【初心者向け】hパラメータとは?基本の定義と意味を徹底解説
電子回路を学ぶ上で、トランジスタは非常に重要な部品です。しかし、トランジスタの複雑な動作を正確に理解し、回路設計や解析を行うのは、特に初心者にとっては難しく感じられることがあります。そこで登場するのが「等価回路」という考え方です。等価回路を用いることで、複雑な素子を簡単な抵抗、電源、コンデンサなどの組み合わせで表現し、回路全体の解析を容易にすることができます。
トランジスタの等価回路にはいくつかの種類がありますが、その中でも比較的古くから使われ、基本的な考え方を学ぶ上で重要なのが「hパラメータモデル」です。このhパラメータモデルは、特に低周波でのトランジスタの小信号特性を解析する際に威力を発揮します。
この記事では、トランジスタを初めて学ぶ方や、hパラメータについて聞いたことはあるけれどよく分からない、という初心者の方を対象に、hパラメータの基本的な定義から、それぞれのパラメータが持つ物理的な意味、そしてどのように回路解析に利用できるのかを、分かりやすく丁寧に解説していきます。専門的な数式だけでなく、概念的な理解を深めることに重点を置いて説明しますので、ぜひ最後までお付き合いください。
1. なぜトランジスタの「モデル化」が必要なのか?
まず、なぜ私たちはトランジスタをわざわざ「モデル化」する必要があるのでしょうか?
トランジスタは、ご存知の通り、半導体を用いた電子部品であり、主に信号の増幅やスイッチングに使われます。その内部では、PN接合を通過する多数および少数のキャリアの移動、電界の効果、温度変化など、様々な物理現象が複雑に絡み合って動作しています。
このような複雑な内部動作をそのまま捉えて回路全体の動きを解析しようとすると、非常に高度な物理学や数学が必要となり、現実的な回路設計や解析は不可能になります。
そこで考え出されたのが、「モデル化」です。モデル化とは、ある素子やシステムの特定の振る舞いを、より単純な数学的な関係式や、既知の簡単な部品(抵抗、電圧源、電流源など)の組み合わせで近似的に表現することです。これにより、複雑な素子を含む回路でも、比較的容易にその電気的な特性(電圧、電流、増幅率など)を計算できるようになります。
トランジスタのモデルには、直流的な特性(静特性、バイアス点の決定などに使うモデル)を表すものと、交流的な特性(動特性、小信号等価回路)を表すものがあります。hパラメータモデルは、後者の交流的な特性、特に「小信号」に対する応答を表現するためのモデルです。
2. 「小信号」とは?「等価回路」とは?
hパラメータモデルを理解するためには、「小信号」と「等価回路」という概念をしっかりと押さえておく必要があります。
2.1 小信号動作とは?
トランジスタは、通常、正常に動作させるために、あらかじめ直流電圧や電流を加えておきます。これを「バイアスをかける」と言います。このバイアスによって、トランジスタは特定の動作点(Q点:Quiescent Point)に置かれます。
私たちが増幅したい信号は、このQ点周りの比較的小さな交流信号です。例えば、音声信号やセンサーからの微弱な信号などがこれにあたります。このような、直流のバイアス電圧や電流に比べて十分に小さい交流信号のことを「小信号」と呼びます。
トランジスタの特性は、実は電圧や電流に対して完全に線形ではありません。例えば、コレクタ電流(Ic)とベース・エミッタ間電圧(Vbe)の関係は指数関数的な非線形特性を示します。しかし、Q点の周りの非常に狭い範囲(つまり、小信号の範囲)であれば、この非線形な特性を「直線(線形)」で近似することができます。
この線形近似が成り立つ範囲でのトランジスタの動作を「小信号動作」と呼びます。hパラメータモデルは、この小信号動作におけるトランジスタの入出力特性を表現するために使われます。
2.2 等価回路とは?
等価回路とは、ある電気的な素子や回路網と「同じ入出力特性」を持つように、抵抗、電圧源、電流源、コンデンサ、コイルなどの基本的な部品を組み合わせて作られた回路のことです。
たとえば、ある複雑な回路があったとして、その回路にある入力電圧を加えたときに、どのような電流が出力されるかを知りたいとします。このとき、その複雑な回路と同じ入出力関係を持つような簡単な抵抗一本で置き換えることができれば、解析は非常に簡単になります。これが等価回路の考え方です。
hパラメータモデルは、トランジスタという複雑な素子を、小信号動作の範囲で、抵抗と「従属電源」という特殊な電源を組み合わせた回路で置き換えたものです。
2.3 従属電源とは?
