はい、承知いたしました。「nvidia-docker2はもう古い?NVIDIA Container Toolkitへの移行と設定」をテーマに、約5000語の詳細な解説記事を作成します。
nvidia-docker2はもう古い?NVIDIA Container Toolkitへの移行と設定 詳細ガイド
1. はじめに:コンテナ技術とGPUの新たな標準へ
コンテナ技術、特にDockerは、アプリケーションの開発、デプロイ、実行環境を劇的に変革しました。環境の差異を吸収し、ポータビリティと再現性を高めるコンテナは、現代のソフトウェア開発に不可欠なツールとなっています。この流れは、機械学習やディープラーニング、HPC(高性能計算)といったGPUを駆使する分野にも及び、NVIDIA GPUをコンテナ内から利用したいという需要が急速に高まりました。
その需要に応える形で登場したのが nvidia-docker
であり、その改良版である nvidia-docker2
でした。これらは、DockerコンテナからシームレスにNVIDIA GPUにアクセスするためのデファクトスタンダードとして長らく利用されてきました。
しかし、技術の進化は止まりません。コンテナエコシステムが成熟するにつれ、Docker以外のコンテナランタイム(Podman, CRI-Oなど)が台頭し、Kubernetesを中心としたオーケストレーションが標準となる中で、nvidia-docker2
のDockerに特化したアーキテクチャは時代に合わなくなりつつありました。
そして今、私たちは大きな転換期を迎えています。nvidia-docker2
は公式に非推奨(deprecated)となり、その後継として NVIDIA Container Toolkit が新たな標準として位置づけられています。
「nvidia-docker2
はもう古いの?」という問いに対する答えは、明確に「はい、古いです」です。現在、新規でGPUコンテナ環境を構築する場合や、既存の環境を運用し続ける上でも、NVIDIA Container Toolkitへの移行は避けて通れない、むしろ積極的に進めるべきステップとなっています。
この記事では、なぜ nvidia-docker2
が過去のものとなったのか、その背景にある技術的な変遷を紐解きながら、NVIDIA Container Toolkitがもたらすメリットを解説します。そして最も重要な点として、既存の nvidia-docker2
環境からNVIDIA Container Toolkitへ移行するための詳細な手順を、具体的なコマンドと共にステップバイステップでガイドします。さらに、高度な設定やトラブルシューティングについても触れ、読者の皆様がスムーズに次世代のGPUコンテナ環境へ移行できるよう、包括的な情報を提供します。
GPUを活用したコンテナ開発の未来を見据え、この重要な移行を成功させるための知識を身につけていきましょう。
2. 背景と歴史:nvidia-docker
から nvidia-docker2
、そして非推奨へ
NVIDIA Container Toolkitへの移行の必要性を深く理解するためには、コンテナでGPUを利用する技術がどのように進化してきたかを知ることが不可欠です。ここでは、その歴史を振り返ります。
2.1. 黎明期:手動でのデバイスマウント
Dockerが登場した当初、コンテナ内からGPUのような特殊なハードウェアを利用するための標準的な方法はありませんでした。開発者たちは、docker run
コマンドの --device
オプションを駆使して、/dev/nvidia0
や /dev/nvidiactl
といったデバイスファイルをコンテナ内に手動でマウントしていました。さらに、ホストマシンにインストールされているNVIDIAドライバのライブラリ群を、-v
オプションでボリュームマウントする必要がありました。
この方法は非常に煩雑で、エラーが発生しやすく、ホストのドライババージョンとコンテナ内のCUDA Toolkitとの間に依存関係の問題(ドライババージョンの不整合など)を引き起こす原因となっていました。何より、ポータビリティというコンテナの最大の利点を損なうものでした。
2.2. nvidia-docker
(v1) の登場
この問題を解決するために、NVIDIAは2016年に nvidia-docker
(v1) をリリースしました。これは docker
コマンドのラッパーとして機能するものでした。ユーザーは docker
の代わりに nvidia-docker
コマンドを使用します。
“`bash
nvidia-docker (v1) の使用例
nvidia-docker run –rm nvidia/cuda nvidia-smi
“`
