Amazon Aurora I/O-Optimized (dsql) のメリット・デメリットを徹底解説
はじめに:進化を続けるAmazon Aurora
クラウド時代のデータベースとして、Amazon Auroraは多くの企業に採用され、その高性能、高可用性、優れたスケーラビリティで高い評価を得ています。Amazon RDS (Relational Database Service) のエンジンの一つとして提供されるAuroraは、MySQLおよびPostgreSQLと互換性がありながら、従来のデータベースエンジンとは一線を画す独自のアーキテクチャを採用することで、圧倒的なパフォーマンスと耐障害性を実現してきました。
Auroraの最大の特徴は、コンピューティング層とストレージ層が分離された「Shared Storage(共有ストレージ)」アーキテクチャにあります。複数のデータベースインスタンス(リーダー/ライター)が単一の共有ストレージボリュームを参照し、クォーラムメカニズムによってデータの耐久性と可用性を確保します。この革新的なアーキテクチャにより、高いスループット、低レイテンシ、そして秒間数百ものトランザクションを処理しながらの高速フェイルオーバーが可能となり、ミッションクリティカルなワークロードを支えてきました。
しかし、全てのワークロードがこのShared Storageモデルに最適であるとは限りません。特に、ストレージI/Oが非常に多いワークロードの場合、そのコスト構造が課題となることがありました。また、長年オンプレミスや他のクラウドでローカルストレージベースのデータベース運用に慣れ親しんだエンジニアにとって、Auroraのユニークなアーキテクチャは運用上の考慮事項を増やす側面もありました。
こうした背景から、Amazon Auroraは新たな構成オプションとして「Aurora I/O-Optimized」を導入しました。これは、一部では「dsql (durable SQL)」とも通称されることがありますが、正式には「Aurora I/O-Optimized configuration」として提供されています。この新しい構成は、従来のShared Storageモデルとは異なるアーキテクチャを採用しており、特にI/Oヘビーなワークロードに対して、コスト効率と性能面で新たな選択肢を提供します。
この記事では、このAmazon Aurora I/O-Optimized(以下、I/O-Optimizedと表記し、必要に応じて従来のShared Storage構成と対比します)に焦点を当て、そのアーキテクチャ、そして最大の特徴であるメリットとデメリットを、従来のAuroraと比較しながら分かりやすく詳細に解説します。約5000語にわたる解説を通じて、I/O-Optimizedがどのような技術であり、どのようなワークロードに適しているのか、そして利用を検討する上でどのような点に注意すべきかを深く理解していただけることを目指します。
Amazon Auroraのおさらい:Shared Storageモデルの基礎
I/O-Optimizedを理解するためには、まず従来のAmazon Aurora、すなわちShared Storageモデルの基本的なアーキテクチャを理解することが不可欠です。なぜなら、I/O-Optimizedは、このShared Storageモデルと比較されることで、その特徴がより明確になるからです。
従来のAmazon RDS(MySQLやPostgreSQLなど)は、各データベースインスタンスがそれぞれにローカルストレージを持っていました。データの永続化やレプリケーションは、インスタンス単位で行われます。これに対し、Aurora Shared Storageモデルは、コンピューティングインスタンス(db.rX, db.tXなど)と、複数のアベイラビリティーゾーン (AZ) に分散配置された共有ストレージサービスが分離されています。
Shared Storageアーキテクチャの主要な特徴:
- コンピューティング層とストレージ層の分離: データベースインスタンスは、データの実体を保持するのではなく、ストレージ層に対して読み書きを行います。ストレージ層は、複数のAZにまたがる巨大な分散ストレージシステムです。
- ログ構造ストレージ: Auroraのストレージ層は、従来のブロックベースのストレージとは異なり、トランザクションログ(REDOログ)を記録することに特化しています。データベースインスタンスは、データ変更をログレコードとしてストレージサービスに送信します。
- クォーラムベースの書き込み: データ変更のログレコードは、ストレージクラスター内の複数のストレージノードに非同期に複製されます。書き込みオペレーションは、複製されたストレージノードのうち、過半数(通常6ノード中4ノード)からの応答があれば成功と見なされます(クォーラムメカニズム)。これにより、一部のストレージノード障害が発生してもデータの耐久性が損なわれません。
- 自動ヒーリングと高耐久性: ストレージクラスターは、各ストレージノードの状態を継続的に監視し、障害が発生したノードを自動的に修復・置換します。データは複数のコピーが保持されるため、高い耐久性が保証されます。
