Bilibili(ビリビリ)とは?中国発の人気動画サイトを徹底解説

Bilibili(ビリビリ)とは?中国発の人気動画サイトを徹底解説

中国のインターネット文化に触れたことがある方、あるいは日本の最新アニメに関心を持つ方であれば、「Bilibili(ビリビリ)」という名前を耳にしたことがあるかもしれません。正式名称は「 bilibili動画(bilibili)」で、中国の若年層を中心に絶大な人気を誇る動画共有プラットフォームです。そのユニークな特徴、特に「弾幕(ダンマク)」と呼ばれるコメントシステムは、日本のNiconico動画に影響を受けつつも、中国独自の進化を遂げ、巨大なコミュニティを形成しています。

本記事では、このBilibiliについて、その誕生から現在に至るまでの歴史、核となる特徴、多様なコンテンツ、独自の文化、ビジネスモデル、そして日本との深いつながりまでを徹底的に解説します。単なる動画サイトに留まらない、中国のデジタルネイティブ世代の巨大な遊び場であり、文化発信地としてのBilibiliの姿を紐解いていきましょう。

1. Bilibiliの誕生と成長:Niconicoからの影響と中国での進化

Bilibiliの歴史を語る上で、切っても切り離せないのが日本の動画共有サイト「Niconico動画(ニコニコ動画)」の存在です。2007年にサービスを開始したNiconico動画は、動画の上にコメントが流れる「弾幕」システムや、アニメ、ゲーム、ボーカロイドなどのACG(アニメ、コミック、ゲーム)コンテンツを中心とした文化で、日本のネットユーザーに大きな影響を与えました。

中国でも、当時の日本のACG文化は大きな人気を集めており、Niconico動画はその最先端の情報源の一つでした。しかし、中国国内からのアクセスが不安定であったり、ユーザーインターフェースが中国語に対応していなかったりといった課題がありました。

こうした背景の中、Niconico動画に触発された中国人ユーザーである徐逸(Xu Yi)、通称「⑨bishi」が、2009年に「Mikufans」という動画サイトを個人で立ち上げます。サイト名からも分かるように、日本のバーチャルアイドルである初音ミクなど、ボーカロイド関連のコンテンツが中心でした。これがBilibiliの原型となります。

Mikufansは、Niconico動画の弾幕システムを模倣しつつも、中国語圏のユーザーにとってより使いやすいインターフェースを提供しました。次第にユーザー数を増やしていったMikufansは、2010年に正式に「Bilibili(bilibili)」へと改名し、新たなスタートを切ります。この「Bilibili」という名前は、日本の人気アニメ『とある科学の超電磁砲』の主人公、御坂美琴の愛称「ビリビリ」に由来すると言われています。ACG文化への強いリスペクトを示す命名です。

改名後、Bilibiliは急速に成長を遂げます。初期は個人運営の小さなサイトでしたが、徐々にチーム体制を強化し、サーバーや機能の拡充を進めました。特に、中国国内におけるインターネットユーザーの増加と、ACG文化の浸透がBilibiliの成長を後押ししました。

当時の中国のインターネット環境は、コンテンツの選択肢が限られており、特にサブカルチャー関連の情報やコミュニティは不足していました。Bilibiliは、日本の最新アニメやゲーム、ボーカロイドなどのコンテンツを求める若者たちの受け皿となり、熱狂的なファンコミュニティを形成していきました。

Niconico動画との比較はしばしば行われますが、Bilibiliは単なる模倣に留まらず、中国独自の進化を遂げました。例えば、弾幕システムはより視覚的に豊かになり、色や位置のバリエーションが増え、より高度なコミュニケーションツールとして発展しました。また、初期から積極的にモバイルアプリの開発にも力を入れ、スマートフォンの普及とともにユーザー数を拡大しました。

2010年代半ばになると、Bilibiliはその成長性と若年層への強い影響力が注目され、複数の企業から投資を受けるようになります。特に、中国の巨大IT企業であるテンセント(騰訊)やアリババ(阿里巴巴集団)からの資本参加は、Bilibiliの経営基盤を強化し、コンテンツ投資や技術開発を加速させました。そして、2018年には米国NASDAQ市場への上場を果たし、グローバル企業としての存在感を高めました。

