なぜ背景はボケるの?被写界深度の基本を世界一やさしく紹介


なぜ背景はボケるの?被写界深度の基本を世界一やさしく紹介

「うわ、この写真、なんだかプロっぽい…!」

あなたが友人やSNSで素敵な写真を見たとき、そう感じたことはありませんか?人物がふわりと浮かび上がり、背景がとろけるようにボケているポートレート。料理が主役として際立ち、周りの景色が優しくにじんでいるテーブルフォト。

そうした「なんだかイイ感じ」な写真の秘密、その多くは「背景のボケ」に隠されています。

背景をぼかすことで、ごちゃごちゃした背景を整理し、本当に見せたい主役(被写体)に視線をぐっと引き寄せることができます。それは、写真に奥行きと立体感を与え、物語性を感じさせる魔法のようなテクニックなのです。

「でも、そんなのって、高価な一眼レフカメラと大きなレンズがないと無理でしょ?」
「専門用語が難しそうで、自分には関係ないかな…」

そんな風に思っているあなたにこそ、この記事を読んでいただきたいのです。

この記事では、「なぜ背景はボケるのか?」という根本的な仕組みを、どこよりも、誰よりもやさしく、丁寧に解説していきます。この記事を読み終える頃には、あなたは「背景ボケ」の魔法使いになるための第一歩を踏み出しているはずです。難しい専門用語も、まるで冒険の呪文のように楽しく覚えられるでしょう。

さあ、一緒に写真の奥深い世界への扉を開けてみましょう。魔法の言葉は「被写界深度(ひしゃかいしんど)」。この言葉さえ理解すれば、あなたの写真は劇的に変わります。


第1章:そもそも「ピントが合う」ってどういうこと?

背景ボケの話をする前に、まずは写真の基本中の基本、「ピントが合う」とは一体どういう状態なのかを理解するところから始めましょう。これがわかると、ボケの仕組みも驚くほどスッと頭に入ってきます。

人間の目とカメラのレンズはそっくりさん

実は、カメラの仕組みは私たちの「目」ととてもよく似ています。

  • 人間の目: 外から入ってきた光を「水晶体(すいしょうたい)」というレンズで屈折させ、奥にある「網膜(もうまく)」というスクリーンに像を結びます。
  • カメラ: 外から入ってきた光を「レンズ」で屈折させ、奥にある「イメージセンサー(またはフィルム)」というスクリーンに像を結びます。

ね、そっくりでしょう?

私たちが何かを見るとき、意識しなくても目は自動的にピントを合わせています。例えば、目の前のスマートフォンに視線を移せばスマホがはっきり見え、遠くの景色に視線を移せば景色がはっきり見えますよね。このとき、私たちの目の中では「水晶体」が厚みを変えて、光が「網膜」の上でちょうど一点に集まるように調整しているのです。

カメラも全く同じです。レンズの中にあるガラスの組み合わせを動かすことで、撮りたいものからの光が「イメージセンサー」の上でちょうど一点に集まるように調整します。

この、「光がイメージセンサー上で、きっちり一点に集まっている状態」こそが、「ピントが合っている」状態なのです。写真で言うと「シャープに」「くっきりと」写っている部分ですね。

「ボケ」の正体は、光の「にじみ」

では、逆に「ピントが合っていない」、つまり「ボケている」状態とは何でしょうか?

もうお分かりですね。それは、「光がイメージセンサー上で一点に集まらず、広がって(にじんで)写ってしまっている状態」のことです。

簡単な図でイメージしてみましょう。

【ピントが合っている状態】
被写体(例えば、リンゴ)から出た光がレンズを通り、イメージセンサーの上で「点」として集まる。
→ 結果:リンゴがくっきりシャープに写る。

【ピントが合っていない状態(ボケている状態)】
ピントが合っているリンゴよりも奥にある木から出た光がレンズを通る。しかし、センサー上では「点」に集まりきらず、「円」のように広がってしまう。
→ 結果:木がぼんやり、にじんで写る。

この、ピントが合っていない光が作る「にじんだ円」のことを、専門用語で「錯乱円(さくらんえん)」と呼びます。この錯乱円が大きければ大きいほど、私たちの目には「大きくボケている」と認識されます。

