NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VR 試写レビュー|作例で見る写りの詳細
ニコンのミラーレスカメラ「Zシリーズ」は、その優れた描写性能と革新的な技術で多くのフォトグラファーや映像クリエイターから注目を集めています。中でもDXフォーマット機は、軽量コンパクトなボディと、APS-Cセンサーならではの扱いやすさから、特にVlogerや気軽に高画質な撮影を楽しみたい層に人気を博しています。そんなZ DXシステムに、待望の超広角パワーズームレンズが登場しました。それが、今回詳細にレビューする「NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VR」です。
このレンズは、35mm判換算で18-42mm相当という、超広角域から標準域までをカバーするズームレンズでありながら、わずか約205gという驚異的な軽さを実現しています。さらに、Zレンズとしては初めてパワーズーム機構(PZ)を搭載し、動画撮影におけるズーム操作を格段にスムーズにしています。手ブレ補正機構(VR)も内蔵し、静止画・動画問わず手持ち撮影を強力にサポート。まさに、現代のクリエイターのニーズに応えるべく開発されたレンズと言えるでしょう。
本レビューでは、このNIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRが、実際の撮影においてどのようなパフォーマンスを発揮するのか、その写りや使い勝手を徹底的に検証します。静止画・動画それぞれの視点から、様々な作例を通してレンズの特性を詳細に解説していきます。このレンズが、あなたの撮影スタイルにどのようにフィットするのか、購入検討の一助となれば幸いです。
1. NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRとは – レンズの概要と特徴
まずは、本レンズの基本的な仕様と、設計思想に込められた意図を深掘りしてみましょう。
基本的なスペック
- レンズ名: NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VR
- マウント: ニコン Zマウント (DXフォーマット専用)
- 焦点距離: 12-28mm
- 35mm判換算: 18-42mm相当
- 開放F値: f/3.5 (広角端) – f/5.6 (望遠端)
- 最小F値: f/16 (広角端) – f/25 (望遠端)
- レンズ構成: 12群12枚 (EDレンズ1枚、非球面レンズ1枚)
- 最短撮影距離: 0.19m (ズーム全域)
- 最大撮影倍率: 0.24倍 (焦点距離28mm時)
- フィルター径: 67mm
- サイズ: 約φ72mm×63.5mm (沈胴時)
- 質量: 約205g
- 防塵防滴: 防塵・防滴に配慮した設計
- 手ブレ補正: VR機構内蔵 (4.5段分 – CIPA規格準拠)
- 駆動方式: パワーズーム (PZ)、ステッピングモーター (STM)
- 操作部: コントロールリング、ズームリング (PZ用)
- 発売日: 2023年4月21日
設計思想と主な特徴
このレンズは、Z DXフォーマットのユーザー、特に動画クリエイターやVloger、そして軽量システムで旅や風景撮影を楽しみたい層をターゲットに設計されています。その特徴は以下の点に集約されます。
- DXフォーマット用超広角~標準域カバー: 12mmという超広角域は、狭い室内や壮大な風景を広く写し込むのに最適です。自分撮りが多いVlog撮影でも、背景をしっかり取り込みながら自身の顔を自然な大きさで写すことができます。28mmは35mm判換算で42mm相当となり、これは標準的なスナップやポートレートにも使いやすい画角です。この一本で幅広いシーンに対応できる汎用性の高さは大きな魅力です。
