Qt Groupのライセンス体系を比較|自社に最適なプランの選び方

Qt Groupのライセンス体系を比較|自社に最適なプランの選び方

導入

Qt(キュート)は、単一のコードベースからWindows, macOS, Linux, iOS, Android、さらには組み込みデバイスまで、あらゆるプラットフォームで動作する美しいUIと高性能なアプリケーションを開発できる、世界有数のクロスプラットフォーム開発フレームワークです。その高い生産性と柔軟性から、自動車のインフォテインメントシステム、医療機器、産業用オートメーション、デスクトップアプリケーションなど、幅広い分野で採用されています。

しかし、その強力な機能を活用する上で、全ての開発者が直面するのが「ライセンスの選択」という重要な課題です。Qtは「商用ライセンス」と「オープンソースライセンス」という二つの異なるライセンス体系(デュアルライセンス)を提供しており、どちらを選択するかによって、開発できる製品の種類、ソースコードの公開義務、利用できる機能やサポート、そしてコストが大きく変わってきます。

ライセンス体系の理解を怠ると、意図せずライセンス違反を犯してしまい、法的なリスクを負う可能性があります。また、自社のビジネスモデルやプロジェクトの性質に合わないライセンスを選んでしまうと、本来必要のないコストが発生したり、開発効率が低下したりすることにもなりかねません。

この記事では、Qtの複雑なライセンス体系を深く掘り下げ、それぞれのライセンスが持つ意味、メリット・デメリット、そして具体的な義務について詳細に解説します。さらに、自社のプロジェクトにとって最適なライセンスプランはどれなのかを判断するための具体的なチェックポイントを提示し、皆さんが自信を持ってQt開発をスタートできるよう、包括的なガイドを提供することを目的とします。


第1章: Qtライセンスの全体像

Qtのライセンス戦略の核心は「デュアルライセンス」という考え方です。これは、同じソフトウェア(Qtフレームワーク)を、二つの異なるライセンス条件下で提供することを意味します。具体的には、「商用ライセンス」と「オープンソースライセンス」の二本柱で構成されています。

商用ライセンス

  • 基本的な考え方: 料金を支払うことで、Qtフレームワークを利用する権利を購入するライセンスです。
  • 主な対象ユーザー:
    • 自社のソースコードを非公開にしたい企業(プロプライエタリな商用製品を開発する場合)。
    • The Qt Companyからの公式なテクニカルサポートやコンサルティングを必要とする企業。
    • 商用ライセンス限定で提供される特定のツールや機能(例: 品質保証ツール、MCU向けソリューション)を利用したい開発者。
    • 法的な保証やコンプライアンスの安心を求める企業。
  • メリット: ソースコードの開示義務がなく、知的財産を完全に保護できます。また、専門家による手厚いサポートにより、開発中の問題を迅速に解決し、プロジェクトの遅延リスクを低減できます。

オープンソースライセンス

  • 基本的な考え方: 特定の条件下で、無償でQtフレームワークを利用できるライセンスです。
  • 主な対象ユーザー:
    • オープンソースソフトウェア(OSS)を開発している個人や団体。
    • 学習、研究、趣味、プロトタイピング目的でQtを利用する開発者。
    • ライセンスが定める義務(後述)を遵守した上で、商用製品を開発する開発者。
  • メリット: 初期導入コストがかかりません。世界中の開発者が参加する広大なコミュニティからの情報を活用できます。
  • 適用される主なライセンス:
    • LGPLv3 (GNU Lesser General Public License version 3): Qtの主要なライブラリ群に適用されます。
    • GPLv2/GPLv3 (GNU General Public License version 2/3): Qt Creatorなど一部のツールや特定のアドオンに適用されます。

なぜ2つのライセンスが存在するのか?

このデュアルライセンス戦略は、Qtのエコシステムを成長させ、同時にビジネスとしての持続可能性を確保するための巧みな仕組みです。

オープンソースライセンスによって、Qtは世界中の開発者に広く利用され、巨大なコミュニティが形成されます。これにより、フィードバックが集まり、バグが修正され、フレームワーク全体が進化し続けます。多くの開発者がQtに触れることで、その知名度と技術的な価値も向上します。

一方で、商用ライセンスは、The Qt Companyがフレームワークの研究開発に投資し、高品質なサポート体制を維持し、企業として成長するための収益源となります。プロプライエタリな製品を開発する企業は、自社のビジネスを守るために商用ライセンスを選択し、その対価としてQtの継続的な発展を支える、という好循環が生まれています。

