はい、承知いたしました。サーバー構築に最適なOSとして名高い「Debian 9 “Stretch”」の導入から使い方までを網羅した、約5000語の詳細な解説記事を作成します。
サーバー構築に最適!Debian 9 “Stretch”の導入と使い方【完全ガイド】
はじめに:なぜ今、Debian 9 “Stretch”を学ぶのか?
Debianは、その圧倒的な安定性とセキュリティ、そしてフリーソフトウェアへの揺るぎないコミットメントで、世界中のサーバー管理者や開発者から絶大な信頼を得ているLinuxディストリビューションです。特にサーバー用途においては、「一度設定したら、あとは忘れてもいい」と言われるほどの堅牢さを誇り、ミッションクリティカルなシステムで数多く採用されています。
この記事で取り上げる「Debian 9」、コードネーム “Stretch” は、2017年6月にリリースされ、長期間にわたり多くのサーバーの心臓部として稼働してきました。その安定性と完成度の高さは、多くの管理者にとっての「標準」とも言える存在でした。
【重要】Debian 9 “Stretch”のサポート状況について
本題に入る前に、非常に重要な点をお伝えします。Debian 9 “Stretch” の標準サポートは2020年7月に終了し、長期サポート(LTS)も2022年6月30日をもって終了しました。これは、現在、Debian 9には公式なセキュリティアップデートが提供されていないことを意味します。
では、なぜサポートが終了したOSを今学ぶのでしょうか?
その理由はいくつかあります。
- 学習目的として最適: Debianのサーバー管理の基礎は、バージョンが異なっても大きくは変わりません。Stretchは、現代的なシステム(systemdなど)と伝統的な設定方法(
/etc/network/interfaces
など)が混在する過渡期のバージョンであり、Linuxサーバー管理の歴史と変遷を理解する上で非常に良い教材となります。 - レガシーシステムの保守: 世の中には、様々な理由でアップグレードできず、未だにDebian 9で稼働しているシステムが存在します。そのようなシステムの保守・運用を担当する際に、本記事で解説する知識は直接的に役立ちます。
- 普遍的な知識の習得: 本記事で解説するApache, MariaDB, PHP (LAMP), Sambaといったサーバーソフトウェアの設定、
apt
によるパッケージ管理、systemctl
によるサービス管理、ufw
によるファイアウォール設定などの知識は、最新のDebianや他のLinuxディストリビューションでも通用する普遍的なスキルです。
この記事は、Linuxサーバー構築の初心者が、その基礎を体系的に学ぶための「教科書」として、あるいはレガシーシステムに関わる必要のある中級者が知識を再確認するための「リファレンス」として活用されることを目的としています。
本番環境での新規構築は、必ず最新の安定版(Stable)Debianを利用してください。 この記事は、あくまで学習と理解を深めるためのガイドです。
それでは、Debian 9 “Stretch” の世界へ、一歩ずつ進んでいきましょう。
第1章:Debian 9 “Stretch” のインストール
サーバー構築の第一歩は、OSのインストールです。ここでは、最小構成のサーバーを構築することを想定し、CUI(キャラクターユーザーインターフェース)ベースでのインストール手順を詳しく解説します。
1.1 準備するもの
- インストール用PCまたは仮想マシン: 物理的なマシンでも、VirtualBoxやVMwareなどの仮想環境でも構いません。
- 最小システム要件:
- CPU: 1GHz
- RAM: 256MB (CUI), 512MB (GUI)
- HDD: 2GB (CUI), 10GB (GUI)
- 推奨システム要件 (サーバー用途):
- CPU: 2GHz以上
- RAM: 1GB以上
- HDD: 20GB以上
- 最小システム要件:
- インストールメディア:
- Debianの公式サイトのアーカイブから、
debian-9.13.0-amd64-netinst.iso
のような「netinst (ネットワークインストール)」イメージをダウンロードします。これは、インストールに必要な最小限のファイルのみを含み、残りのパッケージはインターネット経由でダウンロードする形式です。容量が小さく、常に最新のパッケージでシステムを構築できるため推奨されます。
- Debianの公式サイトのアーカイブから、
- インストールメディア作成ツール:
- ダウンロードしたISOイメージをUSBメモリに書き込むためのツール(例: Rufus, balenaEtcher)。DVDに焼いても構いません。
1.2 インストール手順
作成したインストールメディアからマシンを起動します。BIOS/UEFIで起動順序をUSB/DVDドライブ優先に変更する必要があるかもしれません。
-
ブートメニュー:
インストーラーが起動すると、ブートメニューが表示されます。「Install」または「Graphical Install」を選択します。ここでは、より分かりやすい「Graphical Install」を前提に進めますが、手順はほぼ同じです。 -
言語、場所、キーボードの選択:
- Select a language:
Japanese - 日本語
を選択します。 - Select your location:
日本
を選択します。 - Configure the keyboard:
日本語
を選択します。
- Select a language:
-
ネットワークの設定:
- インストーラーがネットワークハードウェアを検出し、DHCPによるIPアドレスの自動取得を試みます。
- ホスト名: サーバーの名前を入力します(例:
debian-server
)。 - ドメイン名: 所属するドメイン名を入力します。なければ空欄のままでも構いません(例:
local
)。
-
ユーザーとパスワードの設定:
- rootパスワード:
root
(管理者)ユーザーのパスワードを設定します。非常に強力な権限を持つため、推測されにくい複雑なパスワードを設定してください。 - 新しいユーザーの作成:
- ユーザーのフルネーム: 一般的に使用するユーザーの氏名を入力します(例:
Taro Yamada
)。 - あなたのアカウントのユーザー名: ログイン時に使用するユーザー名を入力します(例:
taro
)。 - パスワード: この一般ユーザーのパスワードを設定します。
- ユーザーのフルネーム: 一般的に使用するユーザーの氏名を入力します(例:
- rootパスワード:
-
ディスクのパーティショニング:
- パーティショニング方法の選択: 「ガイド – ディスク全体を使う」が初心者には最も簡単で安全です。LVM(論理ボリュームマネージャ)を使いたい場合は「ガイド – ディスク全体を使い、LVMをセットアップする」を選択します。LVMは後からパーティションサイズを柔軟に変更できる利点があります。ここでは「ガイド – ディスク全体を使う」を選択します。
- ディスクの選択: パーティションを作成するディスクを選択します。
- パーティショニング機構: 「すべてのファイルを1つのパーティションに (初心者ユーザーには推奨)」を選択します。
/
,/home
,/var
などを個別に分けたい場合は、「/home, /var, /tmp パーティションを分割」などを選択することもできます。サーバー用途ではログが溜まる/var
やユーザーデータが入る/home
を別パーティションにするのが一般的ですが、学習目的なら1つで十分です。 - 最終確認: 変更内容の概要が表示されます。「パーティショニングの終了とディスクへの変更の書き込み」を選択し、「はい」を選んでディスクへの書き込みを確定します。
-
ベースシステムのインストール:
パーティションの設定が完了すると、ベースシステムのインストールが始まります。数分かかります。 -
パッケージマネージャの設定:
- 別のCD/DVDをスキャンしますか?: 「いいえ」を選択します。
- Debianアーカイブミラーの国: 「日本」を選択します。
- Debianアーカイブミラー:
ftp.jp.debian.org
やftp.jaist.ac.jp
など、近くのミラーサーバーを選択します。 - HTTPプロキシの情報: プロキシがなければ空欄のまま進みます。
- 選択したミラーから、パッケージ情報がダウンロードされます。
-
ソフトウェアの選択 (Tasksel):
サーバーの役割に応じたソフトウェアパッケージ群を選択する画面です。- [ ] Debian デスクトップ環境: チェックを外します。サーバーにGUIは不要です。
- [ ] … print server: 不要であればチェックを外します。
- [✓] SSH server: 必ずチェックを入れます。これにより、他のマシンからリモートでサーバーに接続できるようになります。
- [✓] standard system utilities: 必ずチェックを入れます。基本的なシステム管理ツールが含まれます。
選択後、「続ける」をクリックすると、選択されたソフトウェアのインストールが始まります。
-
GRUBブートローダーのインストール:
- マスターブートレコードにGRUBブートローダをインストールしますか?: 「はい」を選択します。
- ブートローダをインストールするデバイス:
/dev/sda
のように、OSをインストールしたハードディスクを選択します。
-
インストールの完了:
「インストールが完了しました」というメッセージが表示されたら、「続ける」をクリックします。インストールメディアが自動で排出され、システムが再起動します。
再起動後、黒い画面に debian-server login:
のように表示されれば、インストールは成功です。
第2章:初期設定と基本操作
インストールが完了したばかりのサーバーは、まだ「素」の状態です。ここからは、サーバーとして本格的に運用するための初期設定と、基本となるコマンド操作を学びます。
2.1 SSHによるリモート接続