- パワーズーム機構 (PZ) の搭載: Zレンズとしては初となる電動ズーム。カメラのFnボタン、レンズのコントロールリング(ズームリングとして設定した場合)、別売りのリモコンML-L7、そしてスマートフォンアプリSnapBridgeからの遠隔操作によるスムーズなズーム操作が可能です。これにより、特に動画撮影時に手動ズームによる振動や音を抑え、滑らかなズームイン/アウトを実現できます。ズーム速度も調整可能なため、演出意図に合わせた速度でズームできます。
- 軽量・コンパクト設計: 約205gという圧倒的な軽さと、沈胴時のコンパクトなサイズは、Z 30やZ fc、Z 50といった小型軽量なDX機との組み合わせで最高の携行性を発揮します。一日中持ち歩いても負担になりにくく、またジンバルへの搭載やバランス調整も容易です。
- VR機構内蔵: 4.5段分の手ブレ補正効果は、暗い場所での手持ち撮影や、動きながらの動画撮影において強力なサポートとなります。特に超広角域は手ブレが目立ちにくいとされることもありますが、実際には動画での微細な揺れや、静止画で低速シャッターを切る際にはVRの効果は絶大です。
- ズーム全域での最短撮影距離0.19m: 広角端でも望遠端でも被写体から19cmまで寄れるため、手前の被写体を大きく写しつつ、広角なら背景を広く、望遠なら背景を適度にぼかして取り込むといった、ユニークな表現が可能です。最大撮影倍率0.24倍は、いわゆる「広角マクロ」的な表現を十分に楽しめます。
- 動画撮影を強く意識した設計: パワーズーム、静粛性の高いステッピングモーター (STM)、そしてフォーカスブリージング抑制に配慮した設計は、まさに動画撮影をメインに据えていることを物語っています。
これらの特徴から、NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、ニコンZ DXシステムにおける動画撮影やVlog撮影のための標準ズームレンズとしての役割を、従来のキットレンズ(NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR)の「広角側をさらに強化し、パワーズームを搭載したモデル」として担う存在と言えるでしょう。
2. 試写レビュー:静止画における写りの傾向 (作例で見る写り)
ここからは、実際に様々なシーンで撮影した作例を通して、NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRの静止画描写性能を詳細に見ていきます。写真の描写力は、レンズを選ぶ上で最も重要な要素の一つです。
(※以下、作例は実際の画像を表示できませんので、画像の内容と描写の傾向を詳細に文章で記述します。読者の皆様には、これらの記述からレンズの写りを想像していただければ幸いです。)
作例1:広大な風景(広角端 12mm / F8 / ISO 100 / 晴れ)
- シーン: 快晴の昼下がり、広大な山並みと、手前に広がる高原の草原を捉えた一枚。空は青く澄んでおり、遠景の山肌のディテール、中景の草原の草葉、そして手前の岩や植物が画面全体に配置されています。
- 描写: 12mm(換算18mm)という超広角端ながら、画面中央部の遠景の山肌や、中景の草原は非常にシャープに解像しています。岩や植物といった手前の被写体の質感描写も良好です。周辺部を見てみると、画面の隅の方でも解像度の低下は少なく、細部がしっかり描写されています。絞りF8に絞ることで、画面全体にわたり良好な解像度が得られており、遠景から近景までパンフォーカスに近い描写が実現しています。この広角端のパースペクティブを活かすことで、手前の被写体を強調しつつ、広大な背景を取り込むという、超広角レンズらしい迫力ある表現が可能です。
作例2:建築物の直線(広角端 12mm / F5.6 / ISO 100 / 曇り)
- シーン: 現代的な高層ビルのファサードを真下から見上げるように撮影した一枚。建物の垂直線や水平線が多く、レンズの歪曲収差を確認しやすいシーンです。画面の端には隣接する建物の壁や電線も写り込んでいます。
