簡単!Arch Linux ダウンロードガイド: 詳細な説明を含む徹底解説
はじめに: Arch Linuxの世界へようこそ!
ミニマルで柔軟、そして「ユーザー中心」という哲学を持つArch Linuxは、Linuxディストリビューションの中でも特に多くのカスタマイズ愛好家や、システムの内部を深く理解したいと考えるユーザーから支持されています。その最大の魅力は、インストール時に必要最低限のベースシステムのみが導入され、その後、ユーザーが自分の用途に合わせて必要なソフトウェアや環境を一つずつ構築していく点にあります。これにより、無駄のない、まさに自分だけの理想的なシステムを作り上げることが可能です。また、一度インストールすれば、常に最新のソフトウェアを利用できる「ローリングリリース」モデルを採用しているため、頻繁なバージョンアップ作業から解放されるという利点もあります。
しかし、その自由度と柔軟性の高さゆえに、他のディストリビューションと比較すると、インストールプロセスや初期設定にはある程度の知識と手間が必要です。特に、GUIによる自動化されたインストーラーではなく、コマンドラインベースでの作業が中心となるため、初めてLinuxに触れる方にとっては少し敷居が高く感じられるかもしれません。
このガイドは、そんなArch Linuxの世界への第一歩を踏み出すための「ダウンロード」に焦点を当てています。単にダウンロード先のリンクを示すだけでなく、なぜその方法なのか、どのような選択肢があるのか、ダウンロードしたファイルをどのように扱うべきか、そして次の一歩のために何が必要か、といった点を網羅的に、約5000語の詳細な説明とともにお届けします。
Arch Linuxのダウンロードは、壮大なカスタマイズジャーニーの始まりにすぎません。このガイドを通して、その最初のステップを確実かつスムーズに進められるよう、丁寧に解説していきます。さあ、Arch Linuxの世界へ飛び込む準備を始めましょう!
1. ダウンロード前の準備: Archの世界へ旅立つために
Arch Linuxのダウンロードと、それに続くインストールメディアの作成は、比較的時間と安定した環境を必要とする作業です。スムーズに進めるために、いくつかの準備を整えておきましょう。
1.1. 必要なもの
- インターネット接続: Arch Linuxのダウンロードはもちろん、インストール中にもインターネット接続が必須となります。安定した高速な回線を用意しましょう。有線接続(Ethernetケーブル)が最も安定しており推奨されますが、無線接続(Wi-Fi)でも可能です。ただし、インストーラー起動後にWi-Fiの設定が必要になります。
- コンピュータ: Arch Linuxをインストールするターゲットとなるコンピュータが必要です。既存のOSを置き換えるか、デュアルブート構成にするかなど、計画を立てておきましょう。
- USBメモリ(推奨)またはDVD-Rディスク: ダウンロードしたArch LinuxのISOイメージファイルを書き込んで、コンピュータを起動するための「インストールメディア」を作成します。
- USBメモリ: 現在最も一般的で推奨される方法です。高速で再利用も容易です。最低でも8GB以上の容量を推奨します。書き込み時にデータが完全に消去されますので、重要なデータが入っていない、またはデータをバックアップ済みのUSBメモリを用意してください。
- DVD-R: 古いPCや特定の状況では有効ですが、書き込み速度が遅く、一度書き込むと再利用が難しいという欠点があります。また、最近のPCは光学ドライブを搭載していないことが多いです。
- 別のコンピュータ(インターネット接続あり): Arch Linuxをインストールするターゲットとなるコンピュータとは別に、ISOファイルをダウンロードし、USBメモリなどに書き込むための作業用コンピュータがあると便利です。Windows、macOS、Linuxのいずれでも構いません。
1.2. システム要件(基本的なもの)
Arch Linuxは非常に柔軟で、比較的古いハードウェアでも動作することが知られています。しかし、快適に使用するためには、以下の点を考慮してください。
- アーキテクチャ: 現在、公式にサポートされているのは x86_64 (64-bit) アーキテクチャのみです。ほとんどのモダンなPCはこのアーキテクチャです。32-bit版や他のアーキテクチャ版は公式には提供されていません(コミュニティによるプロジェクトは存在します)。
- RAM: インストーラーを起動して作業するためには、最低でも512MBのRAMが必要とされていますが、2GB以上を推奨します。特にGUI環境を構築して利用する場合は、より多くのRAMがあった方が快適です。
- ストレージ: ベースシステムのインストールには最低限の容量で済みますが、後から追加するソフトウェアやユーザーデータのために十分な空き容量が必要です。SSD(Solid State Drive)はHDD(Hard Disk Drive)に比べて高速なため、OSのインストール先として強く推奨されます。最低でも10GBの空き容量があればベースシステム+αは可能ですが、20GB~50GB以上を目安にすると安心です。
1.3. 重要な注意点:データのバックアップ!