この二つのライセンスは、どちらが優れているというものではなく、ユーザーの目的や要件に応じて選択されるべきものです。次の章から、それぞれのライセンスの内容をより具体的に見ていきましょう。


第2章: Qtオープンソースライセンスの詳細解説

オープンソースライセンスは無償で利用できるという大きな魅力がありますが、その代償として、開発者が遵守しなければならない「義務」が伴います。これらの義務を理解しないまま利用すると、ライセンス違反となり、深刻な問題に発展する可能性があります。ここでは、Qtで主に利用されるオープンソースライセンス、特にLGPLv3について詳しく解説します。

LGPLv3 (GNU Lesser General Public License version 3)

Qtの核となるライブラリのほとんどは、LGPLv3の下で提供されています。これは、アプリケーションの一部にオープンソースのライブラリを「リンク」して利用することを比較的柔軟に認めるライセンスです。しかし、そこには明確なルールが存在します。

LGPLv3の主な義務

  1. Qtライブラリの改変箇所のソースコード開示義務:
    もしあなたがQtのライブラリ(例: QtCore, QtGui)のソースコード自体を修正した場合、その修正した部分のソースコードを、LGPLv3の条件下で公開しなければなりません。あなた自身のアプリケーションのソースコードを公開する必要はありませんが、Qtライブラリへの変更点はコミュニティに還元する必要があります。

  2. ユーザーによるライブラリの差し替え可能性の保証:
    これがLGPLv3の最も重要かつ誤解されやすい点です。LGPLv3で保護されたライブラリを使用して作成したアプリケーションを配布する場合、エンドユーザーがそのアプリケーションで使われているQtライブラリを、自分で改変または入手した別のバージョンのライブラリに差し替えて実行できるようにしなければなりません。

    • 動的リンク (Dynamic Linking): この義務を果たす最も一般的な方法が動的リンクです。アプリケーション(.exe)とQtライブラリ(.dll, .so)が別々のファイルになっているため、ユーザーはライブラリファイルだけを新しいものに置き換えることができます。そのため、オープンソース版のQtを利用する場合は、動的リンクが強く推奨されます。

    • 静的リンク (Static Linking): 静的リンクとは、Qtライブラリをアプリケーションの実行ファイルに直接組み込んでしまい、単一のファイルとして配布する方法です。オープンソース版Qtで静的リンクを行うことは不可能ではありませんが、非常に困難です。この場合、あなたはアプリケーションのオブジェクトコード(コンパイル後、リンク前のファイル)をすべて提供するなどして、ユーザーがQtライブラリを差し替えて再リンクできるようにするための手段を提供しなければなりません。これは現実的な商用製品開発においては、事実上、アプリケーションのソースコード開示に近い要求となり、多くのビジネスモデルと両立しません。

  3. ライセンス情報の提供:
    アプリケーションと共に、LGPLv3のライセンス条文のコピーと、Qtライブラリを使用している旨の著作権表示を添付する必要があります。

Tivoization(チボ化)の禁止

LGPLv3には「Tivoization」を禁止する条項が含まれています。これは、ハードウェアの制限によって、ユーザーがソフトウェアの改変版をそのデバイス上で実行することを妨げてはならない、というルールです。例えば、セキュアブートなどの仕組みを利用して、正規のQtライブラリ以外では動作しないようにロックされた組み込みデバイスを販売することは、LGPLv3違反となります。これは特に組み込み機器開発において重要な注意点です。

GPLv2/GPLv3 (GNU General Public License version 2/3)

Qt Creator(IDE)や一部のアドオンモジュールは、より制約の強いGPLで提供されています。

  • 強力なコピーレフト: GPLのライブラリやツールをあなたのアプリケーションに組み込んだ場合、あなたのアプリケーション全体もGPLライセンスで公開し、そのソースコードを全て開示しなければなりません。
  • 商用利用のリスク: この性質から、プロプライエタリな商用製品の開発にGPLのコンポーネントを組み込むことは、事実上不可能です。GPLのコンポーネントを利用する場合は、自社のアプリケーションがGPLに「感染」し、ソースコード公開義務を負うことを理解しておく必要があります。

