サプライチェーン攻撃の基礎知識:仕組みと対策を解説

サプライチェーン攻撃の基礎知識:仕組みと対策を徹底解説

はじめに

現代社会において、企業活動は単独で完結することはほとんどありません。原材料の調達から製造、流通、販売、さらにはソフトウェア開発における外部ライブラリの利用やアウトソーシング、クラウドサービスの活用に至るまで、多くの企業やサービスが複雑に連携し合う「サプライチェーン」の上で成り立っています。このサプライチェーンは、効率性や専門性の向上をもたらす一方で、新たなサイバーセキュリティリスクの温床ともなっています。

近年、企業や組織を狙うサイバー攻撃の中でも、特に深刻な脅威として注目されているのが「サプライチェーン攻撃」です。これは、直接の標的企業ではなく、その企業のサプライヤーやパートナー企業、あるいは製品・サービスの一部として組み込まれているソフトウェアやハードウェアを供給するベンダーなどを攻撃の足がかりとし、最終的な標的企業に侵入したり、広範な被害をもたらしたりする攻撃手法です。

従来型のサイバー攻撃が特定の企業を直接狙うことが多かったのに対し、サプライチェーン攻撃は「信頼」を悪用します。企業は通常、自社のサプライヤーや利用しているソフトウェア、ハードウェアを信頼しています。攻撃者はこの信頼関係を逆手に取り、セキュリティ対策が比較的脆弱なサプライヤーを突破口としたり、多くの企業が共通して利用するソフトウェアやハードウェアに不正なコードを埋め込んだりすることで、一度に多数の標的へ攻撃を波及させようとします。

これにより、単一の組織への被害に留まらず、サプライチェーンを通じて関連する複数の組織、さらにはその製品・サービスを利用する広範なユーザーや顧客にまで影響が及ぶ可能性があります。過去に発生した大規模なサプライチェーン攻撃は、経済活動や社会インフラに深刻な混乱をもたらしており、その破壊力と影響範囲の広さが改めて認識されています。

本記事では、このサプライチェーン攻撃について、その基本的な定義、なぜこれほどまでに強力な脅威となっているのか、具体的な攻撃の仕組みや手法、そして企業や組織が取るべき対策について、約5000語にわたって詳細に解説します。この記事を通じて、サプライチェーン攻撃に対する理解を深め、自組織のセキュリティ対策を見直すための一助となれば幸いです。

サプライチェーン攻撃とは何か

サプライチェーン攻撃を理解するためには、まず「サプライチェーン」という言葉がサイバーセキュリティの文脈でどのように捉えられているかを明確にする必要があります。

一般的に、サプライチェーンは製品やサービスが顧客に届くまでの、原材料の調達から製造、在庫管理、物流、販売までの一連の物理的な流れを指します。しかし、サイバーセキュリティの世界では、この概念はさらに拡張されます。情報システムの構築や運用において、外部のソフトウェアベンダー、ハードウェアベンダー、クラウドサービスプロバイダー、マネージドサービスプロバイダー(MSP)、コンサルティングファームなど、様々な外部委託先や提供元が存在します。これらの外部組織との連携や、彼らが提供する製品・サービス、ソフトウェアコンポーネントなどが、情報システムにおける「サプライチェーン」を構成すると考えられます。

サイバーセキュリティにおけるサプライチェーン攻撃とは、この広義のサプライチェーン上に存在する企業、システム、製品、またはプロセスにおける脆弱性や信頼関係を悪用し、最終的な標的企業や組織、またはその顧客に不正なアクセスやマルウェア感染、情報漏洩などの被害を及ぼす攻撃手法の総称です。

サプライチェーン攻撃は、攻撃の標的が直接のターゲットではなく、そのターゲットが利用する第三者機関や製品であるという点に特徴があります。攻撃者は、最終的なターゲットへの直接攻撃が難しい場合や、より広範な被害を狙う場合に、サプライチェーンを攻撃経路として選択します。

この攻撃は、大きく分けて二つの側面から捉えることができます。

  1. 物理的なサプライチェーンを狙う攻撃: 製品の製造過程や輸送中にハードウェアやファームウェアに不正な改造を加える、あるいは工場や倉庫のシステムに侵入して製品の品質や供給に影響を与えるようなケースです。
  2. 情報システム的なサプライチェーンを狙う攻撃: ソフトウェア開発プロセスへの侵入、オープンソースライブラリへの悪意あるコード混入、ハードウェアのファームウェア改ざん、信頼できるサプライヤーのネットワークを介したマルウェア配布、MSPの管理ツール悪用など、情報システムやソフトウェアに関連するケースです。

現在、サプライチェーン攻撃として最も注目され、広範囲な被害をもたらしているのは、後者の情報システム的な側面を狙った攻撃です。特に、ソフトウェアの自動アップデート機構や、多くの開発者が利用する共通のライブラリ、ビルド環境などが狙われるケースが顕著です。

