AlmaLinuxとは?CentOS代替としての特徴・メリットを徹底解説

AlmaLinuxとは?CentOS代替としての特徴・メリットを徹底解説

はじめに:変わりゆくLinuxサーバー環境とCentOSの終焉

かつて、LinuxサーバーOSの代表格として、多くのシステム管理者や開発者に信頼され、広く利用されてきたCentOSがありました。Red Hat Enterprise Linux(RHEL)のクローンとして、エンタープライズレベルの安定性と無償利用という利点を両立し、特にWebサーバーやアプリケーションサーバーの構築基盤として不動の地位を築いていました。

しかし、2020年末にCentOS Projectから発表された方針転換は、多くのCentOSユーザーに衝撃を与えました。「CentOS Linux 8」のサポート期間が大幅に短縮され、今後の開発はRHELの「上流」にあたるローリングリリース版である「CentOS Stream」に注力されることになったのです。これは、従来のCentOS Linuxが提供していた「安定した固定バージョンの長期サポート」という最も重要な価値が失われることを意味していました。

長年CentOSに依存してきた企業や個人は、新たなサーバーOSの選択を迫られることになりました。この状況下で、CentOSの事実上の後継とも言える存在として急速に注目を集めているのが「AlmaLinux」です。

本記事では、CentOSの終焉という背景を詳しく解説した上で、AlmaLinuxが一体どのようなOSなのか、なぜCentOSの代替として有力視されているのか、その特徴やメリット、他の代替候補との比較、そして今後の展望までを徹底的に解説します。サーバーOSの移行を検討されている方、AlmaLinuxについて詳しく知りたい方は、ぜひ最後までお読みください。

CentOSの歴史と終焉:なぜ代替が必要になったのか

CentOSは、「Community Enterprise Operating System」の略称であり、その名の通りコミュニティによって開発・維持されてきたLinuxディストリビューションです。最大の特徴は、商用版LinuxであるRed Hat Enterprise Linux(RHEL)のソースコードを基に、Red Hatの商標に関する部分などを取り除いて再ビルドされている点にありました。これにより、RHELと同等の高い安定性、信頼性、セキュリティ機能、そして広範なハードウェア・ソフトウェア対応を持ちながら、ライセンス費用が一切かからない「フリー」のOSとして提供されていました。

この「RHELクローン」という性質こそが、CentOSが長年にわたり多くのユーザーに支持されてきた理由です。企業は高額なRHELのライセンス費用をかけずに、RHELで動作するアプリケーションやミドルウェアを安心して導入でき、エンジニアはRHELの豊富なドキュメントや技術情報を活用しながらサーバーを構築・運用できました。特に、一度構築すれば長期間安定して稼働させたい本番環境において、CentOSの固定バージョン・長期サポートモデルは非常に魅力的でした。CentOS 6やCentOS 7は、そのライフサイクルの長さと安定性から、多くの基幹システムやサービスで採用されていました。

しかし、2014年にCentOS ProjectがRed Hatに吸収されるという大きな変化がありました。当初はコミュニティ主導の開発体制は維持されるとされていましたが、次第にRed Hatの影響力が増していきます。そして、2020年12月に発表されたのが、従来のCentOS Linuxから「CentOS Stream」への移行方針です。

この方針により、CentOS Projectの主な活動は、RHELのリリース候補版のような位置づけである「CentOS Stream」の開発にシフトしました。CentOS Streamは、RHELの「上流」に位置し、RHELの次のマイナーリリースやメジャーリリースに含まれる機能が先行して取り込まれます。これは、従来のCentOS Linuxのように「RHELの安定版リリースを後追いで忠実に再現する」というモデルとは根本的に異なります。CentOS Streamはローリングリリース的な性質を持ち、新しい機能や変更が比較的頻繁に取り込まれるため、従来のCentOS Linuxユーザーが求めていた「安定した固定バージョンの長期サポート」を提供しないのです。

特に衝撃的だったのは、当時多くのシステムで利用されていたCentOS Linux 8のサポート期間が、当初の予定(2029年まで)から大幅に短縮され、2021年末で終了すると発表されたことです。これにより、CentOS 8ユーザーはわずか1年あまりで代替OSへの移行を迫られることになりました。また、最も広く使われていたCentOS 7についても、サポート終了が2024年6月と迫っており、やはり代替OSへの移行検討が必須となっています。

このように、CentOS Projectの方針変更によって、RHEL互換の安定した無償OSというニーズに大きな空白が生じました。この空白を埋めるべく、複数の新しいプロジェクトが立ち上がりました。その中でも特に注目を集め、多くの支持を得ているのがAlmaLinuxなのです。