最も重要な注意点です。インストールメディアを作成する際、そしてArch Linuxをインストールする際には、ディスクの内容が消去されたり、パーティション構成が変更されたりする可能性があります。特に既存のOSが入っているディスクにArch Linuxをインストールする場合、誤った操作は全てのデータを消失させるリスクを伴います。
- ターゲットとなるコンピュータの重要なデータは、必ず事前に外部ストレージ(外付けHDD/SSD、USBメモリ、ネットワークストレージなど)にバックアップしてください。
- インストールメディア作成に使うUSBメモリも、重要なデータが入っていないことを確認してください。
これらの準備と注意点をしっかりと踏まえておくことで、安心して次のステップに進むことができます。
2. Arch Linuxのダウンロード方法: ISOイメージを手に入れよう
Arch Linuxのダウンロードは、公式ウェブサイトから行います。ここで配布されているのは、Arch Linuxのインストーラーを含む「ISOイメージファイル」です。このファイルをUSBメモリなどに書き込むことで、コンピュータをArch Linuxの環境で起動し、インストール作業を行うことができるようになります。
2.1. 公式サイトへのアクセス
まず、ウェブブラウザを開き、Arch Linuxの公式サイトにアクセスします。
公式サイトURL: https://archlinux.org/
公式サイトにアクセスしたら、通常はメニューやトップページに「Download」や「Get Arch」といったリンクがあります。そのリンクをクリックして、ダウンロードページへ移動します。
2.2. ISOイメージの選択
ダウンロードページに移動すると、Arch Linuxの最新のISOイメージファイルが提示されています。
- 最新版のISOイメージ: Arch Linuxはローリングリリースを採用しているため、基本的に常に最新のソフトウェアが利用可能です。しかし、インストーラーイメージ自体は毎月新しいバージョンがリリースされます。ダウンロードページには、その時点で最も新しい日付のISOイメージファイルが表示されています。ファイル名は通常
archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
のような形式になっています(例:archlinux-2023.10.01-x86_64.iso
)。YYYY.MM.DD
はリリースされた年・月・日、x86_64
はサポートされているアーキテクチャを示します。この最新版をダウンロードすればOKです。
過去のISOイメージもアーカイブとして提供されていることがありますが、特別な理由がない限り、最新版をダウンロードするのが推奨されます。なぜなら、最新版のISOイメージには、最新のハードウェアをサポートするための新しいカーネルやドライバが含まれており、インストール時のトラブルを防ぐことができる可能性が高いためです。
ダウンロードページには、ISOイメージファイルだけでなく、後述する検証に必要なファイル(.sig
, .md5
, .sha256
など)も一緒にリンクされています。これらも忘れずにダウンロードしてください。
2.3. ミラーサイトの選択
Arch LinuxのISOイメージファイルはサイズが数GBあります。世界中のユーザーが同時にダウンロードするため、公式サイトのサーバーだけでなく、世界中に配置された「ミラーサイト」からもダウンロードできるようになっています。ミラーサイトは、地理的に近い場所にあるサーバーを選ぶことで、ダウンロード速度が向上したり、メインサーバーへの負荷を軽減したりする役割を果たします。
ダウンロードページには、「ミラーリスト」へのリンクがあります。
ミラーリストページURL: https://archlinux.org/download/mirrors/
ミラーリストページを開くと、国別やプロトコル別(HTTP/HTTPS/FTP)にミラーサイトのリストが表示されます。
- 適切なミラーサイトの選び方:
- 地理的な近さ: 通常、自分のいる国や近隣の国のミラーサイトが最も高速です。日本の場合は、「Japan」の項目を探してください。
- プロトコル:
https://
で始まるサイトは暗号化されておりセキュリティが高いです。http://
も一般的です。ftp://
はあまり推奨されません。可能な限りHTTPSを利用できるミラーを選びましょう。 - 速度と信頼性: リストには各ミラーサイトの最新の同期状況や速度を示すステータスが表示されている場合があります。可能であれば、「Up to date」で「Synced recently」な、高速そうなミラーサイトを選びましょう。いくつかのミラーサイトを試してみて、最も速いところを選び直しても構いません。
日本のミラーサイトとしては、理化学研究所(RIKEN)、京都大学(Kyoto University)、山形大学(Yamagata University)などがよく知られており、高速で信頼性が高いことが多いです。これらのミラーサイトの中から、一つを選んでそのURLを控えておきます。
ダウンロードページに戻り、選択したミラーサイトのURLをクリックして、ダウンロードしたいISOイメージファイル名(例: archlinux-2023.10.01-x86_64.iso
)をクリックすると、ダウンロードが開始されます。
2.4. ISOイメージファイルのダウンロード方法
ミラーサイトを選択したら、実際のダウンロード方法にはいくつか選択肢があります。
-
ブラウザを使った直接ダウンロード:
最も簡単な方法です。ウェブブラウザでミラーサイトのISOファイルへのリンクをクリックするだけです。ブラウザのダウンロード機能を使ってファイルが保存されます。ダウンロードマネージャー機能を持つブラウザや拡張機能を使うと、ダウンロードの中断・再開などがしやすくなります。 -
wget
やcurl
コマンドを使ったダウンロード(Linux/macOSユーザー向け):
CUI(コマンドラインインターフェース)に慣れているユーザーであれば、wget
またはcurl
コマンドを使う方法も一般的です。これらのコマンドは、ダウンロードをスクリプト化したり、中断からの再開を簡単に行ったりするのに便利です。例1:
wget
を使う場合
bash
wget https://ホスト名/path/to/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
例2:curl
を使う場合
bash
curl -O https://ホスト名/path/to/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
-O
オプションは、リモートファイル名と同じ名前でローカルに保存するという意味です。- ダウンロードが中断した場合: 大容量ファイルのダウンロード中にネットワークが切断されたりした場合、
wget
は-c
オプションを使うことで、中断したところからダウンロードを再開できます。
bash
wget -c https://ホスト名/path/to/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
curl
も同様に-C -
オプションで再開できます。
bash
curl -C - -O https://ホスト名/path/to/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
ダウンロードページにリストされているISOイメージファイルだけでなく、その隣にある
.sig
、.md5
、.sha256
などのファイルも同様の方法でダウンロードしておきましょう。これらは後でダウンロードしたISOイメージが破損していないか、改ざんされていないかを確認するために使用します。 - ダウンロードが中断した場合: 大容量ファイルのダウンロード中にネットワークが切断されたりした場合、