つまり、背景ボケをコントロールするとは、背景から来る光が作る「にじみ(錯乱円)」の大きさをコントロールすること、と言い換えることができるのです。

さあ、基本の準備は整いました。いよいよ、この記事の核心である「被写界深度」という魔法の言葉を解き明かしていきましょう。


第2章:「被写界深度」という魔法の言葉

いよいよ本日の主役の登場です。その名も「被写界深度(ひしゃかいしんど)」

なんだか漢字が並んでいて難しそう…と感じるかもしれませんが、安心してください。意味はとてもシンプルです。

被写界深度とは、「写真の中で、ピントが合っているように見える範囲(距離)」のことです。

先ほど、「ピントが合うのは光が一点に集まる場所だけ」と説明しました。厳密に言えば、ピントがぴったり合っているのは、その一点(専門的には「ピント面」と言います)だけです。

しかし、人間の目や写真では、ピント面からほんの少しだけ手前や奥にあっても、光のにじみ(錯乱円)が非常に小さいため、「まあ、ピントが合っていると言っていいでしょう」と認識できる範囲が存在します。この「ピントが合っているとみなせる、許容範囲の広さ」が被写界深度なのです。

この被写界深度には、大きく分けて2つの状態があります。

  1. 被写界深度が「浅い」
  2. 被写界深度が「深い」

この2つの違いを理解することが、背景ボケをマスターするための鍵となります。

被写界深度が「浅い」とは?

これは、「ピントが合っているように見える範囲が、ごくごく狭い」状態を指します。

  • 特徴: ピントを合わせた主役だけがシャープに写り、その少し手前や、すぐ後ろから背景にかけてが大きくボケる。
  • どんな写真?: 冒頭で紹介したような、背景がとろけるようにボケたポートレートや、主役が際立った物撮り写真など。主役を強調したいときに使います。

私たちが「背景をぼかしたい!」と思うとき、それはつまり「被写界深度を浅くしたい!」と言い換えることができるのです。

被写界深度が「深い」とは?

こちらは「浅い」の逆で、「ピントが合っているように見える範囲が、とても広い」状態を指します。

  • 特徴: 写真の手前から奥の遠景まで、全体的にピントが合ってくっきりと写る。
  • どんな写真?: 壮大な山の風景や、街並み全体を記録したいスナップ写真など。画面の隅々まで情報を見せたいときに使います。

旅行先で記念撮影をするとき、人物にも背景の観光名所にもしっかりピントを合わせたいですよね。そんなときは「被写界深度を深くする」必要があるのです。

まとめ:ボケの正体は「浅い被写界深度」

これで、点と点がつながりましたね。

  • 背景がボケている写真 = 被写界深度が浅い写真
  • 手前から奥までくっきりな写真 = 被写界深度が深い写真

つまり、あなたがこれから目指すのは、「意図的に被写界深度をコントロールすること」です。

では、どうすればこの「被写界深度」という魔法を自在に操ることができるのでしょうか?
次の章では、そのための具体的な3つの「魔法の呪文」を伝授します。これさえ覚えれば、あなたの写真表現は一気に豊かになりますよ。


第3章:背景ボケを操る3つの魔法の呪文

お待たせしました。ここからは、被写界深度をコントロールし、美しい背景ボケを生み出すための、最も重要で実践的な3つの要素を「魔法の呪文」として紹介します。

  1. 呪文その1:「F値(絞り)」を小さくする
  2. 呪文その2:「焦点距離」を長くする
  3. 呪文その3:「被写体との距離」を近づける & 「背景との距離」を遠ざける

この3つは、どれか1つだけでも効果がありますが、組み合わせることで相乗効果が生まれ、より強力なボケを作り出すことができます。一つずつ、じっくり見ていきましょう。

呪文その1:「F値(絞り)」を小さくする

これが、背景ボケをコントロールする上で最も基本的で、最も重要な呪文です。

【F値(えふち)とは?】
F値とは、レンズの中にある「絞り(しぼり)」という部品が、どれくらい開いているか(または閉じているか)を示す数値のことです。「絞り」は、レンズを通る光の量を調整する役割を持っており、人間の目の「瞳孔(どうこう)」のようなものだとイメージしてください。暗い場所では瞳孔が開いて光をたくさん取り込み、明るい場所では瞳孔が閉じて光の量を制限しますよね。カメラの絞りも同じ働きをします。

このF値には、ちょっと変わったルールがあります。

  • F値の数字が小さい(例:F1.4, F1.8, F2.8)

    • → 絞りが「開いて」いる状態(瞳孔が開くイメージ)
    • → 光がたくさん入る
    • 被写界深度が「浅く」なる(背景がよくボケる!)
  • F値の数字が大きい(例:F8, F11, F16)

    • → 絞りが「絞られて」いる状態(瞳孔が閉じるイメージ)
    • → 光が少ししか入らない
    • 被写界深度が「深く」なる(背景までくっきり写る!)