- 高速フェイルオーバー: プライマリ(ライター)インスタンスに障害が発生した場合、他のセカンダリ(リーダー)インスタンスがプライマリに昇格するか、新しいインスタンスが迅速に起動してストレージボリュームを引き継ぎます。ストレージは共有されているため、データのリカバリプロセスが大幅に簡略化され、フェイルオーバー時間は通常30秒未満と非常に短縮されます。
- リードレプリカ: 同じ共有ストレージボリュームを参照するリードレプリカを最大15台まで作成できます。これらのレプリカは、ストレージ層から直接データを読み取るため、レプリケーション遅延が極めて小さく(通常10ミリ秒未満)、読み取りスケーラビリティが容易に向上します。
- 従量課金ストレージ: ストレージの利用量は、実際に使用した容量に基づいて従量課金されます。また、ストレージに対するI/O操作(ログレコードの書き込みやデータページの読み込み)も課金対象となります。
このShared Storageモデルは、多くの点で従来のデータベースアーキテクチャの限界を超越し、クラウドネイティブなデータベースの新たな標準を確立しました。特に、高い耐久性、可用性、高速フェイルオーバー、そして容易な読み取りスケーラビリティが必要なワークロードにおいて、その真価を発揮します。
しかし、Shared Storageモデルにおける「ストレージI/O課金」は、ワークロードによってはコストの主要因となり得ます。特に、トランザクション処理量が多く、頻繁な書き込みが発生するようなワークロードでは、ストレージI/Oコストが増大する傾向にあります。また、コンピューティングインスタンスからストレージサービスへのネットワーク経由でのアクセスは、原理的にローカルストレージへのアクセスよりもわずかにレイテンシが高くなる可能性があります(ただし、Auroraの最適化により、多くの場合その差は無視できるレベルです)。
こうした背景を踏まえ、AmazonはAuroraに新たな選択肢としてI/O-Optimized構成を追加しました。
Aurora I/O-Optimized (dsql) とは何か?
Aurora I/O-Optimizedは、従来のAurora Shared Storageモデルと根本的に異なるストレージアーキテクチャを採用した構成オプションです。Shared Storageモデルがコンピューティングとストレージを分離し、共有ストレージサービスを利用するのに対し、I/O-Optimizedは各データベースインスタンスが専用のローカルストレージを持つという、より伝統的なデータベースアーキテクチャに近い構成を採用しています。
「dsql」という通称は、おそらく「durable SQL」を指していると考えられますが、これはローカルストレージにデータを書き込むことで、そのインスタンスが持つデータの耐久性を確保している点に由来する非公式な名称でしょう。AWSの公式ドキュメントでは「Aurora I/O-Optimized configuration」と呼ばれています。
I/O-Optimized アーキテクチャの主要な特徴:
- ローカルストレージ: 各Auroraインスタンス(ライターおよびリーダー)は、そのインスタンスに紐づく専用のSSDベースのローカルストレージボリュームを持ちます。データの永続化は、まずこのローカルストレージに対して行われます。
- 従来のWAL処理に近い挙動: データベースインスタンスは、データ変更をローカルストレージ上のトランザクションログ(Write-Ahead Log, WAL)に書き込み、その後データファイルに変更を反映させます。これは、多くの伝統的なデータベースシステムが採用している一般的な手法です。
- レプリケーション: プライマリ(ライター)インスタンスのローカルストレージに書き込まれたデータ変更は、Amazon Auroraのレプリケーションプロトコルを通じて、セカンダリ(リーダー)インスタンスのローカルストレージに複製されます。Shared Storageモデルのようにストレージ層を共有するのではなく、インスタンス間でデータが複製される形です。
- 耐久性と可用性: データの耐久性は、まずローカルストレージへの書き込みによって確保されます。インスタンス障害時の可用性やデータ損失のリスクについては、Shared Storageモデルとは異なる考慮が必要です(詳細はデメリットの項で解説)。
- ストレージ容量固定と課金: インスタンスタイプに応じて利用可能なローカルストレージ容量が固定されています。ストレージ料金は、利用容量に関わらず、インスタンス時間に対して含まれる形で課金されます。Shared Storageモデルのように、ストレージI/O量に応じた課金はありません。
- スナップショットとバックアップ: 定期的なスナップショットやPITR (Point-in-Time Recovery) は、プライマリインスタンスのローカルストレージから取得されます。これらのスナップショットは、S3などの耐久性の高いストレージサービスに保存されます。
I/O-Optimizedは、見た目はShared Storageモデルと同じAuroraインスタンスタイプ(db.rXg, db.tXgなど)を使用しますが、その内部的なストレージの扱いと課金モデルが大きく異なります。これは、Shared Storageモデルが「書き込みをログとしてストレージサービスに送信する」アーキテクチャであるのに対し、I/O-Optimizedが「ローカルストレージにデータを書き込み、ログを管理する」アーキテクチャであるためです。
