初代モデルから約16年の時を経て、満を持して登場したのが「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」(以下、本レンズまたはII型)です。
約16年ぶりのフルモデルチェンジは、単なるマイナーチェンジではなく、光学設計、AF、IS、そして外観・操作性まで、あらゆる面が刷新された全く新しいレンズとして生まれ変わりました。その性能向上は目覚ましく、発売以来、多くのEOSユーザーから絶賛の声が上がっています。「望遠ズームの決定版」という呼び声も高く、まさに現在のCanon EFレンズラインアップにおいて、最も注目すべき望遠ズームレンズの一つと言えるでしょう。
本稿では、このEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMが本当に「決定版」と呼ぶにふさわしいのか、その詳細な性能や使い勝手、初代モデルからの進化、そして競合レンズとの比較などを通して、徹底的に掘り下げていきたいと思います。約5000語にわたる詳細なレビュー記事、どうぞ最後までお付き合いください。
第1章:EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMとは? 進化のポイントを探る
まず、本レンズの立ち位置と、初代モデルからの主な進化点を確認しておきましょう。
本レンズは、CanonのEFレンズラインアップにおける「望遠ズームレンズ」カテゴリーの最上位クラスに位置します。開放F値がF2.8通しのEF70-200mm F2.8L IS III USMのような明るさはありませんが、その分、焦点距離を400mmまでカバーしつつ、比較的コンパクト(と言ってもそれなりの大きさですが)で、手持ち撮影も十分に可能な重量に抑えられています。Lレンズであることから、高い描写性能、堅牢性、防塵防滴性能を備えていることは言うまでもありません。
初代モデルであるEF100-400mm F4.5-5.6L IS USM(I型)は、1998年に発売されました。当時の望遠ズームとしては画期的な描写性能とIS(手ブレ補正機構)を搭載し、人気を博しましたが、デジタル時代のセンサーの高画素化や要求される描写性能の向上に伴い、特に広角端や望遠端の描写には改善の余地があると言われていました。
II型へのモデルチェンジで、キヤノンはこれらの課題に正面から取り組みました。主な進化点は以下の通りです。
- 光学性能の大幅向上: 新設計の光学系により、特に解像力、コントラスト、色収差の抑制が飛躍的に向上しました。蛍石レンズ1枚、スーパーUDレンズ1枚を採用し、画面全体にわたる高画質を実現しています。
- ASC(Air Sphere Coating)の採用: キヤノン独自の特殊コーティングであるASCを、EFレンズとして初めて採用しました。これにより、レンズ面に対してほぼ垂直に入射する光に対して、フレアやゴーストの発生を抑制する効果が高められています。
- 最短撮影距離の短縮: I型の1.8mから、II型では0.98mへと大幅に短縮されました。これにより、より被写体に近づいて大きく写すことが可能になり、望遠マクロ的な表現や、小さな被写体、例えば昆虫や植物の一部などをクローズアップして撮影する際に非常に有利になりました。最大撮影倍率も0.18倍から0.31倍に向上しています。
- 手ブレ補正効果の強化: I型の公称1.5段分(または2段分と言われることもありました)から、II型では公称4段分へと大幅に強化されました。これは、低速シャッターでの手持ち撮影の可能性を大きく広げる進化です。ISモードも、常時補正のモード1、流し撮り対応のモード2に加え、シャッターボタンを半押ししている間は補正せず、露光中のみ補正を行うモード3が追加されました。
- 操作性の改善(回転式ズームへ): I型の直進式ズームから、II型では一般的な回転式ズームに変更されました。直進式ズームは素早い焦点距離変更が可能という利点がある一方で、自重落下やゴミの吸入といった欠点も指摘されていました。回転式ズームは、より精密な焦点距離調整が可能で、ホールド性も向上しています。
- 着脱可能な三脚座: I型は一体型でしたが、II型は着脱式となり、携行性や手持ち撮影時の取り回しが向上しました。アルカスイス互換の形状になっている点も、多くのユーザーにとって嬉しいポイントです。
- 防塵防滴性能の強化: Lレンズとして信頼性の高い防塵防滴構造を備えています。
これらの進化点から、本レンズが単なる「改良」ではなく、まさに「再設計」によって生まれたレンズであることが分かります。特に光学性能とIS性能、そして操作性の変更は、ユーザー体験を大きく変えるポテンシャルを秘めています。
第2章:外観と操作性の徹底解剖
手に取ってみると、まず感じるのはその質感の高さです。マットな黒塗装の鏡筒は、Lレンズならではの高級感と堅牢性を漂わせています。ズームリングやフォーカスリングは幅広で、滑らかかつ適度なトルク感があり、操作感は非常に良好です。
回転式ズームの採用: 最も目につく変更点の一つが、I型の直進式から回転式ズームへの変更です。I型の直進式ズームは、鏡筒を前後にスライドさせることで焦点距離を変更するもので、慣れれば一瞬で焦点距離を最大まで変更できるという利点がありました。しかし、ズームリングのトルク調整リングがあり、その調整が難しかったり、特に縦位置での撮影時に鏡筒が自重で伸びてしまったり、またズーム操作に伴う空気の出入りでゴミを吸い込みやすいといった欠点も指摘されていました。
