【入門】Amazon ECSで始めるコンテナオーケストレーション
はじめに:コンテナとオーケストレーションの必要性
現代のアプリケーション開発において、「コンテナ」という言葉を聞かない日はありません。Dockerに代表されるコンテナ技術は、アプリケーションとその依存関係を一つのパッケージにまとめ、どの環境でも同じように実行できるという革新的なメリットをもたらしました。これにより、開発、テスト、デプロイの各フェーズでの「環境の違いによる問題」が劇的に減少し、開発効率が向上しました。
しかし、本番環境でコンテナ化されたアプリケーションを運用する場合、一つのコンテナを実行するだけでは十分ではありません。以下のような課題に直面します。
- スケーリング: トラフィックの増加に応じてコンテナの数を増やしたい。トラフィックの減少に応じて数を減らしたい。
- 可用性: コンテナやホストマシンに障害が発生した場合、自動的に代替コンテナを起動してサービスを継続したい。
- デプロイメント: 新しいバージョンのアプリケーションを、サービスを停止することなく安全にデプロイしたい。ロールバックも簡単にしたい。
- 管理: 多数のコンテナを効率的に管理、監視したい。設定を一元管理したい。
- ネットワーキング: コンテナ間の通信、外部からのアクセス、ロードバランシングなどを設定・管理したい。
- ストレージ: コンテナが終了してもデータが消えないように、永続的なストレージを扱いたい。
これらの課題を手動で解決するのは非常に困難であり、運用コストが膨大になります。そこで登場するのが「コンテナオーケストレーション」です。
コンテナオーケストレーションとは、多数のコンテナのデプロイ、管理、スケーリング、ネットワーキングなどを自動化・効率化する技術またはツールセットのことです。これにより、開発者はアプリケーションコードの記述に集中でき、運用者はより安定したサービスを提供できるようになります。
コンテナオーケストレーションの代表的なプラットフォームには、Kubernetes、Docker Swarmなどがありますが、クラウドベンダーもマネージドなコンテナオーケストレーションサービスを提供しています。Amazon Web Services (AWS) が提供する主要なコンテナオーケストレーションサービスが、Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) です。
本記事では、コンテナオーケストレーションの基本から、Amazon ECSの主要な概念、構成要素、利用方法、そして他のAWSサービスとの連携までを、初心者向けに詳しく解説していきます。約5000語をかけて、ECSの全体像を理解し、実際に利用を開始するための基礎を築くことを目指します。
第1章:コンテナオーケストレーションとは? なぜECSを使うのか?
Amazon ECSを理解する前に、もう少し深くコンテナオーケストレーションの役割と、なぜECSが多くの企業で利用されているのかを見ていきましょう。
1.1 コンテナオーケストレーションの主な役割
コンテナオーケストレーションプラットフォームは、主に以下の機能を提供します。
- コンテナのスケジューリング: 指定されたリソース要件(CPU、メモリなど)を満たす最適なホストマシン(EC2インスタンスなど)を見つけ、そこにコンテナを起動します。
- サービスの維持: アプリケーションの desired state(希望する状態、例:「このコンテナを常に3つ実行しておく」)を定義し、実際の状態がそれと異なる場合に(コンテナがクラッシュした、ホストが落ちたなど)自動的に調整して desired state を維持します。
- スケーリング: メトリクス(CPU使用率など)に基づいてコンテナの数を自動的に増減させたり、手動でコンテナ数を変更したりできます。
- デプロイメントとアップデート: 新しいバージョンのコンテナイメージへの更新を管理します。ローリングアップデートやカナリアリリース、ブルー/グリーンデプロイメントなどの戦略をサポートし、ダウンタイムを最小限に抑えたり、リスクを管理したりします。
- ネットワーキングとサービスディスカバリ: コンテナ間の通信を容易にし、外部からのアクセスを制御します。サービスディスカバリ機能により、他のサービスが動的に起動・停止するコンテナの場所を簡単に発見できるようになります。
- ストレージ管理: コンテナのライフサイクルとは独立した永続ストレージ(ボリューム)をコンテナに割り当て、データの永続化を可能にします。
- リソース管理: CPU、メモリ、ネットワーク帯域などのリソースをコンテナごとに制限・管理し、リソースの競合を防ぎます。
- 監視とロギング: コンテナのヘルス状態を監視し、ログを集約して問題の発見やデバッグを容易にします。
- 設定管理とシークレット管理: 環境変数、設定ファイル、機密情報(パスワード、APIキーなど)を安全にコンテナに渡す仕組みを提供します。
これらの機能により、複雑な分散システムであるコンテナ化されたアプリケーションを、効率的かつ信頼性高く運用できるようになります。
1.2 Amazon ECSとは? なぜECSを選ぶのか?
Amazon ECS (Elastic Container Service) は、AWSが提供するフルマネージドなコンテナオーケストレーションサービスです。コンテナ化されたアプリケーションを簡単にデプロイ、管理、スケーリングできます。
ECSが多くの組織で採用されている理由はいくつかあります。
- AWSとのネイティブな統合: ECSは、VPC、IAM、CloudWatch、ELB (Elastic Load Balancing)、ECR (Elastic Container Registry)、Systems Manager、Secrets Managerなど、他の主要なAWSサービスと緊密に統合されています。これにより、AWSエコシステム内で一貫した運用が可能になり、セキュリティ、ネットワーキング、監視などの設定が容易になります。
- マネージドサービスであること: ECSのコントロールプレーンはAWSが管理するため、ユーザーはオーケストレーションソフトウェア自体のインストール、設定、運用、パッチ適用、スケーリングといった管理タスクから解放されます。これにより運用負荷が大幅に軽減されます。
- シンプルな概念: 後述する「タスク定義」「サービス」「クラスター」といった概念は、Kubernetesと比較すると比較的シンプルで理解しやすいとされています。(ただし、複雑な構成も可能です)
- 柔軟な起動オプション: コンテナを実行するインフラとして、ユーザーがEC2インスタンスを管理する「EC2起動タイプ」と、サーバーレスでインフラ管理が不要な「AWS Fargate起動タイプ」を選択できます。これにより、ワークロードの特性や運用ポリシーに合わせて最適なオプションを選べます。
- コスト効率: 利用したリソース(EC2インスタンス時間またはFargateリソース時間)に対してのみ料金が発生します。EC2起動タイプでは既存のEC2インスタンスを再利用できる場合もあり、コスト最適化の余地があります。
- 高い可用性と信頼性: AWSのインフラストラクチャ上で動作するため、高い可用性と信頼性が提供されます。
特に、既にAWSを深く利用している組織や、運用負荷を最小限に抑えたい組織にとって、ECSは非常に魅力的な選択肢となります。Kubernetesほどの高いカスタマイズ性やベンダーロックインからの解放を最優先しない場合に、ECSは迅速かつ効率的にコンテナワークロードを運用するための強力なツールとなります。
第2章:Amazon ECSの主要な概念と構成要素
ECSを理解する上で必須となる主要な概念と構成要素を一つずつ見ていきましょう。これらの要素が組み合わさって、コンテナ化されたアプリケーションのデプロイと管理が実現されます。
2.1 クラスター (Cluster)
ECSにおけるクラスターは、ECSの各種リソース(タスク、サービス、コンテナインスタンス)を論理的にグループ化する単位です。複数の異なるアプリケーション(サービス)を同じクラスター内で実行することも、アプリケーションごとにクラスターを分けることも可能です。
クラスターは単なる論理的な境界線であり、コンピューティングリソースそのものではありません。コンピューティングリソースは、後述する「コンテナインスタンス」または「Fargate」によって提供されます。
クラスターを作成する際には、以下のような設定を行います。
- ネットワーキング: デフォルトVPCかカスタムVPCかを選択します。通常はカスタムVPCを使用します。
- コンテナインスタンス (EC2起動タイプの場合): クラスターに関連付けるEC2インスタンスタイプ、AMI、キーペア、IAMロールなどを設定します。これにより、クラスター内でコンテナを実行するためのホストマシンが準備されます。
