はい、承知いたしました。Gitのgit pull
とgit fetch origin
の違い、そしてgit fetch origin
の詳細な使い方に焦点を当て、約5000語の記事として記述します。
Gitの深淵へ:git pull
とgit fetch origin
、その決定的な違いとgit fetch origin
の徹底活用
はじめに:リモートリポジトリとの連携、その要諦
現代のソフトウェア開発において、バージョン管理システムであるGitは不可欠なツールです。個人開発から大規模なチーム開発まで、Gitは私たちのコード変更履歴を管理し、共同作業を円滑に進めるための基盤を提供します。Gitの中心的な概念の一つに「リモートリポジトリ」があります。これは、自分以外の開発者やチーム全体がコードを共有するための、ネットワーク上のリポジトリです。
Gitは「分散バージョン管理システム」であり、各開発者はリモートリポジトリの完全なコピー(クローン)を自分のローカル環境に持ちます。このローカルリポジトリ内で自由に作業を進め、変更をコミットし、そしてリモートリポジトリと連携して最新の変更を取り込んだり、自分の変更を共有したりします。
このリモートリポジトリとの連携において、最も頻繁に使用されるコマンドがgit pull
とgit fetch
です。しかし、これら二つのコマンドの正確な違いや、それぞれのコマンドが内部でどのような処理を行っているのかを完全に理解している開発者は意外と少ないかもしれません。特に、多くの人が「リモートの最新コードを取り込む」という目的でgit pull
を使いますが、時には予期せぬコンフリクトやローカルリポジトリの状態の変化に戸惑うこともあります。
そこで本記事では、Gitのリモート操作の根幹をなすgit pull
とgit fetch
について、その仕組みから詳細な使い方、そして決定的な違いまでを徹底的に解説します。特に、より安全かつ柔軟なリモート状況の確認と統合を可能にするgit fetch origin
コマンドに焦点を当て、その詳細な使い方と具体的な活用シナリオを深く掘り下げます。
本記事を読むことで、あなたは以下の点を明確に理解できるようになります。
- Gitにおけるローカルリポジトリとリモートリポジトリの関係、そして追跡ブランチの役割。
git fetch
コマンドが具体的に何を行い、ローカルリポジトリにどのような影響を与えるのか。git pull
コマンドが具体的に何を行い、それがgit fetch
とどう異なるのか。git fetch origin
コマンドの詳細な使い方、オプション、そしてそのメリット。git fetch
とgit pull
、それぞれのコマンドをどのような状況で使い分けるべきか。git fetch
を日常的に活用することで実現できる、より安全で効率的なワークフロー。
さあ、Gitのリモート連携の真髄に触れ、あなたのGitスキルをさらに向上させましょう。
Gitの基本概念のおさらい:リモート操作の土台を理解する
git fetch
やgit pull
の詳細に入る前に、これらのコマンドが操作する対象であるGitの基本的な概念を再確認しておきましょう。
ローカルリポジトリとリモートリポジトリ
前述の通り、Gitは分散バージョン管理システムです。開発者は自分のマシンにローカルリポジトリを持ち、その中でコードの変更、コミット、ブランチ作成などの作業を行います。
リモートリポジトリは、GitHub, GitLab, Bitbucketなどのホスティングサービスや、組織内の共有サーバー上に存在します。これは「共有の真実」の場所であり、複数の開発者が共同で作業するための中心的な役割を果たします。開発者は、通常、このリモートリポジトリをクローンすることから作業を開始します。
クローンされたローカルリポジトリは、元のリモートリポジトリへの接続情報を持っています。デフォルトでは、このリモートリポジトリはorigin
という名前で参照されます。例えば、git clone <リモートURL>
を実行すると、クローンされたローカルリポジトリには自動的にorigin
という名前のリモートが設定されます。git remote -v
コマンドで確認できます。
“`bash
$ git clone https://github.com/user/repo.git
Cloning into ‘repo’…
…
$ cd repo
$ git remote -v
origin https://github.com/user/repo.git (fetch)
origin https://github.com/user/repo.git (push)
“`
このように、origin
はリモートリポジトリの「ニックネーム」のようなものです。一つのローカルリポジトリは複数のリモートリポジトリを持つことも可能で、それぞれに異なる名前(例: upstream
, staging
, production
など)を付けることができます。本記事では、特別な断りがない限り、デフォルトのリモート名であるorigin
を例に進めます。
追跡ブランチ (Remote-tracking Branches)
Gitにおいて、リモートリポジトリの状態をローカルで把握するために重要な役割を果たすのが「追跡ブランチ」です。追跡ブランチは、ローカルリポジトリ内に存在しますが、直接作業するためのブランチ(ローカルブランチ)とは異なります。追跡ブランチは、リモートリポジトリの特定のブランチがどのコミットを指しているかを記録するための「参照」です。
例えば、リモートリポジトリorigin
にmain