2.5. BitTorrentを使ったダウンロード
Arch LinuxのISOイメージは、BitTorrent(P2Pファイル共有プロトコル)を使ってダウンロードすることも可能です。BitTorrentは、ファイルをダウンロードすると同時に、自身もアップロードに参加することで、ダウンロード速度を向上させ、配布元のサーバーへの負荷を軽減する仕組みです。
- メリット:
- 他のユーザーと帯域幅を共有するため、高速なダウンロードが期待できる場合があります。
- 配布元のサーバーに負荷をかけにくい。
- ダウンロード中にデータの破損がないかチェックされる仕組みがある。
-
デメリット:
- 別途BitTorrentクライアントソフトウェアが必要です。
- ポート開放など、ネットワーク設定が必要な場合があります。
- アップロードにも帯域幅を使うため、回線状況によっては他のインターネット利用に影響が出る可能性があります。
-
BitTorrentクライアントの紹介:
Windows、macOS、Linux向けに様々なBitTorrentクライアントがあります。有名なものとしては、Transmission、qBittorrent、Delugeなどがあります。利用しているOSに対応したクライアントを事前にインストールしておきましょう。 -
ダウンロード手順:
- Arch Linuxのダウンロードページから、ダウンロードしたいISOイメージに対応する
.torrent
ファイルをダウンロードします。(ISOファイル自体ではなく、拡張子が.torrent
のファイルです。) - インストール済みのBitTorrentクライアントを起動し、ダウンロードした
.torrent
ファイルを開きます。 - クライアントがダウンロードを開始します。ダウンロードが完了するまで待ちます。
- Arch Linuxのダウンロードページから、ダウンロードしたいISOイメージに対応する
BitTorrentでダウンロードした場合も、念のため後述するチェックサムやGPG署名の検証を行うことを推奨します。
3. ダウンロードしたISOイメージの検証: 安全性と信頼性を確認しよう
ISOイメージファイルのダウンロードが完了したら、すぐにインストールメディアを作成するのではなく、必ずファイルが破損していないか、あるいは悪意のある第三者によって改ざんされていないかを検証する必要があります。これは、安全なArch Linuxのインストールを行う上で非常に重要なステップです。
検証方法は主に二つあります。
- チェックサム(ハッシュ値)の確認: ファイルの内容から計算される固有の値(ハッシュ値)が、配布元が公開している値と一致するかを確認する方法です。ファイルのわずかな変更でもハッシュ値は大きく変わるため、破損や改ざんを検知できます。
- GPG署名の検証: ファイルにデジタル署名が付与されている場合、その署名がArch Linuxの信頼できる担当者によって行われたものかを確認する方法です。これにより、ファイルが本当にArch Linuxプロジェクトから配布された純正なものであることを保証できます。
Arch Linuxプロジェクトは、これらの検証に必要なファイル(.sha256
と .sig
)をISOイメージファイルと一緒に提供しています。
3.1. チェックサム(Checksum)とは?
チェックサムとは、ファイルのバイト列から特定のアルゴリズム(ハッシュ関数)を用いて計算される、固定長の短い文字列のことです。例えば、SHA256というアルゴリズムを使うと、どんなに大きなファイルでも常に256ビット(64桁の16進数)のハッシュ値が生成されます。
- ハッシュ関数の性質:
- 一意性: 同じファイルからは常に同じハッシュ値が生成されます。
- 不可逆性: ハッシュ値から元のファイルを復元することは非常に困難です(事実上不可能)。
- 非衝突性: 異なるファイルから同じハッシュ値が生成されることは、意図的に作られた場合を除いて非常に稀です。
Arch Linuxでは、主にSHA256という強力なハッシュ関数で計算されたチェックサムを公開しています。ダウンロードページにある拡張子 .sha256
のファイルには、ISOイメージファイルのファイル名と、それに対応するSHA256チェックサムが記述されています。
3.2. チェックサムの確認方法
ダウンロードしたISOイメージファイルと、対応する .sha256
ファイルが同じディレクトリにあることを確認してください。
-
Linux/macOSの場合:
ターミナルを開き、ISOファイルと.sha256
ファイルがあるディレクトリに移動します。
sha256sum
コマンドを使います。.sha256
ファイルを引数として渡すと、そのファイル内に書かれているチェックサムと、対象ファイルのチェックサムを計算して比較してくれます。bash
sha256sum -c archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso.sha256
(YYYY.MM.DD
はダウンロードしたISOイメージの日付に合わせてください)成功した場合の出力例:
archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso: OK
「OK」と表示されれば、チェックサムは一致しており、ファイルは破損または改ざんされていない可能性が高いです。失敗した場合の出力例:
archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso: FAILED
sha256sum: WARNING: 1 computed checksum did NOT match
「FAILED」と表示された場合は、ダウンロードしたファイルが破損しているか、改ざんされています。このISOイメージを使ってインストールメディアを作成したり、インストールを進めたりしてはいけません。再度ダウンロードを試みるか、別のミラーサイトからダウンロードしてください。 -
Windowsの場合:
Windowsには標準でハッシュ値を計算するコマンドが搭載されています。コマンドプロンプトまたはPowerShellを開きます。-
PowerShell (推奨):
PowerShellを開き、ISOファイルがあるディレクトリに移動します。
Get-FileHash
コマンドを使います。powershell
Get-FileHash -Path .\archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso -Algorithm SHA256 | Format-List
(YYYY.MM.DD
はダウンロードしたISOイメージの日付に合わせてください)このコマンドを実行すると、計算されたSHA256ハッシュ値が表示されます。
Algorithm : SHA256
Hash : [計算されたハッシュ値の長い文字列]
Path : [ISOファイルへのパス]次に、ダウンロードした
.sha256
ファイルをテキストエディタで開き、その中に書かれている公式のハッシュ値を確認します。[公式のハッシュ値の長い文字列] archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
PowerShellで表示された「Hash」の値と、
.sha256
ファイルに書かれている公式のハッシュ値が完全に一致するか目視で確認します。一致していればOKです。一致しない場合は、再度ダウンロードが必要です。 -
コマンドプロンプト:
certutil
コマンドを使います。
cmd
certutil -hashfile path\to\your\archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso SHA256
(path\to\your\