そう、数字の大小と、絞りの開き具合、そしてボケ具合の関係が逆になっているのがポイントです。「F値は、小さいほどボケる!」と、まずは丸暗記してしまいましょう。

【なぜF値を小さくするとボケるの?】
少しだけ、その理屈を覗いてみましょう。第1章で「ボケは光のにじみ(錯乱円)」だと説明しましたね。

F値を小さくして絞りを開くと、レンズの広い範囲を使って光を取り込むことになります。すると、ピントが合っていない背景からの光は、様々な角度から入ってくることになります。この光が入ってくる角度が広ければ広いほど、センサー上で光が一点に集まらなかったときの「にじみ」が大きくなるのです。

逆に、F値を大きくして絞りを絞ると、まるで針の穴からのぞき込むように、ごく限られた角度の光しか入ってきません。そのため、ピントが合っていない場所からの光も、にじみが小さくなり、結果としてシャープに見える(被写界深度が深くなる)というわけです。

一眼カメラやミラーレスカメラをお持ちの方は、「絞り優先モード(AまたはAv)」に設定し、F値のダイヤルを回してみてください。ファインダーや液晶モニターを覗きながらF値を一番小さい数字にすると、背景がふわっとボケていくのがリアルタイムで確認できるはずです。この感動が、写真の沼への入り口です。

呪文その2:「焦点距離」を長くする

次に紹介する呪文は、レンズの性能に関わるものです。

【焦点距離(しょうてんきょり)とは?】
焦点距離とは、簡単に言えば「レンズが写せる範囲(画角)」を決める数値です。単位はミリメートル(mm)で表されます。

  • 焦点距離が短い(例:24mm, 35mm)

    • 広角レンズと呼ばれる
    • → 広い範囲が写る(風景写真などに向いている)
    • 被写界深度が「深く」なる(ボケにくい)
  • 焦点距離が長い(例:85mm, 135mm, 200mm)

    • 望遠レンズと呼ばれる
    • → 遠くのものを大きく写せる(運動会や野鳥撮影などに向いている)
    • 被写界深度が「浅く」なる(ボケやすい!)

つまり、「望遠レンズを使えば使うほど、背景はボケやすくなる」のです。

同じ場所から、同じF値で撮影しても、広角レンズと望遠レンズではボケの大きさが全く違います。ポートレート撮影で望遠レンズが好まれるのは、この「ボケやすい」という特性が大きな理由の一つです。

【なぜ望遠だとボケやすいの?】
これにはいくつかの要因が絡み合っていますが、一番分かりやすいのは「圧縮効果」という現象です。

望遠レンズで撮影すると、遠くにある背景がぐっと手前に引き寄せられたように、大きく写ります。被写体の大きさは同じくらいになるように撮影者が動いたとしても、背景の写る大きさが全く違うのです。

例えば、人物の背景にビルがあるとします。
* 広角レンズで撮ると、人物は大きく、背景のビルは小さく写ります。
* 望遠レンズで撮ると、人物の大きさは同じでも、背景のビルがぐっと大きく写り込みます。

背景自体が大きく写し出されるため、その「ボケ」も一つ一つが大きく見え、結果として「ものすごくボケている」という印象になるのです。

もしあなたがズームレンズを持っているなら、一番広角側(数字が小さい方)と一番望遠側(数字が大きい方)で、同じものを撮り比べてみてください。そのボケ方の違いに驚くはずです。

呪文その3:「被写体との距離」を近づける & 「背景との距離」を遠ざける

最後の呪文は、レンズやカメラの設定ではなく、あなた自身の「立ち位置」と「被写体の配置」に関する、最もフィジカルなテクニックです。これは2つで1セットの呪文と考えましょう。