というブランチがある場合、ローカルリポジトリには通常origin/main
という追跡ブランチが存在します。このorigin/main
は、origin
リモートのmain
ブランチの最新状態をローカルで反映したものです。
重要な点: 追跡ブランチは、リモートリポジトリとの同期をgit fetch
コマンドによってのみ行います。ローカルブランチ(例: main
)を直接操作しても、追跡ブランチは自動的には更新されません。また、追跡ブランチ自体をチェックアウトして作業することはできません。追跡ブランチは、あくまでリモートの状態をローカルで参照するためのものです。
ローカルブランチがリモートの追跡ブランチを「追跡」するように設定されている場合(例: ローカルのmain
ブランチがorigin/main
を追跡)、Gitはローカルのmain
ブランチとリモートのmain
ブランチ(ローカルではorigin/main
として表現される)の間の関係を把握し、差分などを表示する際に利用します。多くのローカルブランチは、対応するリモートの追跡ブランチをデフォルトで追跡するように設定されます。
これらの基本的な概念(ローカル/リモートリポジトリ、追跡ブランチ)を理解した上で、いよいよgit fetch
とgit pull
の動作を見ていきましょう。
git fetch
コマンド詳解:リモートの状態を安全に取得する
git fetch
は、リモートリポジトリから情報を取得するためのコマンドです。このコマンドの最も重要な特徴は、ローカルの作業ブランチには一切変更を加えないという点です。git fetch
は、リモートリポジトリの最新のコミット履歴、ブランチ、タグなどの情報をダウンロードし、ローカルリポジトリ内の追跡ブランチを更新します。
git fetch origin
の具体的な動作ステップ
git fetch origin
コマンドを実行すると、Gitは以下の処理を行います。
- リモートリポジトリ
origin
に接続する:git remote -v
で表示されるURLを使用して、リモートリポジトリへの接続を試みます。 - リモートの最新情報を取得する: リモートリポジトリから、ローカルリポジトリがまだ持っていないすべてのオブジェクト(コミット、ツリー、ブロブなど)と、リモートの参照(ブランチやタグがどのコミットを指しているか)を取得します。
- ローカルの追跡ブランチを更新する: 取得した情報に基づいて、ローカルリポジトリ内の
refs/remotes/origin/
ディレクトリ配下にある追跡ブランチ(例:origin/main
,origin/develop
など)を更新します。これにより、ローカルの追跡ブランチが、フェッチ時点でのリモートの対応するブランチの最新コミットを指すようになります。 - ローカルブランチはそのまま:
git fetch origin
は、あなたの現在作業しているローカルブランチ(例:main
やフィーチャーブランチ)には何も変更を加えません。ヘッド(HEAD)が指しているコミットも、ワーキングツリー(作業ディレクトリ)の状態も変わりません。
例えば、リモートのmain
ブランチに新しいコミットがプッシュされたとします。ローカルのmain
ブランチはまだ古いコミットを指しています。
“`
ローカル: main -> C1 -> C2
ローカル追跡ブランチ: origin/main -> C2 (古い状態)
リモート: main -> C1 -> C2 -> C3 -> C4 (新しいコミット C3, C4 が追加された)
“`
ここでgit fetch origin
を実行すると、GitはリモートからC3とC4のコミットオブジェクトを取得し、ローカルの追跡ブランチorigin/main
を更新します。
bash
$ git fetch origin
remote: Counting objects: 2, done.
remote: Compressing objects: 100% (2/2), done.
remote: Total 2 (delta 0), reused 0 (delta 0)
Unpacking objects: 100% (2/2), done.
From https://github.com/user/repo
c2c2c2c..c4c4c4c main -> origin/main
フェッチ後の状態は以下のようになります。
“`
ローカル: main -> C1 -> C2 (変更なし)
ローカル追跡ブランチ: origin/main -> C4 (最新の状態に更新された)
リモート: main -> C1 -> C2 -> C3 -> C4 (ローカルの追跡ブランチがこれを反映)
“`
ご覧の通り、ローカルのmain
ブランチはC2を指したままです。しかし、origin/main
は最新のC4を指すようになりました。これで、ローカルリポジトリはリモートの最新情報を把握したことになります。
git fetch
で取得した情報の確認方法
git fetch
はローカルブランチを変更しないため、フェッチ後にリモートで何が変わったのかを確認することが重要です。いくつかの方法があります。
-
git status
:
ローカルブランチが追跡しているリモート追跡ブランチよりもどれだけ進んでいるか(または遅れているか)を表示します。
“`bash
$ git status
On branch main
Your branch is behind ‘origin/main’ by 2 commits, and can be fast-forwarded.
