FastAPIかFlaskか?初心者向けPython Webフレームワーク徹底比較&選び方ガイド
Pythonを使ってWebアプリケーションやAPI開発を始めたいけれど、どのフレームワークを選べばいいのか迷っている、という方は多いのではないでしょうか。特に、「FastAPI」と「Flask」はPython界隈で非常に人気が高く、多くの開発者に利用されています。どちらも優れたフレームワークですが、それぞれに特徴があり、得意なことや開発スタイルが異なります。
この記事では、PythonでのWeb開発初心者の方に向けて、FastAPIとFlaskそれぞれの特徴、利点、欠点を詳細に解説し、両者を徹底的に比較します。そして、あなたの目的やスキルレベルに合ったフレームワークを選ぶための具体的な考え方、さらに簡単なコード例を通して、それぞれのフレームワークの雰囲気を掴んでいただくことを目指します。この記事を読めば、FastAPIとFlaskのどちらを選ぶべきか、明確な判断ができるようになるでしょう。
さあ、Python Webフレームワークの世界へ、最初の一歩を踏み出しましょう。
第1章:Webフレームワークとは?なぜ必要なのか?
Webフレームワークの具体的な話に入る前に、そもそもWebフレームワークとは何なのか、なぜWeb開発においてフレームワークが重要なのかを理解しておきましょう。
インターネット上のWebサイトやWebサービスは、基本的に「クライアント(例えば、あなたのWebブラウザ)」と「サーバー(Webサイトやサービスを提供するコンピューター)」の間で通信が行われることで成り立っています。クライアントがサーバーにリクエスト(「このページを見せて」「この情報を送信して」など)を送り、サーバーがそのリクエストを処理してレスポンス(HTMLページ、データ、成功/失敗の信号など)を返す、という流れです。
Webアプリケーションを開発する際には、このようなクライアントとサーバー間の通信を扱うための様々な機能が必要になります。例えば、
- ルーティング: どのURL(アドレス)へのリクエストが来たときに、どのプログラムを動かすか(例:「
/about
」というURLに来たら、会社概要を表示する関数を実行する) - リクエストの処理: クライアントから送られてきたデータ(フォームに入力された内容、アップロードされたファイルなど)をどのように受け取り、プログラムで扱える形にするか
- レスポンスの生成: クライアントに返すデータ(HTMLページ、JSONデータなど)をどのように作るか
- データベース連携: ユーザー情報や投稿内容などのデータを保存・取得する仕組み
- セキュリティ対策: 不正なリクエストへの対策、ユーザー認証、データ漏洩防止など
- テンプレート処理: HTMLなどのデザインと、プログラムで生成するデータを組み合わせて表示する仕組み
これらの機能をゼロから毎回すべて自分で実装するのは、非常に手間がかかり、非効率です。また、セキュリティの脆弱性を作り込んでしまうリスクも高まります。
そこで登場するのが「Webフレームワーク」です。Webフレームワークは、Webアプリケーション開発でよく使われる共通の機能や、開発を効率化するための仕組みをあらかじめ提供してくれる「枠組み」や「ツールキット」のようなものです。フレームワークを利用することで、開発者はこれらの定型的な作業に時間を取られることなく、アプリケーション独自のビジネスロジック(「どのような機能を提供するか」「どのようにデータを処理するか」といった、そのアプリケーションならではの部分)の開発に集中できるようになります。
例えるなら、家を建てるときに、木材を一本ずつ切り出すところから始めるのではなく、あらかじめ加工された建材や、釘、ネジ、電動工具などがセットになったものを使うようなものです。フレームワークを使うことで、開発はより早く、より安全に進められます。
Pythonには、Flask、Django、FastAPIなど、様々なWebフレームワークが存在します。それぞれ設計思想や得意分野が異なるため、開発するアプリケーションの種類や開発者のスキル、好みによって最適なフレームワークは変わってきます。
第2章:Flask入門 – シンプルで柔軟なマイクロフレームワーク
まず、PythonのWebフレームワークとして長年の実績があり、多くの開発者に愛されているFlaskについて見ていきましょう。
2.1 Flaskの概要と特徴
Flaskは「マイクロフレームワーク」に分類されます。マイクロフレームワークとは、必要最低限のコア機能のみを提供し、その他の機能(データベース連携、ユーザー認証など)は外部ライブラリや拡張機能(Flask Extensions)を使って補う設計思想のフレームワークです。
Flaskの主な特徴は以下の通りです。
- シンプルさ: フレームワーク自体のコードベースが小さく、理解しやすい構造になっています。提供される機能も最小限なので、学習コストが比較的低いと言われます。
- 柔軟性: コア機能以外の多くの部分を自分で選択・決定できるため、プロジェクトの要件に合わせて自由に構造を設計できます。特定のデータベースやテンプレートエンジン、ORM(Object-Relational Mapper)に縛られることなく、好きなものを選んで組み合わせることができます。
- 成熟したエコシステム: 長い歴史を持つため、利用可能な拡張機能が非常に豊富です。様々なニーズに対応するライブラリが見つかります。
- 豊富なドキュメントとコミュニティ: ユーザーが多く、公式ドキュメントも充実しています。困ったときに情報を探しやすく、活発なコミュニティからサポートを得やすい環境です。
2.2 Flaskの基本的な仕組み
Flaskは主に以下のコンポーネントの上に成り立っています。
- Werkzeug: WSGI(Web Server Gateway Interface)ユーティリティライブラリです。WSGIは、PythonのWebアプリケーションとWebサーバーの間で標準的なインターフェースを定義したものです。Werkzeugは、リクエストの解析、レスポンスの生成、ルーティングといった、Webアプリケーションの基本的な処理を担います。
- Jinja2: 高機能で使いやすいテンプレートエンジンです。HTMLファイルの中にPythonのコード(変数やループ、条件分岐など)を埋め込み、動的なWebページを生成するために使われます。
- Routing: 特定のURLパスとPythonの関数を結びつける仕組みです。クライアントからリクエストが来た際に、どの関数を実行するかを決定します。
Flaskの基本的なコードは非常にシンプルです。以下の「Hello, World!」の例を見てみましょう。
“`python
app.py
from flask import Flask
Flaskアプリケーションのインスタンスを作成
app = Flask(name)
ルートURL (“/”) へのリクエストに対応する関数を定義
@app.route(‘/’)
def hello_world():
# “Hello, World!” という文字列を返す
return ‘Hello, World!’