サプライチェーン攻撃が他の攻撃手法(例えば、標的型攻撃メールやランサムウェア攻撃など)と区別される主な理由は、その「波及効果」にあります。単一のサプライヤーやソフトウェアに侵入することで、それを信頼して利用している多数の組織に同時に影響を与えられる可能性があります。これは、攻撃者にとって非常に効率的な手段となります。また、正規のソフトウェアアップデートや信頼できる経路を悪用するため、従来のセキュリティ対策(ファイアウォールやアンチウイルスソフトなど)による検知が難しい場合が多いという特性も持ち合わせています。

つまり、サプライチェーン攻撃は、現代の相互接続されたデジタルエコシステムにおいて、企業が単独でセキュリティを確保することの難しさを示唆する脅威であり、「自社だけでなく、取引先や利用している製品・サービスのセキュリティも考慮しなければならない」という、より広範なセキュリティ対策の必要性を浮き彫りにしています。

サプライチェーン攻撃の仕組み

サプライチェーン攻撃は多様な形態を取りうるため、その仕組みも一概には言えません。しかし、基本的な流れや主要な攻撃手法には共通点が見られます。ここでは、代表的な攻撃手法とその攻撃フェーズについて詳細に解説します。

攻撃手法の分類

サプライチェーン攻撃は、どのサプライチェーン上の要素を狙うかによって、様々な手法に分類できます。

  1. ソフトウェア・アップデート/ビルドシステムへの侵入:

    • 仕組み: これは最も一般的で影響力の大きい手法の一つです。ソフトウェアベンダーの内部開発環境やビルドシステム、またはソフトウェアのアップデート配信サーバーに攻撃者が侵入します。そして、正規のソフトウェアやアップデートファイルにマルウェアやバックドアなどの悪意あるコードを埋め込みます。
    • 結果: その後、ベンダーから正規のアップデートとして配信された不正なソフトウェアは、それをインストールした多数のユーザーや企業システムに感染を広げます。ユーザー側は正規のアップデートであると信頼しているため、疑うことなく実行してしまいます。
    • 事例: SolarWinds Orion攻撃、ASUS ShadowHammer攻撃、NotPetya(MeDocという会計ソフトウェアを利用)などがこのタイプに該当します。
  2. オープンソースライブラリ/コンポーネントへの悪意あるコード混入:

    • 仕組み: 多くのソフトウェア開発プロジェクトでは、開発効率を高めるために既存のオープンソースライブラリやコンポーネントを多用します。攻撃者は、これらのオープンソースプロジェクトのリポジトリ(GitHubなど)や配布チャネル(npm、PyPIなど)に不正にアクセスしたり、メンテナーの認証情報を盗んだりして、悪意あるコードを正規のコードとして混入させます。あるいは、人気のあるライブラリに酷似した名前の悪意あるライブラリ(タイポスクワッティング)を作成し、開発者が誤ってインストールするように仕向けることもあります。
    • 結果: そのオープンソースライブラリを使用したソフトウェアには、悪意あるコードが組み込まれた状態で配布されます。このソフトウェアを利用するユーザーすべてが潜在的な被害者となります。
    • 事例: Log4jの脆弱性(これは厳密には脆弱性ですが、多くのシステムで使われているライブラリが悪用されたという点で広義のサプライチェーン攻撃と捉えられます)、様々なパッケージレジストリで発見される悪意あるパッケージなどがこれに該当します。
  3. ハードウェア/ファームウェアへの不正改変:

    • 仕組み: 電子機器の製造過程や流通段階で、攻撃者がハードウェア部品(チップなど)にスパイチップやバックドアを組み込んだり、ファームウェア(ハードウェアを制御する基本ソフトウェア)を改ざんしたりする手法です。
    • 結果: 不正に改造されたハードウェアを組み込んだ製品は、意図しない挙動をしたり、外部から遠隔操作されたりするリスクを抱えます。これは、特にサーバー機器やネットワーク機器、IoTデバイスなどで懸念されます。
    • 事例: 特定の国が製造した通信機器や監視カメラなどに対するバックドアの懸念などが議論されることがあります。具体的に大規模な被害が確認された事例は表に出てきにくい性質がありますが、リスクとしては常に存在します。
  4. サプライヤーのシステムへの侵入 (踏み台利用):

    • 仕組み: 攻撃者は、最終的な標的企業よりもセキュリティ対策が手薄な可能性のある、中小規模のサプライヤー、パートナー、あるいはMSPを最初の侵入対象とします。これらの組織のシステムに侵入した後、標的企業へのVPN接続情報や、共有ストレージへのアクセス権などを窃取し、それらを足がかりとして最終的な標的企業ネットワークへの侵入を試みます。
    • 結果: サプライヤーとの信頼関係や、システム間の接続を利用して、標的企業に正規の通信に見せかけて侵入することが可能になります。
    • 事例: Kaseya VSA攻撃(MSPが利用する管理ツールを悪用)、過去の多くの標的型攻撃において、中小サプライヤーが踏み台として利用されたケースが報告されています。
  5. 物理的な改変/介入:

