キヤノン RF24-105mm F2.8 L IS USM Z 徹底解説:最新標準ズームの実力
キヤノンRFシステムは、一眼レフカメラのEFシステムからミラーレスへと移行する中で、新たな光学設計の自由度を最大限に活かすべく開発されました。大口径・ショートバックフォーカスのRFマウントは、レンズ設計者にこれまでにない可能性をもたらし、数々の革新的なレンズを生み出しています。その中でも、「標準ズームレンズ」は、多くのフォトグラファーにとって最も使用頻度の高い、文字通りシステムの「標準」となる非常に重要な存在です。キヤノンRFシステムにおいても、既にRF24-105mm F4 L IS USM、RF24-70mm F2.8 L IS USMといった優れたLレンズの標準ズームが存在し、ユーザーから高い評価を得ています。
しかし、キヤノンはさらにその先を目指しました。より高いレベルの表現力、そして静止画・動画の双方における究極の汎用性を追求した結果、2023年12月に登場したのが、この「RF24-105mm F2.8 L IS USM Z」です。焦点距離24-105mmという広角から中望遠までをカバーする使いやすいレンジでありながら、開放絞り値F2.8通しという明るさを実現。さらに「Z」の名称が示すように、動画撮影に特化したパワーズームアダプターに対応するという、これまでの標準ズームにはなかった特徴を備えています。
本記事では、このRF24-105mm F2.8 L IS USM Zがどのようなレンズであり、どのような技術が投入され、そして実際にどのような描写性能と操作性を持つのかを、徹底的に解説していきます。その実力は、RFシステムにおける新たな標準となり得るのか、じっくり見ていきましょう。
製品概要と基本スペック
まずは、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zの基本的な情報を押さえておきましょう。
- 製品名: キヤノン RF24-105mm F2.8 L IS USM Z
- 発売日: 2023年12月
- 価格帯: オープン価格 (実売価格は50万円前後)
- マウント: キヤノンRFマウント
- 対応センサーサイズ: 35mmフルサイズ
- 焦点距離: 24-105mm
- 開放絞り: F2.8 (全域)
- 最小絞り: F22 (全域)
- レンズ構成: 18群21枚 (UDレンズ4枚、非球面レンズ5枚を含む)
- 絞り羽根枚数: 11枚 (円形絞り)
- 最短撮影距離: 0.45m (24mm), 0.80m (105mm)
- 最大撮影倍率: 0.08倍 (24mm), 0.33倍 (105mm)
- 手ブレ補正効果:
- レンズ単体: 5.5段
- ボディ内IS協調制御時: 8.0段 (EOS R3使用時など)
- フィルター径: φ82mm
- 最大径×長さ: φ約88.5mm × 約199mm (収納時)
- 質量: 約1330g (三脚座を除く)
- 防塵防滴性能: 配慮された構造
- コーティング: ASC (Air Sphere Coating), SWC (Subwavelength Structure Coating), フッ素コーティング (最前面・最後面)
- その他: 電子式フローティングフォーカス制御、パワーズームアダプターPZ-E2/E2B対応
このスペックリストを見ただけでも、このレンズが並々ならぬ存在感を放っていることがわかります。特に注目すべきは、「24-105mm」という焦点距離と「F2.8」という開放絞り値の両立です。従来のズームレンズでは、この焦点距離と開放F値を同時に実現することは、サイズや重量、光学性能の制約から非常に困難でした。RFマウントの特性を最大限に活かすことで、この難題に挑んだレンズと言えるでしょう。
また、UDレンズ4枚、非球面レンズ5枚という贅沢なレンズ構成からも、収差を徹底的に補正し、全ズーム域・全画面において高い描写性能を目指していることが伺えます。さらに、高度なコーティング技術であるASCとSWCを採用することで、逆光時におけるフレアやゴーストの発生を極限まで抑制しています。
質量約1330gは標準ズームとしてはかなり重い部類に入りますが、これもF2.8通しで105mmまでをカバーする高性能レンズとしては避けられない部分かもしれません。フィルター径φ82mmも一般的ですが、高価なフィルターが必要となります。
「Z」の名称とパワーズームアダプター対応は、このレンズが動画撮影にも非常に強く意識されていることを示唆しています。静止画だけでなく、動画クリエイターにとっても魅力的なレンズとなる可能性を秘めています。
設計思想とコンセプト