(use “git pull” to update your local branch)nothing to commit, working tree clean
``
main
この出力は、「ローカルのブランチは、追跡している
origin/mainよりも2コミット遅れています」ということを示しています。これは、まさに
git fetchによって
origin/main`が更新された結果です。 -
git log
:
追跡ブランチとローカルブランチの間の差分を視覚的に確認できます。
“`bash
$ git log main..origin/main
commit c4c4c4c… (origin/main)
Author: User user@example.com
Date: Fri Jan 1 12:00:00 2024 +0900Add new feature part 2
commit c3c3c3c…
Author: User user@example.com
Date: Fri Jan 1 11:00:00 2024 +0900Add new feature part 1
``
main..origin/mainという記法は、「
origin/mainには存在するが、
main`には存在しないコミット」を表示します。これにより、リモートに追加された新しいコミットの履歴を確認できます。また、
git log --decorate --all --graph
コマンドを使うと、ローカルブランチとリモート追跡ブランチを含む全てのブランチの履歴をグラフ形式で表示でき、両者の関係性を視覚的に把握するのに非常に役立ちます。 -
git diff
:
追跡ブランチとローカルブランチの間の具体的な差分(ファイル内容の変更)を確認できます。
bash
$ git diff main..origin/main
このコマンドは、main
ブランチのコミットとorigin/main
ブランチのコミットの間の差分を表示します。これにより、リモートでどのようなコード変更が行われたのかを詳細に確認できます。
これらのコマンドを組み合わせることで、git fetch
によって取得した最新情報を安全に吟味し、ローカルへの取り込み方を判断することができます。
git fetch
の主なオプション
git fetch
コマンドにはいくつかの有用なオプションがあります。
-
git fetch <remote> <branch>
:
特定の追跡ブランチのみを更新したい場合に指定します。例えば、git fetch origin develop
とすると、origin
リモートのdevelop
ブランチの情報のみを取得し、ローカルのorigin/develop
追跡ブランチを更新します。他のリモートブランチの情報は取得しません。 -
git fetch --all
:
設定されているすべてのリモートリポジトリ(デフォルトのorigin
だけでなく、追加した他のリモートも含む)から最新情報をまとめて取得します。複数のリモートと連携している場合に便利です。 -
git fetch --tags
:
デフォルトでは、git fetch
はリモートのブランチに関する情報のみを取得し、タグに関する情報は取得しません。このオプションを付けると、リモートに追加された新しいタグも取得し、ローカルリポジトリに反映します。タグは通常、重要なリリースポイントなどをマークするために使用されるため、定期的にフェッチしておくと良いでしょう。 -
git fetch --prune
または-p
:
リモートリポジトリで既に削除されたブランチに対応するローカルの追跡ブランチを削除します。例えば、リモートでfeature/x
ブランチがマージされて削除された場合、ローカルにはorigin/feature/x
という追跡ブランチが残ったままになります。git fetch -p origin
と実行すると、リモートに存在しないorigin/feature/x
のような追跡ブランチが自動的に削除され、追跡ブランチの一覧が整理されます。これは定期的に実行することをおすすめします。 -
git fetch --dry-run
または-n
:
実際にフェッチを行う前に、何がフェッチされるか(どの追跡ブランチが更新されるか、どの参照が削除されるかなど)を表示します。実際の変更を加えることなく、フェッチの結果をプレビューできます。 -
git fetch <remote> <refspec>
:
これはより高度な使い方です。refspec
(参照仕様)を使うと、リモートの特定の参照(ブランチ、タグ、コミットなど)をローカルの特定の参照にマッピングして取得できます。デフォルトのgit fetch origin
は、設定ファイル(.git/config
)に定義されたrefspec(通常はrefs/heads/*:refs/remotes/origin/*
など)に従って動作します。これにより、リモートのブランチがローカルの追跡ブランチにマッピングされます。特定のコミットだけを取得したい場合などにも使用できますが、一般的な用途ではデフォルトの動作で十分です。
git fetch
のメリット
git fetch
コマンドを日常的に使用することには、いくつかの大きなメリットがあります。
- ローカル作業の中断がない:
git fetch
はローカルブランチやワーキングツリーに一切変更を加えないため、現在進行中の作業を中断することなく、リモートの最新状況を確認できます。これにより、他の開発者がどのような変更をプッシュしたのかをいつでも気軽にチェックできます。 - 安全なリモート状況の確認: リモートの変更内容をローカルに適用する前に、どのような変更があったのか(新しいコミット、変更されたファイルなど)を
git log
やgit diff
を使って事前に確認できます。これにより、予期せぬ変更やコンフリクトの原因となる可能性のある変更を事前に察知し、ローカルへの統合方法(マージまたはリベース)を慎重に判断できます。 - 統合方法の柔軟性:
git fetch
で最新情報を取得した後、その情報をローカルブランチに統合する方法として、git merge
とgit rebase
のどちらかを選択できます。それぞれのメリット・デメリット(マージは履歴を保持するが複雑になる可能性、リベースは履歴を直線的に保つが書き換えになる)を理解していれば、状況に応じて最適な方法を選ぶことができます。git pull
のようにデフォルトでマージ(またはリベース)が実行されてしまうのではなく、自分で制御できる点が大きな利点です。
git fetch
を使うべき具体的なシナリオ
- 作業開始時: その日の作業を始める前に、まず
git fetch origin