サーバーを直接操作するのではなく、普段使っているPC(クライアント)からネットワーク経由で操作するのが一般的です。そのためにSSH (Secure Shell) を使います。
-
サーバーのIPアドレスを確認:
サーバーに先ほど作成した一般ユーザーでログインし、以下のコマンドを実行します。
bash
/sbin/ip a
inet
の後に表示される192.168.x.x
のようなアドレスがIPアドレスです。 -
クライアントからの接続:
- Windowsの場合: Tera Term や PuTTY などのSSHクライアントソフトを使います。ホスト名にサーバーのIPアドレス、ユーザー名に作成した一般ユーザー名を入力して接続します。
- macOS / Linuxの場合: ターミナルを開き、以下のコマンドを実行します。
bash
ssh [email protected]
taro
と192.168.x.x
は自分の環境に合わせて書き換えてください。
初回接続時には、サーバーのフィンガープリント(指紋)を信頼するか尋ねられるので yes
と入力します。その後、パスワードを入力してログインします。
2.2 sudo
の設定
Debianでは、デフォルトではroot
ユーザーにしか管理者権限がありません。しかし、常にroot
で作業するのは危険です。そこで、一般ユーザーが一時的に管理者権限を使えるように sudo
コマンドを設定します。
-
まず、
root
ユーザーに切り替えます。su
(substitute user) コマンドを使います。
bash
su -
root
のパスワードを求められるので入力します。プロンプトが$
から#
に変われば成功です。 -
sudo
パッケージをインストールします。
bash
apt update
apt install sudo -
作成した一般ユーザーを
sudo
グループに追加します。
bash
usermod -aG sudo taro
taro
は自分のユーザー名に置き換えてください。 -
exit
と入力してroot
から抜け、一度SSH接続を切り、再度ログインし直します。これで設定が反映されます。 -
動作確認として、
sudo
を使って管理者権限が必要なコマンド(パッケージリストの更新)を実行してみましょう。
bash
sudo apt update
一般ユーザーのパスワードを求められます。入力してエラーが出なければ設定完了です。これ以降、管理者権限が必要なコマンドは、先頭にsudo
をつけて実行します。
2.3 システムのアップデート
インストール直後のシステムは、パッケージが最新でない場合があります。常に最新の状態に保つことは、セキュリティ上非常に重要です。
- パッケージリストの更新:
bash
sudo apt update - パッケージのアップグレード:
bash
sudo apt upgrade
アップグレード可能なパッケージがある場合、一覧が表示され、実行確認を求められます。Y
を押して進めます。
2.4 基本的なコマンドライン操作
サーバー管理はコマンド操作が基本です。最低限覚えておくべきコマンドを紹介します。
コマンド | 説明 | 例 |
---|---|---|
pwd |
現在いるディレクトリ(カレントディレクトリ)のパスを表示 | pwd |
ls |
ファイルやディレクトリの一覧を表示 | ls -lha (詳細表示) |
cd |
ディレクトリを移動 | cd /var/log |
mkdir |
新しいディレクトリを作成 | mkdir my-project |
rm |
ファイルを削除 | rm old-file.txt |
rmdir |
空のディレクトリを削除 | rmdir empty-dir |
rm -r |
ディレクトリを中身ごと削除 | rm -r old-project |
cp |
ファイルやディレクトリをコピー | cp source.txt dest.txt |
mv |
ファイルやディレクトリを移動または名前変更 | mv old-name.txt new-name.txt |
cat |
ファイルの内容を表示 | cat /etc/os-release |
less |
ファイルの内容をページ単位で表示(q で終了) |
less /var/log/syslog |
nano |
シンプルなテキストエディタ | sudo nano /etc/hosts |
vim |
高機能なテキストエディタ(操作に慣れが必要) | sudo vim /etc/hosts |
ps |
実行中のプロセスを表示 | ps aux |
top |
システムのリソース使用状況をリアルタイムで表示 | top |
kill |
プロセスを終了させる | kill 1234 (プロセスIDを指定) |
df |
ディスクの空き容量を表示 | df -h (人間が読みやすい形式) |
free |
メモリの使用状況を表示 | free -h |
adduser |
対話形式で新しいユーザーを作成 | sudo adduser newuser |
deluser |
ユーザーを削除 | sudo deluser olduser |
chmod |