スクリプトが直接実行された場合に開発用サーバーを起動
if name == ‘main‘:
# debug=True にすると、コードを変更したときに自動で再読み込みされたり、エラー時にデバッグ情報が表示されたりします
app.run(debug=True)
“`
このコードを app.py
として保存し、ターミナルで python app.py
を実行すると、開発用Webサーバーが起動します。ブラウザで http://127.0.0.1:5000/
にアクセスすると、「Hello, World!」と表示されるはずです。
この例からも分かるように、Flaskでは @app.route('/')
というデコレータを使って、特定のURLパス (/
) へのリクエストを hello_world()
という関数に関連付けています。この関数が返す文字列が、そのままクライアントへのレスポンスとして送られます。
2.3 Flaskでの開発スタイル
Flaskでの開発は、提供される最小限のコア機能(ルーティング、リクエスト/レスポンス処理、テンプレート処理など)をベースに、必要に応じて様々な外部ライブラリやFlask Extensionを組み合わせて進めます。
例えば、データベースを使いたい場合は、SQLAlchemy(ORM)やPsycopg2(PostgreSQL用ドライバー)などをインストールし、Flaskアプリケーション内でそれらを扱うコードを書く必要があります。ユーザー認証機能を付けたい場合は、Flask-Loginのような認証系Extensionを利用したり、自分で認証ロジックを実装したりします。フォームを扱いたい場合は、Flask-WTFのようなフォームライブラリを使うことが多いです。
この「自分で選んで組み合わせる」スタイルが、Flaskの柔軟性の源泉であり、同時に開発者が多くの技術的な選択を迫られる要因でもあります。初心者にとっては、どのライブラリを選べば良いか、どのように組み合わせれば良いか、といった点で迷うことがあるかもしれません。しかし、一度基本的な構成を理解すれば、様々な種類のアプリケーションに対応できる幅広い応用力が身につきます。
2.4 Flaskの利点
- 学習しやすい: コア機能がシンプルなので、フレームワークの基本的な仕組みを比較的短時間で理解できます。Web開発の概念(リクエスト/レスポンス、ルーティングなど)を学ぶのに適しています。
- 軽量でシンプル: フレームワーク自体のオーバーヘッドが少なく、小規模なアプリケーションやマイクロサービスを開発するのに向いています。
- 高い柔軟性: 特定の技術に縛られず、開発者が自由に技術スタック(データベース、テンプレートエンジン、ORMなど)を選択できます。独自の要件に合わせてカスタマイズしやすいです。
- 成熟したエコシステムと豊富なリソース: 長い歴史を持つため、利用可能な拡張機能が非常に多く、様々な問題に対する解決策やサンプルコードが見つかりやすいです。困ったときに助けを求められるコミュニティも大きいです。
- 優れたドキュメント: 公式ドキュメントが非常に分かりやすく整備されています。
2.5 Flaskの欠点
- 組み込み機能が少ない: データベース連携、フォーム処理、ユーザー認証など、多くの一般的な機能がコアには含まれていません。これらの機能が必要な場合は、自分でライブラリを選び、組み込む必要があります。これは柔軟性の裏返しでもあります。
- 開発者による選択の負担: 自由度が高い反面、「何を使うか」「どう組み合わせるか」といった多くの技術的な判断を開発者自身が行う必要があります。初心者にとっては、選択肢が多すぎて戸惑う可能性があります。
- 非同期処理のサポートが限定的: FlaskはWSGIをベースにしており、基本的に同期処理(リクエストごとに一つの処理が完了するまで待つ)を行います。非同期処理(
asyncio
などを使った、複数の処理を同時に効率よく行う)を取り入れることは可能ですが、フレームワークの設計思想とは少し異なるため、工夫が必要になったり、パフォーマンスを最大限に引き出すのが難しかったりします。近年はASGI対応の拡張機能なども登場していますが、ネイティブなサポートとは異なります。
2.6 Flaskが向いているケース
- Web開発の基本的な概念を学びたい初心者。
- 小規模なWebサイトや簡単なWebサービスを迅速に開発したい場合。
- 特定の技術スタック(例えば、特定のデータベースやフロントエンドフレームワーク)と柔軟に組み合わせたい場合。
- フレームワークの内部構造を理解し、カスタマイズの自由度を重視する場合。
- 大量の既存リソースや確立されたベストプラクティスを活用したい場合。
第3章:FastAPI入門 – 高速でモダンなAPIフレームワーク
次に、近年急速に人気が高まっているFastAPIについて見ていきましょう。FastAPIはその名の通り、API開発に特化して設計されており、高速性とモダンな機能が大きな魅力です。
3.1 FastAPIの概要と特徴
FastAPIは比較的新しいフレームワークですが、そのモダンな設計と優れたパフォーマンスから、API開発の分野で注目を集めています。
FastAPIの主な特徴は以下の通りです。
- 高速なパフォーマンス: 非同期処理(
asyncio
)とASGI(Asynchronous Server Gateway Interface)をフル活用することで、非常に高い処理性能を実現しています。 - 非同期処理のネイティブサポート:
async/await
構文を自然に利用でき、I/Oバウンド(データベースアクセスや外部API呼び出しなど、待ち時間が長い処理)なタスクを効率的に扱えます。 - 自動生成されるAPIドキュメント: OpenAPI標準(旧Swagger)とJSON Schemaに基づいて、対話型のAPIドキュメント(Swagger UIとReDoc)を自動で生成します。これにより、APIの仕様確認やテストが非常に容易になります。
- データ検証とシリアライゼーション: Pydanticライブラリを統合しており、Pythonの型ヒントを使ってリクエストデータの検証やレスポンスデータの変換(シリアライゼーション)を自動で行えます。これにより、データの整合性を保ちやすく、開発効率が向上します。
- Pythonの型ヒントを積極的に活用: 関数の引数や戻り値に型ヒントを付けることで、コードの可読性が向上し、エディタの補完機能や静的解析ツール(MyPyなど)によるエラー検出が強力になります。
- 依存性注入 (Dependency Injection) システム: 機能を再利用可能な形で分割し、必要な箇所に自動で提供する仕組みが組み込まれています。テストしやすいコードを書くのに役立ちます。
3.2 FastAPIの基本的な仕組み
FastAPIは主に以下のコンポーネントの上に成り立っています。
