2次関数が得意になる!定義・グラフ・解き方の基本
数学の学習において、2次関数は非常に重要なテーマです。中学校でその基礎を学び、高校数学ではさらに深く掘り下げていきます。物理学、経済学、工学など、様々な分野で応用されるため、2次関数をしっかりと理解することは、その後の学習や実社会での問題解決能力に大きく貢献します。
しかし、「2次関数が苦手だ…」「グラフがうまく描けない」「解き方がたくさんあって混乱する」と感じている人も少なくないかもしれません。この記事では、そんな皆さんが2次関数を「得意」と感じられるようになることを目指し、定義からグラフ、そして様々な問題の解き方まで、基本を徹底的に、そして詳細に解説します。約5000語にわたり、一つ一つのステップを丁寧に追っていきますので、ぜひ最後までお読みください。
1. はじめに:2次関数を学ぶ意義
私たちの周りには、放物線を描く現象や、何かを最大・最小にしたいといった問題が数多く存在します。例えば、投げ上げたボールの軌跡、アーチ橋の形、商品の価格設定による利益の最大化など、これらを数学的に分析し、理解するために2次関数は不可欠なツールとなります。
2次関数を学ぶことは、単に数式を操作できるようになるだけでなく、物事の増減のパターンを捉えたり、最適な状態を見つけ出したりする「数学的なものの見方」を養うことにつながります。この記事を通じて、2次関数の魅力と、それを使いこなすための確かな基礎力を身につけていきましょう。
2. 2次関数とは? 定義と基本用語
まず、2次関数とは一体どのような関数なのか、その定義と関連する基本的な用語を確認します。
2.1. 定義
2次関数とは、変数 $x$ に対して、それに対応する変数 $y$ が
$$ y = ax^2 + bx + c $$
という形で表される関数です。ここで、$a, b, c$ は定数であり、最も重要な条件として $a \neq 0$ である必要があります。
なぜ $a \neq 0$ なのでしょうか? もし $a=0$ だとすると、上の式は $y = 0 \cdot x^2 + bx + c$ となり、$y = bx + c$ という形になります。これは $x$ の1次の項と定数項だけからなる式であり、2次関数ではなく、1次関数(または $b=0$ のときは定数関数)になってしまうからです。したがって、$x^2$ の項が存在すること、つまり $a \neq 0$ であることが、2次関数であるための本質的な条件なのです。
2.2. 基本用語
2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ に関連する基本的な用語を覚えましょう。
- 変数 (Variables): $x$ と $y$ のことです。これらの値は変化します。通常、$x$ が「独立変数」と呼ばれ、その値によって $y$ の値が決まります。$y$ は「従属変数」と呼ばれます。
- 係数 (Coefficients): 文字(変数)に掛けられている数のことです。
- $a$ は $x^2$ の係数(2次の係数)。
- $b$ は $x$ の係数(1次の係数)。
- $c$ は定数項と呼ばれ、$x$ を含まない項です。厳密には $x^0$ の係数と考えることもできます。
- 定数 (Constants): $a, b, c$ のことです。これらの値は決まっていて変化しません。
例えば、$y = 2x^2 – 3x + 5$ という関数では、$a=2, b=-3, c=5$ となります。$a=2$ は $0$ ではないので、これは2次関数です。
また、$y = -x^2 + 4$ という関数では、$a=-1, b=0, c=4$ となります。$a=-1$ は $0$ ではないので、これも2次関数です。$x$ の項がない場合や、定数項がない場合もありますが、$x^2$ の項(つまり $a \neq 0$)があれば2次関数です。
一方、$y = x^3 – 2x^2 + 1$ は $x^3$ の項があるため3次関数、$y = 5x – 2$ は1次関数です。$y = x^2 + \frac{1}{x}$ のように、分母に変数が含まれる場合も2次関数ではありません。あくまで $y$ が $x$ の多項式で表され、その最高次数が2である場合を2次関数と呼びます。
2.3. 1次関数との違い
1次関数 $y = mx + n$ のグラフが「直線」であるのに対し、2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフは「放物線」と呼ばれる曲線になります。このグラフの形状の違いが、両者の性質の大きな違いを生み出します。例えば、1次関数は単調に増加または減少しますが、2次関数は途中で増加から減少に転じたり(またはその逆)、最大値または最小値を持つといった特徴があります。
3. なぜ2次関数を学ぶのか? 身近な例と応用
2次関数は抽象的な数学の世界の話だけでなく、私たちの身の回りの現象を記述したり、様々な問題を解決したりするために役立ちます。具体的な応用例をいくつか見てみましょう。
- 物理学:物体の運動:
- 重力の影響下での物体の投げ上げや落下の運動は、時間を $t$、物体の位置を $y$ とすると、$y = -\frac{1}{2}gt^2 + v_0t + y_0$ のような2次関数で表されます。ここで $g$ は重力加速度、$v_0$ は初速度、$y_0$ は初期位置です。ボールを投げたときの美しい弧(放物線)は、まさにこの2次関数のグラフです。
- 運動エネルギーは速さ $v$ の2乗に比例します ($E_k = \frac{1}{2}mv^2$)。これも速さの2次関数です。
- 経済学:利益の最大化:
- 商品を生産・販売する際の総収入や総費用が、生産量に対して2次関数で表されることがあります。例えば、売上から費用を引いた利益関数が2次関数になる場合、その最大値を求める問題は非常に重要です。これは、頂点の概念を利用して解決できます。
- 工学・建築学:構造物の設計:
- アーチ橋や吊り橋のケーブル(カテナリー曲線に近いが、均等荷重の場合は放物線になる)の形状は、強度の観点から放物線が採用されることがあります。
- パラボラアンテナや望遠鏡の反射鏡は、電波や光を一点に集める性質を持つ放物線の回転体(放物面)を利用しています。
- その他:
- 面積を扱う問題では、長さの積が面積になるため、変数を含む長さの式から2次関数が現れることがあります(例:周囲の長さが一定の長方形の面積の最大値)。
- 様々な最適化問題(最も効率の良い方法、最小のコスト、最大の効果など)を定式化する際に、目的関数が2次関数となり、その最大値や最小値を求めることが課題となることがあります。
このように、2次関数は自然現象の記述から実社会の問題解決まで、幅広い分野で顔を出します。これらの応用例を知ることで、2次関数を学ぶモチベーションにもつながるでしょう。
4. 2次関数のグラフ
2次関数の学習において、グラフは非常に強力なツールです。グラフを描くことで、関数の性質(最大・最小、増加・減少など)を視覚的に理解することができます。2次関数のグラフはすべて「放物線」と呼ばれる形になります。
4.1. 基本形 $y = ax^2$ のグラフ
最も基本的な形の2次関数です。$b=0, c=0$ の場合にあたります。
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特徴:
- グラフは原点 (0, 0) を通ります。
- グラフは y軸に関して対称です。この対称軸を放物線の軸と呼びます。基本形 $y=ax^2$ の軸は直線 $x=0$(つまり y軸)です。
- グラフの最も尖った部分を頂点と呼びます。基本形 $y=ax^2$ の頂点は原点 (0, 0) です。
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$a$ の値によるグラフの変化:
- $a > 0$ の場合: グラフは下に凸の放物線になります。つまり、頂点が最も低い点となり、それより上方向にグラフが広がります。$x$ が0から離れるにつれて、$y$ の値はどんどん大きくなります。このとき、頂点 (0, 0) で最小値 $0$ をとります。最大値はありません。
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$a < 0$ の場合: グラフは上に凸の放物線になります。つまり、頂点が最も高い点となり、それより下方向にグラフが広がります。$x$ が0から離れるにつれて、$y$ の値はどんどん小さくなります。このとき、頂点 (0, 0) で最大値 $0$ をとります。最小値はありません。
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$|a|$ の値: $|a|$ が大きいほど、放物線の開き具合は狭くなります。 $|a|$ が小さいほど、放物線の開き具合は広くなります。例えば、$y=2x^2$ のグラフは $y=x^2$ のグラフより狭く、$y=\frac{1}{2}x^2$ のグラフは $y=x^2$ のグラフより広くなります。$y=-x^2$ のグラフは $y=x^2$ のグラフをx軸に関して対称に折り返した形になります。
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グラフの描き方(基本形):
- 頂点 (0, 0) をプロットします。
- 軸 (x=0) を確認します。
- いくつか $x$ の値を決め、対応する $y$ の値を計算して点をプロットします。対称性を利用すると効率的です。例えば、$y=x^2$ なら (1, 1), (2, 4), (-1, 1), (-2, 4) などをプロットします。
- プロットした点を滑らかな曲線で結びます。下に凸か上に凸か、$a$ の符号に注意しましょう。
4.2. 標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ のグラフ
基本形 $y = ax^2$ を平行移動した形が標準形です。この形は、グラフの頂点と軸が一目でわかるため、2次関数のグラフを考える上で非常に重要です。
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基本形からの平行移動:
$y = a(x-p)^2 + q$ のグラフは、$y = ax^2$ のグラフをx軸方向に $p$、y軸方向に $q$ だけ平行移動したものです。 -
頂点と軸:
- 基本形 $y=ax^2$ の頂点は (0, 0)、軸は x=0 でした。
- これをx軸方向に $p$、y軸方向に $q$ 平行移動すると、頂点は $(0+p, 0+q)$ つまり (p, q) になります。
- 軸は直線 $x=0$ をx軸方向に $p$ だけ平行移動するので、直線 x = p になります。
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$a$ の値: 標準形においても、$a$ の符号でグラフの凸の向き($a>0$ なら下に凸、$a<0$ なら上に凸)、$|a|$ の値でグラフの開き具合が決まります。これらの性質は平行移動によって変化しません。
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平行移動の考え方:
関数のグラフの平行移動は、$y=f(x)$ のグラフをx軸方向に $p$、y軸方向に $q$ 移動すると $y-q = f(x-p)$ となる、という一般的なルールに従います。
$y=ax^2$ をx軸方向に $p$、y軸方向に $q$ 移動すると、
$y-q = a(x-p)^2$
$y = a(x-p)^2 + q$
となります。この式の形から、頂点が $(p, q)$ であることが読み取れます。 -
グラフの描き方(標準形):
- 標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ から頂点 (p, q) と軸 x=p を読み取ります。
- 頂点 (p, q) をプロットし、軸 x=p を点線などで描きます。
- $a$ の符号を見て、下に凸か上に凸かを確認します。
- 頂点以外の点をいくつかプロットします。例えば、y切片(x=0 のときの $y$ の値)や、軸から等距離にある2点などを利用すると便利です。
- プロットした点を滑らかな放物線で結びます。軸に対して対称になるように注意しましょう。
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例: $y = 2(x-1)^2 + 3$ のグラフを考える。
- $a=2$ (>$0$) なので下に凸。開き具合は $y=x^2$ より狭い。
- 頂点は (1, 3)。
- 軸は x=1。
- y切片: x=0 を代入すると $y = 2(0-1)^2 + 3 = 2(-1)^2 + 3 = 2(1) + 3 = 5$。よって (0, 5) を通る。
- 軸 x=1 から距離 1 の点として、x=0 (y=5) と x=2 を試すと、$y = 2(2-1)^2 + 3 = 2(1)^2 + 3 = 5$。よって (2, 5) を通る。
- これらの点 (1, 3), (0, 5), (2, 5) をプロットし、下に凸の放物線を描く。
4.3. 一般形 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフ
最も一般的な形の2次関数です。このままでは頂点や軸がすぐには分かりません。そこで、グラフを描くためには、平方完成という操作を行って、標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ の形に変形する必要があります。
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平方完成 (Completing the Square):
$ax^2 + bx + c$ の部分を $(x-p)^2$ の形を含むように変形する操作です。手順を追って説明します。- $x^2$ の係数 $a$ で、$x^2$ の項と $x$ の項をくくります。
$y = a(x^2 + \frac{b}{a}x) + c$ - カッコの中の $x$ の項 $ \frac{b}{a}x $ に着目します。これは、$(x + \frac{b}{2a})^2$ を展開したときの $x^2 + 2 \cdot \frac{b}{2a} \cdot x + (\frac{b}{2a})^2 = x^2 + \frac{b}{a}x + (\frac{b}{2a})^2$ の最初の2項と同じです。