【その①:カメラと被写体の距離を近づける】
これは非常にシンプルです。撮りたいものに、ぐっと近づいてください。

  • 被写体に近づく被写界深度が「浅く」なる(ボケやすい!)
  • 被写体から離れる被写界深度が「深く」なる(ボケにくい)

同じ設定でも、被写体との距離が近いほど、ピント面以外のボケは急激に大きくなります。テーブルの上のコーヒーカップを撮るとき、少し離れて撮るよりも、レンズがくっつくくらいまで寄って撮った方が、背景のテーブルやお店の様子がドラマチックにボケますよね。これは、スマホのカメラでも簡単に実感できる効果です。

お花を撮るとき、昆虫を撮るときなど、マクロ撮影と呼ばれるジャンルでは、被写界深度が極端に浅くなり、花びらの一部分にしかピントが合わない、なんてことも起こります。

【その②:被写体と背景の距離を遠ざける】
こちらも直感的に理解しやすいでしょう。主役と背景を、できるだけ引き離してください。

  • 被写体と背景の距離が遠い背景のボケが「大きく」なる!
  • 被写体と背景の距離が近い背景のボケが「小さく」なる

人物を壁のすぐ前に立たせて撮るのと、壁から5メートル離れた場所に立たせて撮るのとでは、背景のボケ方が全く違います。壁のすぐ前だと、壁の質感までくっきり写ってしまうかもしれませんが、壁から離れるだけで、背景は色と光のかたまりになり、人物をくっきりと浮かび上がらせてくれます。

ポートレートを撮るときは、ただ被写体を見るだけでなく、その「背景」がどれくらい離れているかを意識することが、ワンランク上の写真への近道です。

【3つの呪文の最強コンボ】
さあ、これで3つの呪文が出揃いました。最大の背景ボケ効果を得るためには、これらの呪文を組み合わせます。

「F値が小さい(明るい)望遠レンズを使い、被写体にできるだけ近づき、背景はできるだけ遠い場所を選ぶ」

これが、背景をとろっとろにぼかすための黄金律です。この原則を覚えておけば、どんなシチュエーションでも、あなたがイメージするボケを意図的に作り出せるようになります。


第4章:実践編!スマホでも一眼でもできる、背景ボケ写真の撮り方

理論はもうバッチリですね。ここからは、学んだ知識を実際にどうやって写真に活かすか、具体的な撮影方法を「スマートフォン」と「一眼カメラ(ミラーレス/一眼レフ)」に分けて解説します。

【スマートフォンで撮る場合】

最近のスマホカメラの進化は凄まじく、誰でも簡単に背景ボケ写真が撮れるようになりました。その機能を最大限に活用しましょう。

1. 「ポートレートモード」を使いこなす

ほとんどのスマホに搭載されている、まさに背景ボケのための機能です。
iPhoneでは「ポートレート」、Androidでは「ポートレート」や「ライブフォーカス」といった名前で呼ばれています。

  • 仕組み: ポートレートモードは、主に2つのレンズ(広角と望遠など)を使って被写体と背景の距離を測ったり、AIが被写体を認識したりして、ソフトウェア処理で擬似的に背景をぼかしています。これは、第3章で学んだ「F値」の効果をデジタルで再現しているのです。
  • 使い方:
    1. カメラアプリを起動し、「ポートレート」モードに切り替えます。
    2. 画面の指示に従い、被写体との適切な距離を保ちます。(「離れてください」などの表示が出ることがあります)
    3. 被写体をタップしてピントを合わせ、シャッターを切ります。
  • 応用テクニック: 多くのスマホでは、撮影後にボケの強さを調整できます。写真アプリで編集画面を開くと、「F値」や「絞り」を調整するスライダーが表示されるはずです。ここでF値の数値を小さくすればボケが強くなり、大きくすれば弱くなります。自分の好みのボケ具合に仕上げてみましょう。
  • 注意点: ソフトウェア処理のため、被写体の輪郭(髪の毛や、メガネの隙間など)の処理が不自然になることがあります。完璧ではありませんが、SNSなどで楽しむには十分すぎるほど強力な機能です。

2. 被写体にグッと寄る(マクロ効果)