- Starlette: 軽量なASGIフレームワークです。FastAPIはこのStarletteをベースにして、ルーティング、ミドルウェア、非同期処理などを実現しています。
- Pydantic: Pythonのデータ検証ライブラリです。Pythonの型ヒントを使ってデータのスキーマを定義し、自動で検証やシリアライゼーションを行います。FastAPIの核となる部分の一つです。
- Uvicorn: 高速なASGIサーバー実装です。FastAPIアプリケーションを実行するために推奨されています。
- OpenAPIとJSON Schema: APIの仕様を記述するための標準規格です。FastAPIはこれらを活用して自動でドキュメントを生成します。
FastAPIの基本的なコードも非常にシンプルです。以下の「Hello, World!」の例を見てみましょう。
“`python
main.py
from fastapi import FastAPI
FastAPIアプリケーションのインスタンスを作成
app = FastAPI()
ルートURL (“/”) へのGETリクエストに対応する関数を定義
@app.get(“/”)
async def read_root():
# 辞書を返す(自動でJSONに変換される)
return {“Hello”: “World”}
スクリプトが直接実行された場合に開発用サーバーを起動 (Uvicornを使用)
この部分は通常、別のファイルやコマンドで行います。
例: ターミナルで uvicorn main:app --reload
を実行
if name == “main“:
import uvicorn
uvicorn.run(app, host=”0.0.0.0″, port=8000)
“`
このコードを main.py
として保存し、ターミナルで uvicorn main:app --reload
を実行すると、Uvicornサーバーが起動します。ブラウザで http://127.0.0.1:8000/
にアクセスすると、{"Hello":"World"}
というJSONデータが表示されるはずです。
また、http://127.0.0.1:8000/docs
にアクセスすると、Swagger UIによる対話型のAPIドキュメントが、http://127.0.0.1:8000/redoc
にアクセスすると、ReDocによるAPIドキュメントがそれぞれ自動で生成されているのが確認できます。これはFastAPIの非常に便利な機能です。
この例からも分かるように、FastAPIでは @app.get("/")
のようにHTTPメソッドに対応したデコレータを使います。関数は async def
で定義されており、非同期処理に対応できる設計になっています。関数が返すPythonの辞書は、自動的にJSON形式に変換されてレスポンスとして送られます。
3.3 FastAPIでの開発スタイル
FastAPIでの開発は、型ヒントとPydanticによるデータモデル定義、依存性注入システムなどを積極的に活用するスタイルが推奨されます。これにより、コードの構造が明確になり、エラーが早期に発見しやすくなります。
例えば、POSTリクエストでJSONデータを受け取りたい場合、Pydanticを使って期待するデータの構造をクラスとして定義し、それを関数の引数に型ヒントとして指定するだけで、FastAPIが自動でデータ検証と変換を行ってくれます。
“`python
from fastapi import FastAPI
from pydantic import BaseModel
app = FastAPI()
入力データの構造をPydanticモデルで定義
class Item(BaseModel):
name: str
price: float
is_offer: bool = None
POSTリクエストに対応するエンドポイント
@app.post(“/items/”)
async def create_item(item: Item): # Pydanticモデルを型ヒントとして指定
return item
“`
このコードでは、Item
クラスで { "name": "string", "price": float, "is_offer": bool (optional) }
という構造のJSONデータを受け取ることを期待しています。クライアントから送られてきたデータは自動的に検証され、問題がなければ item
引数として Item
クラスのインスタンスとして利用できます。データの型が違ったり、必須項目が不足していたりする場合は、FastAPIが自動でエラーレスポンスを返します。
このように、FastAPIはAPI開発で頻繁に必要となるデータ検証、シリアライゼーション、ドキュメント生成といった機能を強力にサポートしており、これらを活用することで開発者はビジネスロジックの実装に集中できます。規約に従うことで迅速かつ堅牢な開発が可能になります。
3.4 FastAPIの利点
- 非常に高速: ASGIと非同期処理により、特にI/Oバウンドな処理において高いパフォーマンスを発揮します。
- 非同期処理のサポート:
asyncio
を使った非同期処理をネイティブに扱えるため、効率的なノンブロッキングI/O処理を実現できます。 - 高い開発効率: 自動APIドキュメント、Pydanticによるデータ検証/シリアライゼーション、依存性注入などの機能により、API開発の多くの定型作業を削減できます。
- モダンな機能と設計: 型ヒントの活用、ASGIベースなど、最新のPython言語機能とWeb開発のトレンドを取り入れています。
- 自動生成されるAPIドキュメント: 常に最新かつ正確なAPIドキュメントが自動で利用できるため、開発者間の連携やクライアント開発が容易になります。
- 堅牢なデータ検証: Pydanticによる強力なデータ検証機能により、不正なデータ入力によるバグを防ぎやすくなります。
3.5 FastAPIの欠点
- Flaskより新しい: 歴史が浅いため、Flaskに比べるとコミュニティの規模や利用可能なリソース(特に日本語情報)はまだ少ない可能性があります(ただし、急速に成長中です)。
- Python 3.6以降が必要: 型ヒントや
asyncio
などの最新機能を利用するため、古いバージョンのPythonでは動作しません。 - 型ヒントや
asyncio
への慣れが必要: これらの概念に慣れていない初心者にとっては、学習コストが少し高くなる可能性があります。 - 規約に従う必要性: 高い生産性はFastAPIが提供する規約や機能(Pydantic、DIなど)を利用することで実現されるため、その規約から外れた開発をしたい場合には、Flaskほどの柔軟性はないと感じるかもしれません(ただし、十分な柔軟性はあります)。
