Redis バージョンアップ前に必見!各バージョンの特徴まとめ
Redisは、その高速なキーバリュー型データストアとしての能力だけでなく、豊富なデータ構造と柔軟な機能により、キャッシュ、メッセージキュー、セッションストア、リアルタイム分析など、幅広い用途で利用されています。しかし、その進化は止まらず、新しいバージョンが継続的にリリースされています。新しいバージョンには、パフォーマンスの向上、新機能の追加、セキュリティの強化、バグ修正など、多くのメリットが含まれていますが、同時に後方互換性の問題や運用上の注意点も存在します。
計画的なバージョンアップは、Redis環境を常に最新の状態に保ち、そのメリットを享受するために不可欠です。そして、バージョンアップを成功させるためには、各バージョンの特徴や、導入された主要な変更点を理解しておくことが重要です。
この記事では、Redisの主要なバージョン(特に近年のもの)に焦点を当て、それぞれのバージョンで導入された重要な機能や改善点、バージョンアップの際に考慮すべき点について詳細に解説します。約5000語に及ぶこの詳細な記事を通して、あなたのRedisバージョンアップ計画に役立つ情報を提供できることを願っています。
バージョンアップの一般的な考慮事項
Redisのバージョンアップを行う前に、なぜバージョンアップが必要なのか、そしてどのような点に注意すべきかを理解しておくことが重要です。
なぜバージョンアップが必要か?
- セキュリティの向上: 新しいバージョンでは、脆弱性が修正されたり、ACL(Access Control List)やTLS(Transport Layer Security)といったセキュリティ機能が強化されたりします。これにより、不正アクセスやデータ漏洩のリスクを低減できます。
- パフォーマンスの改善: Redisの開発者は、常にパフォーマンスの最適化に取り組んでいます。新しいバージョンでは、既存のコマンドの実行速度が向上したり、I/O処理が効率化されたりすることがあります。
- 新機能の利用: Redisはメッセージキュー機能(Streams)、より柔軟なスクリプティング機能(Functions)、クライアントサイドキャッシングなど、画期的な新機能を継続的に追加しています。これらの新機能を利用することで、アプリケーションの設計や機能を改善できます。
- バグ修正: 既存のバージョンに存在するバグが修正されます。これにより、予期せぬクラッシュやデータ損失のリスクを減らすことができます。
- サポートの継続: 古いバージョンはサポートが終了し、セキュリティアップデートやバグ修正が提供されなくなります。最新のバージョンまたは長期サポート(LTS)バージョンに移行することで、コミュニティやベンダーからのサポートを引き続き受けられます。
バージョンアップのリスク
バージョンアップには多くのメリットがある一方で、リスクも伴います。
- 後方互換性の問題: 設定ファイルの書式変更、コマンドの挙動変更、RDB/AOF形式の変更などにより、旧バージョンとの互換性が失われることがあります。特にメジャーバージョンを跨ぐバージョンアップでは、非互換な変更が含まれる可能性が高くなります。
- 予期せぬ動作変更: 新しい機能の導入や内部実装の変更により、既存のアプリケーションが想定しない挙動を示す可能性があります。
- パフォーマンスの低下: 特定のワークロードにおいて、新しいバージョンの変更がパフォーマンスに悪影響を与える可能性もゼロではありません(これは稀ですが、テストは重要です)。
バージョンアップ戦略
リスクを最小限に抑えつつバージョンアップを成功させるためには、適切な戦略が必要です。
- 計画的なアプローチ: 衝動的なバージョンアップは避け、事前に計画を立てます。どのバージョンにアップグレードするか、どのような手順で行うか、ロールバックの計画などを明確にします。
- 公式ドキュメントの確認: アップグレードガイド、リリースノート、非互換な変更に関するドキュメントは必ず熟読します。
- テスト環境での検証: 本番環境とできるだけ近い構成のテスト環境を用意し、そこでバージョンアップ手順、アプリケーションの互換性、パフォーマンスなどを十分に検証します。
- バックアップ: バージョンアップ前には、必ずRDBファイルやAOFファイルのバックアップを取得します。
- 段階的な適用: 全てのインスタンスやクラスターを一斉にアップグレードするのではなく、レプリケーション構成を利用したローリングアップデートや、一部のインスタンスで canary release 的に検証するなど、段階的に適用することを検討します。
- 監視の強化: バージョンアップ中は、Redisインスタンスのメトリクス(メモリ使用量、CPU使用率、コマンドレイテンシ、エラーログなど)を注意深く監視します。
推奨される一般的な手順
- 現在のRedis環境(バージョン、構成、データサイズ、負荷など)を正確に把握する。
- ターゲットとするバージョンを選定する(通常は最新の安定版またはLTSバージョン)。
- ターゲットバージョンの公式ドキュメント(特にリリースノートとアップグレードガイド)を入手し、非互換な変更や推奨されるアップグレードパスを確認する。