そこで、カッコの中に $(\frac{b}{2a})^2$ を加えて、強制的に平方の形 $(x + \frac{b}{2a})^2$ を作り出します。ただし、勝手に加えた分は後で差し引く必要があります。
$y = a(x^2 + \frac{b}{a}x + (\frac{b}{2a})^2 – (\frac{b}{2a})^2) + c$ - カッコの中の最初の3項で平方の形を作ります。差し引いた項はカッコの外に出しますが、カッコの前の $a$ を掛けるのを忘れないように注意が必要です。
$y = a((x + \frac{b}{2a})^2 – (\frac{b}{2a})^2) + c$
$y = a(x + \frac{b}{2a})^2 – a(\frac{b}{2a})^2 + c$ - 定数項の部分を整理します。
$y = a(x + \frac{b}{2a})^2 – a \frac{b^2}{4a^2} + c$
$y = a(x + \frac{b}{2a})^2 – \frac{b^2}{4a} + c$
$y = a(x + \frac{b}{2a})^2 + \frac{-b^2 + 4ac}{4a}$
これで、標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ の形に変形できました。ここで、
$p = -\frac{b}{2a}$
$q = \frac{-b^2 + 4ac}{4a}$
となります。 - $x^2$ の係数 $a$ で、$x^2$ の項と $x$ の項をくくります。
-
頂点と軸 (一般形):
平方完成の結果から、一般形 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフの頂点は $(-\frac{b}{2a}, \frac{-b^2 + 4ac}{4a})$、軸は直線 $x = -\frac{b}{2a}$ であることが分かります。
頂点のy座標は、軸のx座標 $x = -\frac{b}{2a}$ を元の式 $y = ax^2 + bx + c$ に代入して計算する方が速い場合が多いです。$f(-\frac{b}{2a}) = a(-\frac{b}{2a})^2 + b(-\frac{b}{2a}) + c = a \frac{b^2}{4a^2} – \frac{b^2}{2a} + c = \frac{b^2}{4a} – \frac{2b^2}{4a} + \frac{4ac}{4a} = \frac{b^2 – 2b^2 + 4ac}{4a} = \frac{-b^2 + 4ac}{4a}$ となり、確かに一致します。 -
グラフの描き方(一般形):
- 与えられた2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ を平方完成して、標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ に変形します。
- 標準形から頂点 (p, q) と軸 x=p を読み取ります。
- 頂点をプロットし、軸を描きます。
- $a$ の符号を見て、下に凸か上に凸かを確認します。
- y切片(x=0 のときの $y$ の値、これは一般形の $c$ に等しい)をプロットします。
- 必要に応じて、軸に関してy切片と対称な点(x座標は $2p$)などもプロットします。
- プロットした点を滑らかな放物線で結びます。
-
例: $y = -x^2 – 4x + 5$ のグラフを考える。
- 平方完成:
$y = -(x^2 + 4x) + 5$
$y = -(x^2 + 4x + (\frac{4}{2})^2 – (\frac{4}{2})^2) + 5$
$y = -(x^2 + 4x + 4 – 4) + 5$
$y = -((x+2)^2 – 4) + 5$
$y = -(x+2)^2 + 4 + 5$
$y = -(x+2)^2 + 9$ - 標準形 $y = -(x-(-2))^2 + 9$ から、頂点は (-2, 9)、軸は x=-2 と読み取れる。
- $a=-1$ (<$0$) なので上に凸。
- y切片: x=0 を代入すると $y = -0^2 – 4(0) + 5 = 5$。よって (0, 5) を通る。
- 頂点 (-2, 9), 軸 x=-2, y切片 (0, 5) をプロットし、上に凸の放物線を描く。軸から距離 2 の点 (0, 5) と対称な点は、軸から左に距離 2 の点、つまり x=-4 の点。$y = -(-4)^2 – 4(-4) + 5 = -16 + 16 + 5 = 5$。よって (-4, 5) も通る。
- これらの点 (-2, 9), (0, 5), (-4, 5) を通る上に凸の放物線を描く。
- 平方完成:
4.4. グラフと係数の関係のまとめ
一般形 $y = ax^2 + bx + c$ における係数 $a, b, c$ とグラフの性質の関係をまとめておきましょう。
- $a$:
- $a > 0$: 下に凸。
- $a < 0$: 上に凸。
- $|a|$ が大きいほどグラフは狭い。$|a|$ が小さいほどグラフは広い。
- $b$:
- 軸の位置に関係します。軸は $x = -\frac{b}{2a}$ です。
- $a$ と $b$ の符号が同符号($a>0$ かつ $b>0$、または $a<0$ かつ $b<0$)の場合、軸は y軸より左側($x<0$)にあります ($-\frac{b}{2a} < 0$ となる)。
- $a$ と $b$ の符号が異符号($a>0$ かつ $b<0$、または $a<0$ かつ $b>0$)の場合、軸は y軸より右側($x>0$)にあります ($-\frac{b}{2a} > 0$ となる)。
- $b=0$ の場合、軸は y軸上($x=0$)にあります。
- $c$:
- グラフと y軸との交点の y座標です。$x=0$ を代入すると $y=c$ となるからです。
- $c > 0$: y軸の正の部分で交わる。
- $c < 0$: y軸の負の部分で交わる。
- $c = 0$: 原点 (0, 0) を通る。
- $b^2 – 4ac$ (判別式 $D$):
- この値は、後述する2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ の解の個数と関係があり、ひいてはグラフと x軸との共有点の個数に関係します。
- $D = b^2 – 4ac > 0$: x軸と異なる2点で交わる。
- $D = b^2 – 4ac = 0$: x軸と1点で接する(頂点がx軸上にある)。
- $D = b^2 – 4ac < 0$: x軸と共有点を持たない。
これらの関係を理解しておくと、式を見ただけでグラフのおおよその形や位置を把握するのに役立ちます。
5. 2次方程式の解き方
2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ において、$y=0$ とおいた式
$$ ax^2 + bx + c = 0 $$
を2次方程式と呼びます。2次方程式の解は、2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフが x軸と交わる点の x座標 に相当します。この共有点を求めることは、様々な応用問題で必要になります。
2次方程式の解き方にはいくつかの方法があります。問題に応じて適切な方法を選ぶことが重要です。