3.6 FastAPIが向いているケース
- API中心のアプリケーション(バックエンドAPI、マイクロサービスなど)を開発したい場合。
- 高いパフォーマンス(特にI/Oバウンドな処理が多い場合)が求められる場合。
- 非同期処理を積極的に活用したい場合。
- 開発効率を重視し、自動ドキュメント生成やデータ検証などの機能を活用したい場合。
- モダンなPythonの機能(型ヒント、
async/await
)を学び、活用したい場合。 - Web開発の最新トレンドを取り入れたい場合。
第4章:FastAPI vs Flask:徹底比較
さて、ここまでFastAPIとFlaskそれぞれの概要と特徴を見てきました。両者の違いをより明確にするために、様々な観点から徹底的に比較してみましょう。
比較項目 | Flask | FastAPI | 備考 |
---|---|---|---|
フレームワークタイプ | マイクロフレームワーク | モダン、API中心 | FastAPIはFlaskより多くの組み込み機能(データ検証、ドキュメントなど)を持つ |
基盤技術 | WSGI (Werkzeug) | ASGI (Starlette) | ASGIは非同期処理に最適化されている |
パフォーマンス | 同期処理が基本、I/Oバウンドな処理でブロックが発生しやすい | 非同期処理 (asyncio ) を活用し、非常に高速 |
特に高負荷時やI/O待ちが多い場合にFastAPIが有利 |
非同期処理 | 標準では限定的、拡張機能や工夫が必要 | ネイティブに強力サポート (async/await ) |
FastAPIの大きな強み |
開発速度/生産性 | 自分で多くの部分を実装/選択する必要がある | 自動ドキュメント、データ検証、DIにより高速開発が可能 | FastAPIは特にAPI開発において生産性が高い |
学習コスト | シンプルで概念が少ないため、入門しやすい | asyncio や型ヒント、Pydanticなどの概念が必要 |
初期の概念理解はFlaskが容易か、モダンな開発スタイル習得はFastAPIで効率的か |
柔軟性 | 非常に高い (マイクロフレームワーク) | 高いが、FastAPIの規約に乗ることで生産性が上がる | ゼロからの自由度はFlask、ある程度の規約内での自由度はFastAPI |
エコシステム/コミュニティ | 成熟しており、非常に大規模で情報豊富 | 急速に成長中、モダンな情報が多いがFlaskほどではない | 困ったときのリソース量はFlaskが圧倒的 |
API開発への特化 | Webアプリケーション全般に対応 | API開発に特化し、最適化されている | APIドキュメント自動生成やデータ検証など |
ドキュメンテーション | 基本的に手動で作成 | OpenAPI/JSON Schemaに基づき自動生成 (Swagger UI, ReDoc) | FastAPIの圧倒的な強み、開発効率に大きく寄与する |
データ検証/シリアライゼーション | 手動または外部ライブラリが必要 | Pydanticによる強力な組み込みサポート | Pydanticの恩恵が大きい |
型ヒントの活用 | 活用できるが、必須ではない | 積極的に活用、Pydanticと連携 | コードの可読性向上、静的解析 |
依存性注入 | 手動または外部ライブラリが必要 | 組み込み機能として強力なシステムを提供 | コードのモジュール化、テスト容易化 |
Pythonバージョン | 古いバージョンでも動作可能(推奨は3.6+) | Python 3.6+ が必須 | モダンな機能利用のため |
4.1 パフォーマンス
最大の技術的な違いの一つは、基盤となるインターフェースです。FlaskはWSGI (Web Server Gateway Interface) を、FastAPIはASGI (Asynchronous Server Gateway Interface) を利用しています。
WSGIは同期処理を前提としています。これは、一つのリクエストが来ると、その処理が完了するまで他のリクエストを待たせてしまう可能性があることを意味します。特にデータベースアクセスや外部APIへの問い合わせなど、I/O処理(Input/Output処理、データの読み書きに伴う待ち時間)が多い場合に、パフォーマンスのボトルネックになりやすいです。
一方、ASGIは非同期処理を前提としています。Pythonの asyncio
と組み合わせることで、データベースへの問い合わせ中に他のリクエストの処理を進めるといったことが可能になります。これにより、特に多数の同時リクエストを捌く必要があるAPIサービスなどにおいて、FastAPIはFlaskよりもはるかに高いパフォーマンスを発揮することができます。
ただし、CPUバウンドな処理(計算処理など、CPUを占有するタスク)が中心の場合や、同時リクエスト数が少ない小規模なアプリケーションであれば、パフォーマンスの差はそれほど顕著にならないこともあります。また、FlaskでもGeventやAsyncioと組み合わせることで非同期的な動作を実現することは不可能ではありませんが、FastAPIほどネイティブでスムーズではありません。
4.2 開発速度と生産性
API開発という観点では、FastAPIはFlaskよりも高い生産性を発揮する傾向があります。これは、FastAPIがAPI開発で頻繁に必要となる機能をフレームワーク自体に組み込んでいるからです。
- 自動ドキュメント: APIエンドポイントを定義するだけで、クライアント開発者や他のチームメンバーが利用できるAPIドキュメントが自動で生成されます。ドキュメント作成・更新の手間が大幅に削減されます。
- データ検証とシリアライゼーション: Pydanticを使ってデータの構造を定義するだけで、リクエストデータのバリデーションとレスポンスデータの変換を自動で行ってくれます。不正なデータによるエラーを防ぎ、データのハンドリングに関するコード量を減らせます。
- 依存性注入: データベース接続や認証情報など、様々な機能を依存関係として定義し、必要なエンドポイント関数に自動的に提供できます。コードの再利用性が高まり、テストも容易になります。
Flaskでこれらの機能を実現するには、対応する外部ライブラリ(例:MarshmallowやPydanticを自分で使う、Swagger UIを手動で設定するなど)を導入し、自分でコードを記述する必要があります。この手間が、特にAPI中心のプロジェクトではFastAPIに比べて開発速度を遅くする要因となり得ます。
4.3 学習コスト
「初心者向け」という観点では、学習コストは非常に重要な比較ポイントです。
