はい、承知いたしました。「Electronが重いと感じたらTauri!注目のフレームワークを解説」というテーマで、約5000語の詳細な解説記事を作成します。
Electronが重いと感じたらTauri!注目のフレームワークを徹底解説
デスクトップアプリケーション開発の世界は、かつてはそれぞれのOSに特化したネイティブ言語(WindowsならC#/C++、macOSならObjective-C/Swift、LinuxならC++)が主流でした。しかし、近年ではWebテクノロジー、特にHTML、CSS、JavaScript/TypeScriptを用いてクロスプラットフォームなデスクトップアプリを開発する手法が急速に普及しています。この流れを牽引してきたのが「Electron」です。
Electronは、Web開発者にとって非常に魅力的な選択肢でした。使い慣れたWeb技術でデスクトップアプリケーションが作れる、しかもWindows、macOS、Linuxで動くアプリケーションが一度に開発できる。この手軽さから、Slack、Discord、VS Codeなど、多くの有名アプリケーションがElectronで開発され、その地位を確立しました。
しかし、Electronには大きな課題がつきまといます。それは「重さ」です。Electronアプリケーションは、OSのWebブラウザではなく、アプリケーション内にChromium(Google Chromeのオープンソース版エンジン)とNode.js実行環境をまるごとバンドルするため、どうしてもアプリケーションのサイズが大きくなり、起動時間やメモリ使用量も多くなりがちです。
ユーザーや開発者の中には、「Electronアプリはリソースを食いすぎる」「もっとサクサク動く軽量なアプリを作りたい」と感じている人も少なくありません。こうした課題意識から生まれた、あるいは注目を集めるようになった新しいフレームワークがあります。その一つが、本記事で詳細に解説する「Tauri(タウリ)」です。
「Electronは重い」と感じたあなたが次に検討すべき、あるいは知っておくべきフレームワーク、それがTauriです。TauriはElectronと同じくWeb技術でデスクトップアプリを開発できますが、そのアーキテクチャはElectronとは大きく異なり、軽量性、高速性、そしてセキュリティに重点を置いています。
本記事では、Tauriがなぜ注目されているのか、そのアーキテクチャ、Electronとの違い、主要な機能、開発方法、そして将来性まで、約5000語をかけて徹底的に掘り下げていきます。Tauriがデスクトップアプリケーション開発の新たなスタンダードとなり得る理由を、詳細な技術解説とともにご紹介しましょう。
1. なぜElectronは「重い」のか? Electronの課題
Tauriの利点を理解するためには、まずElectronが抱える課題を正確に把握する必要があります。Electronが「重い」と言われる主な理由は、そのアーキテクチャに起因します。
Electronアプリケーションは、基本的に以下の要素をアプリケーション内にバンドルして配布します。
- Chromium: Webコンテンツ(HTML, CSS, JavaScript)を描画・実行するためのWebブラウザエンジンです。Google Chromeの根幹をなすエンジンであり、非常に高機能ですが、同時に巨大で多くのリソースを必要とします。Electronアプリは、OSにインストールされているWebブラウザのエンジンを利用するのではなく、アプリケーションごとにこのChromiumエンジンを内蔵しています。
- Node.js: JavaScriptをサーバーサイドやデスクトップ環境で実行するためのランタイムです。ファイルシステムへのアクセス、ネットワーク通信、OSレベルのAPI呼び出しなど、デスクトップアプリケーションに必要な機能を提供します。
- アプリケーションのWebコンテンツ: 開発者が作成したHTML、CSS、JavaScript/TypeScriptコード、画像、その他のアセットなど。
これらの要素がすべてアプリケーションの実行ファイルや関連ファイルとしてパッケージ化されるため、以下のような問題が発生します。
- アプリケーションサイズが大きい: ChromiumとNode.js自体がかなりのサイズを持っています。最小構成のElectronアプリでも数十MBになり、複雑なアプリになると100MBを超えることは珍しくありません。これは、OSのネイティブアプリケーションや、OS標準のWebViewを利用する軽量なアプリケーションと比較すると顕著な差となります。
- メモリ使用量が多い: Chromiumは複数のプロセスで動作し、タブごとにプロセスを起動するなど、最新のWebブラウザと同様のメモリ管理を行います。Electronアプリも同様に、アプリケーションウィンドウごとにメモリを消費するため、多くのウィンドウを開いたり、複雑なWebコンテンツを表示したりすると、メモリ使用量がすぐに数百MB、場合によっては1GBを超えることもあります。Node.js環境もまたメモリを消費します。
- CPU使用量が多い: レンダリング処理やJavaScriptの実行にChromiumのV8エンジンが使用されます。複雑なアニメーションや大量のデータ処理を行うと、CPUリソースを消費しやすくなります。また、アイドル状態でも一定のリソースを消費することがあります。
- 起動時間が遅い: 大量のファイルをロードし、ChromiumとNode.jsの環境を初期化する必要があるため、ネイティブアプリケーションと比較して起動に時間がかかる傾向があります。
- セキュリティの懸念: Chromiumは非常に複雑なソフトウェアであり、常に新しいセキュリティ脆弱性が発見される可能性があります。ElectronアプリはChromiumを内蔵しているため、開発者はElectronのバージョンを常に最新に保ち、セキュリティパッチを適用する責任があります。また、Node.js環境もOSレベルのアクセスが可能であるため、不用意なコードはセキュリティリスクとなり得ます。
- OSとの統合性: Chromiumによるレンダリングはクロスプラットフォームな一貫性を提供しますが、OS固有のUI要素(メニューバー、通知、ファイルダイアログなど)はElectronが提供するAPIを介してエミュレートされるか、カスタム実装が必要になることがあり、ネイティブアプリケーションほどのスムーズさや一貫性がない場合があります。
もちろん、Electronには「Web開発者にとっての学習コストが低い」「巨大なnpmエコシステムを利用できる」「高い表現力を持つUIを開発できる」といった大きなメリットがあり、多くの開発者やユーザーに受け入れられています。しかし、これらの「重さ」に関する課題は、特にリソースが限られた環境や、より高いパフォーマンスや軽量性が求められるアプリケーションにおいては、無視できないデメリットとなります。
Tauriは、まさにこのElectronが抱える「重さ」と「セキュリティ」の課題を解決するために設計されたフレームワークと言えます。
2. Tauriとは何か? 軽量性とセキュリティへのアプローチ
Tauriは、Electronと同様にWebテクノロジー(HTML, CSS, JavaScript/TypeScript)を用いてクロスプラットフォームなデスクトップアプリケーションを開発するためのフレームワークです。しかし、その核となる設計思想とアーキテクチャはElectronとは根本的に異なります。
Tauriの最大の特徴は、「OSネイティブのWebviewとRust言語を組み合わせる」というアプローチです。
具体的には、Tauriアプリケーションは以下の要素で構成されます。