Niconico動画からインスピレーションを得て誕生したBilibiliは、中国の特殊なインターネット環境と巨大な若年層市場の中で、独自のコミュニティ文化とビジネスモデルを確立し、今や中国を代表する動画プラットフォームの一つに成長したのです。

2. Bilibiliの核となる特徴と文化:弾幕、ACG、そして多様化

Bilibiliを他の動画プラットフォームと決定的に区別する、最も核となる特徴は、その独特なコミュニティ文化にあります。その中心にあるのが、「弾幕(danmu/弾幕)」システムと、初期からの根幹を成すACG(アニメ、コミック、ゲーム)コンテンツです。

2.1. 弾幕(danmu/弾幕):動画上に流れる「声」

Bilibiliの最も象徴的な機能であり、文化の基盤となっているのが「弾幕」です。これは、動画の再生中に視聴者が投稿したコメントが、動画上に横書きで次々と流れていくシステムです。日本のNiconico動画から導入された機能ですが、Bilibiliではより大規模に、そして視覚的に進化しました。

弾幕の役割は、単なるコメント表示に留まりません。それは、その瞬間に動画を視聴している他の多くのユーザーと、感情や感想、ツッコミをリアルタイムで共有する「共有体験」を生み出します。感動的なシーンでは共感の弾幕が画面を埋め尽くし、面白いシーンでは笑いやジョークが飛び交います。時には、動画の内容とは直接関係のない、視聴者同士の会話やネットミーム、特定のコミュニティ内での「ネタ」が弾幕として流れることもあります。

この弾幕文化は、視聴者間に強い一体感と連帯感を生み出します。「この動画を、今、多くの人と同じ感情で共有している」という感覚は、一人で動画を視聴するのとは全く異なる体験を提供します。特に、人気の動画やライブ配信では、画面が弾幕でほとんど見えなくなるほどコメントが殺到することもあり、その熱狂ぶりがBilibiliの文化を象徴しています。

Bilibiliの弾幕システムは、日本のNiconicoよりも表現が豊かです。コメントの色やサイズ、表示位置(上部、中央、下部)、流れる速度などをユーザーが自由に設定できるため、より視覚的にインパクトのある弾幕を投稿することが可能です。また、特定のキーワードやフレーズを登録しておくと、その弾幕が表示された際に特別なエフェクトが付く機能なども存在します。

しかし、弾幕文化には光の部分だけでなく、影の部分もあります。匿名性が高いため、動画の内容と無関係な荒らしコメントやスパム、ヘイトスピーチなどが流れることもあります。Bilibiliは、フィルター機能やAIによる自動検知、ユーザーからの通報システムなどを導入して対策を講じていますが、巨大なユーザー数を抱えるプラットフォームとして、弾幕の質を維持することは常に課題となっています。

それでもなお、弾幕はBilibiliの核であり、多くのユーザーがこのユニークなコミュニケーションシステムに惹かれて利用しています。それは、単に動画を見るだけでなく、「その場に集まった人々と共に体験する」という、共有型のエンターテイメントの形を確立していると言えるでしょう。

2.2. ACG(アニメ、コミック、ゲーム)コンテンツ:初期からの揺るぎない基盤

Bilibiliは、初期から現在に至るまで、ACGコンテンツを最も重要な柱としています。設立の経緯自体が日本のACG文化へのリスペクトから生まれており、多くのユーザーも日本の漫画、アニメ、ゲーム、ボカロなどのファンです。

アニメ:
Bilibiliは、中国国内における日本の最新アニメの正規配信において、最も影響力のあるプラットフォームの一つです。日本の放送局と同時、あるいはそれに近いタイミングで新作アニメを配信するために、多くの人気タイトルの独占配信権を獲得しています。これにより、中国のアニメファンは、違法アップロードサイトに頼ることなく、高画質・高音質で、かつ公式の字幕付きで最新アニメを楽しむことができるようになりました。

また、Bilibiliは単なる配信プラットフォームに留まらず、アニメ制作にも積極的に投資しています。日本のアニメスタジオとの共同制作や、中国国内のオリジナルアニメ(国产アニメ/グオチャンアニメ)の制作・配信にも力を入れています。中国のアニメ産業は近年急速に成長しており、Bilibiliはその中心的な担い手の一つとして、国内外のアニメファンに多様な作品を提供しています。