- AWS Fargate (Fargate起動タイプの場合): Fargateの場合は、インスタンス管理が不要なため、特にインスタンス設定は不要です。
一つのAWSアカウント内で複数のクラスターを持つことができます。例えば、開発環境用クラスター、ステージング環境用クラスター、本番環境用クラスターのように使い分けるのが一般的です。
2.2 タスク定義 (Task Definition)
タスク定義は、ECS上で実行されるアプリケーションの「設計図」または「ブループリント」です。どのようなコンテナを起動し、どのような設定で実行するかを定義します。タスク定義はJSON形式またはYAML形式で記述され、Amazon ECSに登録されます。
タスク定義には、以下の重要な情報が含まれます。
- ファミリー (Family): タスク定義のグループ名です。例えば、
web-app
やbatch-processor
のように、アプリケーションの種類や役割ごとにファミリー名を付けます。同じファミリー名で複数のリビジョンを作成できます(例:web-app:1
,web-app:2
)。 - コンテナ定義 (Container Definitions): これがタスク定義の核心部分です。一つまたは複数のコンテナを定義できます。各コンテナ定義には以下の情報が含まれます。
- 名前 (Name): コンテナの一意な名前(タスク定義内で)。
- イメージ (Image): コンテナイメージの場所(例:
nginx:latest
、my-account-id.dkr.ecr.ap-northeast-1.amazonaws.com/my-web-app:v1.0.0
)。Docker Hub、ECR、他のリポジトリを指定できます。 - CPU と メモリ (CPU and Memory): そのコンテナに割り当てるCPUユニット数とメモリ(MBまたはGB)を指定します。タスク全体またはコンテナごとに指定できます。Fargateの場合は必須の設定です。
- ポートマッピング (Port Mappings): コンテナ内部のポートとホストマシン(EC2インスタンス)または外部に公開するポートのマッピングを定義します。
awsvpc
ネットワークモードを使用する場合は、コンテナポートのみを指定し、ホストポートは動的に割り当てられます。 - 環境変数 (Environment Variables): コンテナに渡す環境変数をキー-バリュー形式で指定します。
- コマンド (Command) / エントリポイント (Entry Point): コンテナ起動時に実行されるコマンドやエントリポイントを上書きしたい場合に指定します。
- ワーキングディレクトリ (Working Directory): コマンドが実行されるディレクトリを指定します。
- ボリュームマウント (Volume Mounts): ホストマシンやEFSなどの永続ストレージをコンテナ内部のパスにマウントする設定です。
- ロギング設定 (Logging Configuration): コンテナの標準出力/エラー出力をどこに送るか(例: CloudWatch Logs)を設定します。
- ヘルスチェック (Health Check): コンテナが正常に動作しているかを確認するためのコマンドや設定を指定します。これにより、異常なコンテナを自動的に再起動させることができます。
- 機密情報 (Secrets): AWS Secrets Manager や AWS Systems Manager Parameter Store に保存された機密情報を、環境変数やファイルとしてコンテナに安全に渡す設定です。
- ネットワークモード (Network Mode): タスクがどのようにネットワーキングに参加するかを定義します。主なモードは
bridge
,host
,none
,awsvpc
です。現代のECSではawsvpc
モードが推奨されており、タスクごとにENI (Elastic Network Interface) が割り当てられ、独自のプライベートIPアドレスを持ちます。これにより、タスクがEC2インスタンスと同様にVPCネットワークに直接参加でき、セキュリティグループの適用などが容易になります。 - 実行ロール (Execution Role): ECSエージェントやFargateエージェントがユーザーに代わって特定のアクション(ECRからのイメージ取得、CloudWatch Logsへのログ送信、Secrets Manager/Parameter Storeからのシークレット取得など)を実行するために必要なIAMロールです。
- タスクロール (Task Role): タスク内のコンテナがAWSサービス(S3へのアクセス、DynamoDBへの書き込みなど)と連携するために必要なIAMロールです。各タスクに個別のIAMロールを割り当てることができ、最小権限の原則に基づいたセキュアなアクセス制御が可能になります。
- 起動タイプ (Launch Type): このタスク定義がEC2起動タイプまたはFargate起動タイプのどちらで使用されるかを指定します。両方に対応させることも可能です。
タスク定義はアプリケーションのバージョン管理と密接に関連しており、新しいコンテナイメージを作成するたびに新しいリビジョンのタスク定義を登録するのが一般的です。
2.3 タスク (Task)
タスクは、タスク定義の「インスタンス」です。タスク定義で定義された一つまたは複数のコンテナの実行中の集合を指します。ECSによってクラスター内のコンテナインスタンス上、またはFargateインフラストラクチャ上で起動されます。
タスクは最も基本的な実行単位です。例えば、タスク定義でWebサーバーとアプリケーションサーバーのコンテナを定義した場合、そのタスクが起動されると両方のコンテナが一緒に起動し、同じライフサイクルを共有します。
タスクは以下のいずれかの方法で実行されます。
- Serviceとして実行: 長時間稼働するアプリケーション(Webサーバー、APIなど)の場合に使用します。後述のサービスがタスクの数と状態を管理します。
- Standalone Taskとして実行 (RunTask API): バッチジョブ、スクリプトの実行、単一のメンテナンス作業など、一度だけ実行したい場合に使用します。ECSコンソールやAWS CLIの
RunTask
コマンドで実行します。
タスクには、一意のタスクIDが割り当てられます。また、awsvpc
ネットワークモードを使用している場合は、独自のプライベートIPアドレスと関連付けられたENIが割り当てられます。
2.4 サービス (Service)
サービスは、同じタスク定義を使用して、クラスター内で指定した数のタスク(desired count)を継続的に実行・管理するための仕組みです。WebアプリケーションやAPIバックエンドなど、長時間稼働し続ける必要のあるアプリケーションに使用されます。
サービスの主な機能は以下の通りです。
- タスク数の維持 (Desired Count): サービス作成時に指定したタスクの数を常に実行状態に保ちます。タスクが停止したり、そのタスクを実行していたコンテナインスタンスに障害が発生したりした場合、サービスは自動的に新しいタスクを起動して desired count を満たそうとします。
- ロードバランシングとの連携: ELB (Application Load Balancer, Network Load Balancer, Classic Load Balancer) と連携し、サービスによって起動されたタスクをロードババランサーのターゲットグループに登録します。これにより、外部からのトラフィックを複数のタスクに分散できます。
awsvpc
モードを使用している場合、タスクのIPアドレスをターゲットに直接登録できるため、よりシンプルかつ効率的なルーティングが可能です。 - デプロイメント戦略 (Deployment Strategies): 新しいバージョンのタスク定義に更新する際の戦略を定義します。
- ローリングアップデート (Rolling Update): 新しいタスクを少しずつ起動し、古いタスクを少しずつ停止していく最も一般的な方法です。デプロイ中の可用性を維持できます。同時に起動するタスクの最小/最大数を設定できます。
- ブルー/グリーンデプロイメント (Blue/Green Deployment): AWS CodeDeployと連携して実現されます。現在のバージョン(ブルー)とは別に、新しいバージョン(グリーン)のタスクセットを完全に起動し、トラフィックを新しいタスクセットに切り替えます。問題があれば古いタスクセットに簡単にロールバックできます。ダウンタイムなしで、安全にデプロイできます。
