共振回路入門:初心者でもわかる基本原理


共振回路入門:初心者でもわかる基本原理

はじめに:見えない力を操る「共振」の世界へようこそ

ラジオのダイヤルを回して、聞きたい放送局にピタッと合わせる。携帯電話で特定の周波数の電波だけをキャッチする。電子レンジで食品の水分だけを温める。これら、一見バラバラに見える現象の裏には、すべて「共振(きょうしん)」という共通の物理現象が深く関わっています。

特に電気の世界では、「共振回路」は非常に基本的でありながら、その応用範囲は広大です。通信機器、オーディオ機器、医療機器、産業用装置など、私たちの身の回りにある多くのエレクトロニクス製品で、共振回路は重要な役割を果たしています。

しかし、「共振回路」と聞くと、「難しそう」「数式がたくさん出てくるんでしょ?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、その理論を深く掘り下げると高度な数学が必要になる場面もありますが、基本的な原理は決して難しくありません。むしろ、とても直感的で、身近な現象に例えて理解することができます。

この入門記事では、電気の初心者の方でも共振回路の基本原理をしっかり理解できるよう、丁寧かつ詳細に解説していきます。専門用語は避け、図や例え話を多く使いながら、なぜ共振が起こるのか、そしてそれが電気回路でどのような働きをするのかを紐解いていきましょう。

記事を読み終える頃には、きっと共振回路がエレクトロニクスの中でいかに巧妙に使われているかを知り、その魅力に気づくことができるはずです。さあ、一緒に「共振」という見えない力の探求に出かけましょう。

第1章:共振回路を理解するための基礎知識 ~交流回路の基本~

共振回路は主に、交流(AC: Alternating Current)と呼ばれる時間と共に大きさと向きが変化する電気信号を扱います。共振回路を理解するためには、まず交流回路における基本的な部品である「抵抗」「コイル」「コンデンサ」の働きを理解しておく必要があります。これらは中学校や高校の理科や物理で習ったかもしれませんが、交流回路での特別な振る舞いをここでもう一度確認しておきましょう。

1.1 交流(AC)とは?

私たちが家庭で使っている電気は、ほとんどが交流です。乾電池のような直流(DC: Direct Current)が常に一定の電圧・電流であるのに対し、交流は例えば1秒間に50回や60回といった速さで、プラスとマイナスの電圧・電流を繰り返します。この繰り返しの速さを「周波数(しゅうはすう)」といい、単位はヘルツ(Hz)で表されます。1Hzは1秒間に1回の繰り返しです。

交流信号の波形は、一般的に正弦波(サインカーブ)で表されます。電圧や電流は時間と共に滑らかに増減し、向きを反転させます。

1.2 抵抗(R)の働き

抵抗器(Resistor)は、電流の流れを妨げる部品です。抵抗の大きさはオーム(Ω)という単位で表されます。抵抗器に電圧をかけると、流れる電流の大きさはオームの法則(V = IR)に従います。

交流回路においても、抵抗の基本的な働きは変わりません。加えた交流電圧と流れる交流電流は、常に比例関係にあり、電圧の波形と電流の波形は全く同じタイミングで変化します。つまり、抵抗においては「位相(いそう)」のずれがありません。電圧が最大になる時に電流も最大になり、電圧がゼロになる時に電流もゼロになります。

抵抗は電気エネルギーを熱として消費します。これは交流でも直流でも同じです。

1.3 コイル(L)の働き ~インダクタンスと誘導性リアクタンス~

コイル(Inductor)は、電線をぐるぐると巻いた部品です。コイルの周りに電流が流れると磁場が発生し、磁場が変化するとその変化を妨げる方向に電圧が発生するという性質(電磁誘導)を持っています。コイルのこの性質の度合いを「インダクタンス」といい、単位はヘンリー(H)で表されます。

交流回路では、電流が常に変化しているため、コイルの周りの磁場も常に変化します。この磁場変化がコイル自身に電圧を発生させ、元の電流変化を妨げようとします。この妨げの度合いを「誘導性リアクタンス」(ゆうどうせいリアクタンス)といい、$X_L$で表されます。単位は抵抗と同じオーム(Ω)です。

誘導性リアクタンス $X_L$ は、交流信号の周波数 $f$ とコイルのインダクタンス $L$ に比例します。

$X_L = 2 \pi f L$

この式からわかるように、周波数が高くなるほど、あるいはインダクタンスが大きいほど、誘導性リアクタンス $X_L$ は大きくなり、コイルは交流電流を通しにくくなります。

そして、コイルのもう一つ重要な働きは、交流電圧と交流電流の間に位相のずれを生じさせることです。理想的なコイルでは、電圧の波形に対して電流の波形は90度遅れて現れます。電圧が最大になったときに電流はまだゼロで、電圧がゼロになったときに電流が最大(または最小)になります。

コイルは電気エネルギーを磁場のエネルギーとして蓄えることができます。

1.4 コンデンサ(C)の働き ~静電容量と容量性リアクタンス~

コンデンサ(Capacitor)は、2枚の導体(電極)を絶縁体(誘電体)で挟んだ構造の部品です。コンデンサに電圧をかけると、電極に電荷が蓄えられ、電気エネルギーを静電場(電場)として蓄えることができます。電荷を蓄えられる能力の度合いを「静電容量」(せいでんようりょう)といい、単位はファラド(F)で表されます。