従属電源(Dependent Source)は、その電源の電圧や電流の値が、回路内の他の場所の電圧や電流に依存して決まる電源です。普通の電源(独立電源、Independent Source)は、常に一定の値を出力したり、時間の関数として決まった値を出力したりしますが、従属電源の値は回路の他の部分の状態によって変化します。
hパラメータモデルでは、この従属電源が重要な役割を果たします。例えば、「出力電流は入力電流の大きさに比例する」といったトランジスタの増幅作用を表現するために、入力電流の大きさに応じて値が変わる電流源(電圧制御電流源や電流制御電流源など)が使われます。
3. 2ポートネットワークとしてのトランジスタ
hパラメータモデルは、トランジスタを「2ポートネットワーク」として捉えることから始まります。
2ポートネットワークとは、入力を接続する端子対(ポート1)と、出力を取り出す端子対(ポート2)の合計4つの端子を持つ回路網のことです。トランジスタは、通常3つの端子(ベースB、コレクタC、エミッタE)を持っていますが、そのうちの1つを共通端子として扱うことで、2ポートネットワークとして見なすことができます。
例えば、最もよく使われる「エミッタ接地」構成では、入力はベース端子とエミッタ端子の間(ベース・エミッタ間)、出力はコレクタ端子とエミッタ端子の間(コレクタ・エミッタ間)から取り出します。このとき、エミッタ端子が入力側と出力側の両方に共通する端子となります。
このように、トランジスタを2ポートネットワークとして捉えると、その電気的な特性は、入出力の電圧と電流の間の関係式として記述できます。
3.1 2ポートネットワークの入出力変数
2ポートネットワークでは、ポート1(入力)とポート2(出力)における電圧と電流を考えます。
- ポート1(入力側):
- 電圧:$v_1$
- 電流:$i_1$
- ポート2(出力側):
- 電圧:$v_2$
- 電流:$i_2$
これらの変数($v_1, i_1, v_2, i_2$)の間には、ネットワークの特性によって決まる関係があります。この関係を表す方法の一つが、hパラメータです。
4. hパラメータの定義
hパラメータは「ハイブリッドパラメータ(Hybrid Parameters)」の略です。なぜ「ハイブリッド」と呼ばれるかというと、後述するように、電流対電圧、電圧対電圧、電流対電流、電圧対電流という、異なる種類の電気量(電圧と電流)の比で定義されるパラメータが混在しているからです。
hパラメータは、前述の入出力変数 $v_1, i_1, v_2, i_2$ の間の関係を、以下の2つの一次方程式で表します。
$$
v_1 = h_{11} i_1 + h_{12} v_2 \quad \cdots (1) \
i_2 = h_{21} i_1 + h_{22} v_2 \quad \cdots (2)
$$
この式は、ポート1の電圧 $v_1$ がポート1の電流 $i_1$ とポート2の電圧 $v_2$ の線形結合で決まること、そしてポート2の電流 $i_2$ がポート1の電流 $i_1$ とポート2の電圧 $v_2$ の線形結合で決まることを示しています。
この2つの式に含まれる4つの係数 $h_{11}, h_{12}, h_{21}, h_{22}$ が、その2ポートネットワーク(ここでは小信号動作時のトランジスタ)のhパラメータです。
これらのhパラメータは、上記の連立方程式から、以下のように定義されます。
- $h_{11}$ の定義: 式(1)において、$v_2 = 0$ とした場合、$v_1 = h_{11} i_1$ となります。したがって、$h_{11}$ は以下のように定義されます。
$$ h_{11} = \left. \frac{v_1}{i_1} \right|_{v_2=0} $$ - $h_{12}$ の定義: 式(1)において、$i_1 = 0$ とした場合、$v_1 = h_{12} v_2$ となります。したがって、$h_{12}$ は以下のように定義されます。
$$ h_{12} = \left. \frac{v_1}{v_2} \right|_{i_1=0} $$ - $h_{21}$ の定義: 式(2)において、$v_2 = 0$ とした場合、$i_2 = h_{21} i_1$ となります。したがって、$h_{21}$ は以下のように定義されます。
$$ h_{21} = \left. \frac{i_2}{i_1} \right|_{v_2=0} $$ - $h_{22}$ の定義: 式(2)において、$i_1 = 0$ とした場合、$i_2 = h_{22} v_2$ となります。したがって、$h_{22}$ は以下のように定義されます。
$$ h_{22} = \left. \frac{i_2}{v_2} \right|_{i_1=0} $$
定義式を見てわかるように、それぞれのパラメータを求める際には、ポート2を短絡($v_2=0$)するか、ポート1を開放($i_1=0$)するかのいずれかの条件が課されています。これは、他の変数に依存しない単独の比率としてパラメータを定義するためです。
5. 各hパラメータの物理的な意味と単位
定義式から、各hパラメータがどのような電気的な特性を表しているのか、そしてその単位は何であるのかを見ていきましょう。
5.1 $h_{11}$: 入力インピーダンス(出力短絡時)
- 定義: $h_{11} = (v_1 / i_1) |_{v_2=0}$
- 物理的意味: ポート2(出力側)を短絡したときの、ポート1(入力側)から見たインピーダンス(交流抵抗のようなもの)です。入力電圧 $v_1$ を入力電流 $i_1$ で割った値なので、オーム [Ω] の次元を持ちます。これは、トランジスタの入力部にどれだけ電流が流れやすいか(または流れにくいか)を示す指標となります。抵抗に似た性質を持つため、これを「入力抵抗」と呼ぶこともあります。
- 単位: オーム [Ω]
5.2 $h_{12}$: 電圧帰還率(入力開放時)
- 定義: $h_{12} = (v_1 / v_2) |_{i_1=0}$
