【初心者向け】ffmpegを使ったm3u8の基本


【初心者向け】FFmpegを使ったm3u8の基本徹底解説

インターネットでの動画配信は、私たちの日常生活において欠かせない存在となりました。YouTube、Netflix、AbemaTVなどのサービスはもちろん、企業のセミナー配信や個人のライブストリーミングまで、様々な場面で動画が利用されています。

これらの動画配信を支える技術の一つに、「HTTPライブストリーミング(HLS)」があります。そして、HLSにおいて非常に重要な役割を果たすのが「m3u8」ファイルです。動画をいくつかの小さなファイル(セグメント)に分割し、そのセグメントのリストと再生順序を記述したm3u8ファイルをクライアント(視聴者のデバイス)に渡すことで、効率的で安定した動画配信が可能になります。

しかし、「m3u8って何?」「どうやって作るの?」と感じる初心者の方も多いかもしれません。そこでこの記事では、動画・音声変換、ストリーミングなど多機能なコマンドラインツールである「FFmpeg」を使って、m3u8ファイルを扱うための基本的な知識と具体的な手順を、初心者の方にも理解できるよう丁寧に解説します。

この記事を読むことで、あなたは以下のことを理解し、実践できるようになります。

  • m3u8ファイルが動画配信においてどのような役割を果たすのか。
  • m3u8ファイルの基本的な構造と記述内容。
  • FFmpegを使って、動画ファイルからm3u8(HLS形式)を生成する方法。
  • 生成したm3u8ファイルを再生して確認する方法。
  • m3u8に関する基本的なFFmpegオプションの使い方。

約5000語というボリュームで、一つ一つの要素を掘り下げて解説しますので、ぜひ最後までお付き合いください。

1. 動画配信の基本とm3u8が登場する背景

インターネットで動画を配信する方式はいくつか存在しますが、主流となっているのが「HTTPライブストリーミング(HLS)」や「MPEG-DASH」といった技術です。m3u8は主にHLSで利用される技術です。

これらの技術が登場する前に一般的だったのは「プログレッシブダウンロード」という方式でした。これは、動画ファイルをダウンロードしながら再生を開始するというもので、MP4やFLVといった単一の動画ファイルをサーバーに置いておき、クライアントがダウンロードを開始すると同時に再生するというシンプルな仕組みです。

プログレッシブダウンロードは実装が容易というメリットがありますが、以下のようなデメリットがあります。

  • 帯域幅への対応が難しい: ユーザーのインターネット接続速度が変動した場合、高画質の動画ではバッファリング(途切れ)が発生しやすく、低画質では不要に帯域幅を消費してしまう可能性があります。
  • シーク(途中からの再生)に時間がかかる場合がある: ファイル全体をダウンロードしないと正確な位置に移動できない場合があります。
  • ライブ配信が難しい: ファイル全体が存在しないと配信できないため、リアルタイムなライブ配信には不向きです(ストリーミングサーバーとの組み合わせはありますが)。

これらの課題を解決するために登場したのが、セグメント方式とアダプティブビットレートストリーミングです。

HTTPライブストリーミング(HLS)とは

HLSはApple社によって開発されたストリーミングプロトコルで、現在では非常に広く普及しています。HLSの主な特徴は以下の通りです。

  • セグメント化: 動画ファイルを数秒から数十秒程度の小さなファイル(セグメント)に分割します。セグメントファイルは通常MPEG-2 Transport Stream (TS) 形式やFragmented MP4 (fMP4) 形式でエンコードされます。
  • プレイリストファイル(m3u8): 分割されたセグメントファイルのリスト、再生順序、各セグメントの情報(長さなど)を記述したテキストファイル(m3u8ファイル)を作成します。
  • HTTPプロトコル: クライアントはm3u8ファイルをダウンロードし、そこに記述されたセグメントファイルをHTTPプロトコルを使ってダウンロードしながら順番に再生していきます。一般的なウェブサーバーで配信できるため、特別なストリーミングサーバーソフトウェアが不要、または最小限で済むというメリットがあります。

アダプティブビットレートストリーミングとは

HLSは、さらに「アダプティブビットレートストリーミング(ABR)」を容易に実現できるという強力な特徴を持っています。ABRとは、視聴者のインターネット接続速度やデバイスの性能に応じて、最適な画質・音質のストリームを自動的に選択して再生する技術です。

ABRを実現するために、配信側は同じ動画コンテンツを複数の異なるビットレート(解像度や圧縮率を変えたもの)でエンコードし、それぞれのストリームに対してセグメントファイルとm3u8ファイルを作成します。そして、これらの異なるビットレートのm3u8ファイルへのリンクを記述した「マスタープレイリスト(Master Playlist)」というm3u8ファイルを作成します。

クライアントはまずマスタープレイリストを取得し、利用可能なストリームの情報を把握します。再生中は、ネットワーク帯域幅の状況を常に監視し、帯域幅に応じて最適なストリーム(別のm3u8ファイルとそこから参照されるセグメントファイル群)に動的に切り替えながら再生を行います。これにより、ネットワークが不安定な状況でも途切れにくく、安定した再生体験を提供できます。

m3u8ファイルは、このHLSにおけるプレイリストファイルとして、セグメントのリストを管理し、ABRにおいては異なるビットレートのストリームを指示するという、中心的な役割を担っているのです。

2. m3u8ファイルの構造と要素

m3u8ファイルは、非常にシンプルなテキストファイルです。拡張子は.m3u8で、UTF-8エンコーディングで記述されます。基本的な構造は、コメント行、必須のヘッダータグ、セグメント情報タグ、そして再生リストの終了を示すタグで構成されます。

ファイルの内容は、一つ一つの行が特定の意味を持つタグやセグメントファイルのパスで構成されています。タグは必ず # で始まり、大文字で記述されます。HLSで使用されるm3u8は、単なるメディアファイルのリストではなく、HLS固有のタグが含まれるため、通常は「HLSプレイリスト」と呼ばれます。

ここでは、m3u8ファイルでよく見られる主要なタグをいくつか紹介します。

主要なタグ

  • #EXTM3U

    • このファイルが拡張M3Uフォーマットであることを示す必須のヘッダータグです。m3u8ファイルの先頭に必ず記述されます。
  • #EXT-X-VERSION:<n>