ゲーム:
Bilibiliは、ゲーム関連コンテンツも非常に強力です。ゲーム実況、攻略動画、eスポーツ中継、ゲーム関連のニュースなどが豊富に投稿されています。加えて、Bilibiliはゲームのパブリッシング事業も展開しており、自社でゲームを開発したり、国内外の人気ゲームの中国版を運営したりしています。

特に、スマートフォンゲームのパブリッシング事業は、Bilibiliの主要な収益源の一つとなっています。日本で人気のスマートフォンゲームの多くが、Bilibiliを通じて中国市場に投入され、大きな成功を収めています。例えば、人気アプリゲーム「Fate/Grand Order」や「アズールレーン」「プリンセスコネクト!Re:Dive」などの中国版は、Bilibiliが運営しており、膨大な売上を上げています。これは、Bilibiliのユーザー層が熱心なゲーマーと一致していること、そして彼らが持つIP(知的財産)への強いロイヤリティを活かしたビジネスモデルと言えます。

コミック:
漫画(中国では「漫画/漫画」と表記されることが多い)についても、Bilibiliは公式アプリ「Bilibili漫画」などを通じて、国内外の作品を配信しています。オリジナル中国漫画の育成・発表の場としても機能しており、アニメ化やゲーム化といったメディアミックス展開も積極的に行っています。

BilibiliがACGコンテンツを重視する背景には、そのコアユーザー層が深く関連しています。彼らは、ACG文化を通じて育ち、そのコミュニティの中で自己表現や交流を行ってきました。Bilibiliは、そうしたユーザーのニーズに寄り添い、質の高いACGコンテンツを提供し続けることで、彼らのロイヤリティを獲得し、強固なコミュニティを維持しています。

2.3. 多様化するコンテンツ:ACGから全てへ

初期はACGに特化していたBilibiliですが、ユーザー層の拡大とプラットフォームの成熟に伴い、コンテンツカテゴリは大幅に多様化しています。現在では、ACG関連以外にも、以下のような幅広いジャンルの動画が投稿され、人気を博しています。

  • 知識区(知識/Zhīshì qū): 学習、科学、技術、哲学、歴史、大学の講義、プログラミング解説など。教育系コンテンツへの関心が高く、専門知識を分かりやすく解説する動画が人気です。
  • 生活区(生活/Shēnghuó qū): Vlog(Video Blog)、料理、旅行、ペット、ファッション、DIYなど。日常や趣味に関する多様なコンテンツが集まっています。人気Vlogger(Bilibiliでは「UP主」と呼ばれる)が多く活動しています。
  • 音楽区(音楽/Yīnyuè qū): オリジナル楽曲、カバー、演奏、ボカロ楽曲、ダンスなど。音楽関連の才能を発掘・共有する場となっています。
  • ダンス区(舞蹈/Wǔdǎo qū): アイドルコピーダンス、オリジナルダンス、ストリートダンスなど。若者を中心に、ダンスパフォーマンス動画が人気です。
  • 鬼畜区(鬼畜/Guǐchù qū): 特定の映像や音声を編集・加工し、面白おかしく再構成したMAD動画のようなジャンル。中国独自のネットミームやパロディが生まれやすいカテゴリです。
  • 国創区(国創/Guóchuàng qū): 中国オリジナルのアニメ、漫画、音楽などのコンテンツ。前述の国产アニメなどが含まれます。中国国内のクリエイターを育成・支援するBilibiliの取り組みが反映されています。

これらの多様なコンテンツは、Bilibiliが単なるニッチなACGサイトではなく、中国の若年層にとってあらゆる興味関心を満たす総合エンターテイメントプラットフォームへと変化していることを示しています。各カテゴリには、それぞれ熱心な視聴者とコンテンツクリエイター(UP主)が存在し、独自のコミュニティを形成しています。

2.4. コミュニティとユーザー層:「小破站」とZ世代

Bilibiliのユーザー層は、圧倒的に若年層が中心です。特に、中国の「Z世代」(概ね1995年以降に生まれた世代)と呼ばれる層が、Bilibiliの主要なユーザーであり、その文化形成を担っています。彼らはデジタルネイティブであり、インターネットを通じて多様な情報や文化に触れて育ってきました。

