Physical Review B への論文投稿を考える方へ:ジャーナル紹介

はい、Physical Review B (PRB)への論文投稿を検討されている方々へ向けた、ジャーナルの詳細な紹介を含む約5000語の記事を作成します。


Physical Review B への論文投稿を考える方へ:ジャーナル紹介と成功のためのガイド

はじめに

論文出版は、研究活動の不可欠な一部であり、自身の研究成果を世界中の研究コミュニティに発信し、その分野の発展に貢献するための最も重要な手段です。特に物理学、材料科学、関連分野の研究者にとって、「Physical Review」シリーズは極めて知名度が高く、権威あるジャーナル群として認識されています。その中でも Physical Review B (PRB) は、凝縮系物理学および材料科学の分野において、最も広く認知され、質の高い研究論文が数多く発表されるトップジャーナルの一つです。

PRBに論文を投稿し、掲載されることは、研究者にとって大きな栄誉であり、その後のキャリアにおいても重要な意味を持ちます。しかしながら、PRBのようなハイレベルなジャーナルに採択されるためには、研究内容自体の質の高さはもちろんのこと、ジャーナルのスコープ、投稿プロセス、編集ポリシー、そして効果的な論文の書き方や査読への対応など、様々な側面についての深い理解が必要です。

本記事は、Physical Review B への論文投稿を検討されている日本の研究者の方々を対象として、PRBとはどのようなジャーナルなのか、その学術的地位、スコープ、論文の種類、投稿プロセス、成功のためのヒントなどを詳細に解説することを目的としています。約5000語というボリュームで、PRBへの投稿に関わるであろう様々な疑問や懸念に対し、網羅的にお答えすることを目指します。

この記事を通じて、PRBへの投稿プロセスに対する理解を深め、自信を持って投稿準備を進めるための一助となれば幸いです。ただし、ジャーナルの規定やポリシーは変更される可能性があります。最新の情報については、必ずAmerican Physical Society (APS)の公式ウェブサイト、特にPhysical Review Bの投稿者向けガイドラインをご確認ください。

1. Physical Review B (PRB) とは?

1.1. 概要と歴史

Physical Review B (PRB) は、American Physical Society (APS) が発行する学術雑誌「Physical Review」シリーズの一部です。Physical Reviewは、1893年に創刊された、物理学分野で最も歴史があり、かつ権威のあるジャーナルの一つです。当初は物理学全般をカバーしていましたが、研究分野の細分化と発展に伴い、1970年にPhysical Review AからDまでの4つのセクションに分割されました。PRBはこの時に誕生し、主に凝縮系物理学(Condensed Matter Physics)と材料科学(Materials Science)に特化したジャーナルとして設立されました。

以来、PRBはこれらの分野における基礎的かつ重要な研究成果を発表する場として、世界中の研究者から信頼を得ています。創刊から50年以上にわたり、そのスコープを維持しつつ、関連する新たな研究分野(例えばナノサイエンスやソフトマター物理学の一部など)も積極的に取り入れながら発展を続けています。

1.2. 発行元:American Physical Society (APS)

APSは、世界最大の物理学者のための非営利団体の一つであり、質の高い研究論文の出版を通じて物理学の発展に大きく貢献しています。Physical Reviewシリーズは、その出版活動の中核を成しています。APSのジャーナルは、厳格な査読プロセスと高い倫理基準で知られており、研究コミュニティからの信頼が厚いです。PRBもその例外ではなく、APSの定める高い出版基準を遵守しています。

APSはまた、オープンアクセス出版のオプション(PRBでは選択可能)や、古い論文の無料公開(Physical Review Archive)、物理学分野における多様性と包摂性の推進など、学術出版や研究者コミュニティ全体の健全な発展にも積極的に取り組んでいます。

1.3. 発行形式

かつては印刷版も発行されていましたが、現在は主にオンライン形式での発行が中心です。論文は受理され次第、速やかにオンライン上で公開されます(”online first” あるいは “in press” と呼ばれる形式)。その後、特定の号(Volume and Issue)に割り当てられ、ページ番号が付与されます。オンライン版は、APSのプラットフォームであるPhysical Review Online Archive (PROLA) やその他のデータベースを通じて、世界中の研究機関や研究者にアクセス可能です。

2. PRB の学術的地位と影響力

2.1. 世界的な評価と信頼

PRBは、凝縮系物理学および材料科学分野において、間違いなく世界のトップジャーナルの一つとして広く認識されています。その評価は、特定の指標(インパクトファクターなど)だけでなく、歴史、発表される研究の質、引用頻度、そして何よりも研究者コミュニティからの信頼によって確立されています。