交流回路では、電圧が常に変化しているため、コンデンサは絶えず充電と放電を繰り返します。電圧が上昇すると充電され、電圧が下降すると放電されます。この充電・放電のしやすさ、すなわち交流電流の通しやすさを「容量性リアクタンス」(ようりょうせいリアクタンス)といい、$X_C$で表されます。単位は抵抗と同じオーム(Ω)です。

容量性リアクタンス $X_C$ は、交流信号の周波数 $f$ とコンデンサの静電容量 $C$ に反比例します。

$X_C = \frac{1}{2 \pi f C}$

この式からわかるように、周波数が高くなるほど、あるいは静電容量が大きいほど、容量性リアクタンス $X_C$ は小さくなり、コンデンサは交流電流を通しやすくなります。 逆に、周波数が低くなるほど、あるいは静電容量が小さいほど、交流電流を通しにくくなります。直流(周波数0Hz)に対しては、$X_C$は無限大となり、理想的なコンデンサは直流を通しません。

コンデンサのもう一つ重要な働きは、交流電圧と交流電流の間に位相のずれを生じさせることです。理想的なコンデンサでは、電圧の波形に対して電流の波形は90度進んで現れます。電圧がゼロになったときに電流が最大(または最小)になり、電圧が最大になったときに電流はゼロになります。

コンデンサは電気エネルギーを静電場のエネルギーとして蓄えることができます。

1.5 インピーダンス(Z)とは?

抵抗(R)、コイル(L)、コンデンサ(C)は、交流回路において電流の流れを妨げる働きをしますが、その性質はそれぞれ異なります。抵抗は熱としてエネルギーを消費するのに対し、コイルとコンデンサはエネルギーを磁場や電場として蓄えたり放出したりするだけで、理想的にはエネルギーを消費しません。コイルとコンデンサによる電流の流れにくさをリアクタンス($X$)と総称します($X_L$と$X_C$)。

交流回路において、これら抵抗成分とリアクタンス成分を合わせた、電流の流れにくさ全体を表すのが「インピーダンス」(Impedance)です。インピーダンスは $Z$ で表され、単位はオーム(Ω)です。

直流回路における抵抗(R)が電流の流れにくさを表す唯一の指標だったのに対し、交流回路では抵抗(R)とリアクタンス(X)の両方が電流の流れにくさに関係するため、これをまとめてインピーダンス(Z)と呼ぶのです。インピーダンスは大きさと同時に、電圧と電流の間の位相差も含んだ概念であり、複素数で表現されることが多いですが、初心者の方はまず「交流回路における電流の流れにくさ」というイメージで捉えてください。

コイルの誘導性リアクタンス $X_L$ とコンデンサの容量性リアクタンス $X_C$ は、電圧と電流の位相を互いに逆方向(+90度と-90度)にずらす性質を持っています。そのため、同じ回路の中にコイルとコンデンサが両方ある場合、それらのリアクタンスは互いに打ち消し合う方向に作用します。この性質が、共振現象の鍵となります。

第2章:共振回路とは何か? ~LとCが出会うとき~

基礎となるR, L, Cそれぞれの交流回路での働きを理解したところで、いよいよ共振回路の核心に迫ります。共振回路とは、基本的にコイル(L)とコンデンサ(C)を組み合わせた回路のことで、特定の周波数(共振周波数)において特別な振る舞いをします。

2.1 定義と構成要素

最も単純な共振回路は、コイル(L)とコンデンサ(C)だけを接続したものです。実際には、部品自体の抵抗成分や配線の抵抗成分が必ず存在するため、多くの場合、理想的なLとCに抵抗(R)が直列または並列に接続された回路として扱われます。これが「RLC回路」と呼ばれるものです。

2.2 なぜ共振が起こるのか? ~エネルギーのやり取り~

共振現象を理解する上で最も重要なのは、コイル(L)とコンデンサ(C)の間で電気エネルギーが「やり取り」されるという考え方です。

  • コンデンサ(C)は、電圧がかかると電荷を蓄え、電場としてエネルギーを保持します。
  • コイル(L)は、電流が流れると磁場を発生させ、磁場としてエネルギーを保持します。

交流回路では、コンデンサに蓄えられた電場エネルギーが放電によって電流となり、その電流がコイルに流れ込んで磁場エネルギーとして蓄えられます。そして、コイルに蓄えられた磁場エネルギーは、電流の変化を妨げる(維持しようとする)働きによって再びコンデンサに流れ込み、電場エネルギーとして蓄えられます。このエネルギーの移動が、コンデンサとコイルの間で交互に繰り返されるのです。

例えるなら、これはブランコの動きによく似ています。
1. ブランコを一番高く持ち上げた状態:位置エネルギーが最大(コンデンサに電荷が最大に溜まった状態に相当)。速度はゼロ。
2. ブランコが下りてくる:位置エネルギーが運動エネルギーに変換される(コンデンサの電荷が放電されて電流が流れ出す)。速度が増加。
3. ブランコが一番低い位置に来た状態:運動エネルギーが最大(コイルに流れる電流が最大になった状態に相当)。位置エネルギーは最小。
4. ブランコが上がり始める:運動エネルギーが位置エネルギーに変換される(コイルに蓄えられた磁場エネルギーがコンデンサを充電し始める)。速度が減少。
5. ブランコが反対側の一番高い位置に来た状態:位置エネルギーが再び最大(コンデンサに逆向きの電荷が最大に溜まった状態に相当)。速度はゼロ。