nvidia-docker
は、内部で docker
コマンドを呼び出す前に、必要なデバイスファイルとドライバライブラリを特定し、それらをマウントするための引数(--device
や -v
)を自動的に追加してくれるツールでした。これにより、GPUコンテナの利用は劇的に簡単になりましたが、docker
コマンドを完全にラップする形式には、いくつかの課題が残っていました。例えば、Docker APIとの連携が複雑になる、docker-compose
のようなエコシステムツールとの統合がスムーズではない、といった点です。
2.3. nvidia-docker2
:Dockerランタイムとの統合
nvidia-docker
v1の課題を克服するため、次に登場したのが nvidia-docker2
です。これはアーキテクチャを大きく変更し、Dockerデーモンと直接統合するアプローチを採用しました。
nvidia-docker2
は、Dockerランタイムフックという仕組みを利用します。具体的には、nvidia-container-runtime
というカスタムランタイムをDockerに登録します。ユーザーはコンテナ実行時に --runtime=nvidia
というオプションを指定することで、このカスタムランタイムを使用します。
“`bash
nvidia-docker2 の使用例
docker run –rm –runtime=nvidia nvidia/cuda nvidia-smi
“`
このコマンドが実行されると、以下のプロセスが進行します。
- Dockerデーモンは、
--runtime=nvidia
の指定を受け取り、標準のOCIランタイムであるrunc
の代わりにnvidia-container-runtime
を呼び出します。 nvidia-container-runtime
は、自身がラッパーとして機能し、コンテナが作成される直前にnvidia-container-runtime-hook
というフックプログラムを起動します。- このフックプログラムが、
libnvidia-container
というコアライブラリを使い、必要なNVIDIAデバイスとドライバファイルをコンテナの名前空間内にセットアップします。 - セットアップが完了すると、
nvidia-container-runtime
は最終的に標準のrunc
を呼び出し、コンテナの実行を開始します。
このアーキテクチャにより、docker
コマンドのラッパーは不要になり、Dockerのエコシステムとよりシームレスに統合できるようになりました。これが長らくGPUコンテナの標準的な利用方法でした。
2.4. nvidia-docker2
が非推奨になった理由
nvidia-docker2
は画期的なソリューションでしたが、コンテナエコシステム全体の進化に伴い、その限界も見えてきました。非推奨となった主な理由は以下の通りです。
-
コンテナランタイムの多様化:
Dockerがコンテナ技術の代名詞であった時代から、エコシステムは大きく変化しました。Red Hatが主導するPodman、Kubernetesエコシステムで標準的に使われるCRI-Oやcontainerdなど、OCI(Open Container Initiative)標準に準拠した多様なコンテナランタイムが登場しました。nvidia-docker2
の--runtime=nvidia
という仕組みはDockerに強く依存しており、これらの新しいランタイムでGPUを扱うための統一的な方法ではありませんでした。 -
Kubernetesとの親和性:
Kubernetesがコンテナオーケストレーションの標準となる中で、GPUのようなリソースを管理する方法も標準化が求められました。各ノード(Worker)のコンテナランタイム(containerdやCRI-O)レベルでGPUを認識できるようにする必要があり、Docker固有の仕組みでは対応が困難でした。 -
OCIランタイム仕様への準拠:
コンテナ技術の標準化団体であるOCIは、コンテナのライフサイクルイベントにフックを仕掛けるための仕様(OCI Runtime Specification)を策定しました。この標準的なフック機構を使えば、特定のコンテナランタイムに依存することなく、コンテナ作成前にGPUデバイスのセットアップといった処理を挿入できます。nvidia-docker2
のカスタムランタイム方式よりも、この標準仕様に準拠する方が、将来性が高く、エコシステムとの互換性も保てます。
これらの理由から、NVIDIAはより汎用的で、特定のコンテナランタイムに依存しない新しいソリューション、すなわち NVIDIA Container Toolkit を開発し、nvidia-docker2