- 設定ファイルに必要な変更がないか確認し、新しい設定ファイルを準備する。
- テスト環境を構築し、本番環境のデータをリストアする(または近いデータを用意する)。
- テスト環境でバージョンアップ手順を実行し、問題が発生しないか確認する。
- バージョンアップ後のRedisインスタンスに対して、アプリケーションの動作テスト、パフォーマンステスト、およびストレステストを実施する。
- 本番環境でのバージョンアップ手順書を作成する。これにはバックアップ、アップグレード手順、監視方法、ロールバック手順を含める。
- 本番環境でバージョンアップを実行する。レプリケーションを利用したローリングアップデートなどの手法を用いることで、ダウンタイムを最小限に抑えることができる。
- バージョンアップ後も継続的にシステムを監視し、安定稼働していることを確認する。
Redisのバージョンとリリースサイクル
Redisのバージョンは通常、メジャー.マイナー.パッチ
の形式で表されます(例: 6.2.6
)。
- メジャーバージョン: 大規模な新機能の追加やアーキテクチャの変更など、互換性を損なう可能性のある変更が含まれる場合に上がります(例: 3.x -> 4.x)。
- マイナーバージョン: 後方互換性を維持しつつ、機能追加や大きな改善が行われた場合に上がります(例: 6.0 -> 6.2)。
- パッチバージョン: バグ修正やセキュリティアップデートなど、比較的小規模な変更の場合に上がります(例: 6.2.5 -> 6.2.6)。
Redisのリリースサイクルは比較的速く、活発に開発が行われています。コミュニティによって管理されているオープンソース版のRedis( často “OSS Redis” と呼ばれます)では、特定のバージョンに対する長期サポート(LTS: Long Term Support)という明確なポリシーは定義されていませんでした。しかし、Redis Ltd.(旧Redis Labs)が提供するエンタープライズ版やクラウドサービスではLTSバージョンが提供されることがあります。OSS Redisのユーザーは、比較的最新の安定版を追随していくか、コミュニティが事実上広く利用・サポートしている特定のバージョン(例えば、一時期の4.0系や、現在の6.2系など)を選択することが多い傾向にあります。
以下に、主要なメジャーバージョンの概略とリリース時期を示します。
- Redis 2.x: 2010年代前半にリリース。Redisの基本的な機能セットを確立。最終バージョンは2.8系。
- Redis 3.x: 2015年4月リリース。Redis Clusterの正式サポートが最大の変更点。最終バージョンは3.2系。
- Redis 4.x: 2017年7月リリース。Modules APIの導入。最終バージョンは4.0系。
- Redis 5.x: 2018年10月リリース。Streamsデータ構造の導入。最終バージョンは5.0系。
- Redis 6.x: 2020年5月リリース。TLS、ACL、Client Side Caching、Threaded I/Oなど。OSS Redisで広く利用されているバージョンの一つ。最終バージョンは6.2系。
- Redis 7.x: 2022年4月リリース。Functions、Sharded Pub/Subなど。最新の安定版の一つ。最終バージョンは7.2系(執筆時点)。
これらのバージョンは、それぞれ重要な進化を遂げています。次に、各メジャーバージョンの詳細な特徴を見ていきましょう。
各メジャーバージョンの詳細な特徴
Redis 2.x
Redis 2.x系は、現在のRedisの基盤となる多くの機能が確立されたバージョンです。既にEOL(End Of Life)となっており、セキュリティ上のリスクや機能不足から、新規デプロイや既存環境での利用は強く推奨されません。しかし、Redisの歴史と進化を理解する上で重要な位置を占めます。
主要な特徴:
- 基本的なデータ構造: String, List, Set, Sorted Set, Hash といった基本的な5つのデータ構造が利用可能でした。
- 永続化: RDB (Redis Database) と AOF (Append Only File) によるデータ永続化機能が提供されていました。特に AOF は、バージョンアップによって信頼性や性能が改善されていきました(例: 2.2でAOF書き換え機能の追加)。
- レプリケーション: Master-Replica構成による非同期レプリケーションが利用可能でした。
- Lua スクリプティング (Redis 2.6): サーバーサイドでLuaスクリプトを実行する機能が導入されました。これにより、複数のコマンドをアトミックに実行したり、複雑な処理をサーバー側で行ったりすることが可能になりました。ただし、スクリプトの管理性やデバッグの難しさが課題でした。