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、なぜこのスペックで、どのような目的を持って開発されたのでしょうか。その設計思想とコンセプトを深掘りしてみましょう。
まず、「24-105mm」という焦点距離レンジは、広角24mmで風景や建築物、集合写真などをカバーし、標準域50mm前後でスナップや日常的な撮影を行い、そして中望遠105mmでポートレートや少し離れた被写体を引き寄せるといった、非常に幅広い撮影シーンに対応できる汎用性の高いものです。まさに「標準」と呼ぶにふさわしいレンジと言えます。
次に、「F2.8通し」という明るさです。ズーム全域でF2.8の開放絞り値が得られることは、主に以下の3つの大きなメリットをもたらします。
1. 低照度下での撮影: 暗い場所でも速いシャッタースピードを選択できるため、手ブレや被写体ブレを抑えやすくなります。ISO感度を抑えることも可能となり、ノイズの少ない高画質な画像が得られます。
2. 美しいボケ表現: 開放F値が明るいほど、背景を大きくぼかすことができます。特に望遠端の105mm F2.8は、ポートレート撮影において被写体を際立たせる美しいボケ味を生み出すのに非常に効果的です。
3. 光学ファインダー/EVFの視認性向上: ファインダー像が明るくなるため、構図決めやピント合わせが容易になります。
しかし、24mmから105mmという約4.4倍のズーム比を持ちながら、全域でF2.8という明るさを維持することは、光学設計上非常に高いハードルです。焦点距離が長くなるほど、レンズの有効径は大きくなり、必要なレンズ枚数も増加するため、レンズ全体のサイズ、重量、そしてコストが増大します。過去にもEFマウントで24-105mm F4 L IS USMはありましたが、F2.8を実現した標準ズームは通常24-70mmまでが一般的でした。RFマウントの高い設計自由度があってこそ、この焦点距離と明るさの両立が可能になったと言えるでしょう。
また、このレンズは静止画だけでなく、動画撮影にも強くフォーカスしています。「Z」という名称は、キヤノンが将来的に展開を検討している動画特化型のレンズラインナップを示唆するものとも言われていますが、現時点ではパワーズームアダプターPZ-E2/E2Bに対応することが最大の特長です。これにより、動画撮影において、手動では難しい非常に滑らかで一定速度の電動ズーム操作が可能となります。プロフェッショナルな映像制作の現場では、こうしたスムーズなズームワークは非常に重要です。静粛性の高いAF駆動や、ズーム時のフォーカスシフト・画角変動(ブリージング)の抑制など、動画撮影に配慮した設計が随所に盛り込まれています。
ターゲット層としては、高い描写性能と汎用性を求めるプロフェッショナルフォトグラファーや映像クリエイター、そして機材に妥協しないハイアマチュアユーザーが想定されます。この一本で幅広いシーンに対応したい、そして最高レベルの画質と操作性を手に入れたいユーザーにとって、まさに理想的なレンズと言えるでしょう。
光学性能の徹底分析
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zの真価は、その光学性能にあります。高度なレンズ構成とコーティング技術によって、どのような描写を実現しているのでしょうか。
解像性能:
このレンズは、広角端から望遠端まで、画面中心から周辺部まで、非常に高い解像性能を目指して設計されています。18群21枚のレンズ構成には、色収差を効果的に補正するUDレンズが4枚、そして歪曲収差や球面収差を抑制し、画面全体の解像度を向上させる非球面レンズが5枚贅沢に配置されています。
キヤノンの公開しているMTF曲線からも、その高い性能が読み取れます。広角端24mm、望遠端105mmのいずれにおいても、画面中心部では空間周波数10本/mm (コントラスト再現性) と 30本/mm (解像感) のいずれも非常に高いラインを維持しています。特に周辺部においても、30本/mmのラインが比較的高い位置を保っており、画面端までシャープな描写が期待できます。
実写においても、その解像性能は圧倒的です。開放F2.8から中心部は非常にシャープで、被写体の細部まで克明に描写します。絞りをF4〜F5.6程度に絞り込むと、画面全体の解像度はさらに向上し、特に周辺部の描写が引き締まります。風景写真など、画面全体のシャープネスが求められるシーンでも、安心して使用できる性能です。
広角端では画面周辺部でわずかに描写の甘さが見られる場合もありますが、これは大口径広角ズームとしては極めて良好な部類に入ります。望遠端105mmでも解像感の低下は少なく、ピント面は非常にシャープです。高画素機との組み合わせにおいても、レンズの解像力が不足することはないでしょう。
色収差:
色収差は、レンズが光の色によって屈折率が異なるために発生する像の滲みです。特に開放絞り付近や、コントラストの高い被写体の輪郭部分に現れやすい収差です。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、4枚ものUDレンズを効果的に配置することで、軸上色収差と倍率色収差を徹底的に補正しています。
軸上色収差は、ピント面前後に色の滲み(前ボケ側にマゼンタ、後ボケ側にグリーンなど)として現れますが、本レンズでは開放F2.8でもこの軸上色収差は非常に良く抑えられています。高感度なセンサーと組み合わせても、色の滲みが気になることはほとんどないでしょう。
倍率色収差は、画面周辺部で被写体の輪郭に色の滲み(広角端でシアン/レッド、望遠端でブルー/イエローなど)として現れますが、こちらもUDレンズと高度な光学設計により、非常に効果的に補正されています。特にRAW現像時には、レンズプロファイルによってさらに補正することも可能ですが、補正なしの状態でも目立つことは少ないレベルです。
歪曲収差:
ズームレンズにおいて、広角端では樽型歪曲、望遠端では糸巻き型歪曲が発生するのが一般的です。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zも、光学的に完全に歪曲収差をゼロにすることは困難ですが、ある程度光学設計で補正しつつ、ボディ内でのデジタル補正を前提とした設計となっています。
広角端24mmでは、補正なしの状態ではやや目立つ樽型歪曲が見られます。しかし、最新のキヤノンボディと組み合わせた場合、JPEG撮影時やRAW現像時に自動的に適切なレンズプロファイルが適用されるため、実写で歪曲が気になるシーンは非常に少ないでしょう。ボディ内補正をオンにした状態であれば、建築物撮影など直線が多いシーンでも安心して使用できます。
望遠端105mmでは、広角端ほど目立ちませんが、わずかに糸巻き型歪曲が見られます。こちらもボディ内補正によって簡単に補正可能です。動画撮影時には、歪曲収差の補正が難しい場合もありますが、このレンズは動画撮影も強く意識しているため、光学的な歪曲もできる限り抑制されていると考えられます。
周辺光量低下:
大口径レンズ、特に広角側では、開放絞り時に画面の四隅が暗くなる「周辺光量低下(口径食)」が発生しやすい傾向があります。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zも、開放F2.8では広角端を中心に周辺光量低下が確認できます。しかし、これはF2.8という明るさを考えれば許容範囲内のレベルであり、描写に奥行きを与える効果と捉えることもできます。
絞りをF4〜F5.6程度に絞り込むと、周辺光量低下は大幅に改善されます。さらに、ボディ内補正やRAW現像時のレンズプロファイル適用によって、周辺光量を補正することも可能です。ポートレート撮影など、意図的に周辺光量低下を残して被写体を際立たせる表現を楽しむのも良いでしょう。
フレア・ゴースト:
逆光時の撮影において、レンズ内で光が反射することで発生するフレアやゴーストは、画質を低下させる要因となります。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、キヤノン独自の先進コーティング技術であるASC(Air Sphere Coating)とSWC(Subwavelength Structure Coating)を効果的に採用することで、レンズ内部での不要な反射を極限まで抑制しています。
ASCは、ナノサイズの空気球をコーティング内に閉じ込めることで、空気との屈折率の差を小さくし、入射光の反射を大幅に低減する技術です。SWCは、可視光の波長よりも短い周期構造をレンズ表面に形成することで、幅広い波長域の光に対して反射防止効果を発揮する技術です。これらの技術を組み合わせることで、特に強い光源が画面内に入るような厳しい逆光条件下でも、クリアで抜けの良い描写を実現しています。実写においても、太陽を直接画面内に入れても、目立つフレアやゴーストは非常に少ない印象です。プロテクトフィルターなどの使用によってはフレアが発生する場合もあるため、注意が必要です。
ボケ味:
開放F2.8の明るさは、美しいボケ味を表現する上で大きな武器となります。特に望遠端の105mm F2.8は、フルサイズセンサーとの組み合わせで非常に大きなボケ量を得ることが可能です。
このレンズのボケ味は、非常に柔らかく滑らかです。ピント面からアウトフォーカスにかけて、被写体が自然に溶け込んでいくような描写が得られます。玉ボケについては、11枚の絞り羽根を採用しているため、絞っても比較的に円形に近い形状を保ちます。ただし、広角端の開放付近では、画面周辺部で玉ボケが欠ける「口径食」が見られる場合があります。これは大口径広角レンズの構造上ある程度避けられない現象です。望遠端では口径食は目立たなくなり、より綺麗な玉ボケが得られます。