このエネルギーのやり取りは、摩擦や空気抵抗がなければ無限に続きます。電気回路においては、抵抗成分(R)が摩擦や空気抵抗に相当し、エネルギーを熱として少しずつ失わせていきます。しかし、外部から交流信号によってエネルギーを供給し続けると、このLとCの間でのエネルギーのやり取りが安定して持続します。

このLとCの間でのエネルギーのやり取りが最も効率よく行われる、すなわち、コイルとコンデンサが回路に与える影響が「釣り合う」特定の周波数が存在します。これが「共振周波数」です。

2.3 身近な共振の例え

  • ブランコ: 上述の通り。力を加えるタイミング(周波数)が、ブランコの自然な揺れの周期(共振周波数)と合うと、少ない力で大きく揺らすことができます。
  • 振り子: 長さによって決まる固有の揺れ周期(共振周波数)があります。
  • ギターやバイオリンの弦: 弦の長さ、太さ、張力によって決まる固有の振動周波数(共振周波数)があり、その周波数の音を出します。
  • ワイングラスをこすると鳴る音: グラスの形状や材質によって決まる固有の振動周波数(共振周波数)があり、指でこすって振動を与えると共鳴して音が出ます。
  • 地震と建物の揺れ: 地震の揺れの周期と建物の固有の揺れ周期(共振周波数)が一致すると、建物は大きく揺れて被害が拡大することがあります。
  • 電子レンジ: マイクロ波の周波数(約2.45GHz)を水の分子の固有振動数に合わせることで、水の分子だけを効率よく振動させて温めます。

これらの例からわかるように、共振とは「あるシステムが持つ固有の振動しやすい(応答しやすい)周波数に、外部からの刺激の周波数が一致したとき、応答が著しく大きくなる現象」です。電気回路における共振も、コイルとコンデンサが作るシステムの「固有の周波数」に、加えられた交流信号の周波数が一致したときに、回路の応答(電流や電圧)が特定の形で最大あるいは最小になる現象なのです。

電気回路における「共振周波数」では、コイルの誘導性リアクタンス ($X_L$) とコンデンサの容量性リアクタンス ($X_C$) の大きさが等しくなります。

$X_L = X_C$

$2 \pi f L = \frac{1}{2 \pi f C}$

この関係を満たす周波数 $f$ が共振周波数 $f_r$ です。この式を $f$ について解くと、共振周波数 $f_r$ を求める式が得られます。

$f_r^2 = \frac{1}{(2 \pi)^2 L C}$
$f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$

この式は、共振周波数がコイルのインダクタンス $L$ とコンデンサの静電容量 $C$ の積の平方根に反比例することを示しています。つまり、$L$や$C$の値が大きいほど、共振周波数は低くなります。逆に、$L$や$C$の値が小さいほど、共振周波数は高くなります。

例えば、$L=1\text{mH}$(ミリヘンリー, $10^{-3}\text{H}$)と$C=1\mu\text{F}$(マイクロファラド, $10^{-6}\text{F}$)を組み合わせた回路の共振周波数を計算してみましょう。

$f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{10^{-3} \times 10^{-6}}} = \frac{1}{2 \pi \sqrt{10^{-9}}} = \frac{1}{2 \pi \sqrt{10 \times 10^{-10}}} = \frac{1}{2 \pi \times 10^{-5} \sqrt{10}}$
$f_r \approx \frac{1}{6.28 \times 3.16 \times 10^{-5}} \approx \frac{1}{19.8 \times 10^{-5}} \approx \frac{1}{1.98 \times 10^{-4}} \approx 0.505 \times 10^4 \text{ Hz} \approx 5050 \text{ Hz} \approx 5.05 \text{ kHz}$

このように、$L$と$C$の値が決まれば、共振周波数は一意に決まります。

第3章:直列共振回路

共振回路の最も基本的な構成の一つが、抵抗(R)、コイル(L)、コンデンサ(C)を直列に接続した「直列RLC回路」です。この回路に交流電圧を加えたときに、周波数によって回路全体のインピーダンスや流れる電流がどのように変化するのかを見ていきましょう。

3.1 回路構成

抵抗R、コイルL、コンデンサCが電源に対して直列に接続されています。

[電源] --- [R] --- [L] --- [C] --- [電源に戻る]

直列回路なので、回路全体に流れる電流はどの部品を通っても同じです。しかし、それぞれの部品にかかる電圧は異なります。全体の電圧は、Rにかかる電圧、Lにかかる電圧、Cにかかる電圧を(位相を考慮して)足し合わせたものになります。

3.2 インピーダンスの周波数特性

直列RLC回路全体のインピーダンス $Z$ は、各部品のインピーダンスを足し合わせることで求められます。交流回路では、抵抗は実数成分、コイルのリアクタンスは虚数成分(正)、コンデンサのリアクタンスは虚数成分(負)として扱うことができます。