- Sentinel (Redis 2.8 – 正式リリース前): 高可用性ソリューションであるSentinelの原型が導入されました。Sentinelは、Masterインスタンスの死活監視、障害発生時のReplica昇格、およびクライアントへのMasterアドレス通知を行います。
バージョンアップ時の注意点 (古い環境から移行する場合):
- 2.x系から直接最新版へのアップグレードは推奨されません。RDB/AOF形式の互換性や設定の変更が多いため、段階的にアップグレードするか、データ移行ツールを利用する必要があります。
- セキュリティ機能が貧弱です。ネットワークレベルでの保護(ファイアウォールなど)が必須でした。
Redis 3.x
Redis 3.x系は、Redisの歴史において非常に重要なマイルストーンです。スケーラビリティと高可用性を劇的に向上させるRedis Clusterが正式に導入されました。
主要な特徴:
- Redis Cluster (Redis 3.0): 複数のRedisノードを連携させて、データを自動的に分散(シャーディング)し、ノード障害時にフェイルオーバーを行う機能です。これにより、単一のRedisインスタンスでは扱いきれない大容量データや高負荷に対応できるようになりました。Clusterモードでは、データは16384個のスロットに分割され、各ノードが特定のスロット範囲を担当します。
- GEO コマンド (Redis 3.2): 地理空間情報を扱うためのデータ構造とコマンド(
GEOADD
,GEORADIUS
,GEODIST
など)が導入されました。特定のエリア内の地点を検索したり、地点間の距離を計算したりすることが可能になりました。 - HyperLogLog (Redis 3.2): 大規模な集合のカーディナリティ(要素数)を非常に少ないメモリ量で概算するデータ構造(
PFADD
,PFCOUNT
,PFMERGE
)が導入されました。 - SPOP コマンドの改善 (Redis 3.2):
SPOP
コマンドで一度に複数の要素をランダムに取り出せるようになりました。 - RDB ローディングの並列化 (Redis 3.4): RDBファイルの読み込み処理の一部をバックグラウンドで並列実行できるようになり、起動時間の短縮に貢献しました。
- PSYNC (Partial SYNC): 2.8から導入されていましたが、3.xでもレプリケーションにおいて重要な機能として利用されました。Masterとの接続が一時的に切断された際に、再接続後に差分データのみを転送することで、フル同期の負荷を軽減します。
バージョンアップ時の注意点 (2.x から 3.x):
- Clusterを利用する場合、アプリケーション側もCluster対応のクライアントライブラリを使用する必要があります。
- 設定ファイルにClusterに関する新しいパラメータ(
cluster-enabled
,cluster-config-file
,cluster-node-timeout
など)が追加されました。 - RDB/AOF形式に互換性のない変更が含まれる場合があります。公式のアップグレード手順を確認することが重要です。
Redis 4.x
Redis 4.x系は、拡張性と運用性の向上に焦点を当てたバージョンです。特に、Redis Modules APIの導入は、Redisの機能を大きく拡張する可能性を開きました。
主要な特徴:
- Redis Modules API (Redis 4.0): ユーザーがカスタムデータ構造を実装したり、新しいコマンドを追加したりするためのC言語ベースのAPIです。これにより、Redisのコア機能を変更することなく、特定のユースケースに特化した機能を追加できるようになりました。例として、RedisSearch, RedisGraph, RedisJSON, RedisTimeSeries などのモジュールが開発されています。
- SYNC/PSYNC2 (Redis 4.0): レプリケーションのプロトコルが改善され、より堅牢で効率的なPartial SYNCが可能になりました。複数のReplicaが同時にPSYNCを要求した場合の処理なども改善されています。
- Lazy Free (Redis 4.0): 大量のキーを削除する際に、メモリ解放処理をバックグラウンドスレッドで行うことができるようになりました(
DEL
->UNLINK
,FLUSHALL
/FLUSHDB
->ASYNC option
)。これにより、メモリ解放によるサーバーの一時的なブロッキング(遅延)を回避し、レイテンシの安定化に貢献します。 - Mixed RDB+AOF 形式 (Redis 4.0): AOFファイルの中に、特定の時点のRDBスナップショットを含めることができるようになりました。これにより、リカバリ時のAOFの読み込み時間を短縮しつつ、AOFによるより細かい粒度での永続化を維持できます。
- Diskless Replication (Redis 4.0): MasterがReplicaにRDBファイルを転送する際に、ディスクに書き込まずに直接ネットワーク経由で送信できるようになりました。これにより、MasterのディスクI/O負荷を軽減し、レプリケーションのパフォーマンスを向上させます。