5.1. 解き方その1:因数分解
2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ の左辺が因数分解できる場合、この方法が最も簡単で速いです。
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原理: 2つの数や式を掛け合わせた結果が0になるのは、少なくともどちらか一方が0である場合だけです。つまり、$A \cdot B = 0$ ならば $A=0$ または $B=0$ です。
2次式が $(px+q)(rx+s)=0$ のように因数分解できた場合、解は $px+q=0$ または $rx+s=0$ となり、これから $x = -\frac{q}{p}$ または $x = -\frac{s}{r}$ という解が得られます。 -
手順:
- 与えられた2次方程式を $ax^2 + bx + c = 0$ の形にします。
- 左辺の2次式 $ax^2 + bx + c$ を因数分解します。中学数学で学んだ因数分解の公式やテクニック(共通因数をくくり出す、$(x+m)(x+n)=x^2+(m+n)x+mn$ の逆、たすき掛けなど)を利用します。
- 因数分解の結果を $(px+q)(rx+s)=0$ のように等式で表します。
- $px+q=0$ および $rx+s=0$ という2つの1次方程式を解き、解を求めます。
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例:
-
$x^2 – 5x + 6 = 0$
左辺を因数分解すると $(x-2)(x-3) = 0$ となります。
よって、$x-2=0$ または $x-3=0$ です。
これを解くと $x=2$ または $x=3$ となります。
(これは、関数 $y=x^2-5x+6$ のグラフがx軸と点 (2, 0) と点 (3, 0) で交わることを意味します。) -
$2x^2 + 3x – 2 = 0$
左辺を因数分解します(たすき掛けなど)。$(2x-1)(x+2) = 0$ となります。
よって、$2x-1=0$ または $x+2=0$ です。
これを解くと $x=\frac{1}{2}$ または $x=-2$ となります。
-
因数分解は慣れが必要ですが、できるようになると計算が非常に楽になります。まずは簡単な問題で練習しましょう。
5.2. 解き方その2:平方根の利用
$x^2=k$ や $(x-p)^2=k$ のような形の2次方程式は、平方根を利用して解くことができます。これは、後述する解の公式を導く基礎となる考え方です。
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原理: ある数の2乗が $k$ に等しいとき、その数は $k$ の平方根である $\pm\sqrt{k}$ です。つまり、$X^2 = k$ ならば $X = \pm\sqrt{k}$ です。この $X$ の部分が $x$ だったり $x-p$ だったりします。
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手順:
- 方程式を $x^2=k$ または $(x-p)^2=k$ の形に変形します。$ax^2+bx+c=0$ の場合は、定数項を右辺に移項し、必要に応じて平方完成を行います。
- 両辺の平方根をとります。右辺には $\pm$ をつけるのを忘れないでください。
- $(x-p)^2=k$ の形の場合は、さらに $p$ を移項して $x$ について解きます。
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例:
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$x^2 = 9$
両辺の平方根をとって $x = \pm\sqrt{9}$
$x = \pm 3$
よって解は $x=3, x=-3$ です。 -
$x^2 – 8 = 0$
定数項を移項して $x^2 = 8$
両辺の平方根をとって $x = \pm\sqrt{8} = \pm 2\sqrt{2}$
よって解は $x = 2\sqrt{2}, x = -2\sqrt{2}$ です。 -
$(x-1)^2 = 4$
両辺の平方根をとって $x-1 = \pm\sqrt{4} = \pm 2$
$-1$ を移項して $x = 1 \pm 2$
解は $x = 1+2 = 3$ と $x = 1-2 = -1$ です。 -
$x^2 + 6x + 2 = 0$
因数分解も難しく、$x^2=k$ の形にもなっていません。そこで平方完成を利用して $(x-p)^2=k$ の形を目指します。
$x^2 + 6x = -2$
$x^2 + 6x + 3^2 = -2 + 3^2$ (xの係数6の半分3を2乗して両辺に加える)
$(x+3)^2 = -2 + 9$
$(x+3)^2 = 7$
両辺の平方根をとって $x+3 = \pm\sqrt{7}$
$3$ を移項して $x = -3 \pm\sqrt{7}$
よって解は $x = -3 + \sqrt{7}, x = -3 – \sqrt{7}$ です。
-
この平方完成を利用して解く方法は、どんな2次方程式でも解くことができます。このプロセスを一般化したものが、次に説明する「解の公式」です。
5.3. 解き方その3:解の公式
どんな2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ ($a \neq 0$) も、この公式を使えば必ず解くことができます。平方完成を利用した解法の一般化から導かれます。
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解の公式の導出:
2次方程式 $ax^2 + bx + c = 0$ ($a \neq 0$) を平方完成の手順で解いてみましょう。- 定数項を右辺に移項: $ax^2 + bx = -c$
- 両辺を $a$ で割る ($a \neq 0$ より可能): $x^2 + \frac{b}{a}x = -\frac{c}{a}$
- $x$ の係数 $\frac{b}{a}$ の半分 $\frac{b}{2a}$ を2乗した $(\frac{b}{2a})^2 = \frac{b^2}{4a^2}$ を両辺に加える:
$x^2 + \frac{b}{a}x + \frac{b^2}{4a^2} = -\frac{c}{a} + \frac{b^2}{4a^2}$ - 左辺を平方の形に、右辺を通分して整理する:
$(x + \frac{b}{2a})^2 = \frac{-c \cdot 4a}{a \cdot 4a} + \frac{b^2}{4a^2} = \frac{b^2 – 4ac}{4a^2}$ - 両辺の平方根をとる:
$x + \frac{b}{2a} = \pm \sqrt{\frac{b^2 – 4ac}{4a^2}}$
$x + \frac{b}{2a} = \pm \frac{\sqrt{b^2 – 4ac}}{\sqrt{4a^2}} = \pm \frac{\sqrt{b^2 – 4ac}}{|2a|}$
通常、$a>0$ として考えれば $|2a|=2a$ なので、