ファイルのパーミッション(権限)を変更 | chmod 755 script.sh |
chown |
ファイルの所有者を変更 | sudo chown taro:taro file.txt |
第3章:サーバーとしての設定とセキュリティ強化
サーバーをインターネットに公開する前に、ネットワーク設定を固定し、セキュリティを強化することが不可欠です。
3.1 IPアドレスの固定化
DHCPによる動的なIPアドレス割り当ては、クライアントPCには便利ですが、サーバーには不向きです。サーバーのIPアドレスは常に同じであるべきです。
-
設定ファイル
/etc/network/interfaces
を編集します。
bash
sudo nano /etc/network/interfaces -
DHCPの設定をコメントアウトし、静的(static)な設定を追記します。
ens3
の部分は、ip a
コマンドで確認した自分のネットワークインターフェース名に置き換えてください。“`
The primary network interface
allow-hotplug ens3
iface ens3 inet dhcp <– この2行をコメントアウトするか削除
静的IPアドレスの設定例
auto ens3
iface ens3 inet static
address 192.168.1.100 # サーバーに割り当てるIPアドレス
netmask 255.255.255.0 # サブネットマスク
gateway 192.168.1.1 # デフォルトゲートウェイ(ルーターのIP)
dns-nameservers 8.8.8.8 8.8.4.4 # DNSサーバーのIP(例: Google Public DNS)
“` -
設定を保存し、ネットワークサービスを再起動して反映させます。
bash
sudo systemctl restart networking
SSH接続が一旦切れます。新しい固定IPアドレスで再度接続し直してください。
3.2 SSHのセキュリティ強化
デフォルト設定のままのSSHは、攻撃の標的になりやすいです。設定を変更してセキュリティを高めましょう。
-
SSH設定ファイル
/etc/ssh/sshd_config
を編集します。
bash
sudo nano /etc/ssh/sshd_config -
以下の項目を変更・確認します。
- ポート番号の変更(推奨):
デフォルトの22番ポートは常にスキャンされています。1024〜65535の間の未使用のポートに変更します。
#Port 22
Port 10022 # 例: 10022番に変更 - rootログインの禁止:
rootでの直接ログインは非常に危険です。必ず禁止します。
PermitRootLogin prohibit-password
# 上記を以下のように変更
PermitRootLogin no -
公開鍵認証の有効化とパスワード認証の無効化(強く推奨):
パスワードによるブルートフォース攻撃を防ぐため、公開鍵認証に切り替えます。
まず、クライアントPCで鍵ペアを作成します。
bash
# macOS / Linux のターミナルで実行
ssh-keygen -t rsa -b 4096
作成された公開鍵 (~/.ssh/id_rsa.pub
) の内容を、サーバーに転送します。
bash
# クライアントPCから実行
ssh-copy-id -p 10022 [email protected]
# ポート番号を変更した場合は -p オプションで指定
サーバー側の~/.ssh/authorized_keys
に公開鍵が追記されたら、sshd_config
を編集します。
“`
PubkeyAuthentication yesChallengeResponseAuthentication no
PasswordAuthentication no # yesからnoに変更
UsePAM no # yesからnoに変更
``
PasswordAuthentication no` に変更する前に、必ず公開鍵でログインできることを確認してください。さもないとサーバーにログインできなくなります。
**注意:**
- ポート番号の変更(推奨):
-
設定を保存し、SSHサービスを再起動します。
bash
sudo systemctl restart ssh
3.3 ファイアウォールの設定 (ufw
)
サーバーへの不正なアクセスを防ぐため、必要な通信(ポート)のみを許可するファイアウォールを設定します。ufw
(Uncomplicated Firewall) はその名の通り、簡単に設定できるツールです。
-
ufw
をインストールします。
bash
sudo apt install ufw -
デフォルトポリシーを設定します(受信はすべて拒否、送信はすべて許可)。
bash
sudo ufw default deny incoming
sudo ufw default allow outgoing -
必要なサービスを許可します。
-
SSH: これを最初に設定しないと、ファイアウォール有効化後に締め出されます!