を実行してリモートの最新状況を把握する。 - 長時間作業中: 長時間自分のブランチで作業していて、他の開発者がメインブランチ(例:
main
,develop
)にプッシュした可能性がある場合に、作業中のブランチに影響を与えずに最新状況を確認する。 - マージ/リベース前: 自分のフィーチャーブランチをメインブランチにマージしたり、メインブランチに対してリベースしたりする前に、最新のメインブランチの情報を取得する。
- 他のブランチの確認: 自分のブランチ以外のリモートブランチ(例: 他の開発者のフィーチャーブランチ)の最新状況や変更内容を確認したい場合。
- 定期的なリモート状況の監視: 定期的に
git fetch --all -p
などを実行して、追跡ブランチを最新かつクリーンな状態に保つ。
git pull
コマンド詳解:取得と統合を一度に行う
一方、git pull
コマンドは、リモートリポジトリから情報を取得し、それをローカルの現在作業中のブランチに自動的に統合するコマンドです。
git pull
は、実質的に以下の二つのコマンドを連続して実行するショートカットです。
git fetch
: リモートリポジトリから最新情報を取得し、ローカルの追跡ブランチを更新する。git merge
またはgit rebase
: フェッチによって更新された追跡ブランチの変更内容を、現在作業中のローカルブランチに統合する。
デフォルトでは、git pull
はフェッチ後にマージを行います。つまり、git pull origin main
というコマンドは、おおよそ以下の二つのコマンドを実行するのと同じです。
bash
$ git fetch origin main # originリモートのmainブランチに関する情報をフェッチし、origin/mainを更新する
$ git merge origin/main # ローカルの現在のブランチに、更新されたorigin/mainの内容をマージする
git pull
の動作によるローカルブランチへの影響
git pull
を実行すると、フェッチに加えてマージまたはリベースが行われるため、ローカルの作業ブランチのコミット履歴が変更されます。
-
デフォルト(マージ)の場合:
git pull
がマージを実行する場合、リモート追跡ブランチ(例:origin/main
)がローカルブランチ(例:main
)の直接の祖先である場合(つまり、ローカルで新しいコミットをまだ行っていない場合や、ローカルの変更がリモートの変更を含む場合に)、ファストフォワードマージが行われます。ローカルブランチの先端が追跡ブランチの先端にそのまま移動するだけで、新しいマージコミットは作成されません。履歴は直線的に保たれます。
“`
ローカル: main -> C1 -> C2
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> C3 -> C4$ git pull origin main (または単に git pull)
ローカル: main -> C1 -> C2 -> C3 -> C4
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> C3 -> C4 (フェッチで更新されている)(ローカルブランチの先端が追跡ブランチの先端まで進む)
“`一方、ローカルブランチで独自のコミットを行っている場合に、リモート追跡ブランチ(
origin/main
)とローカルブランチ(main
)が分岐していると、スリーウェイマージが行われます。Gitは両方のブランチの変更を取り込んだ新しいマージコミットを作成します。これにより、履歴にマージコミットが追加されます。
“`
ローカル: main -> C1 -> C2 -> L1 (ローカルのコミット)
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> R1 (リモートのコミット)$ git pull origin main
ローカル: main -> C1 -> C2 -> L1 — M (M はマージコミット)
\ /
R1 —追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> R1 (フェッチで更新されている)
“`
マージ中にコンフリクトが発生した場合は、手動でコンフリクトを解消し、コミット(マージコミット)を作成する必要があります。 -
git pull --rebase
の場合:
git pull --rebase
オプションを使用すると、git pull
はフェッチ後にリベースを行います。これは、ローカルブランチで行ったコミットを一時的に取り除き、追跡ブランチ(例:origin/main
)の最新コミットの上にそれらのコミットを再適用する操作です。これにより、履歴がより直線的でクリーンになります。
“`
ローカル: main -> C1 -> C2 -> L1 (ローカルのコミット)
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> R1 (リモートのコミット)$ git pull –rebase origin main
(ローカルの L1 コミットを一時退避)
(ローカルブランチを追跡ブランチの先端に移動)
ローカル: main -> C1 -> C2 -> R1
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> R1 (フェッチで更新されている)(退避したローカルコミット L1 を R1 の上に再適用)
ローカル: main -> C1 -> C2 -> R1 -> L1′ (L1′ はリベース後の L1)
追跡: origin/main -> C1 -> C2 -> R1 (フェッチで更新されている)
“`
リベース中にコンフリクトが発生した場合は、各コミットが適用されるたびに解消する必要があります。マージと異なり、リベースは既存のコミットのIDを変更する「履歴の書き換え」にあたるため、既にリモートにプッシュしたコミットに対しては通常推奨されません。
git pull
のメリットとデメリット
メリット:
- 手軽さ: リモートの最新情報を取得し、ローカルブランチに適用するという一連の操作を一つのコマンドで完了できるため、手順が少なく手軽です。
デメリット:
- 制御不能:
fetch
とmerge
/rebase
が連続して実行されるため、リモートの変更内容を事前にじっくり確認する余裕がありません。予期せぬ変更が含まれていても、自動的に統合処理が進んでしまいます。 - コンフリクト発生リスク: ローカルに未コミットの変更がある状態で
git pull