II型の回転式ズームは、一般的なズームレンズと同じように、鏡筒の中央付近にあるズームリングを回して操作します。これにより、I型で指摘されていた自重落下やゴミの問題は解消されました。また、回転式は微妙な焦点距離調整がしやすく、構図決定がより精密に行えます。最初はI型の直進式に慣れていた方には違和感があるかもしれませんが、すぐに馴染むでしょう。ズームリングのトルクは非常にスムーズで、全域でほぼ一定の感触です。
フォーカスリング: 鏡筒の先端側にあるフォーカスリングも幅広で、マニュアルフォーカス(MF)での操作も快適です。USM(超音波モーター)によるAF中にフォーカスリングを回して手動でピントを微調整できるフルタイムマニュアルフォーカス(FTM)にも対応しています。
スイッチ類: 鏡筒側面には、AF/MF切り替えスイッチ、AFリミッタースイッチ、IS ON/OFFスイッチ、ISモード選択スイッチが配置されています。
- AF/MFスイッチ: オートフォーカスとマニュアルフォーカスを切り替えます。
- AFリミッタースイッチ: AFが迷いやすい状況や、特定の距離範囲で高速に合焦させたい場合に有効です。「FULL」(無限遠〜最短撮影距離)と「3m-∞」(3m〜無限遠)の切り替えが可能です。特に望遠端で遠くの被写体を狙う際に「3m-∞」にすることで、AF速度が向上し、近距離の背景などにピントが迷うことを防ぐことができます。
- IS ON/OFFスイッチ: 手ブレ補正機能のオン/オフを切り替えます。三脚使用時や、非常に高速なシャッター速度を使用する場合はオフにすることで、バッテリーの消費を抑えたり、IS機構の誤作動を防ぐことができます。
- ISモード選択スイッチ: 手ブレ補正のモードを切り替えます。
- MODE 1: 通常の撮影用。上下左右の手ブレを補正します。
- MODE 2: 流し撮り用。一方向へのレンズの動き(パン)を検知し、それと垂直方向の手ブレのみを補正します。例えば、横方向に動く被写体を追う場合は、上下方向の手ブレのみが補正されます。
- MODE 3: 新たに追加されたモード。シャッターボタンを半押ししている間は手ブレ補正を行わず、シャッターを切る瞬間のみ補正を行います。これは、動体撮影などでフレーミングを素早く行いたい場合に、ファインダー像が停止することで被写体を追いにくくなるのを防ぐためのモードです。特に激しく動く被写体を追う際に有効です。
三脚座: II型の三脚座は着脱式になりました。付属の三脚座は、アルカスイス互換の形状になっており、対応する雲台であれば直接取り付けが可能です。これはサードパーティ製のプレートを別途用意する必要がなくなり、非常に便利です。三脚座はスムーズに回転させることができ、縦位置・横位置の切り替えも容易です。手持ち撮影時は三脚座を取り外すことで、軽量化とグリップ感の向上につながります。
レンズフード: 付属のレンズフードET-83Dは、内面に植毛加工が施されており、内面反射を効果的に抑制します。フード先端には、円偏光フィルターなどを操作するための小窓(調整窓)が付いています。これは、フィルターをフードの内側に取り付けた場合でも、フードを外すことなく操作できるため、非常に便利な機能です。フード自体は花形タイプで、逆向きに装着して収納することも可能です。
フィルター径: フィルター径は77mmです。これは多くのEFレンズで採用されている一般的なサイズであり、広角レンズなどとフィルターを共有しやすいというメリットがあります。
サイズと重量: 本レンズの最大径は約94mm、全長はズーム収納時で約193mm、質量は約1,570g(三脚座含む)です。I型(約1,380g)と比較するとやや重くなりましたが、これは光学性能の向上やIS機構の強化によるものです。100-400mmという焦点域をカバーするズームレンズとしては標準的な重量であり、手持ち撮影も十分可能ですが、長時間の撮影や、体力に自信のない方には、モノポッドや三脚の使用も検討価値があります。特に望遠端400mmでの手持ち撮影は、強力なISがあってもそれなりの体力が必要です。
外観と操作性に関しては、I型からII型への進化は正当なものであり、特に回転式ズームと着脱式三脚座、そしてASCやISモード3といった新機能の搭載は、現代の撮影スタイルに即した改善と言えるでしょう。ビルドクオリティも高く、プロの過酷な使用にも耐えうる信頼性を感じさせます。
第3章:解像力・描写性能を深く掘り下げる
本レンズ最大のセールスポイントの一つが、その圧倒的な描写性能です。新設計の光学系と最新の技術により、旧モデルから劇的に進化しています。
光学設計: 16群21枚のレンズ構成の中に、色収差を徹底的に抑制するために蛍石レンズ1枚とスーパーUDレンズ1枚が効果的に配置されています。蛍石は異常部分分散性が非常に高く、特に望遠レンズで発生しやすい軸上色収差を極めて効果的に補正します。スーパーUDレンズも蛍石に近い光学特性を持ち、色滲みを低減します。
