Lossless Scalingでゲームパフォーマンス向上!仕組みと活用法の徹底解説
PCゲームの醍醐味は、美しいグラフィックと滑らかなフレームレートで最新タイトルをプレイできることでしょう。しかし、高性能なPCパーツを揃えても、要求スペックの高いゲームでは「グラフィック設定を下げなければ快適に遊べない」「せっかくの高リフレッシュレートモニターを活かせない」といった悩みを抱えるゲーマーは少なくありません。特に、グラフィックカードの価格が高騰している現状では、手持ちのハードウェアで最大限のパフォーマンスを引き出すことが、より重要になっています。
そんな中で、PCゲーマーの間で注目を集めているのが「Lossless Scaling」というソフトウェアです。このツールは、主に「アップスケーリング」と「フレーム生成」という技術を応用することで、ゲームのパフォーマンスを大幅に向上させ、より快適なゲーム体験を実現する可能性を秘めています。
本記事では、このLossless Scalingについて、その基本的な仕組みから具体的な活用法、得られる効果、そして注意点まで、約5000語の大ボリュームで徹底的に解説します。あなたのPCゲーム環境をさらに快適にするために、ぜひ最後までお読みください。
1. Lossless Scalingとは何か? なぜパフォーマンスが向上するのか?
まず、Lossless Scalingがどのようなソフトウェアなのか、そしてなぜゲームのパフォーマンス向上に繋がるのか、その基本的な概念から説明します。
Lossless Scalingは、Steamで販売されているPC用ユーティリティソフトウェアです。その主な機能は、実行中のゲーム画面に対してリアルタイムに「スケーリング(拡大・縮小)」処理を施すことにあります。ここでいう「スケーリング」は単なる画面サイズの調整ではなく、画質を維持・向上させながら解像度を変更する高度な処理を含みます。
そして、このソフトウェアがゲームパフォーマンス向上に寄与する理由は、主に以下の2つの主要機能にあります。
- アップスケーリング(Upscaling): ゲームを低い解像度でレンダリングし、それをディスプレイのネイティブ解像度(本来表示したい解像度)に拡大して表示する技術です。低い解像度でレンダリングすることでGPU(グラフィックカード)の負荷が大幅に軽減され、結果としてフレームレートが向上します。Lossless Scalingは、このアップスケーリング処理を、ゲーム自体が対応していなくても、後付けで、しかも様々な高品質なアルゴリズムを用いて適用できるようにします。
- フレーム生成(Frame Generation): 既存のゲームフレームとゲームフレームの間に、AIや光学フローなどの技術を用いて中間フレームを生成・挿入する技術です。これにより、GPUが実際にレンダリングしたフレーム数よりも多いフレームレートで見かけ上表示されるため、画面の滑らかさが増し、より高フレームレートでプレイしているかのような体験が得られます。Lossless Scalingのフレーム生成機能は、NVIDIAのDLSS 3やAMDのFSR 3といった特定のハードウェアやAPIに依存するフレーム生成技術とは異なり、より汎用的に多くのゲームに適用できるのが特徴です。
つまり、Lossless Scalingは、ゲームを低い負荷(低解像度レンダリング)で動作させ、その結果を高品質なスケーリングで補完し、さらにフレーム生成で滑らかさを増す、というアプローチによって、PCのパフォーマンスを最大限に引き出し、より快適なゲーム体験を実現するツールなのです。
従来のPCゲームでは、パフォーマンスと画質はトレードオフの関係にありました。フレームレートを稼ぐには解像度を下げたりグラフィック設定を低くしたりする必要があり、画質を追求すればフレームレートが犠牲になります。Lossless Scalingは、このトレードオフを緩和し、「低負荷で高フレームレート」を実現しつつ、「アップスケーリングで画質を維持・向上」し、「フレーム生成でさらに滑らかに」という、一見相反する要素の両立を目指すツールと言えるでしょう。
ただし、これらの技術は魔法ではありません。アップスケーリングにはある程度の画質劣化が伴う可能性があり、フレーム生成には入力遅延の増加や表示の乱れ(アーティファクト)が発生するリスクがあります。Lossless Scalingを効果的に活用するためには、これらの仕組みを理解し、ゲームやPC環境に合わせて適切に設定を調整することが非常に重要になります。
2. Lossless Scalingの主要機能詳解:アップスケーリング
Lossless Scalingの最も基本的な機能の一つが、アップスケーリングです。ゲームを本来表示したい解像度よりも低い解像度で動作させ、それをLossless Scalingがディスプレイの解像度に拡大して表示します。なぜこの方法でパフォーマンスが向上するのでしょうか?
