Docker イメージのバックアップと移行:docker save コマンド徹底解説
Docker は、コンテナ化されたアプリケーションの開発、デプロイ、実行を大幅に簡素化する強力なプラットフォームです。Docker の中心的な要素であるイメージは、アプリケーションとその依存関係をパッケージ化したものであり、コンテナのテンプレートとして機能します。これらのイメージを安全にバックアップし、異なる環境間で移行する能力は、Docker を効果的に活用する上で不可欠です。
この記事では、Docker イメージのバックアップと移行を実現する docker save
コマンドについて、詳細な解説を行います。コマンドの構文、オプション、具体的な使用例、さらには応用的なテクニックまでを網羅し、Docker イメージのバックアップと移行をマスターするための知識を提供します。
1. なぜ Docker イメージをバックアップする必要があるのか?
Docker イメージのバックアップは、様々なシナリオで非常に重要です。以下に、主な理由をいくつか挙げます。
- 災害復旧: ホストマシンやストレージに障害が発生した場合、バックアップされたイメージがあれば、迅速にアプリケーションを復旧できます。
- 異なる環境への移行: 開発環境、テスト環境、本番環境など、異なる環境間でアプリケーションを移行する際に、イメージのバックアップは不可欠です。
- バージョニング: 特定のバージョンのイメージをバックアップしておけば、必要に応じて過去のバージョンにロールバックできます。
- アーカイブ: 長期的な保管や監査のために、イメージをアーカイブしておくことができます。
- オフライン環境での利用: インターネット接続のない環境で Docker を利用する場合、事前にイメージをバックアップしておき、オフライン環境に移行する必要があります。
- Docker Hub の障害: Docker Hub は便利なサービスですが、障害が発生する可能性もあります。バックアップがあれば、Docker Hub が利用できなくても、イメージを復元できます。
2. docker save コマンドとは?
docker save
コマンドは、Docker イメージを tar アーカイブとして保存するために使用されます。このアーカイブには、イメージのすべてのレイヤー、メタデータ、およびコンフィギュレーションが含まれており、イメージを完全に復元できます。
3. docker save コマンドの構文
docker save [OPTIONS] IMAGE [IMAGE...]
- OPTIONS: コマンドの動作を制御するオプションを指定します。
- IMAGE: 保存する Docker イメージの名前または ID を指定します。複数のイメージを同時に保存できます。
4. docker save コマンドのオプション
docker save
コマンドには、いくつかのオプションがあります。主なオプションを以下に示します。
- -o, –output string: 出力ファイルの名前を指定します。指定しない場合は、標準出力に書き込まれます。
5. docker save コマンドの基本的な使い方
最も基本的な使い方は、イメージの名前を指定して、tar アーカイブとして保存することです。
bash
docker save my-image > my-image.tar
この例では、my-image
という名前の Docker イメージを my-image.tar
というファイルに保存します。>
はリダイレクト演算子であり、docker save
コマンドの出力をファイルに書き込みます。
6. 複数のイメージを同時に保存する
複数のイメージをまとめて保存することも可能です。
bash
docker save image1 image2 image3 > images.tar
このコマンドは、image1
, image2
, image3
という名前のイメージをまとめて images.tar
というファイルに保存します。
7. イメージ ID を使用して保存する
イメージの名前だけでなく、イメージ ID を使用して保存することもできます。イメージ ID は、docker images
コマンドで確認できます。
bash
docker images
このコマンドを実行すると、イメージの一覧が表示され、各イメージの ID が表示されます。
REPOSITORY TAG IMAGE ID CREATED SIZE
my-image latest abcdef123456 2 weeks ago 200MB
イメージ ID を使用して保存するには、以下のようにします。
bash
docker save abcdef123456 > my-image.tar
8. 出力ファイル名を指定する
-o
または --output
オプションを使用して、出力ファイル名を明示的に指定することもできます。
bash
docker save -o my-image.tar my-image
このコマンドは、my-image
という名前の Docker イメージを my-image.tar
というファイルに保存します。-o
オプションを使用すると、リダイレクト演算子 >
を使用する必要がありません。
9. 標準出力に保存する
出力ファイル名を指定しない場合、docker save
コマンドの出力は標準出力に書き込まれます。これは、パイプを使って他のコマンドに渡す場合に便利です。