このアーキテクチャの違いが、I/O-Optimizedのメリットとデメリットを生み出します。
Aurora I/O-Optimizedのメリット
Aurora I/O-Optimized構成は、特にI/Oヘビーなワークロードや、コスト構造を予測しやすくしたい場合に、Shared Storageモデルと比較して顕著なメリットを提供します。
1. 予測可能なコスト構造とI/Oコストの削減
これはI/O-Optimizedの最大のメリットと言えるでしょう。Shared Storageモデルでは、ストレージ利用容量に加えて、ストレージに対するI/O操作(書き込み、読み取り、スナップショットI/Oなど)が課金対象となります。特に書き込みヘビーなワークロードの場合、このI/Oコストがインスタンス料金を上回ることも珍しくありません。ワークロードの変動が大きい場合、I/Oコストも大きく変動するため、全体のコスト予測が難しくなることがあります。
一方、I/O-Optimizedでは、ストレージ料金およびストレージI/O料金は、インスタンス料金に含まれています。つまり、インスタンスタイプと稼働時間によって、ストレージ関連のコストが固定されるのです。どれだけI/Oが発生しても、追加のストレージI/O料金は発生しません。
これは、以下のような場合に大きなメリットとなります。
- I/O量が非常に多いワークロード: 毎秒数千、数万といったストレージI/Oが発生するワークロードの場合、Shared StorageモデルのI/O課金が莫大な額になる可能性があります。I/O-Optimizedであれば、この追加コストが完全に排除されます。
- ワークロードによるI/O量の変動が大きい場合: I/O-OptimizedはI/O量に関わらずストレージコストが一定なので、コスト予測が容易になります。月々の予算策定などがしやすくなります。
- Shared StorageモデルでストレージI/Oコストがインスタンスコストの25%以上を占める場合: AWSの公式なガイドラインでは、Shared StorageモデルでストレージI/Oコストがインスタンスコストの25%を超えている場合、多くの場合I/O-Optimizedの方がトータルコストが安価になる可能性が高いとされています。
I/O-Optimizedのインスタンス料金は、同等のShared Storageインスタンスと比較して高く設定されていますが、I/Oが一定量を超えると、その高いインスタンス料金をI/O課金がなくなることによる削減効果が上回るため、結果としてトータルコストが安価になるという構造です。
2. 書き込みレイテンシの潜在的な低減
I/O-Optimizedは、データ変更をまずローカルストレージに書き込みます。これは、ネットワークを介してリモートの共有ストレージサービスにログレコードを送信するShared Storageモデルと比較して、原理的に書き込み操作のレイテンシを低く抑えられる可能性があります。
特に、短時間で完了するような小さなトランザクションが大量に発生するようなワークロードにおいて、このローカル書き込みによる低レイテンシがパフォーマンス向上に寄与する可能性があります。アプリケーションからの書き込みリクエストに対する応答時間が短縮され、全体のスループット向上につながることが期待できます。
Shared Storageモデルも非常に最適化されており、多くのワークロードで十分低いレイテンシを実現していますが、マイクロ秒単位のレイテンシが重要な一部の超低レイテンシ要件を持つアプリケーションにおいては、I/O-Optimizedのローカル書き込みが優位性を発揮する場合があります。
3. 特定のワークロードにおける性能向上
ローカルストレージを持つことで、データベースインスタンスはデータページのキャッシュ(バッファプール)効率を向上させやすい場合があります。Shared Storageモデルでは、バッファプールはインスタンスメモリ内にありますが、データの実体はリモートストレージにあります。一方、I/O-Optimizedでは、データの実体もローカルストレージにあるため、メモリキャッシュの効率化や、ストレージとの連携において最適化の余地が生まれる可能性があります。
また、ローカルストレージへの書き込みは、Shared Storageモデルのログ構造ストレージへのログ送信とは異なるパスをたどります。これにより、Shared Storageモデルで稀に発生する可能性のある、ストレージ層側の一時的なボトルネックや、ログ送信処理のオーバーヘッドから解放されることで、特定の書き込みパターンや突発的な書き込みスパイクに対して、より安定した性能を発揮できる可能性があります。
特に、プライマリキーやインデックスへのランダムな書き込みが多く、ディスクI/Oパターンが散乱しやすいワークロードにおいて、ローカルSSDの特性を活かせる可能性があります。
4. 従来のデータベースアーキテクチャとの親和性
I/O-Optimizedは、各インスタンスがローカルストレージを持つという点で、オンプレミスや他のクラウド環境で広く利用されている伝統的なデータベースアーキテクチャ(例えば、EC2インスタンス上で動作するMySQLやPostgreSQL、あるいは他のマネージドサービス)に近い構成です。