- カナリアリリース (Canary Release): ブルー/グリーンデプロイメントの一種で、まず少数のユーザー/トラフィックを新しいバージョンにルーティングし、問題がないかを確認してから徐々にトラフィックを増やしていく戦略です。
- サービスオートスケーリング (Service Auto Scaling): CloudWatchメトリクス(例: CPU使用率、メモリ使用率、ALBリクエスト数)に基づいて、サービスの desired count を自動的に増減させる機能です。これにより、トラフィックの変動に柔軟に対応できます。
- サービスディスカバリ (Service Discovery): AWS Cloud Mapと連携し、サービス内のタスクを検出可能な状態にします。これにより、マイクロサービス間などで、IPアドレスやポート番号を知らなくても名前解決によってサービスを見つけられるようになります。
一つのクラスター内に複数のサービスを作成できます。例えば、web-app
サービス、api-service
サービス、worker-service
サービスなどが考えられます。
2.5 コンテナインスタンス (Container Instance) – EC2起動タイプの場合
EC2起動タイプを選択した場合、コンテナを実行するための基盤となるのがコンテナインスタンスです。これは、ECSコンテナエージェントがインストールされ、ECSクラスターに登録された通常のEC2インスタンスです。
コンテナインスタンスは以下の役割を担います。
- タスクの実行環境: ECSコントロールプレーンから受け取った指示(「このタスク定義に基づいてタスクを起動せよ」)に従い、そのインスタンス上で実際にコンテナイメージをダウンロードし、コンテナを起動・管理します。
- リソースの提供: CPU、メモリ、ストレージ、ネットワークといったコンピューティングリソースをタスクに提供します。
- ECSエージェント: 各コンテナインスタンス上で動作するソフトウェアで、ECSコントロールプレーンとの通信、タスクの起動/停止、リソース使用状況の報告などを行います。
コンテナインスタンスはユーザーが管理します。つまり、EC2インスタンスの種類(インスタンスタイプ)、AMI(ECSに最適化されたAMIが提供されています)、ストレージ、セキュリティグループ、Auto Scaling Groupによるインスタンス数の管理などを設定する必要があります。これにより、インフラの構成を細かく制御できますが、その分管理の負担は増えます。
2.6 AWS Fargate – Fargate起動タイプの場合
Fargateは、コンテナを実行するためのサーバーレスコンピューティングエンジンです。Fargate起動タイプを選択した場合、ユーザーはEC2インスタンスのような基盤となるインフラを管理する必要がありません。ECSはユーザーが指定したCPUとメモリのリソース要件に基づいて、Fargateが管理するインフラストラクチャ上で直接タスクを起動します。
Fargateの主な特徴は以下の通りです。
- サーバーレス: EC2インスタンスのプロビジョニング、設定、パッチ適用、スケーリングといった管理が不要になります。基盤となるOSや仮想マシンの管理から解放されます。
- タスク単位のリソース指定: タスク定義で、タスク全体に割り当てるCPUとメモリを具体的に指定します。Fargateは指定されたリソースに基づいてタスクを起動します。
- タスク単位の独立性: 各Fargateタスクは独立したカーネル実行環境で実行されるため、セキュリティと分離性が高まります。また、
awsvpc
ネットワークモードが必須であり、タスクごとに独自のENIが割り当てられます。 - コスト: 実行時間に対して、タスクに割り当てられたCPUとメモリの量に基づいて課金されます。タスクが実行されている時間だけ支払えばよいため、利用量に応じたコスト最適化が期待できます。
Fargateは、インフラ管理の運用負荷を最大限に削減したい場合、あるいはワークロードの性質上、タスク単位の分離やスケーリングが重要な場合に適しています。ただし、EC2起動タイプに比べてカスタマイズの自由度は低く、コストが高くなる場合もあります。
2.7 Amazon ECR (Elastic Container Registry)
ECRは、Dockerコンテナイメージを簡単に保存、管理、デプロイできる、AWSが提供するフルマネージドなDockerレジストリサービスです。
ECSでタスクやサービスを実行する際には、通常、コンテナイメージをECRにプッシュしておき、タスク定義でそのECRリポジトリのイメージを指定します。ECSはタスクを起動する際に、指定されたECRリポジトリからイメージを自動的にプルします。
ECRはIAMと連携してアクセス制御を行えるため、プライベートなコンテナイメージを安全に管理できます。VPCエンドポイントを通じてプライベートなネットワーク内からアクセスすることも可能です。
2.8 Elastic Load Balancing (ELB)
WebアプリケーションやAPIなど、外部からのトラフィックを受け付けるECSサービスでは、通常、ELB(Application Load Balancer: ALB、Network Load Balancer: NLB)と連携します。
サービス定義でELBとの連携を設定すると、ECSはサービスによって起動されたタスクを自動的にロードバランサーのターゲットグループに登録します。ロードバランサーは incoming traffic を正常な状態のタスクに分散します。
ALBはHTTP/HTTPSトラフィックの負荷分散に適しており、パスベースルーティングやホストベースルーティングなどの高度な機能を提供します。NLBはTCP/UDPトラフィックの負荷分散に適しており、極めて高いパフォーマンスと低いレイテンシを提供します。Fargateタスクやawsvpc
ネットワークモードを使用している場合、ロードバランサーはタスクのプライベートIPアドレスを直接ターゲットにできるため、ホスト側のポートマッピングが不要になり、設定がシンプルになります。
2.9 IAM ロール (IAM Roles)
ECSはIAM(Identity and Access Management)と密接に連携し、リソースへの安全なアクセスを提供します。ECSに関連する主なIAMロールは以下の2つです。
- ECS Task Execution Role: ECSエージェント(EC2インスタンスまたはFargateインフラストラクチャ上)が、タスクを起動するために必要なアクションを実行する際に使用するロールです。具体的には、ECRからのコンテナイメージのプル、CloudWatch Logsへのログストリームの作成とログイベントの書き込み、Secrets ManagerやParameter Storeからの機密情報の取得などを行います。タスク定義の登録時に指定します。
- ECS Task Role: タスク内で実行されるコンテナ自体が他のAWSサービス(S3、DynamoDB、SQSなど)にアクセスする必要がある場合に使用するロールです。例えば、WebアプリケーションがS3バケットから静的ファイルを読み込む場合、タスクロールにS3の読み取り権限を付与します。タスク定義の登録時に指定します。これにより、各タスクに必要な最小限の権限のみを付与でき、セキュリティリスクを軽減できます。
これらのロールを適切に設定することで、ECS環境全体および個々のタスクのセキュリティを確保できます。
2.10 ネットワーキングモード (awsvpc
mode)
前述のタスク定義のセクションでも触れましたが、ECSのネットワーキングモードは重要です。特に、近年推奨されている awsvpc
モードについて詳しく見てみましょう。
awsvpc
ネットワークモードでは、ECSタスクに独自のENI(Elastic Network Interface)が割り当てられ、VPC内のサブネットからプライベートIPアドレスを受け取ります。これにより、タスクはEC2インスタンスやRDSインスタンスなど、他のVPCリソースと同じレベルでネットワーキングに参加できます。
awsvpc
モードの利点:
- シンプル化されたネットワーキング: タスクが独自のIPを持つため、ホスト側のポートマッピングが不要になります。これにより、タスクのスケールアウトがポート競合の心配なく容易になります。
- セキュリティグループの適用: タスクのENIに対して直接セキュリティグループを適用できます。これにより、特定のタスクへのインバウンド/アウトバウンドトラフィックを細かく制御でき、より堅牢なセキュリティ設定が可能になります。