- Frontend (Web UI): 開発者が作成するHTML、CSS、JavaScript/TypeScriptなどのWebコンテンツです。React, Vue, Angular, Svelte, SolidJSなどのモダンなJavaScriptフレームワークはもちろん、Vanilla JSでも開発可能です。ここはElectronと大きく変わりません。
- Webview: ここがElectronとの最大の違いです。Tauriはアプリケーション内にWebブラウザエンジンをバンドルしません。その代わりに、OSが提供するネイティブのWebviewコンポーネントを利用します。
- Windowsでは WebView2 (Microsoft Edge Chromiumベース)
- macOSでは WKWebView (SafariのエンジンであるWebKitベース)
- Linuxでは WebKitGTK や WebView2 (もし利用可能であれば)
これらのネイティブWebviewは、OS自体に組み込まれているか、システムアップデートで提供されるため、アプリケーションのバンドルサイズにほとんど影響を与えません。また、OSレベルで最適化されており、一般的にElectronがバンドルするChromiumよりもリソース消費が少ない傾向があります。
- Backend (Core Logic): アプリケーションの核となるビジネスロジック、OSレベルのAPIアクセス、ファイルシステム操作、データベース連携などの処理は、Rustというシステムプログラミング言語で記述します。Rustは安全性、パフォーマンス、並行処理に優れており、メモリ安全性が保証されているためセキュリティ面でも有利です。
- IPC (Inter-Process Communication): Frontend(Webview内で動作するJavaScript)とBackend(Rustプロセス)の間で通信を行うための仕組みです。FrontendからBackendのRust関数を呼び出したり、BackendからFrontendにイベントを送信したりすることで、Web UIとOSレベルの機能を連携させます。
このアーキテクチャにより、Tauriは以下のようなメリットを実現します。
- 圧倒的な軽量性: ChromiumとNode.jsをバンドルしないため、アプリケーションの配布サイズが劇的に小さくなります。数MBから数十MB程度が一般的で、Electronの数分の一以下になることも珍しくありません。これにより、ダウンロードやインストールの負担が軽減されます。
- 高いパフォーマンスと低リソース消費: OSネイティブのWebviewはシステムリソースを効率的に利用するように最適化されています。また、バックエンドの処理は高速でメモリ安全なRustで行われるため、全体としてアプリケーションの起動が速く、メモリやCPUの消費量も抑えられます。
- 強化されたセキュリティ:
- Rustによる安全なバックエンド: Rustはコンパイル時に多くのメモリ安全性の問題を検出するため、バッファオーバーフローなどの一般的な脆弱性を防ぐのに役立ちます。
- API Allowlist: FrontendからBackend(Rust)の機能にアクセスする際に、どのAPIを許可するかを明示的に設定する必要があります。これにより、必要最小限の機能のみを公開し、攻撃対象領域を減らすことができます。
- Content Security Policy (CSP): Webviewで読み込まれるコンテンツに対して、リソースの読み込み元などを厳しく制限するCSPをデフォルトで有効化できます。
- 組み込みのセキュリティ機能: ウィンドウサンドボックス、ファイルシステムアクセス制限など、多くのセキュリティ機能がフレームワークレベルで提供されます。
- WebViewのサンドボックス: 多くのネイティブWebviewはOSレベルでサンドボックス化されており、悪意のあるWebコンテンツがシステムに直接アクセスすることを防ぐ層が追加されます。
- OSとの高い統合性: ネイティブのWebviewを使用するため、フォントレンダリングやハードウェアアクセラレーションなどがOSとより自然に連携します。また、メニューバー、通知、ファイルダイアログなどのネイティブUI要素も、よりOSの見た目や操作感に近い形で実装しやすいです。
- Web開発者に馴染みやすいFrontend: UI開発は既存のWeb技術とフレームワークで行えるため、Web開発の知識や資産を活かせます。
- 強力なBackend言語(Rust): Rustは学習コストがかかる側面もありますが、一度習得すれば高いパフォーマンスと安全性を両立したコードを記述でき、システムレベルの処理や複雑なロジックの実装に適しています。
Tauriは、Electronの抱える「重さ」と「セキュリティ」という二大課題に対して、ネイティブWebviewとRustという強力な組み合わせで解決策を提示しています。これにより、Web技術の利便性を保ちつつ、より軽量で高速、そしてセキュアなデスクトップアプリケーションの開発を可能にしています。
3. Tauriのアーキテクチャ詳細:ネイティブWebviewとRustの連携
Tauriのユニークな点は、そのアーキテクチャにあります。WebフロントエンドとRustバックエンドがどのように連携して一つのアプリケーションを形成するのかを詳しく見ていきましょう。
Tauriアプリケーションの基本的な構造は以下のようになります。
+-------------------+ +-----------------+ +-------------------+
| Frontend (Web) | <---> | IPC (Bridge) | <---> | Backend (Rust) |
| (HTML, CSS, JS) | | | | (Core Logic, OS |
| (Runs in Native | | | | API Access) |
| WebView) | +-----------------+ +-------------------+
+-------------------+ |
| |
+------------------------------------------------------+
(Build Process & Packaging)
|
+---------------------+
| Packaged Application|
| (Installer/Binary) |
+---------------------+
3.1. Frontend (Webview内)
- 技術スタック: HTML, CSS, JavaScript/TypeScript。任意のモダンなJavaScriptフレームワーク(React, Vue, Angular, Svelte, SolidJSなど)やライブラリ(Tailwind CSS, Bootstrapなど)を使用できます。Node.jsやnpm/yarn/pnpmなどのパッケージマネージャーを使って、これらのフロントエンド依存関係を管理します。
- 実行環境: アプリケーションのウィンドウ内に埋め込まれたOSネイティブのWebview内で実行されます。これは独立したWebブラウザのインスタンスではなく、OSが提供するコンポーネントです。WebviewはWebコンテンツのレンダリング、JavaScriptの実行、DOM操作などを担当します。
- 制限: Webviewはブラウザ環境と同じように動作しますが、セキュリティ上の理由から、ブラウザとは異なりNode.js環境への直接的なアクセスはありません。OSレベルの機能(ファイルシステムアクセス、ネットワーク通信など)を実行するには、必ずBackend(Rust)を介する必要があります。
3.2. Backend (Rust)
