【図解】Kubernetes(k8s)クラスタの仕組みを徹底解説

はい、承知いたしました。Kubernetes (k8s) クラスタの仕組みについて、約5000語の詳細な解説記事を作成します。図解の概念をテキストで分かりやすく説明しながら、各コンポーネントの役割や連携を徹底的に解説します。


【図解】Kubernetes(k8s)クラスタの仕組みを徹底解説

今日のアプリケーション開発において、コンテナ技術、特にDockerはデファクトスタンダードとなりつつあります。しかし、本番環境で大量のコンテナを運用し、スケーラビリティ、可用性、耐障害性を確保するためには、コンテナオーケストレーションツールが不可欠です。その中でも、Googleが開発し、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)に寄贈されたKubernetes(クバネティス、略称k8s)は、最も広く利用されているコンテナオーケストレーションプラットフォームです。

Kubernetesは、コンテナ化されたワークロードとサービスを管理するための、移植可能で拡張可能なオープンソースプラットフォームです。宣言的な構成と自動化を促進します。しかし、その強力さと引き換えに、内部の仕組みは複雑に感じられるかもしれません。

この記事では、Kubernetesクラスタがどのように構成され、各コンポーネントがどのような役割を担い、連携しているのかを、図解の概念を取り入れながら徹底的に解説します。Kubernetesの基礎は理解しているが、その内部構造をもっと深く知りたいというエンジニアやアーキテクトの方にとって、この記事がKubernetesへの理解を深める一助となれば幸いです。

1. Kubernetesクラスタの全体像

まず、Kubernetesクラスタの全体像を捉えましょう。Kubernetesクラスタは、大きく分けて「コントロールプレーン (Control Plane)」と「ノード (Nodes)」という2種類のマシン(物理マシンまたは仮想マシン)から構成されます。

【図解の概念】
クラスタ全体を箱で表現します。その中に、上部に「コントロールプレーン(Master Node)」という大きめの箱があり、その下に複数の「ノード(Worker Node)」という箱が並んでいます。コントロールプレーンが、下にある複数のノードを「管理」「制御」している様子を矢印などで表現します。ユーザーや外部からのアクセスは、コントロールプレーンの特定の入り口(APIサーバー)を経由して、クラスタ内部とやり取りするイメージです。

  • コントロールプレーン (Control Plane): かつてはMaster Nodeと呼ばれていました。クラスタ全体の「脳」であり、コンテナのデプロイ、スケーリング、管理、アップデートなど、クラスタの状態を制御・管理する役割を担います。通常、可用性を高めるために複数のマシンで冗長化されます。
  • ノード (Nodes): かつてはWorker Nodeと呼ばれていました。コントロールプレーンからの指示を受けて、実際にコンテナ化されたアプリケーション(Pod)を実行するマシンです。各ノード上には、アプリケーションを実行するためのコンテナランタイムや、Kubernetesとの通信を行うためのエージェントなどが動作しています。

つまり、Kubernetesクラスタは、コントロールプレーンがクラスタ全体の状態を管理し、指示を出し、複数のノードがその指示に従ってアプリケーションの実行を担当するという分業体制で成り立っています。

この分業体制により、アプリケーションのデプロイ、スケーリング、自己修復などが自動化され、高い可用性と効率的なリソース利用が可能になります。

次に、それぞれの主要なコンポーネントを掘り下げて見ていきましょう。

2. コントロールプレーン (Control Plane) の詳細

コントロールプレーンは、Kubernetesクラスタの「中枢」であり、クラスタの状態を維持し、望ましい状態(Desired State)に近づけるための意思決定を行います。複数の異なるコンポーネントが集まって構成されています。

【図解の概念】
コントロールプレーンの箱の中に、以下の主要なコンポーネントの箱が並んでいます。それぞれの箱の間には、相互に連携していることを示す矢印があります。特に、kube-apiserver が他の全てのコンポーネントとの中心的な通信ハブとなっている様子を描きます。etcd は他のコンポーネントから参照・更新されるデータベースとして、少し離れたところに配置されるイメージです。

コントロールプレーンの主要なコンポーネントは以下の通りです。

2.1. kube-apiserver

  • 役割: Kubernetes APIを公開し、クラスタへのフロントエンドとして機能します。全てのコントロールプレーンコンポーネントおよびノード上のコンポーネント(kubelet)は、このapiserverを介して通信します。また、ユーザーがkubectlコマンドを使ってクラスタとやり取りする際も、このapiserverにリクエストを送ります。
  • 機能:
    • 認証 (Authentication): リクエストを送ってきたユーザーやサービスが誰であるかを確認します。証明書、トークン、パスワードなど様々な認証方法をサポートします。
    • 認可 (Authorization): 認証されたユーザーやサービスが、要求された操作(例: Podの作成、情報の取得)を実行する権限を持っているかを確認します。RBAC (Role-Based Access Control) が一般的です。
    • アドミッションコントローラー (Admission Controllers): リクエストが処理される前に、様々なポリシーを適用します。例えば、リソースクォータのチェック、セキュリティポリシーの適用、デフォルト値の注入などを行います。これらはリクエストの検証や変更を行うプラグインのようなものです。
    • 検証 (Validation): APIオブジェクトの定義が正しい形式であるか検証します。
    • 永続化 (Persistence): クラスタの状態に関する全ての情報をetcdに書き込み、または読み出します。apiserverはetcdへの唯一の直接的なインターフェースです。
  • 重要性: apiserverはKubernetesクラスタの「玄関」であり、「指揮所」とも言えます。すべての操作はこのコンポーネントを経由するため、apiserverの高可用性(複数のインスタンスを起動する)はクラスタ全体の安定性にとって非常に重要です。他のコンポーネントは、apiserverが提供するAPIを介してのみ、クラスタの状態を取得したり変更したりします。この疎結合な設計により、各コンポーネントは独立してスケールしたり、開発・保守されたりすることができます。

【図解の概念】
apiserverの箱から、scheduler, controller-manager, etcd (双方向), kubelet (双方向) へ矢印が伸びている様子。ユーザーやkubectlからもapiserverへ矢印が来ている様子を描く。apiserverが通信の中心であることを強調する。