- ALB/NLBとの連携容易化: ロードバランサーのターゲットとしてタスクのプライベートIPアドレスを直接登録できます。
- Cloud Mapとの連携強化: Cloud MapによるサービスディスカバリがIPベースで行われ、より自然な連携が可能です。
Fargate起動タイプでは awsvpc
モードが必須です。EC2起動タイプでも awsvpc
モードの使用が推奨されています。ただし、awsvpc
モードを使用する場合、タスクごとにENIとプライベートIPが必要になるため、サブネットのIPアドレス枯渇に注意が必要です。
2.11 サービスディスカバリ (Service Discovery)
マイクロサービスアーキテクチャでは、複数のサービスが相互に通信する必要があります。これらのサービスは、スケーリングによって起動/停止したり、デプロイによってIPアドレスが変わったりするため、静的なIPアドレスやホスト名で管理するのは困難です。サービスディスカバリは、このような動的な環境でサービスがお互いを検出するための仕組みです。
ECSはAWS Cloud Mapと連携してサービスディスカバリを実現できます。サービス定義でCloud Mapとの連携を設定すると、ECSはサービスによって起動された各タスクのIPアドレスやポート情報をCloud Mapに自動的に登録します。
他のサービスは、DNSクエリやAWS SDKを通じてCloud Mapに登録された情報を問い合わせることで、目的のサービスのインスタンス(タスク)の現在のアドレスを取得できます。例えば、WebアプリケーションがバックエンドAPIにアクセスする場合、「api-service」という名前でCloud Mapを問い合わせ、利用可能なAPIタスクのIPアドレスとポート番号を取得して通信を開始します。
これにより、サービス間の疎結合が実現され、マイクロサービスアーキテクチャの運用が容易になります。
第3章:ECSの仕組みとワークフロー
これらのコンポーネントがどのように連携して、コンテナアプリケーションを実行・管理するのか、基本的なワークフローを見ていきましょう。
- コンテナイメージの準備: 最初に、アプリケーションのDockerfileを作成し、コンテナイメージをビルドします。ビルドしたイメージは、ECRなどのコンテナレジストリにプッシュしておきます。
- タスク定義の作成: 実行したいコンテナ(または複数コンテナの集合)とその設定(イメージ、CPU/メモリ、ポート、環境変数、ボリューム、IAMロールなど)を定義したタスク定義を作成し、ECSに登録します。
- クラスターの準備: コンテナを実行するための環境として、クラスターを作成または選択します。EC2起動タイプの場合は、クラスターにコンテナインスタンスを参加させます。Fargate起動タイプの場合は、特にインスタンス準備は不要です。
- サービスの作成 (またはタスクの実行):
- 長時間稼働するアプリの場合: 作成したタスク定義、クラスター、および維持したいタスク数(desired count)を指定してサービスを作成します。必要に応じて、ロードバランサーやサービスディスカバリとの連携も設定します。
- バッチジョブなどの場合: 作成したタスク定義とクラスターを指定して、
RunTask
APIを使ってタスクを直接実行します。
- ECSによるタスクの配置と実行:
- サービスや
RunTask
リクエストを受け取ったECSコントロールプレーンは、指定されたタスク定義と起動タイプ(EC2またはFargate)に基づき、タスクのスケジューリングを行います。 - EC2起動タイプ: ECSスケジューラーは、クラスター内のコンテナインスタンスの中から、タスク定義で要求されたリソース(CPU, メモリ, ポートなど)を満たす最適なインスタンスを選択します。選択されたインスタンス上のECSエージェントに、タスクを起動するよう指示を送ります。エージェントはECRからコンテナイメージをプルし、Dockerデーモンを使ってコンテナを起動します。
- Fargate起動タイプ: ECSスケジューラーは、Fargateが管理するインフラストラクチャに対して、指定されたリソースとタスク定義でタスクを起動するよう要求します。Fargateインフラストラクチャがタスクを起動し、ECRからイメージをプルしてコンテナを実行します。
- サービスや
- タスクの状態管理: ECSサービスは、起動されたタスクの状態を継続的に監視します。タスクが異常終了したり、ホストに障害が発生したりした場合、サービスは自動的に新しいタスクを起動して desired count を維持しようとします。ロードバランサー連携が設定されている場合、サービスの更新やタスクの起動/停止に合わせて、ECSはロードバランサーのターゲットグループ登録を自動的に更新します。
- 監視とロギング: 実行中のタスクやサービスのメトリクス(CPU/メモリ使用率、リクエスト数など)はCloudWatchに送信され、監視やアラート設定に利用できます。コンテナの標準出力/エラー出力はCloudWatch Logsなどに集約され、ログ分析に利用できます。
このワークフローを通じて、ECSはコンテナ化されたアプリケーションのライフサイクル全体を自動化・管理し、運用負荷を軽減しながら高い可用性とスケーラビリティを提供します。
第4章:ECSのネットワーキング、ストレージ、セキュリティ
ECSを本番環境で利用する上で不可欠な、ネットワーキング、ストレージ、セキュリティの設定について、もう少し掘り下げて解説します。
4.1 ネットワーキングの詳細
ECSにおけるネットワーキングの要は、VPC、サブネット、セキュリティグループ、そしてタスク定義で指定するネットワークモードとポートマッピングです。特に awsvpc
モードの重要性が増しています。
- VPCとサブネット: ECSクラスターとタスクは、特定のVPC内で実行されます。タスク(特に
awsvpc
モードの場合)は、VPC内のサブネットに配置され、そのサブネットからIPアドレスを受け取ります。アベイラビリティゾーンを跨いで複数のサブネットにタスクを分散することで、高可用性を実現できます。パブリックサブネットに配置してインターネットゲートウェイ経由で外部と通信させるか、プライベートサブネットに配置してNAT GatewayやVPCエンドポイント経由で通信させるかを選択できます。通常、アプリケーションタスクはプライベートサブネットに配置し、ALBなどのロードバランサーをパブリックサブネットに配置する構成が推奨されます。 - セキュリティグループ: セキュリティグループは仮想ファイアウォールとして機能し、タスクへのインバウンド/アウトバウンドトラフィックを制御します。
awsvpc
モードのタスクには個別のセキュリティグループを適用できるため、「WebタスクからのトラフィックのみAPIタスクのポート8080に許可する」といったきめ細かい制御が可能です。ロードバランサーとタスク間、またはタスク間の通信を許可するルールを適切に設定することが重要です。 - ロードバランサーとの連携 (再掲):
- ALB/NLBのターゲットグループには、タスクのIPアドレス(
awsvpc
モード)またはコンテナインスタンスのIPアドレスとポートマッピングによってECSが動的に割り当てるホストポート(bridge
モードなど)を登録します。 awsvpc
モード + ALB/NLB + Fargate/EC2の組み合わせは、最も一般的で推奨される構成です。ロードバランサーのリスナーが受け付けたトラフィックは、ターゲットグループに登録された healthy なタスクのIPアドレスとコンテナポートに転送されます。
- ALB/NLBのターゲットグループには、タスクのIPアドレス(
- サービスディスカバリ (再掲): AWS Cloud Mapとの連携により、VPC内の他のサービスがDNS名でECSタスクを見つけられるようになります。
awsvpc
モードのタスクのプライベートIPアドレスがCloud Mapに登録されます。
効果的なネットワーキング設定は、ECSアプリケーションのセキュリティと可用性を確保する上で非常に重要です。特にセキュリティグループの設定は、意図しないアクセスを防ぐための最初の防衛線となります。
4.2 ストレージ管理
コンテナは本来ステートレスであり、コンテナが終了すると内部のファイルシステムへの変更は失われます。データベースのデータやアップロードされたファイルなど、永続化が必要なデータを扱う場合は、外部のストレージサービスを利用する必要があります。
ECSで永続ストレージを扱う主な方法は以下の通りです。
- Amazon EBS Volumes: EC2起動タイプの場合、基盤となるEC2インスタンスにアタッチされたEBSボリュームをタスクのコンテナにマウントできます。タスク定義の