- Memory Usage Reporting Improvements (Redis 4.0):
MEMORY
コマンドの導入など、メモリ使用状況をより詳細に把握できるようになりました。
バージョンアップ時の注意点 (3.x から 4.x):
- Lazy Freeはデフォルトで有効になっていない場合があるため、必要に応じて設定変更が必要です。
- Mixed RDB+AOF形式は新しい永続化方法ですが、既存のRDB/AOFファイルとの互換性に注意が必要です。
- Modulesを利用する場合、Redisサーバーの起動時にモジュールをロードするための設定(
loadmodule
)が必要です。また、モジュールはサードパーティ製である場合が多く、その互換性や安定性も確認が必要です。
Redis 5.x
Redis 5.x系は、新たなデータ構造であるStreamsの導入と、メモリ管理の改善が主な特徴です。
主要な特徴:
- Streams (Redis 5.0): ログ、イベントストリーム、メッセージキューといった用途に特化した新しいデータ構造です。APPEND ONLYの性質を持ち、タイムスタンプに基づいてエントリが記録されます。コンシューマーグループ機能により、複数のコンシューマーが協調してストリームからメッセージを処理することができます。これは、KafkaやRabbitMQのようなメッセージキューシステムに近い機能性を提供しつつ、Redisのシンプルさと他のデータ構造との連携を可能にします。関連コマンド:
XADD
,XREAD
,XRANGE
,XGROUP CREATE
,XREADGROUP
,XACK
,XPENDING
など。 - Active Memory Defragmentation (Redis 5.0): Redisがアイドル状態の際に、OSにメモリを返却したり、メモリフラグメンテーションを解消したりする機能です。メモリ使用量を最適化し、物理メモリ不足によるパフォーマンス低下を抑制します。
- RDB Version 9 (Redis 5.0): 新しいデータ型(Streamsなど)をサポートするためにRDB形式が更新されました。
- CLUSTER MEET の改善 (Redis 5.0): Redis Clusterにおいて、新しいノードを追加する際の
CLUSTER MEET
コマンドの動作が改善され、より堅牢になりました。 - Sorted Set Blocking Pop (Redis 5.0):
BZPOPMIN
,BZPOPMAX
コマンドが導入されました。これらのコマンドは、指定されたSorted Setが空の場合に要素が出現するまでブロックすることができます。これにより、Sorted Setを優先度付きキューのように利用する際に、ポーリングの必要がなくなりました。 - PUBLISH コマンドの戻り値変更 (Redis 5.0):
PUBLISH
コマンドが、メッセージを受信したクライアントの数を返すようになりました。
バージョンアップ時の注意点 (4.x から 5.x):
- Streamsを利用する場合、アプリケーション側で新しいコマンドに対応したクライアントライブラリを使用する必要があります。
- Active Memory Defragmentationはデフォルトで無効の場合があります。有効にする際は設定(
activerehashing
,active-defrag-ignore-bytes
,active-defrag-threshold-lower
,active-defrag-threshold-upper
,active-defrag-cycle-min
,active-defrag-cycle-max
)を確認し、メモリ使用量や負荷への影響を評価することが推奨されます。 - RDB形式のバージョンアップに伴い、旧バージョンで作成したRDBファイルを新バージョンで読み込めるか、その逆が可能かを確認することが重要です(通常、新しいバージョンは古いRDBを読み込めますが、その逆はできません)。
Redis 6.x
Redis 6.x系は、セキュリティ、パフォーマンス、プロトコルの改善に大きく焦点を当てたバージョンです。特に、TLSサポート、ACL、クライアントサイドキャッシング、スレッド化I/Oの強化は、エンタープライズ環境や大規模なシステムでの利用において重要な改善点です。
主要な特徴:
- TLS (Transport Layer Security) サポート (Redis 6.0): Redisへの接続を暗号化できるようになりました。これにより、ネットワーク上の盗聴や改ざんを防ぎ、セキュリティを向上させます。特にインターネット経由でのアクセスや、信頼できないネットワークでのRedis利用において非常に重要です。
- ACL (Access Control List) (Redis 6.0): ユーザーごとにアクセス権限を細かく設定できるようになりました。特定のユーザーに対して、特定のコマンドの実行や、特定のキーパターンへのアクセスのみを許可するといった制御が可能です。これにより、
requirepass