抵抗のインピーダンス:$Z_R = R$
コイルのインピーダンス:$Z_L = j X_L = j 2 \pi f L$ ($j$は虚数単位)
コンデンサのインピーダンス:$Z_C = -j X_C = -j \frac{1}{2 \pi f C}$

直列回路全体のインピーダンス $Z_{series}$ はこれらの和になります。

$Z_{series} = Z_R + Z_L + Z_C = R + j X_L – j X_C = R + j (X_L – X_C)$

インピーダンスの大きさ(絶対値)$|Z_{series}|$ は、三平方の定理のように求めることができます。

$|Z_{series}| = \sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}$

この式を見てください。(X_L – X_C) という項がありますね。これは、コイルの誘導性リアクタンスとコンデンサの容量性リアクタンスの差です。思い出してください、$X_L$ は周波数が高くなると大きくなり、$X_C$ は周波数が高くなると小さくなります。

  • 周波数が低いとき: $X_L$は小さく、$X_C$は大きい。したがって、$X_L – X_C$ は負で、その絶対値は大きい。インピーダンス $|Z_{series}|$ は大きくなります(主に$X_C$の影響)。
  • 周波数が高いとき: $X_L$は大きく、$X_C$は小さい。したがって、$X_L – X_C$ は正で、その絶対値は大きい。インピーダンス $|Z_{series}|$ は大きくなります(主に$X_L$の影響)。
  • 特定の周波数(共振周波数 $f_r$)のとき: $X_L = X_C$ となります。したがって、$X_L – X_C = 0$ となります。

この共振周波数 $f_r$ における直列回路のインピーダンス $|Z_{series}|$ はどうなるでしょうか?

$|Z_{series}| = \sqrt{R^2 + (0)^2} = \sqrt{R^2} = R$

つまり、直列RLC回路では、共振周波数において、回路全体のインピーダンスが最小になり、その値は抵抗Rの値と等しくなります。 リアクタンス成分がお互いに打ち消し合い、電流の流れを妨げるのは抵抗成分だけになるからです。

共振周波数から離れると、インピーダンスは再び増加します。周波数対インピーダンスのグラフを書くと、共振周波数 $f_r$ のところで谷を作るような形になります。

3.3 共振時の特性

直列RLC回路に、様々な周波数の交流電圧を加えた場合を考えます。加える電圧の大きさは一定とします。オームの法則から、回路に流れる電流の大きさ $I$ は $I = V / |Z_{series}|$ で求まります。

$I = \frac{V}{\sqrt{R^2 + (X_L – X_C)^2}}$

  • 周波数が共振周波数 $f_r$ のとき: インピーダンス $|Z_{series}|$ は最小値Rになります。したがって、流れる電流 $I$ は最大になります。
    $I_{max} = \frac{V}{R}$
    もし抵抗Rが非常に小さければ、共振時には非常に大きな電流が流れる可能性があります。

  • 周波数が共振周波数 $f_r$ 以外のとき: インピーダンス $|Z_{series}|$ はRよりも大きくなるため、流れる電流 $I$ は小さくなります。

つまり、直列共振回路は、共振周波数の電流だけを最もよく通すという性質を持っています。

また、共振時には $X_L = X_C$ なので、コイルにかかる電圧 $V_L = I \times X_L$ とコンデンサにかかる電圧 $V_C = I \times X_C$ は、大きさが等しくなります。さらに、コイルの電圧は電流より90度進み、コンデンサの電圧は電流より90度遅れるため、これらの電圧は互いに逆位相(180度ずれている)となります。そのため、LとCの両端にかかる電圧を合成するとゼロになります。回路全体にかかる電圧は、抵抗Rにかかる電圧 $V_R = I \times R$ と等しくなります。そして、共振時には $I_{max} = V/R$ ですから、$V_R = (V/R) \times R = V$ となり、電源電圧V全体が抵抗Rにかかることになります。

特に興味深いのは、共振周波数において、コイルにかかる電圧 $V_L$ およびコンデンサにかかる電圧 $V_C$ が、電源電圧Vよりもはるかに大きくなる場合があるということです。

$V_L = I_{max} \times X_L = \frac{V}{R} \times X_L$
$V_C = I_{max} \times X_C = \frac{V}{R} \times X_C$

もしRが非常に小さく、$X_L$や$X_C$(共振周波数での値)が比較的大きい場合、$\frac{X_L}{R}$や$\frac{X_C}{R}$の値が1より大きくなり、コイルやコンデンサの端子電圧が電源電圧を上回ることがあります。この現象は「電圧拡大」または「電圧共振」と呼ばれ、直列共振回路の重要な特徴の一つです。

3.4 まとめ:直列共振回路

  • 構成:R、L、Cを直列接続。
  • 共振条件:$X_L = X_C$
  • 共振周波数 $f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$
  • 共振時インピーダンス:最小値 $R$
  • 共振時電流:最大値 $V/R$
  • 共振時電圧:LやCの端子電圧が電源電圧より大きくなる場合がある(電圧拡大)。
  • 用途:特定の周波数の信号だけを取り出したい場合(フィルタ回路のバンドパスフィルタ、ラジオの選局回路など)に使われることがあります。電流が最大になる特性を利用します。