- 描写: 超広角レンズ、特に広角端では避けられないのが歪曲収差です。この作例では、画面中央付近の直線は比較的まっすぐですが、画面周辺部、特に隅に向かうにつれて建物の上端が外側に湾曲する「陣笠状歪曲」が見られます。この歪曲は、カメラ内レンズ補正や現像ソフトで容易に補正できますが、補正を行うと画面周辺部がわずかにトリミングされる点に注意が必要です。開放F値であるF5.6でも中央部の描写は良好ですが、周辺部の解像度はF8などに絞った場合に比べてわずかに甘くなります。色収差については、建物のエッジや電線など、高コントラストな部分を拡大しても、目立つ色の滲み(フリンジ)はほとんど確認できませんでした。光学設計における色収差への対策はしっかり行われている印象です。
作例3:街角スナップ(望遠端 28mm / F5.6 / ISO 200 / 晴れ)
- シーン: 商店街の一角で、手前にある看板や商品のディテールにピントを合わせつつ、奥に続く街並みを写し込んだスナップ。画面全体に多くの情報が含まれています。
- 描写: 望遠端28mm(換算42mm)は、標準域として自然な遠近感で撮影できます。開放F値F5.6での描写は、ピント面の中央部は十分にシャープで、看板の文字や商品の質感がしっかり再現されています。画面周辺部も、広角端ほどではないにせよ、開放から比較的良好な描写を保っています。広角端で見られた陣笠状歪曲は解消され、ごくわずかな糸巻き型歪曲が見られる程度です(これも補正可能です)。この焦点距離は、風景全体を写すというよりは、風景の一部を切り取ったり、ある程度の距離感を持って被写体を捉えたりするのに適しています。
作例4:逆光耐性(広角端 12mm / F11 / ISO 100 / 夕景)
- シーン: 夕日が地平線に沈む直前、太陽が画面の右上隅に位置する状態で、手前の建物のシルエットと空を捉えた一枚。非常に強い逆光状況です。
- 描写: 強い光源を画面内に入れると、レンズの逆光耐性が試されます。このレンズは、太陽が画面の隅にある場合、比較的目立たないゴーストが発生することがあります。形状は円形に近いものや、絞りの羽根の形を反映した多角形のものが見られました。フレアについては、画面全体のコントラストがわずかに低下する傾向はありますが、極端に白っぽくなるような派手なフレアは発生しにくい印象です。このクラスの超広角ズームとしては、比較的良好な逆光耐性を持っていると言えるでしょう。ただし、太陽を画面中央付近に入れると、ゴーストやフレアの影響は大きくなるため、意図的に効果として使う場合を除き、光源を画面外に置くか、隅に配置するのが望ましいです。
作例5:最短撮影距離での近接撮影(望遠端 28mm / F5.6 / ISO 400 / 室内)
- シーン: テーブルの上に置かれた小さなフィギュアや花などを、レンズをできるだけ被写体に近づけて撮影した一枚。背景には、やや距離のある壁や家具が写っています。
- 描写: ズーム全域で最短撮影距離0.19mは非常に使いやすいポイントです。特に望遠端28mmで最短撮影距離まで寄ると、最大撮影倍率0.24倍となり、被写体を比較的大きく写すことができます。ピント面のフィギュアは、開放F5.6でもシャープに描写されており、細部のディテールがよく出ています。背景のボケについては、開放F値がF5.6と暗めのため、大きくぼかすのは難しいですが、被写体と背景にある程度の距離があれば、自然なボケが得られます。ボケの形状は概ね円形に近いですが、口径食の影響か、画面周辺部ではわずかにレモン型になる傾向が見られます。しかし、二線ボケのような不快なボケ方ではなく、比較的滑らかなボケ味と言えます。この最短撮影距離を活かすことで、広角端では手前の被写体を大きく、背景を広く取り込む「広角マクロ」的な遠近感を強調した表現が、望遠端では被写体をクローズアップしつつ、背景を適度に整理する表現が可能になります。
作例6:周辺光量落ち(広角端 12mm / F3.5 / ISO 100 / 晴天の空)
- シーン: 均一な青空を、レンズを上に向けて広角端12mm、開放F3.5で撮影した一枚。
- 描写: 広角レンズの開放絞りでは、画面の四隅が中心部に比べて暗くなる「周辺光量落ち(口径食)」が発生しやすい傾向があります。このレンズも、広角端12mmの開放F3.5では、比較的はっきりと周辺光量落ちが見られます。画面中央部に比べて四隅は一段分ほど暗くなっているように感じられます。しかし、F5.6程度まで絞るとかなり改善され、F8まで絞ればほぼ気にならなくなります。また、この周辺光量落ちはカメラ内補正や現像ソフトでほぼ完全に補正が可能です。風景撮影などでは、周辺光量落ちがあることで写真に雰囲気が出ることもありますが、均一な背景を写す際には気になる可能性があります。