bash
docker save my-image | gzip > my-image.tar.gz
この例では、docker save
コマンドの出力を gzip
コマンドにパイプで渡し、gzip
コマンドで圧縮されたファイルを my-image.tar.gz
というファイルに保存します。
10. 保存されたイメージを復元する:docker load コマンド
docker save
コマンドで保存したイメージを復元するには、docker load
コマンドを使用します。docker load
コマンドは、tar アーカイブから Docker イメージを読み込みます。
docker load [OPTIONS]
- OPTIONS: コマンドの動作を制御するオプションを指定します。
主なオプションは以下の通りです。
- -i, –input string: 入力ファイルの名前を指定します。指定しない場合は、標準入力から読み込まれます。
- -q, –quiet: 進捗状況の出力を抑制します。
11. docker load コマンドの基本的な使い方
最も基本的な使い方は、tar アーカイブの名前を指定して、イメージを読み込むことです。
bash
docker load < my-image.tar
この例では、my-image.tar
というファイルから Docker イメージを読み込みます。<
はリダイレクト演算子であり、my-image.tar
ファイルの内容を docker load
コマンドに渡します。
12. 入力ファイル名を指定する
-i
または --input
オプションを使用して、入力ファイル名を明示的に指定することもできます。
bash
docker load -i my-image.tar
このコマンドは、my-image.tar
というファイルから Docker イメージを読み込みます。-i
オプションを使用すると、リダイレクト演算子 <
を使用する必要がありません。
13. 標準入力から読み込む
入力ファイル名を指定しない場合、docker load
コマンドは標準入力から読み込みます。これは、パイプを使って他のコマンドから渡す場合に便利です。
bash
gzip -dc my-image.tar.gz | docker load
この例では、gzip -dc
コマンドで my-image.tar.gz
ファイルを解凍し、その出力を docker load
コマンドにパイプで渡します。
14. docker save/load の注意点
docker save
と docker load
を使用する際には、いくつかの注意点があります。
- イメージ履歴:
docker save
はイメージのすべてのレイヤーを保存するため、イメージのサイズが大きくなる可能性があります。 - 依存関係: イメージが他のイメージに依存している場合、依存するイメージも一緒に保存する必要があります。
- プラットフォーム:
docker save
で保存したイメージは、同じアーキテクチャのプラットフォームでしか復元できない場合があります。例えば、AMD64 アーキテクチャで保存したイメージを ARM アーキテクチャで復元することはできません。 - Docker Compose: Docker Compose で定義された複数のコンテナをまとめてバックアップする場合は、それぞれのイメージを個別に
docker save
する必要があります。
15. docker export/import との違い
docker save/load
と似たコマンドに docker export/import
があります。これらの違いを理解することは重要です。
機能 | docker save/load | docker export/import |
---|---|---|
対象 | イメージ | コンテナ |
内容 | イメージのすべてのレイヤーとメタデータ | コンテナのファイルシステム (レイヤー履歴なし) |
バックアップサイズ | 大きい | 小さい |
用途 | イメージの完全なバックアップと移行 | コンテナのファイルシステムのバックアップと移行 |
メタデータ | 保存される | 保存されない |
レイヤー履歴 | 保存される | 保存されない |
docker save/load は、イメージを完全にバックアップし、メタデータやレイヤー履歴も保存します。一方、docker export/import は、コンテナのファイルシステムのみをバックアップし、メタデータやレイヤー履歴は保存しません。 そのため、完全なイメージの復元が必要な場合は、docker save/load を使用する必要があります。
16. docker save/load の応用的な使い方
docker save/load
コマンドは、単にイメージをバックアップするだけでなく、様々な応用的な使い方ができます。
- プライベートレジストリへのアップロード前の確認: ローカルで
docker save
したイメージをdocker load
して、問題なく動作することを確認してからプライベートレジストリにアップロードすることで、アップロード後の問題を未然に防ぐことができます。 - イメージの共有:
docker save
で作成した tar アーカイブを他の開発者に共有することで、簡単にイメージを共有できます。 - オフライン環境でのイメージ配布: インターネット接続のない環境で Docker を使用する場合、