PRBに掲載された論文は、その分野の基礎を築くもの、あるいはブレークスルーとなるものが多く、世界の研究トレンドを形成する上で重要な役割を果たしています。PRBでの出版経験は、特にアカデミアでのキャリアにおいては、研究能力と成果の質の高さを示す強力な証拠となります。

2.2. インパクトファクターと引用数

インパクトファクター(Impact Factor, IF)は、特定の期間においてそのジャーナルに掲載された論文が、その後の論文に平均してどの程度引用されているかを示す指標であり、ジャーナルの影響力を測るための一つの目安として広く使われています。PRBのインパクトファクターは、分野全体の特性や他のジャーナルとの比較によって変動しますが、通常は当該分野のトップクラスに位置しています。

ただし、インパクトファクターはあくまで平均値であり、個々の論文の質や影響力を直接示すものではありません。PRBに掲載される論文は、非常に長く引用され続ける、いわゆる「古典」や「ランドマーク」となる研究も多く含まれており、長期的な引用数はインパクトファクターでは測りきれない影響力を持っています。PRBに掲載された論文は、その分野の標準的な手法や理論の出発点として、あるいは重要な比較対象として、継続的に参照される傾向があります。

重要なのは、PRBがインパクトファクターの高さだけを追求しているジャーナルではないということです。エディターやレフリーは、論文の新規性、科学的妥当性、そして分野に対する貢献度を重視して評価を行います。真に重要で質の高い研究成果が、インパクトファクターに左右されず適切に評価される環境が、PRBの高い学術的地位を支えています。

2.3. 厳格な査読プロセス

PRBの高い評価の根底には、厳格で公平な査読プロセスがあります。投稿された論文は、まずエディターによるスクリーニングを受け、ジャーナルのスコープに合致し、かつ最低限の質を備えているかどうかが判断されます。ここで、スコープ外である、新規性に乏しい、あるいは明らかに不備があるといった理由で、査読に回されることなく却下される(デスクリジェクト, Desk Rejection)論文も少なくありません。

査読に回された論文は、通常2名以上の当該分野の専門家(レフリー)によって詳細に評価されます。レフリーは、研究の科学的妥当性、新規性、重要性、論文の構成、図表の質、英語表現の適切さなど、多岐にわたる観点から論文を精査し、詳細なレポートを作成します。エディターはこれらのレフリーレポートと自身の判断に基づいて、採択(Accept)、軽微な修正(Minor Revision)、大幅な修正(Major Revision)、または却下(Reject)の決定を下します。

特に大幅な修正が求められた場合、著者はレフリーからのコメントに対し、一つ一つ丁寧に反論または対応策を説明し、論文を修正する必要があります。このプロセスは時に厳しく、時間を要することもありますが、論文の質を向上させる上で極めて重要です。この厳格な査読プロセスを経ることで、PRBに掲載される論文の信頼性と質の高さが担保されています。

3. PRB のスコープと扱う分野

PRBのスコープは、凝縮系物理学と材料科学における基礎研究を幅広くカバーしています。具体的には、以下のような分野が主要な対象となります。ただし、これは網羅的なリストではなく、学際的な研究や新たな研究分野も含まれます。

3.1. 主要な研究分野

  • 電子構造と輸送現象 (Electronic Structure and Transport Properties): バンド理論、密度汎関数理論(DFT)、強相関電子系、半導体、金属、絶縁体、超伝導体、トポロジカル物質における電子構造の計算および実験、電気伝導、熱電効果、ホール効果、磁気抵抗などの輸送現象。
  • 光学特性と分光法 (Optical Properties and Spectroscopy): 物質の光吸収、発光、ラマン散乱、非線形光学効果、紫外可視分光、赤外分光、X線吸収・放出分光、光電子分光(ARPESなど)による電子構造や励起状態の研究。
  • 磁性 (Magnetism): 強磁性、反強磁性、スピングラス、マルチフェロイックス、磁気構造、磁気秩序、スピントロニクス、磁気共鳴などの理論および実験的研究。
  • 超伝導 (Superconductivity): 高温超伝導、Conventional超伝導、トポロジカル超伝導、超伝導メカニズム、ジョセフソン効果、超伝導における量子現象などの研究。
  • 構造相転移と格子ダイナミクス (Structural Phase Transitions and Lattice Dynamics): 結晶構造、相転移、フォノン、格子振動、X線回折、中性子散乱、電子回折による構造解析。
  • 表面、界面、薄膜 (Surfaces, Interfaces, and Thin Films): 表面再構成、吸着、表面電子状態、薄膜成長、界面現象、ヘテロ構造、超格子、表面・界面における電子輸送や磁性。
  • ナノスケールシステムと低次元系 (Nanoscale Systems and Low-Dimensional Systems): 量子ドット、ナノワイヤー、カーボンナノチューブ、グラフェン、その他の二次元物質、量子ホール効果、メゾスコピック系、ナノ材料における新しい物理現象。
  • ソフトマター物理学 (Soft Matter Physics): 液晶、高分子、コロイド、ゲル、バイオマテリアルの一部における物理的性質やダイナミクス(ただし、物理学の観点からの基礎研究に焦点を当てる)。
  • アモルファス物質とガラス (Amorphous Materials and Glasses): 非晶質固体、ガラス転移、液体構造、ガラスの物理的性質。
  • 計算物理学と理論的手法 (Computational Physics and Theoretical Methods): 密度汎関数理論(DFT)、分子動力学(MD)、モンテカルロ法、量子モンテカルロ法、第一原理計算、タイトバインディングモデル、場の理論的手法など、凝縮系物理学および材料科学の研究に用いられる理論的手法や計算アルゴリズムの開発および応用。