- Flask: フレームワーク自体の概念はシンプルで、Web開発の基本的な仕組み(ルーティング、リクエスト/レスポンス、テンプレート)を理解しやすいです。Pythonの標準的な同期処理に慣れていれば、すぐにコードを書き始めることができます。ただし、前述の通り、データベース連携や認証など、コア以外の機能を使いたい場合は、適切な拡張機能やライブラリを選び、その使い方を学ぶ必要があります。多くの選択肢があるため、次に何を学べば良いか迷う可能性はあります。
- FastAPI: Flaskに比べて、学習すべき新しい概念(ASGI、
asyncio
、型ヒント、Pydantic、依存性注入)が多いです。特にPythonの非同期処理 (asyncio
,async
,await
) や型ヒントに慣れていない場合は、これらを同時に学ぶ必要があります。しかし、一度これらの概念を理解してしまえば、FastAPIの提供する強力な機能(自動ドキュメント、データ検証など)をすぐに活用でき、その後の開発は非常にスムーズに進みます。モダンなPython開発のスキルを身につけるという意味では、FastAPIは学びが多くあります。
総合的に見ると、「Web開発ってどういう仕組み?」という一番最初の入り口としてはFlaskの方が概念が少なくて分かりやすいかもしれません。しかし、「モダンなAPI開発を効率的に行いたい」「非同期処理や型ヒントといった最新のPython機能を学びたい」という明確な目的がある初心者にとっては、FastAPIの学習コストは十分に許容範囲であり、習得後のメリットも大きいと言えます。
4.4 柔軟性
- Flask: マイクロフレームワークの典型として、極めて高い柔軟性を誇ります。どのORMを使うか、どのテンプレートエンジンを使うか、どのようなファイル構造にするかなど、多くの部分を開発者が自由に決定できます。既存のプロジェクトに部分的に導入したり、非常に特殊な要件に合わせてカスタマイズしたりするのに適しています。
- FastAPI: Starletteをベースにしており、ルーティングやミドルウェアに関してはStarletteの柔軟性を受け継いでいます。また、FastAPI自体も特定のORMやデータベースを強制しません。しかし、Pydanticによるデータ検証や依存性注入システムなど、FastAPIが提供する多くの便利な機能は、FastAPIの設計思想や規約(特に型ヒントの利用)に従うことで最大限に活かされます。全く独自のやり方をしたい場合は、Flaskほど自由にできるわけではありませんが、一般的なWeb API開発の範囲であれば十分な柔軟性があります。
4.5 エコシステムとコミュニティ
- Flask: 非常に長い歴史を持ち、巨大で成熟したコミュニティがあります。Stack Overflowには無数の質問と回答があり、様々なライブラリや拡張機能が存在します。公式ドキュメントも非常に充実しており、多くの書籍やチュートリアルが入手可能です。困ったときに助けを求めやすい、情報が見つかりやすいというのは、初心者にとって大きな安心材料です。
- FastAPI: 比較的新しいフレームワークですが、その人気の高まりとともにコミュニティは急速に成長しています。活発な開発が行われており、新しい機能が続々と追加されています。公式ドキュメントは非常に質が高く、分かりやすいと評判です。ただし、日本語の情報や、特定のニッチな問題に対する解決策などは、まだFlaskほど多くない可能性があります。しかし、英語の情報であればかなりの量が見つかります。
4.6 API開発に特化しているか
- Flask: Webアプリケーション全般(Webサイト、APIなど)の開発に利用できます。テンプレートエンジンを使って動的なHTMLページを生成するような、伝統的なWebサイト開発も得意です。
- FastAPI: 主にAPI開発に特化して設計されています。自動ドキュメント生成やPydanticによるデータ検証など、API開発で役立つ機能が豊富に組み込まれています。FastAPIでHTMLページを返すことも可能ですが、テンプレートエンジンは標準では含まれていないため、Jinja2などのライブラリを別途導入する必要があります。APIエンドポイントだけでなく、静的ファイル配信やミドルウェアの追加といったWebアプリケーションとしての機能も提供しています。
第5章:初心者にとっての選び方:目的別ガイド
FastAPIとFlask、それぞれの特徴と違いを理解したところで、いよいよ初心者の方がどちらを選ぶべきか、具体的な考え方を掘り下げていきましょう。正解は一つではなく、あなたの「目的」や「現在のスキルレベル」によって最適な選択は変わってきます。
5.1 あなたの開発目的は?
まず、あなたがPythonでWeb開発を学びたい理由や、作りたいものから考えてみましょう。
-
目的A: Web開発の基本的な仕組みを学びたい
- 「サーバーってどうやって動くの?」「リクエストとレスポンスって何?」「ルーティングってどうやるの?」といった、Web開発のコアな概念を理解したい。
- まずは簡単なWebサイトやブログ、シンプルなフォーム処理などを実現してみたい。
- この場合、Flaskがおすすめです。Flaskはコア機能がシンプルなので、Web開発の基本的な流れや概念を理解しやすいです。マイクロフレームワークであるため、「自分で足りない部分をどう補うか」を考える過程で、Web開発に必要な様々な要素技術(データベース、テンプレート、フォームなど)について学ぶ良い機会になります。
-
目的B: APIを中心としたモダンなアプリケーションを開発したい
- フロントエンド(React, Vue.jsなど)とバックエンドAPIを分けて開発したい。
- モバイルアプリケーションのバックエンドAPIを作りたい。
- データ処理や外部サービス連携など、I/Oバウンドな処理が多いサービスを作りたい。
- 高いパフォーマンスやスケーラビリティを考慮したい。
- この場合、FastAPIがおすすめです。FastAPIはAPI開発に特化しており、自動ドキュメント、データ検証、非同期処理といった強力な機能が組み込まれています。モダンなAPI開発のベストプラクティスを学びながら、効率的に開発を進めることができます。特にパフォーマンス要求が高い場合や、非同期処理を活用したい場合はFastAPIが圧倒的に有利です。
-
目的C: Pythonの最新機能を学びたい
- Pythonの型ヒント (
asyncio
,async
,await
) など、比較的新しい機能を積極的に学び、活用したい。 - この場合、FastAPIがおすすめです。FastAPIはこれらのモダンなPython機能をフレームワークの設計思想に深く組み込んでいます。FastAPIを使って開発することで、これらの機能の practical な使い方を実践的に学ぶことができます。
- Pythonの型ヒント (
5.2 あなたの現在のスキルレベルは?