解像力とコントラスト: 各焦点距離において、中央部から周辺部に至るまで、非常にシャープで解像感の高い描写を実現しています。特にI型で課題とされていた望遠端400mmでの描写も、II型では劇的に改善されており、開放F5.6から十分な解像力を発揮します。絞り込むことでさらにシャープさが増しますが、開放から実用的な描写が得られるため、光量の少ない状況でも積極的に使用できます。被写体のディテールを克明に描写し、質感や立体感も豊かに表現します。コントラストも高く、ヌケの良いクリアな画像が得られます。
色収差: 蛍石とスーパーUDレンズの採用により、望遠レンズで懸念される色収差(被写体の輪郭に沿って発生する色のにじみ)は非常に良好に抑制されています。特に高コントラストな部分や、空と木の枝のようなエッジ部での色滲みはほとんど気になりません。これは後処理での補正の手間を省くだけでなく、元画像の品質を高く保つ上で非常に重要な要素です。
周辺光量落ち: 開放F値(広角端F4.5、望遠端F5.6)では、多少の周辺光量落ちが見られますが、これは大口径望遠ズームレンズとしては一般的なレベルであり、気になるほどではありません。多くのデジタルカメラボディや現像ソフトウェアで自動補正が可能なので、実写で問題になることはほとんどないでしょう。絞り込むことで改善されます。
歪曲収差: ズームレンズであるため、多少の歪曲収差は存在しますが、広角端100mmではわずかなタル型、望遠端400mmではわずかな糸巻き型となる程度で、目立った歪みはありません。特に自然風景や動物、航空機などを撮影する際にはほとんど気にならないレベルです。建築物などを厳密に撮影する場合は、後処理での補正を検討すると良いでしょう。
逆光耐性(ASCの効果): 新採用されたASC(Air Sphere Coating)は、レンズ表面に空気の層を含む非常に低い屈折率の膜を形成することで、反射防止効果を高める技術です。特に、レンズ面にほぼ垂直に入射する光に対して効果を発揮します。これにより、太陽や強い光源が画面内に入るような逆光に近い状況でも、フレアやゴーストの発生が非常に少なく、クリアな描写を維持できます。日中の風景撮影や、朝日・夕日を絡めた撮影などでも、安心して使用できる高い逆光耐性を持っています。
ボケ味: 望遠レンズにおいては、被写体を浮き立たせるためのボケ味も重要な要素です。本レンズは、最大でF5.6という開放F値であり、F2.8のような大きなボケ量ではありませんが、焦点距離400mmを活用することで、十分な背景分離効果が得られます。ボケ質に関しては、口径食の影響などで周辺部がレモンのような形になる傾向は見られますが、全体としては比較的滑らかで、不自然な二線ボケになることは少ない印象です。特に、被写体から背景まである程度の距離がある場合や、望遠端で最短撮影距離近くで撮影する場合には、美しいボケを活かした表現が可能です。9枚羽根の円形絞りを採用しており、開放から絞り込んでも比較的円形を保つため、玉ボケなども自然に描写されます。
総じて、本レンズの描写性能はLレンズの面目躍如と言えるレベルです。特に旧モデルからの進化は驚くべきものであり、高画素機との組み合わせでもその解像力を十分に引き出すことができます。400mmという焦点距離を、開放からこれほど高画質で得られる望遠ズームレンズは、数あるレンズの中でも限られるでしょう。
第4章:AF性能と動体追従性
望遠レンズ、特に動体撮影を主目的とするユーザーにとって、AF性能は描写性能と並んで最も重要な要素の一つです。本レンズは、キヤノンのリングUSM(超音波モーター)を搭載しており、高速かつ静粛なAFを実現しています。
合焦速度と精度: 静止画撮影におけるAFは、非常に高速かつ正確です。合焦ポイントを瞬時に捉え、迷うことなくピントを合わせます。特にコントラストのある被写体に対しては、ストレスなくサクサクと合焦します。低輝度下でもある程度の性能を維持しますが、より明るいF2.8クラスのレンズには劣ります。しかし、実用上は十分な速度と精度と言えるでしょう。
動体追従性: 本レンズの真価が発揮されるのは、やはり動体撮影です。リングUSMは、優れたレスポンスと制御性を持ち、AIサーボAFと組み合わせることで、高速で移動する被写体に対しても粘り強く追従します。EOS-1D X Mark II、EOS 5D Mark IV、EOS 7D Mark IIといった最新の高性能AFシステムを搭載したボディとの組み合わせでは、その追従性は目覚ましいものがあります。
例えば、野鳥の飛びもの撮影では、不規則な動きをする鳥に対しても、ファインダー中央で捉え続けることができれば、高確率でシャープな画像を撮影できます。航空機や鉄道のように比較的直線的に動く被写体に対しては、さらに安定した追従性を発揮します。速度の速いモータースポーツなどでも、十分な実力を見せてくれます。
AFリミッター: 先述のAFリミッタースイッチは、動体撮影において非常に有効です。例えば、遠くの飛行機を撮影する際に「3m-∞」に設定することで、誤って手前の障害物や地面にピントが合うことを防ぎ、素早い合焦が可能になります。被写体までの距離が比較的限定されている状況では、積極的に活用することで、AF性能を最大限に引き出すことができます。
テレコンバーター装着時のAF性能: 別売りのエクステンダーEF1.4x IIIまたはEF2x IIIを装着することも可能です。