後ボケはもちろんのこと、前ボケも比較的滑らかで、不快な二線ボケやエッジの立ったボケは抑えられています。人物撮影やテーブルフォトなど、背景を効果的にぼかしたいシーンで、その表現力を最大限に発揮するでしょう。最短撮影距離0.45m(広角端)/0.80m(望遠端)と、寄れる距離もそれなりにあるため、被写体に近づいて背景を大きくぼかすといった表現も可能です。望遠端105mmでの最大撮影倍率0.33倍は、標準ズームとしては比較的高い倍率で、簡易的なマクロ撮影にも活用できます。
AF性能
オートフォーカス性能は、現代のレンズ、特にプロフェッショナル向けのLレンズにとって非常に重要な要素です。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、キヤノン独自のリングUSM(超音波モーター)を搭載しており、高速かつ高精度なAF駆動を実現しています。
リングUSMは、非常に迅速な応答性と高いトルクを特徴としており、動体撮影におけるAF追従性能に優れています。静止画撮影においては、一瞬のシャッターチャンスを逃すことなく、狙った被写体にピントを合わせることができます。特にEOS Rシリーズの進化したAFシステム(被写体検出AFなど)と組み合わせることで、人物の瞳や動物、乗り物などを正確に追尾し続けます。
さらに、このレンズは「電子式フローティングフォーカス制御」を採用しています。これは、フォーカス群が複数に分かれており、それらを独立して電子的に制御することで、フォーカス全域における収差変動を抑え、高画質を維持する技術です。これにより、最短撮影距離から無限遠まで、安定したシャープな描写が得られます。また、フローティング機構はフォーカス時のレンズ群の移動量を最適化するため、AF速度の向上にも貢献します。
動画撮影においても、このAF性能は非常に重要です。リングUSMは静粛性にも優れており、駆動音が録音されてしまう心配はほとんどありません。また、電子式フローティングフォーカス制御によって、フォーカス時の画角変動(ブリージング)が効果的に抑制されています。これは、動画撮影中にフォーカス位置を大きく移動させた際に、まるでズームしているかのように画角が変化してしまう現象で、映像の品質を低下させる要因となります。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、このブリージングを非常に小さく抑え込んでいるため、滑らかで自然なフォーカス送りが可能となり、プロフェッショナルな動画制作に対応できます。
手ブレ補正機構 (IS)
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、高性能なレンズ内手ブレ補正機構(IS)を搭載しています。キヤノンによると、レンズ単体での手ブレ補正効果は5.5段分です。これは、手持ち撮影において、より遅いシャッタースピードでブレを抑えて撮影できることを意味し、低照度下での撮影や、手持ちでの動画撮影において非常に有効です。
さらに、EOS Rシリーズのボディ内手ブレ補正機構(IBIS)を搭載したモデル(EOS R3, R5, R6 Mark IIなど)と組み合わせた場合、レンズISとボディ内ISが協調制御される「協調IS」が機能します。これにより、最大で8.0段分という驚異的な手ブレ補正効果を発揮します(EOS R3使用時など、ボディによって効果段数は異なります)。8.0段分の補正効果があれば、理論上は例えば通常1/100秒必要なシーンで、1秒のシャッタースピードでも手ブレなく撮影できる可能性を示唆しており、実際には数秒の手持ち撮影でもブレを抑えることができる場合もあります。これにより、夜景や星景写真など、従来は三脚が必須だったシーンでも手持ちで対応できる可能性が広がります。
動画撮影においても、この手ブレ補正効果は非常に重要です。手持ちで歩きながら撮影する際など、レンズISとボディ内IS、そして電子ISを組み合わせることで、ジンバルなしでも安定した映像を得ることが期待できます。ISモードとしては、静止画撮影用のモード1(常にIS作動)、流し撮り用のモード2(特定の方向の手ブレのみ補正)、そして動画撮影に適したモード3(露光中のみIS作動)などを切り替えられるのが一般的です。本レンズがどのモードに対応しているかは仕様を確認する必要がありますが、最新のLレンズとして動画撮影に特化したISモードを備えている可能性は高いでしょう。