AlmaLinuxとは?その成り立ちと理念

AlmaLinuxは、CentOSの終焉を受けて誕生した新しいLinuxディストリビューションです。正式名称は「AlmaLinux OS」で、その最大の特徴は、CentOS Linuxがそうであったように、「Red Hat Enterprise Linux (RHEL) とバイナリ互換性のあるフリーなLinuxディストリビューション」であるという点です。

開発元と背景:CloudLinux Inc.の貢献

AlmaLinuxプロジェクトを最初に主導したのは、ロシアに本社を置くソフトウェア企業CloudLinux Inc.です。CloudLinuxは、ホスティング事業者やデータセンター向けに、RHEL互換の商用Linuxディストリビューションである「CloudLinux OS」を提供しており、長年にわたりRHEL互換OSの開発とサポートで実績を積んできました。CentOSの突然の方針変更を受け、CloudLinux Inc.は、自社の持つ技術と経験を活かして、CentOSの代替となる無償のRHEL互換OSを開発し、コミュニティに貢献することを決定しました。

CloudLinux Inc.は、2021年3月にAlmaLinux OSの最初の安定版リリース(AlmaLinux 8.3)を発表し、その開発を推進しました。しかし、単一企業による開発・運営では、CentOSのようにコミュニティの信頼を十分に得られない可能性があります。そこでCloudLinux Inc.は、AlmaLinuxが永続的にコミュニティによって運営されるように、大きな一歩を踏み出しました。

AlmaLinux OS Foundationの設立

AlmaLinuxの長期的な安定性と透明性を確保するため、CloudLinux Inc.は開発の主導権を独立した非営利団体「AlmaLinux OS Foundation」に移管することを発表し、2021年5月に正式に設立されました。このFoundationは、コミュニティメンバーによって運営されており、プロジェクトの方向性決定、資金管理、知的財産権の管理などを行います。CloudLinux Inc.は、Foundationの設立資金や開発リソースを提供し、主要なスポンサーの一つではありますが、プロジェクトの運営はコミュニティメンバーから選ばれた理事会によって行われます。

このFoundationの設立は、AlmaLinuxが単なる一企業の気まぐれで生まれたプロジェクトではなく、コミュニティによって永続的に維持・発展していく意思の表れとして、多くのユーザーや企業からの信頼を獲得する上で非常に重要な役割を果たしています。

名称の由来

「AlmaLinux」という名称は、ラテン語で「魂」や「精神」を意味する「Alma」に由来しています。これは、CentOSの「魂」を受け継ぎ、コミュニティの精神を大切にするという願いが込められています。

ライセンス

AlmaLinux OSは、MITライセンスのもとで提供されており、完全に無償で利用、改変、再配布が可能です。商用利用に関しても一切の制限はありません。

このように、AlmaLinuxはCloudLinux Inc.の豊富な技術と初期投資によって迅速に立ち上げられつつも、その将来は独立したコミュニティ主導のFoundationによって担保されているという、ユニークで堅牢な体制をとっています。これは、かつてCentOS ProjectがRed Hatに吸収されたことによる方針転換を経験したコミュニティにとって、非常に魅力的なモデルと言えるでしょう。

AlmaLinuxのCentOS代替としての位置づけ

なぜAlmaLinuxがCentOSの代替として有力な選択肢となっているのでしょうか。その鍵は、CentOSが持っていた最も重要な特性である「RHELとのバイナリ互換性」を、AlmaLinuxが完全に引き継いでいる点にあります。

RHELとのバイナリ互換性の重要性

RHELとのバイナリ互換性とは、簡単に言えば「RHEL上で動作するソフトウェアは、修正なしにAlmaLinux上でも同じように動作する」ということです。これは単にソースコードが同じであるというレベルではなく、コンパイルされた実行ファイル(バイナリ)が、依存するライブラリやシステムコール、ABI(Application Binary Interface)/API(Application Programming Interface)レベルで完全に互換性を持っていることを意味します。

CentOS Linuxが長年支持されたのは、このRHELとのバイナリ互換性があったからです。これにより、ISV(Independent Software Vendor)がRHEL向けに開発・テストした商用ソフトウェア、ドライバー、ミドルウェアなどが、そのままCentOS上でも問題なく動作しました。企業はRHELエコシステムの恩恵を受けながら、コストを抑えることができたのです。

CentOS StreamがRHELの「上流」に位置づけられたことで、このバイナリ互換性は保証されなくなりました。CentOS StreamはRHELの将来のバージョンに含まれる変更を先行して取り込むため、現在のRHELとはバイナリレベルで互換性がなくなる可能性があります。これは、本番環境で特定の商用ソフトウェアやハードウェアを利用しているユーザーにとっては致命的な問題となります。