パッケージを非推奨とすることを決定したのです。
3. NVIDIA Container Toolkit とは何か?
NVIDIA Container Toolkit は、nvidia-docker2
の後継となる、コンテナ環境でNVIDIA GPUを利用するためのソフトウェア群の総称です。その最大の特徴は、モジュール化と汎用性にあります。特定のコンテナランタイムに縛られることなく、OCI準拠のランタイムであれば、どれとでも連携できるように設計されています。
3.1. 主要な構成コンポーネント
NVIDIA Container Toolkitは、いくつかの連携して動作するコンポーネントから構成されています。
-
libnvidia-container
:
ツールキットの中核をなすCライブラリです。ホストシステムのNVIDIAドライバを検出し、コンテナの名前空間を操作してGPUデバイス、ドライバファイル、関連するライブラリをコンテナ内に安全にマウントする低レベルな機能を提供します。nvidia-docker2
の時代から存在するコア技術です。 -
nvidia-container-cli
:
libnvidia-container
の機能をコマンドラインから利用するためのツールです。デバッグや手動でのコンテナ設定に役立ちます。 -
nvidia-container-runtime
:
nvidia-docker2
でも利用されていたコンポーネントですが、役割が少し変化しました。NVIDIA Container Toolkitの文脈では、OCI準拠ランタイム(例:runc
)のラッパーとして動作し、コンテナのライフサイクルの適切なタイミングでlibnvidia-container
を呼び出してGPUのセットアップを行います。 -
nvidia-container-toolkit
:
この名前はパッケージ全体を指すこともありますが、具体的には、コンテナランタイムの設定を自動化するためのスクリプトやツールを指します。例えば、Dockerのdaemon.json
やcontainerdのconfig.toml
に、nvidia-container-runtime
をフックとして登録するための設定を追記する役割を担います。これが移行作業の中心となるツールです。
3.2. nvidia-docker2
とのアーキテクチャの違い
nvidia-docker2
と NVIDIA Container Toolkit の最大の違いは、GPUサポートを有効にする方法にあります。
-
nvidia-docker2
のアーキテクチャ:- アプローチ: カスタムランタイム (
--runtime=nvidia
) - 動作: Dockerデーモンが
nvidia-container-runtime
を直接呼び出す。 - コマンド:
docker run --runtime=nvidia ...
- 課題: Dockerに強く依存。他のランタイムでは利用できない。
- アプローチ: カスタムランタイム (
-
NVIDIA Container Toolkit のアーキテクチャ:
- アプローチ: OCIランタイムフック
- 動作:
- Dockerなどの上位のコンテナエンジンは、通常通りデフォルトのOCIランタイム (
runc
) を呼び出す。 runc
は、コンテナを生成する過程で、設定ファイルに登録されたフック(hook)を検知する。- このフックとして
nvidia-container-runtime-hook
が指定されており、runc
がこれを実行する。 nvidia-container-runtime-hook
がGPUのセットアップを行い、処理をrunc
に返す。
- Dockerなどの上位のコンテナエンジンは、通常通りデフォルトのOCIランタイム (
- コマンド:
docker run --gpus all ...
- 利点:
runc
自身がフックを呼び出すため、runc
を利用するあらゆるコンテナランタイム(Docker, Podman, containerd, CRI-O)で同じ仕組みが機能する。
このアーキテクチャの変更により、コマンドもより直感的になりました。--runtime=nvidia
という実装の詳細に依存したオプションから、--gpus
という、「このコンテナにGPUリソースを割り当てる」という意図を直接示すオプションに変わりました。これはDocker 19.03以降でネイティブにサポートされた機能であり、NVIDIA Container Toolkitはこの機能を活用しています。
4. 移行のメリット:なぜ今、移行すべきなのか?