手ブレ補正機構は、特に望遠端の105mm側で効果を実感しやすくなります。焦点距離が長くなるほど手ブレは目立ちやすくなるため、105mm F2.8というスペックを最大限に活かす上で、この強力なISは必要不可欠な機能と言えます。
操作性とビルドクオリティ
RFレンズのLシリーズは、プロの使用を想定した高いビルドクオリティと優れた操作性を特徴としています。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zも、その伝統を受け継ぎ、堅牢で信頼性の高い作りとなっています。
レンズの外装は高品質な金属やエンジニアリングプラスチックを使用しており、手にした際の質感も非常に高いです。ズームリング、フォーカスリング、そしてRFレンズ独自のコントロールリングは、それぞれ適切なトルク感を持っており、滑らかに操作できます。ズームリングは自重で伸びてしまうのを防ぐズームロック機構を備えています。
コントロールリングには、絞りやISO感度、露出補正などの機能を割り当てることができ、撮影スタイルに合わせてカスタマイズすることで、より直感的な操作が可能となります。フォーカスリングは、電子制御式ですが、リニアな応答性を持っており、MF撮影時にも精密なピント合わせが可能です。
そして、このレンズ最大の操作性に関する特長が、パワーズームアダプターPZ-E2/E2Bへの対応です。レンズ鏡筒の側面に、パワーズームアダプター装着用の端子とネジ穴が設けられています。アダプターを装着することで、ズームリングを手動で回すのではなく、アダプター側のボタンやレバー、あるいは対応するカメラボディやリモートコントローラーから、非常に滑らかな電動ズーム操作が可能になります。
パワーズームアダプターPZ-E2はUSB-C端子からの給電・操作に対応し、PZ-E2Bはさらにキヤノンのビデオカメラ用ズームリモートコントローラーや外部電源(DC IN)にも対応しており、プロフェッショナルな映像制作環境への組み込みを容易にします。電動ズームは、特にドキュメンタリーやイベント撮影など、ズーム速度を一定に保ちたいシーンや、ジンバルに載せた状態でのズーム操作などにおいて、手動ズームでは得られないスムーズで安定した映像表現を実現します。この機能は、動画撮影を重視するユーザーにとっては非常に大きなアドバンテージとなるでしょう。
防塵防滴構造も採用されており、小雨や砂埃などの悪条件下でも安心して撮影できます。レンズの最前面と最後面には、油や水滴をはじき、清掃を容易にするフッ素コーティングが施されています。これにより、屋外でのタフな使用にも対応し、レンズのメンテナンスも容易に行えます。
サイズ(φ約88.5mm × 約199mm)と質量(約1330g)は、標準ズームとしてはかなり大きくて重い部類に入ります。特に動画撮影でジンバルに載せる場合などは、ペイロードの確認が必要です。しかし、F2.8通しの105mmというスペックを考えれば、妥協できない部分と言えるでしょう。三脚座が付属しており、重量級レンズのため三脚や一脚を使用する際にはバランスを取りやすくなっています。
動画撮影における強み
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、静止画性能が高いだけでなく、動画撮影においても多くの強みを持っています。近年のミラーレスカメラは動画機能も著しく進化しており、このレンズはその高性能な動画機能を最大限に引き出すために設計されていると言えます。
- 焦点距離24-105mmの汎用性: 広角から中望遠までをカバーするこの焦点距離レンジは、動画撮影においても非常に使いやすいです。広角で場の雰囲気を収めたり、手持ちで動きのある映像を撮ったり、望遠側で被写体をクローズアップしたりと、一本のレンズで様々なシーンに対応できます。レンズ交換の手間が省けるため、撮影のリズムを崩さず、素早く状況に対応できます。
- F2.8通しの明るさ: 動画撮影では、シャッタースピードがフレームレートによって制約されることが多いため、明るいレンズは低照度下で非常に有利です。ISO感度を上げすぎずに済むため、ノイズの少ないクリアな映像が得られます。また、F2.8の開放絞りを利用することで、被写界深度の浅い、背景を大きくぼかした表現が可能となり、被写体を印象的に浮かび上がらせることができます。
- 静かで滑らかなAF駆動: 動画撮影中のAF駆動音は、内蔵マイクや外部マイクで拾ってしまうと映像の品質を著しく損ないます。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zに搭載されているUSMモーターは、静粛性に優れており、動画撮影中でもAF駆動音はほとんど気になりません。また、RFマウントとEOS RシリーズのボディによるデュアルピクセルCMOS AF IIとの連携により、被写体への追従性も非常に高く、滑らかで自然なフォーカスを実現します。