これは、以下のような点でメリットとなり得ます。
- 移行の容易性: ローカルストレージベースのデータベースからAurora I/O-Optimizedへの移行は、アーキテクチャの違いによる考慮事項が比較的少ない可能性があります。特に、ストレージの構成や性能特性に関する理解が、Shared Storageモデルよりも既存の知識と親和性が高い場合があります。
- 運用・管理の親しみやすさ: ローカルストレージの空き容量監視、I/O性能指標の確認などが、従来のデータベース運用と類似しているため、既存の運用チームが習熟しやすい可能性があります。ただし、Auroraとしてのマネージドサービス機能(自動バックアップ、パッチ適用など)は引き続き利用可能です。
- トラブルシューティング: ローカルストレージに関連する性能問題の分析などが、慣れ親しんだ手法で行える場合があります。
ただし、これはあくまでストレージアーキテクチャの一側面に限った話であり、Auroraとしてのマネージドサービスとしての特性(フェイルオーバー、レプリケーション、バックアップの仕組みなど)はShared Storageモデルと共通する部分や、I/O-Optimized独自の仕組みがある点には注意が必要です。完全に同じ運用・管理になるわけではありません。
5. インスタンスタイプに最適化されたストレージ性能
I/O-Optimizedでは、利用できるストレージ容量はインスタンスタイプによって事前に定義されています。これは、AWSが各インスタンスタイプに対して、そのコンピューティングおよびメモリリソースに見合った適切なローカルストレージ容量と性能(IOPS、スループット)を割り当てていることを意味します。
ユーザーはストレージのプロビジョニングや性能設計について Shared Storage モデルほど詳細に気を使う必要がありません。選択したインスタンスタイプに対して最適なストレージ性能が提供されるため、インスタンスタイプを選択するだけで、コンピューティングとストレージのバランスが取れた構成を得られるというメリットがあります。
例えば、より大きなインスタンスタイプを選択すれば、それに伴って大容量かつ高性能なローカルストレージが提供される設計になっています。
以上のように、Aurora I/O-Optimizedは、特にコスト構造の予測性、I/Oコスト削減、特定のワークロードにおける性能向上、そして従来のデータベースアーキテクチャとの親和性といった点で、Shared Storageモデルにはない独自のメリットを提供します。しかし、これらのメリットは、Shared Storageモデルが提供する高い可用性やスケーラビリティの特性とのトレードオフの上に成り立っている部分もあります。次に、そのデメリットについて詳しく見ていきましょう。
Aurora I/O-Optimizedのデメリット
Aurora I/O-Optimizedは多くのメリットを提供しますが、Shared Storageモデルと比較していくつかの重要な違いがあり、これらがデメリットまたは考慮事項となり得ます。I/O-Optimizedを選択する際は、これらのデメリットを十分に理解し、ワークロードの要件と照らし合わせることが不可欠です。
1. Shared Storageモデルよりも低い高可用性・耐久性レベル
I/O-Optimized構成における最も重要な違いであり、Shared Storageモデルとの最大のトレードオフとなり得るのが、高可用性と耐久性に関する設計思想の違いです。
- ローカルストレージへの依存: I/O-Optimizedでは、データはまずインスタンスに紐づくローカルストレージに書き込まれます。プライマリ(ライター)インスタンスが属するAZで大規模な障害が発生した場合、ローカルストレージ上のデータに即座にアクセスできなくなる可能性があります。
- 可用性の回復時間: Shared Storageモデルが、異なるAZに分散配置されたストレージノードのクォーラムによってデータ耐久性を確保し、秒単位の高速フェイルオーバーを実現するのに対し、I/O-Optimizedではインスタンス障害やAZ障害からの復旧に時間がかかる可能性があります。ライターインスタンスに障害が発生した場合、別のAZにいるリーダーインスタンスが昇格しますが、その際にレプリケーション遅延が発生していた場合、データ損失のリスクや、復旧にかかる時間がShared Storageモデルよりも長くなる可能性があります。新しいインスタンスを起動して復旧する場合も、ローカルストレージの復旧プロセスやレプリケーションの同期に時間がかかることが考えられます。
- 単一インスタンスの障害: Shared Storageモデルでは、ストレージ層のクォーラムメカニズムにより、一部のストレージノードに障害が発生してもデータ耐久性は維持されます。I/O-Optimizedでは、データは基本的にインスタンスのローカルストレージに存在するため、そのインスタンス(特にライター)のローカルストレージ自体に物理的な障害が発生した場合、データ損失のリスクが増大する可能性があります(ただし、AWSの提供するローカルストレージは非常に高い耐久性を持っていますが、分散共有ストレージモデルの多重冗長性とはレベルが異なります)。