次に、あなたがPythonやWeb開発にどれくらい慣れているかを考慮してみましょう。
-
スキルレベルA: Pythonの基本的な文法(変数、関数、クラス、モジュールなど)は理解しているが、Web開発は初めて
- どちらのフレームワークも学習は可能ですが、概念の少なさという点ではFlaskが少し入りやすいかもしれません。Flaskで基本的なWeb開発の仕組みを学んだ後、必要に応じてFastAPIの非同期処理や型ヒントといったモダンな概念を学ぶ、というステップも良いでしょう。
- ただし、「モダンなAPI開発を早く始めたい」という意欲があれば、FastAPIを選んで新しい概念をまとめて学ぶのも有効です。公式ドキュメントは非常に分かりやすいので、キャッチアップも可能です。
-
スキルレベルB: Pythonの基本的な文法に加え、型ヒントや
asyncio
についても基礎知識がある、または学ぶことに抵抗がない- このレベルであれば、FastAPIを選ぶメリットが大きいです。FastAPIの主要な概念である型ヒントや非同期処理の理解が進んでいるため、スムーズに学習を進められます。FastAPIが提供する高い生産性やパフォーマンスといった恩恵を、すぐに享受できるでしょう。もちろん、Flaskを選ぶことも可能ですが、FastAPIのモダンな機能は魅力的です。
-
スキルレベルC: ある程度Pythonでの開発経験があり、Web開発の経験(他の言語・フレームワークでも可)もある
- あなたの開発目的によって最適なフレームワークを選べます。API開発であればFastAPI、より高い柔軟性や既存のエコシステムを重視するのであればFlaskといった選択になるでしょう。両方のフレームワークを少し触ってみて、開発スタイルが自分に合っている方を選ぶのも良い方法です。
5.3 コミュニティとリソースの重要度
-
「困ったときに、日本語の情報が豊富で、質問しやすい環境が良い」
- この点を重視するなら、Flaskが有利です。長年の蓄積があるため、日本語での技術記事、書籍、フォーラムなどが豊富に存在します。
-
「最新の情報や、活発なグローバルコミュニティでの交流を重視する」
- この点を重視するなら、FastAPIも良い選択肢です。英語での情報であれば非常に豊富であり、公式ドキュメントも優れています。人気が急上昇しているため、新しい知見や活発な議論が期待できます。
5.4 結論:どちらを選ぶべきか?
最終的にどちらを選ぶかは、あなたの目的、スキル、そして「どちらの開発スタイルに魅力を感じるか」にかかっています。
- まずはWeb開発の基礎をシンプルに学びたい、自由度高く色々な技術を組み合わせてみたい、既存の豊富な情報源を活用したい: → Flask
- モダンなAPI開発を効率的に行いたい、高いパフォーマンスや非同期処理が必要、最新のPython機能を活用したい、自動ドキュメントやデータ検証の恩恵を受けたい: → FastAPI
迷ったら?
どちらか一つに絞りきれない場合は、それぞれで簡単な「Hello, World!」や簡単なAPIを作ってみるのが一番です。実際にコードを書いて動かしてみることで、フレームワークの雰囲気や開発スタイルが自分に合っているかを感じ取ることができます。
また、どちらを選んだとしても、Web開発の重要な概念(HTTPリクエスト/レスポンス、ルーティング、状態管理など)は共通して学べます。一つのフレームワークで基礎を固めた後、別のフレームワークに挑戦することも十分に可能です。FlaskでWeb開発の全体像を掴んでから、FastAPIでモダンなAPI開発に特化して学ぶ、というステップも有効です。
重要なのは、完璧な選択をしようと悩みすぎず、まずは一歩踏み出してコードを書き始めることです。
第6章:簡単なチュートリアル例:Hello World と簡単なAPI
実際にFastAPIとFlaskで簡単なコードを書いて、その違いを体感してみましょう。
6.1 事前準備
まずは必要なライブラリをインストールします。仮想環境(venv
やconda
など)を使うことを強く推奨します。
“`bash
仮想環境を作成・起動 (例: venv)
python -m venv myenv
source myenv/bin/activate # macOS/Linux
myenv\Scripts\activate # Windows
Flaskをインストール (開発用サーバーとしてwaitressもよく使われますが、ここではシンプルな実行方法を示します)
pip install Flask
FastAPIとASGIサーバーとしてUvicornをインストール
pip install fastapi uvicorn[standard]
“`
6.2 FlaskでHello World!
flask_app.py
という名前でファイルを作成し、以下のコードを記述します。
“`python
flask_app.py
from flask import Flask
app = Flask(name)
@app.route(‘/’)
def hello_world():
return ‘Hello, Flask World!’
if name == ‘main‘:
# デバッグモードを有効にして実行。コード変更が自動で反映されます。
# 本番環境では debug=False にし、別途GunicornやWaitressのようなWSGIサーバーを使います。
app.run(debug=True)
“`
ターミナルで以下のコマンドを実行します。
bash
python flask_app.py
出力されるアドレス (http://127.0.0.1:5000/
) にブラウザでアクセスすると、「Hello, Flask World!」と表示されるはずです。
6.3 FastAPIでHello World!
fastapi_app.py
という名前でファイルを作成し、以下のコードを記述します。
“`python
fastapi_app.py
from fastapi import FastAPI
app = FastAPI()
@app.get(“/”) # HTTP GETメソッドに対応
async def read_root():
# Pythonの辞書を返すと、FastAPIが自動でJSON形式に変換します
return {“message”: “Hello, FastAPI World!”}
このファイル自体を実行するのではなく、Uvicornサーバーから実行します。
例えば、ターミナルで以下のコマンドを実行します。
uvicorn fastapi_app:app –reload
“`
ターミナルで以下のコマンドを実行します。
bash
uvicorn fastapi_app:app --reload
出力されるアドレス (http://127.0.0.1:8000/
) にブラウザでアクセスすると、{"message":"Hello, FastAPI World!"}
というJSONが表示されるはずです。
また、http://127.0.0.1:8000/docs
にアクセスすると、Swagger UIによる対話型のAPIドキュメントが自動生成されているのが確認できます。
6.4 パスパラメータを使った簡単なAPI
リクエストのURLの一部から情報を取得するパスパラメータを使ったAPIをそれぞれで実装してみましょう。
Flask:
flask_app.py
に以下の関数を追加します。
“`python
flask_app.py (前述のコードに追加)
の部分がパスパラメータとして扱われます
@app.route(‘/greet/
def greet(name):
# name 変数にはURLから取得した値が入ります
return f’Hello, {name}!’