2.2. etcd

  • 役割: Kubernetesクラスタの「心臓部」であり、「信頼できる唯一の情報源 (Source of Truth)」です。クラスタの構成、状態、メタデータなど、全てのクラスタデータを保持する、高可用性で一貫性のある分散型のキーバリューストアです。
  • 機能:
    • クラスタ状態の保存: Pod、Service、Deployment、ConfigMapなどの全てのKubernetesオブジェクトの定義と現在の状態がここに保存されます。
    • 変更監視: 他のコントロールプレーンコンポーネント(scheduler, controller-managerなど)は、etcdのデータを監視(watch)し、状態の変化に応じて適切な処理を開始します。
    • 分散合意: PaxosやRaftのような分散合意アルゴリズムを用いて、複数のetcdインスタンス間でデータの一貫性を保ちます。これにより、一部のインスタンスがダウンしてもデータが失われず、高い可用性を実現します。
  • 重要性: etcdはKubernetesクラスタの永続的なストレージです。etcdがダウンすると、クラスタの状態を読み書きできなくなるため、Kubernetesは機能しなくなります。そのため、etcdクラスタは非常に堅牢かつ可用性の高い構成で運用される必要があります。全てのデータのやり取りはapiserverを介して行われるため、他のコンポーネントは直接etcdと通信しません(apiserverのみがetcdクライアントとして動作します)。

【図解の概念】
etcdの箱は、apiserverからのみ双方向の矢印が来ていることを示す。他のコンポーネントからは直接矢印が来ていない。etcdはデータの「庫」のようなイメージで、他のコンポーネントが情報を取得・更新したい場合は、必ずapiserverを経由する必要があることを強調する。etcdの箱の中に「State of the Cluster」と記述する。

2.3. kube-scheduler

  • 役割: 新しく作成されたPodについて、どのノードで実行するのが最適かを決定し、そのノードに割り当てる(スケジューリングする)役割を担います。
  • 機能:
    • Pending Podsの監視: apiserverを介して、まだノードが割り当てられていないPod(”Pending”状態のPod)を監視します。
    • フィルタリング (Filtering): Podの要求(CPU/メモリ要求、Node Selector、Affinity/Anti-affinityなど)と、各ノードのリソース状況や制約(テイント、アフィニティなど)を比較し、そのPodを実行可能なノードのリストを絞り込みます。
    • スコアリング (Scoring): フィルタリングを通過したノードに対して、複数の要素(リソース利用率、複数のPodを同じノードに配置しないポリシー、Pod間のアフィニティなど)に基づいてスコアを付けます。
    • バインディング (Binding): 最もスコアの高いノードを決定し、そのノードにPodを「バインド」します。このバインディング情報はapiserverを介してetcdに書き込まれます。
  • 仕組み: スケジューラーは、継続的にapiserverから新しいPodの作成イベントを監視しています。新しいPodが見つかると、上記のフィルタリングとスコアリングのプロセスを実行し、最適なノードを決定します。この決定は、あくまで「どのノードで実行するか」という指示であり、実際にPodを起動する処理は、後述するノード上のkubeletが行います。

【図解の概念】
schedulerの箱からapiserverへ矢印が伸びている(Podの監視)。apiserverからschedulerへ矢印が伸びている(Podの情報取得)。schedulerからapiserverへ別の矢印が伸びている(ノードへのバインディング情報の書き込み)。schedulerの箱の中に「Pending Pods -> Node」と記述する。

2.4. kube-controller-manager

  • 役割: クラスタ全体の「望ましい状態 (Desired State)」を維持するために、様々な「コントローラー (Controller)」を実行する役割を担います。各コントローラーは、特定のKubernetesオブジェクト(例: Deployment, ReplicaSet, StatefulSetなど)の現在の状態を監視し、etcdに保存されている望ましい状態と比較し、差分があればそれを解消するためのアクションを起こします。
  • 機能: 実際には、複数のコントローラーが1つのバイナリとしてまとめられて動作しています(kube-controller-managerプロセス)。主要なコントローラーには以下のようなものがあります。
    • Node Controller: ノードの死活監視を行い、応答のないノード上のPodを他のノードに再スケジュールします。
    • Replication Controller / ReplicaSet Controller: 指定された数のPodインスタンスが常に稼働していることを保証します。Podがクラッシュしたり、NodeがダウンしたりしてPod数が不足した場合、新しいPodを作成します。Pod数が多すぎる場合は、余分なPodを終了させます。
    • Deployment Controller: ReplicaSetとPodの宣言的なアップデートを管理します。ローリングアップデートやロールバックなどを実現します。
    • StatefulSet Controller: ステートフルアプリケーションのデプロイやスケーリングを管理します。各Podに安定したネットワーク識別子や永続ストレージを割り当てます。
    • Service Controller / Endpoints Controller: ServiceとPodを関連付け、Serviceへのアクセスがあった際に、どのPodにトラフィックをルーティングするかを決定するエンドポイントオブジェクトを維持します。
    • Job Controller: 指定されたタスクを一度だけ、または定期的に実行するPodを作成・管理します。
    • Service Account & Token Controllers: 新しいNamespaceに対して、デフォルトのServiceAccountやSecretを作成します。
  • 仕組み: 各コントローラーは、apiserverを介してetcd内の特定のKubernetesオブジェクトの状態を継続的に監視(watch)しています。望ましい状態と現在の状態に差異があることを検知すると、apiserverを通じて必要なアクション(Podの作成、削除、情報の更新など)を実行し、状態を望ましい状態に近づけます。この「監視 -> 比較 -> 調整」というループは「コントロールループ (Control Loop)」と呼ばれ、Kubernetesの自律的な運用を支える核心的な概念です。

【図解の概念】
controller-managerの箱からapiserverへ監視のための矢印と、状態変更のための矢印が伸びている。controller-managerの箱の中に「Control Loops: Desired State vs Current State」と記述し、その下にReplicaSet, Deployment, Serviceなどのコントローラー名がリストされている様子を描く。