- レプリケーション遅延: リーダーインスタンスは、ライターインスタンスのローカルストレージからのレプリケーションによってデータを同期します。このレプリケーションは非同期で行われるため、書き込み負荷が高い場合やネットワーク遅延が大きい場合に、Shared Storageモデルの「ニアゼロ」レプリケーション遅延と比較して、遅延が大きくなる可能性があります。これは、フェイルオーバー時のデータ損失リスクや、リーダーインスタンスからの読み取りにおけるデータ鮮度に関わる問題となります。
極めて高い可用性(99.99%以上)や、フェイルオーバー時のデータ損失ゼロまたは極小を厳格に要求されるようなミッションクリティカルなワークロードの場合、Shared Storageモデルのクォーラムベースのアーキテクチャの方が適している可能性が高いです。I/O-Optimizedは、従来のRDSマルチAZ構成に近い、またはそれ以上の可用性レベルを提供しますが、Aurora Shared Storageのレベルには及ばない可能性を理解しておく必要があります。
2. スケーラビリティに関する制限
I/O-Optimized構成は、スケーラビリティに関してもShared Storageモデルとは異なる制約を持ちます。
- リードレプリカ数の上限: Shared Storageモデルでは、同じ共有ストレージボリュームを参照するリードレプリカを最大15台まで作成できます。一方、I/O-Optimized構成のリードレプリカは、プライマリインスタンスからのレプリケーションによってデータを同期するため、レプリケーションの負荷や遅延が問題となり、Shared Storageモデルほど多くのリードレプリカを簡単にはスケールアウトできない可能性があります。具体的な上限数はAWSの仕様に依存しますが、一般的にShared Storageよりも少なくなる傾向があります。
- ストレージ容量のスケーリング: I/O-Optimizedでは、ストレージ容量はインスタンスタイプに固定されており、インスタンスの稼働中に動的に容量を拡張することはできません。ストレージ容量を増やしたい場合は、より大きな容量を持つインスタンスタイプに変更するか、新しいクラスターを作成してデータを移行する必要があります。Shared Storageモデルのように、ストレージ容量が自動的に拡張されるわけではないため、事前に必要なストレージ容量を見積もっておく必要があります。
- ストレージ性能のスケーリング: 同様に、ストレージ性能(IOPSやスループット)もインスタンスタイプに紐づいています。より高いストレージ性能が必要な場合も、インスタンスタイプをスケールアップする必要があります。Shared Storageモデルでは、I/O性能はワークロードに応じてスケーリングされ、課金されます。
これらのスケーラビリティに関する制限は、特に将来的なデータ量の増加が予測される場合や、読み取り負荷に応じて動的にリードレプリカを多数追加する可能性があるワークロードにとって、重要な検討事項となります。
3. 運用・管理上の新たな考慮事項
I/O-Optimized構成は、運用・管理においてもShared Storageモデルとは異なる考慮が必要となります。
- ストレージ容量の監視: ローカルストレージの容量が固定されているため、ディスク使用率を積極的に監視し、容量不足にならないように注意する必要があります。容量が逼迫した場合の影響は、Shared Storageモデルとは異なり、インスタンス単位で発生します。
- バックアップ/リストア戦略: バックアップ(スナップショット)はローカルストレージから取得されます。リストア時の挙動や復旧時間も、Shared Storageモデルのそれとは異なる可能性があります。特に、大規模なデータセットのリストアにかかる時間や、PITRからの復旧プロセスについて、違いを理解しておく必要があります。
- モニタリング指標: 監視すべき主要な指標には、ローカルストレージのIOPS、スループット、レイテンシ、ディスク使用率などが加わります。Shared Storageモデルで重視されるストレージI/Oクレジットや課金対象I/Oといった指標は、I/O-Optimizedでは重要ではなくなります。
- トラブルシューティング: 性能問題や障害発生時の原因特定において、ローカルストレージに関連する要因を考慮に入れる必要があります。ネットワーク、コンピューティング、メモリだけでなく、ローカルストレージの性能や状態も分析対象となります。
- 特定の機能の互換性: I/O-OptimizedがサポートするAuroraのエンジンバージョンや機能は、Shared Storageモデルよりも後から対応となる場合があります。利用したい特定の機能がI/O-Optimized構成でサポートされているか、事前に確認が必要です。
4. コスト構造の裏返し
I/O-OptimizedのメリットとしてI/Oコストの削減と予測性を挙げましたが、これは同時にデメリットの裏返しでもあります。
- I/O量が少ない場合の高コスト: もしワークロードのストレージI/O量が少なく、Shared StorageモデルでのI/O課金がインスタンス料金の25%を下回るような場合、I/O-Optimizedの高いインスタンス料金が割高になる可能性があります。I/O-Optimizedは、I/O量が多ければ多いほどコストメリットが大きくなるモデルです。