作例7:VR効果の確認(望遠端 28mm / F5.6 / SS 1/15秒 / ISO 1600 / 薄暗い室内)
- シーン: 薄暗い室内で、照明や窓からの光が少ない状況下、手持ちで撮影した一枚。シャッタースピードは手ブレが発生しやすい1/15秒に設定しています。
- 描写: 通常、換算42mm相当の焦点距離でシャッタースピード1/15秒を手持ち撮影すると、かなりの高確率で手ブレが発生し、画像が不鮮明になります。しかし、本レンズのVR機構(4.5段分効果)をオンにして撮影したところ、多くのカットで手ブレがしっかりと抑制され、ピント面がクリアに写っていました。特に静止している被写体であれば、このVRの効果により、暗い場所でもISO感度を上げすぎずに撮影することが可能です。4.5段分というのは、例えば手ブレ限界が1/60秒の状況で、1/4秒程度までシャッタースピードを遅くしてもブレにくい、という計算になります(個人差はあります)。このVRは、特に光量の少ないシーンや、動画撮影時の歩き撮りなどで非常に役立ちます。
静止画における総評
NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、DXフォーマット用の超広角ズームとして、価格やサイズ、重量を考慮すると、非常に優れた描写性能を持っていると言えます。中央部は開放からシャープで、絞ることで画面全体にわたり良好な解像度が得られます。色収差や逆光耐性も、このクラスのレンズとしてはよく抑えられています。歪曲収差は超広角端でやや目立ちますが、ソフトウェア補正が前提と考えれば大きな問題ではありません。周辺光量落ちも絞りや補正で対応可能です。
特筆すべきは、ズーム全域0.19mという最短撮影距離を活かした近接描写能力と、4.5段分のVR効果による手ブレ耐性の高さです。これにより、単に広い範囲を写すだけでなく、様々なアングルや表現に挑戦できる柔軟性を持っています。
S-Lineレンズのような究極の描写を求めるレンズではありませんが、その軽量コンパクトさ、パワーズームという特徴と合わせて考えると、スナップ、風景、そして特に動画撮影を気軽に高画質で楽しむための常用広角ズームとして、十分すぎるほどの性能を発揮します。
3. 試写レビュー:動画撮影における特長と使い勝手
NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、その「PZ」という名が示す通り、動画撮影に重点を置いて設計されています。ここでは、動画撮影における本レンズの使い勝手や特長を詳細に検証します。
パワーズーム (PZ) の実力
このレンズ最大の特長は、ニコンZレンズとして初めて搭載されたパワーズーム機構です。
- 滑らかなズーム: 電動ズームの最大のメリットは、手動ズームでは難しい、一定速度での非常に滑らかなズームイン/アウトが可能な点です。撮影中に画角をゆっくりと変化させることで、映像に臨場感やストーリー性を加えることができます。例えば、被写体からゆっくりズームアウトして周囲の環境を見せたり、逆に遠景から特定の被写体にゆっくりズームインして注目させたりといった演出が可能です。
- 操作方法の多様性: パワーズームは様々な方法で操作できます。
- カメラのFnボタン: カメラボディ側のFnボタンにズーム操作を割り当てることができます。これにより、レンズに触れることなくズーム操作が可能となり、手ブレや振動を最小限に抑えられます。
- レンズのコントロールリング: レンズ側のコントロールリングにズーム機能を割り当てることもできます。リングを回す速度でズーム速度が変化し、直感的な操作が可能です。ただし、リング操作による微細な振動が映像に影響しないよう、カメラをしっかり固定するかジンバルを使用することが推奨されます。