第4章:並列共振回路

もう一つの基本的な共振回路の構成が、抵抗(R)、コイル(L)、コンデンサ(C)を並列に接続した「並列RLC回路」です。直列共振回路とは対照的な振る舞いをするのが特徴です。

4.1 回路構成

抵抗R、コイルL、コンデンサCが電源に対して並列に接続されています。

[電源] ---+--- [R] ---+--- [電源に戻る]
| |
[L] [C]
| |
---+-------+---

並列回路なので、各枝(Rの枝、Lの枝、Cの枝)にかかる電圧は電源電圧と等しくなります(理想的な場合)。しかし、電源から供給される電流は、これらの枝に流れる電流(Rに流れる電流 $I_R$、Lに流れる電流 $I_L$、Cに流れる電流 $I_C$)を(位相を考慮して)足し合わせたものになります。

4.2 インピーダンスの周波数特性

並列RLC回路全体のインピーダンス $Z_{parallel}$ は、各枝のインピーダンスの逆数(アドミタンス)を足し合わせて、その逆数を取ることで求められます。計算は直列の場合より少し複雑になりますが、ここでは結果と挙動を重点的に説明します。

$Z_{parallel} = \frac{1}{\frac{1}{Z_R} + \frac{1}{Z_L} + \frac{1}{Z_C}} = \frac{1}{\frac{1}{R} + \frac{1}{j X_L} + \frac{1}{-j X_C}} = \frac{1}{\frac{1}{R} – j \frac{1}{X_L} + j \frac{1}{X_C}} = \frac{1}{\frac{1}{R} + j (\frac{1}{X_C} – \frac{1}{X_L})}$

この式において、虚数部分がゼロになる条件、つまりリアクタンス成分が打ち消し合う条件が共振です。

$\frac{1}{X_C} – \frac{1}{X_L} = 0 \implies \frac{1}{X_C} = \frac{1}{X_L} \implies X_L = X_C$

やはり、並列RLC回路においても、共振条件は $X_L = X_C$ です。 したがって、共振周波数 $f_r$ の計算式は直列回路と同じになります。

$f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$

共振周波数 $f_r$ において、虚数部分がゼロになるので、インピーダンス $Z_{parallel}$ は実数だけになります。

$Z_{parallel} = \frac{1}{\frac{1}{R} + j (0)} = \frac{1}{\frac{1}{R}} = R$

ただし、この式はR, L, Cが理想的な並列接続である場合の単純化されたものです。実際には、コイルには必ず巻線抵抗(直列抵抗)が存在するため、並列共振回路の正確なインピーダンスの最大値はRよりも少し大きくなる、あるいはRが抵抗枝ではなくコイルの直列抵抗を含む場合は計算がさらに複雑になります。

初心者のための理解としては、並列RLC回路では、共振周波数において、回路全体のインピーダンスが(理想的には無限大に、現実的には)最大になると覚えてください。周波数対インピーダンスのグラフを書くと、共振周波数 $f_r$ のところで山を作るような形になります。

共振周波数から離れると、インピーダンスは再び減少します。周波数が低いときは主に$X_L$が小さいため、Lの枝に電流が流れやすくなり、全体のインピーダンスは小さくなります。周波数が高いときは主に$X_C$が小さいため、Cの枝に電流が流れやすくなり、全体のインピーダンスは小さくなります。

4.3 共振時の特性

並列RLC回路に、一定の大きさの交流電圧を加えた場合を考えます。電源から供給される電流 $I_{source}$ は、やはりオームの法則から $I_{source} = V / |Z_{parallel}|$ で求まります。

  • 周波数が共振周波数 $f_r$ のとき: インピーダンス $|Z_{parallel}|$ は最大値(Rまたはそれ以上の大きな値)になります。したがって、電源から供給される電流 $I_{source}$ は最小になります。
    $I_{source, min} = \frac{V}{R_{peak}}$ ($R_{peak}$は共振時の最大インピーダンス)

  • 周波数が共振周波数 $f_r$ 以外のとき: インピーダンス $|Z_{parallel}|$ は最大値よりも小さくなるため、電源から供給される電流 $I_{source}$ は大きくなります。

つまり、並列共振回路は、共振周波数の電流だけを最も通しにくいという性質を持っています。これは、特定の周波数の信号を「阻止する」ような用途に適しています。

また、共振時にはLの枝に流れる電流 $I_L$ とCの枝に流れる電流 $I_C$ は、大きさが等しくなります($I_L = V/X_L$, $I_C = V/X_C$ で、$X_L=X_C$だから)。しかし、Lの電流は電圧より90度遅れ、Cの電流は電圧より90度進むため、これらの電流は互いに逆位相(180度ずれている)となります。そのため、LとCの枝を合わせた部分を流れる電流は、互いに打ち消し合ってゼロになります(理想的な場合)。

したがって、電源から供給される電流は、共振周波数においては抵抗Rの枝に流れる電流 $I_R = V/R$ だけになります。しかし、LとCの間では、大きな電流が互いに逆方向に流れ続けています。これは「循環電流」あるいは「環状電流」と呼ばれ、外部からの電流供給が少なくても、LとCの間でエネルギーのやり取りによる大きな電流が流れている状態です。