を実行すると、フェッチ後のマージ/リベース時にコンフリクトが発生する可能性があり、その時点でローカルの作業が中断されてしまいます。また、ローカルブランチに既にコミットがある場合も、マージやリベースによるコンフリクト解決が必要になる場合があります。 - 履歴の意図せぬ変化: デフォルトのマージの場合、ローカルとリモートが分岐していると必ずマージコミットが作成され、履歴が複雑になることがあります。
--rebase
を使えば履歴は直線的になりますが、これは履歴の書き換えにあたり、共有ブランチでの使用は注意が必要です。
git pull
を使うべき具体的なシナリオ
- ローカルに未コミットの変更がなく、かつリモートの変更がローカルの変更と競合する可能性が低い場合: 例えば、作業開始直後でローカルにまだ変更がない場合や、自分しか作業していないブランチを更新する場合など。
- シンプルに最新の状態に追従したい場合: リモートの変更内容を細かく確認するよりも、とにかく最新の状態にローカルを合わせたいという場合。ただし、これは前述の通りリスクも伴います。
- 追跡しているブランチの最新状態を頻繁に取り込みたい場合: 特に、小まめにリモートの変更を取り込みながら作業を進めるスタイルの場合。
git fetch
とgit pull
の決定的な違い
ここまで見てきたように、git fetch
とgit pull
の最も決定的な違いは、ローカルの作業ブランチに変更を加えるかどうかという点です。
git fetch
: リモートの最新情報を取得し、ローカルの追跡ブランチを更新するだけ。ローカルブランチ、ワーキングツリー、ステージングエリアは一切変更されない。これは「リモートで何が起こったかを確認する」ためのコマンド。git pull
:git fetch
を実行した後、フェッチした内容をローカルの現在のブランチに自動的に統合する(デフォルトはマージ、またはリベース)。ローカルブランチのコミット履歴が変更され、場合によってはワーキングツリーやステージングエリアの状態も変わる可能性がある。これは「リモートの最新情報をローカルに反映させる」ためのコマンド。
特徴 | git fetch |
git pull |
---|---|---|
実行内容 | リモート情報の取得と追跡ブランチの更新のみ | git fetch + git merge または git rebase |
ローカルブランチへの影響 | 変更なし | 変更あり(マージまたはリベースされる) |
ワーキングツリーへの影響 | 変更なし | 変更あり(マージ/リベース結果が反映、コンフリクト発生) |
コンフリクト発生の可能性 | なし | あり(マージ/リベース時) |
履歴の変更 | なし | あり(マージコミット作成またはリベースによる履歴書き換え) |
目的 | リモートの最新状況を安全に確認する | リモートの最新情報をローカルにすぐに適用する |
柔軟性 | 高い(取得後、統合方法を自分で選べる) | 低い(自動的に統合処理が進む) |
git fetch origin
を使いこなす:安全で柔軟なリモート連携
前述の通り、git fetch origin
はリモートorigin
の最新情報を取得し、ローカルの追跡ブランチorigin/*
を更新するコマンドです。このコマンド自体はローカルの作業状態に影響を与えないため、非常に安全に実行できます。
リモートの最新状況を安全に確認する
git fetch origin
を実行する最も一般的な目的は、「今、リモートのorigin
にはどんな新しい変更が入っているんだろう?」という疑問に答えることです。
bash
$ git fetch origin
このコマンドを実行するだけで、リモートの最新情報がローカルリポジトリに取り込まれ、追跡ブランチが更新されます。あなたのローカルブランチや未コミットの変更はそのままです。
フェッチが完了したら、以下のコマンドで変更内容を確認します。
-
git status
: 自分が作業しているローカルブランチがリモートの追跡ブランチに対して遅れているか進んでいるかを確認。
bash
$ git status
On branch feature/my-work
Your branch is up to date with 'origin/feature/my-work'.
Your branch is based on 'origin/main'.
Your branch is 2 commits behind 'origin/main' and can be fast-forwarded.
この例では、作業中のfeature/my-work
ブランチはリモートの同名ブランチとは同期が取れていますが、そのベースとなっているorigin/main
からは2コミット遅れていることがわかります。つまり、origin
のmain
ブランチに新しい変更が入ったということです。 -
git log <local_branch>..<remote_tracking_branch>
: リモート追跡ブランチに存在するがローカルブランチには存在しないコミットを確認。
bash
$ git log main..origin/main # ローカルのmainブランチとリモート追跡ブランチorigin/mainの差分
これにより、リモートorigin
のmain
ブランチに新たに追加されたコミットのリストを見ることができます。コミットメッセージや作者を見ることで、どのような変更が入ったのかを把握できます。 -
git diff <local_branch>..<remote_tracking_branch>
: 両ブランチ間の具体的なファイル内容の差分を確認。
bash
$ git diff main..origin/main
このコマンドで、追加・変更されたコードの具体的な内容を確認できます。
フェッチした情報を元にマージまたはリベースする
git fetch origin
で最新情報を取得し、変更内容を確認したら、いよいよその情報をローカルの作業ブランチに統合します。統合方法には、マージとリベースの二つの選択肢があります。
1. マージによる統合
最も一般的な統合方法です。ローカルブランチとリモート追跡ブランチの共通の祖先から、両方のブランチの変更を取り込んだマージコミットを作成します。
例えば、ローカルのmain
ブランチがorigin/main
を追跡しているとします。git fetch origin
を実行してorigin/main
が更新された後、ローカルのmain
ブランチにその変更を取り込むには、以下のようにします。
bash
$ git checkout main # 統合したいローカルブランチに移動
$ git fetch origin # 最新情報をフェッチ(既に実行済みの場合は不要だが、念のため実行しても良い)