* エクステンダーEF1.4x III装着時:焦点距離は140-560mm、開放F値はF6.3-8となります。キヤノンの一部のEOSボディ(EOS-1系、5D Mark III以降、7D Mark II、6D Mark IIなど)はF8対応AF測距点を持っていますので、その場合は引き続きAFでの撮影が可能です。ただし、測距点の数は制限され、AF速度は若干低下します。描写性能は、単体使用時よりはわずかに低下しますが、十分実用的なレベルを保ちます。
* エクステンダーEF2x III装着時:焦点距離は200-800mm、開放F値はF9-11となります。F8より暗くなるため、ほとんどのEOSボディではAFが使用できず、MFでの撮影となります。(ただし、EOS Rシリーズの一部や、非常に限られたEFボディの一部はさらに暗いF値でのAFに対応している場合がありますが、基本的にはMF主体と考えた方が良いでしょう)。描写性能の低下も1.4x装着時より顕著になります。
動体撮影においては、テレコンバーターを装着しない単体使用が最も性能を発揮します。特に高速で不規則に動く被写体の場合は、テレコンバーターなしで400mmで狙うか、あるいはより焦点距離が必要な場合は、より明るい超望遠単焦点レンズや、それらにテレコンバーターを装着してF8に対応する組み合わせを検討する必要があるかもしれません。しかし、比較的ゆっくりとした動きや、十分に明るい状況であれば、1.4xエクステンダーとの組み合わせも十分に活用できます。
AF性能に関しても、本レンズは非常に高いレベルにあります。高速かつ正確なAF、そして優れた動体追従性は、特に動きのある被写体を撮影するユーザーにとって、強力な味方となるでしょう。
第5章:革新的なIS性能とその実力
手ブレ補正機構(IS)は、望遠レンズにおいて非常に重要な機能です。焦点距離が長くなるほど、わずかな手ブレも写真上では大きくブレて写ってしまうため、ISの性能はシャープな画像を撮る上で欠かせません。
本レンズに搭載されているISは、公称4段分の手ブレ補正効果を発揮します。これは、IS非搭載のレンズでシャッター速度1/500秒が必要な状況でも、本レンズであれば約1/30秒で同等の手ブレ補正効果が得られる可能性があることを意味します(もちろん、被写体ブレは防げません)。特に光量の少ない状況や、感度を上げたくない状況での手持ち撮影において、この4段分という効果は絶大です。
筆者の経験では、焦点距離400mmにおいて、晴天下であれば1/60秒や1/30秒程度でも止まった被写体を手持ちでシャープに写し止めることが可能です。もちろん、これは個人差やその場の状況(風、体の揺れなど)にも左右されますが、ISの効果は非常に高く、手持ち撮影の可能性を大きく広げてくれます。特に、三脚の使用が制限される場所や、素早く構図を変えたい場合に、その威力を実感できます。
ISモードの使い分け: 先述の通り、本レンズには3つのISモードが搭載されています。
- MODE 1: 静止している被写体を撮影する際に最も一般的です。ファインダー像も常に補正されるため、フレーミングしやすいというメリットがあります。
- MODE 2: 流し撮り専用です。カメラを振る方向に合わせて手ブレ補正の効き方を調整します。例えば、鉄道を横方向に流し撮りする場合、カメラの横方向の動きは手ブレと判断せず、縦方向のブレのみを補正します。これにより、背景は流れて被写体はシャープに写る、流し撮り特有の表現が可能になります。
- MODE 3: 動体撮影において、特に不規則に動く被写体を追う際に有効です。シャッターボタンを半押ししている間は補正を行わないため、ファインダー像がカクカクすることなくスムーズに被写体を追うことができます。そして、露光が開始される瞬間のみ手ブレ補正が作動します。これにより、決定的な瞬間を逃すことなく、フレーミングと手ブレ補正の両立が可能になります。これはI型にはなかった機能で、動体撮影を行うユーザーにとって非常に嬉しい進化点です。
動画撮影時においても、ISは有効に機能し、より安定した映像を得るのに貢献します。ただし、動画撮影においては静止画とは異なる特性があり、パンニングなどで不自然な動きになる場合もあるため、状況に応じてISのON/OFFやモードを切り替える必要があります。
本レンズのIS性能は、キヤノンの最新技術が投入されており、その効果は非常に高いです。特に4段分という強力な補正効果と、モード3の追加は、手持ち撮影の快適さと成功率を大きく向上させてくれます。
第6章:実写レビュー:様々なシーンで試す
さて、ここからは実際に本レンズを使って様々な被写体を撮影した際の印象を具体的に記述していきます。数ヶ月間にわたり、様々な場所でこのレンズを使用しました。
野鳥撮影:
本レンズは、野鳥写真家にとって非常に人気の高い一本です。400mmという焦点距離は、警戒心の強い野鳥をある程度の距離から狙うのに適しています。描写性能の高さは、羽毛の一本一本まで克明に描写し、驚くほど精細な画像が得られます。特に望遠端400mm、開放F5.6での描写は圧巻で、嘴の質感、瞳の輝き、微妙な色の違いまでしっかりと写し分けます。
AF性能も野鳥撮影には非常に重要ですが、本レンズは期待を裏切りません。止まっている鳥はもちろん、飛び立つ瞬間や飛行中の鳥に対しても、AIサーボAFと組み合わせて粘り強く追従してくれます。枝被りなどでAFが迷いそうになる場面でも、AFリミッターを駆使したり、慎重にピンポイントAFを使ったりすることで、高い確率で合焦させることが可能です。