はISOファイルへのパスに置き換えてください)計算されたハッシュ値が表示されるので、PowerShellの場合と同様に、
.sha256
ファイル内の公式の値と比較します。 -
GUIツール: Windowsには、ISOファイルのハッシュ値を簡単に計算できるGUIツールも多数存在します。「ファイル チェックサム 計算 Windows」などのキーワードで検索すると見つかります。
-
3.3. GPG署名の検証
チェックサムの確認はファイルの破損や偶発的な改ざんを防ぐのに有効ですが、悪意のある第三者がISOイメージファイルと同時にチェックサムファイル自体も改ざんした場合(非常に高度な攻撃ですが)、チェックサムだけでは検知できません。そこで、より強力な検証方法として「GPG署名の検証」があります。
Arch Linuxプロジェクトは、配布するISOイメージファイルに対してGPG(GNU Privacy Guard)というツールを使って電子署名を行っています。この署名が、Arch Linuxの開発者が使用する秘密鍵によって行われたものであることを確認することで、ファイルが公式かつ改ざんされていないことを保証できます。
GPG署名を検証するためには、以下のステップが必要です。
-
GPGツールのインストール: GPGツール(コマンドラインプログラム
gpg
)がシステムにインストールされている必要があります。- ほとんどのLinuxディストリビューションには標準でインストールされています。
- macOSではHomebrewなどを使ってインストールできます (
brew install gnupg
)。 - Windowsでは、GnuPG for Windowsなどの公式配布版や、Chocolateyなどを使ってインストールできます (
choco install gnupg
)。
-
Arch Linuxマスターキーのインポート: Arch Linuxプロジェクトが署名に使用する公開鍵を、自分のGPGキーリングにインポートする必要があります。この鍵が本物であることを確認するために、通常は信頼できる鍵サーバーから取得します。
ターミナルまたはコマンドプロンプトを開き、以下のコマンドを実行します。
bash
gpg --keyserver hkps://keyserver.ubuntu.com --recv-key 4A8B08BE
または
bash
gpg --keyserver hkp://keyserver.ubuntu.com --recv-key 4A8B08BE
(キーサーバーはkeyserver.ubuntu.com
以外にも複数存在します)このコマンドは、指定したキーサーバーから、IDが
4A8B08BE
であるArch Linuxマスターキーの公開鍵を取得し、ローカルのGPGキーリングにインポートします。このマスターキーは、Arch LinuxのパッケージやISOイメージの署名に使われる鍵を検証するための、信頼の起点となる鍵です。インポートが成功したか確認するには、以下のコマンドを実行します。
bash
gpg --list-keys --fingerprint 4A8B08BE
以下のような出力が表示されれば成功です。(実際の鍵情報は変更される可能性があります)
pub rsa4096 2011-08-12 [SC]
[フィンガープリントの長い文字列]
**Primary key fingerprint:** [指紋となる文字列、例: 4A8B 08BE 98D6 EFEA 363D 2EE1 98E1 7994 4A8B 08BE]
uid [ultimate] Arch Linux Archive Automatic Signing Key <[email protected]>
sub rsa4096 2011-08-12 [E]
表示されたフィンガープリント(指紋)が、Arch Linux公式サイトや信頼できる情報源で公開されているマスターキーの指紋と一致するか確認しましょう。これにより、取得した公開鍵自体が偽物でないことを確かめます。 -
署名ファイルのダウンロード: ISOイメージファイルと一緒にダウンロードした拡張子
.sig
のファイル(例:archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso.sig
)が必要です。これはISOイメージファイルに対する電子署名が含まれたファイルです。 -
GPG署名の検証: ターミナルまたはコマンドプロンプトを開き、ISOファイルと
.sig
ファイルがあるディレクトリに移動します。以下のコマンドを実行します。bash
gpg --verify archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso.sig archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
(ファイル名はダウンロードしたものに合わせてください)検証が成功した場合の出力例:
gpg: Signature made [日付] using RSA key ID 4A8B08BE
gpg: Good signature from "Arch Linux Archive Automatic Signing Key <[email protected]>" [ultimate]
「Good signature from …」と表示されれば、署名が有効であり、ファイルがArch Linuxプロジェクトの信頼できる鍵によって署名されていることが確認できます。検証が失敗した場合の出力例:
gpg: Signature made [日付] using RSA key ID 4A8B08BE
gpg: BAD signature from "Arch Linux Archive Automatic Signing Key <[email protected]>" [ultimate]
または
gpg: Can't check signature: No public key
「BAD signature from …」と表示された場合は、ファイルが改ざんされているか、ダウンロード中に破損しています。
「No public key」と表示された場合は、手順2でマスターキーのインポートがうまくいっていない可能性があります。
いずれの場合も、このISOイメージを使ってインストールを進めてはいけません。再度ダウンロードと検証を行ってください。
チェックサムとGPG署名の両方で検証に成功したら、ダウンロードしたISOイメージファイルは安全であると判断できます。次のステップであるインストールメディアの作成に進みましょう。
4. ダウンロードしたISOイメージをインストールメディアにする
検証済みのISOイメージファイルは、そのままではコンピュータのOSとして起動できません。このファイルをUSBメモリやDVDに書き込んで、コンピュータが読み込める起動可能なメディア(インストールメディア)にする必要があります。ここでは、最も一般的な方法であるUSBメモリへの書き込みを中心に解説します。
4.1. インストールメディアの種類
- USBメモリ(推奨): 現在最も一般的で推奨される方法です。
- 利便性が高い(書き換え可能、高速)。
- ほとんどのモダンなPCがUSBブートをサポートしています。
- 書き込み時にUSBメモリの内容は完全に消去されるので注意が必要です。
- DVD: USBブートをサポートしない古いPCや、特定の環境でのみ有効です。
- 一度書き込むと基本的に再利用できません。
- 容量や速度の面でUSBメモリに劣ります。
4.2. USBインストールメディアの作成方法
USBメモリにISOイメージを書き込むことで、そのUSBメモリをコンピュータの起動ディスクとして機能させることができます。この作業は、使用しているオペレーティングシステム(Linux, Windows, macOS)によって手順が異なります。
⚠️ 重要: USBメモリを間違えないこと!