$ git merge origin/main # フェッチした内容(origin/mainの指すコミット)を現在のmainブランチにマージ
マージ時にコンフリクトが発生した場合は、Gitがそれを報告します。コンフリクトが発生したファイルを手動で編集してコンフリクトマーカー(<<<<<<<
, =======
, >>>>>>>
)を解消し、git add <resolved_file>
でステージングエリアに追加し、最後にgit commit
(マージコミットは自動でメッセージが入力されることが多い)でマージを完了させます。
もし、git fetch origin
実行後にgit status
で「Your branch is behind ‘origin/main’ by X commits, and can be fast-forwarded.」と表示された場合は、ローカルブランチで独自のコミットを行っておらず、リモート追跡ブランチがローカルブランチの直接の祖先になっています。この場合、git merge origin/main
はファストフォワードマージを実行し、マージコミットは作成されずにローカルブランチの先端が追跡ブランチの先端まで移動するだけです。これはgit pull
のデフォルト動作がファストフォワードマージになるケースと同じです。
2. リベースによる統合
マージコミットを作成せず、ローカルブランチの履歴をより直線的に保ちたい場合にリベースを使用します。これは、ローカルブランチで行ったコミットを一時退避し、リモート追跡ブランチの最新コミットの上にそれらを再適用する操作です。
例として、ローカルのフィーチャーブランチfeature/my-work
を、更新されたorigin/main
に対してリベースする場合を考えます。
bash
$ git checkout feature/my-work # リベースしたいローカルブランチに移動
$ git fetch origin # 最新情報をフェッチ
$ git rebase origin/main # フェッチした内容(origin/mainの指すコミット)に対して現在のブランチをリベース
git rebase origin/main
コマンドは、Gitに「私の現在のブランチの変更を、origin/main
の最新コミットの上に置き直してほしい」と指示します。
リベースは、現在のブランチが分岐した元のコミット(共通の祖先)から、指定したブランチ(この例ではorigin/main
)の先端までの間の全てのコミットを「取り込み」、その上に現在のブランチの各コミットを一つずつ順番に再適用していきます。
リベース中にコンフリクトが発生した場合、Gitは処理を中断し、どのコミットの適用時にコンフリクトが起きたかを教えてくれます。コンフリクトを解消し、git add <resolved_file>
でステージングした後、git rebase --continue
でリベースを続行します。git rebase --skip
で現在のコミットの適用をスキップしたり、git rebase --abort
でリベースを中止して元の状態に戻したりすることも可能です。
リベースが完了すると、フィーチャーブランチの履歴はorigin/main
の先端から分岐したようになり、マージコミットは作成されません。これは履歴をクリーンに保つのに役立ちますが、リベースはコミットのIDを変更するため、既にプッシュしたコミットに対してリベースを行うと他の開発者との間で履歴の食い違いが生じ、後続のプッシュやプルが複雑になる(Force Pushが必要になるなど)可能性があります。共有ブランチで作業している場合は、通常、リベースではなくマージを使用することが推奨されます。自分のローカルブランチで作業していて、まだ誰とも共有していない場合にリベースを使用するのが安全です。
複数のリモートを持つ場合のフェッチ
一つのローカルリポジトリが複数のリモートリポジトリを持っている場合、git fetch
コマンドにリモート名を指定することで、どのリモートから情報を取得するかを制御できます。
例えば、origin
とupstream
という二つのリモートが設定されている場合:
git fetch origin
:origin
リモートから情報を取得し、origin/*
追跡ブランチを更新します。git fetch upstream
:upstream
リモートから情報を取得し、upstream/*
追跡ブランチを更新します。git fetch --all
: 設定されている全てのリモート(origin
とupstream
両方)から情報を取得し、全ての追跡ブランチ(origin/*
,upstream/*
)を更新します。
これにより、異なるソース(例: 自分のフォーク元リポジトリupstream
と自分のフォークリポジトリorigin
)の最新状況をそれぞれ確認し、必要に応じて統合することができます。
特定のブランチのみをフェッチする
デフォルトのgit fetch origin
は、origin
リモートの全てのブランチとそれに関連するオブジェクトをフェッチします。しかし、特定のブランチの情報だけを取得したい場合もあります。
bash
$ git fetch origin <branch_name>
例えば、git fetch origin develop
と実行すると、Gitはorigin
リモートのdevelop
ブランチに関する情報のみを取得し、ローカルのorigin/develop
追跡ブランチを更新します。これは、特定のブランチの最新状況だけを素早く確認したい場合に便利です。
特定のコミットや参照をフェッチする
より高度な使い方として、git fetch
は特定のコミットや参照(ブランチ、タグ、特定のSHA-1ハッシュなど)だけを取得することも可能です。これは、他のリポジトリやリモートから特定の変更セットだけを一時的にローカルに取り込んで確認したい場合などに役立ちます。
bash
$ git fetch origin <sha1>
$ git fetch origin <source_ref>:<destination_ref>
例えば、git fetch origin pull/123/head:refs/remotes/origin/pull/123
のようにrefspecを使用すると、プルリクエスト#123の最新コミットをローカルの追跡ブランチとして取得できます(ホスティングサービスによってはこの形式がサポートされています)。取得した参照は、git checkout
などで確認することができます。
タグのみをフェッチする
前述の通り、デフォルトではタグはフェッチされません。リモートのタグ情報を取得するには--tags
