Azure VMware Solution (AVS) の特徴、料金、最適な利用シーンとは?

Azure VMware Solution (AVS) 徹底解説:特徴、料金、最適な利用シーンを網羅

はじめに

近年、クラウドへの移行は企業のIT戦略において避けて通れないテーマとなっています。多くの企業が既存のオンプレミス環境でVMwareを基盤とした仮想化を進めてきましたが、これらのワークロードをいかに効率的かつ迅速にクラウドへ移行させるか、あるいはクラウドの柔軟性やスケーラビリティをオンプレミス環境と組み合わせて活用するかは大きな課題です。アプリケーションの再構築(リファクタリング)やプラットフォームの再設計(リプラットフォーム)には多大な時間、コスト、そしてリスクが伴います。

このような背景から生まれたのが、Microsoft Azureが提供するAzure VMware Solution(AVS)です。AVSは、Azureクラウド上でネイティブなVMware環境を提供するサービスであり、既存のVMwareワークロードをほとんど変更することなくAzureへ移行・実行することを可能にします。これにより、長年培ってきたVMwareのスキルや運用プロセス、ツールをそのまま活用しながら、Azureのグローバルなインフラストラクチャとサービスを利用できるようになります。

本記事では、このAVSについて、その詳細な特徴、料金体系、そしてどのような利用シーンに最も適しているのかを網羅的に解説します。オンプレミスのVMware環境のクラウド移行やハイブリッドクラウド構築を検討されているIT担当者や意思決定者にとって、AVSが有力な選択肢となり得る理由とその具体的な側面を深く掘り下げていきます。

Azure VMware Solution (AVS) とは?

Azure VMware Solution (AVS) は、Microsoft Azureのベアメタルインフラストラクチャ上で、VMwareの主要コンポーネント(vSphere、vSAN、NSX-T、HCX)をネイティブに実行できるクラウドサービスです。これは単にVMwareを仮想マシンとしてホストするのではなく、Azureの物理サーバー上に直接VMwareのスタックを展開する形態をとります。

このアプローチの最も重要な点は、既存のVMwareワークロードや運用プロセスに与える影響を最小限に抑えられることです。オンプレミスでvSphereを利用している場合、vCenter Serverを用いたVM管理、vSANを用いたストレージ管理、NSX-Tを用いたネットワーク・セキュリティ管理といった、慣れ親しんだVMwareの管理ツールやAPIをそのままAVS環境でも使用できます。また、VMware HorizonやCitrixなどのVDIソリューション、特定のOSやアプリケーションなど、VMware環境で稼働実績のある様々なソフトウェアや構成を、大きな変更なしにAzureへ移行できます。

AVSは、Microsoftが提供するフルマネージドサービスです。これは、AVS環境の基盤となるハードウェア、ハイパーバイザー(vSphere)、vSANクラスタ、NSX-T環境の基本的な構成、そしてそれらのライフサイクル管理(パッチ適用やアップグレード)をMicrosoftが責任を持って行うことを意味します。ユーザーは、AVSプライベートクラウドと呼ばれる専用環境内で、VMwareのvCenterを通じて仮想マシン(VM)の作成、構成、管理を行います。NSX-Tによる論理ネットワークやセキュリティポリシーの設定、vSANデータストアの管理なども、ユーザーの責任範囲となります。

このように、AVSはオンプレミスのVMware環境とAzureクラウドとの間に、技術的・運用的な隔たりを最小限に抑える架け橋となるサービスと言えます。

AVS の主要な特徴

AVSが提供する主要な特徴は多岐にわたります。ここでは、その中核となる機能を詳しく見ていきましょう。

1. VMware スタックのネイティブ実行

AVSの中核をなすのは、Azureのベアメタルサーバー上で動作するVMwareのエンタープライズクラスのソフトウェア定義データセンター (SDDC) スタックです。これには以下の主要コンポーネントが含まれます。

  • VMware vSphere: サーバ仮想化の基盤であり、ESXiハイパーバイザーとvCenter Serverで構成されます。AVSでは、Azureハードウェア上のESXiクラスターがvCenter Serverによって管理されます。
  • VMware vSAN: 仮想ストレージ機能を提供します。AVSでは、クラスター内のESXiホストに搭載されたローカルストレージ(SSD/NVMe)を集約し、単一の分散共有データストアとしてvSANデータストアを構成します。このvSANデータストア上にVMDKファイルが配置されます。
  • VMware NSX-T Data Center: ネットワーク仮想化とセキュリティ機能を提供します。AVS環境内のVM間の論理ネットワークセグメントの作成、ルーティング、ファイアウォールによるセキュリティポリシー(マイクロセグメンテーションを含む)の設定は、NSX-Tによって実現されます。また、オンプレミスやAzure VNetとの接続もNSX-Tを介して行われます。
  • VMware HCX: ハイブリッドクラウド間でのワークロードモビリティ、すなわちVMware環境間での仮想マシンの移行を効率化するためのツールです。AVSへの移行において、オンプレミスからAVSへのVMのコールド移行、ホット移行(vMotion相当)、またはL2延伸を伴う移行などを容易に行うために重要な役割を果たします。

これらのコンポーネントが緊密に連携することで、オンプレミスのVMware環境と同等の高可用性、スケーラビリティ、管理性を持つSDDC環境がAzure上に構築されます。