nvidia-docker2
がまだ動作している環境で、なぜ手間をかけてまでNVIDIA Container Toolkitに移行する必要があるのでしょうか?そのメリットは多岐にわたり、将来の運用を見据えると非常に重要です。
-
将来性と公式サポート:
最も大きな理由は、nvidia-docker2
がもはやNVIDIAによって積極的に開発・サポートされていないことです。新しいGPUアーキテクチャへの対応、セキュリティ脆弱性の修正、OSの新しいバージョンへの追随など、将来にわたる恩恵を受けられるのはNVIDIA Container Toolkitのみです。レガシーな技術を使い続けることは、セキュリティリスクや運用上の問題に繋がります。 -
コンテナエコシステムとの完全な互換性:
前述の通り、Container ToolkitはDockerだけでなく、Podman、containerd、CRI-Oといった主要なコンテナランタイムをサポートします。これは、Kubernetes環境を構築・運用する上で必須の要件です。kubelet
が直接やりとりするのはDockerではなくcontainerdやCRI-Oであるため、これらのランタイムでGPUをネイティブに扱えることが極めて重要になります。 -
よりシンプルで直感的なコマンド:
--gpus
オプションは、どのGPUを、いくつコンテナに割り当てるかを非常に分かりやすく指定できます。docker run --gpus all ...
(全てのGPUを割り当てる)docker run --gpus 2 ...
(利用可能なGPUのうち2つを割り当てる)docker run --gpus '"device=0,1"' ...
(インデックス0と1のGPUを指定して割り当てる)docker run --gpus '"device=GPU-xxxxxxxx-..."' ...
(UUIDでGPUを特定して割り当てる)
これにより、スクリプトの可読性やリソース管理の柔軟性が向上します。
-
設定の簡素化:
nvidia-ctk
というコマンドを使うことで、各コンテナランタイムの設定ファイル (daemon.json
など) への必要な追記を半自動的に行うことができます。これにより、手動での設定ミスが減り、環境構築が容易になります。 -
OCI標準準拠による安定性:
業界標準であるOCI仕様に準拠することで、コンテナランタイムのバージョンアップなど、エコシステムの変更に対する耐性が高まります。特定のソフトウェアへの依存を減らし、より安定した運用が可能になります。
これらのメリットを享受するためにも、nvidia-docker2
からNVIDIA Container Toolkitへの移行は、単なるアップデートではなく、現代的なコンテナ運用への必須のステップと言えるでしょう。
5. 移行手順の詳細ガイド:nvidia-docker2
から NVIDIA Container Toolkit へ
ここからは、実際に nvidia-docker2
がインストールされた環境を、NVIDIA Container Toolkitへ移行するための具体的な手順を解説します。Ubuntu/Debian系とCentOS/RHEL系の両方のディストリビューションに対応したコマンドを記載します。
前提条件
移行作業を始める前に、以下の条件が満たされていることを確認してください。
- 対応OS: Ubuntu 18.04/20.04/22.04, Debian 10/11, CentOS 7/8, RHEL 7/8/9 などのサポートされているLinuxディストリビューション。
- NVIDIAドライバ: NVIDIAの公式ドライバが正しくインストールされ、動作していること。
nvidia-smi
コマンドを実行して、GPUが認識されていることを確認してください。 - コンテナランタイム: Dockerがインストールされていること。本ガイドは主にDockerを対象としますが、基本的な流れは他のランタイムでも同様です。
- インターネット接続: 新しいパッケージをダウンロードするために必要です。
sudo
権限: パッケージのインストールや設定ファイルの変更には管理者権限が必要です。
ステップ1: 既存の nvidia-docker2
のアンインストール
最初に、古い nvidia-docker2
パッケージと関連する設定をシステムから完全に削除します。
Ubuntu / Debian の場合:
“`bash
稼働中のコンテナを停止(必要に応じて)
docker stop $(docker ps -q)
nvidia-docker2 パッケージを削除
sudo apt-get purge -y nvidia-docker2
古いリポジトリ情報をクリーンアップ
/etc/apt/sources.list.d/nvidia-docker.list が存在すれば削除
sudo rm -f /etc/apt/sources.list.d/nvidia-docker.list
パッケージリストを更新
sudo apt-get update
“`
purge
を使うことで、設定ファイルも含めて完全に削除できます。
CentOS / RHEL の場合:
“`bash
稼働中のコンテナを停止(必要に応じて)
docker stop $(docker ps -q)
nvidia-docker2 パッケージを削除
sudo yum remove -y nvidia-docker2
または dnf を使用する場合
sudo dnf remove -y nvidia-docker2
古いリポジトリ情報をクリーンアップ
/etc/yum.repos.d/nvidia-docker.repo が存在すれば削除
sudo rm -f /etc/yum.repos.d/nvidia-docker.repo
Yum/DNF のキャッシュをクリア
sudo yum clean all