ISモード3は、森の中などで枝の間を縫うように飛び回る鳥を追う際に非常に役立ちます。ファインダー像が滑らかに追従するため、素早くフレーミングし、決定的な瞬間にシャッターを切ることができます。早朝や薄暮など光量が少ない時間帯でも、強力な4段分のISと高感度性能に優れたボディを組み合わせることで、手持ちでの撮影チャンスが大きく広がります。
最短撮影距離が0.98mと短いことも、意外と野鳥撮影で役立ちます。公園などにいる慣れた野鳥であれば、比較的近くまで寄れることもあり、その際に大きく写すことができます。野鳥撮影においては、距離が正義である側面もありますが、本レンズの400mmと優れた描写、AF、ISは、多くの状況で満足のいく結果をもたらしてくれるでしょう。
航空機撮影:
航空機撮影も本レンズの得意とするジャンルです。空港や飛行場周辺からの撮影、あるいは航空ショーなど、400mmは迫力のある写真を撮るのに適した焦点距離です。
上空を通過する飛行機や、離着陸する機体を狙う際、その速度にAFが追いつくかどうかが鍵となりますが、本レンズのAFは高速で、正確に機体を捉え続けます。AFリミッターを無限遠側に設定することで、手前の障害物や地面にピントが迷うことを防げます。
流し撮りをする際は、ISモード2が非常に有効です。機体の速度に合わせてカメラを正確にパンすることで、背景を美しく流し、機体はシャープに写し止めることができます。大型機だけでなく、戦闘機のような高速で機動性の高い機体相手でも、腕次第で対応可能です。
描写性能も高く、機体の細かい文字やアンテナ、エンジンの吸気口までしっかりと描写します。青空や雲を背景にした際のヌケの良さも特筆ものです。逆光でのフレアやゴーストもASCのおかげで非常に少なく、朝日や夕日を浴びて離着陸する機体なども、安心して逆光側から狙うことができます。
鉄道撮影:
鉄道撮影においても、本レンズは非常に汎用性が高いです。駅での停車中の車両や、沿線から通過する列車を狙うなど、様々なシーンに対応できます。
編成写真を撮る場合は、100mmから400mmのズーム域を活かして、撮影地の状況に合わせて自由にフレーミングできます。通過する列車を流し撮りする際は、ISモード2を使用します。機関車や先頭車両をアップで狙う、あるいは編成全体を収めるなど、様々な表現が可能です。
描写はシャープで、車両の塗装の質感や、窓の向こうの様子までしっかりと描写します。AFも高速で、接近してくる列車や走り去る列車に対して、正確に追従します。
モータースポーツ:
モータースポーツ、特にサーキットでの撮影にも本レンズは活用できます。遠距離を高速で移動するレーシングカーやバイクを狙う際に、400mmの焦点距離は有利です。
流し撮りが基本となるモータースポーツでは、ISモード2が活躍します。適切なシャッター速度とパンの速度を見極めれば、流れる背景の中にシャープな車体を浮かび上がらせることができます。AFも高速で、コーナーを駆け抜ける瞬間や、ストレートを全開で走るマシンを追従します。ただし、至近距離を通過するF1マシンなどの極めて高速な被写体に対しては、よりAF性能の高い超望遠単焦点レンズや、ミラーレス機の高性能AFの方が有利な場合もあるかもしれません。
ポートレート:
望遠レンズはポートレート撮影にも使用されます。400mmという焦点距離は、非常に強い圧縮効果を生み出し、背景を整理して主題である人物を際立たせることができます。また、適度な距離を置いて撮影できるため、モデルにプレッシャーを与えにくいという側面もあります。
開放F値はF5.6ですが、望遠端400mmでの撮影であれば、被写界深度は非常に浅くなり、背景を大きくぼかすことが可能です。人物から背景まである程度の距離があれば、比較的きれいなボケが得られます。また、歪曲収差が少ないため、人物の顔や体のラインが不自然に変形する心配もほとんどありません。ただし、絞り羽根が9枚であるため、F5.6から少し絞り込んでも円形に近いボケが得られますが、F2.8のような圧倒的なボケ量は期待できません。ポートレートを主目的とする場合は、より明るい望遠レンズや、中望遠単焦点レンズの方が向いているかもしれません。しかし、表現の一つとして望遠圧縮効果を活かしたい場合には、非常に面白いレンズとなります。
風景撮影:
風景写真においては、広大な景色を写し取るだけでなく、望遠レンズで遠くの山並みの一部を切り取ったり、街並みの高層ビル群を圧縮して描写したりといった表現もよく行われます。本レンズの400mmという焦点距離は、遠くの被写体を引き寄せるのに非常に有効です。
描写性能の高さは、遠景の山肌のディテールや、建物の窓枠までシャープに写し止めることを可能にします。解像力が高いだけでなく、色乗りも自然で、風景の色彩を豊かに表現します。特に、空気が澄んでいる日には、驚くほどクリアで立体感のある遠景描写が得られます。ASCによる高い逆光耐性も、日の出や日没といった時間帯の撮影で安心して逆光方向を狙えるため、表現の幅を広げてくれます。
その他(近接撮影):