2. Azure ネイティブサービスとの統合

AVSの大きな強みの一つは、広範なAzureネイティブサービスとの連携が可能である点です。AVS環境で稼働するVMwareワークロードは、Azureの仮想ネットワーク(VNet)を介して、Azure IaaS(仮想マシン、ストレージ)、PaaS(データベースサービス、分析サービス、AI/MLサービスなど)、SaaS(Microsoft 365など)といった様々なサービスと連携できます。

例えば、AVS上のVMware VMからAzure SQL Databaseを利用したり、Azure Blob Storageにバックアップを取得したり、Azure Active Directory (Azure AD) と連携して認証・認可を管理したりすることが可能です。Azure MonitorやAzure Security Centerといった運用・セキュリティ関連サービスも、AVS環境の監視や保護に活用できます。このシームレスな連携により、既存のVMwareワークロードを維持しつつ、Azureの持つ豊富なクラウドサービスを活用してアプリケーションの機能拡張や近代化を段階的に進めることができます。

3. ネットワーク機能

AVSのネットワーク構成は、オンプレミス、AVSプライベートクラウド、そしてAzure VNet間の接続を中心に設計されています。

  • ExpressRoute: オンプレミスデータセンターとAzure間のプライベートかつ高帯域幅、低遅延の接続を提供します。AVSへの接続は、通常、このExpressRoute回線を介して行われます。ExpressRoute Global Reachを利用することで、複数のオンプレミス拠点や他のExpressRoute接続を持つAzureリージョン間のネットワークを、Microsoftのグローバルネットワーク上でシンプルにルーティングできます。
  • Azure Virtual Network (VNet) とのピアリング: AVSプライベートクラウドは、Azure VNetとピアリング接続することが可能です。これにより、AVS環境とVNet上のAzureリソース(Azure VM, PaaSなど)が、プライベートIPアドレスを用いて高速かつ安全に通信できます。
  • NSX-T による論理ネットワーク: AVSプライベートクラウド内部のネットワークは、NSX-Tによって抽象化・管理されます。VMに対する論理セグメントの作成、分散ルーター(Distributed Router)による東西トラフィックのルーティング、ゲートウェイ(Tier-0, Tier-1)による南北トラフィック制御、そして分散ファイアウォール(Distributed Firewall)によるマイクロセグメンテーションなどがNSX-Tマネージャーを通じて設定されます。
  • インターネットアクセス: AVSプライベートクラウドからインターネットへのアウトバウンド通信は、Azure VNetを経由させるのが一般的です。これにより、Azure FirewallやNVA (Network Virtual Appliance) といったAzureのセキュリティアプライアンスによる集中的な制御と監査が可能になります。インバウンド通信は、Azure Load BalancerやAzure Application GatewayなどのAzureサービスを介して制御されます。

4. ストレージ機能 (vSAN)

AVSの主要なストレージは、vSANによって提供されるSoftware-Defined Storageです。AVSプライベートクラウド内の各ESXiホストに搭載された高性能なSSDまたはNVMeドライブがvSANデータストアとして統合され、VMware VMのVMDKファイルが配置されます。vSANはポリシーベースの管理が可能であり、VMごとに必要な可用性レベル(FTT – Failures To Tolerate)やパフォーマンス要件に応じたストレージポリシーを適用できます。

デフォルトのAVSノード構成では、ローカルストレージ容量が提供されますが、特定のワークロード(例えば、大容量のファイルサーバーやデータベースなど)で、より高いパフォーマンスや容量、あるいは既存のストレージサービスとの統合が必要な場合は、Azure NetApp Files (ANF) といった外部ストレージサービスをAVS環境から利用することも可能です。ANFは、VMware環境からNFSデータストアとしてマウント可能であり、非常に高いIOPSとスループット、低遅延を提供します。vSANとANFを適切に使い分けることで、様々なストレージ要件に対応できます。

5. セキュリティ機能

AVSは、VMwareとAzureのセキュリティ機能を組み合わせて、多層的なセキュリティを提供します。

  • VMware レベルのセキュリティ: NSX-Tによる分散ファイアウォールは、VMレベルでの細やかなアクセス制御(マイクロセグメンテーション)を可能にします。これにより、たとえネットワークの境界が突破されても、内部での脅威の拡散(ラテラルムーブメント)を抑制できます。NSX-TはVPN機能やロードバランシング機能なども提供し、セキュアな通信経路を構築できます。
  • Azure レベルのセキュリティ: AVSはAzure環境の一部として展開されるため、Azureの持つ包括的なセキュリティ機能やコンプライアンス認証の恩恵を受けられます。Azure Security Centerによるセキュリティポスチャ管理、脅威検出、推奨事項の適用、Azure Firewallによるネットワーク境界防御、Azure Key Vaultによる鍵管理、Azure ADによるID管理などが活用できます。
  • 共有責任モデル: AVSにおけるセキュリティ責任は、Microsoftとユーザーの間で共有されます。Microsoftは基盤となるハードウェア、AVSインフラストラクチャ(ESXi, vCenter, NSX-Tコントローラーなど)のセキュリティ、物理的な施設セキュリティを担当します。ユーザーは、AVSプライベートクラウド内のVMのOSおよびアプリケーションのセキュリティ、NSX-Tによる内部ネットワークセキュリティポリシー、vCenterのアクセス制御、およびオンプレミスやAzure VNetとの接続におけるセキュリティ対策を担当します。