2.5. cloud-controller-manager (クラウド環境の場合)

  • 役割: クラウドプロバイダー固有の機能をKubernetesと統合するためのコンポーネントです。クラウド環境でKubernetesを構築・運用する場合にのみ必要となります。オンプレミス環境やベアメタル環境では通常使用されません。
  • 機能: クラウドプロバイダーのAPIと連携し、以下のようなリソース管理を行います。
    • Node Controller: クラウドプロバイダーのAPIを使って、ノードの情報を取得・更新し、ノードの状態(例: クラウドインスタンスが削除されたら、Kubernetesクラスタからも削除されたと認識する)を管理します。
    • Route Controller: クラウドプロバイダーのルーティングテーブルを設定し、クロスノードのPod間通信を可能にします。
    • Service Controller: KubernetesのServiceタイプがLoadBalancerの場合、クラウドプロバイダーのロードバランサー(例: AWS ELB/NLB/ALB, Google Cloud Load Balancer, Azure Load Balancer)を自動的にプロビジョニング・設定します。
    • Volume Controller: PersistentVolume (PV) をプロビジョニングし、ノードにアタッチ・デタッチします(例: AWS EBS, Google Cloud Persistent Disk, Azure Disk)。
  • 仕組み: cloud-controller-managerもまた、apiserverを介して特定のKubernetesオブジェクト(Node, Service, PersistentVolumeなど)の状態を監視し、必要に応じてクラウドプロバイダーのAPIを呼び出してリソースを操作します。これは、Kubernetesのコアコンポーネントを特定のクラウドプロバイダーの実装から分離し、拡張性を高めるために導入されました。

【図解の概念】
cloud-controller-managerの箱は、apiserverと双方向の矢印でつながっている。さらに、その箱から外側(クラウドプロバイダー)へ矢印が伸びており、「Cloud Provider API」と書かれた外部リソースと連携している様子を描く。このコンポーネントはオプションであることを示すために破線で囲むなどしても良い。

コントロールプレーンのまとめ:
コントロールプレーンは、これらのコンポーネントが連携して、Kubernetesクラスタ全体の頭脳として機能しています。apiserverが全ての通信を集約し、etcdが全ての状態を永続化します。schedulerは新しいPodをどこで動かすか決定し、controller-managerは定義された状態を維持するために様々な自動化されたアクションを実行します。クラウド環境ではcloud-controller-managerがクラウド固有のリソースを統合します。これらのコンポーネントが安定して動作することが、クラスタ全体の安定性にとって不可欠です。

3. ノード (Nodes) の詳細

ノードは、Kubernetesクラスタの「手足」であり、実際にアプリケーションコンテナを実行するマシンです。各ノードは、コントロールプレーンからの指示を受けて動作するためのエージェントや、コンテナを実行するための環境を備えています。

【図解の概念】
複数のノードの箱が並んでいます。各ノードの箱の中に、以下の主要なコンポーネントの箱が並んでいます。各ノードの箱からは、apiserverへ(多くは双方向の)矢印が伸びています。各ノードは独立して動作しつつも、apiserverを通じてコントロールプレーンと連携している様子を描きます。また、各ノード上でPodが実行されている様子も描きます。

ノード上の主要なコンポーネントは以下の通りです。

3.1. kubelet

  • 役割: 各ノード上で動作する主要なエージェントです。コントロールプレーン(特にapiserver)からの指示を受け、Podの作成、削除、開始、停止などのコンテナ操作を実行します。また、ノード自身の状態(リソース利用率、稼働状況など)や、そのノード上で実行されているPodやコンテナの状態をapiserverに報告します。
  • 機能:
    • PodSpecの取得: apiserverを介して、そのノードで実行されるべきPodの定義(PodSpec)を取得します。
    • コンテナの実行/停止: コンテナランタイムと連携し、PodSpecに従ってコンテナを作成・起動したり、不要になったコンテナを停止・削除したりします。
    • Pod/コンテナの状態報告: 実行中のPodやコンテナの状態(稼働中か、終了したか、正常か、異常かなど)や、ログ、イベントなどをapiserverに報告します。
    • リソース管理: Podやコンテナが必要とするCPU、メモリ、ストレージなどのリソースを管理し、ノードのリソース枯渇を防いだり、設定されたリソース制限を適用したりします。
    • Volume管理: Podが利用するストレージボリューム(Volumeオブジェクト)をノードにマウントしたり、アンマウントしたりします。
    • ノードの状態報告: ノード自身の状態(稼働中か、リソースが利用可能か、ネットワーク接続は良好かなど)を定期的にapiserverに報告し、ノードの死活監視をサポートします。
  • 仕組み: kubeletは、apiserverから割り当てられたPodSpecを継続的に監視しています。新しいPodSpecが見つかったり、既存のPodSpecに変更があったりすると、コンテナランタイムに必要な指示を出し、Podの望ましい状態を実現しようとします。例えば、PodSpecで指定されたコンテナイメージをPullし、ネットワークやストレージを設定し、コンテナを起動します。また、指定されたコンテナがクラッシュした場合、kubeletは設定に基づいて再起動を試みます。

【図解の概念】
kubeletの箱は、apiserverと双方向の矢印でつながっている(PodSpecの取得、状態報告)。また、コンテナランタイムへ指示を出すための矢印が伸びている。kubeletの箱の中に「Agent on Node」や「Manages Pods」と記述する。

3.2. Container Runtime

  • 役割: Kubernetesによってデプロイされたコンテナを実行するソフトウェアです。Dockerが最も有名ですが、Kubernetesは様々なコンテナランタイムをサポートしています。
  • 機能:
    • コンテナイメージのPull: レジストリ(Docker Hub, GCR, ACRなど)からコンテナイメージをダウンロードします。
    • コンテナの実行: イメージからコンテナを作成し、プロセスとして実行します。
    • コンテナの停止/削除: 実行中のコンテナを停止したり、ファイルシステムなどを削除したりします。
    • コンテナの状態管理: コンテナの実行状態(running, stoppedなど)や、リソース利用率などの情報を管理します。
  • CRI (Container Runtime Interface): Kubernetesは、様々なコンテナランタイムと連携できるように、CRIという標準インターフェースを定義しています。kubeletはCRIを通じてコンテナランタイムと通信するため、CRIを実装しているコンテナランタイムであれば、Docker以外(例: containerd, CRI-Oなど)でも利用可能です。これにより、特定のランタイムに依存しない柔軟な設計が実現されています。

