FE 70-200mm F4 Macro G OSS II レビュー | 進化した小型軽量望遠マクロ
導入:望遠ズームの新境地を切り開くレンズの登場
ソニーEマウントシステムにおいて、望遠ズームレンズはポートレート、風景、スポーツ、イベント、野生動物など、非常に幅広い撮影ジャンルで不可欠な存在です。中でも70-200mmという焦点距離は、その汎用性の高さから多くのフォトグラファーに愛されてきました。ソニーはこれまで、プロやハイアマチュア向けのフラッグシップであるG Masterレンズとして、FE 70-200mm F2.8 GM OSSおよびその進化版であるFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIを提供してきました。これらのレンズは圧倒的な解像性能と美しいボケ味で多くのユーザーを魅了していますが、その高性能ゆえにサイズ、重量、そして価格も相応のものとなります。
一方で、より軽量でコンパクトな選択肢として存在するFE 70-200mm F4 G OSS(以下、Mark I)は、携帯性と価格のバランスに優れ、多くのユーザーにとって手の届きやすい望遠ズームとして親しまれてきました。しかし、時代が進み、ユーザーのニーズが多様化する中で、Mark Iに対する「さらなる進化」を求める声も少なくありませんでした。特に、近接撮影能力の向上や、最新のカメラボディに対応した高速・高精度なAF性能への期待が高まっていました。
そして2023年7月、ソニーはその期待に応える形で、待望の第二世代モデル、FE 70-200mm F4 Macro G OSS II(以下、本レンズまたはMark II)を発表しました。このレンズの最も特筆すべき進化点は、その名の通り「Macro」機能を搭載したことです。単なる70-200mm F4のアップデートに留まらず、望遠ズームとしての基本性能を大幅に向上させつつ、これまでのF4ズームにはなかった新たな撮影領域である「望遠マクロ」を実現したのです。
本レビューでは、このFE 70-200mm F4 Macro G OSS IIが Mark Iからどのように進化し、どのようなターゲットユーザーに最適なのか、そしてその光学性能、AF性能、操作性、そして最も重要なマクロ機能について、約5000語にわたって詳細に掘り下げていきます。ポートレートから風景、そして新たに加わった近接撮影まで、このレンズ一本でどこまで幅広い表現が可能になるのか、その真価に迫ります。
1. レンズの概要とポジショニング:F4の進化系、そして新たなマクロの世界へ
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、ソニーEマウントシステムにおける中望遠から望遠域をカバーするGレンズです。ズーム全域で開放絞りF4の明るさを持ち、光学式手ブレ補正機構(OSS)を内蔵しています。第二世代モデルとして、光学設計、AFシステム、そして操作性にMark Iからの大幅な改良が施されています。
このレンズの最も重要な進化ポイントは、冒頭でも触れた「マクロ機能」です。ズーム全域で最大撮影倍率0.5倍のハーフマクロ撮影が可能となりました。これにより、従来は独立したマクロレンズやクローズアップレンズ、あるいは特定の望遠単焦点レンズでしか難しかった被写体のディテールを、70-200mmという汎用性の高いズームレンズ一本で捉えることができるようになったのです。これは、例えば花や昆虫、小さな小物などを撮影する際に、レンズ交換の手間なく、あるいは望遠ならではの圧縮効果とボケを活かして被写体に迫れることを意味します。
ターゲットユーザーとしては、Mark Iユーザーからのステップアップはもちろん、F2.8 GMレンズのサイズや重量、価格がネックだったフォトグラファー、そしてポートレートや風景撮影に加えて、花やテーブルフォト、商品撮影など、ある程度の近接撮影も楽しみたいと考えるユーザーが挙げられます。特に、旅行やハイキングなどで機材をコンパクトに抑えたい場合、F4ズームの携帯性は大きなアドバンテージとなります。
ソニーの望遠ズームラインアップの中で見ると、本レンズはFE 70-200mm F2.8 GM OSS IIの下位に位置づけられますが、単なる廉価版や簡易版ではありません。F2.8 GM IIが「最高の光学性能と高速AFによる究極の描写と瞬間捕捉」を目指すレンズであるならば、本レンズは「優れた光学性能と高速AFを維持しつつ、高い携帯性とユニークなマクロ機能による撮影領域の拡大」を目指すレンズと言えるでしょう。F値の違いだけでなく、マクロ機能の有無という点で明確な差別化が図られており、どちらのレンズを選択するかは、ユーザーの撮影スタイルや優先順位によって大きく変わってきます。