6. 運用・管理

AVSの運用・管理は、主にvCenter ServerとAzure Portalの二つのインターフェースを通じて行われます。

  • vCenter Server: AVSプライベートクラウド内のVMwareリソース(VM、ESXiホスト、データストア、ネットワーク)の日常的な管理は、オンプレミスと同様にvCenter ServerクライアントまたはWebインターフェースを通じて行います。VMの作成、起動、停止、移行(vMotion)、スナップショット、リソース監視などが含まれます。
  • Azure Portal: AVSプライベートクラウド自体のデプロイ、スケーリング(ホストの追加・削除)、ExpressRouteやVNetピアリングの設定、AVSサービスに関する基本的な構成や監視、Microsoftによるメンテナンス通知の確認などは、Azure Portal上で行います。AVSリソースはAzureのリソースグループに管理され、AzureのRBAC (Role-Based Access Control) によるアクセス制御が適用されます。
  • Microsoft による管理: ESXiホストのライフサイクル管理(パッチ適用、アップグレード)、vCenter ServerとNSX-Tのバージョンアップ、vSANクラスターの健全性維持、基盤ハードウェアの監視と障害対応は、Microsoftが自動的または計画的に実施します。ユーザーはこれらの運用負荷から解放されます。

また、Azure Arcを利用することで、AVS上のVMware VMをAzureのコントロールプレーンから管理し、Azure Policyによるガバナンスの適用やAzure Monitorによる一元的な監視を行うなど、ハイブリッド環境全体の管理を効率化することも可能です。

7. スケーラビリティと柔軟性

AVSは、必要に応じて容易にリソースを拡張または縮小できる柔軟性を持っています。AVSプライベートクラウドは、最小3ホストから開始し、必要に応じてESXiホストを1ホスト単位で追加していくことで、コンピューティング、ストレージ、ネットワークリソースをリニアに拡張できます。最大ノード数はリージョンや構成によって異なりますが、大規模な環境にも対応可能です。ホストの追加・削除はAzure Portalから実行でき、通常は迅速に(数時間以内に)完了します。これにより、突発的なワークロード増加への対応や、プロジェクトの進行に応じた段階的なリソース拡張が可能になります。

8. 高可用性と災害復旧 (HA/DR)

AVSはVMwareの高可用性機能とAzureのインフラストラクチャを活用して、強力なHA/DR機能を提供します。

  • vSphere HA: AVSプライベートクラウド内のESXiクラスターは、vSphere HAによって保護されます。クラスター内のいずれかのホストに障害が発生した場合、そのホストで稼働していたVMは、健全な他のホスト上で自動的に再起動されます。AVSでは、基盤ホストのハードウェア障害やESXiソフトウェアの問題はMicrosoftが管理するため、ユーザーはHA構成の維持に直接関与する必要がありません。
  • vSAN: vSANは分散ストレージであり、VMオブジェクトのレプリカをクラスター内の複数のホストに分散して配置することで、ホスト障害やディスク障害発生時にもデータへのアクセスを維持します。ストレージポリシーによって、必要な冗長レベル(FTT)を設定できます。
  • Azure Site Recovery (ASR): AVS上のVMを、別のAVSプライベートクラウド(異なるリージョンや異なるゾーン)や、AzureネイティブのIaaS(Azure VM)にレプリケーションすることで、ディザスターリカバリーサイトを構築できます。ASRはレプリケーション、フェイルオーバー、フェイルバックのオーケストレーション機能を提供し、DR計画の実行を効率化します。
  • VMware SRM (Site Recovery Manager) / vSphere Replication: VMware独自のDRソリューションであるSRMとvSphere Replicationを、オンプレミスとAVS間、またはAVS環境間で使用することも可能です。これにより、オンプレミスで慣れ親しんだDR運用をそのままクラウドへ持ち込むことができます。
  • ストレッチクラスター (プレビュー/特定リージョン): 一部のリージョンでは、AVSクラスターをAzureアベイラビリティゾーン間でストレッチ構成することが可能です。これにより、ゾーン障害が発生した場合でも、ゾーンを跨いでVMが自動的にvMotionまたはHAで移動し、アプリケーションの可用性を高めることができます。

これらの機能の組み合わせにより、AVS環境で稼働するクリティカルなワークロードに対して、高いレベルの可用性と迅速な災害復旧 capabilities を提供できます。

9. 簡単な移行 (HCX)

前述の通り、AVSはVMware HCXを標準で提供します。HCXは、オンプレミスのVMware環境からAVSへのワークロード移行を劇的に簡素化するツールです。以下の様々な移行方法をサポートします。

  • vMotion を利用したライブ移行: 稼働中のVMを無停止でオンプレミスからAVSへ移行できます。
  • コールド移行: シャットダウンされたVMをオンプレミスからAVSへ移行します。
  • Bulk Migration: 多数のVMを並行して移行する際に適しています。通常は計画的なダウンタイムを伴います。
  • L2 Extension: オンプレミスのL2ネットワークセグメントを、ネットワークアドレスを変更することなくAVS環境に延伸できます。これにより、IPアドレスやデフォルトゲートウェイの変更なしにVMを移行でき、アプリケーション層への影響を最小限に抑えられます。
  • WAN Optimization: 低帯域幅や高遅延のネットワーク接続でも、移行パフォーマンスを向上させます。

HCXを利用することで、複雑なIPアドレス変更やネットワーク設計の変更を伴うことなく、大量のVMを効率的かつ低リスクでAzure上のAVSへ移行できます。これは、大規模なデータセンター移行プロジェクトにおいて特に重要なメリットとなります。