3.2. 論文のタイプと期待される質

PRBに掲載される論文は、単に新しい実験結果や計算結果を報告するだけでなく、その分野の基礎的な理解を進めるような、新規性、重要性、そして科学的妥当性の高い研究であることが求められます。現象の根源的なメカニズムを解明したり、新しい概念や理論を提案したり、既存の理論やモデルを検証・発展させたりするような研究が特に高く評価されます。

したがって、単なる材料合成や特性評価の結果、あるいは既存の手法を用いたルーチンワーク的な研究では、PRBに掲載される可能性は低いと考えられます。なぜその現象が起こるのか、その結果は何を意味するのか、そしてその知見は分野にどのような貢献をするのかを明確に示すことが重要です。

4. 論文の種類とフォーマット

PRBには主に二つの主要な論文タイプがあります。

4.1. Regular Article (正論文)

最も一般的な論文タイプです。研究の背景、実験または理論的手法、結果の詳細な記述、考察、結論など、研究成果を網羅的に報告します。論文の長さに関する厳格な制限はありませんが、研究内容を明確かつ簡潔に伝えるために必要な範囲内で記述する必要があります。複雑な手法の詳細や、膨大なデータセットの一部など、本文に含めると冗長になる情報は、Supplemental Material (補足資料) として投稿することができます。Regular Articleは、比較的長い時間軸でその価値が評価される、基礎的・網羅的な研究に適しています。

4.2. Rapid Communication (速報)

極めて重要で、新規性が高く、緊急に公表すべき研究成果を迅速に報告するための論文タイプです。Regular Articleよりも短く、通常はエディターによる判断と迅速な査読プロセスを経て、速やかに掲載されます。Rapid Communicationとして受理されるためには、その研究成果が分野に大きな影響を与えうる明確なブレークスルーであること、そしてその情報が迅速にコミュニティに共有される必要があることが求められます。単に興味深い結果であるというだけでは不十分で、その成果の「速報性」と「分野へのインパクト」を強くアピールする必要があります。そのため、Regular Articleよりも競争率が高く、受理されるハードルは一般的に高いと言えます。

4.3. Supplemental Material (補足資料)

Regular ArticleやRapid Communicationでは扱いきれない詳細な実験手法、追加のデータ、長い導出過程、動画ファイルなど、論文の主要な内容を補足する資料として投稿できます。Supplemental Materialはオンライン版でのみ公開され、論文本体とは別に参照されます。レフリーは査読時にSupplemental Materialを参照することが推奨されており、研究の再現性や詳細な理解のために重要な役割を果たします。

4.4. フォーマット

PRBの論文は、特定のフォーマットに従って記述する必要があります。一般的には、以下の要素で構成されます。

  • Title: 研究内容を正確かつ魅力的に伝えるタイトル。
  • Authors and Affiliations: 著者名と所属機関。Orcid IDの登録が推奨されます。
  • Abstract: 研究の目的、手法、主要な結果、結論を簡潔にまとめた要約(通常200語以内)。
  • Introduction: 研究の背景、既存の研究との関係、本研究の目的と重要性を記述します。読者が論文の意義を理解できるように、当該分野の専門家でなくても内容を把握できるような配慮が必要です。
  • Methods (or Theoretical Framework): 実験手法、計算手法、理論的アプローチなど、研究を行う上で用いた方法論の詳細を記述します。十分な詳細を含めることで、他の研究者が結果を再現できるようになります。
  • Results: 得られた主要な結果を、図表を用いて分かりやすく提示します。図表は論文の「顔」となるため、高品質なものを用意することが極めて重要です。
  • Discussion: 得られた結果の意味について考察し、既存の知識との比較、結果から導かれる結論、未解決の課題などを議論します。ResultsとDiscussionを統合して”Results and Discussion”とすることもよくあります。
  • Conclusion: 研究全体を簡潔にまとめ、主要な結論と、将来展望や今後の課題について述べます。
  • Acknowledgements: 研究の遂行にあたり謝意を表明すべき人や組織(共同研究者、技術支援、資金提供元など)を記載します。
  • Appendices: 本文に含めると流れが悪くなるが、詳細な情報が必要な事項(例:長い数式の導出、補助的な定理の証明など)を記載します。
  • References: 論文中で引用した文献リスト。APSの指定する形式に従って記述します。