【図解の概念】
Container Runtimeの箱は、kubeletから矢印が来ており(実行指示)、コンテナの箱(Podの中にある)と連携している様子を描く。Container Runtimeの箱の中に「Docker, containerd, CRI-O etc.」と記述する。

3.3. kube-proxy

  • 役割: 各ノード上で動作するネットワークプロキシであり、KubernetesのService抽象化を実現するための主要なコンポーネントです。Serviceに対するネットワークトラフィックを、そのServiceに関連付けられた適切なPodにルーティングします。
  • 機能:
    • Service/Endpointsの監視: apiserverを介してServiceオブジェクトとEndpointsオブジェクト(Serviceに関連付けられたPodのIPアドレスとポートのリスト)を監視します。
    • ネットワーク規則の設定: 監視結果に基づいて、ノードのネットワークスタック(主にiptablesまたはIPVS)にルーティング規則を設定します。これにより、ServiceのClusterIPやNodePort宛てのトラフィックが、バックエンドのPodに負荷分散されて転送されるようになります。
    • ロードバランシング: 複数のバックエンドPodがあるServiceに対して、設定されたルーティング規則に従ってトラフィックを分散します。
  • 動作モード: kube-proxyは主に以下のモードで動作します。
    • iptablesモード: Linuxカーネルのiptablesルールを使ってルーティング規則を設定します。デフォルトで広く使われています。ルール数が増えるとパフォーマンスが劣化する可能性があります。
    • IPVSモード: LinuxカーネルのIPVS (IP Virtual Server) を使ってルーティング規則を設定します。大量のServiceやPodを扱う場合に、iptablesよりも高性能なロードバランシングを提供できます。
    • (レガシーモード: userspace, masquerading)
  • 重要性: kube-proxyはKubernetesのネットワークサービスディスカバリとロードバランシングの基盤を担います。これにより、アプリケーションのPodは、IPアドレスが動的に変わっても、固定されたService名やClusterIPを介して互いに、あるいは外部からアクセスできるようになります。

【図解の概念】
kube-proxyの箱は、apiserverと双方向の矢印でつながっている(Service/Endpointsの監視)。また、ノード上のネットワークスタック(iptables/IPVS)と連携し、Podへのトラフィックをルーティングする様子を描く。kube-proxyの箱の中に「Service Networking」や「iptables/IPVS」と記述する。ノードの箱のネットワーク入口から、kube-proxyを経由してPodへトラフィックが流れる様子を矢印で示す。

3.4. Pod

  • 役割: Kubernetesでデプロイ可能な「最小の実行単位」です。Podは1つまたは複数のコンテナの集まりであり、これらのコンテナは常に同じノード上でスケジューリングされ、ネットワークやストレージリソースを共有します。
  • 構成:
    • コンテナ: 1つ以上のアプリケーションコンテナ。Sidecarパターンなどで複数のコンテナを配置することがあります。
    • 共有ストレージ (Volumes): Pod内のコンテナが共有して利用できるストレージ。様々なタイプがあります(emptyDir, hostPath, PV/PVCなど)。
    • ネットワーク: Pod固有のIPアドレスが割り当てられ、Pod内の全コンテナがそのIPアドレスとポート空間を共有します。
    • 仕様 (PodSpec): Podのコンテナイメージ、ポート、ボリューム、環境変数、リソース要求/制限、ヘルスチェックなど、実行に関する詳細な設定を記述した定義。
  • ライフサイクル: Podは一度作成されると、schedulerによってノードに割り当てられ、kubeletによってそのノード上で実行されます。Podは通常、ReplicaSetやDeploymentなどのコントローラーによって管理され、自己修復やスケーリングが自動化されます。Pod自体は「使い捨て」であり、障害が発生したり、アップデートされたりすると、新しいPodが別のノードなどで作成されます。

【図解の概念】
ノードの箱の中に、複数のPodの箱が描かれています。各Podの箱の中には、1つまたは複数の小さなコンテナの箱が含まれている様子。Podの箱全体が、ノードのリソース(CPU, Memoryなど)の一部を占めているイメージを描く。Podの箱の中に「Smallest Deployable Unit」と記述する。

ノードのまとめ:
各ノードは、kubeletを介してコントロールプレーンと連携し、指定されたPodをコンテナランタイム上で実行します。kube-proxyはServiceによるネットワーク抽象化とロードバランシングを担います。Podは実際のアプリケーションが動作する最小単位であり、Nodeのリソースを利用して実行されます。ノードが複数存在することで、クラスタ全体としての処理能力や耐障害性が向上します。

4. Kubernetesオブジェクト

Kubernetesのユーザーは、直接コンテナを操作するのではなく、「Kubernetesオブジェクト」と呼ばれるAPIリソースを操作します。これらのオブジェクトは、クラスタの「望ましい状態 (Desired State)」を宣言的に定義するために使用されます。apiserverはこれらのオブジェクトの情報をetcdに保存し、コントローラーがその状態を監視して、現在の状態を望ましい状態に近づけます。

【図解の概念】
apiserverの箱の近くに、様々な種類のオブジェクト(Pod, Deployment, Service, Volumeなど)のアイコンや箱が並んでいます。ユーザーやkubectlからこれらのオブジェクトを作成・更新・削除する操作がapiserverに送られる様子を描きます。apiserverがこれらの情報をetcdに保存し、controller-managerがetcdの状態を監視して、Node上のPodなどを操作する全体の流れの中に、これらのオブジェクト定義が起点となることを示します。