AVS を利用するメリット

AVSが提供する様々な特徴は、企業にとって具体的なメリットにつながります。

1. 迅速なクラウド移行

AVSの最大のメリットは、既存のVMwareワークロードを「リフト&シフト」(ほぼそのまま移行)できることです。アプリケーションやOS、ミドルウェアにほとんど変更を加える必要がないため、移行計画、テスト、実行にかかる時間を大幅に短縮できます。特に、大規模なVMware環境を短期間でクラウドへ移行する必要がある場合に、AVSは非常に有効な選択肢となります。

2. 既存スキル・ツールの活用

長年VMware環境を運用してきた企業には、VMwareに関する豊富なスキルセットを持つIT担当者がいます。AVSはオンプレミスと同じVMwareスタックを使用するため、これらの既存スキル(vCenter, NSX-T, PowerCLIなど)や運用プロセス、ツール(バックアップ、監視、自動化スクリプトなど)をそのままAVS環境でも活用できます。これにより、クラウド移行に伴う新しいスキル習得や人材育成の負担を軽減し、運用の継続性を保つことができます。

3. ハイブリッドクラウドの一貫性

AVSは、オンプレミスのVMware環境とAzureクラウドの間に、管理性・運用性において一貫したプラットフォームを提供します。同じツール、同じ概念(VM, vSphere, NSX-Tなど)で両環境を扱えるため、ハイブリッドクラウド環境全体をシンプルに管理できます。オンプレミスとクラウドの間でワークロードを柔軟に移動させたり、ピーク時の処理能力をクラウドで確保したりといったハイブリッドユースケースを実現しやすくなります。

4. TCO の最適化

AVSのコストはノード時間ベースで提供されるため、オンプレミスのような巨額な初期投資(ハードウェア購入費用)が不要になります。また、必要な時に必要なだけリソースを拡張・縮小できるため、キャパシティプランニングの精度向上やリソースの無駄を削減できます。さらに、Microsoftがインフラストラクチャの管理を担当するため、ハードウェア保守、パッチ適用、アップグレードにかかる運用コストも削減できます。既存スキルやツールの活用による移行・運用コストの削減も、TCO最適化に貢献します。予約インスタンスを利用すれば、さらに大きなコストメリットを享受できます。

5. レガシーシステムの延命と近代化

オンプレミスで稼働しているレガシーシステムの中には、OSやアプリケーションがクラウドネイティブ環境への移行が困難なものや、特定のハードウェアに依存しているものがあります。AVSはこれらのシステムをほぼそのままの構成でクラウドへ移行できるため、システムの延命策として有効です。さらに、AVSに移行後、AzureのPaaSやSaaSと連携させることで、段階的に機能を追加したり、周辺システムを近代化したりすることが可能です。

6. 高可用性・災害復旧の強化

Azureの複数のリージョンやアベイラビリティゾーンを活用することで、オンプレミス単独では実現が難しかった、地理的に分散した高可用性構成や災害復旧サイトを比較的容易かつ低コストで構築できます。AVSとAzure Site RecoveryやVMware SRM/vSphere Replicationを組み合わせることで、ミッションクリティカルなシステムに対して高いレベルのBCP/DR capabilities を提供できます。

AVS の料金体系

AVSの料金は、主に時間あたりの消費に基づく課金モデルを採用しており、いくつかの主要な構成要素から成り立っています。

課金の基本単位:ノード

AVSの料金は、デプロイされたESXiホストの数(ノード数)に基づいて時間単位で課金されるのが基本です。AVSプライベートクラウドは、最小3ノードから開始し、最大ノード数まで拡張可能です。

AVSで提供されるノードタイプは、コンピューティング、メモリ、ストレージ容量、およびプロセッサーの種類によって異なります。主なノードタイプには以下のようなものがあります(これらのタイプや仕様はリージョンや時期によって変更される可能性があります。最新の情報は公式ドキュメントを確認してください)。

  • AV36: 標準的なノードタイプで、Intel Xeonプロセッサー、比較的バランスの取れたメモリとvSAN容量を提供します。一般的なワークロードに適しています。
  • AV36p: AV36よりも高性能なIntel Xeonプロセッサーを搭載し、より高いCPU性能とメモリ容量を提供します。パフォーマンス要求の高いワークロードに適しています。
  • AV52: AMD EPYCプロセッサーを搭載し、より多くのCPUコア数、大容量メモリ、およびvSAN容量を提供します。集約率の高いワークロードやストレージ容量が重要なワークロードに適しています。

これらのノードタイプの中から、必要なコンピューティング、メモリ、ストレージの総量に応じてノード数とタイプを選択します。料金はノードタイプごとに異なり、時間あたりの料金が設定されています。

含まれるライセンス

AVSのノード料金には、以下のVMwareソフトウェアライセンスが含まれています。

  • VMware vSphere Enterprise Plus
  • VMware vSAN Enterprise
  • VMware NSX-T Data Center
  • VMware HCX Enterprise