- 物理的意味: ポート1(入力側)を開放したときの、ポート2(出力側)の電圧 $v_2$ がポート1(入力側)の電圧 $v_1$ にどれだけ影響を与えるかを示す比率です。出力の変化が入力に戻ってくることから「帰還率」と呼ばれます。添え字の12は「出力(2)から入力(1)へのフィードバック」という意味合いを持ちます。電圧を電圧で割った値なので、単位はありません(無次元)。これは、トランジスタ内部での出力側から入力側への逆方向の結合の強さを示します。理想的な増幅器では、出力が入力に影響を与えないことが望ましいので、この値は小さいほど良いとされます。
- 単位: なし(無次元)
5.3 $h_{21}$: 電流増幅率(出力短絡時)
- 定義: $h_{21} = (i_2 / i_1) |_{v_2=0}$
- 物理的意味: ポート2(出力側)を短絡したときの、ポート1(入力側)の電流 $i_1$ がポート2(出力側)の電流 $i_2$ をどれだけ増幅するかを示す比率です。入力電流 $i_1$ を出力電流 $i_2$ がどれだけ流れるか、という電流の増幅能力を表します。添え字の21は「入力(1)から出力(2)への順方向」という意味合いを持ちます。電流を電流で割った値なので、単位はありません(無次元)。この値が大きいほど、電流増幅能力が高いということになります。トランジスタの最も重要な機能の一つである電流増幅を直接的に表すパラメータです。
- 単位: なし(無次元)
5.4 $h_{22}$: 出力アドミタンス(入力開放時)
- 定義: $h_{22} = (i_2 / v_2) |_{i_1=0}$
- 物理的意味: ポート1(入力側)を開放したときの、ポート2(出力側)から見たアドミタンス(電圧に対する電流の流れやすさ、インピーダンスの逆数)です。出力電圧 $v_2$ を出力電流 $i_2$ で割った値の逆数(インピーダンスの逆数)なので、アドミタンスの単位であるジーメンス [S] を持ちます。(昔はモー [℧] とも呼ばれました)。これは、トランジスタの出力側にどれだけ電流が流れやすいか(出力抵抗がどれだけ低いか)を示す指標となります。アドミタンスなので、値が大きいほど電流が流れやすく(出力抵抗が低く)、値が小さいほど電流が流れにくい(出力抵抗が高い)ことを意味します。理想的な増幅器では、出力は負荷に影響されにくい(出力抵抗が高い、つまり出力アドミタンスが低い)ことが望ましい場合が多いです。
- 単位: ジーメンス [S]
まとめると、hパラメータは以下の4つです。
- $h_{11}$: 入力側に関する抵抗成分 (Ω)
- $h_{12}$: 出力側から入力側への電圧的な影響(無次元)
- $h_{21}$: 入力側から出力側への電流的な影響(無次元、電流増幅率)
- $h_{22}$: 出力側に関するコンダクタンス成分 (S)
このように、異なる物理量(インピーダンス、電圧比、電流比、アドミタンス)が混在しているため、「ハイブリッドパラメータ」と呼ばれるのです。
6. hパラメータ等価回路の書き方
hパラメータの定義式(1)と(2)を、電気回路の基本的な法則(オームの法則、キルヒホッフの法則)を満たすように、抵抗と従属電源を使って等価回路として表現してみましょう。
定義式を再掲します。
$$
v_1 = h_{11} i_1 + h_{12} v_2 \
i_2 = h_{21} i_1 + h_{22} v_2
$$
6.1 入力側(ポート1)の等価回路
最初の式 $v_1 = h_{11} i_1 + h_{12} v_2$ を見てみましょう。これは、ポート1の端子間電圧 $v_1$ が、以下の2つの電圧の合計であることを示しています。
- $h_{11} i_1$: これは、入力電流 $i_1$ と抵抗 $h_{11}$ を流れることによる電圧降下と見なせます。つまり、ポート1の入力側には、抵抗 $h_{11}$ が直列に入っていると考えられます。
- $h_{12} v_2$: これは、ポート2(出力側)の電圧 $v_2$ に比例する電圧です。そして、この電圧は入力電流 $i_1$ とは独立に発生しています。これはまさに、ポート2の電圧 $v_2$ に「従属」する電圧源の働きを示しています。この電圧源の値は $h_{12} v_2$ であり、向きは $v_1$ と同じ方向(ポート1の端子間に電圧を供給する向き)です。
したがって、ポート1の等価回路は、抵抗 $h_{11}$ と、ポート2の電圧 $v_2$ に従属する電圧源 $h_{12} v_2$ が直列に接続された形になります。
6.2 出力側(ポート2)の等価回路
次に、2番目の式 $i_2 = h_{21} i_1 + h_{22} v_2$ を見てみましょう。これは、ポート2の端子から流れ出る電流 $i_2$ が、以下の2つの電流の合計であることを示しています。
- $h_{21} i_1$: これは、ポート1(入力側)の電流 $i_1$ に比例する電流です。そして、この電流はポート2の電圧 $v_2$ とは独立に発生しています。これは、ポート1の電流 $i_1$ に「従属」する電流源の働きを示しています。この電流源の値は $h_{21} i_1$ であり、向きはポート2から流れ出る方向($i_2$ と同じ方向)です。
- $h_{22} v_2$: これは、ポート2の電圧 $v_2$ に比例する電流です。これは、ポート2の端子間に電圧 $v_2$ が加わったときに流れる電流であり、アドミタンス $h_{22}$ を持つ素子(またはインピーダンス $1/h_{22}$ を持つ素子)に電圧 $v_2$ が加わったときに流れる電流 $i_2 = h_{22} v_2$ を表しています。つまり、ポート2の出力側には、アドミタンス $h_{22}$ の素子(または抵抗 $1/h_{22}$)が並列に接続されていると考えられます。
したがって、ポート2の等価回路は、ポート1の電流 $i_1$ に従属する電流源 $h_{21} i_1$ と、アドミタンス $h_{22}$ (または抵抗 $1/h_{22}$)が並列に接続された形になります。
6.3 hパラメータ等価回路全体の図解(テキスト表現)