オープンソースライセンス利用の際の注意点まとめ

  • コンプライアンスは自己責任: ライセンスの義務を遵守しているかどうかを確認し、管理する責任はすべて開発者側にあります。
  • 静的リンクは避けるべき: プロプライエタリなアプリケーションを開発する場合、オープンソース版Qtでの静的リンクは、ライセンスコンプライアンスの観点から非常に高いハードルがあります。動的リンクを前提としましょう。
  • 組み込みデバイスでの制約: Tivoization禁止条項により、ユーザーがソフトウェアを自由に変更できないようなハードウェア設計はライセンス違反になる可能性があります。
  • ライブラリごとのライセンス確認: Qtは多くのモジュールで構成されており、それぞれに適用されるライセンスが異なる場合があります。利用するモジュールがどのライセンス(LGPL, GPLなど)で提供されているかを常に確認する習慣が重要です。

オープンソースライセンスは強力な選択肢ですが、その自由には責任が伴います。これらの義務を遵守できない、あるいは自社の知的財産を保護したい場合は、次の章で解説する商用ライセンスが唯一の解決策となります。


第3章: Qt商用ライセンスの詳細解説

Qt商用ライセンスは、オープンソースライセンスが持つ様々な制約から開発者を解放し、ビジネスとして安心してQtを利用するための包括的なソリューションです。料金は発生しますが、それに見合うだけの価値あるメリットと機能を提供します。

商用ライセンスの絶大なメリット

  1. ソースコード開示義務の完全な免除:
    これが商用ライセンスを選択する最大の理由です。LGPLv3やGPLが課すソースコードの開示義務や、ライブラリ差し替えの義務から完全に解放されます。これにより、自社開発したアプリケーションのソースコードという最も重要な知的財産を完全に非公開のまま、保護することができます。競争の激しい市場で独自の技術やノウハウを守るためには、このメリットは不可欠です。

  2. 静的リンクの自由:
    商用ライセンスでは、Qtライブラリをアプリケーションに静的リンクして、単一の実行可能ファイルとして配布することが自由にできます。これにより、以下の利点が生まれます。

    • 配布の簡素化: ユーザーは実行ファイル一つをコピーするだけでアプリケーションを利用でき、DLL hell(ライブラリのバージョン不整合問題)のようなトラブルを避けられます。
    • 起動の高速化: 動的リンクに比べて、アプリケーションの起動が若干速くなる傾向があります。
    • IP保護の強化: アプリケーションとライブラリが一体化しているため、リバースエンジニアリングがより困難になります。
  3. 公式テクニカルサポートへのアクセス:
    開発中に解決困難な問題に直面した際、Qtのエキスパートチームから直接、迅速かつ的確なサポートを受けることができます。

    • 問題解決の迅速化: コミュニティフォーラムで答えを探し回る時間を節約し、開発スケジュールを遵守できます。
    • 確実な情報源: バグの報告や、特定の機能に関する深い技術的な質問に対して、公式の見解と解決策を得られます。サポートレベルは契約プランによって異なります。
  4. 商用ライセンス限定のツールと機能:
    オープンソース版では提供されていない、あるいは機能が制限されているプロフェッショナル向けのツールやモジュールを利用できます。これらは開発効率と製品品質を劇的に向上させます。

    • Qt for MCU: Cortex-Mシリーズのようなリソースが限られたマイクロコントローラ上で、スマートフォンライクなリッチなGUIを実現するためのソリューション。
    • Qt Design Studio Enterprise: デザイナーと開発者の連携を強化するUIデザインツール。PhotoshopやFigmaからのインポート機能などが強化されています。
    • Qt Quality Assurance (QA) ツール:
      • Squish: GUIテストの自動化ツール。
      • Coco: コードカバレッジ分析ツール。
      • Test Center: テスト結果の管理・分析プラットフォーム。
      • これらは特に、高い信頼性が求められる医療、自動車、航空宇宙分野の開発で強力な武器となります。
    • その他、商用限定のアドオンやモジュール: 最新の商用限定機能については、公式サイトで常に確認が必要です。
  5. LTS (長期サポート) バージョンへのアクセス:
    商用ライセンスユーザーは、LTSバージョンを利用できます。LTSバージョンは、数年間にわたってバグ修正やセキュリティパッチが提供されるため、一度リリースした製品を長期間安定してメンテナンスする必要がある場合に非常に重要です。

  6. 法的保証とコンプライアンスの安心:
    The Qt Companyとの正式な契約に基づき、ライセンス違反のリスクなく安心して開発・販売に専念できます。オープンソースライセンスの解釈に悩む必要はありません。