論文の執筆には、APSが推奨するRevTeXというLaTeXスタイルファイルを使用するのが一般的です。これにより、APSジャーナルに最適なフォーマットで原稿を作成できます。図表のファイル形式や解像度についても、詳細な規定がありますので、投稿前に必ず確認が必要です。

5. PRB を選ぶ理由

数あるジャーナルの中からPRBを論文投稿先として選ぶことには、以下のような明確なメリットがあります。

  • 高い学術的認知度と信頼性: PRBは、凝縮系物理学・材料科学分野におけるトップジャーナルとして世界的に認知されています。PRBに掲載されることは、研究の質が高いことの強力な証明となり、研究者としての評価を高めます。
  • 広範な読者層: PRBは、世界中の大学、研究機関、企業の物理学者や材料科学者に購読されており、論文は非常に広い読者層にリーチします。これにより、研究成果が多くの研究者の目に触れ、引用される機会が増加します。
  • 厳格かつ建設的な査読: PRBの査読プロセスは非常に厳格ですが、その多くは論文の科学的妥当性、新規性、記述の明確さを向上させるための建設的なコメントを含んでいます。このプロセスを通じて、論文の質が大きく向上することが期待できます。
  • 長期的なアクセスと影響力: APSのPhysical Review Archiveにより、PRBに掲載された論文は将来にわたって永続的にアクセス可能です。また、分野の基礎となる研究が多く掲載されているため、出版から年月が経っても継続的に引用され、長期的な影響力を持つ論文となる可能性があります。
  • 分野内の重要な文献とのリンク: PRBに掲載されることは、その分野の最も重要な研究文献群に自身の研究が加わることを意味します。これにより、関連分野の研究者とのネットワーク構築や共同研究の機会にも繋がる可能性があります。
  • プレステージ: PRBへの掲載は、研究者にとって大きな達成感と誇りをもたらします。特に学生や若手研究者にとっては、その後のキャリアにおける大きなステップとなります。

6. 投稿プロセス詳細

PRBへの論文投稿プロセスは、複数の段階を経て進行します。それぞれの段階での対応が、採択の可能性に大きく影響します。

6.1. 投稿前の準備

  1. 研究内容の最終確認: 研究成果がPRBのスコープに合致しているか、新規性、重要性、科学的妥当性が十分であるかを改めて確認します。共同研究者がいる場合は、全員が投稿に同意していることを確認します。
  2. 論文執筆: APSの投稿規定(特にRevTeXの使用や図表の準備に関するガイドライン)に従って論文を執筆します。Introductionで研究の意義を明確に述べ、Resultsでは得られた結果を分かりやすく示し、Discussionでその意味を深く考察します。英語表現のチェックも重要です。ネイティブチェックサービスや、英語の得意な共同研究者に依頼することも有効です。
  3. カバーレターの作成: 論文の重要性をエディターに伝えるためのカバーレターは非常に重要です。論文のタイトル、著者、投稿タイプ(Regular Article or Rapid Communication)に加え、なぜこの研究がPRBのスコープに合致し、なぜ重要で新規性があるのかを簡潔かつ説得力を持って記述します。また、競合する可能性のある過去の自身の論文や他の研究者の論文に言及し、本研究がそれらとどう異なるか、どのように発展させているかを説明すると良いでしょう。査読を依頼したい、あるいは依頼してほしくない専門家(レフリー候補)を提案することもできますが、その正当な理由(専門性、利益相反がないことなど)を添える必要があります。レフリー候補を提案する際は、公平性を期すため、自身と利益相反のない(共同研究者、元指導教官/学生、同じ機関の研究者などではない)研究者を選ぶ必要があります。
  4. Supplemental Materialの準備: 必要に応じて、補足資料を投稿規定に従って準備します。

6.2. オンライン投稿システム (Editorial Manager) の利用

APSのジャーナル投稿は、通常Editorial Managerというオンラインシステムを通じて行われます。アカウントを作成し、システム上で以下の情報やファイルをアップロードします。