    • HLSプロトコルのバージョンを示します。バージョン番号<n>は整数です。新しい機能やタグを使用する場合は、それに対応するバージョンを指定する必要があります。例えば、バージョン3や4がよく使われます。このタグは必須ではありませんが、互換性のために含めることが推奨されます。
  • #EXT-X-TARGETDURATION:<saniye>

    • プレイリスト中のメディアセグメント(個々の動画ファイル)の最長の再生時間を秒単位で示します。これは、クライアントが新しいセグメントをダウンロードする間隔の目安となります。このタグの値は、プレイリスト内のどのセグメントの秒数よりも大きい必要があります。必須タグです。
  • #EXT-X-MEDIA-SEQUENCE:<sayı>

    • プレイリストの最初のセグメントのシーケンス番号を示します。VOD(オンデマンド配信)の場合は通常0または1から始まります。ライブ配信の場合は、配信の進行に合わせてこの番号が増加していきます。クライアントはこの番号を使って、次にどのセグメントを取得すればよいかを知ることができます。ライブ配信では必須タグです。
  • #EXT-X-PLAYLIST-TYPE:<tip>

    • プレイリストのタイプを示します。<tip>には以下のいずれかが入ります。
      • VOD: Video on Demand(オンデマンド配信)。プレイリストは変更されず、すべてのセグメントが利用可能です。一度ファイル全体が生成されると完了です。
      • EVENT: イベント配信。プレイリストは配信中に新しいセグメントが追加される可能性がありますが、既存のセグメントは変更または削除されません。イベントの終了を示す #EXT-X-ENDLIST が追加されるまで続きます。
      • このタグがない場合は、プレイリストはライブ配信(Sliding Window Playlist)とみなされます。ライブ配信では古いセグメントがプレイリストから削除されていく可能性があります。VODの場合は含めることが推奨されます。
  • #EXTINF:<saniye>,[başlık]

    • 次に続くメディアセグメントの再生時間(秒単位)と、オプションでタイトルを示すタグです。<saniye>は浮動小数点数で、セグメントの正確な再生時間を示します。このタグは、各セグメントファイルのパスの直前に記述されます。必須タグです。
  • #EXT-X-ENDLIST

    • プレイリストファイルの最後であることを示すタグです。このタグが存在する場合、プレイリストはこれ以上変更されない(全てのセグメントが含まれている)ことを意味します。VODプレイリストや、ライブイベントの終了時に使用されます。ライブ配信(Sliding Window Playlist)では通常存在しません。
  • #EXT-X-STREAM-INF:[属性]

    • アダプティブビットレートストリーミングのマスタープレイリストで使用されるタグです。このタグの後に続く行に、異なるビットレートのメディアプレイリスト(サブプレイリスト)のURIを指定します。属性には、BANDWIDTH(必須)、RESOLUTIONCODECSFRAME-RATEAUDIOVIDEOSUBTITLESなどがあります。クライアントはこれらの属性を見て、どのストリームを選択するかを判断します。
  • #EXT-X-KEY:[属性]

    • メディアセグメントが暗号化されている場合に使用されるタグです。セグメントの復号に必要なキーの取得方法などの情報を含みます。属性には METHOD (暗号化方式, 例: AES-128)、URI (キーファイルの場所)、IV (初期化ベクトル) などがあります。

シンプルなVODプレイリストの例

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-TARGETDURATION:10

EXT-X-MEDIA-SEQUENCE:0

EXT-X-PLAYLIST-TYPE:VOD

EXTINF:10.0,

segment0.ts

EXTINF:10.0,

segment1.ts

EXTINF:8.5,

segment2.ts

EXTINF:10.0,

segment3.ts

EXTINF:5.2,

segment4.ts

EXT-X-ENDLIST

“`

この例では、
* HLSバージョン3を使用しています。
* セグメントの最大再生時間は10秒です。
* 最初のセグメントのシーケンス番号は0です。
* VODタイプのプレイリストです。
* segment0.tssegment1.ts、…、segment4.ts という5つのセグメントファイルが順番に再生されます。
* 各#EXTINFタグの後の数値は、その直後のセグメントファイルの再生時間です。
* #EXT-X-ENDLISTがあるため、これでプレイリストの全てであることが示されています。

マスタープレイリストの例(ABR)

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=1500000,RESOLUTION=640×360,CODECS=”avc1.42e01e,mp4a.40.2″

360p/playlist.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=3000000,RESOLUTION=960×540,CODECS=”avc1.4d401f,mp4a.40.2″

540p/playlist.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=5000000,RESOLUTION=1280×720,CODECS=”avc1.640028,mp4a.40.2″

720p/playlist.m3u8
“`

この例はマスタープレイリストです。
* #EXT-X-STREAM-INFタグが複数あり、それぞれ異なる帯域幅 (BANDWIDTH)、解像度 (RESOLUTION)、コーデック (CODECS) を持つストリームを指示しています。
* 各#EXT-X-STREAM-INFタグの後に続く行は、そのストリームに対応するメディアプレイリスト(上記の例のようなセグメントをリストしたプレイリスト)のURI(パス)です。
* クライアントはこのマスタープレイリストを読み込み、自分のネットワーク状況に合わせて360p/playlist.m3u8540p/playlist.m3u8720p/playlist.m3u8のいずれかを選択して再生を開始し、必要に応じて切り替えます。

これらのタグと構造を理解しておけば、FFmpegで生成されるm3u8ファイルの内容も読めるようになります。

3. FFmpegの基本

FFmpegは、動画、音声、その他のマルチメディアファイルを扱うためのオープンソースのコマンドラインツールスイートです。非常に強力で多機能であり、動画/音声の変換、加工、ストリーミング、記録など、様々なタスクを実行できます。m3u8(HLS)形式の動画を生成したり、逆にm3u8形式の動画を処理したりすることもFFmpegの得意とする分野の一つです。

この記事では、FFmpegが既にインストールされていることを前提として話を進めます。もしインストールされていない場合は、お使いのOS(Windows, macOS, Linuxなど)に合わせて公式ウェブサイトや各OSのパッケージマネージャー(Homebrew, apt, yumなど)を使ってインストールしてください。

基本的なコマンド構造

FFmpegコマンドの基本的な構造は以下のようになります。

bash
ffmpeg [global_options] {[input_file_options] -i input_url} ... {[output_file_options] output_url} ...