のような全ユーザー共通のパスワード認証よりも、はるかにセキュアで柔軟な権限管理が実現できます。redis.conf
またはACL
コマンドで設定します。 - Client Side Caching (Redis 6.0): クライアント側でデータの一部をキャッシュし、Redisサーバーへのアクセスを減らすことで、レイテンシを削減し、サーバー負荷を軽減する機能です。Redisサーバーは、キャッシュされているデータが変更された際にクライアントに無効化通知を送信します(Invalidation-based caching)。RESP3プロトコル上で動作します。
- Threaded I/O (Redis 6.0): 従来のRedisは基本的にシングルスレッドでしたが、ネットワークI/Oの処理の一部(ソケットからの読み込みやソケットへの書き込み)を複数のワーカースレッドで行えるようになりました。これにより、ネットワークI/Oがボトルネックになるようなワークロードにおいて、スループットが向上する可能性があります。
- RESP3 プロトコル (Redis 6.0): 新しいRedis Serialization Protocol (RESP) のバージョン3が導入されました。RESP3は、よりリッチなデータ型(Map, Set, Attribute, Pushなど)をサポートし、Client Side Cachingなどの新機能で利用されます。RESP2との後方互換性は維持されています。
- Diskless Replication の改善 (Redis 6.0): Replica側でもDiskless Replicationを受信できるようになり、ReplicaのディスクI/O負荷も軽減できるようになりました。
- SMISMEMBER コマンド (Redis 6.2): 指定された複数の要素がセットのメンバーであるかを一度にチェックできるコマンドが追加されました。
- ZRANGEBYSCORE / ZREMRANGEBYSCORE に LIMIT オプション (Redis 6.2): Sorted Setのレンジ検索/削除コマンドにおいて、結果数を制限できるようになり、特定の範囲の要素を効率的に操作できるようになりました。
バージョンアップ時の注意点 (5.x から 6.x):
- ACLを有効にする場合、既存の
requirepass
認証から移行する必要があります。アプリケーション側もACLに対応したユーザー名とパスワードで認証するように変更が必要です。移行手順を慎重に計画する必要があります。 - TLSを有効にする場合、証明書の設定や、クライアント側でのTLS接続の設定が必要です。
- Threaded I/Oはデフォルトで無効の場合があります。有効にする際は、ワーカースレッド数の設定(
io-threads
)や、システムのCPUコア数との関係を考慮する必要があります。 - Client Side CachingやRESP3を利用するには、RESP3に対応したクライアントライブラリが必要です。
Redis 7.x
Redis 7.x系は、スクリプト機能の進化、ACLのさらなる強化、Cluster機能の成熟など、Redisをよりパワフルで使いやすくするための改善が進められています。
主要な特徴:
- Redis Functions (Redis 7.0): Luaスクリプトの後継となる、サーバーサイドでコードを実行する新しい機能です。Functionsはモジュールとしてロード・管理でき、ライブラリのような依存関係を持つことができます。Luaスクリプトよりも構造化されたコードを書くことが容易になり、デバッグや保守性が向上しています。また、Functionsはレプリカにも自動的に同期されるため、レプリケーションやフェイルオーバーとの連携も改善されています。関連コマンド:
FUNCTION LOAD
,FUNCTION CALL
,FUNCTION DUMP
,FUNCTION RESTORE
など。 - ACL v2 (Redis 7.0): ACL機能がさらに強化され、より細かく柔軟な権限設定が可能になりました。コマンドのカテゴリ(
@admin
,@read
,@write
,@pubsub
など)に基づいた権限設定や、キーパターンに基づいたアクセス制御がより強力になっています。 - Sharded Pub/Sub (Redis 7.0): Redis Cluster環境において、Pub/Subメッセージを特定のハッシュスロットに紐づけることで、メッセージングをスケールアウトできるようになりました。従来のPub/SubはCluster環境では各ノードが全てのメッセージを受信していましたが、Sharded Pub/Subでは関連するノードのみがメッセージを処理するため、Pub/Subのスループットとスケーラビリティが向上します。関連コマンド:
SPUBLISH
,SSUBSCRIBE
,SUNSUBSCRIBE
,PUBSHARD CHANNELS
,PUBSHARD NUMSUB