volumes
セクションでボリュームを定義し、コンテナ定義のmountPoints
でコンテナ内のパスにマウントします。これは比較的シンプルですが、ボリュームは単一のEC2インスタンスに紐づくため、タスクが別のインスタンスに移動した場合やスケールアウトする場合には考慮が必要です(例えば、特定のインスタンスにタスクを固定する、データを共有ストレージに置くなど)。 - Amazon EFS Volumes: Fargate起動タイプ、EC2起動タイプの両方で利用できます。EFS (Elastic File System) は、複数のEC2インスタンスやFargateタスクから同時にアクセス可能なフルマネージドなNFSファイルシステムです。タスク定義でEFSボリュームを指定し、コンテナにマウントします。これにより、どのインスタンスやFargateでタスクが実行されても同じデータにアクセスできます。これは、複数のタスクでデータを共有する場合や、タスクが頻繁に再配置される環境(特にFargate)で永続データが必要な場合に非常に適しています。EFSアクセスポイントを使用することで、特定のアプリケーションユーザー/ディレクトリへのアクセス制御をより細かく行えます。
- 外部データベース/ストレージサービス: Amazon RDS (Relational Database Service)、Amazon DynamoDB、Amazon S3などのマネージドサービスを、永続データの保存先として利用するのが最も一般的で推奨される方法です。アプリケーションがこれらのサービスに接続してデータを読み書きします。これにより、コンテナは完全にステートレスになり、スケーリングや再配置が容易になります。
どのストレージオプションを選択するかは、アプリケーションの特性(ステートフルかステートレスか)、データの共有要件、パフォーマンス要件、運用負荷などを考慮して決定します。多くのWebアプリケーションやマイクロサービスでは、RDSやDynamoDBなどの外部データベースを利用し、コンテナ自体はステートレスにする構成が採用されます。
4.3 セキュリティ
ECSにおけるセキュリティは、AWS全体のセキュリティベストプラクティスに沿って、様々なレイヤーで考慮する必要があります。
- IAM: 前述のECS Task Execution Role と ECS Task Role を適切に設定することが、タスクが実行できるアクション(ECRからのプル、ログ書き込み、他のAWSサービスへのアクセスなど)を最小限に制限するために不可欠です。ユーザーがECSリソース(クラスター、サービス、タスク定義など)を操作するためのIAMポリシーも適切に定義する必要があります。
- VPCとセキュリティグループ: ネットワークの隔離(VPC)とトラフィック制御(セキュリティグループ)は、不正アクセスを防ぐための基本的な対策です。タスクの配置場所(パブリック/プライベートサブネット)とセキュリティグループのルールを慎重に設計します。
- Amazon ECR: プライベートなコンテナイメージはECRに保存し、IAMポリシーによってアクセスを制御します。ECRのイメージスキャン機能を利用して、イメージの脆弱性を検出することもできます。
- Secrets Manager と Parameter Store: データベースの認証情報、APIキー、証明書などの機密情報は、タスク定義に直接書き込むのではなく、Secrets Manager または Parameter Store に保存し、タスク定義から安全に参照するようにします。ECSエージェントはこれらのサービスから機密情報を取得し、コンテナに環境変数やファイルとして渡します。これにより、機密情報がソースコードやタスク定義にハードコードされることを防ぎます。
- コンテナイメージの脆弱性管理: 定期的にコンテナイメージの脆弱性スキャン(ECRの機能やサードパーティツール)を実施し、イメージを最新の状態に保ちます。ベースイメージの選定も重要です。
- ホストOSのセキュリティ (EC2起動タイプ): EC2起動タイプの場合、基盤となるコンテナインスタンスのOSのパッチ適用やセキュリティ設定もユーザーの責任範囲です。ECSに最適化されたAMIはAWSによって定期的に更新されるため、これを利用し、Auto Scaling Groupのローリングアップデート機能などを使ってインスタンスを最新の状態に保つことが推奨されます。
- 監査とロギング: AWS CloudTrailを使ってECS APIコールのアクティビティを記録し、不正な操作がないか監視します。コンテナのログはCloudWatch Logsなどに集約し、セキュリティイベントの検出やフォレンジックに活用します。
これらのセキュリティ対策を組み合わせることで、ECS上で実行されるアプリケーションとデータの安全性を高めることができます。
第5章:ECSの起動タイプ:EC2 vs Fargate
ECSの大きな特徴の一つは、コンテナを実行する基盤を選択できる点です。EC2起動タイプとFargate起動タイプ、それぞれにメリット・デメリットがあり、ワークロードや運用方針に応じて最適な方を選択する必要があります。
5.1 EC2起動タイプ
コンテナを、ユーザーが管理するEC2インスタンスのフリート上で実行します。
メリット:
- コスト効率: 既存のEC2リザーブドインスタンスやSavings Plansを利用できる場合、Fargateよりもコストを抑えられる可能性があります。スポットインスタンスを利用してさらにコスト削減を図ることも可能です。
- カスタマイズ性: 基盤となるEC2インスタンスのOS、ストレージ、ネットワーク設定などを自由にカスタマイズできます。特定のハードウェア機能やカーネルモジュールが必要な場合に有利です。
- GPUインスタンスのサポート: 機械学習などのワークロードでGPUが必要な場合、EC2インスタンスはGPUインスタンスタイプをサポートしています(Fargateも最近GPUサポートを開始しましたが、利用可能なリージョンなどに制限があります)。
- ベアメタルインスタンスのサポート: 特定の要件がある場合に利用可能です。
デメリット:
- 運用管理の負担: EC2インスタンスのプロビジョニング、設定、OSのパッチ適用、スケーリング(Auto Scaling Groupの設定・管理)、監視といったインフラ管理の責任がユーザーにあります。セキュリティアップデートなどもユーザーが行う必要があります。
- リソースの最適化: インスタンス全体のリソース利用率を最大化するようにタスクを配置する必要があります。インスタンスに隙間ができてしまうと、リソースが無駄になる可能性があります。
- インスタンスレベルの障害: 基盤となるインスタンスに障害が発生した場合、その上で実行されていたタスクは全て停止し、別のインスタンスで再起動されるまでサービスが中断する可能性があります(サービスが自動復旧させますが、時間がかかります)。
5.2 AWS Fargate起動タイプ
コンテナを、AWSが管理するサーバーレスなインフラストラクチャ上で実行します。
メリット:
- 運用管理の劇的な削減: 基盤となるEC2インスタンスやOSの管理が一切不要になります。パッチ適用やスケーリングはAWSが担当します。ユーザーはタスクとサービスの管理に集中できます。
- タスク単位の分離: 各タスクは独自の実行環境で実行されるため、EC2インスタンス上で複数のタスクを動かす場合よりも高いセキュリティと分離性が得られます。
- リソースの最適化(ユーザー側): タスク定義で必要なCPUとメモリを正確に指定すればよく、インスタンスサイズやリソースの「詰め込み」を気にする必要がありません。支払いは使用したリソース分だけです。
- 迅速なスケーリング: 新しいタスクの起動は、基盤となるインスタンスの起動を待つ必要がないため、EC2起動タイプよりも迅速に行える場合があります。
デメリット:
- コスト: EC2インスタンスを効率的に利用したり、リザーブドインスタンスなどを使用したりする場合と比較して、多くの場合Fargateの方がコストは高くなります。特に常時稼働している大量のタスクの場合、コスト差が顕著になることがあります。
- カスタマイズ性の制限: 基盤となるOSへのアクセスやカスタマイズはできません。特定のカーネル設定やストレージドライバーなどが必要な場合には利用できません。
- タスク起動時間の予測: Fargateの基盤インフラストラクチャはAWSが管理するため、タスクの起動時間がEC2起動タイプほど予測可能でない場合があります(通常は速いですが、時々遅延することもあります)。
5.3 どちらを選ぶべきか?