2. 主な仕様:Mark Iからの進化点を探る
本レンズの主な仕様は以下の通りです。Mark Iと比較しながら見ていきましょう。
- 名称: FE 70-200mm F4 Macro G OSS II
- 型名: SEL70200G2
- マウント: ソニーEマウント
- 対応撮像画面サイズ: 35mmフルサイズ
- 焦点距離 (mm): 70-200
- 開放絞り (F値): 4
- 最小絞り (F値): 22
- レンズ構成: 13群19枚 (XAレンズ1枚、非球面レンズ1枚、ED非球面レンズ3枚、スーパーEDレンズ1枚、EDレンズ2枚)
- Mark I: 13群18枚 (高度非球面AAレンズ2枚、EDガラス3枚、スーパーEDガラス1枚)
- Mark IIは光学系が刷新され、XAレンズや非球面レンズが増加しています。特にXAレンズの採用は、G Masterに採用されるような高度な面精度を持つレンズであり、解像性能やボケ味の向上に寄与すると考えられます。
- 円形絞り: 搭載 (11枚羽根)
- Mark I: 9枚羽根
- 絞り羽根が11枚に増加したことで、より円形に近い美しいボケが期待できます。
- 最短撮影距離 (m):
- 広角 70mm時: 0.26m
- 望遠 200mm時: 0.42m
- Mark I: ズーム全域で1.0m
- これがまさに「Macro」たる所以です。Mark Iの1mから大幅に短縮され、特に広角側では0.26mまで寄れるようになりました。これにより、最大撮影倍率0.5倍が実現されています。
- 最大撮影倍率 (倍):
- ズーム全域: 0.5倍
- Mark I: 0.13倍
- Mark Iの約4倍もの最大撮影倍率を実現しています。しかも、ズーム全域で0.5倍を維持している点がユニークです。通常、ズームレンズの最短撮影距離や最大撮影倍率は焦点距離によって大きく変動しますが、本レンズは広角側でも望遠側でも0.5倍まで寄れる設計になっています。
- フィルター径 (mm): 72
- Mark I: 72
- これは変更なし。72mmは比較的ポピュラーな径です。
- 手ブレ補正: 光学式 (OSS)
- テレコンバーター対応: 1.4x Teleconverter、2.0x Teleconverterに対応
- Mark I: 対応
- Mark Iも対応していましたが、本レンズの最大の特徴は、テレコンバーター使用時でも最短撮影距離と最大撮影倍率(0.5倍)が維持されることです。
- 1.4x使用時: 焦点距離 98-280mm F5.6、最大撮影倍率 0.7倍
- 2.0x使用時: 焦点距離 140-400mm F8、最大撮影倍率 1.0倍 (等倍マクロ)
- これは驚異的な仕様です。2.0xテレコンバーターを装着することで、なんと400mmの望遠域で等倍マクロ撮影が可能になるのです。一般的な等倍マクロレンズが単焦点(多くは50mm、90mm、100mmクラス)であることを考えると、400mmで等倍マクロ、しかもズームレンズの最短撮影距離を維持したままというのは、他のシステムでは類を見ない圧倒的なアドバンテージと言えます。
- 外形寸法 (最大径x長さ mm): 82.2 x 149.0
- Mark I: 80 x 175
- Mark IIはMark Iよりも全長が26mm短くなっています。これは非常に大きな変化です。携行性やカメラに装着した際の取り回しに大きく影響します。最大径はわずかに太くなっていますが、体感としてはコンパクトになったと感じるはずです。
- 質量 (g): 794 (三脚座別)
- Mark I: 840 (三脚座別)
- Mark IIはMark Iよりも46g軽量化されています。全長が短くなったことと合わせて、数字以上に小型軽量化が実感できます。F4ズームとしての携帯性がさらに向上しました。
- 防塵・防滴配慮: 搭載
- Mark I: 搭載
- フードタイプ: 丸形、バヨネット式
仕様を見るだけでも、本レンズがMark Iから大きく進化していることがわかります。光学系の刷新、絞り羽根の増加、そして最も劇的な変化である最短撮影距離と最大撮影倍率の改善、さらにテレコンバーターとの組み合わせによる1.0倍マクロ対応は、このレンズを単なる「F4望遠ズーム」ではなく、「F4望遠ズーム + ハーフマクロ + (テレコン併用で) 等倍マクロレンズ」という、全く新しいカテゴリーのレンズへと昇華させています。サイズ・重量の小型軽量化も、F4のメリットをさらに際立たせています。
3. デザインとビルドクオリティ:洗練された操作性と堅牢性