- ブリージング抑制: 前述の通り、電子式フローティングフォーカス制御により、フォーカス時の画角変動(ブリージング)が非常に小さく抑えられています。動画撮影中にフォーカスポイントが移動したり、マニュアルフォーカスでピントを送ったりする際に、画面のサイズが不自然に変化するのを防ぎ、プロフェッショナルな映像表現を可能にします。
- パワーズームアダプター対応: これがこのレンズを動画撮影レンズとして特徴づける最大のポイントです。パワーズームアダプターPZ-E2/E2Bを装着することで、非常にスムーズで安定した電動ズーム操作が可能になります。速度を細かく調整できるため、演出意図に沿った緩やかなズームイン/アウトや、被写体への急なクローズアップなど、手動では難しい表現が可能になります。特に、プロフェッショナルな映像制作においては、電動ズームによる滑らかな操作は標準的な要求仕様となることが多く、このレンズはその要求に応えることができます。また、アダプターを介して外部からのリモート操作も可能となるため、クレーンやスライダーに載せた状態での遠隔操作など、より高度な撮影スタイルにも対応します。
- 強力な手ブレ補正: レンズISとボディ内ISの協調制御による最大8.0段分の手ブレ補正は、動画撮影時にも効果を発揮します。特に手持ちでのパンやチルト、フォロー撮影などにおいて、映像の揺れを大幅に軽減し、安定した映像を得ることができます。三脚やジンバルが使用できないような状況でも、ブレを抑えた撮影が可能となります。
これらの特長により、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、静止画撮影の「標準」であると同時に、プロフェッショナルな動画制作においても強力な武器となり得る、まさにハイブリッドな標準ズームレンズと言えます。
他のRF標準ズームレンズとの比較
キヤノンRFシステムには、RF24-105mm F2.8 L IS USM Z以外にも、いくつかの優れた標準ズームレンズが存在します。ここでは、特にLレンズであるRF24-70mm F2.8 L IS USMとRF24-105mm F4 L IS USMとの比較を通じて、本レンズの位置付けを明確にします。
vs RF24-70mm F2.8 L IS USM:
特徴 | RF24-105mm F2.8 L IS USM Z | RF24-70mm F2.8 L IS USM |
---|---|---|
焦点距離 | 24-105mm | 24-70mm |
開放絞り | F2.8 (通し) | F2.8 (通し) |
手ブレ補正 (レンズ単体) | 5.5段 | 5段 |
手ブレ補正 (協調IS) | 8.0段 (最大) | 8.0段 (最大) |
最短撮影距離 | 0.45m (24mm), 0.80m (105mm) | 0.21m (24mm), 0.38m (70mm) |
最大撮影倍率 | 0.08倍 (24mm), 0.33倍 (105mm) | 0.30倍 (70mm) |
フィルター径 | φ82mm | φ82mm |
サイズ | φ約88.5×199mm | φ約88.5×126mm |
質量 | 約1330g | 約900g |
パワーズームアダプター | 対応 | 非対応 |
価格帯 | 高価 | 中~高価 |
比較すると、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zの最大の強みは、望遠端が105mmまで伸びることです。70mmまでか105mmまでかというのは、ポートレート撮影や、少し離れた被写体を引き寄せたい場合に大きな違いとなります。105mm F2.8は、70mm F2.8よりもさらに大きなボケ量と圧縮効果を得られるため、表現の幅が広がります。
一方で、RF24-70mm F2.8 L IS USMは、より小型・軽量であり、最短撮影距離が短い(特に広角端21cm)という特長があります。テーブルフォトや近接撮影が多い場合は、RF24-70mm F2.8の方が使いやすいでしょう。光学性能については、どちらもF2.8通しのLレンズとして非常に高いレベルにありますが、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは後発だけあり、ブリージング抑制など動画撮影に配慮した点で優位性があります。パワーズームアダプター対応も、動画クリエイターにとっては決定的な違いとなります。
選択のポイントは、望遠端105mmが必要かどうか、携帯性を重視するか、そして動画撮影における電動ズームやブリージング抑制をどれだけ重視するか、という点になるでしょう。