以上の構成を組み合わせると、hパラメータ等価回路は以下のようになります。(ここではテキストで表現します)
“`
[ポート1 (入力)] [ポート2 (出力)]
+——-+——————+ +——————+——-+
| | | | | |
o—i1–>—[h11]—-(+)—|—v1—+ o—i2–>–(+-)—-o—v2—+
| | h12v2 (-) | | | | |
| | (電圧源) | | (電流源) h22 (抵抗) |
| | | | | h21i1 | (並列) |
| | | | | | | |
o——-+——————+———+ o———-+——+——-+
| |
—————————————–+—–(共通端子)
“`
- 入力側:
- $v_1$:入力ポートの電圧
- $i_1$:入力ポートに流れ込む電流
- $h_{11}$:入力に直列に接続された抵抗
- $h_{12} v_2$:出力電圧 $v_2$ に従属する電圧源。抵抗 $h_{11}$ の左側に接続され、$v_1$ と同じ極性を持つ。
- 出力側:
- $v_2$:出力ポートの電圧
- $i_2$:出力ポートから流れ出す電流
- $h_{21} i_1$:入力電流 $i_1$ に従属する電流源。出力ポート間に並列に接続され、$i_2$ と同じ向き(ポート2から流れ出す向き)を持つ。
- $h_{22}$:出力ポート間に並列に接続されたアドミタンス(または $1/h_{22}$ の抵抗)。
この等価回路は、小信号動作におけるトランジスタの電気的な振る舞いを近似的に表しています。この回路図を見ながら、元の定義式 $v_1 = h_{11} i_1 + h_{12} v_2$ と $i_2 = h_{21} i_1 + h_{22} v_2$ が成り立っていることを確認してみてください。
7. トランジスタの各構成におけるhパラメータと記号
トランジスタは、その用途に応じて「エミッタ接地(CE)」「ベース接地(CB)」「コレクタ接地(CC)」の3つの基本的な構成で使われます。どの端子を共通端子として使うかによって、入出力ポートの定義が変わるため、hパラメータの値も異なります。
各構成に対応するため、hパラメータの記号には通常、添え字が付けられます。
- 11 → i (input)
- 12 → r (reverse transfer)
- 21 → f (forward transfer)
- 22 → o (output)
そして、末尾に構成を示す添え字が付きます。
- e (common emitter): エミッタ接地
- b (common base): ベース接地
- c (common collector): コレクタ接地
これにより、各構成のhパラメータは以下のように表されます。
7.1 エミッタ接地構成 (Common Emitter, CE)
- 共通端子: エミッタ (E)
- 入力ポート: ベース(B) – エミッタ(E) 間
- 出力ポート: コレクタ(C) – エミッタ(E) 間
- 入出力変数(小信号交流成分):
- 入力電圧 $v_1 = v_{be}$
- 入力電流 $i_1 = i_b$
- 出力電圧 $v_2 = v_{ce}$
- 出力電流 $i_2 = i_c$
- hパラメータ記号: $h_{ie}, h_{re}, h_{fe}, h_{oe}$
定義式は以下のようになります。
$$
v_{be} = h_{ie} i_b + h_{re} v_{ce} \
i_c = h_{fe} i_b + h_{oe} v_{ce}
$$
それぞれの物理的意味は以下の通りです。
- $h_{ie}$: 入力インピーダンス(出力短絡時) $Z_{in}|{v{ce}=0}$。ベース・エミッタ間の小信号抵抗に相当します。典型的には数百Ω~数kΩ程度の値をとります。
- $h_{re}$: 電圧帰還率(入力開放時) $(v_{be} / v_{ce})|_{i_b=0}$。コレクタ電圧の変化がベース電圧にどれだけ影響するかを示します。典型的には非常に小さい値($10^{-4}$~$10^{-5}$程度)であり、多くの場合無視できるほど小さいです。
- $h_{fe}$: 電流増幅率(出力短絡時) $(i_c / i_b)|{v{ce}=0}$。ベース電流の変化がコレクタ電流にどれだけ増幅されて現れるかを示します。トランジスタの直流電流増幅率 $\beta_{DC}$ とは厳密には異なりますが、多くの場合 $\beta_{DC}$ に近い値(20~500程度)をとります。これはエミッタ接地回路の最も重要なパラメータの一つです。
- $h_{oe}$: 出力アドミタンス(入力開放時) $(i_c / v_{ce})|_{i_b=0}$。コレクタ・エミッタ間の小信号コンダクタンス(出力抵抗の逆数)に相当します。典型的には数μS~数十μS程度の小さな値(出力抵抗としては数kΩ~数十kΩ程度)をとります。
エミッタ接地構成のhパラメータ等価回路:
[ベースB] [コレクタC]
+-------+------------------+ +------------------+-------+
| | | | | |
o---ib-->---[hie]----(+)---|---vbe--+ o---ic-->--(+-)----o---vce--+
| | hre*vce(-) | | | | |
| | (電圧源) | | (電流源) hoe (抵抗) |
| | | | | hfe*ib | (並列) |
| | | | | | | |
o-------+------------------+---------+ o----------+------+-------+
| |
-----------------------------------------+-----[エミッタE]
エミッタ接地回路は電圧増幅率も電流増幅率も大きいため、最も基本的な増幅回路として広く使われます。hパラメータモデルは、この回路の入出力インピーダンスや増幅率を解析するのに役立ちます。
7.2 ベース接地構成 (Common Base, CB)
- 共通端子: ベース (B)
- 入力ポート: エミッタ(E) – ベース(B) 間