$x + \frac{b}{2a} = \pm \frac{\sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}$ - $\frac{b}{2a}$ を移項して $x$ について解く:
$x = -\frac{b}{2a} \pm \frac{\sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}$
$x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}$
これが解の公式 (Quadratic Formula) です。どんな2次方程式でも、係数 $a, b, c$ をこの公式に代入すれば解を求めることができます。
-
公式の使い方:
- 2次方程式を $ax^2 + bx + c = 0$ の形にし、$a, b, c$ の値を正確に確認します。
- 解の公式 $x = \frac{-b \pm \sqrt{b^2 – 4ac}}{2a}$ に $a, b, c$ の値を代入します。
- 計算を進めて解を求めます。ルートの中が負になる場合(実数解なし)や、ルートが簡単になる場合、分母を有利化する必要がある場合など、様々なケースがあります。
-
例:
-
$2x^2 + 3x – 2 = 0$
$a=2, b=3, c=-2$ を公式に代入します。
$x = \frac{-3 \pm \sqrt{3^2 – 4(2)(-2)}}{2(2)}$
$x = \frac{-3 \pm \sqrt{9 – (-16)}}{4}$
$x = \frac{-3 \pm \sqrt{9 + 16}}{4}$
$x = \frac{-3 \pm \sqrt{25}}{4}$
$x = \frac{-3 \pm 5}{4}$
解は2つあります。
$x_1 = \frac{-3 + 5}{4} = \frac{2}{4} = \frac{1}{2}$
$x_2 = \frac{-3 – 5}{4} = \frac{-8}{4} = -2$
よって解は $x=\frac{1}{2}, x=-2$ です(先ほどの因数分解の例と同じ結果になりました)。 -
$x^2 – 4x + 1 = 0$
$a=1, b=-4, c=1$ を公式に代入します。
$x = \frac{-(-4) \pm \sqrt{(-4)^2 – 4(1)(1)}}{2(1)}$
$x = \frac{4 \pm \sqrt{16 – 4}}{2}$
$x = \frac{4 \pm \sqrt{12}}{2}$
$\sqrt{12} = \sqrt{4 \cdot 3} = 2\sqrt{3}$ なので
$x = \frac{4 \pm 2\sqrt{3}}{2}$
分子を2でくくって約分すると
$x = \frac{2(2 \pm \sqrt{3})}{2} = 2 \pm \sqrt{3}$
よって解は $x = 2 + \sqrt{3}, x = 2 – \sqrt{3}$ です。
-
-
判別式 $D = b^2 – 4ac$:
解の公式のルートの中身 $b^2 – 4ac$ は判別式 (Discriminant) と呼ばれ、通常 $D$ で表されます。この $D$ の値の符号を見るだけで、解が実数解としていくつ存在するか(つまり、対応する2次関数のグラフがx軸と何点交わるか)が分かります。- $D > 0$ ($b^2 – 4ac > 0$): $\sqrt{D}$ は正の実数となります。解は $\frac{-b \pm \sqrt{D}}{2a}$ となり、$\frac{-b + \sqrt{D}}{2a}$ と $\frac{-b – \sqrt{D}}{2a}$ の異なる2つの実数解が存在します。グラフはx軸と異なる2点で交わります。
- $D = 0$ ($b^2 – 4ac = 0$): $\sqrt{D} = \sqrt{0} = 0$ となります。解は $\frac{-b \pm 0}{2a} = \frac{-b}{2a}$ となり、1つの実数解(重解)が存在します。グラフはx軸と1点で接します(頂点がx軸上にあります)。
- $D < 0$ ($b^2 – 4ac < 0$): $\sqrt{D}$ は虚数(実数ではない数)となります。解は実数ではないため、実数解は存在しません。グラフはx軸と共有点を持ちません。高校数学では複素数の範囲で解を考えることがありますが、中学数学や多くの応用問題では「実数解なし」と判断します。
2次方程式を解く前に、判別式を計算して解の個数を調べることがあります。
5.4. 解き方の使い分け
2次方程式を解く際は、以下の順序で解法を検討するのが一般的です。
- 因数分解: 最も速い方法です。まず因数分解できないか試してみましょう。
- 平方根の利用: $(x-p)^2=k$ の形に変形しやすい場合に有効です。特に $b=0$ の場合 ($ax^2+c=0$) や、平方完成が簡単な場合に使えます。
- 解の公式: どんな2次方程式でも解くことができる万能な方法です。因数分解が難しい場合や、確実に解を求めたい場合に利用します。計算ミスに注意が必要です。
6. 2次不等式の解き方
2次不等式とは、$ax^2 + bx + c > 0$, $ax^2 + bx + c < 0$, $ax^2 + bx + c \ge 0$, $ax^2 + bx + c \le 0$ のように、2次式を含む不等式です。2次不等式を解く際には、2次関数のグラフの形と、x軸との共有点の位置を考えることが最も重要です。
6.1. グラフを利用した考え方
2次不等式 $ax^2 + bx + c > 0$ を解くということは、「2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフが、x軸($y=0$)より上にある $x$ の範囲を求める」ということです。同様に、$ax^2 + bx + c < 0$ を解くのは、「グラフがx軸より下にある $x$ の範囲を求める」ということになります。等号付き不等式 ($\ge, \le$) の場合は、共有点も含めるかどうかを考えます。
6.2. 解法のステップ
2次不等式 $ax^2 + bx + c \ \text{【不等号】} \ 0$ を解く一般的なステップは以下の通りです。
- 対応する2次方程式を解く: $ax^2 + bx + c = 0$ を解き、x軸との共有点のx座標(これを「解の候補」と考える)を求めます。解き方は、因数分解、平方根の利用、解の公式のいずれか適切なものを使います。このとき、解が2つあるのか、1つ(重解)なのか、実数解がないのかを確認します(判別式 $D$ の符号で判断できます)。
- グラフの概形を描く: $y = ax^2 + bx + c$ のグラフの概形を描きます。重要な情報は以下の2点です。
- 凸の向き: 係数 $a$ の符号で判断します ($a>0$ なら下に凸、$a<0$ なら上に凸)。
- x軸との共有点: ステップ1で求めた解(共有点のx座標)を x軸上に示します。実数解がない場合は、x軸と交わらないように描きます。
- グラフから範囲を読み取る: 描いたグラフを見ながら、不等式が示す $y$ の範囲(>0, <0, $\ge 0, \le 0$)が、グラフのどの $x$ の範囲に対応するかを読み取ります。
6.3. 場合分け:$a$ の符号と判別式 $D$