Bilibiliは、ユーザーから親しみを込めて「小破站(シャオポージャン/小さな破れた駅)」と呼ばれています。これは、初期のインフラが不安定で、しばしばサーバーがダウンしたりしたことに由来する愛称ですが、同時に、大手プラットフォームのような洗練さよりも、ユーザーが主体的に作り上げる手作り感や、アットホームな雰囲気を好むユーザー文化を表してもいます。この愛称は、ユーザーとプラットフォームの間に強い絆があることを示唆しています。

Bilibiliのコミュニティのもう一つの特徴は、その排他的でありながらも熱狂的なファン文化です。特定のUP主やコンテンツに対するファンの忠誠度は非常に高く、コメントや弾幕での応援、グッズ購入、オフラインイベントへの参加などを通じて、積極的にコミュニティ活動に参加します。

Bilibiliには、動画を視聴するだけでなく、コメントや弾幕を投稿したり、UP主をフォローしたり、コミュニティグループに参加したりと、様々な形でプラットフォームに関与する仕組みがあります。これは、ユーザーが単なる消費者ではなく、コンテンツの享受者であり、同時にコミュニティの参加者・形成者であるという意識を醸成しています。

正式会員制度とその入会試験:
Bilibiliには、「正式会員」というユニークな会員制度があります。正式会員になるためには、サイトの利用規約やコミュニティルールに関する問題、さらにはアニメ、ゲーム、科学、歴史など、様々な分野に関する合計100問の試験に合格する必要があります。合格ラインは60点とされていますが、決して簡単ではない難易度です。

この入会試験は、Bilibiliのコミュニティ文化を理解し、ルールを守る意思のあるユーザーだけを受け入れるための「関所」として機能しています。試験をクリアしたユーザーは、より質の高いコメント投稿や動画アップロードなどの機能が利用できるようになります。これは、コミュニティの質を維持し、荒らし行為などを抑制するための、Bilibili独自の取り組みと言えます。試験を突破した「正式会員」は、Bilibiliコミュニティの一員であるという意識を強く持ちやすい傾向があります。

3. ビジネスモデル:Bilibiliはいかに収益を上げているか

無料で多くの動画を視聴できるBilibiliですが、企業として運営していくためには当然収益が必要です。Bilibiliは、いくつかの主要な収益源を持っていますが、中でも特にゲーム事業が重要な役割を果たしています。

3.1. ゲーム事業:最大の収益源

Bilibiliのビジネスモデルにおいて、最も大きな柱となっているのがゲーム事業です。特にスマートフォンゲームのパブリッシング(運営・配信)は、Bilibiliの売上の大半を占めています。

Bilibiliは、自社でゲームを開発するだけでなく、国内外のゲームデベロッパーが開発したゲームの中国本土における独占的なパブリッシング権を獲得し、運営を行っています。前述の「Fate/Grand Order」や「アズールレーン」など、日本の人気ゲームの中国版は、Bilibiliが運営を手がけ、非常に大きな収益を上げています。

なぜゲーム事業がここまで成功しているのでしょうか?
一つには、Bilibiliのユーザー層とゲームユーザー層が強く重なっていることが挙げられます。Bilibiliのコアユーザーである若年層は、熱心なゲーマーでもあります。彼らは特定のIP(知的財産)やゲームに対して強い愛着を持ち、課金にも積極的な傾向があります。
二つ目には、Bilibiliが持つ強力なコミュニティです。ゲーム関連の動画やライブ配信を通じて、ユーザーはゲームの情報収集や交流を行い、その熱狂がゲームの売上や継続率に直結します。Bilibili上で活躍するゲーム実況UP主は、強力なインフルエンサーとなり、新規ユーザーの獲得や既存ユーザーの定着に貢献しています。
三つ目には、効果的な運営・マーケティング能力です。中国市場におけるゲーム運営には、現地の文化や規制への理解が必要です。Bilibiliは、自社のプラットフォームを活用したプロモーションや、ユーザーコミュニティとの連携を通じて、ゲームを成功に導くノウハウを蓄積しています。