。 - RESP3 の強化 (Redis 7.0): RESP3プロトコルがデフォルトで有効になりました(クライアントは明示的にRESP2を選択することも可能)。RESP3がサポートするリッチなデータ型が、Redisのコマンド応答やFunctionsで活用されるようになりました。
- Multi-part AOF (Redis 7.2): AOFファイルを複数のファイルに分割して管理できるようになりました。これにより、AOFファイルの肥大化による管理の困難さを軽減し、AOF書き換えの際のファイルサイズの制限などを緩和します。
- SET with GET オプション (Redis 7.0):
SET
コマンドにGET
オプションが追加され、値を設定すると同時に、そのキーの以前の値を原子的に取得できるようになりました。これは、比較交換(Compare-and-Swap)のような操作を実装する際に便利です。 - Cluster Modeでの監視強化 (Redis 7.2): Cluster環境における監視コマンド(例:
CLUSTER NODES
,CLUSTER INFO
)が強化され、ノードの状態やCluster全体の状況をより詳細に把握できるようになりました。
バージョンアップ時の注意点 (6.x から 7.x):
- FunctionsはLuaスクリプトからの移行パスが提供されていますが、互換性のない変更も存在します。既存のLuaスクリプトをFunctionsに移行する場合は、コードの修正が必要になる可能性があります。
- ACL v2では設定ファイルの書式や
ACL
コマンドのオプションが変更されている可能性があります。アップグレードガイドを確認し、設定ファイルを適切に更新する必要があります。 - RESP3がデフォルトになりますが、RESP2互換性は維持されています。クライアントライブラリがRESP3に対応していなくても基本的な動作は可能ですが、新機能(Client Side Cachingの完全な活用など)を利用する場合はRESP3対応のライブラリが必要です。
- Multi-part AOFは新しい永続化メカニズムです。リカバリ手順など、運用方法に変更がないか確認が必要です。
Redis 8.x 以降
Redis 8.x系は現在開発が進行中です。OSS Redisのロードマップでは、シャード単位でのレプリケーションやスケーラビリティのさらなる向上、そしてコミュニティからの提案に基づいた様々な機能改善が検討されています。例えば、次期バージョンでは、ClusterにおけるPartial Reshardingや、より効率的なメモリ管理メカニズムなどが導入される可能性があります。最新の情報は、公式のRedisプロジェクトのGitHubリポジトリや開発者メーリングリスト、Redis Confなどのイベントで確認できます。新しいメジャーバージョンでは、常に画期的な新機能やアーキテクチャの変更が含まれる可能性があるため、リリースが近づいたら公式ドキュメントを注意深く確認することが重要です。
バージョンアップパスと非互換性
どのバージョンからどのバージョンへアップグレードするかによって、考慮すべき非互換な変更の範囲が異なります。一般的に、マイナーバージョンアップ(例: 6.0 -> 6.2)は比較的容易ですが、メジャーバージョンを跨ぐアップグレード(例: 5.x -> 6.x, 6.x -> 7.x)では、より多くの非互換な変更が含まれる可能性が高くなります。
推奨されるアップグレードパス:
- 古いバージョンから最新版に一気にアップグレードすることは、予期せぬ問題が発生するリスクが高いため、あまり推奨されません。
- 可能であれば、一つまたは二つ新しいメジャーバージョンに段階的にアップグレードしていくことが望ましいです(例: 4.x -> 5.x -> 6.x -> 7.x)。各ステップで十分なテストを実施することで、問題を早期に発見できます。
- ただし、特定のバージョン(特に非常に古いバージョン)からは、中間バージョンをスキップして特定のバージョンに直接アップグレードできる場合もあります。これは公式のアップグレードガイドで確認する必要があります。
注意すべき非互換な変更点の例:
各バージョンの特徴のセクションでも触れましたが、特に注意が必要な非互換な変更点をまとめます。
-
設定ファイル:
- 新しい設定パラメータの追加や、既存パラメータの廃止/変更。
- ACLの導入に伴う認証設定の変更(
requirepass
からACLユーザー/パスワードへ)。 - Modulesのロード設定(
loadmodule
)。 - TLS関連の設定。
- Threaded I/O関連の設定。
- Active Memory Defragmentation関連の設定。
- AOF関連の設定(Mixed AOF, Multi-part AOFなど)。
- 対応策: 新しいバージョンのデフォルト設定ファイルを入手し、既存の設定ファイルを比較しながら必要な変更を反映させます。非推奨になったパラメータは削除または代替パラメータに置き換えます。
-
コマンドの挙動/プロトコル:
- RESPプロトコルのバージョンアップ(RESP3)。古いクライアントライブラリが完全に互換性がない場合があります(基本的なコマンドはRESP2で動作しますが、RESP3固有の機能は利用できません)。