オプションを使用します。
bash
$ git fetch origin --tags
これにより、リモートorigin
に存在する新しいタグがローカルリポジトリに取得されます。
git fetch
で取得した情報をローカルの新しいブランチにチェックアウトする
git fetch
でリモート追跡ブランチ(例: origin/feature/remote-branch
)を取得した後、その時点のリモートの状態を確認したり、そのブランチをベースに作業を開始したりしたい場合があります。リモート追跡ブランチは直接チェックアウトできませんが、それを基にしたローカルブランチを作成してチェックアウトすることは可能です。
bash
$ git fetch origin
$ git checkout -b my-new-branch origin/feature/remote-branch
このコマンドは、origin/feature/remote-branch
追跡ブランチが指しているコミットを基点として、my-new-branch
という新しいローカルブランチを作成し、そこにチェックアウトします。これにより、リモートの特定のブランチの状態をローカルで完全に再現し、その上で作業を開始できます。これは、他の開発者の作業内容を確認したり、プルリクエストの内容をローカルでレビューしたりする場合などに非常に便利なテクニックです。
git fetch
とローカル開発の整合性
git fetch
がローカルの作業状態に影響を与えないという性質は、開発プロセスにおいて非常に有利に働きます。
- 未コミットの変更がある場合:
git fetch
は問題なく実行できます。git pull
であればマージやリベースが走ってコンフリクトが発生する可能性がありますが、git fetch
はただ情報を取得するだけなので、安心して実行できます。 - ステージングエリアに変更がある場合: 同様に、
git fetch
はステージングエリアの状態に影響を与えません。 - 現在作業中のブランチ:
git fetch
は、どのブランチにチェックアウトしていても実行できます。リモートの最新情報を取得することと、ローカルでの作業を並行して行うことが可能です。
この「非破壊的」な性質こそが、git fetch
を安全かつ柔軟なリモート連携の基盤としているのです。
推奨ワークフロー:git fetch
を中心とした安全な開発スタイル
多くのGit初心者や、とにかく手早く最新を取り込みたいという人はgit pull
を多用しがちです。しかし、特にチーム開発においては、git fetch
を積極的に活用するワークフローがより安全で推奨されます。
「フェッチ・マージ/リベース」ワークフロー
このワークフローは、リモートの変更を取り込む際に、git pull
を使わずに以下の手順を踏むものです。
-
作業開始・または定期的にリモート状況を確認:
現在作業しているローカルブランチにチェックアウトしたまま、または必要であればメインブランチ(例:main
,develop
)に移動して、以下のコマンドを実行します。
bash
$ git fetch origin
$ git status
git status
で「Your branch is behind ‘origin/main’ by X commits…」のような表示があれば、リモートに新しい変更があることがわかります。 -
リモートの変更内容を確認:
git log <local_branch>..origin/<remote_branch>
やgit diff <local_branch>..origin/<remote_branch>
コマンドを使用して、リモートでどのような変更が行われたのかを詳細に確認します。
bash
$ git log main..origin/main
$ git diff main..origin/main # 必要に応じて
これにより、どのような変更が取り込まれることになるのかを事前に把握できます。 -
ローカルブランチに統合:
確認したリモートの変更を、ローカルの作業ブランチ(またはメインブランチ)に統合します。統合方法として、マージかリベースを選択します。-
メインブランチを更新する場合(例:
main
ブランチで作業中):
bash
$ git checkout main
$ git merge origin/main # ファストフォワードマージまたはスリーウェイマージ
コンフリクトが発生した場合は、手動で解決してコミットします。 -
フィーチャーブランチを最新のメインブランチに同期させる場合(例:
feature/my-work
ブランチで作業中):
bash
$ git checkout feature/my-work
$ git merge origin/main # マージを選択する場合
# または
$ git rebase origin/main # リベースを選択する場合(非共有ブランチの場合に推奨)
マージまたはリベース中にコンフリクトが発生した場合は、手動で解決します。
-
このワークフローの最大の利点は、リモートの変更をローカルに適用する前に、その内容を安全に確認できることです。これにより、予期せぬ変更による作業の中断を防ぎ、コンフリクトが発生する可能性を事前に見積もり、最適な統合方法を選択できます。特にチーム開発で、他の開発者が活発にプッシュしている状況では、この手順を踏むことでマージ/リベース時のトラブルを最小限に抑えることができます。
git pull
が適しているケース
もちろん、git pull
が適しているケースもあります。
- 自分専用のリポジトリやブランチで作業している場合: 複数人で共有していないリポジトリや、他の誰も変更しないことが確実なブランチで作業している場合は、
git pull
を使っても他の開発者に影響を与えるリスクがありません。 - 小規模な変更で、コンフリクトの可能性が極めて低い場合: ローカルに未コミットの変更がなく、リモートの変更もごくわずかで、ローカルの変更と競合する可能性が低いことが分かっている場合は、手軽さから
git pull
を選択しても良いでしょう。ただし、これもリスクがないわけではありません。
しかし、一般的には、特に共有ブランチ(main
, develop
など)や、チームメンバーと共同で作業するフィーチャーブランチを更新する際には、git fetch
でリモートの状況を把握し、慎重に統合する「フェッチ・マージ/リベース」ワークフローの方が安全性が高く推奨されます。
高度なトピック:RefspecとFetchの仕組み
git fetch
の動作をさらに深く理解するために、Gitがリモートとローカルの間で参照(references、ブランチやタグなど)をどのようにマッピングしているのかを見てみましょう。これは「Refspec」(リフスペック)と呼ばれる設定によって制御されています。