  • 論文の情報(タイトル、著者、所属、Abstract、キーワードなど)
  • 論文ファイル(PDF形式、RevTeXファイルなど)
  • 図表ファイル(適切な解像度と形式で)
  • Supplemental Materialファイル
  • カバーレター
  • レフリー候補の提案(任意)

投稿が完了すると、システムから確認メールが届き、Manuscript IDが付与されます。このIDを用いて、システム上で論文の進捗状況を確認することができます。

6.3. エディターによる初期スクリーニング

投稿された論文は、まず担当のエディター(Editor)またはアソシエイトエディター(Associate Editor)によって初期スクリーニングが行われます。ここでは主に以下の点がチェックされます。

  • スコープ: 論文の内容がPRBのカバーする分野に合致しているか。
  • 新規性と重要性: 論文に報告されている成果が、既に発表されている研究に対して十分な新規性があり、かつ凝縮系物理学・材料科学分野において十分に重要であるか。Rapid Communicationの場合は、特にその「緊急性」と「ブレークスルー性」が厳しく評価されます。
  • 最低限の科学的妥当性: 明らかに科学的な誤りがないか、結論を支持する十分なデータがあるか。
  • 形式: 論文の構成やフォーマットが最低限の基準を満たしているか。

この段階で、論文がジャーナルの基準を満たさないと判断された場合、査読に回されることなく却下されます(デスクリジェクト, Desk Rejection)。デスクリジェクトの理由は様々ですが、「スコープ外」「新規性・重要性の不足」「科学的妥当性の問題」などが挙げられます。デスクリジェクトは著者にとって残念な結果ですが、エディターが多数の論文を効率的に処理し、レフリーの負担を軽減するために必要なプロセスです。デスクリジェクトとなった場合でも、多くの場合、他のジャーナルへの投稿が推奨されます。

6.4. 査読 (Peer Review) プロセス

初期スクリーニングを通過した論文は、査読に進みます。

  1. レフリーの選定: エディターは、論文の内容に関する専門知識を持ち、公平な評価を行える複数の研究者(レフリー)を選定します。著者が提案したレフリー候補も考慮されることがありますが、最終的な選定はエディターが行います。通常、2名または3名のレフリーに査読が依頼されます。
  2. レフリーによる評価: 依頼を受けたレフリーは、論文の詳細な内容(研究の設計、手法、結果、考察、結論、新規性、重要性、論文の構成、図表、引用文献など)を評価し、その意見と推奨(採択、修正、却下など)をまとめたレポートを作成し、エディターに提出します。このプロセスには、通常数週間から数ヶ月を要します。
  3. エディターによる決定: エディターは、レフリーからのレポートと自身の判断を総合して、論文の採否に関する最終的な決定を下します。決定は以下のいずれかとなります。
    • Accept (採択): 論文はこのまま掲載されるか、非常に軽微な修正のみで掲載可能と判断された場合。PRBでは稀です。
    • Minor Revision (軽微な修正): 論文に minor な問題点があるが、簡単な修正で解決できると判断された場合。レフリーやエディターからのコメントに基づき、論文を修正し、回答書とともに再投稿します。多くの場合、再査読は不要ですが、エディターが判断します。
    • Major Revision (大幅な修正): 論文に major な問題点があり、追加の実験や解析、理論計算、あるいは大幅な加筆・修正が必要と判断された場合。著者はレフリーからのコメントに一つ一つ丁寧に回答し、必要な修正を施した論文を回答書とともに再投稿します。この場合、多くは元のレフリーによる再査読が行われます。
    • Reject (却下): 論文に根源的な問題があり、PRBの基準を満たすように修正することが困難であると判断された場合。研究内容自体に問題がある、新規性や重要性が決定的に不足している、理論や実験に重大な誤りがあるなどが理由となります。
    • Reject & Resubmit (却下・再投稿可): 重大な問題があるが、追加の研究や大幅な書き直しによって、将来的にPRBでの掲載基準を満たす可能性があるとエディターが判断した場合。これはRejectですが、改善後に新規論文として再投稿することが認められるケースです。

6.5. リビジョンプロセス

Minor RevisionまたはMajor Revisionの通知を受けた場合、著者はレフリーおよびエディターからのコメントに誠実かつ丁寧に対応する必要があります。