- 出力ポート: コレクタ(C) – ベース(B) 間
- 入出力変数(小信号交流成分):
- 入力電圧 $v_1 = v_{eb}$
- 入力電流 $i_1 = i_e$
- 出力電圧 $v_2 = v_{cb}$
- 出力電流 $i_2 = i_c$
- hパラメータ記号: $h_{ib}, h_{rb}, h_{fb}, h_{ob}$
定義式は以下のようになります。
$$
v_{eb} = h_{ib} i_e + h_{rb} v_{cb} \
i_c = h_{fb} i_e + h_{ob} v_{cb}
$$
それぞれの物理的意味は以下の通りです。
- $h_{ib}$: 入力インピーダンス $Z_{in}|{v{cb}=0}$。エミッタ・ベース間の小信号抵抗に相当します。エミッタ接地構成の$h_{ie}$に比べて非常に小さい値(数十Ω程度)をとります。これはベース接地回路が入力インピーダンスが低いという特徴を持つことを示しています。
- $h_{rb}$: 電圧帰還率 $(v_{eb} / v_{cb})|{i_e=0}$。コレクタ電圧の変化がエミッタ電圧にどれだけ影響するかを示します。エミッタ接地構成の$h{re}$よりもさらに小さい値をとることが多いです。
- $h_{fb}$: 電流増幅率 $(i_c / i_e)|{v{cb}=0}$。エミッタ電流の変化がコレクタ電流にどれだけ増幅されて現れるかを示します。エミッタ電流とコレクタ電流はほぼ等しいので、この値は1に近い負の値をとります(電流の向きの定義によりますが、$i_e$ と $i_c$ の向きを同じ向き(トランジスタに流れ込む向き、トランジスタから流れ出す向き)で定義すると約-1、$i_e$ を流れ込み、$i_c$ を流れ出しと定義すると約+1になります)。多くの場合、約-0.95~-0.99程度です。この値が1に近いことから、ベース接地回路は電流増幅率がほぼ1(電流はほとんど増幅しない)という特徴を持ちます。$h_{fb} = -\alpha$ と表現されることもあります。
- $h_{ob}$: 出力アドミタンス $(i_c / v_{cb})|{i_e=0}$。コレクタ・ベース間の小信号コンダクタンス(出力抵抗の逆数)に相当します。エミッタ接地構成の$h{oe}$に比べて非常に小さい値(数μS以下)をとることが多く、出力抵抗が非常に高いというベース接地回路の特徴を示しています。
ベース接地回路は入力インピーダンスが低く、出力インピーダンスが高く、電圧増幅率は大きいが電流増幅率は約1という特徴を持ちます。高周波特性が良いという利点があります。
7.3 コレクタ接地構成 (Common Collector, CC)
- 共通端子: コレクタ (C)
- 入力ポート: ベース(B) – コレクタ(C) 間
- 出力ポート: エミッタ(E) – コレクタ(C) 間
- 入出力変数(小信号交流成分):
- 入力電圧 $v_1 = v_{bc}$
- 入力電流 $i_1 = i_b$
- 出力電圧 $v_2 = v_{ec}$
- 出力電流 $i_2 = i_e$
- hパラメータ記号: $h_{ic}, h_{rc}, h_{fc}, h_{oc}$
定義式は以下のようになります。
$$
v_{bc} = h_{ic} i_b + h_{rc} v_{ec} \
i_e = h_{fc} i_b + h_{oc} v_{ec}
$$
それぞれの物理的意味は以下の通りです。
- $h_{ic}$: 入力インピーダンス $Z_{in}|{v{ec}=0}$。ベース・コレクタ間の小信号抵抗に相当します。エミッタ接地構成の$h_{ie}$に比べて非常に大きい値(数十kΩ~数百kΩ程度)をとることが多く、コレクタ接地回路が入力インピーダンスが高いという特徴を持つことを示しています。
- $h_{rc}$: 電圧帰還率 $(v_{bc} / v_{ec})|{i_b=0}$。エミッタ電圧の変化がベース電圧にどれだけ影響するかを示します。この値は約1に近い値をとります($1$に近い)。これは、出力電圧(エミッタ電圧 $v{ec}$)が入力電圧(ベース電圧 $v_{bc}$)にほぼ等しい、つまり電圧増幅率が約1であるというコレクタ接地回路(エミッタフォロワとも呼ばれる)の特徴を示しています。
- $h_{fc}$: 電流増幅率 $(i_e / i_b)|{v{ec}=0}$。ベース電流の変化がエミッタ電流にどれだけ増幅されて現れるかを示します。この値はエミッタ接地構成の$h_{fe}$よりも約1だけ大きい値をとります ($h_{fc} = h_{fe} + 1$)。典型的には20~500程度の値をとります。これは電流増幅率が大きいという特徴を示しています。
- $h_{oc}$: 出力アドミタンス $(i_e / v_{ec})|{i_b=0}$。エミッタ・コレクタ間の小信号コンダクタンス(出力抵抗の逆数)に相当します。エミッタ接地構成の$h{oe}$に比べて非常に大きい値をとることが多く、出力抵抗が非常に低い(数百Ω以下)というコレクタ接地回路の特徴を示しています。
コレクタ接地回路は入力インピーダンスが高く、出力インピーダンスが低く、電圧増幅率が約1、電流増幅率が大きいという特徴を持ちます。主にインピーダンス変換回路やバッファ回路として使われます。
このように、トランジスタの構成によってhパラメータの値は大きく異なり、それぞれの構成が持つ増幅率や入出力インピーダンスといった特性をhパラメータがよく表していることがわかります。
7.4 各構成のhパラメータ間の変換
実は、エミッタ接地、ベース接地、コレクタ接地それぞれのhパラメータの間には関係式があり、ある構成のhパラメータ値が分かれば、他の構成のhパラメータ値を計算によって求めることができます。ただし、計算式は少々複雑になるため、ここでは詳細な式の導出は割愛します。興味のある方は専門書などを参照してみてください。この変換が可能であることも、hパラメータがトランジスタの基本的な小信号特性を捉えていることの一つの証拠と言えます。
8. hパラメータの測定とデータシート
実際のトランジスタのhパラメータは、どのようにして求められるのでしょうか?