どちらの起動タイプを選ぶかは、以下の点を考慮して決定します。
- 運用管理負荷: インフラ管理の負担をどれだけ減らしたいか。最優先するならFargate。
- コスト: コスト最適化が最重要課題で、インフラ管理のリソースがあるならEC2。
- カスタマイズ性: 基盤OSやハードウェアに特定の要件があるか。あるならEC2。
- セキュリティと分離性: タスク間の高い分離が必要か。必要ならFargateが有利。
- ワークロードの特性: スパイク性の高いワークロードや、起動・停止が頻繁なジョブには、タスク単位で課金されるFargateが向いている場合があります。常時安定して稼働する、リソース要求の高いワークロードには、EC2でインスタンスを確保しておく方がコスト効率が良い場合があります。
- GPUや特殊なハードウェアの要件: これらが必要ならEC2(またはFargateの特定のオプション)。
迷う場合は、まずFargateで開始し、運用負荷の低さを享受しつつ、コストやカスタマイズ性に課題が出てきたらEC2も検討するというアプローチも考えられます。また、一つのクラスター内で異なる起動タイプのタスクを混在させることも可能です(タスク定義で requiresCompatibilities
を指定します)。例えば、WebサーバーはFargate、バッチ処理はスポットインスタンスのEC2で実行するなどです。
第6章:ECSでのデプロイメント戦略
ECSサービスでは、新しいバージョンのタスク定義に更新する際のデプロイメント戦略を選択できます。これにより、アプリケーションのアップデートを安全かつ効率的に行うことができます。
主なデプロイメント戦略は以下の通りです。
-
ローリングアップデート (Rolling Update):
- 仕組み: 現在稼働しているタスクを新しいバージョンのタスクで置き換えていきます。新しいタスクを起動し、ヘルスチェックに合格したら古いタスクを停止するというサイクルを繰り返します。
- 設定: サービスの定義で
minimumHealthyPercent
(デプロイ中に正常な状態を保つタスクの最小割合) とmaximumPercent
(デプロイ中に起動できるタスクの最大割合) を設定します。例えば、minimumHealthyPercent
を100%にすると、現在のタスク数と同じかそれ以上の新しいタスクが起動してから古いタスクが停止されるため、ダウンタイムなしのデプロイが可能です(リソースに余裕が必要)。 - 利点: 設定が比較的シンプルで、デフォルトのデプロイ戦略です。追加のインフラは不要です(ただし、
maximumPercent
の設定によっては一時的にリソースが必要です)。 - 欠点: デプロイに時間がかかります。問題が発生した場合のロールバックも、新しいバージョンへのローリングアップデートを逆方向に実行する形になるため、時間がかかる場合があります。旧バージョンと新バージョンのタスクが同時に稼働する期間があります。
-
ブルー/グリーンデプロイメント (Blue/Green Deployment):
- 仕組み: 現在稼働しているバージョン(ブルー)とは別に、新しいバージョン(グリーン)のタスクセットを完全に新しい環境として起動します。新しいタスクセットが正常に起動し、テストが完了したら、ロードバランサーのトラフィックルーティングをブルーからグリーンに一括で切り替えます。問題が見つかった場合は、トラフィックをすぐにブルーに戻すことができます。
- 連携サービス: AWS CodeDeploy と連携して実現されます。ECSサービス定義でCodeDeployデプロイタイプを選択します。CodeDeployは新しいタスクセットの起動、トラフィックの切り替え、古いタスクセットの終了などをオーケストレーションします。
- 利点: ロールバックが非常に高速です。本番トラフィックを流す前に、新しい環境で入念なテストを行うことができます。旧バージョンと新バージョンのタスクが混在する期間がありません(トラフィック切り替えはほぼ瞬時)。
- 欠点: デプロイ中に一時的にリソース(タスク)が2倍必要になります。設定がローリングアップデートより複雑になります(CodeDeployとの連携設定が必要)。
-
カナリアリリース (Canary Release):
- 仕組み: ブルー/グリーンデプロイメントの一種で、CodeDeployによって実現されます。まず、トラフィックのごく一部(例: 10%)を新しいバージョンにルーティングします。一定時間監視して問題がなければ、徐々にルーフィックの割合を増やしていき、最終的に100%を新しいバージョンに切り替えます。
- 連携サービス: AWS CodeDeploy と連携します。CodeDeployのデプロイグループ設定でカナリアデプロイメントの種類(トラフィック割合と段階数)を指定します。
- 利点: 新しいバージョンの影響を限定的なユーザー/トラフィックに留めながら、本番環境でテストできます。問題が早期に発見できれば、影響を最小限に抑えてロールバックできます。
- 欠点: ローリングアップデートより複雑な設定が必要です。ブルー/グリーンデプロイメントと同様、一時的に追加のリソースが必要です。
どのデプロイメント戦略を選択するかは、アプリケーションの性質、リスク許容度、必要なリリース頻度などを考慮して決定します。ミッションクリティカルなアプリケーションや、新しいバージョンによる影響を最小限に抑えたい場合は、ブルー/グリーンデプロイメントやカナリアリリースが適しています。開発・テスト環境や、リスク許容度が高いアプリケーションでは、ローリングアップデートでも十分な場合があります。
第7章:ECSの監視、ロギング、オートスケーリング
アプリケーションを安定して運用するためには、監視、ロギング、そして負荷に応じたスケーリングが不可欠です。ECSはこれらの機能と他のAWSサービスと連携して提供します。
7.1 監視 (Monitoring)
- Amazon CloudWatch: ECSは自動的にクラスター、サービス、タスクレベルのメトリクス(CPU使用率、メモリ使用率、タスク数、ALBリクエスト数など)をCloudWatchに送信します。これらのメトリクスを使用して、サービスの稼働状況を監視したり、アラームを設定して異常を通知したりできます。カスタムメトリクスをアプリケーションからCloudWatchに送信することも可能です。
- CloudWatch Container Insights: ECSクラスター、サービス、タスク、コンテナレベルの詳細な観測性を提供します。リソース使用率(CPU、メモリ、ネットワーク、ストレージ)、アプリケーションのパフォーマンスメトリクス(リクエスト数、エラー率、レイテンシなど)を収集、集計、可視化します。Container Insightsを使用すると、コンテナワークロードのパフォーマンスボトルネックの特定やリソース最適化が容易になります。
- AWS X-Ray: マイクロサービス間のリクエストの流れを追跡し、パフォーマンスの問題やエラーの原因を特定するのに役立ちます。ECSサービスで実行されるアプリケーションからX-Rayにトレース情報を送信することで、分散システム全体の可視性を高めることができます。
これらのツールを組み合わせることで、ECS環境とそこで動作するアプリケーションの健全性を継続的に監視できます。
7.2 ロギング (Logging)
- CloudWatch Logs: ECSタスク定義で
awslogs
ロギングドライバーを設定すると、コンテナの標準出力と標準エラー出力を指定したCloudWatch Logsロググループに自動的に転送できます。これにより、ログが一元化され、検索、フィルタリング、アーカイブ、メトリクス抽出などが容易になります。 - FireLens for Amazon ECS: FireLensは、コンテナからのログを指定したAWSサービス(CloudWatch Logs, Kinesis Data Firehose, Kinesis Data Streams, S3など)やサードパーティの宛先にルーティングできるコンテナイメージです。FluentdやFluent Bitをロギングルーターとして利用し、タスク定義に設定を追加するだけで高度なログ処理パイプラインを構築できます。これにより、ログの加工、フィルタリング、複数の宛先への送信などが柔軟に行えます。
適切なロギング設定により、アプリケーションの問題発生時のデバッグや監査追跡が格段に容易になります。