または dnf を使用する場合
sudo dnf clean all
“`
この時点で、システムから nvidia-docker2
は取り除かれました。
ステップ2: NVIDIA Container Toolkit のインストール
次に、NVIDIA Container Toolkitの公式リポジトリを設定し、新しいパッケージをインストールします。
Ubuntu / Debian の場合:
“`bash
GPGキーとリポジトリを設定
curl -fsSL https://nvidia.github.io/libnvidia-container/gpgkey | sudo gpg –dearmor -o /usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg \
&& curl -s -L https://nvidia.github.io/libnvidia-container/stable/deb/nvidia-container-toolkit.list | \
sed ‘s#deb https://#deb [signed-by=/usr/share/keyrings/nvidia-container-toolkit-keyring.gpg] https://#g’ | \
sudo tee /etc/apt/sources.list.d/nvidia-container-toolkit.list
パッケージリストを更新
sudo apt-get update
NVIDIA Container Toolkit パッケージをインストール
sudo apt-get install -y nvidia-container-toolkit
“`
CentOS / RHEL の場合:
“`bash
リポジトリを設定
sudo yum-config-manager –add-repo https://nvidia.github.io/libnvidia-container/stable/rpm/nvidia-container-toolkit.repo
または dnf を使用する場合
sudo dnf config-manager –add-repo https://nvidia.github.io/libnvidia-container/stable/rpm/nvidia-container-toolkit.repo
NVIDIA Container Toolkit パッケージをインストール
sudo yum install -y nvidia-container-toolkit
または dnf を使用する場合
sudo dnf install -y nvidia-container-toolkit
“`
インストールが完了すると、nvidia-container-toolkit
, nvidia-container-runtime
, libnvidia-container1
などの必要なコンポーネントがすべてシステムに導入されます。
ステップ3: コンテナランタイムの設定
インストールしただけでは、DockerはNVIDIA Container Toolkitの存在を知りません。Dockerデーモンに、GPUコンテナを処理する方法を教える設定が必要です。この作業は nvidia-ctk
コマンドで簡単に行えます。
“`bash
nvidia-ctk を使ってDockerの設定を構成
sudo nvidia-ctk runtime configure –runtime=docker
“`
このコマンドは、内部で /etc/docker/daemon.json
ファイルを検出または作成し、以下のような設定を追記します。
json
{
"runtimes": {
"nvidia": {
"path": "/usr/bin/nvidia-container-runtime",
"runtimeArgs": []
}
}
}
【重要】: nvidia-docker2
の時代は、"default-runtime": "nvidia"
を設定することが一般的でしたが、現在は推奨されません。デフォルトランタイムは runc
のままで、GPUが必要なコンテナでのみ --gpus
オプションで明示的に指定する方が、安全で意図しない動作を防げます。上記の nvidia-ctk
コマンドは、この推奨される設定を自動で行います。
設定を変更したら、Dockerデーモンを再起動して設定を反映させます。
“`bash
Dockerデーモンを再起動
sudo systemctl restart docker
“`
containerd を利用している場合 (Kubernetes環境など):
Kubernetesワーカーノードなどでcontainerdを直接利用している場合は、設定対象が異なります。
“`bash
containerd の設定を構成
sudo nvidia-ctk runtime configure –runtime=containerd
containerd サービスを再起動
sudo systemctl restart containerd
“`
これにより、/etc/containerd/config.toml
に適切な設定が追記されます。
ステップ4: 動作確認
すべての設定が完了したら、最後に移行が成功したかを確認します。新しい --gpus
オプションを使って、テスト用のコンテナを実行してみましょう。
bash
docker run --rm --gpus all nvidia/cuda:12.1.1-base-ubuntu22.04 nvidia-smi
このコマンドがエラーなく実行され、ホストマシンで nvidia-smi
を実行した時と同じようにGPUの情報(モデル名、ドライババージョン、CUDAバージョン、プロセスリストなど)が表示されれば、移行は成功です!