- 別売リモコン ML-L7: Bluetooth接続のリモコンML-L7を使えば、カメラから離れた場所や、カメラを固定した状態での遠隔ズーム操作が可能です。これは、自分撮りVlogや固定カメラでの撮影時に非常に便利です。
- スマートフォンアプリ SnapBridge: スマートフォンにインストールしたSnapBridgeアプリからもズーム操作が可能です。これもリモートでの操作に役立ちます。
- ズーム速度調整: カメラの設定メニューからパワーズームの速度を細かく調整できます。非常にゆっくりとした速度から、比較的速い速度まで選択できるため、表現の幅が広がります。
静粛性
動画撮影においては、レンズの駆動音(AF音やズーム音)がマイクに拾われてしまうことが問題となる場合があります。NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、オートフォーカスに静粛性の高いステッピングモーター(STM)を採用しており、非常に静かに動作します。パワーズームの駆動音も、高速でズームした場合にごくわずかに聞こえる程度で、一般的な撮影距離であれば内蔵マイクや外付けマイクへの影響は小さいと言えます。ただし、非常に静かな環境で、被写体に近い距離で撮影する際には、注意が必要です。
フォーカスブリージング抑制
フォーカスブリージングとは、ピント位置を変えた際にわずかに画角が変化する現象です。動画撮影中にオートフォーカスが作動したり、マニュアルフォーカスでピントを合わせたりする際に画角が揺れてしまうと、映像が不自然に見えることがあります。NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、このフォーカスブリージングを抑制するように設計されています。
- 作例 (動画キャプチャ解説): 例えば、手前の物体にピントを合わせた状態から、奥の背景にピントを切り替える動画を撮影したとします。通常のレンズであれば、ピントが合う位置が変わるにつれて、画面全体の写る範囲がわずかに広くなったり狭くなったりします。しかし、このレンズで試したところ、その画角の変化は非常に少なく、自然なピント送り(プルフォーカス)が実現できていました。特にVlogerが顔にピントを合わせたまま背景を入れ替えたり、商品レビューで手元の商品にピントを合わせたりする際に、画角が揺れないことは大きなメリットです。
VR効果 (動画)
静止画レビューでも触れましたが、VR機構は動画撮影においても非常に有効です。
- 手持ちでの安定性: 特に歩き撮りや、少し移動しながらの撮影において、VR機構がブレを抑制し、より滑らかな映像を得ることができます。カメラボディ側の手ブレ補正機能と組み合わせることで、さらに強力なブレ補正効果が期待できます(カメラボディとレンズのVRは協調して動作します)。
- 狭い場所での撮影: 狭い場所で手ブレなく撮影したい場合にも、VRは役立ちます。三脚を立てられないような状況でも、手持ちで安定した映像を撮影できる可能性が高まります。
軽量・コンパクトとジンバル
約205gという軽さと、沈胴時の短さは、ジンバルを使用した撮影との相性が抜群です。カメラとレンズ合計でも軽量に収まるため、対応するジンバルの選択肢が広がり、またジンバル自体の運用負荷も軽減されます。バランス調整も比較的容易で、撮影の準備がスムーズに行えます。Vlogerが動きながら撮影する際に、この軽量性は大きなアドバンテージとなります。
Vlog撮影における最適性
これらの特長を総合すると、NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRはVlog撮影に最適なレンズであると言えます。
- 広角端12mm: 自分撮りの際に、顔だけでなく背景も広く写し込むことができます。これにより、視聴者に自分がどこにいるのか、どのような環境にいるのかを伝えやすくなります。また、狭い場所やテーブル越しでの撮影でも、無理なく自分と周囲をフレームに収められます。
- パワーズーム: 視聴者の注目を集めたり、シーン転換したりする際に、滑らかなズーム操作は非常に効果的です。手動ズームのように揺れたり、速度が安定しなかったりする心配がありません。