ISOイメージを書き込む際に最も注意が必要なのは、「書き込み先のデバイスを間違えない」ことです。誤って内蔵HDD/SSDや別のUSBメモリなどを指定してしまうと、そのデバイスのデータが完全に消去されてしまいます。作業を始める前に、使用するUSBメモリがシステム上でどのように認識されているか(デバイス名など)を必ず確認してください。
4.2.1. Linuxの場合 (dd
コマンドまたはGUIツール)
Linux環境では、dd
コマンドを使うのが最も一般的で強力な方法ですが、非常に危険でもあるため慎重な操作が必要です。安全なGUIツールを使う方法もあります。
-
dd
コマンドを使う方法:
dd
コマンドは、ファイルをブロック単位でコピーする低レベルなコマンドです。ISOイメージをUSBデバイスに直接書き込むのに使われます。-
USBデバイス名の確認: 書き込みたいUSBメモリがシステム上でどのようなデバイス名(例:
/dev/sdb
,/dev/sdc
,/dev/mmcblk0
など)として認識されているかを確認します。絶対に間違えてはいけません。- USBメモリをPCに挿入する前に
lsblk
またはfdisk -l
コマンドを実行し、挿入後に再度実行して、増えたデバイス名を探します。 - 増えたデバイスが、目的のUSBメモリのサイズやパーティション構成と一致するか確認します。
- パーティション番号(例:
/dev/sdb1
の1
)は付けず、デバイス全体(例:/dev/sdb
)を指定してください。 - 間違えを防ぐために、USBメモリ以外のストレージデバイスをPCから物理的に取り外しておくとより安全です(可能であれば)。
“`bash
USB挿入前
lsblk
USB挿入後
lsblk
または
bashUSB挿入前
sudo fdisk -l
USB挿入後
sudo fdisk -l
“` - USBメモリをPCに挿入する前に
-
USBメモリのマウント解除: もしUSBメモリがファイルシステムとして自動的にマウントされている場合は、書き込みを行う前にアンマウントする必要があります。
“`bash
sudo umount /dev/sdXn # sdXnはUSBメモリのパーティション名(例: /dev/sdb1, /dev/sdc2など)USBメモリに複数のパーティションがある場合は全てアンマウントします。
``
/dev/sdX` を指定する必要はありません。パーティションをアンマウントします。
デバイス全体 -
ISOイメージの書き込み:
dd
コマンドを使ってISOイメージをUSBデバイスに書き込みます。以下のコマンドの/dev/sdX
は、確認した正しいUSBデバイス名に置き換えてください。bash
sudo dd bs=4M if=/path/to/your/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso of=/dev/sdX status=progress oflag=sync
*sudo
: root権限で実行します。
*bs=4M
: ブロックサイズを4MBに指定します。書き込み速度が向上することがあります。
*if=/path/to/your/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
: 入力ファイル(ダウンロードしたISOイメージファイル)のパスを指定します。
*of=/dev/sdX
: 出力先(書き込みたいUSBデバイス)を指定します。ここを間違えないよう細心の注意を払ってください。
*status=progress
: 進行状況を表示します(対応しているddのバージョンのみ)。
*oflag=sync
: 書き込みが完了したらディスクキャッシュをフラッシュし、データが完全にUSBメモリに書き込まれたことを保証します。 -
書き込み完了を待つ: 書き込みには数分から数十分かかります。
status=progress
を指定している場合は進行状況が表示されます。完了すると、書き込みバイト数や時間などが表示されてコマンドプロンプトに戻ります。 -
キャッシュのフラッシュ: 念のため、書き込み完了後にはディスクキャッシュをフラッシュする
sync
コマンドを実行するのが安全です。bash
sync
これでUSBインストールメディアが作成されました。USBメモリを安全に取り外してから、ターゲットのPCで起動テストを行うことができます。
-
-
GUIツールを使う方法(Etcherなど):
dd
コマンドは強力ですが、コマンドラインに慣れていない場合や、誤操作のリスクを避けたい場合は、GUIツールを使うのが便利です。Balena Etcher (https://etcher.balena.io/
) は、Windows、macOS、Linuxに対応した、シンプルで安全なISO/イメージファイル書き込みツールとして人気があります。- Etcherをダウンロードしてインストールします。
- Etcherを起動します。
- 「Flash from file」ボタンをクリックし、ダウンロードしたArch LinuxのISOイメージファイルを選択します。
- 「Select target」ボタンをクリックし、ISOイメージを書き込みたいUSBメモリを選択します。Etcherは内蔵ディスクなどを誤って選択しないような安全機構を備えていますが、表示されているデバイスが目的のUSBメモリであることを再度確認してください。
- 「Flash!」ボタンをクリックして書き込みを開始します。
- 管理者権限が必要な場合はパスワードを求められます。入力して続行します。
- 書き込みと検証が完了するまで待ちます。完了すると、メディアが準備できたというメッセージが表示されます。
Etcherは書き込み後に自動的に検証を行ってくれるため、より確実に起動可能なメディアを作成できます。
4.2.2. Windowsの場合 (Rufus または Etcher)
Windows環境では、専用のGUIツールを使うのが最も簡単で安全です。Rufus (https://rufus.ie/
) はWindowsで起動可能なUSBメディアを作成する定番ツールです。Balena EtcherもWindows版があります。
-
Rufusを使う方法 (推奨):
Rufusは非常に高機能で、起動可能なUSBメディア作成に特化しています。インストール不要のポータブル版もあります。- Rufusの公式サイトから最新版をダウンロードします。
- Rufusを起動します。管理者権限が必要な場合は許可します。
- 上部にある「デバイス」ドロップダウンリストから、ISOイメージを書き込みたいUSBメモリを選択します。正しいUSBメモリが選択されているか、容量などで確認してください。
- 「ブートの選択」の右にある「選択」ボタンをクリックし、ダウンロードしたArch LinuxのISOイメージファイル(
.iso
ファイル)を選択します。 - ISOファイルを選択すると、Rufusが設定を自動的に調整することがあります。「イメージオプション」は通常「ISOイメージモード (推奨)」で問題ありません。(「DDイメージモード」を選択する必要がある場合もありますが、通常はArch LinuxのISOイメージはISOモードで起動可能なように作られています)。