特に興味深いのは、共振周波数において、LとCの枝を流れる循環電流の大きさ $I_L$ や $I_C$ が、電源から供給される電流 $I_{source, min}$ よりもはるかに大きくなる場合があるということです。これは直列共振の電圧拡大と対比され、「電流拡大」または「電流共振」と呼ばれる並列共振回路の重要な特徴です。

$I_L = \frac{V}{X_L}$ (共振周波数にて)

もし電源電流 $I_{source, min}$ が非常に小さく、$V$が一定であれば、それに対して$I_L$や$I_C$が大きくなるということです。

4.4 まとめ:並列共振回路

  • 構成:R、L、Cを並列接続。
  • 共振条件:$X_L = X_C$
  • 共振周波数 $f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$
  • 共振時インピーダンス:最大値(Rまたはそれ以上の大きな値)
  • 共振時電流:電源からの供給電流が最小値 $V/R_{peak}$
  • 共振時電流:LとCの間には大きな循環電流が流れる(電流拡大)。
  • 用途:特定の周波数の信号だけを阻止したい場合(フィルタ回路のバンドエリミネーションフィルタ)、あるいは特定の周波数で高いインピーダンスが必要な場合(発振回路、インピーダンスマッチングなど)に使われます。インピーダンスが最大になる特性を利用します。

第5章:Qファクター(性能指数)と帯域幅

共振回路の性能を表す重要な指標に「Qファクター」(Quality Factor)と「帯域幅」(Bandwidth)があります。これらは、共振の「鋭さ」や、共振によってどの周波数範囲が影響を受けるかを示します。

5.1 共振の鋭さ

直列共振回路では、共振周波数で電流が最大になり、そこから離れると電流が急激に減少しました。並列共振回路では、共振周波数でインピーダンスが最大になり、そこから離れるとインピーダンスが急激に減少しました。

この「急激さ」、つまり共振のピーク(またはディップ)の鋭さのことを、「選択度」や「切れ味」と表現することがあります。この鋭さを定量的に表すのがQファクターです。

5.2 Qファクターの定義と意味

Qファクターは、回路に蓄えられるエネルギーと、回路で失われるエネルギーの比に関係する無次元の量です。エネルギーの蓄積はLとCが担当し、エネルギーの損失はRが担当します。

一般的にQファクターは、共振周波数におけるリアクタンス(エネルギーを蓄積する成分)と抵抗(エネルギーを消費する成分)の比として定義されます。Qファクターが高いほど、エネルギーの損失が少なく、共振のピークは鋭くなります。逆にQファクターが低いほど、エネルギーの損失が多く、共振のピークはなだらかになります。

  • 直列共振回路におけるQファクター:
    直列回路では、抵抗Rが直列に接続されています。Qファクターは、共振周波数におけるコイルのリアクタンス $X_L$(またはコンデンサのリアクタンス $X_C$)と直列抵抗Rの比で定義されます。

    $Q_{series} = \frac{X_L}{R} = \frac{2 \pi f_r L}{R}$
    または
    $Q_{series} = \frac{X_C}{R} = \frac{1}{2 \pi f_r C R}$
    共振周波数 $f_r$ では $X_L = X_C$ なので、どちらの式を使っても同じ値になります。

    直列共振回路において、Qファクターは「共振時のLまたはCにかかる電圧が電源電圧のQ倍になる」という、電圧拡大の度合いも示しています。

    $V_L = Q \times V_{source}$
    $V_C = Q \times V_{source}$

  • 並列共振回路におけるQファクター:
    並列回路の定義はいくつかありますが、ここでは最も一般的な、電源に対してLとCが並列に接続され、抵抗Rがその並列回路全体に並列に接続されている場合を考えます。

    $Q_{parallel} = \frac{R_{parallel}}{X_L} = \frac{R_{parallel}}{2 \pi f_r L}$
    または
    $Q_{parallel} = \frac{R_{parallel}}{X_C} = R_{parallel} \times 2 \pi f_r C$
    ここで $R_{parallel}$ は並列接続されている抵抗の値です。

    並列共振回路において、Qファクターは「LとCの枝に流れる循環電流が電源から供給される電流のQ倍になる」という、電流拡大の度合いも示しています。

    $I_{L/C} = Q \times I_{source, min}$

どちらの回路形式でも、Qファクターは抵抗Rの値に大きく依存します。直列回路ではRが小さいほどQが高く(鋭く)、並列回路では並列抵抗Rが大きいほどQが高く(鋭く)なります。これは、抵抗が大きいほどエネルギー損失が大きい、という直感とも合致します。

5.3 帯域幅(Bandwidth)とは?