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、Gレンズらしい洗練されたデザインと高いビルドクオリティを誇ります。外装は高品質なプラスチックと金属を組み合わせた堅牢な作りで、ズーム時も全長が変わらないインナーズーム方式を採用しているため、重心変動が少なく、安定したホールディングが可能です。また、塵や水滴の侵入を防ぐ防塵・防滴に配慮した設計となっており、厳しい撮影環境でも安心して使用できます。レンズ先端部はフッ素コーティングが施されており、指紋や油汚れが付着しにくく、メンテナンスも容易です。
鏡筒には、フォーカスリング、ズームリング、そして新たに搭載された絞りリングが配置されています。各リングは適度なトルク感があり、滑らかに操作できます。特にズームリングは、Mark Iよりもストロークが短く、より素早いズーミングが可能になっています。
スイッチ類も豊富に搭載されており、高い操作性を実現しています。
* AF/MF切り替えスイッチ: オートフォーカスとマニュアルフォーカスを素早く切り替えられます。
* OSS ON/OFFスイッチ: 光学式手ブレ補正のON/OFFを設定します。
* OSS Modeスイッチ: 手ブレ補正のモードを切り替えます。
* Mode 1: 通常の撮影用(縦・横ブレ補正)
* Mode 2: 流し撮り用(縦ブレのみ補正)
* Mode 3: 不規則な動きへの対応(スポーツ撮影など、フレーミング時のブレ補正を最小限にし、露光中のブレ補正を最適化)
* フォーカスレンジリミッター: AF駆動範囲を制限することで、高速なAFを実現します。
* FULL: 全域
* ∞ – 2.0m: 無限遠から2mまで
* 0.5m – 2.0m (広角時 0.26m – 2.0m): 近距離側
* 特にマクロ撮影時は近距離側のリミッターを使うことで、AFの迷いを減らし、快適な撮影が可能です。
* クリックON/OFFスイッチ: 新たに搭載された絞りリングのクリック感をON/OFFできます。静止画撮影ではクリック感をONにして絞り値を正確に設定し、動画撮影ではクリック感をOFFにして絞り値を無段階でスムーズに変更することができます。これも動画撮影を重視するユーザーにとって非常に有用な機能です。
* フォーカスホールドボタン: レンズ鏡筒に3箇所配置されています。カメラ側のカスタム設定により、AF一時停止だけでなく、瞳AFやその他の機能割り当てが可能です。縦位置・横位置問わず、自然な指の位置で操作できます。
三脚座は取り外し可能な設計です。三脚や一脚を使用する際は、レンズ側の三脚座に取り付けることで、カメラボディへの負担を軽減し、より安定した撮影が可能です。取り外せば軽量化でき、手持ち撮影時のバランスも向上します。回転機構も備わっており、カメラを縦位置・横位置に簡単に切り替えることができます。
フードは付属の丸形フード(ALC-SH176)を使用します。バヨネット式でスムーズに着脱できます。フード内部は反射防止のマット仕上げが施されており、フレアやゴーストの発生を効果的に抑制します。
全体として、デザイン、ビルドクオリティ、操作性の全てにおいて、最新のGレンズとして期待されるレベルに達しています。特に絞りリングとクリックON/OFFスイッチの搭載、そしてフォーカスレンジリミッターの追加は、撮影の自由度と快適性を大きく向上させています。Mark Iから全長が短縮され、わずかに軽量化された点も、F4ズーム本来のメリットである携帯性をさらに高めています。
4. 光学性能:妥協なき描写性能と新たなマクロの世界
本レンズの光学性能は、刷新された光学設計と高精度なレンズエレメントにより、Mark Iから大幅に向上しています。ズーム全域で、無限遠から最短撮影距離に至るまで、高い解像性能を発揮します。
4.1. 解像性能:全域・全距離でシャープな描写
広角端の70mmから望遠端の200mmまで、画面中央の解像性能は開放F4から非常に高く、絞りをF5.6やF8に一段絞ることでさらにピークに達します。特に望遠端の200mmにおいても、開放から高い解像力を維持している点は素晴らしいです。
画面周辺部の性能も良好です。広角側ではF4でも比較的良好な描写ですが、望遠側では開放時にわずかに甘さが見られることもあります。しかし、これもF5.6まで絞れば改善し、ズーム全域で実用上全く問題ないレベルのシャープネスが得られます。G Masterレベルの画面隅々まで隙のない解像感とまではいかないかもしれませんが、Gレンズとして十分すぎるほど高いレベルにあります。風景撮影などで絞り込んでパンフォーカスにしても、画面全体で均一性の高い描写が期待できます。
4.2. マクロ性能:0.5倍ハーフマクロの実力