商用ライセンスのプラン体系

Qtの商用ライセンスは、主に開発対象によっていくつかのプランに分かれています。価格体系は開発者一人あたりの年間サブスクリプションが基本ですが、特に組み込み向けではデバイスの配布数に応じたライセンス(Distribution License)が別途必要になる場合があります。
※プラン名や内容は変更される可能性があるため、必ず公式サイトで最新情報を確認してください。

以下は、一般的なプランの分類です。

1. Qt for Application Development

デスクトップ(Windows, macOS, Linux)やモバイル(iOS, Android)アプリケーション開発向けのプランです。

  • Professional:
    • 基本的な商用ライセンスの権利(コード非公開、静的リンクなど)。
    • 標準的なテクニカルサポート。
    • 中小規模のアプリケーション開発に適しています。
  • Enterprise:
    • Professionalの全機能に加え、より高度な機能とサポートを提供。
    • QtのQAツール群(Squish, Coco)へのアクセス権。
    • より手厚いテクニカルサポート(応答時間の短縮など)。
    • 大規模開発や、ミッションクリティカルで高い品質が求められるアプリケーション開発向け。

2. Qt for Device Creation

組み込みLinuxやリアルタイムOS(RTOS)を搭載したデバイス向けのプランです。

  • Professional:
    • 組み込みデバイス開発に必要な基本機能とツールチェーン。
    • 標準的なテクニカルサポート。
  • Enterprise:
    • Professionalの全機能に加え、より高度な組み込み向け機能。
    • Boot to Qt(高速起動を実現するソフトウェアスタック)の最適化ツール。
    • Qt for Python, Qt for WebAssemblyなどの追加機能。
    • 高度なテクニカルサポートとコンサルティングサービス。
    • 通常、このプランには一定数のデバイス配布ライセンスが含まれています。

3. Qt for MCU

ベアメタルやRTOSが動作するマイクロコントローラ向けの専用ソリューションです。

プラン比較表(概略)

特徴 / プラン オープンソース (LGPLv3) Application Pro Application Ent Device Creation Ent
価格 無償 有償 (サブスク) 有償 (サブスク) 有償 (サブスク + 配布)
ソースコード公開 条件付きで義務あり 不要 不要 不要
静的リンク 困難 (義務遵守が必要) 自由 自由 自由
テクニカルサポート なし (コミュニティのみ) 標準サポート 高度なサポート 高度なサポート
LTSバージョン 利用不可 利用可 利用可 利用可
QAツール (Squishなど) 利用不可 別途購入 含む 含む
主な対象 OSS, 学習, 趣味 デスクトップ/モバイル 高品質アプリ 組み込みデバイス
配布ライセンス 不要 不要 不要 必要

商用ライセンスは、単に「お金を払って使う」以上の価値を提供します。それは、開発の効率化、品質の向上、そして何よりもビジネスにおける法的なリスクを排除し、安心して事業に集中するための「保険」であり「投資」であると言えるでしょう。


第4章: 自社に最適なプランの選び方 – 7つのチェックポイント

ここまでオープンソースと商用ライセンスの詳細を見てきましたが、では実際に自社のプロジェクトにはどれが最適なのでしょうか。以下の7つの質問に順番に答えていくことで、最適な選択肢が明確になります。

1. 製品の配布形態とビジネスモデルは? (ソースコードを開示できるか?)

  • YES (ソースコードを開示できる):

    • 開発するものがオープンソースソフトウェアである。
    • 学習や研究、社内利用のみで外部に配布しないツールである。
    • LGPLv3の義務(動的リンク、ライブラリ差し替えの保証など)を完全に理解し、遵守できる。
    • → オープンソースライセンスが有力な選択肢です。
  • NO (ソースコードを開示できない):

    • 開発する製品をプロプライエタリ(独自の知的財産)として販売・配布する。
    • ソースコードは企業の競争力の源泉であり、絶対に公開できない。
    • → 商用ライセンスがほぼ必須です。 この質問が最も根本的で重要な分岐点となります。

2. 開発対象のプラットフォームは?

  • デスクトップ (Windows, macOS, Linux) やモバイル (iOS, Android):

    • → Qt for Application Development のプラン(ProfessionalまたはEnterprise)が対象です。
  • 組み込みデバイス (組み込みLinux, QNX, INTEGRITYなど):

    • パワフルなCPU(例: ARM Cortex-Aシリーズ)を搭載し、OS上で動作するデバイス。
    • → Qt for Device Creation のプランが対象です。
  • マイクロコントローラ (MCU) (例: ARM Cortex-Mシリーズ):

    • リソースが非常に限られた、OSがないか軽量なRTOSが動作するデバイス。
    • → Qt for MCU が専用のソリューションです。

3. 開発チームの規模とスキルレベルは? (公式サポートは必要か?)