共振回路は、特定の周波数(共振周波数)に対して最も強く応答しますが、その共振周波数の周辺の周波数に対しても、ある程度の応答を示します。この「共振の効き目が強い周波数の範囲」を帯域幅といいます。

一般的に帯域幅は、応答がピーク値の半分(電力で言うと半分、電圧/電流で言うとピーク値の $\frac{1}{\sqrt{2}} \approx 0.707$ 倍)になる上下の周波数(これを「半値幅」や「-3dB周波数」と呼びます)の差として定義されます。

帯域幅 $\Delta f$ は、共振周波数 $f_r$ とQファクター $Q$ の関係によって決まります。

$\Delta f = \frac{f_r}{Q}$

この式が示す通り、Qファクターが高いほど帯域幅は狭くなります。つまり、Qが高い回路は、共振周波数に「ピンポイント」に近い形で応答し、他の周波数に対する応答は急速に減少します。これは非常に「選択度が高い」と言えます。

逆に、Qファクターが低いほど帯域幅は広くなります。共振周波数の周辺の広い範囲の周波数に対して応答するため、「選択度が低い」と言えます。

5.4 抵抗(R)の影響

Qファクターと帯域幅の関係から、抵抗Rが共振回路の性能にいかに影響を与えるかが分かります。

  • 抵抗Rが小さい場合: 直列回路ではQが高くなり、並列回路(並列抵抗が大きい場合)でもQが高くなります。Qが高いと、共振は非常に鋭くなり、帯域幅は狭くなります。特定の周波数だけを非常に鋭敏に選別したい場合に適しています。しかし、直列共振では共振時の電流や電圧拡大が非常に大きくなるため、部品の定格(耐えられる電流や電圧の限界)に注意が必要です。
  • 抵抗Rが大きい場合: 直列回路ではQが低くなり、並列回路(並列抵抗が小さい場合)でもQが低くなります。Qが低いと、共振はなだらかになり、帯域幅は広くなります。ある程度の周波数範囲をまとめて扱いたい場合や、共振時の電流/電圧拡大を抑えたい場合に適しています。

実際の回路では、コイルの巻線抵抗やコンデンサの誘電体損失など、部品自体が持つ「損失抵抗」が存在します。これらの損失抵抗がQファクターの値を制限し、理想的な無限大のQやゼロの帯域幅は実現できません。高Qな回路を実現するためには、これらの損失抵抗が小さい、高品質な部品を選択することが重要になります。

第6章:共振回路の応用例

共振回路は、その周波数選択性や電圧・電流拡大といった特性を利用して、エレクトロニクスの様々な分野で活用されています。いくつかの代表的な例を見てみましょう。

6.1 ラジオの選局

最も身近な応用例がラジオの選局です。ラジオ放送は、異なる放送局がそれぞれ異なる周波数の電波に乗せて音声信号を送っています。ラジオ受信機は、アンテナで様々な周波数の電波をまとめて受信しますが、聞きたい放送局の周波数だけを選び出す必要があります。

ここで共振回路が活躍します。ラジオの受信部には、コイルとコンデンサからなる共振回路が含まれています。コンデンサの静電容量やコイルのインダクタンスを調整できるように(例えばバリコンと呼ばれる可変容量コンデンサや、コイルのコアを動かせるように)しておき、ダイヤル操作によって回路の共振周波数を変えられるようにします。

聞きたい放送局の周波数に共振周波数を合わせると、直列共振回路であればその周波数の信号電流だけが大きく流れ(電流最大)、並列共振回路であればその周波数の信号電圧だけが大きく取り出されます(インピーダンス最大により)。これにより、目的の放送局の信号だけを選び出し、他の周波数の信号は弱めて、雑音の中からクリアな音声を取り出すことができるのです。Qファクターが高いほど、隣接する放送局の信号との混信を防ぐ、鋭い選局が可能になります。

6.2 フィルタ回路

共振回路は、特定の周波数を通したり、特定の周波数を阻止したりする「フィルタ回路」の基本的な構成要素となります。

  • バンドパスフィルタ(帯域通過フィルタ): 特定の周波数帯域だけを通過させるフィルタです。直列共振回路や、並列共振回路と組み合わせて構成されます。直列共振回路は共振周波数でインピーダンスが最小になるため、この周波数だけを通過させるのに適しています。
  • バンドエリミネーションフィルタ(帯域阻止フィルタ): 特定の周波数帯域だけを阻止するフィルタです。並列共振回路がよく使われます。並列共振回路は共振周波数でインピーダンスが最大になるため、この周波数を阻止するのに適しています。特定の周波数のノイズを除去したい場合などに用いられます。

これらのフィルタは、通信システムで目的の信号だけを取り出したり、不要な信号を除去したりするのに不可欠です。

6.3 発振回路

特定の周波数の電気信号を持続的に発生させる回路を「発振回路」といいます。発振回路には様々な方式がありますが、多くの発振回路は、共振回路が持つ「特定の周波数でエネルギーを効率よくやり取りする」性質を利用しています。

共振回路に増幅器(アンプ)を組み合わせ、共振回路を通過した信号を増幅して再び共振回路に戻す(正帰還をかける)ことで、回路が不安定になり、共振周波数で持続的な信号の振動が発生します。水晶振動子を使った高精度な発振回路も、水晶の持つ機械的な共振特性を電気的な共振回路と組み合わせて利用しています。

6.4 インピーダンスマッチング

最大電力伝送のためには、信号源のインピーダンスと負荷のインピーダンスを合わせる「インピーダンスマッチング」が重要になる場合があります。特に高周波回路では、伝送線路やアンテナ、増幅器の入出力間でインピーダンスを合わせることで、信号の反射を防ぎ、効率よく電力を伝送することができます。共振回路は、そのインピーダンスが周波数によって大きく変化する性質や、特定の周波数で純粋な抵抗成分として振る舞う(インピーダンスが実数になる)性質を利用して、インピーダンスマッチング回路として用いられることがあります。