- 「パーティション構成」と「ターゲットシステム」は、ターゲットとなるPCのBIOS/UEFIモードに合わせて選択します。
- 最近のほとんどのPCはUEFIモードで起動します。その場合は「GPT」と「UEFI (非CSM)」を選択します。
- 古いPCや、レガシーBIOSモードで起動したい場合は「MBR」と「BIOS (またはUEFI-CSM)」を選択します。
- よく分からなければ、RufusがISOファイルを選択したときに自動で推奨する設定(通常はGPT/UEFI)のままにしておくのが無難です。
- その他のオプション(ボリュームラベル、ファイルシステム、クラスターサイズなど)はデフォルト設定のままで構いません。
- 「スタート」ボタンをクリックします。
- ⚠️ 警告ダイアログが表示されます。「WARNING: ALL DATA ON DEVICE ‘…’ WILL BE DESTROYED.」と表示され、選択したUSBメモリ上の全てのデータが消去されることが警告されます。内容を確認し、本当に消去しても問題ないUSBメモリであることを再度確認したら、「OK」をクリックします。
- 書き込みが開始されます。進行状況バーが表示されるので、完了するまで待ちます。
- 完了すると「状態」が「準備完了」に変わります。「閉じる」ボタンをクリックしてRufusを終了します。
これでUSBインストールメディアが作成されました。
-
Etcherを使う方法: Windows版EtcherもRufusと同様に利用できます。EtcherはRufusよりも設定項目が少なく、よりシンプルな操作感です。Linuxの場合と同様の手順で作成できます。
- Etcherの公式サイトからWindows版をダウンロードしてインストールします。
- Etcherを起動します。
- 「Flash from file」からISOイメージを選択。
- 「Select target」からUSBメモリを選択(間違えないように注意!)。
- 「Flash!」をクリック。
- 完了を待つ。
4.2.3. macOSの場合 (dd
コマンドまたはGUIツール)
macOS環境でも、Linuxと同様に dd
コマンドまたはGUIツール(Etcherなど)を使ってUSBメディアを作成できます。
-
dd
コマンドを使う方法:
macOSでのdd
コマンドの使い方はLinuxと似ていますが、デバイス名の指定方法が異なります。-
USBデバイス名の確認: USBメモリを挿入する前に
diskutil list
コマンドを実行し、挿入後に再度実行して、増えたデバイス(例:/dev/disk2
,/dev/disk3
など)を探します。Linuxの/dev/sdX
に相当しますが、macOSでは/dev/diskX
という形式になります。
また、raw device(キャッシュをバイパスして直接書き込むデバイス)として/dev/rdiskX
という形式も使えます。こちらの方が通常高速です。必ずdiskX
ではなくrdiskX
を指定してください。
増えたデバイスが目的のUSBメモリであることを、サイズなどで確認してください。パーティションではなく、デバイス全体(例:/dev/rdiskX
)を指定します。“`bash
USB挿入前
diskutil list
USB挿入後
diskutil list
出力例:
/dev/disk0 (internal, physical): …
/dev/disk1 (internal, physical): …
/dev/disk2 (external, physical): # <- これがUSBメモリだと仮定
#: TYPE NAME SIZE IDENTIFIER
0: GUID_partition_scheme *15.5 GB disk2
1: EFI EFI 209.7 MB disk2s1
2: Microsoft Basic Data 15.2 GB disk2s2
``
/dev/disk2
この例の場合、USBメモリはとして認識されています。
ddコマンドでは
/dev/rdisk2` を指定します。 -
USBメモリのマウント解除: USBメモリがマウントされている場合はアンマウントします。ここではデバイス全体 (
/dev/diskX
) をアンマウントします。パーティション (/dev/diskXsY
) ではありません。bash
diskutil unmountDisk /dev/diskX # diskXは確認したUSBデバイス名(rdiskXではない) -
ISOイメージの書き込み:
dd
コマンドを使ってISOイメージをUSBデバイスに書き込みます。以下のコマンドの/dev/rdiskX
は、確認した正しいraw device名に置き換えてください。bash
sudo dd bs=4m if=/path/to/your/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso of=/dev/rdiskX status=progress
*sudo
: root権限で実行します。
*bs=4m
: ブロックサイズを4MBに指定します。macOSでは小文字のm
を使うようです。
*if=/path/to/your/archlinux-YYYY.MM.DD-x86_64.iso
: 入力ファイル(ダウンロードしたISOイメージファイル)のパスを指定します。
*of=/dev/rdiskX
: 出力先(書き込みたいUSBデバイスのraw device)を指定します。ここを間違えないよう細心の注意を払ってください。
*status=progress
: 進行状況を表示します(対応しているddのバージョンのみ)。 -
書き込み完了を待つ: 書き込みには数分から数十分かかります。進行状況が表示されるので、完了するまで待ちます。完了すると、書き込みバイト数や時間などが表示されてコマンドプロンプトに戻ります。
これでUSBインストールメディアが作成されました。USBメモリを安全に取り外してから、ターゲットのPCで起動テストを行うことができます。
-
-
GUIツールを使う方法 (Etcherなど):
macOS版Etcherも利用できます。WindowsやLinuxの場合と同様の手順で作成できます。EtcherはmacOSのデバイス名を正しく扱ってくれるため、ddコマンドよりも安全に作業できます。- Etcherの公式サイトからmacOS版をダウンロードしてインストールします。
- Etcherを起動します。
- 「Flash from file」からISOイメージを選択。
- 「Select target」からUSBメモリを選択(間違えないように注意!)。
- 「Flash!」をクリック。
- 管理者パスワードを入力。
- 完了を待つ。
これで、Arch Linuxをインストールするための起動可能なUSBメディアが完成しました。
4.3. DVDインストールメディアの作成方法
DVDにISOイメージを書き込む場合は、ISOファイルをデータとしてコピーするのではなく、「イメージファイルとしてディスクに書き込む」必要があります。ほとんどのOS標準のライティングソフトや、市販・フリーのライティングソフトで可能です。