- 技術スタック: Rust言語。Tauriのコアライブラリと、アプリケーション固有のバックエンドロジックを記述します。Rustの豊富なクレート(ライブラリ)エコシステムを利用できます。
- 役割:
- Tauriアプリケーションのコアプロセスとして動作します。
- ウィンドウ管理、メニューバー、システムトレイ、通知などのOSレベルの機能を提供します。
- ファイルシステムへのアクセス、ネットワーク通信、データベース操作など、Frontendからは直接行えないOSレベルの処理を実行します。
- アプリケーションのビジネスロジックや、パフォーマンスが重要な処理を担います。
- Frontendからの要求(IPC経由)を受け付け、処理結果をFrontendに返します。
- 安全性とパフォーマンス: Rustはその所有権システムと借用チェッカーにより、コンパイル時にメモリ安全性を保証します。ガベージコレクションがないため実行時オーバーヘッドが小さく、システムレベルの低レベル制御も可能であり、高いパフォーマンスを発揮します。これにより、メモリリークやデータ競合といったセキュリティリスクをコンパイル時点で防ぐことができます。
3.3. IPC (Inter-Process Communication)
Frontend(WebviewのJavaScript)とBackend(Rustプロセス)は、異なるプロセスで実行されます。これらが連携するためには、プロセス間通信(IPC)のメカニズムが必要です。Tauriはこのための強力なIPCブリッジを提供します。
-
FrontendからBackendへの呼び出し: FrontendのJavaScriptから、Backendの特定のRust関数を呼び出すことができます。これは「コマンド(Commands)」と呼ばれます。
- Rust側では、
#[tauri::command]
マクロを使って、Frontendから呼び出し可能な関数を定義します。これらの関数は引数を受け取ったり、値を返したりできます。 - JavaScript側では、Tauriが自動生成するJavaScript API(
@tauri-apps/api
クレート)を使って、これらのRustコマンドを非同期に呼び出します。あたかもローカルのJavaScript関数を呼び出すかのようにRust関数を実行できます。 - 例: ファイルを保存する、データベースからデータを取得する、OS情報を取得するなど。
“`rust
// src-tauri/src/main.rs[tauri::command]
fn greet(name: &str) -> String {
format!(“Hello, {}!”, name)
}fn main() {
tauri::Builder::default()
.invoke_handler(tauri::generate_handler![greet]) //greet
関数をコマンドとして公開
.run(tauri::generate_context!())
.expect(“error while running tauri application”);
}
“`“`javascript
// src/main.js (Frontend)
import { invoke } from ‘@tauri-apps/api/tauri’async function callGreet() {
const response = await invoke(‘greet’, { name: ‘Tauri’ }); // Rustの greet コマンドを呼び出し
console.log(response); // “Hello, Tauri!” と出力
}
“`
* BackendからFrontendへの通知: BackendのRustプロセスから、Frontend(Webview)に対してイベントを送信できます。これは「イベント(Events)」と呼ばれます。
* Rust側では、TauriのAPIを使って、特定の名前のイベントをFrontendに発行します。イベントデータを含めることも可能です。
* JavaScript側では、TauriのAPIを使って、特定のイベントをリッスン(購読)し、イベントが発生した際にコールバック関数を実行します。
* 例: バックグラウンド処理の進捗を通知する、ファイル操作の完了を知らせる、OSイベント(バッテリー低下など)を通知する。“`rust
// src-tauri/src/main.rs
use tauri::Manager;[tauri::command]
fn send_event_to_frontend(window: tauri::Window) {
window.emit(“my-custom-event”, “data from backend”).unwrap(); // my-custom-event イベントを発行
}fn main() {
tauri::Builder::default()
.setup(|app| {
#[cfg(debug_assertions)] // 開発ビルドでのみDevToolsを開く
app.get_window(“main”).unwrap().open_devtools();
Ok(())
})
.invoke_handler(tauri::generate_handler![send_event_to_frontend])
.run(tauri::generate_context!())
.expect(“error while running tauri application”);
}
“`“`javascript
// src/main.js (Frontend)
import { listen } from ‘@tauri-apps/api/event’;
import { invoke } from ‘@tauri-apps/api/tauri’;const unlisten = await listen(‘my-custom-event’, (event) => {
console.log(‘Received event from backend:’, event.payload); // “data from backend” と出力
});// 後でイベントリスナーを解除する場合
// unlisten();// Backendにイベント発行を指示するコマンドを呼び出す例
async function requestEvent() {
await invoke(‘send_event_to_frontend’);
}// ボタンクリックなどで requestEvent() を呼び出す
“` - Rust側では、
このIPCメカニズムは、FrontendがUIとユーザーインタラクションに集中し、Backendがシステムレベルの処理と安全性を担当するという役割分担を明確にします。Frontendは直接危険な操作を行えず、Backendを介す必要があるため、セキュリティリスクを軽減できます。
3.4. ビルドプロセス
Tauri CLI (@tauri-apps/cli
) は、Tauriアプリケーションのビルドプロセスを管理します。
- Frontendビルド: 設定されたFrontendプロジェクト(例:
package.json
のbuild
スクリプト)を実行し、Webアセット(HTML, CSS, JSなど)を生成します。 - Rustビルド: Rustバックエンドコードをコンパイルします。この際、OS固有のWebviewコンポーネントを組み込みます。
- パッケージング: 生成されたWebアセットとコンパイルされたRustバイナリを、OS固有の形式(Windows:
.msi
,.exe
/ macOS:.app
,.dmg
/ Linux:.deb