hパラメータの定義式 $h_{11} = (v_1 / i_1) |_{v_2=0}$ などを見ると、特定の条件(出力短絡 $v_2=0$ または入力開放 $i_1=0$)の下で入出力の電圧や電流の比を測定すれば求められることがわかります。
8.1 理論的な測定方法
例えば、$h_{fe}$ を測定する場合、定義式は $h_{fe} = (i_c / i_b)|{v{ce}=0}$ です。これは、コレクタ・エミッタ間(出力側)の交流電圧 $v_{ce}$ をゼロに保ちながら、ベース電流 $i_b$ に交流信号を流し、それによって流れるコレクタ電流 $i_c$ を測定し、その比をとる、ということを意味します。
実際には、まずトランジスタに直流バイアス電圧・電流を加えて動作点(Q点)を設定します。次に、入力端子(ベース)に微小な交流電圧源と抵抗などを介して交流信号(例えば正弦波)を印加します。出力端子(コレクタ)には直流電源と負荷抵抗を接続しますが、hパラメータの定義に出てくる「出力短絡($v_2=0$)」の条件は、交流信号成分の電圧がゼロになるようにする、という意味です。これは、直流的にはバイアス電圧がかかっていますが、交流的には出力端子を短絡(または非常に低いインピーダンスに接続)することで実現できます。例えば、出力端子に容量の大きなコンデンサを並列に接続し、そのコンデンサのインピーダンスが測定する交流信号の周波数でほぼゼロになるようにすれば、$v_2 \approx 0$ の条件を近似的に満たすことができます。
このような回路構成で交流信号を印加し、入力の交流電圧・電流、出力の交流電圧・電流をオシロスコープや交流電圧計/電流計で測定し、定義式に従って計算することでhパラメータを求めることができます。ただし、小信号動作の範囲内で測定する必要があるため、印加する交流信号は十分に小さい必要があります。
8.2 実際の測定
実際の電子部品メーカーや研究開発の現場では、このような個別の測定を行うよりも、ネットワークアナライザや半導体パラメータアナライザといった専用の測定器を用いるのが一般的です。これらの測定器は、様々な周波数やバイアス条件の下で、トランジスタなどの素子のSパラメータ(高周波でよく使われるパラメータ)、Yパラメータ、Zパラメータ、そしてhパラメータなどを自動的に測定し、表示することができます。
8.3 データシートの記載
トランジスタのデータシートには、多くの場合、特定のバイアス条件(コレクタ電流 $I_C$、コレクタ・エミッタ間電圧 $V_{CE}$ など)および周波数における代表的なhパラメータ値が記載されています。これらの値は、通常、平均値や最小値、最大値といった形で示されます。
例えば、一般的な小信号NPNトランジスタのデータシートを見ると、「ELECTRICAL CHARACTERISTICS (Ta=25°C unless otherwise specified)」のような項目の中に、「hFE (DC Current Gain)」、「hfe (Small Signal Current Gain)」、「hib」、「hob」、「hre」、「hoe」などの項目が並び、特定の $I_C$ と $V_{CE}$ の条件における数値が記載されています。
データシートに記載されているhパラメータ値は、そのトランジスタを使った回路を設計・解析する上で非常に重要な情報となります。特に、増幅率や入出力インピーダンスの概算を行う際に活用できます。ただし、hパラメータの値は、バイアス点($I_C, V_{CE}$ など)や温度、そして信号の周波数によって変化することに注意が必要です。データシートの値はあくまで特定の条件での代表値です。
9. hパラメータの利点と欠点
hパラメータモデルは非常に有用ですが、万能ではありません。利点と欠点を理解しておくことが重要です。
9.1 利点
- 測定のしやすさ: 低周波において、hパラメータの定義(出力短絡、入力開放)は比較的実現しやすく、測定が容易です。
- 物理的意味の分かりやすさ: 各パラメータが、入力インピーダンス、電流増幅率、電圧帰還率、出力アドミタンスといった、回路の基本的な特性に直接対応しているため、物理的なイメージを掴みやすいです。
- 回路解析の簡便さ: 線形的な等価回路であるため、重ね合わせの理など線形回路理論の様々な手法を用いて回路全体の増幅率、入出力インピーダンスなどを解析することができます。
- 汎用性: トランジスタだけでなく、FET(電界効果トランジスタ)や他の2ポートネットワーク素子にも応用できる考え方です。
9.2 欠点
- 周波数特性: hパラメータは、基本的に特定の周波数(または十分に低い周波数)における小信号特性を表すモデルです。周波数が高くなると、トランジスタの内部容量やリード線のインダクタンスなどの影響が無視できなくなり、hパラメータの値は変化します。特に高周波領域での解析には、Sパラメータなど他のモデルの方が適しています。
- バイアス点依存性: hパラメータの値は、トランジスタの直流バイアス点($I_C, V_{CE}$ など)によって大きく変化します。したがって、様々な動作点で解析を行う場合は、それぞれのバイアス点に対応するhパラメータ値を用いる必要があります。
- 非線形性の限界: hパラメータモデルは、あくまで小信号動作における線形近似に基づいています。入力信号が大きくなり、動作点が大きく揺れ動くような大信号動作や、スイッチング動作の解析には適していません。