2.1. アップスケーリングがパフォーマンス向上に繋がる仕組み
PCゲームの描画処理は、主にGPUが担います。ゲームを構成する3Dモデルの形状を計算するジオメトリ処理、表面の質感や色を計算するピクセルシェーディング処理、そしてそれらを組み合わせて最終的なフレームを生成するレンダリング処理など、多岐にわたります。
これらの処理、特にピクセルシェーディング処理の負荷は、レンダリングする解像度に大きく依存します。例えば、フルHD(1920×1080)でゲームをレンダリングする場合、GPUは約207万個のピクセルに対してシェーディング処理を行います。しかし、これをHD(1280×720)に下げると、処理対象のピクセルは約92万個となり、半分以下になります。同じフレームレート目標であれば、GPUはより少ない時間で処理を終えることができるため、結果的に高いフレームレートを達成しやすくなります。
アップスケーリングは、この「低い解像度でレンダリングする」という部分に着目します。ゲーム内の解像度設定を意図的にディスプレイのネイティブ解像度よりも低く設定します。そして、その低解像度でレンダリングされたフレームを、Lossless Scalingがリアルタイムにディスプレイの解像度(例えばフルHDや4K)に合わせて拡大表示するのです。
ゲームは低い負荷で動作できるため高いフレームレートが出やすくなり、Lossless Scalingがその結果を高品質に拡大するため、画質の劣化を最小限に抑えながら、高いフレームレートでのゲームプレイが可能になります。
2.2. Lossless Scalingで利用可能なアップスケーリングアルゴリズム
Lossless Scalingの大きな特徴は、多様なアップスケーリングアルゴリズムに対応している点です。単に拡大するだけでなく、画質を向上させたり、輪郭をシャープにしたり、ジャギー(階段状のギザギザ)を軽減したりするための、様々な手法を選択できます。代表的なアルゴリズムをいくつか紹介しましょう。
- LS1 / LS2: Lossless Scaling独自のアルゴリズムです。特にLS2は、シャープネスとディテールの維持に優れているとされています。Lossless Scalingを使用する上で、まず試すべき基本的なアルゴリズムの一つです。
- NIS (NVIDIA Image Scaling): NVIDIAが提供する空間(Spatial)スケーリング技術です。GeForce ExperienceまたはNVIDIAコントロールパネルからドライバレベルでも利用できますが、Lossless Scaling経由でも利用可能です。比較的軽量で、適度なシャープネスを付加します。GPUの種類を問わず利用できます。
- FSR (AMD FidelityFX Super Resolution): AMDが提供するオープンソースの空間スケーリング技術です。こちらもLossless Scaling経由で利用可能です。FSRはバージョンによって特性が異なります(FSR 1.0はシャープネス重視、FSR 2.x以降は時間軸情報も利用するテンポラルスケーリングですが、Lossless Scalingで利用できるFSRは主に空間スケーリング版です)。GPUの種類を問わず利用できます。
- Anime 4K: 主にアニメや2Dイラストなどのアップスケーリングに特化したアルゴリズムですが、一部のゲームにも適用できる場合があります。輪郭を強調する特性があります。
- XBR: レトロゲームやドット絵の拡大によく使われるアルゴリズムです。ピクセルアートを滑らかに拡大します。
- FSRCNNX / NCNN: NCNNフレームワークをベースにした、比較的高品質なアップスケーリングアルゴリズムです。NCNNはニューラルネットワーク推論エンジンであり、AI(機械学習)の技術が応用されています。LS1やLS2よりも処理負荷は高い傾向がありますが、より自然な拡大が期待できます。
- その他: Bilinear, Bicubic, Nearest Neighborといった基本的な線形・非線形補間アルゴリズムも選択できますが、これらは一般的に高品質なアップスケーリングには向きません。
どのアルゴリズムが最適かは、ゲームのグラフィックスタイル、元の解像度、そしてユーザーの好みによって異なります。一般的に、LS2, NIS, FSRあたりが多くの3Dゲームでバランスの良い結果をもたらしやすい傾向にあります。FSRCNNXやNCNNはより高品質ですが、GPUによっては処理負荷が高すぎる場合があります。
2.3. アップスケーリング設定のポイント
Lossless Scalingでアップスケーリングを効果的に利用するための設定ポイントは以下の通りです。
- ゲーム内解像度の設定: ディスプレイのネイティブ解像度よりも低い解像度を選択します。例えば、フルHDディスプレイであれば、720p(1280×720)や900p(1600×900)などを試します。パフォーマンスが足りない場合はさらに低い解像度を、パフォーマンスに余裕がある場合はより高い解像度を試すのが良いでしょう。目安としては、ネイティブ解像度の50%(例: 4K -> 1080p)や67%(例: 4K -> 1440p)あたりの設定が一般的です。
- Lossless Scalingでのスケーリングタイプ選択: 「Scaling Type」で「Scaling」(アップスケーリングのみ)または「Scaling + FG」(アップスケーリングとフレーム生成の両方)を選択します。ここではアップスケーリング単体での効果を見たいので、「Scaling」を選んでみましょう。
- アルゴリズムの選択: 前述の中から、ゲームや好みに合わせてアルゴリズムを選択します。まずはLS2やNIS、FSRあたりから試してみるのがおすすめです。
- シャープネス調整(任意): 選択したアルゴリズムによっては、シャープネスの度合いを調整できる場合があります。デフォルト設定で物足りない、あるいはシャープすぎると感じる場合に調整します。シャープネスを上げすぎると、ノイズが目立ったり、輪郭に不自然な白い線(リングノイズ)が発生したりすることがあります。
- ゲームをウィンドウモードまたはボーダーレスウィンドウモードで起動: Lossless Scalingは、原則としてウィンドウモードまたはボーダーレスウィンドウモードで動作しているゲームに対して適用されます。ゲームの設定でこれらのモードを選択してください。
- Lossless Scalingの適用: ゲームが起動し、画面が表示されたら、Lossless Scalingウィンドウでゲームを選択し、「Scale」ボタンを押すか、設定したホットキーを押します。
アップスケーリングによって、ゲームのフレームレートは向上しますが、引き換えにある程度の画質劣化は避けられません。特に細かいテクスチャや文字などは、ぼやけたりジャギーが目立ったりする可能性があります。様々なアルゴリズムやゲーム内解像度を試して、パフォーマンス向上と画質劣化のバランスが最も良い設定を見つけることが重要です。
3. Lossless Scalingの主要機能詳解:フレーム生成
Lossless Scalingのもう一つの、そして非常に強力な機能がフレーム生成です。この機能は、ゲームがレンダリングするフレームの間に、新しいフレームを生成して挿入することで、見た目のフレームレートを倍増させることができます。