,.rpm
など)でパッケージ化します。
このビルドプロセスにより、配布可能な単一のアプリケーションファイル(またはインストーラー)が生成されます。
まとめると、Tauriのアーキテクチャは、Web技術の表現力と開発効率を活かしつつ、OSネイティブのWebviewによる軽量なレンダリングと、Rustによる安全で高性能なバックエンド処理を組み合わせることで、Electronの課題を克服しています。Web開発者は馴染みのある技術でUIを構築し、システムレベルの機能は信頼性の高いRustで実装するという、明確な分業体制がとられています。
4. Electron対Tauri:詳細比較とメリット・デメリット
ElectronとTauriはどちらもWeb技術でデスクトップアプリを作るフレームワークですが、そのアプローチの違いから、それぞれに得意なことと苦手なことがあります。ここでは、両者を様々な観点から詳細に比較し、TauriがElectronに対してどのようなメリットを持つのか、そしてTauriにも存在するデメリットや考慮事項は何なのかを深掘りします。
特徴 | Electron | Tauri | Tauriのメリット | Tauriの考慮事項 |
---|---|---|---|---|
コア技術 | Bundled Chromium + Node.js | Native WebView + Rust | 圧倒的に軽量、OSとの親和性が高い | WebViewの互換性問題(稀)、Rustの学習コスト |
アプリケーションサイズ | 大きい (数十MB〜数百MB以上) | 小さい (数MB〜数十MB程度) | 配布・ダウンロード・インストールが容易 | |
リソース消費 | 多い (メモリ, CPU) | 少ない | 低スペック環境でも快適に動作、起動が速い | |
パフォーマンス | Chromium/V8依存、Node.js | Rustによる高速バックエンド、ネイティブWebview | 高速な起動、スムーズな動作、複雑な処理も高速 | FrontendのJSパフォーマンスはWebview依存 |
セキュリティ | Chromium/Node.jsの脆弱性リスク、広い攻撃面 | Rustの安全性、API Allowlist, CSP, サンドボックス | 攻撃対象領域が小さく、多くの脆弱性を防ぐ仕組みが組み込まれている | バックエンドコードのセキュリティはRust実装力に依存 |
開発言語 | JavaScript/TypeScript (Frontend & Backend) | JavaScript/TypeScript (Frontend), Rust (Backend) | フロントエンドはWeb開発者向け、バックエンドは高性能/安全 | Rustの学習が必要 |
開発エコシステム | Node.js/npmの巨大なエコシステム | Rust/Crates.io + Webエコシステム | Node.jsモジュールも一部利用可能、Rustのエコシステムも活用 | Node.jsに依存するネイティブモジュールは直接利用できない場合がある |
UIの一貫性 | Chromiumによる統一されたレンダリング | OSネイティブWebview依存 | OSの見た目・操作感に近いUIになりやすい | OSによるレンダリングの微妙な違いが発生する可能性がある(通常問題にならないレベル) |
成熟度 | 成熟しており、実績多数 | 比較的新しく、急速に発展中 | 新しい技術トレンドを取り込んでいる | 大規模コミュニティや情報の量はElectronに劣る |
デバッグ | Chromium DevTools + Node.jsデバッガー | Webview DevTools + Rustデバッガー | Web開発者には馴染みやすい | Rustデバッグの知識が必要、Frontend/Backend間のデバッグ連携に慣れが必要 |
ビルド要件 | Node.js, npm/yarn/pnpm | Node.js, npm/yarn/pnpm, Rust toolchain, OS固有のビルドツール (C++, etc.) | Rust環境設定やOS固有のビルドツール導入の手間 |
TauriがElectronより優れている点(Tauriのメリット):
- 軽量性とリソース効率: これはTauriの最大の売りです。アプリケーションサイズ、メモリ使用量、CPU使用率の全てにおいてElectronより優位に立つ場合が多いです。特に多くのElectronアプリが動作する環境や、古いハードウェア、リソースが限られた環境ではその差が顕著になります。
- パフォーマンス: 起動速度が速く、Rustによるバックエンド処理は非常に高速です。これにより、ユーザーはより応答性の高いアプリケーション体験を得られます。
- セキュリティ: Rustのメモリ安全性、API Allowlist、組み込みのCSPなどの機能により、Electronよりもデフォルトでセキュアなアプリケーションを構築しやすい設計になっています。外部のWebコンテンツを表示する際に、システムへの影響を最小限に抑えることができます。
- OSとの親和性: ネイティブWebviewを利用するため、フォントレンダリングやUI要素(スクロールバーなど)がOSの標準的なものに近くなり、ユーザーはより自然な操作感を得られます。
Tauriに存在するデメリットや考慮事項:
- Rustの学習コスト: バックエンドロジックをRustで記述する必要があるため、JavaScript/TypeScriptしか知らないWeb開発者にとっては学習コストが発生します。Rustは強力で安全な言語ですが、その所有権システムなどのユニークな概念を理解するには時間がかかる場合があります。
- エコシステムの成熟度: Electron/Node.jsのエコシステムは非常に巨大で、利用可能なライブラリやツール、情報が豊富です。Tauriのエコシステムは急速に成長していますが、Electronほど成熟しているわけではありません。ただし、Rustのエコシステム(Crates.io)は非常に活発であり、多くのバックエンドニーズを満たすことができます。また、Frontend側はWebのエコシステム全体を利用できます。
- WebViewの互換性: 使用するOSやそのバージョンによってWebviewの具体的な実装(特にLinux)や細かな挙動が異なる可能性があります。ごく稀に、特定のCSSやJavaScript機能が期待通りに動作しないなどの互換性問題が発生する可能性はゼロではありません。ただし、主要なOSでは最新のWebview(WebView2, WKWebView)が利用されるため、ほとんどのモダンなWeb標準はサポートされています。
- Node.jsネイティブモジュールの制限: Electronではnpmで提供されるほとんどのパッケージ、特にC++アドオンを含むネイティブモジュールをそのまま利用できましたが、TauriのバックエンドはRustであるため、Node.jsネイティブモジュールを直接利用することはできません。同様の機能が必要な場合は、Rustで再実装するか、対応するRustクレートを探す必要があります。ただし、Frontend側で実行されるJavaScriptコードからは、ブラウザ環境で動作する通常のnpmパッケージは引き続き利用可能です。
- ビルド環境の複雑さ: Rust toolchainに加えて、各OSでネイティブコードをコンパイルするためのツール(Windows: Visual Studio Build Tools, macOS: Xcode Command Line Tools, Linux: gcc/clang, GTK開発ライブラリなど)が必要になります。Electronと比較すると、初期環境構築の手間が少し増える可能性があります。
どちらを選ぶべきか?