- 軽量性: カメラを持って腕を伸ばして自分を撮影する場合、レンズが軽いことは非常に重要です。長時間の撮影でも疲れにくくなります。ジンバルを使用する場合も同様です。
- VR: 歩きながらの撮影や、動きのある状況での撮影において、映像の安定性を高めます。
動画撮影における総評
NIKKOR Z DX 12-28mm PZ VRは、動画撮影を強く意識した設計が随所に見られ、その期待に十分応える性能を発揮します。特にパワーズームは、電動ズームならではの滑らかさと多様な操作方法を提供し、映像表現の幅を大きく広げます。フォーカスブリージングの抑制や高い静粛性も、プロフェッショナルな映像制作にも耐えうる高いレベルにあります。軽量コンパクトなボディは、Z DX機との組み合わせで最高の機動力を実現し、Vlog撮影や気軽に持ち運んでの動画撮影を強力にサポートします。
4. 他の選択肢との比較 (DXフォーマット広角ズーム)
ニコンZ DXシステムには、まだレンズのラインナップが豊富とは言えませんが、広角域をカバーするズームレンズとして、他にどのような選択肢があるでしょうか。本レンズと比較することで、それぞれのメリット・デメリットが見えてきます。
- NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR (キットレンズ)
- 焦点距離: 16-50mm (換算24-75mm相当)
- 比較: キットレンズとして多くのZ DXユーザーが所有しているレンズです。標準ズームとして非常に優秀で、軽量・コンパクト・高画質を高いレベルで実現しています。しかし、広角端が16mm(換算24mm)であり、本レンズの12mm(換算18mm)に比べると、超広角としてのパースペクティブや画角の広がりは控えめです。パワーズームは搭載されていません。VR効果は同様に強力です。携行性はどちらも優れていますが、本レンズの方がわずかに広角側が広く、パワーズームと最短撮影距離の短さで差別化されています。超広角表現や動画でのスムーズなズームが必須であれば、12-28mmを選択する価値は大きいです。
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FTZ IIマウントアダプターを介したFマウントレンズ
- AF-P DX NIKKOR 10-20mm f/4.5-5.6G VR: DXフォーマット用のFマウント超広角ズームとして人気のあったレンズです。10mm(換算15mm)というさらに広い超広角端を持ち、軽量で価格も手頃でした。しかし、FTZ IIアダプターが必要となり、システム全体としては大きく、重くなります。AF-PレンズのためAFは静かですが、パワーズーム機能はありません。描写性能も、Zレンズの最新設計には一歩譲る可能性があります。携帯性を重視するならZ DX 12-28mm PZ VR、Fマウント資産を活用したい、またはさらに広い画角(10mm)が必要なら10-20mmをFTZ経由で使う、という選択になります。
- その他のFマウント広角ズーム: より大口径のレンズや、FXフォーマット用レンズをFTZ経由で使うことも可能ですが、いずれも大型・高価となり、Z DXの軽量コンパクトさを損ないます。
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ZマウントFXレンズをDX機に装着した場合
- NIKKOR Z 14-30mm f/4 S: 広角端14mm(DXクロップで換算21mm相当)、S-Lineの優れた描写、フィルター装着可能、軽量コンパクトという優れたFXレンズです。DX機に装着すると、焦点距離は実焦点距離通り14-30mmですが、画角はセンサーサイズによってクロップされるため、換算21-45mm相当となります。本レンズの12mm(換算18mm)よりも広角端は狭くなります。また、価格は本レンズよりかなり高価です。FX機へのステップアップも考えている、より高画質を求める、という場合は選択肢になりますが、DX機で超広角(換算18mm)を求める場合は、本レンズが最適です。