3.1. フレーム生成がフレームレート向上に繋がる仕組み
GPUは、ゲーム内のシーンを計算し、3Dモデルを配置し、ライティングやテクスチャを適用し、最終的な1枚の絵(フレーム)を描き出します。この処理にかかる時間によって、ゲームのフレームレート(1秒間に何枚のフレームを描けるか)が決まります。
フレーム生成は、このGPUが実際にレンダリングする処理そのものを速くするわけではありません。そうではなく、GPUが生成した既存のフレーム(基準フレーム)を元にして、その間に新しいフレーム(補間フレーム)を推測して作り出し、元のフレーム間に挿入します。
例えば、ゲームが1秒間に60フレーム(60fps)でレンダリングしているとします。これは、約16.7ミリ秒ごとに新しいフレームが表示されるペースです。フレーム生成を有効にすると、Lossless ScalingはGPUがレンダリングした各フレーム(例えばフレームAとフレームB)の間を見て、「フレームAからフレームBへの間にオブジェクトがどのように移動したか」「背景がどのように変化したか」といった情報を推測します。この推測に基づいて、フレームAとフレームBの間に存在するであろう仮想的な状態のフレーム(補間フレームAB)を生成し、A -> AB -> B の順で表示します。
これにより、1秒間に表示されるフレームの総数は、元のフレーム数(60フレーム)に補間フレーム数(60フレーム)が加算され、見かけ上120フレーム(120fps)になります。GPUのレンダリング負荷は60fpsのままでも、ディスプレイには120fpsで情報が送られるため、画面の動きがより滑らかに見えるという仕組みです。
Lossless Scalingでこの機能を提供するのが、主に「LSFG(Lossless Scaling Frame Generation)」およびその改良版である「LSFG 2.0」といったアルゴリズムです。これらは、NVIDIAのDLSS 3 Frame GenerationやAMDのFSR 3 Frame Generationとは異なり、特定のAPI(DirectX 12など)やGPUのTensorコア/Optical Flow Acceleratorといった専用ハードウェアに依存せず、汎用的なGPU計算(Compute Shaderなど)を利用してフレーム生成を行います。このため、NVIDIA、AMD、Intelといったメーカーや、比較的古い世代のGPUでも利用できる可能性が高いのが大きな利点です。
3.2. LSFG(Lossless Scaling Frame Generation)の詳細
LSFGは、Lossless Scalingにおけるフレーム生成機能の名称です。特にLSFG 2.0は、オリジナルのLSFGから多くの改良が加えられています。
- LSFG 2.0の仕組み: LSFG 2.0は、GPUのCompute Shaderを使用して、既存の2つのフレーム間におけるピクセルの動き(Optical FlowやMotion Vectorに近い概念)を推定し、中間フレームを生成します。特に、画面内のオブジェクトの動きや、カメラワークによる背景の動きなどを分析して、より自然な補間フレームを作り出そうとします。
- LSFG 2.0の改良点: LSFG 2.0では、オリジナルLSFGで問題となっていた点(HUDのちらつき、カーソルの表示乱れ、急激な動きへの追従性など)が大幅に改善されています。特に、HUDやUI要素を正しく検出してフレーム生成から除外する機能(Overlay Exclusion)や、カーソルの表示を滑らかにする機能などが追加されています。また、AFR (Alternate Frame Rendering) ライクな生成モードを選択できるなど、生成方法の選択肢も増えています。
- 互換性: LSFGは、DirectX 9, 10, 11, 12, Vulkanといった様々なグラフィックスAPIに対応しており、比較的多くのゲームで利用可能です。また、NVIDIA, AMD, IntelのGPUを問わず動作します。ただし、ゲーム側のレンダリングパイプラインやエンジンの特性によっては、うまく動作しない場合や、アーティファクトが目立つ場合があります。
3.3. フレーム生成のメリットとデメリット
フレーム生成は、ゲームの滑らかさを劇的に向上させる強力な機能ですが、メリットだけでなくデメリットも存在します。
メリット:
- フレームレートの大幅な向上: GPUが実際にレンダリングするフレームレートが例えば60fpsであれば、フレーム生成によって見かけ上120fpsで表示されるなど、視覚的な滑らかさが向上します。
- 幅広いハードウェア対応: LSFGは、特定のGPUメーカーや世代に依存せず、比較的多くのPC環境で利用可能です。
- 多くのゲームに対応: API非依存性が高いため、DLSS 3やFSR 3が対応していないゲームでもフレーム生成を利用できる可能性があります。
- 低フレームレートからの改善: 元のフレームレートが低い場合でも、フレーム生成によって一定の滑らかさを得られることがあります(ただし、元のフレームレートが極端に低いと、生成されるフレームの質が低下したり、遅延が大きくなったりします)。
デメリット:
- 入力遅延の増加: フレーム生成は、GPUがレンダリングしたフレームを基準にして後処理で中間フレームを生成するため、ユーザーが操作を行ってからその結果が画面に表示されるまでの時間(入力遅延)が増加します。特に応答速度が重要な対戦ゲームなどでは、この遅延がプレイフィールに悪影響を及ぼす可能性があります。
- 表示の乱れ(アーティファクト): 急激なカメラワーク、高速で動くオブジェクト、透過処理やパーティクルエフェクトなど、フレーム間の変化が大きいシーンでは、生成される中間フレームに不自然な表示(ゴースト、ちらつき、歪みなど)が発生しやすいです。特にHUDやUI要素は、ゲーム側の描画処理が他のオブジェクトと異なる場合があり、生成処理によってちらつきや乱れが発生することがあります(LSFG 2.0ではこの点が改善されていますが、完全に解消されるわけではありません)。
- フレームレートの変動: 元のフレームレートが不安定な場合、生成されるフレームも不安定になり、かえってカクつきや不自然さを感じることがあります。フレーム生成の効果を最大限に引き出すには、ある程度安定した元のフレームレート(目安として40fps以上)が望ましいとされます。
- 画質劣化の可能性: アップスケーリングと同時に使用する場合、元の低解像度による画質劣化と生成フレームによるアーティファクトが複合して、全体的な画質が損なわれる可能性があります。
3.4. フレーム生成設定のポイント
Lossless Scalingでフレーム生成を効果的に利用するための設定ポイントは以下の通りです。
- ゲーム内設定の最適化: フレーム生成の効果は、GPUが実際にレンダリングする元のフレームレートに依存します。フレーム生成によってターゲットとするフレームレートの半分程度の元のフレームレートが出ていると、良好な結果が得られやすいです。例えば、120fpsを目指すなら、ゲーム内設定でGPUが安定して60fps程度を出せるように、解像度やグラフィック設定を調整します。Vsyncはオフにするか、ゲーム内ではなくLossless Scaling側で適用するのが推奨されます(Lossless Scalingのフレーム生成はVsyncと組み合わせることでティアリングを防ぎ、より滑らかに表示されます)。