Refspecの詳細
Refspecは、リモートリポジトリのどの参照(Source Ref)を、ローカルリポジトリのどの参照(Destination Ref)にマッピングしてフェッチするかを定義するルールです。これは.git/config
ファイル内のリモート設定セクションに記述されています。
ini
[remote "origin"]
url = https://github.com/user/repo.git
fetch = +refs/heads/*:refs/remotes/origin/*
fetch = +refs/tags/*:refs/tags/*
この例は、デフォルトのorigin
リモートのfetch
設定です。各fetch
行がRefspecを定義しています。
-
+refs/heads/*:refs/remotes/origin/*
:+
: 強制上書きを意味します。ローカルのDestination RefがリモートのSource Refの祖先でなくても更新されます。refs/heads/*
: リモートリポジトリ上の全てのブランチ(refs/heads/
以下の全ての参照)を意味します。:
: マッピングの区切りです。refs/remotes/origin/*
: ローカルリポジトリ上のrefs/remotes/origin/
以下の対応する参照を意味します。
このRefspecは、「リモートの全てのブランチ(例:
refs/heads/main
,refs/heads/feature/x
)をフェッチし、ローカルの対応する追跡ブランチ(例:refs/remotes/origin/main
,refs/remotes/origin/feature/x
)にマッピングして更新する」という意味になります。これが、git fetch origin
を実行したときにローカルの追跡ブランチorigin/*
が更新される仕組みです。 -
+refs/tags/*:refs/tags/*
:refs/tags/*
: リモートリポジトリ上の全てのタグ(refs/tags/
以下の全ての参照)を意味します。refs/tags/*
: ローカルリポジトリ上のrefs/tags/
以下の対応する参照を意味します。
このRefspecは、「リモートの全てのタグ(例:
refs/tags/v1.0
)をフェッチし、ローカルの対応するタグ(例:refs/tags/v1.0
)にマッピングして更新する」という意味になります。ただし、デフォルトではタグに関するこの行は含まれていないことが多く、タグをフェッチするにはgit fetch --tags
オプションが必要になります。このオプションは、一時的にこのRefspecを追加してフェッチを実行するようなものだと考えられます。
git fetch <remote> <refspec>
という形式でコマンドを実行する際、<refspec>
の部分で独自の参照仕様を一時的に指定してフェッチを行うことができます。
git remote update
との関連
git remote update
コマンドは、設定されている全てのリモートリポジトリに対してgit fetch
を実行する便利なコマンドです。
bash
$ git remote update
これは、git fetch --all
と似ていますが、git remote update
はさらに--prune
(リモートで削除された追跡ブランチをローカルでも削除する)オプションがデフォルトで有効になっているため、追跡ブランチを整理するのに適しています。複数のリモートと連携している場合や、定期的に全ての追跡ブランチを最新かつクリーンな状態に保ちたい場合に役立ちます。
まとめ:状況に応じた使い分けとgit fetch origin
の活用
本記事では、Gitのリモート連携において中心的な役割を果たすgit fetch
とgit pull
について、その違いと詳細な使い方を解説しました。
改めて、二つのコマンドの最も重要な違いは以下の通りです。
git fetch origin
: リモートorigin
から最新情報を取得し、ローカルの追跡ブランチorigin/*
を更新する。ローカルの作業ブランチやワーキングツリーは変更されない。git pull origin <branch>
:git fetch origin <branch>
を実行した後、その内容(ローカルの追跡ブランチorigin/<branch>
が指す最新コミット)をローカルの現在作業中のブランチに統合する(デフォルトはマージ、--rebase
でリベース)。ローカルブランチの履歴やワーキングツリーが変更される可能性がある。
コマンド | 動作の核心 | ローカル作業状態への影響 | 制御性 |
---|---|---|---|
git fetch origin |
リモート情報をローカルに「取り込む」だけ | なし | 高い |
git pull origin ... |
リモート情報をローカルブランチに「統合する」まで | あり | 低い |
git fetch origin
は、ローカルでの作業を中断することなく、リモートの最新状況を安全に確認するためのコマンドです。フェッチ後にgit log
やgit diff
を使ってリモートの変更内容を吟味し、その上でgit merge
やgit rebase
を使ってローカルブランチに統合するという「フェッチ・マージ/リベース」ワークフローは、予期せぬコンフリクトや履歴の混乱を防ぎ、特にチーム開発において安全で推奨される開発スタイルです。
一方、git pull
は、フェッチと統合を一度に行う手軽なコマンドですが、その自動性ゆえに、リモートの変更内容を事前に確認する機会がなく、コンフリクト発生時にローカル作業が中断されるリスクがあります。自分専用のリポジトリやブランチなど、リスクが低い状況での使用に留めるのが賢明でしょう。
安全かつ柔軟なGit運用を目指すなら、まずは積極的にgit fetch origin
を使い、リモートの「今」を正確に把握する習慣をつけましょう。その上で、取得した情報をどのようにローカルに反映させるか(マージかリベースか)を状況に応じて判断し、対応するコマンドを実行する、というステップを踏むことが、Gitを使いこなす上で非常に重要になります。
Gitコマンド一つ一つがどのような役割を持ち、ローカルリポジトリのどの部分に影響を与えるのかを理解することは、バージョン管理を効率的に行い、チームメンバーとの共同作業を円滑に進めるための鍵となります。本記事が、あなたのGit理解を深め、日々の開発作業の一助となれば幸いです。
Happy Git-ing!