最短撮影距離が0.98mになったことで、小さな被写体にもかなり近づいて撮影できるようになりました。最大撮影倍率0.31倍は、望遠ズームとしては非常に優れています。これにより、昆虫や花の一部、テーブルフォトなど、望遠マクロ的な表現も可能です。特に400mmの望遠端で0.98mまで寄ると、背景が大きくボケて主題が際立ちます。本格的なマクロレンズには及びませんが、ちょっとしたクローズアップ撮影を楽しみたい場合には十分な性能です。
様々なシーンで本レンズを使用してみて感じるのは、その汎用性の高さと、どの焦点距離・どの絞りでも安定して高画質が得られる信頼感です。特に描写性能とAF性能の向上は目覚ましく、現代の高性能ボディの能力を十分に引き出すポテンシャルを持っています。
第7章:前モデル(EF100-400mm F4.5-5.6L IS USM)との比較
約16年の時を経て登場したII型は、I型と比較してどのように進化したのでしょうか。ここでは、具体的にその違いを見ていきます。
描写性能: これが最も大きな違いと言えるでしょう。I型もLレンズとして当時の基準では優れた描写でしたが、特に望遠端400mmでの描写、そして画面周辺部の描写には甘さがあるという評価もありました。II型は、新設計の光学系、蛍石・スーパーUDレンズの最適配置、そしてASCの採用により、描写性能は劇的に向上しています。全焦点域・全画面で非常に均一かつ高解像な描写を実現しており、I型とは比べ物にならないレベルです。特に高画素機で使用した場合の解像感の違いは顕著です。色収差やフレア・ゴーストの抑制もII型の方が優れています。
AF性能: I型もUSMを搭載しており、当時の望遠レンズとしては高速なAFでしたが、II型はより最新のUSMと制御アルゴリズムにより、さらに高速化・高精度化されています。特に動体追従性において、より粘り強く被写体を追いかける能力はII型が優れています。AFリミッターの搭載もII型の利点です。
IS性能: I型のISは公称1.5段分程度でしたが、II型は公称4段分と大幅に強化されました。これにより、低速シャッターでの手持ち撮影の成功率が大きく向上しました。ISモード3の追加も、特に動体撮影における使い勝手を向上させています。
操作性: ズーム方式が直進式から回転式に変更されたのは、ユーザーによって好みが分かれるかもしれませんが、一般的なズームレンズの操作に近く、微調整がしやすいという点ではII型の方が優れています。自重落下の心配がない点も回転式のメリットです。三脚座が着脱式になったこと、アルカスイス互換になったことも、II型の大きな改善点です。
最短撮影距離: I型の1.8mからII型は0.98mへと大幅に短縮されました。これにより、より近くの被写体を大きく写せるようになり、撮影の自由度が大きく向上しました。
外観・ビルドクオリティ: 両者ともLレンズらしい堅牢な造りですが、II型は細部まで現代的なデザインに洗練され、防塵防滴性能もさらに強化されている印象です。フードの調整窓などもII型の利便性を高めています。
価格: II型はI型と比較して、発売価格がかなり高くなりました。これは、光学系を含む内部機構の刷新や新技術の投入によるものです。
I型からII型への買い替え価値: もしI型を所有していて、より高画質な写真を求めたり、最新のAF/IS性能や操作性を享受したいのであれば、II型への買い替えは十分に検討する価値があります。特に高画素機を使用している場合、II型の描写性能向上は非常に大きなメリットとなります。一方で、I型でも十分な描写が得られていると感じる場合や、直進式ズームを好む場合、あるいは予算が限られている場合は、I型もまだまだ現役で使えるレンズであることも事実です。しかし、総合的な性能、特に描写のレベルは、まさに世代が違うと言えるほどの進化を遂げています。
第8章:競合レンズとの比較検討
Canon EFマウントにおいて、100-400mmの焦点域を持つLレンズは本レンズが唯一無二の存在ですが、他のメーカーの同等クラスのレンズや、Canonの他の望遠レンズと比較検討することも重要です。
Sigma 150-600mm F5-6.3 DG OS HSM (Contemporary/Sports), Tamron SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2:
これらのサードパーティ製レンズは、最大の魅力はその焦点距離です。600mmまでカバーしているため、より遠くの被写体を引き寄せることができます。価格もEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMよりも安価な場合が多いです。
一方で、サイズ・重量はEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMよりも大きく重くなります。描写性能に関しては、特に画面周辺部や望遠端での描写では、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの方が優れているという評価が多いです(ただし、サードパーティ製レンズもG2やSportsラインは非常に高性能です)。AF性能やIS性能も、純正Lレンズである本レンズの方が、EOSボディとの連携も含めて安定している傾向があります。