ゲーム事業への依存度は、Bilibiliの収益構造における強みであると同時に、課題でもあります。特定のゲームの成功に大きく依存するため、新作ゲームの不振や、既存ゲームの人気低迷は、業績に大きな影響を与えます。そのため、Bilibiliは収益源の多角化を積極的に進めています。

3.2. 広告収入:進化する広告モデル

動画プラットフォームの一般的な収益源である広告収入も、Bilibiliの重要な収益源の一つです。ただし、Bilibiliはユーザー体験を重視しており、YouTubeのような動画冒頭に強制的に挿入されるスキップ不能な広告(インストリーム広告)は導入していません(ただし、プレミアム会員ではないユーザーには、一部動画の冒頭や中断時に短い広告が表示されるケースもあります)。

その代わりに、Bilibiliはよりユーザーフレンドリーな広告モデルを採用しています。
* ブランド広告: サイトやアプリ内のバナー広告、トップページや特定カテゴリのおすすめ表示枠など、ユーザーの邪魔になりにくい位置に表示される広告です。特に、若年層をターゲットとする企業が、Bilibiliのユーザー層にリーチするために利用します。
* ネイティブ広告: 動画コンテンツと自然に溶け込む形で表示される広告です。例えば、人気UP主が特定の商品やサービスを紹介する形式のタイアップ動画などです。
* ライブ配信広告: ライブ配信画面の特定の位置に表示される広告などです。

広告収入は増加傾向にありますが、ゲーム事業ほどの規模にはまだ至っていません。Bilibiliは、ユーザーのエンゲージメントを損なわずに広告収入を最大化する方法を模索しています。

3.3. ライブ配信:投げ銭文化と収益化

Bilibiliはライブ配信機能も提供しており、ゲーム実況、雑談、音楽演奏、ダンスパフォーマンスなど、様々なジャンルのライブ配信が行われています。ライブ配信は、UP主と視聴者がリアルタイムでインタラクションできるため、コミュニティの熱狂をさらに高める機能です。

ライブ配信における主な収益源は、視聴者からの「投げ銭」です。視聴者は仮想通貨(Bilibiliのコイン)を購入し、それをUP主に送ることで応援の気持ちを示したり、特別なメッセージを送ったりできます。投げ銭の一部はプラットフォームの手数料としてBilibiliの収益となります。人気のライバー(ライブ配信者)は、この投げ銭によって大きな収益を上げています。

また、ライブ配信中に商品のプロモーションを行ったり、ライブチケットや限定グッズを販売したりといったEコマースと連携した収益化も進んでいます。

3.4. プレミアム会員(大会員/Dà huìyuán):サブスクリプションモデル

Bilibiliは、「大会員(Dà huìyuán)」と呼ばれる有料のプレミアム会員制度を提供しています。大会員になると、以下のような特典が得られます。
* 動画再生時の広告非表示
* 高画質(1080p+、4Kなど)での動画視聴
* 限定コンテンツ(大会員限定のアニメや動画など)の視聴
* ダウンロード機能の強化
* 限定アイコンやバッジの使用
* 一部ゲーム内アイテムの特典

大会員は、広告を避けたいユーザーや、より高画質でコンテンツを楽しみたいユーザー、限定コンテンツにアクセスしたいユーザーにとって魅力的です。サブスクリプションモデルとして、Bilibiliにとって安定した収益源の一つとなっています。若年層ユーザーにも比較的購入しやすい価格設定になっていることが多いです。

3.5. Eコマース:IPを活用した商品販売

Bilibiliは、Eコマース事業も展開しています。特に、アニメやゲームなどのIP(知的財産)を活用したキャラクターグッズ、フィギュア、アパレル、漫画やDVDなどの関連商品を販売しています。自社の人気UP主のオリジナルグッズを販売することもあります。

これは、Bilibiliのユーザー層がIPコンテンツへの愛着が強く、関連商品への購買意欲が高いことを活用したビジネスです。コンテンツの提供と同時に、グッズ販売を行うことで、ユーザーのエンゲージメントを収益に繋げています。

3.6. その他の収益源

上記以外にも、Bilibiliはイベント事業(アニメイベント、ゲームイベント、コンサートなど)の開催、映画やドラマへの投資、VRなど新技術への投資など、多角的な事業展開を行っており、そこからも収益を得ています。