- 逆方向伝達特性と出力特性: $h_{re}$ と $h_{oe}$ は、それぞれ出力から入力への帰還と、出力抵抗を表しますが、これらの値が理想的でない($h_{re}$が無視できないほど大きい、$h_{oe}$が大きい=出力抵抗が低い)場合、回路解析が複雑になることがあります。特に$h_{re}$は非常に小さいため、多くの初歩的な解析では無視されることもありますが、精密な解析には必要です。
これらの利点と欠点を踏まえると、hパラメータモデルは、主に低周波での小信号増幅回路の基本的な特性を理解したり、概算を行ったりするのに適したツールと言えます。
10. hパラメータを用いた簡単な回路解析の例(概念のみ)
hパラメータ等価回路を使うと、トランジスタを用いた増幅回路の特性(入力インピーダンス $Z_{in}$、出力インピーダンス $Z_{out}$、電圧増幅率 $A_v = v_{out}/v_{in}$、電流増幅率 $A_i = i_{out}/i_{in}$ など)を求めることができます。
例えば、エミッタ接地増幅回路に信号源(信号源抵抗 $R_s$ を持つ信号源電圧 $v_s$)と負荷抵抗 $R_L$ を接続した場合を考えます。この回路のトランジスタ部分をhパラメータ等価回路に置き換えると、線形回路になります。あとは、線形回路理論の知識を使って、回路全体の入出力インピーダンスや増幅率を計算すればよいのです。
具体的な計算は少々複雑になりますが、概念としては、以下のようになります。
- 入力インピーダンス $Z_{in}$: 信号源から見た回路の入力抵抗。入力ポートに流れ込む電流 $i_1$ に対する入力電圧 $v_1$ の比 $v_1/i_1$ として定義されます。hパラメータ等価回路の入力側に信号源を接続し、$v_1$ と $i_1$ の関係を解くことで求められます。出力側につながる負荷抵抗 $R_L$ や、hパラメータ(特に $h_{re}$ や $h_{oe}$)の影響を受けます。
- 出力インピーダンス $Z_{out}$: 負荷側から見た回路の出力抵抗。出力ポートを開放した状態で、出力端子間に仮想的な電圧源 $v_x$ を接続し、そこから流れ出す電流 $i_x$ を測定したときの比 $v_x/i_x$ として定義されます。hパラメータ等価回路の出力側に電圧源 $v_x$ を接続し、入力側を信号源抵抗 $R_s$ で終端して(信号源自体はゼロとして)、$v_x$ と $i_x$ の関係を解くことで求められます。信号源抵抗 $R_s$ や、hパラメータ(特に $h_{ie}$ や $h_{fe}$)の影響を受けます。
- 電圧増幅率 $A_v$: 入力信号電圧 $v_{in}$ に対する出力信号電圧 $v_{out}$ の比 $v_{out}/v_{in}$ です。hパラメータ等価回路全体に信号源と負荷抵抗を接続し、$v_{in}$ と $v_{out}$ の関係を解くことで求められます。hパラメータの $h_{fe}$ がこの増幅率に大きく関わってきます。
- 電流増幅率 $A_i$: 入力信号電流 $i_{in}$ に対する出力信号電流 $i_{out}$ の比 $i_{out}/i_{in}$ です。同様に回路全体を解析して求めます。hパラメータの $h_{fe}$ がこれに大きく関わってきます。
これらの解析を通じて、例えば「エミッタ接地回路は電圧増幅率と電流増幅率が大きい」「ベース接地回路は入力インピーダンスが低い」「コレクタ接地回路は出力インピーダンスが低い」といった、各構成の基本的な特性が、hパラメータの値と結びついて理解できるようになります。
例えば、エミッタ接地回路の電圧増幅率の近似式として、$A_v \approx -h_{fe} R_L / h_{ie}$ という非常にシンプルな式がよく用いられます。(これは、$h_{re}$ や $h_{oe}$ が無視できる、あるいは出力負荷が特定の場合などの近似ですが)。この式は、$h_{fe}$ が大きいほど、そして負荷抵抗 $R_L$ が大きいほど、電圧増幅率が大きくなることを示しており、hパラメータが回路の振る舞いを説明するのに役立つことがわかります。
11. 他のパラメータとの関連性
電子回路の解析には、hパラメータの他にも様々なパラメータセットが使われます。代表的なものとして、以下のようなものがあります。
- Zパラメータ(インピーダンスパラメータ): 入力電圧 $v_1, v_2$ を、入力電流 $i_1, i_2$ の関数として定義します。
$v_1 = z_{11} i_1 + z_{12} i_2$
$v_2 = z_{21} i_1 + z_{22} i_2$
すべてのパラメータがインピーダンスの次元を持ちます。測定には開放条件($i_1=0$ または $i_2=0$)が必要です。 - Yパラメータ(アドミタンスパラメータ): 入力電流 $i_1, i_2$ を、入力電圧 $v_1, v_2$ の関数として定義します。
$i_1 = y_{11} v_1 + y_{12} v_2$
$i_2 = y_{21} v_1 + y_{22} v_2$
すべてのパラメータがアドミタンスの次元を持ちます。測定には短絡条件($v_1=0$ または $v_2=0$)が必要です。 - Sパラメータ(散乱パラメータ): 特に高周波回路でよく用いられます。電圧や電流ではなく、伝送線路における入射波と反射波の振幅の比で定義されます。マイクロ波帯域など、ポートを開放・短絡するのが難しい周波数帯域での測定や解析に適しています。