- Electronを選ぶケース:
- 開発チームが完全にJavaScript/TypeScriptのみで構成されており、Rustの学習リソースがない。
- Node.jsのネイティブモジュールに強く依存する機能が必要。
- 開発・デバッグの情報の豊富さやコミュニティの大きさを最優先したい。
- アプリケーションサイズやリソース消費は二の次で、開発の迅速さやWeb技術の最大限の活用を重視したい。
- Tauriを選ぶケース:
- アプリケーションの軽量性、高速性、低リソース消費が必須要件である。
- セキュリティを非常に重視するアプリケーションを開発したい。
- Rustに興味がある、またはRustエンジニアがチームにいる。
- よりOSネイティブな見た目や操作感を実現したい。
- Electronの「重さ」に不満を感じており、代替を探している。
Tauriは、Electronが築き上げた「Web技術でデスクトップアプリを作る」というコンセプトを継承しつつ、その弱点であった軽量性、パフォーマンス、セキュリティを大幅に強化したフレームワークです。「Electronは便利だけど、もう少し軽かったらな…」と感じていた開発者にとって、Tauriは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。特に、ユーティリティツール、システムモニタリングツール、小規模なビジネスアプリケーションなど、リソース効率が求められるアプリケーション開発にはTauriが非常に適しています。
5. Tauriの主要機能とコンセプト
Tauriは単にWebviewを表示するだけでなく、デスクトップアプリケーションとして必要な様々な機能を提供しています。ここでは、Tauriが提供する主要な機能とコンセプトについて詳しく見ていきましょう。
5.1. ウィンドウ管理 (Window Management)
Tauriアプリケーションは一つ以上のウィンドウを持つことができます。TauriのAPIを使って、ウィンドウの作成、サイズ変更、移動、最小化、最大化、フルスクリーン化、閉じるといった操作をプログラムから制御できます。また、ウィンドウのタイトルバーの表示/非表示、透過性、初期サイズや位置などの設定も可能です。
“`rust
// src-tauri/src/main.rs – 新しいウィンドウを作成する例 (Backend)
[tauri::command]
async fn create_new_window(app: tauri::AppHandle) -> Result<(), String> {
tauri::WindowBuilder::new(
&app,
“new_window”, / ウィンドウのユニークな識別子 /
tauri::WindowUrl::App(“index.html”.into()) / ウィンドウにロードするHTML /
)
.title(“新しいウィンドウ”)
.inner_size(600.0, 400.0)
.build()
.map(|_| ())
.map_err(|e| e.to_string())
}
fn main() {
tauri::Builder::default()
.invoke_handler(tauri::generate_handler![create_new_window])
.run(tauri::generate_context!())
.expect(“error while running tauri application”);
}
“`
“`javascript
// src/main.js – 新しいウィンドウ作成をBackendに指示する (Frontend)
import { invoke } from ‘@tauri-apps/api/tauri’;
async function openNewWindow() {
try {
await invoke(‘create_new_window’);
} catch (error) {
console.error(‘Failed to create new window:’, error);
}
}
“`
5.2. メニューバー (Menu Bar)
OSネイティブのアプリケーションメニューバーをカスタマイズできます。アプリケーションメニュー、ファイルメニュー、編集メニュー、表示メニューなどの標準的な項目を追加したり、カスタムメニュー項目を定義したり、ショートカットキーを設定したりできます。メニュー項目がクリックされたときのイベントを捕捉し、BackendまたはFrontendで処理を実行させることが可能です。
“`rust
// src-tauri/src/main.rs – カスタムメニューを作成する例
use tauri::{CustomMenuItem, Menu, MenuItem, Submenu};
fn main() {
let quit = CustomMenuItem::new(“quit”.to_string(), “Quit”);
let close = CustomMenuItem::new(“close”.to_string(), “Close”);
let submenu = Submenu::new(“File”, Menu::new().add_item(quit).add_item(close));
let menu = Menu::new().add_submenu(submenu);
tauri::Builder::default()
.menu(menu) // 作成したメニューをアプリケーションに設定
.on_menu_event(|event| { // メニュー項目がクリックされた時のイベントハンドラ
match event.menu_item_id() {
"quit" => {
std::process::exit(0);
}
"close" => {
event.window().close().unwrap();
}
_ => {}
}
})
.run(tauri::generate_context!())
.expect("error while running tauri application");
}
“`
5.3. システムトレイ (System Tray)
アプリケーションをシステムトレイ(Windowsの通知領域、macOSのメニューバーアイコン)に常駐させることができます。トレイアイコンのクリックや右クリックに応じたメニューを表示し、アプリケーションのウィンドウ表示/非表示、特定の機能の実行、終了などの操作を可能にします。バックグラウンドで動作するユーティリティアプリなどに便利です。
“`rust
// src-tauri/src/main.rs – システムトレイを追加する例
use tauri::{SystemTray, SystemTrayMenu, SystemTrayMenuItem};
fn main() {
let quit = CustomMenuItem::new(“quit”.to_string(), “Quit”);
let hide = CustomMenuItem::new(“hide”.to_string(), “Hide”);
let show = CustomMenuItem::new(“show”.to_string(), “Show”);
let tray_menu = SystemTrayMenu::new()
.add_item(show)
.add_item(hide)
.add_native_item(SystemTrayMenuItem::Separator)
.add_item(quit);
tauri::Builder::default()
.system_tray(SystemTray::new().with_menu(tray_menu)) // システムトレイを設定
.on_system_tray_event(|app, event| match event { // システムトレイイベントハンドラ
SystemTrayEvent::LeftClick {
position: _,
size: _,
..
} => {
println!("system tray received a left click");
}
SystemTrayEvent::RightClick {
position: _,
size: _,
..
} => {
println!("system tray received a right click");
}
SystemTrayEvent::DoubleClick {
position: _,
size: _,
..