  • ffmpeg: コマンド名です。
  • [global_options]: FFmpeg全体に影響するオプションです。例: -y (出力ファイルを上書き確認なしで上書き), -v (ログレベルの設定)。
  • {[input_file_options] -i input_url} ...: 入力ファイルに関する指定です。-iオプションで入力ファイルのパスまたはURLを指定します。複数の入力ファイルを指定することも可能です。[input_file_options]は特定の入力ファイルに適用されるオプションです。例: -ss (入力の開始位置を指定)。
  • {[output_file_options] output_url} ...: 出力ファイルに関する指定です。出力ファイルのパスまたはURLを指定します。複数の出力ファイルを同時に生成することも可能です。[output_file_options]は特定の出力ファイルに適用されるオプションです。例: -c:v (映像コーデックを指定), -b:a (音声ビットレートを指定)。

よく使う基本的なオプション

  • -i <input_url>: 入力ファイルを指定します。ローカルファイルパスやURL(http, rtmpなど)を指定できます。
  • -f <format>: フォーマット(コンテナ形式)を指定します。入力の場合はFFmpegが自動判別することが多いですが、出力の場合は明示的に指定することがよくあります。例: -f mp4, -f hls.
  • -c:v <codec>: 映像コーデックを指定します。例: -c:v libx264 (H.264), -c:v libx265 (H.265/HEVC), -c:v copy (入力ストリームをそのままコピー)。
  • -c:a <codec>: 音声コーデックを指定します。例: -c:a aac (AAC), -c:a libmp3lame (MP3), -c:a copy (入力ストリームをそのままコピー)。
  • -b:v <bitrate>: 映像ビットレートを指定します。例: -b:v 2000k (2000kbps)。
  • -b:a <bitrate>: 音声ビットレートを指定します。例: -b:a 128k (128kbps)。
  • -s <width>x<height>: 映像解像度を指定します。例: -s 1280x720.
  • -ss <position>: シーク(指定した位置から開始)します。入力オプションとして使うと高速ですが不正確な場合があり、出力オプションとして使うと正確ですが時間がかかります。位置は秒数 (50)、HH:MM:SS形式 (00:01:30)、またはタイムコードで指定できます。
  • -t <duration>: 処理する期間(長さ)を指定します。入力全体ではなく、指定した時間分だけを処理します。フォーマットは-ssと同様です。

これらの基本的なオプションは、m3u8を生成する際にも組み合わせて使用します。

4. FFmpegを使ったm3u8(HLS)の生成

いよいよ、FFmpegを使ってm3u8ファイル(HLS形式)を生成する方法を解説します。主に、既存の動画ファイル(例: MP4ファイル)をHLS形式に変換する手順を見ていきます。

HLS形式を生成するには、出力フォーマットとしてhlsを指定し、HLS特有のオプションを設定します。

基本的なHLS生成コマンド

最もシンプルなHLS生成コマンドは以下のようになります。

bash
ffmpeg -i input.mp4 -f hls output.m3u8

このコマンドを実行すると、FFmpegはinput.mp4ファイルを読み込み、デフォルトの設定でHLS形式に変換し、output.m3u8という名前のプレイリストファイルと、それに紐づくセグメントファイル群(通常は.tsファイル)を生成します。

しかし、これだけではセグメントの長さやファイル名などが意図しないものになる可能性があります。HLS生成においては、いくつかの重要なオプションを理解して使う必要があります。

HLS生成のための主要オプション

  • -hls_time <seconds>

    • 各メディアセグメントの長さ(再生時間)を秒単位で指定します。この値は、先ほどm3u8構造で説明した#EXT-X-TARGETDURATIONタグの値に影響します。通常は5秒から10秒程度が推奨されます。デフォルトは10秒です。
    • 例: -hls_time 6 (各セグメントを約6秒にする)
  • -hls_segment_filename <pattern>

    • 生成されるメディアセグメントファイルのファイル名パターンを指定します。パターンには以下のプレースホルダーを使用できます。
      • %d: セグメントのシーケンス番号に置き換えられます。
      • %v: 映像ストリームのインデックスに置き換えられます(複数の映像ストリームがある場合)。
      • %a: 音声ストリームのインデックスに置き換えられます(複数の音声ストリームがある場合)。
    • 例: -hls_segment_filename "segment_%d.ts" (セグメントファイルを segment_0.ts, segment_1.ts, … のように命名する)
    • 例: -hls_segment_filename "path/to/segments/data%06d.ts" (%06dはゼロ埋め6桁の番号)
  • -hls_playlist_type <type>

    • 生成するプレイリストのタイプを指定します。VODまたはEVENTを指定できます。指定しない場合、ライブ配信(Sliding Window Playlist)とみなされます。
    • 例: -hls_playlist_type vod (VODプレイリストを生成する)
  • -hls_flags <flags>

    • HLSマニフェストや生成動作に関するフラグを設定します。複数のフラグを指定する場合はカンマ区切りです。よく使うフラグには以下があります。
      • delete_segments: ライブ配信(Sliding Window Playlist)の場合に、古いセグメントファイルを削除します。VODの場合は通常使いません。
      • append_list: イベント配信(hls_playlist_type event)の場合に、プレイリストの最後に新しいセグメント情報を追加します。VODの場合は通常使いません。
      • single_file: 全てのセグメントを一つのMPEG-TSファイルに結合し、プレイリストはそのファイル内のバイト範囲を指定するようにします。HLS標準では非推奨ですが、一部の古いプレイヤーで利用されることがあります。
      • split_by_time: -hls_timeで指定した時間で正確にセグメントを分割しようとします。ただし、キーフレームの位置によっては正確にならないこともあります。
      • round_durations: #EXTINFタグの秒数を整数に丸めます。
    • 例: -hls_flags delete_segments
  • -hls_base_url <url>

    • m3u8ファイル内で参照されるセグメントファイルのURIの前に付加されるベースURLを指定します。これにより、m3u8ファイルとセグメントファイルが異なるディレクトリやサーバーにある場合でも、クライアントがセグメントを正しく見つけられるようになります。指定しない場合、セグメントファイル名はm3u8ファイルからの相対パスになります。
    • 例: -hls_base_url "https://example.com/hls/" (セグメントファイルへのパスが https://example.com/hls/segment_0.ts のようになる)
  • -hls_list_size <size>