出力例:
“`
+—————————————————————————–+
| NVIDIA-SMI 525.125.06 Driver Version: 525.125.06 CUDA Version: 12.0 |
|——————————-+———————-+———————-+
| GPU Name Persistence-M| Bus-Id Disp.A | Volatile Uncorr. ECC |
| Fan Temp Perf Pwr:Usage/Cap| Memory-Usage | GPU-Util Compute M. |
| | | MIG M. |
|===============================+======================+======================|
| 0 NVIDIA GeForce … On | 00000000:01:00.0 Off | N/A |
| 0% 42C P8 15W / 350W | 4MiB / 24576MiB | 0% Default |
| | | N/A |
+——————————-+———————-+———————-+
+—————————————————————————–+
| Processes: |
| GPU GI CI PID Type Process name GPU Memory |
| ID ID Usage |
|=============================================================================|
| No running processes found |
+—————————————————————————–+
“`
もし docker: Error response from daemon: unknown flag: --gpus
のようなエラーが出る場合は、お使いのDockerのバージョンが古い可能性があります。Docker 19.03以降にアップデートしてください。
これで、nvidia-docker2
から NVIDIA Container Toolkit への移行は完了です。
6. 高度な設定とトラブルシューティング
基本的な移行は完了しましたが、NVIDIA Container Toolkitはさらに柔軟な設定が可能です。ここでは、より高度な使い方と、発生しがちな問題の解決策について解説します。
6.1. 環境変数による制御
--gpus
オプションと合わせて、またはその代わりに環境変数を使ってコンテナから見えるGPUや機能を制御できます。これはDockerfile内で指定したり、KubernetesのPod定義で利用する際に便利です。
-
NVIDIA_VISIBLE_DEVICES
:
コンテナから見えるGPUを制御します。--gpus
オプションはこの環境変数を設定するシンタックスシュガーと考えることができます。all
: 全てのGPUを可視にする。0,1,2
: GPUのインデックスで指定。GPU-xxxxxxxx-....
: GPUのUUIDで指定。none
: GPUを無効化する。void
: GPUは見えないが、ドライバライブラリはマウントされる(特殊なケース用)。
例:
bash
docker run --rm -e NVIDIA_VISIBLE_DEVICES=0,1 nvidia/cuda nvidia-smi
このコンテナ内では、インデックス0と1のGPUのみが見えます。 -
NVIDIA_DRIVER_CAPABILITIES
:
コンテナ内にマウントするドライバの機能を指定します。デフォルトはcompute,utility
です。compute
: CUDAやOpenCLの計算に必要なライブラリ。utility
:nvidia-smi
のような管理ツールに必要なライブラリ。graphics
: OpenGLやVulkanなどのグラフィックスAPIライブラリ。video
: NVDEC/NVENCなどのビデオコーデックライブラリ。display
: X11ディスプレイに接続するためのライブラリ。
例:OpenGLアプリケーションをコンテナで実行したい場合
bash
docker run --rm --gpus all -e NVIDIA_DRIVER_CAPABILITIES=graphics,compute,utility my-opengl-app
--gpus
オプションでもケーパビリティを指定できます:
docker run --rm --gpus 'all,capabilities=graphics,compute,utility' ...
6.2. 設定ファイル /etc/nvidia-container-runtime/config.toml
NVIDIA Container Toolkitの動作は、/etc/nvidia-container-runtime/config.toml
ファイルでさらに細かくカスタマイズできます。通常はこのファイルを編集する必要はありませんが、特殊な要件がある場合に役立ちます。
主な設定項目:
debug = "/path/to/debug.log"
: デバッグログを有効にし、指定したファイルに出力します。問題解決の際に非常に役立ちます。log-level = "info"
: ログレベルをdebug
,info
,warning
,error
から選択できます。no-cgroups = false
:true
にすると、コンテナのcgroupデバイスルールを無視します。セキュリティリスクがあるため、通常は変更しません。[nvidia-container-cli]
セクション:nvidia-container-cli
コマンドのデフォルト設定(ルートパスやLDキャッシュなど)を調整できます。
設定を変更した後は、コンテナランタイム(Dockerなど)の再起動が必要な場合があります。
6.3. 一般的な問題と解決策
-
問題:
docker: Error response from daemon: OCI runtime create failed: ... unknown command "nvidia-container-cli": unknown.