} => {
println!("system tray received a double click");
}
SystemTrayEvent::MenuItemClick { id, .. } => {
match id.as_str() {
"quit" => {
std::process::exit(0);
}
"hide" => {
let window = app.get_window("main").unwrap();
window.hide().unwrap();
}
"show" => {
let window = app.get_window("main").unwrap();
window.show().unwrap();
}
_ => {}
}
}
_ => {}
})
.run(tauri::generate_context!())
.expect("error while running tauri application");
}
“`
5.4. ファイルシステムアクセス (Filesystem Access)
セキュリティを考慮し、Frontendからファイルシステムに直接アクセスすることはできません。ファイルやディレクトリの操作(読み込み、書き込み、作成、削除など)は全てBackend(Rust)のAPIを介して行います。これにより、Frontendの脆弱性が悪用されてファイルシステムが不正に操作されるリスクを軽減します。どのパスへのアクセスを許可するかは、tauri.conf.json
で設定できます。
“`javascript
// src/main.js – Backend経由でファイルを読み込む (Frontend)
import { invoke } from ‘@tauri-apps/api/tauri’;
async function readFileContent(filePath) {
try {
const content = await invoke(‘read_my_file’, { path: filePath }); // Rustのコマンドを呼び出し
console.log(‘File content:’, content);
} catch (error) {
console.error(‘Error reading file:’, error);
}
}
“`
“`rust
// src-tauri/src/main.rs – ファイルを読み込むRustコマンドの例 (Backend)
[tauri::command]
async fn read_my_file(path: String) -> Result
// NOTE: セキュリティのため、指定されたパスが許可リストに含まれているかなどの検証をここで行うべきです。
// Tauriのfsプラグインやallowlist設定を利用するとより安全です。
tokio::fs::read_to_string(path)
.await
.map_err(|e| e.to_string())
}
fn main() {
tauri::Builder::default()
.invoke_handler(tauri::generate_handler![read_my_file])
// ファイルシステムアクセスを許可する設定 (tauri.conf.jsonでも設定可能)
// .allowlist(tauri::Allowlist::builder().fs(true).build()) // 例: fsアクセスを許可
.run(tauri::generate_context!())
.expect(“error while running tauri application”);
}
“`
5.5. ネットワーク通信 (Networking)
Frontend(Webview)は通常のWebブラウザと同様にHTTPリクエストなどを実行できますが、OSレベルの詳細なネットワーク制御や、ブラウザのセキュリティ制約を超えるような通信(例: 特定のポートでのListen)はBackend(Rust)で行う必要があります。TauriはHTTPクライアントやTCP/UDPソケットなどのネットワーク機能にアクセスするためのAPIを提供します。
5.6. プラグインシステム (Plugin System)
Tauriのコア機能だけではカバーできない、より高度なOS機能へのアクセスや、特定のライブラリとの連携は、プラグインを介して行います。TauriプラグインはRustで記述され、Frontendに対して新しいJavaScript APIを提供したり、Backendで特定の処理を実行したりすることができます。公式プラグイン(例: SQLite, シェル実行, クリップボード)や、コミュニティが開発したプラグインを利用できます。これにより、Tauriの機能を容易に拡張できます。
5.7. アップデーター (Updater)
Tauriアプリケーション自身を自動的にアップデートする機能が組み込まれています。設定されたアップデートサーバーから新しいバージョン情報を取得し、ダウンロード・インストールを実行できます。これにより、ユーザーに常に最新かつ安全なバージョンのアプリケーションを提供しやすくなります。
5.8. セキュリティ機能 (Security Features)
Tauriは設計段階からセキュリティを重視しています。
- API Allowlist: FrontendからBackendのどのRust機能(コマンド)を呼び出し可能にするかを明示的に許可リストとして設定します。デフォルトでは何も許可されていません。これにより、悪意のあるJavaScriptコードが予期しないBackend機能を実行するリスクを防ぎます。
- Content Security Policy (CSP): Webviewで読み込まれるHTMLにCSPヘッダーを挿入し、スクリプトの実行元、CSSの読み込み元、その他のリソースの読み込み元などを厳しく制限できます。これにより、クロスサイトスクリプティング(XSS)などのWeb脆弱性のリスクを軽減します。Tauriではデフォルトで推奨されるCSPが設定されています。
- スコープ付きファイルシステムアクセス: ファイルシステムアクセスを許可する場合も、どのディレクトリやファイルパターンへのアクセスを許可するかを細かく設定できます。
- サンドボックス: ネイティブWebviewが提供するサンドボックス機能を利用します。
これらの機能により、TauriアプリケーションはWeb技術を使用しながらも、従来のWebアプリケーションや一部のElectronアプリケーションよりも高いセキュリティレベルを実現できます。
5.9. クロスプラットフォーム対応
TauriはWindows (x64, arm64), macOS (x64, aarch64), Linux (x64, arm64) をサポートしています。単一のコードベース(FrontendのWebコードとBackendのRustコード)から、各OS向けのネイティブパッケージを生成できます。ただし、OS固有のWebviewを使用するため、全く同じ見た目や挙動を全てのOSで保証するわけではありません(ほとんどの場合、大きな問題にはなりませんが)。
これらの機能は、Tauriが単なるWebページのラッパーではなく、本格的なデスクトップアプリケーションフレームワークであることを示しています。Electronが提供する主要な機能の多くをカバーしつつ、軽量性、パフォーマンス、セキュリティといった側面で差別化を図っています。
6. Tauriで始めるデスクトップアプリケーション開発:実践ガイド
Tauriで実際にデスクトップアプリケーションを開発するための環境構築から基本的なアプリケーション作成、ビルドまでの流れを解説します。
6.1. 事前準備(環境構築)
Tauriアプリケーションの開発には、いくつかのツールが必要です。
-
Rust Toolchain: TauriのバックエンドはRustで開発するため、Rustコンパイラと関連ツールが必要です。以下のコマンドで
rustup
をインストールするのが最も簡単です。rustup
はRustのバージョン管理ツールです。- macOS/Linux:
bash
curl --proto '=https' --tlsv1.2 -sSf https://sh.rustup.rs | sh - Windows: https://rustup.rs/ からインストーラーをダウンロードして実行します。
インストール後、ターミナルを再起動するか、source $HOME/.cargo/env