- ストレージ容量の無駄: インスタンスタイプに固定されたローカルストレージ容量は、実際に利用するデータ量が少ない場合でも、その容量に対するコストを支払うことになります。Shared Storageモデルのように、利用した分だけ課金されるわけではないため、必要な容量を大きく見積もりすぎると、コスト効率が悪くなる可能性があります。
したがって、I/O-Optimizedがコスト効率が良いかどうかは、ワークロードのストレージI/O特性と、必要なストレージ容量によって決まります。事前の正確なワークロード分析が不可欠です。
5. 新しい技術ゆえの成熟度(相対的)
Aurora I/O-Optimizedは、従来のShared Storageモデルと比較すると新しい構成オプションです。Shared Storageモデルは長年にわたり多くのユーザーに利用され、様々なシナリオでの知見や運用ノウハウが蓄積されています。
I/O-OptimizedもAWSによって十分にテストされ提供されていますが、Shared Storageモデルと比較すると、まだ事例が少なかったり、特定のニッチなワークロードパターンでの挙動に関する情報が少なかったりする可能性があります。ただし、これは時間と共に解消されていく性質のデメリットです。
これらのデメリットや考慮事項を総合的に判断し、I/O-Optimizedが自身のワークロードやビジネス要件に合致するかどうかを慎重に評価する必要があります。特に、Shared Storageモデルが提供する極めて高い可用性や柔軟なスケーラビリティが必須要件である場合は、I/O-Optimizedは適さないかもしれません。
Aurora I/O-Optimizedと従来のAurora (Shared Storage) の比較
ここまで見てきたように、Aurora I/O-Optimizedと従来のShared Storageモデルは、アーキテクチャ、性能特性、コスト構造、そして運用上の考慮事項が大きく異なります。両者の違いを明確にするために、以下の比較表にまとめます。
特徴 | Aurora I/O-Optimized (dsql) | 従来のAurora (Shared Storage) | 比較のポイント |
---|---|---|---|
ストレージモデル | 各インスタンスが専用のローカルSSDストレージを持つ。 | 複数のインスタンスが単一の分散共有ストレージボリュームを参照。 | I/O-Optimizedは伝統的モデルに近い。Shared Storageは分離・分散型。 |
データ永続化 | まずローカルストレージに書き込み、その後レプリケーション。 | ログレコードをストレージサービスに送信し、クォーラムで耐久性確保。 | I/O-Optimizedはインスタンス単位、Shared Storageはクラスター単位。 |
可用性・耐久性 | Shared Storageより相対的に低い可能性。 AZ障害時の影響が大きい可能性。 |
極めて高い (99.99%以上)。 分散ストレージによる高い耐障害性。 |
最も大きな違い。Shared Storageがミッションクリティカル向け。I/O-Optimizedは従来のRDSマルチAZに近いレベル。 |
フェイルオーバー | レプリケーション遅延によって復旧時間やデータ損失リスクが増える可能性。 | 通常30秒未満。 ストレージ共有によりリカバリ不要で高速。 |
Shared Storageが圧倒的に高速でデータ損失リスクが低い。 |
レプリケーション | プライマリからのデータレプリケーション (非同期)。 | 共有ストレージからの読み取り (ニアゼロ遅延)。 | I/O-Optimizedはレプリケーション遅延の発生あり。Shared Storageは遅延が極めて小さい。 |
リードレプリカ | 数に制限あり。 レプリケーション負荷がボトルネックになりうる。 |
最大15台まで。 ストレージから直接読み取り、容易にスケールアウト。 |
読み取りスケーラビリティはShared Storageが優位。 |
ストレージ容量 | インスタンスタイプに固定。 動的な拡張は不可。 |
自動的に拡張。 ほぼ上限なし。 |
容量管理はI/O-Optimizedで必須。Shared Storageは管理不要。 |
ストレージ性能 | インスタンスタイプに紐づく。 固定性能。 |
ワークロードに応じてスケーリング。 I/O量に応じて変動。 |
I/O-Optimizedは固定性能。Shared StorageはI/O量に連動。 |
コスト構造 | インスタンス料金にストレージ料金・I/O料金が含まれる。 | インスタンス料金 + ストレージ容量料金 + ストレージI/O料金。 | 最も大きな違い。I/O-OptimizedはI/O量に関わらずストレージコスト一定。Shared StorageはI/O量で変動。 |
書き込み性能 | ローカル書き込みによる低レイテンシの可能性。 特に短時間トランザクション。 |
リモートストレージへのログ送信。 高スループット。 |
短時間トランザクションではI/O-Optimizedが優位な可能性。高スループットは両者とも高性能。 |