600mmが必要かどうか、描写性能の絶対的なレベル、そしてサイズ・重量と価格のバランスで、どのレンズを選ぶかが決まります。汎用性、描写、AF/ISのトータルバランスで選ぶなら本レンズ、とにかく遠くの被写体を狙いたい、価格を抑えたいならサードパーティ製600mmクラス、という選択肢になるでしょう。
Nikon AF-S NIKKOR 200-500mm f/5.6E ED VR:
メーカーは異なりますが、焦点距離と開放F値、価格帯が近く、キヤノンユーザーがシステム移行を考える際に比較対象となりうるレンズです。ニコンユーザーにとっては非常に人気の高いレンズですが、キヤノンユーザーが本レンズと比較する場合は、単純なレンズ性能だけでなく、システム全体での検討が必要です。レンズ単体としての比較では、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの方が広角端が100mmからと広く汎用性が高い点、AF速度やISの強力さ(特にモード3)、そして描写性能の安定性において優位性があると考えられます。
Canon EF70-200mm F2.8L IS II/III USM + エクステンダーEF1.4x III/EF2x III:
EF70-200mm F2.8L ISは、F2.8通しという明るさ、優れた描写性能、そして70-200mmという使いやすい焦点域が魅力のレンズです。これにエクステンダーを装着することで、焦点距離を伸ばすことができます。
* 1.4x装着時:98-280mm F4通し。開放F値が明るく、描写性能も比較的高いレベルを保ちます。
* 2x装着時:140-400mm F5.6通し。EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMと焦点距離が近くなります。
この組み合わせの利点は、EF70-200mm F2.8L IS単体で非常に優れた性能を持つ明るいズームレンズとして使えること、そしてエクステンダーを着脱することで焦点距離の柔軟性が得られることです。特に、主に70-200mmの焦点域を使い、たまに400mmが必要になる、というユーザーには魅力的な選択肢です。
しかし、欠点もあります。エクステンダーを装着すると、開放F値が暗くなり、AF速度が低下する可能性があります。また、光学性能も単体使用時よりは低下し、特に解像力や色収差の補正においては、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM単体の方が優れている場合が多いです。特に400mmでの描写を重視するなら、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの方が有利です。さらに、レンズ交換やエクステンダー着脱の手間が発生します。
Canon EF400mm F5.6L USM:
これはズームではなく単焦点レンズですが、400mm F5.6というスペックは本レンズの望遠端と比較対象となります。EF400mm F5.6L USMは、古い設計のレンズですが、単焦点ならではの非常にシャープな描写と、軽量コンパクトさが魅力です(ISは非搭載)。動体撮影におけるAF速度も優れています。しかし、ズームができないこと、ISがないこと、そして最短撮影距離が3.5mと長いことが大きな欠点です。描写性能で言えば、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMの400mm端は、この単焦点レンズに匹敵するか、場合によっては凌駕するレベルにあります。ズームの汎用性、ISの有無、最短撮影距離、価格などを考慮して選ぶことになります。
他のL望遠単焦点レンズ(EF400mm F4 DO IS II USM, EF400mm F2.8L IS III USMなど):
これらの単焦点レンズは、描写性能、AF速度、IS性能において、ズームレンズであるEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMを凌駕する絶対的な性能を持っています。しかし、価格ははるかに高価であり、サイズ・重量も大きくなります。また、焦点距離が固定であるため、構図の調整は自分が動くか、トリミングで行う必要があります。最高の性能を求めるプロやハイアマチュア向けのレンズであり、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、これら単焦点レンズの性能には及ばないものの、汎用性、携行性、価格のバランスに優れたレンズと言えます。
比較検討の結果、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、焦点距離100-400mmという汎用性の高いズーム域を、非常に高いレベルの光学性能、AF性能、IS性能、操作性で実現した、バランスの取れた高性能レンズであることが分かります。特に描写性能とISの強力さは、同等クラスのサードパーティ製レンズや、70-200mm + エクステンダーの組み合わせに対して優位性を持つポイントです。
第9章:メリット・デメリット・選び方
これまでの評価を踏まえ、本レンズのメリット、デメリット、そしてどのようなユーザーにおすすめできるかをまとめます。
メリット:
- 圧倒的な描写性能: ズーム全域で中央から周辺まで非常にシャープで高コントラストな描写。色収差、フレア、ゴーストの抑制も良好。特に望遠端400mmでの描写力は特筆もの。