- Lossless Scalingでのスケーリングタイプ選択: 「Scaling Type」で「FG」(フレーム生成のみ)または「Scaling + FG」(アップスケーリングとフレーム生成の両方)を選択します。アップスケーリングは使用せずフレーム生成だけを試したい場合は「FG」を選びます。
- LSFGアルゴリズムの選択: 通常はLSFG 2.0を選択します。LSFG 2.0では、生成モード(Standard, Ultra Qualityなど)やAFRモードのオンオフなどを調整できます。AFRモードは、より遅延を抑えつつフレームを生成しようとしますが、ゲームによっては不自然な挙動を示す場合があります。
- Overlay Exclusion (HUD検出) の有効化: LSFG 2.0で追加された重要な機能です。これを有効にすることで、ゲーム内のHUDやUI要素をフレーム生成の対象から外し、ちらつきや乱れを防ぎます。ゲームによっては正しく検出されない場合もありますが、有効にしておくのが推奨されます。
- カーソル処理の最適化: LSFG 2.0には、ゲーム内のカーソル表示を滑らかにする設定があります。ゲームによってはカーソルがちらついたり遅延して見えたりする場合があるため、この設定を調整します。
- ゲームをウィンドウモードまたはボーダーレスウィンドウモードで起動: アップスケーリングと同様、ゲームはウィンドウモードまたはボーダーレスウィンドウモードで起動する必要があります。
- Lossless Scalingの適用: ゲームが起動したら、Lossless Scalingウィンドウでゲームを選択し、「Scale」ボタンを押すか、設定したホットキーを押します。
フレーム生成は、特に一人称視点のRPGやアドベンチャーゲーム、フライトシミュレーターなど、応答速度よりも視覚的な滑らかさが重視されるゲームで効果を実感しやすい機能です。競技性の高いオンライン対戦ゲームなど、わずかな入力遅延も避けたい場合は、使用を控えるか、効果と遅延増加のバランスを慎重に見極める必要があります。
4. パフォーマンス向上効果の実際:アップスケーリングとフレーム生成の組み合わせ
Lossless Scalingの真価は、多くの場合、アップスケーリングとフレーム生成を組み合わせて使用することで発揮されます。この組み合わせによって、低負荷での高フレームレートレンダリングと、それをさらに滑らかに見せるフレーム生成という、両方のメリットを享受できます。
4.1. 組み合わせによる相乗効果
例えば、ディスプレイのネイティブ解像度が1440p(2560×1440)で、GPUの力だけでは目標の120fpsを達成できないとします。Lossless Scalingを使用せずにゲーム内設定だけでフレームレートを上げようとすると、解像度を下げるか、多くのグラフィック設定を「低」や「中」にする必要があるかもしれません。
ここでLossless Scalingの組み合わせ技を使います。
- ゲーム内設定: ゲームの解像度を1080p(1920×1080)に設定します。これにより、GPUのレンダリング負荷が減少し、フレームレートが向上します。例えば、元の1440pでは60fpsだったのが、1080pにすることで90fpsまで向上したとします。
- Lossless Scaling設定: Lossless Scalingで「Scaling + FG」を選択し、スケーリングアルゴリズムはLS2、フレーム生成はLSFG 2.0を選択します。ターゲット解像度は1440p、ターゲットフレームレートは120fpsに設定します。
- 結果: ゲームは1080pで90fpsで動作します。Lossless Scalingは、この1080pの映像をLS2アルゴリズムで1440pにアップスケールし、さらにLSFG 2.0で90fpsの映像から中間フレームを生成して、最終的に1440pの180fps近い滑らかな映像として出力します(ターゲットフレームレートを120fpsに設定していれば、それ以上のフレームは表示されないように制御されます)。
この例のように、ゲームは比較的負荷の低い1080pで描画できるためGPUに余裕が生まれ、その結果として得られる高い(しかしネイティブ解像度よりは低い)フレームレートを元にフレーム生成を行うことで、最終的にネイティブ解像度に近い見た目の画質と、ネイティブ解像度でのレンダリングでは到底不可能だった高いフレームレートを両立できる可能性があります。
特に、GPUパワーに対してディスプレイ解像度が高すぎる環境(例:ミドルレンジGPUで4Kディスプレイ、あるいはローエンドGPUでフルHDディスプレイ)において、この組み合わせは非常に有効です。
4.2. 実際のパフォーマンス変化の例
パフォーマンスの変化は、使用するゲーム、PCのスペック、設定によって大きく変動します。一般的な傾向として、以下のような変化が期待できます。
- アップスケーリングのみ: ゲーム内解像度を下げる割合に応じて、GPU使用率が低下し、フレームレートが向上します。例えば、解像度を50%に下げてアップスケールした場合、フレームレートが30%~80%程度向上する可能性があります。ただし、上限はGPUのネイティブレンダリング能力とCPUボトルネックに依存します。
- フレーム生成のみ: ゲームが実際にレンダリングするフレームレートは変わりませんが、Lossless Scalingから出力される見かけ上のフレームレートは、元のフレームレートのほぼ倍になります。これにより、画面の滑らかさが大幅に向上します。ただし、入力遅延が増加します。
- アップスケーリング + フレーム生成: ゲーム内解像度を下げて元のフレームレートを向上させ、さらにその向上したフレームレートを元にフレーム生成を行うため、最も高い見かけ上のフレームレートを達成できます。例えば、元のフレームレートが40fps程度だったゲームで、解像度を下げて60fpsにし、さらにフレーム生成で120fpsを目指す、といった使い方が可能です。これは、パフォーマンスが足りずにプレイを諦めていたゲームや、設定を大きく妥協していたゲームを、より快適なフレームレートで楽しめるようになることを意味します。
重要なのは、これらの効果は「保証されるものではない」ということです。ゲームによってはアップスケーリングやフレーム生成との相性が悪く、アーティファクトが多発したり、期待したほどパフォーマンスが向上しなかったりする場合があります。また、PCのCPU性能が低い場合は、CPUボトルネックによってGPU負荷が軽減されてもフレームレートが頭打ちになったり、フレーム生成の計算自体がCPUの負荷になったりする可能性もあります。
常に、自分のPC環境とプレイしたいゲームに合わせて、様々な設定を試行錯誤し、最適なバランスを見つけることが大切です。
5. Lossless Scalingの具体的な活用法:導入から設定まで
それでは、実際にLossless Scalingを導入し、ゲームに適用する具体的な手順を解説します。
5.1. 入手とインストール
Lossless Scalingは、PCゲームプラットフォームであるSteamで販売されています。Steamストアで「Lossless Scaling」と検索し、購入します。購入後は、他のSteamソフトウェアと同様に、ライブラリからインストールできます。インストール自体は非常に簡単です。