AlmaLinuxは、RHELの公開されているソースコードを基に、CentOS Linuxと同様の手法でゼロから再ビルドされています。これにより、RHELとの完全なバイナリ互換性を実現しています。AlmaLinuxの開発チームは、RHELの新しいバージョンやアップデートがリリースされると、迅速にそのソースコードを取得し、商標等を削除した上で再ビルドし、品質テストを経てAlmaLinuxとしてリリースしています。

この「RHELとの完全なバイナリ互換性」が、AlmaLinuxをCentOSの代替として強く推薦できる最大の理由です。

CentOSからの移行の容易さ

RHELとのバイナリ互換性が確保されているため、既存のCentOS環境からAlmaLinuxへの移行は比較的容易です。AlmaLinuxプロジェクトは、CentOS 8からAlmaLinux 8へスムーズに移行するための公式ツール「migrate2alma」スクリプトを提供しています。このスクリプトを実行することで、OSの大部分を置き換えることが可能です。CentOS 7からの移行も、同様のツールや手順が提供されています。

もちろん、OSのメジャーバージョンアップやディストリビューションの変更にはリスクが伴うため、事前の十分なテストは不可欠です。しかし、RHEL互換という特性のおかげで、アプリケーションの再インストールや設定ファイルの大きな変更などが最小限で済む可能性が高く、移行作業の負担を大幅に軽減できます。長年培ってきたCentOS/RHELに関する運用ノウハウや技術情報もそのまま活かすことができます。

CloudLinuxの支援とコミュニティの活力

AlmaLinuxはCloudLinux Inc.によって立ち上げられ、現在も主要なスポンサーとして技術的・資金的な支援を受けています。CloudLinux Inc.は、エンタープライズ向けLinuxの開発・運用で豊富な経験を持っており、このノウハウがAlmaLinuxの高い品質と安定性に貢献しています。

また、AlmaLinux OS Foundationの設立により、プロジェクトはコミュニティ主導で運営されています。これは、特定の企業に依存しない、よりオープンで持続可能な開発モデルを意味します。世界中の開発者やユーザーがコミュニティに参加し、バグ報告、機能提案、ドキュメント作成、テスティングなど、様々な形でプロジェクトに貢献しています。このような活発なコミュニティは、AlmaLinuxのさらなる発展と信頼性の向上に不可欠です。

これらの要素が組み合わさることで、AlmaLinuxはCentOSの代替として、技術的な適合性、移行の容易さ、そして将来的な安心感という点で、非常に説得力のある選択肢となっています。

AlmaLinuxの主な特徴

AlmaLinuxがCentOS代替として有力な理由をさらに深掘りするために、その具体的な特徴を見ていきましょう。

  1. RHELとの完全なバイナリ互換性 (Enterprise Binary Compatible Sources)

    • 前述の通り、これが最も重要な特徴です。AlmaLinuxは、RHELの公開ソースコードを基にビルドされているため、RHELとの間でABI/APIレベルでの互換性が保証されています。
    • メリット:
      • RHEL向けに開発された多くのサードパーティ製ソフトウェアやハードウェアドライバがそのまま利用可能です。これにより、特定のアプリケーションやデバイスが必要なエンタープライズ環境でも安心して導入できます。
      • 既存のRHEL/CentOS環境で培った運用ノウハウ(コマンド操作、設定ファイル、管理ツールなど)がそのまま通用します。学習コストや移行コストを最小限に抑えられます。
      • RHELのセキュリティアップデートやバグフィックスがリリースされると、迅速にAlmaLinuxにも反映されます。
  2. 安定性と信頼性 (Enterprise-Grade Stability and Reliability)

    • RHELはエンタープライズ分野での豊富な実績に裏打ちされた高い安定性と信頼性を誇ります。AlmaLinuxはそのRHEL互換であるため、同様のレベルの安定性を提供します。
    • メリット:
      • ミッションクリティカルなシステムや、長期間の安定稼働が求められるインフラ基盤として適しています。
      • 徹底的な品質保証 (QA) プロセスを経てリリースされており、安心して利用できます。CloudLinux Inc.のエンタープライズ向けOS開発経験がQAの質を高めています。
  3. 長期的なサポートポリシー (Long Term Support – LTS)

    • AlmaLinux OS Foundationは、各メジャーバージョンに対して長期的なサポートを提供することを約束しています。具体的には、RHELと同様のライフサイクルに基づいてサポートを提供しており、セキュリティアップデートやバグフィックスが長期間提供されます。
    • メリット:
      • 一度導入すれば、OSの頻繁なアップグレードや移行計画に悩まされることなく、長期間(通常10年以上)安心して運用できます。
      • システムのライフサイクル計画が立てやすくなります。
  4. 無償利用 (Completely Free)