グラフの形は、$a$ の符号と判別式 $D=b^2-4ac$ の符号によって決まります。それぞれの場合について、不等式の解がどうなるかを見ていきましょう。ここでは代表的な不等式 $ax^2+bx+c>0$ と $ax^2+bx+c<0$ を例に説明します(等号付きの場合も同様に考えられます)。
重要: $a < 0$ の不等式は、両辺に -1 を掛けて $a > 0$ の形にしてから解くのが一般的です。このとき不等号の向きが変わることに注意が必要です。ここでは $a>0$ の場合を中心に説明し、$a<0$ の場合は簡単に触れます。
【$a > 0$ の場合(下に凸)】
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D > 0 (異なる2つの実数解 α, β, ただし α < β とする)
グラフはx軸と2点 (α, 0), (β, 0) で交わる下に凸の放物線です。- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。これは $\alpha$ より左側と $\beta$ より右側の部分です。
解は $x < α, x > β$ となります。 - $ax^2 + bx + c < 0$: グラフがx軸より下にある範囲。これは $\alpha$ と $\beta$ の間の部分です。
解は $α < x < β$ となります。 - $ax^2 + bx + c \ge 0$: $x \le α, x \ge β$
- $ax^2 + bx + c \le 0$: $α \le x \le β$
- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。これは $\alpha$ より左側と $\beta$ より右側の部分です。
-
D = 0 (重解 α)
グラフはx軸と1点 (α, 0) で接する(頂点がx軸上にある)下に凸の放物線です。- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。頂点以外すべて上です。
解は $x \ne α$ となります($x=\alpha$ のとき $y=0$ だから不等号を満たさない)。 - $ax^2 + bx + c < 0$: グラフがx軸より下にある範囲。そのような部分はありません。
解は なし となります。 - $ax^2 + bx + c \ge 0$: すべての実数 ($x=\alpha$ のときも含む)
- $ax^2 + bx + c \le 0$: $x = α$ のときのみ等号が成立
- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。頂点以外すべて上です。
-
D < 0 (実数解なし)
グラフはx軸と共有点を持たない下に凸の放物線です。頂点のy座標が正になります。したがって、グラフは常にx軸より上にあります。- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。常に上です。
解はすべての実数となります。 - $ax^2 + bx + c < 0$: グラフがx軸より下にある範囲。そのような部分はありません。
解は なし となります。 - $ax^2 + bx + c \ge 0$: すべての実数
- $ax^2 + bx + c \le 0$: 解なし
- $ax^2 + bx + c > 0$: グラフがx軸より上にある範囲。常に上です。
【$a < 0$ の場合(上に凸)】
$a<0$ の不等式は、両辺に -1 を掛けて $a>0$ の形にして解く方が間違いにくいです。例えば、$-x^2 + x + 2 > 0$ という不等式なら、両辺に -1 を掛けて $x^2 – x – 2 < 0$ とし、これを解けばよいのです。不等号の向きが変わることに注意してください。
もし $a<0$ のまま解く場合は、グラフが上に凸になることに注意して、上記の $a>0$ の場合と同様にグラフから範囲を読み取ります。
* $D > 0$ (異なる2つの実数解 α, β, α < β): 上に凸。x軸と2点 (α, 0), (β, 0) で交わる。
* $ax^2+bx+c>0$: $\alpha < x < \beta$
* $ax^2+bx+c<0$: $x < \alpha, x > \beta$
* $D = 0$ (重解 α): 上に凸。x軸と1点 (α, 0) で接する。
* $ax^2+bx+c>0$: 解なし
* $ax^2+bx+c<0$: $x \ne α$
* $D < 0$ (実数解なし): 上に凸。x軸と共有点を持たない。グラフは常にx軸より下にある。
* $ax^2+bx+c>0$: 解なし
* $ax^2+bx+c<0$: すべての実数
6.4. 例題と解説
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例1: $x^2 – x – 6 > 0$
- 対応する方程式 $x^2 – x – 6 = 0$ を解く。因数分解すると $(x-3)(x+2) = 0$ なので、解は $x=3, x=-2$ です。共有点のx座標は -2 と 3 です。
- グラフの概形: $y = x^2 – x – 6$ は $a=1 > 0$ なので下に凸です。x軸とは -2 と 3 で交わります。
- 範囲を読み取る: 不等式は $y > 0$ です。グラフがx軸より上にあるのは、xが -2 より小さい範囲と、xが 3 より大きい範囲です。
解は $x < -2, x > 3$ となります。
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例2: $-x^2 + 2x + 3 \ge 0$
- $a=-1 < 0$ なので、両辺に -1 を掛けて $x^2 – 2x – 3 \le 0$ とします(不等号の向きが変わります)。
- 対応する方程式 $x^2 – 2x – 3 = 0$ を解く。因数分解すると $(x-3)(x+1) = 0$ なので、解は $x=3, x=-1$ です。共有点のx座標は -1 と 3 です。
- グラフの概形: $y = x^2 – 2x – 3$ は $a=1 > 0$ なので下に凸です。x軸とは -1 と 3 で交わります。
- 範囲を読み取る: 不等式は $y \le 0$ です。グラフがx軸より下にあるか、x軸上にある(等号含む)のは、xが -1 以上 3 以下の範囲です。
解は $-1 \le x \le 3$ となります。
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例3: $x^2 – 4x + 4 > 0$
- 対応する方程式 $x^2 – 4x + 4 = 0$ を解く。因数分解すると $(x-2)^2 = 0$ なので、解は $x=2$ (重解)です。共有点は1点 (2, 0) です。
- グラフの概形: $y = x^2 – 4x + 4$ は $a=1 > 0$ なので下に凸です。x軸とは点 (2, 0) で接します。
- 範囲を読み取る: 不等式は $y > 0$ です。グラフがx軸より上にあるのは、x=2 のときを除いたすべての範囲です(x=2 のときは $y=0$)。
解は $x \ne 2$ となります。
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例4: $x^2 + x + 1 < 0$