- Windows: Windows 7以降では、ISOファイルを右クリックして「ディスク イメージの書き込み」を選択するだけで簡単に書き込めます。または、ImgBurnやCDBurnerXPなどのフリーソフトを使用します。
- macOS: ディスクユーティリティで「ファイル」>「ディスクイメージを開く」でISOファイルを選択し、「ファイル」>「[ISOファイル名]をディスクを作成」で書き込みます。
- Linux: brasero, k3b などのGUIライティングソフトや、
wodim
コマンドなどを使用します。
どのOSでも、ライティングソフトで「ISOイメージを書き込む」または「イメージをディスクに書き込む」といった機能を選択し、ダウンロードしたISOファイルを指定して書き込みを開始します。
5. インストールメディアからの起動(簡単な説明)
作成したインストールメディア(USBメモリまたはDVD)を使って、Arch Linuxをインストールしたいコンピュータを起動します。
- インストールメディアを挿入: 作成したUSBメモリまたはDVDを、ターゲットとなるコンピュータに挿入します。
- コンピュータの起動/再起動: コンピュータの電源を入れ直します。
- BIOS/UEFI設定画面へのアクセス: コンピュータの起動直後に、特定のキー(Delキー、F2キー、F10キー、F12キー、Escキーなど。メーカーや機種によって異なります)を連打することで、BIOSまたはUEFIの設定画面に入ることができます。画面に表示される指示を確認してください。
- 起動順序の変更: BIOS/UEFI設定画面で、「Boot Order」(起動順序)や「Boot Priority」といった項目を探します。ここで、作成したUSBメモリまたはDVDドライブが、コンピュータの内蔵ストレージ(HDDやSSD)よりも先に起動するように順序を変更します。
- UEFIモードの場合は、「UEFI: [USBメモリやDVDドライブの名称]」のような項目を選択します。
- レガシーBIOSモードの場合は、「USB-HDD」や「CD-ROM Drive」のような項目を選択します。
- Secure Bootが有効になっていると、Arch Linuxの起動に失敗する場合があります。UEFIモードの場合は、Secure Bootを無効にする必要があるかもしれません。
- 設定の保存と終了: 変更した設定を保存して(通常F10キー)BIOS/UEFI設定画面を終了します。コンピュータが再起動します。
- Arch Linuxインストーラーの起動: 起動順序が正しく設定されていれば、コンピュータは内蔵ストレージではなく、作成したインストールメディアから起動を試みます。Arch Linuxのブートメニューが表示されれば成功です。通常は一番上の項目「Boot Arch Linux (x86_64)」を選択してEnterキーを押します。
正常に起動できれば、Arch Linuxのライブ環境(インストール作業を行うための最小限のOS環境)がコマンドラインインターフェースで起動します。
もし起動できない場合は、USBメモリの作成方法が間違っているか、BIOS/UEFI設定が正しくない(UEFI/Legacy BIOSモード、Secure Bootなど)可能性があります。トラブルシューティングの章を参考にしてみてください。
6. よくある問題とトラブルシューティング
Arch Linuxのダウンロードやインストールメディア作成の過程で、いくつかの問題に遭遇する可能性があります。ここでは、よくある問題とその対処法をいくつか紹介します。
-
問題: ダウンロード速度が非常に遅い。
- 原因: 選択したミラーサイトが混雑している、地理的に遠い、またはサーバー側の問題。
- 対処法: Arch Linuxのミラーリストページを確認し、別のミラーサイトを試してみてください。特に地理的に近い、ステータスが良いミラーサイトを選ぶのが有効です。BitTorrentでのダウンロードも試す価値があります。
-
問題: チェックサム検証 (
sha256sum -c
) が失敗する。- 原因: ダウンロード中にファイルが破損した、またはダウンロードしたファイルが公式のものではない。
- 対処法: 絶対にそのISOイメージを使ってはいけません。再度、信頼できるミラーサイトからISOイメージファイルと
.sha256
ファイルの両方をダウンロードし直してください。ダウンロードマネージャーを使って中断からの再開を試みるのも有効です。
-
問題: GPG署名検証 (
gpg --verify
) が失敗する(”BAD signature” または “Can’t check signature: No public key”)。- 原因: ISOイメージファイルまたは
.sig
ファイルが改ざんされた、破損した、またはArch Linuxマスターキーを正しくインポートできていない。 - 対処法: 絶対にそのISOイメージを使ってはいけません。
- 「BAD signature」の場合は、ファイルが改ざんされたか破損しています。ISOイメージと
.sig
ファイルの両方をダウンロードし直してください。 - 「Can’t check signature: No public key」の場合は、Arch Linuxマスターキーを正しくインポートできていません。セクション3.3の手順2を再度確認し、マスターキーをインポートしてください。キーサーバーが応答しない場合は、別のキーサーバーを試すか、Arch Linux公式サイトに掲載されている別の鍵取得方法(特定のURLからのダウンロードなど)を確認してください。
- 「BAD signature」の場合は、ファイルが改ざんされたか破損しています。ISOイメージと
- 原因: ISOイメージファイルまたは
-
問題: USBメディア作成ツール(
dd
, Rufus, Etcherなど)でエラーが発生する、または書き込みが完了しない。- 原因: USBメモリ自体が故障している、容量が不足している、書き込み権限がない、他のプロセスがUSBメモリを使用している。
- 対処法:
- 別のUSBメモリを試してみてください。
- USBメモリの容量がISOイメージファイルより大きいか確認してください。
- 管理者権限でツールを実行しているか確認してください(
sudo
や管理者として実行)。 - USBメモリがマウントされている場合は、アンマウントしてから書き込みを試みてください。
- Windowsの場合、他のディスクツール(例: DiskPartコマンド)でUSBメモリのパーティションを完全に削除してからRufusなどで書き込みを試すと改善する場合があります。
-
問題: 作成したUSB/DVDメディアからPCが起動しない。
- 原因:
- USB/DVDメディアが正しく作成されていない。
- BIOS/UEFI設定で起動順序が正しく設定されていない。
- UEFIモードとLegacy BIOSモードの設定が合っていない。
- Secure Bootが有効になっている(UEFIの場合)。
- 対処法:
- もう一度メディア作成の手順を見直し、別のツールや別のUSBメモリでメディアを作成してみてください。