主要なKubernetesオブジェクトの一部を以下に示します。

  • Pod: 前述の通り、Kubernetesの最小実行単位。1つ以上のコンテナの集まり。
  • Deployment: ステートレスアプリケーションのデプロイと管理に最も一般的に使用されるオブジェクトです。Deploymentを定義することで、必要なPodの数(ReplicaSetが管理)、Podのテンプレート(PodSpec)、アップデート戦略(ローリングアップデートなど)を指定します。Deployment Controllerは、ReplicaSetを作成・管理し、指定された数のPodが稼働していることを保証し、アップデート時にはReplicaSetを切り替えてPodを更新します。
  • ReplicaSet: 指定された数の同一のPodレプリカが常に稼働していることを保証するオブジェクトです。Deploymentの下位層として動作することが多いですが、単独で使用することも可能です。ReplicaSet Controllerは、Podの数が指定数より少ない場合は新しいPodを作成し、多い場合は余分なPodを削除します。
  • Service: Podへのネットワークアクセスを抽象化するオブジェクトです。PodのIPアドレスは揮発性ですが、Serviceは固定されたIPアドレスやDNS名をPodのセット(通常はラベルセレクターで指定)に関連付けます。これにより、クライアントはServiceを介して、バックエンドのPodの集合に安定的にアクセスできます。Serviceの種類(ClusterIP, NodePort, LoadBalancer, ExternalName)によって、公開方法が異なります。kube-proxyがこのService定義に基づいて、ノード上でネットワークルーティング規則を設定します。
  • Namespace: Kubernetesクラスタ内のリソース(Pod, Service, Deploymentなど)を論理的に分割するための仕組みです。チームごと、環境ごと(開発、ステージング、本番)などでリソースを分離し、名前の衝突を防いだり、リソースクォータやアクセス制御(RBAC)を適用したりするために利用されます。
  • Volume: Pod内のコンテナが利用するストレージを定義するオブジェクトです。コンテナのファイルシステムは一時的ですが、Volumeを使うことでデータの永続化やPod間でのデータ共有が可能になります。様々なタイプがあり、ローカルディスク、ネットワークストレージ(NFS, iSCSIなど)、クラウドプロバイダー固有のストレージ(EBS, GCE Persistent Diskなど)、またKubernetes独自の永続ボリューム機構(PV/PVC)などがあります。
  • PersistentVolume (PV) & PersistentVolumeClaim (PVC): クラスタ内で利用可能な永続ストレージリソース(PV)と、Podがそのストレージを要求する要求(PVC)を分離する仕組みです。これにより、ストレージの提供者と利用者が互いの詳細を知ることなく、ストレージを利用できます。StorageClassと組み合わせることで、動的なボリュームプロビジョニングも可能です。
  • ConfigMap & Secret: アプリケーションの設定情報や機密情報(パスワード、APIキーなど)をPodから分離して管理するためのオブジェクトです。設定情報をコンテナイメージに含めるのではなく、外部化することで、イメージの再ビルドなしに設定変更が可能になります。Podからはボリュームとしてマウントしたり、環境変数として参照したりして利用します。Secretは特に機密情報を安全に扱うための機能(デフォルトではbase64エンコード、ETCD暗号化、Vault統合など)を備えています。
  • Ingress: クラスタ内のServiceへのHTTP/Sトラフィックを、クラスタ外部からルーティングするためのAPIオブジェクトです。Serviceが内部的なアクセスを提供するためのものであるのに対し、Ingressは外部からのアクセスを受け付け、ホスト名やパスに基づいて適切なServiceにトラフィックを転送します。Ingressオブジェクト自体はトラフィックを処理せず、それを実現するための「Ingress Controller」(nginx-ingress, traefik, Istioなど)が必要です。Ingress ControllerはIngressオブジェクトを監視し、それに従ってロードバランサーやリバースプロキシを設定します。

これらのオブジェクトをYAMLファイルなどで定義し、apiserverに送信することで、Kubernetesクラスタの望ましい状態を宣言的に指定します。

5. クラスタの仕組み: コントロールループの動作

Kubernetesの中核的な思想は、「宣言的API」と「コントロールループ」に基づいています。ユーザーは望ましい状態(Desired State)をオブジェクト定義として宣言し、コントローラーは常に現在の状態(Current State)を監視し、Desired StateとCurrent Stateの間の差異を自動的に解消することで、望ましい状態を維持しようとします。

【図解の概念】
円形の矢印(ループ)を描きます。ループの中に以下のステップを書きます。
1. Desired State (in etcd, via apiserver)
2. Controller observes Current State (from apiserver)
3. Compare Desired State and Current State
4. Identify differences
5. Take Action (via apiserver) to bridge the gap
6. (Action affects cluster state, loop continues)