- 対応する方程式 $x^2 + x + 1 = 0$ の判別式 $D$ を計算します。$a=1, b=1, c=1$ なので $D = b^2 – 4ac = 1^2 – 4(1)(1) = 1 – 4 = -3$ です。
- $D < 0$ なので、実数解はありません。グラフはx軸と共有点を持ちません。
- グラフの概形: $y = x^2 + x + 1$ は $a=1 > 0$ なので下に凸です。x軸と交わらず、常にx軸より上にあります。
- 範囲を読み取る: 不等式は $y < 0$ です。グラフがx軸より下にある範囲は存在しません。
解は なし となります。
このように、2次不等式はグラフの力を借りることで、視覚的に理解しやすくなります。まずは共有点を正確に求め、次にグラフの概形をイメージ(または実際に描いて)範囲を判断する、というステップをしっかりと踏みましょう。
7. 2次関数の応用問題
2次関数の知識は、最大値・最小値を求めたり、文章問題として与えられた状況を数式化して解いたりするのに役立ちます。
7.1. 最大値・最小値
2次関数のグラフは放物線であり、頂点が最も低い点(下に凸の場合)または最も高い点(上に凸の場合)になります。この性質を利用して、関数の最大値や最小値を求めることができます。
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定義域に制限がない場合:
2次関数 $y = ax^2 + bx + c$ のグラフ全体を考える場合です。平方完成して標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ に変形すると、頂点は (p, q) です。- $a > 0$ (下に凸): グラフは頂点が最も低い点です。
頂点のy座標 $q$ が最小値となります。このときの $x$ の値は $p$ です。
最大値は、グラフが上方向に無限に伸びていくためありません。 - $a < 0$ (上に凸): グラフは頂点が最も高い点です。
頂点のy座標 $q$ が最大値となります。このときの $x$ の値は $p$ です。
最小値は、グラフが下方向に無限に伸びていくためありません。
- $a > 0$ (下に凸): グラフは頂点が最も低い点です。
-
定義域に制限がある場合(区間 [m, n] での最大値・最小値):
$x$ の値の範囲が $m \le x \le n$ のように決まっている場合です。この場合は、グラフ全体ではなく、指定された区間内のグラフだけを考えます。最大値・最小値は、区間の端における関数の値または区間内に頂点が含まれる場合は頂点の値のいずれかになります。解法のステップ:
1. 与えられた2次関数を平方完成し、頂点の座標 (p, q) と軸 x=p を求めます。また、$a$ の符号でグラフの凸の向きを確認します。
2. 与えられた定義域 $m \le x \le n$ を確認します。
3. 軸 x=p の位置が、定義域 [m, n] に対して「左にある」「区間内にある」「右にある」のいずれに該当するかを確認します。* **軸が区間内にある場合 (m $\le$ p $\le$ n)**: グラフの指定された区間内の部分は、頂点を含みます。 * $a > 0$ (下に凸): 最小値は頂点のy座標 $q$ (x=p のとき)。最大値は、区間の端である x=m のときの値 $f(m)$ または x=n のときの値 $f(n)$ のうち大きい方です。軸から遠い方の端点で最大値をとります。 * $a < 0$ (上に凸): 最大値は頂点のy座標 $q$ (x=p のとき)。最小値は、区間の端である x=m のときの値 $f(m)$ または x=n のときの値 $f(n)$ のうち小さい方です。軸から遠い方の端点で最小値をとります。 * **軸が区間より左にある場合 (p < m)**: グラフの指定された区間内の部分は、頂点を含まず、軸の右側にあります。 * $a > 0$ (下に凸): 区間内では単調増加します。最小値は左端 (x=m) での値 $f(m)$。最大値は右端 (x=n) での値 $f(n)$。 * $a < 0$ (上に凸): 区間内では単調減少します。最大値は左端 (x=m) での値 $f(m)$。最小値は右端 (x=n) での値 $f(n)$。 * **軸が区間より右にある場合 (p > n)**: グラフの指定された区間内の部分は、頂点を含まず、軸の左側にあります。 * $a > 0$ (下に凸): 区間内では単調減少します。最大値は左端 (x=m) での値 $f(m)$。最小値は右端 (x=n) での値 $f(n)$。 * $a < 0$ (上に凸): 区間内では単調増加します。最小値は左端 (x=m) での値 $f(m)$。最大値は右端 (x=n) での値 $f(n)$。
- 各候補(区間の端の値、区間内の頂点の値)を計算し、最大値と最小値を決定します。グラフを描いて確認すると理解しやすいでしょう。
-
例: 関数 $y = x^2 – 4x + 5$ について考える。
平方完成すると $y = (x-2)^2 + 1$ となります。頂点は (2, 1)、軸は x=2、$a=1>0$ なので下に凸です。- 定義域に制限がない場合: 下に凸なので最小値は頂点のy座標で 1 (x=2 のとき)。最大値はありません。
-
定義域が $0 \le x \le 3$ の場合: 軸 x=2 は区間 [0, 3] の中にあります (0 $\le$ 2 $\le$ 3)。下に凸です。
- 最小値は頂点のy座標で 1 (x=2 のとき)。
- 最大値は区間の端 x=0 または x=3 のどちらか遠い方(軸 x=2 から x=0 は距離 2, x=3 は距離 1 なので、x=0 の方が遠い)。
$f(0) = 0^2 – 4(0) + 5 = 5$
$f(3) = 3^2 – 4(3) + 5 = 9 – 12 + 5 = 2$
大きい方は $f(0)=5$ なので、最大値は 5 (x=0 のとき)。
したがって、定義域 $0 \le x \le 3$ における最小値は 1、最大値は 5 です。
-
定義域が $3 \le x \le 5$ の場合: 軸 x=2 は区間 [3, 5] より左にあります (2 < 3)。下に凸なので、この区間では単調増加です。
- 最小値は左端 (x=3) の値 $f(3) = 2$ (x=3 のとき)。
- 最大値は右端 (x=5) の値 $f(5) = 5^2 – 4(5) + 5 = 25 – 20 + 5 = 10$ (x=5 のとき)。
したがって、定義域 $3 \le x \le 5$ における最小値は 2、最大値は 10 です。
最大値・最小値の問題は、まず平方完成で頂点を把握し、次に定義域と軸の位置関係を正確に判断することが重要です。
7.2. 文章問題への応用
文章問題では、問題文で与えられた条件から2次関数(または2次方程式、2次不等式)を自分で作り出す必要があります。
解法のステップ:
1. 何を変数とするか決める: 問題で求められている量や、変化する量の中から、1つまたは複数の変数を設定します。通常、求めたい量を直接変数とするか、求めたい量を別の変数で表せるように設定します。
2. 変数間の関係を数式で表す: 問題文の条件を読み取り、設定した変数間の関係を等式や不等式で表します。特に、最大・最小を求めたい量を別の変数(通常は1で設定した変数)の2次式で表すことを目指します。