- 原因:
nvidia-container-toolkit
のインストールが不完全、またはPATHが通っていません。nvidia-container-runtime-hook
がnvidia-container-cli
を見つけられない状態です。 - 解決策:
which nvidia-container-cli
を実行し、コマンドが存在するか確認します。sudo apt-get install --reinstall nvidia-container-toolkit
やsudo yum reinstall nvidia-container-toolkit
でパッケージを再インストールしてみてください。- Dockerデーモンの設定が正しいか (
/etc/docker/daemon.json
)、デーモンを再起動したかを確認します。
- 原因:
-
問題: ホストでは
nvidia-smi
が動作するが、コンテナ内で実行するとNVIDIA-SMI has failed because it couldn't communicate with the NVIDIA driver.
というエラーが出る。- 原因: いくつか考えられます。
--gpus
オプションを付け忘れている。- ホストのNVIDIAドライバのバージョンと、コンテナイメージ内のCUDA Toolkitのバージョンに互換性がない。CUDA Toolkitは、ある程度の後方互換性と前方互換性がありますが、あまりにバージョンが離れていると問題が起きることがあります。NVIDIAの公式ドキュメントで互換性を確認してください。
- MIG (Multi-Instance GPU) が有効なA100/H100などのGPUで、適切なMIGインスタンスが指定されていない。
- 解決策:
docker run
コマンドに--gpus all
が付いているか再確認します。- 互換性のあるCUDAバージョンのコンテナイメージ (
nvidia/cuda:<version>-base
) を使用します。 - SELinuxやAppArmorなどのセキュリティモジュールが原因の場合もあります。
--security-opt label=disable
(SELinux) や--security-opt apparmor=unconfined
を付けて一時的に無効化し、問題が解決するか試すことで原因を切り分けられます(本番環境での恒久的な無効化は非推奨)。
- 原因: いくつか考えられます。
-
問題: Dockerデーモンの再起動後、コンテナが起動しなくなった。
- 原因:
/etc/docker/daemon.json
のJSON形式が不正である可能性があります。手動で編集した場合、カンマの付け忘れや閉じ括弧の不足などがよくあるミスです。 - 解決策:
sudo dockerd
を直接実行してみると、daemon.json
のパースエラーなどが標準エラー出力に表示されることがあります。- JSONバリデーター(オンラインツールなど)を使って、
daemon.json
の構文が正しいか確認します。
- 原因:
7. まとめ:次世代のGPUコンテナ基盤へ
本記事では、「nvidia-docker2
はもう古いのか?」という問いを起点に、NVIDIA Container Toolkitへの移行の必要性、そのアーキテクチャ、具体的な移行手順、そして高度な活用法までを詳細に解説しました。
結論として、nvidia-docker2
はその歴史的役割を終え、現代の多様なコンテナエコシステムに対応する NVIDIA Container Toolkit が新たな標準となっています。この移行は、単なるソフトウェアのアップデート以上の意味を持ちます。
- 汎用性の獲得: Dockerだけでなく、Podman、containerd、CRI-Oといった主要なランタイムをサポートし、KubernetesネイティブなGPU活用への道を開きます。
- 将来性の確保: NVIDIAからの継続的なサポート、新機能の追加、セキュリティアップデートの恩恵を受け続けることができます。
- 運用の簡素化:
--gpus
オプションによる直感的なリソース指定により、日々の運用やCI/CDパイプラインの構築がよりシンプルになります。
機械学習モデルの開発・デプロイ、科学技術計算、データ分析など、GPUをコンテナで利用するシーンはますます拡大しています。この変化の激しい分野で競争力を維持するためには、基盤となる技術を常に最新かつ最適な状態に保つことが不可欠です。
もし、あなたの環境にまだ nvidia-docker2
が残っているなら、それは技術的負債となりつつあります。本記事で示した手順に沿って、ぜひNVIDIA Container Toolkitへの移行を計画し、実行してください。この一歩が、あなたのGPUコンテナ環境をより堅牢で、スケーラブルで、未来に対応したものへと進化させるはずです。