これらのライセンスを個別に購入・管理する必要がないため、VMwareソフトウェアのライセンス管理が簡素化され、全体的なコスト計算が容易になります。

その他の費用

ノード料金以外にも、AVS環境を利用する上で発生する可能性のある費用があります。

  • ネットワーク料金:
    • ExpressRoute 回線料金: オンプレミスとAzureを結ぶExpressRoute回線の利用料が発生します。
    • データ転送料金: Azureからインターネットやオンプレミス、他のAzureリージョンへのデータ転送(エグレス通信)に対して料金が発生します。AVSからAzure VNetへの通信は通常無料ですが、VNetから外部への通信や、AVSからオンプレミスへのデータ転送量には注意が必要です。
  • Azure サービス利用料: AVS環境と連携して利用するAzureネイティブサービス(Azure NetApp Files, Azure Backup, Azure Site Recovery, Azure Monitor, Azure Firewall, Azure ADなど)の利用料が別途発生します。
  • ストレージ料金: vSANで提供されるストレージ容量はノード料金に含まれますが、Azure NetApp Filesなどの外部ストレージを利用する場合は、その容量やパフォーマンスレベルに応じた料金が発生します。
  • サポート料金: Azureサポートプランに応じた料金が発生します。

予約インスタンスによる割引

AVSでは、1年間または3年間の利用を確約することで、オンデマンド料金と比較して大幅な割引を受けられる「予約インスタンス (Reserved Instances)」が提供されています。予約インスタンスを適用することで、ノード料金を約30%〜50%程度削減できる場合があります(割引率は契約期間やノードタイプ、リージョンによって異なります)。長期的にAVSを利用する計画がある場合は、予約インスタンスの利用を強く推奨します。DRサイトのように常に起動しておく必要がない環境や、一時的な利用にはオンデマンドが適しています。

コスト最適化戦略

AVSのコストを最適化するためには、いくつかの戦略があります。

  • 適切なサイジング: 現在のVMware環境の利用状況(CPU使用率、メモリ使用量、ストレージ容量、IOPS要件)を正確に評価し、AVSノードのタイプと数を適切にサイジングすることが重要です。過剰なリソースをデプロイすると、不要なコストが発生します。Azure Migrateなどのツールを利用して、オンプレミス環境のアセスメントを行うのが有効です。
  • 予約インスタンスの活用: 計画的なワークロードに対しては、1年または3年の予約インスタンスを最大限に活用し、ノード料金の割引を適用します。
  • DRサイトの構成: AVSをDRサイトとして利用する場合、常に本番環境と同等のリソースを維持する必要がないケースがあります。DR実行時のみリソースをスケールアップするなど、DR計画に応じた最適な構成とノード数、および予約インスタンスの適用範囲を検討します。
  • 外部ストレージの検討: 大容量または高性能なストレージが必要なワークロードに対しては、vSANだけでなくAzure NetApp Filesの利用も検討し、コストパフォーマンスを比較します。
  • Azure サービスの活用: バックアップやアーカイブなど、Azureネイティブのサービスの方がコスト効率が良い場合があります。VMwareの慣れた運用を維持しつつも、Azureサービスへのオフロードが可能な部分は検討します。

AVSのコストは、ノード数、ノードタイプ、契約期間(オンデマンドか予約か)、およびネットワークエグレス量や他のAzureサービス利用量によって大きく変動します。正確なコスト見積もりには、Azureの料金計算ツールやAVSのサイジングツールを利用し、現在のワークロードの特性と将来の拡張計画を考慮に入れることが不可欠です。

AVS の最適な利用シーン

AVSは、特定の状況やニーズを持つ企業にとって特に大きな価値を発揮します。以下に、AVSが最適な利用シーンをいくつか挙げます。

1. データセンターの撤退・移行

オンプレミスのデータセンターを閉鎖・縮小したいが、そこに集約されているVMwareワークロードを短期間でクラウドへ移行する必要がある企業にとって、AVSは非常に有力な選択肢です。VMware HCXを用いた効率的な移行パスと、移行先での運用継続性の高さが、データセンター移行に伴う複雑性、時間、コスト、リスクを低減します。特に、移行対象のVM数が数百、数千規模に及ぶような大規模な移行プロジェクトに適しています。

2. 災害対策 (DR)

オンプレミスのVMware環境に対する災害対策サイトとして、AVSを活用できます。物理的なDRサイトを構築・維持する場合と比較して、初期投資や運用コストを抑えながら、高い可用性目標(RTO/RPO)を満たすことが可能です。オンプレミスからAVSへのVMレプリケーションには、VMware vSphere Replication/SRMやAzure Site Recoveryが利用できます。必要に応じてDRサイト側のリソースを最小限に抑えておき、有事の際にスケールアップするといった柔軟な構成も可能です。地理的に離れたAzureリージョンを利用することで、大規模災害にも対応できるレジリエンスの高いDR環境を構築できます。

3. データセンター機能の拡張 (キャパシティ拡張/リージョン拡張)

オンプレミスデータセンターのキャパシティが不足している場合や、特定の地域や国のリージョンにプレゼンスを確立したい場合に、AVSをデータセンター機能の拡張として利用できます。既存のオンプレミス環境とAVS環境をExpressRouteで接続し、一つの大きなハイブリッド環境として運用することで、オンプレミスのリソースを使い切った後でAVSにワークロードを展開したり、特定の地域に近接したAzureリージョンにAVS環境を構築してその地域のユーザー向けにサービスを提供したりといったことが可能です。アプリケーションの特定の層(例: Webサーバー層)だけをAVSに展開し、バックエンドのデータベースはオンプレミスに残す、といったハイブリッド構成も柔軟に実現できます。

4. アプリケーションの近代化 (段階的アプローチ)