  1. コメントの分析: レフリーからのコメント(通常、著者へのコメントとエディターへの秘密のコメントがありますが、著者は著者へのコメントを見ることができます)を全て読み込み、それぞれのコメントが何を求めているのか、どのような意図があるのかを正確に理解します。疑問点があれば、必要に応じてエディターに問い合わせることも可能です。
  2. 修正内容の検討と実施: コメントに基づき、論文のどこをどのように修正するかを具体的に検討し、必要な追加実験、解析、計算、記述の変更を行います。レフリーの指摘が正当である場合は、その通りに修正し、不十分であった記述を補強します。レフリーの指摘が誤解に基づいている、あるいは受け入れられない理由がある場合は、その点を回答書で丁寧に説明し、科学的な根拠を示して反論する必要があります。ただし、やみくもに反論するのではなく、指摘の意図を汲み取り、論文の記述をより明確にするなどの建設的な対応を心がけることが重要です。
  3. 回答書の作成: レフリーからのコメントに対し、一つ一つに回答する詳細な回答書を作成します。コメントをそのまま引用し、その下にそれに対する著者の回答(どのような修正を行ったか、なぜその修正が適切なのか、あるいはなぜ修正しなかったのかとその理由)を記述します。論文中のどこを修正したか(ページ番号、行番号など)を具体的に示すと、レフリーやエディターが確認しやすくなります。
  4. 修正論文の準備: 修正箇所を分かりやすく示した修正版論文ファイル(通常、変更箇所をハイライトするなど)と、最終版となるクリーンな論文ファイルを用意します。図表やSupplemental Materialも必要に応じて修正します。
  5. 再投稿: Editorial Managerシステムを通じて、修正論文、回答書、その他の必要書類を再投稿します。

Major Revisionの場合、再査読が行われることが一般的です。レフリーは修正論文と回答書を評価し、著者がコメントに適切に対応したか、論文がPRBの掲載基準を満たすレベルに達したかを判断します。このプロセスが繰り返されることもあります。

6.6. 採択と出版

論文が最終的にAcceptと判断されると、採択通知が送られてきます。その後、論文は制作部門に送られ、最終的なフォーマット調整(組版)、図表の確認などが行われます。著者には校正刷り(Proof)が送付され、誤植がないかなどの最終確認を行います。確認が完了すると、論文はオンラインジャーナルに掲載され、正式に発表となります。物理的な印刷版は現在ほとんど発行されていませんが、オンライン版が恒久的な記録となります。

7. 編集ポリシーと倫理

PRBを含むAPSジャーナルは、厳格な編集ポリシーと高い倫理基準を設けています。投稿にあたっては、これらのポリシーを理解し遵守することが必須です。

  • オリジナリティと重複投稿: 投稿する論文は、未発表のオリジナルな研究成果でなければなりません。他のジャーナルに既に出版されている、あるいは同時に投稿されている論文と同じ内容を投稿することは、重複投稿(Duplicate Submission)として倫理違反となります。研究の進展に伴い、以前の論文を発展させた内容を投稿することは可能ですが、その場合は以前の論文との関係性を明確に示し、重複している部分がないように注意が必要です。
  • 剽窃 (Plagiarism): 他の研究者のアイデア、文章、図表などを適切に引用せずに自身のものとして提示することは、深刻な倫理違反です。他者の成果を引用する場合は、必ず出典を明記する必要があります。自己剽窃(Self-Plagiarism)、つまり自身の既発表論文からの不適切な流用も避けるべきです。
  • 著者資格 (Authorship): 論文の著者となる資格は、研究の構想、設計、実施、データ解析、結果の解釈、論文執筆など、研究に実質的に貢献した者のみに与えられます。技術的な支援のみを行った者や、研究室の責任者であるという理由だけで貢献していない者を著者に加えること(Gift Authorship)、あるいは貢献した者を著者から除くこと(Ghost Authorship)は倫理違反となります。すべての著者は、最終版の論文内容に同意している必要があります。
  • データ公開と再現性: PRBは、研究の再現性を高めるために、論文中で報告された結果を支持するデータやコードを公開することを推奨しています。特に、ユニークな手法やデータを用いた場合は、可能な限りデータを共有することが求められる場合があります。
  • 利益相反 (Conflict of Interest): 論文の評価に影響を与える可能性のある、著者とジャーナル、エディター、レフリー、あるいは論文の内容に関連する企業や組織との間の経済的あるいは個人的な関係は、すべて開示する必要があります。
  • 人間の被験者と動物実験: 人間の被験者を用いた研究や動物実験を含む研究の場合、倫理委員会の承認を得ていることなど、適切な倫理的配慮がなされていることを論文中に明記する必要があります。
  • プレプリント (Preprints): APSは、arXivなどのプレプリントサーバーに投稿前の論文を公開することを認めています。プレプリントとして公開した論文をPRBに投稿することは問題ありません。ただし、PRBに論文が受理された後、プレプリントサーバーの情報を更新し、PRBに掲載された最終版論文へのリンクを貼ることが推奨されます。