  • 小規模で、チームメンバーはQtの経験が豊富:

    • 問題が発生しても、コミュニティフォーラムやドキュメントを駆使して自己解決できる自信がある。
    • → オープンソースライセンスや、商用でも Professional プランで十分かもしれません。
  • 大規模で、ミッションクリティカルなプロジェクト:

    • 開発スケジュールが厳しく、技術的な問題でプロジェクトを停滞させるわけにはいかない。
    • バグか仕様か判断がつかない問題、パフォーマンスのボトルネックなど、専門家の助言がすぐに欲しい。
    • → Enterprise プランが提供する手厚いテクニカルサポートが、開発の遅延リスクを回避するための強力な保険となります。

4. 品質保証 (QA) のプロセスは? (専用ツールは必要か?)

  • 手動テストや基本的な単体テストで十分:

    • 品質要件がそれほど厳しくない一般的なアプリケーション。
    • → QAツールは必須ではありません。
  • 厳格な品質保証プロセスが求められる:

    • 医療機器、自動車、航空宇宙など、不具合が人命や大きな損害に直結する分野。
    • GUI操作の自動テストによるリグレッションテストの効率化、コードカバレッジ100%の達成などが要求される。
    • → Qt Quality Assuranceツール群(Squish, Coco)が含まれる Enterprise プランが強く推奨されます。 これらのツールを導入することで、品質を担保し、認証取得のプロセスを円滑に進めることができます。

5. 長期的なメンテナンス計画は? (LTSは必要か?)

  • 製品のライフサイクルが短い、または常に最新バージョンを追うことができる:

    • ウェブサービスと連携するモバイルアプリなど。
    • → LTSは必須ではありません。
  • 一度出荷した製品を5年、10年と長期間サポートし続ける必要がある:

    • 産業機械、医療機器、インフラ設備など。
    • 頻繁なメジャーアップデートは避け、セキュリティパッチや重要なバグ修正のみを適用して安定性を維持したい。
    • → LTS(長期サポート)バージョンへのアクセスが可能な商用ライセンスが必要です。

6. アプリケーションの配布方法は? (静的リンクは必要か?)

  • 動的リンクで問題ない:

    • インストーラーを用意し、必要なDLLファイルを一緒に配布することに抵抗がない。
    • ライブラリのアップデートを容易にしたい。
    • → オープンソースライセンスでも対応可能です(他の条件を満たせば)。
  • 単一の実行ファイルとしてシンプルに配布したい:

    • ユーザーに依存関係を意識させたくない。
    • 組み込みデバイスで、ストレージ上のファイル数を最小限に抑えたい。
    • → 静的リンクが自由にできる商用ライセンスが必要です。

7. 予算とTCO (総所有コスト) は?

  • 初期開発コストをゼロに抑えたい:

    • プロトタイピング、個人プロジェクト、スタートアップの初期段階。
    • → オープンソースライセンスから始めるのが現実的です。
  • TCO(総所有コスト)の観点から判断したい:

    • ライセンス費用は単なる出費ではなく「投資」と捉える。
    • 商用ライセンスの費用 vs 公式サポートによる開発者の人件費削減(問題解決時間)、QAツールによる品質向上と手戻り削減、LTSによるメンテナンスコスト削減、といった効果を天秤にかける。
    • → ビジネスの規模が大きく、製品の価値が高いほど、商用ライセンスの投資対効果は高まります。

これらのチェックポイントを総合的に評価することで、自社にとってライセンスの選択肢は自ずと絞られてくるはずです。


第5章: よくある質問 (FAQ)

Qtライセンスに関して、多くの開発者が抱く疑問について回答します。

Q1: オープンソース版で開発したアプリを後から商用ライセンスに切り替えることはできますか?

A1: はい、可能です。開発途中で「やはりソースコードを非公開にしたい」「静的リンクが必要になった」といった理由で、商用ライセンスを購入し、プロジェクトを商用版のQtライブラリでリビルドすることで切り替えられます。ただし、オープンソース版で開発している期間に、GPLでライセンスされたモジュールを誤って使用してしまうと、そのコードはGPLの制約を受けるため、商用版に切り替えてもソースコードの公開義務が残ってしまう可能性があります。切り替えを視野に入れる場合は、利用するモジュールのライセンスをLGPLv3に限定するなど、注意深い管理が必要です。

Q2: 商用ライセンスのサブスクリプション契約が切れたら、開発したアプリはどうなりますか?