    • AlmaLinuxは、完全に無償でダウンロード、インストール、利用できます。ライセンス費用は一切かかりません。
    • メリット:
      • 特に多くのサーバーを運用している企業にとって、OSライセンス費用の大幅な削減に繋がります。
      • 開発、テスト、ステージング、本番環境など、どのような用途でもコストを気にせず利用できます。
      • 商用利用や再配布にも制限はありません。
  5. コミュニティ主導の開発と運営 (Community-Driven)

    • AlmaLinux OS Foundationがプロジェクトを運営しており、開発や意思決定プロセスは透明性が高く、コミュニティメンバーの意見が反映されやすい体制です。
    • メリット:
      • 特定の企業の方針転換によってプロジェクトが左右されるリスクが低く、将来的な持続性に対する安心感があります。
      • バグ報告や機能提案などを通じて、ユーザー自身がプロジェクトの改善に貢献できます。
      • 活発なコミュニティフォーラムやメーリングリストがあり、問題解決のための情報やサポートが得やすい環境です。
  6. 使い慣れた環境 (Familiar Environment)

    • ファイルシステム構造、パッケージ管理システム(dnf/yum)、サービス管理(systemd)、ファイアウォール(firewalld)、GUIデスクトップ環境(GNOMEなど)など、システム管理の基本的な構成やツールはRHEL/CentOSと共通です。
    • メリット:
      • CentOS/RHELの運用経験があるエンジニアであれば、すぐに導入・運用を開始できます。新たな学習コストはほとんどかかりません。
      • 既存の運用スクリプトや自動化ツール(Ansible, Chef, Puppetなど)の設定ファイルがそのまま、あるいは軽微な修正で利用可能です。
      • Web上の豊富なRHEL/CentOSに関する技術情報やトラブルシューティング情報がそのまま参考になります。
  7. 多様なアーキテクチャへの対応 (Multi-Architecture Support)

    • 従来のx86_64アーキテクチャに加え、AArch64 (ARM64), ppc64le (PowerPC Little Endian), s390x (IBM Z) といった様々なアーキテクチャに対応しています。
    • メリット:
      • 特定のハードウェア要件がある環境や、最新のARMサーバーなどを利用する際にも対応できます。
      • メインフレーム環境など、特定のエンタープライズニーズにも応えられます。
  8. 移植性の高さ (Portability)

    • ベアメタルサーバー、仮想マシン(VMware, KVM, Hyper-Vなど)、クラウド環境(AWS, Azure, GCPなど)、コンテナプラットフォーム(Docker, Kubernetes)など、様々な環境で動作します。
    • メリット:
      • システムを構築・運用する場所を選びません。オンプレミスとクラウドを組み合わせたハイブリッド環境でも一貫したOSを利用できます。
      • 主要なクラウドプロバイダーでは、AlmaLinuxの公式イメージが提供されています。

これらの特徴から、AlmaLinuxは単にCentOSの代替としてだけでなく、エンタープライズレベルのシステム基盤として非常に優れた能力を持っていることがわかります。

AlmaLinuxを利用するメリット

AlmaLinuxをサーバーOSとして選択することには、以下のような明確なメリットがあります。

  1. CentOSからのスムーズな移行:

    • RHELとのバイナリ互換性があるため、既存のCentOS環境からの移行が比較的容易です。特にCentOS 8からの移行ツール「migrate2alma」は実績があり、多くのユーザーが利用しています。これにより、システム停止時間を最小限に抑えつつ、既存の資産(設定、データ、スクリプト、運用手順)を最大限に活用できます。
    • 長年培ってきたCentOS/RHELの知識や経験が無駄になりません。新たなOSの学習に多大な時間をかける必要がありません。
  2. エンタープライズレベルの安定性と信頼性を無償で享受:

    • 通常、これほどの安定性と信頼性を持つOSは、RHELのような商用版を選択するか、自身でテストと検証に多大なリソースをかける必要があります。AlmaLinuxはRHEL互換であるため、これらの品質を無償で手に入れることができます。
    • 特に中小企業や個人事業主にとって、コストを抑えつつ信頼性の高いシステムを構築できるのは大きなメリットです。
  3. 長期的な視点での運用コスト削減:

    • OSのライセンス費用がかからないことはもちろん、長期的なサポート(通常10年以上)が提供されるため、数年ごとにOSのメジャーバージョンアップに伴う大規模な移行作業を行う必要がなくなります。これにより、システム管理の運用コストを長期的に削減できます。
    • 安定したOSは、システムトラブルの発生頻度を減らし、その対応にかかる人的コストも削減します。
  4. 豊富な技術情報とコミュニティサポート:

    • RHEL/CentOSは非常に歴史があり、多くのユーザーが利用してきたため、Web上には膨大な量の技術情報、トラブルシューティング情報、設定例などが存在します。AlmaLinuxはRHEL互換であるため、これらの情報の多くをそのまま活用できます。
    • 公式ドキュメント、Knowledge Base、コミュニティフォーラム、IRCチャンネル、Mattermostチャンネルなど、AlmaLinux独自のサポートチャネルも充実しており、困った際にはコミュニティの助けを借りることができます。
  5. 将来への安心感:

    • 単一企業ではなく、独立した非営利団体であるAlmaLinux OS Foundationが運営しているため、特定の企業の戦略変更によってプロジェクトが突然終了したり、方向性が大きく変わったりするリスクが低いです。コミュニティによって永続的に開発・維持されていくという信頼性があります。
    • CloudLinux Inc.という経験豊富な企業が主要なスポンサーとして技術支援を行っていることも、品質や開発速度の面で安心感を与えます。
  6. 多様な環境での柔軟な利用:

    • ベアメタル、VM、クラウド、コンテナなど、様々なインフラ環境に対応しているため、自社のインフラ戦略に合わせて柔軟にデプロイできます。特定のベンダーや環境に縛られることなく、最適な構成を選択できます。

これらのメリットは、特に企業のITインフラにおいて、AlmaLinuxを強力な選択肢として位置づけるものです。コスト削減、運用効率の向上、そして将来的なリスクの低減という観点から、AlmaLinuxは非常に魅力的と言えます。

AlmaLinuxのインストールと基本的な使い方

AlmaLinuxのインストールプロセスや基本的な使い方は、RHELや従来のCentOSと非常に似ています。CentOS/RHELの経験がある方なら、すぐに馴染むことができるでしょう。

1. インストールメディアの入手:

  • AlmaLinuxの公式サイト(almalinux.org)から、インストール用のISOイメージファイルをダウンロードします。
  • x86_64版のMinimal ISO(最小構成)、DVD ISO(標準構成)、Boot ISO(ネットワークインストール用)、Everything ISO(全パッケージ)などが提供されています。用途に合わせて選択します。
  • ダウンロードしたISOイメージは、物理サーバーの場合はUSBメモリやDVDに書き込む、仮想マシンの場合はISOファイルを仮想環境にマウントするといった方法で利用します。

2. インストール方法:

  • インストールメディアからOSを起動すると、GUIインストーラであるAnacondaが起動します。
  • 言語設定、キーボードレイアウト、ネットワーク設定、ストレージ設定(パーティショニング)、タイムゾーン設定、rootパスワード設定、ユーザー作成などを順に進めます。
  • ソフトウェア選択の項目では、インストールするパッケージグループを選択できます(Minimal Install, Server with GUI, Workstation, Custom OSなど)。サーバー用途であれば、「Minimal Install」を選択し、必要なパッケージを後から追加するのが一般的です。
  • 設定が完了したらインストールを開始します。インストール時間はサーバーのスペックや選択したパッケージによって異なりますが、通常は数十分程度で完了します。
  • インストール完了後、再起動すればAlmaLinuxが起動します。

3. CentOSからの移行:

  • 既存のCentOS 8/7環境からAlmaLinux 8/9への移行を検討している場合は、公式の「migrate2alma」スクリプトを利用するのが最も推奨される方法です。
  • migrate2almaスクリプトは、CentOSのパッケージをAlmaLinuxのパッケージに置き換える処理を行います。
  • 移行手順の詳細は公式サイトのドキュメントを参照する必要がありますが、一般的には以下の流れになります。
    • 移行対象のCentOS環境のフルバックアップを取得する。
    • システムを最新の状態にアップデートしておく。
    • migrate2almaスクリプトをダウンロードして実行する。
    • スクリプトの指示に従い、移行処理を進める。
    • 移行完了後、システムを再起動し、正常に起動するか確認する。
    • 各種サービスやアプリケーションが正常に動作するか入念にテストする。
  • 移行は潜在的なリスクを伴うため、必ず非本番環境で事前に十分なテストを行ってから本番環境に適用してください。

4. 基本的なコマンド操作:

  • AlmaLinuxはRHEL/CentOS系であるため、パッケージ管理にはdnf(またはyum、dnfのエイリアス)を使用します。
    • dnf update: システム全体のパッケージをアップデート
    • dnf install <パッケージ名>: パッケージをインストール
    • dnf remove <パッケージ名>: パッケージを削除
    • dnf search <キーワード>: パッケージを検索
  • サービスの管理にはsystemctlを使用します。
    • systemctl start <サービス名>: サービスを開始
    • systemctl stop <サービス名>: サービスを停止
    • systemctl restart <サービス名>: サービスを再起動
    • systemctl enable <サービス名>: システム起動時にサービスを自動起動する設定
    • systemctl disable <サービス名>: システム起動時にサービスを自動起動しない設定
    • systemctl status <サービス名>: サービスのステータスを確認
  • ファイアウォール管理にはfirewalldを使用します。
    • firewall-cmd --permanent --add-service=<サービス名>: サービスのポートを恒久的に許可
    • firewall-cmd --reload: ファイアウォール設定を再読み込み
  • SELinuxの管理ツールもRHEL/CentOSと同様です。
  • ネットワーク設定、ユーザー管理、ストレージ管理など、ほとんどのシステム管理タスクにおいて、CentOS/RHELで利用していたコマンドや設定ファイルがそのまま利用可能です。

このように、AlmaLinuxはRHEL/CentOSの経験者であれば、ほとんど違和感なく導入・運用できる環境を提供しています。

他のCentOS代替との比較

CentOSの終焉を受けて登場したRHEL互換の無償OSはAlmaLinuxだけではありません。主な代替候補として、Rocky Linux、CentOS Stream、Oracle Linuxなどが挙げられます。それぞれに特徴があり、どのOSを選択するかは、用途や要件によって異なります。

1. Rocky Linux

  • 概要: Rocky Linuxもまた、RHELとのバイナリ互換性を持つフリーなLinuxディストリビューションです。CentOS Projectの共同創設者であるGregory Kurtzer氏を中心に、CentOSの精神を引き継ぐプロジェクトとして、CentOS 8のサポート終了が発表された直後に立ち上げられました。「Rocky」という名称は、CentOSのもう一人の共同創設者である故Rocky McGaugh氏に敬意を表して名付けられました。
  • AlmaLinuxとの比較:
    • 類似点: どちらもRHELの公開ソースコードを基に再ビルドされており、RHELとの高いバイナリ互換性を目指しています。どちらも独立した非営利団体(Rocky Enterprise Software Foundation for Rocky Linux, AlmaLinux OS Foundation for AlmaLinux)によって運営されており、コミュニティ主導の開発モデルを採用しています。無償で利用でき、長期サポートを提供することも共通しています。開発開始時期もほぼ同じです。
    • 相違点: プロジェクトの立ち上げ経緯やスポンサーが異なります。AlmaLinuxはCloudLinux Inc.が中心となり、その技術とリソースを活用して迅速に立ち上げられましたが、Rocky Linuxはより純粋なコミュニティプロジェクトとして、ゼロから立ち上げられました。現在もCloudLinuxはAlmaLinuxの主要スポンサーですが、Rocky Linuxは多数のスポンサーからの支援を受けています。どちらのコミュニティがより活発か、どちらがRHELのアップデートに迅速に追随できるかなど、開発・運営体制の微妙な違いは存在しますが、提供されるOSの機能や品質は非常に近いです。
    • 選択: どちらを選んでもRHEL互換OSとしての大きなメリットは得られます。コミュニティの雰囲気や、どちらのプロジェクトの哲学に共感するかなどが判断材料になるでしょう。多くのユーザーは、どちらか一方ではなく、両方を評価した上で選択しています。

2. CentOS Stream

  • 概要: Red Hatが主導するCentOS Projectの現在の主要な活動です。RHELの「上流」にあたり、RHELの将来のマイナーリリースやメジャーリリースに含まれる機能が先行して取り込まれるローリングリリース型のディストリビューションです。
  • AlmaLinuxとの比較:
    • 違い: 最大の違いは、RHELとの位置づけです。従来のCentOS LinuxやAlmaLinux/Rocky Linuxが「RHELの安定版を後追いで再現する」のに対し、CentOS Streamは「RHELの開発ブランチ」です。これにより、CentOS StreamはRHELとのバイナリ互換性を保証しません。RHELよりも新しいパッケージが含まれることがあり、リリース後の修正や変更も発生し得ます。
    • メリット(CentOS Stream): RHELの次のバージョンで導入される新機能を早期にテストできます。開発者がRHELの将来の方向性を把握したり、RHELエコシステムに貢献したりするためのプラットフォームとして価値があります。
    • デメリット(CentOS Stream): 「本番環境での長期的な安定稼働」という従来のCentOS Linuxの主要な利用目的には適していません。常に最新に近いパッケージが取り込まれるため、安定性よりも新機能や開発サイクルを重視する用途(開発環境、CI/CDなど)に向いています。商用ソフトウェアのサポート対象外となるケースが多いです。
    • 選択: 開発やテスト目的、またはRHELの最新動向を追う目的であればCentOS Streamは有効な選択肢です。しかし、多くの企業がCentOS Linuxに求めていた「本番環境での揺るぎない安定性と長期サポート」を重視するならば、AlmaLinuxやRocky LinuxのようなRHEL互換OSを選ぶべきです。