他のコードはそのまま
“`
python flask_app.py
を実行し、http://127.0.0.1:5000/greet/Alice
にアクセスしてみてください。「Hello, Alice!」と表示されるはずです。
FastAPI:
fastapi_app.py
に以下の関数を追加します。
“`python
fastapi_app.py (前述のコードに追加)
{name} の部分がパスパラメータとして扱われます。stringは型ヒントです。
@app.get(“/items/{item_id}”)
async def read_item(item_id: int): # item_id をint型として受け取る
# item_id 変数にはURLから取得した値がint型として入ります
return {“item_id”: item_id}
他のコードはそのまま
“`
uvicorn fastapi_app:app --reload
を実行し、http://127.0.0.1:8000/items/5
にアクセスしてみてください。{"item_id":5}
というJSONが表示されるはずです。
この例からも、FastAPIが型ヒントを積極的に活用し、自動で型変換(ここでは文字列の”5″を整数の5に変換)を行っていることが分かります。Flaskでは、受け取ったパラメータは常に文字列として扱われるため、必要に応じて手動で型変換を行う必要があります。
6.5 リクエストボディ(POSTデータ)を受け取る簡単なAPI
JSON形式でデータを送信し、それを受け取って処理するPOSTエンドポイントを実装してみましょう。
Flask:
flask_app.py
に以下のコードを追加します。FlaskでJSONデータを受け取るには、request
オブジェクトを使います。
“`python
flask_app.py (前述のコードに追加)
from flask import request # requestオブジェクトをインポート
/data というURLへのPOSTリクエストに対応
methods=[‘POST’] でPOSTメソッドのみを受け付けるように指定
@app.route(‘/data’, methods=[‘POST’])
def process_data():
# リクエストボディをJSONとして解析します
# リクエストがJSON形式でない場合は None になります
data = request.get_json()
if data is None:
# JSON形式でない場合はエラーレスポンスを返す
return {'error': 'Request must be JSON'}, 415 # 415 Unsupported Media Type
# 受け取ったデータを処理する (例: そのまま返す)
# 例として、'name' というキーがあればそれを使う
name = data.get('name', 'Anonymous')
return {'received_name': name}
他のコードはそのまま
“`
このFlaskエンドポイントをテストするには、curlコマンドやPostmanのようなツールが必要です。
“`bash
ターミナルからcurlコマンドでテスト (Linux/macOS)
curl -X POST \
http://127.0.0.1:5000/data \
-H ‘Content-Type: application/json’ \
-d ‘{“name”: “Bob”}’
“`
{"received_name":"Bob"}
というレスポンスが得られるはずです。Content-Type: application/json
ヘッダーを付けずに送信したり、JSON以外の形式で送信したりすると、Flask側で data
が None
となり、エラーレスポンスが返されます。JSON内のキーが name
以外の場合も考慮する必要があります。
FastAPI:
fastapi_app.py
に以下のコードを追加します。Pydanticモデルを使うことで、データの検証と受け取りが非常にシンプルになります。
“`python
fastapi_app.py (前述のコードに追加)
from pydantic import BaseModel # Pydanticモデルをインポート
入力データの構造をPydanticモデルで定義
class UserData(BaseModel):
name: str # name は必須の文字列
age: int = None # age は任意の整数 (デフォルトはNone)
/users というURLへのPOSTリクエストに対応
@app.post(“/users/”)
async def create_user(user: UserData): # Pydanticモデルを型ヒントとして指定
# user 変数には、検証済みの UserData オブジェクトが入ります
# 例えば user.name や user.age でアクセスできます
return {“message”: f”User {user.name} received!”, “user_data”: user}
他のコードはそのまま
“`
uvicorn fastapi_app:app --reload
を実行し、http://127.0.0.1:8000/docs
にアクセスしてみてください。/users/
エンドポイントのドキュメントが自動で生成されており、そこで直接テストすることもできます(Try it out ボタン)。
curlコマンドでのテスト例:
“`bash
ターミナルからcurlコマンドでテスト (Linux/macOS)
curl -X POST \
http://127.0.0.1:8000/users/ \
-H ‘Content-Type: application/json’ \
-d ‘{“name”: “Charlie”, “age”: 30}’
“`
{"message":"User Charlie received!","user_data":{"name":"Charlie","age":30}}
というレスポンスが得られるはずです。もし name
が文字列でなかったり、必須の name
が含まれていなかったりした場合は、FastAPIが自動でバリデーションエラーを返します。例えば、-d '{"age": 30}'
のように name
を省略して送信すると、detail: [{"loc":["body","name"],"msg":"Field required", ...}]
のようなエラーレスポンスが返されます。
この例からも、FastAPIがPydanticと型ヒントを使って、リクエストデータの構造定義、自動検証、オブジェクト化といった処理を非常に効率的に行っていることが分かります。Flaskではこれらの処理を手動で行うか、外部ライブラリを組み合わせて行う必要があり、コード量や設定が増える傾向があります。
第7章:よくある質問 (FAQ)
FastAPIとFlaskを選ぶ際に、初心者の方がよく疑問に思う点についてQ&A形式でまとめました。
Q1: どちらのフレームワークが「良い」ですか?