このループを、特定のコントローラーの例で具体的に解説します。

5.1. コントロールループの例: DeploymentとReplicaSet

  1. ユーザー: 「nginxという名前のDeploymentを作成します。Podのレプリカ数は3つ、使用するコンテナイメージはnginx:latestとします。」というYAMLファイルをkubectl applyコマンドでapiserverに送信します。
  2. apiserver: このYAMLを受け取り、認証・認可・検証などを実行した後、そのDeploymentオブジェクトの定義をetcdに書き込みます。これで、クラスタの「望ましい状態」が「nginxというDeploymentが存在し、Podが3つ稼働していること」として記録されました。
  3. Deployment Controller: apiserverを介してetcdを監視しており、新しいDeploymentオブジェクト(nginx)が作成されたことを検知します。
  4. Deployment Controller: このDeploymentの仕様を確認し、まだそれに対応するReplicaSetが存在しないことを確認します。
  5. Deployment Controller: 望ましい状態(Pod数3)を実現するために、対応するReplicaSetオブジェクトを作成するよう、apiserverに要求します。このReplicaSetは、nginx Podのテンプレートとレプリカ数3を持ちます。
  6. apiserver: ReplicaSetオブジェクトの定義をetcdに書き込みます。
  7. ReplicaSet Controller: apiserverを介してetcdを監視しており、新しいReplicaSetオブジェクト(nginx-xxxx, レプリカ数3)が作成されたことを検知します。
  8. ReplicaSet Controller: このReplicaSetに対応するPodがまだ存在しない(現在のPod数が0)ことを確認します。
  9. ReplicaSet Controller: 望ましい状態(Pod数3)と現在の状態(Pod数0)に差異があることを検知し、不足しているPodを3つ作成するよう、apiserverに要求します。作成されるPodは、ReplicaSetに定義されたPodテンプレートに基づきます。
  10. apiserver: 3つのPodオブジェクトの定義をetcdに書き込みます。これらのPodはまだノードに割り当てられていない(“Pending”)状態です。
  11. kube-scheduler: apiserverを介してetcdを監視しており、Pending状態の新しいPodオブジェクト(3つ)が作成されたことを検知します。
  12. kube-scheduler: 各Podについて、フィルタリングとスコアリングを実行し、実行に最適なノードを決定します。そして、決定したノード情報を各Podオブジェクトの定義に追記するよう、apiserverに要求します(これを「バインディング」と呼びます)。
  13. apiserver: 各Podオブジェクトの定義にノード情報を追記し、etcdを更新します。Podの状態はまだPendingですが、割り当てられたノード情報を持つことになります。
  14. kubelet (各ノード上): apiserverを介して、自分が管理しているノードに割り当てられたPodオブジェクトの変更(ノード情報が追記されたこと)を検知します。
  15. kubelet: 割り当てられたPodのPodSpecに従い、コンテナランタイム(Docker, containerdなど)に指示を出してコンテナイメージのPullやコンテナの作成・起動を実行します。
  16. Container Runtime: kubeletの指示に従い、コンテナを起動します。
  17. kubelet: コンテナが正常に起動したことを確認し、Podの状態が”Running”になったことをapiserverに報告します。
  18. apiserver: Podの状態をetcdに更新します。
  19. ReplicaSet Controller: apiserverを介してetcdを監視しており、管理対象のReplicaSetに対応するPodが3つRunning状態になったことを検知します。望ましい状態(3つ)と現在の状態(3つ)が一致したため、ReplicaSet Controllerのこのサイクルの仕事は完了です。
  20. Deployment Controller: apiserverを介してetcdを監視しており、管理対象のDeploymentに対応するReplicaSet(nginx-xxxx)が、望ましいレプリカ数(3)でRunning状態のPodを管理していることを確認します。望ましい状態と現在の状態が一致したため、Deployment Controllerのこのサイクルの仕事も完了です。

【図解の概念】
この一連の流れを、各コンポーネント(User/kubectl -> apiserver -> etcd <- controller-manager -> apiserver -> scheduler -> apiserver -> kubelet -> Container Runtime -> Pod)間の矢印と番号で追うように表現する。それぞれのステップで何が起きているかを簡潔に記述する。特に、etcdが情報の中心であり、apiserverが通信ハブであること、コントローラーとスケジューラーがapiserver経由で状態を監視し、アクションを起こすことを強調する。

5.2. コントロールループによる自己修復とスケーリング

上記のコントロールループは、状態の変化を自動的に検知して対応します。

  • 自己修復: 例えば、ノードがクラッシュしてその上でRunningだったPodが停止した場合、Node ControllerがノードがUnreachableになったことを検知し、apiserverにノードの状態を更新します。そのノードに割り当てられていたPodはPending状態に戻ったり、削除されたりします。ReplicaSet Controllerは、apiserverを介してetcd内のPodの状態を監視しており、Running状態のPod数が指定数より少なくなったことを検知します。すると、不足分のPodを新しく作成するようapiserverに要求し、その後のプロセスは前述のPod作成フローと同様に進みます。これにより、ダウンしたPodは自動的に別の健全なノードで再起動されます。
  • スケーリング: ユーザーがDeploymentのレプリカ数を3から5に変更した場合、この変更はapiserverを介してetcdに保存されます。Deployment Controllerは変更を検知し、管理するReplicaSetのレプリカ数を5に変更するようapiserverに要求します。ReplicaSet ControllerはReplicaSetのレプリカ数が5になったことを検知し、現在のPod数(3)が不足していることを確認します。不足分の2つのPodを作成するようapiserverに要求し、Pod作成フローが実行され、合計5つのPodが稼働するようになります。逆に、レプリカ数を減らした場合は、ReplicaSet Controllerが余分なPodを削除します。Horizontal Pod Autoscaler (HPA) は、PodのCPU利用率などのメトリクスに基づいて、DeploymentやReplicaSetのレプリカ数を自動的に調整しますが、その調整も結局はHPAコントローラーがレプリカ数の変更要求をapiserverに送ることで実現されます。

このように、Kubernetesは宣言された「望ましい状態」を維持するために、各コンポーネントが協調して「コントロールループ」を実行し続けています。

6. ネットワーキングの仕組み

Kubernetesのネットワーキングは、複雑でありながら非常に重要な側面です。Kubernetesネットワーキングモデルは、以下の基本的な要件を満たすように設計されています。

  • Pod-to-Pod Communication: フラットなネットワーク空間で、全てのPodはNATなしで他の全てのPodと通信できる必要があります。これは、Kubernetesネットワーキングの最も重要な要件の一つです。
  • Pod-to-Service Communication: PodはServiceと通信できる必要があります。これはkube-proxyによって実現されます。
  • External-to-Service Communication: クラスタ外部からServiceにアクセスできる必要があります。これはServiceのNodePortやLoadBalancerタイプ、あるいはIngressによって実現されます。
  • Service-to-Pod Communication: Service宛てのトラフィックは、バックエンドのPodにルーティングされる必要があります。これもkube-proxyによって実現されます。

【図解の概念】
ノードが複数並んでおり、それぞれのノード上にPodがいくつか配置されています。
* あるノード上のPodから、別のノード上のPodへ直接矢印が伸びており、「Pod-to-Pod (Across Nodes)」と書く。
* Podから、Service(論理的な箱として描く)へ矢印が伸びており、「Pod-to-Service」と書く。
* Serviceから、バックエンドのPod群へ矢印が伸びており、Load Balancingの概念(複数の矢印)を示す。これはkube-proxyが担う部分であることを示唆する。
* クラスタ外部(別の箱として描く)から、Serviceへ矢印が伸びており、「External-to-Service (via Service/Ingress)」と書く。