本レンズの最大の特徴であり、最も注目すべきポイントは、そのマクロ性能です。ズーム全域で最大撮影倍率0.5倍(ハーフマクロ)を実現しています。
- 最短撮影距離: 広角端70mmで0.26m、望遠端200mmで0.42mです。これはMark Iの1.0mから劇的な短縮です。特に70mmで0.26mまで寄れるというのは驚きで、広角マクロのようなパースを活かした表現も可能になります。
- 最大撮影倍率: ズーム全域で0.5倍です。多くのズームレンズは望遠端の最短撮影距離で最も高い倍率になりますが、本レンズは70mmでも200mmでも同じ0.5倍まで寄ることができます。
- 描写性能: マクロ撮影時においても、優れた解像性能を発揮します。通常、レンズは無限遠の撮影を最適化していることが多いですが、本レンズは近距離での性能もしっかり考慮して設計されています。開放F4からピント面はシャープで、被写体の細部まで精細に描写できます。絞りを絞れば、より広い範囲にピントを合わせることも可能です。
- ワーキングディスタンス: 望遠端200mmでの最短撮影距離0.42mは、被写体からレンズ先端までの距離(ワーキングディスタンス)を比較的長くとれることを意味します。これにより、花に近づいても影を落としにくく、あるいは昆虫などの警戒心の強い被写体にも一定の距離を保ったまま迫ることができます。70mm側の0.26mはワーキングディスタンスが短くなりますが、より広い範囲を写し込みつつ、背景を大きくボカす表現が可能です。
- ボケ味: マクロ撮影時は被写界深度が極めて浅くなるため、背景のボケの質が重要になります。後述するボケの評価にも繋がりますが、本レンズはマクロ距離でも比較的柔らかく自然なボケを提供します。
0.5倍という倍率は、一般的なマクロレンズの1倍には及びませんが、花の一輪、昆虫の全身、小物の一部などを画面いっぱいに写すには十分な倍率です。望遠マクロならではの圧縮効果と大きなボケを活かした、印象的な描写が可能です。例えば、小さな花やアクセサリーなどを背景を整理して際立たせたい場合に非常に有効です。
さらに、このレンズのマクロ性能を飛躍的に向上させるのが、テレコンバーターとの組み合わせです。
* 1.4xテレコンバーター装着時: 焦点距離98-280mm F5.6、最大撮影倍率0.7倍
* 2.0xテレコンバーター装着時: 焦点距離140-400mm F8、最大撮影倍率1.0倍(等倍マクロ)
驚くべきことに、テレコンバーターを装着しても最短撮影距離は変わりません。つまり、2.0xテレコンバーターを装着すれば、400mmの望遠域で等倍マクロ撮影が可能になります。これは、一般的な100mm程度の等倍マクロレンズに比べて、被写体からのワーキングディスタンスを格段に長く取れることを意味します。例えば、水辺の昆虫や枝先の小鳥など、なかなか近寄れない被写体に対して、距離を保ったまま等倍に近いサイズでクローズアップ撮影ができるのです。これは、本レンズにしかできない唯一無二の強みと言えるでしょう。もちろん、テレコンバーター使用時にはF値が暗くなり、解像性能もわずかに低下しますが、それでも実用十分なレベルを保っています。特に2.0x使用時の1.0倍マクロは、多少の性能低下を補って余りあるほどの表現力を提供します。
4.3. ボケ味:F4ズームとして優れた品質
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、11枚羽根の円形絞りを採用しており、開放絞り付近では円形の美しいボケ形状が得られます。F4という明るさは、F2.8のような圧倒的なボケ量ではありませんが、望遠端200mmでは背景を十分に分離させ、美しいボケを活かした描写が可能です。特にポートレートや花のマクロ撮影など、背景をシンプルに整理したい場合にその効果を発揮します。
ボケの質に関しても、Gレンズらしい柔らかく自然な描写です。二線ボケや年輪ボケ(玉ねぎボケ)といった不快なボケの傾向は少なく、ハイライト部の玉ボケも比較的きれいな円形を保ちます。もちろん、F2.8 GM IIほどのトロけるようなボケではありませんし、ボケの輪郭がわずかに硬くなる傾向が見られる場合もありますが、F4ズームとして考えれば非常に高いレベルにあります。マクロ撮影時にも、浅い被写界深度と相まって、印象的な前後ボケを創り出すことができます。
4.4. 収差・歪曲・周辺光量:良好な補正
色収差(軸上色収差、倍率色収差)や歪曲収差、周辺光量落ち(口径食)といった収差に関しても、最新の光学設計とデジタル補正(カメラボディ側)により、良好に補正されています。
- 色収差: ズーム全域でよく抑えられています。特に開放絞り付近で発生しやすい軸上色収差も目立たず、被写体の輪郭にフリンジが発生するのを効果的に抑制しています。