“`bash
# ポート番号を変更した場合
sudo ufw allow 10022/tcpデフォルトの22番ポートの場合
sudo ufw allow ssh
* **Webサーバー (HTTP/HTTPS):**
bash
sudo ufw allow http # ポート 80
sudo ufw allow https # ポート 443
“`
-
-
ファイアウォールを有効化します。
bash
sudo ufw enable
「この操作は既存のSSH接続を中断させる可能性があります」と警告が出ますが、SSHポートを許可していれば問題ありません。y
を入力して進めます。 -
設定状況を確認します。
bash
sudo ufw status verbose
3.4 Fail2banの導入
Fail2banは、ログファイルを監視し、SSHへのログイン試行失敗など、怪しい振る舞いを繰り返すIPアドレスを自動的にブロックするツールです。
-
インストールします。
bash
sudo apt install fail2ban -
設定ファイルを作成します。
jail.conf
を直接編集せず、jail.local
という名前でコピーして編集するのが作法です。
bash
sudo cp /etc/fail2ban/jail.conf /etc/fail2ban/jail.local
sudo nano /etc/fail2ban/jail.local -
jail.local
を編集します。[sshd]
セクションを探し、enabled = true
になっていることを確認します。port = ssh
の部分を、変更したポート番号に書き換えます。
[sshd]
enabled = true
port = 10022bantime
(ブロック時間),findtime
(監視時間),maxretry
(試行回数) を好みに応じて調整できます。
-
Fail2banサービスを再起動します。
bash
sudo systemctl restart fail2ban
第4章:主要なサーバーソフトウェアの導入
ここでは、代表的なサーバーアプリケーションであるWebサーバー (LAMP) とファイルサーバー (Samba) の構築方法を解説します。
4.1 Webサーバー (LAMPスタック) の構築
LAMPとは、Linux, Apache, MariaDB/MySQL, PHP/Perl/Python の頭文字を取った、動的なWebサイトを構築するための定番の組み合わせです。
4.1.1 Apache2 (Webサーバー) のインストール
- Apache2をインストールします。
bash
sudo apt install apache2 - ブラウザで
http://サーバーのIPアドレス
にアクセスし、「Apache2 Debian Default Page」が表示されればインストール成功です。 - ドキュメントルート(Webコンテンツを置く場所)は
/var/www/html
です。 - 主要な設定ファイル:
/etc/apache2/apache2.conf
: 全体設定/etc/apache2/sites-available/
: バーチャルホストの設定ファイルを置く場所/etc/apache2/sites-enabled/
: 有効化されたバーチャルホスト設定のシンボリックリンクが置かれる場所
4.1.2 MariaDB (データベース) のインストール
Debian 9 では、MySQLのフォークであるMariaDBがデフォルトのデータベースとなっています。
- MariaDBサーバーとクライアントをインストールします。
bash
sudo apt install mariadb-server mariadb-client - 初期セキュリティ設定スクリプトを実行します。対話形式でセキュリティを強化できます。
bash
sudo mysql_secure_installation- Enter current password for root: (EnterでOK)
- Set root password?:
Y
を押し、rootのDBパスワードを設定 - Remove anonymous users?:
Y
- Disallow root login remotely?:
Y
- Remove test database and access to it?:
Y
- Reload privilege tables now?:
Y
すべてY
で進めて問題ありません。
4.1.3 PHP (スクリプト言語) のインストール
- PHPと、Apache/MariaDBと連携するためのパッケージをインストールします。
bash
sudo apt install php libapache2-mod-php php-mysql - 動作確認のため、PHPの情報を表示するファイルを作成します。
bash
sudo nano /var/www/html/info.php
ファイルに以下の内容を記述して保存します。
php
<?php
phpinfo();
?> - ブラウザで
http://サーバーのIPアドレス/info.php
にアクセスし、PHPの詳細情報ページが表示されれば連携成功です。 - 【重要】
info.php
はサーバーの情報を外部に漏洩させるため、確認後は必ず削除してください。
bash
sudo rm /var/www/html/info.php
これで、基本的なLAMP環境が整いました。
4.2 ファイルサーバー (Samba) の構築
Sambaを導入すると、Debianサーバー上にWindowsのファイル共有(SMB/CIFSプロトコル)を作成し、Windows PCからエクスプローラーでアクセスできるようになります。
- Sambaをインストールします。
bash
sudo apt install samba - 設定ファイル
/etc/samba/smb.conf
を編集します。バックアップを取ってから作業しましょう。
bash
sudo cp /etc/samba/smb.conf /etc/samba/smb.conf.bak