3. Oracle Linux

  • 概要: Oracle Corporationが提供するRHEL互換のLinuxディストリビューションです。Oracle製品との親和性が高く、Oracle Databaseなどの動作保証がされています。デフォルトではOracle独自のUnbreakable Enterprise Kernel (UEK) を使用しますが、RHEL互換カーネルも選択できます。無償でダウンロード・利用できますが、サポートを受ける場合は有償契約が必要です。
  • AlmaLinuxとの比較:
    • 違い: Oracleという特定の企業が開発・運営を主導しています。コミュニティ主導ではありません。Oracle製品を利用している環境では親和性が高いという明確な利点があります。UEKは最新のハードウェア対応やパフォーマンス最適化が施されている場合があります。
    • メリット(Oracle Linux): Oracle製品との組み合わせで利用する際の信頼性、Oracleによる有償サポートが受けられる点。
    • デメリット(Oracle Linux): 特定企業のコントロール下にあり、コミュニティからの独立性はありません。Oracle製品以外のソフトウェアとの互換性についてはRHEL互換カーネルを選択する必要があります。無償利用の場合は公式サポートは受けられず、コミュニティサポートに頼る必要があります。
    • 選択: 主にOracle製品を利用している環境であれば、Oracle Linuxは有力な選択肢です。それ以外の一般的なサーバー用途であれば、AlmaLinuxやRocky Linuxのような純粋なコミュニティ主導OSの方が、特定ベンダーへの依存を避けたいというニーズには合致します。

4. Ubuntu / Debian など (非RHEL系)

  • 概要: Debian系のLinuxディストリビューションです。世界中で広く利用されており、特にUbuntuはデスクトップからサーバー、クラウドまで様々な用途で人気があります。
  • AlmaLinuxとの比較:
    • 違い: RHEL系とはパッケージ管理システム(apt/dpkg)、ファイルシステム構造の一部、コマンド、設定方法などが根本的に異なります。RHELとのバイナリ互換性は全くありません。
    • メリット(Ubuntu/Debian): 非常に活発なコミュニティ、膨大なソフトウェアパッケージ、LTS版の長期サポート。
    • デメリット(Ubuntu/Debian): RHEL/CentOSからの移行には、OSの基本的な操作からアプリケーションのインストール、設定方法まで、広範な知識の再習得が必要です。既存のRHEL/CentOS向けの運用スクリプトや自動化設定はほとんど使えません。特定の商用ソフトウェアやハードウェアドライバがRHEL系にしか提供されていない場合があります。
    • 選択: CentOSからの移行を機に、全く新しいOS環境に切り替えることに抵抗がなく、学習コストや移行コストを受け入れられるのであれば選択肢になります。しかし、既存のRHEL/CentOSの資産やノウハウを活かしたい場合は、AlmaLinuxやRocky LinuxのようなRHEL互換OSが断然有利です。

まとめ

CentOSの代替を検討する際、最も「CentOS Linuxの精神と実用性」に近いのは、AlmaLinuxとRocky Linuxです。どちらもRHEL互換、無償、コミュニティ主導、長期サポートという点で共通しており、既存のCentOSユーザーにとって最もスムーズに移行できる選択肢と言えます。CentOS Streamは開発・テスト用途、Oracle LinuxはOracle製品利用が中心であれば候補となりますが、汎用的な本番サーバーとしては、AlmaLinuxまたはRocky Linuxが現在の主流となっています。

AlmaLinuxのロードマップと将来性

AlmaLinuxは、CentOSの代替として登場して以来、非常に順調に開発が進み、コミュニティの支持も拡大しています。そのロードマップと将来性は、CentOSユーザーが安心して移行できるかどうかの重要な判断材料となります。

RHELの新バージョンへの追随

AlmaLinux OS Foundationは、Red Hatが新しいRHELのメジャーバージョンやマイナーバージョンをリリースする際に、迅速にそれらの変更を取り込み、同等のバージョンとしてAlmaLinuxをリリースすることを重要な目標としています。RHEL 8系のEOL(End of Life)は2029年5月、RHEL 9系のEOLは2032年5月が予定されており、AlmaLinuxもこれに追随する形で長期サポートを提供していく方針です。