Bilibiliのビジネスモデルは、初期の広告中心から、ゲーム事業を核としつつ、プレミアム会員、ライブ配信、Eコマース、イベントなど、多様な収益源を組み合わせる形へと進化してきました。特に、コミュニティの熱量とIPの力を最大限に活用する点が特徴的です。今後も、ゲーム事業への依存度を下げつつ、他の事業の成長を加速させることがBilibiliの経営課題の一つと言えるでしょう。

4. Bilibiliと日本の関係:アニメ、ゲーム、そしてクリエイター

Bilibiliと日本の関係は、非常に深く、多岐にわたります。前述のように、Bilibili自体が日本のNiconico動画やACG文化に強い影響を受けて誕生したという歴史があります。現在も、Bilibiliは日本のACGコンテンツの中国における最も重要なハブの一つであり続けています。

4.1. 日本アニメの正規配信と権利獲得競争

Bilibiliは、日本の最新アニメの中国での正規配信において、長年にわたり主導的な役割を果たしてきました。多くの人気アニメの中国本土での独占配信権を獲得するために、他のプラットフォーム(かつてはYoukuやiQiyiなど)と激しい権利獲得競争を繰り広げてきました。

初期は一部違法アップロードされたコンテンツも存在しましたが、法整備が進み、知的財産権保護の意識が高まるにつれて、正規ライセンスの取得が必須となりました。Bilibiliは早い段階から正規ライセンスの獲得に注力し、日本の主要なアニメ製作会社や配給会社と強固な関係を築いてきました。

これにより、中国の視聴者は、日本のテレビ放送とほぼ同時、あるいは数日遅れ程度で、高画質の最新アニメを公式の中国語字幕付きで楽しむことができるようになりました。これは、中国における日本アニメファンの裾野を広げ、違法視聴を減らす上でも貢献しています。

特に人気タイトルの独占配信は、Bilibiliの有料会員(大会員)獲得や新規ユーザー獲得の強力なフックとなっています。「進撃の巨人」「Re:ゼロから始める異世界生活」「SPY×FAMILY」など、Bilibiliが独占配信権を獲得したことで、中国国内で爆発的な人気を博したアニメは数多く存在します。

4.2. 日本企業との提携と共同制作

Bilibiliは、アニメ配信だけでなく、日本の企業との様々な提携を進めています。
* アニメ制作における提携: 日本のアニメスタジオと共同でアニメを制作したり、日本の製作委員会に出資したりといった形で、アニメ制作の川上にも関与しています。これにより、中国の資本が日本の素晴らしいアニメ制作技術と結びつき、両国のアニメ産業の発展に貢献しています。共同制作されたアニメは、中国国内だけでなく、日本やその他の国でも配信されることがあります。
* ゲーム開発・運営における提携: 前述のように、日本のゲームデベロッパーからゲームの中国版運営権を獲得し、大きな成功を収めています。日本のゲーム会社にとって、巨大な中国市場への参入を成功させる上で、Bilibiliは非常に重要なパートナーとなっています。
* ライセンス事業: 日本の人気アニメやゲームのIPライセンスを獲得し、中国国内でグッズ展開やイベント開催などを行っています。

これらの提携は、日本のコンテンツ産業にとって、中国という巨大市場でのビジネス機会を拡大すると同時に、Bilibiliにとっても、プラットフォームの魅力を高め、収益源を確保する上で不可欠となっています。

4.3. 日本のクリエイターの進出

Bilibiliのプラットフォーム上で活動する日本のクリエイターも増えています。特に顕著なのが、バーチャルYouTuber(VTuber)です。日本の人気VTuberグループや個人のVTuberが、Bilibiliに公式チャンネルを開設し、中国語圏の視聴者向けにライブ配信を行ったり、動画を投稿したりしています。

中国のVTuber市場は非常に大きく、熱狂的なファンコミュニティが存在します。Bilibiliは、この市場において主要なプラットフォームであり、日本のVTuberが中国語圏のファンと交流し、新たな収益源を確立する場となっています。日本の人気VTuberがBilibiliで行うライブ配信は、同時視聴者数が数十万人を超えることも珍しくありません。