- 特定のコマンドの戻り値の変更(例:
PUBLISH
コマンド)。 - 新しいコマンドの追加や、既存コマンドのオプション追加/変更。
- LuaスクリプトとFunctionsの間の非互換性。
- 対応策: アプリケーションで使用しているクライアントライブラリがターゲットバージョンに対応しているか確認します。非互換なコマンドの挙動変更がある場合は、アプリケーションコードの修正が必要になります。Luaスクリプトを使用している場合は、Functionsへの移行計画を立てる必要があります。
-
RDB/AOF 形式:
- 新しいデータ構造(Streamsなど)のサポートに伴うRDB形式のバージョンアップ。通常、新しいバージョンのRedisは古いバージョンのRDBファイルを読み込めますが、その逆はできません。
- Mixed RDB+AOFやMulti-part AOFといった新しいAOF形式。リカバリプロセスに影響を与える可能性があります。
- 対応策: バージョンアップ前に必ずバックアップを取得します。新しいバージョンで古いRDB/AOFファイルから正常にリカバリできるかテスト環境で確認します。新しいAOF形式を採用する場合は、運用方法(バックアップ、リカバリ)に変更がないか確認します。
-
Cluster 関連:
- Clusterプロトコルの内部的な変更。通常は後方互換性が維持されますが、古いバージョンと新しいバージョンが混在する期間(ローリングアップデート中)の挙動に注意が必要です。
- Cluster関連のコマンドや設定の変更(例:
CLUSTER MEET
の改善)。 - Sharded Pub/Subなど、Cluster環境に特化した新機能。
- 対応策: Cluster環境でのバージョンアップ手順は特に複雑になります。公式のアップグレードガイド(特にClusterのアップグレードに関するセクション)を熟読し、推奨される手順(通常はローリングアップデート)に従って実行します。テスト環境で手順を検証することが不可欠です。
バージョンアップの計画と実行
バージョンアップを成功させるためには、以下のステップを慎重に進める必要があります。
-
現状把握:
- 現在稼働しているRedisの正確なバージョンを確認します。
- Stand-alone、Master-Replica、またはCluster構成かを確認します。
- データサイズ、キーの数、メモリ使用量、RDB/AOF設定、永続化ファイルのサイズを確認します。
- 現在のシステム負荷(CPU、メモリ、ネットワークI/O)やコマンドのレイテンシを把握します。
- 利用しているクライアントライブラリのバージョンを確認します。
- カスタマイズされた設定や、標準以外のモジュールを使用しているか確認します。
-
ターゲットバージョンの選定:
- 現在のバージョンと、導入したい新機能、セキュリティ要件、サポート状況などを考慮して、最適なターゲットバージョンを決定します。通常は最新の安定版またはLTSバージョンが推奨されます。
- 特定のバージョンで既知の大きな問題が報告されていないか、リリースノートやコミュニティの情報を確認します。
-
公式ドキュメントの確認:
- ターゲットバージョンの公式サイトから、リリースノート、アップグレードガイド、および設定ファイルのサンプルを入手します。
- 現在のバージョンからのアップグレードパスに関する推奨事項や、非互換な変更点に関する詳細な説明を熟読します。
- 特に、設定ファイル、RDB/AOF形式、コマンドの挙動、Cluster関連の変更について注意深く確認します。
-
テスト環境の構築と検証:
- 本番環境と可能な限り近いハードウェア、OS、ネットワーク構成でテスト環境を構築します。
- 本番環境から取得した最新のRDB/AOFファイルを使用して、テスト環境のRedisインスタンスを起動します。
- 新しいバージョンの設定ファイルを使用してRedisを起動し、設定が正しく読み込まれるか、エラーが発生しないか確認します。
- 準備したアップグレード手順に従って、テスト環境でバージョンアップを実行します。
- バージョンアップ後のRedisインスタンスに対して、以下の検証を実施します。
- 基本機能テスト: 主要なデータ構造に対するCRUD操作が正しく行えるか。
- アプリケーション連携テスト: バージョンアップ後のRedisインスタンスに対して、アプリケーションを接続し、期待通りの動作をするか確認します。可能であれば、本番環境と同様のトラフィックを生成してテストします。
- パフォーマンステスト: スループット、レイテンシ、メモリ使用量などが許容範囲内か確認します。特に、旧バージョンと比較してパフォーマンスの回帰がないかを確認します。
- 障害テスト: Masterの停止、Replicaの停止、ネットワーク分断など、考えられる障害シナリオをシミュレートし、フェイルオーバーや復旧が正常に行われるか確認します。
- 永続化・リカバリテスト: 新しいRDB/AOFファイルが正しく作成されるか、それらから正常にリカバリできるか確認します。