5.2. システム要件
Lossless Scalingは、比較的幅広いPC環境で動作するように設計されていますが、特にフレーム生成機能を利用する場合は、ある程度のGPU性能が必要です。開発者からは具体的な最低/推奨スペックは示されていませんが、経験的には以下の点が重要になります。
- OS: Windows 10以降(Windows 11推奨)。
- GPU: DirectX 11/12、Vulkanに対応した近代的なGPU(NVIDIA GeForce GTX 10シリーズ以降、AMD Radeon RX 400シリーズ以降、Intel Arcシリーズなど)が望ましいです。特にLSFG 2.0はCompute Shaderを利用するため、ある程度新しいアーキテクチャの方が効率的です。
- CPU: フレーム生成処理自体はGPUで行われますが、ゲームのレンダリング負荷軽減によるフレームレート向上はCPU性能にも依存します。また、ゲームによってはCPUボトルネックが先に発生する場合があります。ある程度のマルチコア性能を持つCPUが望ましいです。
- メモリ: ゲーム自体の要求メモリ量に加え、Lossless Scalingが画面情報をキャプチャ・処理するためにメモリを使用します。ゲームが要求するメモリ量に加えて、ある程度の余裕(8GB以上、可能であれば16GB以上)があると安心です。
特にフレーム生成を使用する場合、元のフレームレートを安定させるためにGPU性能が重要です。また、フレーム生成アルゴリズムの計算にはGPUのCompute性能が関わります。
5.3. 基本的な使い方
Lossless Scalingの使い方は比較的シンプルです。
- Lossless Scalingを起動: SteamライブラリからLossless Scalingを起動します。
- ゲームを起動: Lossless Scalingを起動したまま、遊びたいゲームを起動します。
- ゲームの設定変更: プレイしたいゲームの設定画面で、表示モードをウィンドウモードまたはボーダーレスウィンドウモードに変更します。多くのゲームでデフォルトはフルスクリーンモードになっているため、この変更が必要です。また、アップスケーリングを利用する場合は、ここで目的の解像度(ディスプレイのネイティブ解像度より低い)に設定します。フレーム生成を利用する場合は、目標フレームレートの半分程度のフレームレートが安定して出るような解像度やグラフィック設定に調整し、Vsyncをオフにします。
- Lossless Scalingでのゲーム検出: ゲームが起動し、ウィンドウまたはボーダーレスウィンドウで表示されると、Lossless Scalingのウィンドウ上部の「Selected Game」欄にゲーム名が表示されるはずです。もし表示されない場合は、ゲームウィンドウがアクティブになっているか、ゲームが対応しているAPIでレンダリングされているかなどを確認してください。手動でゲームウィンドウを選択することも可能です。
- スケーリング設定の選択: Lossless Scalingウィンドウで、使用したいスケーリングタイプ(Scaling, FG, Scaling + FG)と、それぞれのアルゴリズム(LS2, LSFG 2.0など)を選択します。その他の詳細設定もここで調整します。
- スケーリングの適用: Lossless Scalingウィンドウ下部の「Scale」ボタンを押すか、あらかじめ設定しておいたホットキー(デフォルトは
ALT + S
)を押します。すると、ゲームウィンドウが拡大または全画面表示され、Lossless Scalingの処理が適用されます。
Lossless Scalingの適用中は、OSD(オンスクリーンディスプレイ)で現在のフレームレートや適用されている機能などが表示されます(設定で表示/非表示可能)。設定をリアルタイムで変更し、効果を確認しながら調整することも可能です。
スケーリングを解除したい場合は、再度ホットキーを押すか、Lossless Scalingウィンドウの「Unscale」ボタンを押します。
5.4. Lossless Scalingの詳細設定項目
Lossless Scalingには、様々な調整項目があります。主要なものを解説します。
- Selected Game: Lossless Scalingが検出したゲームウィンドウを選択します。
- Scaling Type:
Scaling
: アップスケーリングのみを行います。FG
: フレーム生成のみを行います。Scaling + FG
: アップスケーリングとフレーム生成の両方を行います。
- Scaling Algorithm (Scaling/Scaling + FG選択時): アップスケーリングに使用するアルゴリズムを選択します(LS2, NIS, FSR, FSRCNNX, NCNNなど)。
- Scaling Mode (Scaling/Scaling + FG選択時): アップスケーリングの適用方法を選択します。通常は「Auto」で問題ありませんが、特定の解像度で固定したい場合などに使用します。
- Scale To: スケーリング後の解像度を選択します。通常はディスプレイのネイティブ解像度を選択します(「Fullscreen」を選択すると、現在のディスプレイ解像度に合わせてスケーリングされます)。
- Target FPS (FG/Scaling + FG選択時): フレーム生成によって目指すフレームレートを設定します。通常はディスプレイのリフレッシュレートに合わせます(例: 120Hzディスプレイなら120fps)。「Auto」にすると、元のフレームレートを基準に最適なターゲットを自動設定しようとします。
- Frame Generation (FG/Scaling + FG選択時): フレーム生成に使用するアルゴリズムを選択します。通常は「LSFG 2.0」を選択します。
- LSFG 2.0 Settings:
Mode
: LSFG 2.0の生成モードを選択します(Standard, Ultra Quality, Low Latency, AFR Compatibleなど)。Standardがデフォルトでバランスが良いですが、遅延を抑えたい場合はLow Latency、特定のゲームとの互換性に問題がある場合はAFR Compatibleなどを試します。Overlay Exclusion
: HUDやUIの検出・除外機能のオンオフを設定します。通常はオン推奨です。Cursor
: カーソル処理に関する設定です。ゲーム内のカーソル表示が不自然な場合に調整します(Hide, Force Show, Optimizedなど)。Rendering Method
: フレーム生成のレンダリング方法を選択します。通常はデフォルトで問題ありません。Blend Frames
: 生成フレームと元のフレームをブレンドするかどうか。オンにすると残像感が減る可能性がありますが、画質に影響する場合もあります。
- LSFG 2.0 Settings:
- Sharpening (Scaling/Scaling + FG選択時): アップスケーリング後のシャープネス調整スライダー。アルゴリズムによっては無効です。上げすぎるとノイズやアーティファクトが増えます。