レガシーアプリケーションをクラウドネイティブなアーキテクチャに移行するには、多大な労力とリスクが伴います。AVSは、既存のVMwareワークロードをそのままAzureへ移行するための「着地帯」(Landing Zone)として機能します。AVSに移行後、まずはシステムの安定稼働を図りつつ、その後、周辺システムや新しい機能をAzureのPaaSやSaaS(Azure SQL Database, Azure Kubernetes Service, Azure Functionsなど)として開発・連携させていくことで、段階的にアプリケーションの近代化を進めることができます。これにより、一括でのリファクタリング/リプラットフォームの必要がなくなり、リスクを分散しながらモダンなクラウドサービスを取り入れていくことが可能になります。

5. VDI 環境の構築

VMware HorizonやCitrix Virtual Apps and DesktopsといったVDIソリューションをVMware vSphere上に構築している企業は多くあります。AVSは、これらのVDI環境をAzure上に構築・拡張するための理想的なプラットフォームです。オンプレミスで培ったVDIの運用ノウハウやツールをそのまま活用できるため、リモートワーク需要の増加などに伴うVDIキャパシティの迅速な拡張ニーズに対応できます。Azureのグローバルネットワークを利用して、どこからでもセキュアにアクセスできるVDI環境を提供できます。

6. 規制・コンプライアンス要件

特定の業界(金融、医療、公共など)や国・地域では、厳しい規制やコンプライアンス要件が存在し、それがクラウド移行の障壁となることがあります。AVSは、多くの主要なコンプライアンス認証(ISO 27001, SOC 2, HIPAA, PCI DSSなど)を取得しているAzureのインフラストラクチャ上でVMware環境を提供するため、これらの要件を満たしながらクラウドを利用できる可能性があります。また、OSやアプリケーションの構成をほとんど変更せずに移行できるため、コンプライアンス検証の範囲を限定しやすくなります。特定のセキュリティアプライアンスや構成がVMware環境で必須となっている場合でも、AVSであればそれをそのまま持ち込むことができます。

7. M&A に伴うインフラ統合

企業買収や合併(M&A)が発生した場合、買収先企業のITインフラストラクチャを迅速に統合する必要が生じることがよくあります。特に、買収先がVMware環境でITを運用している場合、その環境を既存のシステムやクラウド基盤に統合するのは大きな課題です。AVSを利用することで、買収先企業のVMware環境を一時的または恒久的にAzure上のAVS環境に移行・統合し、その後の運用をMicrosoft Azureのプラットフォーム上で一元化することができます。これにより、複雑なクロスデータセンター移行やインフラの再構築を回避し、統合プロセスを迅速化できます。

他の選択肢との比較

AVSの価値をより深く理解するために、他のクラウド移行やインフラ選択肢との比較を簡単に行います。

  • Azure IaaS (ネイティブ Azure VM): 既存のVMware VMをAzureのネイティブな仮想マシン(Azure VM)に移行するアプローチです。OSやアプリケーションの互換性に問題がない場合は、Azureの各サービスとの連携が最も容易で、長期的なコスト効率も高くなる可能性があります。しかし、VMware特有の構成(例えば、特定のネットワーク設定やストレージ機能)や、VMware環境に依存するアプリケーションを移行する場合、OSやアプリケーションレベルでの変更や再設計が必要になることがあり、移行にかかる時間、コスト、リスクが増大する可能性があります。AVSは、このリファクタリングやリプラットフォームのコスト・リスクを回避したい場合に適しています。
  • オンプレミス維持: 既存のVMware環境をオンプレミスで維持し続ける選択肢です。既存の投資を最大限に活用でき、既に確立された運用プロセスを継続できます。しかし、ハードウェアの陳腐化に伴う継続的なリフレッシュ投資が必要であり、キャパシティ拡張の柔軟性に限界があります。また、クラウドの持つグローバルな展開力や豊富なPaaS/SaaSの恩恵を受けられません。AVSは、オンプレミスの課題を解決しつつ、慣れ親しんだVMware環境を維持したい場合に適しています。
  • 他の VMware on Cloud ソリューション: AWSやGoogle CloudなどもVMware環境をクラウド上で提供するサービスを展開しています。AVSはMicrosoft Azureの一部として提供されるため、Azureの広範なネイティブサービスとの連携が最もシームレスであるという強みがあります。既にAzureを契約・利用している企業や、Microsoftのエコシステム(Microsoft 365, Azure ADなど)を深く利用している企業にとっては、AVSがより自然な選択肢となります。

AVS 導入のステップ (ハイレベル)

AVSの導入は、通常以下の主要なステップで進められます。

  1. 評価と計画:
    • 現在のオンプレミスVMware環境のワークロード、リソース使用状況、ネットワーク構成、セキュリティポリシー、アプリケーション依存関係などを詳細に評価します(Azure Migrate for VMware Assessmentなどのツールが役立ちます)。
    • 評価結果に基づき、AVSプライベートクラウドに必要なノードタイプと数をサイジングします。
    • ネットワーク設計(ExpressRoute接続、Azure VNetピアリング、NSX-T構成)を計画します。
    • 移行計画(移行方法、移行グループ、スケジュール)を策定します。
    • コスト見積もりを行います。
  2. AVSプライベートクラウドのデプロイ:
    • Azure Portalを通じて、指定したAzureリージョンにAVSプライベートクラウドをデプロイします。このプロセスで、ESXiホスト、vCenter Server, vSAN, NSX-Tが自動的に構成されます。
  3. ネットワーク構成:
    • オンプレミスデータセンターとAVSプライベートクラウド間のExpressRoute接続を確立します。
    • AVSプライベートクラウドとAzure VNet間のピアリングを設定します。
    • NSX-Tマネージャーを使用して、AVS環境内の論理ネットワークセグメント、ルーティング、ファイアウォールポリシーを設定します。
  4. 移行:
    • オンプレミス環境にHCX Cloud Manager(コネクター)をデプロイし、AVS環境のHCX Cloud Managerとペアリングします。
    • HCXを使用して、計画に基づきオンプレミスのVMをAVS環境に移行します(vMotion, Cold Migration, Bulk Migrationなど)。必要に応じてL2 Extensionを構成します。
  5. 運用開始:
    • 移行されたワークロードの動作テストを実施します。
    • 必要に応じて、Azureネイティブサービス(Azure Backup, Azure Monitorなど)との連携を設定します。
    • 既存の運用ツールやプロセスをAVS環境に適応させます。
    • 本番運用を開始します。