vs RF24-105mm F4 L IS USM:
特徴 | RF24-105mm F2.8 L IS USM Z | RF24-105mm F4 L IS USM |
---|---|---|
焦点距離 | 24-105mm | 24-105mm |
開放絞り | F2.8 (通し) | F4 (通し) |
手ブレ補正 (レンズ単体) | 5.5段 | 5段 |
手ブレ補正 (協調IS) | 8.0段 (最大) | 8.0段 (最大) |
最短撮影距離 | 0.45m (24mm), 0.80m (105mm) | 0.45m (24mm), 0.80m (105mm) |
最大撮影倍率 | 0.08倍 (24mm), 0.33倍 (105mm) | 0.08倍 (24mm), 0.24倍 (105mm) |
フィルター径 | φ82mm | φ77mm |
サイズ | φ約88.5×199mm | φ約83.5×107.3mm |
質量 | 約1330g | 約700g |
パワーズームアダプター | 対応 | 非対応 |
価格帯 | 高価 | 比較的安価 |
RF24-105mm F4 L IS USMは、同じ焦点距離レンジを持ちながら、開放F値がF4となります。これにより、大幅な小型・軽量化と低価格化を実現しています。質量は本レンズの約半分、長さも半分強と、携帯性は非常に優れています。価格もLレンズとしては比較的入手しやすい設定です。
F4とF2.8の差は、主に低照度性能とボケ量に現れます。F2.8はF4よりも一段明るいため、より低照度下での撮影に強く、大きなボケ量を得られます。特に望遠端105mmでのボケ量は、F2.8とF4では大きく異なります。ポートレートで大きく背景をぼかしたい場合は、F2.8の方が有利です。
光学性能については、RF24-105mm F4 L IS USMもLレンズとして非常に高い描写力を持っていますが、F2.8通しの本レンズは、より高度な光学設計と贅沢なレンズ構成によって、一段上の解像性能や収差補正を実現しています。
RF24-105mm F4 L IS USMは、携帯性を重視するユーザーや、開放F値の明るさよりも汎用性とLレンズの基本性能を求めるユーザーにとって、コストパフォーマンスに優れた魅力的な選択肢です。一方、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、開放F2.8の明るさによる表現力、最高レベルの光学性能、そして動画撮影における強力なサポート機能を求めるユーザーにとって、まさにフラッグシップとなる標準ズームです。
また、キヤノンRFシステムには、さらに小型軽量で安価なRF24-50mm F4.5-6.3 IS STMやRF24-105mm F4-7.1 IS STMといった非Lレンズの標準ズームも存在します。これらは、価格やサイズを最優先するエントリーユーザー向けのレンズであり、光学性能やビルドクオリティ、開放F値の明るさにおいてはLレンズとは明確な差があります。Lレンズは、より高い解像度、優れた収差補正、堅牢な構造、防塵防滴性能、そして安定した描写性能を求めるユーザーに向けたラインナップです。
想定されるユーザーと最適な撮影シーン
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、そのスペックと性能から、主に以下のようなユーザーや撮影シーンに最適です。
- プロフェッショナルフォトグラファー:
- 報道・イベント撮影: 広角から中望遠までをカバーする汎用性とF2.8通しの明るさは、様々な状況に迅速に対応する必要のある報道やイベント撮影において非常に強力です。低照度下でも安心して撮影でき、被写体を際立たせるボケ表現も可能です。
- ウェディング撮影: 挙式会場や披露宴会場といった屋内での撮影、そしてポートレート撮影など、幅広いシーンで一本で対応できます。F2.8の明るさによる背景ボケは、新郎新婦を美しく引き立てます。
- ポートレート撮影: 105mm F2.8は、背景を効果的にぼかし、被写体を印象的に描写するのに最適なスペックです。屋内外問わず、美しいポートレートを撮影できます。
- 風景・スナップ撮影: 24mmの広角端は壮大な風景を捉えるのに適しており、105mmの望遠端は遠景のディテールを引き寄せたり、圧縮効果を活かした表現をしたりするのに役立ちます。高い解像性能は、風景の細部まで克明に描写します。
- ハイアマチュアユーザー:
- 旅行・散歩: 一本で幅広いシーンに対応できるため、荷物を減らしたい旅行や散歩に最適です。F2.8の明るさで、夕暮れ時や夜景も手持ちで撮影しやすくなります。