RHEL 9は2022年5月にリリースされましたが、AlmaLinuxはそれからわずか数週間後の2022年6月にAlmaLinux 9.0をリリースしました。このように、RHELのリリースに迅速に対応できる開発体制が確立されています。今後も、RHELの新しいメジャーバージョン(RHEL 10など)がリリースされれば、それに追随する形でAlmaLinuxも新しいメジャーバージョンを開発・リリースしていくことが期待されます。

開発コミュニティの活動状況

AlmaLinux OS Foundationのもと、開発コミュニティは非常に活発に活動しています。世界中の開発者、テスター、ドキュメント作成者、ユーザーが様々な形でプロジェクトに貢献しています。バグ報告やセキュリティ脆弱性への対応も迅速に行われています。コミュニティフォーラムやMattermostチャンネルでの議論も盛んで、ユーザーは技術的な質問や問題解決のためのサポートを得ることができます。

このコミュニティの活発さは、プロジェクトが特定の企業に依存せず、長期的に持続・発展していく上で非常に重要な要素です。

エンタープライズ分野での普及状況

AlmaLinuxは、その登場以来、個人ユーザーだけでなく多くの企業にも採用され始めています。特に、CentOS 8のサポート終了に伴い代替OSへの移行を迫られた企業の間で、有力な移行先として選択されています。主要なクラウドプロバイダー(AWS, Azure, GCPなど)やVPSホスティングサービスでも、AlmaLinuxの公式イメージが提供されるようになっており、導入のハードルが下がっています。

エンタープライズ分野での採用が進むにつれて、さらに多くのフィードバックが開発チームに寄せられ、OSの品質向上や機能改善に繋がることが期待されます。また、AlmaLinuxをサポート対象とする商用ソフトウェアベンダーも増えていくでしょう。

長期的な展望

AlmaLinuxは、CentOSが築き上げた「RHEL互換のフリーなOS」という地位をしっかりと引き継ぎ、さらにコミュニティ主導という側面を強化することで、将来にわたって安定的に提供されるOSとなることを目指しています。RHEL互換OSとしての立ち位置を維持しつつ、コミュニティからのフィードバックを積極的に取り入れ、より使いやすく、よりセキュアなOSへと進化していくことが期待されます。

もちろん、オープンソースプロジェクトであるため、将来を100%予測することは困難です。しかし、AlmaLinux OS Foundationという独立した組織による運営、CloudLinux Inc.をはじめとする多くのスポンサーからの支援、そして世界中の活発なコミュニティ活動を考慮すると、AlmaLinuxはCentOSの強力な代替として、今後も長く利用されていく可能性が非常に高いと言えるでしょう。

まとめ:AlmaLinuxがCentOS代替として最有力な理由

CentOSの突然の終焉は、多くのシステム管理者や開発者にとって大きな課題を突きつけました。しかし、この困難な状況から、AlmaLinuxという強力な代替OSが誕生しました。

本記事で詳しく見てきたように、AlmaLinuxはCentOSが提供していた最も重要な価値である「Red Hat Enterprise Linux (RHEL) とのバイナリ互換性」を完全に引き継いでいます。これにより、既存のRHEL/CentOS環境で動作していたソフトウェアやハードウェアをそのまま利用でき、長年培ってきた運用ノウハウも無駄になりません。CentOSからの移行ツールも提供されており、移行のハードルは比較的低いと言えます。

また、AlmaLinuxは単にRHELのクローンであるだけでなく、独立した非営利団体であるAlmaLinux OS Foundationによって運営されている点が大きな強みです。これにより、特定の企業の方針に左右されることなく、コミュニティの意思に基づいて永続的に開発・維持されていくという、将来的な安心感が得られます。CloudLinux Inc.による技術的な支援も、OSの品質と開発速度を担保しています。

無償で利用できること、エンタープライズレベルの安定性と信頼性、長期的なサポートポリシー、そして活発なコミュニティによるサポートなど、AlmaLinuxはサーバーOSとして求められる多くの要件を満たしています。

他の代替候補と比較しても、RHEL互換性を最も忠実に再現しつつ、コミュニティ主導という点でCentOS Linuxの精神を最も強く受け継いでいるのは、AlmaLinuxとRocky Linuxと言えるでしょう。どちらを選択するかは個々の判断によりますが、AlmaLinuxはCloudLinuxという企業の強力なバックアップ体制を持つ点で、迅速な立ち上げと安定した開発プロセスを実現しています。

サーバーOSの移行を検討されている方、特に従来のCentOS Linuxが提供していた安定性、互換性、無償性、長期サポートといった要素を重視される方にとって、AlmaLinuxは間違いなく最有力候補の一つです。ぜひAlmaLinuxの導入を検討し、そのメリットを実感してみてください。

本記事が、AlmaLinuxに関する理解を深め、皆様のOS選択の一助となれば幸いです。

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