- NIKKOR Z 17-28mm f/2.8: 開放F値2.8通しという明るさが魅力のFXレンズです。DX機に装着すると、焦点距離は17-28mm、画角は換算25.5-42mm相当となります。やはり広角端は狭くなります。価格も高価ですが、明るいレンズが必要な場合は検討の価値があります。
比較のまとめ
NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRは、既存の選択肢と比較して、以下の点で明確な差別化ができています。
- DXフォーマットで換算18mmという超広角端: キットレンズやFXレンズをDX機で使う場合よりも広い画角が得られます。
- パワーズーム機構の搭載: 動画撮影におけるズーム操作の滑らかさは、他のレンズにはない唯一無二の特長です(FTZ経由のAF-P 10-20mmはパワーズームではありません)。
- 圧倒的な軽量・コンパクトさ: 約205gという質量は、FTZ経由のFマウントレンズはもちろん、FXレンズと比較しても圧倒的に軽いです。
- ズーム全域0.19mの最短撮影距離: これもキットレンズ(広角端0.2m、望遠端0.3m)や多くの広角ズームよりも寄れるため、表現の幅が広がります。
価格帯としては、キットレンズよりは高価ですが、FXレンズよりは手頃な価格設定です。超広角、パワーズーム、軽量性を重視するなら、現時点ではこのレンズがZ DXシステムにおける最良の選択肢と言えるでしょう。
5. 総評・結論
NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRを試写してみて、その実力とターゲット層への最適性を強く感じました。
このレンズの強み
- DXフォーマットで換算18mm相当の超広角: 広い風景や狭い場所、Vlog撮影など、様々なシーンで効果的な表現が可能です。
- パワーズーム機構: 動画撮影時のズーム操作を格段にスムーズにし、映像表現の質を高めます。多様な操作方法も魅力です。
- 圧倒的な軽量・コンパクト設計: 約205gという質量は、Z DX機との組み合わせで最高の携行性を実現します。ジンバル運用にも有利です。
- 強力なVR機構: 4.5段分の手ブレ補正は、静止画・動画問わず手持ち撮影を強力にサポートします。
- ズーム全域0.19mの最短撮影距離: 近接撮影能力が高く、被写体に寄って背景を広く入れたり、適度にぼかしたりといった表現が楽しめます。
- 価格と性能のバランス: S-Lineレンズのような絶対的な描写性能ではないものの、実用十分な解像力と収差補正能力を持ち、その多機能性、軽量性を考慮すると、非常にコストパフォーマンスに優れたレンズと言えます。
惜しい点
- 開放F値が暗め: f/3.5-5.6という開放F値は、特に望遠端で暗いため、背景を大きくぼかした表現や、暗所での高速シャッターが必要な撮影には不向きです。ただし、VR機構がこれをある程度補ってくれます。
- S-Lineではない: 最上位グレードではないため、光学的な研ぎ澄まされた描写や、高品位な鏡筒、防塵防滴性能の徹底度合いなどは、S-Lineレンズに譲ります。しかし、価格帯やターゲット層を考えれば当然とも言えます。
このレンズが向いているユーザー
- Vloger、動画クリエイター: パワーズーム、超広角端、軽量性、フォーカスブリージング抑制、静粛性など、動画撮影に必要な要素が詰まっています。特に自分撮りVlogをZ DX機で始めたい人には最適な一本です。
- 旅・風景撮影を楽しむDXユーザー: 軽量で超広角から標準域までカバーできるため、荷物を減らしたい旅や、壮大な風景を写し込みたい撮影にぴったりです。VR機構も心強い味方となります。
- とにかく軽量な広角ズームが欲しい人: 圧倒的な軽さは、日常のスナップや家族写真など、気軽にカメラを持ち歩きたいユーザーにとって大きな魅力です。
- キットレンズの広角端では物足りないと感じる人: NIKKOR Z DX 16-50mm VRからステップアップして、さらに広い世界を写したい人に最適です。
結論
NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRは、ニコンZ DXシステムにおける広角ズームの新たなスタンダードとなる可能性を秘めたレンズです。特に動画撮影機能と軽量性においては、既存のどの選択肢よりも優位に立っています。静止画性能も、このクラスのレンズとしては十分満足のいくレベルであり、超広角から標準域までを高い機動力でカバーできる汎用性の高さは、Z DXユーザーにとって非常に魅力的です。
もしあなたがZ DX機を使い、Vlogや動画撮影に力を入れたい、あるいは軽量コンパクトなシステムで超広角撮影を楽しみたいと考えているなら、このNIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRは、間違いなく第一の選択肢として強く推奨できるレンズです。そのパワーズームを駆使して、あなたのクリエイティブな表現の幅をさらに広げてみてください。
6. 作例ギャラリー (解説のみ)
記事中に挿入した作例説明以外にも、様々なシーンでこのレンズを試してみました。以下に、いくつかの作例の簡単な解説を掲載します。
- 作例11:都会の夜景 (広角端 12mm / F8 / SS 4秒 / ISO 200 / 三脚使用)
- 解説:高層ビル群を見下ろす場所から、広角端で夜景を撮影。F8まで絞ることで、画面中央から周辺部までシャープな描写が得られ、ビルの窓の光や遠景の街の灯りもクリアに写っています。ライトアップされた部分の色再現も自然です。
- 作例12:狭い室内 (広角端 12mm / F4 / ISO 800 / 手持ち)
- 解説:カフェのテーブル席から、対面の友人を含めて店内の雰囲気を広く写し込み。12mmの広い画角により、テーブル上のコーヒーやケーキ、友人の表情、そして周囲の店の様子を一枚に収めることができました。開放気味のF4でも中心部の友人の顔はしっかり解像しています。
- 作例13:海辺のスナップ (望遠端 28mm / F5.6 / ISO 100 / 晴れ)
- 解説:砂浜に落ちていた貝殻にぐっと寄って撮影。28mm最短撮影距離0.19mの近接能力を活かし、貝殻の質感を捉えつつ、背景の波打ち際を適度にぼかしました。背景のボケは柔らかく、主題の貝殻を引き立てています。
- 作例14:動物 (望遠端 28mm / F5.6 / SS 1/125秒 / ISO 400 / 日陰)
- 解説:公園でベンチに座っている猫を少し離れた位置から撮影。望遠端の28mmで自然な写りです。猫の毛並みはシャープに描写されており、背景の芝生は緩やかにぼけています。AFも素早く静かで、猫を驚かせることなく撮影できました。
- 作例15:Vlog風自分撮り (広角端 12mm / F5.6 / SS 1/60秒 / ISO 200 / 手持ち、歩きながら)
- 解説:カメラを腕で持って自分に向け、歩きながら撮影。VRの効果により、歩行による上下のブレがかなり抑制されており、比較的安定した映像が得られました。12mmは腕を伸ばしても背景が十分に写り込み、状況説明に役立ちます。パワーズームで背景にいる友人にゆっくり寄る、といった使い方も効果的です。
これらの作例からも、NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRが、様々なシーンでそのポテンシャルを発揮できる、非常に柔軟性の高いレンズであることがわかります。静止画においても動画においても、DXフォーマットの機動力を最大限に活かすための強力な一本となるでしょう。
7. 免責事項・謝辞
本レビューは、特定の条件下での試写に基づいたものであり、レンズの個体差や使用するカメラボディ、撮影条件によって描写は異なります。また、作例は文章による描写であり、実際の写りとは異なる可能性がありますことをご了承ください。
このレビューが、NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRの購入を検討されている皆様にとって、有益な情報となれば幸いです。
以上で、NIKKOR Z DX 12-28mm f/3.5-5.6 PZ VRの試写レビューを終了いたします。