    • ライブ配信(Sliding Window Playlist)の場合に、プレイリストに保持するセグメントの最大数を指定します。古いセグメントはプレイリストから削除されます。0を指定すると全てのセグメントがプレイリストに残ります(実質的にEVENTタイプに近いが、EVENTタグはつかない)。VODの場合は通常使いません。
    • 例: -hls_list_size 10 (プレイリストに最新の10個のセグメントを保持する)
  • -hls_wrap <size>

    • -hls_segment_filenameで指定したファイル名のシーケンス番号を、指定したサイズで循環(ラップ)させます。例えば -hls_wrap 5 とすると、セグメントファイル名は segment_0.ts, segment_1.ts, segment_2.ts, segment_3.ts, segment_4.ts, segment_0.ts, … となります。これにより、生成されるセグメントファイルの総数を制限できます。疑似ライブやローカルテストで便利ですが、ライブ配信で古いセグメントを削除する場合は-hls_flags delete_segmentsと組み合わせて使うか、サーバー側で管理することが多いです。

実践!VOD(オンデマンド配信)用HLS生成

まずは最も一般的なVOD(オンデマンド配信)用のHLSを生成してみましょう。VODでは、動画全体のセグメントが全て生成され、プレイリストも全てのセグメントをリストした固定のものになります。

bash
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libx264 -crf 23 -c:a aac -b:a 128k \
-f hls \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename "segments/output_%03d.ts" \
output.m3u8

このコマンドを解説します。

  • -i input.mp4: 入力ファイルとしてinput.mp4を指定。
  • -c:v libx264 -crf 23: 映像コーデックにH.264 (libx264) を使用し、画質設定としてCRF 23を指定しています。CRFはConstant Rate Factorの略で、値を小さくすると高画質(ファイルサイズ大)、大きくすると低画質(ファイルサイズ小)になります。適度な圧縮率で出力する場合によく使われます。
  • -c:a aac -b:a 128k: 音声コーデックにAAC (aac) を使用し、音声ビットレートを128kbpsに指定しています。
  • -f hls: 出力フォーマットとしてHLSを指定します。
  • -hls_time 10: 各セグメントの長さを約10秒に設定します。
  • -hls_playlist_type vod: 生成されるプレイリストのタイプをVODに設定します。これにより、プレイリストには-EXT-X-PLAYLIST-TYPE:VODタグが含まれ、-EXT-X-ENDLISTタグも追加されます。
  • -hls_segment_filename "segments/output_%03d.ts": 生成されるセグメントファイルのファイル名パターンを指定します。segments/ディレクトリの中に、output_000.ts, output_001.ts, output_002.ts, … のようにゼロ埋め3桁の番号が付いた.tsファイルが生成されます。コマンド実行前にsegmentsディレクトリを作成しておく必要があります。
  • output.m3u8: 生成されるプレイリストファイルのファイル名を指定します。これはカレントディレクトリに作成されます。

このコマンドを実行すると、指定したディレクトリに複数の.tsセグメントファイルと、それらをリストしたoutput.m3u8ファイルが生成されます。output.m3u8ファイルを開いてみると、先ほどのVODプレイリストの例に近い内容になっているはずです。

補足: -crfは映像の品質を一定に保つオプションですが、代わりに-b:vでビットレートを固定することも可能です。例えば、-b:v 2000kのように指定します。

疑似ライブ配信風HLS生成(Sliding Window)

次に、ライブ配信のように、常に最新の数セグメントだけをプレイリストに保持し、古いセグメントはプレイリストから削除されていく形式(Sliding Window Playlist)を生成してみましょう。これは、既存の動画ファイルを繰り返しエンコードすることで疑似的に実現できます。

“`bash

疑似ライブ配信では入力が無限であると仮定するため、ループ再生させるなどの工夫が必要な場合があります

または、入力ファイルを指定せず、リアルタイムデバイス入力 (-i /dev/video0 など) を指定します

例: input.mp4 を無限ループ再生させて疑似ライブを生成する場合 (ffmpegのループオプションは限定的)

または、より簡単な例として、入力ファイルの長さに関わらず、特定の長さのライブ風プレイリストを生成する

ここでは、input.mp4 をライブ配信に見立てて、常に最新3つのセグメントを保持する例を示します。

VODタイプを指定せず、hls_list_size を指定するのがポイントです。

delete_segments フラグを付けることで、古いセグメントファイル自体も削除されます。

ffmpeg -re -i input.mp4 \
-c:v libx264 -preset veryfast -c:a aac \
-f hls \
-hls_time 5 \
-hls_list_size 3 \
-hls_flags delete_segments \
segment_%d.ts
“`

このコマンドを解説します。

  • -re: 入力ストリームをリアルタイム速度で読み込みます。これにより、入力ファイルの速度に関わらず、エンコード処理が実時間に近い速度で進みます。疑似ライブ配信で必要となることが多いオプションです。
  • -i input.mp4: 入力ファイル。ライブ配信の場合は、カメラデバイスやマイクデバイスなどを指定することもあります。
  • -c:v libx264 -preset veryfast: 映像コーデックにH.264 (libx264) を使用。-preset veryfastはエンコード速度を優先する設定です。ライブ配信ではエンコード遅延を減らすために高速なプリセットが使われることが多いです。
  • -c:a aac: 音声コーデックにAAC (aac) を使用。
  • -f hls: 出力フォーマットとしてHLSを指定。
  • -hls_time 5: 各セグメントの長さを約5秒に設定します。ライブ配信では短いセグメントが使われることが多いです(遅延を減らすため)。
  • -hls_list_size 3: プレイリストに保持するセグメントの数を最新の3つに制限します。
  • -hls_flags delete_segments: 古くなったセグメントファイルを自動的に削除します。
  • segment_%d.ts: セグメントファイルのファイル名パターンです。プレイリストファイル名は指定していません(デフォルトでoutput.m3u8などになることが多いですが、通常はセグメントファイル名の拡張子をm3u8に変えたものになります。明示的に指定する場合は-f hls -hls_playlist_name stream.m3u8 segment_%d.tsのようにします。最後の引数が出力名(m3u8またはセグメント名パターン)となり、-hls_segment_filenameが優先されるため、セグメント名パターンを指定するのが一般的です)。ここではsegment_%d.tsがセグメントファイル名のパターンとして使われ、プレイリスト名は通常segment.m3u8となります。