- PCの起動時に表示される画面を確認し、BIOS/UEFI設定に入るキーを押してください。
- BIOS/UEFI設定で、起動順序をメディアから起動するように変更してください。
- PCがUEFIとLegacy BIOSの両方をサポートしている場合、どちらのモードでメディアを作成したか(Rufusの場合など)に合わせて、BIOS/UEFI設定の「Boot Mode」を切り替えてみてください。通常、UEFIモードで起動するのが推奨されます。
- UEFIモードの場合、Secure Bootが有効になっていると、Arch Linuxなどの署名されていないOSが起動できないことがあります。Secure Bootを無効にしてみてください。(セキュリティ上のリスクを理解した上で実施してください)
- 原因:
-
問題: インストールメディアから起動したが、ディスク容量が認識されない/足りないと言われる。
- 原因: ターゲットとなるPCのストレージ(HDD/SSD)に問題がある、または既存のパーティション構成が複雑すぎる。
- 対処法: Arch Linuxのインストールガイドに進んだ後の手順ですが、
fdisk
やparted
、lsblk
などのコマンドを使って、Arch Linuxのライブ環境からストレージが正しく認識されているか確認します。既存のパーティションを削除したり、新しくパーティションを作成したりする必要があるかもしれません。この作業はデータを完全に消去する可能性が高いため、慎重に行ってください。
これらのトラブルシューティングを参考に、問題が解決しない場合は、Arch Linux Wikiやコミュニティフォーラムで質問してみるのも良い方法です。
7. 次のステップ: インストールへ
インストールメディアの作成が完了し、ターゲットとなるコンピュータを無事メディアから起動させることができたら、いよいよArch Linuxのインストール作業に進むことができます。
Arch Linuxのインストールプロセスは、他の多くのディストリビューションのようにグラフィカルなインストーラーで自動的に進むわけではありません。コマンドラインインターフェースを使って、ディスクのパーティション設定、ファイルシステムのフォーマット、ベースシステムのインストール、ブートローダーの設定、各種設定ファイルの編集など、多くのステップを手動で行う必要があります。
このガイドではダウンロードとメディア作成までを扱いましたが、次のステップのための重要なリソースを紹介します。
- Arch Linux Wiki – インストールガイド (Installation guide):
Arch Linuxの公式ドキュメントであり、最も重要で信頼できる情報源です。常に最新の状態に保たれており、詳細かつ正確なインストール手順が記述されています。- 日本語版インストールガイド:
https://wiki.archlinux.jp/index.php/Installation_guide
(または、英語版のhttps://wiki.archlinux.org/title/Installation_guide
も参照できます。情報がより早い場合があります。)
メディアから起動したArch Linuxのライブ環境では、インターネットに接続した後、lynx
コマンドなどのテキストベースのウェブブラウザを使ってこのWikiを参照しながら作業を進めることができます。
- 日本語版インストールガイド:
インストールガイドは非常に詳細ですが、初めて読むと難しく感じるかもしれません。落ち着いて、書かれているコマンドの意味や手順を一つずつ理解しながら進めることが成功の鍵です。もし途中で詰まった場合は、Arch Linuxのコミュニティに助けを求めることもできます。
- Arch Linux フォーラム:
公式のフォーラム (https://bbs.archlinux.org/
) は、世界中のArch Linuxユーザーが集まる活発なコミュニティです。疑問点や問題点を質問したり、他のユーザーの経験を参考にしたりできます。日本語のArch Linuxコミュニティも存在します。
Arch Linuxのインストールは、Linuxシステムがどのように構成されているかを学ぶ絶好の機会でもあります。時間はかかるかもしれませんが、その過程で得られる知識と経験は、今後のLinux利用において非常に役立つはずです。
8. まとめ
このガイドでは、Arch Linuxを始めるための最初のステップとして、ISOイメージファイルのダウンロードから、その検証、そしてインストールメディアの作成までを、約5000語の詳細な説明とともに行いました。
- Arch Linuxのダウンロードは、公式サイトから最新のISOイメージファイルを取得することから始まります。
- ダウンロード速度や信頼性を考慮して、地理的に近いミラーサイトを選択することが推奨されます。BitTorrentも有効な手段です。
- ダウンロードしたISOイメージファイルは、チェックサムとGPG署名を使って、ファイルが破損していないか、改ざんされていないかを必ず検証する必要があります。これはセキュリティ上非常に重要です。
- 検証済みISOイメージファイルは、
dd
コマンド(Linux/macOS)やRufus/Etcher(Windows/macOS/Linux)といったツールを使って、USBメモリやDVDに「起動可能なイメージ」として書き込みます。この際、書き込み先のデバイスを間違えないよう細心の注意が必要です。 - 作成したインストールメディアを使ってコンピュータを起動するには、BIOS/UEFI設定で起動順序を変更する必要があります。
これらのステップを無事完了すれば、Arch Linuxのインストール作業に進む準備は万端です。ダウンロードとメディア作成は、Arch Linuxというユニークなディストリビューションを使い始めるための最初の、そして非常に重要な関門です。このガイドが、あなたがその関門をスムーズに突破し、Arch Linuxの世界へと旅立つための一助となれば幸いです。
Arch Linuxの哲学である「ユーザー中心」とは、まさにこの、自分でシステムを構築し、深く理解していく過程に表れています。この先には、学習とカスタマイズの奥深い世界が待っています。
Arch Linuxの世界へようこそ!
9. 免責事項
このガイドは、Arch Linuxのダウンロードおよびインストールメディア作成に関する一般的な手順を提供するものです。記事の内容は可能な限り正確であるよう努めていますが、全ての環境や状況での動作を保証するものではありません。
Arch Linuxのインストール作業は、特にディスクのパーティション操作など、誤った手順を踏むとコンピュータ上の全てのデータを消失させる可能性があります。ガイドに沿って作業を行う際は、必ずご自身の責任において行ってください。重要なデータは事前にバックアップすることを強く推奨します。
BIOS/UEFI設定の変更やコマンドラインでの操作は、PCのハードウェアや既存のソフトウェア構成に影響を与える可能性があります。これらの操作に不安がある場合は、経験者の助けを借りるか、事前に十分な情報を収集してください。
本記事の情報に基づいて行われたいかなる行為の結果についても、筆者および公開元は一切の責任を負いません。