これらのポリシーに違反した場合、論文の却下、将来のAPSジャーナルへの投稿制限、所属機関への通知など、深刻な結果を招く可能性があります。研究者として、常に高い倫理意識を持って研究活動と論文投稿を行うことが重要です。

8. 投稿を成功させるためのヒント

PRBのような競争率の高いジャーナルへの投稿を成功させるためには、研究内容の質に加えて、いくつかの重要な点に注意を払う必要があります。

8.1. 研究内容の「PRBらしさ」を追求する

前述のスコープの項目で述べたように、PRBは「分野の基礎的な理解を進める、新規性、重要性、科学的妥当性の高い研究」を求めています。自身の研究が、単なる新しいデータ報告に終わっていないか、既存の知識をどのように発展させるものなのか、より普遍的な原理やメカニズムに迫るものなのかを自問自答し、それを論文中で明確に示す必要があります。

8.2. 論文の構成と記述の明確さ

研究内容が素晴らしくても、それが読者やレフリーに伝わらなければ意味がありません。

  • Introduction: なぜこの研究が必要なのか、先行研究のどこが不十分で本研究がそれをどう補うのか、そして本研究の最も重要な発見は何かを、当該分野の専門家なら誰でも理解できるように、簡潔かつ説得力を持って記述します。最後のパラグラフで、論文の構成(各セクションに何が書かれているか)を示すと親切です。
  • Results: 得られた結果を論理的な順序で提示します。図表が結果の核心を伝えるように工夫し、本文では図表で示したデータを分かりやすく説明します。
  • Discussion: 結果から何が言えるのか、それが分野にとってどのような意味を持つのかを深く考察します。単に結果を繰り返すのではなく、なぜその結果が得られたのかのメカニズムを議論したり、他の研究との比較を行ったりします。過度な主張は避け、得られた結果から妥当に導かれる結論を述べます。
  • 全体構成: ストーリーテリングを意識します。導入で問題提起を行い、手法を説明し、結果を示し、その結果から何が分かったのかを議論し、結論で研究の意義をまとめるという、論理的な流れを明確にします。

8.3. 高品質な図表の作成

図表は論文の理解を助けるだけでなく、論文全体の印象を左右します。

  • 明確さ: 凡例、ラベル、軸の目盛りは読みやすく、十分な解像度で作成します。
  • 情報の正確さ: データは正確にプロットされ、エラーバーなど必要な情報を含めます。
  • 分かりやすさ: 一つの図表で伝えたいメッセージを明確にし、過度に情報を詰め込みすぎないようにします。
  • デザイン: 色のコントラストや線の太さなどを工夫し、視覚的に分かりやすいデザインを心がけます。APSの投稿規定で推奨されるファイル形式や解像度を守ります。

8.4. カバーレターの重要性

カバーレターは、エディターが論文の内容と重要性を最初に把握する機会です。定型的な挨拶だけでなく、なぜこの論文がPRBにふさわしいのか、その新規性、重要性、そして分野への貢献度を簡潔に、しかし力強く記述します。ラピッドコミュニケーションとして投稿する場合は、その「速報性」と「ブレークスルー性」を特に強調する必要があります。

8.5. レフリーレポートへの丁寧かつ建設的な対応

リビジョン段階で最も重要なのが、レフリーレポートへの対応です。

  • 全てのコメントに回答: レフリーからのコメント一つ一つに対して、漏れなく回答します。たとえ些細に見えるコメントであっても、真摯に対応することで、著者が査読プロセスを真剣に受け止めているという姿勢を示すことができます。
  • 論理的な反論: レフリーの指摘が誤解に基づいている、あるいは科学的に受け入れがたい場合は、感情的にならず、科学的な根拠や論理的な説明をもって丁寧に反論します。同時に、なぜレフリーがそのように理解したのかを考え、論文中の記述をより明確にするなどの改善を検討することも重要です。
  • 修正箇所の明示: 論文をどのように修正したのかを、回答書と修正版論文の両方で明確に示します。回答書で「論文中のXXページXX行目をYYのように変更した」と具体的に記述し、修正版論文では変更箇所を色付けするなどして分かりやすくします。
  • エディターへの配慮: 回答書はレフリーだけでなくエディターも読みます。エディターは、著者がレフリーのコメントに適切に対応しているか、論文の質が向上しているかを総合的に判断します。レフリーとの間に意見の相違がある場合でも、エディターが公平な判断を下せるように、状況を分かりやすく説明することが重要です。