6.1. CNI (Container Network Interface)

KubernetesがPod間のネットワーク通信をフラットなアドレス空間で実現するために利用しているのが、CNIという仕様です。CNIは、コンテナネットワークプロバイダーがKubernetesなどのコンテナオーケストレーションシステムと連携するための標準インターフェースを定義しています。

各ノードには、CNI仕様を実装した「CNIプラグイン」がインストールされます(例: Calico, Flannel, Cilium, Weave Netなど)。kubeletはPodを作成する際に、設定されたCNIプラグインを呼び出し、PodにIPアドレスを割り当てたり、必要なネットワークネームスペースやvethペアなどのネットワークインターフェースを設定したりします。また、CNIプラグインはノード間の通信経路(Overlay NetworkやUnderlay Networkなど、プラグインの実装によって異なる)を確立し、どのノードのPodからでも他のノードのPodへ直接IPパケットが到達できるようにします。

【図解の概念】
各ノードの箱の中に「CNI Plugin (Calico, Flannel etc.)」と書かれた箱を描き、それがノード間のPod-to-Pod通信を可能にしている様子を補足説明で加える。

6.2. Serviceネットワーキング (kube-proxy)

前述の通り、kube-proxyはService抽象化を実現します。kube-proxyはServiceとEndpointsの情報を監視し、ノードのiptablesまたはIPVSルールを更新します。

例えば、Service “my-service” がラベルセレクターapp=my-appを持つPod群をバックエンドとしているとします。kube-proxyは、このServiceのClusterIPとポートへのトラフィックを、現在app=my-appというラベルを持つ全てのRunning状態のPodのIPアドレスとポートに分散して転送するようなルーティング規則を、ノードのネットワークスタックに設定します。クライアント(他のPodや外部)がmy-serviceのClusterIPにアクセスすると、そのトラフィックはkube-proxyが設定したiptables/IPVSルールによって、バックエンドのPodの一つに自動的にルーティングされます。

【図解の概念】
kube-proxyの図解の概念を再掲し、Service(固定IP)からPod(動的IP)へのマッピングとロードバランシングの役割を強調する。

6.3. DNS (CoreDNS)

Kubernetesクラスタ内では、Service名による名前解決が非常に重要です。アプリケーションは通常、PodのIPアドレスではなく、Service名を使って他のServiceにアクセスします。

Kubernetesクラスタには、通常、CoreDNS(または以前のkube-dns)というDNSサーバーがPodとしてデプロイされています。このDNSサーバーは、ServiceオブジェクトやPodオブジェクトの情報を監視しており、クラスタ内のDNSクエリ(例: my-servicemy-service.my-namespace)に対して、対応するServiceのClusterIPやPodのIPアドレスを応答します。

クラスタ内の全てのPodは、デフォルトでこのCoreDNSサーバーをDNSリゾルバーとして使うように設定されるため、アプリケーションはService名を使って容易に他のサービスと通信できます。

【図解の概念】
コントロールプレーンまたはPodとして動作するCoreDNSの箱を描き、それがapiserverと連携してService/Pod情報を取得し、PodからのDNSクエリに応答する様子を描く。PodからCoreDNSへの矢印、CoreDNSからapiserverへの矢印を描く。

7. ストレージの仕組み (PV, PVC, StorageClass, CSI)

コンテナのファイルシステムは一時的であり、コンテナが再起動されたり、Podが削除されたりするとデータは失われます。多くのアプリケーション(特にデータベースやメッセージキューなど)では、データを永続化する必要があります。Kubernetesは、コンテナのライフサイクルから独立した永続ストレージを提供するための仕組みを備えています。

【図解の概念】
複数のノードの外側に、共有ストレージプール(Storage Pool)の概念を描く。Storage Poolの中に、利用可能な永続ボリューム(PV)がいくつか存在している様子。ユーザーやアプリケーション(Pod)が、ストレージ要求(PVC)を出し、それが利用可能なPVにバインドされ、ノード上のPodにマウントされる一連の流れを描く。StorageClassは、要求(PVC)を満たすPVを動的にプロビジョニングする役割を持つことを示す。

7.1. PersistentVolume (PV)

  • 役割: Kubernetesクラスタ内で管理される、物理的または仮想的なストレージ(例: ディスク、ファイル共有)を抽象化したリソースです。クラスタ管理者がプロビジョニング(静的プロビジョニング)したり、StorageClassを使って動的にプロビジョニングしたりします。PVは、特定のノードに紐づかず、クラスタ全体で利用可能なストレージプールを構成します。
  • 属性: 容量、アクセスモード(ReadWriteOnce, ReadOnlyMany, ReadWriteMany)、ストレージタイプ(NFS, iSCSI, クラウドプロバイダーボリュームなど)などの属性を持ちます。

7.2. PersistentVolumeClaim (PVC)

  • 役割: ユーザーまたはアプリケーション(Pod)が、特定の属性(容量、アクセスモードなど)を持つストレージを要求するためのオブジェクトです。
  • 仕組み: ユーザーがPVCを定義してapiserverに送信すると、Kubernetesは要求された属性を満たす利用可能なPVを探します。見つかれば、そのPVとPVCが「バインド」されます。バインドされたPVは他のPVCからは利用できなくなります。

7.3. StorageClass

  • 役割: 永続ストレージの「クラス」を定義するオブジェクトです。プロビジョナー(特定のストレージバックエンドを操作するコンポーネント)や、ボリュームのパラメータ(パフォーマンスティア、冗長性など)を指定します。
  • 仕組み: PVCが特定のStorageClassを指定した場合、KubernetesはStorageClassのプロビジョナーを使って、要求を満たす新しいPVを動的に作成(プロビジョニング)し、そのPVCとバインドします。これにより、クラスタ管理者が事前に大量のPVを作成しておく必要がなくなります。

7.4. CSI (Container Storage Interface)

Kubernetesが様々なストレージシステムと連携できるようにするための標準インターフェースです。CSIを実装したストレージプロバイダーは、CSIドライバをKubernetesクラスタにデプロイすることで、そのストレージシステムをKubernetesの永続ボリュームとして利用できるようになります。StorageClassが指定するプロビジョナーは、多くの場合CSIドライバの一部として実装されます。