また、日本のイラストレーター、漫画家、音楽家なども、Bilibiliに作品を投稿したり、活動情報を発信したりすることで、中国のファンにリーチしています。Bilibiliは、言語や文化の壁を越えて、日本のサブカルチャーに関心を持つ中国の若者と、日本のクリエイターを結びつけるプラットフォームとしての役割も担っています。

4.4. 日本国内での認知度向上と課題

中国発のサービスであるBilibiliですが、前述のような日本のアニメやゲームとの関連性の深さから、日本国内でもその認知度は徐々に向上しています。特に、日本のACGファンや、中国のインターネット事情に関心を持つ層の間ではよく知られています。

しかし、日本国内で多くの人が日常的に利用するようなプラットフォームとまでは言えず、課題もいくつか存在します。
* 言語の壁: サイトやアプリのインターフェースは中国語が基本であり、日本語での利用は限定的です。多くのコンテンツも中国語の字幕や音声です。
* 決済の壁: 有料会員登録や投げ銭などを行う際に、中国国内の決済手段が必要となる場合があります。
* コンテンツのローカライズ: 日本の視聴者向けのコンテンツが不足しています。日本の文化やトレンドに特化したコンテンツを増やす必要があります。
* 知名度の低さ: 一般層におけるBilibiliの知名度はまだ高くありません。

それでも、Bilibiliは日本支社を設立するなど、日本市場への展開も視野に入れていると見られます。日本のアニメやゲームへの投資、日本のクリエイターとの連携をさらに深めることで、今後日本国内でのプレゼンスを高めていく可能性は十分にあります。日本と中国の間のデジタルコンテンツ交流において、Bilibiliは今後も重要なプレイヤーであり続けるでしょう。

5. Bilibiliの課題と今後の展望

巨大なユーザー基盤と独自のコミュニティ文化を築き上げたBilibiliですが、その道のりは平坦ではなく、いくつかの重要な課題に直面しています。同時に、これらの課題を克服し、さらなる成長を目指すための展望も見られます。

5.1. 収益源の多角化:ゲーム依存からの脱却

前述のように、Bilibiliの収益はゲーム事業への依存度が高い状態が続いています。これは、ゲーム市場の変動リスクを直接的に受けることを意味します。一つのゲームに依存せず、より安定した収益構造を確立するために、Bilibiliは収益源の多角化を加速させています。

特に注力しているのが、広告事業、ライブ配信、Eコマース、そして有料会員(大会員)の拡大です。広告事業においては、ユーザー体験を損なわずに効果的な広告モデルを開発することが求められます。ライブ配信やEコマースは、コミュニティの熱量を直接的な収益に繋げる仕組みであり、UP主エコシステムの強化が鍵となります。有料会員の拡大は、安定したサブスクリプション収入を確保するために重要です。

これらの非ゲーム分野の収益を成長させることで、ゲーム事業への依存度を下げ、よりリスク分散された、持続可能なビジネスモデルを構築することがBilibiliにとって喫緊の課題です。

5.2. コンテンツの質と多様性の維持

Bilibiliの魅力は、その多様で高品質なコンテンツにあります。しかし、ユーザー数やコンテンツ量が増加するにつれて、コンテンツの質のばらつきや、低俗なコンテンツの増加といった問題も生じやすくなります。

Bilibiliは、UP主エコシステムの支援(収益分配、教育プログラム、イベント開催など)を通じて、質の高いオリジナルコンテンツの制作を奨励しています。同時に、違法なコンテンツ、著作権侵害コンテンツ、不適切なコンテンツなどに対しては、AIによる自動検知と人手による審査を組み合わせた厳格な管理体制を敷いています。コミュニティの自浄作用も活用しつつ、プラットフォーム全体のコンテンツの質を維持・向上させることが重要です。

また、特定の人気ジャンルに偏らず、多様なカテゴリのコンテンツをバランス良く成長させることで、幅広いユーザーのニーズに応えることも課題です。

5.3. ユーザー体験の向上:弾幕の質とアルゴリズム

Bilibiliの核である弾幕システムは、その魅力であると同時に、課題でもあります。荒らしコメントやスパム弾幕は、ユーザー体験を著しく損なう可能性があります。弾幕フィルターの精度向上や、ユーザーによる報告システムの改善など、弾幕の質を管理する仕組みの強化が常に求められています。