    • 仕組み: 非常に古典的ですが、物理的なサプライチェーンにおいて、製品の輸送中や保管中に不正な操作を加える手法です。例えば、製品のパッケージを開封してデバイスを入れ替えたり、不正なデバイスを忍び込ませたりする可能性があります。
    • 結果: ユーザーの手元に届いた時点で既に不正なデバイスやコードが仕込まれている可能性があります。
    • 事例: 過去には、ネットワーク機器に不正なコンポーネントが挿入されていたという報告や、製品の輸送中に開封・改ざんされた事例などが噂レベルで存在します。
  6. 人的要素を狙った攻撃 (ソーシャルエンジニアリングなど):

    • 仕組み: サプライヤー企業の従業員に対して、フィッシング詐欺やスピアフィッシング攻撃を行い、認証情報や機密情報を窃取する手法です。窃取した情報を用いて、サプライヤーのシステムに侵入したり、開発プロセスに影響を与えたりします。また、インサイダー協力者を見つけることも含みます。
    • 結果: 人間の心理的な隙や知識不足を悪用し、技術的な防御を迂回してサプライチェーンへの不正アクセスを実現します。

これらの手法は単独で用いられるだけでなく、組み合わせて利用されることもあります。例えば、ソーシャルエンジニアリングでサプライヤーのシステムに侵入し、その後ソフトウェア・アップデートシステムを改ざんするといった複合的な攻撃です。

攻撃フェーズ

サプライチェーン攻撃も、他のサイバー攻撃と同様にいくつかのフェーズを経て実行されることが多いです。

  1. 偵察・標的選定 (Reconnaissance & Targeting):

    • 攻撃者は、まず最終的な標的を定めます。次に、その標的企業がどのようなサプライヤーや外部サービスを利用しているかを調査します。企業のウェブサイト、求人情報、プレスリリース、公開されている技術情報、取引先リストなど、様々な公開情報源(OSINT: Open Source Intelligence)が利用されます。
    • 特定したサプライヤーの中から、セキュリティ対策が手薄そうな組織、あるいは多くの企業が利用している共通のソフトウェア/ハードウェアを提供している組織を攻撃対象として選定します。
  2. 侵入 (Initial Access):

    • 選定したサプライヤーのシステムへの初期アクセスを試みます。これには、既知または未知の脆弱性の悪用、フィッシングによる認証情報窃盗、推測されやすいパスワードの総当たり攻撃、公開されているリモートデスクトップサービスへの不正アクセスなど、様々な手法が用いられます。
    • ソフトウェア・アップデートを狙う場合は、開発環境、ビルドサーバー、署名サーバー、配信サーバーなどが標的となります。
  3. 潜伏・内部活動 (Persistence & Internal Activity):

    • システムへの侵入に成功した後、攻撃者は直ちに目的を遂行するのではなく、検出を避けるためにシステム内に潜伏します。
    • 内部での偵察活動を行い、ネットワーク構造、重要なサーバー、開発プロセス、権限管理などを把握します。
    • 権限昇格を試み、より広範なシステムへのアクセス権を獲得します。
    • 横展開を行い、他の重要なシステム(ビルドシステム、アップデートサーバーなど)への足がかりを確立します。永続化メカニズム(システム再起動後も攻撃者がアクセスできるようにする仕掛け)を構築します。
  4. 悪意あるコード/機能の埋め込み (Malicious Code Injection):

    • サプライヤーのシステム内で十分な権限を得て、目的とするシステムにアクセスできるようになると、攻撃者は悪意あるコードや機能を埋め込みます。
    • ソフトウェアアップデート攻撃であれば、正規のソフトウェアコードに悪意あるコードを挿入したり、ビルドプロセスを改ざんして不正なバイナリを生成させたり、正規のアップデートファイルにマルウェアをバンドルしたりします。
    • ハードウェア攻撃であれば、ファームウェアイメージを改ざんします。
    • この際、悪意あるコードが発見されにくいように、正規の機能の一部に見せかけたり、非常にステルス性の高い手法を用いたりします。
  5. 拡散/実行 (Distribution & Execution):

    • 埋め込まれた悪意あるコードを含むソフトウェアやハードウェアが、正規のチャネルを通じて顧客である標的企業に配布されます。
    • 標的企業のシステムにソフトウェアがインストールされたり、ハードウェアが利用されたりすることで、悪意あるコードが実行され、マルウェア感染、情報窃盗、システム破壊などの被害が発生します。この段階で、サプライチェーン攻撃の真の標的への影響が現れます。
  6. 痕跡消去/持続性の確保 (Covering Tracks & Maintaining Access):

    • 攻撃者は、自身の活動の痕跡(ログファイルなど)を消去しようとします。
    • 同時に、将来再びアクセスできるように、バックドアや他の永続化メカニズムを仕掛けておくこともあります。

このように、サプライチェーン攻撃は高度に計画的で、複数の段階を経て実行されます。特に、潜伏期間が長く、正規のプロセスを悪用する点が、検出を困難にしています。

具体的な攻撃事例の解説

サプライチェーン攻撃の理解を深めるために、いくつかの代表的な事例を具体的に見てみましょう。

  • SolarWinds Orion攻撃 (2020年末発覚):