(Linux/macOS) を実行して環境変数をロードしてください。
Rustのバージョン確認:rustc --version
- macOS/Linux:
-
Node.js & npm/yarn/pnpm: フロントエンド開発のために必要です。
- https://nodejs.org/ からインストーラーをダウンロードしてインストールします。
- バージョン確認:
node --version
,npm --version
(またはyarn --version
,pnpm --version
)
-
OS固有のビルドツール: Tauriはネイティブコードをコンパイルするため、各OSで必要なビルドツールが必要です。
- Windows: Visual Studio 2022以降のBuild Tools(C++ビルドツールコンポーネントを含む)。https://visualstudio.microsoft.com/downloads/ の下の方にある「Tools for Visual Studio」から「Build Tools for Visual Studio」を選択してダウンロード・インストールし、インストール時に「C++ Build Tools」を選択してください。WebView2も必要ですが、最近のWindows 10/11には通常プリインストールされています。もしWebView2ランタイムがない場合は、Microsoftのサイトからダウンロードしてインストールが必要です。
- macOS: Xcode Command Line Tools。ターミナルで
xcode-select --install
を実行します。WebKit(WKWebView)はmacOSに組み込まれています。 - Linux: C/C++コンパイラ(gccまたはclang)、GTK開発ライブラリ、WebKitGTK開発ライブラリなどが必要です。ディストリビューションによってインストール方法が異なります。(例: Debian/Ubuntu:
sudo apt update && sudo apt install libwebkit2gtk-4.1-dev build-essential
, Fedora:sudo dnf install webkit2gtk4.1-devel openssl-devel
)
-
Tauri CLI: プロジェクトの作成、開発サーバー起動、ビルドなどを行います。
bash
npm install -g @tauri-apps/cli
# または yarn global add @tauri-apps/cli
# または pnpm add -g @tauri-apps/cli
バージョン確認:tauri --version
6.2. 新しいTauriプロジェクトを作成する
Tauri CLIを使って、新しいプロジェクトを簡単にセットアップできます。
bash
tauri init
このコマンドを実行すると、対話形式でプロジェクトの設定を行います。
Project name
: プロジェクトの名前 (例:my-tauri-app
)Package name [my-tauri-app]
: アプリケーションのパッケージ名 (通常はプロジェクト名と同じでOK)What is your frontend bundler?
: フロントエンドのビルドツールを選択 (例:vite
,webpack
,parcel
など)。Viteは高速なのでおすすめです。What is your UI framework?
: 使用するUIフレームワークを選択 (例:react
,vue
,angular
,svelte
,vanilla
,vanilla-ts
など)。Where is your frontend files located? [../src]
: フロントエンドのソースコードがあるディレクトリ (通常は../src
)What is your dev server URL? [http://localhost:5173]
: 開発中にフロントエンドサーバーが起動するURL。Viteの場合はデフォルトのhttp://localhost:5173
などが自動検出されます。
設定が完了すると、指定したディレクトリ構成でプロジェクトの雛形が作成されます。
6.3. プロジェクト構造の理解
作成されたプロジェクトは通常、以下の主要なディレクトリとファイルを含みます。
my-tauri-app/
├── src/ # フロントエンドのソースコード (HTML, CSS, JS/TS, Frameworkコードなど)
├── src-tauri/ # Tauri (Rust) のソースコードと設定ファイル
│ ├── src/ # Rustのソースコード (.rs ファイル)
│ │ └── main.rs # アプリケーションのエントリポイント
│ ├── tauri.conf.json # Tauriのグローバル設定ファイル (ウィンドウサイズ、許可リスト、プラグインなど)
│ └── Cargo.toml # Rustのプロジェクト設定と依存関係ファイル
├── package.json # フロントエンド(Node.js)の依存関係とスクリプト
├── index.html # フロントエンドのエントリポイントHTML
└── ... (その他のフロントエンド関連ファイル例: vite.config.js, tsconfig.jsonなど)
src/
: ここにReactやVueなどでUIを構築するコードを記述します。通常のWeb開発と同じように作業できます。src-tauri/
: ここがTauri(Rust)の核心部分です。src-tauri/src/main.rs
: Tauriアプリケーションのエントリポイントです。ウィンドウ作成、メニュー設定、イベントハンドリング、そしてFrontendから呼び出されるRustコマンドの定義などを行います。src-tauri/tauri.conf.json
: Tauriアプリケーションのビルド設定や実行時の挙動を設定する重要なファイルです。ウィンドウ設定、許可するAPI(allowlist)、プラグイン設定、カスタムプロトコルなどがここで定義されます。アプリケーションのセキュリティ設定の多くもここで行います。src-tauri/Cargo.toml
: Rustプロジェクトの設定ファイルです。Tauriフレームワークや使用する他のRustクレート(ライブラリ)の依存関係を管理します。
package.json
: フロントエンドの依存関係(React, Vue, Viteなど)と、開発・ビルド用のnpmスクリプトが含まれます。tauri init
によって、Tauri関連のスクリプト(tauri dev
,tauri build
)も追加されます。
6.4. 開発サーバーを起動する
Tauriアプリケーションを開発モードで実行するには、以下のコマンドを使います。
“`bash
npm run tauri dev
または yarn tauri dev
または pnpm tauri dev
“`
このコマンドは以下のことを行います。
- フロントエンドの開発サーバー(例: Vite dev server)を起動します。
- Rustバックエンドをコンパイルし、Tauriアプリケーションを起動します。
- Tauriアプリケーションは、設定ファイル (
tauri.conf.json
) で指定されたURL(デフォルトではフロントエンド開発サーバーのURL)をWebviewでロードします。
これにより、フロントエンドのコードを変更すると、開発サーバーがそれを検知してホットリロード(あるいは高速リフレッシュ)を行い、Tauriウィンドウ内の表示が自動的に更新されます。Rustバックエンドのコードを変更した場合は、tauri dev
コマンド自体を再実行して、新しいRustバイナリをビルド・実行する必要があります。
開発モードでは、通常、Webviewで開発者ツール(DevTools)を開くことができます(Electronと同様)。これにより、FrontendのUIやJavaScriptコードのデバッグが容易に行えます。
6.5. Backend(Rust)との連携を試す(IPCの基本)
Frontend(JavaScript)からBackend(Rust)の機能を呼び出す最も基本的な方法である「コマンド」を試してみましょう。
-
src-tauri/src/main.rs
を開きます。テンプレートには既にgreet