また、ユーザーに対してパーソナライズされた動画をおすすめするアルゴリズムも、ユーザー体験を左右する重要な要素です。ユーザーの興味関心に合致したコンテンツを適切に提示することで、滞在時間を延ばし、エンゲージメントを高めることができます。

5.4. 検閲リスク:中国国内の規制強化

中国のインターネットプラットフォームとして、Bilibiliは常に政府のサイバー規制の影響を受けます。近年、中国政府によるオンラインコンテンツやプラットフォームに対する規制は強化される傾向にあります。

不適切なコンテンツ(政治的に敏感な内容、わいせつな内容、社会秩序を乱す内容など)の投稿は厳しく監視・削除されます。また、ユーザーの実名登録制度や、プラットフォームの自己審査責任なども強化されています。これらの規制は、Bilibiliが提供できるコンテンツの種類や表現の自由度に影響を与え、サービスの運営において常に考慮しなければならないリスクとなっています。規制当局との良好な関係を維持しつつ、サービスの持続的な成長を目指すバランス感覚が求められます。

5.5. 海外展開:グローバル市場への挑戦

Bilibiliは、中国国内での成功を基盤に、海外市場への展開も視野に入れています。特に、日本を含むアジア市場は、ACG文化の親和性が高いため、有力な進出先と考えられます。

日本市場では、すでにアニメ配信やゲーム運営を通じて一定のプレゼンスがありますが、プラットフォームとして本格的に浸透するためには、前述の言語や決済の壁、コンテンツのローカライズ、そして現地の競合プラットフォームとの競争といった課題をクリアする必要があります。

グローバル市場への展開は、新たな収益源の獲得や、企業価値の向上に繋がる可能性がありますが、各国の文化、ユーザーニーズ、規制環境への適応が必要であり、容易ではありません。

5.6. 新技術への対応:メタバース、NFTなど

インターネット業界のトレンドであるメタバースやNFTといった新技術への対応も、Bilibiliの今後の展望を左右する要素です。特に若年層を主要ユーザーとするBilibiliは、これらの新しいテクノロジーや文化に対する関心が高い層が多く存在します。

Bilibiliは、自社のIPを活用したNFT発行の検討や、メタバース関連技術への投資などを進めている可能性があります。これらの新分野への参入は、新たなユーザー体験を提供し、収益機会を創出する可能性を秘めています。

6. まとめ

Bilibiliは、日本のNiconico動画に触発され、中国のインターネット環境の中で独自の進化を遂げた、世界でも類を見ない動画共有プラットフォームです。単なる動画の視聴だけでなく、弾幕システムを通じたリアルタイムな交流、特定の興味関心で結ばれたコミュニティ活動がその核となっています。

初期のACG特化から、現在では多様なコンテンツを提供する総合エンターテイメントプラットフォームへと成長し、特に中国のZ世代を中心に絶大な人気を誇っています。彼らにとってBilibiliは、単なる動画サイトではなく、情報収集、学習、娯楽、そして自己表現と社会的な交流を行うための重要な生活空間の一部となっています。

ビジネスモデルにおいては、ゲーム事業が最大の収益源であり、それを広告、ライブ配信、有料会員、Eコマースなどが支える構造となっています。日本のACGコンテンツやクリエイターとの関係も非常に深く、アニメ配信やゲーム運営、共同制作などを通じて、両国のコンテンツ交流において重要な役割を果たしています。

今後、Bilibiliは収益源の多角化、コンテンツとコミュニティの質の維持・向上、そして海外市場への展開といった課題に挑戦していくことになります。中国国内の規制リスクといった特殊な環境下での運営も続きます。

しかし、若年層ユーザーからの圧倒的な支持、強固なコミュニティ文化、そして多様なコンテンツ提供能力は、Bilibiliが今後も成長を続けるための強力な基盤となるでしょう。中国のデジタルカルチャー、特に若年層の動向を知る上で、Bilibiliは今後も目が離せない存在であり続けることは間違いありません。日本との関係もさらに深まり、両国の文化交流において、その役割はますます大きくなっていく可能性があります。

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