このコマンドを実行すると、FFmpegはinput.mp4をエンコードしながら、約5秒ごとに新しいセグメントファイルと、最新の3セグメントをリストしたプレイリストを生成・更新し続けます。-hls_flags delete_segmentsが指定されているため、古いセグメントファイルは順番に削除されていきます。

注意点: FFmpeg単体での本格的なライブ配信サーバー機能はありません。上記のコマンドは、エンコーダーとしてリアルタイムにHLSストリームのセグメントとプレイリストを生成するものです。生成されたファイルを視聴者に配信するには、別途ウェブサーバーやストリーミングサーバーが必要です。また、入力ファイルをループさせるなどして継続的にエンコードするには、より複雑なスクリプトやツールが必要になる場合があります。

5. FFmpegを使ったm3u8の再生(確認)

FFmpegは主に変換や操作のためのコマンドラインツールですが、簡単な再生を確認するためのffplayというツールが含まれています(FFmpegとは別にインストールが必要な場合もあります)。

ffplayコマンドを使えば、ローカルに生成したm3u8ファイルを簡単に再生して確認できます。

bash
ffplay output.m3u8

または、ウェブサーバーなどにm3u8ファイルをアップロードしている場合は、そのURLを指定して再生できます。

bash
ffplay http://localhost/hls/output.m3u8

ffplayはHLSストリームに対応しており、m3u8ファイルを読み込んでセグメントファイルを順番にダウンロードしながら再生を行います。ただし、ffplayは再生確認用のシンプルなツールであり、商用プレイヤーのように高機能なABR切り替えやDRM対応などは期待できません。

一般的なプレイヤーでの再生確認としては、VLC media playerなどがm3u8(HLS)再生に対応しています。また、ウェブブラウザでの再生を確認する場合は、HTML5の<video>タグとJavaScriptライブラリ(hls.jsなど)を組み合わせて利用するのが一般的です。

ウェブブラウザでの再生(参考)

ウェブブラウザでHLSを再生するには、通常hls.jsなどのライブラリが必要です。基本的なHTMLとJavaScriptの構成は以下のようになります。

“`html




HLS Playback





“`

このHTMLファイルをウェブサーバー経由で開き(ローカルファイルとして開くとセキュリティ制限で動作しないことが多いです)、m3u8ファイルとセグメントファイルに正しくアクセスできれば、動画が再生されるはずです。

6. FFmpegを使ったm3u8の操作(応用)

FFmpegを使えば、HLS形式のファイルに対して様々な操作を行うことも可能です。ここではいくつかの例を紹介します。

m3u8ストリームの他のフォーマットへの変換

HLS形式のストリーム(m3u8ファイル)を、MP4などの単一ファイル形式に変換することができます。これは、HLSで配信されている動画をダウンロードして保存したい場合などに便利です(著作権には十分注意してください)。

bash
ffmpeg -i http://example.com/hls/stream.m3u8 \
-c copy \
output.mp4

このコマンドでは、
* -i http://example.com/hls/stream.m3u8: 入力としてHLSストリームのm3u8ファイルのURLを指定します。
* -c copy: 映像ストリームと音声ストリームを、再エンコードせずにそのままコピーします。これにより、変換速度が非常に高速になり、画質・音質の劣化もありません。ただし、入力ストリームのコーデックがMP4コンテナ(H.264, AACなど)でサポートされている必要があります。もしサポートされていない場合は、-c:v libx264 -c:a aacのように適切なコーデックを指定して再エンコードする必要があります。
* output.mp4: 出力ファイル名をMP4形式で指定します。

FFmpegはm3u8ファイルを読み込み、そこに記述されたセグメントファイルを順番にダウンロードし、それらを結合して一つのMP4ファイルとして出力します。

m3u8ストリームからの特定の区間抽出(トリミング)

HLSストリームから特定の時間範囲だけを抜き出して新しいファイルとして保存することも可能です。

bash
ffmpeg -i http://example.com/hls/stream.m3u8 \
-ss 00:01:30 -t 60 \
-c copy \
output_clip.mp4

このコマンドでは、
* -i http://example.com/hls/stream.m3u8: 入力としてHLSストリームのm3u8ファイルを指定。
* -ss 00:01:30: 入力ストリームの開始位置を1分30秒に指定します。入力オプションとして指定しているため、再生開始位置へのシークは比較的速やかに行われます。
* -t 60: 開始位置から60秒間だけ処理を行います。つまり、1分30秒から2分30秒までの区間を抽出します。
* -c copy: 再エンコードせずにコピーします。
* output_clip.mp4: 出力ファイル名を指定します。

注意点: m3u8入力に対して-ssを入力オプションとして使用する場合、FFmpegは通常、指定した時間に近いセグメントの先頭から処理を開始します。そのため、抽出される映像の開始位置が指定した時間よりわずかに前になることがあります。また、-ss-tでの正確なトリミングは、セグメントの境界に依存するため、セグメント長によっては意図したよりもわずかに長いまたは短い区間が抽出される可能性があります。より正確なトリミングを行うには、一度MP4などに変換してから再度トリミングを行うか、出力オプションとして-ssを使用する必要がありますが、後者の場合は入力全体のデコードが必要になるため時間がかかります。

複数のTSファイルを結合して新しいHLSを生成

既存の複数のTSファイル(または他の形式のファイル)を結合し、新しいHLSストリームとして出力することもできます。FFmpegのconcatデマルチプレクサーを利用するのが一般的です。

まず、結合したいファイルのリストをテキストファイルに記述します。例えばmylist.txtというファイルを作成し、以下のように記述します。

file 'segment_000.ts'
file 'segment_001.ts'
file 'segment_002.ts'

次に、このリストファイルを入力としてFFmpegを実行します。

bash
ffmpeg -f concat -safe 0 -i mylist.txt \
-c copy \
-f hls \
-hls_time 10 \
-hls_segment_filename "new_segments/combined_%03d.ts" \
combined.m3u8