運用・管理 | ローカルストレージ容量監視など、伝統的DBに近い考慮が必要。 | ストレージ容量監視は不要。 I/OクレジットなどのAurora特有指標。 |
I/O-Optimizedはより伝統的な運用に近く、Shared StorageはAurora独自の運用が必要。 |
適したワークロード | I/Oヘビーでコスト予測性を重視。 短時間書き込みが多い。 |
極めて高い可用性・耐久性が必須。 読み取りスケーラビリティが重要。 |
I/O-Optimizedはコスト効率重視のI/Oヘビーワークロード。Shared Storageはミッションクリティカル、Read-heavy。 |
この比較表からわかるように、どちらの構成が優れているということではなく、ワークロードの特性、ビジネス上の要件(可用性、コスト、スケーラビリティなど)に応じて最適な構成を選択することが重要です。
Aurora I/O-Optimizedが適したユースケース
上記のメリット・デメリットを踏まえると、Aurora I/O-Optimizedは特定のワークロードにおいてShared Storageモデルよりも優れた選択肢となり得ます。以下に、I/O-Optimizedが適していると考えられる主なユースケースを挙げます。
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ストレージI/O量が非常に多く、I/Oコストを削減したいワークロード:
- トランザクション処理量が膨大で、頻繁なデータ書き込みやインデックス更新が発生するシステム(例: オンライントランザクション処理 (OLTP) システムの一部)。
- 一時テーブルを多用したり、ディスクベースのソートやハッシュ処理が頻繁に発生したりする、I/O集約的なクエリが多いワークロード。
- Shared Storageモデルでインスタンス料金に対するストレージI/O料金の比率が高い場合。
-
コスト構造の予測性を重視したいワークロード:
- ワークロードのI/O量が大きく変動するため、月々のストレージコストを予測しにくい場合に、コストを固定化したい。
- 予算管理の観点から、インスタンス料金に含まれる形でのストレージコストを好む場合。
-
短時間で完了する書き込みトランザクションが多く、低レイテンシが求められるワークロード:
- ユーザーのインタラクションに伴うリアルタイムなデータ書き込みなど、マイクロ秒単位の書き込み応答時間が重要なアプリケーション。
- Shared Storageモデルのログ送信プロセスよりも、ローカル書き込みの方がレイテンシ面で有利になる可能性があるワークロード。
-
ローカルストレージベースのデータベースからの移行を検討しており、運用ギャップを小さくしたい場合:
- オンプレミスやEC2上のRDSなど、ローカルストレージを持つデータベースで運用経験があり、その運用感覚に近い環境をクラウドで実現したい。
- ストレージ容量や性能に関する従来の知識を活かしやすい構成を望む場合。
-
Shared Storageモデルの最上位レベルの可用性・耐久性が必須ではないワークロード:
- RPO (目標復旧時点) および RTO (目標復旧時間) の要件が、Shared Storageモデルほど厳しくなく、I/O-Optimizedが提供するレベルで十分な場合。
- AZ障害からの回復に、Shared Storageモデルよりもわずかに時間がかかっても許容できる場合。
これらのユースケースに該当するかどうかは、既存のデータベース(もしあれば)のワークロード分析や、新規システムの場合は想定されるワークロード特性に基づいて判断する必要があります。Amazon CloudWatchなどのモニタリングツールを活用して、現在のデータベースのI/O量やI/Oコストを評価することが、適切な構成を選択するための第一歩となります。
Aurora I/O-Optimizedを利用する上での注意点
Aurora I/O-Optimizedの導入を検討する際には、以下の点に注意が必要です。
- ワークロード特性の正確な評価: 最も重要なのは、実際の、または予測されるワークロードのストレージI/O特性を正確に評価することです。特に、読み取りI/Oと書き込みI/Oのバランス、I/O量のピーク、合計I/O量、およびShared StorageモデルでのストレージI/Oコストがインスタンスコストに対してどれくらいの割合を占めているかを把握することが、コスト効率の比較において不可欠です。CloudWatchメトリクス (VolumeWriteIOPs, VolumeReadIOPs, TotalBackupStorageBilled, SnapshotStorageUsedGigaBytesなど) を確認しましょう。
- 必要なストレージ容量の計画: I/O-Optimizedはストレージ容量が固定です。将来的なデータ量の増加を考慮し、適切なインスタンスタイプを選択して必要な容量を確保する必要があります。容量不足はサービス停止につながる可能性があるため、慎重な計画が必要です。
- 可用性・耐久性要件の再確認: Shared Storageモデルが提供する極めて高いレベルの可用性・耐久性が本当に必須であるかを再確認します。I/O-Optimizedの可用性モデル(AZ障害時の挙動、フェイルオーバー時間、データ損失リスクなど)が、ビジネスの要求を満たすかどうかを評価します。