- Add Grain (Scaling/Scaling + FG選択時): 意図的に画面に粒状ノイズを加えることで、アーティファクトを目立ちにくくする効果が期待できます。好みに合わせて調整します。
- Scale UI (Scaling/Scaling + FG選択時): ゲーム内のUI要素もスケーリングの対象にするかどうか。通常はオンで問題ありません。
- Vertical Sync: Vsyncのオンオフを設定します。ゲーム内でVsyncをオフにしている場合、Lossless Scaling側でオンにすることでティアリングを防ぎ、滑らかさを保てます。フレーム生成と組み合わせる場合、通常はオンにするのが推奨されます。
- Hotkeys: スケーリングの適用/解除、OSD表示の切り替えなどのホットキーを設定します。
- OSD: オンスクリーンディスプレイの設定。表示する情報や表示位置、フォントなどを調整できます。パフォーマンス効果を確認するために、フレームレート表示はオンにしておくのがおすすめです。
- Profiles: ゲームごとに異なる設定を保存・ロードできます。様々なゲームでLossless Scalingを使用する場合に便利です。
- Auto Scale: Lossless Scaling起動時やゲーム検出時に自動でスケーリングを適用するかどうか設定できます。
これらの設定項目を、プレイするゲームやPCのスペック、そして自分の好みに合わせて調整することで、最適なパフォーマンスと画質のバランスを見つけ出すことができます。最初はデフォルト設定や推奨設定から始め、そこから少しずつ変更を加えて効果を確かめるのが良いでしょう。
5.5. ゲームごとの適用と調整
Lossless Scalingは多くのゲームで動作しますが、全てのゲームで同じように効果が得られるわけではありません。ゲームエンジンの違いやレンダリングパイプラインの特性によって、相性が良いゲームと悪いゲームが存在します。
相性の良い傾向にあるゲーム:
- 描画負荷が高く、ネイティブ解像度や高グラフィック設定でのプレイが難しいゲーム。
- 一人称視点のRPGやアドベンチャーゲームなど、瞬時の応答速度よりも視覚的な滑らかさが重視されるゲーム。
- シングルプレイ中心で、わずかな入力遅延がプレイフィールに大きく影響しないゲーム。
- 特定のGPU技術(DLSS, FSR)に対応していないが、フレームレートを向上させたいゲーム。
相性の悪い傾向にあるゲーム:
- UIやHUDが頻繁に更新されるゲーム(特に古いゲームや特殊な描画方式のゲーム)。LSFG 2.0のOverlay Exclusion機能でも完璧には対応できない場合があります。
- 競技性の高いオンライン対戦ゲームなど、最小限の入力遅延が求められるゲーム。フレーム生成による遅延が致命的になる可能性があります。
- 極端に古いゲームや、特殊なAPIを使用しているゲーム。
- アンチチートソフトが常駐しているゲーム。Lossless Scalingのような外部ツールがアンチチートに誤検出されるリスクがゼロではありません(ただし、Lossless Scalingはゲームのファイル自体を改変するわけではないため、他のチートツールと比較してリスクは低いと考えられます)。
Lossless Scalingを特定のゲームに適用する際は、以下の点を意識して調整を行うと良いでしょう。
- 最初にアップスケーリングのみを試す: フレーム生成は遅延を伴うため、まずはアップスケーリングのみ(Scalingモード)で、ゲーム内解像度を下げてパフォーマンスがどれだけ向上するかを確認します。同時に、様々なアルゴリズム(LS2, NIS, FSRなど)を試して、画質劣化が最も少ないものを見つけます。
- 次にフレーム生成を追加してみる: アップスケーリングで満足のいくフレームレートが得られなかった場合や、さらなる滑らかさを追求したい場合に、フレーム生成(FGまたはScaling + FGモード)を試します。LSFG 2.0を使い、Overlay ExclusionやCursor設定を調整します。入力遅延が増加するため、ゲームをプレイしながら遅延が許容範囲内かを確認します。
- ゲーム内設定との組み合わせ: Lossless Scalingの設定だけでなく、ゲーム内のグラフィック設定(テクスチャ品質、影、アンチエイリアスなど)も調整します。例えば、アップスケーリングで解像度を下げることでGPUに余裕ができた分、ゲーム内の他のグラフィック設定を少し上げる、といったことも可能です。
- OSDで効果を確認: Lossless ScalingのOSDを表示し、Lossless Scaling適用前のゲーム内フレームレートと、Lossless Scaling適用後の出力フレームレート(OSDに表示されるFPS)を比較します。また、GPUの使用率なども確認すると、パフォーマンスが向上しているか、ボトルネックは何かを把握しやすくなります。
- アーティファクトの確認: 画面の隅々まで注意深く観察し、不自然な表示(ちらつき、ゴースト、歪みなど)が発生していないかを確認します。特にHUDや高速で動くオブジェクト、パーティクルエフェクトなどに注目します。アーティファクトが目立つ場合は、フレーム生成の設定(モード変更、Blend Framesオフなど)を調整するか、フレーム生成の使用自体を検討します。
- 入力遅延の確認: 特に動きの速いゲームでは、マウスやコントローラーの操作に対する画面の反応を確認します。遅延が気になる場合は、フレーム生成の使用を控えるか、LSFG 2.0のLow Latencyモードなどを試します。NVIDIA ReflexやAMD Anti-Lagといった低遅延技術がゲームやドライバで利用できる場合は、これらと併用することで遅延を軽減できる可能性があります。
Lostless Scalingはゲームごとの設定プロファイルを保存できるため、一度最適な設定が見つかれば、次回からは簡単に同じ設定でプレイできます。
6. Lossless Scalingのメリット・デメリットまとめ
Lossless Scalingを導入・活用するにあたって、そのメリットとデメリットを改めて整理しておきましょう。
メリット:
- 圧倒的な汎用性: 特定のGPUメーカーやAPIに依存せず、多くのゲームでアップスケーリングとフレーム生成を利用できます。DLSSやFSRが対応していないゲームでもパフォーマンス向上を図れるのが最大の強みです。
- 幅広いハードウェア対応: 比較的新しいGPUだけでなく、少し古い世代のGPUやIntelの内蔵GPUなどでも機能を利用できる可能性があります。
- パフォーマンスの大幅な向上: 特にフレーム生成機能は、視覚的なフレームレートを大きく引き上げ、これまで快適にプレイできなかったゲームを遊べるようにする可能性があります。
- 設定の柔軟性: 多様なアップスケーリングアルゴリズムやフレーム生成の設定項目が用意されており、ゲームや環境に合わせて細かく調整できます。
- コストパフォーマンス: 比較的安価な買い切りソフトウェアであり、GPU買い替えに比べてはるかに低コストでパフォーマンス向上を目指せます。
- 継続的な開発: 開発者によるアップデートが頻繁に行われており、新しいアルゴリズムの追加や機能改善が進んでいます。
デメリット:
- 入力遅延の増加: フレーム生成機能は、ゲームの応答性を犠牲にする可能性があります。特に競技性の高いゲームでは大きな問題となり得ます。