- 家族・子供撮影: 動き回る子供やペットの撮影において、高速AFと手ブレ補正が活躍します。望遠端で自然な表情を捉えたり、開放F値で背景をぼかして主役を引き立てたりといった表現が楽しめます。
- 作品制作: 高い光学性能と表現力は、作品制作に真剣に取り組むハイアマチュアユーザーの期待に応えます。思い通りの描写を追求できます。
- プロフェッショナル・ハイアマチュア映像クリエイター:
- ドキュメンタリー・イベント映像: 汎用性の高い焦点距離とF2.8の明るさ、そしてパワーズームアダプター対応は、変化の多い現場での撮影において非常に強力です。スムーズな電動ズームはプロレベルの映像制作に必須です。
- ミュージックビデオ・短編映画: 意図的なボケ表現、低照度性能、そしてブリージング抑制による自然なフォーカス送りが、映像表現の幅を広げます。
- YouTubeなどの動画コンテンツ制作: 一本のレンズで様々な画角をカバーし、高品質な映像を手軽に撮影したいクリエイターに適しています。
このように、RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、幅広い用途で最高の性能を求めるユーザーにとって、非常に魅力的な選択肢となります。特に、静止画・動画の双方を高いレベルで追求したいユーザーにとっては、これ以上ない標準ズームと言えるでしょう。
価格は高価ですが、この一本で多くの撮影シーンに対応できること、そしてその卓越した性能を考慮すれば、プロフェッショナルにとっては投資に見合う価値のあるレンズと言えます。アマチュアユーザーにとっても、将来を見据えた最高の標準ズームとして、あるいは特別な一本として所有する価値のあるレンズです。
まとめと結論
キヤノン RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、RFマウントの可能性を最大限に引き出し、「標準ズーム」の概念を新たな次元へと引き上げる、まさにゲームチェンジャーとも言えるレンズです。焦点距離24mmから105mmという汎用性の高いレンジをカバーしながら、全域F2.8という明るさを実現し、さらにプロフェッショナルな動画撮影にも対応するパワーズームアダプターへの対応を果たしました。
その光学性能は、Lレンズの基準をさらに押し上げるレベルです。広角端から望遠端まで、開放F2.8から絞り込んだ状態まで、画面全体にわたり非常に高い解像性能と優れた収差補正を実現しています。4枚のUDレンズと5枚の非球面レンズ、そしてASC、SWCといった先進コーティング技術の投入は伊達ではありません。クリアで抜けの良い描写、柔らかく美しいボケ味は、撮影者のイメージを忠実に、あるいはそれ以上に美しく再現してくれます。
AF性能は高速・高精度で、最新のEOS Rボディとの組み合わせにより、難しい被写体でも確実に捉えます。動画撮影における静粛性やブリージング抑制も、プロユースを意識した設計と言えるでしょう。レンズ単体で5.5段分、ボディ協調で最大8.0段分という強力な手ブレ補正は、手持ち撮影の可能性を大きく広げます。
操作性やビルドクオリティも、Lレンズにふさわしい堅牢さと信頼性を備えています。防塵防滴構造やフッ素コーティングは、様々な撮影環境での使用を想定したものです。そして何より、パワーズームアダプター対応による電動ズームは、動画撮影における表現の幅と効率を大きく向上させます。
確かに、約1330gという質量や50万円前後の価格は、気軽に手が出せるものではありません。サイズも、特にコンパクトさを求めるユーザーにとっては大きく感じられるかもしれません。しかし、このレンズが提供する性能と汎用性を考えれば、その価格とサイズは十分に納得できるものです。この一本で、静止画も動画も、広角から中望遠まで、低照度下でも明るい場所でも、最高レベルのクオリティで対応できるのですから。
RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、これまでの「標準ズーム」の枠を超え、静止画・動画の双方におけるハイエンドな要求に応える、新たな時代の標準レンズと言えるでしょう。特に、一本のレンズで多様な表現を追求したいプロフェッショナルや、最高レベルの描写力と動画機能を兼ね備えたレンズを探しているクリエイターにとって、現時点でのRFマウントにおける究極の標準ズームレンズであり、非常に魅力的な選択肢となります。
キヤノンのRFシステムは、このRF24-105mm F2.8 L IS USM Zの登場により、さらにその魅力を増しました。今後も、RFマウントの特性を活かした革新的なレンズが登場することへの期待が高まります。RF24-105mm F2.8 L IS USM Zは、間違いなくキヤノンレンズ史に名を刻む一本となるでしょう。その実力を、ぜひあなたの目で、そして作品で体感してみてください。