A1: どちらが絶対的に優れている、ということはありません。それぞれに得意なことや設計思想の違いがあります。
- Flask: シンプルさ、柔軟性、成熟したエコシステムが強みです。Web開発の基本的な学習、小規模プロジェクト、柔軟な技術選定をしたい場合に適しています。
- FastAPI: 高いパフォーマンス、非同期処理、モダンなAPI開発機能(自動ドキュメント、データ検証など)が強みです。API中心のプロジェクト、パフォーマンス要求の高い場合、最新のPython機能を活用したい場合に適しています。
「良い」フレームワークとは、あなたの開発目的やスキルレベル、プロジェクトの要件に最も合っているフレームワークのことです。
Q2: FlaskからFastAPIに移行するのは難しいですか?
A2: FlaskでのWeb開発経験があれば、移行は比較的スムーズに進むでしょう。ルーティングやリクエスト/レスポンスといったWeb開発の基本的な概念は共通しているからです。
ただし、FastAPI特有の概念である非同期処理(asyncio
, async
, await
)や型ヒント、Pydanticによるデータ検証、依存性注入システムなどについては、新たに学習が必要です。これらのモダンな機能を習得すれば、FastAPIの恩恵を最大限に受けられるようになります。
全くの初心者からいきなりFastAPIを学ぶよりも、FlaskでWeb開発の基礎を一度経験しておくと、FastAPIの概念もより深く理解しやすくなる可能性があります。
Q3: 両方のフレームワークを学ぶべきですか?
A3: 必須ではありませんが、可能であれば両方学ぶ価値はあります。それぞれのフレームワークの思想やアプローチの違いを理解することで、Web開発に関する視野が広がり、将来的に他のフレームワークや技術を学ぶ際にも役立ちます。
ただし、まずはどちらか一つに集中して、基本的なWeb開発スキルをしっかりと身につけるのがおすすめです。欲張って両方に手を出してしまい、中途半端になるよりは、一つをマスターする方が確実にステップアップできます。
Q4: 大規模なアプリケーション開発にはどちらが向いていますか?
A4: どちらのフレームワークでも大規模なアプリケーション開発は可能です。フレームワーク自体よりも、適切なアーキテクチャ設計(モジュールの分割、レイヤー化、データベース設計など)や開発プロセスの方が重要になります。
しかし、大規模なAPIサービスを開発する場合、FastAPIの高いパフォーマンスや非同期処理のネイティブサポート、自動ドキュメント生成といった機能は大きなメリットとなります。API同士の連携が多いマイクロサービスアーキテクチャなどにも向いています。
Flaskは柔軟性が高いため、特定の要件に合わせて独自の構造を構築しやすいという利点があります。ただし、多くの機能を外部ライブラリに依存するため、それらを適切に管理し、バージョンアップなどに追随していく必要があります。
一般的には、大規模なAPI中心のシステムではFastAPI、より多様な機能を持つWebアプリケーション(APIだけでなく、ユーザーインターフェースや管理画面なども含む)や、既存のFlaskエコシステムを活用したい場合はFlask、といった傾向があります。しかし、これはあくまで一般的な傾向であり、最終的にはプロジェクトの具体的な要件で判断すべきです。
Q5: テンプレートエンジンやORMはどちらで使えますか?
A5: はい、どちらのフレームワークでもテンプレートエンジンやORM(Object-Relational Mapper)などの外部ライブラリを利用できます。
- Flask: 標準でJinja2テンプレートエンジンが含まれています。ORMとしてはSQLAlchemyなどが広く利用されています。これらはFlask Extensionとして提供されていることも多く、比較的簡単に統合できます。
- FastAPI: 標準ではテンプレートエンジンやORMは含まれていません。しかし、Jinja2やSQLAlchemy、Tortoise ORM(非同期対応のORM)など、様々なライブラリを組み合わせて利用することが可能です。FastAPIは特定の技術に縛られない設計になっているため、柔軟な選択ができます。
つまり、フロントエンドの表示にテンプレートを使うWebサイト開発でも、データベースを使うアプリケーション開発でも、どちらのフレームワークも利用可能です。ただし、FastAPIはAPIに特化しているため、テンプレートエンジンを組み合わせる場合はFlaskよりも少し設定の手間が増えることがあります。
第8章:まとめ:あなたに合ったフレームワークを見つける旅
この記事では、Pythonの代表的なWebフレームワークであるFlaskとFastAPIについて、その特徴、利点、欠点、そして初心者向けの選び方ガイドを詳細に説明しました。
- Flaskは、シンプルで学ぶことが少なく、Web開発の基本概念を掴むのに適したマイクロフレームワークです。柔軟性が高く、多くの外部ライブラリや確立されたエコシステムが利用できます。Webサイト開発や小規模プロジェクト、あるいは特定の技術を自由に組み合わせたい場合に良い選択肢となります。
- FastAPIは、高速なパフォーマンス、非同期処理、自動ドキュメント生成、データ検証といったモダンな機能を豊富に備えたフレームワークです。API中心の開発、高いパフォーマンスが要求されるシステム、最新のPython機能を活用したい場合に非常に強力なツールとなります。
どちらのフレームワークにも明確な強みがあり、「どちらが絶対的に優れている」ということはありません。あなたの開発の「目的」は何か、「現在のスキルレベル」はどのくらいか、そして「どのような開発スタイルに魅力を感じるか」といった点を踏まえて、最適なフレームワークを選ぶことが重要です。
この記事で紹介した情報が、あなたがPython Web開発の世界へ踏み出すための一助となれば幸いです。もし可能であれば、実際に両方のフレームワークで簡単なアプリケーションを書いてみることをお勧めします。コードを書いて動かすことが、フレームワークの理解を深める一番の方法だからです。
Flaskを選んでも、FastAPIを選んでも、Pythonを使ったWeb開発の可能性は大きく広がります。焦らず、楽しみながら、あなたに合ったフレームワークを見つけて、素晴らしいアプリケーション開発の旅を始めてください!
そして、フレームワーク選びは開発の最初のステップに過ぎません。選んだフレームワークを使いこなし、さらにPython言語そのものや、データベース、フロントエンド技術、デプロイといった関連技術についても学びを深めていくことで、あなたの開発スキルはどんどん向上していくでしょう。
さあ、エディタを開いて、コードを書き始めましょう!