7.3 サービスオートスケーリング (Service Auto Scaling)
ECSサービスは、Application Auto Scalingと連携して、CloudWatchメトリクスに基づいてタスクの数を自動的に調整できます。
- 設定: サービスに対してAuto Scalingを設定する際には、タスク数の最小値、最大値、そしてスケーリングポリシーを定義します。
- スケーリングポリシー:
- ターゲット追跡スケーリング (Target Tracking Scaling): 指定したメトリクス(例: サービスの平均CPU使用率、ALBのリクエスト数)を目標値(例: 50%)に維持するように、タスク数を自動的に増減させます。最も推奨されるポリシーです。
- ステップスケーリング (Step Scaling): CloudWatchアラームに基づいて、タスク数を特定のステップで増減させます。例えば、「CPU使用率が70%を超えたらタスクを2つ増やす」といった設定が可能です。
- スケジュールスケーリング (Scheduled Scaling): 予測可能なトラフィックパターン(例: 毎週月曜日の朝9時にトラフィックが増加する)に合わせて、事前に設定した時間にタスク数を増減させます。
サービスオートスケーリングを利用することで、トラフィックの変動に柔軟に対応し、パフォーマンスを維持しながらコストを最適化できます。例えば、ピーク時にはタスク数を増やして応答性を保ち、オフピーク時にはタスク数を減らしてコストを削減するといった運用が可能です。
第8章:Amazon ECSを使ってみる(ハイレベルな手順)
実際にECSで簡単なアプリケーションを動かすための、ハイレベルな手順を見ていきましょう。これは概念的なステップであり、詳細なコンソール操作やCLIコマンドは含まれませんが、全体像を理解するのに役立ちます。
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前提条件の確認:
- AWSアカウントを持っていること。
- AWS CLI や AWS Management Console にアクセスできること。
- Dockerがインストールされていること(ローカルでイメージをビルドする場合)。
- コンテナ化したいアプリケーション(簡単なWebサーバーなど)があること。
-
コンテナイメージの準備:
- アプリケーションのソースコードと共に
Dockerfile
を作成します。 docker build
コマンドを使ってコンテナイメージをビルドします。- Amazon ECR にリポジトリを作成します。
- ビルドしたイメージを ECR リポジトリに
docker push
します。ECRへのプッシュ方法は、ECRコンソールに表示される手順を参考にします。
- アプリケーションのソースコードと共に
-
VPC 環境の準備:
- ECSクラスターとタスクを実行するためのVPCが必要です。既存のVPCを利用するか、新しく作成します。
- 高可用性のために、複数のアベイラビリティゾーンに跨るサブネット(通常はプライベートサブネット)を用意します。
- インターネットアクセスが必要な場合は、NAT Gateway または Internet Gateway を適切に設定します。
- ECRやCloudWatch Logsへのアクセスが必要な場合は、VPCエンドポイントを設定するとプライベートな通信経路を確保できます。
-
IAM ロールの作成:
- ECS Task Execution Role を作成します。このロールには、
AmazonECSTaskExecutionRolePolicy
というAWS管理ポリシーをアタッチするのが一般的です。 - アプリケーションが他のAWSサービスにアクセスする必要がある場合は、ECS Task Role を作成し、必要な権限(S3への読み取りなど)を持つポリシーをアタッチします。
- ECS Task Execution Role を作成します。このロールには、
-
ECS クラスターの作成:
- AWSコンソールまたはAWS CLIで、新しいECSクラスターを作成します。
- ネットワーキングとして、準備したVPCを選択します。
- 起動タイプを選択します(EC2またはFargate)。
- EC2の場合、Auto Scaling Group を使ってコンテナインスタンスを起動し、クラスターに登録する設定を行います。インスタンスにはECS最適化AMIを使用します。
- Fargateの場合、インフラ設定は不要です。
-
タスク定義の作成:
- AWSコンソールまたはAWS CLIで、新しいタスク定義を作成します。
- タスク定義ファミリー名、起動タイプ互換性(EC2/Fargateまたは両方)、タスク実行ロール、タスクロール(必要な場合)などを設定します。
- コンテナ定義を追加します。
- コンテナ名、ECRにプッシュしたコンテナイメージのURI、CPU/メモリ制限(Fargateの場合は必須)、ポートマッピング、環境変数、ログ設定(
awslogs
を推奨)、ヘルスチェックなどを設定します。
- コンテナ名、ECRにプッシュしたコンテナイメージのURI、CPU/メモリ制限(Fargateの場合は必須)、ポートマッピング、環境変数、ログ設定(
- タスク定義を登録します。
-
サービスの作成:
- AWSコンソールまたはAWS CLIで、新しいECSサービスを作成します。
- 所属させるクラスター、使用するタスク定義とリビジョン、サービスの desired count(実行したいタスク数)、起動タイプ(EC2/Fargate)、サービス名などを指定します。
- ネットワーキング設定を行います。
awsvpc
モードを選択し、タスクを配置するサブネットとセキュリティグループを指定します。 - ロードバランシングを設定します。ALBまたはNLBを選択し、リスナーとターゲットグループを設定します。ECSがサービス内のタスクを自動的にターゲットグループに登録するように設定します。
- サービスディスカバリ(Cloud Map)が必要な場合は設定します。
- Auto Scaling を設定する場合は、ここで設定します。
- サービスを作成します。
-
サービスの確認とアクセス:
- ECSコンソールで、作成したサービスと起動されたタスクの状態を確認します。
- ロードバランサーを設定した場合は、ロードバランサーのDNS名にアクセスして、アプリケーションにアクセスできるか確認します。
- CloudWatch Logs でコンテナのログを確認します。
- CloudWatch でサービスのメトリクスを確認します。
-
デプロイメント:
- アプリケーションを更新した場合、新しいコンテナイメージをビルドしてECRにプッシュします。
- 新しいイメージを参照する新しいリビジョンのタスク定義を作成・登録します。
- サービスの「更新」アクションを実行し、新しいタスク定義を指定します。デプロイメント戦略(ローリングアップデート、ブルー/グリーンなど)に従って、ECSが古いタスクを新しいタスクに置き換えます。
これらのステップを踏むことで、コンテナ化されたアプリケーションをECS上で実行し、管理、スケーリング、アップデートといった恩恵を受けることができます。
第9章:他のAWSコンテナサービスとの比較(ECS vs EKS vs App Runner)
AWSはECS以外にもコンテナ関連のサービスを提供しています。代表的なものとしてAmazon EKS (Elastic Kubernetes Service) と AWS App Runner があります。これらとの違いを理解することで、ECSの位置づけがより明確になります。
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Amazon EKS (Elastic Kubernetes Service):
- 概要: AWSが提供するフルマネージドなKubernetesサービスです。Kubernetesは、コンテナオーケストレーションのデファクトスタンダードとも言えるオープンソースプラットフォームです。
- 特徴:
- KubernetesのAPIとエコシステムをそのまま利用できます。Kubernetesの知識やツール(kubectlなど)がそのまま使えます。
- 高度なカスタマイズ性や豊富な機能(Helm, Istioなどとの連携)があります。
- マルチクラウドやハイブリッドクラウド環境でのコンテナ運用を考慮する場合に有利です(Kubernetesはどの環境でも同じように動作するため)。