- 歪曲収差: 広角端でわずかにタル型、望遠端でわずかに糸巻き型が見られることがありますが、多くのミラーレスカメラボディでは自動補正が適用されるため、実写で気になることはほとんどありません。
- 周辺光量落ち: 開放F4ではわずかに周辺光量落ちが見られますが、一段絞れば改善し、これもカメラ側の自動補正で容易に補正可能です。
これらの収差が効果的に補正されているおかげで、解像性能を最大限に引き出し、クリアで自然な描写が得られています。
4.5. フレア・ゴースト:高い耐性
本レンズは、ソニー独自のナノARコーティングIIを含む高度なレンズコーティングを採用しており、逆光などの厳しい光線条件下においても、フレアやゴーストの発生を効果的に抑制しています。強い光源が画面内に入り込むようなシーンでも、コントラストの低下を最小限に抑え、クリアな描写を維持します。これも、風景やイベント撮影など、様々な光の条件下で撮影する機会が多いズームレンズにとって非常に重要な性能です。
5. オートフォーカス性能:XDリニアモーターによる高速・高精度AF
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIのAFシステムは、ソニーの最新レンズで採用されている高性能なXDリニアモーターを搭載しています。これにより、Mark IのSSM(超音波モーター)から大幅に進化し、静止画・動画問わず、非常に高速かつ高精度なAF駆動を実現しています。
- スピードと精度: XDリニアモーターは、従来のモーターよりも高推力・高効率で、レンズ群を俊敏かつ正確に駆動させます。これにより、被写体への合焦速度が非常に速く、動きの速い被写体に対しても瞬間的にピントを合わせることが可能です。特に、最新のソニーαボディとの組み合わせでは、トラッキング性能やリアルタイム瞳AFの性能を最大限に引き出し、難しいシーンでも高い成功率で狙った被写体を捉え続けます。ポートレート撮影での瞳AFはもちろん、スポーツや動物撮影における動体追従能力も優れています。
- 静音性: XDリニアモーターは電子的に制御されるため、非常に静かに動作します。静かな環境での撮影や、動画撮影中にAFの動作音が気になることはほとんどありません。
- マクロ撮影時のAF: 通常、最短撮影距離に近いでのAFはレンズにとって負荷が高く、迷いや駆動速度の低下が見られることがありますが、本レンズはマクロ性能も考慮して設計されているため、最短撮影距離0.26m/0.42m付近でのAFもスムーズかつ正確です。もちろん、被写界深度が極めて浅いため、シビアなピント合わせが必要ですが、XDリニアモーターの精度と速度があれば、マクロ撮影におけるAFも実用的です。前述のフォーカスレンジリミッターを近距離側に設定することで、さらに快適なマクロAFが可能になります。
- ブリージング抑制: 動画撮影において気になるフォーカスブリージング(ピント移動に伴う画角変動)も、本レンズは効果的に抑制されています。特に、ソニーの最新αボディ(例: α7 IV, α7S III, FX3, FX6など)では、ボディ側の機能としてブリージング補正を適用することも可能であり、組み合わせることでよりシームレスなフォーカス送りが実現できます。
AF性能は、Mark Iからの最も明確な進化点の一つです。最新ボディの性能を活かすためには、レンズ側のAF性能も重要であり、本レンズのXDリニアモーター搭載は、将来にわたっても安心して使える高い基本性能を保証しています。
6. 手ブレ補正機能(OSS):安定したフレーミングと低速シャッター対応
本レンズは高性能な光学式手ブレ補正機構(OSS)を内蔵しています。望遠域での手持ち撮影や、光量の少ない環境での低速シャッター撮影において、ブレの発生を効果的に抑制し、クリアな画像を生成するのに役立ちます。
- 補正効果: CIPA規格準拠で4.5段分相当の補正効果があるとされています。これにより、理論的には通常手ブレが発生するシャッタースピードよりも4.5段分遅いシャッタースピードで手持ち撮影が可能になります。例えば、200mmで通常1/200秒必要なところ、1/15秒程度まで手持ちで撮影できる可能性があります(個人差や撮影状況によります)。これは、特に薄暗い状況での撮影や、夜景、室内イベントなどで威力を発揮します。
- モード: OSSモードスイッチにより、通常の撮影(Mode 1)、流し撮り(Mode 2)、そして不規則な動きに対応したMode 3を選択できます。Mode 3は特にスポーツや野生動物など、被写体の動きが予測できないシーンでのフレーミングを安定させるのに役立ちます。