というコマンドの例が含まれていることが多いです。もしなければ、以下のように追加します。“`rust
// src-tauri/src/main.rs
// Prevents additional console window on Windows in release mode.![cfg_attr(not(debug_assertions), windows_subsystem = “windows”)]
// Learn more about Tauri commands at https://tauri.app/v1/guides/features/command
[tauri::command] // このマクロでFrontendから呼び出し可能なコマンドとして公開
fn greet(name: &str) -> String {
format!(“Hello, {}!”, name)
}fn main() {
tauri::Builder::default()
.invoke_handler(tauri::generate_handler![greet]) // ここで greet コマンドを登録
.run(tauri::generate_context!())
.expect(“error while running tauri application”);
}
``
#[tauri::command]マクロが付いた関数は、Frontendから呼び出せるようになります。
invoke_handlerに
tauri::generate_handler!` マクロを使って、公開したいコマンド関数をリストアップします。 -
Frontend (
src/main.js
またはあなたのフレームワークのエントリポイントファイル) からこのコマンドを呼び出します。“`javascript
// src/main.js (例: Vanilla JS + Vite)
import { invoke } from ‘@tauri-apps/api/tauri’;// … (他のコード)
// コマンドを呼び出す関数
async function callGreetCommand() {
const nameInput = document.querySelector(“#name-input”); // 例としてinput要素から名前を取得
const messageElement = document.querySelector(“#greeting-message”); // 結果を表示する要素if (nameInput && messageElement) {
// invoke(‘コマンド名’, { 引数名: 引数値, … }) の形式で呼び出し
const greeting = await invoke(‘greet’, { name: nameInput.value });
messageElement.textContent = greeting; // 結果を表示
}
}// 例: ボタンクリックでコマンドを呼び出す
window.addEventListener(“DOMContentLoaded”, () => {
document.querySelector(“#greet-button”).addEventListener(“click”, () => callGreetCommand());
});
``
@tauri-apps/api/tauriから
invoke関数をインポートして使用します。
invoke` 関数は非同期であり、Rustコマンドの戻り値をPromiseとして返します。 -
HTMLファイル (
index.html
) にFrontendコードが参照する要素を追加します。“`html
Welcome to Tauri!
“` -
npm run tauri dev
でアプリケーションを起動し、UIでボタンをクリックするなどしてコマンド呼び出しを試してみてください。コンソールや画面上にRust関数からの結果が表示されるはずです。
これがTauriの基本的なIPC(Frontend <-> Backend連携)の流れです。より複雑なデータ(構造体、配列など)もJSON形式で自動的にシリアライズ・デシリアライズされて送受信できます。
6.6. アプリケーションをビルドする
開発が完了したら、配布可能なアプリケーションパッケージをビルドします。
“`bash
npm run tauri build
または yarn tauri build
または pnpm tauri build
“`
このコマンドは、Frontendコードを本番用にビルドし、Rustバックエンドを最適化ビルドし、そしてOS固有のインストーラーや実行可能ファイルとして全てをパッケージ化します。
ビルドされたファイルは通常 src-tauri/target/release/
ディレクトリ内の、OSに応じたサブディレクトリに生成されます(例: bundle/msi
for Windows MSI installer, bundle/dmg
for macOS DMG image, bundle/deb
for Debian/Ubuntu packageなど)。
ビルドプロセスには、必要なOS固有のツール(前述のC++ビルドツールなど)が必要になります。エラーが発生した場合は、必要な依存関係が全てインストールされているか確認してください。
7. まとめ:TauriはElectronの「重さ」からの解放か?
本記事では、Electronが抱える「重さ」の課題に焦点を当て、その代替となる注目のフレームワークTauriを詳細に解説しました。
ElectronがChromiumとNode.jsをまるごとバンドルすることで、Web技術でのデスクトップアプリ開発を容易にした一方で、アプリケーションサイズやリソース消費量の増大、セキュリティリスクといった課題をもたらしました。
対するTauriは、OSネイティブのWebviewとRust言語という異なるアプローチを採用することで、これらの課題に対する有効な解決策を提示しています。
- ネイティブWebview により、Chromiumのバンドルが不要となり、アプリケーションサイズとリソース消費量を劇的に削減します。OSに最適化されたWebviewはパフォーマンス面でも優位です。
- Rustによるバックエンド は、高いパフォーマンスとメモリ安全性を保証し、セキュリティリスクの低減に貢献します。また、OSレベルの機能への安全なアクセスを提供します。
- API AllowlistやCSP といったセキュリティ機能が設計思想に組み込まれており、デフォルトでセキュアなアプリケーションを構築しやすいフレームワークです。
- Frontendは既存のWeb技術とエコシステムをそのまま活用できます。
もちろん、Tauriは比較的新しいフレームワークであり、Electronほどの巨大なコミュニティや情報の蓄積はまだありません。また、Rustの学習コストや、稀に発生しうるWebviewの互換性の問題といった考慮事項も存在します。Node.jsネイティブモジュールへの依存度が高いアプリケーションの場合は、Tauriへの移行が困難なケースもあります。
しかし、アプリケーションの軽量性、パフォーマンス、そしてセキュリティが重要な要件であるならば、Tauriは非常に魅力的な選択肢となります。「Electronは便利だけど、どうにも重さが気になる…」と感じている開発者にとって、Tauriはまさに求めていたフレームワークかもしれません。
Tauriは、Web開発者が培ったスキルを活かしつつ、よりユーザーフレンドリー(高速で軽く、セキュア)なデスクトップアプリケーションを提供するための強力なツールです。特にユーティリティ、開発ツール、リソース効率が求められる業務用アプリケーションなどの分野で、Tauriはその真価を発揮するでしょう。
Electronで満足しているなら、そのまま使い続けるのも良いでしょう。しかし、もしあなたが「もっと軽く、もっと速く、もっとセキュアなデスクトップアプリをWeb技術で作れないか?」と考えているなら、あるいはRustを使った開発に興味があるなら、ぜひ一度Tauriを試してみてください。そのパフォーマンスと軽量性にきっと驚くはずです。
Tauriはまだ発展途上ですが、その革新的なアーキテクチャと開発コミュニティの活発さから、今後デスクトップアプリケーション開発の重要なプレイヤーになっていくことは間違いありません。Tauriの世界へようこそ!
これで約5000語の記事となります。技術的な詳細、Electronとの比較、開発手順などを網羅的に記述しました。