- どちらを選ぶ?:
- 既にKubernetesの運用経験がある、またはKubernetesのエコシステムをフル活用したい場合。
- マルチクラウド/ハイブリッドクラウド戦略がある場合。
- 高度なオーケストレーション機能やカスタマイズが必要な場合。
- コミュニティのサポートや広範な資料を重視する場合。
- ECSとの違い: ECSがAWS独自の簡易的なAPIと概念を提供するのに対し、EKSはオープンスタンダードであるKubernetesを提供します。EKSのコントロールプレーンはAWSが管理しますが、ECSよりも学習コストや運用管理の複雑さは増す傾向があります。
-
AWS App Runner:
- 概要: コンテナ化されたWebアプリケーションやAPIのためのフルマネージドなサービスです。ビルド、デプロイ、スケーリング、ロードバランシング、モニタリングなどを完全に自動化します。
- 特徴:
- ECSやEKSよりもさらに抽象化されており、設定項目が非常に少ないです。
- コンテナイメージまたはソースコードから直接デプロイできます。
- 自動スケーリング、ロードバランシング、HTTPS、継続的デプロイメント機能が組み込まれています。
- WebアプリケーションやAPIに特化しています。
- どちらを選ぶ?:
- コンテナオーケストレーションの複雑さを一切避けたい場合。
- WebアプリケーションやAPIとして、コンテナイメージを簡単に動かしたい場合。
- ECSやEKSの豊富な機能やカスタマイズ性は不要で、サーバーレスなシンプルさを追求したい場合。
- ECSとの違い: App Runnerは特定のユースケース(Webアプリ/API)に特化し、ECSよりもはるかに少ない設定で利用できる「よりサーバーレス」なサービスです。バッチ処理や非Web系のワークロードには向いていません。ECSはより汎用的なコンテナワークロードに対応し、タスク定義やサービス設定など、より細かい制御が可能です。
まとめ:
- ECS: AWSエコシステム内でのコンテナオーケストレーションを、シンプルかつ強力に実現したい場合に最適です。EC2とFargateという柔軟な起動オプションを提供し、多くの種類のコンテナワークロードに対応できます。
- EKS: Kubernetesの標準を使い、高度なカスタマイズ性やマルチクラウド対応が必要な場合に適しています。学習コストは高めです。
- App Runner: WebアプリケーションやAPIを、最も手軽かつサーバーレスに実行したい場合に最適です。カスタマイズ性は低いですが、シンプルさが最大の特徴です。
本記事はECS入門ですので、まずはECSの概念と使い方をしっかりと理解することに注力しましょう。
第10章:ECSの利点と考慮事項
最後に、Amazon ECSを利用する上での利点と、考慮しておきたい点や潜在的なデメリットをまとめます。
10.1 利点 (Advantages)
- AWSネイティブな統合: VPC、IAM、ELB、CloudWatch、ECRなどの既存のAWSサービスとシームレスに連携し、AWSエコシステム内での一貫した運用が可能です。
- 運用管理の容易さ: マネージドサービスであり、Kubernetesと比較すると概念がシンプルです。特にFargateを利用すれば、インフラ管理からほぼ完全に解放されます。
- 柔軟な起動オプション: EC2とFargateという異なる起動タイプを選択でき、ワークロードの特性やコスト要求に合わせて最適化が可能です。
- 高い可用性と信頼性: AWSの堅牢なインフラストラクチャ上で提供され、自動復旧機能などによりサービスの可用性を高めます。
- セキュリティ機能: IAM、VPC、セキュリティグループ、Secrets Managerとの連携により、コンテナワークロードのセキュリティを確保するための豊富な機能が提供されます。
- 活発な開発と進化: AWSによって継続的に機能が追加・改善されています(例: Fargateの新しい機能、FireLensなど)。
10.2 考慮事項・潜在的なデメリット (Considerations / Potential Disadvantages)
- ベンダーロックイン: ECSはAWS独自のサービスであるため、ECS上で構築した設定やデプロイメントパイプラインは他のクラウドプロバイダーにそのまま移植することができません。マルチクラウド戦略を強く推進している場合は、Kubernetes (EKS) の方が有利かもしれません。
- Kubernetesエコシステムとの互換性: ECSはKubernetesとは異なるAPIと概念を使用するため、Kubernetes用に開発されたツールや拡張機能(例: 特定のオペレーター、カスタムコントローラーなど)を直接利用することはできません。
- 学習コスト: ECSはKubernetesよりシンプルと言われますが、それでもタスク定義、サービス、クラスター、ネットワーキングモード、IAMロールなど、様々な概念と設定項目を理解する必要があります。また、AWSの他のサービス(VPC, IAM, ELB, CloudWatchなど)に関する知識も必要になります。
- Fargateのコスト: Fargateは運用管理が容易な反面、EC2起動タイプと比較してコストが高くなる場合があります。特に、リソース効率が良いアプリケーションを大量に、長期間稼働させる場合は、コスト最適化の観点からEC2起動タイプや他の選択肢も検討する価値があります。
- カスタマイズ性の制限 (Fargate): Fargateでは基盤となるOSへのアクセスやカスタマイズができません。特定のOSレベルの調整が必要なワークロードには向きません。
これらの点を踏まえ、自社の技術スタック、運用体制、ビジネス要件などを総合的に判断して、ECSが最適な選択肢であるかを検討することが重要です。多くのAWSユーザーにとって、特にこれからコンテナオーケストレーションを始める場合や、AWSとの親和性を重視する場合には、ECSは非常に有力な選択肢となるでしょう。
結論:Amazon ECSでコンテナジャーニーを始めよう
本記事では、コンテナオーケストレーションの基本的な考え方から始まり、Amazon ECSの主要な構成要素(クラスター、タスク定義、タスク、サービス、起動タイプ、ECR、ELB、IAM)、その仕組み、ネットワーキング、ストレージ、セキュリティ、デプロイメント戦略、監視、オートスケーリング、そして他のAWSコンテナサービスとの比較まで、幅広くかつ詳細に解説しました。
Amazon ECSは、AWS上でコンテナ化されたアプリケーションをデプロイし、信頼性高くスケーラブルに運用するための強力なサービスです。特にAWSとの密な統合と、マネージドサービスとしての運用負荷の低さは大きな魅力です。EC2起動タイプとFargate起動タイプという柔軟な選択肢があることも、様々なワークロードに対応できる強みとなっています。
この記事が、Amazon ECSをこれから学ぼうとする皆様にとって、ECSの全体像を掴み、次のステップに進むための確かな一歩となることを願っています。タスク定義の作成、サービスのデプロイ、ロードバランサーとの連携など、具体的な操作についてはAWSの公式ドキュメントやチュートリアルが非常に充実していますので、ぜひそちらも参考にしながら、実際に手を動かしてみてください。
コンテナとオーケストレーションは、現代のクラウドネイティブなアプリケーション開発・運用において必須の技術要素となりつつあります。Amazon ECSを使いこなすことで、より効率的で堅牢なシステムを構築できるようになるでしょう。あなたのコンテナジャーニーが、Amazon ECSと共に素晴らしいものになることを応援しています。
さらに学ぶためのリソース
- AWS公式ドキュメント: Amazon Elastic Container Service (ECS)
- AWS Black Belt Online Seminar: Amazon ECS
- AWSのソリューションアーキテクトによる日本語での解説動画シリーズです。各機能について深く理解できます。
- AWS Workshops: ECSに関する実践的な演習を含むワークショップが公開されていることがあります。
- AWS Solutions Library: ECSを使った様々なソリューションの例が公開されています。
これらのリソースを活用して、Amazon ECSの理解をさらに深め、ぜひ実践に活かしてください。