- 表示の乱れ(アーティファクト): アップスケーリングやフレーム生成の性質上、不自然な表示(ゴースト、ちらつき、歪みなど)が発生するリスクがあります。ゲームやシーンによってはこれが目立ってしまい、画質が損なわれる場合があります。
- ウィンドウモード/ボーダーレスウィンドウモードが必須: フルスクリーンモードで動作するゲームにはそのままでは適用できません(一部、フルスクリーンでも動作報告があるゲームもありますが、基本的にはウィンドウモード化が必要です)。
- 設定にある程度の知識が必要: 効果を最大限に引き出すためには、ゲーム内設定やLossless Scaling側の設定項目を理解し、試行錯誤する必要があります。
- 完全なロスレスではない: 「Lossless」という名前がついていますが、これはスケーリング処理そのものが「情報を失わない」という意味ではなく、「元の画面情報を可能な限り忠実に再現しようとする」という意味合いが強いです。厳密には画質劣化は発生します。
- ゲームとの互換性問題: ごく一部のゲームでは、Lossless Scalingとの組み合わせで予期せぬ問題(クラッシュ、描画不具合など)が発生する可能性があります。また、アンチチートとの兼ね合いも考慮する必要があります。
これらのメリットとデメリットを理解した上で、自分のプレイスタイルやよく遊ぶゲームの種類、PC環境に合わせてLossless Scalingを賢く活用することが重要です。
7. 他のパフォーマンス向上技術との比較
Lossless Scaling以外にも、ゲームのパフォーマンスを向上させるための技術はいくつか存在します。代表的なものとLossless Scalingを比較してみましょう。
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NVIDIA DLSS (Deep Learning Super Sampling):
- 仕組み: AI(ディープラーニング)とTensorコアを利用したテンポラル(時間軸情報利用)アップスケーリングおよびフレーム生成技術。
- 特徴: 現在最も高品質なアップスケーリング技術の一つとされ、ネイティブ解像度に近い、あるいはそれ以上のディテールやシャープネスを再現できる場合があります。DLSS 3からはフレーム生成機能も追加され、視覚的フレームレートを大幅に向上できます。
- 対応: NVIDIA GeForce RTXシリーズのGPU(アップスケーリングは20シリーズ以降、フレーム生成は40シリーズ以降)が必要。ゲーム側がDLSSにネイティブ対応している必要があります。
- Lossless Scalingとの違い: DLSSはハードウェアとソフトウェア(ゲーム側の対応)の両方に依存するため、対応ゲームと対応GPUが限られます。一方、Lossless Scalingはより汎用的に様々なゲームとハードウェアで利用できます。ただし、アップスケーリングやフレーム生成の品質は、一般的に対応ゲームでのDLSSの方が優れている傾向があります。
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AMD FSR (FidelityFX Super Resolution):
- 仕組み: オープンソースのアップスケーリングおよびフレーム生成技術。FSR 1.0は空間(Spatial)スケーリング、FSR 2.xはテンポラル(Temporal)スケーリング、FSR 3はフレーム生成を追加。
- 特徴: オープンソースであり、特定のハードウェアに依存しないため、NVIDIA, AMD, Intelなど様々なGPUで利用可能です。ゲーム側の対応が必要ですが、DLSSよりは対応ハードウェアが広いです。FSR 2.xの品質はDLSSに近いレベルに達しつつあります。FSR 3はフレーム生成機能を追加し、DLSS 3の競合となります。
- 対応: ゲーム側がFSRにネイティブ対応している必要があります。FSR 1.0/2.xは比較的多くのGPUで動作し、FSR 3はRadeon RX 7000シリーズで最適化されていますが、他のGPUでも動作する場合があります(フレーム生成はGPUを選びます)。
- Lossless Scalingとの違い: FSRもゲーム側のネイティブ対応が必要ですが、Lossless ScalingはゲームがFSRに対応していなくても(NISやFSRアルゴリズム自体をLossless Scaling経由で)利用できます。Lossless Scalingは、ゲームが特定のアップスケーリング技術に対応していなくても、後付けでアップスケーリングやフレーム生成を適用できる汎用性が強みです。
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Intel XeSS (Xe Super Sampling):
- 仕組み: Intelが開発したAI(ニューラルネットワーク)ベースのアップスケーリング技術。GPUのXMXまたはDP4a命令セットを利用。
- 特徴: 高品質なアップスケーリングを提供します。Intel Arc GPUで最適化されていますが、DP4a命令セットに対応したNVIDIAやAMDの一部GPUでも利用可能です。ゲーム側の対応が必要です。
- 対応: ゲーム側がXeSSにネイティブ対応している必要があります。対応GPUはIntel Arcシリーズ、NVIDIA GeForce RTX/GTX 10シリーズ以降、AMD Radeon RX 5000シリーズ以降など。
- Lossless Scalingとの違い: XeSSもゲーム側の対応が必要ですが、Lossless Scalingはより多くのゲームで汎用的に利用できます。
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ドライバレベルのアップスケーリング (NVIDIA Image Scaling – NIS, AMD Radeon Super Resolution – RSR):
- 仕組み: グラフィックドライバの機能として提供される空間(Spatial)アップスケーリング技術。
- 特徴: ゲーム側の対応は不要で、ドライバの設定を有効にするだけで、フルスクリーンモードを含む多くのゲームに適用できます。導入が最も容易です。
- 対応: NVIDIA GeForce ExperienceまたはNVIDIAコントロールパネル(NIS)、AMD Radeon Software(RSR)から設定可能。対応GPUは比較的広いです。
- Lossless Scalingとの違い: これらのドライバレベルの機能はアップスケーリングのみで、フレーム生成機能はありません。また、使用できるアルゴリズムが限られます。Lossless Scalingは、これらの機能に加えてフレーム生成や、より多様なアップスケーリングアルゴリズムを提供します。
Lossless Scalingの立ち位置としては、「特定のハードウェアやゲーム側のネイティブ対応に依存せず、多くのゲームでアップスケーリングやフレーム生成といったパフォーマンス向上技術を後付けで実現できる、非常に汎用性の高いツール」と言えます。