MicrosoftのCloud Adoption Framework for Azure(CAF)や、VMware Cloud Adoption Frameworkといったガイダンスも、計画から運用に至るまで役立ちます。

AVS 環境の運用・管理

AVS環境の運用・管理は、Microsoftと顧客の間で責任が分担されます。

  • Microsoft の責任:
    • 基盤となるハードウェアの維持管理(監視、保守、交換)
    • ESXiホストのパッチ適用とバージョンアップ
    • vCenter Server, vSAN, NSX-T のソフトウェアライフサイクル管理(パッチ適用、バージョンアップ)
    • AVSプライベートクラウド全体の健全性監視
    • キャパシティ管理(ノード追加要求への対応)
  • 顧客の責任:
    • AVSプライベートクラウド内の仮想マシン(VM)のオペレーティングシステムおよびアプリケーションの管理(パッチ適用、構成)
    • VMware vCenter Server を通じたVM、リソースプール、クラスタ、データストアの管理
    • VMware NSX-T Manager を通じた論理ネットワークセグメント、ルーティング、ファイアウォールポリシー、VPNなどのネットワーク・セキュリティ構成
    • vSAN データストアのポリシー設定と容量監視
    • オンプレミスやAzure VNet とのネットワーク接続管理
    • バックアップ、災害復旧計画の実施
    • 監視とアラート対応(Azure MonitorやVMware vRealize Operations Managerなどを連携)
    • AVSプライベートクラウドに対するアクセス制御(Azure RBAC, vCenterロール)

Microsoftは定期的にAVS環境のソフトウェア(ESXi, vCenter, NSX-Tなど)のパッチ適用やアップグレードを行います。これらのメンテナンス活動は、Azure Portalを通じて事前に通知され、ユーザーはメンテナンスウィンドウを調整できる場合があります。これにより、VMware環境のバージョンアップという、オンプレミスでは運用負荷の大きかった作業が自動化・簡素化されます。

セキュリティとコンプライアンス

AVSは、VMwareの持つセキュリティ機能とAzureの包括的なセキュリティフレームワークを組み合わせることで、高いレベルのセキュリティとコンプライアンスを提供します。前述の通り、セキュリティにおける共有責任モデルが適用されます。

ユーザーはNSX-Tの分散ファイアウォールを活用して、VM間の通信に対して細やかなアクセス制御(マイクロセグメンテーション)を実装できます。これにより、攻撃者が内部ネットワークに侵入した場合でも、攻撃の横展開を抑制し、被害を局所化することが可能です。また、Azure FirewallやNVAをAzure VNet上に配置し、AVS環境との間の南北通信を検査・制御することで、ネットワーク境界におけるセキュリティを強化できます。

コンプライアンスに関しては、AVSはAzureプラットフォームが取得している様々な業界標準や規制要件に準拠しています。金融機関向けのPCI DSS、医療機関向けのHIPAA、国際的な情報セキュリティ標準であるISO 27001など、多くの認証を取得しています。これにより、コンプライアンス要件が厳しいワークロードも安心してAVS上で実行できます。ただし、AVS環境内のVMのOSやアプリケーション、およびNSX-Tによるネットワークセキュリティ設定に関するコンプライアンス遵守は、引き続き顧客の責任となります。

AVS の高度な活用法

AVSは、基本的なVMwareワークロードの実行だけでなく、様々な高度なシナリオにも対応できます。

  • Azure NetApp Files (ANF) との連携: 大容量かつ高性能なストレージが必要なワークロードに対して、vSANに加えてAzure NetApp FilesをNFSデータストアとしてAVSクラスターにマウントして利用できます。ANFはサブミリ秒の低遅延と非常に高いIOPS/スループットを提供し、ファイルベースのアプリケーションや高性能データベースなどに適しています。vSANの容量を消費せずに、必要なストレージ容量とパフォーマンスを柔軟に確保できます。
  • Azure Site Recovery (ASR) との連携: AVS上のVMを、別のAVSプライベートクラウドまたはAzureネイティブのAzure VMにレプリケーションして、柔軟なDR構成を実現できます。ASRはレプリケーション、フェイルオーバー、フェイルバックのオーケストレーション機能を提供し、DR計画の実行を簡素化します。
  • ストレッチクラスター (プレビュー/特定リージョン): 一部のリージョンで提供されているストレッチクラスター機能を利用することで、AVSクラスターをAzureアベイラビリティゾーン間で構成できます。これにより、ゾーン障害が発生してもワークロードのダウンタイムを最小限に抑え、可用性を向上させることができます。
  • Azure Arc を利用したハイブリッド管理: Azure Arc を利用して、AVS上のVMをAzureのコントロールプレーンに接続できます。これにより、Azure Policyによる構成管理とコンプライアンス監査、Azure Monitorによる統合監視、Azure Security Centerによるセキュリティ管理など、Azureの管理ツールを使ってオンプレミス、他のクラウド、Azureネイティブ、そしてAVS上のワークロードを一元的に管理できるようになります。