- ボディ内手ブレ補正との協調: ソニーの多くのミラーレスカメラにはボディ内手ブレ補正機構(IBIS)が搭載されています。本レンズの光学式手ブレ補正は、ボディ内手ブレ補正と協調することで、より高い手ブレ補正効果を発揮します。特に望遠域ではレンズ内手ブレ補正の方が効果的な場合が多く、本レンズはレンズ内OSSを主軸としつつ、ボディ側との連携により多軸での補正を行います。
- 動画撮影: 動画撮影時においても、OSSは非常に有効です。手持ちでのパンやチルト、あるいは歩き撮り(ある程度限られますが)などで、滑らかな映像を得るのに役立ちます。特にα7S IIIやFX3などの高性能な手ブレ補正モード(アクティブモードなど)を持つボディと組み合わせることで、より安定した映像が得られます。
OSSは望遠レンズの基本性能として非常に重要であり、本レンズのOSSは最新のGレンズにふさわしい高い性能を持っています。これにより、三脚が使えない状況や、より自由なアングルでの手持ち撮影を可能にし、撮影の機会と表現の幅を広げてくれます。
7. Mark Iからの進化点詳細:ただのマクロ追加にあらず
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、Mark Iにマクロ機能が追加されただけでなく、様々な点で進化を遂げています。改めて主要な進化点をまとめ、その影響を考察します。
- マクロ機能の搭載(最大撮影倍率0.5倍、最短撮影距離の大幅短縮):
- 影響: これが最大の進化点です。撮影できる被写体や表現の幅が劇的に広がりました。望遠ズームとしてだけでなく、近接撮影レンズとしても非常に強力な選択肢となりました。
- AFシステムの刷新(SSMからXDリニアモーターへ):
- 影響: AF速度、精度、追従性能、静音性が大幅に向上しました。最新のカメラボディの性能を最大限に引き出し、特に動体撮影や動画撮影での信頼性が向上しています。
- 光学設計の刷新とレンズエレメントの変更:
- 影響: 解像性能、収差補正能力が向上し、特にズーム全域・全距離での描写性能が安定しました。XAレンズなどの採用により、ボケ味の質も改善されています。
- 絞り羽根の増加(9枚から11枚へ):
- 影響: 開放付近での玉ボケがより円形に近づき、ボケ味の質が向上しました。
- 絞りリングの搭載とクリックON/OFFスイッチ:
- 影響: 操作性が向上しました。静止画・動画の両方において、直感的かつ正確な絞り操作が可能になりました。
- フォーカスレンジリミッターの追加:
- 影響: AF速度の向上、特にマクロ撮影時のAF効率化に貢献します。
- 全長短縮(175mmから149mmへ)とわずかな軽量化(840gから794gへ):
- 影響: 携行性、取り回し、カメラ装着時のバランスが向上しました。F4ズーム本来の小型軽量というメリットがさらに強調されました。
- テレコンバーター使用時でも最短撮影距離・最大撮影倍率(0.5倍)が維持される:
- 影響: 2.0xテレコンバーター使用時の1.0倍マクロ機能は、他のレンズでは真似できない本レンズの決定的な強みです。400mm等倍マクロという唯一無二の撮影体験を提供します。
これらの進化は単なるマイナーチェンジではなく、Mark Iとは全く異なるレンズとして生まれ変わったと言っても過言ではありません。特にマクロ機能とAF性能の向上は、本レンズの価値を大きく高めています。
8. テレコンバーターとの組み合わせ:可能性を広げる強力なオプション
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、純正の1.4xおよび2.0xテレコンバーター(SEL14TC, SEL20TC)に対応しています。前述の通り、テレコンバーターを装着しても最短撮影距離(70mm: 0.26m, 200mm: 0.42m)は変わらず、それに応じて最大撮影倍率が1.4倍または2.0倍に拡大されます。
- 1.4xテレコンバーター装着時:
- 焦点距離: 98-280mm
- 開放F値: F5.6
- 最大撮影倍率: 0.7倍
- AF性能: 通常のレンズ単体使用時とほぼ変わらない高速・高精度なAFが可能です。
- 光学性能: 解像性能の低下は最小限で、実用上ほとんど気になりません。
- 用途: 望遠端を280mmまで伸ばしつつ、マクロ倍率も0.7倍まで高めたい場合に適しています。野生動物やスポーツなどで、もう少し遠くの被写体を引き寄せたい場合に有効です。
- 2.0xテレコンバーター装着時:
- 焦点距離: 140-400mm
- 開放F値: F8
- 最大撮影倍率: 1.0倍 (等倍マクロ)