8.6. 英語表現の適切さ

PRBは国際ジャーナルであり、論文は英語で記述する必要があります。科学的内容が素晴らしくても、英語表現が不明瞭であったり、文法ミスが多かったりすると、レフリーや読者の理解を妨げ、論文の評価を下げてしまう可能性があります。投稿前に、ネイティブチェックサービスを利用したり、英語が得意な同僚に読んでもらったりして、英語の質を向上させる努力を強く推奨します。

9. PRB 以外の選択肢と関連ジャーナル

凝縮系物理学や材料科学分野には、PRB以外にも数多くの優れたジャーナルがあります。研究内容や目的に応じて、適切な投稿先を選択することが重要です。APS内にも、PRBと関連性の高いジャーナルがいくつかあります。

  • Physical Review Letters (PRL): 物理学全分野における、特に重要で新規性の高い、広範な物理学分野の読者にとって関心の高い速報論文を掲載するジャーナルです。凝縮系物理学分野のブレークスルー的な成果で、広い分野にインパクトを与えるものはPRLに投稿されることがあります。競争率はPRBのRapid Communicationよりもさらに高く、受理されるのは非常に困難です。
  • Physical Review X (PRX): 物理学全分野における、革新的で学際的、そして大きなブレークスルーとなる研究を掲載する、オープンアクセスのトップジャーナルです。PRLと同様に競争率は非常に高く、PRBよりもさらに広範で根本的な問いに答えるような研究が対象となります。
  • Physical Review Materials (PRMaterials): 2017年に創刊された、材料科学に特化したオープンアクセスのジャーナルです。新規材料の発見、材料の合成・構造・特性に関する研究、材料関連の理論・計算など、より材料応用や新規材料開発に焦点を当てた研究はこちらのジャーナルの方が適している場合があります。PRBの材料科学分野の一部をカバーする形ですが、スコープはより広範かつ応用に近いです。
  • Physical Review Applied (PRApplied): 物理学の原理を応用したデバイス、技術、手法に関する研究を掲載するジャーナルです。凝縮系物理学や材料科学の研究成果が、具体的なデバイスや技術に結びつくような研究はこちらが適切です。
  • Physical Review Research (PRResearch): 2019年に創刊された、幅広い分野の物理学および関連分野のオープンアクセスジャーナルです。PRLやPRBほどではないかもしれませんが、健全な査読プロセスを経て、質の高い研究を掲載しています。学際的な研究など、PRBのスコープに厳密には合致しないものの、物理学的なアプローチを用いた研究に適しています。

APS以外の出版社からも、凝縮系物理学や材料科学のトップジャーナルが多数発行されています。代表的な例としては、Nature Physics, Nature Materials, Nature Communications, Nano Letters, ACS Nano, Advanced Materials, Applied Physics Lettersなどがあり、それぞれに特徴やスコープがあります。

自身の研究成果が、どのジャーナルのスコープと最も合致し、どのジャーナルに掲載されるのがその研究にとって最も効果的かを慎重に検討することが重要です。迷う場合は、指導教官や同僚、あるいは各ジャーナルのエディターに相談してみるのも良いでしょう。

10. まとめ

Physical Review B (PRB) は、凝縮系物理学および材料科学分野における世界のトップジャーナルであり、基礎的かつ重要な研究成果を発表するための最高の舞台の一つです。PRBに論文を投稿し、採択されることは、研究者としての高い能力と、分野に貢献しうる優れた成果を持っていることの証となります。

PRBでの出版は、厳格な査読プロセスを経るため容易ではありません。しかし、その過程で論文の質は大きく向上し、世界中の広い読者層にリーチし、長期的な影響力を持つ可能性を秘めています。

PRBへの投稿を成功させるためには、研究内容自体の質の高さに加え、ジャーナルのスコープを深く理解し、論文を明確かつ説得力を持って記述し、図表を高品質に仕上げ、カバーレターで研究の重要性を効果的に伝え、そして何よりもレフリーからのコメントに真摯かつ建設的に対応することが重要です。

もしあなたの研究成果が、凝縮系物理学や材料科学の基礎的な理解を深めるような、新規性、重要性、そして科学的妥当性を備えていると確信できるのであれば、ぜひPRBへの投稿を検討してください。それは、研究者としてのキャリアにおいて、間違いなく価値ある挑戦となるでしょう。

本記事が、PRBへの論文投稿を目指す皆様の一助となれば幸いです。繰り返しになりますが、投稿にあたっては、必ずAPSの公式ウェブサイトで最新の投稿規定をご確認ください。皆様の研究成果がPRBという素晴らしい舞台で輝くことを願っています。


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