- レプリケーション遅延の影響評価: リーダーインスタンスからの読み取りデータ鮮度要件や、フェイルオーバー時のデータ損失リスクについて、非同期レプリケーションによる遅延が許容できる範囲であるか評価します。
- インスタンスタイプとコストの比較: Shared Storageモデルと同等のインスタンスタイプ(CPU、メモリ)で比較し、I/O-Optimizedのインスタンス料金がShared Storageインスタンス料金 + 平均的なストレージI/O料金 + ストレージ容量料金を上回るか下回るかを試算します。ブレークイーブンポイントとなるI/O量を把握すると良いでしょう。AWS Cost Explorerなどのツールも活用できます。
- 運用・管理体制の準備: ローカルストレージの監視や、バックアップ/リストア戦略の違いなど、I/O-Optimized特有の運用・管理タスクに対応できるよう、運用チームのスキルアップや体制整備が必要となる場合があります。
- エンジンバージョンと機能の互換性確認: 利用したいAuroraのデータベースエンジン(MySQLまたはPostgreSQL)のバージョンや、特定の機能(例: Aurora Serverless v2, Global Database, Babelfishなど)が、I/O-Optimized構成でサポートされているか、AWSのドキュメントで最新情報を確認します。
これらの注意点を踏まえ、PoC (Proof of Concept) を実施して実際のワークロードでの性能やコストを評価することも有効な手段です。
まとめ:Amazon Aurora I/O-Optimizedは新たな選択肢
Amazon Aurora I/O-Optimized (通称: dsql) は、従来のAmazon Aurora Shared Storageモデルに加えて提供される、新たな構成オプションです。各データベースインスタンスがローカルストレージを持つという、より伝統的なアーキテクチャに近い構造を採用しています。
このアーキテクチャは、特にストレージI/O量が非常に多いワークロードに対して、コスト削減とコスト予測性の向上という大きなメリットをもたらします。ストレージI/O量に応じた課金がなくなる代わりに、インスタンス料金にストレージコストが含まれる形となるため、I/Oが多ければ多いほどコスト効率が良くなります。また、ローカルストレージへの書き込みは、特定のワークロードにおいて書き込みレイテンシの低減に貢献する可能性も秘めています。
しかし、その一方で、Shared Storageモデルが提供する極めて高い可用性・耐久性や、柔軟な読み取りスケーラビリティといった点では、I/O-Optimizedはいくつかの制約を持ちます。ローカルストレージへの依存、非同期レプリケーションによるレプリケーション遅延、リードレプリカ数の制限、そしてストレージ容量が固定であることなどが、I/O-Optimizedのデメリットまたは考慮事項となります。
Amazon Aurora I/O-Optimizedは、Shared Storageモデルの代替というよりは、Auroraファミリーにおける新たな選択肢として位置づけられます。ワークロードの特性(I/O量、読み取り/書き込み比率)、ビジネスの可用性・耐久性要件、そしてコスト効率に関する考慮事項を総合的に評価した上で、どちらの構成が最適かを判断することが重要です。
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Shared Storageモデルが適している場合:
- 極めて高い可用性・耐久性 (99.99%以上) が必須。
- フェイルオーバー時のデータ損失を最小限に抑えたい。
- 読み取り負荷が高く、多数のリードレプリカで容易にスケールアウトしたい。
- ストレージI/O量が比較的少なく、I/O課金がコストの主要因にならない。
- ストレージ容量の自動拡張が必要。
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I/O-Optimizedが適している場合:
- ストレージI/O量が非常に多く、I/Oコストを大幅に削減したい。
- コスト構造をより予測可能にしたい。
- 特定の書き込みヘビーなワークロードで、低レイテンシを追求したい。
- 必要なストレージ容量が見積もり可能で、容量固定でも問題ない。
- Shared Storageモデルほどの最上位レベルの可用性が必須ではない。
Amazon Auroraは、Shared StorageモデルとI/O-Optimizedという2つの強力な構成オプションを提供することで、ユーザーが多様なワークロードと要件に対して、最適なデータベース環境を選択できるようになりました。今後もAmazon Auroraは進化を続け、より多くの選択肢と機能を提供していくことが期待されます。
データベースの選定や構成は、システムの根幹に関わる重要な判断です。この記事が、Amazon Aurora I/O-Optimized(dsql)の特性を理解し、自身のワークロードに最適なAurora構成を選択するための一助となれば幸いです。