ポートレートモードがない、または使いたくない場合でも、呪文その3「被写体に近づく」はスマホでも絶大な効果を発揮します。

  • 方法: 料理、花、小物など、撮りたいものにスマホのレンズをぐっと近づけてみてください。そして、撮りたい部分を画面でタップしてピントを合わせます。
  • 効果: これだけで、ピントを合わせた部分以外が自然にボケてくれます。これはデジタル処理ではない、レンズ本来の光学的なボケなので、非常に自然な仕上がりになります。

3. 光学ズームを使う(望遠レンズ搭載機種の場合)

複数のレンズを搭載したスマホの場合、「1x」「2x」「3x」などのズーム切り替えボタンがありますよね。これは、レンズそのものを切り替える「光学ズーム」です。

  • 方法: 呪文その2「焦点距離を長くする」を思い出してください。ズーム倍率を「2x」や「3x」に設定して撮影すると、望遠レンズで撮影したことになり、背景がボケやすくなります。
  • 注意点: ピンチアウト(指で画面を広げる操作)でズームするのは「デジタルズーム」です。これは、写っている画像の一部を無理やり引き伸ばしているだけなので、画質が著しく劣化し、ボケも綺麗になりません。ズームするときは、必ず「1x」「2x」といったボタンで切り替えられる範囲の光学ズームを使いましょう。

【一眼カメラ(ミラーレス/一眼レフ)で撮る場合】

一眼カメラの最大の魅力は、スマホのデジタル処理とは違う、レンズが作り出す光学的で美しいボケを自在にコントロールできることです。

1. まずは「絞り優先モード(AまたはAv)」を使おう

一眼カメラにはP, S(Tv), A(Av), Mといった撮影モードがありますが、初心者が背景ボケを操るために、まず最初に覚えるべき最強のモードがこれです。

  • 絞り優先モードとは: あなたが「F値」を決めるだけで、カメラが写真の明るさが適正になるように「シャッタースピード」を自動で計算してくれる、非常に賢いモードです。
  • 使い方:
    1. カメラ上部のモードダイヤルを「A」(Nikon, Sonyなど)または「Av」(Canonなど)に合わせます。
    2. カメラのどこかにあるコマンドダイヤル(ギザギザしたダイヤル)を回します。
    3. ファインダーや液晶モニターに表示されている「F値」の数字が変わるのを確認します。
  • 実践: 背景をぼかしたいなら、ダイヤルを回してF値を一番小さい数字(F1.8, F3.5など、レンズの性能によります)に設定。逆に、風景全体をくっきり写したいなら、F8やF11くらいに設定します。たったこれだけの操作で、あなたは被写界深度を完全にコントロールできるのです。

2. レンズ選びが運命を分ける

一眼カメラのボケ味は、ボディよりも「レンズ」で決まると言っても過言ではありません。

  • 「明るいレンズ」を手に入れよう: F値の最小値が小さいレンズのことを、俗に「明るいレンズ」と呼びます。F1.8やF1.4といったレンズは、背景ボケを作り出すための強力な武器になります。
  • おすすめは「単焦点レンズ」: ズームができない、焦点距離が固定されたレンズのことを「単焦点レンズ」と言います。単焦点レンズは、構造がシンプルなため、同じ価格帯のズームレンズに比べてF値が小さく(明るく)、画質も良い傾向にあります。
  • 「撒き餌レンズ」から始めよう: 各メーカーが「50mm F1.8」などのスペックで、非常に安価でありながら驚くほどよく写る単焦点レンズを販売しています。これらは通称「撒き餌(まきえ)レンズ」と呼ばれ、単焦点レンズの素晴らしさを知ってもらうための入門レンズとして最適です。キットレンズの次に買う一本として、間違いなくあなたの写真を変えてくれます。

3. 3つの呪文を意識して撮影に臨む

撮影場所に立ったら、3つの呪文を頭の中で唱えましょう。

  • 「F値はどうしよう?」 → 絞り優先モードで、ボケさせたいならF値を小さく!
  • 「どのレンズを使おう?(焦点距離)」 → ズームレンズなら望遠側で。単焦点レンズを持っているなら、それに付け替えてみよう。
  • 「立ち位置はどうしよう?(距離感)」 → 被写体にもう一歩近づけないか?背景をもっと遠ざけるために、被写体に少し前に出てもらえないか?