【図解の概念】
StorageClassの箱から、CSI Driverの箱へ矢印が伸びており、CSI DriverがStorage Pool(物理/仮想ストレージ)と連携してPVをプロビジョニングする様子を描く。PVCからStorageClassへ、PVCからPVへバインドされる様子を描き、Podの箱がバインドされたPVをマウントしている様子を描く。

8. クラスタの運用と管理

Kubernetesは、アプリケーションのデプロイだけでなく、運用・管理を自動化・効率化するための様々な機能を提供しています。

  • スケーリング:
    • Horizontal Pod Autoscaler (HPA): CPU利用率やカスタムメトリクスに基づいて、Deploymentなどのワークロードオブジェクトが管理するPodのレプリカ数を自動的に増減させます。
    • Cluster Autoscaler: Podをスケジュールするためのリソースが不足した場合に、クラスタ内のノード数を自動的に増減させます。クラウド環境のオートスケーリンググループなどと連携します。
  • アップデートとロールバック: Deploymentなどのオブジェクトは、ローリングアップデート戦略をサポートしています。新しいバージョンのPodを少しずつデプロイし、問題があれば自動的に停止したり、以前のバージョンにロールバックしたりできます。
  • モニタリングとロギング:
    • モニタリング: Prometheusなどの監視ツールと連携し、ノードやPodのリソース利用率、アプリケーションメトリクスなどを収集・可視化できます。kubeletやkube-state-metricsなどのコンポーネントがメトリクスを提供します。
    • ロギング: Fluentd, Logstashなどのロギングエージェントを各ノードにデプロイし、コンテナの標準出力/エラー出力を集約して、ElasticsearchやSplunkなどのログ分析システムに転送するのが一般的なパターンです(EFKスタックなど)。
  • セキュリティ:
    • 認証と認可 (RBAC): apiserverの機能として、誰がどのような操作を実行できるかを細かく制御できます。
    • Pod Security Policies/Standards: Podの実行時に適用されるセキュリティ制約を定義できます(特権コンテナの禁止、特定のボリュームタイプの制限など)。
    • Network Policies: Pod間のネットワーク通信をファイアウォールのように制御できます。
  • 高可用性 (HA):
    • コントロールプレーンの多重化: etcd、apiserver、controller-manager、schedulerなどのコントロールプレーンコンポーネントを複数のマシンで実行することで、単一障害点を排除し、コントロールプレーンの高可用性を実現できます。クラウドマネージドKubernetesサービス(GKE, EKS, AKSなど)では、コントロールプレーンのHAはプロバイダーによって提供されます。
    • ノードの多重化: アプリケーションのPodを複数のノードに分散してデプロイすることで、ノード障害が発生してもアプリケーションが稼働し続けるようにします。DeploymentやStatefulSetのレプリカ数を複数に設定することが基本です。
  • 設定管理: ConfigMapやSecretを使ってアプリケーションの設定や機密情報を安全に管理し、コンテナイメージから分離します。

9. まとめ

この記事では、Kubernetesクラスタの全体像から始まり、コントロールプレーンとノードを構成する主要なコンポーネント、そしてKubernetesオブジェクトとそれを駆動するコントロールループの仕組みを詳細に解説しました。さらに、ネットワーキングやストレージといった重要な側面や、クラスタの運用管理に関する機能にも触れました。

【図解の概念】
最初の全体像の図をより詳細なものとして再掲します。コントロールプレーンの箱の中にapiserver, etcd, scheduler, controller-managerの箱を描き、それぞれの連携を示す矢印を描く。各ノードの箱の中にkubelet, Container Runtime, kube-proxyの箱を描き、Podの箱を描き、それぞれの連携を示す矢印を描く。apiserverとkubelet、apiserverとコントローラー間の連携を強調する。etcdがapiserverからのみアクセスされるデータの中心であることを示す。Service, Deployment, PV/PVCなどのオブジェクトがapiserver経由で操作され、コントローラーによって管理される様子も加える。全体として、コントロールプレーンがノードとそこに配置されたPodをどのように管理・制御しているか、各コンポーネントがどのように連携しているかを一枚の図に集約するイメージで描きます。

Kubernetesの仕組みは確かに複雑ですが、その中核にあるのは「宣言的な望ましい状態」と、それを実現・維持するための自律的な「コントロールループ」です。各コンポーネントは、このコントロールループの一部として、特定の役割を担っています。apiserverが全ての情報のやり取りの中心となり、etcdが信頼できる唯一の情報源として機能します。コントローラー群とスケジューラーが、この情報を元に自動的な調整を行います。ノード上のkubeletは、コントロールプレーンからの指示に従ってコンテナの実行を管理し、kube-proxyがネットワークサービスを抽象化します。

Kubernetesの内部構造を理解することは、トラブルシューティング、パフォーマンスチューニング、およびより効率的なアプリケーション設計を行う上で非常に役立ちます。この記事が、Kubernetesの「なぜ」や「どのように」といった疑問を解消し、より深い理解へと繋がる一歩となれば幸いです。

Kubernetesの学習は奥深く、この記事で触れられなかったトピック(Operator, Helm, CI/CDパイプラインとの連携など)も多数存在します。まずは今回解説したクラスタの基本構造をしっかりと押さえ、さらに興味のある分野を掘り下げていくことをお勧めします。

これで、Kubernetesの強力な機能を最大限に活用し、スケーラブルで可用性の高いモダンなアプリケーション運用を実現するための基礎ができたことでしょう。


総単語数: 約5100語

図解については、Markdownの制約上、概念の説明に留まりました。実際に図を描く際は、各コンポーネントをボックスで表現し、それぞれの間の通信や管理の関係を矢印で示す形が最も分かりやすいでしょう。特に、apiserverを中心とした通信の流れや、etcdが状態の源泉であること、そして各コントローラーのコントロールループのイメージを視覚的に捉えることが理解を深める鍵となります。

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