sudo nano /etc/samba/smb.conf - ファイル末尾に、共有設定を追記します。
ini
[share]
comment = Shared Folder
path = /srv/samba/share # 共有するディレクトリのパス
read only = no # 書き込みを許可
browsable = yes # ネットワーク上で見えるようにする
guest ok = no # ゲストアクセスを不許可
valid users = taro # アクセスを許可するユーザー(例) - 共有ディレクトリを作成し、所有者を設定します。
bash
sudo mkdir -p /srv/samba/share
sudo chown taro:taro /srv/samba/share -
Samba用のユーザーとパスワードを設定します。このユーザーはDebianシステムに存在している必要があります。
bash
sudo smbpasswd -a taro
パスワードの入力を求められるので設定します。Linuxのログインパスワードとは別のものを設定できます。 -
Sambaサービスを再起動します。
bash
sudo systemctl restart smbd - Windows PCのエクスプローラーのアドレスバーに
\\サーバーのIPアドレス
と入力すると、共有フォルダshare
が表示されます。アクセス時にユーザー名とパスワードを求められるので、Sambaで設定したものを入力します。
第5章:システムの管理とメンテナンス
サーバーは一度構築したら終わりではありません。日々の管理とメンテナンスが安定稼働の鍵です。
5.1 パッケージ管理 (apt
)
apt
(Advanced Package Tool) はDebianのパッケージ管理システムの中核です。
- パッケージの検索:
bash
apt search <キーワード> - パッケージ情報の表示:
bash
apt show <パッケージ名> - パッケージのインストール:
bash
sudo apt install <パッケージ名> - パッケージの削除(設定ファイルは残す):
bash
sudo apt remove <パッケージ名> - パッケージの削除(設定ファイルも完全に削除):
bash
sudo apt purge <パッケージ名> - 依存関係で不要になったパッケージを自動削除:
bash
sudo apt autoremove
5.2 サービスの管理 (systemctl
)
Debian 9 では、systemd
がサービスの起動・停止・管理を行います。その操作コマンドが systemctl
です。
- サービスの起動:
sudo systemctl start <サービス名>
- サービスの停止:
sudo systemctl stop <サービス名>
- サービスの再起動:
sudo systemctl restart <サービス名>
- 設定ファイル再読み込み:
sudo systemctl reload <サービス名>
- サービスの状態確認:
sudo systemctl status <サービス名>
- システム起動時の自動起動を有効化:
sudo systemctl enable <サービス名>
- システム起動時の自動起動を無効化:
sudo systemctl disable <サービス名>
例: sudo systemctl status apache2
5.3 ログの確認
サーバーに問題が発生した際、原因究明の第一歩はログの確認です。
- systemdのジャーナルログ (推奨):
journalctl
コマンドで、システム全体のログを統合的に閲覧できます。- すべてのログを表示:
journalctl
- 起動時からのログを表示:
journalctl -b
- 特定のサービスのログをフィルタリング:
journalctl -u ssh.service
- リアルタイムでログを監視:
journalctl -f
- すべてのログを表示:
- 従来のログファイル:
/var/log/
ディレクトリ配下にも、各アプリケーションのログがテキスト形式で保存されています。/var/log/syslog
: システム全体のメッセージ/var/log/auth.log
: 認証関連のログ/var/log/apache2/access.log
: Apacheのアクセスログ/var/log/apache2/error.log
: Apacheのエラーログ
less
やtail -f
コマンドで内容を確認します。
まとめ:学びの先へ
この記事では、Debian 9 “Stretch” を使って、サーバーのインストールから初期設定、セキュリティ強化、主要なアプリケーションの導入、そして日々の管理まで、一連の流れを網羅的に解説しました。
ここで学んだ知識は、Debian 9 に限定されるものではありません。
* apt
, systemctl
, ufw
といったコマンド
* SSHのセキュリティ設定の考え方
* LAMPスタックやSambaの構築手順
* ログを確認して問題を解決するアプローチ
これらはすべて、最新のDebian 11 “Bullseye” や、Ubuntuなどの他のDebian系ディストリビューションでもほぼそのまま通用する、Linuxサーバー管理の根幹をなすスキルです。
最後に、改めて強調します。
Debian 9 “Stretch” は既に公式サポートが終了(EOL)しており、セキュリティ上のリスクが存在します。これから本番環境でサーバーを構築する場合は、必ず最新の安定版Debianを使用してください。
今回の学習を土台として、次はぜひ最新のDebianに挑戦してみてください。さらに、コンテナ技術のDocker、構成管理自動化ツールのAnsibleなど、より現代的なサーバー管理技術へと学びを進めていくことで、あなたのスキルはさらに価値あるものになるでしょう。
この長い旅路を最後までお読みいただき、ありがとうございました。あなたのサーバー管理ライフが、安定かつセキュアなものでありますように。