すでにDLSS 3やFSR 3に対応しているゲームで、かつ対応ハードウェアを持っている場合は、そちらの方が最適化されており高品質な結果を得られる可能性が高いです。しかし、そうではない多くのゲームやPC環境において、Lossless Scalingは非常に強力な選択肢となり得ます。既存のアップスケーリング技術(NIS, FSR)もLossless Scaling経由で利用できるため、これらの機能をより柔軟な設定で利用したい場合にも有効です。
8. Lossless Scalingを最大限に活用するためのヒント
Lossless Scalingの効果を最大限に引き出すために、いくつか実践的なヒントを紹介します。
- 最適な設定を見つけるための試行錯誤は必須: Lossless Scalingは「魔法のボタン」ではありません。ゲーム、PCスペック、個人の好みに最適な設定は、実際に試しながら見つけるしかありません。アップスケーリングアルゴリズム、ゲーム内解像度、フレーム生成のモードなどを少しずつ変更して、パフォーマンス、画質、遅延のバランスを最も気に入るポイントを探しましょう。
- ゲーム内設定も重要: Lossless Scalingはあくまで後処理ツールです。元となるゲームのレンダリング設定も非常に重要です。
- ゲーム内解像度: Lossless Scalingでアップスケールする元の解像度を適切に設定します。フレーム生成を使う場合は、ターゲットフレームレートの半分程度のフレームレートが安定して出る解像度を目指します。
- Vsync: ゲーム内のVsyncはオフにし、Lossless Scaling側のVsyncをオンにするのが推奨されます。
- フレームレート制限: ゲーム内でフレームレート制限が設定されている場合は解除しておきます。
- グラフィック設定: アップスケーリングでGPUに余裕ができた分、テクスチャや影などの設定を少し上げてみるのも良いかもしれません。ただし、上げすぎるとGPU負荷が再び高まり、元のフレームレートが低下してLossless Scalingの効果が薄れてしまいます。
- 入力遅延対策を検討する: フレーム生成による遅延が気になる場合、NVIDIA Reflex Low Latency Mode(NVIDIA GPUの場合)やAMD Anti-Lag(AMD GPUの場合)がゲーム側またはドライバ側で利用できるか確認し、有効にしてみましょう。これらの技術は、レンダリングパイプライン全体の遅延を削減する効果があり、フレーム生成による遅延増加をある程度相殺できる可能性があります。ただし、Lossless Scalingのフレーム生成とこれらの技術の相性はゲームや環境によって異なるため、効果があるか確認が必要です。
- パフォーマンス測定ツールを活用する: MSI Afterburnerなどのパフォーマンスモニターツールを使用して、Lossless Scaling適用前後のフレームレート、GPU使用率、GPU温度などを確認しましょう。これにより、設定変更による具体的な効果を数値として把握でき、効率的な設定調整に役立ちます。OSDでフレームレートを表示するだけでも十分参考になります。
- コミュニティや開発者の情報を収集する: Steamコミュニティハブや開発者のDiscordサーバーなどでは、他のユーザーが特定のゲームでの最適な設定を共有していたり、開発者から最新の情報やトラブルシューティングのヒントが得られたりします。困ったときや、より良い設定を知りたいときに参照してみましょう。
- 最新版を維持する: Lossless Scalingは積極的に開発が進められています。新しいアルゴリズムの追加や既存機能の改善、バグ修正などが頻繁に行われます。Steamで常に最新版にアップデートして使用することで、最も優れた機能や安定性を享受できます。
- 全てのゲームに最適ではないことを理解する: Lossless Scalingは非常に汎用性が高いツールですが、全てのゲームで完璧に機能するわけではありません。特に古いゲームや描画方式が特殊なゲーム、あるいはアンチチートが厳しいゲームでは、問題が発生する可能性もゼロではありません。あるゲームでうまく機能しなくても、他のゲームでは劇的な効果が得られる、ということもあります。
これらのヒントを参考に、ご自身の環境でLossless Scalingを最大限に活用し、快適なPCゲームライフを楽しんでください。
9. 将来展望:Lossless Scalingの進化
Lossless Scalingの開発は現在も活発に行われています。今後のアップデートでは、以下のような機能改善や新アルゴリズムの追加が期待されます。
- フレーム生成アルゴリズムのさらなる改良: LSFG 2.0からさらに進化し、アーティファクトの抑制、遅延の削減、対応ゲームの拡大などが図られる可能性があります。AI技術の進歩を取り入れた、より高品質なフレーム生成アルゴリズムが開発されるかもしれません。
- アップスケーリングアルゴリズムの追加: より高精度なAIベースのアルゴリズムや、特定の用途に特化したアルゴリズムなどが追加される可能性があります。
- 対応APIや機能の拡張: フルスクリーンモードへのより安定した対応、HDRへの対応、マルチモニター環境での使いやすさ向上など、様々な改善が考えられます。
- UIや使いやすさの向上: より直感的に設定できるUIや、ゲームごとのプロファイル管理機能の強化などが期待されます。
Lossless Scalingは、特定のハードウェアメーカーに縛られずに最新のパフォーマンス向上技術を利用できる、PCゲーマーにとって非常に貴重な存在です。今後の開発によって、さらに多くのゲームで、より高品質かつ快適なゲーム体験が実現されることを期待しましょう。
10. まとめ:Lossless Scalingで快適なPCゲーム体験を
PCゲームのパフォーマンス向上は、常に多くのゲーマーにとって関心の高いテーマです。最新のGPUに買い替えることが難しくても、ソフトウェアの力で快適なゲーム体験を目指せるなら、それは非常に魅力的です。
Lossless Scalingは、その「ソフトウェアの力」を最大限に引き出すツールの一つです。アップスケーリングによってGPUのレンダリング負荷を軽減し、フレーム生成によって見かけ上のフレームレートを倍増させることで、多くのゲームでパフォーマンスの大幅な向上を実現する可能性を秘めています。特に、特定のGPUベンダーに依存しない汎用性の高さは、他の技術にはないLossless Scalingの大きな強みと言えるでしょう。
もちろん、入力遅延やアーティファクトといったデメリットも存在します。しかし、それらを理解した上で、プレイするゲームやPC環境に合わせて設定を適切に調整すれば、Lossless ScalingはあなたのPCゲーム環境を大きく改善してくれる強力なツールとなり得ます。
これまで「重くてプレイできなかった」「設定を妥協するしかなかった」というゲームも、Lossless Scalingを活用することで、より高画質で、より滑らかなフレームレートで楽しめるようになるかもしれません。
本記事で解説したLossless Scalingの仕組みや活用法、設定のポイント、注意点などを参考に、ぜひご自身の環境でLossless Scalingを試してみてください。試行錯誤を経て、あなたのPCゲーム環境にとって最適な設定が見つかれば、きっとその効果に驚くはずです。Lossless Scalingを賢く使いこなして、最高のPCゲーム体験を手に入れましょう!