    • 概要: 米国のIT管理ソフトウェア企業であるSolarWindsが提供するネットワーク監視ツール「Orion」の正規アップデートファイルに、バックドアが仕込まれていた事例です。このアップデートは、SolarWindsの顧客である世界中の政府機関や大企業など、数万の組織に配布・インストールされました。
    • 仕組み: 攻撃者はSolarWindsの内部システム、特にビルド環境に長期間潜伏し、Orionソフトウェアの正規のソースコードに「SUNBURST」と呼ばれるバックドアを挿入しました。挿入されたコードは非常にステルス性が高く、ビルドプロセスを経て正規のデジタル署名が付与されたアップデートファイルに含まれて配布されました。
    • 影響: アップデートをインストールした組織のシステム内にバックドアが設置され、攻撃者はそのバックドアを通じて標的とする組織のネットワークに侵入し、偵察や情報窃盗を行いました。米国の複数の政府機関や主要企業の被害が確認され、その影響範囲の広さと攻撃の高度さから世界的に大きな衝撃を与えました。これは、ソフトウェア・アップデート機構を悪用したサプライチェーン攻撃の典型例です。
  • NotPetya (2017年):

    • 概要: ランサムウェア(正確にはワイパー機能も持つ)であるNotPetyaが、主にウクライナを中心に甚大な被害をもたらした事例です。この攻撃は、ウクライナで広く利用されていた会計ソフトウェア「MeDoc」の正規アップデートチャネルを悪用して拡散されました。
    • 仕組み: 攻撃者はMeDocのアップデートサーバーに侵入し、正規のアップデートファイルにNotPetyaのコードを埋め込みました。MeDocのユーザーがアップデートを適用すると、NotPetyaに感染し、システムが暗号化(またはワイプ)されました。
    • 影響: MeDocはウクライナ国内で広く使われていたため、政府機関、銀行、電力会社、空港、港湾など、様々な組織に被害が及びました。ウクライナ国内だけでなく、MeDocのユーザーと取引のある国際企業(Maersk, FedExなど)にも感染が拡大し、全世界で100億ドル以上の損害をもたらしたと言われています。これは、サプライヤー(会計ソフトウェアベンダー)のシステムを踏み台とし、その製品のアップデート機構を悪用した事例です。
  • Kaseya VSA攻撃 (2021年):

    • 概要: IT管理サービスを提供するKaseyaが提供するRMM(Remote Monitoring and Management)ツール「VSA」の脆弱性が悪用され、VSAを利用しているMSP(Managed Service Provider)を通じて、その顧客である数百の企業にランサムウェア(REvil)が拡散された事例です。
    • 仕組み: 攻撃者はKaseya VSAのサーバーソフトウェアに存在する脆弱性を悪用し、VSAを利用するMSPのサーバーに侵入しました。そして、MSPが顧客に対してVSA経由で実行するスクリプトを改ざんし、ランサムウェアを展開するように仕向けました。
    • 影響: MSPを介して、その顧客企業(主に中小企業)のサーバーやPCがランサムウェアに感染し、多数の企業が業務停止に追い込まれました。これは、MSPのようなITサービス提供者をサプライチェーンの一環として狙い、その先の顧客に被害を拡大させるという攻撃手法の典型例です。
  • ASUS ShadowHammer (2019年):

    • 概要: PCメーカーASUSが提供する正規のソフトウェアアップデートシステム(ASUS Live Update)にバックドアが仕込まれていた事例です。
    • 仕組み: 攻撃者はASUSのアップデートサーバーに侵入し、ASUS Live Updateの正規実行ファイルにバックドアを埋め込みました。埋め込まれたファイルは正規のデジタル署名が付与されていたため、検出が困難でした。特定のMACアドレスを持つターゲットリストがコード内に含まれており、そのリストに含まれるシステムでのみバックドアが起動するという、標的型攻撃の要素も持ち合わせていました。
    • 影響: 数十万から100万台とも言われるASUS製PCがこの不正なアップデートを受け取った可能性がありますが、実際にバックドアが活動したのはリストに含まれる少数の標的システムのみでした。これは、ソフトウェアベンダーのアップデートシステムを狙い、特定ターゲットに絞った攻撃を行った事例です。

これらの事例からもわかるように、サプライチェーン攻撃は単なる技術的な脆弱性を突くだけでなく、組織間の信頼関係、ソフトウェアの流通プロセス、さらには人間の信頼までも悪用します。そして、一度成功すると、その影響は極めて広範に及ぶ可能性があります。

なぜサプライチェーンが狙われるのか

攻撃者がサプライチェーンを攻撃経路として積極的に利用するのには、いくつかの明確な理由があります。

  1. 信頼性の悪用: 企業は、サプライヤーやパートナー企業、あるいは利用しているソフトウェアやハードウェアに対して、基本的に高い信頼を置いています。正規のソフトウェアアップデートや、信頼できるベンダーから提供される製品は、通常、セキュリティチェックを通過するものと考えられています。攻撃者はこの「信頼」を逆手に取り、信頼されたチャネルや製品の中に不正な要素を紛れ込ませます。これにより、ファイアウォールや侵入防御システムといった従来の境界防御を容易にすり抜けることが可能となります。ユーザーや標的企業は、正規のものだと思って受け入れてしまうため、攻撃は undetected(検出されない)に進む可能性が高まります。