-
本番環境でのバージョンアップ手順策定:
- テスト環境での検証結果を踏まえ、本番環境での詳細なバージョンアップ手順書を作成します。
- 手順書には、以下の項目を明確に含めます。
- バージョンアップ前のチェックリスト(バックアップの取得、監視ツールの準備など)。
- 各Redisインスタンス(Master, Replica, Sentinel, Clusterノードなど)のアップグレード手順。
- 設定ファイルの更新手順。
- ダウンタイムを最小限に抑えるための戦略(レプリケーションを利用したローリングアップデートなど)。
- バージョンアップ中の監視項目と閾値。
- 問題が発生した場合のロールバック手順。
- バージョンアップ後の確認リスト。
- 関係者(開発チーム、運用チームなど)と手順書を共有し、レビューを行います。
-
本番環境でのバージョンアップ実行:
- 計画した手順に従って、バージョンアップを実行します。
- 実行中は、Redisインスタンスのメトリクス、システムリソース、アプリケーションのエラーログなどを注意深く監視します。
- 問題が発生した場合は、事前に計画したロールバック手順に従って、迅速に旧バージョンに戻します。
-
ダウンタイムを最小限に抑える戦略 (Master-Replica構成の例):
- Masterインスタンスのデータを最新の状態にバックアップします。
- 全てのReplicaインスタンスを停止し、新しいバージョンにアップグレードします。新しい設定ファイルを適用し、新しいRDB/AOFファイルから起動します。
- アップグレードされたReplicaインスタンスが正常に起動し、Masterとのレプリケーションが開始されていることを確認します。
- 重要なステップ: アプリケーションからの書き込みトラフィックを停止するか、Masterへの接続を一時的に切断します。これにより、Masterに新しいデータが書き込まれないようにします。
- Masterインスタンスを停止し、新しいバージョンにアップグレードします。新しい設定ファイルを適用し、新しいRDB/AOFファイルから起動します。
- アップグレードされたMasterインスタンスが正常に起動し、Replicaが新しいMasterに接続してレプリケーションが再開されることを確認します。
- アプリケーションからの書き込みトラフィックを再開します。
- Sentinelを利用している場合は、Sentinelインスタンスも順番にアップグレードします。
Cluster環境の場合は、各ノード(MasterおよびそのReplica)を順番にアップグレードしていくローリングアップデートが一般的な手順となります。Masterをアップグレードする際は、まずそのReplicaをアップグレードし、Replicaが新しいバージョンでMasterに追いついたことを確認してから、Masterを停止・アップグレード・再起動します。この間、障害発生とみなされ、Clusterの他のノードが一時的にMasterをフェイルオーバーする可能性があるため、Cluster全体の状態を注意深く監視しながら作業を進める必要があります。
-
バージョンアップ後の監視:
- バージョンアップが完了した後も、しばらくの間はシステムを注意深く監視し続けます。
- 特に、パフォーマンスの低下、メモリリーク、エラーログの増加、予期せぬ再起動などが発生していないか確認します。
- アプリケーションが正常に動作しているか、ユーザーからのフィードバックがないかなども確認します。
まとめ
Redisは継続的に進化しており、新しいバージョンでは常に重要な機能追加や改善が行われています。Redis Clusterによるスケーラビリティの実現(3.x)、Modules APIによる拡張性の向上(4.x)、Streamsによるメッセージング機能の強化(5.x)、TLS/ACLによるセキュリティ強化とClient Side Caching/Threaded I/Oによるパフォーマンス向上(6.x)、そしてFunctionsやSharded Pub/SubによるスクリプトとCluster機能のさらなる進化(7.x)など、各バージョンはRedisの可能性を広げてきました。
これらの新機能を活用し、セキュリティやパフォーマンスのメリットを享受するためには、計画的なバージョンアップが不可欠です。しかし、バージョンアップには非互換性の問題や予期せぬ動作変更といったリスクも伴います。
この記事で解説した各バージョンの特徴、バージョンアップの一般的な考慮事項、非互換性に関する情報、そして計画と実行の手順が、あなたのRedisバージョンアップ作業の一助となれば幸いです。バージョンアップは、単なるソフトウェアの更新作業ではなく、システム全体の健全性と将来性を維持するための重要な投資です。公式ドキュメントを熟読し、テスト環境で十分に検証を行い、慎重な計画のもとで実行することで、Redis環境を安全かつ効率的に最新の状態に保つことができるでしょう。
今後もRedisは進化を続けるでしょう。最新の動向に注目しつつ、常に最適なRedis環境を維持していきましょう。