3. 定義域を確認する: 設定した変数が取りうる値の範囲(定義域)を確認します。長さや面積など、負の値をとらない量である場合は、$x > 0$ といった条件が付きます。
4. 得られた2次関数などを解く: 作成した2次関数について、最大値・最小値を求めたり、2次方程式や2次不等式を解いたりします。
5. 解が問題の条件を満たすか確認し、結論を書く: 得られた数学的な解が、問題文の物理的・幾何学的な条件(例えば、辺の長さが負にならないか、といったこと)を満たすか確認します。そして、問題の問いに対する最終的な答えを言葉で記述します。
-
例: 周囲の長さが 40cm の長方形がある。この長方形の面積が最大になるときの縦の長さと横の長さを求めよ。
- 変数を設定する: 長方形の縦の長さを $x$ (cm) とします。
- 関係を数式で表す: 周囲の長さが 40cm なので、「縦+横」の長さは $40 \div 2 = 20$ (cm) です。したがって、横の長さは $20 – x$ (cm) となります。
長方形の面積を $y$ (cm$^2$) とすると、$y = x \times (20 – x)$ という式で表せます。
この式を展開すると $y = 20x – x^2$ となります。これは2次関数です。
$y = -x^2 + 20x$
この関数の最大値を求めたいのです。 - 定義域を確認する: 縦の長さ $x$ は正でなければなりません ($x > 0$)。横の長さ $20-x$ も正でなければなりません ($20-x > 0$ から $x < 20$)。したがって、定義域は $0 < x < 20$ です。
- 2次関数の最大値を求める: $y = -x^2 + 20x$ の最大値を定義域 $0 < x < 20$ で求めます。
平方完成すると $y = -(x^2 – 20x) = -(x^2 – 20x + (-10)^2 – (-10)^2) = -((x-10)^2 – 100) = -(x-10)^2 + 100$ となります。
頂点は (10, 100)、軸は x=10、$a=-1<0$ なので上に凸です。
定義域 $0 < x < 20$ は、軸 x=10 を含みます ($0 < 10 < 20$)。上に凸の関数なので、頂点で最大値をとります。
最大値は頂点のy座標で 100 です。このときの x の値は 10 です。 - 結論を書く: 縦の長さ $x=10$ (cm) のとき、面積は最大値 100 cm$^2$ をとります。
このときの横の長さは $20 – x = 20 – 10 = 10$ (cm) です。
$x=10$ は定義域 $0 < x < 20$ を満たしています。
したがって、面積が最大になるのは縦の長さが 10cm、横の長さが 10cm のとき、つまり正方形のときです。
このように、文章問題を解くには、まず数学的なモデル(式)を立てる力が重要になります。何を変数にするか、面積や利益などをどう表現するかを慎重に考えましょう。
8. よくある間違いと注意点
2次関数の学習で多くの人がつまずきやすい点や、間違いやすい点をまとめます。
- 平方完成の計算ミス: 符号や係数の扱いに注意が必要です。特に $a$ でくくる部分や、カッコの外に出す項の処理を丁寧にやりましょう。
- 頂点の座標の符号間違い: 標準形 $y = a(x-p)^2 + q$ の頂点は $(p, q)$ です。$(x+2)^2$ の場合は $x-(-2)$ なので、頂点のx座標は -2 です。符号を間違えないようにしましょう。
- 軸と頂点の混同: 軸は直線の方程式 (x=p) であり、頂点は座標 (p, q) です。混同しないように区別しましょう。
- グラフの向き(aの符号)の間違い: 下に凸 ($a>0$) と上に凸 ($a<0$) を混同しないようにしましょう。頂点が最小点になるか最大点になるかに直結します。
- 2次方程式の解の個数と判別式の対応: $D>0$ は2つ、$D=0$ は1つ(重解)、$D<0$ は実数解なし、という対応を正確に覚えましょう。
- 2次不等式で、>0 と <0 の範囲の取り違え: グラフがx軸より上にある範囲か、下にある範囲かをグラフで確認する習慣をつけましょう。
- 定義域がある場合の最大値・最小値で、端点の考慮漏れ: 定義域に制限がある場合は、頂点の値だけでなく、区間の両端での関数の値も必ず計算し、それらを比較して最大・最小を判断する必要があります。軸が区間外にある場合は、頂点は最大・最小にはなりません。
- 文章問題での変数設定や定義域の設定ミス: 問題文をよく読み、何を変数とするか、その変数が取りうる値の範囲(定義域)は何かを正確に判断しましょう。
- $a=0$ の場合を2次関数として扱わないこと: 定義から $a \neq 0$ が必須です。問題で「関数」とだけ書かれている場合は $a=0$ の場合も考慮が必要になることがありますが、「2次関数」と明記されている場合は $a \neq 0$ です。
9. 学習のヒントとステップアップ
2次関数を得意にするための学習方法についてのアドバイスです。
- 基本をしっかり固める: 定義、グラフの描き方(特に平方完成)、2次方程式の解き方(因数分解、解の公式)は、全ての土台となります。これらが曖昧なまま先に進むと必ずつまずきます。まずはこれらの基本計算を正確に素早くできるようになるまで練習しましょう。
- 手を動かしてグラフを描く練習をする: 最初は手間がかかっても、実際に座標平面にグラフを描いてみましょう。頂点、軸、y切片、x切片などをプロットし、滑らかな曲線で結ぶ練習をすることで、グラフの形と式との関係が感覚的に理解できるようになります。
- 多くの問題を解く: 特に平方完成、解の公式を使った計算、定義域がある場合の最大・最小、2次不等式、そして文章問題といった分野は、様々なパターンの問題を解くことが重要です。
- なぜそうなるのか理解する: 公式や解法を丸暗記するだけでなく、「なぜ平方完成で頂点が分かるのか」「なぜ判別式の符号で解の個数が分かるのか」「なぜ2次不等式がグラフで解けるのか」といった理由を理解するように努めましょう。数学的な理論を理解することで、応用力がつき、忘れにくくなります。
- 苦手な分野を特定し、集中的に練習する: もし特定の分野(例えば平方完成や不等式の場合分け)が苦手だと感じたら、そこだけを集中的に繰り返し練習しましょう。
- 応用問題に挑戦し、実力をつける: 基本が身についたら、ぜひ文章問題などの応用問題に挑戦しましょう。問題文を読み解き、数学的なモデルを立てる力は、数学を学ぶ上で非常に重要です。
10. まとめ
この記事では、2次関数の定義から、グラフの詳しい描き方、2次方程式・不等式の解き方、そして応用問題の考え方まで、基本に焦点を当てて詳細に解説しました。
2次関数は、その美しいグラフの形(放物線)だけでなく、物体の運動、経済、工学など、私たちの世界の様々な現象を記述し、問題を解決するための強力な道具です。
平方完成や解の公式といった計算、そしてグラフと式の関係をしっかりと理解することが、2次関数を得意にするための鍵となります。最初は難しく感じるかもしれませんが、一つ一つのステップを丁寧に学び、繰り返し練習することで、必ず克服できます。
この記事が、皆さんが2次関数を深く理解し、得意になるための一助となれば幸いです。ぜひ、ここで学んだ知識を活かして、様々な問題に挑戦してみてください!