  2. 多大な影響範囲 (スケールメリット): 単一のサプライヤーや、多くの企業が共通して利用する製品/サービスに侵入できれば、それを介して一度に多数の最終標的企業に攻撃を波及させることができます。例えば、ある有名なソフトウェアの開発環境に侵入し、その製品にバックドアを仕込むことができれば、その製品の全ユーザーが潜在的な被害者となります。これは、個々の企業を一つずつ標的型攻撃で狙うよりもはるかに効率的であり、攻撃者にとって投資対効果が高い手法と言えます。SolarWinds OrionやNotPetya、Kaseya VSAの事例は、この波及効果の大きさを如実に示しています。

  3. 検出の困難性: 前述のように、正規のチャネルや信頼された製品を悪用するため、通常のセキュリティ監視体制では不正な活動として検知しにくいという特性があります。例えば、正規のソフトウェアアップデートとして配信されたマルウェアは、通常の通信として扱われ、アンチウイルスソフトや侵入検知システムをすり抜ける可能性があります。また、埋め込まれた悪意あるコードが非常に巧妙に隠蔽されている場合、静的なコード解析などでも発見が困難な場合があります。潜伏期間が長いことも検出を遅らせる要因となります。

  4. サプライヤー側のセキュリティの弱さ: 大企業や政府機関といった最終的な標的企業は、潤沢な予算と専門知識を持つセキュリティチームを抱えていることが多く、直接攻撃するのは困難な場合があります。一方で、そのサプライチェーンを構成する中小企業、特に技術力の低い企業やセキュリティ意識の高くない企業は、相対的にセキュリティ対策が手薄である可能性があります。攻撃者は、これらの比較的防御が弱いサプライヤーを狙うことで、最終標的への突破口を開くことを試みます。サプライチェーンは、その中で最も弱いリンクが全体のセキュリティレベルを決定してしまうのです。

  5. サプライチェーンの複雑性と可視性の欠如: 現代のサプライチェーンはグローバルかつ多階層にわたっており、非常に複雑です。自社が直接取引している一次サプライヤーだけでなく、そのサプライヤーのサプライヤー(二次サプライヤー)、さらにその先と、何段階もの取引関係が存在します。また、利用しているソフトウェア製品が、どのようなオープンソースライブラリや商用コンポーネントを組み合わせて作られているかを完全に把握している企業は少ないでしょう。この複雑性ゆえに、自社のサプライチェーン全体におけるセキュリティリスクを完全に可視化し、管理することが非常に困難です。攻撃者はこの「見えない部分」を突いてきます。

これらの理由から、サプライチェーンは攻撃者にとって非常に魅力的な標的となっています。一度サプライチェーンに侵入できれば、少ない労力で大きな成果(多数の標的への影響、機密情報の窃取、大規模な破壊活動など)を得られる可能性があるため、国家レベルの攻撃者や組織的なサイバー犯罪グループによって、サプライチェーン攻撃は主要な攻撃手法の一つとして位置づけられています。

サプライチェーン攻撃の対策

サプライチェーン攻撃は多岐にわたる手法があり、その対策も多層的かつ包括的である必要があります。自社だけでなく、サプライヤーとの連携も重要になります。ここでは、技術的対策、組織的対策、物理的対策の観点から、具体的な対策を詳細に解説します。

技術的対策

サプライチェーン攻撃に対する技術的な対策は、自社のシステム防御に加え、サプライヤーから提供される製品やサービス、そして自社が利用する外部コンポーネントの信頼性を確保することに重点が置かれます。

  1. サプライヤーのリスク評価・管理:

    • セキュリティチェックリスト/質問票: 新規または既存の主要なサプライヤーに対して、セキュリティ対策に関する詳細な質問票を配布し、その回答を評価します。CIS v8などのフレームワークを参考に、情報セキュリティポリシー、アクセス制御、脆弱性管理、インシデント対応体制、物理的セキュリティなど幅広い項目を確認します。
    • 監査: 重要なサプライヤーに対しては、書面による確認だけでなく、定期的なオンサイトまたはリモートでのセキュリティ監査を実施します。ISO 27001などの認証取得状況も参考にしつつ、実際のセキュリティ対策が適切に実施されているかを確認します。
    • 契約によるセキュリティ要件の明記: サプライヤーとの契約において、セキュリティに関する明確な要件(例えば、セキュリティポリシーの遵守、脆弱性情報の共有、侵害発生時の報告義務、定期的なセキュリティ対策の実施など)を盛り込みます。
    • サードパーティリスク管理 (TPRM) ツールの活用: サプライヤーの数が多い場合や、継続的なリスク監視が必要な場合は、TPRM専門のツールを導入し、サプライヤーのリスク評価、監視、管理を効率化します。これらのツールは、外部からのサプライヤーのセキュリティ評価(セキュリティスコアリング)や、質問票管理などの機能を提供します。
  2. ソフトウェア開発ライフサイクル (SDLC) のセキュリティ強化:

    • セキュアコーディング: ソフトウェア開発において、セキュリティの脆弱性を作り込まないためのセキュアコーディング規約を定め、開発者に周知徹底します。
    • 静的/動的解析 (SAST/DAST): 開発中のコードに対して、静的解析(コードを実行せずに脆弱性を検出)や動的解析(コードを実行して脆弱性を検出)ツールを導入し、脆弱性や潜在的なセキュリティリスクを自動的に検出します。
    • ソフトウェア構成分析 (SCA): 利用しているオープンソースライブラリや商用コンポーネントを自動的に識別し、既知の脆弱性情報と照合するSCAツールを導入します。これにより、使用しているコンポーネントに存在する脆弱性を把握し、適切な対応(バージョンアップ、代替コンポーネントへの変更など)を行います。
    • サプライチェーンセキュリティ対策 (ビルドシステム、署名プロセス): 自社がソフトウェアベンダーである場合、自身のビルド環境やソフトウェア署名プロセスが攻撃されないように厳重に保護します。ビルドサーバーへのアクセス制御を強化し、不正な改変を防ぐための監視を行います。ソフトウェア署名に利用する秘密鍵の管理を徹底します。
    • ソフトウェア部品表 (SBOM – Software Bill of Materials): ソフトウェアに含まれるすべての商用コンポーネントおよびオープンソースコンポーネントとそのバージョン、ライセンス情報などをリスト化したSBOMを作成・管理します。SBOMがあれば、特定のコンポーネント(例:Log4j)に脆弱性が見つかった際に、自社のどの製品やシステムが影響を受けるかを迅速に特定できます。これは、インシデント発生時の影響評価や対策実施の迅速化に不可欠です。サプライヤーに対しても、提供する製品のSBOMの提出を求めることが有効です。
  3. システム・ネットワーク対策:

    • 多要素認証 (MFA): 重要なシステム(特にサプライヤーのシステムにアクセスするためのVPN、リモートデスクトップ、クラウド管理コンソールなど)へのログインには、必ずMFAを導入します。パスワードが漏洩しても不正アクセスを防ぐ効果があります。
    • アクセス制御 (最小権限の原則、ゼロトラストアーキテクチャ): ユーザーやシステムが必要最小限の権限のみを持つようにアクセス制御を厳格に設定します。サプライヤーへのアクセス権限も、業務上必要な範囲に限定し、定期的に見直します。さらに進んで、ネットワーク内外を区別せず、すべてのアクセスを検証するゼロトラストアーキテクチャの導入を検討します。
    • ネットワークセグメンテーション: ネットワークを複数のセグメントに分割し、セグメント間の通信を制限します。これにより、仮に一部のシステムが侵害されても、攻撃の横展開を防ぎ、被害の拡大を抑制します。サプライヤーからのアクセスを受け入れるセグメントは、他の重要なセグメントから分離することが特に重要です。
    • 侵入検知・防御システム (IDS/IPS) および 次世代ファイアウォール (NGFW): ネットワークトラフィックを監視し、不正な通信パターンや既知の攻撃シグネチャを検知・防御します。特に、サプライヤーとの通信チャネルや、外部からのアクセスポイントでの監視を強化します。
    • エンドポイントセキュリティ (EPP/EDR): サーバーやPCといったエンドポイントにセキュリティ対策を施します。従来のアンチウイルスソフト(EPP)に加え、不審な挙動を検知・分析し、迅速な対応を支援するEDR(Endpoint Detection and Response)ソリューションの導入が有効です。
    • 脆弱性管理とパッチ適用: 自社システムおよび利用しているソフトウェア、ハードウェアの脆弱性情報を常に収集し、優先度をつけて計画的にパッチを適用します。特に、サプライヤーから提供されるソフトウェアの脆弱性情報には迅速に対応する必要があります。サプライヤーに対しても、提供製品の脆弱性に関する情報開示とパッチ提供の体制構築を求めます。
    • ログ監視とSIEM: システムやネットワーク機器から出力される様々なログを収集し、一元的に管理・分析します。SIEM(Security Information and Event Management)システムなどを活用し、不審なアクティビティや攻撃の兆候を早期に検知できる体制を構築します。特に、サプライヤーからのアクセスに関連するログや、ソフトウェアアップデートに関するログの監視を強化します。
    • バックアップと復旧計画: サイバー攻撃によってシステムやデータが被害を受けた場合に備え、定期的なバックアップを取得し、安全な場所に保管します。また、インシデント発生時の復旧手順を定めたBCP(事業継続計画)/DPR(災害復旧計画)を策定し、定期的に訓練を行います。
  4. ソフトウェアの検証:

    • 電子署名の検証: ソフトウェアのインストールやアップデートを行う前に、提供元が提供する電子署名が正当なものであるかを確認します。これにより、途中で改ざんされたソフトウェアの実行を防ぐことができます。ただし、SolarWinds事例のように、正規の署名鍵が侵害されている場合は無効になります。そのため、署名鍵の管理はサプライヤーにとって極めて重要です。
    • サンドボックス環境でのテスト: 不明なソフトウェアやアップデートファイルは、隔離されたサンドボックス環境で実行し、その挙動を詳細に分析します。不審な動作(外部への不正な通信、ファイルの改変など)がないかを確認します。
    • 変更管理プロセスの徹底: ソフトウェアの導入、設定変更、アップデートなどを行う際には、必ず正式な変更管理プロセスを経て実施します。これにより、意図しない改変や不正な変更がシステムに適用されるリスクを低減します。

組織的対策

技術的な対策だけでなく、組織全体の体制や従業員の意識、そしてサプライヤーとの関係性といった組織的な側面からの対策もサプライチェーン攻撃には不可欠です。

  1. ガバナンスとポリシー:

    • サプライチェーンセキュリティポリシーの策定: サプライヤー選定基準、セキュリティ要件、情報共有、インシデント発生時の連携などを定めたサプライチェーンセキュリティに関する明確なポリシーを策定します。
    • 経営層のコミットメント: サプライチェーンセキュリティ対策は組織全体で取り組むべき課題であり、経営層の理解とコミットメントが不可欠です。適切な予算と人員を確保し、対策を推進する体制を構築します。
    • 責任体制の明確化: サプライヤー選定、契約、監視、そしてインシデント発生時の対応における各部門(調達部門、IT部門、法務部門など)の役割と責任を明確にします。
  2. 従業員教育:

    • セキュリティ意識向上トレーニング: 従業員に対して、サイバー攻撃の脅威、特にフィッシングやソーシャルエンジニアリングといった人的要素を狙った攻撃に関するセキュリティ教育を定期的に実施します。サプライヤー企業の従業員も同様の攻撃の標的となりうることを理解させることが重要です。
    • ソーシャルエンジニアリング対策: 不審なメールや電話に対する警戒心を高め、安易に機密情報を提供したり、不審なファイルをダウンロード・実行したりしないように教育します。
  3. インシデントレスポンス:

    • 有事の際の対応計画: サプライチェーン攻撃による被害が発生した場合のインシデントレスポンス計画(CSIRT:Computer Security Incident Response Teamの設置、初動対応、封じ込め、根絶、復旧の手順など)を策定します。
    • サプライヤーとの連携体制: サプライヤーとの間で、セキュリティインシデントに関する情報共有のチャネルと手順を確立します。サプライヤーでセキュリティ侵害が発生した場合、迅速な情報共有を受けることで、自社への影響を早期に評価し、必要な対策を講じることができます。逆に、自社でインシデントが発生した場合も、サプライヤーに情報を提供し、連携して対応を進める体制が必要です。
  4. 情報共有:

    • 業界内での脅威情報共有: 同業他社や業界団体と連携し、サイバー攻撃の脅威情報や対策事例を共有する枠組みに参加します。
    • 公的機関との連携: 警察、NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)、JPCERT/CCなどの公的機関やセキュリティ専門組織と連携し、脅威情報の入手やインシデント発生時の支援を受けられる体制を構築します。

物理的対策

情報システム的なサプライチェーン攻撃が主流ですが、物理的なサプライチェーンにおけるリスクも考慮する必要があります。

  • サプライヤーの施設への物理的アクセス管理: 重要な製品の製造や保管を行うサプライヤーの施設において、部外者の物理的アクセスが厳重に管理されているかを確認します。
  • 輸送中のセキュリティ: 製品やコンポーネントの輸送中に、不正な開封や改変が行われないような対策(封印、追跡システムなど)が講じられているかを確認します。

これらの対策は、サプライヤーの規模や重要度、そして自社との関係性に応じて、リスクベースで優先順位をつけて実施することが現実的です。すべてのサプライヤーに対して最高レベルの対策を求めることは困難であり、コストもかかります。サプライヤーが自社のビジネスにとってどれだけ重要か、サプライヤーの侵害が自社にどのような影響を及ぼしうるか(機密情報の漏洩、業務停止、ブランドイメージの低下など)を評価し、リスクの高いサプライヤーから重点的に対策を進める必要があります。

また、サプライヤーのセキュリティレベルを向上させるためには、単に要件を突きつけるだけでなく、サプライヤー自身がセキュリティ対策を強化できるよう、情報提供やノウハウ共有といった形で協力・支援することも有効なアプローチです。サプライチェーン全体のセキュリティレベルを底上げすることが、最終的には自社の防御力向上に繋がります。