このコマンドでは、
* -f concat -safe 0 -i mylist.txt: concatデマルチプレクサーを使用して、mylist.txtに記述されたファイルを読み込みます。-safe 0オプションは、リストファイル内に絶対パスや特定の文字が含まれる場合に必要になることがあります(セキュリティ上の注意点もあります)。
* -c copy: 入力ファイルのストリームを再エンコードせずにそのままコピーします。これにより結合が高速化されます。ただし、入力ファイルのコーデックやパラメータが一致している必要があります。異なる場合は再エンコードが必要です。
* -f hls ...: 出力フォーマットをHLSとして指定し、各種HLSオプションを設定します。-hls_segment_filenameで新しいセグメントファイルの保存先と名前パターンを指定します。

このコマンドにより、mylist.txtにリストされたTSファイルが結合され、新しいHLSストリーム(combined.m3u8とそれに対応するセグメントファイル群)として出力されます。

メタデータの確認(ffprobe)

FFmpegスイートには、メディアファイルの情報を解析するffprobeというツールも含まれています。m3u8ファイルや関連するTSファイルの詳細な情報を確認する際に役立ちます。

m3u8ファイルの情報を見る場合:

bash
ffprobe output.m3u8

これにより、ストリームのタイプ、再生時間、使用されているコーデックなどの情報が表示されます。TSファイルなど、個別のセグメントファイルの情報も見ることができます。

bash
ffprobe segments/output_000.ts

ffprobeは、生成されたファイルが意図した設定になっているか、問題がないかなどを確認する際に非常に有用です。-show_streams, -show_format, -show_entriesなどのオプションを使うことで、より詳細な情報を抽出することも可能です。

7. アダプティブビットレートストリーミング(ABR)とFFmpeg

前述の通り、ABRはHLSの強力な特徴の一つです。異なる帯域幅/解像度でエンコードされた複数のストリームを用意し、それらを指示するマスタープレイリストを作成することで実現します。

FFmpegを使ってABRストリームを構築する場合、基本的なアプローチは以下のようになります。

  1. 異なるビットレート/解像度のストリームごとにHLSを生成する。
  2. これらのHLSストリーム(メディアプレイリスト)をまとめるマスタープレイリストを手動またはスクリプトで作成する。

FFmpegのコマンド一回でマスタープレイリストと複数のメディアプレイリスト・セグメントを同時に生成することも可能ですが、コマンドが非常に長くなり、複雑になる傾向があります。通常は、各ビットレート/解像度ごとに個別のFFmpegコマンドを実行し、その後それらを結合するマスタープレイリストを作成する方が管理しやすいでしょう。

異なるビットレート/解像度のHLSを生成する例

元のMP4ファイルから、360p(約1.5Mbps)と720p(約3Mbps)の2つの異なるビットレートのHLSストリームを生成する例を示します。

360pストリームの生成:

“`bash

360pディレクトリを作成

mkdir 360p

ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libx264 -preset medium -s 640×360 -b:v 1500k -c:a aac -b:a 128k \
-f hls \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename “360p/segment_%03d.ts” \
360p/playlist.m3u8
“`

720pストリームの生成:

“`bash

720pディレクトリを作成

mkdir 720p

ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libx264 -preset medium -s 1280×720 -b:v 3000k -c:a aac -b:a 192k \
-f hls \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename “720p/segment_%03d.ts” \
720p/playlist.m3u8
“`

これらのコマンドを実行すると、360pディレクトリ以下に360pのセグメントとplaylist.m3u8が、720pディレクトリ以下に720pのセグメントとplaylist.m3u8がそれぞれ生成されます。

マスタープレイリストの作成

次に、これらのメディアプレイリストをまとめるマスタープレイリストファイル(例: master.m3u8)を作成します。これは手動でテキストエディタを使って作成するか、スクリプトで自動生成します。内容は以下のようになります。

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=1628000,RESOLUTION=640×360,CODECS=”avc1.42c01e,mp4a.40.2″

360p/playlist.m3u8

EXT-X-STREAM-INF:BANDWIDTH=3192000,RESOLUTION=1280×720,CODECS=”avc1.4d401f,mp4a.40.2″

720p/playlist.m3u8
“`

  • BANDWIDTH: これは該当ストリームの合計ビットレート(映像+音声+その他オーバーヘッド)の概算値です。FFmpegの-b:v-b:aで指定した値の合計に少し上乗せした値を指定するのが一般的です。正確な値を計測するには、生成されたTSファイルなどの平均ビットレートを計算する必要があります。
  • RESOLUTION: ストリームの解像度です。
  • CODECS: 映像と音声に使用されているコーデックを指定します。これは再生互換性に影響します。FFmpegで出力されるコーデックはffprobeなどで確認できます。H.264ならavc1.xxxxxx、AACならmp4a.40.2などとなります。
  • 続く行は、そのストリームのメディアプレイリストファイルへのパスです。

クライアントはまずこのmaster.m3u8ファイルを読み込み、ネットワーク状況に応じて360p/playlist.m3u8720p/playlist.m3u8を選択して再生を開始します。

FFmpegでの単一コマンドによるABR生成(応用)

FFmpegのmapオプションと複数の出力指定、そしてhls_master_playlist_nameオプションを組み合わせることで、単一のコマンドで複数のビットレートのHLSを生成し、マスタープレイリストも同時に生成することが可能です。ただし、コマンドはかなり複雑になります。

bash
ffmpeg -i input.mp4 \
-map 0:v -map 0:a \
-c:v libx264 -preset medium -g 48 -keyint_min 48 \
-sc_threshold 0 \
-c:a aac -b:a 128k \
-filter_complex "[0:v]split=2[v1][v2]; [v1]scale=w=640:h=360[v1out]; [v2]scale=w=1280:h=720[v2out]" \
-map "[v1out]" -map 0:a \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename "stream_360p_%03d.ts" \
-b:v 1500k stream_360p.m3u8 \
-map "[v2out]" -map 0:a \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename "stream_720p_%03d.ts" \
-b:v 3000k stream_720p.m3u8 \
-hls_master_playlist_name master.m3u8