docker save
で作成した tar アーカイブを USB ドライブなどで持ち込み、docker load
でイメージを復元できます。 - CI/CD パイプラインでの利用: CI/CD パイプラインで、ビルドされたイメージを
docker save
でアーカイブし、別の環境でdocker load
してデプロイすることができます。 - バージョン管理システムとの連携:
docker save
で作成した tar アーカイブを Git などのバージョン管理システムにコミットすることで、イメージのバージョン管理を行うことができます。
17. docker save/load を利用した具体的なシナリオ
以下に、docker save/load
コマンドを利用した具体的なシナリオをいくつか紹介します。
- 開発環境から本番環境への移行: 開発環境でビルドしたイメージを
docker save
でアーカイブし、本番環境にコピーしてdocker load
で復元します。これにより、開発環境と本番環境で同じイメージを使用できます。
“`bash
開発環境
docker save my-app:latest > my-app.tar
本番環境
scp my-app.tar user@server:/tmp
docker load -i /tmp/my-app.tar
“`
- Docker Hub の代替: Docker Hub が利用できない場合でも、
docker save
で保存したイメージをdocker load
して使用できます。
“`bash
Docker Hub が利用できない場合
docker load -i my-app.tar
“`
- イメージのアーカイブ: 古いバージョンのイメージを
docker save
でアーカイブし、長期的に保管します。
bash
docker save my-app:v1.0 > my-app-v1.0.tar
- オフライン環境での Kubernetes デプロイ: オフライン環境で Kubernetes クラスタを構築し、アプリケーションをデプロイする場合、事前に必要なイメージを
docker save
でアーカイブし、各ノードにコピーしてdocker load
で復元します。
18. docker save/load のパフォーマンス
docker save/load
コマンドのパフォーマンスは、イメージのサイズ、ストレージの速度、ネットワークの帯域幅などに依存します。特に、サイズの大きなイメージを扱う場合は、時間がかかることがあります。
パフォーマンスを向上させるためには、以下の点を考慮してください。
- 高速なストレージを使用する: SSD などの高速なストレージを使用することで、
docker save/load
の時間を短縮できます。 - ネットワークの帯域幅を確保する: ネットワーク経由でイメージを転送する場合は、十分な帯域幅を確保することで、転送時間を短縮できます。
- イメージのサイズを最適化する: 不要なレイヤーを削除したり、ベースイメージを小さくしたりすることで、イメージのサイズを削減できます。
- 並列処理を活用する: 複数のイメージをまとめて
docker save
する場合は、並列処理を活用することで、全体の処理時間を短縮できます。(例:parallel docker save ::: image1 image2 image3
)
19. まとめ
この記事では、Docker イメージのバックアップと移行を実現する docker save
コマンドについて、詳細な解説を行いました。docker save
コマンドは、イメージを tar アーカイブとして保存し、docker load
コマンドで復元することができます。
docker save/load
コマンドは、災害復旧、異なる環境への移行、バージョニング、アーカイブ、オフライン環境での利用など、様々なシナリオで非常に重要です。docker export/import
との違いを理解し、適切なコマンドを選択することが重要です。
docker save/load
コマンドをマスターすることで、Docker イメージの管理をより効率的に行い、アプリケーションの信頼性を向上させることができます。積極的に活用して、Docker の利点を最大限に引き出しましょう。
20. 今後の学習
docker save
と docker load
コマンドをマスターしたら、さらに Docker の知識を深めるために、以下のトピックを学習することをお勧めします。
- Docker Registry: プライベートな Docker イメージレジストリの構築と管理について学びましょう。
- Docker Compose: 複数のコンテナをまとめて定義し、管理するための Docker Compose について学びましょう。
- Dockerfile: Docker イメージを構築するための Dockerfile の書き方について詳しく学びましょう。
- Kubernetes: コンテナ化されたアプリケーションをデプロイ、管理、およびスケーリングするための Kubernetes について学びましょう。
- Docker Security: Docker コンテナのセキュリティ対策について学びましょう。
Docker は、非常に強力なツールであり、継続的に学習することで、より高度なスキルを身につけ、より効率的にアプリケーションを開発、デプロイ、実行できるようになります。