サプライチェーン攻撃対策の課題

サプライチェーン攻撃への対策は、その性質上、多くの課題を伴います。

  1. サプライチェーン全体の可視化の困難さ: 自社が直接取引している一次サプライヤーは把握できても、そのサプライヤーが利用している二次、三次…といった下位のサプライヤーや、ソフトウェア製品に含まれるすべてのコンポーネントまで完全に把握し、管理することは非常に困難です。この可視性の欠如が、リスクの特定と対策の実行を妨げます。
  2. 中小サプライヤーへの対策徹底の難しさ: サプライチェーンには、セキュリティ対策に十分な予算や人員を割けない中小企業が多く含まれます。これらの企業に対して、大企業と同レベルのセキュリティ対策を求めることは現実的でなく、サプライチェーンから排除することもビジネス継続性の観点から難しい場合があります。中小サプライヤーのセキュリティレベルをどのように底上げするかが大きな課題です。
  3. コストの問題: サプライヤーのリスク評価、監査、TPRMツールの導入、そして自社システムのセキュリティ強化には、多大なコストがかかります。特に多階層かつ広範なサプライチェーンを持つ企業にとって、どこまでコストをかけるべきか、投資対効果をどのように評価するかが課題となります。
  4. 進化する攻撃手法への追随: サイバー攻撃の手法は常に進化しており、新たな脆弱性や攻撃経路が次々と発見されます。特にサプライチェーン攻撃は巧妙化しており、正規のチャネルやプロセスを悪用するため、既存の対策を回避する可能性があります。常に最新の脅威情報を収集し、対策をアップデートしていく必要があります。
  5. グローバルサプライチェーンにおける対策の複雑性: サプライチェーンが国境を越えて展開している場合、各国の法規制や文化、セキュリティレベルの違いを考慮する必要があり、対策の実施や連携がさらに複雑になります。

これらの課題を踏まえ、サプライチェーン攻撃対策は「完璧を目指す」のではなく、「リスクを適切に管理する」という現実的な視点で行う必要があります。リスク評価に基づき、最も影響が大きいと考えられる部分から優先的に対策を進め、継続的に改善していくアプローチが求められます。

将来展望

サプライチェーン攻撃は今後も主要なサイバー攻撃手法の一つとして存続し、さらに高度化・多様化していくと予想されます。特に、AIや機械学習を活用して、より巧妙に悪意あるコードを隠蔽したり、人間の行動を模倣してソーシャルエンジニアリングの成功率を高めたりする試みが増える可能性があります。

一方で、サプライチェーンセキュリティの重要性に対する認識は高まっており、対策を推進する動きも活発化しています。

  • SBOMの普及と標準化: ソフトウェアの透明性を高めるSBOMの重要性はますます認識されており、標準化の取り組みが進んでいます。規制当局がSBOMの作成・提出を義務付ける動きも出てきており、サプライチェーンにおけるコンポーネントリスクの管理がより容易になることが期待されます。
  • ゼロトラストアーキテクチャの重要性の高まり: 内部ネットワークであっても信頼せず、常に検証を行うゼロトラストの考え方は、サプライヤーからのアクセスや、サプライヤー経由の攻撃に対する防御において有効であり、今後さらに普及していくでしょう。
  • 国際的な連携の必要性: グローバルなサプライチェーンを保護するためには、国家間や企業間での情報共有、共同での対策開発、国際的な標準化の取り組みが不可欠です。

サプライチェーン攻撃は、特定の組織だけの問題ではなく、相互に依存し合うデジタルエコシステム全体の課題です。そのため、個々の組織の取り組みに加え、業界全体、さらには国際的な協力が、この脅威に対抗する上でますます重要になります。

まとめ

サプライチェーン攻撃は、現代の企業活動に不可欠な複雑な連携関係と信頼性を悪用する、非常に強力で影響範囲の広いサイバー攻撃手法です。ソフトウェアアップデートへの不正コード混入、オープンソースライブラリの改ざん、サプライヤーシステムの踏み台利用など、その手法は多岐にわたります。攻撃者は、サプライチェーンの信頼性、多大な波及効果、検出の困難性、そしてサプライヤー側のセキュリティの脆弱性といった要素を狙うことで、効率的かつ破壊的な攻撃を実現します。SolarWinds、NotPetya、Kaseya VSAといった過去の事例は、サプライチェーン攻撃の深刻さを明確に示しています。

この脅威に対抗するためには、単に自社のシステムを防御するだけでなく、サプライチェーン全体を見据えた包括的かつ多層的な対策が不可欠です。技術的な対策としては、サプライヤーのリスク評価と管理、SDLCにおけるセキュリティ強化(SBOMの活用など)、そして自社システムにおける堅牢なアクセス制御、監視、脆弱性管理などが挙げられます。組織的な対策としては、明確なセキュリティポリシーの策定、経営層のコミットメント、従業員教育、そしてサプライヤーを含めたインシデントレスポンス体制の構築が重要です。

サプライチェーン全体の可視化の困難さや、中小サプライヤーのセキュリティレベル向上といった課題はありますが、リスクベースのアプローチを取り、重要な部分から優先的に対策を進めることが現実的です。また、SBOMの普及やゼロトラストアーキテクチャの採用といった技術トレンド、そして国際的な連携の強化は、将来的なサプライチェーンセキュリティの向上に寄与するでしょう。

サプライチェーン攻撃は、今後も企業や組織にとって深刻な脅威であり続けます。この脅威に対処するためには、技術、組織、人、そして関係者間の連携といった、あらゆる側面からの継続的な取り組みが不可欠です。自社のデジタルサプライチェーンがどのようなリスクを抱えているのかを常に把握し、変化する脅威環境に適応しながら、対策を継続的に見直していくことが、現代のビジネスにおいて不可欠な責務となっています。

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