- AF性能: 開放F値がF8になるため、レンズ単体よりはわずかに駆動速度が低下したり、暗い場所で迷いやすくなる可能性はありますが、最新のソニーαボディとの組み合わせであれば、多くの状況で実用的なAF性能を維持します。特にリアルタイム瞳AFやトラッキングAFも有効です。
- 光学性能: 解像性能はレンズ単体や1.4x使用時と比較すると低下します。特に望遠端400mmで絞り開放F8付近では、描写がわずかにソフトになる傾向が見られます。しかし、一段絞れば改善し、等倍マクロ撮影など、他のレンズでは代替できない表現を考えれば、そのメリットは非常に大きいです。
- 用途: 何と言っても400mmでの等倍マクロ撮影が最大の魅力です。被写体から十分に距離を取って等倍撮影ができるため、警戒心の強い昆虫や、触ると傷つけてしまいそうな花などを、望遠レンズならではの強い圧縮効果と大きなボケを活かして撮影できます。また、400mm F8の超望遠ズームとしても機能するため、日中の明るい時間帯であれば、さらに遠くの被写体(野鳥など)も狙えます。
テレコンバーターとの組み合わせは、本レンズの持つ汎用性をさらに高めます。特に2.0xテレコンバーターによる1.0倍マクロ機能は、本レンズを唯一無二の存在にしています。通常の望遠ズームとして使用する際は外しておき、マクロ撮影や超望遠撮影が必要になった時に装着するという使い分けが可能です。ただし、テレコンバーターを装着すると全長が長くなり、重量も増加するため、その点は留意が必要です。
9. 競合レンズとの比較:FE 70-200mm F2.8 GM II、Mark I、そしてサードパーティ製レンズ
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIを検討する際に、他の選択肢との比較は欠かせません。
9.1. FE 70-200mm F2.8 GM OSS II (SEL70200GM2)
ソニーEマウントにおけるフラッグシップ望遠ズームです。
* 優位点:
* 開放F値がF2.8と明るく、より大きなボケ量と、暗い場所での撮影に強いです。
* 究極の光学性能と描写力(特にボケ味、解像性能)。
* より高速で信頼性の高いAFシステム(XDリニアモーター×4基)。
* 劣る点:
* サイズ・重量がMark IIよりも大きい(約88mm x 200mm, 1045g vs 82.2mm x 149mm, 794g)。
* 価格がMark IIよりも大幅に高い。
* マクロ機能なし(最大撮影倍率0.3倍)。テレコンバーター使用時も倍率は向上しない。
* どちらを選ぶか: 開放F2.8の明るさと最高の描写性能が必須、そしてサイズ・重量・価格が許容範囲であればGM II。携帯性、価格、そして何よりマクロ機能が必要であればF4 II。マクロ機能の有無が最も大きな差別化ポイントです。
9.2. FE 70-200mm F4 G OSS (SEL70200G) – Mark I
本レンズの先代モデルです。
* 優位点:
* 中古市場で比較的安価に入手可能。
* 劣る点:
* マクロ機能なし(最大撮影倍率0.13倍)。
* AFシステムが旧世代(SSM)で、AF速度・追従性能がMark IIに劣る。
* 光学性能もMark IIの方が優れている(解像性能、収差補正、ボケ味)。
* 全長がMark IIより長い。
* 絞りリング、クリックON/OFFスイッチ、フォーカスレンジリミッター(近距離側)がない。
* テレコンバーター使用時のマクロ機能拡張がない。
* どちらを選ぶか: とにかく価格重視で、マクロ機能や最新のAF性能、高い描写性能に拘らない場合はMark Iも選択肢に入りますが、本レンズの進化点を考慮すると、予算が許せばMark IIを選ぶ価値は非常に高いです。
9.3. サードパーティ製レンズ (例: Tamron 70-180mm F2.8 Di III VXD / VC VXD G2)
ソニーEマウント向けには、タムロンやシグマから望遠ズームが発売されています。タムロンの70-180mm F2.8シリーズは特に比較対象となるでしょう。
* 優位点:
* 開放F値がF2.8と明るい。
* タムロンの70-180mm F2.8 G2は最短撮影距離が短く、ある程度近接撮影が可能(広角端0.3m、望遠端0.85m、望遠端最大撮影倍率0.28倍)。
* 価格はGM IIよりは手頃な場合が多い。
* 劣る点:
* 焦点距離が180mmまでとなる(200mmまで必要かどうかの問題)。
* マクロ機能は限定的(最大撮影倍率0.5倍以上には達しない)。テレコンバーター装着時は、本レンズのようなマクロ機能拡張はない。
* 光学性能やAF性能は純正Gレンズ、特にG Masterには及ばない場合がある。