- 高速・高精度AF: リングUSMによる高速かつ静粛なAF。優れた動体追従性。AFリミッターも効果的。
- 強力なIS性能: 公称4段分の手ブレ補正効果は絶大。特に低速シャッターでの手持ち撮影の可能性を広げる。ISモード3も動体撮影に有効。
- 回転式ズーム: 微妙な焦点距離調整がしやすく、自重落下の心配がない。
- 短い最短撮影距離: 0.98mまで寄れるため、望遠マクロ的な撮影も可能。最大撮影倍率0.31倍。
- 優れたビルドクオリティ: Lレンズらしい堅牢性、防塵防滴性能、耐久性。
- 着脱可能な三脚座: アルカスイス互換で便利。手持ち撮影時の取り回しも向上。
- 汎用性の高い焦点距離: 100-400mmは、動体、ポートレート、風景、スナップなど、幅広いジャンルに対応。
デメリット:
- 価格: Lレンズの最上位クラスであり、価格は非常に高価です。他の選択肢(旧モデル、サードパーティ製)と比較すると、予算のハードルは高くなります。
- 開放F値が変動: F4.5-5.6と、望遠になるにつれて暗くなります。より明るいF2.8クラスのレンズに比べると、ボケ量や、光量の少ない状況でのシャッター速度稼ぎに限界があります。
- 重量: 約1.57kg(三脚座含む)と、決して軽いレンズではありません。長時間の持ち運びや手持ち撮影には体力が必要です。
どのようなユーザーにおすすめか:
- Canon EOSユーザーで、高性能な望遠ズームレンズを探している方: これまでの望遠ズームに満足できなかった方、特に描写性能やAF性能に妥協したくない方にとって、最有力候補となるでしょう。
- 野鳥、航空機、鉄道、モータースポーツなど、動体撮影をメインとする方: 高速・高精度AF、優れた動体追従性、強力なIS(特にモード3)は、これらのジャンルで大きなアドバンテージとなります。
- 描写性能を非常に重視する方: ズームレンズでありながら、単焦点レンズに迫る、あるいは凌駕するレベルの高い描写性能を求める方におすすめです。
- 一本で幅広い望遠域をカバーしたい方: 100mmから400mmまでを一本でカバーできるため、レンズ交換の手間を省きたい方や、荷物を減らしたい方にも適しています。
- Lレンズの信頼性、堅牢性、防塵防滴性能を求める方: 厳しい撮影条件下でも安心して使用できる信頼性の高いレンズです。
逆に、予算が限られている方、あるいは主に静止した被写体を撮影し、そこまで高速なAFや強力なISを必要としない方、あるいはとにかく最大の望遠が必要な方(例:600mm以上の焦点距離を頻繁に使用する)には、他の選択肢も検討する価値があるかもしれません。また、ポートレート撮影でF2.8のような大きなボケ量を重視する方には、EF70-200mm F2.8L IS II/IIIのようなより明るいレンズの方が適しているかもしれません。
第10章:結論:望遠ズームの決定版と言えるのか?
本稿で詳細にレビューしてきたEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは、その圧倒的な描写性能、高速・高精度なAF、強力なIS、そして優れた操作性・堅牢性において、文句のつけようのない完成度を誇るレンズです。特に初代モデルからの進化は目覚ましく、まさにデジタル時代の高画素機にも十分対応できる、現代的な高性能望遠ズームレンズとして再構築されています。
確かに価格は高価であり、開放F値もF2.8クラスには及びません。しかし、その価格に見合うだけの性能、特にズームレンズとは思えないレベルの高い描写は、多くのユーザーを魅了するはずです。野鳥、航空機、鉄道といった動体撮影から、風景、ポートレートまで、幅広いシーンで高品質な写真を提供してくれます。最短撮影距離の短縮による近接撮影能力の向上や、回転式ズーム、着脱式三脚座、ISモード3といった操作性・機能性の改善も、ユーザーにとって非常に大きなメリットです。
「望遠ズームの決定版」という言葉は、ユーザーの撮影スタイルや予算、システム全体の構成によってその定義は変わるかもしれません。例えば、常に最高の性能を追求し、価格を問わないのであれば、より高価な超望遠単焦点レンズが「決定版」となるでしょう。あるいは、とにかく600mmという焦点距離が必須であれば、サードパーティ製のレンズが「決定版」となるかもしれません。
しかし、キヤノンEOSシステムにおいて、100mmから400mmという非常に実用的な焦点域をカバーし、高い描写性能、高速AF、強力なIS、優れた操作性を高い次元でバランスさせたレンズとして、EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは現時点で最高の選択肢の一つであることは間違いありません。特に、描写性能と動体撮影における総合力(AF+IS)を重視するEOSユーザーにとっては、まさに「望遠ズームの決定版」と呼ぶにふさわしいレンズと言えるでしょう。
もしあなたが、高性能な望遠ズームレンズを探しており、予算が許すのであれば、このEF100-400mm F4.5-5.6L IS II USMは間違いなく期待に応えてくれるはずです。その優れた性能は、あなたの写真表現の幅を大きく広げ、撮影の喜びをさらに深めてくれるでしょう。
(記事終)