第7章:実践的な考慮事項

ここまでは理想的なコイル、コンデンサ、抵抗を仮定して共振回路の原理を説明してきました。しかし、実際の部品や回路にはいくつかの非理想的な要素があり、それが共振回路の特性に影響を与えます。

7.1 理想的な部品と現実的な部品

  • コイル(L): 実際のコイルの電線には抵抗成分(巻線抵抗、直流抵抗:DCR)があります。これはコイルに直列に抵抗が挿入されているのと等価になります。また、高周波ではコイルの巻線間にわずかな静電容量成分(分布容量)が生じ、自己共振を起こすことがあります。
  • コンデンサ(C): 実際のコンデンサの誘電体には損失があり、等価的な直列抵抗(ESR: Equivalent Series Resistance)や並列抵抗としてモデル化されます。また、電極やリード線にもわずかなインダクタンス成分(ESL: Equivalent Series Inductance)があります。
  • 抵抗(R): 理想的には周波数によらず一定ですが、高周波ではわずかなインダクタンスや静電容量を持つことがあります。

これらの非理想的な要素、特に損失抵抗成分(コイルのDCRやコンデンサのESR)は、回路全体の抵抗成分Rを増加させることになり、共振回路のQファクターを低下させる主な要因となります。Qが低下すると、共振のピークがなだらかになり、帯域幅が広がってしまいます。高Qな共振回路を設計するには、損失成分の少ない高品質な部品を選ぶことが重要です。

7.2 部品の公差

市販されている部品のインダクタンス(L)や静電容量(C)、抵抗(R)の値には必ず「公差」があります。例えば「±5%」といった公差がある場合、部品の実際の値は表示値からその範囲内でずれる可能性があります。

共振周波数 $f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$ の式からわかるように、LやCの値がずれると、共振周波数も設計値からずれてしまいます。特にQが高い(帯域幅が狭い)回路では、わずかな周波数のずれでも応答が大きく低下してしまうため、部品の公差が重要な問題となることがあります。精密な周波数が必要な回路では、公差の小さい部品を使ったり、可変部品(トリマコンデンサなど)を使って製造後に共振周波数を調整したりといった工夫が必要になります。

7.3 温度特性

部品の特性は温度によってわずかに変化します。特にコンデンサの静電容量やコイルのインダクタンスは温度変化の影響を受けることがあります。これにより、周囲温度が変化すると共振周波数がわずかに変動する可能性があります。高精度が要求される回路では、温度特性の優れた部品を選んだり、温度補償回路を設けたりすることがあります。

結論:共振回路マスターへの第一歩

本記事では、共振回路の基本原理を初心者の方に向けて詳しく解説しました。

  • まず、共振回路の構成要素である抵抗(R)、コイル(L)、コンデンサ(C)が交流回路でどのように振る舞うか(リアクタンス、位相差)を基礎として学びました。
  • 次に、コイルとコンデンサの間でエネルギーがやり取りされることで共振が起こる仕組みを、ブランコなどの身近な例え話を通して理解しました。そして、共振が起こる特定の周波数を共振周波数 $f_r = \frac{1}{2 \pi \sqrt{L C}}$ と定義しました。
  • 共振回路の代表的な構成である「直列共振回路」と「並列共振回路」について、それぞれのインピーダンスの周波数特性、共振時の電流・電圧特性、そして電圧拡大や電流拡大といった特徴を詳しく見てきました。直列は共振でインピーダンス最小・電流最大、並列は共振でインピーダンス最大・電源電流最小となる、という対照的な性質が重要でした。
  • 共振の鋭さを示すQファクターと、共振の影響を受ける周波数範囲である帯域幅の関係を学び、Qが高いほど共振が鋭く帯域幅が狭くなること、そしてQは抵抗成分Rに大きく依存することを理解しました。
  • 最後に、ラジオの選局、フィルタ回路、発振回路、インピーダンスマッチングといった、共振回路の多様な応用例を紹介し、その実用性を確認しました。また、実際の回路における部品の非理想性や公差といった実践的な考慮事項にも触れました。

共振回路は、エレクトロニクスにおける周波数制御の基礎であり、その原理は多くの回路設計に応用されています。この入門記事を通して、共振回路の基本的な考え方や働きについて、漠然としたイメージから具体的な理解へと進むことができたなら幸いです。

もちろん、共振回路の世界はここで終わりではありません。より複雑なRLC回路、高周波における挙動、分布定数回路における共振、フィルタ設計の詳細、発振回路の安定化など、さらに奥深いテーマがたくさんあります。しかし、ここで学んだ基本原理は、それらの発展的な内容を理解するための強固な土台となります。

この記事が、皆さんが共振回路、そしてエレクトロニクス全般の世界を探求していく上での、有益な第一歩となることを願っています。もし興味を持たれたら、実際に簡単な共振回路を組み立ててその特性を測定してみたり、関連する書籍やオンラインリソースでさらに深く学んでみたりすることをお勧めします。

共振回路の魅力的な世界は、皆さんの探求を待っています!


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