* どちらを選ぶか: F2.8の明るさが重要で、かつ純正より価格を抑えたい場合。ただし、本レンズのような「ズーム全域0.5倍マクロ」や「2xTC併用での1.0倍マクロ」というユニークなマクロ機能はサードパーティ製レンズにはありません。マクロ性能を重視するなら本レンズ一択となります。
結論として、FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、F2.8 GM IIとMark I、そしてサードパーティ製レンズの間で、「携帯性と光学性能・AF性能のバランスに優れ、さらに強力なマクロ機能を持つ」という独自のポジションを確立しています。特にマクロ機能の搭載は、他の70-200mmクラスのズームレンズにはない決定的な強みであり、この機能に魅力を感じるユーザーにとっては、唯一無二の存在と言えるでしょう。
10. 総評:誰におすすめのレンズか
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、ソニーEマウントユーザーにとって、非常に魅力的で汎用性の高い望遠ズームレンズです。Mark Iからの多岐にわたる進化、特にマクロ機能の搭載は、このレンズの価値を大きく引き上げました。
このレンズがおすすめのユーザー:
- Mark Iユーザーからのステップアップを考えている方: AF性能、描写性能、操作性、そして何よりマクロ機能の追加は、価格に見合う十分な進化です。
- F2.8 GM IIのサイズ・重量・価格がネックと感じる方: F4ながらも優れた光学性能と高速AFを備えつつ、携行性に優れています。普段使いの望遠ズームとして最適です。
- 望遠撮影だけでなく、花や小物のクローズアップ撮影も楽しみたい方: ズーム全域0.5倍マクロは非常に実用的で、レンズ交換なしに様々な被写体を撮影できます。
- 将来的にテレコンバーターの導入も検討している方: 2.0xテレコンバーター装着時の400mm等倍マクロ機能は、他のシステムでは得られない唯一無二の体験です。
- 旅行やハイキングなどで荷物を軽くしたい方: 794gという軽量さは、長時間の持ち運びでも負担になりにくいです。
このレンズの優位性:
- 優れた光学性能: ズーム全域・全距離で高い解像力。
- 高速・高精度なAF: XDリニアモーター搭載により、最新ボディの性能を最大限に引き出します。
- 強力なマクロ機能: ズーム全域0.5倍、最短撮影距離0.26m/0.42m。
- 唯一無二の機能: 2.0xテレコンバーター装着による400mm等倍マクロ。
- 高い操作性: 絞りリング、クリックON/OFF、多機能スイッチ類。
- 優れた携行性: Mark Iからの全長短縮・軽量化。
- 高いビルドクオリティ: 防塵防滴配慮、堅牢な作り。
考慮すべき点:
- F値: F2.8 GM IIに比べてF値が暗いため、ボケ量は少なく、暗所での撮影にはF2.8の方が有利です。
- 価格: Mark Iに比べれば価格は上がります。
- マクロ性能: 0.5倍はハーフマクロであり、本格的な1.0倍マクロレンズが必要な場合は、別途単焦点マクロレンズも検討が必要です(ただし、2xTCを使えば1.0倍になります)。
結論
FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、単なる70-200mm F4ズームのアップデート版ではありません。そこに加わった「Macro」の冠は伊達ではなく、このレンズに全く新しい価値と可能性をもたらしました。望遠ズームとしての基本性能である解像力、AF速度、手ブレ補正能力を大幅に向上させつつ、近接撮影という新たな領域を開拓したのです。
特に、ズーム全域で0.5倍のマクロ撮影ができる利便性、そして2.0xテレコンバーターとの組み合わせで実現する400mm等倍マクロというユニークな機能は、このレンズを他のどのレンズとも異なる、唯一無二の存在にしています。ポートレート、風景、イベント、そして身近な花や小物まで、この一本で非常に幅広いシーンを高品質に撮影できます。
F2.8 GM IIのような究極の性能や明るさが必要でないならば、FE 70-200mm F4 Macro G OSS IIは、携帯性、価格、そして圧倒的な汎用性の面で非常に魅力的な選択肢となります。これはまさに、「進化した小型軽量望遠マクロ」というコピーにふさわしい、多くのフォトグラファーの撮影体験を豊かにしてくれる傑作レンズと言えるでしょう。
(注: 本レビューは、公表されている仕様、ソニーのレンズ技術に関する情報、および一般的なレンズレビューの観点に基づいて作成されています。実際の使用感や描写性能は、カメラボディや撮影状況、個体差によっても変動する可能性があります。)