この思考プロセスを繰り返すことで、ただシャッターを押すだけだった撮影が、意図を持った「作品作り」へと変わっていきます。


第5章:もう一歩先へ!ボケの「質」にこだわってみよう

背景ボケの作り方がわかってくると、今度は「どんなボケが美しいか」という、より深い世界に興味が湧いてくるはずです。ここでは、ボケをさらに魅力的に見せるための応用テクニックを2つ紹介します。

1. キラキラの「玉ボケ」を作ろう

背景にある小さな点光源(木漏れ日、街灯、イルミネーションなど)が、ボケることで円形や多角形のキラキラした光の玉になる現象。これを「玉ボケ(たまぼけ)」と呼びます。写真に幻想的で華やかな雰囲気を加えてくれる、非常に人気の高い表現です。

【玉ボケを綺麗に作るコツ】

  • F値をできるだけ小さく(開く): これが絶対条件です。F値を開けば開くほど、ボケが大きくなり、玉ボケも大きくはっきりと現れます。
  • 背景に「点光源」を探す: 玉ボケの元になるのは、強い小さな光です。クリスマスシーズンのイルミネーションは最高の玉ボケ素材ですし、晴れた日の木漏れ日、雨上がりの葉についた水滴の反射なども美しい玉ボケになります。
  • 呪文を最大限に活用する: 望遠レンズを使い、被写体に近づき、点光源のある背景から離れることで、玉ボケはより大きく、美しくなります。

ちなみに、玉ボケの形は、レンズの「絞り羽根」の枚数によって決まります。絞り羽根の枚数が多く、形が円に近いほど、玉ボケも真円に近くなります。絞り羽根が7枚なら七角形、9枚なら九角形といったように、絞り込むと玉ボケが角張ってくるのも面白い点です。これもレンズの「味」の一つなのです。

2. 「前ボケ」で奥行きを演出する

ボケるのは背景だけではありません。被写体の手前にあるものを意図的にぼかすテクニックを「前ボケ(まえぼけ)」と言います。

  • 効果: 前ボケをフレームに入れることで、写真に圧倒的な奥行き感と立体感が生まれます。また、被写体をそっと覗き込んでいるような視覚効果や、幻想的な雰囲気を加えることができます。
  • 作り方:
    1. 被写体とカメラの間に、何かを配置します。例えば、花、葉っぱ、レースのカーテン、キラキラしたアクセサリーなど、何でも構いません。
    2. その「前ボケにしたいもの」にレンズをぐっと近づけます。
    3. ピントは奥の主役(人物など)に合わせます。
    4. F値はできるだけ小さく設定します。

たったこれだけで、手前のものが色や形のかたまりとなってフレームを飾り、主役をより一層引き立ててくれます。花畑でポートレートを撮るとき、手前の花をいくつか前ボケとして入れるだけで、写真のクオリティがぐっと上がります。ぜひ試してみてください。


まとめ:ボケを制する者は、写真を制す

長い旅、お疲れ様でした。最後に、今日学んだことをもう一度おさらいしましょう。

  • 「ピントが合う」とは、光がセンサー上で一点に集まること。「ボケ」とは、光がにじんで広がってしまうことでした。
  • この「ピントが合って見える範囲」のことを「被写界深度」と呼びます。背景をぼかすとは、「被写界深度を浅くする」ことでしたね。
  • そして、被写界深度を浅くして背景をぼかすための魔法の呪文は3つ。
    1. F値を小さくする(絞りを開く)
    2. 焦点距離を長くする(望遠で撮る)
    3. 被写体に近づき、背景から遠ざける

この3つの原則を理解すれば、あなたはもう「なんとなく撮る」段階から卒業です。スマホでも、一眼カメラでも、自分の意志で写真の雰囲気をコントロールする力を手に入れたのです。

背景ボケは、単なる技術ではありません。それは、あなたが写真の中で「何を見てほしいのか」「何を伝えたいのか」というメッセージを、より強く、より美しく伝えるための「演出」です。主役を輝かせ、脇役を整理し、見る人の視線を導く。まさに、あなたが写真という舞台の監督になるための第一歩なのです。

さあ、今日からカメラを手に取るとき、ぜひ3つの呪文を思い出してみてください。F値を変えてみる。ズームしてみる。一歩前に出てみる。一歩下がってみる。その小さな試行錯誤の一つ一つが、あなたの写真を確実に変えていきます。

ボケを制する者は、写真を制す。
あなたの写真ライフが、今日からもっともっと楽しく、クリエイティブになることを心から願っています。

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