これらの高度な機能を利用することで、AVSは単なる「VMwareのクラウド移行先」にとどまらず、Azureの豊富なサービスと緊密に連携した、より高性能かつ管理性の高いハイブリッドクラウドプラットフォームへと進化します。

AVS 利用上の考慮事項と課題

AVSは多くのメリットを提供しますが、利用を検討する上で考慮すべき点や潜在的な課題も存在します。

  • コスト: オンデマンドでのAVSノード料金は、Azureネイティブの仮想マシンと比較すると高価になる傾向があります。特に小規模な環境や、簡単にAzureネイティブに移行できるワークロードの場合、AVSがコスト最適解とならない可能性があります。予約インスタンスによる割引や、適切なサイジング、他のAzureサービスとの連携によるコスト最適化戦略が重要です。ネットワークエグレス料金も無視できないコスト要素となる場合があります。
  • ネットワーク設計の複雑さ: AVSのネットワークは、VMware NSX-Tの論理ネットワークとAzure VNetの物理・論理ネットワークの連携によって構成されます。オンプレミス、AVS、Azure VNet間のルーティングやセキュリティポリシーの設計は、ある程度の専門知識を要し、複雑になる可能性があります。ExpressRoute接続やVNetピアリング、NSX-Tゲートウェイ、Azure Firewallなどの構成を慎重に計画する必要があります。
  • 特定の VMware 機能の制約: AVSはVMwareスタックをネイティブに実行しますが、すべてのVMware機能が利用できるわけではありません。例えば、特定のVMwareソリューション(vSphere Distributed Switchの一部の高度な機能、特定のストレージアレイ統合機能など)が利用できない場合や、構成に制約がある場合があります。導入前に、必要なVMware機能がAVSでサポートされているか、あるいは代替手段があるかを確認することが重要です。
  • パフォーマンスチューニング: AVS環境で最高のパフォーマンスを引き出すためには、VMware環境と同様にVMのリソース割り当て、vSANポリシー、NSX-Tネットワーク設定などを適切にチューニングする必要があります。また、Azure基盤上のリソース制約を理解し、それに合わせた調整が必要となる場合もあります。
  • 共有責任モデルの理解: Microsoftと顧客の間での責任分担を明確に理解し、それぞれの範囲で必要な運用・管理・セキュリティ対策を適切に実施する必要があります。特に、VMのOS/アプリケーション管理や、AVS環境内のネットワークセキュリティは顧客の責任であることを忘れてはなりません。

これらの考慮事項を十分に理解し、適切な計画と設計、そして継続的な運用改善を行うことで、AVSのメリットを最大限に享受し、潜在的な課題を克服することができます。

まとめ

Azure VMware Solution (AVS) は、既存のオンプレミスVMwareワークロードをMicrosoft Azureクラウドへ効率的かつ低リスクで移行・実行するための強力なソリューションです。Azureのベアメタル上で動作するネイティブなVMwareスタックにより、長年培ってきたVMwareのスキルやツール、運用プロセスをそのまま活用できるという最大の特長を持ちます。

AVSの主要な特徴には、vSphere, vSAN, NSX-T, HCXといったVMwareスタックのネイティブ実行、Azureネイティブサービスとのシームレスな連携、ExpressRouteやNSX-Tによる柔軟なネットワーク構成、vSANやANFによる多様なストレージ対応、多層的なセキュリティ機能、そしてMicrosoftによるインフラ管理と顧客によるVMwareレベル管理という運用モデルが含まれます。

料金はノード時間ベースで、VMwareライセンスが含まれるのが特徴です。適切なノードタイプの選択、予約インスタンスの活用、ネットワークエグレスや他のAzureサービス利用料の考慮がコスト管理において重要となります。

AVSが最も適している利用シーンとしては、データセンターの迅速な撤退・移行、コスト効率の高いクラウドDRサイト構築、オンプレミス環境のキャパシティ拡張、リスクを抑えた段階的なアプリケーション近代化、既存VDI環境の拡張、厳しいコンプライアンス要件への対応、そしてM&Aに伴うインフラ統合などが挙げられます。

一方で、コスト、ネットワーク設計の複雑さ、一部VMware機能の制約といった考慮事項も存在します。これらの点を事前に評価し、適切な計画を立てることが成功の鍵となります。

結論として、AVSは、大規模なVMware環境をクラウドへ移行したい、ハイブリッドクラウド環境でVMwareとAzureサービスを柔軟に連携させたい、既存のVMwareスキルと投資を活かしながらクラウドのメリットを享受したいと考える企業にとって、非常に魅力的で現実的な選択肢と言えます。クラウド移行の戦略を検討される際には、AVSをその有力な選択肢の一つとして、ぜひ詳細な評価を進めることをお勧めします。

ご自身の環境やニーズにAVSが適合するかどうか、具体的な構成やコストについてさらに詳しく知りたい場合は、Microsoftの営業担当者やAzureパートナー企業に相談されることをお勧めします。実環境での評価や概念実証(PoC)を通じて、AVSの実際の性能や適合性を確認することも可能です。

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