  • -map 0:v -map 0:a: 入力ファイル0番(input.mp4)の映像ストリームと音声ストリームを使用することを明示的に指定します。
  • -c:v libx264 ... -c:a aac ...: 映像と音声の共通エンコード設定。-g 48 -keyint_min 48はキーフレーム間隔を48フレームに設定しています。セグメント分割は通常キーフレームで行われるため、ABRストリーム間でキーフレームの位置を揃えることが重要です。-sc_threshold 0はシーンチェンジでの自動キーフレーム挿入を無効にします。
  • -filter_complex "[0:v]split=2[v1][v2]; [v1]scale=w=640:h=360[v1out]; [v2]scale=w=1280:h=720[v2out]": 複雑なフィルタグラフを定義します。入力映像ストリーム[0:v]を2つに分岐(split=2)し、それぞれを[v1][v2]というラベルを付けます。[v1]を360pにリサイズ(scale=w=640:h=360)し、結果を[v1out]ラベルで出力。同様に[v2]を720pにリサイズし、結果を[v2out]ラベルで出力します。
  • -map "[v1out]" -map 0:a ... stream_360p.m3u8: 最初の出力ファイル指定ブロックです。フィルタグラフの出力[v1out](360p映像)と入力0番の音声ストリーム(0:a)をマッピングし、HLSオプション(セグメント名、プレイリストタイプなど)を指定してstream_360p.m3u8というメディアプレイリストを生成します。-b:v 1500kで映像ビットレートを指定しています。
  • -map "[v2out]" -map 0:a ... stream_720p.m3u8: 2番目の出力ファイル指定ブロックです。フィルタグラフの出力[v2out](720p映像)と入力0番の音声ストリームをマッピングし、同様にHLSオプションを指定してstream_720p.m3u8というメディアプレイリストを生成します。
  • -hls_master_playlist_name master.m3u8: FFmpegにマスタープレイリストを生成させるオプションです。上記の2つのメディアプレイリスト情報を基に、master.m3u8というマスタープレイリストが自動生成されます。

このように、単一コマンドでのABR生成は可能ですが、コマンドが長く複雑になるため、特に複数のビットレートや音声トラックなどを扱う場合は、別途スクリプトなどで自動化するか、個別に生成した後にマスタープレイリストを手動作成する方が扱いやすい場合が多いです。

8. 暗号化とセキュリティ

HLSでは、メディアセグメントを暗号化することで、コンテンツの保護を行うことができます。最も一般的なのはAES-128暗号化です。暗号化されたHLSストリームを再生するには、クライアントは暗号化キーを取得する必要があります。

暗号化されたHLSでは、m3u8ファイルに#EXT-X-KEYタグが含まれます。このタグは、暗号化方式、キーファイルの場所、およびオプションで初期化ベクトル(IV)などの情報を提供します。

“`m3u8

EXTM3U

EXT-X-VERSION:3

EXT-X-TARGETDURATION:10

EXT-X-MEDIA-SEQUENCE:0

EXT-X-PLAYLIST-TYPE:VOD

EXT-X-KEY:METHOD=AES-128,URI=”https://example.com/keys/key.key”,IV=0x1234567890abcdef1234567890abcdef

EXTINF:10.0,

segment_000.ts

EXTINF:10.0,

segment_001.ts

EXT-X-ENDLIST

“`

クライアントはこのm3u8ファイルを読み込むと、#EXT-X-KEYタグを見て指定されたURIからキーファイルを取得し、そのキーを使って各セグメントを復号しながら再生します。

FFmpegを使って暗号化されたHLSストリームを生成することも可能です。これには、暗号化キーと、キーの場所を記述した「キー情報ファイル」が必要になります。

暗号化キーとキー情報ファイルの準備

まず、暗号化に使用するキー(16バイト、つまり128ビットのランダムなデータ)を生成する必要があります。OpenSSLなどのツールを使用できます。

“`bash

16バイトのランダムなキーを生成

openssl rand 16 > enc.key
“`

次に、FFmpegがキーとキーファイルの場所を知るための「キー情報ファイル」を作成します。このファイルは3行で構成されます。

  1. キーファイルのURI(クライアントがキーを取得するためのURL)
  2. キーファイルのパス(FFmpegがキーを読み込むためのローカルパス)
  3. 初期化ベクトル(IV)。省略可能ですが、指定するとクライアント側で明示的に使用できます。0xプレフィックスを付けて16進数で指定します。openssl rand -hex 16などで生成できます。省略した場合、FFmpegはセグメントのシーケンス番号を基にIVを生成します。

例えば、enc.keyinfoというファイル名で以下のように記述します。

https://example.com/keys/enc.key # キーファイルのURI
enc.key # キーファイルのローカルパス
0xabcdef0123456789abcdef0123456789 # IV (省略可)

FFmpegを使った暗号化HLSの生成

キー情報ファイルを作成したら、HLS生成コマンドに-hls_key_info_fileオプションを追加します。

bash
ffmpeg -i input.mp4 \
-c:v libx264 -crf 23 -c:a aac -b:a 128k \
-f hls \
-hls_time 10 \
-hls_playlist_type vod \
-hls_segment_filename "encrypted_segments/output_%03d.ts" \
-hls_key_info_file enc.keyinfo \
encrypted.m3u8

このコマンドを解説します。

  • -hls_key_info_file enc.keyinfo: 生成されるHLSストリームを暗号化するためのキー情報ファイルを指定します。FFmpegはこのファイルを読み込み、enc.keyファイルからキーを取得し、そのキーを使って各セグメントファイルを暗号化します。また、m3u8ファイルにはenc.keyinfoの1行目に記述されたURIを持つ#EXT-X-KEYタグが追加されます。

このコマンドを実行すると、生成される.tsファイルは暗号化されます。これらのファイルを配信する際は、encrypted.m3u8ファイルと、enc.keyinfoの1行目で指定したURIからキーファイル(ここではenc.keyファイル)をダウンロードできるようにウェブサーバーを設定する必要があります。

セキュリティ上の注意点:
* キーファイル(enc.key)は非常に重要です。漏洩すると誰でも動画を復号できてしまいます。キー管理は厳重に行う必要があります。
* 上記の例は単純なAES-128暗号化です。より高度なコンテンツ保護(例: DRM)が必要な場合は、より複雑なシステム構築や商用ソリューションが必要になります。FFmpegはあくまでHLS標準の基本的な暗号化機能を提供するものです。

9. トラブルシューティング

FFmpegを使ったm3u8生成や操作で問題が発生した場合の、よくある原因と対処法をいくつか紹介します。

  • コマンドがエラーになる、想定通りの出力が得られない:

    • オプションのtypo: FFmpegのオプション名は正確に記述する必要があります。スペルミスやハイフンの数(単一-か二連--か)などを確認しましょう。
    • ファイルパスの間違い: 入力ファイルや出力先のディレクトリ/ファイル名が正しいか、権限があるか確認しましょう。特に-hls_segment_filenameでディレクトリを指定する場合は、事前にディレクトリを作成しておく必要があります。
    • コーデックがサポートされていない: 指定したコーデックがFFmpegで有効になっているか確認します(ffmpeg -codecsで一覧表示できます)。もし必要なコーデックが含まれていない場合は、別のFFmpegビルドを使用するか、自分でビルドする必要があります。
    • 入力ファイルの問題: 入力ファイルが破損している、形式がFFmpegで正しく認識されない、といった場合があります。別のプレイヤーで再生できるか確認したり、ffprobeで情報を確認したりしてみましょう。
    • HLSオプションの矛盾: 例えば、hls_playlist_type vodなのにhls_list_sizedelete_segmentsを指定するなど、HLSオプションの設定が矛盾している場合があります。HLSの仕様やFFmpegドキュメントのHLSマクサーに関する説明を確認しましょう。
  • 生成されたm3u8ファイルやTSファイルがおかしい:

    • m3u8ファイルの内容確認: 生成されたm3u8ファイルをテキストエディタで開き、タグやファイルパスが正しく記述されているか確認します。特に#EXT-X-TARGETDURATION#EXTINFの値、セグメントファイル名が期待通りか見ましょう。
    • セグメントファイル(TS)の確認: 生成された.tsファイルが単体で再生できるか、ffprobeで情報が見られるか確認します。ファイルサイズが極端に小さい(または0バイト)場合は、エンコード自体が失敗している可能性があります。
    • FFmpegのログ出力: FFmpegはコマンド実行中に詳細なログを出力します。エラーメッセージや警告メッセージに問題解決のヒントが含まれていることがほとんどです。ログレベルを上げたい場合は、グローバルオプションとして-v info, -v warning, -v error, -v debug, -v traceなどを指定できます。例えば、-v debugとすると非常に詳細な情報が出力されます。
  • 再生できない、途切れる:

    • ファイルパス/URLの確認: m3u8ファイル内で参照されているセグメントファイルのパスや、m3u8ファイル自体のURLが、再生するクライアントから正しくアクセスできるか確認します。ローカルファイルの場合は相対パスが正しいか、ウェブ配信の場合はURLが正しいか、クロスドメインの問題がないかなどを確認します。
    • サーバーの設定: ウェブサーバーなどで配信している場合、m3u8ファイルや.tsファイルが正しいMIMEタイプで配信されているか確認します(m3u8: application/vnd.apple.mpegurl または application/x-mpegURL, ts: video/mp2t)。また、キャッシュの設定や帯域幅制限なども影響する場合があります。
    • プレイヤーの互換性: 使用しているプレイヤーがHLSの特定のバージョンやオプションに対応していない可能性があります。別のプレイヤーで試したり、プレイリストのバージョンを下げるなどの対策が必要かもしれません。特に古いブラウザやデバイスではHLS対応が不十分な場合があります。
    • ネットワーク帯域幅: 視聴側のネットワーク速度がストリームのビットレートに対して十分でない場合、バッファリングや途切れが発生します。ABRストリームであれば、より低いビットレートのストリームに自動的に切り替わるはずですが、単一ビットレートのストリームの場合は、帯域幅が不足すると再生は不安定になります。

トラブルシューティングにおいては、まずFFmpegのログを確認し、次に生成されたファイルが技術的に正しいか(ffprobeやテキストエディタで)、最後に配信・再生環境に問題がないか、という流れで原因を切り分けていくのが効果的です。

10. まとめ

この記事では、インターネット動画配信の重要な技術であるHLSと、その中心的な要素であるm3u8ファイルについて解説し、多機能なFFmpegコマンドを使ってm3u8(HLS形式)を生成・操作する基本的な方法を学びました。

  • m3u8ファイルは、HLSにおいて動画をセグメントに分割し、そのリストと再生順序を記述するテキスト形式のプレイリストファイルです。
  • FFmpegは強力なコマンドラインツールであり、様々な動画・音声処理が可能です。HLS形式の生成や既存HLSストリームの変換なども得意としています。
  • FFmpegでHLSを生成するには、出力フォーマットに-f hlsを指定し、-hls_time-hls_segment_filename-hls_playlist_typeなどのHLS特有のオプションを組み合わせて使用します。
  • VOD用のHLSは-hls_playlist_type vod-hls_segment_filenameを指定して生成し、疑似ライブ配信風HLSは-hls_list_size-hls_flags delete_segmentsなどを組み合わせて生成できます。
  • 生成したHLSはffplayコマンドやVLC media player、またはhls.jsなどを使ったウェブブラウザで再生して確認できます。
  • FFmpegを使えば、既存のm3u8ストリームを他の形式に変換したり、特定の区間を抽出したりすることも可能です。
  • ABRストリームを構築するには、異なるビットレート/解像度で複数のHLSストリームを生成し、それらをまとめるマスタープレイリストを作成します。
  • HLSのセグメントは-hls_key_info_fileオプションを使ってAES-128で暗号化することも可能です。

FFmpegとm3u8/HLSは、現代のインターネット動画配信において非常に重要な技術要素です。この記事で紹介した内容は基本的な部分ですが、これらの知識とコマンドを習得すれば、自分で動画をHLS形式に変換してウェブサイトで配信したり、様々な配信サービスの仕組みをより深く理解したりすることができるようになります。

更なる学習のために

この記事は初心者向けとして基本に焦点を当てましたが、FFmpegとHLSにはさらに多くの高度な機能やオプションがあります。興味を持たれた方は、ぜひ以下のリソースも参考にしてみてください。

  • FFmpeg公式ドキュメント: FFmpegのすべての機能とオプションについて最も正確な情報源です。HLSマクサーのドキュメントなどを参照すると、より多くのオプションや詳細な動作について学べます。(英語)
  • HLS仕様書 (RFC 8216): HLSプロトコルの詳細な仕様です。m3u8ファイルの全てのタグの意味などが定義されています。(英語)
  • hls.js GitHubページ: ブラウザでのHLS再生に広く使われているライブラリです。(英語)

これらの情報を活用して、FFmpegとm3u8の世界をさらに探求してみてください。あなたの動画配信プロジェクトが成功することを願っています!


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