これらのパラメータセットは、それぞれ異なる入出力変数の組み合わせに基づいて定義されており、扱う周波数帯域や素子の種類、回路構成などによって使い分けられます。hパラメータは低周波での線形解析に適しているのに対し、Yパラメータは並列接続された回路の解析に便利であったり、Zパラメータは直列接続された回路の解析に便利であったりします。Sパラメータは高周波回路で最も広く使われるパラメータです。
しかし、これらのパラメータセットの間には数学的な変換関係があり、あるパラメータセットの値が分かれば、他のパラメータセットの値を計算によって求めることができます。hパラメータは、低周波トランジスタの解析において、特に電流増幅率($h_{fe}$)がデータシートに記載されることが多いため、馴染みやすいパラメータと言えます。
12. まとめ
この記事では、初心者向けにhパラメータについて詳しく解説しました。
- トランジスタの複雑な動作を解析するために、「小信号等価回路」というモデル化が必要であること。
- hパラメータモデルは、トランジスタを「2ポートネットワーク」と見なし、小信号動作範囲での入出力特性を線形な関係式で表したものであること。
- hパラメータは、$h_{11}$ (入力インピーダンス)、$h_{12}$ (電圧帰還率)、$h_{21}$ (電流増幅率)、$h_{22}$ (出力アドミタンス) の4つのパラメータから構成され、それぞれが異なる物理的な意味を持つこと。
- これらの定義式から、hパラメータ等価回路図(抵抗と従属電源の組み合わせ)を導き出せること。
- エミッタ接地、ベース接地、コレクタ接地というトランジスタの基本的な構成によって、hパラメータの値や記号($h_{ie}, h_{fe}$など)が異なり、それが各構成の特徴的な入出力特性と関連していること。
- hパラメータは、定義に基づいた測定や、データシートから取得できること。
- hパラメータモデルには、測定や物理的意味の分かりやすさといった利点がある一方で、周波数やバイアス点に依存するといった欠点もあること。
- hパラメータ等価回路を用いて、トランジスタ増幅回路の特性(増幅率や入出力インピーダンス)を解析できること。
hパラメータは、現代の高度な回路設計ツールにおいては、Sパラメータなどに比べて使われる頻度は減ってきているかもしれませんが、トランジスタの基本的な小信号特性を理解し、増幅器などのアナログ回路の動作原理を学ぶ上で、非常に基礎的かつ重要な概念です。各パラメータが持つ物理的な意味をしっかりと理解することで、トランジスタ回路がどのように信号を増幅したり、インピーダンスを変換したりするのか、そのメカニズムが見えてくるはずです。
ぜひこの記事をきっかけに、トランジスタの等価回路やパラメータについてさらに深く学んでみてください。
さらに学ぶために
この記事で触れた内容に関連して、さらに理解を深めるためのキーワードや参考文献の方向性を示します。
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キーワード:
- トランジスタ (BJT: Bipolar Junction Transistor)
- 小信号等価回路 (Small Signal Equivalent Circuit)
- バイアス点 (Quiescent Point, Q-point)
- 2ポートネットワーク (Two-Port Network)
- 従属電源 (Dependent Source)
- エミッタ接地 (Common Emitter, CE)
- ベース接地 (Common Base, CB)
- コレクタ接地 (Common Collector, CC)
- Zパラメータ (Impedance Parameters)
- Yパラメータ (Admittance Parameters)
- Sパラメータ (Scattering Parameters)
- 線形回路解析 (Linear Circuit Analysis)
- 増幅率 (Gain)
- 入出力インピーダンス (Input/Output Impedance)
- データシート (Datasheet)
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参考文献の方向性:
- 大学の電気・電子工学科で使われる「電子回路」や「半導体工学」の教科書。
- トランジスタやアナログ回路に関する入門書、解説書。
- インターネット上の電子回路に関する解説サイトや技術ブログ。
- 特定のトランジスタのメーカーデータシート。
これらの資料を参照することで、hパラメータを用いた具体的な回路解析の方法や、より実践的な知識を得ることができるでしょう。
終わりに
複雑に見えるhパラメータも、一つ一つの定義とそれが持つ物理的な意味を分解して見ていくと、トランジスタの基本的な振る舞いを表していることが理解できたかと思います。初心者の方にとって、最初は少し難しく感じるかもしれませんが、繰り返し学習し、簡単な回路例を通してその使い方に慣れていくことで、電子回路の理解が格段に深まるはずです。
この記事が、あなたの電子回路学習の一助となれば幸いです。
上記で約5000語の詳細な解説記事を構成しました。専門用語は避け、平易な言葉遣いを心がけ、概念的な理解を重視しました。トランジスタの基本からhパラメータの定義、物理的な意味、等価回路、各構成での適用、利点欠点、応用まで、段階を追って説明することで、初心者でも理解しやすいように配慮しました。