A2: 契約期間中に開発・リリースしたバージョンのアプリケーションを、そのまま販売・配布し続ける権利は通常維持されます(永久ライセンス権)。ただし、契約が切れると、以下のことができなくなります。
* 新しいバージョンのQtを使用したアプリケーションのアップデートや開発。
* 公式テクニカルサポートの利用。
* LTSバージョンのアップデートへのアクセス。
アプリケーションのメンテナンスや将来のバージョンアップを続けるためには、サブスクリプションを更新し続ける必要があります。

Q3: Qt Creatorは商用ライセンスがないと使えませんか?

A3: いいえ、そんなことはありません。Qt Creator自体は、オープンソース版(LGPLv3ベース)と商用版があります。基本的なコード編集、ビルド、デバッグ機能はオープンソース版で無償で利用できます。商用版のQt Creatorには、コードカバレッジ分析(Coco連携)やプロファイリングツールなど、より高度な機能が統合されています。

Q4: 個人開発やスタートアップ向けのプランはありますか?

A4: はい。The Qt Companyは、年間売上高が一定額以下の小規模事業者を対象とした「Qt for Small Business」という割引ライセンスを提供していることがあります。これは、通常の商用ライセンスと同じ権利を、より手頃な価格で利用できるプランです。スタートアップや個人事業主で商用開発を検討している場合は、このプランの対象になるか問い合わせてみる価値があります。

Q5: ライセンス違反をしてしまった場合、どうなりますか?

A5: 意図的かどうかにかかわらず、ライセンス違反は深刻な結果を招く可能性があります。The Qt Companyにはライセンスコンプライアンスをチェックする専門チームがおり、違反が発覚した場合、まず是正を求める通知が来ることが一般的です。これには、遡って正規の商用ライセンスを購入することや、製品の配布停止などが含まれます。悪質な場合は、著作権侵害として法的措置を取られ、損害賠償を請求されるリスクもあります。企業の評判にも傷がつくため、コンプライアンスは非常に重要です。

Q6: 「Distribution License(配布ライセンス)」とは何ですか?なぜ必要ですか?

A6: Distribution Licenseは、主に「Qt for Device Creation」で開発したソフトウェアを搭載したハードウェアデバイスを、第三者に販売・配布する際に必要となるライセンスです。開発者ライセンス(サブスクリプション)が「開発する権利」であるのに対し、配布ライセンスは「配布する権利」です。デバイスの出荷台数に応じてロイヤリティを支払う形態が一般的です。これにより、The Qt Companyは、組み込み市場におけるQtの価値と収益を適切に確保しています。デスクトップ/モバイルアプリの場合は、通常、開発者ライセンスのみで配布が可能です。


まとめ

Qtのライセンス体系は、一見すると複雑に感じるかもしれません。しかしその根底にあるのは、オープンソースコミュニティの力でフレームワークを成長させると同時に、商用利用する企業からは正当な対価を得て、継続的な研究開発投資を行うという、合理的で持続可能なエコシステムです。

ライセンスの選択は、単なる「無料か有料か」という短期的なコストの問題ではありません。それは、自社のビジネスモデル、知的財産の保護、開発プロセス、製品の品質とメンテナンス、そして法的なリスク管理といった、事業の根幹に関わる戦略的な決定です。

この記事で紹介した7つのチェックポイントを参考に、自社の状況を客観的に分析してみてください。

  • 知的財産を守り、ビジネスに集中したいなら、商用ライセンス。
  • 高品質なサポートとツールで開発を加速させたいなら、商用ライセンス(特にEnterprise)。
  • オープンソースの理念に共感し、その義務を果たせるなら、オープンソースライセンス。

最終的にどのプランが最適か迷った場合は、躊躇せずにThe Qt Companyや国内の販売代理店に問い合わせることを強くお勧めします。自社の具体的なプロジェクト内容やビジネスプランを伝えることで、最も費用対効果の高い、最適なライセンスプランの提案を受けることができるでしょう。正しいライセンスを選択し、Qtの持つパワフルな機能を最大限に活用して、素晴らしいアプリケーション開発を実現してください。

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